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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
76/119

―51―

 調印式典関連の外交処理等々が一段落ついて、サマルカ人さん関連の、言ってみればイレギュラーな外交処理も、本件に関しての外交委員会を日・米・ティ・サ・イ各国共同で組織し、その本部をヤルバーンに近い大島に置くということで一段落を見せた。

 大島では急に降って湧いたような大型星間国際プロジェクトな公共事業に湧いていた。所謂特需という奴だ。その内容は、完璧なティ連環境技術と日米意匠満載で、大島空港も大々的な増築がなされるような、そんな国際センター地区になるという計画だ。観光事業にも拍車がかかる。

 

 大島は東京都だ。東京都とはいえ、有り体な話、田舎である。そこんとこは同じ東京都でもちと具合が違う。

 ということは、この国際センター地区建設事業も立派な経済波及効果はあるわけであって、所謂ゼネコン関係も潤うという感じ。


 公共事業といえば、よく『熊しか通らないような有料道路』という揶揄で道路行政が叩かれる事もままあり、税金の無駄遣いの象徴とよく言われるが、昨今この揶揄や批判をとんと聞かなくなった。

 それはなぜなら、その『熊しか通らない道路』でも、この日本では必要不可欠なものだということが、あることを境に証明されてしまったからである。


 それが、かの『東日本大震災』である。


 あの震災で、所謂道路族批判の的のような、『熊しか通らない道路』が結果的に大活躍し、かの税金の無駄遣いとマスコミや有識者を称する三流評論家が揶揄した事業が、結果的に当時の被災者の生活を救ったわけだ。

 あれ以降、道路行政の批判をとんと聞かなくなった。

 そりゃそうだ。行政のやる公共事業に今すぐの近々で必要な事など、まぁない。結果的に何かの形で「ああ、あってよかったね」というものが公共事業である。

 三島がかつて提唱した『国立メディア芸術総合センター』構想も、今になって、このように日本へ訪れる外国人が眼を見張るほど劇的に増加した昨今。やっぱり『やっておいたほうが良かった』と言われている始末である。


 即ち、国の行う事業と、私企業が行う事業を同列視してはいけないということである。

 国は『国家一〇〇年の計』すなわち、一〇〇年先を考えて金を国土に投資する。なので、国債でも『長期国債・建設国債』という種のものがあるわけだ。

 それを反対する政党や組織にマスコミは、一番アホでも理解できる目先の利益で世論を誘導する。

 こんなやりとりの応酬が日本の政治である……なんともはやである。


 と、そんな能書きはさておいて、この公共事業という点では、現在ティ連と星間国際交流を行っている各地方都市も、そんな公共事業にどんどんと投資をしようとしていた。

 普通ならばこの一ヶ月という期間に訪れたティ連各国のみなさんを色々利用させて頂いて、一時的な特需で儲けさせてもらおうというような感じで普通は考えがちだが、そこは各地方自治体のみなさんも考えているようで、この一ヶ月の間に『何か恒久的に残せることをしよう』と考えているのである。

 即ち『東京だけに儲けさしゃしねーよ』という作戦である。


 これは大変に結構なことである。

 そんな『一例』が大阪府、他、近畿地方にあった。


 近畿地方には、現在大阪湾沖高度八〇〇メートル地点に、ダストール政府中央艦『ヴェッシュ・セド・バウラー』が鎮座していた。

 大阪府の、件のよく話題になる市長と知事のコンビは、かの艦に招待されて色々と府市戦略会議で出たアイディアを提案していたようだ。

 他の近畿近隣自治体の首長も招待されているようである。

 近畿地方は、これまた近畿という単位で考えると実に個性のある文化や技術を持った場所が多い。

 例えば……大阪府は言うに及ばす大工業地帯で、堺の刃物産業に見られる金属加工技術に巨大コンビナート。東大阪の零細工業地域。そして門真にある日本有数の家電メーカー。食文化に、所謂風俗習慣で独特の人情気質を持った土地柄でもある。


 京都府は無論、古の日本国中心の一つだ。もう世界有数の観光地でもある。と同時に、日本海を有し、メタンハイドレード技術関連で重要な位置づけにある自治体でもある。

 これは兵庫県も同じで、大阪湾瀬戸内海に面する工業地帯を有し、日本海側は観光業とメタンハイドレードという有望な事業展望のある自治体でもある。


 奈良県は、実は『奈良府』と揶揄されるほどの大阪出稼ぎで成り立っていたようなちょっと悲しい自治体であったが、昨今はナヨクァラグヤな話題で、初代日本の中心都市として注目されつつある。

 他、滋賀・三重はこれ観光、農林水産と、重要な『自衛隊基地』があるため、安全保障面で連合防衛総省の分局設置等々で新規施設の建設等。他、徳島・香川・福井等近畿以外の都道府県も巻き込んでダストールと事業を行おうと奮闘しているようである。

 和歌山にもこれまた金属、化学、電機と重工業地帯に観光業、それと太平洋側メタンハイドレート有望地があり、このあたりを売りに参加したり。それになんといっても漁業と果樹農業が盛んである。このあたりもセールスしたい所。


 そんな感じで、恒久的に残せる事業を各自治体は色々と模索していた。

 これは近畿に限らず、沖縄、九州、東北北海道と同じような感じで『何か残せる事業』を色々と訪れた中央艦とともに独自外交を行っているようである。

 ティ連中央艦の滞在期間中、中国、四国、北陸、本州内陸部等々の地方にも来訪することはアナウンスされているので、他の地方都市も同じような形で外交をかけるのだろう。結構なことである。  


 この作戦を計画した柏木大臣。実のところコレを狙っていたのだ。

 いかんせん、この地球世界でヤルバーンが飛来する以前の状況で、世界各国相手に同じようなことをしようとしても、これがなかなかに無理がある。というのも、やはり世界は『日本イコール東京』と見ているところがあるからだ。

 なもんで、地方に何かを展開しようと思っても、あまり旨味がないのである。

 例外的に、昨今の円安で、海外有名企業の工場建設なども話にあがってはいるが、それも稀な例で、なかなかそんな美味しい話がまわってくるものではない。

 この日本第二の都市『大阪』ですらそうなのだから、他の地方となればどんなものかという話だ。


 だがティ連さん相手だと、それもほとんど関係ない。

 彼らが欲するのは『発達過程文明の文化・技術・習慣・思想・哲学』であって、そういうものが豊富にあれば、東京かどうかなど関係ないからである。

 そうなると他の地方都市も勝負ができる。ティ連人の欲するそういったものなど、地方にはいくらでも無数にあるからだ。

 それがわかった地方自治体はもう怒涛の地方自治体主体の星間外交攻勢だ。

 コレを見越した柏木は、こんな感じでどうだと、ティ連と地方行政関連を担当する春日に提案すると、春日も両手をあげて賛成して奔走していたようで、今それが現実のカタチになろうとしていた。

 やはりティ連―イゼイラをその目で見てきた柏木。伊達ではなかったようである。



………………………………



 と、そのような感じでティ連加盟国も色々と観光に外交にと動きを見せているわけだが、ここ大阪市北区中之島にある大阪市役所は、府警総出の厳戒態勢にちかい警備体制を敷いていた。

 というのも、ダストールのシエパパなガッシュ総統が親善訪問に来ていたからだ。

 丁度、かの有名な市長と知事の会談が終わり、ガッシュは柏木も以前宿泊した件の大日本ホテルへ向かうリムジンに乗り込もうとしていた。

 マスコミのカメラも沢山やってきていた。というのも、ガッシュ総統もさることながら、今では特危のシエが護衛についていたからだ。世間にはガッシュがシエパパとはまだ知られていない。『ガッシュ・ジェイド・ロッショ』総統と名前は出ていたが、何もアナウンスがないためにロッショという名前もダストールではよくある名前のような感じで、シエさんと同名ぐらいに思われているようだ。実際シエもパパ相手だがマスコミカメラの前では他人のように知らんぷりをしていた。

 ただ、困ったのは多川一佐であった。

 というのも、やはりこういうものは隠しおおせるものではなく、今回の市長表敬訪問もありーの、例の市長が役職。つまり『総統閣下』とお呼びするもんだからでバレーので、昨日は流石の多川も寝込んでしまったという話。


