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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
78/119

-53- 最終話  なべて世は事も無し。

~ 最終話 ~


 二〇一云年のとある日にやってきた異星からのお客様。

 云キロメートル級の宇宙艦艇で大艦隊をもってやってきたそのサマは、まるで雲の上に乗って天から降りてきた天人達のようである。

 遠い過去の人々は、月を仰ぎ見て夜空に大きく雲をまとって舞い降りるその宇宙艦隊を目の当たりにし、そんな想像をしたのだろう。

 機動母艦から天降るデルゲードらロボットスーツ部隊は、確かに天の羽衣をまとった天人の如く。

 時は現代。さすがにロボットスーツの空挺降下はないにしろ、かの時と同じ光景。いや、更にパワーアップした、かの時の再現が日本にあった。


 今、各地方都市には、この発達過程文明国家である聖地日本国の観光を満喫する、異星のお客さん方で溢れかえる。

 あの物語に描かれた天人を称する人々は、地上の人々を穢らわしいといったとか。ところが実際はなんのなんの。

 彼らはおおよそ、その民度が高く、規律もある。でもそこはやはり『人間』である。

 豊かな感情があり、万物に興味を持つ好奇心と、それを楽しむ心がある。それが真実の姿。


 アホな冗談の一つも言い合って、新宿のカラオケボックスで親しくなった日本人とアニソン歌っているイゼイラ人。


 難波でお好み焼き食べて、たこ焼きにハフハフするダストール人もいれば、秋葉原のメイドどもに引っかかって「萌え萌えナントカ」とかやられて、口をあんぐり開けているようなディスカール人。


 富士山に登ってご来光を拝み、遠きに見えるヤルバーンに感嘆の雄叫びをあげるカイラス人に、とんこつラーメンと、道産子ラーメン。どちらが旨いかを討論するパーミラ人。


 日本庭園というものが、何故か感性にドンピシャとハマり、その製作工程に興味を持って教えを請うザムル族。彼らは京の都がお気に入りだ。金閣寺を背にフワフワしている彼らの光景は、なんとも妖かしい光景であったりなかったり。


 沖縄で美しい自然を満喫するサマルカ人。彼らは人工生命体由来であるがゆえに、自然物に異常に興味を示す性格がある。そんな彼らにとって沖縄や、宮古島等々はとても魅力的な場所であるようだ。


 彼らも、結局は普通の知的生命体なのだ。

 ただ、所謂選りすぐりのエリートであるからして、倫理観や知識が全て備わった彼らが何を見て、何に感動し、何を欲し、何を自分たちの国へ持ち帰ろうとしているか? 

 文化・科学・哲学・倫理・祭祀・司法・行政・立法・風俗・歴史・芸術……即ち、現代日本の現在進行形そのものを彼らは求めているのである。それはなぜか?……これら全てが、ある時を境にして全て他者から与えられたのがティエルクマスカ人である。従って彼らが最も欲する物が、そのようなものであり、その根源なのだ。

 知的生命体の目指す最終局面の高みを突如手に入れ、その先史文明トーラルから、科学とそれを扱う倫理を享受し、手に入れた技術に基づく高度な理性を身につけ、種族を超えた連合国家を築きあげた文明群。それがティエルクマスカ銀河共和連合。


 そんな彼らだが、やはり全てが今持つ彼らの科学に追いついているわけではない。文明の矛盾ともいうべき弊害で、無理をした彼らは、ゆっくりとした滅亡の危機を迎えた。

 結果、彼らは地球人よりもずっと遥かに進んでいるように見えて、実のところ根っこはあまり変わりがなかったのである。だから地球人、いや、日本人とウマが合った。

 そのウマが合った理由。それが、かの一〇〇〇年伝説……

 すでに日本人は、とっくの昔に経験済みだったのだ。


 紀元前四世紀。古代ギリシャの哲学者アリストテレスの格言に、こんな言葉がある。


 ~ 友情とは、ふたつの身体の中にあるひとつの魂のことである ~

 ~ 友情の核心は、互いの等しさということにある ~


 この意味、読んで字のごとくだ。

 まさにかつてのナヨクァラグヤを救った人々と、今のティ連と日本の関係そのものである。

 両者に共通する核があり、それが等価であれば、どれだけ科学の差があろうがそんなもはあまり意味を成さない。

 互いに等しい価値があると認めた場合、友情。国家で言えば国交が芽生える。

 だから、先進国といわれる日本国と、所謂発展途上国と言われるブータン王国とは誰しも認める友好国なのである。その互いの価値観に上下はない。

 何の文化的共通性のないトルコと日本が、現在のように友好国同士なのも、互いが持つ人命という価値の共有からといってもいい。

 一神教国家であり、文化習慣何もかもが違う中東諸国が、何故に多神教国家日本と友好のある国が多いか? これも「戦った相手」「負けた後」「その精神」と、かような価値の共有があるからといっていい。

 

 そこには科学技術の優越や、国の富など関係ない。互いに等しい価値があると認めるから等価の友好国でありえるのだ。

 だから、日本とギクシャクしている国は、この共通する価値を互いに持ちえていないから、ギクシャクするのである。

 その価値が無い国同士では、いくら頑張っても、金を出しても、物を贈っても、言葉で言い繕っても、友好国になどなれはしない。ましてやその行為の本音が『支配』なら、なおさらである。論外だ。

 ならば、結局互いに干渉しないほうが、ずっとマシである。

 例えば米国はある種そこに気づいた。だから彼らは世界の警察をやめたのだ。

  

 種も違い、住む星も違う。

 そんな世界でも、やはりアリストテレスの格言は通用する。なぜならティエルクマスカ連合。イゼイラ共和国。そして日本。

 そこには、共通する価値があり、それを互いに求め合ったわけであって、それが現在という大きな結果になっているのだ。

 

 ……現在においてよくいわれる言葉。


『国際関係において、真の友好関係なんてのはありえない。甘い考えだ。なぜならどの国も自国国民の利益国益のためだけに国家があるのだから』


 この意見。これははっきり言って『正しい』意見である。まずそのとおりだ。国際関係において、真の友好などというものは、きっぱりありえないといっていい。

 ただ、これも『国と国』ならそうも言えるのだろうが、その国の中にいる『人』が望めば、この言葉も一概にそうはいえなくなってしまう。


 その『人』が望んだ姿が、互いに価値を共有しようと考えた、ティエルクマスカという巨大な『連合主権国家』であり、フェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラと、柏木真人という二人の出会いとその物語こそが、まさしく連合の成り立ちの縮図であり、この世界における『それ』なのだから。





 ……………………………… 





 柏木夫妻の壮大なるエンターテイメントな結婚式が終わり、夫妻は三日ほど休みをもらった。

 残念ながら今、政府としては彼らに抜けてもらっては大変に困るということもあって、ここは無理を言って新婚旅行は折を見てということでお願いをする。

 代わりに三日ほどゆっくりと休んでもらってかまわないということなので、ここんとこ忙しかった二人は、久方ぶりに二人家で自由な時間を過ごすことができた。


 子作りにでも励むかと思いきや、ムフフなラムアの儀もすませたというのに、実はある理由でフェルはまだチョットの間子供がつくれないのだそうな。

 イゼイラ人は地球人と違って、個々のフリュで一周期内の妊娠出来る時期がキッチリ決まっているそうで、その時期に性行為を行わない限り、それ以外の時期にいくらナニしても妊娠しないのだそうで、息子、娘はその時期までお預けなのだそうな。

 どうやら計算では、フェルさん地球時間で一〇月はじめから一二月末頃までがその期間にあたるそうで、子作りに励むのも、その時期まで見合わせということ。

 ま、但し男女コミニュケーションな子作り演習は、また別のお話。

 両親からは、早く孫の顔見せろとか、惠美からは日本人とイゼイラ人のハイブリッドを早く見せろと急かされてはいるが、そこはそういう自然の摂理なもんで仕方がない。


 現実問題として、まだあと半月以上はティ連のみなさん日本に滞在なさるわけで、しかも今降下してきている人々だけではなく、軌道上の各艦艇のクルーにスタッフもシフト交代で休暇をとって、どんどんと日本に転送でやってきている。そういった方々がいる間は結局仕事も忙しくなるわけなので、そんなところで新婚旅行諸々もどっちみちしばらく行けそうにないというところである。

 そりゃお客さんいるのに主賓がいないというのは、あまりよろしくはない。


 ただ、この三日の休暇はのんびり過ごそうということで二人の意見は一致する。


 フェルさんは、久々のモンスターハントなゲームをプレイ。

 テレビゲーム大好きなフェル。熱中してしまう。

 キャッキャいいながら正座してテレビにむかってコントローラを左に右にとやっていた。

 その姿を微笑んで見る柏木。フェルはいかんせんうまいので、思わず魅入ってしまったり。

 柏木は何をしているかというと、まま彼も趣味なんぞを。

 お気に入りのエアガンをラックから降ろして、油引いたり磨いたり。

 そんでもってフェルがくれた新しいPVMCGにデータを取り込んだりと。


 フェルと交際するきっかけになった、デジアナソーラー電波腕時計と交換したPVMCGは、今大事に金庫へしまってある。今付けているのはフェルパパさんの形見なPVMCGだ……付けた部分のみ、やたらと豪華絢爛になっている。

 ちなみにフェルは、以前柏木がくれた腕時計を着用していた。さすがに結婚式でもらった腕時計は、そうそうには付けられないという話。そりゃ価格が価格である。貴重品登録は済ませたので、盗まれたり無くしたりすることはない。仮に盗難にあっても転送回収すればいいだけの話である。その点は問題ないのだが、なんせ値段がちょっとお高いシロモノだ。流石のフェルもこれが貴重品だぐらいのことはわかるので、フェルも金庫ならぬプライベートボックスへ大事にしまっており、式典等々の時以外は付けないと言っているそうだ……でも昨日。腕に付けて、眺めてニヤニヤしていたフェルさんを柏木は知っている。相当にお気に召して頂けたようである。

 ハイクァーンで複製すればいいではないかという話もあるのだが、ご存知の通り現在ハイクァーンで貴金属やブランド著作物件に製品を複製したものを日本国内に持ち込むと、関税がかかってしまうので事実上できないわけである。


「よし……と。んじゃちょっとテストだな……このハイクォート機能とやらを使ってみて……」


 柏木はVMCモニターに、かつてとある米国有名射撃選手が使用していたビアンキカップと呼ばれる射撃大会仕様の『コルト社・M1911ガバメントモデル』のカスタムタイプな形状のエアガンを映し出し、それをハイクォート機能で実体化させてみた。

 このデータは柏木がいつかハイクァーンで作ってみようと企んでいた自作のデータである。

 ルンルン気分でポチとやると……実体化されたカスタムガバメントが造成された。


「うひょひょひょ。こりゃいいや」


 まま。柏木大臣も、あるところでは精神年齢まだ少年である……ちなみにこいつは特命大臣であるところが痛かったりするわけだが。

 そんな大臣。出来た自作エアガン(?)をカチャカチャやって手遊びしていた。


 するとフェルがニョっと柏木の横から顔をのぞかせる。


「お、フェル。モンスター狩りゲーム終わったの?」

『ハイです。お仲間さんがミナサンろぐあうとしたので、今日はおしまいですヨ』


 モンスターハントなゲーム内でも、「フェルちゃん」なんていうネームで登録。チャットの入力もフェルさん語なもんだから、もうチョンバレで、実はゲーム内で有名人でもあったりして。

 今日はチャット機能で結婚オメデトウの連呼だったらしい。

 そして、ついでに「柏木氏ねと言っておいて下さい」とも言われたという。思わず爆笑する柏木。

 まま、言ってみれば怨念含んだ祝福の言葉である……多分。


 フェルさんの狩りも一段落ついたので、お茶でも入れて一服。

 こういう徒然なる休みも、正直いつ頃ぶりだろうか。何をするわけでもない休日が楽しい二人。下手な新婚旅行よりよっぽどいい。

 フェルがズズと茶を含みつつ


『ところデマサトサン』

「ん?」

『昨日シエから聞いたのでスけど……シエとケラー・タガワ。定期便が就航したら、折りを見てダストールに行くそうデスよ』

「え! そなの?」

『ハイ。それでシエのマルマサンにもご報告に行くソウです』

「そっかぁ。大変だなぁ多川さんも……こういう言い方は、例えとしてはあまりよくないんだけどさ。フェルはご両親亡くしてらっしゃるから、全部フェルの責任で、全て決められるけど、シエさんはご両親いるし、パパさんが認めてくれたのはいいけど、今度はママさんだもんなぁ……ダストールまで行って、ダメ出しでもめたなんてなんてなったら、眼も当てられないぞ。って、ま、シエさんならそのまま駆け落ちパターンも十分あり得るけど」

