銀河連合日本外伝 Age after ― シエの帰郷 ― 終話
ダストールの空は、地球同様に蒼い。
その抜けるような蒼空に、白い航跡を引いて飛ぶ何か。
ダストール国民は、突如大空に現れたその見たこともない航跡に、空を指さして「あれは何か」と話題にする。
広域情報を検索すると、どうやら今、ダストールに来ている例のヤルマルティア国大使が、かの国で使われている機動兵器をデモンストレーションしているという話らしい。
ゴオオオオと地上へ途切れ途切れに聞こえてくるその航空機が発する音は、彼らの興味を引くに充分たるプレゼンテーションな音であった。
その白航引く物体は、元航空自衛隊松島基地副司令・現特危自衛隊航空宙間科・機動機運用部隊司令・一等特佐 多川信次の駆る、マクダネル・ダグラス――現在はボーイング――F-15C戦闘機だった。
(本当なら、君島さんとこのJ改だったらバッチリなんだけどな~)
自衛隊仕様で君島重工がライセンス生産する事実上最高のF-15仕様といわれているJ改(近代化改修)型のことである。
まま世はF-22だのF-35だの、更には揚力飛行型で恐らく現状世界最強の戦闘機、我が特危自衛隊の装備する『F-2HM』なんぞがあるといわれている中、J改が特筆すべき機体だというわけではないが、それでも同じF-15戦闘機で高性能仕様の呼び声高い「J改」型でない理由。そのれは単純に『データ取ってないので、ない』というだけの話で、今回のC型仕様もダストール軍がサマルカさんの米国からもらったデータを拝借したのであって、そんなところ。
ちなみに、ダストール軍。旧東ドイツ経由で米国が入手したMig-21やMig-29のデータも持っているそうな……多川さん。キッチリもらったらしい。
機体の状態をチェックするために、ロールにループ、インメルマンと色々やってみる。
だが、例の『高機動可変力場発生装置』『斥力発生装置』はまだ使わない。
コイツはこの機体の虎の子なので、フェットーにはまだ見せられない……詳しくは本編―36―をご覧あれ。
とはいえ、その虎の子装置を機体下パイロンに積んだF-15ではあったが、そこは急造なところで、ヤル研が将来的に空自F-15Jでも運用できるように試作していた装置を急遽沢渡が調整してくれたブツなので、ままぶっつけ本番で使うのは事実である。
そこはヤル研のオタ……いや、匠の技術者の腕を信じる多川一佐。
機体の感覚をそこそこに掴むと、多川は眼下に広がる緑多きダストールの大地を高空から望む。
そこには、その大地と、六角形の人工大地がプカリと浮かぶ構図。
改めてみるとダストールは山岳が多い……地球同様、頂に雪を蓄えた美しい山々の稜線が見える。
(やっぱ飛行機はいいよなぁ~ 風景はキャノピー越しだよなぁ~)
ヴァズラーや旭光Ⅱに旭龍は超高精細モニター越の風景だ。コクピットキャノピーや、ハッチも装甲化されてるので、機体の中から見る外の風景は、驚くほどに高精細のホログラフ映像である。
まるで手を伸ばせば掴めるような映像空間が形成される。多川はそこにあえてF-2型コクピットをエミュレーション造成させて、機体に据えている。
でも、やはり透明なキャノピー越しに見る風景には、感覚的に敵わないなと思う多川。
緑多いダストールの都市、そして町並み。はっきり言って悪くない。これはこれでオツなものだ。
レーダーの調子もいい。GPS関連の機器も、シエ達がオルカス・ニーラ・沢渡とゼルルームで協力して、ティ連の惑星規模観測装置関連の規格に合わせてくれた。有難い話である。
機体自体もダストールのハイクァーン機器が微妙な造成補正をかけて精密生成した事もあるのだろう。すべての部品、機器のかみあわせがすこぶる良い。まるでレース仕様航空機のように、部品一つ一つが全てカスタムメイドのような精度で出来ている。
こういうと「んじゃその部品をお前は見たのか」と言われそうだが、そんなのは操縦桿を握って飛ばせばベテランパイロットならすぐにわかる。まったくもって良い機体だ。
思わずこれから行う決闘決戦も忘れて、鼻歌が出てしまいそうになる多川。本当なら、このままイーグルでずっと遊覧飛行と洒落こみたいところなのだが……
『タガワ大使。状況ハドウカ?』
「ああ、万事問題ない。機体の方も絶好調だ」
フェットーの声でしばしの悦楽も、パンと消し去られてしまう。
『大使。モウ一度確認スルガ……本当ニソノ、フィブニー効果型機動兵器デイイノダナ?』
「ああ、これでいいよ。別に俺がイカれてるとか、そんなのじゃないから心配しないでくれ」
『……』
「どうしたい旦那」
多川のマスクを通した籠るような声。戦闘機パイロット独特の会話。
『……ドウミテモ、ヴァズラーノ性能ニ、ソノ機体ガ勝テルト思エンノデナ……コチラノ、戦闘システムガ想定スルソノ機体ノ戦闘機動ヲエミュレートシテミタガ……失礼ヲ承知デ言ウガ、機体ヲ交換スルノナラ待ツゾ。私ニモ名誉ガアル。対等ナ条件デダナ……』
「フェットーさん、だから構わないって。考えてもみろよ、そんな事ぐらい俺もわかってるんだからさ。それでもこれに乗るってんだから、こっちだって考えあってやってんだよ。な」
『ソウカ。了解シタ』
逆にそこまで言われたら、互いのプライドの問題もある。フェットーもそれ以上は言わない。
『デハ、タガワ大使。ルールノ確認ヲスルゾ』
使用する武器は、ゼル造成された演習用エミュレーションホロ兵器。所謂魚釣島や、北海道演習で使われたものと同種のものだ。着弾時の被弾被害効果処理は、今回設定しない。
対探知偽装のような、ジャミング系装置の使用は禁止。
使用できる兵器の種類は……
ヴァズラーは粒子ブラスター系兵器と、ティ連世界で一般的なミサイル兵器である粒子反応ポッド等々、要は「弾丸」「ミサイル」に相当する兵器のみで、重力子ブラスターみたいなのを使っても意味ないので、広域破壊兵器や特殊兵装の類は使用禁止。それ以外なら基本機体に装備されているものであれば全て使用可能。
F-15側は、M61A1二〇ミリバルカン砲。14式機対機誘導弾。そして、『高機動可変力場発生装置』『斥力発生装置』が収まっている、現在のF-15C胴体下にぶら下げられた『試作汎用HMポッド』装備の機材機器装備一式。
これらすべてが、ゼル演習弾仕様で使用可能になっている。
すなわち、F-15パイロンに積んであったミサイル関係の兵器も、全部あらかじめゼル造成されて装着されている兵器という寸法。
で、勝敗決定方法は、一定時間、所謂ドッグファイトをやりあって、相手に着弾させた数の多い方が勝ち。と極めてシンプルである。
なら、全てにおいて弾数制限のある多川の方が圧倒的に不利じゃないかという話もあるが、そこも多川一佐、考えあっての話で心配ご無用との事。
『……トイウ感ジダ、イイナ、大使』
「了解。問題ないぜ、でいつスタートだ?」
『一〇ケレス……ハルマノ時間デ、五フン後ダ。ソレマデニ、オ互イ一定速度デ正反対ヘ飛ブ』
「了解だ。ではタイマーをセットする……互いの健闘をな」
『ウム、互イノ健闘ヲ』
二人はそう言うと、パァと綺麗な二股に分かれて逆方向へ飛ぶ。
F-15は変わらずゴオオとエンジンを唸らせ、ヴァズラーはヒュンと規定速度で滑るように飛行する。
多川はセットしたタイマーを見る。
チラチラと数字は7セグを変形させてカウントダウンさせ、その数字を減らしていく。
10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・ピーと甲高い音を鳴らすと同時に、多川は操縦桿を倒し引上げ、スロットルを下げて上げ、クンとロールからターンをかます。
戦闘開始だ!
BGMはアメリカ海軍戦闘機兵器学校エースのテーマか、ベルクートとYF-23に似た可変戦闘機のドッグファイトなテーマか。多川は一気に加速をかけつつも、闘技場のフチを回るよう慎重に間をあけつつヴァズラーを左手に見て飛ぶ。
レーダーにキッチリとヴァズラーを捕らえる多川……言ってみれば、今回の試合は、機動兵器同士の殴り合いのようなものだ。使っていいのは、要するに鉄砲玉とミサイルのみ。やってることは第一次世界大戦の騎士道精神華やかなりし頃のドッグファイトと同じである。鉄砲玉のM61バルカン砲に粒子ブラスター砲。そこにミサイル兵器と機動力と速度が加わった程度の話。
(ヴァズラーさんは、空間ずらして飛んでるからな……「飛行」ってのとは言葉のイメージが違う。だから前へ飛ぶしか能のないコッチの機動にどう合わせてくるかだな)
まだ余裕がある多川。チラチラ計器と相手さんの動きを睨みながらどうしてやろうかと考えたり。
案の定、フェットーは、F-15、というか、かような航空機の性能を把握したのだろう、そのアニメにでも出てきそうな空中制御性能で、キビキビと変幻自在に空中を上下左右へ更にはバックし、F-15へ一定間隔をあけて狙いを定め、ブラスター砲をマシンガンの如くキシシッと連射してくる。
(チっ、やっぱそうくるかよっ! 向こうは空中も地上もたいしてかわんねーからなっと!)
ヴァズラーの放つブラスター砲のエネルギー弾を、ロールで上下左右にクンクンと躱す多川。このあたりは流石である。
そのサマを見て、ヴァズラー駆るフェットーは
(アンナ機動ヲシテ、中ノパイロットハ無事ナノカ!? コクピットニ重力制御装置モツイテイナイダロウ)
このダストールにも鳥類のような動物はいる。その動物のように、クルクルとブラスター砲の射線を躱す多川の軌道に目を丸くするフェットー。
アクロバティックな機体の動きに、重力制御もできないだろうと思われるあんな中で、シェイカーのように振られるパイロットはどうなるんだと疑問に思う。
ティ連のヴァズラー等々の機動兵器は、空間振動波機関という動力で通常空間を移動する。
すなわち空間をずらして移動するわけであるから、客観的に見れば普通に移動しているのだが、主観的には、理屈でいうとその場に停止している状態なのが、この移動方法の特徴である。
従って、ヴァズラーは高性能なヘリコプターか、はたまた所謂UFOのような動きをしても、パイロットに荷重的な負担はあまりかからないのである。
そんな乗り物が普通のティ連―ダストール人であるからして、多川の駆る鳥のような機動兵器がクルクルと翼をひるがえしながら空中を舞う姿に、少々困惑せざるをえない。
(コレハ……機動兵器ヲ相手ニスルトイウヨリ、サダール星ノ翼竜「バーゼル」ヲ相手ニスルヨウナ感ジカ……フフフ、ナルホドナ)
この考え方、間違ってはいない。なんせ彼らは揚力で飛行する機械の歴史がない。とすれば、かような動物等々で比較検討するのはある意味正しい選択である。
ちなみに、このバーゼルとかいう飛行動物。降下速度時速八〇〇キロメートルぐらいに達する巨大な高速飛行動物らしい。
フェットーはそれが理解できると、加速戦闘行動をヴァズラー制御システムに指示し、一気に速度を上げ、多川の背後に取りつこうとする。
(あちゃ! やっぱそうくるか! てか、普通そうだよなぁ!)