 で、寝込んだ多川を介抱するシエさんは……色々あんなことやこんなことして介抱したそうだ……一般的な視点で見ると、恐らく介抱になっていないと思われる……


 でま、大阪市役所から大日本ホテルなんてのは、もう15分もあれば到着するほど近い。

 リムジンは大日本ホテルに宿泊する一般観光客を押しのけて、SP車両も含めて鈴なりに停車。

 ダストール内務省警護官も付いて、辺りを警戒しつつホテルの中へ入る無人の道を彼らは造る。

 シエがリムジンのドアを開けて、地球式敬礼でガッシュを降車させる。その様子もバッチリとマスコミカメラが捉えていた。


 ガッシュとシエは、ホテルの大宴会施設を利用したダストール政府要人の控室に入る。

 ここに入れば、もうマスコミカメラも入れない。ガッシュの自由空間だ。

 すると部屋には知った顔が直立不動の状態で敬礼し、待っていた。


『ヤァ、シン。マタセテスマナイナ』


 知った顔とは、多川であった。


「は、総統閣下。お待ち申し上げておりました」

『ナニヲカシコマッテイルノダ、シン。私ハキミノ義父ニナル予定ノ者ナノダゾ』

「は、あ、いやぁそれはわかっておりますが……まさかシエのお父様がダストールの国家元首だったなんて……シエェェェ、勘弁してくれよぉ……」


 すると、後ろで控えるシエが、肩を竦めて苦笑いで……


『ゴメンナサイナノダ、ダーリン。サスガニコノ事ヲシンニ話スノハ、サシモノ私モ抵抗ガアッテナァ……ワカッテクレナイカ?』

「あ、ああ……まぁなぁ……でも最初『総統』なんて役職聞いたときは、アッチ方面かとおもってヒヤヒヤしたぞ」

『フフフフ、サスガニソレハ考エスギダ。ターリィハ独裁者ナドデハナイゾ。ハハハハ』


 総統という呼称と役職。この日本で考えるとき、概念的には二つある。

 現在、この総統なる呼称をもつ役職は、台湾国家元首の呼称である。

 これがその一つで、この総統なる意味も、早い話が中国語で『大統領』を意味するものであって、即ち大統領の事なのである。それを中国語では『総統』という。


 あと、所謂旧ナチスドイツ的な意味を持つ呼称である。

 この当時のドイツにおける総統職とは、わかりやすく言えば『議会の首相』と『大統領職』を兼務するような役職の事を言う。

 議会の首相と、拒否権を持つ大統領職が統合されてしまえば……はっきり言えば専制政治な皇帝や王と同じく独裁者である。実際もう好きなことができるし、ナチのちょび髭は実際好きな事をやりたい放題だった。


 で、ダストールの総統職。実は議会首相と大統領職を兼務するような、後者の総統職なのだそうである。

 ただ後者と違う点は、ダストールには総統職の権限が適切にふるえているかという事を監視する委員会が独立権限を持ってしっかりと権力者の暴走を抑えるシステムになっており、そのあたりは心配無用なところではあった。


『シンヨ、ソレニ私ノ任期モ、モウスグオワリダ。ソウナレバ普通ノ政治家ニ戻ル。ソウイウノモアッテ話サナカッタダケダ。許サレヨ』

「は、それはもう総統閣下」

『総統閣下デハナイ。私ハ君ノ義父ダゾ』

「は、有難うございますお義父さん」


 多川一佐、ガッシュに認めてもらったようだ。頬染めて頭をポリポリかく。

 シエもそんな感じ。

 もしこれが柏木なら、かのイゼイラでフェルから受けた衝撃の告白の如く、「総統閣下っすか! どしぇーー!」な感じになるのだろうが、そこはもう場数を踏んだ多川一佐。その驚きもこの程度で済んでいる。というか、どうもヤルバーンの乗務員は、かなり選抜された人員が多いとは彼もそう思っていたのだ。以前柏木が思った「ヤルバーンの乗務員はVIPばかりか?」という疑問である。

 で、シエの所作や考え方から、多川も彼女が相当ないいところのお嬢さんではないかというのは薄々察してはいたようだ。

 そんな感じで、三人ソファーに座ってくつろいだり。まぁ親娘よく似るというかなんというかで、ざっくばらんなところはガッシュもシエそくりだった。あ、いや、シエの方がガッシュにそっくりというべきか。

 そんな親娘の会話を聞いて楽しむ多川。


『デ、ターリィ。ベイルハ元気デヤッテイルノカ?』

『ウム、トイウカ、オマエガ防衛総省ニ行ッテシマッタノデ、次ノ総統候補ニナッテシマッタワイ』

『ソウカ……私ノ我侭デ苦労をカケサセルコトニナッテシマッタ。悪イ姉ダナ、私モ』


 ベイルとは、ベイル・ランテ・ロッショ――つまりシエの弟である。少々歳が離れており、当周期で外見年齢一九歳ほどの若者だ。


『イヤ、ベイルモ、オマエノ本意ハワカッテオル。ソシテアレモ意外ニ政治家向キデナ。結構勉強シテオルゾ。デ、何周期カ後ニハ、立候補スルト言ッテクレテオル』


 そうガッシュが言うと、シエもウンウンと頷いて


『ソウカ……』


 と一言。でも顔は笑顔だ。

 そんな多川が知らない世界の親娘な会話。言葉の端々を聞いて、どんな親娘関係で、どんな生活環境なのかを想像し、楽しんでみる。


『ア! ダーリン。スマナイナ、ワカラナイ話ヲシテシマッタ』

「はは、いいよいいよ。お二人の話、わからないながらも興味をもって聞かせてもらっていたから」

『イヤイヤ。シンモ一度是非ダストールニキタマエ。家族ニ紹介スルヨ』

「はい。そうですね、その際は是非」


 するとシエがその話で思い出したように


『ソウイエバシン』

「ん?」

『カシワギガ、ミィアールノ式ヲ大々的ニヤルトイウ話ダナ。招待状ガキタゾ。シカモマリヘイルカラナ、フフフフ……マリヘイルモハリキッテイルミタイダナ、ククク』

『ウム、私ノトコロニモ来タゾシン。ハハハ、カシワギダイジンモ、トウトウダナ。タシカ、ヤルマルティアデハ、コウイウ場合「ネングノオサメドキ」トイウノダロ? ドウイウイミダ?』


 誰がそんな言葉教えたんだと苦笑いな多川。

 でも多川も近い将来、年貢を納めなければならないわけであるからして……

 彼も、普通にシエさん側に家族がいるため、そりゃお伺いしなきゃならんわけではあるのだ。そうい言う点は柏木の方が、相手側のご両親が他界してしまっているだけまだ話が早い。親代わりのサンサも大賛成で、超大祖母さんのナヨ帝サマにも面通しは済んでいるし……

 多川一佐。柏木に続いて五千万光年先へ、シエさんの里帰りに付き合わされるのはまず間違いない。




 ………………………………




『マサトサァ~ン。ヤッパリお連れしなきゃダメですぅ』


 フェルさんが柏木の腕を握ってブンブン振り倒して懇願する。

 お願いの内容は……


『ナヨサマは私の、今たった一人の親族ナンデスからぁ……マサトサンのマルマサマやファルンサマ、エミサマにもご紹介したいですぅ~』


 更にブンブン振りまわして懇願する。

 

 ここは柏木先生の家。

 現行外交船団乗員の観光やら外交やらもかなりこなれてきて、柏木や春日も、部下や省庁担当者に任せられるようになってきた。

 二藤部や三島の外交攻勢もひと段落つきそうだ。

 ここんとこ働き詰めだったので、そういうことで式の諸々な話もあるので、三日ほど休暇をもらって色々準備をする彼。


 そんな中、夕飯時にフェルが、やはりナヨ帝を柏木の両親に紹介したいと言い出した。

 親族がいないフェルさん。で、唯一の親族となる仮想生命体ナヨクァラグヤさん。

 当然、自分の親族であるからして、紹介したいと思うのは人情である。

 確かに仮想生命体という、地球人からみれば人外も人外。それ以上に常識の範疇を素っ飛ばした存在であるからして


「いや、フェルぅ。わかるよ、よくわかるけどさぁ……どうするのよソコんとこ。フェル達イゼイラ人さんや、ティエルクマスカ人さん達は理解の範囲内だろうからわかるけど、さすがに俺達関係者以外の何も知らない人らから見たら、理解の範囲を超えちゃうよ、ナヨ様は……」


 柏木とて自分の両親に紹介したいのはやまやまどころではない。

 フェルにできたせっかくの肉親だ。そりゃ紹介してやりたいが……

 その相手が幽霊なんかよりも、ある意味トンデモな存在である。これを普通に


「この方は、フェルさんのご先祖で、かぐや姫のモデルになった、一〇〇〇年前のイゼイラ最後の女帝、ナヨクァラグヤ帝さまのニューロンデータという脳ミソ中身のコピーされた自我から生まれた仮想生命体という疑似肉体をもったフェルさんの親戚です」


