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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
72/119

―49― (上)

 アフリカ大陸にある、とある国。とある大地。

 文明の光とはおおよそ縁のないその地にも光はある。

 夜空を見上げると、煌々と輝く月の明かりに、言葉通りの降るような星の光。

 大地には人類が初めて手にした『火』という名の光。


 雄大な大地に住む、ある部族の集落。

 子供たちが薪の炎に集まり、部族の長が語る壮大な話に耳を傾ける。

 子供たちは、おおよそ近代的な生活をおくってはいない。かといって、原始人のようだというわけでもない。

 その身には、Tシャツのような西洋文明の着衣を着てはいる。だが住む家屋は、貧相だ。

 でも貧相だからといって不幸というわけではない。そんな人達……


 長が、子供たちに大きな身振り手ぶりで、夜空を指さし得意げに話す。

 子供たちは、長の話を食い入るように聞く。

 その内容は、想像力たくましい子供たちの脳内再生能力によって、さらに雄大な物語へと変換されて記憶されていく。

 そんな話をする長の片手には、町で入手した最新の新聞紙。

 子供達には教育がイマイチ行き届いていない。なので文字が読めない。

 だから、世の情報は長から教えてもらう。

 

 長は語る……

 昔昔、遠い遠い東の島国に、月から王女がやってきたそうな……


 そんな調子で話す語り部に、子供たちはみんな目を皿のようにして長の話を聞く。

 長は、更に大きな身振り手振りで、今にも大地に落ちてきそうな夜空の星々を指さす。そして子供たちに月の方を見ろと言う。


 長の指す先、その月の周りには、到底『星』とはいえない煌びやでカラフルな、そして幾何学的な光をまとった『物体』が小さく……また大きく群れになって瞬いていた。


 文明の光が何もない大地の夜空では、彼らの姿はまるで手を伸ばせば届くように、そこにあった…… 




 ………………………………




 今、世界は一大パニックになっていた。とはいえ『陥る』というほどのものでもない。

 パニックといっても災害で何かうろたえているというわけではない。そう、それこそお祭り騒ぎだ。

 町からは、普段『そうそう売れそうにもない商品トップ10』に入りそうなモノ……『天体望遠鏡』がバカ売れし、ショップでは売り切れ御礼。まず天体望遠鏡が、世のショップから消えてなくなるなんて事、まぁ今後何世紀も起こることはないだろう。

 ショップに無いだけではない。南米ジャングルの名前なネットショップでも売り切れ御礼。中古もない。

 犬オヤジ電話株式会社の系列なオークションサイトでも、転売に次ぐ転売で、価格が高騰。大陸から来た鬱陶しいバイヤーどもも、ここぞとばかりに張り切っていたり……迷惑千万な話である。


 そんな騒動の中、ちょっとした都市部では、みんながみんなビルの屋上へ陣取って月方面の夜空に望遠鏡の焦点を合わせ、その見たことのない情景に感嘆する。

 接眼レンズに映る、美しく雄大に見えるモノ。

 小さく、そして大きな群れで、チカチカと光り輝き、宇宙空間に浮かぶ都市のような物体。

 ちょっと性能の良い天体望遠鏡では、その都市のようなものの周りを、キラキラと何か飛行物体が飛んでいるのが見える。

 日本でも、ちょっとした山上のような場所だと、もっとよく見える。

 スキーシーズンでスキーヤーの賑わうホテルやロッジ、ペンションでは、丁度天気の良い雪がやんだ時間を見計らって望遠鏡を貸し出していたり。


「うわぁ~……宇宙船だ!」

「ティエルクマスカの人たち、本当にやってきたんだねー」

「ほえ~~ マジかよ……」

「まるで街が宇宙に浮いているみたい」




 米国航空宇宙センター ~NASA~ でもこの状況を、全観測機器を通じてウォッチしていた。

 ISSとも連携し、可能な限りの拡大映像入手を試みる。

 今回は、米軍の宇宙部門がある『アメリカ戦略軍』と合同の作戦だ。軍の偵察衛星も使用して、可能な限り詳細な情報の入手である。


「センター長……こりゃ……尋常じゃないですよ。映画も顔負けですね……」

「ああ、もう今更というヤツだな。で、コッチからメッセージは送っているのか?」


 NASA ケネディ宇宙センター・センター長リック・パーソンがセンタースタッフに尋ねる。


「ええ、勿論です。ハハ、ウチだけじゃなくて、中国、ロシア、欧州。世界中が送っていますよ」

「ははは、まぁそうだろうな」

「ええ、で、どうも向こうさんも電波でメッセージを地球に送っているらしくて……」

「ん? そうなのか?」

「はい。英語、仏語、露語、中国語、アラビア語、ドイツ語……もう主要言語あらゆる言葉で『我々はティエルクマスカ銀河星間共和連合・日本国加盟調印に関する外交艦隊である。惑星地球、各地域国家のご挨拶。真に痛み入る。我々は日本国のティエルクマスカ銀河連合加盟における調印式典を行うために来訪した。日本国以外の、他地域国家に何ら危害を加えるモノではないのでご安心願いたい。我々は地球時間で約一ヶ月間、本宙域に留まる予定である。委細宜しく了承願いたい。繰り返す……』ってな感じですね」

「えらいご丁寧な話だな……ま、これもあのフェルフェリア嬢の話を聞けば、納得もするか」

「センター長は行けなかったんでしょ? あのヤルバーン州化式典に」

「そうなんだよぉ……行きたかったんだけどなぁ……クジ引きで負けた……ジョンに負けたんだぞ。何か間違ってるだろ?」

「あらら、それはそれは」

「ジョンの野郎、自分の子供に、ミセスフェルを得意げに紹介して自慢してやがるんだぞ……あの重大な外交式典で何やってんだアイツは……」


 冗談まじりにキレるリックを見て、爆笑するNASAのスタッフ。

 