間をあけた牽制攻撃から、ヒュンと一気に加速して、多川の後方へ何なく取りつくフェットー。
『ククク、タガワ大使。ヤハリワケハナイゾ。機動兵器ノ選択ミスダナ』
そう通信を入れてくるフェットー。ままそれは事実であるからして、ピタリとつかれた後方から、粒子ブラスターをバシバシぶっぱなしてくる彼。
だが、多川も多川で、そのブラスターの射線を読んで、左に右に、そして加速させてなんとか躱して見せる。
「当たらなければどうということはない! ってか? 仮面の少佐さんも良く言ったもんだぜ。でも、まあ、やはりというかなんというか……やっぱりねってな感じだな」
多川の言う「やっぱりね」の意味。普通ヴァズラークラスの高度な機体の場合、照準システムに飛行制御システムを駆使し、半オートマチック制御なSMS操縦なら、予測射撃も正確にできようもんなのだろう。おそらく現状、多川以外のパイロットなら瞬殺で落とされているだろう。
ただ多川は、先の例にある通りヴァズラーのSMS型操縦システムも熟知している『操縦者』である。
そう、多川は『操縦者』なのだ。とすれば……フェットーは、手練れのヴァズラー使いではあれど、『操縦者』ではない。あくまでヴァズラーシステムに行為行動を指示する『指揮者』なのである。
(クッ! ヴァズラーノ戦闘システムガ追イツイテイナイダト!? ナゼダ!? 奴ハ戦闘システムヨリモ高度ナ判断力ヲ持ッテイルノカ? ソレトモアノ兵器ニ、ティ連ヨリモ高度ナシステムガ搭載サレテイルノカ!)
ブラスター砲をヒラヒラとことごとく躱され、焦るフェットー。
(やはりな。フェットー自身が慣性合わせて照準つけてるわけじゃないって事か)
つまり、フェットーはヴァズラーに対して攻撃指示は出すが、直接ブラスター砲の照準を行っているわけではない。例えるなら、テレビゲームのオートロックモードで、トリガー引いているようなものなのだ。
多川もSMS操縦を行ったことがあるので、それを理解していた。なので、彼は微妙に、かつ小刻みに不規則パターンな挙動でブラスター砲を躱していた。案の定……
(ヘヘヘヘヘヘ、やっぱどんな高度なシステムだろうが、咄嗟の千差万別な挙動変化にはそうそう付いてこられんわな)
そういうことだ。
あと、この戦いが「F-15vsヴァズラー」の戦いではないという事も重要である。この戦いは「多川vsフェットー」の戦いなのだ。
即ち、もし、今回のヴァズラーが、有人制御ではなく、フルオート制御なら、おそらく流石の多川乗機なF-15でも、まま瞬殺されていた恐れもある。それはフルオートのヴァズラーの場合、制御システムがうまく働けば、人間の認識できる範囲を軽く超える挙動で多川に襲い掛かる事もできるからだ。となればF-15で相手するのは流石に無理だ。
だが、今回は完全有人制御のF-15と、SMS操縦。つまり馬と人間が乗馬関係にある有人ヴァズラーだ。これはどういう事かというと、どんだけ兵器の性能が高くても、人間が乗る限り、人間のできる範囲以上の事はできないのだということ……そう言う事だ。
とはいえ、それだけで有人制御が良いか悪いかという議論は出来ない。それはまた別の議論になるが、ままそういうことで、仮想機械生命体のドーラに完全マニュアル操縦で挑み、勝てる多川をシエはスゴイと称賛するのである。そして、それが多川の才能でもあるわけだ。
とはいえ、そこはティ連の戦闘制御システムだ。多川のかような相手を熟知した挙動も、システムは段々と順応してくる。フェットーもシステムの補正をリアルタイムでかけながら、多川の回避行動に順応させた処理を施してくる……と、ヴァズラーの放ったブラスター砲が、F-15の垂直尾翼をかすめた。
「うぉっ! あぶねっ!」
『クククク、ドウイウ仕組カシランガ、ソンナ回避プログラムガ、イツマデモ通用スルト思ウナ』
流石はフェットー。『指揮者』としての能力ですぐさま現状を把握し、状況に順応させてくる。
かような対応の素早さが、ヴァズラーの「パイロット」として評価されるところなのだろう。
「なら、こういう挙動はどうするかな!」
多川は、機体を上へ下へと振り、ジワジワとヴァズラーの間を詰める。
そして、相手の正面にケツを向けたかと思うと、ガバっとエアブレーキを展開し、急減速。ヴァズラーに衝突せんかとばかりに、フェットーの下を抜けていく。
『ウォォアアアアア??!』
まさか体あたりでもせんかとばかりにニアミスする多川に、慌てて回避モーションをとるフェットー。
『タガワ! キサマ何ヲ!』
思わず呼び捨てで叫び、貴様呼ばわりしてしまうフェットー。そりゃそうだ。フェットーの視点で見れば、下手すりゃ衝突だ。何を無茶するんだコイツは! ってなところだろう……多川もそんなのお見通しで、もとより衝突する気なんざ更々ない。そこは腕の見せ所である。
とヴァズラー、機体をひるがえそうとした瞬間、いつの間にかF-15がバックにつけ、M61二〇ミリバルカン砲を一秒間隔で発射。
ガガガガガンゴン! という衝撃に揺らされるフェットー・ヴァズラー。
「ほい! 何点ゲットだ?」
ヴァッ……ヴァッ……とバルカン砲を点射してくる多川。F-15Cには、九〇〇発ほどのバルカン砲弾を搭載できるが、これを連射で発射トリガー握りっぱなしだと、五秒も経たない間に打ち尽くしてしまう計算になるのがバルカン砲という兵器。一分間に六〇〇〇発もの弾丸を発射するわけである。
ちなみに、戦闘機に搭載されるこの手の兵器。通常は一~二秒ほど撃つと、一〇発~二〇発発射される仕組みになっており、発射後一秒間隔ぐらいで自動ロックがかかる。これは、まともにそんな速度で弾が発射されてしまうと、銃身が焼き付いて使用不能になってしまうためで、トリガー一回の発射弾数は予め制限されていて、自動的にロックが、かかってしまうのだ。こういうのはゼルクォート演習兵器でもきちんとしないと正々堂々とはいえない。
と、そんな感じでそこはタマを大事に使う多川。まま、内臓機関砲でのドッグファイトとは、こんなものである。
一斉射一〇発ほどを、一発と換算すると、せいぜい九〇発程度なピストルの弾しか持っていないのが現代戦闘機だ。
多川のコクピットに小さく浮かぶVMCモニターに、二五発ヒットと出た。
「うっし!」
と握り拳つくってガッツポーズの多川。
『ナニ! アノ質量兵器ハ、アノ短時間でソンナニ金属片ヲ発射デキルノカ! クソッ!』
フェットーも負けてはいない。追われる身になった機体を、変幻自在に回避行動をとらせ、『エ』の字上部翼状スタビライザー部から、マニピュレーター型速射粒子砲をせり出させ、後方にむけてぶっぱなす。
「うわちゃ! そういう方法があったっけ! マズッ!」
まるで大戦中の爆撃機か、米軍雷撃機のように追っている立場の多川が射撃を食らう構図。クルっと一回転し、右方面へ舵を急速に切り、ヴァズラーと距離を開ける。
フェットーもそんな体勢に甘んじてはいない。ヴァズラーも追尾体勢になり、粒子マニピュレーター砲の連続攻撃を絶え間なくF-15へ浴びせ続ける。こっちゃ何秒撃って銃身焼き付きなんてのは関係ない。
案の定、五発程食らってしまう多川。ガンゴンガンと機体を揺らして、アチャーな表情の多川。
「あーくそ! そうだったよそうだったよ、ヴァズラーは後ろにも撃てるんだったよなぁ……」
イカンイカンと相手を普通の戦闘機っぽく認識してしまってた自分を呪う。
……と、そんな空中戦を、地上から拡大映像装置片手に見物するシエさん。
大空には、F-15が描く白い航跡が、チョークで書いた落書きのようになっている。今まで航空兵器がそんな航跡を描いて変幻自在に飛ぶ姿など見たことがなかったティ連人。天戸作戦の記録映像で見た、ブルーインパルスの空技と同じだと、そんな風に思ったり。
だが、女房シエさんは少々渋い顔。
『……ン~……ダーリンモヤハリ流石ナノダガ……いーぐるノ、オリジナル性能デハ、コレガ限界カモシレナイナァ……』
そうポツリと漏らすと、横で一緒に見物しているシエの部下さんや知人が
『ナゼダ? アノフィブニー兵器。大健闘デハナイカ』
と反論するが、そこは多川の女房であるシエ。もうわかっているようで
『イマノダーリンハ、ヴァズラー戦闘システムノ「虚」ヲツイテイルニスギナイ。ツマリ、シンノ空戦技術ニフェットーガウマクヴァズラーニ指示ヲ出セテイナイダケノ話ダ……フェットーモ素人デハナイ。段々トダーリンノ空戦技術ニ対応シハジメテイル』
そう思う女房シエと同じ考えなのは、当の旦那である多川。
(あー、やっぱヴァズラーは一筋縄ではいかんな……フェットーさんも俺の空技に順応してきている……あれを使うしかないか……)
多川は、なるべく機体下部にぶら下げたHMユニットを使わず、現状オリジナルの性能と、多川の空戦技術で対抗してきたが……例えるなら、フェットーがテレビゲームのプレイヤーだとするなら、多川はメンドクサイ敵キャラのようなもので、テレビゲームの自機を操作するかのごとく半オートで自機に指示を出すフェットーは、当然「プレイヤー」として多川の挙動に慣れもするわけで、その対応策もとれてくるわけだ。
この三~四分の間にも、バルカン砲とブラスター砲を交錯させ、撃ち合いを演じ、フェットー45発に多川40発と、若干ヒット数に差を開けられてしまっている。
F-15のコクピット。HUDにトトト……と照準を合わせ。ピーとなる。
瞬間、14式機対機誘導弾を発射する。
14式はキネティックミサイルだ。本体側面に沢山開いたスラスター口からシュシュシュとまるでどこかのアニメのような脳波感応型ミサイル兵器のように軌道を小刻みに変えながらヴァズラーを追尾する。
するとそれに対抗するかのように、ヴァズラーもクォンと音を鳴らし、光球のような弾頭を放ってくる。
その光球はまるで意思をもつかのように、14式ミサイルを追尾し迎撃していく。
この兵器が粒子反応ポッドだ……言ってみれば、トラクターフィールドという長い長いマジックハンドで相手に粒子爆弾をブチ当てるという、ティ連版のミサイル兵器である。
(あークソっ! 粒子ポッドか……そうか、ヴァズラーにはアレがあるんだったな。なら流石にノーマルイーグルではもう限界か……)
そう多川が思った時、地上にいるシエも
『ダーリン。ソロソロ アレヲツカエ』
とぽつりと呟く。その念が多川に通じているのかどうかはわからないが、どっちにしろ状況がもうノーマルF-15でいることを許さなくなってきた。
「んじゃそろそろ、ヤル研さんのとっておきを起動させるか」
彼はそう呟くと、手元に小さなVMCパネルを造成させ、そこに書いてある文字にトっと触れる。
その文字。明朝体で黒地にオレンジで「HMユニット起動」と書かれてあった。
多川の機体を追うフェットー。
先ほどから見たこともない微妙かつ小刻みに不規則な変則的機動に悩まされつつも、なんとかその鳥のような機動で、音速近い速さで飛ぶ、意外に高度な機動力を持つ原始的な機体の性能にようやく慣れつつあった。
(フゥ、タガワメ……アノ機動ヲマサカアイツガ、自身デ完全制御シテイルトハ思エンガ……システム制御デモ、アアマデノ制御パターン構築ハ難シイ……マッタクヨクヤル)
なんとか多川の機動に対抗するモーションシステムで対峙するフェットー。
とにかく右に左に上に下に小刻みかと思えば大胆に、大胆かと思えば繊細に、色々とその動きを変えてくる多川の制御に右往左往していた彼であったが、そこはティ連のシステムを舐めてはいけない。学習・対応させるのも相応に早い……今や完全に多川F-15のバックにピタリとつける。さすがにもう急減速フェイントアタックは通用しない。
粒子ブラスターも、マニピュレータ搭載型から、機首固定装備まで全開四門を総動員して、多川に光の射線を浴びせかける。
多川もクイクイ躱すが、今は躱すので精いっぱい。フェットーから見れば、意外にうっとおしかったバルカン砲の金属片も、多川があまり使わなくなったので、もう弾切れ近いのだろうかと予想してみたり。
F-15の発射する『みさいる』とかいう兵器も、粒子反応ポッドで迎撃できる。やっとヴァズラーの本来持つ性能を発揮できる状況になった。
『ククク……タガワ大使。先ホドマデハ色々奇妙ナ機動デ翻弄シテクレタガ、ソロソロコチラモ追イ込マセテモラウゾ』
「あー、スゴイねヴァズラーはやっぱ……でも、コッチもまだまだいかせてもらいまっせ!」
『ナニ?』
するとフェットー・ヴァズラーのシステムが警報を鳴らし、彼に警告する
【警告。敵機動兵器より、正体不明の不規則な範囲で展開するシールド力場を確認。警戒を要す】
『ナンダト?』
フェットーはコクピットのセンサーモニターを見る。すると、何やら確かにグリグリと不規則にF-15を包み込むようにうねるシールドエリアを確認する。
その見たこともない事象可変シールド? に首をひねるフェットー。
と、次の瞬間!!
