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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
81/119

銀河連合日本外伝 Age after ― シエの帰郷 ―  第三話

三話で終わらせる予定が、やはり四話ものになりそうですw

あいすみませぬ。


ということでお楽しみ下さい。



 フェットー・ヒル・サーザルというデルン。

 ダストール的な高級トランスポーターに乗り、ロッショ家正面玄関に堂々と付ける。

 トランスポーターは三台。前後のノーマルなデザインのトランスポーターには護衛が乗っているようだ。

 三台あるトランスポータの内、前後を守る二台からは護衛が出てこなかった。

 そりゃ当たり前である。ここは曲がりなりにも国家総統の屋敷だ。そんなところで自分のガードマンなんぞ展開させては無礼千万である。

 それ以前に、総統府官邸に来るならまだしも、自宅に直接車で乗り付けてくるわけであるからして、このフェットーという人物。かなりふてぶてしい人物なのは確かだ。


 真ん中高級黒塗りトランスポーターの扉が、ガルウィングのように開く。

 するとそこから黒いコートを来た痩せ型長身のダストールデルンが降りてくる。

 襟元を整え、顎を前にクイと突き上げ、いかにもな感じのデルンで、確かにシエ主観では、彼女が一番嫌いっぽいタイプの男な感じではある。


 フェットーは、秘書らしきデルンとフリュ従えてロッショ家の玄関をまたごうとすると、執事デンドがその行く手を阻む。

 その行為にフェットーは少しムっとした感じの表情。


「フェットー議員、オハヨウ。直々ニ派閥トップガ総統私邸ヘヤッテ来ルトハ、一体何用カナ?」

「フン。無論ヤルマルティアカラ来タ大使ニ挨拶ヲシニキタノダ。カヨウナ予定ハ、大使ノ予定ニ入ッテイルト聞キオヨンデイルガ?」


 ま、確かにその通りではある。ダストール的な午前中に、多川は政治関係者と挨拶も兼ねた会談をする予定にはなっていた。

 だが、それも総統官邸で行うという事だったのだが、このフェットーはよりにもよって総統私邸にのりこんできたのである。


 そう言うフェットーの言葉に、デンドは後ろを振り向いて、彼を見つめるガッシュの指示を乞う。 ガッシュはコクンと頷くと、デンドは敬礼してフェットーを玄関へ通し、まずはガッシュと対面する。


「総統。イツモ壮健ソウデ何ヨリダ」


 フェットーという男。歳の頃は、見た目三〇歳前後といったところだろうか。シエよりは年上のデルンなようだ。

 

「ウム。オマエモナ、フェットー。デ、今日ハ我ガ家ニ滞在シテイル、ヤルマルティア大使トノ面会デキタトイウコトダガ?」

「アア、ソウダ」

「デハ、ソレナラ、アポ後ニ総統官邸デ面会スルノガ筋ト思ウノダガ?」

「確カニ、ソノ通リダガ、話デハ、ソノヤルマルティア大使ハ、シエノ選ンダデルンダト言ウ話ヲ聞イテナ。ドノヨウナ人物カイチ早ク会ッテミタカッタトイウノモアル」


 案の定、そういうことかと思うガッシュ。

 お目当ては結局のところシエと会うことでもあり、また、多川という男がどんな野郎か見てみたいというのもあるようだ。

 一応彼も、このダストール政界では実力者であり、第一議会議員である。そのような人物が面会を申し入れてきたとなれば、多川も会わないわけにはいくまい。

 これがプライベートの話ならば拒否権もあろうが、今は彼も体裁上は政府特使である。

 多川はデンドの案内を受け、ロッショ邸応接室に姿を現す。

 シエから、彼に対する評価は色々と聞かされているわけだが、とはいえ多川個人としては、彼も一指揮官であり、他者の主観だけを鵜呑みにして人に対峙するわけにはいかない。おまけに今は特使だ。そこはプライベートとは別の話。

 少々作り笑いだが、にこやかにフェットーと対峙する。


『コレハコレハ。ワタシハダストール第一議会議員ニシテ、サルラン同盟ノ、フェットー・ヒル・サーザル ト申ス者。今後トモ見知リオキ願イタイ』


 ダストール式高等敬礼で挨拶をするフェットー。だが、ティ連式握手は求めてこなかった。

 多川もお辞儀敬礼で返し自己紹介。

 サルラン同盟とは、ダストールノ政党である。すなわちこの政党イコール、フェットー派と考えて良い。

 そのあたりも予備知識としてシエからさっき聞いた。


『タガワ特使。イゼイラニオケルヤルマルティア人ノ活躍ハ聞キ及ンデイル。今日ヲモッテ、ヤルマルティアト、ダストールノ良キ日ニナレバ幸イダ』

「そうですな。同感ですフェットー閣下。今後共よろしくお願い申し上げます」


 フェットーは顔はにこやかではあるものの、その目は多川の全身を観察するような視線。

 

『トコロデ、タガワ特使。オマエト一緒ニ、シエガ帰国シタトイウ話ダガ』


 多川相手に、初めて会ったヤツからいきなり「オマエ」扱いではあるが、ダストールでは普通のことなので、ままそこは気にせずではある。それでもシエやガッシュは気を利かせて「キミ」やら「アナタ」と言い換えてくれているが。

 で、この一言からして、フェットーの本来の目的は、という話だ。

 それにそう言われては、彼女がここにいることはもうわかっているので、呼ばないわけにもいかないわけで、多川がシエを呼ぼうとしたところ、シエの方から姿を表した。

 その服装。先程は部屋着で朝食とっていたが、キッチリWAFの礼服である。


 コツコツと靴の音鳴らし、モンローウォークで登場。

 ニコリともせず、腕を組んでフェットーの前に出る。そしてチラと多川の顔を見る。

 多川は小さく頷く。

 フェットーが来る前に、多川は「自分は客観者で、まがりなりにも特派大使だから、とりあえずシエと相手さんの話を聞かせてもらう。プライベートは別にして仕事上に支障がなければ、シエの感情と事を同じくするとは限らないから、あらかじめそのつもりでいてくれ」とシエには言っていた。

 それはそうである。多川もシエもガキではない。特使に会いに来た相手国の重要人物相手に数十周期前の怨念なんぞで話など出来はしない。おまけに多川にはわからない話だ。


 シエの姿を見ると、フェットーは笑みを浮かべて、彼女に近づく。

 多川はその姿を目で追う。


『シエ。久シイナ』


 フェットーは手を差し出し、彼女にティ連式の握手を求める。ここでその握手に応じないという手もシエにはあった。だが、彼女も今は特派大使多川の護衛であり、参謀という手前もある。そこはかなり不本意ながら応じたが、その顔に笑顔はなし……フェットーの手に自分の手をかざすと、シエは視線を多川に向ける。

 多川は微笑し、コクンと頷く。それでいいと。

 するとシエは、握手を外した途端、プイと視線をフェットーから外し、多川の側に近づいて、休めの姿勢を取る。


『フゥ……シエ。久方ブリニ会ッタトイウノニ、会話モナシカ。ツレナイナ』


 フェットーは苦笑いでシエに話す。

 するとシエも重い口を無理からに開き……


『フェットー議員。何カ勘違イシテイルヨウダガ、今回ノ私ハ、特派大使、タガワ・シンジ殿ノ護衛官ダ。今ノ私ハ、ヤルマルティア国軍事組織所属ノ立場ニアル。ソレ以上デモナケレバ、ソレ以下デモナイ。相応ノ対応ヲ願イタイ』

『フッ……ナルホドナ……ワカッタ。ダガシエ。一ツ聞イテ欲シイ』

『……』

『私トテ、アレカラモウ十幾周期。コドモデハナイ。相応ノ齢ハ経タ。アノ時ノ決着ヲツケヨウナドトハ言ワンヨ』

『……』


 フェットーの言葉に何も反応しないシエ。


『フゥ……マァイイカ……』と、フェットーはそういうと、多川に視線を向け『デハ、タガワ特使。トリアエズ挨拶マデ。マタ後程官邸デ話セタラ幸イダ』

「いえ、こちらこそ。どうもありがとうございます」

『ガッシュ総統。朝早クカラ、迷惑ヲカケタヨウダ』

『イヤ、ナンノ構イモデキズニ、スマナイナ』


 するとフェットーは、そういうと、コートのような着衣をひるがえし、玄関を出て行った……

 多川はその場で見送るのも礼を失するということで、トランスポーターが出立するまで玄関へ。

 シエも体裁上一応多川に付き合うが、だからどうしたという表情だ。目が別のところを見ている。


 で、応接室に戻る諸氏。

 頭をポリポリかく多川。


「なぁ……シエ……」

『ナンダ? ダーリン』

「ん~……あのさぁ……あのフェットーという議員さんか? 一体何が問題なんだ?」

『ドウイウコトダ? ダーリン』

「いや、シエがあまりにさっき嫌そうにしてたから、もっといけ好かない奴かと思ったんだが、まぁ? 初めて会ったってのもあるんだろうけど、そんなに変な人だとは思えないんだがな」