 そんな雑談を交えながら、この前代未聞の天体ショーを調査観測する諸氏。

 みんなやりがいアリまくりある。

 そんな中、あるスタッフが戦略軍から送られてきた画像データを解析していた……で、眼鏡をクイクイ上げながら、最大拡大したその映像を見て、ブハハ! と爆笑する。

 その様子を見たリックは何事かと訝しがり


「おい、どうした?」

「ハハハ、いやボス、これを見てくださいよ」


 その画像に写るは、メチャクソでかい葉巻型。その周りを飛ぶ、子供の頃ストリートの雑誌屋に売っているカートゥーンで見たことある飛行物体。


「むはは、なんだこりゃ? 戦略軍の連中、何を考えてるんだ? こんなコラ画像作って」

「いくらなんでもこれはね……」


 すると、隣にいた別のスタッフが……


「え? その画像データ。至急伝で解析求めてきたAクラスデータっすよ。そんなのジョークで送ったら、戦略軍の誰かの首が飛びますよ」


「は?」とスタッフB。

「Why?」とリック。


 顔を見合わせるリックとスタッフB。

 リックは画像データを人差し指でクイクイ指さす。

 スタッフBはコクコク頷いて、眼鏡をかけなおす

 しばし見合わせた後、またその画像データを二人してのぞき込むのであった……




 ………………………………




 ……日本国・相模湾沖大島町内租借領。イゼイラ星間共和国ヤルバーン州。在イゼイラ第一日本大使館……


「おはようございます」


 書類カバンに、パシっと服装をキメて会議室に入るは、柏木真人ティエルクマスカ統括担当大臣。


『オハヨウごさいますデす』


 ティエルクマスカ敬礼で麗しく入室するは、フェルさんこと柏木迦具夜ティエルクマスカ統括担当副大臣。

 

「よっ、白木。お前、昨日からコッチに泊まり込みなんだってな」


 柏木は先に来ていた白木に挨拶。


「そうよ、ま、いいもんだぜ。ヤルバーンのさ、例の前来たホテル使わせてもらったからな」

「んで、麗子さんも一緒に?」


 ニヒヒ顔になる柏木とフェル。


「あらあら、ティ連大臣と副大臣ともあろう方々が、そんなゲスなお顔をなさって……これは久しぶりにお説教かしら?」


 だからどうしたってな感じの麗子常務……大人である。

 スンマセンと謝罪する柏木先生とフェルさん。

 麗子の説教は御免こうむりたいところ。


 そして最後に珍しい参加者が。


「おはよう御座います。皆様」

「あら、真理子さん。貴女にしては珍しく遅かったですわね。どうかなさいまして?」

「はい常務。少々大森と打合せが長引きまして……これを賜って参りました。」


 なんと、田中さんだった。

 実は大森が、今かような件で財界関係者らと会合会合の日々で、メッチャクソ忙しいらしい。で、大森会長秘書である田中さんを急遽会長代行として、一切の権限を委任する形でやってきたという話。

 そりゃ田中さんである。彼女がいれば、万事OKといってもいいぐらいの人材だ。なんせ元国連職員でもあるからして。

 で、田中さんが柏木に差し出したのは、委任状だった。

 一瞥すると、自分がいない場合は、全て田中さんの決定、発言が、大森の発言と同義である旨が記載されていた……相当な信頼をもった委任状である。これも彼女の彼氏がイゼイラ人だからこそというのもあるのだろう。


「……なるほど、委細了解いたしました。田中さんなら異議のある人なんて誰もいないでしょう。ね、麗子さん」

「それはそうでしょう。わが社にスカウトしたいぐらいの人材ですからね」

「恐縮です常務」


 深々と礼をする田中さん。確かに柏木の選挙運動の時も、彼女がいてくれたおかげでというのもある。

 

 そんな感じでやってると、二藤部や三島達、そしてヴェルデオにオルカスらヤルバーン州行政スタッフもやってきた。


「おはようございますみなさん」と二藤部。

「おっはよーさん」と三島。

「おはようございます」と国土交通大臣の寺川由美。

「おはようございます」といつもの新見。

「おひさしぶり、柏木さん」とティ連国内通商活性化担当大臣の春日。

『オハヨウございます』とヴェルデオ暫定州知事。

『おはよーございまース』と秘書兼務なヘルゼン州政府統括部長。

『おはようございます。お久しぶりです』とジェルデア州政府法務局主任。


 そんな錚々たる顔ぶれがあつまる第一日本大使館会議室。


「いやはや、こんなメンツが集まるのも久しぶりですね」


 柏木が久方ぶりの顔ぶれに興奮して話す。


「ま、戦後最大となる、我が国にとっての一大イベントですからね」


 とそう語るは二藤部。だがあまり緊張した感じではない。


「ただよぉ、先生とフェル先生の考えたあの段取りだけどよ、マジでやる気かい?」


 三島がちょっと心配そうに柏木に尋ねるが


「ええ。どうせならそれぐらい派手にいきましょう。でないと、あの『演習』の件もありますしね」


 ……当初の予定では、日本勢が、デロニカに乗って地球圏衛星軌道最遠部に出て、連合中央艦艇『ティエルクマスカ』内に設置された会場で調印式典を行うという手はずであった。

 その際、特別に『日本に限って』という事で、マスコミの中継も許可される手筈になっていた。

 ちなみに、この調印式典では、地球の諸外国政府関係者は一切招待されていない。

 それも当たり前の話である。日本がティ連へ加盟調印するのに、なんで他の地域国家が関係するのか? という至極アタリマエの理屈である……これが当初の予定。

 

 しかし、また柏木が何か妙な事をフェルと組んで考えたようで、そちらの方へ予定を変更しようと言う腹積もりのようだ。


 と、そんな感じでかように雑談も交えて話していると、白木がVMCモニターを立ち上げ、諸氏に話す。

 