(! ナニッ!)
真ん前を飛んでいたF-15が、パンと跳ね上がるように眼の前から上方へ消える。
ヴァズラーのコクピットは、全天三六〇度ホロモニターだ。フェットーは上へ飛びあがるF-15を目で追う……それはもう特徴的な機動。先ほどまでの鳥のような機動とは程遠い……そう、しいえていえばどこかで見たその姿。そうだとフェットーは思い出す。それはシエが宙に舞う時の姿、ムーンサルトのようにヒラリと舞うシエのような機動で軌道を描き、F-15は悠々とヴァズラーの追跡と照準の束縛から自らを解放させる。
(ソ……ソンナ! ナ、ナンナノダアノ機動ハッ! サッキマデノ機動ハ一体ナンダッタノダ!)
先の多川自らの実力な機動でも相当手こずらされたのに、今度はさっきとは打って変わった機体の挙動。木の葉のように、体術の長けた格闘家か、体操選手のごとき機体の軌道を見せつけられ、焦り狼狽を見せるフェットー。
でもって急に白航引く伴侶の軌跡が変わったのを、拡大装置覗いて確認するシエさん。
ニィと口元歪め、旦那の必勝を確信する。とはいえ、そのダンナも大概必死であった。
「ぬぅぉぉぉぉぉおおおぉぉおおぁぁぁぁぁぁぁあああああああっっっだらぁぁあああああああ!!!」
ちなみに先の魚釣島事件のでの前哨戦。F-2HM戦闘機で、中国軍のJ-15を半泣きにさせて追い返したのはこのオッサンだが、あの時でもここまで……
「ふぬぅぅぅぁぁぁああああああああ!!……ぶはぁ!!……なんじゃこの機動はぁ!!」
このF-15機体下にぶら下げてるHMユニット。ちなみに試作品である。
F-2-HMに積んでるユニットは、量産前提の完成品であって、まま……はっきり言やぁ、F-2HMユニットの方が…………ぬるい。
VMCモニターを見ると、回避パターンのコードネームが「SIESAN」と表記されている。
「ふはぁ……まさかシエの体術を回避データに入れてるとか……流石にそりゃないか……」
実はアタリであった……
ハっとする多川。フェットーのヴァズラーが、何時の間にか変形して、機動戦モードに入っている。
即ち、機動戦形態でないとこのヘンタ……いや、超高機動HM化F-15を追えなかったということだ。
バシバシっと放たれるブラスター砲の軌跡が正面より視界に入る。マズっと思う多川。クイクイっとメインとHM用サブで造成された操縦桿をクイクイっと捻り、射線を見切ったかのように左右へ機体を振って躱す多川……無論通常のF-15ではありえない機動だ。
さっきまでは『揚力式航空戦闘機VSドローン型機動兵器』の体裁で戦ってはいたが、こうなってしまえばもうなんというかで、どっかのアニメではないが『ナントカアーマーVSナントカスーツ』な様相を呈してきている。そうなると今度はパイロットの腕が如実に反映されてくる。確かに多川の『機眼』といわれる自機と周囲を把握する感覚的能力は、フェットーなどよりも遥かに上だ。『機眼』の能力は、予測能力と空間掌握能力と、勘がいかに高度にマッチするかにかかっている。所謂パイロットなら誰でも持っている能力であり、逆に言えばこの能力がない奴は、戦闘機パイロットにならない方がいいともいえるぐらいの必須能力だ。
多川は、人一倍この能力に長けているから、ここまでの地位を築けたのだ。この能力に長けた者に対峙する事は、さしものティ連なシステムをもってしても、そうそう対抗できるのではない。
多川は、目のタマをクリクリと無意識に三六〇度全開で動かすと、機体を横滑りさせるような軌道を取り、ヴァ…ヴァ…ヴァ…とバルカン砲を大きな放物線描かせてぶっ放す。
フェットーはどこに向けてアイツは撃ってるんだと思った瞬間、ガガガっと自機に振動がいくつも走るのを感じで、思わずのけぞるように後退した……多川は一見すると信じがたい相対速度で予測射撃を放たのだ。
この機体でペラペラしゃべってたら舌をかむと思った彼。急に無口になり、計器とスイッチとVMCモニターとHUDと周囲の背景を目で追いながら、適切な攻撃方法を選択する……次に放ったのは、残りの14式ミサイルだ。発射ポイントを微妙に変えながら、バシュと数発発射する。
ヴァズラーも粒子ポッドで応戦するが、それまでの機動ではない多川のF-15にさしものフェットーも躱し切れずミサイルをモロに食らってしまう。
フェットーの眼前で炸裂する14式ミサイル。
『ヌォオオア!!』
ミサイル当てたら多川は20点もらえる。この一発で一進一退。HM装置を起動させるまで、どちらかというと受け身だった多川が押し返し始めた。そして今ので得点的に上回ったようだ。
『ヤルナ! タガワァァァァァァ!』
今まで少しスカしてたフェットーにもスイッチが入った。機動形態モードで、推力を後方へ集中させ、操縦方法をマスタースレイブ式併用で多川を追い始めるフェットー。
マスタースレイブVSスティック操縦の戦い。体術優秀な戦士のダイレクトな動きをトレースさせる攻撃機動が勝るか、それとも長年のベテラン操縦技術が勝るか!