『私ガ軍ヘ逃ゲテモカ?』

「あ、いや、そこんところの昔話のあたりはなぁ……わかんないけど、あれから随分経ったということだし、今の話ってところでは、どうなんだよ。久しぶりの印象は」

 すると、シエもフゥと吐息を一つ漏らすと、ソファーにポソっと腰掛けて


『確カニ、ソウ言ワレルト、私モフェットーモ、モウ子供デハナイ。アノ頃トハ違ウノダロウ。ダガモシソウナラ、キチント官邸デ、ダーリンニ会エバイイシ、アンナ高級ナトランスポーターデ、シカモ護衛付キデ総統私邸ニ乗リ込ンデクル道理ガアルカトイウ話ダ。普通デハナカロウ』

「ああ、言われれば確かにそうだな」


 シエは、そういう事を何も考えずに行う彼に対し、なんとかならなものかと話す。オマケにそういった所作行為を、礼儀正しいと思い込んでいるフシがあるのだそうな。悪いこととも思っていないらしい。


 昔、シエが決着をつけられなかったとき、決着を付けないことをシエのためだと思い込んでいるフシがコヤツにはあったという。実際、もし本気でやれば、負けていたかもしれない試合もあったのだという。

 それを引き分けにされるということは、当時の血気盛んなシエにとってはワザと勝たないでやっているという感じでバカにされているようにも見え、更にはそれを何回もやられたら、いい加減キレもするし気色が悪い。ストーカーと思われても仕方がない。

 で、更に決定的なのが、フェットーという男。そういう自覚がない。

 普通ならどんな鈍感でも、「あの時は自分から逃げた、嫌われている」と普通自覚しそうなもので、まま官邸でたまたま会ったのを演出して軽く一声かける程度のことはあろうものと思うが、まさか総統邸宅に政党派閥代表をかかげてやってくるとは、どんだけの神経なのだと、シエは呆れるように語る。

 するとガッシュも


『アノデルン。私ニ「シエノ選ンダデルンガドウイウ人物カ見テミタイ』ナドト、堂々ト言イオッタカラナ。ソノ時点デ、シントノ面会ナド、口実ニスギントイウコトダ』


 コクコクと頷く多川。なるほどねと。


「だけど、詳しい事わからないですが、それでもそのシエの出した課題というか、ハハ、制裁というかは、言ってみれば若かりし日のなんとやらとかいうのなんだろ?」

『ウ……マア、確カニソレヲ言ワレルト私モツライガ……確カニ、フェットーノ奴デハナイガ、今更イイ年シテ決闘トイウコトモナイダロウトハ思ウガナ』

「だよな。で、お義父さん。あのフェットーさん? 未だ独身なわけで?」

『アアソウダ。コレトイッテ浮ツイタ話モ聞カンナ』

「なるほど……で、敵情視察か……」

『敵情視察?』


 シエが多川の言葉に訝しがる顔をする。


「ん? あ、いや、そんなところかなってね。よくはわからないけどな」


 と、相手が何を考えてるかなどわかるわけもなく、今更シエに彼氏認定テストの続きというわけでもなかろうという感じで、とりあえず放っておこうという話に相成る。

 実際、もしかの若かりしシエさんJK時代なイメージで腕の立つフェットーが今挑戦してきても、軍で更にパワーアップしたキャプテン・ウィッチのシエさんに、流石の奴もかなう訳もない。

 時にシエが軍へ逃げた時の精神年齢は、約一八歳ぐらいの話。フェットーでも二〇代そこそこ。

 流石にそんな時代と同列な話はできはしない。


『スマナイナ、シン。朝カラ妙ナ事ニナッテシマッタ』

『ソウネ。マサカ、アレガ来ルトハ思ッテモミナカッタ』

『難儀ナ話ダッタナ。義兄上』


 ガッシュにルメア。ベイルが皆、同情してくれる。


『トハイエ、結局ハ私ノ事ニ、ダーリンヲ巻キ込ンデシマッタ。次ニアノドゥスガ現レタ時ハ、シッカリトダーリントノ関係ヲ話スヨ』

「ああ、その事なんだけどさシエ……」

『ン? ナニ?』

「……あ、いや、やっぱいいや。またあとで」

『ム~ ナンナノダシン。ソレハ流石ニ思ワセブリ攻撃ダゾ』

「イヤイヤイヤ、ごめん。なんでもないんだ。今度話す。悪い話じゃない。気にするな」

『ソウカ? ナラカマワナイガ』

 

 シエは多川を信頼しきっているので、彼女としては「悪い話ではない」といえば「悪い話ではない」のだ。それ以上のことは気にしないのがシエ流のコミニュケーションである。


 まま、そんな騒々しい朝ではあったが、そろそろ良い時間なので諸氏つるんで出勤という具合になる。

 ガッシュと多川。そしてシエは共に連れ立ってガッシュのトランスポーターで総統官邸へ。

 ルメアは、議会の方へ。

 ベイルは学校へと、そんなところ。

 総統官邸へ到着した多川は、そりゃもう待ち受ける政府要人に、諸団体の幹部等々から面会を希望され、もう彼の人生でここまで人と会うのかというぐらいのダストール人と握手に握手であった。

 やはり彼は自衛隊員であるということがもう既に知られるところとなっているので、この特派大使さん。やはり武官と見られているようで、思った通り軍人系の面会希望者が多かったという話。


 で、やっぱり多川との面会というだけでは終わるわけはなく、そこはシエも後ろに控え、ロッショ家がらみな旧友に知人もやってくるわけで、別室でヤイヤイと話に花を咲かせていたようだ。

 で、件のシエさん争奪戦の一角を担っていたザンド家にバース家の御曹子たちもやってきたようで、かつては血祭りに挙げられた両家御曹子デルンも、今や子持ちの父親になっており、あの時のことは青春の思い出とばかりに、妻子を連れてシエに会いに来ていたようだ。


 と、そんな中でも、特に弱っちかったというバース家の御曹子『ザグラ・シャガル・バース』第一議会議員さん。


『マア、昔ハ色々トアッタガ、アレモオマエノ家ガ、フリュ家長ノ予定ニナルトコロダッタトイウノモ、理由ニアルノダカラナ。ソコハ理解シロヨ』

『ダカラ私ハ防衛総省ニ行ッタノダヨ。連合防衛総省ハ、アラユル主権カラ独立シタ中立組織ダ。イクラオマエ達ガ派閥ノ力ヲ使ッテモ手ヲ出センダロウシナ。ムハハハ』

『何ヲ言ッテイルノダカ。私ナドハ、オマエノ試験デ真ッ先ニボロボロニサレタワ。ソンナノ、軍ニ逃ゲナクテモ、ドウニデモナッタダロウ……実際ノトコロハ、アノ、フェットーナンダロ?』

『フゥ……マァ、普通バレルヨナ……』

『アタリマエダ。ザンドノトモ話シタガ、オマエトモアロウモノガ、ドウシタトイウノダ?』

『……ナゼカヨクワカランガ、私モ相応ニ自分ノ実力ヲ自覚シテイルガ……アノ時ハドウニモ奴ニ勝テナカッタ。ナゼダロウナァ……』


 そうこうしていると、多川も手が空いたようで、シエの側に寄ってきた。


『ア、ダーリン。手ガアイタノカ?』


 そういうと、シエはザグラの前で、多川の腕を自分の腕に巻きつけ、ちょっとみせつけるように彼にピトっとくっつく。


「ああ、やっとね……柏木さんの苦労が身にしみてわかるよ。俺は政治家向きじゃないな。ははは……あ、で、こちらは?」

『ウム、前ニ話シタ、例ノロッショ家モ含メタ所謂三大派閥トイワレテイル、バース家ノ家長デ……』


 シエは、ザグラを色々解説付きで紹介した。


「貴方が……これは、お初にお目にかかります。私は日本国特派大使の多川信次と申します」

『イヤ、恐縮ダ。タガワ大使。イヤハヤ、オマ……ゴホ。貴殿ト面会スルノニ如何程時間ガカカルノカ計リカネテイタノデナ。先ニ因縁ノフリュト話ヲサセテモラッテイタ』

「因縁ですか。ははは……にしては、仲が良いようですが」

『ムハハ、ソノ件ハモウ、オ互イ昔ノ話ダ。私モ妻子ノイル身ナノデナ。ソレハソウト、貴殿ハ、シエカラ「テスタール」サレタトイウ話ダガ』

「あ、いや……ハイ……」

『フハハ、ソレハ羨マシイカギリダナ。アノ殺人試験ヲウケナクテヨカッタノダカラナ』


 そうザグラがいうと、シエは


『オマエラガシツコイカラ、アアナッタノダ。オマエタチノ自業自得トイッショニスルナ』


 シエが少し頬染めながらそんな話をする。

 かようにザグラのバース家やザンド家とは、御三家ということもあり、互いに切磋琢磨してきたこともあって、ライバルではあるが、かように交流も分別もあるわけで、家同士の情報交換も盛んである。