『ウフフフ、その点は心配ないですヨ。マサトサンは考えすぎでス』

「え?」

『私達にはゼルルームって技術があるでしョ』

「あ、そうか、アハハ、アレ使えば面と向かって話せるわな。ナルホドナルホド。そりゃ確かに……で、じゃぁ多川さんと、シエママさん。もう面は通してると?」

『エエ。あと、ベイルクンとも会ったそうデスヨ』

「ベイル君? ああ、シエさんの弟とかいう」


 なんでも、そういうことでゼルルームでシエ一家との面通しは済んだとの話。

 多川のあれで意外と高級幹部自衛官らしい落ち着いた感じが非常に気にいられたそうで、御の字だったという事。ベイルというシエの弟は、総統選挙出馬もあって、政治の勉強もかねて一度ヤルマルティアへ色々と見聞に行きたいとも言っていたそうな。

 そういう話もあって、一度ダストールに来なさいという話に発展したという。

 

「じゃぁ、シエさんと多川さん。最低でも往復の交通で一〇日は食うとして、滞在日数含めたら三~四週間は不在になっちまうな」

『イエイエ。その時は恐らく、渡航日数はもっと短縮できるかもですヨ……ダストールやイゼイラなら、三日ぐらいで着くかもしれませン』

「なに!? 三日だって? なんでよ?」

『ホラ、人工亜惑星要塞レグノスが到着したでショ? 冥王星ゲートとはケタ違いの空間接続パワーがありますカラ、亜空間航行速度もこれマタケタ違いに速いですし、冥王星から火星に移転するゲートの亜空間回廊も、レグノスが中継しまスから、各ティエルクマスカ連合加盟国中央ゲートに直通で行けるようにナルですよ』

「あ、なるほどね。って、それでも長期不在になるのはなるわけだから、そのあたりで多川さんやシエさん不在時の指揮系統を、きちんとしとかなきゃなぁ」


 特危自衛隊は、陸海空に続き第四の自衛隊として存在するが、まだ出来立てホヤホヤであるため、高級将官の数が圧倒的に足りない。おまけにシエと多川コンビの能力が突出しているので、この二人の代替を探すのは大変だぞと。

 そんなところを今から心配したりする。


 ……って、結局せっかくの休日なのに、なんだかんだで仕事の話になってしまったり。

 これも性なのかと思うわけである。


 そんな話でその日を消化する柏木とフェル。まま平和という奴であろう。



 神、そらに知ろしめす。

 なべて世は事も無し。


 英国の詩人。ロバートブラウニング「春の朝」という詩の一節。

 神のおわす世は、何があっても小さい事。悠久の時は、ただその日を事無く消化するのみ。

 まま世はおおよそ平和である。


 そういう詩である。


 ティエルクマスカ連合調印艦隊がやってきた日本で、まだまだ賑やかではあれど、彼らはそらに漂える。なべて世は、事も無し。





 ………………………………




 人の一生において、その個人が驚嘆、驚愕するイベントがどれだけあるのだろう。

 そう考えると、二〇〇〇年代に生きる日本人は、正直イベントに事欠かない。

 しかもそのイベントが国を揺るがすようなものばかりでウンザリする。

 でも、そのウンザリも、そこに新しい驚きが伴えば、またそれも悪くはない。


 戦争や紛争の類はもう慣れたものだ。なんだかんだ言って、どこかでそれは必然的に起こる。

 かといって何をどうすることも出来はしないし、それも、もう小さな事となってしまった。

 これも因果かといってしまえばそれまでなのだろうが、実際それまでな話なのだろう。どうしようもない話である。

 それでも以前よりは、質の悪いテロや紛争も、なんとか抑止できるようにはなったとも思う。

 今の今さっきまで平和で、さて今日の晩ゴハンは何にしようか、今日は人気ゲームの発売日だ、今日のドラマは楽しみだな……

 そんな事を考えてる普通の日常に、まったく不愉快な別次元の世界観が運ばれてくるような事も、もうあまりなくなった。それは確実に言えた……少しだけ、マシな世の中にはなった。


 ヤルバーンが日本に飛来したあの日に、世界は変わった。

 その世界に関与した人々も変わっていった。

 そうならなかったのかもしれない人生・因果・運命。

 でも、そうなってしまった今。引き返せない現実。

 悠久に続いて欲しい明日へと続く今……



 ……刻は進む。

 ……物語を刻む。

 ……止まらない時代。

 ……変わる現代。

 ……その中の変わらない物。

 ……葛藤する人のありよう。決断する意思。明日へ歩む国。


 彼らの物語は終わる事無く否応なしに進み続ける。

 そんな人々の物語はずっとずっと続いていく……



 ティエルクマスカ調印艦隊は、その後、なんだかんだと結局滞在期間を少し延長して、地球圏に留まった。

 色々理由はあった。

 まず第一に、各地方自治体が推進する星間自治体事業の調整に、思いの外時間がかかってしまい、時間がもっとほしいということで、もうちょと滞在できないかと各自治体が請願したということ。

 第二に、ティ連各国要員も、もっと滞在したいと総司令官であるマリヘイルに嘆願し、


「しかたないですね~」


 と、全然いる気マンマンなのにもったいぶって滞在期間延長を決定したということ。

 

 そのような件が大きく影響し、結局なんだかんだと一ヶ月半ぐらい彼らは滞在していた。

 そんな延長日程も、楽しきこと光陰矢のごとく地球を去る日がやって来た調印艦隊の諸氏。

 絵に描いたような名残惜しさが日本各地で展開する

 この短い期間で、日本人と深い友好に友情を深めた者達もいた。中にはやっぱり男女の仲になったものもいる。

 意を決し、想いを告げ、そんな仲になった羨ましい日本男児とディスカール人フリュなカップル。

 互いに再会を誓い合い、今はその繋いだ手を解かなければならない。

 各地で小さくもそんな物語をたくさん紡いで、再会を約束する人の絆。

 やはり涙無しなんていうのは、ありえないという事。


 各地の中央艦も、各々地方を周遊し、その任を終える。 

 ダストール艦は、最終的に四国高知県沖で、旅を終えた。

 多くの高知県民や近隣自治体から大勢の見送り客がやってきて、別れを惜しむ。

 近畿地方自治体代表団も高知県にやってきて、彼らを見送る。 

 パーミラ艦は、瀬戸内海広島県沖で旅を終える。

 ティ連中随一の背高ノッポな船は、いろんな場所から確認できたという話。

 剣のような艦影のディスカール艦は、長野県の本州内陸部で日本周遊を終了する。

 カイラス艦は、北海道北部。北方領土のロシアが主張する領海まで入り込んだそうな。

 なぜなら、そこは日本が主張する領土であり領海。即ちティ連連合領海である。何をはばかることがあるかという話。カイラス人らしく「文句あるならかかってこい」ってなもんである。

 なかなかに頼もしい話で、最終的に石狩湾沖で旅を終えた。

 ザムル艦も、ほどほどに日本人にもお顔が知られたので、新潟方面まで行き、周遊終了。

 ザムルさん達、日本の名所旧跡周りに没頭していたそうだ。どうも種族的にそういうものが好きなんだとか。


 マリヘイルの連合中央艦「ティエルクマスカ」は、周辺国家へのプレゼンスの意味も含めて、日本列島をぐるりと残りの期間をかけて一周した。

 最終的にはこの船。元の場所に戻ってきたのだが、日本海竹島の上も飛んでやったという話。

 もうかの国は臨戦態勢を形だけでも取ったということだが、何もできなかった。あたりまえである。あのちっぽけな島に全長二五キロメートルの巨大宇宙船が覆いかぶさるのだ。そりゃもう味方と認識してくれない連中にとっては、恐怖以外の何物でもないだろう。ってか、むしろそれで何かやったら褒めてやりたいところだ。無論皮肉だが。

 で、これまた日本に猛抗議をしてきたというのだが……無論あの大統領への回答は


「我が『連合』の領土で何をしようが勝手でしょ。そんなの知りまへんがな」


 である。電話番号教えてやるから本人に文句言えという話。

 これも近い日に退去勧告が連合の名で出されるだろうが、どうするつもりなのかなと。

 まことにもってめんどくさい連中。めんどくさい話である。


 サマルカさん達は、米国との関係もあるので、沖縄からはあまり動かなかった。ってか、サマルカ人は、件の米軍海兵隊基地の辺野古沖移設問題を、関係者を通して小耳にはさんだそうで、協力を申し出てきたのだ。

 辺野古沖約高度五〇〇メートルに、人工大陸技術を利用した特危自衛隊・サマルカ・ヤルバーン州・米国共同運用基地を建設するのはどうか? という事を提案してきた。

 この話、日本政府。特に防衛省としては願ったりかなったりな内容で、嬉々として好きにやってくれとセルカッツを通じてサマルカ中央艦に連絡する。

 すると彼らは何をするにしてもその行動速度が異常に速い。すぐさま計画書類と、設計図を送ってきた。近く工事が開始されるだろう。

 この基地は、特危自衛隊にヤルバーン、サマルカと共同運用の義務が前提になっており、基地施設を貸借するという形で米軍が利用する予定。貸借賃料のような具体的なものはない。大島に建設される合同外交施設に続いて、この基地もそのような合同形式で運営されていくことが期待されている。

 いかんせん空中に浮かぶ基地の建設だ。これでジュゴンとやらにも危害を与えずに済むだろう。

 基地の規模も、米軍利用面積のみで言えば、当初の埋め立て計画基地よりも巨大化するという話。ただ運用はヤルバーンと特危が主体で維持管理するので、そのあたりは米軍にもブラックボックスだ。

 管理条件が米軍に少々不利だが、それでもこの地域の軍事プレゼンスは余りあるもので、そのサマルカ効果を期待したいところが彼らにもある。

 そういった形で、サマルカさんは、沖縄近辺で滞在日程を終了する。


 サマルカ人。その関係もあって百名ほどのスタッフがヤルバーン州に定住するそうな。その中には元々定住希望なスタッフでリーダーでもあるセルカッツもいた。

 ヤルバーン初になる種族さんなので、セルカッツをリーダーとするサマルカチームは、日本・米国・ヤルバーンスタッフとほぼ毎日打ち合わせだったりする。


 基本ヤルバーン州はイゼイラ領なので、イゼイラ人がその人口構成のほとんどを成すが、此度の調印艦隊。良い機会だということで各国はヤルバーンへの定住希望者を募り、その人員も運んできているのだ。

 厳しい審査基準をクリアした定住希望者である。つまり今後のヤルバーン州州民になると同時に、ヤルバーン運用クルーにもなるのだ。相応の技量がないと参加はできない。そしてサマルカ人の他、ダストールにカイラス、パーミラにディスカール、サムゼイラ。準加盟国のハムールからも一〇〇人規模の定住者が送り込まれた。 

 んでもって、なんとなんと。ザムルからも定住希望者がやってきた……これはなかなかに面白いことになりそうだ。

 他、先の複眼な異星人さん。『惑星レノ』という星にある『ヴィスパー共和国・ヴィスパー人』という日本同様の地域国家な種族や、逆関節で三本指な『惑星国家ユーン連邦・ユーン人』という種族もヤルバーンヘの定住人員を送り込んできていた。

 今回各種族が送り込んできた人員は、技術者に科学者、連合防衛総省関連の軍人という形で純粋なスタッフであるため、諸氏相応の職場へと配置される。

 これでもまだヤルバーン州の人口は、規定住民数に満たないため、相も変わらずヴェルデオが暫定知事で大使で、司令。ジェグリが副知事で副司令。そして幹部職員が暫定州議会議員という状況は変わらないわけだが、ヤルバーンとイゼイラ本国間で定期便が就航すれば、すぐにも人口は増え、そう遠くない日に正式な州議会選挙と州知事選挙が行われるだろう。


 となれば、ヴェルデオともお別れになるだろうと、皆思っていた。

 なんせ彼は単身赴任だ。州知事選挙で知事が選出されても大使職に戻るだけなのだが、それでも家族を大切にするイゼイラ人としては、女房を長い間ほったらかすのもどうかという話にもなる……とみんな思っていたのだが……


