表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
75/119

-50-

 アメリカ合衆国 ネヴァダ州南部 アメリカ合衆国空軍『グレーム・レイク空軍基地』


 この場所。もうひとつの名称がある。それは『エリア51』


 この基地は、米国内外問わず、謎の多い基地として有名である。

 第二次大戦後、米ソ冷戦時代から米空軍の秘密兵器を研究している施設ではないかと噂され続けてきた。

 その厳重な秘匿性は特筆すべき物で、監視体制は万全。無許可の施設撮影は、MPが即ハマーですっ飛んできて逮捕拘束と、これは噂ではなく実際そんな施設なのである。

 ということもあって、かつてはUFO騒ぎで有名になった『ロズウェル事件』等にも関与しているのではないかと噂され、地球世界におけるUFOの秘密といえばこの基地だという感じで、ある種米国の、言ってみれば別の意味な観光名所であったりする。

 昨今、実のところ情報公開法で一部機密指定解除がなされ、当時の兵士の証言等々で、この基地でそんなオカルトじみた噂はないという事が言われたが、それでもこの施設の秘匿性は変わらず、米空軍の秘密兵器開発施設であるという事実は今以て変わっていない。


 実際、ここで開発試験された兵器を見れば、その秘匿性も頷けるほど一目瞭然である。


○ロッキードU-2偵察機

 米国の歴史上、揉め事の代名詞のような偵察機で、一時期はその超超高度飛行能力から撃墜が難しい機体と言われていた。キューバ危機で一躍有名になった機体である。CIA主導で開発された。


○ロッキードSR-71戦略偵察機。

 最高速度マッハ3.3という、現代の地球製航空機では、まだその速度記録が破られていない超高高度超超音速戦略偵察機。巡航ミサイルの飛行データマップ作成などに活躍した。現在は、軍事衛星技術の発達でお役御免になり退役したが、その速度性能のお陰で退役に至るまで一度たりとも撃墜の危機を体験したことのない航空機だった。これもCIA主導の航空機である。


○ロッキードF-117攻撃機。

 言わずと知れたステルス機の元祖ともいうべき攻撃機。それまで色々と噂されていたが、湾岸戦争で初実戦投入。一躍有名になった。


 その他、現在でも無人戦闘機や、ステルス垂直離着陸機。ステルス兵員輸送機の開発が行われていると噂されており、なんというか、そういった軍事機密なネタには困らない施設であるのは確かである。


 さて、そんなグレーム・レイク空軍基地であるが、UFOネタなんかウソだよ~んと、そういう感じで米政府が公式に発表したのだが、世の中『何寝言言ってやがる』ってなもんで、誰一人信用しちゃいない。

 従ってこの基地、今日も機密指定で順調に営業中なわけだが、本日は特別なお客さんを迎えるために、もう朝からてんやわんやの大騒ぎになっており、基地周辺に警備部隊を展開して厳重な警戒態勢を取っていた。とはいえ、今回に限っては一般観光客も施設へ不用意に接近しない限り、基地側も写真撮影等々はあえて大目に見てやっているようである。



 米国西海岸方向から軍事指定航路を飛行して、米国領内に入ろうとする一機の航空機……いや、宇宙船。

 その姿、白銀色で灰皿を上下に合わせたような形。そこにティ連系のスリットな意匠にキラキラと光が行き交う。言って見りゃ早い話が地球人の言う『UFO』というヤツである。ってか、もう今やUnidentified などでは無くなってしまった訳なのだが。

 

 フィフィと独特の音を唸らせながら飛行するそれは、今や日本でもソッチ方面な方々に大人気なサマルカ人の宇宙船だった……この形式の宇宙船の名称は、ティエルクマスカ連合呼称で『フォーラ』という名称で統一しているらしい。その名称の由来は、パーミラ特産の貝類でフォーラという生物が、こんな形をしているという理由……牡蠣に味が似ていて激ウマらしい。

 でもってサマルカ人の使っている呼称をまともに採用すると『=~=#$&$#1123256487』とか、こんな名称になってしまうために、あまりに論外なので、こういった呼称としているそうだ。


 輸送任務や連絡移動任務はもとより、戦闘もこなす事ができるマルチなマシンで、非常に使い勝手の良い機体という事だそうで、一部連合各国国防軍でも正式に採用されている。ただサマルカ技術の色合いが濃い機体で、汎用性に難があるため連合防衛総省ではデロニカを制式採用し、フォーラは少数の部隊配備のみに留まっているという話……こんなのが大挙して戦闘というのも、なんとなくな感じではある。


 さてこの度。ティエルクマスカ加盟国では、フェル達ヤルバーンクルーの中華人民共和国訪中に続く、ティ連人の日本国外訪問第二弾といったところだろうか。

 先の首相官邸で米国が異星人の遺体や、所謂UFOの残骸を所有していることを極秘裏に日本とティ連に情報公開し、沖縄嘉手納基地で米国としては記念すべき日・ティ・サ・米会談が行われた訳だが、その際、先のグレーム・レイク空軍基地に所謂サマルカ人と同種と思われる異星生命体のサンプル及び数々のアイテムがあるので、公開、希望するなら引き渡しを行いたいと、緊急来日したハリソン大統領直々の招待があったわけであるが、現状地球での交渉は、ティエルクマスカの一極集中外交方針と、ティ連憲章の外交法でイゼイラが外交権を持って一括担当しているため、サマルカは米国と直接交渉が行えないのである。


 ただ、サマルカ人としては米国がもたらした資料はどうにもこうにも無視できず、ティ連としてもサマルカ人自身の歴史的な謎を解明するため協力するという方針の手前、サマルカの代表がサイヴァルとマリヘイル、そして二藤部に相談をしたところ、サイヴァルはティ連防衛総省とイゼイラ、そして日本国が決裁権を持つサポートにつくなら別段サマルカが米国と直接交渉を持ってもらっても構わないと回答した。

 なぜに防衛総省のサポートを条件に付けたかというと、所謂彼らはティ連世界で全ての国に対する上位法の具現化であり、またティエルクマスカの実力組織でもあり、完全な中立の立場でもあるからだ。

 日本については、米国の最重要同盟国でもあり、ティ連加盟国でもあるからである。

 こういった構成だと、日本にもティ連にも、イゼイラにも不利益はないだろうと判断し、サイヴァルはマリヘイルに認可の方針を通知。マリヘイルが議長権限の特例決裁を出した。

 

 と、そんな感じで米国領内に接近するフォーラ。

 するとやはり米国近海だといったところだろうか、F-22戦闘機が数機接近してきてフォーラを囲むようにフォーメーションを組む。


『こちらアメリカ空軍ヴァンデンバーグ基地第14空軍所属オスカー隊。ティエルクマスカ連合防衛総省のみなさん。サマルカ国のみなさん。日本国、そしてヤルバーン州のみなさん。ようこそアメリカ合衆国へ。みなさんを歓迎いたします。以降我々がみなさんを誘導いたしますので、よろしくお願いいたします』


 ヴァンデンヴァーグ基地といえば、アメリカ空軍宇宙軍団がある基地だ。そして、米国でも貴重な装備F-22……所属はそんな体裁になってはいるが、実際のところはどうなのか、わかったものではない。