 だがフェットーの一派は、完全な新興勢力であり、日本の政治用語で言えば所謂『革新派』だ。

 ザグラも、今日の朝にフェットーがガッシュ邸に乗り込んでいったのは知っていると話す。

 やはり彼もそこは少し非常識なのではないかと言う。


『ナァ、ザグラ。マサカ今更フェットーモ、私ヲ巡ッテ、ダーリント決闘トイウワケデモアルマイ。何カ気ガツイタコトハナイカ?』

『コノ件ニ関シテハ、サッパリダ。タダ……』

『タダ?』

『ウム……タガワ大使ノ前デコウイウ事ヲ言ウノハドウカトオモウノダガ、アノフェットーハ、イゼイラト、ヤルマルティアノ現状ノ外交権ヲアマリ快ク思ッテイナイヨウデナ』

「え?……」


 そのザグラの情報に驚くシエと多川。

 話では、フェットーは事あるごとに、日本国とイゼイラの外交権を、日本が連合に加盟した時点で中止させ、各国の自由外交状態に戻すべきだと訴えていたらしい。

 そして日本国に、地球にある他の地域国家との仲介を積極的に推進すべきと進言するべきだとも。


「……」

『……』


 ザグラのもたらした情報に驚き、沈黙する二人。なぜそんな事を要求するのかと不思議がる。

 イゼイラが持つ日本との交渉権は、ティ連憲章としても期限付きで、日本との外交的決着がなされた場合。つまり今回の事案で言えば、連合加盟を果たして以降、二周期で期限が切れ、他の連合各国も自由に日本との外交交渉を行えることになっている。

 それを待てば良いだけの話なので、わざわざダストール議会で問題にしなければならないほどの事ではないのが実際のところ。それにこういう交渉権は、日本に限らず他の新規外交交渉国相手でも、ルールは同じなので、こんなことに疑義を申し立てるフェットーは何を考えているんだと思うわけである。

 なぜなら、外交交渉だけでいえば、イゼイラとハムールはもっと……それこそ地球時間で言えば十年単位の交渉を未だに続けている。未だに決着がつかないので、交渉期限適用がなされないままだ。こういう事例があるだけに、何故に日本との外交交渉に文句言うのかと。


 フェットーという男。ザグラの話で、日本とイゼイラに対して何やら異がある人物だという事はわかった。これは結構重要な情報だと感じる多川。

 一見すると、ティ連内の一国家にありがちな普通の外交的な懸案事項でワケあり案件に聞こえる話である。

 恐らくガッシュも知っているのだろうが、そんな風に考えて、あえて話題にもしないのだろうと思う。

 ただ、当の関係者であるシエと多川の耳を通した主観で聞けば、そこらへんのありがちなワケあり案件という感じで聞き捨てるということはできない。


 その後、ままこれがザグラ的に多川との面会、会談とすることができたので、若かりし日の思い出も満喫できたこともあって満足げに帰っていった。

 その姿を見送るシエと多川……


『ダーリン……』

「ああ、わかってる……恐らく、この件だな……」

『アア。タダ、ニホントノ独自外交ガ構築デキルカデキナイカデ……トイウノハ、イマイチインパクトガ薄イ。ソンナノハ、別段普通ニ政治トシテハ当タリ前ニ主張シテモイイ話ダ』

「うん……その先の話があれば……それが本命というところかな……でも、わかんねーな。そこまでは」


 多川の言葉にコクコクと頷くシエ。

 イゼイラとティ連本部。そして日本はすべて万事喜ばしく国交ができ、連合加盟を果たせたが、確かにイゼイラ以外の国となれば、こういう不平不満に疑義を持つものも普通に出てくるかということかと。

 しかもその相手は、異性人的な所謂『革新派』的政治家だ……どこの世界でも、革新派といわれる連中はメンドクサイものなのかなと…… 


 元々ダストール人は、シエやザグラの話を聞いていてもわかるとおり、家柄というものに結構うるさい保守的な種族なのである。なので、所謂新入りティ連国家である日本人の多川をおおらかに受け入れるロッショ家の家風は、割とダストールでは珍しい方かもしれない。

 もとより、日本は柏木のおかげでもうティ連国家全体の大恩ある国として知れわたっているので、そのあたりは普通の新入り国家とは違うわけだが。


「んじゃ、シエもダストール女性家長のしきたりをスットばして軍へトンズラしたって点では、ある意味革新派的なのかもしれないな、ははは」

『何ヲイウカダーリン。ソレハ、ベイルガイタカラ出来タノダ。私トテ、ソノグライノ分別ハアル』

「じゃぁ、もしベイル君がいなかったら……」

『アア……婿養子ノ話。受ケテイタカモシレンナ。ロッショノ血ヲ絶ヤスワケニハイカン……』


 そうかと思う多川。だから彼女はベイルに丸投げした自分を情けない女だと責めていたのだ。

 なので日本人から見れば、異星人でしかもダークヒロイン扱いされている自分を選んでくれた多川の事を、シエは大好きなのだ。

 

 と、そんな四方山話も出るぐらいには一段落ついた総統官邸。ガッシュが気を利かせて二人を呼びに来てくれる。


『シン、シエ。次ノ予定時間ダガ……』


 タブレットボードを造成させて、秘書みたいなことをするガッシュ。


「あぁあぁ、お義父さん! そんな、総統閣下がそんなことしていただかなくてもいいですから!」

『オ? ソウカ?』


 結構好きでやっていたりするガッシュ。やはりこの親あってこの娘アリな感じ。あんまりそんなのは気にしないというところだろう。なので、実はガッシュ政権は国民の支持率七〇パーセント以上と、大した人気を誇っている。

  

 ということで、次の予定へと移る多川。結構スケジュール一杯一杯で忙しかったりする。

 トランスポーターに乗って、予定地へ飛ぶ二人。


「……さてさて、次が俺達本職の本番だな」


 手もみして張り切る多川。


『ウム、ソウダナ。ヤハリ私モ政治向キデハナイ。コウイウ方ガヤッテテ楽シイ』

「はは、そこんところは同意だ。俺もやっぱ操縦桿握っている方がいいよ」


 という話なわけで、例のダストール次期新型機動兵器『マージェン・ツァーレ』所謂日本名『15式多目的機動兵器・旭龍』の指導、デモンストレーションのために、ダストール国防軍の基地へ行くというわけである。

 

 程なくトランスポーターは、ダストール国防軍管轄下にあるティ連防衛総省ハンカー恒星系方面軍の基地に入る。

 基地にはやはりヤルバーンと日本から大物が来るという事で、大勢の兵士がみな整列して多川達を待ち構えていた。

 これで柏木なら、「いやいやいやハハハ」となるのだろうが、多川は一応まがりなりにも基地副司令もやったこともある大ベテランだ。そこんところは素人ではない。

 日米との演習や会合など、かような雰囲気は幾度となく経験済みである。

 多川とシエがトランスポーターを降りると、ハンカー恒星系方面軍管区司令部の司令官が出迎えにやってくる。

 二人は司令と挨拶。二言三言にこやかに声をかけあい、司令室でしばし会談。

 そして、あとはシエに任せるという事で、司令はシエに全権委任する形で、件の任務を実行する。


「……ってシエ。すごいな。副司令権限で今回の任務を任されるなんて」

『ナニヲ言ッテイルノダ。私ハコレデモ、ティ連防衛総省ハンカ―恒星系方面軍ノ、特務隊総括軍団ノ、イルカーシェルダゾ。ソレグライノ権限ハ持ッテイル』


 そう。忘れてはならないのは、シエさん。ヤルバーンの自治局局長で、後に特危自衛隊へ出向というような感じになっているが、よくよく考えると、ヤルバーン自治局に所属していたこと自体がそもそも出向であって、この『ティ連防衛総省ハンカー恒星系方面軍特務隊総括軍団』がシエの正式所属部隊である。

