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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
77/119

-52-

『……今、汝ら二人は、創造主ビリュークによって、この愛という名の手枷を架せられました。今後、何時いかなるときも常に因果の鎖であなた方ハ繋がれています。生まれ、死し、時の流れに戻る。時空を流れる魂は、因果の流れに行き着く其の世でまた必ず巡り会うことになるのです。より良き因果であれば、その巡り会いは愛を伴い、悪しき巡り会いなら憎しみを伴うこともあるでしょう。しかしそれでも永久に貴方達は巡り会うのです。それが創造主ビリュークの鎖。創造主の鎖、その因果は如何なる方法をもってしても決して断ち切る事が出来ませン。ですから何時いかなるときも共に助け合イ、共に行動し、共に悩み、共に喜び合う事が義務付けられます。共に今といずれきたる因果のために、二人共々より良く生きていくのです。解りましたネ』


 マリヘイルがイゼイラ賢者の格好で、祭壇の最も高いところから二人にかような言葉をかける。

 フェルが田辺の挙式の際に言った言葉よりもパワーアップしたような説教だ。というのもフェルが田辺達に語った説教は、所謂イゼイラで一般的に行われる結婚式で使われる言葉で、言ってみれば簡易版だったのである。

 これは何もテキトーでやったというのではなく、イゼイラ人なら友人知人の挙式で、賢者の役を頼まれた時に困らないような感じで、一般常識としてみんな知っている文言なのだ。これはイゼイラの初等教育で誰でも習い、暗唱させられる言葉なのである。


 で、マリヘイルが今回二人に語った説教は、所謂その正式版である。


『ガイデル・ヤーマ・ナヨクァラグヤとサルファ・ヤーマ・カセリアの子、フェルフェリアよ。汝はマサトの枷を受け入れますか?』

『ハイです。喜んで受け入れるデス』


 コクリと頷くマリヘイル。

 マリヘイルは柏木に視線をおくり、軽く頷く。

 柏木はそれに頷いて、隣の『賢者の弟子』役の人物から、預けてあったあるものを受け取る。

 ここはスイス製や、機動兵器な名前の高級腕時計といきたいところだが、聖地日本での挙式に外国製は無粋である。従って日本の職人が作った高級婦人物腕時計を見繕って、フェルの腕にはめる。文字板の一部にダイヤがはめ込まれたタイプのものだ。価格は正直いって高い。あえて聞かない方がいい。

 今や大臣様の柏木だから買えるようになった代物である。そこはそれ、そういうものだ。

 ここで、もしまた数万円のソーラー電波デジアナ時計なんて贈っているようなら、本気で周りから袋叩きに遭うだろう。所謂、分相応というやつである。


 フェルさん。その美しいデザインの綺羅びやかな腕時計を付けてもらい、目を丸くしてびっくり。こんな綺麗ですごいもの用意していたなんて思わなかったので、顔を綻ばせて嬉しそうにする。

 付けてもらった腕を恍惚の表情で眺めていた。

 

『では、カシワギ・マサオとカシワギ・キヌヨの子、マサトよ。汝はフェルフェリアの枷を受け入れますか』

「はい。喜んで」


 コクリと頷くマリヘイル。

 するとマリヘイルはフェルの方へ視線を送り、頷く。

 すると柏木は、今持っている物とは違ったデザインのPVMCG。即ちゼルクォートを腕にはめられる。

 その色は白銀色で、ヤーマ家の紋章が深く彫り込まれ、真ん中に青い宝石のようなものがワンポイントで美しく輝き、黄金の貴金属が彫刻の模様やデザインに合わせてふんだんに織り込まれている。以前フェルからもらったものよりも明らかに高級で凄そうなPVMCGだった。

 何やら文字のような物も小さく、そして沢山彫り込まれていた。

 そのPVMCGを見て「これまたスゴイものを……」と心のなかで思う柏木。やっぱりフェルは違うと改めて認識する。

 そんな彼の驚く表情に、フェルが微笑を浮かべてそれを柏木の腕に装着しながら小声で話す。


『(マサトサン)』

「(ん?)」

『(コのゼルクォートは、ワタシのファルンが持っていたものの一つデス……これを差し上げるデスよ)』

「(えっ! そんな……大事なもの、いいいのか? 形見じゃないか)」

『(いいのでス。ファルンも喜んでくれるデスよ。それにこれは「枷」なんですからね。ウフフ)』

「(はは、強力な枷だなこりゃ)」


 そりゃフェルパパの使っていたPVMCGである。フェルに下手な事したら呪いがかかるかも?


『(アト……)』更にフェルハ小声になり『(コのゼルクォートは、エルバイラやフリンゼ用ですから、武装レベルは10で固定なのデス。マサトサンなら、もう大丈夫ですよネ』


 はぁぁぁぁ? と心で訴える彼。

 以前フェルからもらったPVMCGでも現在武装レベル4だ。造成できる武器兵器は、地球基準でいうと、対物ライフルや携帯無反動砲クラスまで造成できる。これも山本らのお墨付きがあって携帯できていた、少々超法規的ではあるが、柏木のボディガード用としての処置であるから許されている。

 しかし……武装レベル10。すなわちMAXともなれば、何が造成できるかというと……

 以前、イミテーションで交換してもらった『ディスラプターガン』――所謂、高周波動分子破壊銃クラスまで造成可能なのだ。

 おまけにハイクォート。つまりハイクァーンのPVMCG版機能までコンパクトに付加されているというとても希少なデバイスらしい。流石皇族専用のPVMCGである。

 もし何かあっても完璧な防護に完璧な反撃。そして完璧なサバイバルがPVMCG一つで可能なように作られているという代物だ。

 無論、フリンゼであるフェルが常時身につけている物も、これと同じタイプのものであったりする。ハイクォート機能はほとんど使わないそうだが。


「(おいおいおい大丈夫かよぉ~)」

『(ウフフフ、大丈夫大丈夫でス。黙ってたらわかんないデスよ)』


 フェルもなかなかというか何というか。

 エルバイラ用ゼルクォート。すなわちPVMCG……こりゃ大変なもの頂いてしまったと苦笑いな柏木。

 山本には武装レベルの話までしていないから、まぁ……いいんかなぁと……

 柏木先生、名実ともに無敵化しそうである。


 

 フェルと柏木の結婚式。

 遅ればせながらの結婚式だが、午前中、伊勢の神宮で日本におわす八百万の神々に、遥か五千万光年先の異星女性と結婚しますとご報告に行ったあと、午後から中央艦ティエルクマスカ大会堂でイゼイラ形式の挙式。しかもイゼイラ皇室様式の儀を行う事と相成った。

 今日は、地球世界の、各国マスコミも、先の調印式同様に取材を許されている。

 すなわち、この式の映像。そしてこの式で起こるいろんな各国首脳代表の動向に挙動。それは逐一世界中の茶の間へ届けられる。

 今日の各国マスメディアは、そのぐらいの対応で望んでいた。


 もうフェルと柏木は、書類上日本でもイゼイラでも婚姻状態にあるわけで、おまけにムフフなラムアの儀も済ませているわけで、言ってみればこの式はティエルクマスカ連合本部と、イゼイラ共和国が、無粋な言い方をすれば『プロパガンダ』として、内外にかような関係が成立したと知らしめる式でもあるわけであった。

 地球のみならず、ティ連―イゼイラとしても、聖地日本の、もう今や大英雄の突撃バカである柏木真人とフリンゼ・フェルフェリアのめでたい挙式で、これで日本とイゼイラやティエルクマスカ連合加盟国が身内になったという感じで、実際イゼイラ本星では行政府前でお祝いのデモが行われたり、花火のようなものが打ち上げられて、イゼイラ国防軍のヴァズラーがアクロバット飛行をしているような騒ぎという感じなのである。