「恐らくグレーム・レイクか……同じネヴァダ州ネリス基地の部隊でしょうね。実際のところは……」


 サマルカ人に同行する新見がそう話す。


「でしょうな。443あたりですか? それでもアメさんにしては、まだ素直な方じゃないですか?」


 何と白木がいた。所謂人間SSDな能力を買われての同行だ。んでもって……


「ま、別にどこの連中でもかまわないのではないですこと? こちらはサマルカ様の御所望する情報が手に入りさえすれば、あとはなんでもかまわないのですから」

「そうですわね。それに米国としてもこれ以上ないチャンスです。おいたなどはなさらないでしょう」


 これまたなんと、麗子に田中さんだった。

 今回柏木の推薦で、二藤部から政府特使としてこの二人が派遣されていた。

 そこは彼女たちも安保委員会の重要メンバーである。このような任務を任されても、その大役をこなすだろう。

 日本勢は、日本有数のインテリジェンスな新見と白木。そして機知に富む行動派のセレブ特使な麗子さんと、MI―6の00ナンバーともタメはれる元国連職員の田中さんである。ある意味最強メンバーだ。


『マ、こっちゃサマルカさんとこの情報が手に入りゃ御の字だからね。こういう言い方をコッチからするのもなんだけど、礼には礼をってやつだわさ』

『ソウですね。アメリカ国は何もイイマセンが、報酬の件も考えておかないト』


 ティ連防衛総省からはシャルリ中佐。ま、彼女一人いれば何かあっても地球の戦力なら陸軍一個大隊相手にしたって戦える。

 そして法務に詳しいパーミラ人のジェルデアが、ヤルバーン・イゼイラの代表として、サイヴァルより依頼されての同行だ。


『モシ、有益な情報であれば、我々も相応にお応えしないとティエルクマスカの評判にも関わりますからね。よい情報だといいのですガ……』


 そう答えるは、先のナヨ帝再誕騒動で奮闘した女性型リーダーのサマルカ人だった。

 サマルカ中央司令艦本部よりその能力を買われて、あれから緊急でこの任務に回されたらしい。名を『セルカッツ・1070』というそうだ。

 名前に番号とは、なんとも可哀想ではないかと思うのは、我々の倫理観。

 彼女(?)らからすれば、それが普通なので何とも思っていないらしい。むしろその数字な名前に誇りを持っているのだそうだ。そこは文化文明習慣の事なので、尊重しないといけない。

 

 と、こう見ると相当なメンツがそろっているわけだが、これも全てサマルカ人さんのサポートである。これから向かう処は米国国内でも相当な機密区画でもあるわけで、かなりの突っ込んだ情報取得が期待できるかもしれないからだ。

 日本勢も、この地球で相当な事を言われ続けている場所なだけに、ある意味ドキワクモノでもある。なんせ子供の頃見たテレビな場所だけに、そんな複雑な感じだったり。ただ麗子や田中さんはちょっと世代ではないかな? とそんなところ。


「ところでセルカッツさん」

『ハイ何でございましょう、ケラー・シラキ』


 白木に声をかけられて嬉しいセルカッツ。

 実は白木。サマルカ人のみなさんから、アイドル並みの大人気なのだ。理由は件のサヴァン能力である。

 今度是非『脳』を調べさせて欲しいと懇願されて、メチャクチャ困惑していたりする。


「私達は沖縄にいたので詳しくはまだ報告をうけていないんっすが……どうです? その仮想生命の帝さんは」

「そうですね、私もそのあたりを詳しく聞きたいですね。興味があります」


 新見も白木に同意する。麗子や田中さんにシャルリ、ジェルデアも同じ感じ。

 と、到着までまだ間があるので、先の騒動をかいつまんで、かつなるべく詳細に説明するセルカッツ。



「……ほへ~……精死病の根治療法確立の条件が、ナヨクァラグヤさん再誕かよ……とんでもねーことになってたんだなぁ……」

「私もどんな方か、一度拝顔してみたいですね」


 妙に積極的な新見だったり。


「帰国したら、イヤがおうにも対面しなきゃならないでしょう統括官」

「ああ。で、話では……」と、白木に耳を貸せと言うと、モショモショ話す。

「!!……マジですか統括官」

「らしいぞ白木君。なんでもアイディアは君の親友だそうだ」

『ハァ……あのバカ……もう何考えてんだよ……」


 といいつつも、ニヤケ顔になる白木。本当に楽しいヤローだと呆れ感心する。


「え? 何ですの崇雄。私達にも教えてくださいな」

「是非ともお聞きしたいですわ。柏木様がどうかなさいましたか?」

『だね、二人だけでコソコソ話なんて水臭いんじゃないのかい?』

『そうですヨ。ファーダが関わっているとなれば、元秘書として私も興味あります』


 しかたねーなと白木はかようにかような、彼のやらかした事を教えてやる。

 

 ……結論からいうと、やはり柏木は銀河アサルトバカだったという結論で諸氏終始納得した……




 ………………………………




 そんな話をしつつ飛んでいると、フォーラや護衛の米軍戦闘機はネバダ州に入る。

 今回、フォーラは対探知偽装をかけていない。というか、かけていないから米軍が護衛に付けるわけだが、高空を飛んでいてもフォーラの円形な容姿はかなり目立つ。

 護衛の戦闘機がいれば、比較対象になるのでもっと目立つ。

 地上では空を見上げて「あれじゃないか?」というアメリカ人さんが一杯で、彼ららしくヒューヒューと口笛吹いてそんな感じ。

 双眼鏡に望遠鏡を持ってきて、フォーラを一目ナマで見ようとがんばるアメリカ国民。

 ゴミ箱に捨てられた新聞には『ティエルクマスカ構成国とワシントン。条件付きながら個別会談を成功させる』と内外に誇示するようなイメージで記事が書かれていた。


 グレーム・レイク空軍基地周辺では、基地を遠目に見ながらキャンピングカーでUFO見物だ。

 簡易ベッド出して日光浴しているヤツやら、カイト上げて遊んでるヤツなど。

 基地警護兵も、今日ばかりは大目にみているのか、警戒線の外側ならあえて追い返すような事はしないようだ。サングラスかけて腕くんで、ハマーの上から監視するだけであった。


 しばしすると、フォーラがやってきた。

 観衆の見学する場所からはかなり遠い。だがみんなそこは万全の体勢。全員双眼鏡やら望遠鏡やらを取り出して、フォーラに視線を合わせる。

 フォーラはしばし空中に滞空した後、帽子のツバのような円盤先端部のスリットにキラキラ光を纏わせながらゆっくりと着地する。

 基地の施設からは、ハマーに高級外車にとゾロゾロと出てきて、フォーラ前につける。

 フォーラのハッチが開くと、中からセルカッツとその部下。シャルリにジェルデア。そして最後に新見、白木、麗子、田中さんと日本政府陣が降機してきた。

 迎えるはコレに合わせて帰国したドノバン。そしてデュランにハリソン大統領。他、米軍参謀本部幹部と、錚々たる顔ぶれである。

 さすがに黒い服着て、ペン型ライト持って記憶消しに来るような黒人や、缶コーヒー好きの宇宙人役やってるような奴は来ない。


「ようこそグレーム・レイク空軍基地へ、ティエルクマスカ連合のみなさん。本日はみなさんを歓迎いたします」


 基地司令が挨拶。諸氏と握手。

 その「ティエルクマスカ連合のみなさん」の中には、日本も入っているんだから複雑な気分の白木達。ちょっと苦笑い。

 案の定ハリソンからも……


「ハハハ、今日は同盟国日本ではなく、銀河連合加盟国の日本としてお相手しますよ。ミスター・ニイミ」

「いやはや、今日ばかりはそんな感じですね、大統領閣下」

「ミスター・シラキがいらっしゃれば、記録メディアは不要ですかな?」

「はは、夢にうなされそうなのは御免蒙りますよ閣下」


 麗子や田中さんにも挨拶。麗子嬢は、その筋では有名人なのでハリソンも知っていた。しかし、問題は田中さんである。言って見れば無名も無名。そんなのが政府特使なのだから、米国側も不思議がる。