 ヤルバーン州の転送センター転送機の前で人待ちするデルン。ヴェルデオだ。

 ちょっとラフな服装に着替えて、PVMCGの時計機能をチラと眺めたり。少しそわそわしている。


 すると、転送機に光の柱が立ち、その中から美しい中年フリュなイゼイラ人が姿を見せた……

 笑顔のヴェルデオ。


「やぁエルディラ。久し振りだね」


 手を軽く上げてヴェルデオはフリュを迎える。


「お久しぶりですねアナタ。やっと上陸許可が降りたわ。フゥ……ここがヤルマルティア。私にとって新天地になる場所なのですね」


 ヴェルデオの妻。エルディラ・バウルーサ・ティルだ。


「ああ、そういうことだ。素晴らしい国だぞ。きっと君も気に入る。紹介したい人も沢山いるしね」

「ウフフフ、てっきり帰国すると思ってたら、こっちに来ないか? ですものね。アナタを心変わりさせるほどの国。どんな場所なのか色々案内してくださいね」

「ああ、任せてくれ。それでな、実は正規の州知事選挙が始まったら、私も立候補しようかと思うんだが…………」


 どうもヴェルデオ知事。妻を今調印艦隊に便乗させて、呼び寄せたようだ。

 つまり、当初は帰国するつもりだったのだろうが、どうやらこの地球。そして日本と仲間達から離れたくなかったのだろう。彼もこの地が気に入ったようだ。そんな感じで妻を呼び寄せて定住しようと決めたらしい。これはこれで、嬉しい話である。




 ……かように去ることをやめ、残る事を決断した者もいれば、去っていかなければならない者もいる。


『……皆様、短い間でしたけど、とてもとても有意義な時間と、楽しい日々でござましタ。こんなに名残惜しい気持ちになったことも、今までにありません』


 首相官邸。

 去る者を見送る政府関係者。

 柏木大臣にフェル副大臣。二藤部に三島。マリヘイルにサイヴァル。そしてニルファが集う。

 今日はそんな光景が日本中で展開される。なので政府も各個分散で対応だ。

 目頭を抑えて、涙声でそう話すは、ニルファ総佐。本日付で、彼女はまた予備役に入った。理由は……


『皆様、我が妻をこのように良くしていただき、感謝の念に絶えません。なんせ私と結婚していなければ、日本に定住してもいいと言い出す始末ですからな。ははは』


 そう話すは、サイヴァル・ダァント・シーズ イゼイラ星間共和国議長。

 ニルファは本日をもって、共和国議長ファーストレディとしてサイヴァルを愛し、支えていくのだ。これが彼女の新たな仕事であり、義務でもある。


「私も、こんなに名残惜しい気持ちは初めてです。またいらっしゃってくれますよね?」


 柏木も涙目で、でも笑顔でサイヴァルとニルファの手を握る。


『ハイ。必ず……サイヴァル? 貴方が政治家を引退したら、コッチに住みましょうよ。ね』

『そうだな、それもいいなぁ』

「はは、その時はみんなしてお待ちしていますよ」


 彼女らなら、恐らく本気でそうするかもしれない。

 

『ウフフ、でも人工亜惑星も来ましたし、まだ少し時間かかるデスけど、遠いというようなトコロでもなくなりました。外交案件でまたいらっしゃる事もあるのではないですか?』

『確かにフリンゼの言うとおりですな。いずれまた来ることもありましょうし……』

「ええ、それ以前に私が仕事でそちらへお伺いする機会も増えるかもしれませんしね……」


 そう。もう天上人を見上げて、帰還するサマを見送るようなことはもうないのがこれからの日本。

 ティエルクマスカ連合を構成する立派な一国家である。これは柏木に限らず、今後日本政府の役人は、どんどんとイゼイラや他ティ連国家を行き来する時代がやってくるだろう。


「……そう考えると、今は皆さんをこうやってお見送りしますが、このお見送りが我が国にとっての壮大なスタートになるのだと思います」


 そう柏木が言うと、二藤部もその言に続き、


「柏木先生の言うとおりですサイヴァル議長。我々の関係は、ここからが本番です……正直申し上げて、はは。また数週間中にお会いするでしょう」


 するとマリヘイルが


『アラアラ、ファーダ・ニトベ。これでは涙に泣きぬれてという惜別の情もあったものではございませんわネ』


 と言って二藤部を笑って揶揄すると


「そうだぜ総理。ニルファ女史がご帰還なさるってのに、風情も何もありゃしねーじゃねーか。柏木先生の目頭が熱くなったのも無駄になっちまう」


 三島も爆笑してそれに賛同する。


「はは、いいじゃないですか。いや、ソッチのほうがよっぽどいいですよ。うん、そうですね。今後は仕事で、まるで米国やヨーロッパにでも行く感覚でそちらに伺うことになるかもしれないんですから」


 その通りだ。

 確かに互いの距離は五千万光年もある星同士。でも技術がその距離を感じさせないものにしている。

 そんな関係である。この認識が深まるにつれ、このような会話も昔懐かしいと言われるような言葉になっていくのだろう。確かにそれは確実に言えた。


「……それと、マリヘイル議長も、『い・ろ・い・ろ・と』有難う御座いました」

『ア、ケラー、その間の空いた言い方は何ですか? 何か仰りたいことがござまして?』

「いえいえ、それはもう壮大な式をあげて頂き感謝の念に絶えません。壮大過ぎて今後色々心配ですが。な、フェル」

『ソウですよぉ、ファーダ。私なんかイキガミサマ確定コースですぅ。ドウシマショウ……エーン』


 まま、確かにマリヘイルさんの式は……プロパガンダ色丸出しであったような気がしないわけではないが……


『オホホホ、いいではないですか。コレでお二人内外ともに現在の関係を知らしめたわけです。その点で言えば、貴方がたお二人は、ある意味今後のティ連世界と聖地ニホン国とのありようを象徴するものですヨ……離婚なんてことになったら承知しませんからね。ウフフフ』

「あ、そこで私だけ見ますか?」


 すると三島が「マリヘイル」をフォロー


「こういうのは、野郎が原因と、まぁ大体相場が決まってるんだよ先生。な」

「あ、なんですか三島先生それ。男性差別っすよ男性差別」

『デハ、マサトサン。私とミィアールする以前の、シエとの関係を説明してくださイ。疑わしいところ多々ありますでス』

「いやフェル、なんでそんな話になるんだよ」


 そんなアホみたいな話に諸氏笑いも絶えず。

 ニルファも笑顔で、心穏やかに日本、そして地球を去ることが出来るようだ。

 そしてサイヴァルが「最後に」と柏木の肩をがっしりと取って頼むこと。


『ではケラー。ナヨクァラグヤ帝のニューロンデータシステム一式。ヤルバーンシステムに連結させました。ここに置いていきますので、よろしくお願い致しまス』

「はい。その点はヴェルデオ知事からも承っております。でもいいのですか議長。日本政府の人間である私に、かのデータ管理権を与えるなんて……こういう言い方もなんですが、イゼイラの大切な遺産でもあるわけでしょう」

『ソウです。そこですよケラー。「こういう言い方」の部分……彼女はもう一個の人格者デス。従って人である限り、やはり親しい者のそばにいるほうが良いに決まっています。そう考えると、彼女の心が安らぐのは、やはりこの国にいる事なのでしょう……そう考えると、我々イゼイラ人は、彼女の本体を持って帰るという選択肢をとることができませン』


 家族、友人、仲間を大切にするイゼイラ人。彼らの倫理観からみれば、そういう結論になるということだ。その理屈を聞かされると理解もできると柏木は納得する。

 確かに彼女のドローンとなっている仮想生命素体と、本体のニューロンデータシステム一式は、量子通信で繋がっているのでイゼイラにシステムがあろうが、ドローンを通したナヨ帝自体の存在は変わらないわけなのだが、人の気持として、そういう問題でもないのだということだ。

 イゼイラと地球の間でも、「会う」だけならゼルルームで会える。

 実際サイヴァルとニルファはそうしてきた。しかしそこに「在る」ということの価値は、それとはまた違うものだ。

 サイヴァルはその点が人として、やはり大事なのだろうと話す。

 その話を聞いて、やはりイゼイラ人の倫理観は素晴らしいものだと改めて思う柏木。

 そうまでいわれては、任せなさいと言わないと男がすたる。


 ……そして別離の時。


 最後の固い握手を交わし、黒塗りトランスポーターに乗るサイヴァル夫妻にマリヘイル。

 ロボットスーツ・デルゲードにパトカー、白バイが列なして出発する。

 警護の警察車両がサイレンを鳴らし、彼らは官邸から去っていった。

 キャノピーの向こうで手を振るニルファの目。やはり少し……名残惜しさが見て取れた。

 トランスポーターは、外務省本省前を通って羽田に向かう。

 外務省では職員総出で、両議長を見送る。

 本省前の道路に出て、手を振る職員達。

 その中には白木に新見……そしてナヨ帝がいた。

 ナヨ様は、公式にはイゼイラの旧皇族でフェルさんの従姉ということになっている。なので大層に扱えないという辛いところがある。

 なので、外務省から彼らを見送った。

 マリヘイルとサイヴァルに視線を合わせるナヨクァラグヤ。大きく首を縦に頷く。

 両議長も頷いて返す。そして笑顔。

 車列を後ろから見送る諸氏……彼らは一路羽田空港へ……





 ……………………………… 

 




 柏木大臣はその後も忙しく、帰還するティ連各国代表を見送るために彼も色々と各地を飛び回る。

 もう今日だけで柏木とフェルは二十回ぐらい転送させられたのではなかろうか。

 各国中央艦で待機する代表に首脳と見送りがてらの短い会談につぐ会談。

 無論そんな量を柏木とフェルだけでさばける訳ないので、二藤部や三島に春日と手分けして対応する。

 サマルカさんところには、白木にドノバン大使とデュラン国務長官が助太刀を買ってくれて、政府代表のフェルを含めて四人で見送りに行ったという話。


 フェルと仕事を手分けした柏木は、特危自衛隊双葉基地のカグヤにいた。

 カグヤは現在、任務がない間は特危自衛隊周知のために、一部船内を開放して福島県の観光資産として活用している。

 大好評だったカレー祭りの影響もあって、カグヤ見学コースには連日の行列。平日休日関係なしの状態だった。

 この見学ツアーには外国人の入船制限も特になく、カグヤの食堂やサロンには、いろんな国の外国人の姿も見て取れる。

 今日は、件のEnterprise計画の参考にと見学に訪れたNASAとNORADスタッフが、サロンでくつろいでいた。

 そんな彼らの前に顔を出す柏木大臣。笑顔で皆と握手で一言二言。


 今、このカグヤ見学コースで最大の人気コーナーが、甲板上に堂々と展示してある『旭龍』に『旭光Ⅱ』だ。

 この二機の人気は絶大で、ミリタリー系雑誌などでも常に取り上げられている。

 でもって、特危は有名模型メーカーに意匠権を無償で契約提供して……

 静岡県焼津市の模型メーカーから旭龍と旭光Ⅱにヴァズラーを販売。

 静岡市駿河区の模型メーカーからは、シルヴェル・ベルクにデルゲードを販売。

 黒歴史が多い、かの有名エアガンメーカーからは、粒子ブラスターの電動ガンが発売されたり。

 東京都台東区のメーカーからは、カグヤにティ連の宇宙艦艇シリーズを発売するなどして、特危や連合防衛総省の国民周知を図ったり。

 これら模型はカグヤのPXでも販売されており、カグヤPX限定モデルは人気のお土産となっている。

 

 と、そんな話もある中、柏木は目的の人物と、別れの挨拶を行ったり。


『ヤア、カシワギダイジン。待ッテイタゾ』


 ダストール総統のシエパパガッシュだ。


「申し訳ありません。ちょっと遅れましたか?」

『ナンノ。ダイジンノ多忙ハ理解シテオルヨ』


 そしてもう一人。


《ガッシュ総統が柏木大臣と会うというので、私も便乗させてもらいましたよ》


 デヌだった。

 ガッシュにデヌ。またこれはなんともすごい組み合わせであったりするわけだが。


「いやはや、お二人も。我が国を楽しんで頂けましたか?」

《正直なところを言うと、もう二~三ヶ月、ゆっくりしたいところですな》

『イヤ、デヌ長官ノ言ウトオリダ。コレハヤハリ、ルメアモ連レテクルベキダッタカ?』


 まあ、ダストール人はいいとして、このザムル族が日本社会で割とすんなり受け入れられたのは幸いだった。確かに彼らの容姿はかようなものではあるが、言葉が通じて紳士的であるのが評判高かったようだ。