『タガワ! モウ武器ハ無クナッタカ! クフフフ、ドウスル!』
バルカンも撃ち尽くし、14式もパイロンから消えたF-15。時間切れを待って逃げまくるのも一手。
「何を仰るフェットーさん! こういう兵装がまだあるんだよっ!」
フェットーが放つ一〇発もの粒子反応ポッド。まるでナンチャラサーカスの如きこのふざけた攻撃に、多川は機体の腹を見せて急上昇。すると、F-15のHMユニットにあるスリットがキラと光り集光すると、シュシュシュンと音を唸らせて矢状の空間をゆがませた透明の物体を数発放った。
『ナンダ!!??』
空間をゆがませた細長い物体が、ヴァズラーの放った粒子反応ポッドに命中すると、ボカボカとポッドを迎撃し、多川に反撃の機会を与える。
『イ、イマノハ!? アレハナンダ、タガワ!』
「斥力圧縮収束弾ってんだよっ! ウチの学者さん達が考えてくれたコッチの装備さ!」
『ソンナモノヲ! コシャクナ!』
そう、この斥力圧縮収束弾。ヤル研のキチ……想像力あふれるスタッフが、暇つぶしに考えた兵装だったりする。
斥力発生装置で、高機動スラスターのようなものを考えて実験していたスタッフが、その斥力波動性を面白がって収束させて、大気を超圧搾させて発射させ、的当てゲームをやって金をか……お菓子を賭けて遊んでたのを沢渡が着目し、本格的な兵装として試作したのがこの武装だった……そうだ……いやはや。
この兵器の着目すべき点は、斥力波動を収束させて大気を一時的に超圧縮させて矢状に放つ。
空間が歪み、半透明状の圧搾大気の弾丸は、弾道を視認できない事はないが、いかんせん半透明なので、それを追いかけるにはやはりセンサーに頼らざるをえない。夜間ではまず弾道が見えないので、夜襲兵器として最適だ。ただ射程が若干短く、そこが難点。そんな兵装である。
フェットーは、本来姿勢制御装置である斥力装置を、そんな汎用性の高い武器に作り変えてしまう発想に戦慄する。
(コレガ、発達過程文明カ……)
ちなみに元は的当てゲームの暇つぶしである。
『ククククククク、オモシロイ。オモシロイゾ! タガワ大使!』
「ふははははは! 俺もだよフェットーさん! これでもくらいやがれ!!」
とうとうハイになる二人。もうこうなったら殴り合いである。って、実際グーでどつきあいするわけではないが、もう弾を当てるか躱すか。純粋にそういった戦い。例えるなら鬼レベルのシューティングゲームの敵弾を躱しつつ攻撃を行わなければならないバトルをお互いやっているような、そんなバトルになっていく。
そんな阿鼻叫喚な戦闘になってしまてるのを、地上で見ているシエさん。
ダーリンのキレ具合に呆れながらも、なんとなくちょっぴり羨ましかったり。そんな感覚で手に汗握りつつ二人の戦いをコーラ片手に見物する。
『アア! ダーリン! ソコハ右旋回ダ! フェットーノアホニ、左カラハダメダ! アーモウ、ナニヲシテイルノダ……アワワワ……ン? オオー、流石ダーリン! ヨシ! ソコダ!』
もうどっかの格闘技でも観に来たネーチャン状態。で、シエの部下や見物人の兵士や士官もおんなじ感じ。
フェットーも意外に人気が高く、彼を応援するヤツもいたり。
向こうでは、ダストール的なファーストフードを作って配給しだす奴がいて、シエさんもいつのいまにやらその食べ物を片手に持っていたり。
すると早足でスタスタとシエに近づくデルン……この基地の司令だ。
シエはその姿を拝むと、ハっと片手に持つコーラと、もう片手のファーストフードをパっと後ろに隠す……が、隠しきれないので、机にそっと置いたり。
そりゃそうだ。大佐殿が部下と一緒に旦那の決闘の応援をしてたら普通は何か言われる。
司令はニコニコ顔で近づく……が、シエも新兵ではない。何かその笑顔にただならぬものを感じ取る。
『ヤァ、イルカーシェル・シエ。フェットー委員長ト、タガワ特使トノ親善試合ハドウカナ?』
『ア、アア。良イ感ジダゾ。今ノトコロ、五分五分トイウトコロダナ。ナハハハ』
コーラ持って楽しんでたのがちとバツが悪いシエ。
基地司令にはそういうことにしてある。まさかヤルマルティアとダストールの盟約主権国家権限をかけ、さらにはシエの総統選挙出馬をかけた一大勝負なんて言えるわけがない。
『ハハハ、結構ダ』とニッコリ笑いながらそう言うと、司令は兵達に背を向け、笑顔をけし、あたりを目だけで確認すると、鋭い視線をシエに送り、腰のあたりで指をクイクイ曲げ、ちょっと来いとジェスチャーする。
その司令の顔に訝しがり、彼女も周りを目だけで確認すると、眉間に皺を寄せて司令に顔を近づける。
どうも怒られるような感じではない。怒られるときはもうハナから「何をしている貴様ら! 俺が一番この世で気に入らないのは……」とやられるだろうから、そういうのではないとすぐにわかる。
司令はシエの耳元で何やら小声で話すと……シエの目がカっと見開く。そして「えっ?」という顔で司令を見る。
司令はコクコク頷いて、「そういうことで頼んだ」というような事を小声で言い、シエの背中を数回叩く。シエも了解のポーズを取ると、チっと舌打ちをする。
そして駐機してあったマージェンツァーレ――旭龍複座教練型改造機に視線をやると、それに向かって走り出す。と同時に、シエの部下を数人呼び、何やら説明をする……説明を受けた部下もなにやら慌てて、大声で手をクロスさせて「レクリェーションは中止だ!」と叫んでいるようだ……
………………………………
「まだまだぁぁぁぁ!!」
『ナンノォォォォ!!』
HM化したF-15Cの斥力収束弾と、ヴァズラー機動形態の粒子ブラスター砲弾が飛び交う大空……いや、闘技場はもう空だけではなく、地上にまで達していた。
どこかの演習場な森の上の木々スレスレを急降下から水平飛行で、さらにバックし、急上昇するF-15。
で、そのF-15を同じく地上スレスレで追尾し、また多川の攻撃を躱すフェットーヴァズラー。
もう相手に何発当てたか、ポイントは幾らかなんてのは数えるのをやめた二人。意地になって互いに弾をブチ当て合う。
ヴァズラーの粒子ポッドももう無くなった。フェットーも正々堂々とは戦っている。粒子ポッドのヴァズラー標準搭載弾数以上の使用はしないようだ。普通ならゼル造成させてもいいものだが、多川が14式ミサイルをそうしないので、フェットーもそこはあえて多川に合わせた。
スカした変な奴だが、その正々堂々の精神は好感が持てる。
「まぁだいぐがぁぁぁごのやろぉぉぉ!」
『コンナ!……ヴァズラーガ、コンナ機動兵器ニ負ケルワケニハイカン!!……』
制限時間まであと一五分。これがなかなかに長い。
ベテラン多川のF-15空技。弱点はなんだかんだいって地球の兵器。Gに翻弄され、いつまで体がもつかというところ。
F-2HM用の特殊スーツを着てはいるが、ヴァズラーのような飛行で飛ぶわけではないので、やはりそこは肉体勝負だ。
肉体の限界と根性でヴァズラーと戦っている。それだけでもティ連兵器のシステム制御に匹敵するということなので、すごいものではあるが……
ゼーゼー言う二人が互いの機体に照準を合わす。もう照準合えば、とりあえず発射というような感じの二人だったが、覗くターゲットロックオンの照準マークを、別のところからの弾道が割って入り、二人の眼前をかすめる。
「!!??」
『!!??』
なんとM230チェーンガンの弾道だった。
その発射元では、旭龍・教練仕様改造型が猛スピードで上がってきていた。
「え?」となる二人。
多川は、その飛行の挙動から、シエだと見抜く。
「シエか!? おい、まだ試合は終わってないぞ! どうした!?」
『シエ、マサカオマエガ交代デ参戦スルナドト、ソンナ話デハナカロウナ? ソレハソレデ私ハカマワンゾ。クククク』
そんな言葉など意に介さず、シエは二人に試合中止を『命令』する。
「命令? おいおい穏やかじゃないな、どういうことだシエ?」
『?……』
『ダーリン。実ハ今、至急電デ連合防衛総省カラ連絡ガハイッタノダガ、コノハンカー恒星系外縁部ヲ航行シテイタ、ヴィスパー共和国ノ貨物船団ガ、ガーグ・デーラノ奇襲ヲ受ケタラシイ』
『!……ナニ!? ソレハ本当カ、シエ!』
『アア。私モ今、基地司令カラ聞イタ。デ、貨物船団ニカナリノ被害ガ出テイルラシクテナ。船団ヲコノ基地に誘導シテ、収容シ、医療、修理ナドノ集中対処ヲ行ウ。デ、ガーグ艦隊ノ追撃ガマダフリキレナイラシク、私達「特務総括軍団」ニ出撃要請ガキタ。船団ヲ追撃中ノガーグドモヲ叩ク』
F-15はシエとフェットーの周りをゆっくり旋回しながらその話を聞く。
「ヴィスパー共和国のヴィスパー人さんっていやぁ、あの複眼の種族さんだな。こないだの調印艦隊でもいらっしゃってた……確か日本と同じ地域国家の」
『ソウダ、ダーリン。アノ国カラハ今ノ戦闘宙域ハ遠スギル。我々ガイカナイト……』
以前聞いたシエの話だと、ヴィスパー共和国とダストールは、親密な関係にある国同士なので、ここは手をこまねいているわけにはいかないという
「……フェットーさんよ。残念だがバトルは中止だ。お宅も政治家やってるなら、早く議会に戻って対応したほうがいい」
『アア、ワカッテイル。ダガ、中止トハイエ結果ハ結果ダ。今ノ時点デノ勝負デ結果ヲ判断スルゾ』
「おう、集計は後日な。ってか、はやくいけよ。ヴィスパーさんを救援できたら、ダストールの評価も上がるぞ」
その言葉にピクとなるフェットー
上空から基地を見ると、ダストールヴァズラーが次々に離陸していく。事は相当に大事のようだ。
『ナルホドナ。 ソレモアリカ。フム感謝スルゾ、多川。デハ私ハ一足先ニ戻ル。デハナ』
そういうと、ヴァズラーを巡航形態に戻し、首都方面めがけて飛び去ってっていくフェットー・ヴァズラー。
「フゥ……じゃあシエも行くのか?」
『モチロンダケド……ダーリン。コノ機体ハ複座ヨ。私ハ巡航形態デノ戦闘ハ苦手デナ……』
誰も観ていないと、ちょっと口調が変わるシエ。
「はりゃ~ F-15の決闘で精魂つきかけてるのに、レッツ集団的自衛権ってか? シエ~」
『ダメカ?』
VMCモニター越しに、上目使いで口尖らせて多川を見るシエ。
無論、特危自衛隊所属の多川は現在大使ではあるが、同時に武官で、ティ連憲章で認められた惑星地球内での軍事行動以外の、ティ連内集団的自衛権を認可された部隊組織の一佐様だ。ここは根性で集団的自衛権してやらないと、特危自衛隊員としての名が廃る。
「わかった。付き合うよ。特危自衛官だしな。女房だけ行かすわけにもいかんだろ、ははは」
『フフフ。ソウイウコトダ、ダーリン……デハ、機動母艦ガ高度一〇〇〇〇めーとるデ待機シテイル。ソノママデ一緒ニ母艦マデ飛ボウ』
「了解だ。んじゃ先導してくれシエ」
多川は、HMユニットの稼働を切って、ノーマルF-15C状態で、シエの操る旭龍の後を追う。
しばし飛ぶと、ダストール機動母艦がセタール二重恒星の見せる独特の夕焼けにシルエットとなって二機を迎え入れる。
トラクターフィールドに捕まった多川は、そのまま母艦のお任せで船に着艦。その珍しい機動兵器に、ダストール母艦のスタッフが大勢やってきて見物してたり。