 更には、ティ連中のナヨクァラグヤ信奉者らが声をかけて、各国の創造主信奉者団体有識者らがシンポジウムを開いて、今後柏木夫妻を新たに創造主として加えるかどうかという会議が開かれたりと、柏木やフェルが聞いたら……


「 頼 む か ら や め て く れ 。い や 、 や め て く だ さ い お ね が い し ま す 」


 と言いそうな事態にまで発展していたりする。

 ちなみに、フェルと柏木ら夫婦めおと創造主の認定が現実のものとなった場合、ファバール以降云万年ぶりとなるそうな。




 ………………………………




 さてさて、そんな騒動も目出度きこととなる中、中央艦ティエルクマスカでは式が続けられている。

 フェルと柏木が、腕枷交換の儀……という形式の、腕に巻く物の交換を行った。

 まま言ってみれば、地球でいうところの指輪交換と言う奴である。イゼイラでは指輪ではなく、腕にはめるものの交換がそれにあたる。

 以前の田辺夫妻が行った挙式では、そこは両人とも地球人なので、少々アレンジして指輪の交換という形式にしたが、イゼイラ式では柏木がフェルへ婿入りするわけなので、純粋なイゼイラ式で執り行われているわけである。


 そんな腕枷交換の儀も終え、マリヘイルは続ける。


『さて、本来ならここで互いが抱擁をして、式は終了と相成りまスが、今回は地球世界のミナサマもいらっしゃりますので、諸氏に敬意を表して地球式の仕上げを行いたいと思いまス』


 その変な解説を聞く柏木は


「は? 地球式? なんすか? それ」


 フェルさんはもうその言葉、理解しているようだ。

 マリヘイルが目線で「ホレホレ」とフェルを見ろという。

 視線を戻すと、フェルが目をつむり、唇を「ム~」と尖らせて、準備万端。イゼイラ人はこれが地球人のしきたりと思っているから、別に羞恥心もない。当たり前ぐらいに思ってやっているのだ。

 そのフェルのいじらしい顔を見て、タハハと頭をかく柏木大臣。

 地球側の席から、ヒューと口笛が飛び、何やら野次も聞こえてくる。


 で、フェルと接吻なんぞ。

 柏木はフェルを抱きかかえて、チューとやる……が、軽くチューすればいいものをフェルが知らないものだから、首に手を回して締め上げ、ディープにやらかす。

 どうも何か勘違いしておられるようで、この状態が長ければ長いほど良い事が起こると思っていらっしゃるようだ。

 フェルさん頬膨らませてピンク顔。「><」こんな顔になりながらプゥと柏木の唇に必死で吸い付き、食らいついている。


「ん? んんん?~~」


 ちょっと猛烈な勢いに、思わずフェルの背中を叩いてギブコール。


『ンーーー~~~……プはぁ~…………フゥ~~……ま、まだいくですカ? マサトサン』


 いや、そうじゃなくて……人工呼吸の訓練じゃないんだからと。

 

 その様子を見たティ連側や、地球側の席からは、大爆笑に大喝采の拍手と口笛が巻き起こる。

 シエが当てられたのか、ティ連側の席から安保委員会の席に移動してきて、多川の横にちょこんと座る。そしてさり気なく多川の手を握っていたり。

 まま、他でもそんな風景がチラホラと。 


 さて、地球ではここでウエディングブーケを投げて、女子共がそのブーケの取り合いなんてコミカルな演出もなされるところだろうが、イゼイラの挙式ではさすがにそんな習慣はない。

 以前にもあったように、ティ連―イゼイラでは、かような式のあとは、参加者全員の立食形式パーティが普通なのである。そこで諸氏歓談しながらその場、その日を祝う。

 こういう挙式の場合、主賓はあまり主賓席から動かないほうが良いと言われている。

 このあたりは地球もイゼイラも似たようなもんだ。

 イゼイラ皇室挙式の場合、ここで参加者が皇帝に捧げる祝いの品の目録を、侍従長に名と役職階級を呼ばれて順番に渡し、帝からお言葉を頂くという儀式になるのだが、その習慣の名残で主賓席からあまり動かない方がいいという事になっているらしく、そういう伝統の名残という話。


 いうなればこの立食形式のパーティ。事実上の外交タイムとなるわけだが、イゼイラでも国際会議や祝い事などがあった場合、フェルのお城が迎賓館代わりになってかような立食形式のパーティが行われ、そこで諸国外交合戦が展開されるわけで、これはそんなものである。

 共和制になったイゼイラで、何故に未だフェルが旧皇終生議員で城に住んでいるかといえば、かような国家の権威というものもあるわけだ。

 やはり皇族のような国家の歴史を刻む大きな伝統と権威と、それに伴う物的資産があれば、やはり何もないよりはよほど事は有利に、かつスムーズに進む。こういうところは重要である。

 従って今、この大会堂を見まわしても特徴的なのは、地球側の代表団諸氏はフェルと柏木の方にお祝いの言葉を述べ、そしてサイヴァルやマリヘイルに話しかけていく。そして他の加盟国代表団で、手の空いてそうなのを見繕って話しかけに行く。そんなパターンである。


 ではティ連側の代表はというと、これも最初にフェルや柏木にお祝いの言葉をかけ、次にどういうわけか皇太子殿下夫妻にほぼ全員がお声をかけに行く。それは皇太子殿下の前は列ができるほどだ。

 そして次に二藤部や三島へ。あとは官僚や政治家と歓談。やはりあまり日本以外の外国には積極的に接触を持とうとしない。

 無論話しかけられれば彼らも大人の対応はする。対応はするが、それだけの話だ。

 ここにもやはり一極集中外交方針というティ連特有の外交政策方針が各国徹底されている。

 何があっても、本件外交特権があるのはイゼイラであり、銀河連合加盟国となった日本は、惑星地球のティ連代表国家なのである。

 ティ連加盟国代表は、地球諸外国から何か言われても最後には丁寧に、かつ丁重に『イゼイラとニホン国を通してください』で締めくくる。そこらへんは徹底しているようだ。

 中には魅力的な案件を提示し、ティ連加盟国に興味を持ってもらった国もあったようだが、それでも結局連れ添って二藤部やサイヴァルの元へ行く事になる。

 この連合各国のティエルクマスカ憲章遵守の徹底ぶりは、評価すべきものである。

 地球の国連でこれぐらいの決まりを徹底的に守ることをやってみろと。そう思う官僚達もちらほらと。でも声に出しては言わない。


 今回の招待者中、ティ連としても気を使う招待者がローマ教皇と、チベットの法王そして台湾総統であった。

 ローマ教皇はバチカンのトップでもあるので、ティ連としては他国の元首に招待状を送る事と同じような感じでさほどの問題はなかったが、ややこしかったのがチベット法王と台湾総統で、これまた中国が日本に猛抗議をしてきたのだ。

 だが二藤部は『ティエルクマスカ中央がやることです。知りまへんがな』と言うしかなかった。

 中国も日本にしか文句言うところがないので、毎度の話でクレームを入れてきたのだろうが、別に中国に来てもらわなくたっていいわけなので放ったらかしにしていたのだが、結局張主席は、現在の中国寄りな台湾総統と交友があるという屁理屈でなんだかんだとやってきた。