「みなさん、お待たせしました。軌道上のマリヘイル連合議長とつながりましたので」


 と言って、モニターのパワーを入れる。

 するとそこに映るはマリヘイルと、サイヴァルだ。手をピラと振っている。向こうもそんなに緊張感はない様子。


「お久しぶりです、マリヘイル閣下、サイヴァル閣下」

『お久シぶりでございますわ、ファーダ・ニトベ。それにファーダ・ミシマモ』

『他の皆様お久しぶりでございまス……中にはお初の方もいらっしゃるようですな。よろしくお願い申し上げる』


 そういってティ連敬礼するマリヘイルとサイヴァル。

 ここでサイヴァルが言っていたお初の方というのは、寺川と田中さんと麗子であった。

 さしもの麗子嬢や田中さんも、ティ連の連合議長と国家議長相手に緊張もする。

 寺川に至っては、完全にビックラこいたような顔……しかし今回彼女は結構重大な役どころなので頑張ってもらわないといけないと思う柏木大臣。


『それとフリンゼ。聞いていますよ。また立派な役職をお任せされたという事で』


 ニっと笑顔で話すマリヘイル。


『ア、ハイ。とは言っても、マサトサンの補佐ですから』

「何言ってんだよフェル。色々飛び回ってくれて助かってるんだから、謙遜するなって」

『そうですよフリンゼ。旧皇終生議員で、イゼイラ以外の国家で準閣僚という国家運営職についた人物という例は、イゼイラではフリンゼが初になるそうじゃないですか』

『エ! そうなのですか? サイヴァル議長?』

『ええフリンゼ。実は我が国の長い歴史を紐解いてみても、かような例はフリンゼが初めてなのです。ですので、その点でも我が国の歴史に残る重要な点となります』


 ほーーという顔のフェルさん。


「ははは、すごいじゃないかフェル!」

『ほへー、ソうだったのデすか……それは知りませんでしタ』


 実はそうだったりするのである。

 と、そんな前座なよもやま話もさておいて本題へ……

 柏木はさっそく『国土交通大臣』の寺川へ話をふる


「で、寺川先生。例の件ですが」

「はい柏木先生。その点は海保も協力すると話はつけていますが……一体どんなものなのか、この目で見てみないとというのは、正直ありまして」


 柏木はウンウン頷いて寺川に同意する。


「……という事でマリヘイル閣下。そちらから艦隊の陣容を客観的に俯瞰できるような映像か何かって、ありませんか?」

『フム、なるほど。お安いご用ですわ。少々お待ちくださいネ』


 マリヘイルが手元のVMCボードをポポポっと操作すると、大使館のVMCモニター映像がパっと変わる。


 その映像に一同「おおお~!」とどよめき、釘付けになったり。

 おそらく軌道上の艦隊周囲を飛ぶ機動マシンの中継映像やら、各艦の外部ライブ映像装置のものだろう。マリヘイルはポポポっと色々角度情景を変えて、大使館にいる諸氏に映像を見せる。

 当のヤルバーン陣でも、その雄大な艦隊のサマに驚いていたようだ。ヤルバーンの諸氏がそんなのであるからして、日本勢の驚きようは、言うに及ばず。


『コレがデルベラ・ダストールデルドのおフネで、こちらがカイラスのおフネですわネ。そしてこれがディスカールのおフネ。面白い形をしているでしょう? で、アレがイゼイラのおフネですね。そしてこれが……』


 映像に映るは、一際目立って、もう見た目にバカデカい+と×が重なったような艦。

 その映像に、マリヘイルの解説が入る。


『……これが今、私とサイヴァルが乗っている、わが連合中央本部艦“ティエルクマスカ”です。ファーダ・テラカワ。これでご理解いただけましたでしょうか?』


 そう問われると寺川は


「は……はぁ……いえ……まさか、こんな大きさの宇宙船が……しかも大規模宇宙艦隊だとは……」


 女性というもの。こういうSF映画なんてのを見たことないという人は多い。なので、この状況への理解対応性に若干マヒがかかる寺川。特にマリヘイルの艦……半端ない……

 資料はもらってはいるが、実際に目にすると、というものはある。

 かなり狼狽する寺川だが、彼女も国交省大臣である。そこはそれな話で


「ハァ……これは大変ですね。各部署に通達する必要が……特に航空運輸関係の部門は……」


 少々渋い顔をする彼女だが、そこはフェルがフォローを入れる。


『テラカワセンセイ。その点はヤルバーンで運用している実績がありますから大丈夫デスよ』

「しかし、数が数です。うまくいきますか?」

『ハイ。まっっったく問題ナイです』


 エッヘン顔で胸を張り、自信満々のフェル副大臣。

 というか、彼らは一体何を相談……いや、やらかそうとしているのだろうか?

 ある意味、また何か変な事しようという腹なのだろうが……突撃バカのアイディアで……




 ………………………………



 

 ティエルクマスカ連合調印艦隊の到来。これはそれまでに、ここまで来る事案に関わった人々に様々な影響をもたらそうとしていた。

 まずその一発目を食らうは、宇宙空母カグヤ―特危自衛隊なシエ・カモル・ロッショ一等特佐。


 トレーニングルームで体を動かすシエさん。ランニングマシーンで体を温めていたり。

 フッフッと、リズミカルな息を切らせて走りこんでいた。

 するとそこに陸上科の女性自衛官がシエを呼びに来る。

 ちなみに陸上科の女性自衛官は、体裁上、WACという陸自女性自衛官と同じ呼称で呼ばれている。

 他の特危各科の女性自衛官も同じような形。


「シエ一佐」


 パシっとお辞儀敬礼でトレーニングルームに入室するWAC。


『ハァ、フゥ、フ……ン? ナンダ?』

「あの、シエ一佐に通信が入っていまして……プライベート通信なので、自室でお受けしてほしいという事ですけど、如何致しますか?」

『フム、ソウカ、ワカッタ。スグニ部屋へ戻ッテ取ル。先方ニソウ伝エテクレ』

「了解です」


 パシっと敬礼して去っていくWAC。


(ワタシニプライベート通信? 誰ダ? プライベート通信トイッタラ、ナイショノ話トイウコトデハナイカ。ナンダロウ)