そして、シエの駆る旭龍と、部下の駆るマスプロダクト旭龍。これもまだ試験的導入段階で、数機しかない機体なので、母艦スタッフはこれまた目を丸くして、その特異なデザインの機体を観察する。
元来はイゼイラ人のみなさんが怨敵を倒すために設計した機動兵器だが、なぜかヤルマルティア人がデザイン的に……所謂『魔改造』してしまった。そんなデザインな兵器なので、ダストール人諸氏も興味津々……ちなみに魔改造したのはアイツらなので、責任はみーんなあいつらにある。今後の日本におけるデザインセンスの印象も、ぜーんぶあいつらの責任である……
シエは機動母艦格納庫に誘導された多川のF-15に駆け寄る。あれだけのバトルを演じたのに足腰はしっかりしているので、流石はダーリンと思うシエ。
「まぁまぁ、別に殺し合いやってたわけじゃないからな。むはは」
案外楽しんでたと、そんな感じで応じる多川。そんな旦那を少し首を横に傾げ、吐息をついてニッコリ笑い迎えるシエ。で、そんな会話もしばし。シエは眦を真剣にして、現在の状況を多川に説明する。
『……ヴィスパー共和国ノ輸送船団ハ、政府所属ノ船団ダ。エマージェンシーヲ受ケ、司令部ハトニカク、ダストール領ニ船団ヲ誘導シタ……』
ヴィスパー船団からSOSを受信したダストール軍空間国境警備隊は、即座に救援部隊を派遣したが、ガーグ部隊はかなりの規模らしく、とにかく護衛して、領内へ誘導するのが現状精いっぱいだという。
現在では、彼らの次元溝潜伏もかなり探知できるようにはなったが、それでもメンドクサイ機能なのは変わらないわけで、政府所属船団や民間船団等々といった船種までの、完全な装備の普及には至っていない。
今回でもダストール近海といった場所で、ガーグがかような規模で襲来するなどという事は、元来考えられない事態だったので、ダストール司令部も異例の事として対応していた。
「わかった。俺も特危自衛官として、初の集団自衛任務だな。現場まではあとどれぐらいだ?」
少々間があるようなので、携帯食料と水分を摂る多川。
いつの間にか、シエと多川の周りには、パイロット達が集まってきて、状況対応のコツなどを質問に来る。多川も手で機動兵器を模したジェスチャーなどを交えて、色々教えたり。
シエも、機動戦におけるマスタースレイブの有用性などを部下に教えていた。あまりSMS操縦方式に頼りすぎるなと。
そして艦内に警報が鳴り響く。ヴィスパーの船団が見えたという艦内放送。多川とシエも旭龍に搭乗し待機。VMCモニターで船団の様子を確認するが……
「おいおいおい、かなり食らってるじゃないか」
ダストール軍の国境警備隊が緊急で対応しているが、かなりの数のデーラ・ドーラ母艦が船団を追撃している。
ダストール国境内に誘導し、応戦するのが精いっぱいのようだ。
『今、現在デモ、数隻ノ艦内デ、対人ドーラト白兵戦ヲヤッテイルラシイ。私達ハ、対艦ドーラト、母艦ヲ叩ク。キョクリュウノ、性能ノ見セドコロダ』
「了解だぜ。こりゃきばらんとな」
集団的自衛権とはいっても、相手は仮想生命体で、その母艦にすら生命反応がない相手だ。その点まだ気が楽である。言ってみれば災害みたいなものだが、その災害みたいな相手でも、仮想生命体という科学の産物である限りは人、というか知的生命体の意思が必ず介在している。そこが人類のかつて経験した事のないところだが、今この時はそんなもの関係ない。
不条理な攻撃で必死に逃げてきている知的生命がいる。それを守ってやるのは、地球人であろうが異星人であろうが関係ない、ましてや日本は、今や大銀河連合国家群の構成国だ。どっかのメンドクサイ政党がピーピーギャーギャー言おうが、んなもの知ったことではないのだ。
目の前にいる不条理な暴力に晒されている者を助ける。人の持つ根源的良心である。以前白木が言った「人間の正義なんて所詮半径数十メートルだ」という言葉。その数十メートルの正義を遂行できる存在が、崇高な人々なのだ。
『ヴァズラー・イル 発艦スル』
『ヴァズラー・トゥラ 発艦』
『シルヴェル・サディ 発艦』
次々と機動母艦から発艦していく機動兵器。
『ダーリン。私達ハ、船団艦内ニ取リツイテイル対人ドーラヲ始末スルタメノ、海兵隊突入艇ヲ護衛スル。ソシテ護衛完了後ハ、敵母艦ヲ沈メルゾ。コノ機体ニハオアツラエムキノ任務ダ』
「敵母艦は、あの……なんだっけか? グム……」
『グムヌイル級カ? ソウダ。アノ艦ノ同型艦ガ、敵ノ退路ヲ既ニ絶ッテイル。ダカラ、カナリノ数ノ敵母艦ヲ目視デキルゾ。結構ナ艦隊数ダ』
で、無論、近隣に展開している連合諸国の艦隊も応援に来るようになっているそうだ。
「了解だ。よっしゃ。んじゃ突入艇の護衛は巡航モードで行く。その次はシエ、頼むぜ」
『マカセテ。デハダーリン。出撃ヲ』
機動母艦から飛び立つシンシエコンビのタンデム仕様旭龍。その後にシエの部下が乗った旭龍の先行採用型が続く。
その後の作戦は、当初の通り推移し、シエ達は突入艇の空間海兵を対人ドーラに浸食された船まで護衛する。
幸いなことに、ヴィスパー共和国にも、対人ドーラの画期的な防衛方法は知られており、船員が柏木のもたらしたM82バレット対物ライフルをベースにしたような、ヴィスパー共和国が独自に開発した実体弾発射型武器を装備して、なんとか踏ん張っていたようである。無論それでも基本軍人でない彼らには相当な被害も出ており、死者こそいなかったものの、重軽傷者多数。船団規模で見ても相当な負傷者がでていたという。
シンシエコンビは、次々と対艦ドーラを葬り、三隻のドーラ母艦を沈めたという。
無論彼らが無双していたというようなそんなアホな話ではなく、戦闘中、近隣に遠距離空間訓練や通常航行訓練。防衛外交で展開していたイゼイラ軍とサムゼイラ軍。カイラス軍にユーン連邦軍が援軍に来てくれたおかげで、かように事なきを得たという話。
その後、とりあえず宇宙空間に展開していたガーグ・デーラ軍は、多川達連合防衛総省軍が壊滅させた。
まま、残骸も多数回収でき、ガーグ・デーラの研究にも一役買ってくれるだろう。
ヴィスパー共和国の船団長からも相当に感謝され、またヤルマルティアの武官がこの作戦に参加していたと聞き、是非会いたいと面会もかなった。
ヴィスパー共和国では、同じ地域国家の連合参加国が新たにできたという事で結構日本に興味を持つ国民は多いそうだ。多川達が尽力してくれたことは必ず本国に報告すると言っていたそうだ。
………………………………
次の日……
避難してきたヴィスパー船団の内、破損がひどい一部船舶を、施設の整った別の基地に移動させ、けが人等々を、専門の医療機関に搬送する手続きで忙くなっていた基地。
多川も日本政府や、防衛総省本部への報告作業と、親善試合の名で行われた決闘の後に予定していた旭龍の訓練も残っていたので、それもこなして忙しい一日を送る。
と、そんな予定をこなしたその日の夜の、基地格納庫……
多川は椅子に座って、昨日世話になったF-15Cを眺める。
さっき外を散歩した時に手折った花をクリクリさせて、尾翼のダストール国章を見る。
改めて見て、異星人の国章を付けたF-15Cに思わず吹きそうになったり。
すると、多川しかいない格納庫に、コツコツと硬い靴の音。
靴の音は、どこかにあった椅子を引きずる音も混ぜて、多川の横にドッカと腰をかける。
多川は、首を少し横に向けて、相手の顔を見ると……フェットーだった。
『ゴ苦労ダッタナ、タガワ。異国ノ人間ニ、イラヌ世話ヲサセテシマッタヨウダ。ダストール議員トシテ礼ヲイウ』
多川はそういうフェットーにフっと吐息を一つ吐き
「困った時はお互い様だよ。国を守る立場の人間として、当たり前の事をしただけさ」
そう。有効射程数十メートルの正義をやったにすぎない。それだけだと。
そういうと、しばし黙り込む二人。
「で、どうだったんだ? 勝負の結果は?」
多川が切り出す。
そういうとフェットーは目を瞑り、俯いてフッと笑いながら
『三五八 対 三六七デ……ワタシノ負ケダ』
あっさりと負けを認めるフェットー。
「でも、あと一五分ほど時間残ってただろ。何か別の事で埋め合わせするか? シミュレータか何かで」
『フフフ、モウカマワンヨ。ドッチニシロ、眼ノ前ニアルコノ機動兵器デアソコマデヤルトハ……マア?多少ハ改造シテイタヨダガ、ソレデモナ……ヴァズラー同士、イヤ、マージェンツァーレデ闘ワレテイタラ、正直勝テタカドウカナ……』
「お宅さんもたいしたもんだったよ。最後の機動戦……あれ、マスタースレイブに切り替えただろ。動きが全然変わった」
『アア……アノ機能デ戦闘シタノモ久シブリダ』
シエはどう思っているのかというのはともかく、多川は、この男がそんなに嫌いではなかった。
よく殴り合えば友情が芽生えるとか、青臭い展開になるパターンは良くあるが、そういうのではない。
何と言えばいいか……
「アンタ……つかぬことを尋ねるが……もの覚えは良い方か?」
『ン? ナンノ話ダ? マァ悪イ方デハナイトオモウガ?』
そう、この男と戦っている時、シエがJK時代に勝てなかった理由がなんとなく理解できたからだ。 その理由は……彼に同じ攻撃が二度以上効果的に通用しなかった。多川の得意技もかなり躱された……多分この男、白木のような奴ではないかと多川は感じたのだ。
フェットーという男。兵士としては恐らく本来至って普通の、特に何かに長けたというような奴ではないのだろう。どちらかというと平凡な兵士なのかもしれない。
実際多川がバトッていた時も、そんなに何か強烈なエースパイロットというような感じはしなかったのだ。
恐らく、彼のサヴァン的な何かの能力が、彼を非凡な存在にしているのだろうとそう感じた。
だから、多川は、彼に言うほどネガティブなイメージは持っていない。
サヴァンな奴というのは、健常者でもどこか変わり者が多いという話。そんなところではないかと、そう思った。
で、男として聞きたい話も一つ……
「ここだけの話だけどさ……若い頃、本当にシエをモノにしようと思ったのか?」
『ン? アア、ソウダ。当時ノ若イデルンハ、結構シエニアタックシテイタゾ。デモ、シエノ出シタ変ナ課題ノセイデ、ワケノワカラナイコトニナッタケドナ。私ナド、オカゲデ彼女ニハ嫌ワレタモノダ』
「そりゃそうだろ……アンタのやってた行為、話に聞いたが、ありゃストーカーだ」
『ストーカー?』
そうフェットーが言うと。ハルマ言語データベースを検索し、その意味を調べる。
『オイオイ大使。ナンダソレハ? オカシナコトヲ言ウナ。ダストールノ政治ノ世界デハ、フリュ家長ハ、誰カニメトラレルモノダ。ソレガ普通ナノダヨ。ソコハ、オ前達ノ倫理観トオナジ話ニスルナヨ』
この辺は文化習慣の相違だ。確かに、ここはフェットーの言う通りである。
地球でも、いろんな文化習慣に根差す価値観がある。それは文句いえない。理解しあうかしてやるか、嫌ならハナから首を突っ込まないか。この二択しかない。そのどちらもダメなら最終手段で、戦争やからして征服だ。これも一つの方法だろう。
とすれば、案外ロッショ家のみなさんが、ダストール的にはかなり変わり者なのかもしれないのかなと思ったり……まあ、あの親あってあの娘だしと思う多川。そのおかげで多川さんにも女ができた。これもティ連人がよく使う言葉。『因果』だという事にしておこうと思う彼。