 なんて言えるかぁ! という話である。

 どんな反応するか想像もつかない。

 でもフェルも一応考えてはいるようだ。


『ソコはですね、マサトサン。ナヨ様は、私の従姉ということにしておきますデス。それで、体色も水色になってもらうでスヨ。従姉という事なら、両親のいない私でも説明はつくでシょ?』

「そうだな……そうするしかないよなぁ……でもあの『妾』な言葉をなぁ……」

『ソコは、帝位第二か第三かの継承者という事にしておきますですヨ。テキトーですけど』


 そういうと柏木もウンウン頷いて


「それならいけるかな?」

『デスデス』


 コクコク頷くフェル。大丈夫をアピール。


「はい、わかりました。はは……んじゃ、それでナヨ様紹介するか」

『ウン!』


 納得してくれたのが嬉しいのか、柏木に抱き付くフェル。

 と、ふとそこで柏木は疑問に思う。


「ところでフェル……親族ってことだけど……フェルにはイゼイラにその……他に親戚はいないの?」

『ヘ?』

「その人たちは……どうするのさ。なんかまるでよくよく聞いたら、フェルって天涯孤独みたいな感じだけど、それっておかしいよな。マルマさんのご兄弟とか、ファルンさんのご兄弟とかいるでしょ」

『ア、はい。イマすよ……でも……』

「でも?」

『私がそのお方たちと面識がナイノデス……イゼイラではあるしきたりがありますから、それで……』


 フェルがいうには、イゼイラの皇族にはあるしきたりがあって、皇帝に即位した人物は、即位後、退位するまでその親族と接触があってはいけないという決まり事があるのだそうな。

 これは、皇帝が万民に対して公平であるために、直系の親族。即ち、親・祖母祖父以外の親戚とは一時的に縁を切らねばならないというしきたりがある。無論、退位すれば普通に復縁するのだが、フェルは現在現役のフリンゼ様なのでそのしきたりがあるわけで、実は幼い頃にフリンゼになってしまったがゆえに親戚縁者の顔を知らないのだという。おまけにイキガミサマでもあるので、どうしてもその威厳がついて回り、おいそれと親戚も声をかけてこないらしい。

 その話を聞いて、思わず彼女を抱きしめてしまう柏木。なんとも可哀想というかなんというか、複雑な気分になる。

 フェルからすればナヨ帝は祖母になる。従って今唯一の親族とフェルが認識できる存在だ。

 そりゃ確かに柏木の親に紹介したいだろうと思う。


 ということで、柏木も納得したので、フェルにそこんとこナヨクァラグヤともきちんと相談説明しておいてくれと頼む。


 と、フェルと結婚後、そのストーリーを互いに近づけていけばいくほど、異星の文化やしきたりというのもあるのだろうが、所謂高貴な立場の人物というものの威厳。それに表裏一体となる不憫さを感じざるを得なくなる。

 フェルが日本国籍を取得できたことを喜び、日本に柏木と結婚して永住できることを幸せと思う理由がなんとなく理解できた。それはフェルが『日本人』になれたこと。それ自体が彼女にとってのささやかな『自由』なのだろう。

 自分と共にいられる自由。愛し合える自由を手放したくないのだろうと、そう彼は思う……



 ……とそんな感じで、フェルはディルダー・イゼイラに赴いてナヨ帝とそこんところを相談したようで、委細承知ということに相成り、柏木の両親へ会いに行くこととなった。

 ナヨ帝とて、ニューロンデータ人格ではあるが、齢一〇〇〇年以上を経た大賢人も大賢人である。柏木の言いたいところ、理解してくれていようだ……と思う。

 東京都八王子市に向かう柏木の愛車、エスパーダ。

 後部座席に乗るナヨ帝とフェルさん。


「ところでフェルさ、ナヨ様のお名前。当面どうするの?」


 バックミラーを見ながら後部座席のフェルに話しかける。


『あ、ハイ。えっと「ナヨ・ヘイル・カセリア」という偽名を使って頂くデス』


 カセリア。フェルの母の始祖名だ。それを拝借させてもらったようだ。

 するとナヨ帝も


『うむ。この「ナヨ」という愛称、結構妾も気に入っています。ですので、そのまま使おうということに相成りました』

「あ、なるほど、いいですね。私達も匿名でその御名ならお呼びしやすいですよ。それ芸名じゃないけど、秘匿名でずっと使いましょうよ」

『あい分かりました。ならそうしましょう。妾は今日からナヨサンです。ウフフフフ』

「ははは、了解ですナヨ様……じゃなくて、ナヨさん。でよろしいですか?」

『ワタシの従姉のナヨサンですネ。ウフフ』


 フェルも嬉しそう。

 ただ、なにか桜の刺青な「遊び人のナントカさん」みたいだが、実際そんな感じでもある。



 

 ………………………………




 という事で八王子にある柏木の実家に到着。

 今日は柏木とフェルと、フェルのご親戚の方がやってくるという事で一家全員集合。親戚もやってきて、恵美のダンナと子供も連れてきているみたいである。

 でもって、今や有名人の柏木とフェルなので、近所からも一目実物見ようと、なんだかんだ理由付けてワイワイとやってきているようだ。


「おいおいおい……わかっちゃいるけど、なんなんだよこの騒ぎは……」


 柏木大臣、少々呆れ顔。


『ウフフフ、もう有名人サンですから仕方ないですヨ。マサトサン』

『ホホホホ、これはまた賑やかな事ですね。これなら宴も楽しいものになりましょうや』


 フェルさんはもうそんなものだと、想定の範囲内。

 ナヨさんは、何か懐かしげに柏木の家と、その周りの風景を見渡す。

 八王子の西方。緑生える山を背に、今の時期はちょうど春になろうかという狭間の季節。夕刻の匂いも懐かしいナヨクァラグヤ様。昔住んだ家も、こんな感じの場所だったなぁと顔を綻ばせる。


 実家に言われた空き地にエスパーダを駐車させると、柏木は美人フリュ二人をエスコートして降車させる。するとそれを見計らったように、柏木の母、絹代きぬよが父の真男まさおを伴ってやってくる……二人とも別に構やしないのに、良い服着てのお出迎えだ。


「やぁいらっしゃい。フェルさんも久しぶりですな」


 真男と絹代がいらっしゃいと、気さくにお辞儀して出迎える。


『オトオサマにオカアサマ。お出迎え有難うござまス』

「いや、すまないな親父、母さん。あ、フェル、ほら従姉さんをご紹介しないと」

『ア、はいデス……お二人とも、こちらが、今回の調印外交艦隊のオフネでイゼイラから、来てくださった私の従姉サンになるナヨ・ヘイル・カセリアさんデス』


 とフェルが堂々とナヨ帝を紹介。無論今のナヨさん。擬態でお肌水色モードだ。


『カシワギ殿のお父上、お母上。妾がフェルの従姉になるナヨ・ヘイル・カセリアと申す者。以後お見知りおきをお願い申し上げます』


 その堂々としつつも、恭しく頭を垂れるナヨ様に「ああ、これはこれは」「はいはいいえいえいやいや」と真男に絹代も恐縮しまくりであった。

 そんな挨拶も、近所の方々に盛大に鑑賞されつつ諸氏家へ……って、柏木がトランク開けて土産を出す。

「あ親父、持っていくの手伝ってよ」

「ん? なんだこりゃ」

「あ~ 今日はちょっと連れてこれなったんだけど、フェルの親代わりをやってくれた方がさ。親父たちにお土産持ってきてくれたんだよ。これが結構な量でね」


 とそんな話をしつつ、先に行ったナヨ帝とフェルと絹代の後を少し間をあけて家に向かう真男と真人。


「なぁ真人。さっきあのナヨさんとかいう方、『妾』とか言ってたな……その……なんだ、フェルさんの親戚っつーぐらいだから、高貴な方なのか?」

「まぁね。フェルと同じで旧皇議員資格がある方だから、しゃべり方もあんな感じだそうだよ」


 とりあえずそういう事にして誤魔化す。

 ただ、旧皇終生議員資格は、かのサイヴァルの決裁でナヨ帝にはイゼイラの市民権が与えられた。そして扱いとしては隠居皇族と書類上はなっているが、旧皇族なので、終生議員資格がイゼイラ市民権を持つ限り自然発生する。ただ、現在両国政府で緘口令が敷かれているので、議員資格はフェルと同じく休職扱いにして、個人情報を表に出さないようにしているらしい。