 法王の方はガン無視状態である。


 一方、イスラム教関係者は、各イスラム国家の法学者を招待国が各々見繕って連れてきている。

 というのも、このイスラム教という組織。所謂バチカンのような教義の明確な総本山がないのである。

 例えば、キリスト教の場合は、概ねバチカンである。仏教の場合は、各国宗派によって総本山は違うが、かの法王とポタラ宮はどの仏教関係者からも尊崇の念を持たれている。

 しかし、イスラム教にはその総本山がない。一般にはイスラム教最高機関といわれているエジプトの『アズハル』が有名だが、これもスンナ派の『自称』最高機関であって、シーア派や昨今の使徒派からすれば知ったこっちゃないわけで、そんな感じになっている。


 と、そんな宗教最高機関関係者も柏木とフェルへお祝いの言葉を賜る。

 ローマ教皇猊下からは


「夫たるものよ。キリストが教会を愛してそのために自身をささげられたように、妻を愛しなさい。夫は妻を、自分の体のように愛しなさい。自分の妻を愛するものは、自分自身をも愛するのです。自分の妻を自分自身のように愛しなさい。妻もまた夫を敬いなさい」


 と、かような聖書の言葉でも賜ったのだろうか、女帝フェルさんも恐縮して頭を垂れてそんな言葉を聞く。


 チベットの法王猊下からは、猊下の明るい性格な、ごく普通なお祝いのお言葉を頂く。特に何か大それたことを言われたわけではない。

 仏教というものは基本『悟ること』が教義としてある。これは『自分がそう思い、それが御仏に対して正しいことと信じ、一心不乱にそれを成すこと』これが大事な事だという教えだとよく言われる。

 葬式などでお経をよく読むと面白いのだが、その内容は大体おおまかに言って……


「この世は虚しく幻で、生きること自体が苦行であり、人の人生、人の世は夢幻のようなものだ。なのでそんなものに必死になって生きても仕方ない。でもその日々の行いは仏様が見ていらっしゃるから、貴方が人々に対して良いと思うことを一生懸命に成しなさい」


 という感じである……少しイゼイラ人の死生観に似ているところもある。

 と、そんな感じのお言葉を二人は賜ったり。

 フェルさんに柏木。合掌して頭を垂れる。なかなかに慣れたものである。


 イスラム教関係者は、これはごく普通にご結婚おめでとうと言葉をかける。

 ここで「慈悲深く、恵みぶかき、アッラーの御名において……」とはやらかさない。

 これは二人が異教徒であるために、アッラーの言葉を語っても意味が無いためである。まま相応極めて政治的意図が強い。


 とまぁそんなところで、もう気疲れすることばかりで、さしもの柏木大臣も少しお疲れ気味。

 フェルと柏木二人に付き添っていたお付きのサポート要員も、二人を気遣って、しばし会場から退席させる。


『カシワギダイジン。フリンゼ、少々お疲れのようですガ……』

「はは、やせ我慢してもしても仕方ないな。いやはや本音を言えばその通りです……ちょっと休憩したいですよ」

『ハイ~、私もこんな沢山のVIPな方々とお会いするのも何周期ぶりでしょうカ。少し疲れましたデスよ』


 そりゃそうだ。フェルはまだいい。柏木に至っては、一年前はただの自営業者だ。

 それが今やこんな地球世界の国家元首クラスに、ティ連の元首クラスがこぞって挨拶に来るような立場の人間になってしまった……おまけに宗教関係者もだ……これは下手なこと言ったら地球を敵に回しかねないということも考えないといけない。こういうことも、これまた大事なことでもあるのだ。




 ………………………………




 さて、こういう挙式では新郎新婦は、地球でも異星でも、一種の見世物になるというのはどうやら共通のようである。

 今挙式では、かような大会堂で大々的に挙式を行ったので、所謂披露宴も兼ねているという寸法。従って『腕枷の儀』が終わったら、自然と披露宴という形で流れていったわけだが、当然ここまで普通でないVIP軍団が雁首揃えてご登場と相成ると、さしもの柏木・フェル夫妻もお疲れになる。少々控室に下がって、服の襟を開けていたり。

 フェル夫人も、流石にあの紅白歌合戦にでも出演しそうな女帝の正装は窮屈なのか、服の造成を解いて、インナースーツ姿でジュースをチューと飲んでいた。


「こういうのは、地球もイゼイラも変わらないね。はは」

『そうデスね~ 特に今日はチキュウやティエルクマスカからも特別視されているワタクシ達ですから、仕方ないデスよ』


 その通り。言ってみれば先の日本国連合加盟式典の延長みたいな式が、今回の挙式である。

 ティ連から見れば日本人で英雄とも言えるデルンと、イゼイラでは人間国宝みたいなフェルが結ばれたということ。これこそティ連―イゼイラが聖地日本を連合へ加盟させた象徴と考えている人々も少なくはないのだ。


「そういえばフェル。披露宴が始まってからさ、安保委員会の自衛隊組連中がカレー作ってたよ。行かないの?」

『ハァ、食べたいのはヤマヤマですけど……』


 いや、食べたいんかいと。


『……今日はキンチョーしてますから食欲がイマイチでス~』

「はは、フェルでもカレーの欲求に勝る緊張もあるんだ」

『ア、何ですカ? その言葉は。まるで私が食いしん坊サンみたいではないデスか。食いしん坊はポルなのでス』


 ポルが聞いたら怒るぞと。

 ……と言っていると、当の連中がやってきた。


「ほら、噂をすればだ」

『ア……今のシー、デスからね、マサトサン』

「はいはい」


 リビリィにポルが顔を見に来たという寸法。


『ヨォ、ご両人。おひさだな』

『オヒサシブリです。選挙以来ですね』


 二人も今日は正装である。安保委員会メンバーではあるが、今日はフェルの友人枠だ。


『ケラーもお疲れだなぁ。もう見た感じゲッソリじゃねーかヨ』

「まぁね……そりゃあのメンツの中で普通にしていられる方がおかしいよ」

『デモ、あまりお顔を見せないのもドウかと思いまスが……』

「少し休憩デスよポル。それにもう式は終わりましたかラ、軽い服装に着替えたいデスし」


 リビリィにポル。二人は添えつけの椅子に座って、とりとめのない話で盛り上がる。

 まま、友人同士の思い出話だ。

 フェルが探査母艦要員養成教育機関に入ってきた頃の話。


 実は最初、こんなお嬢様が探査母艦要員の訓練に耐えられるわけがないと、リビリィにポルは、フェルの事を少しバカにしていたという事。

 フェルはとある政治家のお嬢さんということで、身分を隠して入隊してきたので、当初旧皇終生議員だとは知らなかったとか。しかも最初はこの見事なフェルの羽髪も、バッサリ切って藍色のコンタクトのようなものを付けて完全に身分を隠していたそうなので、フリンゼ・フェルということがわからなかったらしい。


 で、ある時。軍との合同訓練で、当時からロッショ家の家出令嬢で有名だったシエと親しくしているところを目撃され、あの女は何者だということで、フェルはカミングアウトしてフリンゼ・フェルフェリアということを公に晒したという話らしい。

 フェルが優秀な成績で調査局局長になった時、彼女は右腕の主任としてリビリィにポルを選んだのだという。理由はフリンゼとわかっても、その身分に関係なく接してくれたからだそうだ。無論成績も優秀だったからというのは言うまでもない。それで、なんだかんだと仲良くやって、ここまで来たという話。