そんな話をしていると、シエが多川を迎えにきた……ガッシュが心配してるので家に帰ろうという。が……フェットーがいるので渋い顔。でも一昨日ほどではないようだ。
「よぉシエ。帰るのか?」
『アア。ダーリン。迎エニキタ』
そういうと席を立ってシエの傍に行く多川。
シエはフェットーをジっと睨んで……はいたが、フっと顔を崩し、眦を緩める。
『フェットー。昨日ノ闘イ……マア、見事ダッタトイッテヤル』
『ソウカ? ソレハ光栄ノ至リダ』
『デ? 結果ハ?』
結果はもう知っているが、あえて意地悪に聞くシエ……
『マ・ケ・タ・ヨ』
『フッ、ソウカ。ザマ~~ミロ』
そうシエが言い放つと……
『フフフ……』
『クックック……』
まま、わだかまりはあるのだろうが、一昨日までの事はなくなったかな? と思う多川。
「では、フェットー議員。これで」
多川は別れの敬礼をする。
フェットーもダストール敬礼で返す。
シエが多川の腕を取り、チョンと頭を彼の肩につけて、ちょっとフェットーに見せつけるように背中を向けてその場を去ろうとする……と、数歩歩いて多川が……
「あ、そうだフェットーさん」
『?』
そういうと、多川は自分のPVMCGを操作して、何やらデータを彼に送る。
「日本の最新情報だ……「ネット新聞」っていうんだけどな。お宅らの広域情報みたいなもんだ。読んでおいてくれよ……じゃぁな、おやすみ」
基地のトランスポーター停留場まで歩いていく多川。
シエは彼に腕をからませる。
フェットーは訝しがるような顔で、もらったデータを造成したタブレットに映して読んでみる……すると……みるみるうちに彼の顔色が変わっていく。
目を真ん丸にして、口をポっとあけ、停留場に向かったシエと多川を駆け足で追う。
二人はトランスポーターに乗りかけているところ。
少し離れた場所で、フェットーが叫ぶ。
『タガワ大使! コ、コレハ!!!』
多川は答えず、フェットーに軽く敬礼して、トランスポーターで飛び立っていった。
それを見送るフェットー。
夜空に上がっていく二人のトランスポーターを見上げる。
『クククク、フフフフ、ソウカ、ソウイウコトカ……ハハハハ……』
フェットーは手を横に挙げ、首を振って再度タブレットの情報を見た。
そこには産業新聞のトップ記事が、写真付きで掲載されていた。無論言語はダストール語に訳されている。
新聞の写真には、大きく二藤部の顔と、その下にちょっと小さめに柏木の顔が載っている。
更にその下に、写真付きでフェルさん地方講演の記事。
で、その一面二藤部の写真に関連する記事の内容は……
【 政府・次期銀河連合盟約主権国家に日本国が選抜された場合、辞退することを連合本部に通達 】
というような内容と見出しで大きく掲載されていた。
フェットーは多川が「ティ連の常識で御大層に語られてもな」とシエにポソっと言っていた、漏れ聞こえた言葉を思い出す。
日本政府としては当たり前の話だ。そんなものすごい権限を、言ってみれば聖地日本が連合に加わった勢いとノリで選抜されても困るだけの話であって、ちょっと待っておくんなましという話に普通はなる。
マリヘイルも、正直なところを言うと困惑していたのはしていたそうで、日本がこの事実に対してどう出るか、あえて見守っていたのだそうだが、まま、常識的な判断をしてくれたので助かったという話……でも柏木は「元はと言えばアンタじゃあ!」と心の中で思ったそうだが、思っただけにしたそうな。
夜空に溶け込んでいくシンシエコンビの乗るトランスポーター。
夜もふけて、星と、トランスポーターの光が混ざり合って点滅するダストールの空。
記事を読んだ後、小さく光を点滅させながら、遠くに飛ぶ二人の乗ったトランスポーターに、軽く敬礼を贈るフェットー。
……その後、フェットーは約束通り、二度と二人の前に姿を現すことはなかった……
………………………………
ロッショ邸では二人の帰宅後、一家団らんの晩餐が行われていた。
無論、その一家の中には多川も入る。
とりあえず、フェットーとの『試合』はロッショ家の皆様もご存知のようで、あくまで賭け内容な『試合』のレベルで、祝勝会なんぞも兼ねていたり。
ただ、あのシエがキレた時、シエの部下もその様子を見ていたので、部下達に緘口令は敷いていたが、そこはガッシュにルメアである。国家総統にサストマールの理事だ。そこはそれということで、間者なんぞを放っていたりで、試合の本当の内容は、知っていたりする。
晩餐の話の中、ガッシュとルメアが……
『シンガ、我ガ家ノ婿養子デモ、悪クハナイノダガナァ~』
『ソウネ~ソレハソレデ、嬉シイ事デモアルワ~』
とわざとらしい口調で話題を振ったりする。ベイルは「何の話だ?」とキョトン顔。
シエはスープを吹きそうになってたり。
ただ、多川は……
「ははは、お二人はもうご存知なんでしょ? あの『親善試合』の意味」
『ウム、マアナ。ソノアタリハ政治家同士ダ。色々知ル術ハアル』
『デモ、有難イ話ネ。マサカ、シンガ、アノヨウナ作戦デ、フェットーノ挑戦ヲウケルトハ』
実は、ガッシュもフェットーと同じく、今季こそはダストールの盟約主権国家入りを期待していたのだが、かような事になり残念なのは残念で、そこはフェットーや、彼に限らず多くのダストール国民や政治家は意を同じくするところだっただろうと話す。
『タダナ、精死病ノ件ヤ、イゼイラノ聖地案件。ナヨクァラグヤ帝ノ件、アアモティエルクマスカ世界ニ恩恵ヲモタラシテクレタトナレバ、我々ダストール国民モ諦メガツク。ソウ思ッテイタノダガ、マサカ、ニトベ総理大臣ガ、カヨウナ決断ヲシテクレルトハ……ソノ英断ニ、我ガ国民ハ敬意ヲ表サズニハオレンダロウ』
現在の情報では、日本が盟約主権国家選抜から降りたことで、ダストールの次期主権国家選抜は、ほぼ確定の状態だそうだ。昨日のヴィスパー共和国への対応も評価に加算されて、安定の状態だという。
ガッシュは、これでダストールもヤルマルティアに大きな借りができたとにこやかに語る。
イゼイラのサイヴァルとは友人でもあるので、サイヴァルは、よければイゼイラの外交占有権を気にせず、自由にヤルマルティア外交をやってもらっても構わないとガッシュには通知していた。
これはガッシュに限らず、各国首脳にも通知しているという。
ガッシュにルメアは時期を見て、また日本へ政治的案件も含めて訪日したいと話す。
『マア、ソノ時ハ、オソラク総統職ハ退任シテイルダロウガナ。イチ政治家トシテ行クノモマタイイダロウ』
と、そんな感じ。
ということで、フェットーがらみのてんやわんやな騒動も一段落を迎え、みなさんプライベートな時間へと入っていく。
今の多川は、シエの部屋に居候の身だ。彼女がダブルベッド用意させて、そういう前提を作ってしまっているので仕方ない。
シエと多川。二人してその部屋で、プライベートな時間を過ごす。
シエが飲み物でもと部屋を出て、食堂に菓子などと一緒に冷たいものを持って部屋に帰ってきたら……多川が自分の荷物を開けて、ゴソゴソと何かやっていた。
「お、あったあった、これこれ。日本に置き忘れてきたかと思ったよ」
『シン、何ヲシテイルノダ?』
「あ、シエ……むはは。ま、ちょっちな」
『ン?』
「まあ座れよ」
『アア……ドウシタノダ?』
すると多川は、スーツケースから、何やら取りだす……手に持つは、藍色の小箱のようだ。
「シエ、これやるよ。受け取ってくれ」
『フム……』
という感じで、小箱を受け取ると、パコっとそれを開ける。すると中から小さな希少金属でできたリング状の物体が出てきた。
見た感じ、何やら高級そうな大層な装飾の箱に、刺さるように入ったその輪っか。
シエは取り出し「これはナンジャラホイ」という感じでジロジロと見る。
「これはなシエ。こうするものだよ」
多川は、シエの左手薬指に、その輪っかをはめる。ただ……シエはその意味が全然わかんないので……
『オオー、コレハ綺麗ナ装飾品ダ。コレヲ私ニ?』
「ああ、よく似合うよシエ」
『アリガトウダーリン。ダガナァ……ムー……貨幣的ニ、トテモ高価ダッタノデハナイカ? ダーリン。天然物ノ、希少金属ノヨウダガ……』
「いいっていいって。ま、たまには俺にもデルンらしいことさせろよ」
『フフフ、ソウカ。デハ私モ今日ハフリュラシイ事ヲシナイトナ……戦勝プレゼントモマダダ』
あ、そうか、戦勝プレゼントか! と思う多川……こりゃまた体力いりそうな戦勝プレゼントになりそうだと。
こういう展開になるのはある意味わかっていたので、一連の流れにあえて突っ込まない多川。ま、日を改めて、「そう言う事だ」と話そうと思う。何でも話では、柏木とフェルもそんな感じだったそうだとか。柏木に至っては、同じような行為が、一年以上経ってからフェルに教えてもらったとか……ま、慌てる必要もないかと思う彼。
ということで、シエの戦勝プレゼント授与式に挑まされる多川さん。
まま、長い授与式になるだろうが、頑張っていただきたいものである。
ということで、今日はオヤスミナサイ……
……………………………
その後、フェットーとの何某と、ガーグデーラ騒動もあってのでかなり当初の予定が狂ってしまう形になったが、可能な限り元のスケジュールをこなす多川。
ただ、やはりヴィスパー共和国を集団的自衛権してしまった事はきちんと報告しておかなければならないわけで、そのあたりを柏木と話す。
『なるほど……やはりガーグ・デーラですか……』
量子通信のヤルバーン中継なインターネット通信で柏木とミーティングする多川。
『ダストール近海で連中ガ出てくるとは、これも珍しい事ですネ』
フェル副大臣も、今までになかったパターンだと口を尖らせて腕を組む。
『多川さん。ガーグ・デーラの件は、日本国民には強烈にすぎる情報ですので、残念ながら現状まだ公にするわけにはいかない情報です……ですので、恐らく……今回の件も地球や日本の表向きには「なかったこと」で処理させてもらいますが……こうまでガーグ・デーラと関わるとなると、う~ん』
『問題なのハ、地球が直接連中の脅威にはないところが、ニホン国の皆様に説明をしづらくしているところナのですヨ、マサトサン』
『だよなぁ……こっちゃガーグ・デーラよりも、中東の件なバカ連中の方が重要案件だしなぁ……』
頭をボリボリかく柏木。
「確かに。考えようではあいつらのほうがデーラよりも質が悪いですわ、実際」
そんな話にしかめっ面になるみなさん。
『デ、ケラー・タガワ? シエは今ドコに?』
「ええ、今外で来客のお相手ですよ。って、シエってあんなに人気があったんですねぇ。もう毎日毎日、有名女優並の来客ですわ」
『ウフフフ、そんなフリュをオクサマ予定者にしてしまったケラーも心配ですよ私は。ウフフフ』
『ははは、そうですねぇ。多川さんところにカミソリとか、白い粉とか送られてきてませんか?』
「あ、何を言ってるんですか。そりゃ柏木さん、貴方のほうじゃないですか、ははは」
と、かように柏木大臣への報告を終える多川だが、もう今や多川の経験した、かような安保案件でも、もう集団的自衛権アレルギーな、ピーピーギャーギャー吠えるいつも恒例の宴会芸のような日本の姿も、ほとんどなくなった。つまりティ連の国際的常識にも対応できつつある日本であった。