 そんなハテナマークを頭に灯しながら、急いで自室に戻るシエ。

 相手を待たせても何なので、シャワーも浴びずに首からタオルかけて自室に戻る。

 そんでもって、通信用VMCモニターを立ち上げる……とその瞬間……画面にデンと写るは、制服みたいなのを着込んだダストールのオヤジ。


『ヤァ、ワガ娘ヨ。ヒサシブリダ』


 シエパパなガッシュ総統だった……ヨっと手を上げて娘に挨拶。

 目をむいて口半開きなシエ一佐。


「タ……タタタタタ……ターリィ??!!!」


 『ターリィ』とは……ダストール語で父を現す言葉で……ニュアンス的には『パパ』もしくは『お父さん』になる。


「ナナナナ……ドドド、ドウシテ……」


 思わず椅子からすっころび落ちるシエさん。


『フフフ、シバラク見ナイ内ニ、イイフリュニナリオッタナ。ハルニ似テキオッテ。私ニ似ナクテホトホトヨカッタワイ。ハハハハ!』


 『ハル』とは……これまたダストール語で……ニュアンス的には『ママ』もしくは『お母さん』になる。

 と、ままそんな感じで、ニコニコ顔なガッシュ総統。


「イヤイヤイヤ、ターリィ……モモ、モシカシテ、中央艦デヤッテキタノカ?」

『アタリマエダ。私ハ、ダストールノ総統ダゾ。調印式典ニ私ガ来ナイデドウスルノダ』

「ア、タ、確カニソレハ……デデデ……デハ、モシカシテ、ハルモ?」

『イヤ、二人モ政府要職ノ政治家ガヌケルワケニモイカンダロ。ハルハ本国ダ』

「ソ、ソッカ……ッテ……シカシソウナラソウト、連絡グライヨコセ!」

『ナラ聞クガ、連絡シテ返事ヲヨコス気ガアルノカ? オマエハ』

「ア……ソ、ソレハ……ハッ! ソウカ、ソウイウ魂胆カ……マサカ、ワタシヲツレモドシニ……」


 ちょっと声を低くし、目が鋭くなるシエ。


『ア、イヤ、ソウイウ……』

「ワ、私ハ絶対帰ラナイカラナ! モシ無理ヤリ連レ戻ス気ナラ私ニモ考エガ……」

『オチツケ、シエヨ……誰モ連レ戻スナンテ言ッテオランダロウ』

「……エ?」

『フゥ……アノナ。私モ話ハ聞イテオル……好イタデルンガオルノダロ? ヤルマルティア人ノ』

「エ? エ? エ? ナ、ナゼソレヲ……」

『今更ナ~ニヲ言ッテオルカ。モウ連合防衛総省中ノ噂ニナッテオルゾ』


 その言葉に、机に突っ伏すシエタン。


『デナ、シエ。ソノデルン。私ニモ紹介シテクレヌカ?』

「ア、イヤ、ソ、ソレハ……」

『フッ、ドウセオマエノ事ダ。私ノ事ナンテ一言モソノデルンニ話シテオランノダロウ……安心セイ。悪イヨウニハセン。ハルカラ頼マレタ手前モアルノダ。ソレニ、オマエニ言イ寄ル他ノ派閥デルン達ノ事モアルシナ。ソウイウ事ダ。カマワンダロ? ナ?』

「ウ、ウン……ワ、ワカッタ……」


 なんとなく渋々納得するシエちゃん。

 ここまでな表情を見せる彼女も初めてである。

 ブルーフランスハイジャック事件では、華麗かつ、スタイリッシュにテロリストを血祭りにあげ、魚釣島事件では、VRではあったが、屠った敵兵何人ぐらいか。幾許死体の山を築いたか。

 で、こないだのはぐれドーラ事件での天才的な機動兵器の操縦センス。

 いつもモデルウォークで柏木をおちょくりーの、多川と色っぽくデレーのなシエさん。

 シエは、家出同然で軍に入隊したのだが、別に家族と仲が悪いというわけではない。

 単純に、好きでもない男と結婚させられたり、婿養子されたりするのが嫌で嫌でたまらないだけである。そんでもってそんな輩の手の届かない連合防衛総省へどうにもこうにもならずに、逃げただけなのだ。

  

 と、そんな話を親子でしていると……シエの部屋をノックする音。


「お~いシエ。いるか? メシ行こう」


 ドッキーンとなるシエサマ。


『ン、今ノ声ハ? モシカシテ、例のデルンカ? チョウドイイ、紹介……』

「タタ、ターリィ! ソノハナシハ、コッチニ降リタ時マタナ。チョット忙シクナッタ。デハナ」

『ア、チョットマテシエ。モウチョット……』


 プチュンとVMCモニターを切ってしまうシエ……ああ、偉い事になったと柄にもなく焦りまくる。

 そして、よく見たらまだ着替えもしていない。


「おーい、どうしたシエ。入るぞ」


 と、プシュンとシエの部屋のドアをあける多川……で、シエの姿を見て、「え?」と思う。

 タンクトップの肩ひもが外にはずれて、髪の毛は何となく逆立ち、なーんか、ズッコケたような雰囲気があって、短パンがちょっとズレて、中のセクシーな黒パンツが見えていたり。んでもって何かちょっと目が泳いでいるようないないような……いかんせんトレーニングルームからまんまの姿なので、そんな風になっていたりする。


「ど、どど……どうしたんだよシエ……な、何かあったのか?」

『ア、ダーリン……ナ、ナンデモナイゾ……チ、チョット大事ナモノヲナクシテナ。サガシテイタトコロダ』

「そりゃいかんな。手伝おうか?」

『ア、ダイジョウブダ。モウ見ツカッタ。カナリアセッタゾ。アハ、アハハハ……』

「? そ、そうか……」


 そんな話で、現状を誤魔化すシエ。しかし、チラと多川の表情を見ると、どうも誤魔化しきれてなさそうなので、強硬手段に訴える。


『シン……チョットチョット……』

 