 そして、意外なことにザムル族は美術芸術に造詣が深く、日本観光していたほとんどのザムル族は、美術館や名所旧跡にその足跡を集中させていたという。


《特にあの「ヒメジジョウ」という城塞は特筆すべき美しさだった。あの建造物はそのまま持ってかえりたいぐらいのものですよ、柏木大臣》


 日本人でも白鷺城の異名を持つ姫路城は誰しも素晴らしいと思う。なんせ国宝で世界遺産だ。

 それをそのまま持って帰りたい=データに取ったという事だろう。

 もしかしたらザムル本星のどこかに姫路城が建つかもしれなかったり。


 そんな雑談をしていると、シエと多川がやってきた。

 

「おまたせしましたお義父さん。デヌ閣下も」

『ナカナカニ、撮影会ガ長引イテナ。スマナイ』


 今日はカグヤに訪れた小さいお友達や大きいお友だちのために、シエさんは旭龍バックに撮影会へ駆りだされていたりする。これも立派なお仕事だ。

 多川は一佐なのに、チケット販売員をやらされていたり。

 大見や、リアッサはそれで大忙しだそうな。宜しく言っておいてくれと頼まれたという話。


『ターリィ。近いウチニ、一度ダーリント国ヘ帰ルガ、私ハコノニホンデ暮ラシタイト思ウ。ソシテ、ダーリント、コノ国へ骨ヲウズメルヨ』


 そう。シエの決心はヤルバーンに住むのではなく、この日本に住むことだ。無論それは将来多川の伴侶として、という意味もある。


『ソウカ、ワカッタ。ソレモヨカロウ。娘ガ嫁ニ嫁グノハ、普通ノコトダ』

『ベイルニモ、詫ビヲ入レナイトナ。ソレモ含メテ、一度帰ルヨ』


 頷くガッシュ。でも、彼らの社会で考えると、シエが多川とくっついてくれたおかげで、ある意味ロッショ家の政治的な問題も解消されたのは確かである。

 ベイルという男子が家系を継いでくれたおかげで、ロッショ家は、他家の影響を受けずにすむ。

 普通ならここで骨肉の争いが起こったりするのが、ダストールでの女性家長問題ともいうべき話なのだが、シエはそういう点頭が回るだけに、色々考えていたのだ。

 で、心から好きになれるデルンを捕まえたので、万事解決。

 ガッシュからしても、出生が確かで身分もある落ち着いたデルンが相手だということに安心感もある。

 実のところ、口に出しては言わないが、ガッシュも女房のルメアも相当に多川へ感謝していたりするのだ。ただ、問題もあるという。


《多川大佐》

「? は、何でしょうデヌ閣下」

《フフ、これでシエ嬢はその容姿も含めて、ダストールでは人気のあるお方だ。その心を射止めた貴方は、ダストール政治に関連するデルンどもの標的となるのも確実ですぞ。ははは》

「は? ど、どういうことですか?」


 つまり、恋敵がたくさんできるということだ。

 覚悟したほうがいいという話。


「げ! マ、マジですか!? まさか決闘制度なんてないよな、ダストールに」

『クククク、私ヲ守ッテネ、ダーリン』

「いや、守るって……俺は機動兵器専門だぞ。白兵戦はシエが専門だろぉ。俺が守ってもらうほうじゃないのかぁ?」


 そんな話に大笑いな諸氏。

 楽しくも、最後の語らいはここまでだ。


『デハ、カシワギダイジン。オマエモ近イウチニ、我ガ国へ来ルコトモアロウ。ナンナラ、新婚旅行デ、ダストールモ悪クナイゾ。国賓トシテ迎エサセテモラウ。フェルフェリアトイッショニ我ガ家ヘ、アソビニキタマエ』

「ありがとうございます総統閣下。その折は是非」

《それはザムルでも同じこと。我が国にも是非、立ち寄っていただきたいですな大臣》

「もちろんですデヌ閣下。その時は必ず」


 と、ここでも名残惜しく、別れの儀式が行われる。

 甲板には、デロニカと、ザムルの、カブトエビ型の宇宙船が待機していた。

 ガッシュはデロニカへ。そしてデヌはもう片方へ。

 腕を振り、触手を振って諸氏機内へ搭乗。特危陸上科隊員が捧げ銃で彼らを送る。

 観光に来ていたお客さんも、手を振り別れを惜しむ。シエもなんだかんだいって最後はターリィに抱きついて、涙する始末。こういった感じのしおらしいシエも魅力的だ。


 二機の宇宙船は、カグヤ甲板からフっと浮くと、即座に高度をあげる。

 双葉基地で待機していた旭光Ⅱとヴァズラーが護衛につき、デロニカとザムル機を中央艦までエスコートする。

 それを見上げる柏木にシエ。そして多川。


「よお柏木。ご苦労さんだな」

『カシワギ、久シイナ』


 後ろから声かけるは大見とリアッサだった。

 

「やぁオーちゃん。リアッサさん。現場はいいの?」

「ああ、少し落ち着いてきたからな。俺達も向こうで見送らせてもらった」

『クククク、シエノシオラシイ姿モ見モノダッタガナ』

『ウ、ウルサイゾリアッサ……オマエコソ、カシモトハドウシタ』

『ウム、実ハ私モ次ノ休暇デ、彼ノ実家ヘナ。行クコトニナッタ』

「え! そうなんですかリアッサさん」


 お~と、口尖らせて驚く皆の衆。

 だが、よくよく考えるとスゴイことだ。

 フェルと柏木が、婚姻第一号で、おそらく今年の後半。その精がフェルに命中して柏木の両親は孫の誕生に喜ぶのだろうし、シエと多川。リアッサと樫本。田中さんとザッシュ。ヘルゼンと長谷部もそんな関係になっていくのだろう。もうこれは止められない流れである。なんでも最近噂では、オルカスと沢渡が良い関係になっているという話もある。

 このような関係が必然であり、珍しくないという認識。ティエルクマスカ人にはその認識があるので、日本人に恋をする事などは、特段なんとも思っていない。

 初めての意匠を持つ種族ではあっても、容姿の違う種族が当たり前の彼らにとって、その点は全く問題ではない。これが星間連合国家であり、星間連合主権。その真髄ともいえるものだ。

 それを珍しがるという概念も、そのうち日本からも消えていくのだろう……




 ………………………………




 羽田についたマリヘイルにサイヴァル夫妻。

 彼らは陸上自衛隊の栄誉礼を受け、各々連絡宇宙船に搭乗する予定になっていた。

 だが、そこで政府は最後の最後でサプライズを入れる。

 なんと、天皇皇后両陛下が、連合議長とイゼイラ議長夫妻を見送られた。

 前もって何ら知らされていない三人は驚き、感動する。

 両陛下の前で、膝を深く折るティエルクマスカ敬礼。彼らにとって、それが銀河辺境の、いち地域国家の皇帝であっても、その歴史と権威には純粋に敬意を表する。それはティ連では当たり前の倫理観。

 しかも聖地と彼らが呼んだ国の皇帝だ。更に言えば、ティエルクマスカ世界でも……いや、宇宙を探してもそうそうないだろうと言われる一千年以上の家系を持つ家柄の皇帝が見送りに来てくれたというのだから、それは彼らの帰還最後を飾るに相応しい光景と相成った。


 なんでも元々は調印式への出席ができなかったので、最後に見送るというこの計画は、陛下自らお考えになっていたという話。なかなかに、なかなかな陛下であらせられる。

 マリヘイルとサイヴァルはしばし今上天皇に皇后と言葉をかわす。

 二人が驚いたのが、両陛下が非常に精死病を心配しており、その根治を喜んでいたということだ。

 そこは今上天皇も一流の科学者である。その点だけでも、フェルの家柄、ヤーマ家や、ナヨ帝のヘイル家の家風に似たところがある。その点だけでも価値の共有はできようものだ。


 三人は、最後にこういった気遣いをされて大満足な様子で、連絡船に搭乗。

 空港からも見物客が、やんやの喝采。イゼイラの旗と、日本の旗。連合旗を振って見送る。

 マスコミもカメラの砲列を作り、彼らの帰還を情緒的な表現を駆使して報道する。


 柏木や、二藤部達がなぜに首相官邸で彼らを見送ったか。

 まま、言ってみれば今上陛下の作戦を聞いていたからである。そんな感じ。

 実際、各国家の代表が帰還するわけで、アホみたいに対応が忙しいのは事実。それでもやはり内閣総理大臣。副大臣。柏木真人という大臣。フリンゼ副大臣とは面通ししたいという国は多いわけで、そこで陛下が助太刀を買ってくれたわけである。

 連合議長と、交渉担当国議長の帰還を見送るのに、これ以上の人物はいないだろう。

 実際、手が回らないところは、皇太子殿下や、親王殿下他、皇室関係者が回ってくださっているという。

 これだけでも日本の皇室とその権威が如何程のものかわかろうものだ。

 見送ってくれる人物が、かような立場の存在だと、やはり送られる方は気持ちのいいものである。

 これが逆にイゼイラだと、サイヴァルや旧皇終生議員が、同様の形式をとってくれるのだろう。イゼイラの民が共和制に国が移行した後も、皇族の威厳を残したかった理由が良く分かる話である。


 …………そして彼らは各々中央艦に帰還していった。

 


 

 ………………………………




 各国中央艦は帰還人員の乗船を確認すると、機関を稼働させ、上昇体制に入る。

 船体の機関スリットに綺羅びやかな光を纏って上昇準備にはいる各国の巨艦達。

 

『我々はティエルクマスカ連合調印艦隊。私は艦隊旗艦「ティエルクマスカ」司令にして、連合議長マリヘイル・ティラ・ズーサです。私達は地球時間にして約一ヶ月と半分。惑星地球、地域国家日本国と正式な連合加盟調印を行い、ここに我がティエルクマスカ連合の新たな仲間として、ニホン国を迎え入れ、帰国できることを誇りに思い、我々はこの星を立ちまス……私達は今、この地を離れますが、同時に今後はヤルバーン州を基幹として、連合銀河とこの地が、気軽な旅行先に行くかのごとく繋がっていきます。その時は、私達の今日育んだ友好が、人という形になって、貴方がたの国に尊崇の念を持って連合各国の国民がお伺いすることになるでしょう。更にはこの星からも、我々の銀河へ足を運び、その人生において何かを成す方々も、多々生まれることと思います……このような因果の繋がりが大きく広がり、ニホン国、そして我が連合と、加盟各国の飛躍を確信し、今はこの地を去ります……ニホン国民のみなさん。では、またお会いする日まデ……』


 マリヘイルのそんな別離の演説が、全周波数帯の電波に乗り流される。

 対象は日本国のみだが、サマルカと関係を持てた米国や、柏木夫妻の結婚式の招待を受けた世界各国の代表や、国民もこの放送を聞いたことだろう。

 各国がどう思うか? 今やそれはもうあまり意味を成すものではなくなった。

 大きな大きな意思と一つになった地球の一地域国家日本国は、まず間違いなくこれまでのような国ではいられなくなるのだろう……そう、変わるのである。


 

 各中央艦は上昇を開始する。

 高知県沖太平洋上からは、ダストールのヴェッシュ・セド・バウラーが上昇を開始した。

 瀬戸内海からは、パーミラのベントラ・ジェント・ジーンが。

 新潟沖からは、ザムルの『意思と栄光』が。

 本州長野地方からは、ディスカールのサラダン・デ・ディスカールが。

 北海道石狩湾沖からは、カイラスのサーフェルーシェが。

 沖縄県からは、サマルカの中央セクター001700が。

 大島~三宅島近郊の超巨艦 ティエルクマスカも上昇を開始した。

 


 そして、ヤルバーン州の転送ステーションで……


『サンサ。お土産は持ちましたカ?』

『はいフリンゼ。えっと、カレーセットにラーメンセット。オマンジュウに、ツクダニと……』

『忘れ物はナイですね』

『はい。大丈夫で御座います』

『ウン』


 フェルはサンサの帰還支度を念入りに確認する。


「ではサンサさん。イゼイラへ帰ったら、侍従さん達に、くれぐれもよろしくお願いしますとお伝え下さい」

『ハイ、エルダラダイジン様。お言葉通り』

「サンサさぁ~ん……そのエルダラは勘弁して下さい、頼んますぅ~」

『アラアラ、何をおっしゃいますやら。そうなってしまったのですから仕方ないではないですか』


 そんなアホな話をしていると、サンサの側に付き添う二人の男女。

 その柏木達の姿に笑っていた。


「では、田辺さん。第二大使館の大使職。よろしくおねがいします」

「はい。もう今からドキワクで、興奮ですよ」

「ははは。ターシャさんも、大丈夫ですか?」

「ダー。マサカ元ロシア人の私も同伴していいなんて思いもしなかったデスから、私も興奮しっぱなしデスね。お腹の子も、向こうで生むことにナるでしょう」


 そうなっても、イゼイラの医療技術をもってすれば安産間違いなしである。


「はいそうなりますね。それとターシャさんと田辺さんの宇宙経験と、専門知識は貴重ですから、よろしくお願い致します。あと……サンサさん」

『ハイ。ファーダ。ニホンからの技術派遣員の方々デスね』

「ええ。そちらも」

『お任せください。委細心得ております』


 この会話からもわかるとおり、なんと、田辺・ターシャ夫妻が、日本国第二大使館大使の職を、とりあえず三年間を目処に買って出てくれたのである。

 更に政府はサイヴァルとの約束を果たすために、日本からイゼイラ、そしてティ連各国へ派遣する『地球―日本国技術教導派遣団』を組織。

 定年退職後の元技術者や、現役の技術者。気概のある伝統工芸技術者等々。

 これらの技術者や科学者を募集したところ、うなるほどの希望者が殺到し、予定人員に対し、倍率が五〇倍ということになってしまったという話。

 田辺が団長。サンサとターシャが副団長ということで、これも三年を目処に、ティ連各国へ発達過程文明の知識と技術伝授を目的に、その任をこなす。ただし、これには特典が付いており、もし向こうの世界が肌に合えば、永住してもらってもかまわないとアナウンスしていた。