 有り体な挨拶のあと、当然「素性を洗え」と相成るのは当たり前。田中さんとしても、そんな事ハナから想定内である。どうということはない……ニコニコしながらも鋭い視線で周囲を観察していた。

 ハリソンはシャルリ達とも挨拶。


「先日は色々と有難う御座いますシャルリ中佐。今回もお世話になります」

『ワザワザのお出迎え痛み入りますファーダ・ダイトウリョウ。今回ジブンはオブザーバーに過ぎません。こちらのサマルカ人さんに色々と教えてやってくださいな』


 シャルリも流石に大統領相手だと、普段のフランクモードも封印である。きっちりとした対応でご挨拶……でもやっぱりちょっといつもの口調が残ってしまうよう。

 とそんな感じで挨拶を交わす諸氏。

 日本にはないネヴァダ州独特の乾燥した気候が諸氏を埃っぽくさせる……やはりみんなある程度湿度がある日本の気候の方が良かったり。 

 今日は風も強いので、諸氏素早く車に乗り込む。

 この基地。アメリカらしく異常にデカイ基地なので、施設内を暫し走行。そしてとある建物に到着する。そこで降車をすると、次に厳重なセキュリティに守られた施設の入り口に入る。


『ねぇねぇニイミのダンナ』

「? なんですか? シャルリさん」

『えらい厳重な施設ダね。こんな沢山のセキュリティに守られた施設、ニホンでもお目にかかったことナイよ』

「はは、まぁなんといいますか、この基地は地球世界でも相当いわく付きの施設ですからね」

『いわく付?』

「ええ。米国の航空兵器で、地球世界の基準で画期的な性能を持ったものは、大体この基地でテストされています。そういうのもあって、実は宇宙人を隠しているだのとか、宇宙人の技術を兵器に転用しているだのとか、そんな噂が立った場所だったのですが……まさか本当にそうなるとは……」

『ダねぇ……』


 一行は次に分厚い扉を持つエレベーターで、地下へ連れて行かれる。

 クォーンという機械音が不気味に響き、大型で耐久力高そうなエレベーターは、所謂核シェルターレベルの深さでヒュンと止まる。

 エレベーターの扉が、プシュンと開くと、そこは…‥


 広大な広さを持つ地下空間だった…‥

 その場所にはフル装備の衛士がM4カービンを携えて銃口下に向け、正面で持ち、新見とサマルカ人一行の歩く方向を目で追う。

 「どひゃぁ~~!!」などと驚くようなこともない。兵士達の精神が屈強なのか、そう訓練されているのか、それとも……見飽きたのか、そんな感じである。

 待機していた基地スタッフがやってきて、ようこそという感じで彼らをさらに奥へ誘う。

 そこからはもうIDチェックIDチェックの連続。これでゾンビでも出てきたら、生物災害な映画のよう。


 そして、最後のIDチェックが済んだその部屋を開けると……

 

 基地スタッフが、ゴンという感じでパワーのスイッチを入れると、大きな広間の照明が灯る。

 すると目の前に、朽ち果てた感じの『フォーラ』……によく似た宇宙船の残骸が、大事そうに置かれていた。

 その残骸、ほとんどバラバラで、まるで遺跡の発掘物を組み立てるような感じで、かろうじて「こういう形なのだろう」というイメージの残骸が配置されているような代物だった。

 フォーラによく似ているとはいえ、フォーラに比べたら一回り小型だ。

 フォーラは直径約九〇メートルの円形だが、この残骸は約五〇メートルほどの物体のようである。


 日本勢にイゼイラ勢、そしてサマルカのみなさん「おおおーーー」という感じで、残骸に近寄っていく。

 それを見る新見が、米国基地スタッフに尋ねる。


「もしかして、これがかの有名な一九四七年の……」


 するとスタッフもコクンと頷く。その通りだと。


「これが地球の産物なら、普通経年劣化で風化してその保存も大変なのですが……この残骸、実はこれ、当時のままの状態と言ってもいいぐらいの保存状態なのですよ」


 基地スタッフがそう話す。

 今回はもう彼ら来訪者に対してのみ、機密指定が解除されているのだろう。今までゴシップ新聞ネタにしかならなかったような内容を、真剣な眼差しで話す。


「……そして当時はもう、何がなんだかわからない素材、機械で、その分析を将来の科学に任せるといった感じだったのですが、それでも少しずつではありますが分かってきた事もあったところでした。そんなところにティエルクマスカさんのご来訪です。しかもあのサマルカ人? さんの登場でしょう? 我々もひっくり返りそうになりましたよ」


 スタッフは手を横に上げてそう話す。今までの事はなんだったのだという感じだったそうだ。

 新見に白木はコクコクと頷いて、さもあらんとその話を聞く。

 シャルリやジェルデアも「なるほどね」と、そんな地球のよもやまな話が興味深いようだ。


 で、サマルカサン達は……みなさん総出で検査機器を造成して、その残骸を調べていた。

 もう無我夢中と言った感じ。

 すると基地スタッフが……


「あ、まだお見せしたいものがありますので、調査の方は後ほどごゆっくりと……」


 とシャルリにそう言うと


『了解だよ……ケラー・セルカッツ! まだ見せたいものがあるんだってサ。行くよ!』


 そういって彼女(?)を呼ぶと、セルカッツはテキパキと役割分担を指示し、二人ほど連れてトテトテと戻ってくる。

 次に連れて行かれたのは、少し離れた大型冷凍庫のような部屋で、諸氏防寒具を渡されてそれを着こむ。

 ってか、日本勢に異星人サン方はPVMCGの体温調整機能があるので、そんなのいらないのだが、そこはご好意に甘えることとした。

 

 白い息を吐きながら、薄暗い冷蔵室に入る諸氏。

 スタッフがこれまたパワーを入れ、中の照明を灯す……すると……


「きゃっ!……」

「はっ!」


 まず麗子に田中さんら、やまとなでしこ陣が反応。

 口に手を当てて目を見開いて反応。

 見せられるは……所謂、『灰色な名前の生物』その冷凍保存された遺骸であった。

 単純計算で、死後六八年経過した代物である。


『これは……サマルカ人? でも、えらく小さいですね』


 とジェルデアも一言。


『アア、良く似ているけど……ウ~ン、どうなんだいセルカッツ?』

『ハイ、しばしお待ちを……』


 セルカッツは、検査機器をピロピロとその遺骸に当てる。

 米国スタッフも止めない。もう納得済だ。

 それ以前にサンプルを採取しなくても検査できるという、その非破壊検査の性能に米国スタッフも驚かされる。


「あの……ミスセルカッツ? よろしければ、この遺骸のサンプルをお採りしましょうか?」


 基地スタッフも気をきかせてそんなことを言ったり。異例の大サービスである……その後の『請求』が怖かったり。


『イエ、ご好意だけで結構デス。もうデータの取得は完了しました。アリガトウゴザイマス』


 セルカッツは丁寧に礼を言うと、シャルリが『この遺骸はどういう経緯で入手したのだ?』と米国側に問いただす。無論。ティ連の防衛総省関係者として、尋ねなければならない事だ。これが故意の殺人とかだと、シャルリとしても捨て置けない事態になる。


「では、その点の経緯も踏まえて、色々とお話しさせていただきましょう。どうですか? 遅めの昼食なぞ取りながらでも」


 取り敢えず諸氏頷いて、基地の地下食堂へ。

 こんな秘密事項満タンな基地なので、辛気臭い所だとおもいきや、食堂に入ってシャルリとジェルデアにサマルカさんが姿を見せると、食堂中のスタッフが総立ちで拍手喝采。口笛吹いて彼らを歓迎する。