 クイクイと多川を手招きする、タンクトップの肩紐はずれてはみパンなラミア……じゃなくてシエ。


「ん? 何だ?……って、うぉっ! むむむむむ……」


 近づいた刹那、多川に襲い掛かるシエ……原状回復を体で行おうという魂胆。健闘を祈りたい……




 ………………………………




 ヤルバーンの第一大使館で、打合せの終わった柏木大臣。

 彼はその足でフェルと共に、東京大学へ赴いた。

 東大に入るや否や、キャーキャーと学生達の奇声をあびる二人。

 特に副大臣フェルさんはここでも大人気である。


「握手してください~」


 と、そんな人々が二人を囲む。

 ハイハイと握手なんぞをしていると、案の定段々と人だかりが大きくなり、SPと警備員の世話になってしまう。

 これまた学生にもみくちゃにされながら校舎の中へ入ると、向かうは目的地である大学先生の研究室。

 部屋の前でコンコンとドアをノックして入ると……


『ア! ふぁ~だぁ~! こんにちはです~』


 と抱き付いてくる小さなイゼイラ娘。


「はい、ニーラ博士。お久しぶりですね」

『ア、ふぁーだふぁーだ。今は「博士」じゃないです。キョージュですよっ』

「あ、そうか、それは失礼。ニーラ教授」


 そう呼ばれて嬉しいニーラ教授。ニコニコである。

 でもって、フェルにも挨拶。ピトっと抱きついて


『フェルお姉サマもお久しぶりでス!』

『ハイ、今日も元気ですネ。ニーラチャンは』


 と、そんな感じでいつもの挨拶が済むと、もう知ったところとばかりに、二人の手を取って案内するは、例の東大第一食堂。


「いや~東大なんてね。俺なんかもう恐れ多くてね。はは」

『ソンなにスゴイところなのですカ? ココは』

「うん。一応日本の最高学府って言われてるぐらいだからね。ここは……白木がここの卒業生なんだよ」

『ソウなのですか! あのケラー・シラキが! へー。ほー。ふーん』


 やはりフェルは、白木=最高学府というイメージがどうにもわかないらしい……無理もない。


『へー。ホー。ふーん』


 ニーラ博士も同意しているようだ……白木が聞いたらたぶん泣くだろう……必ず教えようと思う柏木。


「と、それはそうと今日会いに来た目的ですけど。ニーラ教授、朗報を持ってきましたよ」

『ふぇ? 朗報? なんですか?』

「何言ってんですか教授。ナヨクァラグヤ帝のニューロンデータの件ですよ。あれを使いたいって言ってたでしょ?」

『ウン』

『デネ、ニーラチャン。使えるように、許可をもらってきましたヨ』

『ウン……アリガトです……でも、アレを使うのなら、イゼイラに帰んなきゃダメなんですよね……』


 ニーラ教授の痛し痒し。精死病研究のために、ナヨ帝ニューロンデータを使いたいけど、使うならイゼイラへ帰国。で、次はいつ戻ってこれるかわからない。

 ニーラは日本に永住したいので、そこの葛藤があったわけだ。

 その話を真壁から聞いていた柏木とフェルは、ニーラの表情を見て、顔を見合わせクスっと笑う。 


「それなんですけどね教授。真壁先生から色々相談を受けまして、私とフェルで、サイヴァル議長にデータを持ち出せないかお願いしてみたのですよ」

『エ?……』

「で、サイヴァル議長や、議会、ナヨクァラグヤ帝信奉者のみなさんが賛同してくれましてね。ヤルマルティアに持っていくのなら大変意義深いことだっていうことで、此度の艦隊……ディルダー・イゼイラでしたっけ? イゼイラ政府中央艦の。その船のメインシステムに移植して、こっちに持ってきてくれているそうですよ」


 その話を聞いたニーラ博士……パァァァっと顔が明るくなり。


『ほほほ……本当ですか! ふぁーだ!』

「ええ。間違いありません。な、フェル」

『ハイ、念のため私もシステムを確認しましたが、ちゃぁんとディルダー・イゼイラのシステムにありましたヨ』

『ウワァァァァァァ』


 メチャクチャ嬉しそうなニーラ。で、喜んだのもつかの間。ニーラは眦をキリリとさせ


『そ、そうダ、そうとなれば、こんなところでオシャベリしている暇なんてないです。急いでナヨ帝サマのデータにかけるコードを整理しないと!』


 セカセカと急に何か張り切りだすニーラ。


『ふぁーだ。フェルお姉さま。どうもアリガトです』


 ペコリと深くお辞儀するニーラ。


「いえいえ、お礼なら真壁先生に言ってください。相談してくれたのは真壁先生ですから」

『ハイ。でも、ちゃんと結果を出してそれをみなさんへのお礼にしますよ』

「ええ、頑張ってください。ニーラ教授」

『ではでは、お先に失礼ですっ!』


 そういうとピュンっという感じでトテトテ足音を轟かせて研究室に戻ってしまうニーラ教授。

 ニンマリ微笑んでフェルと顔を見合わせる。

 すると、真壁がどこからか湧いてきて二人に話しかける。


「ははは、いやはや、見てて楽しいですな」

「あ、真壁先生、どうも」

『マカベセンセイ。お久しぶりデス』


 どうも真壁は、途中で話に割り込むのも間が悪いと思い、三人の様子を遠目で見ていたそうな。

  

「どうもご尽力感謝いたします。柏木さん。フェルフェリアさん」


 柏木とフェルの対面に座り、頭を下げる真壁。


「いえ、そんな頭下げられる程の事では」

『ソウですよマカベセンセイ。大したことではありませンですから』


 どうも真壁が言うには、この件に関しては以前からニーラの祖父であるジルマからも話題に出ていたらしい。ジルマとニーラが話をするとき、このナヨクァラグヤ・ニューロンデータの話になると元気がなくなるということで、よくよく話を聞くと、かような理由だったという。

 ジルマも何とかしてやりたいといっていたが、ニーラもなんだかんだいって政府職員である。そんな勝手が通用しない立場でもあるので、こればかりは仕方がないと漏らしていたそうな。


「今思えばジルマ先生も、私にそんな感じで、暗に頼んでいたのかもしれませんなぁ」

「なるほど。ま、いいんじゃないですか?」

『デスね。ウフフフ』


 とそんな感じで、お茶でも飲みながら柏木は何やら黙して考える目をする。

 そんな雰囲気を察するフェル。


『マサトサン、どうしたですカ?』

「ん? いやね……あのナヨ帝さんのデータだけど、もし、もしだよ? ニーラ教授が解析に成功して、プロテクトが解けて、自由にアクセスできるようになったら……フェルのご両親みたいなエミュレーション造成をさせる事って……できるわけ?」

『エ? ア……ハイ、恐らくは。って……マサトサン。何を考えてるですカ! まさか……』

「ん? フフフ、いや、まぁ……もしそうなら面白い事ができるかなってね」


 すると、その話を聞く真壁も興味津々で


「脳エミュレーションですか。報告書にあったニューロンデータのエミュレーション実行で、仮想造成データと共に個人の人格と個体をホログラフ再現するヤツですな……報告書を読んだ時は、とんでもない技術だと思いましたが、それで一体何をするつもりなんです?」

「ええ、私とフェル。それにあの『カグヤの帰還』作戦にかかわった人全員、彼女に助けられましたからね。せっかくこの日本に来てもらってるんです。ちょっとお礼もかねてってな感じで。はは」

『ア、マタ何か良からぬ事を考えてるデスねマサトサンは。ウフフフ。ちゃぁんとオ嫁サンには教えるデす』

「良からぬ事って……んな言い方ないだろー」 

 