 なので、特危で一佐に昇格し、日本がティ連に加盟したこともあってその関係でティ連防衛総省でもシエは中佐から大佐に昇格。大佐と言えば基地司令や副司令。海軍なら巡洋艦や空母の艦長を任されるほどエライ人物なのであって、かようにこの任務の一切を取り仕切る事ができるという寸法であった。

 しかも今回は多川が特危自衛隊一佐。つまり、ティ連アマノガワ銀河タイヨウ恒星系方面軍司令部の代わりになる組織の大佐で、しかも特派大使……というか武官でガッシュから国賓待遇の章も、もらってしまているわけで……彼も実はメチャクチャ偉い人だったりする。


 シエと多川は、兵士に案内され、機動兵器格納庫へ。

 雰囲気的には、何かSF映画か、ヒーローものの機動兵器基地のような雰囲気の場所に連れてこられる。

 すると数十人のパイロットと、日本とヤルバーンが、ティ連世界と地球に誇る機動兵器『旭龍』ことマージェンツァーレ・マスプロダクト型二機と、教練複座型一機。そしてヴァズラー・ダストールモデルが数機見えた。

 なんとなく心躍る多川。子供のような感覚になる。で、そんな機体群を見回していると……


「な! まさか! オイオイオイオイ!」


 なんと、一機のF-15イーグル戦闘機が、ダストール国軍の国籍マークを付けて、ポヨンと駐機させてあった。

 思わずF-15に駆け寄り、機体をスリスリ触る多川。

 

「ど、どうしたんだよコレ……見事なイーグルじゃないか……新品同様だ。ハイクァーンで造ったのか?」


 流石のシエも驚いたようで


『F-2HMナラ話ハワカルガ、特危デモ、いーぐるハ運用シテイナイゾ。ドウイウコトダ?』


 特危に所属して以降、地球の軍事力にも詳しくなったシエ。地球製兵器の名称や種別も頭の中に入っている。

 部下に疑問を呈すると、どうやらサマルカからデータをもらったという話だそうな。

 で、地球世界の機動機械研究のためという事で、造成してみたという話。

 サマルカさん。昨今米国と例のプロジェクトがらみの某で仲が良いらしく、色々と米軍兵器のデータももらっているそうである。


「なるほど、じゃ『J』仕様じゃないんだ。ということは『C』型だな……どうせならF-22のデータぐらいくれって言えばいいのに。ははは」


 そりゃそうだ。米軍さんがサマルカさんからもらったデータに比べれば、F-22の機体データなんざ、と思うのは普通だろう。

 サマルカさんもティ連構成国だ。発達過程文明のこういったデータは欲しいところ。かようなデータもティ連本部に送っているのだという。

 シエの部下が言うには、このフィブニー効果で飛行する機動兵器の事も教えてほしいということで、サマルカにお願いして、データもらって今日のためにわざわざハイクァーンで作って保管しておいたという話なのだそうな。

 

「いやあ、この機体。元々俺が使ってた機体だからなぁ。少し仕様が違うけど」

『嬉シソウダナ。シン』

「まあね。確かにヴァズラーや旭光Ⅱのようなドローン型機動兵器とは比較できないけど、俺はこの機体が大好きでね」

『コノ機動兵器ヲ造成シタノモ、所謂、発達過程文明ノ技術ヲ学ビタイトイウ真摯ナ兵達ノ欲求ダロウ。ダーリン。スマナイガ、ソノアタリヲ汲ンデ、ソウイッタトコロモ教エテヤッテホシイ。コレバカリハ私モ生徒ニナルシカナイノデナ。ハハハ』

「ラジャーに了解だよシエ。いくらでも教えてやるよ。こりゃいい指導任務になりそうだな」


 シエもダーリンの水を得た魚のような顔にニコニコと頷く。

 シエの部下達も、こんな顔をするシエを始めてみたのでびっくり仰天で、口をポっとさせてシエを眺めていた。


 で、ままそんな言ってみればダストール軍の、多川歓迎サプライズとでもいうべきF-15でのおもてなしはとりあえずは置いといて、現在ティ連各国で絶賛導入検討中の旭龍――マージェン・ツァーレ――の教練に入る。

 教練とはいっても、ズブの素人を教えるわけではない。一応に彼らは旭龍の操縦はできるのだ。

 それぐらいのマニュアルはあるし、オートパイロットも含めたシステムサポートでマニュアル操縦の訓練も出来る。

 ただ、ここでポイントなのが、このマニュアル操縦の概念だ。

 彼らティ連のマニュアル操縦とは、地球的なイメージで言えば、半オートパイロットに相当する。

 所謂、例えるなら『馬と人間』の関係になる。

 人間は馬に乗る時、馬を操縦しているわけではない。馬に『指示』をしているのだ。

 なので、馬は人間がまっすぐに走れとムチを打っても、途中で橋が崩れた谷があれば、その前で自律的に停止する。

 それと同じで、ティ連のヴァズラーにしてもトランスポーターにしてもそうだが、パイロットは「攻撃方法」「移動方向、手段」等を指示しているだけの話で、操縦というのとは違うものなのだ。

 所謂「セミオート・モーションセレクト操縦方式(SMS方式)」とでも言えばよいか。


 では、そんな操縦方法なら別に今更教練なんぞいらないではないかと思うが……そこはシエ大佐と多川一佐である。

 シエはこの半オートのような操縦方法があまり好きではなく、いつも所謂『マスタースレイブ』方式に近い、自分の挙動をロボットスーツのように直接機体に反映させる操縦方式を好み、多川は多川で、F-15に似た航空機をエミュレーションするような操縦方式を好んで使用するため、所謂SMS操縦方式と、決定的に戦闘機動が違うのである。

 SMS方式の操縦方法も確かに悪くはない。実際多川は機動戦をマスタースレーブでやったことないので、機動戦をやれと言われれば、SMS方式を使うし、シエも巡航戦闘をやれと言われれば、本来ロボットスーツあがりの操縦方法が得意なシエさんなので、SMS方式で巡航戦闘を行う。

 ただ、二人はタンデムで機体に乗り、かようにバディで同士で機体を操っていると、このSMS方式の操縦にある種の決定的な弱点を見てしまった。

 所謂それが発達過程文明のベテランパイロット多川がシエに指摘したところで、シエが多川とタンデムで好んで乗るようになった理由でもあり……それがシエさんがセルメント的にデレた理由でもあったり……いやはや。


 ……と、かような話をシエは後ろで腕組んで部下に話す。もちろんテスタールな話の部分はカットした。

 無論、今教練を受けているパイロット達も、恐らくそういうこともあるのだろうと感じ、F-15を造って待ち構えていたわけである。

 つまり、このティ連文明圏では、航空機の歴史が『 な い 』

 しいていえば、イゼイラ人やハムール人が鳥人種で、過去の歴史で原始的な航空技術を本能的に持ってたぐらいなもので、それでも近代的な航空力学に基づく航空技術史がない。

 なので当然、多川の使うような空戦技術を彼らは持っていない。

 シエの多川に惚れた要素の一つに、かの太陽系外縁天体でのガーグ・デーラ戦で見せた彼の空間戦闘技術があって、シエも実は暇を見ては多川にかような航空機の操縦技術を教えてもらっている。


「とまあ、そんな感じだ。で、一度シエ大佐と私と二手に分かれて、地球の航空機的な操縦機動と、シエ大佐のロボットスーツ的な戦闘機動を教えたいと思うのだが……」


 するとシエがちょっと待ったという感じで


『イヤ、ダーリン。ソノろぼっとすーつ的ナ操縦方法ハオシエナクテモイイゾ』

「え? なんでだ?」

『アノ操縦方法ハ、私ガ「特務総括軍団」出身ダカラデキル操縦方法ダ。ニホン人ニワカリヤスク言ウナラ、私ガ「陸軍特殊部隊」ノロボットスーツ使イダカラデキル操縦方法デ、コイツラハ、空間軍ノパイロットダ』

「ああ、なるほど、言いたいことわかった。つまり俺と同じだから、陸軍、というか陸戦ベースの格闘戦を空軍パイロットに教えてたら大変だというこっちゃな?」

『ソウイウコトダ。ソレニ、ダーリンノ、フィブニー機動兵器的ナ技術ハ、私モ教エテ欲シイ。ナノデ、今日ハ私モ生徒デアリマスヨ』

「なんだよシエ、その敬語は。ハハハ」


 シエのおどけた態度に部下達もつられて笑ったり。

 ということで諸氏、各々の機体に向かって歩く。

 ティ連軍的には、所謂、滑走路の概念がないので、駐機してあるところはダダっぴろいのは広いのだが、滑走路的な白線が引かれたような感じではないのでF-15を造ってくれたのはいいが、どうやって飛ばすんだろと思ったり。


(あれかな? やっぱりトラクターフィールドでスっ飛ばすんかいな?)