『デヨ、ケラー。これが訓練生時代のフリンゼ・フェルだぜ』


 リビリィはPVMCGを操作し、記念写真ならぬ記念ホログラフをポっと出す。


『キャーーーー、ダメデスダメデス!! こんなのマサトさんに見せたらダメですぅ~!!』


 フェルがリビリィのホロ出力を全開で妨害にかかる。しかしポルがフェルを羽交い締めにかかり、目をへの字にして阻止。

 羽髪を短く切り込んだ金色瞳の、まるでGIのようなフェルがそこに映る。

 何かの訓練の後だろうか、汗ばんで息切らせ、軽装の服を来た超ショートカットのフェルが、また魅力的だ。


「お、カッコイイじゃないかフェル。別に恥ずかしがるようなホログラフじゃないじゃん」

『エ? そ、ソウデスカ?』

「うん。俺は好きだな、こういうフェルも」

『そ、ソウですか……エヘヘ……』


 恥ずかしそうなフェルさん。好きだと言われりゃ妨害する必要もなくなる。


「でさ、これって何時頃のものなの?」

『ソウですね、大体チキュウ時間で五ネン前ぐらいですか』

「五年前か……俺が33ぐらいだな。丁度TES辞める一年前か二年前ぐらいか……」


 地球、日本でそんな日常を送っていた自分と、5千万光年彼方の、女房の生活。

 それを比較すると、とても不思議な気分になる。

 あの頃の自分は、会社を辞めるか辞めないか。ゲームショーでの作品をどうやってプレゼンしようか……そんな事を考えていた頃。そして次の年。東日本大震災が起こった。

 そんな話を三人にしてやる。

 三人も、柏木のそんな話を聞いて、不思議な気分になる。もし自分達がこの地球に来ていなかったら、この柏木真人という男。おそらくこんな大それた事はやっていないだろうと。それは柏木に少し失礼ながらも容易に推察できた。

 それが今やこんな関係とストーリーを作った二人である。不思議なものだ。


 と、そんな話をしていると、式のスタッフが、そろそろまた式場に顔を見せてくれと頼みに来た。

 暫しの休憩以上終了ということで、フェルは帝政時代の貴族が着ていたイゼイラ様式な、軽めのフォーマルスーツに着替える。

 柏木は、地球のタキシードスーツに着替えた。そしてリビリィとポルも連れ立ってまた会場へ。

 すると二藤部と三島がやってきた。


「よぉ先生。ご苦労さん」

「ども三島先生。いやはや」

「がはは。まま、今日は見世物ってところだな、先生よ」

「ええ、ホントに。まー、ケジメってところですかね」


 そういうと二藤部が


「そこは大事なことですよ柏木先生」

「はい。確かに……」

「フェルフェリア先生も、とてもお美しいお姿でした」

『ア、それはどうも有難うゴザイマすですファーダ。ウフフ』


 そんな感じで片手に持つビールを柏木とフェルに注ぐ三島。


「で、ちょっと柏木先生、お願いがあるんですが……」


 二藤部が片目をつむって耳をかせという。


「は? 何でしょうか?」


 ゴニョゴニョと話す二藤部。して指先をある方向へ向ける。

 その方向にいるのは……


 中華人民共和国国家主席。張徳懐だった。


「(張主席が?)」

「(ええ。お祝いの言葉を言いたいそうですよ。まぁ今、私と張主席はお互い会談できるような関係ではないですが、さっきコッソリとそんな感じで話しかけられました)」


 柏木は口を歪めてフゥという顔をする。どうしたものかと。

 ただここで「いやだ」といってしまっては大人げない。それにこの式がティ連としてプロパガンダ的な意味合いを少なからず持っているとはいえ、ここであからさまに張を無視するというのも、マリヘイルの顔を潰してしまうことになる。


 とはいえ、まま言ってみればこの御大の起こした行動にキレて、もう自分の知るかぎりのティ連技術フル活用で、ボッコボコにした相手だ。確かにちとバツは悪い。

 するとリビリィが気を利かせて……


『んじゃ、アタイが、チャンシュセキを誘ってやるヨ。それならいいだろ?』


 そう。柏木が張へ話しかけに行くという行為は、これ単純に見えて複雑で、あまりしないほうがいいのである。

 というのも、この会場にはマスコミもいる。ここで柏木が張へ「やぁやぁ」と愛想笑い浮かべながら会いに行くと、せっかく日本がほどほどに中国と仲が悪い状況で、サマルカさんとしっぽりやりたいと思っている米国が気を悪くする。


 一時期は米国と中国は戦略的パートナーだ等と日本の頭を飛び越えていくような外交をやっていたというのに、今度は中国を一気に警戒してサマルカ権益とでもいうべきものを独占したいアメリカ。

 ここで日本が中国とまた話をすれば、一気に米国は警戒する……めんどくさい話である。

 もしここで柏木が自発的に自分から中国に気を使えば、今度はそれを見たアトミックハ……いや、ロシアの件の切れ者大統領がどういう思惑を張り巡らせるか。

 なんせこの大統領。ここにきてこれまた傍観者に徹しているわけで、柏木にも声をかけてきたが、二言三言。本当に不気味な男だと彼は思った。


 かような感じで、色々とややこしい話があるのだ……日本がティエルクマスカ連合に加盟し、専守防衛という点だけで見れば、日米安保に、ティエルクマスカ連合憲章安全保障法と、かように今や間接的ではあるが、圧倒的な防衛力の上に鎮座する日本国。

 実は二〇一云年中期防衛力整備計画に今回変更が加えられ、ヤルバーン州との共同運営組織『特危自衛隊』関連以外にも、陸海空特自衛隊防衛装備整備案件に、日本とヤルバーンが共同開発した試製兵器『旭龍』『旭光Ⅱ』を正式に配備する方向性になっており、無論そのパイロット等々の養成も予算に入る。


 この二機種。実はメチャクチャコストの安い兵器だという事を理解しなければならない……なんせハイクァーンで量産される代物だ。コストなど推して知るべしだろう。

 特に旭龍に関しては、量産仕様になる本機だが、色々と試製型に比較して仕様が変わる予定になっている。

 空自色の空戦、航空攻撃仕様の旭龍に、カーキ色の陸戦、ヘリ攻撃代替型旭龍。それに海自仕様の対潜、航空隊型旭龍と計画されているようで、それぞれどんな仕様になるか楽しみなところではある。



 ……そんな話は今はさておき、かような感じでリビリィは張主席に声をかける。

 イゼイラの使節が彼を柏木夫妻に引き合わせるような形式で、さりげなく柏木とフェルの座る席へ連れてくる……という体裁でリビリィは柏木に片目瞑って退席。


 柏木は張に軽く会釈をする。張は彼に握手を求め、お互い軽く握り返す。

 暫し互いの顔を突き合わせるような感じで沈黙。

 フェルはそんな二人の顔を観察するかのように眺める。


「お久しぶりです。柏木先生」


 切り出したのは張だった。


『いえ、こちらこそ首席閣下』


 日本語に混じって柏木から聞こえてくる中国語に張は表情を変える。


「なるほど、そういうカラクリでしたか……あの時の会話も、通訳なしで聞き取れていらしたと」

『はい。そういうことです閣下』


 柏木は平手で張に席へ座るよう即す。立ちんぼで会話も大人げないからである。

 当然出てくる話題は、彼は彼なりの。そして柏木は柏木なりの答え合わせだ。


「あの時の件……先生は何時頃お察しになられましたか?」

『あれだけの事をやってるのに、貴国の報道やらなんやらが何も言わない。などとなれば、普通はおかしいと感じますよね。本当ならあそこでもっとプロパガンダ打って、愛国無罪とやらかしてもいいはずです』