「なるほどなぁ」

「フェルがあんな話し言葉なのも、フェルが特別なんだよ。ハハハ」


 と誤魔化す。

 でも身分が身分だけに誤魔化しやすくはある。


「で、恵美は? アレが一番スっ跳んできそうなんだけど」

「恵美は親戚のお相手で大忙しだよ。綾乃も来てるしな」


 綾乃とは恵美の娘の名である。即ち真男の孫だ。

 と、そんな話を親子でしばし。すぐ家に着く。

 家に着けばついたで近所の人らも挨拶に次ぐ挨拶。

 家の中に入れば、これまた親戚の、やんやの拍手と石化。そりゃそうだ。みんな生フェルさんは初めてであるし、フェルに面立ちの似たナヨさんが一緒となれば、驚きもする。


「あ、お兄! フェルさん! おかえり!」

「おう、恵美。ただいま」

『ただいまデス、エミサマ』


 お盆にビールを置いて行ったり来たりの恵美。旦那もお手伝い。

 エプロンで手を拭きつつ綾乃を呼ぶ恵美。


「ほら綾乃。真人おじちゃんと、フェルお姉さんに挨拶しないと」


 「こんにちは」とペコリ頭を垂れる綾乃ちゃん。四歳だそうである。その水色肌のおねえさんにきょとんとする。

 綾乃がカワイイのか、頬をスリスリするフェル。「こんにちはですね~」とかやっている。


「で、兄ちゃん。こちらの方は?」


 柏木はフェルの従姉だと説明。フェルもよろしくとお願いする。ナヨ様もニッコリ笑って会釈。

 勘のいい恵美でもさすがに違和感を感じないようだ。「いやはやいやはや」と恐縮しまくりの惠美。

 ナヨ帝の擬態は完璧である。

 そんでもって家に入ると……案の定、親戚がよってたかって集まってドンチャン騒ぎ……まぁ予想はしていたが。

 

『ウフフ、やはり宴は楽しいですね』


 ナヨ帝様、至って肯定的。フェルもさりげなく親戚諸氏に挨拶なんぞ。

 柏木家の親戚諸氏。もうやんやの大騒ぎ。フェルやナヨを囲んで柏木なんざそっちのけ。

 二人も愛想笑いではないが、そんな今日見知った親戚に、飲めや食えやの大攻勢を受ける。

 ナヨ様もそんな感じでビールなどを注がれたり。


『!!……これは大変に美味しいオ酒ですネ!』


 ナヨサマ。生ビールの味に大感動な様子。あの頃の酒とは違ってバラエティーも豊富。

 しかし仮想生命体なのに、味覚もあって、酒も飲めるとは……大した素体だと感心する柏木とフェル。

 そう考えると。もしドーラがナヨ帝みたいになってしまたら、そら恐ろしい事になるぞと。

 そんな風にも思ったりするが、またそれは別の話。今はとりあえず今を消化していこうという事に相成ったり。


 大体こういう親戚縁者がそろってワイワイやりだすと、昔話に知った顔の噂話とかをやらかして、それをネタに酒が進む。

 実はフェルもそういう話を聞くのは嫌いではない。これもこのような文化の研究である。そんな種族の話に大いに興味を持ったり。

 ナヨさんも、目を細めて笑みを蓄えながらそんな話を聞く。

 柏木はベロベロに酔った叔父に絡まれ、昨今の自保党政権運営の批評を聞かされていたり。


 まま、そんな感じで話が進み、良い時間になってお開きと相成る。

 親戚縁者一同全員帰宅。運転手は飲酒運転ダメですよと厳重に注意し、また今度と。

 日本の重要政治家二人の前で、そんな事やってくれるなよと。


「はぁ~……みんなして来るかよ、ったく……」


 柏木が頭ボリボリかいて、居間にどっかと腰を下ろす。


「まぁ仕方ないだろう。今日は披露宴みたいなもんだ」

「まーね。で、親父やお袋に招待状来た?」

「おーよ、びっくりしたぞ。外務省からの書簡で来るから何事かと思ったら……マリナントカさんの名前で、お前ら二人の結婚式の招待状ときたもんだ」


 すると後片付けをしていた絹代もエプロンで手をふきつつ、恵美にフェルとナヨも卓を囲んで


「そうだよ真人。びっくりしたわよ」と絹代。

「ホント。私の家にも家族分送られてきたから」と恵美。


「あれ恵美、旦那は?」

「うん、綾乃連れて先帰った」

「そっか」


 実は、今日この親戚大宴会は、いうなれば披露宴代わりの会だったのだ。

 つまり、フェル達の式を、マリヘイルの半ば国策でやるので、おそらく普通の結婚式ではないだろうということで、式後の披露宴もできるかできないかわからないと。

 なので先にそんな形でやってしまえという事で今日の親戚大集会と相成った。ま、いうなれば柏木家へのフェルのお披露目だ。

 そういうことなので、フェルもナヨ帝を連れてきたがった訳だ。そりゃなんだかんだ言って唯一の直系血族である。しかも正体を明かせないまでも、日本とイゼイラが誇る超有名人だ。


『オカアサマ。私の立場と都合のために、ご迷惑おかけしましたデス』


 頭を垂れるフェル。もうフリンゼ・フェルフェリアは、日本中の知るところ。


「いいんだよぅフェルちゃん。そんな事気にしなくても」

「そうよフェルちゃん。こっちゃこっちで結構これはこれで楽しんでるんだから」


 絹代と恵美もすかさずフォロー

 そして、見るからに気品あふれるナヨに、真男ら三人は正座して


「本日はかようなむさくるしいところに……」とやりだす。するとナヨもきちんと正座して


『なんの。本日は妾も久方ぶりに大変楽しませて頂きました。フェルフェリアも良き家族が増えて幸せ者じゃな』

『ハイです。でも、ナヨさんも家族ですよ』

『うむ、妾も爺と婆を思い出します』


 確かにそんな感じである……長すぎる『久方ぶり』ではあるが。

 フェルがナヨ帝を連れてきたがったもう一つの理由。それは彼女も、柏木家と親族になるのだということを伝えたかったのだろう。ナヨ帝もウンウンと頷いてフェルの言葉を肯定する。


 今日はサンサも連れてきたかったそうなのだが、サンサもあれで侍従長パワーを買われ、サイヴァル達の手伝いで忙しいらしく、どうしても来れなかったという。

 で、山のような柏木家へのお土産を託され……


「あ、そうそう、あのお土産、配給しないと」

『ア、そうですね。忘れてましタ』

『サンサと申す侍従長の託した物か? 何を渡されたのですか?』


 そう言って玄関に置きっぱなしの箱やらなんやらの封を解く。


『はりゃ。これは簡易ハイクァーン装置デスね』とフェルさん

「うわ、いいのかよこんなの……」と柏木。

『こちらは……民生用ゼルクォートが、五つですね。ミナサマの分がありますよ』とナヨさん。

「って、綾乃ちゃんの分まであるじゃん。どーすんの。四歳だぞ」と柏木。

「うわぁ~ これってあの魔法のブレスレットじゃん! 嬉しい~!」と恵美。

「はいくぁーんって何?」と絹代。

「これって、こう使うのか?」と腕にPVMCGはめてバイタル登録してしまった真男。


「あ、親父! って、もう仕方ねーなぁ……あ、恵美も!」


 恵美もバイタル登録してしまった。口尖らせてキョトンとする二人。

 仕方ないから絹代にも付けて登録する。綾乃はどうするかは知らないが、旦那にも渡しておけと二つ恵美に託す。

 その様子を横で見て、クスクス笑うフェルとナヨ。

 柏木も苦笑い……まぁティ連のわけのわかんない物を、詰め合わせギフトで渡すサンサもサンサだが、そういった物の他にも……


 イゼイラのとある地方が特産の磁器に似た食器セット。ハンドメイドの物々交換対象品で高価なものだそうな。

 ヤーマ家の紋章が入った、きれいな生地。これもハンドメイド。

 そして、白銀の金属で出来た小箱から取りだすは、イゼイラセイセキという水色の所謂宝石石で出来た……


「ねぇねぇ、この像……ナヨさんに似ているけど……」


 創造主ナヨクァラグヤの像だった。大きさは二〇センチ程。


(ア~~!! サンサ!!)