 多分そうだろうとおもう。

 

 そんな感じで少し離れた機体に到着すると……先を歩くシエが足を止めた。


「?」


 おっとどうしたという感じでシエを見ると……彼女が険しい顔をしている。

 その眉間に皺を寄せた視線の先を見ると……


 なんと、フェットーが腕を組んで、訓練用ヴァズラーの前で立っているではないか。


「フェットーさ……」


 多川がそう言おうとすると、シエが多川の胸に掌を当てて制し


『フェットー……ココハ軍ノ施設ダゾ。何ヲシニキタ。モシ個人的ナ要件ナドトイウノナラ、冗談デハスマンゾ』

『フ……シエヨ。マァソンナ顔ヲスルナ。私ハ、ダストール第一議会議員デ、国策広報委員会ノ委員長ダ。仕事ヲ作レバ、コンナトコロニモ来ルコトグライハデキル』

『……』

『ソレニ、私モ一応、空間軍ノ退役将校ダ。ソノアタリハ顔デドウニデモナルヨ』


 フゥとため息をつくシエ。


『デ? 何ノ用ダ。オマエモ、ダーリント私ノ教練講義ヲ受ケタイトイウワケデモアルマイ』

『フ……「ダーリン」カ……確カ、ハルマ語デ、心ノ底カラ愛スル者ニ使ウ愛称ダソウダナ』

『アアソウダ。ソレガドウシタ。モシマタ勝負デモシタイトイウノナラ、相手ニナッテヤ……』


 そう言おうとした時。多川がシエの肩を取る。


『ダーリン……』


 多川は「まぁまぁ」という目線で小刻みに頷きながら、シエの肩をポンポン叩く

 そして耳元で……


「(シエ。あまり内輪の揉め事を無関係の人間に見せるもんじゃない。みんなを連れて、ウォーミングアップでも頼むよ……ま。俺が話を聞いてみる)」

『(ア、アア……ワ、ワカッタ)』


 そう言うとシエは部下を連れて別の場所へ行ってしまう。

 部下たちは何事かと訝しがるが、命令は絶対である。シエに連れられて別の場所へ。

 シエは少し振り返り、ちょっと心配そうな顔をするが、伴侶を信頼することにする。


 彼女が部下を連れてとりあえずこの場を離れたことを確認すると、多川はフェットーに視線を戻し、口調を変えて彼と対峙する。


「さて、フェットーさん。これでここには私とアンタだけだ」

『……』


 そう多川が言うと、彼は頭をボリボリかいて


「まぁなんというかねぇ……お宅とシエの話。実は地球にいる頃からまま、自衛隊や、ヤルバーン州軍でも色々話には出ててね。なんでも有名な話ってことじゃないですか。でもまあね、地球でも色々ありましてね。結果、シエと私がこんな風になって、親父さんに結果をご報告ってな話で、ありがちな里帰りなわけなんだが……今日の朝までの行為なら、過去の残影が、青春時代のかがり火かってな話で寛容にもなれるが、こういう状況になると……私も立場を超えてお宅と話をせなならんってな感じにならざるを得ませんが、どうでしょうかね?」

『……』

「彼女から聞きましたけど、まさかまた昔みたいな格闘戦でもやらかして、決着つけようとか、で、勝ったら私と別れろとか、そんなアホみたいな事言いにこんなとこまで来たわけじゃないんでしょう?」


 そりゃそうだ。もし仮に本当にそうなら、フェットーは相当に命知らずである。

 あの時はどうか知らないが、今やシエは特務総括軍団の幹部である。言ってみれば軍人として殺人のプロだ。さすがに今のフェットーではかなうまいとは思う。


「こんなところまでやってくるというぐらいだ……お宅、一体何が目的だ? 今や日本も連合の一員だ。私も体裁は一応特派大使。アンタはどうもダストールの政策方面で偉いさんみたいだが……お互い言いたいことあるなら、はっきり言い合った方がいいと思うぜ?」


 多川は、まさかとは思うがと思いながらも、無意識に制服のボタンを解いて、ネクタイを緩める。

 その姿を見たフェットーは、腕を組んで、顎に手を当てながら……


『クククク……』


 フェットーは多川の行為が何を意味するか察したようで、軽く手を前に交差させ振る。

 どうやらそういう気はないらしい。


『フフフフ、タガワ大使。誤解シナイデモライタイ。ソンナ気ハ更々ナイヨ』

「?」


 多川は制服の前ボタンを上から二つ外し、カッターの一番上のボタンも外し、ネクタイを緩めたところでそれ以上の行為を止める。


『タダ……一ツ二ツ確認シタイコトガアル。ソノ回答次第デハ、私トシテモ、別ノ方法ヲカンガエネバナラン』

「……で? 確認したいこととは?」

『……タガワ大使。オマエハ、シエトミィアールシタ後、ドウスルツモリナノダ?』

「どうする? それは決まってるだろう。彼女と日本で過ごす。彼女もそれを望んでいる。それだけだ」

『シラベタトコロ、オマエハ両親ニ先立タレテイルノダッタナ』

「ああ、そうだが……アンタには関係のない話だろう」

『タガワ大使……オマエハ、ロッショ家ニ婿養子トシテハイルトイウ選択肢ハナイノカ?』

「は!? な、なんだって!?」


 フェットーの、あまりに意外なその言葉に、顎を突きだして「ハァ?」となる多川。

 で、先の彼の言葉を思い出す。なんでも「国策広報委員会の委員長」だとかなんとか。

 彼はこやつの言葉と、今の会話の流れをしばし目線を横にずらして、ササっと整理してみる。


「フェットーさん。アンタ……もしかしてシエを総統に据えたいのか?」


 すると、フェットーはフっと笑って


『流石ハ、トッキジエイタイノ、イルカーシェル・タガワダ』

「んじゃ、シエに付きまとってるのは……あー、なんというか、失礼なことを言うようだが、昔の何某でというわけではないと?」

『アタリマエダ。ソンナ青春ノ思イ出ヲ、ソコマデヒキヅルツモリナドナイゾ』

「なるほど。まあそうだろうな。だがそれでも少々しつこいんじゃないのかい? 彼女にその気はないんだ」

『ソレデハ困ルノダヨ。コノママデハナ』

「困る?」

『アアソウダ。ソノ理由ハ、オマエタチ、ヤルマルティア人モ無関係デハナイ』


 ふうむと考え込む多川。

 彼の役職。なんでも国策広報委員会の委員長だとかなんとか……まるでヨーゼフ・ゲッベルスじゃねーかと思うが、そういう立場の人間が、シエと多川が今後結婚して、多川がシエの婿養子になって、シエが総統選挙に立候補して、総統になってくれたらと、この男は策謀するわけであるからして……


 確かに多川は次男なので、シエの婿養子になっても、別段多川家としては既婚者である兄の一雄もいるので、多川家的には困らない。そこで多川が婿殿になっても、日本人だし、ダストール的な家の権限が乗っ取られたり……ということもない。で、国民にも人気が高く、ティ連的にも実は人気が高いシエが国家総統になったら、ダストールのお株も上がって……コイツの役職的に考えると、対外的な広報効果もそれはすこぶる大というところなのではあろう。


 で、そこで引っかかるのは「俺達日本人も無関係ではない」ときたもんだ。

 なんでそこで日本人が関係してくるんだと思う多川……しっかし、よくそこまで調べてるなと。


『デ、回答ハドウナノダ?』

「もちろんノーだ。そもそも彼女が望んじゃいない」

『フム、デハコノ件ヲ、シエニモ話サセテモラウガ、カマワナイナ?』

「それで、シエを挑発して、勝負挑んでってパターンか? で、こんなところでってな話だと、殴り合いってなわけにもいかないだろうし……さしずめヴァズラーでやり合って、勝った方の言う事を聞けと、そんなところか?」