 そういうと張はコクコクと頷き


「その結果が、あの戦闘ですか?」

『当然です。でも、あの事件で一番得をしたのは閣下でしょう? でなければ本当なら今日この日に、ここで私とかように話などできないでしょうに』


 そう言われた張は、フっと微笑する。

 中国国内のガーグ勢力を一掃し、共産党中央の復権を賭けて柏木のティ連との緊密な関係を利用した作戦だ。

 あの時、日本が動かなければそれはそれで良し。あの諸島を中国に組み込んで、それはそれで彼の株は上がる。

 もし反撃され、追い返されてもガーグ勢力を粛清して終わり。

 どっちにしても、あの事件で一番おいしい思いをしたのは張ではある。だが……


『閣下、あの時の代金お支払いが、今日この日のようなものです』


 張は、ふぅと吐息を漏らし、微笑を蓄えると席を立つ。

 柏木のその言葉には直接応えることなく……


「『執子之手 与子偕老』という言葉があります。中国で愛する者同士が結婚する際に贈る言葉として良く知られています」


 「汝の手を取りて、汝と共に老いん」と訳せる詩経という中国最古の詩篇に出てくる言葉である。

 一見すると、ともに手をとって、ともに末永く生きていこうという解釈に聞こえるが、その意味するところはもっと深い。

 人生山あり谷あり。何が起こるかわからない。戦争、病気、不和。長い人生で夫婦になり、かような試練いくらでもやってくる。それに打ち勝って、最期まで共にいられるような、そんな人生でいたいという意味を持つ詩だそうな。

 ある意味中国人の発想らしい詩である。


「……貴方がたお二人を見ていると、まさにこの詩がぴったり当てはまる。末永い幸せをお祈りいたしておりますよ」

『有難うございます閣下』


 そう言うと張は席を立ち、再度握手を求め去っていった。

 その間、フェルは何も喋らず観察に徹していたが……


『マサトサン』

「ん?」

『チャンシュセキは、マサトサンの事を、気に入っているのかもしれませんネ』

「どうしてそう思うの?」

『色々ト何となくデスけど……そもそも、あれだけの事を互いの国がやっておいて、ティ連主催の招待とはいえ、普通はそうそうノコノコ顔を出さないと思いまス……かような場合、代行を立ててもいいでしょうシ』


 柏木はフェルの言葉に頷いて無言で同意する。

 フェルの推測が当たっているかどうかはわからないが、あの事件があり、更には現在沖縄にサマルカの船がいて、玄界灘にパーミラの船がいる。

 普通なら示威行動と見られてもおかしくない状況で、中国ならここは大いにクレームを入れて、ティ連と組んだ軍国主義復活だのなんだのと批判すらするだろう。普通なら……

 だが今回はそんな事も特になかったようだ。

 ある意味あきらめか、それとも他にまた何か企んでるのか? そのあたりはサッパリだが、今の張はおそらく自分自身の答え合わせのためにも、柏木と一言二言、話をしてみたかったのだろう。

 ……と、柏木はそう思うことにした。おそらく、そうだろう。


 張が柏木から別れると、遠目でその様子を見ていた二藤部に三島が再度やってくる。


「どうでしたか? 柏木先生」


 二藤部の問いに、彼はかようなイメージだと二人に話す。「なるほど……」と頷く彼。


「といっても、私の推測に過ぎませんが。本当のところはどうか」

『私ハ、マサトサンのその考えは、当たっていると思いますヨ』

「そーだな。ま俺もそんなところだろうと思うぜ」


 フェルと三島も、ままそんなところだろうと柏木の推測を肯定する。

 中国とは、これからも色々あるんだろうなということだ。

 やはりこの国とは、程々に仲が悪い方がいい。そう考えると米国がサマルカさんとこと仲が良くなっているのは、悪いことではないのかなとも思ったりする。

 そして今後中国とも日本は『戦後日本』ではなく『銀河連合ニホン国』として対峙していく重要性を感じる。そうなるとこれからこの国とはどんな会話がなされるのだろうか?

 ある意味、全く未知数ではある。


 中国としても、気をつけないと今後は『愛国無罪』にはならないかもしれない。

 ティ連の視点から見れば『愛国有罪』になることも、充分ありえるのだ。




 ………………………………



 さて、宴もたけなわな感じで柏木夫妻にワラワラとやってきていた各国招待客も一段落の区切りを見せる。

 先程は皇太子殿下御夫妻に、英国皇太子殿下御夫妻。デンマーク女王陛下等々日本の皇室に各国王室代表からもお声をかけられる。

 フェルには諸氏、各国語の『陛下』敬称でフェルを呼ぶ。やはりその点は諸国イゼイラ内政を研究してきているようだ。フェルはいつも通りのホエホエ一般市民だが、やはりその出生と、旧皇終生議員という役職が一般市民以上のものと判断させる。

 なんせ終生で議会議員などという職。この地球ではありえないからだ。

 ままどっかの独裁国家やら、賄賂やら、組織票やらで事実上の終生議員みたいな奴は、どこの世界にもいるにはいるが、そんなのとは訳が違う。なんせ国民万民が納得した法律でそうなっているのだから。

 ただここで困惑したのは突撃バカである。

 公式にはフェルの『皇配』という位置づけではないが、世間的に見ればそう見えるので、こやつにも各国のやんごとなきお家の皆様は気を使ってくださる。

 このオッサンに対しては『カシワギ殿下』とお呼びになる。これを言われた瞬間、柏木は(あ~……そうか! そういう罠があったかぁぁぁ!)と思ったがもう遅い。

 気が遠くなるが、ここは根性で堪えた。だがフェルが余計な一言


『エルダラ・マサトですカ、ムフフフ……エルダラ・マサト~~』


 エルダラとは、イゼイラ語で一般的には皇太子に使う敬称だが、皇配にも使われる敬称である。


「フェル。すんません、その呼称だけはご勘弁を」


 特務大佐殿まではまだ許容範囲だが、さすがにエルダラ呼称は行き過ぎであると。


『エ? 私が言ったんじゃないですヨぉ~? チキューの王室の方が言ったのですエルダラ・マサト。やっぱりデスねぇ~、チキューの方がそうお呼びするなら、私としても体裁上そうお呼びしないと、これはマズマズなのですネ~~ ということですエルダラ・マサト』


 フェルさん。ちょっと酒でも入っているのか? それともダンナのいじめ方を覚えたのか。

 エルダラ・マサトサン呼称をいたく気に入ったようである……これで私だけじゃないぞと。


「よぉ、柏木殿下。って、お前は柏木電化社長の方が似合ってるけどな。むははは」

「ハハハ、ウマイこと言ったつもりかよ。で、柏木殿下、おめっとさん。久しぶりだな」


 そう言ってグラス片手にやってくるは親友諸氏。白木に麗子。大見に美里だ。美加ちゃんはニーラのとこ行って話し込んでいる。ナヨ帝を紹介されていたようだ。ペコペコ頭を垂れている美加。