 ドキっと焦るフェル。しかしもう遅い。

 ただ、その当の本人。すかさずフォローに入る。


『ウフフフ、エミ殿。妾はよくその像の主にそっくりだと言われます』

「像の主?」

『ナヨクァラグヤサマですよ。ヤマ……ゴホン、ニホン国では、かぐや姫と言われておるようで』

「へー、そうなんだ……んじゃこれってマリア様やお釈迦様の像みたいなものなの?」


 そう恵美が訪ねると


「ま、そんなもんじゃないのか?」


 と柏木もさりげなくフォローに回る。

 すると恵美はそのまま実家のご先祖様の仏壇に、その像をトンと置いて、チンチンと鐘鳴らし手を合わせる。

 キョトンとするフェル。ナヨ帝は日本滞在経験者だ。その所作の意味は理解できた。というよりも、一〇〇〇年後の驚異的に発達した大和の国で、あの時と同じよな所作を見ようとは、懐かしさがこみ上げてくると同時に、人の世とは、そうそう変わるものではないということを感じ入る。

 軽くウンウンと頷いて目を細め微笑む。


 柏木家も。ここに至るまでにそれは大小様々なティエルクマスカ関連のニュースに接している。その中にはフェルと柏木に関する内容も相当数あっただろう。

 イゼイラの帝位継承者で、イキガミサマ扱いの超VIP。それ以前に異星人だ。

 そんなのが自分の息子、兄の嫁になって、気軽に帰省して連れて帰ってくる。挙句に『妾』言葉な親戚も同伴である。これで、実はこの方は……と知ったらどうなるのかと。

 そんなこんなな騒動もあったが、結局はその人となりの話に帰結する。今ではフェルがフリンゼであることなど、柏木家の人々にはあまり大きな問題ではなくなってしまった。


 慣れとは不思議なものである。

 人間慣れれば何でも乗り越えられる。

 慣れること。これが今の日本で、一番重要な事だということを柏木は感じ入る。

 動物がまったく違う環境に落とされた時、すぐに体調を悪くし、死んでしまう。

 災害で環境が違う場所に長時間晒されると、昨今は『災害関連事故』という形で体調を崩したり、死に至る人も多々いる。

 ただ、それでも多くの人は『慣れる』ことでそれを克服する。知恵があるから、頭で状況を克服して慣れる。

 動物はそれが出来ない。出来てもヒトほど器用ではない。

 ヒトがヒトとしての歴史において、この地球上でここまで発展してきたのは、その知恵に基づく『慣れ』即ち『順応』である。

 

 今の日本人。とうとうこの状況に『順応』してしまった。

 こういう点は、マスコミの功績もある程度は評価しないといけないだろう。やはりなんだかんだいって、その順応を加速させたのは彼らである。

 今の状況を公に頒布し、慣れさせた。

 とかく批判される事が多い彼らの手法も、今はいい方向に働いている。

 あとやはりネットの拡散も大きいだろう。冷静なのかバカなのか、そんなネット空間に飛び交う人々の主張も良い方向に働いた。そして順応した。

  

「さて、俺達も帰るか」


 柏木がそう言うと腰を上げる。


「え? 兄ちゃん酒飲んでるじゃん。車運転できないっしょ。今日は泊まっていきなよ」

「惠美の言うとおりだよ。今日は泊まっていったら?」

「一日ぐらい構わないだろ真人」


 柏木、実は酒飲んでいない。ノンアルコールで済ませていた。無論運転手だからだ。

 飲んでるといえば、フェルやナヨ帝の方がよっぽど飲んでいる。フェルはナノマシン制御を今日は切っているので、ちょっとほろ酔い気分。ナヨ帝も仮想生命体だがアルコールにも反応してほろ酔いのようだ。


『マサトサン。お言葉に甘えましょうヨ』

『カシワギ、察してやらんといかんな』


 要はなんだかんだいって絹代に真男。彼らに泊まっていってほしいのである。その意を察するフェル。


「はは、わかりました。んじゃそうしますか」


 と、そんな感じに相成って、結局家族だけで二次会開催。今度は柏木も一杯やる。

 ナヨ帝も、そんな柏木一家をみて、何かを思うのか、在りし日の大和を思い浮かべるのか。


 彼女も一〇〇〇年ぶりの酒が、とても美味しい今日となった……





 ………………………………




 二〇一云年。某月某日。その日はやって来る。


 柏木真人とフェルの結婚式。ティエルクマスカ連合とイゼイラ共和国が主催するイゼイラフリンゼの式前日である。これは国家式典でやらないとということで、マリヘイルが主催者として全部取り仕切り、ティ連の今回来ている代表や、地球の各国家に日本の外務省を通じて招待状を送付しまくった。

 しかもイゼイラ的にはフェルの嫁入りではない。柏木婿入りの式なのだ。形式的には柏木が皇配になる式である。そりゃオッサンにフェルさんが嫁に行く形式とは訳が違う。

 しかも、ティエルクマスカ連合の八五パーセントに信奉者がいるという創造主ナヨクァラグヤ帝の直系子孫である。イキガミサマの式だ。この式が情報バンクで中継放映されるティ連各国でも俄然に盛り上がる。当日はティ連各国特別休日らしい。

 


 本日は羽田に成田。そして関空と日本中の国際空港が大賑わいを見せる。

 羽田にはエアフォースワンが飛来し、中から昨今日本往復が激しいジョージ・ハリソン大統領夫妻が姿を見せる。にこやかにマスコミへ手を上げて挨拶。

 今回は、日本政府の役人に、セルカッツと、サマルカ代表が付いてお出迎え。グレーム・レイク空軍基地のお返しである。ハリソン嬉しそう。両手を前に出して、セルカッツたちと握手する。なかなかに役者である。

 この風景にやはり世界のマスコミは黙っていない。ハリソン達にカメラフラッシュの嵐を浴びせかける。


 次にやってくるはフランスの大統領。英国は首相に皇太子ご夫妻。ドイツは連邦大統領と女性首相もやってきた。そのEU諸国続々である。かように日本と友好関係を結んでいる国家は意気揚々とやってくる。英国女王は流石にご高齢な事で、此度は遠慮したようである。皇太子夫妻、女王陛下の親書を持ってのご来日。


 今日ばかりは外務省も大変である。なぜなら本日彼らは『日本国外務省』ではない。『ティエルクマスカ銀河共和連合地域国家ニホン国外務省』なのだ。

 何と今回の式における地球側接待の管理をマリヘイルからの依頼で一任されてしまった。

 その依頼を新見と白木がホイホイ受けた。

 何故なら、最近文句の多い各部局の連中に『そこまでいうなら、お仕事差し上げます』と、全部振ってやった。ザマーミロ。

 今、各部局はてんてこ舞いだった……


 で、マリヘイルは、韓国にも招待状を送ったようだ。

 何を思ったか。要するに日本とティ連の関係を見せつける事である。例の女性大統領はノコノコやってきたようだが、北の方は招待状を送れなかった。それは日本の事情だからだ。そこは二藤部がマリヘイルに事前説明していたので、日本に入国させられないということで今回はハブったそうだ。といっても、送ったところで来やしないんだろうが。


 中国は、張主席がやってきたようだ。彼も正直焦っている。というのも米国がサマルカとの接触に成功し、日米ヤの太平洋権益が固定化し、更には宇宙権益も先行されそうだからだ。これは焦って普通である。なので彼もまさかアレだけの事やらかして招待状が来るとは思っていなかったらしい。面子に拘る中国だ。さすがにこれは行かないとバツが悪いということで、来日したようだ。

 ロシアの件のメンチハ……いや、元K**な大統領もいらっしゃった。やはり来ないわけにはいかないだろう。なんせあの巨大宇宙船で、イゼイラ旧女帝の式をやるというのだ。自分自身がその目で確かめたいというものあるのだろうと思う。


 バチカンにも招待状が行った。これはマリヘイルに三島が助言した。

 実際、三島はバチカン大使館で、大使と結構な会談を行っていたのである。

 そこでバチカンも彼らの宗教の教義上、ティ連というものがどういうものか一度見ておきたいという事で、参加してきたのだ。

 イスラム教関係者は、マリヘイルも招待状を送付することを相当躊躇したらしい。

 というのも、やはりイスラム教の教義が、彼らの創造主信奉な習慣と真逆だからだ。それに現在政情が不安定な国が多すぎるというのもある。

 更には、食事を出すにも、ハラルとか言うメンドクサイ食事を出さないといけない。流石にティ連人にそこまでの事はわからない。これでまた食事でもめるのもなんだしということで、イスラム教国は、政教分離もしくはこういった外交に宗教教義と切り離せることが出来る国に招待状を送付したということだそうな。

 マリヘイルは、柏木とフェルの式を利用して、この地球世界に対し日本との関係を明確な意志として示威行為しようという思惑も、ないわけではない。ただそれも程々にということで、ここは純粋に大人の対応で地球世界の男性と、イゼイラのフリンゼが結ばれるのを祝って欲しいというところである。そこは純粋だ。