 ……また変な事考える柏木大臣。さて彼は何を思うやら。




………………………………




 その夜。

 NHKで、一時間ほど。政府広報の特別番組が放送された。

 こういう政府広報を特別番組で放送するのも異例だが、出演者が出演者だけに、NHKとしてもおいしいと思ってくれたのだろう。そんなところである。


 製作は内閣府。

 最初にこれみよがしな、爽やか青空をバックに


【 ティエルクマスカ銀河共和連合 日本国加盟調印式典についてのお知らせ 】


 とテロップが入る。

 

 すると、画面に宇宙最強の突撃バ……ではなくて


【内閣府ティエルクマスカ統括特命担当大臣 柏木真人】


 というテロップと同時に、柏木が登場する。つまりこの番組のMCだ。

 こういうところ彼は慣れたもの。昔取った杵柄というやつで、ジェネラルソフトのプレゼンよろしく、身振り手振りを使って、右へ左へうろついて、小物をさりげなくつまんだり椅子に座ったり。茶の間に今回の式典をプレゼンする。ロケ地は柏木の執務室のようにも見える。


「……というわけで、これまでの、私が体験してきたいろんなお話をさせていただきました。そんな結果、私は彼女をお嫁さんにするという事になりまして、何の因果かと申しましょうか、現在夫婦して大臣と、副大臣という役職をさせていただいております……」


 柏木はクイクイと手招きをすると、画面外からフェルが現れ、ペコリとティ連敬礼。

 でもって、柏木の隣に、体を近づけてチョンと座り、ニッコリ笑顔。

 ここで、パンと手を叩いて、揉み手をする柏木。そして次の言葉。


「……かように我々政府は、イゼイラ共和国政府や、ティエルクマスカ連合本部等々、これら組織と連携して、ここまでに至る交渉を行って参りました。無論、政府だけではなく、野党のみなさん。財界のみなさん。各所団体。各自治体関係者のみなさん。そして何より、この誇るべき日本国民のみなさん全ての、努力と誠意、そして真心の結晶が、かような今日の姿であると、そう言えるでしょう……さて、そこで、来る予定日。それももうすぐですが、調印式前日になりますか……その日。日本国民のみなさんに、素晴らしい体験をしていただくことになろうことかと思います」


 その話が出ると、横でフェルさんがニコニコしだす。

 で、ここで柏木とフェルが考えたサプライズを発表した……


「……調印式典前日。ティエルクマスカ連合加盟国から選抜された、主要加盟国の政府中央艦……と呼ばれる大型宇宙船が、日本国の指定された各都市近郊に降下。日本国国民の皆様に各加盟国関係者の皆様が、ご挨拶したいということで、皆様のご近所に、滞在させて頂くことになります。そして、その艦に搭乗していらっしゃる各ティエルクマスカ連合加盟国関係者の皆様が上陸し、観光などをさせて頂くことになっております。各地方都市の皆様におかれましては、かような遥か宇宙の彼方からやってこられた方々でございますので、よろしくおもてなしの程を政府と……」

『ヤルバーン州からも』

「皆様によろしくご協力をお願いいたしたく思う所存でございます」


 そう言って、柏木とフェルは、カメラに向かって大きく頭を垂れる。


 各地方都市に、ティ連主要加盟国の中央艦を滞在させる作戦。実はこれ、ある要望から発想されたアイディアであった。

 というのも、現在ヤルバーン関係の……所謂『名物』となるファクターは、全部関東地方に集中してしまっている。

 ヤルバーン州然り、カグヤの母港然り。

 このあたりで、かなり地方都市の首長からブーイングが出ていたりしていたのだ。

 つまるところ……


『東京だけズルイ』『また関東か』

 

 そんなところである。

 確かに、ヤルバーン州だけみても、それはもう相当な観光資源といってもいい。

 これと同じものを造れと言って造れるような代物でもない。更に今や軌道タワーと化してしまい、おいそれと移動もできなくなった。

 それに、ヤルバーン州が来る以前からも、東京スカイツリーのような物然り、東京オリンピックの誘致然り。

 東京だけに金があり、東京や関東だけに煌びやかなイベントが集中する。そんなイメージが日本にはあった。そして地方は何の面白みもなく疲弊していく一方だ。

 ある評論家曰く『今の日本は、カネのある北朝鮮のようだ。東京という平壌があり、あとは疲弊する地方だけだ』と揶揄したり。でも確かに皮肉ではあっても、それはなんとなく言えていたり。そんなイメージだった。

 そうなると、そんな地方のブーイングな気持ちもわからなくはない……ということもあって、今回の式典。当初の、日本政府関係者が宇宙に行くという計画を中止して、艦隊の、日本でも馴染のある種族の政府中央艦に降下してもらって、各地方都市近郊に駐留してもらおうという作戦。これでいこうと、柏木とフェルは二藤部に相談したという寸法。

 これには、ティ連国内通商活性化担当大臣の春日も、大いに賛成してくれた。

 そこで、言ってみりゃキロメートル級の島みたいな宇宙艦艇が何隻も降下してくるわけなので、先の会議で国土交通大臣の寺川を呼んだという寸法だったわけである。

 ……と、そんなところを柏木は説明する。

 

「……じゃぁフェルフェリア副大臣。今回の連合各国政府中央艦が滞在する概要と、連合各国の説明をお願いできますか?」

『ハイですカシワギダイジン。では失礼して……』


 柏木はフェルの背中をポンポン叩いて、彼女から離れる。

 MCをフェルと交代する。

 するとバックは、柏木の執務室から、月と地球を背景にした宇宙空間へと変わる。

 これはクロマキー合成ではなく……本当のロケ地が、ヤルバーンのゼルルームだから出来る映像であった。即ち現在絶賛放映中のドキュメンタリー『遥かなるヤルマルティア』の、ロケのついでで撮った政府広報だったりするわけだ。

 

『……ニホン国民の皆様。私はニホン国ティエルクマスカ統括担当副大臣の柏木迦具夜。イゼイラでの名前は、フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラと申します。よろしくお願いしまスです……サテ、カシワギダイジンからお話のありました、この度の連合各国。どんな国の方々が来訪なされるか、チョットだけ説明させていただきますネ』