「おまえら……殿下禁止。頼むよぉ……」

『エルダラはいいそうデす』


 フェルの首を絞めて振る柏木。なかなかに良い夫婦である。ムキューと言っておどけているフェル。


「ホホホ、相変わらず仲の良いご夫婦ですこと。見ていて飽きませんわね美里さん」

「ほんとね~ この二人には倦怠期なんて無いんじゃないかしら」

「あら、美里さんにはありましたの?」

「それは秘密ぅ~」

「あらあら……で、ねぇ崇雄」

「ん? どうした麗子」

「私達も、挙式前倒ししましょうか? 如何?」

「なんだよ、こいつらに当てられたってか?」

「ま、そんなところも無きにしもあらずでしょうか?」

「ははは! んじゃ好きにしな。付き合ってやるから」


 白木と麗子の挙式も早まるかもしれない。横で大見と美里が笑っている。

 そんな話をしていると、挙式予備軍第三弾がやってくる。


『カシワギ。今日ハ大変ダナ。ゴクロウサン』 

「殿下とか言われてたな柏木さん。どうするんですか? むはは」


 シエに多川だった。しっかり聞かれていたりする。


「何を言ってるんですか、聞きましたよ。総統閣下カミングアウトなさったって」

「いやぁ~そうなんだよ。あれには参った」

『ダカラ、勘弁シロト言ッテイルダロウ、シン~』


 多川の腕を掴んで少し振るシエ。その今まで見たこと無い女性らしい所作にニンマリする柏木。

 白木と麗子に大見と美里は、そのシエの所作に口をポっとあけて驚く。 

 シエ嬢も普段は無敵の『捕食者』だが、こんな時は女の子である。でも口調と所作が合わない。

 所謂ダストール人の『天然っぽさ』がこれなのかと理解した諸氏。


 そんなところで友人達と語らっていると、マリヘイルが壇上に立つ。それに気づくティ連参加者。

 歓談中の異星人諸氏もしばし会話を止め、壇上に視線を向ける。

 地球側招待者も、何が始まるのかと期待を持って同じく視線を壇上に向ける。

 壇上に上がるマリヘイルは、会場諸氏の耳を拝借したいと語りかける。

 このマリヘイルの話……実はその内容について日本政府は全員知っている。無論柏木やフェルも知っている。なぜならその内容は今後の日本・ヤルバーン州と、地球世界のありようをある種決定づける内容でもあるからだ。極めて政治的な内容でもあった。


『会場にお集まりのミナサン。如何でしょうか? 本日はヤーマ家御夫妻のご好意で、かようにサミットのような宴を催させていただきました。各国代表に於かれましては、諸所ご交流も進んだことと思われます……』


 その言葉に会場からは拍手が起こる。

 向こうの方ではすっかり異星人の方々に気に入られた真男に絹代、惠美一家が、ディスカール人やパーミラ人。ザムル族の政府高官に色々と話しかけられているようだ……どんな感想を持ったか、あとで聞いてみたいところである。

 

 今挙式、マリヘイル―ティ連本部主催の式と宴会であるからして、当然単に祝うだけの席というわけではない。そこんところは柏木やフェルも了承済だ。

 実はこういった皇室や王室の冠婚葬祭のような儀式は多分に政治へ利用される。というかそもそも政治的なのだ。

 というのも、こういった人物は『人物=国家』と本来言い換えてもいいわけなので、政治的にならないほうがおかしい。

 そういう点、マリヘイルやサイヴァルも十分承知している。

 実際この席に出席している各国代表。即ち政治家も、その点別に疑問も抱かない。そういうもんだとハナからわかっているからだ。

 

『フリンゼ・フェルフェリア。ファーダ・マサト。この席をお借りして、例の件。ご報告させて頂いてもよろしいですか?』


 マリヘイルは二人に発言の許可を求める。無論主役はこの二人だからだ。とはいえ、シナリオ通りな話ではあるが。

 柏木とフェルは大きく頷くと、マリヘイルも頷き、話を続ける。


『……サテ、本日このような喜ばしい日そして今後のニホン。ティエルクマスカ世界。そしてチキュウ世界において大きく歴史に残るであろうこの式典。ここで私は皆様にいくつか今後の両世界における重大なご報告をさせていただきたいと思います……』


 このマリヘイルの話に、何事かとざわつく地球にティ連関係者。

 当然悪い報告などではないのはわかりきっていることではあるが、それでも挙式の披露宴でぶち上げるぐらいの事なのだろうからという期待感は湧く。


『マズ第一に……あちらにヤルバーン科学局が誇る、現在ニホン国の最高学府「トーキョーダイガク」のキョウジュ職も兼務ナサれている若き科学者。ニーラ・ダーズ・メムル博士の研究で……』


 マリヘイルに博士と言われて目を輝かすニーラ先生。とても嬉しいようだ。


『我が、ティエルクマスカ世界において、精死病が完全に根治できるようになったことをご報告。そして宣言させていただきたいと思います』


 ニッカリ笑って会場に大きく手を広げ、宣言するマリヘイル。ニーラに、ニーラの横につくサイヴァルとナヨクァラグヤ帝擬態モードも、ニコニコ顔で頷く。

 そう……ナヨ帝の復活で解析作業が進み、精死病患者が収容されている医療機関へ次元変動周波数可変装置付きの治療用転送装置を試作して設計データを公開。臨床試験を行ったところ、なんと、簡単に一〇人中六人の患者からバイタルが取得でき、治ったそうだ。

 そりゃもう医療機関は狂喜したらしい。

 ただ、四人は治療できなかった。その事を報告されると、特にニーラやナヨ様は落胆もせず、さもあらんと、また新しい数値を入れたデータを送付すると、治療できたという事なのだそうな。


 これはどういうことかというと、精死病の原因は、脳量子と生体量子が並行世界へ事故で飛ばされてしまう現象である。

 ただ、その飛ばされる並行世界。言い方を変えれば次元世界と言っても良いのだろうが、その次元階層即ち量子の重ねあわせ的にできるパターンは、ほぼ無限にある世界である。

 従ってそういった次元階層に合わせた大まかな修正値や、特定の個人によっては細かい詳細な修正値を適合させて脳量子と生体量子をこちらの本体と適正に合わせてやらねばならない。

 ニーラ先生は、この数値の効率的な算出の仕方に悩んできたわけで、そこでこのナヨ様のニューロンデータを使いたかったという寸法だったわけだ。

 ナヨ帝ならもしかすると、その公式なり効率的な算出方法なりを知っているのではないかと踏んだわけだ。


 結果ニーラの予感は的中したわけで、ナヨクァラグヤはその公式をある程度確立していたのだ。

 その仕上げをニーラとともに行ったという寸法。

 そこに目をつけた新見が、複雑な数値解析にナヨ帝の弟子が手伝っただろうと踏んで、日本にイゼイラ数学の普及と、かつそれに伴う個別次元変動数値解析作業を手伝えるNPOを設立するために先の弟子達の子孫を探し出す企画。その会合を催したという訳なのだった。


 この発表を聞いた会場のティ連各国参加者は、大きな喝采であった。

 隣人と肩を叩き合い喜んでいた。泣いている人物もいる。恐らく身内に患者がいるのだろう。

 なぜか全然関係ない地球の代表と喜んでいる人もいる。どうやらフランス代表のようだが、良くわからないなりにおめでとうの言葉を言っているようだ。

 当然、ナヨクァラグヤ聖地と関わりがある、即ちカグヤの帰還作戦を実行した柏木や、それを許可した二藤部達政府の席には、異星人が寄ってたかってお礼を言いに来る。

 横でアノ国の女性大統領が横目で見ていたり……別にいいんだけど。


 柏木もまた異星人諸氏に取り囲まれたり。

 特に複眼の異星人さんや、三本指で逆関節な異星人さん。更にはザムル族のスタッフやらにも、もみくちゃにされている。

 首筋や胸あたりに烙印マークでもあるんじゃないかと。

 いやはや、無論それは喜びの挨拶だ。なんせそのきっかけを作った特務大佐殿が彼なわけであるからして。


『……それに伴い、かの創造主ナヨクァラグヤ帝のニューロンデータコードが解析されました。今結果はこれによるところが大きいでしょう。ニーラ博士には連合を代表して、最大級の賞賛を贈りたいと思います』