『……』


 何も話さないフェットー。でもまあ、そんなところだろう。


「といって、この状況からみて、挑発されてるのは俺の方か。フフフ」


 フェットーも笑い、首を少しかしげる。

 ダストール人という種族。以前シャルリから「とても義理堅い、時には体を張ってくれるいい奴らばかりだが、事を成そうと大きな決心をした時などは、そうとう狡猾な手段で攻めてくる時もある」と聞いた事がある。まさに今、これがそうなのだろうと思う。

 本来なら「俺は日本国大使だ。そんなお前の趣味に近い私闘に、国家の代表でこの星に来た俺が付き合えるわけないだろう」と言い放つところだが、状況がそれをそうさせない。

 つまり、今日のロッショ家訪問のデモンストレーションな一件にしてもそうだが、フェットーの目的はシエではあるものの、それは実のところ二の次で、本来の第一目標は……最初から多川だったのだ。

 

 多川は、少々フェットーとの格闘技を予想した、着崩しの自衛隊礼服ポケットに両手を突っ込み、


「ふぅ……で、何するんだ?」

『ククク。 話ガ早クテ助カル……勝負ノオ題ハ……』


 フェットーは、互いに機動兵器へ搭乗し、時間制限アリの一本勝負で模擬戦をやろうという話だそうだ。んでもって……


『モシ、私ガ勝ッタラ、大使。オマエハロッショ家ヘ婿養子入リスルコトヲ進言シロ。マァ後ノ事ハ、我々モ根回シヲスル。ソシテオマエガ勝ッタラ、今後一切オマエタチノ前ニハ顔ヲ出サン』

「そんなもの俺が、はいわかりましたと言うとでも思ってるのか?……というか、アンタ、そこまでして一体何を考えてるんだ?」

『フ、普通ナラソウイウカ。ナラバ……ソノ理由ヲオシエテヤロウ』



 ……フェットー国策広報委員会委員長が、なぜに多川とシエにここまで執着するかというその理由……それはつい先日の、銀河連合日本国加盟調印艦隊が、地球―日本にやってきた時まで話は遡る。

 かの時、マリヘイルが連合主催の、フリンゼ・フェルフェリアと、柏木真人の挙式を行った際、マリヘイルが今後、連合へ日本が加盟した後の影響を話していた時、彼女は時期盟約主権国家の投票先世論調査の結果で、選挙選抜第三位に……なんと日本国がついていると話した。

 ティ連の盟約主権国家とは、三ヶ国が選挙で選出され、あとの二ヶ国は持ち回りなのである。

 つまり、この盟約主権国家選抜投票で、選抜国家に一度でもなれば、ティ連内での大国として認識されるのだ。

 イゼイラは、やはりナヨクァラグヤ帝の威厳とティ連創設大国の一国でもあるので、一〇周期連続で選抜されている人気国家である。

 その他、選挙選抜では、ティ連の主要大国ではパーミラとディスカールが選出され、他色々と選出された国は多々あるが……

 実は、ダストールは、まだ一度も選抜選出されたことがないのだった。

 ティ連内大国の一端を担う国家ダストール。常に上位には食い込み、三位と四位の間でせめぎ合っているそうなのだが、いつも四位に甘んじてしまい、選抜選出されたことがないのである。これは今回の地球に関連する国家なら、別にダストールだけではなく、カイラスや、サマルカもそうである。ザムルは過去に一度選出されたことがあり、連合議長も輩出している。


『……今回、ソウイウ事モアリ、ワガ国ガ三位ニツケテイタ。ダガ、ヤルマルティアガ連合ニ加盟シ、ナヨクァラグヤニ纏ワル諸々ノ案件。精死病ニ、発達過程文明ノ件。ソシテガーグデーラノ件。色々ト、カノ、カシワギマサトトイウ、ヤルマルティアノ政府閣僚ノオカゲデ、一気ニヤルマルティアノ人気ガ上ガッタ……』


 それで、それまでシエやリアッサの活躍もあり、今回は安定した三位で……うまいこといけば二位もいけそうなダストールだったが、日本が連合加盟をした途端。世論の流れが一気に変わり、日本が第三位につけ、相当離されて、ダストールが四位に落ちてしまったのだと、そういう話。

 

 ダストールも、実はティ連創設時に近い時期から存在する古株国家なので、選抜の盟約主権国家入りは悲願だったそうなのだが、その保守的な国民性が災いして、常に上位には食い込むそうなのだが、なかなか三位以内には入れないんだといういう話。

 で、今回こそは! と思っていた矢先、いくら『聖地』とはいえ、ポっと出の日本が出てきた途端、あらよあらよと三位に食い込み、またダストールは負けそうになる。

 国策広報委員会委員長であり、所謂、革新派になるフェットーとしては、今回ばかりは我慢ならなかったのだというところだろう。そこまでキツイ表現はしないまでも、普通に聞けばそう聞こえた。

 そこでこの国策広報委員会とやらが考えたのが、かような方策だったという寸法というわけだ。


「それでシエを総統にして、世界にそれを知らしめて支持を集めようってか」


 多川は、なんともまぁコスイ事をと思うが、実のところティ連で「盟約主権国家」になるというのは、その国にとって相当な名誉なことだそうで、軽く考えられないところでもあるのだ。

 そして、そういう具合に物事を進めないと、ロッショ家としても少々困ったことになるという。

 それは……


『私トシテモ、国策広報委員会ノ責任者トシテ、シエガ、ダストールノ国益ニ積極的デナイト、発表シタクハナイ』


 その言葉の瞬間、多川は顔色をグっと変えるが……


『フェットー! 貴様ァ!』


 シエが部下のウォーミングアップを終えて、途中から後ろで聞いていたようだ。

 今まで見せたことないものすごい剣幕でズカズカとフェットーに向かって行こうとする。

 その行為に、シエの部下達も流石に狼狽する。

 咄嗟に多川はフェットーに殴り掛からん勢いで近づくシエの両肩を掴み、制する。


『シン! ダーリン。離セ! ソコマデイウナラ私ガ貴様ノ相手ヲシテヤル!』

「シエ。落ち着け。な」

『ダーリンヲ巻キ添エニシオッテ。何ヲ考エテイルノダ貴様! 私トノ関係云々以前ニ、ソレガ外国大使ニ対スル対応カ! 国際問題モノダゾ!』


 ここまでシエが剣幕まいて怒るのも初めてだったので、多川もさすがに焦ったが、確かにシエの言うとおりだとも思うが……


『シエ。私モ相応ノ覚悟ヲモッテ、コノ場ニキテイル。ナノデ、ココニ今イルノハ私ノ独断ダ。ソコニ委員会ハ関係ナイ。タダナ、盟約主権国家ニ選出サレルトイウ事実ガドレホドノコトカ、オ前ニモワカルダロウ』

『……』


 盟約主権国家に選出されるという事は、ティ連全体の司法・行政・立法・軍事に関する運用法やその法制を決定する大きな権限がある。即ち、ティ連軍の部隊を盟約主権国家の判断で、ある程度の規模なら作戦運用することも場合によっては可能なのである。

 これは実際問題として、大きいことだ。

 過去には国力が小さい地域国家が、この盟約主権国家に選出され、ティ連軍を運用して軍事作戦を展開した事もある。現在、その国はティ連内でも発言権は比較的大きい国家になっているわけで、小さな地域国家でも盟約主権国家に一度でも選出されると、かように発言権をもつ国になるわけだ。かような存在が盟約主権国家であるということは、フェットーのような政治家が色々動くというのも、このティ連世界では頷ける事でもあるわけだ。


『私モ第一議会議員。ソシテ国策広報委員会ノ委員トシテ、国家ニ対スル忠誠心モアル。当然、国家ノ利益ノタメニ動キモシヨウ……カトイッテ、ナニモ取ッテ食オウトイウワケデハナイ。コレデモコノ国ハ民主国家ダ。私ノ提案モ、デルン同士ノ約束トイウヤツダ。当然ソレニ従ウ義務ナド、二人ニハナイ』