 フェルはゼルグラフィックともいうべき立体映像で、現在調印艦隊が駐留している空域を模したホログラフにトテトテと歩いていく。

 実はフェルも、こういったプレゼンのような行為は苦手というわけではない。それはイゼイラ議会でフリンゼとして演説したりする事や、外遊で各国の広域報道官の前で話をしたりすることも普通にあったわけで、こういう場は不得手というわけではないのだ。


『マズ、コチラ……みなさんもうご存知の、エロ……ゲホゲホ。『きゃぷてん・うぃっち』なシエさんの母国、デルベラ・ダストールデルド星系連邦総国の政府中央艦『ヴェッシュ・ゼド・バウラー』といいますデス……このおフネは、キンキチホウのオオサカワン沖約八〇〇めーとる地点に停泊させていただくデス……オオサカは、タコヤキや、オコノミヤキという食べ物がおいしいですよネ~』


 おもわずニヘラ顔になるフェル副大臣。

 で、フェルは、そんな感じで、主要艦艇の停泊先を説明する。

 中部地方には、ディスカール星間共和国の『サラダン・デ・ディスカール』が伊勢湾沖に。

 ……ミソカツにきしめん。伊勢海老に大ハマグリと大アサリがおいしかったり。

 九州地方には、パーミラヘイム星間連邦共和国の『ベントラ・ジェント・ジーン』が玄界灘へ。

 ……とんこつラーメンに手羽先ギョーザ。これもおいしかったり。

 東北・北海道地方。津軽海峡へは、カイラス星間共栄連邦の『サーフェルージェ』が。


『ホッカイドーにはデスね。ミソラーメンや、ケガニにシャケ・イクラなどがアルですけど……トマコマイシのカレーラーメンが最強デスね!』


 フェルさん。どうも日本中の食べ物を調査しまくっていたことが、今日発覚した。

 だがやっぱりカレーが最強のようだ。

 一時期は『焼肉』に心奪われかけたそうだが、アレは料理というよりは、肉の品質が良ければなんでもウマイという事がわかっため、懺悔して悔い改め、やっぱりカレーに捧げることを誓ったらしい……何を捧げるのかは知らんが……


 この番組……録画なのだが、こういう流れになっていくのを誰も止めなかったのかと。

 この広報番組を見た視聴者は、ネットでそんな事を言い合っていたり。


50名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 で、昨今どうも蛇連中の情報をまとめると、ティ連人は総じてカレー基地外だということがわかってきたのだが……


51名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 今や伝説の鯖落ち直前レス。

 『我々はティエルクマスカ銀河共和連合。お前たちのカレーを食べ尽くす。抵抗は無意味だ』


52名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ネタにしか見えんのだが、ティ連人がカレーキ○ガイだということを既に知っている人物のカキコだな。

 フェルさんもカレーの話になったら目の色変わるし。


53名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 しかし、何が『抵抗は無意味だ』だよwwww

 カレーにナノプローブでも植えつける気かwwww

  

 ……やはりここまできたらもう、ティ連人のみなさんがカレーキチ○イだということは日本国民他、日本在住外国人にも知れ渡ってきたようで、どうもおもてなしの方向性がソッチ方向へ舵を切っていったりしなかったり。


 ……それはともかく……フェルは話を続ける。


『オキナワケン方面へは、今回ニホン国民のミナサマには、オハツニなる種族サン。サマルカ人こと、サマルカ統一連帯群国のオフネ。『中央セクター001700号艦』がお世話にナルです……』


 そして、ザムル国の『意思と栄光』と、イゼイラの『ディルダー・イゼイラ』は『特殊な事情』により、ヤルバーン州に隣接する形で、相模湾に来る事になった。

 これは、言うに及ばす、ザムル族があんなのであるからして、ヤルバーン州スタッフのサポートがいるという理由からである。

 ディルダー・イゼイラの方は、ニーラ教授の『例の件』があるので、近くに来てもらった次第。


『……最後は、ティエルクマスカ連合を代表する連合中央本部艦。その名モ『ティエルクマスカ』デスが、このオフネは、ひっじょーに大きいノデ、オオシマと、ミヤケジマの丁度中間ぐらいの場所で待機させていただくデス。今回、調印式は、その連合政府本部艦『ティエルクマスカ』の中に設けさせていただいた調印式典会場で調印式を行いマス』


 そんな感じで、各艦が配置されると、各艦の間に転送ネットワークが形成され、自由に各艦を行き来できるようになるため、いろんな種族が日本中で観光をするだろうとフェルは話す。

 更に、今言った場所に、各政府中央艦はずっと留まっているわけではなく、その他の地方にも日程を決めて訪問するので、楽しみにしていてほしいとフェルは話す。

 バックには、各中央艦が飛来する地域と日程がピロリンと空中に出てきて、フェルは指さしてその説明をしていたり。

 どうやら島根、鳥取沖や、瀬戸内海。高知県沖に能登半島方面へも、行くようである。

 ディルダーイゼイラや、意思と栄光。ティエルクマスカも、相模湾にしばし駐留した後、長野県上空などの内陸部へも訪問する予定が入っているようだ。


 そう。柏木とフェルは、地方首長の諸氏がそこまでいうなら、もう盛大にやってやろうと、マリヘイルやサイヴァル、他、関係ティ連各国の協力を取り付けて、日本中にティ連主要各国の政府中央艦を飛来させ、ティエルクマスカ連合への加盟というヤツを徹底的に内外へアピールする作戦で行こうと二藤部に提案したのだ。この番組が、その作戦の全容であった……

 無論こんな突拍子もないイベントをまた考えた柏木に対し、各方面の反応も様々であった。


 大阪市の、大阪府市合わせ二重行政を解消したい地域政党のトップ兼首長は……


『もうね、素晴らしいですよね。柏木大臣もやりますね。伊達に異星人さんを嫁にもらっていないというか……僕もね、相当突拍子もない事いいますけど、あの人には敵わないですよ。ええ』


 と相当評価されていたり。

 実際各地方自治体は、あらかじめ秘密裏にスケジュールの概要は知らされていたわけで、これらの中央艦訪問スケジュールに合わせていろんなイベントを予定している模様。

 ただ……こんなイベントのような一種のプロパガンダ作戦でも、実のところ重大な国際関係というものも絡んできてしまったりするわけで、なぜにサマルカ国の中央艦が沖縄に行ったかというと、その裏には、重大な外交交渉の駆け引きがあったりするわけである。