 その中には大統領閣下もいるので、全員軍人故に敬礼なんぞ。

 ハリソンは、「そのまま」のジェスチャーで緊張をとく。

 白木に新見達は、日本人の自分らも何か異星人扱いされているようで困惑顔。

 横にいた黒人スタッフが


「日本製の家電製品なんざ宇宙人が作ったみたいなもんじゃねーか。今更不思議じゃねーだろ、気にすんな」


 と白木の背中をパンパン叩きながらアホな冗談を飛ばす。

 そして、てっきり別室で秘密裏な説明会でもやらかすと思ったら、食堂スタッフ全員が押しかけへし合いしながら、机に腰掛けたり、机の上に立ったりで、ティ連諸氏と、米国スタッフや国務大臣、大統領を囲んで、学芸会ミーティングのような感じになっていたり。


 で、誰が頼むわけでもなく、諸氏の机に今日のランチが運ばれる。

 内容は、ホットドックとサラダにクラムチャウダー……とにかく量が半端ない。ホットドックの大きさでも相当なものだ。しかもおかわり自由である。さすが飽食の国アメリカ。


『お? こりゃウマイね。イケルじゃないか』


 マスタードとケチャップをたっぷり塗り、ピクルスてんこ盛りのメガ級ホットドックをワイルドに頬張るシャルリ。その姿、良く似合う。

 セルカッツはクラムチャウダーが気に入ったようだ。スプーンですくって美味しそうに食べていた。


 んで。モグモグさせながら、シャルリはスタッフにさっきの話をしてくれと頼む。


「ええ、そうですね……あーベック! あの資料頼むよ」


 ベックというプエルトリコ系の男がOKサインを出し、用意してあった資料を持ってくる。

 諸氏、スタッフが広げるその資料を覗きこむ。


 ……さて、スタッフが説明するには、先ほど諸氏に見せた機動マシンの残骸や、灰色異星人の遺骸。どうやら単純に、彼の地に墜落したものだという話なのだそうな。

 米軍が撃墜したとか、そんなのではないという。

 恐らく何らかの事故で墜落したものだろうという話。

 セルカッツも、先ほどその残骸を調べると、恐らくそうだろうという見解に達したようだ。その詳細はデータを船に持ち帰って調べないとわからないそうだが。

 で、あの遺骸もその時に死亡したものだろうという話。この点は米国側の主張と一致する。

 米国も、回収した時は既に件の異星人は死亡していたので、検死解剖を行ったそうなのだが、もう明らかに地球上の生物と違うということで、この時点で所謂『宇宙人』の存在を確信したのだという。


「……なるほど、では米国さんも、かの一九四七年の事件なんかも、偶然の事だったと?」


 白木がそのあたりはどうなんだと問う。


「はい。そういう事です。種あかしをすれば、そんな感じの話ですよ。以降は我々にも不明な部分ばかりで、コツコツと研究していたという寸法です」

「んじゃ、アメリカさんが、あの突如として出してきた、変な形のF-117や、B-2なんかも、このあたりの技術を参考にしたとか?」

「ははは! ミスター・シラキ。その手には乗りませんよ。そこは軍事機密です」

「は、さいですか、はは」


 絶対何かあると思う白木さん……それはいいとして。


「という事は……合衆国様は偶然落ちてきたものを回収しただけだと。結局それだけだと仰る訳ですのね」

 

 唇に指を当ててそう語るは麗子様。


「はい、そう言う事ですミス・レイコ特使」

「ふむ……真理子さんはどうお考えで?」

「はい常務。当時、一九四七年といえば、戦後二~三年後の話。米国では空軍がやっと創設された年ですわ。当時の米国陸軍主力戦闘機が、P-51ムスタングというレシプロ戦闘機でミサイルもない時代。どう考えてもこのような宇宙船を米国が撃墜するなど不可能です。確かに米国はF-80シューティングスタージェット戦闘機やF-86セイバー戦闘機を造っていましたが、F-86でも一九五〇年の朝鮮戦争。最低でも初飛行の一九四七年まで使える状況ではありませんし、仮にこれらジェット戦闘機が使用できたとしても、そんな稚拙な兵器でどうこうできる代物でもないでしょう。従って、何らかの事故でという米国側の理由は理に適っていると思います」


 流石田中さん。白木や新見は、田中さんからP-51やF-80にF-86戦闘機の名前が出てくるとは思わなかった。

 ポカ~ンとした顔で彼女の解説を聞く。

 米国側も、この謎の美女。今後マークの対象になっていくだろう。


「オ、オホン……とまぁ、そちらのレディお察しの通りです」


 基地スタッフがそういうと、取りあえず諸氏、一様に納得。

 で次に米国側が、クラムチャウダーをおいしく頂くサマルカ人さんに質問。


「ミス……セルカッツでよろしいのですかな?」

『ハイ。容姿でそういう分類を自然分娩型生物が行っているのであれば、その認識で構いませんよ。ケラー』

「は、はぁ……わ、わかりました。ではミスセルカッツ。で、あなた方の分析の結果はどうでしたか?」

『ハイ……以前、カーシェル・シャルリが申し上げたように、調査させていただいた生物は、所謂我々「サマルカ」の者ではアリマセン。それは間違いないです』

「なるほど、で、その根拠は?」

『我々と、形式が異なるようデス』

「!!……え!? 形式? あ、いや、サマルカと関係ないと今、仰ったのでは?」

『ハイ。我々は、先日説明申し上げた通り、所謂自然派生型の生物ではないかもしれないといわれておりマス』

「ええ。それはドノバン大使の報告書で我々スタッフも存じております」

『ツマリ、我々サマルカが「自我を持った」と言われている形式とは別のタイプと見て間違いないでしょう。但し、かの遺骸の生体素材や遺伝構成等々が、我々と98.8767865パーセントで一致しますので。この点では、恐らく我々の同類とみて間違いないという事でス。従ってかの遺骸とサマルカは、同じ根源を持つ者という理屈が自然と成り立ちます』


 その言葉が出た瞬間。食堂の米国人たちは、パンと拍手をし、ヒューと口笛を鳴らす。

 更にセルカッツは続ける。


『ソシテ、あの機動マシンの残骸デスが……その使用されている素材構成や技術に、明らかなサマルカ技術と同一の特性が見られます……この二つの事実。これは我々サマルカ人が、やはり何らかの人工生命で、何処かの文明から、生体ドローンとして宇宙に放たれ、自我をもった種族であるという、強力な証拠になります。大変貴重なモノです……』


 すると、サマルカ諸氏は立ち上がって、米国スタッフと、ドノバンやデュラン。そしてハリソンに敬礼し


『ミナサマ、このように貴重な、そして我々としても予想だにしない資料をお見せ頂き、マコトニ感謝いたします。これは我が国にトッテモ、今後種族のルーツを探る重要な手掛かりになるデしょう』


 そういうと、ハリソンが立ち上がって


「いや、そんな……どうぞお掛けください。我々としても皆様のお力になれたら、それはそれで大変嬉しい事です。米国としても、これまでずっと謎だった、異星生命体の謎が解け、最重要同盟国である日本国を通じて、こういう交流を持つことができるに至りました。それは大変素晴らしい事だと思います」


 ハリソンもなかなかに言う。

 食堂の米国人諸氏もヤンキーなノリで、口笛吹いて、ハリソンの言葉に花を添える。やんやの喝采だ。

 