 ということで、ちょっとした国連総会か、それともサミットか、そんな状況の日本列島。

 結婚式は明日なので、今日は各国首脳、合間を利用して会談スケジュールを設定していた。

 そんな感じで着いた早々大忙しである。

 二藤部も今回、ロシアがおいたしたおかげでお流れになってしまった日ロ首脳会談を急遽セッティングし、短い時間だが件の大統領と言葉をかわしたり。

 いかんせん日本も西側の対露制裁に加わっている都合上、あまり長々と話ができないのは辛い所。

 日中会談は流石に行われなかった。そりゃそうだ。あれだけのことを中国はやらかして、あげくに中国はボコボコにやられた。それでこんな早期に仲良く会談してたらアホである。

 まぁ? 中国は正直言うと国内のガーグ勢力を粛清させて頂いて、党中央の権力が復権できたから、その点で言えば『柏木大臣』にお礼の一言も言いたい所だろうが、当の大臣がキレて銀河連合加盟になった。そういう経緯もあるわけで、正直中国も気まずいっちゃあ気まずい。


 米国は、今日も最近仲良しなサマルカさんと会談だ。無論ティ連加盟国としての会談なので、仲介国の日本外務省スタッフとヤルバーン州スタッフが、ティ連としてサマルカ側テーブルに付く。まま和気あいあいである。

 なんと米国は、さっそく官民挙げての一大プロジェクトを起ち上げた。その名もSFファンが聞いたら泣けてくるようなアメリカンな洒落の効いたプロジェクト名『Project Enterprise』

 米国の国運をかけた壮大な大型宇宙船開発プロジェクトだ。無論その詳細は、サマルカから提供を受けた磁力空間振動波機関と宇宙船基本構造設計図を元にした開発である。

 いかんせんサマルカの設計図にあった宇宙船デザインが、円形だ……空飛ぶ円盤であるからして。

 んでもって、『プロジェクト名』である。そこにスカンクワークスものけぞって引きそうな米国のキ印技術者に科学者が大集結するのだろう。あの果物印のPCメーカー故人なCEO並な、精神異常者と天才の紙一重みたいな連中が大挙してプロジェクトを組むのだ。そりゃ恐ろしい組織になるかもしれない。


 で、米国はサマルカさんに対する技術質問状と、ヤルバーンに作って欲しい素材の資料を持ってやってきた。価格は要相談ということで。そんでもって参考として特危で運用している宇宙空母カグヤを見学させて欲しいという依頼である。

 どうも以前に、世界のマスコミ向けカグヤ見学ツアーがあった際、米国もその映像を研究し、やはり地球の意匠が濃い船の内装だと察したようだ。そういう事もあってカグヤ見学を申し出てきた。

 そのあたりは、共同運用者と『名目上』でなっている日本政府との相談もある。まま、そんなところ。


 世のマスコミは、そんな日本中の国際空港で起こる、サミット以上のそんな状況を総力を上げて茶の間に伝える。

 そこには地球を取材するティ連各国の広域情報官の姿もちらほら。

 彼らもヤルマルティア近況を各国本国に伝えるため、日本で取材というよりも、情報収集活動を開始していたのだ。



「あ、ニーラ副局長、こんにちは」

「こんちはです、えっと、広域情報官の方ですね。お仕事ご苦労さまです」

「いえいえ。今日はお一人ですか?」

「ううん。えっと……あり? どこに行ったのかな?……あ、あそこだ」


 指差す場所にいるは、アイスクリームショップで、アイス初体験なナヨ帝サマ。


『この赤いのを所望したいのですが』

「はい、三〇〇円になりまーす」

『えっと、この銀貨三枚で足りるかえ?』

「ありがとーございまーす!」


 ナヨさん。アイス買ってチロチロ眺める。

 銭の使い方は、かつての大和でも体験済なので問題はないが、なんせあの時代にはないものばかりなので、大和経験者のナヨサマにはかえって今の日本、珍しいものばかりである。

 知ったものもあれば、全く知らないものもある。特に西洋由来なものは知識皆無。

 これも発達過程文明からの学習と吸収とばかりにはりきるナヨ帝様。抵抗は無意味である。

 そんでもってアイスをペロと舐めるナヨクァラグヤ。


『♪♬♡☆!!~!!』


 メチャクチャお気に召したようだ。ペロペロと美味そうにアイスを舐めるナヨ帝。

 するとトテトテとニーラが近寄ってくる。


「ナヨサマナヨサマ。あまり遠くに行っちゃダメですよぉ~」

「あ、それはあいすみませぬ。この食べ物がどうしても気になったもので」

「あ、イチゴアイスですね。私も大好きですよ。って、そうじゃなくて、待ち合わせがあるんですから、うろついちゃダメデスよぉ」


 ニーラに説教されるナヨサマ。

 今、彼女達は原宿のとある場所で人待ちをしていた。

 実はニーラが設定したのだが、原宿はニーラのお気に入り場所の一つである。良く遊びに来る。


「あ、ニーラちゃんだ~! やっほーー」


 ハイタッチである。ここで知り合った連中も結構いたりする。


「やぁお待たせしました」


 何と! 待ち人とは新見であった。


『あ、ケラー・ニイミ。こんにちはデス』

「はいニーラ教授。こんにちはです」

『ニイミ殿とやら。今日は世話になります』

「は、陛下……じゃなかったですね。ナヨ様、でよろしいですか?」

『はい、それで結構ですよ。ではよろしく東の京の街。見聞させてくださいな』

「畏まりました。では参りましょうか」


 此度、ナヨ帝は東京の街を色々見聞したいと申し出てきたので、実は結構東京の町中には詳しいニーラが案内役を買って出た。

 ニーラ先生。これでも新宿・原宿・秋葉原・六本木。関西では梅田・難波・天王寺・日本橋とうろつきまわっていたりする。時には日本人モードでと結構な日本通だったりするのだ。

 で、ニーラ一人ならまだしも、ナヨ帝同伴となれば政府の役人がいるだろうということで柏木に相談すると、何故か新見が買って出てくれたわけで、今日は新見も普段は見せないようなラフなジャケット姿でご登場である。結構お洒落。


 実は新見。バツイチだったりする。

 こんな仕事なので帰宅も不規則。時には命も狙われる。そんな仕事が仇となって離婚してしまったそうな。もう一〇年も前の話。で、子供もおらずに彼も今や46歳。ままこんな形でたまには役得もいいだろうということで、お二人にお付き合いである。そういうことで、片や見た目一六歳で地球年齢三二歳なニーラ教授と、フェルとためはるかぐや姫なナヨ帝。見た目二三歳で地球年齢一〇〇〇歳超えな美人相手で、両手に花でデートである。   

 とはいえ彼もプロだ。周りに目配せをする。するとインカム付けたSPがコクコク頷いて後に続く。

 そこは彼も遊びでやっているわけではない。実は彼もなんだかんだいって諜報員の一人である。

 今回のナヨ帝復活騒動を聞いて、ちょっと思うところがあり、ココ数日である仕掛けをしたわけであるが、今回それが功を奏したそうで、あるイベントをナヨ帝相手に仕掛けたのだ。

 その時間まで、少々間があるので原宿の街を楽しむ新見とニーラとナヨさん。

 

『この服なんか、ナヨサマに似合いますよぉ~。ホレホレ』

『そんな……妾にこのような垢抜けた服はちょっと……』


 見た目は若いが、基本オバチャンなナヨ帝。なんせ一〇〇〇歳以上である。流石に精神的に若くはない。


「ははは、いいんじゃないですか? ナヨ様。私もお似合いになると思いますよ。あ、そうだ、お近づきの印に私がプレゼントさせていただきます」

『それは申し訳なしです。ニイミ殿』

「いえいえ、かまいませんよ」


 ニーラが選んだ服をプレゼントする新見。領収証はもらわなかった。

 恭しく服の包を受け取るナヨ帝。嬉しそうだ。

 

 と、そんな感じで時間を潰すと、新見は二人をとあるレストランへ案内する。

 ちょっと洒落た洋食レストランで、新見の知り合いが経営している店だそうだ。

 そこにニーラとナヨを連れて行った。

 すると、五〇人ほどの、老若男女な日本人が軽食をとり歓談しているようだ。

 しかしどの人も知り合いというわけではなさそうである。だがみんな何かの話に会話が弾んでいるようだ。


『ケラー・ニイミ? お食事会でもするのですか?』

『フム、それは結構な事ですが、これまた急な事ですね。かの大和の方々、如何なる人々ですか?』


 確かにニーラ先生にナヨ様の疑問も、もっともだ。

 ここにいる日本人の諸氏。ある共通点がある。

 それはその職業や、得意科目である。

 ある人物は、塾の講師。

 ある人物は、割と有名な学者サン。

 ある人物は、学校の先生。

 ある人物は、全国珠算大会上位の中学生。

 