今回のヴィスパー共和国船団救出作戦の件にしても、よくよく考えたら日本がティ連の安全保障に関して、多川という個人を通じ、公式にティ連加盟国家として対応する初めての事例となる。
これは今回だけの事例でチャンチャンとはすまないだろうなと思う多川だったが、今はそれを考えても仕方ない。
……と、かように仕事をこなす多川。ってか、本来はプライベートで有給休暇とって来るはずだった用事を、勝手に仕事ねじ込んできたのは柏木達であって、本当ならシエパパガッシュにルメアやベイルを紹介されて、どうもどうもで今後の事もどうかよろしくと挨拶して、ダストール観光でもして帰国するつもりが、決闘に救援作戦に外交案件にと、ちょっと違うダロと思いつつも、まぁいっかと仕事をこなす。
で、結局シエと多川が純粋なプライベートでゆっくりできたのは最後の二日間だけで、彼らはその二日を利用して、アウトドアな一泊二日を過ごす。
多川もシエも、実はアウトドア派で、キャンプやちょっとした登山などを趣味でやっている。
最近シエは、先のOGHゼル環境施設でやった柏木・大森監修のサバゲーにえらく興味を持ち、そっち方面でも参加してたり。とにかく体を使う事が好きなのだ。そりゃシエのプロポーション見れば、インドアであのボディラインにはならないと思う。
シエが多川に見せたいと思っていた風景。ダストール三大美観の一つ『シャルジェ城の滝』という、巨大な城の穴という穴、窓という窓から滝のように地下水があふれ出す、何とも不思議な観光名所に案内される。
「なんだこれは……」とその幻想的な風景に見とれる多川。なんでも古代ダストール文明の、ある時期にあったこの地方領主自慢の城だったそうなのだが、巨大地震で地下水が猛烈な噴水のようにあふれ出し、城の住人全員が退避しなければならない事態に陥ったのだそうな。
そんな言ってみればエライ目に合った領主も、避難した場所からこの風景を目の当たりにして『城一つ失ったが、代わりにそれ以上の宝を得た』と言い放ち、偉く感動して、かような風景をこの地方の観光名所にして保護し、そのおかげで城を失う以前よりも領内は潤ったという逸話のある歴史的な場所だという話。
多川はその話を聞いて、改めてかような五千万光年彼方の雄大な歴史物語に、言葉も出ず、感動にふける……恐らく彼は今日見たこの風景を一生忘れる事はないだろうと思った。
するとシエが、こんな事を言いだす。
『シン。コノ場所ノ、アノ滝ノ下デ、ソ……ソノ……シ・将来ヲ誓イアウト、永遠ノ幸運ヲ得ルソウナノダ……ウン……』
シエが、らしくないモジモジモードで、そんな事を言いだす。
これがキャプテン・ウィッチですといっても、今日ばかりは誰も信用しないだろう。
シエが何をしてほしいか察する多川。
『ア、アノナ、ダーリン』
「ん?」
『コ、コノ、コノアイダモラッタ装飾品ノ事ナノダガ……』と、先の左手薬指の指輪を多川に見せて『コノ意味……デ、データベースデ調ベタゾ……』
「ありゃ! 調べたのか!」
『ア、アタリマエダ! コンナモノヲイキナリクレルナンテ、チョットオカシイト思ッタラ……フゥ……モゥ……』
彼女は頬を全開で真っ赤に染めて、口を尖らせ上目使いで多川を見る。
そういうことでシエはその意味を知って、今日はここに連れてきたのだという。
だから、はっきり言葉にして言えと、そういう話。
で、多川はそういうことでシエに……
「じゃぁシエ……俺とミィア………………」
遠巻きに見れば、その言葉は滝の音にかき消されて聞こえない。
まま、聞き耳立てるのも無粋な話である。
多川とシエのフェイス・トゥ・フェイス。
いつもはシエが多川を巻き取るところだが、今日はシエさん目をつむって手を下ろし、顎を上にあげるだけ。巻き取る方は多川一佐の方であったり。
その続きは、瞬く間に滝が作り出す霧のカーテンで、見えなくなった……
………………………………
ということで、地球に帰国した二人。
帰国するまでの顛末を少々思い起こすと……特にこれといった劇的な出来事があったとか、そんな風ではなく、多川は地球からやってきた賓客として、そしてシエを日本に連れて行くダンナとして、ダストール国民から歓迎を受け、そして見送られた。
多川が帰国する際の式典には、ダストール閣僚が総出で二人を宇宙港まで見送りにきた。なぜならフェットーが裏から手を回し、ダストールの盟約主権国家入りが、まず間違いなく当確であるのをいち早く知らせて、それがニホン政府のおかげだと根回しをしていたからだ。
無論ガッシュやルメアにベイルも「家族」として見送りに来る。とはいえ、あまり惜別の情で泣きぬれて……というイメージは全然なかった。というのは、近日中にベイルがヤルバーンへ研修に行くことが決まったらしく、日本に来るという事。それに便乗して、ガッシュがルメアを伴って総統任期中に、もう一度日本に来ようという話でまとまったからだという事。なんとも仲の良い親子であったりする。その際にガッシュら三人は、多川の兄である一雄とも会いたいといっていたそうな。
ガッシュも言ってみれば次期総統には立候補できない任期満了の、地球的な言い方をすれば「レームダック総統」であるからして、最後ぐらい遊んでやれというところだろうか。そんな感じである。
空港に、ダストール閣僚達が集う中、ザンド家やバース家の御曹司達も見送りに来てくれた……だが、フェットーは結局姿を見せなかった。最後まで約束を守るとは、別にかまやしないのに律儀な奴だと、これはこれで感心した二人。
ただ……
二人の帰国用に特別チャーターした恒星間旅客船が飛び立つ時、宇宙港のはずれで、独特の黒いコートを着たダストール人デルンが、腕を組んで一人、船を見上げていた。
「なぁシエ、あれ、フェットーさんじゃないか?」
映像拡大装置でその姿を拝む二人。
『ン? ア、ククク。確カニ。アノ趣味ノ悪イこーと姿ハフェットーダ』
「やっぱ見送りに来てくれてたんだ」
『フッ……』
シエは何も言わない。でも、何か郷愁が混じったような独特の表情をして、笑うだけ。
フェットーとおぼしきデルンが小さくなっていくと、視線を多川に向けて首を横に傾げたり。
多川も笑って、シエの肩を軽く叩く……もうこれで、昔の事だと、シエもそう思えるようにはなったかなと思う多川であった。
さて、ここからは毎度の如く、現在地球に向かう定期便はイゼイラからしか出ていないので、来た道の逆で、またイゼイラへ立ち寄る。
ガッシュから連絡が行っていたのか、再びサイヴァルにニルファ、サンサに田辺、ターシャに出迎えられ、一日ではあるが、共に晩餐を楽しむ。
今後はこういう出会いが日本とティエルクマスカ各国間で普通になるだろうと、そんな話にもなったり。なぜならほんの何日か前に、サイヴァル達と一日だけ会って、また近日中といえる期間に再度会ってるのだ。しかも恒星間を股にかけてである……よくよく考えたらもうこういう交通が普通になりつつあるのだと、そういう認識を早期にもたないといけないと痛感する多川。これも帰国したら重要報告事項に入れないといけないと、そう思う。
実のところイゼイラへ人類初の異星人国家訪問をかました柏木ですらまだやっていない事を多川はやってしまっているのだ。それは『多国間外遊』である。ダストールと、中継地点とはいえ、イゼイラの二国をまたいで外交行った多川。ある意味彼も教科書モノだったりするわけだ。そんな自覚はまだないのだろうが。
と、そんな感じでイゼイラから定期旅客船のVIPルームに乗船して帰国した二人。
帰りの旅客船の名称は『アマノガワ』という船名だった。なんとも風情のある船名だとニンマリする多川。
その『アマノガワ』号にも、結構な数の日本人が乗船しており、多川の知った顔な政府職員もいたりするわけで、もうこりゃこんな風景に驚く時代も終わったなぁとつくづく思わされる次第。
そして行きの日数とほぼ同じ時間で帰国する二人。
地球―日本で、とりあえず現在の我が家である宇宙空母カグヤへ帰還。羽田を経由せず、めんどくさいので、職権使って直接ヤルバーン軌道ステーションから転送で、カグヤの停泊する双葉基地に飛んだ。
と、そん感じで藤堂やティラスにニヨッタにも帰国を報告。無事を喜んだり。その後は一日休んで数日間ほど、柏木やフェル、二藤部に三島達安保委員会メンバーへ報告など、事務的に忙しい日々を送る。
シエもリアッサやシャルリに色々聞かれたり。特にめざとい陸海空の『W』頭文字軍団からは、シエ様の薬指に光る恐れ多い装飾品に関して質問が飛びまくり、瞬く間に『シエが婚約指輪を付けている』とお触れが出回った。
件の社団法人のみなさんは心から安堵し、多川の社を作ろうとか、アホなことを言うバカもいたりと、てんやわんやだった。
大見も、やっとこの被害妄想軍団の相手から開放されると安堵の表情を浮かべたり。
ネットでも、シエがチョロっと映ったとある報道番組で流れた、左手アップの映像に話題が集中。
【キャプテン・ウィッチのあの左手は何だ! 真相追及特集】
とか組まれたり、声を変えて首から下の関係者を称する人物が出てきたり。
ネットでは、悲鳴に怒号。恨み節に嗚咽。『俺は信じないぞ!』といった書き込みでサーバーはパンク寸前。
あまりの反応に、シエもさすがに指輪を外すと思いきや……全然外す気ないらしい……
……と、そんな色々な事があった後……二週間後のとある休日。
多川とシエは、例のダストールへ行く前に購入した土地で、自分達のマイホーム造りなんぞを楽しんでいた。
完成予定は約二か月後。あれまこれまた早いではないのという事だが、そこはヤルバーンからハイクァーン装置やゼル造成装置なんぞを持ってきて、効率よく作業をしている。
とはいえ、それでも細かい加工作業や、森全体の中の家、としてのあり様などもあるわけで、単純にハイクァーンで家建てて、木を元素分解して終わりというわけにはいかないので、そこはボチボチとDIY感覚でやってるようだ。
ということで、シエと多川も今はカグヤの自室から引っ越して、生活基盤をこの作りかけの家に移している。
作りかけとはいえ、家自体は、普通に居住できるぐらいには出来ており、色々あとは装飾等々でDIY状態なわけだ。
家のイメージは完全なログハウスである。所謂丸太家屋というヤツだ。材料の材木だけは腐るほどあるので、資材には困らない。
各種の材料加工もハイクァーン使えば即行なので、楽な物。材木積んで家の形にしていくのも、トラクターフィールド装置や建築用転送装置使えば特に問題はない。
ヤルバーンやカグヤメンバー。おまけに柏木やフェルに白木が手伝いにきてくれるので、そもそも業者を雇う必要すらない。有難い話である。
いかんせん建築業者雇ってこの場所まで来てもらったら、どんだけコストかかるかという話なので、そのあたりのこともある。それに色々秘匿させたい物品もあるのでおおっぴらにやりたくはない。
ままそんな感じで、二人のスイートホームを作るのも、楽しみながらの中という感じである。
あのキャプテンなシエが、家の煙突から煙を出して、昼の支度なんぞをして昼飯を作ってたり。