「(統括官。こりゃ今回ばかりは米国に一本取られましたな)」


 白木が新見の耳元で話す。


「(そうだな……言って見れば、サマルカ人の方からすれば、イゼイラと日本の竹取物語な関係が、かのロズウェル事件みたいなものだ。こればかりはどうにもな。ははは)」


 するとセルカッツが新見に


『ケラー、ニイミ。このような形になり、我々としても、今後アメリカ国と交流を持ちたいのデスが、それを行うにはニホン国の許可がイりまス。ティエルクマスカ連合憲章に照らし合わせると、地域国家の近隣になるニホン国とヤルバーン州が、この惑星ハルマ全域の地域国家交渉担当国の自治体トなりまス。ですので、ファーダ・ニトベにこの件、なにとぞお口添えの程を』


 すると、ハリソンも


「我々も、これをきっかけに強固な日米同盟を堅持し、また更に「銀河連合日本国」をパートナーにする国家関係を新たに構築する感覚で築いていきたい。そしてミスターニイミ。我々にもチャンスを与えてほしい……今回サマルカ国と、かような事をきかっけに関係を持つ事ができた。そこをどうにか汲んでいただきたいとニトベ総理にお伝えしてほしい」


 ハリソンも、ここがチャンスとばかりに、積極的な懇願に近い押しをかましてくる。

 こうなることは大体予想してた新見。シャルリの方へ視線を向ける。

 シャルリも目でウンウン頷いている。


「……わかりました大統領閣下。此度の件。私もしかとこの目で拝見いたしました。今の閣下の言、間違いなく総理、そしてヴェルデオ知事、サイヴァル閣下、マリヘイル閣下にお伝えいたします……ただ、老婆心ではありますが、越えなければならない壁も、それはたくさんあるという事。肝に銘じていただきたい……」


 新見は、ティエルクマスカ連合という組織が、種の違う生物の枠さえ超えた相互理解の結晶だという事を話す……そして誰かが突出した主導権を持つといった事が決して許されない、完全な法治組織だという事も話す。

 今の米国という国家が、そう言ったティエルクマスカ連合各国の倫理観からみて、どう思われるかという事も良く考えてほしいと、そう伝える。

 それは以前、ドノバンが言った事だ。


『地球人がエイリアンを管理するような社会で、娼婦や武器商人の役をやらせたり、地球に迷い込んだエイリアンを軍が追いかけ回すような映画を作る国に彼らは来たがるのかしら?』


 こういった思考をどう米国国民が考えるか? ということだと新見は話した。

 その言葉にドノバンも頷いている。そりゃ自分が言った事だからだ。


 ……んで、

 そういうことで、このように会談は順調に進んだ訳であるが、本来なら、サマルカさんと交流を継続的に持つきっかけができ、二藤部やヴェルデオ、そしてサイヴァルやマリヘイルの判断で、もしかしたら、米国とサマルカは友好条約を結べるかもしれない。そんな状況に持って行けただけでも、値千金のサタデーナイトフィーバーな感じだったわけだが、最後に、今回の『お礼』をサマルカさんは米国に渡したいという。

 なんせ今回、色々思惑もあるのだろう、米国側からも資料資材の一部を持って帰ってもらってもいいと言ってきていた。

 となれば、サマルカも相応の礼を尽くさねば、ティエルクマスカ連合の沽券に係わる。

 

 で、日本政府やティ連本部はその『 礼 』の内容を事前に申告を受けているから知っていた。

 ティエルクマスカ憲章技術譲渡レベルでも、譲渡可能範囲な技術だ。


『……ファーダ・ハリソン。此度のこのような資料提供に対し、我々も相応の報いを致したいと思いまス』


 セルカッツが、日本製のジュラルミンケースをパカリとあけると、至って普通な、SSDが一つチョコンとケースに入っていた。

 だが、やたらと厳重な感じのケースであるのも事実だ。


『ファーダ。この資料を提供致しまス』

「はあ……これは普通のSSDか、HDDに見えますが……」

『ハイそうです。無論、この地球製記録媒体がお礼の品ではなく、その中身デスよ』

「?」


 セルカッツはこのSSDに、先の日本と政治的取引のあった火星の米国管理区域設定の件に関係のある技術情報が収まっていると話す。

 その内容……米国は現在、仮にその管理区域設定をしてもらっても火星に行く足がない。

 ということで、星系内航行が容易に可能な、ティ連でもポピュラーな技術である『磁力駆動式空間振動波エンジンと、それに伴う宇宙船や、そのパワーソースとなる宇宙線エネルギー変換装置の設計図。無論英訳済み版を米国に譲渡すると話した。

 ちなみに、日本に譲渡されているディルフィルド機関の実物や、重力振式空間振動波エンジン技術等々に比べれば、全く初歩のティ連技術である。


 だが、このプレゼントにグレーム・レイク基地のスタッフは狂喜である。

 ハリソンも、「ワオワオ」と興奮を隠しきれない。

 セルカッツは更に話を続け……


『コノ設計データにある技術を使えば、カセイまで、その周回軌道距離が一番開いた状態でも、ソウデスネ……地球時間で五日モアレバ、到着可能でしょウ。そしてこの設計図ニアル宇宙船を製造する為に必要な一部の資材は、ヤルバーン州で製造可能デスから、その際は、ヤルバーン州に何らかの『取引』という形態で発注してくださイ。貴方がたも、これで独自の宇宙船を製造し、カセイまで自由に行き来できるのであれば、ソチラの方が何かと都合がよいでしょウ』


 恩を受ければ、その恩を必ず返す。

 これがティエルクマスカの流儀である。

 とはいえ、彼らも相応の考えがあって、こういったプレゼントを用意した。それは地球の「ガーグ勢力」に対抗するためだ。

 現在、米国の政策や中国の粛清で、ガーグ勢力も一時ほどの勢力はもうなくなった。

 それは、この連中がそもそも何かの明確なイデオロギーで結束している連中ではないためだ。

 中国に巣食っていた奴らは、張の魚釣島事件で見せた策略によって壊滅状態となったし、米国のガーグも、金融為替政策で利を見出し、その結束を瓦解させた。


 とはいえ、彼らも全く消えたというわけではない。それでもまだ異星人権益の汁を吸えない連中は、色々暗躍して良からぬことを考える。

 そこで、こういった技術を与えて儲け話を作ってやれば、そんな連中もおとなしくなるだろうといった、そう言う考えもあっての提供であったりもする。

 というのも、この提供した技術。恐らく地球の科学レベルでいけば、今後一世紀以内に、独自開発が可能な技術であろうから、提供してもティエルクマスカ連合に大きな弊害はもたらさないだろうという判断で、引き渡しが可能になった。

 実際地球世界でも電気推進式エンジンや、マグネティックセルのような推進方式等々、色々と革新的な宇宙船推進方式の研究も盛んである。従ってこの磁力空間振動波エンジン程度なら、技術譲渡しても問題はないと判断されたのだ。


 それでも日本に続いてのティ連技術だ。日本よりも下位の譲渡技術とはいえ、他の世界に対してアドバンテージを持てるのは嬉しい話である。あとは発達過程文明の本領を発揮できれば、革新的な技術に発展させていくこともできるだろう。こういうところ、米国の底力を侮ってはいけない。


 現在でもそれに近い話はある。

 かの果物マークで有名な企業が作ったスマートフォンがその最たる見本だ。

 当時、携帯電話のシェア争い。規格争いが激化してい時代、二〇〇七年にそれは発売された。

 しかし今では最先端技術の象徴のように言われるそのスマートフォン。

 結局よくよく蓋を開けてみれば、別段、なんにも新しい技術を使ったものではなかった。

 技術だけで言えば、日本のガラケーの方がよっぽど最先端をいっている品物であった。

 アプリストアの概念も、旧電電公社が作ったシステムの明らかなパクリであった。

 しかし、そんな既存の技術でも、ブラッシュアップし続けて、病的にその利便性を突き詰めて開発すれば、今までにないものを作り上げることができる。

 あのすい臓がんで亡くなったカリスマはそれをやったのである。つまり「使いにくい」「時期尚早」と言われていた今ある物を更に使いやすくして新しいインフラにした……それが革新につながったのだ。