「ただ、断ったら、お宅の仕事をナントカ委員としてするってんだろ? 結局コッチにゃ選択肢ないじゃないか」

『シン。コンナ奴ノ言ウ事ナド、真ニウケル必要ナドナイ。私ガココデ足腰タタナイヨウニ……』

「あー、シエ。ちょっとコッチきてくれ……あ、フェットーさん。ちょっと二人で相談させてくれ」


 そう多川が言うと、フェットーはニヤリと笑い、首を縦に振る。


『……ナナナ、ナンダ? ダーリン』

「まぁまぁシエ。落ち着けよ」

『コレガ落チツイテイラレルカ。コンナモノ、ニホン国ニ対スル内政干渉デハナイカ。ターリィニ話ヲシテ……』

「いやいやいや……けどよ、あのフェットーさんの私的な提案っだっつーんなら、まま言ってみれば、ギャンブルみたいなもんなんだろ? 要は奴さん。博打を持ちかけてきたわけだ。となると、なんだかんだでレクリェーションだな」

『ダーリン。ソレハソウナノダロウガ、ソンナ悠長ナコトヲ……』


 すると多川は少し後ろを振り向いて、フェットーをチラ見すると……シエの方を見て、フっと事を捨てるように吹くと


「シエ……あの御仁の申し出。受けてやるよ」

『エッ! ソ……ソンナ。アンナ奴ノ博打ニ乗ッテヤル必要ナド……』

「いやいや、大丈夫だよ。フっ、ティ連の常識でペラペラと御大層に語られてもな……フフフ」

『? ドウイウ意味ダ?』

「いやいや、ままそうなら、俺個人としても、あそこまで言われちゃぁね……大丈夫。勝っても負けてもどうにかなるよ。心配するな……ただ、ちょっと柏木さんに確認しておきたいことが一つあるな……」

『ダーリン、チ、チョットマテ。ソンナ……コンナ問題、ダーリンニハ関ワリナイ事ジャナイカ』

「まぁまぁ、大丈夫だ。大丈夫大丈夫」


 そう言うと、多川はフェットーに対峙し


「フェットーさん、わかった。相手になってやるよ……で、さっき言った約束。忘れるなよ」

『ウム。ダストール人ニ、二言ハナイ』

「でも、仮にアンタが勝ったとしても、そうそう思うように行くとは思うなよ……まぁ、俺も約束は守ってやるつもりではいくが、俺も宮仕えの身なんでね」

『ソコハワカッテイル。我ガ国ノ各委員会ニモ根回シサセル。ウマクイクカドウカハ流石ニ私モワカランガ。広域情報システムニ、相応ノ情報ヲ流シ、世論ヲ喚起サセルコトハデキル。ソレダケデモ大キイダロウ』

「なるほどな……で、少し俺にも色々と用意があるから、良ければ勝負は明日でいいか? 丁度今ぐらいの時間でいい」

『了解シタ』

「使える機動兵器はなんでもいいんだな?」

『アア。ヴァズラー、キョッコウⅡ、シルヴェル、デルゲード、ソシテマージェンツァーレ。ナンデモカマワン』

「相手はアンタか?」

『ソウダ……コレデモ、ダストール空間軍デハ、トップクラスノパイロットデナラシタツモリダ』


 と、そんな感じでフェットーと話をつける。

 ダストール軍の兵士に色々と教えてやりたいという事だったのだが、なんかエライ話になってしまったわけで、それでも一応教練は教練で彼らの予定に入っているので、仕事をこなす。

 

 今の話は今の話で頭を切り替えないと、プロとは言えない。

 でもシエの部下が、あんな壮絶な生の感情ムキ出しのシエを見てしまっただけに、ちょっちビビってしまってたり。ままそんなこともありーので、宿泊先のロッショ邸へ帰宅するわけだが……


『シン……ソコニナオレ』

「え?」

『イイカラ、オスワリダ』

「おいおい、説教か?」

『アタリマエダゾ、ダーリン。フェットーノ、アホノ挑発ニ乗ッテドウスルツモリダ。ダーリンハ特危ノメインメンバーデハナイカ。ソレヲ私ノ婿養子ダナドト、シマイニハ私ヲ総統ニナドド冗談モホドホドトイウヤツダゾ。ソレ以前ニ、ベイルノ立場ハドウスル……クドクドクドクドクド……』


 多川初めての「嫁の説教」というやつだ。シエもこれがなかなかに絵になっていたり。

 とはいえ、多川とて、何も考えなしにあんなフェットーの言葉に乗ったわけではない。


「一〇〇パーセント勝てる勝算あっての話だよ。そこんところをね……っと、あ、繋がったみたいだな」


 多川は、日本に映像でゼル通信をつないでいた。その接続先は……


「あ、柏木さん?」

『多川さん! どもども、感度良好ですよ。あ、シエさんもいらっしゃるようで。どもども。ははは、どうですか? ダストールの方は』

『ア、アア……カシワギ……ッテ、ダーリン。ナゼ日本ニ?』

「まぁまぁ見てなって……いやいや、実はね、ちょっと豪い事態になってしまってですな。順を追ってお話しますけど、ちょっと確認したい事がありまして……」

『はいはい。多川さんがエライ事態って……私にできることならなんでも言ってください』

「ええ……実はですね、まず私がこっちに来る前の、安保委員会定期会合で総理が仰っていた事の確認なんですけど……」


 その多川の話を順を追って聞く柏木。

 ちなみにフェルさんは、地方講演で今日は家にいないそうだ。

 で、あることを確認し、明確な政府としての決定方針だと聞く多川。そしてシエ。

 

「……な、シエ。確かそんな話で政府は話を進めていたと聞いていたんでな……どうだ? これで安心しただろ」

『フハハハハ! ナルホド、ソウイウコトカ。ナラバ、気ニセズ博打ヲウテルナ』

「だろ? これでフェットーさんもって奴だ。ま、明日は存分に遊ばせてもらうさ」

『サスガダナ、ダーリンハ。ヤハリ私ガテスタールシタデルンダ』


 そういうと、多川にキュウと抱き着くシエ。


「ははは。でさシエ。ちょっち明日に向けて、用意してほしい装備があるんだけど、頼めるかな?」

『ナンデモ言ッテクレ、ダーリン。必要ナラ、機動母艦デモ調達シテヤルゾ』


 シエさんチームも、明日の勝負に向けて、いろいろ仕込みを行おうという話。必勝に向けて、細工は流々。

 柏木の話で気が楽になったシエさん。さっきまでの説教モードもどこ吹く風。急にノリノリモードになったりと。

 シエも、多川がさっき言った「ティ連の常識で話をされても困る」といった意味が、柏木の話を聞いてよくわかった。そして、本当に気が楽になった……ダーリン多川と、柏木達が、本当に頼りになる仲間であり、伴侶だと思い知るシエ。


 まま、仕込みが済んだ後……


『ダ~リン』

「ん? って、むぉっ!!」

『明日ノ事モアルカラ、今日ハ程々ダナ』


 で、「程々」という言葉の、主観の相違を思い知る多川であった……




 ………………………………




 さて次の日。

 昨日やってきた航空基地に再び姿を現す多川……昨日の話は、あくまで男とデルンの話であり、そこは彼ら個人の賭け事ということで、ガッシュやルメアには話していない。無論シエも同じく。

 それに多川自体も、負ける博打でやりあうわけにはいかないわけで、博打といいつつも、ここは外交の一環として柏木の協力をあおいで処理する事にした。


 では、この機動兵器戦闘での、まま決闘じみた戦い。なんでやるのかというと……純粋に多川のパイロット魂に火がついたわけで、そんなところであったりもする。

 普通、政府要職の身でこんな事に付き合ってたら、そらもう懲戒モンなわけだが、そこを外交行事の一環にもっていくのもかような大使としての腕の見せどころ。多川はまがりなりにも副司令経験者。そこんところは普通の現場バリバリのパイロットとは違うわけで、色々気を使うところは使ったりと、相応の年季をみせてたりするわけだが……


 基地へ先に到着していたのは、ナントカ島の、佐々木何某ではないけれども、フェットー・ヒル・サーザルであった。

 ダストール機動兵器搭乗用のパイロットスーツに身を包み、ヘルメット被り腕組んで、搭乗機の前で相手の到来を待っていたようだ。

 ただ、佐々木何某と違って、その顔に緊張の表情はない。不敵な笑みを浮かべて、彼自身もまた、何かこの博打を楽しんでいるかのよう。

 見物人、これまた相応に多し。

 昨日のシエ部下連中が、これまた言いふらしたのだろう。とはいえ、特にフェットーも、そのあたり規制する気はないらしい。むしろ記録装置にでも取らせて、広域情報バンクに流させれば良いぐらいに思っているようだ。 