そんな昼膳を二人で食べて、色々雑談して、またDIYに戻って二人して家に庭に……そんな作業で一日を終える休日が、二人とも楽しい。
と、そんな休日を過ごしていると、丸太をぶった切って造った大きめのテーブルに置いた、多川のガラケーが呼び出し音を鳴らし、小刻みにバイブレーションする。
多川の携帯だが、近くにいたシエが手に取り、相手の名前を確認すると電話に出る。
普通はこんな事したら喧嘩になるところだ。もし相手が女性なら「あなた、この女は誰っ!?」とかになってモメるところなのだろうが、シエさんと多川はもう場数を踏んだ一心同体のバディである。別に伴侶が自分の携帯に出たところで気にしない。
まあ案の上で、相手は藤堂だった。
『多川一佐か?』
『私ダ、トウドウ』
『ああ、シエ一佐。くつろいでいるところをすまない。多川一佐はいるか?』
『ン? 何カ丸太ヲ加工シテイルゾ』
『は? 丸太?』
『ア、イヤ、コッチノコトダ。カワロウカ?』
ということで、携帯を渡される多川。シエさん今の格好、ほっかぶりして、ダストールの作業着姿。んでもってエプロン。いかんせん作業着もピチピチなもんでこれまたエロい。
多川は丸太切ってるノコギリを傍らにおいて、汗を手拭いでぬぐいつつ、シエに渡された携帯を手に取る。
「はい、多川です」
『やあ一佐。休みにすまないな』
「いえいえ、こちらこそ」
まま、休みとはいえ、特危も体裁上、国家公務員法で週休二日と決まってるので、休日はそういう感じなのではあるが、現状その勤務シフトをイゼイラ側に合わせているので、カグヤ内ではシフト制になっている。
『で、一佐、いきなりぶしつけな話で申し訳ないが……』
「は、はぁ……」
『多川君……君……ダストールで何かやらかしたのか?』
「へ?」
まあ確かにやらかした。それは間違いない。
『いやな、基地定期補給便でさぁ、イゼさん側のデロニカが今日来たんだけどなぁ……どえらい荷物が積んであってな……しかもその荷物、基地の補給物資じゃなくて、君……一佐個人宛の荷物なんだよ……』
「はぁ……私宛ですか? 誰からですか?」
『えっとな……<ニヨッタ副長、なんて読むんですか? これ……>』
隣にいるニヨッタに話しかけているような感じの藤堂。
『ああ、スマンスマン。えっと、フェット? 』
「フェット? フェットー! フェットーですか!?」
『ああ、そうだ。ニヨッタ副長もそう言ってる』
「フェットーが私に?……なーにを送ってきたんだ?」
フェットーの言葉に敏感に反応するシエ。彼女も多川の持つ携帯に耳を当てて、小さく聞こえる藤堂の音声に聞き耳立ててたり。
『なんだ、知り合いか?』
「私というより、シエがですけどね。そのあたりは話すと二時間は欲しいですよ。聞きますか?」
『ははは、またの機会にしておくよ。ではシエ一佐の知人なんだな?』
「ええ。それに身分はダストールの議員さんですから、素性はまちがいありません。私が保障します」
『了解した。で、すまないんだが、今からコッチこれるか? ちょっと流石にこの荷物は確認してもらわないと……』
「ええ、もちろん。行きます行きます。で……あの御仁、なーにを送ってきたんですか? どえらい荷物って」
『いや、まーなんだ、今の話で荷物の出先はわかった。ということは、こっちきて自分の目で確かめて欲しい一佐。そうとなれば、今話したら面白くない。ふははははは』
「はああ!? なんですかそれ!」
『じゃ、いいから来いという事で。ははは、頼むぞ』
「へ? あ、将捕? 藤堂さん!?……あちゃ、切れた……なんなんだよ一体……フェットーさんの俺宛荷物って……」
『アノ、ドゥスデ、アホノ事ダ。普通ノ神経デ語レナイトコロガアルカラナ。シラキト同類ナンダロ?』
「いや、そこでハイといったら、俺が白木さんに怒られるわ……って、こりゃどっちにしろ行くしかないわな。シエ、という事でカグヤへ行ってくるわ。って着替えた方がいいな。こんな……はは、大工さんみたいな格好じゃぁな」
『フフ、デハ私モ付キ合オウ。フェットーガラミトナレバ、私ガ行カナイワケニハイクマイ』
と、そんな感じでシンシエ夫妻。連れ添ってカグヤへ転送移動。
多川とシエは迷彩服3型を着て、ラフな格好でやってきた。基本この迷彩服3型は、自衛隊調達名称では『作業服・迷彩』という形になっているので、別に陸自や、特危陸上科の連中だけが着ているわけではない。
「やあ、多川君。すまないね、夫婦水入らずの中」
「藤堂さん……たのんますよ。ってなんか柏木さんもこんな感じでしたな、むはは」
『ン? マア事実上ノ夫婦ミタイナモンダ。イイデハナイカダーリン』
そういうと、わかっててピトと多川にくっつくシエ。
仲の良い話だと諸氏笑いも絶えず。
するとリアッサがやってきて
『シエ、オマエ……フェットート会ッタノカ?』
『アア、マーナ。難儀ナ話ダガ』
『オイオイオイ、ナラ、今カラ見セルモノハ、モウ……クククク……フェットーノ嫌ガラセダナ』
「え゛」となる多川。あやつの執念深さはシエの話聞いても異常なので、ちょっとビビる。
「フフ、まぁ現物見てからだ。では多川一佐、こっちだ」
と、甲板下の格納庫に向かう諸氏。
なんで格納庫なんだと、悪寒がする多川……シエは悪寒はしないが、あやつのヤラカシパターンを幾つか頭の中で想定してみたり。
で……
「これだよ一佐……」
とブツを見せられる多川……
おそらく効果音が鳴るなら、『ドンデンドンデンドンデン』という音だろう。
その眼前にあるは……
『F-15C』の『ようなもの』だった……
口ポカンで、なんじゃこら……と唖然茫然とする多川。
シエも艶やかに唇てからせて、ポカンとそれを見る……
確かにそれは、F-15だった。いや、F-15に似た何かだった。
なぜに「何か」か……それは、まずは、どういう了見か複座になっている事。しかも前部座席は、一般戦闘機のコクピット様式で、後部コクピットはSMS様式になっている……まあ大体誰が乗るかという前提は、そういうことなのだろう。
で、次に異様なのがエンジンだ。
エンジンが、ターボジェットではなく、斥力発生機関になっていたり。しかも、後部のノズル状の出力装置から、指向性の高い拡散、収縮自在の斥力波動が生成される仕組みになっている。
まだある……エアインテーク部分にも、謎のスリット上構造物が、縦に何層も重なって装備されており、シエが言うには、明らかにこれは進行方向の空間障害物を吹き飛ばすディフレクター装置だと仰る。
そんな斥力推力装置付いてる割には……飛行基本原理は……揚力で飛ぶらしい……
「なんでこんな装備付けてるのに、揚力なんだよっ! 何考えてんだフェットー……いや、ダストールの技術者は!」
そりゃアンタ。神聖なる「発達過程文明」様の飛行機様を研究した結果ですぜと、多分ダストール人なら言うだろう。
で、更に更に……無論斥力エンジンはVTOL対応で、揚力で飛ぶ『翼』意味あんのかよという構造。おまけに、宇宙空間でも使用できるらしい……そりゃ普通できるわなと思う多川。
更に更に更に……ヴァズラーの機能も参考に織り込まれており、主翼下のパイロン状のデバイスが変形してマニピュレータにな……
「あー! わかった、わーった。もういい! フェットーの野郎! なんなんだよこんなもの送り付けてきて!」
『ア、ダーリン。座席ニコンナモノガ挟ンデアッタゾ……』
「え? 何? ありゃ、これメッセージカードじゃん……なになに……」
【 タガワ大使。ワスレモノダ 】
「…………ハァ~~あの人は……」
このF-15のようなもの。なんでもかの多川が乗ってたF-15C-HMを、ダストールの技術者があれから徹底的に分析した後のなれの果てだという話。
なぜにヴァズラーが負けたかとか。この揚力型機動兵器がなんであんな機動ができるかとか。んなことを徹底的に調べ上げて『ぼくのかんがえた、えふじゅうご』になり果てた魔改造ならぬ異次元改造機が、このF-15のようなものである。
しかも……多川個人に贈られてきたので、書面上は、多川の私物になる……
「どーーーすんのこんなの……」
『サア? タダ言エルノハ、ダーリンハ、フェットーニ気ニ入ラレタトイウコトダ』
「んじゃ……またシエを総統にする陰謀が……」
『ナイトハ……イエンナ……ハァ……』
「あの人、二度と俺達の前に姿現さないんじゃなかったのかよう……」
『マア、姿ミセナクテモ、デキルコトハアルワネ……フゥ……』
こりゃ大変だと頭抱えるシンシエコンビ。
藤堂やリアッサは、何の話だと追及の体制である。もちろん笑い顔で。
でもなんというか、ベイルやガッシュ夫妻の来日も近日中にある中、これも国交に交流かと思えばいいかと納得もする二人。だが、柏木とフェルが、また大変になるぞと、国会議事堂の方を向いて、合掌して拝んだり。
後にこのF-15のようなもの。流石に多川個人で所有なんてできないので、ヤル研に預けることにした。
ヤル研の斜めう……いや、闘争心高き技術者は、この異次元改造のF-15を見て、燃え上がる……そのまま焼死しろという話もあるが……
F-2HMもこんな風にしてやるとさっそくダストールヲタ……技術者の腕前を解析するヤル研諸氏。
ヤル研内の愛称は、この機体を『F-15HMSCダストールビルド』と呼んでいる。HMSCの意味は「ハイパーマニューバースタークルーザー」といった意味だそうだ。
なんか結果的に、ヤル研を喜ばせただけではないかという話なシエさんの帰郷。
とはいえ、彼女もなんだかんだで里帰りして良かったと思ったり……色々と過去に決着もつけられた。
そして、最も信頼できるバディに、故郷を見せてやることもできた。
多川が、案外熱いデルンだったのも、良かったと思うシエ。嬉しハズかしい指輪をフェルに発見され、今までの逆襲に転じようとしているフェルさん。
まま、かようにこれまた日常な日々を送るシエと多川のシンシエコンビ。
その後、多川とシエは、ガッシュやルメア、ベイルが訪日する前に、彼らを安心させておこうということで、フェルと柏木の例にならって、先に籍だけでも入れる事にしたそうな。その情報は、柏木達のような政治家ではないので、まだ表には出ていない。なのでネット等々でもまだバレていない。
ベイルやガッシュ夫妻が訪日した時に、ささやかな式を身内と友人知人だけであげようと考えているらしい。
いかんせんシエがフェル達の挙式を見て『アンナノハ、カンベンダ』と言ったとか言わないとか。普通にやろうと二人で決めたそうな。
そうなるとティ連憲章の国籍条項がダストール人には適用されるので、以前申請していた書類の関係もあって、すぐにシエにも日本国籍が発行された。
で、恒例の日本名登録。
シエは、あまり考えなしに『多川しえ』と記入しようとしたところ、多川が
「戦前のバーサンじゃないんだからさあ、ふははは」
と、多川が用意していた漢字名をシエに教えてやった。
そしてその意味を聞いて、大層その名前を気に入ったそうな。無論多川が考えてくれたこの名前がいいという話で登録したのがこれ。
そのシエさんの日本名は……
【 多川 詩愛 】
と相成ったそうな……
銀河連合日本外伝 Age after ― シエの帰郷 ― 『終』