 ……新見はナヨ帝の復活後、その報告をニーラと柏木から聞いて、もしやと思い、ある作戦を立て、外務省の名前で大きく新聞広告にネット広告を打った。

 その内容……それは至ってシンプルなものであった。


【この意味、判る方。今すぐ下記の電話番号までご連絡下さい――外務省】


 その「意味」の内容。それはイゼイラ数学で使われる記号と、アラビア数字を混ぜた、かの巻物に書かれてあった数式の一部であった。

 当然ネットでは、『公共が病気』だのなんだの言われる始末だったのだが……

 なんと新見の目論見は見事にハマり、かなり多くの、式の正解を出した連絡があったのだった。

 外務省は、なぜ答えが出たかをすぐさま調査すると……


「ナヨ様。実はですね……ここにおられる方々、全員貴方の書かれた次元変動波動数値の公式というものですか? その式の一部ですが、それを解くことができた方々なのですよ」


 新見がそう言って紹介すると、ナヨ帝はその意を察したのか、口を大きくポっとあけて驚き、ニーラ教授も同じく意味を察し、目をぱちくりさせていた。

 

 そう、ここに集まった日本人。かの時、ナヨクァラグヤ帝の弟子。教え子の子孫。もしくはその教えをまた請うた弟子の弟子。そのまた弟子の子孫なのである。

 つまり、ナヨ帝の教えたイゼイラ数学や物理学が、形を変えて和算の一つの流派として、語り継がれていたのである。

 

 今でこそ洋式数学が主流だが、このようにイゼイラの数学は教え、語り継がれていたそうだ。

 ある塾の講師や、数学の先生は、イゼイラ数学の解き方を、受験での必勝法として、生徒に教えていたり、ある学者は、和算を使った特殊な解析法として論文を発表し、有名人になっている者もいたりする。


 流石にナヨ帝を「あなた方の数学知識を、ご先祖様に教えたのはこの方です」とはいえないので、その研究者ということにして彼女達を紹介した。

 ニーラ教授がそれを一番に予想したので、ニーラにもついてきてもらったのだ。

 ナヨさんは……イゼイラの学者という設定で紹介したのだが……また撃沈してしまった。

 もうオイオイと嬉し泣きで泣き崩れて、どうしたもんかという話。

 先般からこんなのばかりでナヨ帝も大変である。


 新見もここぞとばかりにハンカチ出して、ナヨさんを庇う。

 ニーラ先生、ジト目で新見を見つめたり。その視線に気づいた統括官。タハハと頭をかいて照れ笑い。 ニーラも口に手を当ててクスクス笑う……なんだかなぁと……


 ただ彼も、そんな同窓会じみた事をするためにこんな会を催したわけではない。

 今回、そういった形で、イゼイラ数学が、結構な専門知識を有する人々に語り継がれている事がわかったわけだが、ニーラ教授と、ナヨ帝も覚えきれなかった並行世界の抜けた数式の解析に、この方々にも検証作業を手伝ってもらいたいと、そういう意味もかねて、外務省主導でこのような会を設けたのだ。

 その点は、実はもう参加者には打診してある。ということで、今回はその解析委員会の発足会のようなものだ。


 新見はそこでナヨ帝に声をかける。


「ナヨ様。貴女の志は我が国民に受け継がれております。貴女はこの日本国でも一人ではありません。このような仲間がいることをお忘れなきように」


 新見の言葉に涙ながらにコクコク頷くナヨ帝。

 今までなんとなく時代との格差でひとりぼっち感があったナヨ帝であった。

 新見は報告書を読んで、これはちとマズイと感じたそうだ。なんせバツイチである。その離婚した理由は自分自身よく知っている。

 ということで、彼女に孤独感を与えないよう、そんな仕掛けを施した。今を生きることに何の問題もないということをアピールしたのだ。

 それが国益にもつながるが……ま、それだけでもなさそうだが……




 ………………………………




 次の日。

 三重県伊勢市宇治館町1『神宮』


 所謂『伊勢神宮』と呼ばれる場所。この伊勢神宮という名称は、所謂便宜上、どこにあるのかという意味も踏まえての名称で、正式名称ではない。正規の名称は『神宮』というのである。

 神道における神社の最高峰に位置する場所。従ってこの社には最高位故に神格がない。

 そしてこの『~神宮』という呼称は、『宮の神』即ち天皇家に縁のある社という意味である。

 伊勢の場合は、言わずと知れた天照大御神。即ち祭神として天皇家の始祖である、かの神が祀られている。

 ……まま詳しことはさておき……


 今ここに似合わねー束帯姿の男性と、とてつもなく幻想的で美しい水色肌な十二単のフリュが一人。


 掛けまくも畏き神宮の大前に……恐み恐みも白さく、八十日は有れども今日を生日の足日と選定めて、何某の媒妁に依り、某所に住みて大神等の御氏子崇敬者と仕奉る真男、絹代の真人と、某星に住めるガイデル、サルファのフェルフェリア、大前にして婚嫁の礼執行はむとす……


 と祝詞を頂き、俯いて粛々と式をあげる……八百万の神々の中には「調べる方の身にもなれ」と文句を言っていたりする神もいるわけで……

 その式を執り行うは、ティエルクマスカ連合本部から依頼を受けた神社本庁。

 これはフェルが日本国民にもなったということで、彼女の希望で日本を代表する形で式を挙げたいということでかような形に相成った。

 これは普通の個人な結婚式なら、どっかのブライダル会社に頼んでセット価格でってな感じなのだろうが、いかんせんイゼイラの超VIP同士の挙式だ。

 柏木は、日本的にはただの突撃バカで、なんとなく大臣で、なんとなくイゼイラに行ったオッサン(某ネットでの認識を参考)だが、イゼイラではそうではない。

 フェルというフリンゼでイキガミサマのハートを落とし、しかも『ジュウ』という革命的な武器で、ガーグ・デーラから何千人ものティ連同胞や同盟国国民を救い、更にはティ連の滅亡に関わる精死病の謎を解明する作戦を発案成功させ、魚釣島事件で、ただ一人の戦死者も出さずに中国を追い返し、日本を銀河連合加盟へ導いたという、ティ連―イゼイラの絶望を希望に変えた超がつくほどの大英雄なのである。

 そんな男が日本的には柏木が嫁にもらい、イゼイラ的には、フリンゼに婿入りする式であるからして、相応の両国形式の格式ある式が必要だという話。


 傍らにいる柏木家一族は、絹代がスンスンと鼻を鳴らし、惠美もがらになく目尻をハンカチで押さえたり。

 もう傍らには、ナヨ帝が目を細めフェルと柏木を眺める。

 その懐かしい装束姿に、ウンウンと頷いて微笑みをこぼす。

 その横では母代わりのサンサがこれまたグスグスと言っていたり。ナヨ帝がサンサを庇っているようだ。 

 とはいえ、柏木とフェルとしては、実のところもう籍も入れてとっくに夫婦なので正直言うと今更なところもなきにしもあらずなところもあり、今回ばかりは両国国益のための晒し者になる覚悟で挑んだ訳であったりするのだが、フェルもやはり女の子なのだろうか、いざこう式に入ると、厳かになってしまうわけで、完全にその気になっていたりする。

 

 で、一応に式が終わり、宮から出てくると、外にはとてつもない観衆とマスコミに広域情報官が待ち構えているわけで、広域情報官の撮影は量子通信の速度で今リアルタイムでティ連各国にその様子が流れている。

 これを見るネットの実況でも……


【祝!】フェル副大臣と柏木大臣。大結婚式【結婚】



30名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 フェルさんおめでと~!

 柏木氏ね~!


31名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 柏木はスーツにすべきだった。束帯姿は吹く。

  

32名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 オマエらなぁ……今日ぐらいは柏木祝ってやれよ……

 で、あとで寝取る相談をだな。


33名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 オマエら全然懲りてないだろww


34名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 今日この日、今後日本で『引導の日』と語られることになるだろうww


35名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 まだキャプテンがいるさ……パウルかんちょも……


36名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 パウルかんちょにディスカール人……いいなぁ……


37名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 それなんだが……自衛隊にいる友人の話だと、キャプテンもとうとうデレたという噂がある。


38名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>37

 マジか!!