 その際は、各国が生活一式を完全にサポートしてくれるという事である。

 実は老後の関係で、応募した引退技術者も多いという話。中には所謂重病疾患を患っている人もいて、ついでで向こうに行って治療してもらおうという人もいるそうな。

 そういう目的もあって然るべきなので、そこは政府も追求はしない。


 とそういう感じで、サンサとフェルに柏木は、固く抱擁。

 これからは定期便も往来することになろうということで、笑顔で別離。涙は程々に。

 田辺夫妻とも固く握手。ターシャとはロシア式にハグなんぞ。両のほっぺに軽くキス。

 ヤルバーン転送ステーションから転送され、手を振りながら消えていくサンサと田辺夫妻。

 日本人の団体さんは、もうすでにイゼイラ共和国中央艦 ディルダー・イゼイラで待機中だ。

 

 転送ステーションの窓から、ヤルバーンに隣接するディルダー・イゼイラを眺める柏木とフェル。

 サンサ達の乗艦を確認したのだろうか、ディルダー・イゼイラの機関部スリットにもキラキラと光が舞い、上昇を開始する。

 手を振るヤルバーン州スタッフ。柏木とフェルは、ディルダー・イゼイラを互いの頭をくっつけて、肩を取り見送る。

 

「はぁ~……とりあえず、終わったね。フェル」

『ハイですね~ 大変なお祭りでしたデス。ウフフ』

「いや、ほんとほんと。あ、そうだ、あとでナヨ様とも、今後の生活の事で話をしないとな~」

『ソウですね~……でも、そっちはあんまり心配いらないかモでス』

「は? なんで?」

『ケラー・ニイミにお任せしとけばいいですヨ』

「新見さんが?……ウソ、マジで? フリンゼ様」

『よく知りませんガ、ニーラチャンの情報デス。エルダラサマ』

「はぁ~……変わってんなぁあの人も……仮想生命だぞ……」

『ウフフフ。どうなりマスやらデスね~』


 まったく……その通り……





 地球に降下した中央艦は、来た時とは違って、各艦日本国内にいる各々の場所から、機関スリットに光を蓄えて上昇を開始する。

 キロメートル級の船が日本中から上昇していく姿は、マスコミ的にも絵になる。テレビでは、中継画像を切り替えて、その様子を映し出していた。

 手を振る日本中の国民達。その姿が見えているのかいないのか、それはわからないにしても、手を振って彼らに示す国民の意思は重要である。だから、見える見えないなんてのは、この際関係ないという事。

 ヤルバーン州の外が見える場所からも、今回の定住希望者達が、涙して自分達を連れてきた船を見送る。彼らも手を振ってこれからの新天地に思いをはせる。

 唯一サマルカさんは、こんなの慣れっこなのか、すまし顔だった。


 外交調印艦隊。

 最後に主要地球世界各国の言葉で「日本の皆様、地球世界各国の皆様さようなら。また会いましょう。日本国の皆様。次は皆様がティエルクマスカへどうぞ」

 と繰り返し電波で二〇分ほど流しながら、艦隊は巡航宙域速度でゆっくり加速しながら地球軌道を離れていく。

 月から約五〇万キロほど離れた場所で全艦、地球文化圏領域線にある人工亜惑星レグノスへ向けてジャンプ。一光年前後の距離など、彼らにとっては家から近所のスーパーマーケットまでのような距離だ。

 レグノスの稼働状況確認の意味も踏まえて、冥王星ゲートを飛ばして、レグノスから直接各艦本国へ飛ぼうという段取りらしい。


 祭りの終わった地球軌道付近。

 空に輝く月は、いつものぽっかりとした白さで、ウサギがそこで餅をつく。

 普通の日本な夜空にまた戻った。

 煌びやかなアクセサリーをまとった月もいいが、日本の夜空は、ままこういうものである……

 



 ………………………………




 ……そして、彼らにはまたいつもの日々が戻ってくる。


 客観的に見れば、それは毎度のことながら「よくもこんな仕事やってるな」と思われるのが彼らであるが、彼らという主観で見れば、これがもう『普通』なのだ。

 

 所謂『慣れること』即ち『順応』であり『適応』である。

 人間慣れてしまえばそれが普通になる。


 警察が、悲惨で吐き気を催す殺人現場に出くわしても、彼らにとってはそれが日常の仕事な世界であり、適応した職業であり、それが普通なのである。

 自衛官が銃を持って戦闘訓練をし、何百万円もする武器を扱う訓練をやって、何億円もする戦車や何十、何百億円もする戦闘機を駆って地を駆け、空を舞う非日常的な姿も、彼らにとっては『普通の日常』なのである。


 客観的に見て、どえらい事件や、体験談も、こういった主観者からみれば普通なのだ。

 柏木真人がゲーム屋をやっていた頃の世界は、所謂世のマニアやオタクからみれば、羨望の世界であったのかもしれないが、時の彼にとっては極めてリアルが常にある普通の世界だった。

 それが、急にとんでもない方向へ因果の軌道が切り替わり、ビックリドッキリな世界に放り込まれて、今やそれすら普通になった。いや、普通どころかそんなのを嫁にもらってるわけなので、なんともかんとも。

 挙句に彼に引きずられるように、周囲の人々もそれが普通である世界になっていく。

 押並べて世は事もなし。それが彼らの日常。





 皆の、ある日の日常。その情景……





 国際情報統括官 新見貴一は今年で四七歳。五〇に片足突っ込んだオッサンであるが、五〇といえば、実は男が一番かっこよくなれる年齢なのも確かである。

 仕事であれば、役職的に、そして経験的に所謂リーダーと言われる年齢がアラファイブ。

 新見という男。はっきりいえばシブイ男だ。紳士的で、外務官僚とは違った独特の雰囲気を兼ね備えている。

 そんな雰囲気が、国際情報統括官室を支えてきたというイメージ、それはイコールだ。


 そんな新見も所謂人間であって、かの時のゼル会談で見た、あるホログラフに写った女性の魅力に心奪われたところは確かにある。

 で、そういうのもあって、彼らしくない『職権』を使って、そんな人物と日々を過ごすという……彼もある種『変わり者』であった。


「キイチ?」

「はい、何ですかナヨ様」

「この『しろわいん』といえる酒と『あかわいん』といえる酒は、等しい『わいん』といえる名が付くのに、なぜこくも色が違えるのかや?」


 ネイティブで、所謂古い日本語で話せるのが気持ちいいナヨ様。今日は翻訳装置を切っての会話である。


「なるほど。それはですね、地球原産の葡萄という果実を酒にする過程で、皮ごと作るのが、赤ワインで、中身のみを絞った果汁から作るのが白ワインというのですよ」

「成る程成る程……妾はどちらかというと、このしろわいんが好みじゃ。これを買うて今日の晩餐に添えるとしましょえる」


 ナヨサマ。スーパーマーケット初体験である。いかんせんナヨの感覚では、こういった店は個々の販売主が軒を並べる『市場』しか記憶にない。なかなかに斬新であった。

 柏木家の宴会で、すっかり地球のお酒にハマってしまったナヨ帝。ワインという西洋酒に挑戦である。

 そのお買い物に付き添うは、新見統括官。その周りにはインカム付けたSPの方々も盛りだくさん。


 ナヨサマの服装。先日ニーラ教授に選んでもらったあか抜けたお洋服。かの月姫が、昨今の若者な服を着れば、こんな感じというところ。

 しかしナヨ帝。彼女のネイティブな日本語は常にこんな感じで、やはりなんとなく偉そうに見えてしまう。でもいつのまにやら新見とも名前で呼ぶ仲になっていたり。

 新見は色々とナヨが現代日本において生活する上で、ナヨの相談に乗ってやったりしていたのでナヨも新見に相当な信頼を置いていたりする。


「さて買をい物は終わりです。今日はキイチの家で、手料理を振る舞ってもらえられるのでしょ?」

「ええ、お約束通り喜んで」


 現代日本の生活がどうにも楽しいナヨ様。かつて望んだ生活が今あるわけだから、当たり前といえば当たり前だ。

 とはいえ、彼女も旧皇終生議員として現在扱われているので、イゼイラ政府からの特別要請という形で休職扱いを解き、ヤルバーン州政府でフェルの従姉設定のまま、州議会議長という役職を与えられて州政府の仕事に付いている。

 そんな合間を縫って、ナヨ様はどうにも気に入った新見を誘っては、空いた時間に現代日本の街を散策したりしていた……と、そんな関係にまで誘導できる新見も、流石は場数を踏んだ統括官である。ゼロゼロナンバーもかたなしだ。

 でも、この新見のおかげで柏木達が楽できるというのも正直ある。

 ナヨ帝は、一部の関係者からみれば、VIPをすっとばした一種の神仏様だ。これをまたフェルと柏木で対応なんてことになったら、それでなくても大変な二人にとってこれまた相当な負担がかかってしまう。

 フェルならば、せっかくできた親族なので率先してというのはあろうが、それと現実の対応は切り離して考えないと、二人がブっ倒れてしまっては何にもならない。

 したがって、ここで新見が入ってくれたのは幸いだった。


 二人連れ添って家路につく。もちろんナヨ帝は水色肌モード。もうこの姿でも普通に街中を歩けるような状況になったのだから、大したものである。

 ナヨさんと新見統括官。意外な組み合わせだが、彼らのそんな日常である。


 新見のスマートフォンがピロリと音を鳴らす。画面に出る名前は白木からだった。


「私だ……ああ白木君。ご苦労さん」

『はは、何を言っているんですか統括官。どうですか? かぐや姫とのデートは』

「おいおい、滅多な事を言わんでくれよ。これも外交事案だ。仕事だよ。フフフ」

『はいはい。そう言う事にしておきましょうか。で、それはそうと、サマルカさんとこの例の空中基地ですが、ベース部分のみ完成したそうです。視察のために私はこれから沖縄に飛びます』

「そうか、さすがに早いなぁ……ハイクァーンか?」

『ええ、そうみたいですが』

「なるほどな。すごいというかなんというかってところか。では現地よろしく頼むよ。私も明日本省で資料に目を通す」


 と、軽く電話で打合せしたあと、ポチと切る。するとナヨ帝が流し目で


「キイチは妾との連なり添う事。仕事はであると申し上げるや?」

「え? あ、いや……ははは、困りましたね。いやはや」

「フフフフ、キイチもおのこよのう。ウフフフ」




 ………………………………




 特務情報官室・室長 白木崇雄は、そんな要件を上司の新見に報告の後、最近首相官邸地下に備え付けられた転送装置でヤルバーン州日本治外法権区へ一端飛び、ヤル研の沢渡や、監査局局長で、現在暫定州議会議員のオルカス他、日ヤ関係者を乗せたデロニカで沖縄へ飛ぶ。


 航空法に則って、比較的速い速度で一時間程太平洋側を飛行する。

 そして沖縄県辺野古沖海上約五〇〇メートルに浮かぶ建設中の日・ヤ・サ・米共同管理の空中基地に到着した。

 基地とはいえ、まだまだ未完成だ。現在は、対角長数百メートルの六角形状ハニカム構造の土台が浮かんでいるだけの状態。

 この土台だけを作る分には、ベース造成データがあるので、早期に建設することができる。彼らにとっては朝飯前もいいところ。造作もないことだ。

 

 建設中基地付近には、海兵隊の強襲揚陸艦と、『DDH-181ひゅうが』が停泊している。

 そこから恐らくやってきたのだろう。基地上には大見に久留米やシエ、リアッサに多川ら特危スタッフと、米海兵隊関係者。シャルリとセルカッツらヤルバーン州関係者が待機していた。