 拍手喝采。ニーラ博士テレテレでペコペコ頭を下げる。

 それを見つめる祖父のジルマは、孫娘の晴れ姿に鼻が高い。

 横で共同研究者という体裁で座っている当のナヨさん本人も拍手していた。

 このマリヘイルが体裁上話しているこの件の意味は、無論関係者全て知っているからして、それら関係者の拍手は別の意味の祝福の拍手だ。その拍手はニーラの隣にいるもう一人に向かってのものである。

 さすがにナヨ帝再誕の報は、パニックを警戒してまだティ連全てに公表はできない。そこがつらいところ。

 

 ティ連のニューロンデータ記録技術の件は、もう地球科学界でも結構知られている技術なのである。

 これはヤルバーンのホームページで、定期的にティ連の科学技術概要を公開しているコーナーに掲載されていることであるからして、それ自体は恐らく世界各国全ての関係者は知っている。

 地球でも人間の脳の記憶を電子的に保管できないかという研究は、脳の障害等の研究過程で行われているので荒唐無稽な話ではない。

 ヤルバーンはそういった形の地球でも研究が、とっかかりでも行われているような技術に関しては、将来性を見越して概要だけでも公開するようにしているのだ。なぜなら彼らもかような研究に至る経緯の技術過程や技術史が欲しいからだ。

 と、そういう前提があるにしろ、流石にガーグ・デーラ・ドーラの技術でナヨ帝が再誕したなんてのは流石に公表できない。

 地球側から見れば、死者の復活に近い現象と受け取られるし、ティ連からすれば、ニューロンデータの自我覚醒だ。即ち創造主の復活である。どっちの世界にもインパクトありすぎなので、そこはまだ隠蔽している。


 マリヘイルはまだまだ続ける。

 酔った勢いというわけではないが、今日は彼女も連合議長として、この目出度き日用に、たくさんの報告事項を用意していた。

 それを大盤振舞でぶっちゃけようという腹である。

 無論サイヴァルもそれを了承している。横で座る愛妻ニルファはナヨ帝と何やら雑談しているようだ。

 ニーラは自分の出番はもう終わったと見て、下に降りて美加とスイーツ狩りに出かけている。


『ふぅ、この二つでここまで驚かれると、先が続くのかどうか心配ですわね。ウフフ……さて、次にご報告差し上げたいのは、我が連合の誇る人工亜惑星型機動要塞「レグノス」が、予定より少し早く、この太陽系外縁天体から、約一光年近郊に到着いたしましたことを。これは主にニホン国政府の方々にご報告申し上げます』


 先のダル達火星開拓艦隊と同時期に出航した人工亜惑星要塞レグノス。

 これが所謂ティ連が地球文化圏の国境とみなす『地球文化圏境界』域に到着したと報告した。

 これは安保委員会関係者みんな知っていることなので「おお~」と声を上げて感嘆する。

 ティ連関係者も拍手で祝意。ままこれに関しては、ティ連関係者的には普通の事なので、純粋にそういった中継基地ができたという点を喜んでいた。


 問題なのは、日本以外の地球各国だ。

 その「人工亜惑星要塞」なるものの意味がわからない。当然そうだろうとマリヘイルも理解しているので、壇上にその人口亜惑星要塞なるものの巨大な立体画像を造成する。

 その立体画像を見た世界首脳代表の方々は……


 恐らく、脳内で暗黒卿の音楽が鳴ったに違いない……


 各局そりゃもうこの時間帯全ての枠は特別編成で、この空間を取材しまくっているわけであるが、先の精死病の根治情報は、地球的にはさほどインパクトはない。

 ティ連の異星人さんは狂喜に湧いていたが、地球のマスコミ的にはあまりおもしろいネタとはいえない。なぜなら知らない事だし、詳しくわからないからだ。

 だが、この報告は違う。

 マリヘイルの出した立体映像という超絶インパクト映像は、充分マスコミを食いつかせるネタになった。


100名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 死の星キターーーーーーーーーー!!


101名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  デンデンデンデンデデーンデンデデーン

  コーパー。


102名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  そして地球は吹き飛ばされるのですね。わかります。


103名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  フェルさんは女帝……ハッ! まさか!


104名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  お前らはその映画的思考から離れられんのかwww


105名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  アレを見て離れろという方に無理があると思いますが。


 恐らくネットでは、絶対にこんなやりとりがなされているはずである。

 健全なネット世界ならそうあるべきである……多分。

 この会場でも、地球世界で唯一顔をほころばせて喜んでいる日本政府安保委員会メンバーは一種異様に見えるわけで、流石にその様子を奇異に見た外国の代表は日本政府の人員を捕まえて説明を求めていた。

 マスコミはマスコミで、情報収集に必死である。

 当然地球側がそんな反応をするのは充分予想出来ているマリヘイルではあるので、そこのあたりの説明も踏まえた、次の報告を行う。


『コの人工亜惑星は、今後のニホン国そしてヤルバーン州の人員往来活性化のために設置したものでアリます。すなわち、我が連合が交通の基幹とするディルフィルド航行におけるゲートを使用した超長距離移動の太陽系圏基幹港として稼働させる予定であります。従って、決して軍事基地のようなものではありませんので、地球各国代表に於かれましては、ご心配なきようお願い申し上げます』


 といっても、実際は要塞施設がベースになっているので、武装もうなるほど搭載している。そこは今後のティ連側太陽系防衛施設の意味もあるのだが、そのあたりは伏せた。


『コレに関連して……チキュウ時間で、ネンナイにはイゼイラ共和国領内とヤルバーン州間で、定期旅客便の就航を行いたいと考えておりマス。これが実現すれば、更なる我が連合とニホン国との人員往来が活性化し、将来的にニホン国と友好関係を持つ諸地域国家との国交にも目処がつけば良いのではないかと思う所存でございます』


 マリヘイルは『ニホン国と友好関係を持つ諸地域国家との国交にも目処がつけば良い』などと言っているが、この言葉の真意を考えれば、こういうことだ。


『ニホン国は今後完全にティエルクマスカ連合加盟国主権になる。わかりましたね?』


 ということだ。

 今後中国が日本と話をする時。韓国が日本と話をする時。ロシアが日本と話をする時。彼らは戦後の敗戦国『日本』と話をするのではない。これからは『ティエルクマスカ銀河共和連合加盟国惑星地球内外渉担当地域国家日本国』と話をしなければならないのだ。

 米国はサマルカ人と関係を持てているために、そのことは理解しているだろう。恐らく米国から情報を得ている西側ヨーロッパ諸国も少なからずそういった認識ではあるはずだ。

 あとは……である。


 この事をダイレクトに言わずに、どえらく遠回しに何かのイベントのごときに話すマリヘイルも大した役者ではある。


 そして最後の報告……


『最後に……ウフフ、これは私も意外に意外で、もう驚いているのデスが……』


 そういうとサイヴァルもウンウン頷きながら壇上後方の席で聞く。

 柏木は……


「あれ? フェル……確かマリヘイル議長の発表って、精死病関連の案件二つと、亜惑星要塞と定期便就航の件だけじゃなかったっけ?」

『ハイ、確かに私もそう聞いていましたが……あとひとつって何でしょう?』

「さぁ? 白木、オーちゃん聞いてる?」

「オメーがしらねーのに俺達が知るわけないだろ」

「ああ、そういうことだ。総理達なら知ってるんじゃないのか?」


 すると柏木は二藤部の方に視線を送る。

 二藤部も柏木の視線を感じたのか手をあげていた。

 で、柏木がマリヘイルの方を指さすと、二藤部も両手を横に上げて首をかしげる。どうやら二藤部達も知らないようだ。


「総理も知らないってか……何だろ?」

「ま、聞きゃわかるだろ」


 白木が落ち着けと肩を叩く。

 諸氏頷いてマリヘイルの言葉に耳を貸す。


『……我が連合では、定期的に地球の言葉でいう『ヨロンチョウサ』を行っています。そして、チキュウ時間にしてあと二ネンほどで、ある選挙が行われる予定となっております』