39名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>37

 キャプテンまでデレた……もう希望はないのか……


40名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>37

 お前は旧支配者とヤってろボケ。


41名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>40

 演る番に通報しますた。


42名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 俺はキャプテンだけはないと思う。



 ……キャプテンも落ちたわけで。しかし日本。めでたい連中である。こんなのがいるから、恐らくティ連との外交も、ある意味安泰なのだろう。そう信じたい……


 と、そんな感じでこれまた大きな話になった柏木夫妻なのだが、神宮を出てお二人はそのまま伊勢湾で待機しているサラダン・デ・ディスカールから派遣されたトランスポーターに乗り、サラダン・デ・ディスカール経由で転送してもらって連合中央艦ティエルクマスカへ跳んだ。


 ティエルクマスカで用意された控室。

 

『マサトサンマサトサン』

「はいはい」

『次は、イゼイラ式のキョシキをやるデスから、制服に着替えてくださいね』

「了解です」


 着替えと言っても素早いものだ。PVMCGのスイッチ一つで彼は束帯姿からイゼイラ国防軍の制服姿に早変わりだ。

 フェルさんは十二単から、伝統あるイゼイラフリンゼの挙式服に変身する。旦那の前で一瞬マッパになるが、もう慣れたもんである。

 その姿、ウェデングドレスに綺麗な鳥の羽が一面に生えたような、見事な服装だった。

 そこにサンサがイゼイラから直々に持参したイゼイラ様式の冠を頭に載せてくれる。

 もう見るからに国宝級の高級そうな冠だ。宝石がいっぱい散りばめられている。

 案の定、話に聞くと、ヤーマ家家宝の一つなのだそうな。でもフェルはあんまり興味ないらしい。

 で、サンサに怒られていた。 


『モ~ こんな冠。別に使うことナイんですから、国に寄贈すればいいじゃないでスかぁ~』

『まぁまぁ! フリンゼからそんなお言葉が出るとは驚きです! これは先祖代々ヤーマ家に……』


 そんな感じ。

 普通地球世界では、そのほとんどの挙式で、宗教宗派を問わず、嫁と婿は別室で準備するのは普通なのだが、どうもイゼイラではそうではないらしく、同室で夫と妻二人が協力して式を進めるという体裁上の都合で、控室も同室なのが普通なのだそうな。

 まあそこんところはイゼイラではそういうもんなので、考えても仕方無い。

 しかしなんというか、フェルもつくづく普通の女の子とは違うなと柏木は感じる。

 高価な冠付けてもらって、見事なドレス着て結婚式なんてのは女の子の憧れだと思うのだが、家宝の冠を国に寄付すりゃいーじゃんと、そういうものにあまり興味が無いようなのだ。

 

 ある意味、変わり者である…… 


 柏木も何やら先の通り、イゼイラ国防軍の軍服のようなものに着替えさせられた。

 彼が普通の政治家や一般市民ならイゼイラ的なフォーマルスーツみたいなものを着せさせられるところなのだが、柏木御大は特務大佐の称号を持ち、実はティエルクマスカ連合防衛総省に褒章予備役という身分として軍籍を置く身なので、イゼイラ皇族のしきたりに則ってこういった格好をさせられている。

 はっきりいってメッチャ恥ずかしい……コスプレした日本人みたいだ。


 しかしフェルさん……その柏木の姿をポ~っとして見ている。とても眩しいらしい。


『マ、マサトサン……コッカイに出席するときも、その格好デデスネ……』

「やだ」

『エ~~! どうしてデスかぁ……カッコイイじゃないですかぁ』


 それはフェルだけだろと。

 こんな格好で国会行ったら、日本中から何を言われるか……いやこの挙式でも何を言われるかわかったものではないのに…… 

 やっぱりフェルはどことなく変わり者である。



 そして、挙式が始まる。

 控室外で合流した柏木の家族は、彼の格好を見て「プーーーー」と吹きそうになるのを堪えた。特に惠美。頭かいて苦笑いな柏木大臣。

 ナヨ帝と合流するは、フェルさん。そのこの世のものとは思えない美しい姿に、柏木家一同「ほえ~~」っとなる。

 十二単のフェルさんも素晴らしかったが、そこは本家の格好だ。これが世が世ならフェルの本当の姿なのだ。実はフェルの姿、旧帝政時代にあったイゼイラ女帝の姿、そのものなのである。


 調印式を行った連合中央艦ティエルクマスカの大会堂。

 そこには今、すさまじい数のVIPから一般人が集まっていた。

 

 まず柏木家関係者。

 家族に親戚一同、それに白木に大見ら友人に取引先関係者。

 フェルさんのヤルバーンでの友人。シエにリビリィ、ポル、オルカス、ヘルゼン、リアッサ、シャルリ、ジェルデア、お師匠のゼルエ等々 

 親族は、ナヨさんにサンサ。それに親族側としての扱いで、サイヴァルとニルファに、ガッシュが付いてくれた。


 続いて苦楽を共にした安保委員会メンバー全員。

 誰一人欠席することなく出席している。

 二藤部や三島に春日、浜ら与党政治家に野党代表団。

 今回は苦楽を共にした官僚も招待されていた。無論、新見は外務省から。山本達公安メンバーも今日は警視庁代表として出席だ。セマル君もその中にいた。


 カグヤの特危メンバーも、さすがにこれは全員というわけにはいかないので、主要メンバー。つまり久留米に多川、藤堂、加藤に沢渡といったメンバー以外はくじ引きになり、泣き笑いがあったそうな。

 リアッサさんの彼氏な樫本はリアッサ枠で出席できたそう。

 ティラス艦長にニヨッタ副長。それにホムス君。

 ヤルバーン州からもヴェルデオ知事にジェグリ副知事。他関係者多数。


 そして、ティエルクマスカ各国代表。総勢350名。

 そこに日本の地方自治体首長も招待され、更には世界各国の代表も加わる。

 それらの中で知った顔といえば……

 ヘストル将軍に、セルカッツ。無論デヌ閣下もいらっしゃる。

 シレイラ号事件の乗客代表も数人いるようだ。

 カグヤの帰還作戦で共に戦ったクラージェ乗員のみんな。

 パウル艦長は言うに及ばず、なんと、ダル艦長も急遽火星から駆けつけてくれたようである。


 地球側の知った顔は、ドノバン大使は当たり前。

 ハリソン大統領に、件のISSクルー達メンバーや、今回はリックセンター長もお呼ばれに与れたようである。だがジョンはちゃっかりまた来ている。

 更には柏木の地球における政治的な好敵手ともいえた張主席。今回は純粋に休戦といきたいところだ。

 他、色々と仕事上で会談してきた各国のVIP。


 そして……地球側でも一段と諸氏から敬意を集め、ティ連側スタッフからも特別枠扱いされている存在。日本の皇太子殿下夫妻がご出席あそばされていた。陛下はご年齢もあっての事で、皇太子殿下がご出席。

 英国の皇太子ご夫妻に、各国王室の代表等々。

 そしてバチカンの教皇猊下も。

 これら方々には地球側もさることながら、ティ連側からも、膝を折る最上級敬礼で挨拶をされる。

 そこは流石に巨大星間連合の各国代表団である。大人の対応であった。

 そういう予備知識もティ連諸氏、みんな身につけている。

 やはりこうでなければ、星間国家連合の代表など務まらないのだろう。

    

 そして今回の仕掛け人であるマリヘイルは……言い出しっぺなので所謂地球的な感覚で言うと、神父さんや牧師さんに当たる『イゼイラ賢者』役をやらされる。

 巨大な壇上にイゼイラ皇族様式の祭壇が組まれ、その中央にマリヘイルが、パーミラ人ながらイゼイラ賢者の扮装で登場する。


 その瞬間、拍手喝采。




 ……さて、こういった形で始まったフェルと柏木の結婚式。

 おそらく地球史上最大規模の結婚式だ。

 なんせ出席メンバーが、地球、ティ連とも国連とティ連総会がそのまま出席したような規模だ。

 地球世界では歴史上ない挙式イベントになろうものだが、今回ばかりはティ連としても歴史に残る偉大なイベントになる。

 なぜなら、イゼイラフリンゼのイキガミサマなフェルが、その発達過程文明の『聖地』である日本で挙式を上げ、更には緘口令が敷かれている関係者にとっては、もう夢としかいいようのない現実である『創造主・ナヨクァラグヤ』のニューロンデータが仮想ではあるが実体化した姿。かの遺志がこの挙式にフェルの親族として同席する信じがたい光景。


 そして、この挙式で発表されるであろう重大な報告。

 ニーラがフェル達親族側に付いているのもそのためか?

 これがティ連としても、今までにない歴史的なイベントとさせているのである。



 そして地球側、ティ連側、双方思惑の中、フェルと柏木が、式場に姿を現わすのであった……





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[一言] メンチh...ドンドンドン なんだ?うわやめ
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