 デロニカから降機する白木。環境シールドがとりあえず効いているので、風に翻弄されるようなこともない。


「やぁ皆さんお揃いで」


 白木はみんなに声をかける。

 米国スタッフは、セルカッツ達サマルカ人技術者の説明を熱心に聞いているようだ。そりゃなんせ彼らからすれば初めての体験である。この空中に浮かんでいるベースの土台だけでも彼らからすれば、万の質問に値する代物だ。

 特危スタッフからすれば慣れたもので、別の場所では特危のスタッフが米軍関係者に説明を行っている。さしずめどういうエリアで何を建設するか解説しているのだろう。


『ン? シラキ。カシワギト一緒デハナイノカ?』

「ええシエさん。今日アイツは予算委員会に出席ですからね。今頃野党連中にイビられてるんではないですか?」

『ヨサンシンギ?』


 すると多川が


「シエ。日本議会の、国のお金をどこにどういう具合に配分するかを決める会議だよ。って、すんなりそんな内容でやってる会議でもないんだけどな」


 と解説をする。

 

『トスルト……確カ、カシワギハ、日本ノ議会審議ニ初参加トイウコトデハナイノカ?』とリアッサ。

『ソウだよ。なんかカシワギのダンナは特権があって今までロクに議会へ出席した事がなかったって話じゃないかい?』とシャルリも。


 みなさんよくご存知である。 

 

「私はあいつがどんな討議やるのか見てみたいですけどね、はは……『柏木ティエルクマスカ統括大臣……』なんて呼び出されて、野党とやりあうってのもね」


 大見が笑ってそんな言葉。


「むはは、あの突撃バカが民生や共連のネチネチした攻撃にキレなきゃいいけどな」

「白木さん、もうキレた柏木さんは御免ですよぉ。魚釣島で充分です」

「はは、久留米さん。ま、そこは今回嫁さんがしっかりしてるから大丈夫っしょ」


 そんな話で盛り上がる諸氏。 

 沖縄の澄み切った青い空に、ティ連技術で浮かぶ天空の島。

 まだ滑走路も建造物も何もないまっ平らな場所で、そんな話で笑いがとれる。

 そんな情景。これが普通の情景。これから続いていくだろう沖縄県の情景。日本の風景……




 ………………………………




「柏木ティエルクマスカ統括担当大臣……」 


 二〇一云年。衆議院予算委員会。国会で初めて柏木の名前が呼ばれる。「おおお……」とどよめく議場。与党からは「がんばれよ!」と声援というか、野次が飛んだり。


 苦笑いで手を上げ起立し、閣僚席から壇ヘ向かう。

 国会予算委員会審議では見慣れた光景だが、テレビの茶の間に映る顔は見慣れない顔。一部の関係者が見たら、まず吹く。

 彼の国会出席免除特権は、基本ティエルクマスカとの折衝等々で時間が不規則になるため、その代行を立てることで国会への審議等々の出席を免除してもらえる特権である。

 いかんせん相手が五千万光年彼方の御方々である。そうそう地球の時間通りにはいかない場合も多々ある。

 だが、調印艦隊による加盟式典というプロパガンダを大々的に世界へ発信した日本。

 ということはすなわち、今全ての日本にいる役所に役人。官僚に政治家が、あますところなくこの銀河連合日本に関する政治的案件に関わってしまうわけで、相応に大変ということなのだが、これは言い換えれば全ての政府や地方自治体の関連部署がティ連との仕事を何らかの形で割り振られることでもあり、幸か不幸か、そのおかげで柏木の仕事量も忙しいながら相応に減るという結果になるわけでもある。

 これによって当然国会予算審議なんかにも出る時間が出来るわけで、相応の時間があれば一応彼も今や公選の代議士様であるわけで、おまけに閣僚職に就くともなれば、予算委員会ぐらいは出ておかないとということに当然なるという寸法。


「……えー、先生の仰る通り、私は昨年、内閣官房参与時代に特派大使として、イゼイラへ赴いた際。確かに特務大佐なる称号を、連合防衛総省から授与されました。それは間違いありません」


 民主生活党の、リベラルで有名な議員が、柏木の回答に意気揚々と責め立てる。


「その称号ですがねぇ大臣。私はてっきり米国にあるカーネルのような名誉称号と思っておりましたけども……色々調べさせてもらいますとぉ、なんと、褒章予備役という軍属であり、しかも連隊規模の軍用部隊を自由に招聘する権限を持つっていう、そんな称号なんですねぇ……大臣、これって貴方、好きなときに現職軍人になれるのと同じということですよねぇ。そんな立場にいる方が、衆議院議員をやって、しかも特命大臣なんて、これっていいんですか? 柏木大臣と総理。それに迦具夜副大臣お答え下さい」

「柏木ティエルクマスカ統括大臣……」

「はい。え~……私が現状、かような称号を持つに至った経緯からかいつまんでお話させていただきますと……」


 日本の予算委員会という物、討議される内容は、衆議院規則92条及び、参議院規則74条において、予算に関連した内容のみと明確に定められている。だが、この予算委員会でやらかすのが往々にして「お前の政治資金がどーの」だとか「お前、路チューしてただろ」とかを野党はやらかして、肝心要の大事な大事な予算審議が前にすすまない。

 各院の規則では、んなこと他でやれという話なのだが、予算とは日本国一年間の政治に関する予算用途を幅広く議論するためという解釈の元、こんな話も所謂『拡大解釈』でねじ込まれ、野党のネガティブイメージ戦略に使われたりするのである。


「……と、かような形で、先方の法的取り扱いの関係上、そうなっているわけでして、当時、私はまだこのような議員や閣僚職ではありませんでしたので、そのままの状態を維持させていただいているわけでございます……」


 柏木が一通り回答すると


「柏木迦具夜ティエルクマスカ統括担当副大臣」


 そう呼ばれるフェルさん副大臣。彼女の場合、吹く大臣ではない。キリとした眦に、フェルさん語が切れ味鋭い。

 「がんばって!」と女性議員の応援野次も議場の華。


『ハイです……エットですね。現状、我が国ハ、すでにティエルクマスカ連合憲章の法的拘束事項の中に組み込まれているデスから、当然連合憲章第三六七条の付帯項目第三項にありまス「連合褒章特別権限の、個別国家におけル制限の分離」の条項が適用サれるデスので、マサトサ……ゴホン。カシワギ・マサト大臣の現状は連合憲章下の日本国法で、違法とは特にナリませんデスヨ。ハイ』


 と、こんな感じ。

 全然予算と関係ない審議が延々と行われる。

 国会審議において、こういった質問は、あらかじめ概要は知らせておく決まりになっているので、二藤部もフェルから教えてもらった連合憲章の解釈で、そんな話は問題にもならないと民生議員の質問を一蹴するように質問に答える。

 すると、ままこういう場面では野次が飛び、怒号が飛んで失礼な質問した奴に失礼呼ばわりされーのと……予算決めろよ……と、ハタから見ていてトホホな話になったり。


「(どうでいご両人。初めての国会審議ってやつぁ)」


 三島がフェルと柏木の耳元でゴニョゴニョと。


「(いやぁ~ テレビで見てるのとおんなじですね。ははは……まさか私が野党さんにイビられることになろうとは……)」

『(ヨサンというオカネの分配をキチンと決めないとイケないのに、なぜアンな無意味な質問ばかりスルでスかっ? ヤトウは何を考えてるですカ)』


 フェルサン。いたくご立腹な様子。

 早くゼイキンの使い道を決めないと、ニホン国民が困るではないかと仰る。さすがは旧皇終生議員。マァ確かにそれはそうなんだけどネ……と解説しなきゃいけない柏木に三島。情けないやら何やら……

 民生の議員が、なんかまた能書き垂れたあと、フェルさん


『私がキッチリあの議員に言ってヤルですヨ』


 プンスカと呼ばれてもいないのに質問に答えようと、立とうとするフェル。

 あぁあぁ、まぁまぁと諌めてどうどうと落ち着かせる三島に柏木。


 確かにフェルさんのご意見のほうが正しい……正しいのだが、それが正しけりゃいいってもんではないのが政治の世界。特に日本の政治。


 まま、これも日本の普通の姿である。

 そこに水色肌で、見事な羽髪の金色瞳なフェルが閣僚席に座る光景。

 んでもって質問に答える風景。


 ……NHKの、この予算審議中継。視聴率がすごかったらしい。恐らく国会中継史上、地上波最高を叩きだしたという話。

 こんな事が起こったのは、かの郵政解散で有名になり突如反原発に目覚めた、かの米百俵総理以来だ。


 桜の花も散りかけて、春ど真ん中な温かい季節。世の中は新年度予算でやいのやいのと、そんな事もあったりと……

 イゼイラ人が、国会中継に姿をあらわすこの状況。

 これが今後の日本である象徴のような国会中継であった……


 なべて世は事も無し……いや、『事』はあるのだろう。

 ただ、それが馴染んで事無しに見える日本という国。


 国会議事堂に掲げられる国旗は、今や二つ。

 一つは白地に赤く。日の丸染めて。

 もう一つは、件の交差三角に赤い銀河の意匠。その真中右寄りに輝く日の丸の旗。

 ティエルクマスカ連合アマノガワ銀河内・惑星地球・地域国家日本国旗だ。

 ティ連連合旗は、通常旗の右寄り真ん中に、各個別国家の意匠が輝く。

 これはティエルクマスカ連合が、ティエルクマスカ銀河の、このようなあたりに位置するからという意味も含めてのこと。

 日本は別銀河な国家だが、そこにいる仲間と同義として、同じ位置に日の丸は輝く。

 この連合日本旗。ヤルバーン州でも掲げられている。

 この日の丸意匠部に、すったもんだとまたあったが、ティ連がこれと決定したのだから仕方がない。

 文句があるならマリヘイルに言えという事だ。



『我が君は 千代にや、千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで』


 古今和歌集巻七賀歌巻頭歌、題しらず、読人しらず。これが日本国国歌の原典。

 諸訳あるが、第二次世界大戦における負の遺産などではない、立派な歴史と伝統ある和歌である。

 

 有名な話で、フランスで、国家の歌詞を改定しようという話がかつてあった。

 なぜなら、フランス国歌の歌詞。これ、実はえげつない内容で「我らの子と妻の 喉を掻き切る!」といった、まま残忍な表現が、子供も唱歌する国家としてよろしくないと、歌詞の改定を考えた時期もあったそうな。

 度々そんな議論もあるが、現在の歌詞を歌い続けているその理由は『これが我が国の歴史だからだ』という立派な、称賛すべき理由。

 つまり国歌や国旗は、単に国のイメージシンボルやテーマソングではなく、酸いも甘いも、苦いも辛いも記録し続けていくレコードなのである。

 なので、歴史と伝統を誇るべき国家であればあるほど、気に入らないから途中でポイなんてのは、決してやってはいけない。

 レコードとは、誇るべき喜ばしき事も、目を背けたくなるようなことも、全てを詰め込んだものがレコードなのである。そして……

 

『銀河連合日本』


 日本国の国歌と国旗に、そんな歴史がレコードされてまれて、各々相応の場所で、ひらりとはためき、歌は詠われる。

  

『君が代は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで』


 この歌は、これからは日本国国歌ではなく『銀河連合日本国国歌』となる。

 恐らく今後日本国が建造する宇宙船に宇宙艦艇。宇宙基地。

 そういったものにも、日の丸や旭日旗がはためき、日本国の歴史をレコードしていく。なのでやはりその旗は、どんな歴史があろうがそれを真摯に受け止められる意匠でなければならないし、歌う国歌も、そうあらねばならない。それが国の歴史をレコードしていく事であり、その象徴なのだ。 


 日本国民はこの詩の価値を、今後どう思い歌っていくのだろうか?


 ところでこの歌の原作者。ナヨクァラグヤ様は、知っていたりするのだろうか?



 


 ………………………………




 さて、所変わってそんな感じの時。そんでもって場所。


 一九四五年。ドイツ第三帝国南部の何処かの街。

 時期は丁度ゴールデンウィーク?