 そんな事ができるのが米国であって、それがかの国の恐ろしいところでもあるのだ。

 

 ……その技術譲渡に顔を綻ばせて喜ぶハリソン達。

 サマルカさんの手を取ってブンブン振っていたり。


『マ、これで御の字さね……ジェルデア。そう言う事だから、よろしく処理しておいておくれよ』

『了解ですシャルリ。これで取りあえずはというところですね』


 するとシャルリは白木、新見達の方を向いて。


『ニホンも今後は「銀河連合」としてアメリカ国と対峙しなきゃなんないヨ。ガんばっとくれよ。ミンな』


 微笑してコクコク頷く日本勢。今後は同盟国だからといって、米国に甘い顔ができないのも日本国なのである……




 ………………………………




 さて、そんな感じでサマルカ国と米国が、この地球世界でも色々と曰く付きだった関係を正常に(?)もどしていけそうな感じというか、もしくは画的に未知と遭遇したような感じの普通な関係になったのかなというか……

 とまぁなんというか、かんというかな関係になれて、結果的に米国としては万々歳な状況になったわけではあるが、いかんせんこの国にもこれまた『スパイ』と呼ばれる類の連中がこれまた多くいるわけで……

 米国がB-1爆撃機を作ったら、なぜかロシアがそっくりで、しかもデカいTu-160爆撃機を公開したり、スペースシャトルができれば、「ブラン」なるパチモンの計画が持ち上がる。


 このあたりの大国関係とはこんなものなのだが、恐らく米国が、今回サマルカより供与された磁力空間振動波機構の某かを製造したら、その後またいつかロシアなり、中国なりが、『我が国の独自開発』と称した、同じようなモノのコピー技術が登場してくるだろう。

 だがサマルカ国やティ連にしても、その程度の事はある意味、折込済みの話である。

 仮に提供した技術で軍事兵器を彼らが製造したとしても、それに対応する事など、ティ連にとっては容易い事なのだ。

 むしろその技術を彼らがどういう方向性で使っていくか。どういうものを創っていくか。その動向を見極めたいというのもティ連にはあった。それによって今後の、日本以外の地球世界との付き合い方も変わっていくことになる。

 発達過程文明が、何を考えてどういう知識を発達させていくか?

 これを見極め、学習し、吸収していく事も、彼らの目的なのだ。従って、技術を与えたようで、実は吸収しているのは結果的にいえばティ連側になるという、そういう目論見もあっての話なのであったりする。


 日本の場合も同じ事が言えていたのだが、奇しくも柏木真人という男と、フェルフェリアという女性の出会い。更に日本国の秘められた物語が、そのような心配を杞憂のものとし、先の柏木が話したNHKでの言葉ではないが、日本国民全てが、意識すること無く彼らと現在のように関係を持ったがために、奇跡的、かつある意味自然に銀河連合加盟という結果を見出すことができた。


 よくよく考えると、ティ連でトーラル文明とまったく関係のない構成国は、実のところ日本国だけなのだ。

 ティ連各国は、何らかの形でトーラル文明と歴史的な関係をもつ国である。というか、そのトーラルでつながった輪がティエルクマスカ連合という国家連合体なのだ。

 だが日本はトーラル文明と何の関係もないが、現在、【聖地】とまで呼ばれる最重要構成国となってしまった。

 そうなった理由は、発達過程文明というファクターがあったとしても、それ以上で彼らにとって重要な国家的問題に関わったからであって、それ以外の何者でもない……



 さて、米国ネヴァダ州から遠く離れ、白木達が米国で奮起奮闘する中、所変わって日本国。

 久々の柏木ん家。

 今日はシトシトと雨がふる。そんな天気の一日。


「ささ、どうぞどうぞ。狭っ苦しい場所ですが……」

『ササ、ドうぞどうぞ』


 二人の愛の巣に招き入れるは……


『ナヨサマ。もう擬態を解いてもよろしいデスよ』


 そう、ナヨクァラグヤ帝であった。

 実は本日、柏木の提案で、ナヨ帝はある人物と会う事になっている。但し、その人物が誰かはまだ伏せられていた。

 そういう事もあって、ナヨサマ。時間までに東の京をご見聞為さりたいと仰るわけで、まず柏木とフェルの家に行ってみたいと言い出した。

 最近は、フェルサンチェックも入り、人様に見せられるようになった柏木家。ってか、大臣にもなって、結婚もしたんだから、いい加減引っ越せという話もあるのだが、フェルが「ここが住みやすい」と仰るので、まま柏木としてもその方が有難いし、それに町内会や役場からも「引っ越さないでくれ」と懇願されていたりもするので、そんな感じ。


『フム、では……』


 ナヨ帝。体色を水色から本来の真っ白な肌に戻すと、そこは日本在住経験の長い御方。履物もきちんと脱いでしゃなりと柏木宅へ。


『ほう……一〇〇〇ネン後のヤマトは、かような集合式住宅が、主流となっているのですね』

「そうですね。ナヨ様もご存知の通り日本は居住できる平地が少ない国土ですから、自然とこうなってしまいます。今、日本国って人口何人いるか、ご存じですか?」

『いや? あいわからぬが』

「一億二千万人もいるんですよ」

『何と! そんなにも……それはそれは、なるほど、このような住宅形式になるのも頷けますね』

 

 そんな話をしながら、帝……というのは、ナヨ様も流石にそれはないだろうと。しかし今やその上をいく自我持った創造主様である。なので、せめて「様付け」にさせてくれという感じで、このような呼び方になっている。


 フェルは台所で、とっておきフェルサンコレクション厳選。渾身の茶葉でお茶を入れる。

 『色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす』ってな歌もあって、ここはナヨ帝に近い関西のお茶。宇治茶でおもてなし。

 

『これはこれは……フフフ、懐かしい匂いと味です。この茶、妾の生きた時代では、確か、トウなる国から伝わったばかりの飲み物でしたね。非常に高級な品だったようですが』

「ハハハ! それはある意味すごいお話ですよ。いやぁナヨ様のお話。日本人としてはもう一晩中聞いていたいですね」

『ソれは私も同じですヨ、マサトサン。イゼイラのお話もたくさん聞きたいデス』

『ウフフ、そうですね。では機会があれば……で、カシワギ?』

「はい?」

『さて、主の部屋ですが……あの壁にかかっている機械らしき道具は何ですか?』


 ……やっぱり指摘されてしまった。ナヨ帝は、居間の壁に飾ってある……以前よりは自重した数ではあるが、それでも多いその中の一挺、スプリングフィールドM-14のエアガンを指さして尋ねる。


「あ、いやぁそれは……」


 ちとどもるカシワギ大臣。だが副大臣がすかさずフォロー


『ソレは、ハルマの武器の、イミテーションデスよ、ナヨサマ』

『武器、ですか?』

『ハイです。マサトサンは、そういった武器兵器の学術的な専門家でもあるのデス……』


 ただのマニアである。しかしフェルはどうも本気でそう思っている。


『……その知識のお陰で、ワタシは、マサトサンに命を救われましタ。更には大勢の命も救ったノデスよ』


 マサトサンが、そういった武器研究専門家であることを、フェルが誇りに思っている理由。それはそういったものだったようだ……以前から「なんでフェルは俺の銃好きをそんなに良く思ってくれるのかなぁ?」と不思議に思っていたのだが、こういう理由があったようである。おもわず俯いてニンマリしてしまう柏木。恥ずかしいやらなんやら。