 そこへ現れたのは、多川信次 特危自衛隊一等特佐に、シエ・カモル・ロッショ一等特佐……ちなみにシエさん。ダストールでは、ティエルクマスカ連合防衛総省 ハンカー恒星系方面軍・デルベラ・ダストールデルド軍管区司令部・空間海兵隊・特務隊総括軍団・大佐 の肩書を持っていらっしゃるのである……実は偉かったりする。


 で、当の多川。彼の服装に、見物人一同、目を丸くする。

 それもそうだ。彼は航空自衛隊の航空服。所謂フライトスーツ一式を身にまとって登場したのだ。

 大きな遮光バイザーの付いたヘルメットにマスクと、地球人にはお馴染みの服装で登場した。

 相方のシエは、いつものピッチリなコンバットスーツだ。とはいえ、シエは今日、多川のサポートなの

で一緒に飛ぶわけではない。というか、いつもの普通の格好である。


『ヨク来タ、タガワ。敬意ヲ表スル』

「フッ。敬意ね……まぁいいや。で、後ろのヴァズラーが、お宅の相棒か?」

『アア、ソウダ……オマエノ機体ハ例ノ新型機「マージェンツァーレ」トカイウ、マシンカ? 私ハナンデモカマワンガ』

「おうおう、豪い自信だな……いや、俺のは……アレだよ……」


 そういうと多川は、顎でクイと、ちょっと離れた格納庫を指す。

 すると、格納庫のゼル造成されている扉が、キピキピと霧散して消えると……中から出てきたのは……


 『マクダネル・ダグラスF-15C戦闘機』だった。


 その機体を見て、フェットーは訝しがるように、片目を絞る。

 野次馬ギャラリーは、発達過程文明の機体であるそれを見て「おおおお……」とどよめく。

 なんせフィブニー効果、すなわち揚力でぶっ飛ぶ機動兵器なんぞ初めて目にするわけであるからして、流石にダストール人は、空間振動波機構で動くヴァズラーにこんなのが勝てるわけがないと思うのだが、ドーラヴァズラーを葬った英雄がシエと相談して使うというのだから、相応に期待感も膨らんだりと……これはなかなかに金出しても見たいと思うような、そんな勝負になりつつあった。


「シエ、昨日頼んだ、例の装置は?」

『アア、バッチリダ、ダーリン。心配スルナ。実ハナ、昨日オルカスニ頼ンデ、サワタリニモ、ゼル通信を介シテ手伝ッテモラッタ。フフフ、サワタリモ相当乗リ気ダッタゾ。アイツガ関ワッテイルノダ。完璧ダ』

「おお~ 沢渡主任ご謹製か。ということはヤル研のヘンタ……ゲホゲホ……素晴らしいアイディアが組まれてるわけか。面白いな」


 そう、このF-15Cは、ただのF-15Cではない。シエがヤル研の連中に相談して、あるものを装備してもらっている機体なのだ。

 それは、件のF-2HMが出来上がるまでの試作部品。『高機動可変力場装置』『斥力発生装置』の小型化研究時に出来た開発過程部品を、機体中心直下パイロンにぶら下げていたのだ。

 その平たく細長い、サーフボードのような形状の、ドロップタンクか大型爆弾のような装置が目立つF-15C。そこに14式機対機誘導弾が各パイロンに満載されているような構図の機体。

 さしずめ『F-15C-HM』とでも言えばいいか。


「流石に俺でも、素のF-15だけってのは分が悪いわな。ちょっとそこらへんはヤル研技術使わせてもらうわ。なはは」


 とはいえ、それでもまだ、カタログスペック的にはヴァズラーとの性能差は相当の開きがあるとシエは言うが……


「そこは腕で何とかしますよ、シエさん……ちょっち、そのあたりでも思うところがあるんでね」


 多川一佐。彼も本家ヴァズラーや、旭光Ⅱ型ヴァスラーに、F-2HM、更には旭龍と、そんな機体をシエとともに乗りこなしてきたパイロットだ。これら機体の性能は、頭と体に刷り込まれている。

 そんな多川が勝負に選んだ機体が、このF-15C-HMとも言える急造機体だ。


『タガワ大使、コノ機体デ本当にイイノダナ?』


 フェットーは眉間に皺寄せて、口元を少しゆがめて多川に尋ねる。

 

「ああ、構わないよ。これでやらしてもらう」


 メンテナンス等々は、急遽沢渡がデータ転送してくれたハイクァーンメンテナンスデバイスで行えるようにしたので、機体の整備状況も完璧である。


「じゃ、シエ。滑走路の件、どうだ?」

『アア、問題ナイゾ。滑走デ飛ベルヨウニシテオイタ』


 シエが指さす方を見ると、大きな基地施設に、簡易的ではあるが白線ひかれて長い滑走路が出来上がっていた。

 例のトラクターフィールドカタパルトで飛んでもいいのだが、やはりそこはシエの部下も見ているわけで、発達過程文明の機動機械がどういうものかという勉強もある。そこは滑走して飛んでやるとともに、このダストール人連中に、男のロマンも教えてやらないとと思う多川。


「んじゃ、フェットーさん。先に上がらせてもらっていいか? こっちゃ空に上がるのに、ヴァズラーと違って、ちと手間かかるんでね」

『アア、カマワンゾ。デハ、ルールハワカッテイルナ』

「了解だ。んじゃお先に」


 多川はF-15のコクピットに体を沈めると、機器のチェックを始める。

 シエがチェックリストを持って、多川を手伝う。

 しばらくすると、シエが機体から飛び降りて離れ、耳をふさぐ。他の者は、シエがなんで耳をふさいでいるのかわからず、キョトンとした表情。

 多川は、沢渡の作った自動化システムで諸々チェックをしたあと、エンジンのスイッチに手をかけた。

 すると、ダストール人が今まで聞いた事のない、耳をつんざくような金属音が大きく響き渡る。

 ヒィィィィィィィ……と唸りをあげるF100-PW-220ターボファンエンジン。

 その強烈な金属音に、ダストール人諸氏しかめっ面して、みなさん耳に手を当てる。

 まさかこのフィブニー効果機動兵器が、こんなウルサイ音を出すとは思いもよらなかったようだ。


 多川はしたり顔で狼狽するダストール人諸氏をコクピット上から眺めて、シエに親指あげてコクピットを閉める。

 シエも親指上げて、愛するバディを見送る。どことなく余裕な二人に、フェットーは、更に訝しがる顔。


 多川のF-15は、急きょ作られた滑走コースに乗り、ゴオオオオオ……という音を立てて発進。

 V1・VR・V2と加速し、機体を宙に浮かせた……と、その瞬間、ほぼ垂直に機首を上げて、ドンと加速させた。

 ケツから炎を吹き出して、音と見た目だけは迫力のある地球の戦闘機だ。ダストール人達も、そのサマを見て「オオオオオ」とポカンと口開けて眺めていたり。


 離陸してから数分も経たぬ間に、多川のF-15-HMは、白線引いて大空を舞う。

 クルリと機体をロールさせたりと調子を見ているような感じの飛行。その意外な機動性能に目を見張るダストールのみなさん。


 その様子を見るフェットー。

 先ほどの訝しがる表情から打って変わって不敵な笑みを浮かべ、ダストール仕様ヴァズラーのコクピットに身を沈める。

 その様子を睨むように見つめるシエと視線が合う……と、シエがフェットーめがけてニヤと笑う。

 その笑みに笑みで返すフェットーだが、やはりシエの不敵な笑顔に少々警戒しつつ、コクピットハッチを閉め、機関スリットに光を纏わせて、独特の駆動音とともに、空間振動波エンジンをうならせて、垂直離陸するフェットーのダストール・ヴァズラー。


 腕組んで空を見上げるシエさん。

 旦那の必勝を想い、またこの試合の結果になにやら思うところがあるようで、ニヤニヤしつつ、F-15の軌跡を追う。


 空には、キィィィ、ゴォォォォと、ティ連世界ではそれまで聞いた事のない音をうならせて、飛行機雲を引いて軌跡を作る多川の機体と、変幻自在に飛ぶフェットーのヴァズラー。




 はてさて、この盟約主権国家権限をかけた、奇妙奇天烈な大決闘。どうなりますことやら……





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>時期盟約主権国家の投票先世論調査の結果で、選挙選抜第三位に……なんと日本国がついていると話した。 ファッ!?発達過程とはいえ、国力的な意味では弱いのに…どんだけ人気なんだ…
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