 カカカ……ドドド……と銃声が響き、パパパ、ドーーーンと爆発音が木霊する。

 ザッザッザ、ザザザと小走りに腰をかがめて進軍してくるは、ヘルメットに白い星付けたアメリカ兵。

 黒人もいれば白人もいる。東洋人もいたりして。


「ストップ! 止まれ止まれ!」


 物陰に隠れて、息切らせるは米軍海兵隊員の黒人軍曹。

 手に持つはトンプソンM1短機関銃。


「ミスター・カシワギは向こうから。ミスターシラキはあの建物の二階から。大見中佐の部隊は、あの側溝を下って、敵の後ろに回り込まれる予定だ。中佐の部隊が交戦するタイミングに合わせて私達も突っ込む」

『わっかりました軍曹』

『サーイェッサーっすよ。ヘヘヘ』


 肩に伍長の階級をつけるは柏木真人。テキサス大隊救った日系云世442連隊っちゅーわけではない。

 同じく伍長のミスターシラキ。

 海兵隊軍曹は、なぜか階級上なのに敬語で彼らと話す。


『軍曹軍曹』

「は、何でありますか? ミスターカシワギ」

『トンプソンでの実戦って、本職さんとしてはどうです?』

「いやぁ、正直、頼りないであります。本音を言えば、ミスターの使っているM1ガーランド使いたいぐらいで、はは」


 そんな感じで、和気あいあい。

 と、くっちゃべっていると、ヒョォ~な音の次に、ドカドカドカっと砲撃を食らう諸氏。


『うぉぁっ! キタキタキタ! ヒャッホー!』

『んじゃ軍曹、あの通りぬけたら、水色の変なテレビゲームのネタみたいなドイツ兵、わんさといますからね』

「了解って、俺が上官か。んじゃ糞野郎ども! あのナチ宇宙人どもを皆殺しだ! いくぞ、ロックンロール!」

「いや、この時代ロックなんかないっしょ、ははは……ま、いいか」


 柏木伍長。ガーランドに弾倉クリップを押し込んでガシャリ。


「MOVE! MOVE! MOVE! MOVE!」


 突撃合図に海兵隊員に柏木と白木。さらにはどうみても素人臭漂うへんな米軍戦闘服着た日本人ドモ。


 <☆>→チャララチャ~ラ→<卍>という感じで場面は代わり

 一方、敵対するナチス第三帝国軍ではっ!


『ムフフフフフ! イゼイラの科学は宇宙一ィィィィィ! 出来ないことハないですゥゥゥゥゥ!』


 将校帽に黒いゲルマンな親衛隊制服。白いカッターに黒ネクタイ締めて、腰にベルト。ぶら下げるはワルサーP-38。

 ニッカズボンに膝まである長靴もこれまた似合うのは、何とフェルさんであった。

 何故かノリノリな本日のフェルさん。


『オイフェル。ココハイゼイラデハナイゾ。タシカ、チキュウ時間デ六〇ネン程前ノ、地域国家ゲルマンダ。オマケニ私達ハ当時アッタ独裁国家ノ兵士トイウ設定ダゾ。ツマリ悪役』


 シエさんも将校帽を斜めに被って……制服の腕はまくり上げ、ズボンは御御足出るぐらいバッサリ切って、ブーツが長いだけにとってもエロい。


『ウフフ、ソレも一興デス。いいではナイですか。クジ引きデこうなっちゃったノですから、こういうのもたまにはオツなものですヨ。今日は思い切り敵役悪役やっちゃいましょウ』

『ククククク、フェルモワカッテキタデハナイカ。オモシロイ。デハ、アノ「やんきー」ドモヲ血祭リニアゲテヤロウ』



 ……この人達。一体何をやってるのかというと、実は東京都のとある埋立地に、OGH傘下のITシステム会社が、イゼイラ技術のゼルシミュレータを利用した実習実験施設を建設開発したのだ。

 敷地面積は東京ドーム六個分。メチャクソでかい施設である。

 北海道の演習や、魚釣島事件を参考に、そのIT会社が企画し、柏木が監修。各公官庁や、米軍。アミューズメント企業などに施設敷地を貸し出そうと開発している施設である。

 無論このゼル技術は、かの時供与されたティエルクマスカ原器のゼルクォート技術を利用して開発したものだ。ヤルバーン州の技術者も多数開発に参画している。

 施設としては相当にデカイわけで、この施設を開発した本来の目的は、災害シミュレーションに、中規模軍事演習シミュレーション。アミューズメント等々に使える公共体感型実験施設として使ってもらおうという、そんな施設なのである。

 柏木のイゼイラへ行った際に見た、同様の娯楽施設がヒントとなっている。この資料を見た大森会長が二藤部達に働きかけ、君島やイツツジの協力も得て、建設を進めていたのだ。


 で、本日。試験稼働出来る段階までこぎつけて、今、試験中という寸法。

 早い話がここで『サバイバルゲームやってみね?』という突撃バカの提案で、大森が会長権限で大いに納得了承。件のSNSが全開全力で協力。更には久留米も乗り気で、米海兵に声をかけたらヒャッハーでやってきたという話。

 ということで、今日は階級関係なく……早い話がこいつら試作品で試験という名目で、遊んでいるのである。


『では、妾は西方から来おる軍勢を駆逐してきましょう』


 ナヨ帝様も参加していたり。こりゃすごい話だ。ゼルルームとはいえ、かの月姫のモデルがサバゲーに参加し、しかもフリッツヘルメット被ってゴーグル付け、マントのような外套被って、西側から攻めてくるサバゲーSNS軍団の部隊を迎撃に行くという話。

 しゃなりと堂々とした足取りで、武器も持たずにご出立。

 なんでも、最近開発した必殺技をご披露していただけるという。


 いかんせん強烈な仮想立体造成空間で行われる模擬戦ゴッコであるからして、普通のサバゲーと違い、その戦闘距離もリアルだ。

 突撃ラッパは鳴らないが、スチャラカ米軍部隊はプロに素人混ぜこぜで混戦状態に入る。

 ルールは拠点破壊戦。フラッグ戦ではない『拠点破壊』である。目標の建物を瓦解させた方が勝ち。

 爆薬仕掛けてドカンとやらなけりゃ勝ちがつかない……まぁ普通のサバゲーでは体感出来まい。


 さっそく向こうで交戦状態。土嚢で構築された機関銃陣地から、ピンク色と白のドイツ兵が、ヒトラーの電動ノコギリと恐れられた傑作軽機関銃MG-42をぶっ放している。


『うりゃうりゃーー! かかってこいヤー!』

『ア~! なんともヤカマシイ質量ブラスターね! あ、リビリィ。向こうからも来るよ!』

『ポル。タマ切らすんじゃねーぞ! オラオラー! うひょー、こんな演習もたまにはいいな!』


 対する大森会長傘下のSNS部隊は、軽機関銃BARを抱えて、応戦開始。

 サバゲーで鍛えてはいるものの、基本素人。バタバタとやられていいく。

 

「アラアラ、これは見事なやられっぷりですわね」


 パットン将軍みたいな格好した麗子嬢が双眼鏡片手に指揮棒持って呆れ顔。

 そこにアイゼンハワーのような格好の大森も、双眼鏡持ってご機嫌な顔。

 

「いやはや、やっぱ向こうさんは自衛隊の訓練受けてるからねぇ。こっちゃゲリラ以下の趣味軍団だしなぁ、ぶははは」


 大森も愉快痛快な顔で、ままやられるのもおつなものだと童心に還る。

 気分爽快。リアルとはいえ、基本戦争『ゴッコ』である。五月蝿い事は言いっこなし。


 で、アチラでは因縁に決着がつくかどうかの、宿命の対決が行われていた!


『クックックック……オオミ、ココデ会ッタガ一〇〇周期トイウ奴ダ。ホッカイドウデノケリヲツケヨウ』


 切崩した将校服に、短パン化したズボン。ブーツ履いて、長い御御足がとてもエロいコマンダント・ウィッチ。


「シエさぁ~ん……ドイツ軍は、そんな鍵爪使わないですよぉ」


 M1ガーランドに付け剣して構えるは大見二佐。

 でも、今日は恐らくそんな感じだろうと米軍側も考えていたり。

 シエが大見に襲い掛かろうと踏み出す瞬間。彼女は殺気を感じる。

 目だけアップで、額に稲妻走り、キュピーンな感じで、流し目食らわし、すかさず横ットビでかわすシエ。

 チュン! と地面を弾がはじく。


『チッ! オオミ! 謀ッタナ!』

「久留米一佐。外しましたよー……」

『ピー……アチャ! 俺の狙撃の腕も鈍ったか?……ザッ』


 大見二佐。このお姉さん相手に正攻法で勝てないのはわかっているので、今日は超卑怯者モード。

 アンブッシュしていた諸氏、ワラワラと。

 みんな撃墜マークを所望……ではなくて、件の社団法人も混ざって意趣返しの日。


「という事ですシエ一佐。すみませんねぇ……こんな怨念に付き合わされて、こっちも迷惑してるんですよ」

『フフフフ、ハハハハ! キニイッタゾ。ソウイウ手ヲ使エル男ダッタカ、オマエハ。ヨォ~シ、デハ、遠慮ハイランナァ~』




 ……しばし後、これまたムキュ~な悲鳴が木霊する。

 死屍累累。今回はシエさんの制裁モード発動で、服ぬがされたり、パンツいっちょに剥かれてたり、亀甲縛りで縛られて吊り下げられてたり。

 そしてやっぱり最後は大見と格闘戦。こりゃ当面二人だけのバトルになりそうだ。


 で、場所は変わってナヨ様。

 柏木が招待した仲間たち。所謂SNS軍団が交戦中。

 でも、ナヨ様余裕の笑顔。なぜなら……


「うわ! またガラクタがロボットみたいになったぞ!」

「そんあのアリかよっ!」

「あのイゼイラの人、なんなんだよぉ~ こえーよ!」


 ビビるSNS軍団。

 ナヨ様、そこらじゅうにピピピッと指弾を放ち、ジープやキューベルワーゲン。戦車のガラクタをロボット状の兵隊に構築していく。


『ホッホッホ、これが妾の奥義。機械付喪傀儡ノ術也。いかがかな?』


 だが傍にいる味方のオルカスやジェルデアも引きまくりだった。フリッツヘルメットブカブカなニーラ上等兵も……


『ナナナ、ナヨサマ! それってゼル端子じゃないデスかぁ!! ソ、それはダメ~~!!』


  


 ……戦線が膠着する中、ヤルバーン州軍扮するドイツ軍な精鋭メルヴェン隊と、米国海兵隊は、割と真面目にバトルをやっていた。

 着ている服や装備は大戦中のものだが、技は現代のもの。

 指差しジェスチャーで、CQBを行う。建物一つ一つ確認し、兵を進める。

 無論その間交戦もあり。自衛隊に鍛えられた隊員も多いメルヴェン隊も負けてはいない。一進一退の攻防が展開される。

 ドドド・パパパと交戦し、弾が当たると……血しぶきは飛ばない。被弾箇所が点滅し、バイタル判定。

 戦死判定されたら、目の前にVMCモニターで、ゲームオーバー表示が出て、ロビーに転送される。

 ルールは拠点破壊が目的なので、モルグロビーに行っても、一定時間で転送復帰が可能。暫しの間お茶なんぞ飲んで一息もつけられる。


「おいどうだこっちは!」


 先の軍曹が部下に話す。


「ジャックとウィルソンが転送食らいましたよ。なかなかやりますねエイリアンさんは」

「あのザムル族とかいうエイリアンですか? さっきデッカイフリッツ被って鉄十字の外套着て、触手にエルマベルゲ絡ませてうろついてましたよ。遭遇した時はチビリそうになりましたけどね」

「はぁ!? あの種族さんも参加してるのか!」


 ハァと頭抱える軍曹。

 日・米・ヤの懇親レクリェーションとはいえ、ままとんでもないなぁと遠い目をする軍曹殿。

 彼は湾岸にも行った。東欧にも行った。かの悲劇的なソマリアの無法地帯にも行った。

 そんな現実の経歴を全て否定されているような今の状況。

 どうみても一九四五年。まだまだ黒人が差別されていた頃のドイツの風景。

 モノクロームな写真でしか見たことがない、ジョージ・C・スコットや、グレゴリー・ペックが出てきそうな、そんな風景。

 そこでのレクリェーション対戦相手は、ドイツ兵の格好をした異星人ときたもんだ。

 おまけにこの企画を考案したのが、件のファーストコンタクターだという。

 日本のサブカルチャーも、異星人の力を借りたらこんな風になるのかと。

 これなら、自分の経歴を否定されても……まぁいいかと思ってしまう。


「軍曹! 下がって下がって!」

「ミスター・カシワギ? どうしました!?」

「タンクタンク!!」


 何かに追われているような柏木と白木。


「ティーガーだ!」


 柏木と白木はテッパチ抑えて横ッ飛び。

 ドカっと建物の壁を割って突入してくるは、Ⅵ号戦車・ティーガーI

 パコンとキューポラハッチを開けて、中から顔を覗かすは……パンツァージャケットに身を包み、眼帯をかけた……田中さんだった。


「た、田中さん!? うわ、裏切った!」

「お黙りなさって、柏木様。私のケツでも舐めてなさい」


 はい喜んでといいそうな感じになるが、田中さんはザッシュがいる方に付いちゃったわけで、軽く地球人部隊を裏切った。

 田中さんは、やはりザッシュ君への想いが優先なようだ。愛は種族を超えるのである。

 ドカスカと戦車砲をぶっ放され、一気に戦況不利になるスチャラカ米軍部隊。


「あーもう! やっぱこの時代の戦車はつえーな、柏木!」

「戦車というか、田中さんだよっ! なんであの人、戦車の動かし方なんて知ってるんだ!?」


 白木と柏木がそんな一言。そりゃ対戦車ミサイルもない時代だ。当時、戦車を歩兵が相手するには、せいぜいバズーカ程度の対戦車ロケット兵器が関の山。

 しかも後からゼルエとシャルリにリアッサが田中さん戦車直協部隊を率いて応援にやってくる。

 海兵隊部隊と、特危自衛隊部隊が応戦するが……


『クックック、これでどうだい! とっておきだよっ!』


 シャルリがサイボーグな御御足をガシャガシャ変形させて造形するは……八八ミリPak。所謂対戦車砲。


『そりゃ!』


 レティクル合わせてドカンとぶっ放す。

 と同時にリアッサやゼルエも手に持つStg44アサルトライフルで応戦開始。

 ニコニコ顔で彼らも楽しんでいるご様子。

 だが米軍地球人部隊。この連中の登場で、益々不利になる!