 

『なるほどのう……ところでカシワギ……』

「? は、何でしょう」


 そういうとナヨ帝、ニヘラ顔になって


『主らは、もう契を交わしたのですか?』

「はぁ!? あ、あ、いや、ま、まぁは、はい……」

『よの~~♪。 妾の目は誤魔化せませんよ。カシワギの生体データにイゼイラ人の反応が出ております』


(あ、そっか、この帝さん、仮想生命体だった……)と思う柏木。フェルも顔をピンクにして、プシューになっている。


『なれば、カシワギもイゼイラの民と同じ時を過ごすのですね……』

「ええ、そうなりますか……って、どうなさいましたナヨ様?」


 ナヨ帝。そう言うと、遠い目になり茶の湯が入った湯飲みを見つめる。

 

「ナヨ様?」

『ア、はい、あ……ウフフ、何でもありませんよ……柏木や。フェルフェリアを大事にな。これでも妾は、彼女の親族です故』

「は、もちろんです。ご心配には及びません」


 どうも柏木は、ナヨ帝がした遠い目の意味をイマイチわかっていない。

 でもフェルは敏感にそれを察したようだ……同じ日本人、いや地球人を愛したフリュ同士。その目の理由は容易に察することはできる。


 そんな話をしていると、うまい具合に時間を潰せたようでチャイムが鳴る。


「お、来たみたいだな」


 インターフォンの液晶画面を覗くと、知ったSPの顔だった。

 彼は、みなを誘い家を出る。

 それはもう今まで以上に物々しい警戒態勢な柏木のマンション。

 木下のおばちゃんも、流石に出てこれないようだ。


 ナヨ帝、再び擬態を発動させ、即座に体色を水色に変える。

 優雅に柏木の家を出ると、マンション玄関に待たせてあったリムジンに乗り込む。

 マンション周辺には規制線が張られるが、ナヨ帝の姿を一瞬見た一般市民がみな思うこと。それは


「あのイゼイラの人、誰だろ? フェルさんの親戚かな?」


 という感じ。そう一般市民が思うぐらい、面立ちが似ているのだ。

 これで肌の色が白かったら、エライことである。


 柏木一行、リムジンに乗って自宅を離れる。

 先も来る時に乗った、ナヨ様も初めて乗る『自動車』どうも先程から興味津々なようだった。


『カラビサシノクルマも、かように自動化されておるというのも、やはり時代の流れを感じますネ』

『カラビサシノクルマ? ナンですか? それは……』

『妾がヤマトノクニで生活していた頃は、ウシなる動物が、このような台車を引いておったのですヨ』


 ナヨ帝が言っているのは、唐廂車の事である。所謂牛車の一種だ。

 平安貴族などが、乗車した、まま言ってみればかの時代の「リムジン」のようなものである。

 ってか、それに乗ったことがあるナヨ帝様。やはり相当な扱いを受けておられたようだ。

 なんとなくノホホンとその話を聞く柏木だが、よくよく考えたらトンデモない証言だと、後で気づかされる。

 実は、この唐廂車というもの。使われ始めたのは平安時代初期と言われており、奈良時代には、まだ無かったとも言われているが、実は定かではない。しかし、ナヨ帝が唐廂車に乗ったことがあるというのであれば、平安時代初期、もしくは奈良時代後期にはもう既にあったということになる。

 先の、お茶の話にしてもそうだ、

 茶が日本に大陸から伝来した正確な時代というものは、これまた実はよく分かっていない。おおよそ奈良時代後期から平安初期にかけてと言われているが、ナヨ帝がそんな証言をしてしまったせいで、ほぼその学説が決定してしまった……これはとんでもないことなのである。

 今後、次々とナヨ様が普通に昔話を懐かしくポンポンすればするほど、既存の歴史がバカスカ破壊されていく恐れもあるし、また新たな事実がドカスカと構築されていく可能性もある。


 柏木大臣、彼女の一言一句、心して聞かないと……


 シトシト雨が降る中、リムジンはワイパーをクンクンさせながら、一路向かうは東京都千代田区。

 柏木は、今日が雨であったこと、天に感謝した。

 おそらくかの場所は、こうも雨脚が強いと、観光客もまばらだろう。その方がうってつけだ。いかんせん今日これから起こる出来事は、極秘事項の一つとして扱われる。

 恐らく、今後も歴史にその記録が出てくるかどうかもわからない事由となるだろう。


 車は、日本国民ならもう誰でも知った風景が見える場所へ差し掛かる。

 すぐに思いつくは、かの歴史的な信任状奉呈式。


『カシワギ?』

「はい、なんでしょうナヨ様」

『トコロデ、妾を一体どこへ連れて行く気ですか? 先は内緒だとか言っておりましたが、いい加減教えてくれてもよいでしょう』

「はい、そうですね……ではそろそろ……」


 柏木はフェルの顔を見てお互い頷く。


「ナヨ様。こちら、右手に見えるのは、皇居でございます」


 彼は右手を窓に向けて平手で指し、サラリと言ってのけた。


『エ?…………い、今、な、何と?……』

「はい。皇居です。今上陛下、即ち、天子様がお暮らしになられる場所です」

『…………』


 ナヨ帝。完全に言葉を失う。

 ディルダー・イゼイラにあるニューロンシステム本体は今、どんな処理を行っているのだろうか?

 また警報鳴ったりなんてしてないよなと、柏木は内心ドキドキしつつ、平静を装ってそう応じる。


「実は、今上陛下へもヤルバーンが地球に飛来し、現在までの色んな騒動があったこと。全て報告がなされており、全ての事象をご存知です。無論、フリンゼご再誕の事もご存知であらせられます。そして陛下は、ティエルクマスカの方々が抱える件の精死病の件。とても心を痛め、ご心配なされていらっしゃいました。言ってみれば、最初は宇宙の果ての理解の及ばぬ話でしたが、その解決法がナヨ様と関係があり、ましてやティエルクマスカ世界の存亡に関わっている問題ともなれば、さすがに他人事だとはいえないと仰って、我が国の法律ギリギリのところで最大級の援助支援をしていただきました。そういう経緯もあって、是非とも一度ナヨ様とお話がしてみたいと陛下は仰っておられまして……少々サプライズも含めて、お誘い申し上げた次第です」


 柏木は、これから陛下と対峙する遺志に、最大級の敬意を込めて、『帝』として話した。

 彼がそう説明すると、ナヨ帝は、顔をクシャクシャにして、柏木に無言で抱きついてきた。

 思わず「オウ」となる彼。次にフェルにも抱きつくナヨ帝。フェルも手を背中に添えて、優しくさする。

 運転手のSPがその様子を見て、ニコニコしていた……



 ……車は皇居正門を通って、皇居宮殿へ。

 その瞬間、ナヨクァラグヤ帝も、自身を元のネイティブな姿に戻す。

 宮殿へ着くと、すぐさまSPが周りを固め、警護につく。

 といっても、皇居に不審者など入り込む余地はない。それでも最大限の警備体制だ。万が一、億が一があるということだろう。だがナヨ帝は仮想生命体である。体に銃弾一万発食らっても死にはしない。そこんとこどうも失念していたり。

 