 フムフムと聞く日本勢。


『その選挙とは、「盟約主権国家選出選挙」でありマス。ティエルクマスカ連合各国国民が、自国以外の国家で盟約主権国家と言われるある周期期間中、安全保障、外交、連合行政、司法、立法、祭祀を独立した権限で、ティ連各国へ周知させ、連合憲章の変更も行える権限を持つ国家を選ぶ選挙の事でありますが……ウフフフ』


 不敵に笑うマリヘイル。


『その盟約主権国家選出希望国で、ティエルクマスカ連合内での調査において、現在一位の国が、相も変わらず人気の高いイゼイラ共和国。そして第二位に、久々の登場ですわね。我がパーミラヘイム連邦。そして……第三位に……』


 マリヘイルはニヤっと笑って柏木の方を見る。そして、二藤部にも視線を送り……


『ニホン国が付けています。ウフフ、コれはこれは大変な事になりましたヨ』


 会場の異星人諸氏に大きなどよめきが走る。

 日本勢、呆気にとられて、「え? え?」な感じ。

 流石に二藤部や三島も「そんな話聞いてねーよ」みたいな表情。

 ティ連での盟約主権国家。それは国連の安全保障理事国なんてチンケな集団どころの話ではない。

 ティ連の安全保障、外交、連合行政、司法、立法、祭祀に対し、絶対的な発言権がある国家なのだ。逆に言えば、日本がティ連世界に提案したことは必ず審議にかけられ、審議され、場合によっては可決され、連合憲章の一つとなる可能性もある。

 安全保障面では、一部の防衛総省部隊を独立権限で動かすこともできる。

 それを知っている柏木は流石に声を出しそうになった。


「ちょ、ちょっと!……モゴモゴモゴ」


 白木に口をふさがれる。


「ぷは、おい白木!」

「落ち着け柏木殿下。今おめーが慌てたってなんにもならんだろうがよ。それにまだ下馬評の話だぜ」

「あ、ああ、そうか、そうだな……悪ぃ。いやでも……」


 するとフェルも、少し興奮気味で


『マサトサンマサトサン。でも充分有り得ることデスよ』

「その心は?」

『ダッテダッテ、今、ティ連世界の中で、ニホン国しか持っていない、そして、ニホン国しか持てないスキルがあるです。恐らくそれが理由でコンナことになっているですヨ』

「日本にしか無いもの? いや、日本にないものなら腐るほどあるだろうけど、何だそれ?」

『聖地案件デスよっ』

「あ!……」


 そう、安全保障、外交、連合行政、司法、立法、祭祀の分野で、この『祭祀』に関してのみ、現在突出した影響力を持っているのは、実は日本国だけなのである。

 しかもその国に住むある夫婦は、精死病を根治させるきっかけを作り、ガーグ・デーラに有効な戦法をもたらし、何千人という人々を窮地から救い、しかもそのスタッフにクルーがいる地が日本であり、共に在るヤルバーン州なのだ。

 更には、ニューロンデータプロテクトが解かれた地でもあり、将来的にナヨ帝が再誕した地として語られれば……もういわずもがなであろう。

 ここで柏木とフェルが、創造主認定会議で認定された日にゃどうなることか。

 認定会議の有識者にとっちゃ、柏木やフェルさんの泣き入れなんざ知ったこっちゃねーし。


 腕くんでウンウン唸る柏木とフェル……おそらく将来的に、そうなるようなイヤな予感がする。

 困った……実に困った……


「どうするフェル。イキガミサマ確定コースだよ」

『ソんなの、マサトサンもそうじゃないデスかぁ~ ふぇ~ん』

 

 するとシエが二人の肩に手をかけて一言。


『……アキラメロ。抵抗ハ無意味ダ。ククククク……』




 ………………………………




 フェルと柏木の挙式。

 これには二人の結婚式という事以上に大きな意味があった。

 それは日本とイゼイラ人が、国と国だけでなく、人と人が一つになれたということ。

 振り返れば、そこには一〇〇〇年もの刻を必要とした、長い長い悠久の物語があった。

 

 一〇〇〇年前に、一人の皇女であり、優秀な人外の科学者が日本に天から落ちたあの時、あの瞬間に、今のこの時が決まっていたのだろうか? そんな物語。


 式の後、柏木の父、真男や、母の絹代、妹の惠美は彼にこう声をかけた。

 

「ワシの人生で、まさかこんな絵空事のような現実を体験するとは思っても見なかった」

「こんな話が現実で、フフフ、次に生まれてくる孫の顔もそうなんですから、面白いですねお父さん」

「なんか兄貴一人だけ異次元世界にトンでるね。帰って来れるのかしら、あはは」


 これが普通の人の感覚である。

 人生がアトラクションだ。普通の日本人ならそう感じるだろう。

 しかしそんな出来事も、日に日が経てば、普通になっていくだろうこれからの日本。これだけは間違いの無いことである。


 日本にヤルバーンが飛来したあの日。

 一見そうは見えなくても、彼らは日本人にはわからない決死の思いでこの地球までやってきた。

 それはある意味「不退転の決意。意思」と言う奴だ。

 日本人から見れば長い沈黙の中、彼らは彼らで命を賭け、日本と交信をしようと試みた。

 そのなかで光った小さくも大きな出会い。あの時の出会いがなかったら……


 柏木とフェルが、並行世界で見たあの光景。

 フェルが見た世界は、ネゴシエイター柏木真人が存在しなかった世界。

 正直、フェルはあまり良い世界を見たとはいえない。


 柏木が見た世界。

 ヤルバーンがいない世界……もしかすると、ヤルバーンは事故で本国へ引き返したか、それとも宇宙の藻屑となったか。そんな世界……


 イゼイラ人の死生観がよりよい因果の巡り合いならば、今現在この世界はおそらく彼らの感覚で言えば、相当に『マシ』な世界なのだろう。

 因果の小さな偶然という必然が重なりあってできたこの世界。そして物語。


 ヤルバーン事件以降、ティエルクマスカ連合に関係した人は必ず、そして少なからず、無意識にでもそう思い、感じたことは必ずある。

 

 今、それが大きく育ってこの現在としてここにある。

 

 ティエルクマスカの抱える問題が、大きく一区切りを見せ、そして地球の問題も……まだまだややこしい問題にメンドクサイ問題、あるにはあるが、日本だけで言えばティ連への加盟を確固たるものにすることが出来た。



 ……時は進む。

 ……時代は進む。

 ……進む時代。

 ……変わる時代。

 ……積み重なる因果。

 ……変わっていく人のありよう……



「今はとて天の羽衣着る折ぞ君を哀れと思ひ知りぬる」



 連合加盟という天の羽衣を着た日本は、世界をどう見るのか?


 そんな日本が一つの歴史的な区切りを迎えようとしていた。


 



いつも『銀河連合日本』をご愛読していただきまして、誠にありがとうございます。


 さて、2013年10月末から連載させていただいた本作、銀河連合日本も、次回をもって一旦、最終回とさせていただく運びとなりました。


 従いまして次回、最終回。その次、不定期になりますがオマケ・外伝等々。


 という感じの予定とさせて頂いております。

 さて、次話で、また色々とこの場でお話させていただくこともあろうかと思いますが、とりあえずはここまで……



 それでは今後も本作ともどもよろしくお願い申し上げます。


 柗本保羽

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