 するとピーガッな音鳴らして拡声器持って話す人物。


『アー、アー…… あめりか軍の皆さんに告げるデス。直ちに降伏するデスよ~。こっちにはセンシャやタイホーがたくさんあるデ~す。もう勝ったも同然ブラッケンですよ~』


 フェルさん背後の司令部な建物から最後通告。

 確かにフェルサンドイツ軍の方が、現状圧倒的有利。

 しかしそんなフェルの勧告に、スチャラカ米軍部隊は猛抗議だ。

 中指上げてクソクラエ! な格好を笑いながらしている者もいたり。


『マサトサン、マサトサン。もうあきらめて投降するデス。今なら優しく尋問してあげるデスヨ~。ムフフフフフフ』


 どんな尋問をマサトサンにしようかと、ニヘラ顔でへの字な目をする親衛隊な格好のフェルさん。得意気に手をピラピラ振って、柏木においでおいでと投降を即す。


「何言ってんだフェル! そっちゃナヨさんの変な攻撃とか、シャルリさんの脚とか、反則だろー!」

『反則じゃないデスよっ、み~んな自分の体の能力を使ってるだけデス。なのでおっけーなのでス』

「あー、そんな言い訳するかー!?」


 するとここで米軍側にも騎兵隊が登場だ。


『自分の能力使っていいなら、こういう武器もアリだよなぁ!』


 レシプロの爆音をたなびかせ、ダダダと地上を掃射するは……


「多川さん! ナイスです!」


 多川の駆る米軍陸軍機。P-51マスタング。


『ヒャッハー! こういう機体もいいな! こりゃ気にいった!』


 別室のゼルルームで操縦席にすわり、この空間で飛んでいる多川。航空戦力の投入は、フェルさんも痛い。


『はりゃー! フィブニー機動兵器を投入しますカ! そうか! ケラー・タガワしかこのメンバーでは操縦できる人いませんものね! ちくしょー! マサトサン、やりますネっ!』


 ムキーなフェルさん。相当悔しそう。

 だが、イゼイラジャーマン軍も負けてはいない。


『ソッチがそうくるなら、こっちも奥の手よ』と、笹穂耳でルフトバッフェな飛行帽のパウル艦長。

『フリンゼ、私達の奥の手を使いますヨ』と、ゴーグルが可愛い飛行帽なセルカッツ。


『フム、アレを使うですねッ!』

『ハイ、我々サマルカが、かの基地での宇宙船残骸から収集したデータにあった、この時代の兵器を再現しましタ』


 その会話を無線で聞いて、「はぁ?」な顔になるマサトサン以下地球人スチャラカ米軍。


『では、パウル艦長、直ちに発進を』

『了解。セルカッツ、いくわよーーー!』


 敵陣後方の建物が、バカっと割れて、そこから姿を現すは……


 ワーグナーな戦乙女のBGMとともに、所謂、ナントカスキー型円盤に、鉤十字。そして鉄十字のマークを強烈に放ち、円盤下部には、Ⅴ号パンサー戦車の主砲塔が逆さまになってくっついてたり。

 フヨフヨという音を立てて、それが浮かび上がる。

 機長はパウルに副機長でセルカッツ。他三名でどうも五人乗りのようだ。


 そのネタ丸出しな機体を見て、柏木の偏った知識が久々に彼をこう叫ばせる。


「ハ……ハウニブーだって!! なんじゃそりゃぁぁぁ!!」


 旧ナチスドイツが終戦直前に計画していたという円盤型超高速飛行物体「ハウニブー」

 ただこんなもの、地球の良い子はみーーんな「月刊○ー」なオカルトネタと思っていた。

 その様を見た多川。ズッコケて思わずラダーを踏み込み、キリモミ飛行しそうになる。

 しかぁし!


「フェルフェル!、ちょ、ちょっと待てちょっと待てぇぇぇ!!」

『なんですかっマサトサン。待ったはナシですよっ!』

「いやいやいやいやいや、なぁにこれっ!」

『何言ってるデスか。アメリカ国のアノ基地にあったサマルカサンの、お仲間と思わしきオフネのメモリーに、このデータがあったですよっ! なのでチキュー製の機動兵器ではないですか。反則じゃないですヨっ!』


 口尖らせて正当性を訴えるフェルさん。


「い、いや、そうじゃなくってって……あれ? もしそうならもっと大変なことに……って……どうなってんだ?」





 ゴールデンウィーク真っ盛りなある日。

 盛大な打ち上げパーティともいうべき、新時代の娯楽に興じる諸氏。

 そんな中で出てきた新たな歴史的事実! いやはや、またこりゃもめそうだと頭抱える日本側スタッフに、状況飲み込めない海兵隊のみなさん。


 SNS軍団は、リアルなハウニブー登場に、ヲタクスピリット全開で馬鹿騒ぎ。

 今、パウル艦長にセルカッツVS多川一佐の空中戦が展開されている。


「こんなの聞いてねーよッ!」

『ガンバレ、ダーリン!』


 シエさんこればかりはダーリンを応援したり。

 あちゃらではこの某を問いただす柏木大臣に、口尖らせて正当性を主張するフェル副大臣の姿……



 まま、平和である。

 いや、平和でないと、できないイベントでもある。

 



 ……時代は進む。

 ……否応なく進む。

 一刻一刻に、因果を紡ぐ何かがある。

 その何かに、これまた因果が引っ掛かり、人と人。種と種。星と星が繋がっていく。

 

 この時代の日本。まだまだ問題もある。

 言わずもがなな隣国の問題。国内にも慢性的な問題、多々ある。

 火星の開拓は、まだまだこれからだ。おそらくここが、日本国大宇宙時代の発起点となり、それは地球世界のそれと同義でもあるのだろう。


 この時代のイゼイラ。そしてティエルクマスカにも、問題はたくさんある。

 出生率の低下に、ガーグ・デーラの存在。そしていまはまだ日本人には理解が及ばない、彼らティエルクマスカ以外の、主権の謎。対峙する未知の国家に組織。

 そんな問題も、流れていく両国の時間と混ざり合い、同じ因果の流れに溶けていくのだろう。

 発達過程文明との接触が、大きく大きく彼らを動かしていく。これは間違いのない事だ。

 互いの文明が知恵を出し合い、解決していくのだろう。

 そんな時代になっていく地球。そして日本。

 それが現実なのだから、そんな事態に知恵で適応するのが知的生命体だ。




 とはいえ、ままそんな未来が見えたとしても……とりあえず今の日本は……



 創造主、因果に知ろしめす。


 なべて世は


 事も無し。








 ――― 銀河連合日本 『 完 』 ―――







 いつも『銀河連合日本』をご愛読していただきまして、誠にありがとうございます。


 さて、2013年10月末から連載させていただいた本作、銀河連合日本も、今話をもって、『ひとまず』終了とさせていただくこととなりました。ここまでお付き合い下さり誠にありがとうございます。


 思えば私自身、小説なんてのを人様にお見せするなんてことが初めてでしたので、実のところ本音を言うと、こっそりと続けていこうと思っていた本作でして、のんびり徒然にやっていこうと思っていたのですが、いざ投稿してみれば、知らない間にあらよあらよと読者数が上がり、驚いて見ていたのを覚えています。

 いやはや、こんな小生妄想爆裂な内容の作品に、ご支持ご支援賜りまして、読者皆様には本当に感謝の念に絶えません。ご愛読有難うございました。


 今回、ネット界隈でよく言われる疑問の一つをネタばらししますと、本作小説で、「ティエルクマスカ連合」や「イゼイラ共和国」という存在が出てきましたが、まま設定的に竹取の何某があるにせよ、何故にここまで日本大好き宇宙人なのかということがよく言われていました。


 執筆当初のコンセプトとして、これというのは、例えば現在日本にある「メタンハイドレード」「レアメタル鉱床」「資源再生技術」といった、この国に眠っている一種の「希望」とでもいうものを『擬人化』した存在であると見ていただければ、わかりやすいのではないかと思います。

 なので、彼らは日本にしか興味が無いのです。なぜなら日本領に存在する資源や財産を擬人化した存在ですから、日本にしか興味がなくて当たり前なのです。


 世間では、このような日本に眠る潜在的な経済的価値を産業にして掘り起こすことができれば、世界の経済パワーバランスが変革するとも言われています。

 ですので、中国は尖閣諸島を狙ってくるわけですし、なんとしても彼らは太平洋へ進出したいわけですね。


 そういったこの国の可能性というものをディフォルメして、SF的に、またファンタジー的に表現してみたかった物語が、この銀河連合日本という作品でした。

 そんな視点で描く物語ですので、その構成もリアルタイムな時事とシンクロさせてやってみれば面白いかなと、そんな感じで、ある意味日々の日記であり、ある種の私というちっぽけな存在の時事論評が、この作品であったとも言えます。


 と、そんな感じで書いていると、キャラクター達も、物語を進ませるにつれ、読者皆様のご意見ご要望も参考にしていくうちに、そんな当初のコンセプトとは関係なく、この物語を彩ってくれたと思います。


振り返って読み返してみれば、まぁよーもこんな妄想爆裂な作品を書けたなぁと自分でも感心するやら呆れるやらです。いやはや、こんな作品に、読者皆様も、よくお付き合い下さいまして、有難うございました。心の底から感謝いたします。


 さて、今回最終回にさせていただいた大きな理由としまして、これまた世の中が妙な方向に向いてきたなぁというのを察しまして、ちょっとここらで一区切りつけようかという感じで、此度筆を置かせていただきます。

 今後は、『外伝』という形で、『不定期に』掲載させていただくことになろうかと思います。

 ですので、物語は今後もこのような形で続いていきます。


 ですので、なろうのシステム的には当面『終了処理』は行いません。


 で、『外伝』ですので、本作の主要人物が一切登場しない作品もありえますし、また、本作に関連した『続き』に繋がる作品もあるかもしれません。そんな感じで書いていきたいと思います。

 で、何時になるかはわかりませんが、そういった本作の未回収な出来事も含めて、ひと通り埋め終わったら、この作品をシステム的に一旦閉めて、『第二部』という方向で考えたいとも思っております。


 そういった形で、今後も宜しくお願い申しあげます。

 とはいえ、まだまだ未定なところでもあります。リアルとの相談もありますし。いやはやwww



 では読者皆様に於かれましては、重ね重ね、本作をご愛読くださまして有難うございました。

 ここで、一旦の終了と、相させていただきたく思います。


 では、外伝でまたお会いしましょう。




 柗本保羽。


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[良い点] やっと本編読み終わりました! 自分にしてはかなり早いペースだったと こんな面白い作品に何年も気づいていなかったとはorz 外伝等まだ沢山あるようなので楽しみに読み進めます。 [気になる点]…
[良い点] 本当に素晴らしい作品でした。メタンハイドレートや地下資源を希望として擬人化させて1つの壮大なストーリーに書き上げるとは、、、異世界ものやSF-宇宙ものの話が好きな私にとって、読んでいてとて…
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