「さて、私はここまでです。控室で待たせていただきます」

「え? 柏木は一緒に来ることはないのかえ?」


 ナヨ様、どうもネイティブ日本語モードに切り替えたようだ。

 天子様には普通の日本語で話したいのだろう……ちょっち古いが……


「はい。私はここまでです。これはそういうものです……この場所で、恐らく今上陛下と同列でお話できるのは、フリンゼ・フェルと、創造主ナヨクァラグヤ様だけです。ですので、ご存分に……」 


 そういうと柏木はお辞儀敬礼して、その場を静かに立ち去る。

 フェルとナヨ帝は、侍従に促され奥の間へ消えていく。

 立ち去る途中で振り返る柏木。少し口を尖らせて向こうを見たり。


「ご心配ですか? 柏木大臣」


 宮中スタッフが彼に声をかける。


「いや、みなさんがいらっしゃるから心配はしていませんよ」

「大臣もご一緒なされたらよろしいのに……それぐらいのお立場ではあると思いますよ、貴方は」


 すると柏木は首を振って……


「こればかりはね。流石に私は場違いでしょう。あとで妻から詳しく聞きますよ……」




 ………………………………




 その後、控室に戻ってきたフェルとナヨ帝。

 もう一目見て、相当な状況だったのだと理解できた。

 フェルは目を腫らしてスンスン言いながら。

 ナヨ帝も同じ感じで呆然として。


 帰りの車の中では、二人とも何か思い出を反芻するかのように目を瞑ったり、眦細めて窓の外を見たり。

 ただ、この二人の絆はしっかりと確立していたようだった。

 なぜなら、ナヨ帝を羽田空港まで送る車の中、ずっと二人は互いに手を握って離さなかった。

 そして羽田では、互いの血統を確認しあって別れたという。

 さしもの柏木も、今回ばかりはこの二人の間に割っては入れない。しかし良いことだと思いつつ、二人を観察していた。

 

 無論柏木は、自宅に戻るとフェルに尋ねる。


「なぁフェル……で、どうだった? 話せる範囲でいいから教えてくれよ」

『話せる範囲だなんテ……マサトサンはみんな知る権利がアルですよ。私もお話ししたくて……』

「そうか、んじゃ、ま……紅茶でも入れて、な」


 ……フェルが言うには、それは陛下は、最上級の対応をなさってくれたという。

 ナヨサマにも『陛下』と仰ったそうだ。

 ナヨ帝は、あいも変わらずそのような存在ではないと恐縮したそうである。

 ただ……今のナヨ帝は仮想生命体だ。言って見れば、その能力は確かに人外の者に近い。

 彼女は一目で陛下の生体をスキャンしたそうである。

 そして、その結果を見て……もう……堪えきれずに嗚咽を漏らして、陛下の前で泣き出してしまったのだそう。

 それはもう立っていられない程だったという。

 ソレを見た陛下と皇后陛下は驚いてナヨ帝を介抱していたという。

 ただフェルも、その腰が砕けてしまったナヨ帝が、なぜにそうなったかを即座に理解し、大泣きでもらい泣きしてししまったのだという。

 

 そして、フェルもお言葉をもらったという。

 その言葉は……


「ご親族ができましたね」


 と言われたのだそうだ……今上陛下はフェルの身の上まで知っていたのだ。

 この言葉でフェルも撃沈してしまったという。

 柏木は(なるほどそれでずっと手を握っていたのか……)と納得した。


 もうのっけからそんな感じだったので、陛下も肝心な事を聞けたのかどうか心配だ。とフェルは言う。

 精死病の進捗状況に、一〇〇〇年前の、皇室の四方山話。所謂内輪話。これは平民ごときが恐れ多くて聞ける内容のものではなかったり。あんな話にコンナ話。

 ここはもう、内緒も内緒な話なのだろう。

 ここではフェルも笑顔で……


『エルバイラサマも、結構……』


 結構、何だったのだろう? はてさて……


 兎にも角にも、フェルとナヨ帝様には、良い出会いと、思い出になったようである。

 最後は陛下も、最後まで色々と協力は惜しまないと仰ってくれたとフェルは言う。

 とても清々しい顔をするフェル。

 柏木も一言。


「フェルも今日ばかりは、フリンゼ様でおわしましたな」

『ウフフフ、そうですねマサトサン。これからも余を良く愛でるデスヨ』

「ハイハイ。了解です」

『ア! そこはちゃぁんと「御意に」トカ言うですヨっ』


 まぁ、このバカップルも、今日に限っては許してもやれるだろう。

 ってか、許してやって欲しかったりする……




 ………………………………




 さて、調印艦隊がこの地球にやってきて、加盟調印式典を発端に、星間カレー祭りなんぞをやらかして、その後、かように大きな二つの新たな交流があったわけだが、一様に大きなイベントは艦隊的にもこれで終わりと相成った。

 あと残る日々は、もう連合諸氏、観光に外交と、そんな日々であったりする。


 ただ、あくまでこれは政治的に大きなイベントが終了しただけであり、極めて個人的な……かつ、地球世界というよりも、むしろティ連世界的に重大かつ大きなイベントが残っている。


 そんなこんなのある日。柏木大臣執務室でのお昼休み。

 柏木大臣は、幕の内弁当。フェル副大臣はポークカツカレー弁当なんぞを喫飯中。

 相も変わらず柏木の執務室を自分の執務にも使いまくっているフェルさん。


「えっ! そりゃ……マジっすか!!」

『ほえ? ほ、ほんとに?』


 昼休みを利用して、PVMCGで通信する相手は……マリヘイル連合議長。

 議長は、VMCモニターの向こうで、カレーうどんをご喫飯中のようである。

 汁が飛ばないよに前掛けを付けていたり。


『そうですよファーダ。それにフリンゼ……もう絶好の機会ではないですカ。ナヨクァラグヤサマもご再誕し、フリンゼにもご親戚ともいえる方ができました……先ほどなどは、ケラー・サンサがもう喜んでオイオイ泣いていましたわよ』 

『は、ハァ……』

『で、先も申しましたとおり、ご招待状を、ハルマ各方面に、ニホン国外務省のご協力を仰いで、送付させて頂きました。お二方とも、そろそろ腹を括ってくださいネ』


 クテっと相成る大臣。来る時がやってきたかと。


「フェル、ということデス……お互い大いに『晒し者』になりませう」

『ハイですね~……ハァ、これもフリンゼの宿命でス』

「イキガミサマからは解放されそうじゃないか、ナヨ様のおかげでさ」

『ア~! マサトサンハ何をトンチキな事言ってるデスカっ! ナヨ様が、ナヨ様って知れちゃったら、大パニックになるっていったの、マサトサンですヨッ』


 カレースプーンを振り振り説教モードのフェルさん。

 VMCモニターの向こうで、マリヘイルが爆笑していた。


 そんなこんなで、やっぱりナニをせんと収まらないマリヘイル閣下。これも連合の意志だと言われては、どうにもこうにもである。




「あ~……フェル。 ま、そういう事ならさ、おそらく俺の実家にも、話行ってると思うからさ……いっぺん帰るか。八王子に……」

『デスネ~。久しぶりに、マルマサマや、ファルンサマ。エミサマともお会いしたいですし……あ、そうだ。私の超大祖母サマになるナヨ様もご紹介したほうが……』

「だぁぁぁ! それはマズイって! 『この方が、かぐや姫のご再誕な方です』なんて言えねーよっ!……んなことやったら、親父とお袋、マジで逝くぞ。ウン……」



 そう。柏木先生には、アレが待っているのだ。

 こればかりはイゼイラのフリンゼ。ティエルクマスカのイキガミサマイベント故に仕方がない。




 柏木大臣。男の甲斐性である……  





「おいおい、招待状送付者に、張主席やロシアのハ……ゲホゲホ……はぁ……もう……カンベンしてくれよぉ……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