 では、ちょっとだけ時間を巻き戻してみる。


 すると、その時間軸に出てくるは、在駐日米国大使 ジェニファー・ドノバンと、トーマス・デュラン国務長官。

 この二人が首相官邸に急遽、なかば『押しかけ』ともいえる形でやってきていたのである。

 この時、たまたま二藤部は不在で、柏木とフェルも丁度その時、東大のニーラ教授に会いに行っていて不在。対応したのは三島と新見に白木。で、是非ともヤルバーン側の、防衛関係に明るい人物と話がしたいという事で、デュランとは中国の一件で面識のあるシャルリに無理を言って来てもらっていた。

 二人はそれこそ『血相を変えた』という表情がハマるぐらいの様子で、何やら談判に来ていたようだった。  


「……三島副総理。この度、急な用件で、かような席を設けていただき、真に感謝いたします」


 デュランが、まず一言感謝の意を述べる。

 話す言語は英語だ。三島はイギリス英語が堪能。新見も英語はベラペラ。白木は言うに及ばず。今じゃイゼイラ語もしゃべれないが理解できる。シャルリは、PVMCGでの翻訳で聞き取っていた。

  

「デュラン長官。我々の見た目じゃ、血相変えて、ってな感じですが、どうかしたのですかい? 我々だけじゃなくて、ヤルバーン州軍の関係者さんも連れてこいって、こっちとしてもそういう話となれば、普通じゃないって思いますわな」


 そう三島が言うと、横に座る600万ドルなシャルリも。


『ソウだぜ、デュランの旦那。あたしがお宅とチャイナ国の一件で面識があったからいいようなものの、普通ならお断りを入れられてもおかしくないヨ。どうしたんダイ一体』


 シャルリも、デュランとは中国で色々と話す機会があり、面識があったりする。

 もし彼女がいなかったら、ここにティ連関係者がいたかどうかもわからないという話。

 米国の要請とはいえ、別にティ連としては知ったこっちゃないからである。


「実は……」


 デュランは、ドノバンと顔を見合わせ、お互い頷きあっていたり。米国人にしては、なかなか踏ん切りがつかないような態度をするので、訝しがる日本側+シャルリさん諸氏。

 意を決して、口火を切ったのは、ドノバンだった。


「あの、みなさん。この写真をご覧いただきたいの」


 そういうと、ドノバンは厳重なジュラルミンケースを、ガチガチと開けて、中からかなり古ぼけたA3封筒のようなものを出す。

 しかも封筒を扱うドノバンの手には白手袋。かなり重要な資料か何かのようだ。

 更にその中からモノクロの写真を、かなりの枚数取り出す。


「これを見ていただきたいの……特にシャルリ中佐。あなたに」


 するとシャルリは写真を数枚手にとって眺める。


『…………フムフム、こりゃサマルカ人サンとこの航宙間調査船じゃないかい? よく撮れてるねこのシャシンってヤツ。って、アレ? 今回の調印艦隊にこの形式の船、来てたっけ?』


 その言葉にドノバンとデュランは大きく吐息をついて、顔を青ざめさせる。


「では……この写真はどうですか? シャルリ中佐……」


 今度はデュランが、得体のしれない人型生物の写った写真を数枚見せた……その写真は遺骸のようだ……


『!!! こ、これは……サマルカ人!!! デ、デュランの旦那! どど、どうしたんだいこのシャシンはっ!』


 その言葉に、もうこれで決まりだというよな表情のドノバンとデュラン。

 更にシャルリは血相を変えて、デュランに詰め寄る。


『旦那! あたしはヤルバーン連合防衛総省の幹部として、このシャシンの説明を正式にアメリカ国へ要求するよっ! モチロン後で正式に書面を作らせる……その写真、遺体だよネ……どういうことか説明してもらえるんだろうネ……』

 

 ちょっと興奮気味になるシャルリ。

 まぁまぁと宥めるは白木だった。


「シャルリさん。冷静に冷静に。よく考えてみてくださいよ。デュラン長官も、そんなヤバイ代物をティ連さん怒らすつもりで見せるわきゃないじゃないですかい」

『ア、そ、そりゃ確かにそうさね。ゴメンヨ、ちょっとびっくりして興奮しちゃったさ。悪いね旦那』

「い、いや、そう思われるのも無理はありません。それよりも、日本政府はその……サマルカ? 人という種族。もうご存知なんですな?」


 デュランは、その点はどうだと目を細めて三島に問う。

 ここまでくれば、もう隠しても仕方がない。三島ははっきりと


「ええ、柏木大臣がイゼイラに行った際の情報で、既に把握してましたわ」


 と応じた。しかし三島も当然至極な質問をデュランに問いかける。


「では長官、米国も……その灰色な名で通っている有名な宇宙人さんを、ヤルバーン事件以前より知っていたということになりますぜ? よくゴシップ紙や、ニホンのスポーツ新聞で言われているネタ話。事実と認めるのですかい?」

「はい……ここまでくれば我々も隠していたって仕方ないですな。認めます。一九五〇年代からその存在を把握し、我が国の超最重要極秘事項として、ずっと扱われてきました……今、それ以上の事はご勘弁下さい」


 思わず木曜日になりそうな話。あのテーマソングが聞こえてきそうだ。

 三島に新見。白木は思わず「な、なんだってーーー!」と言いそうな顔になる。

 シャルリはイマイチ要領を得ていない様子。


『ち、チョットケラー達。あたしにもわかるように説明しておくれヨ……一体何なんだい?』

「あ、そうですね。順を追って説明しましょうか」


 すると新見が懇切丁寧に時系列を踏まえてシャルリに説明してやる。

 灰色な名前を持つ宇宙人発祥の由来。

 米国に噂される51な区画の話。

 世界で有名な未確認飛行物体の話。


『……エ? じゃぁニホン人もあたし達が来る以前にサマルカ人を知っていたって話になるじゃないかい!』

「そういう話に結果的にはなるのですが、それまでは所謂ホラ話とみんな思っていたわけですのでね。あの時、サマルカ人の容姿を柏木さんの資料で見ても、たまたま似たような種族だという感じで、こんな話につながるとは、私たちも……はは、ゆめゆめおもってなかったのですよ」

『ハァ、なるほどね……フ~ム』


 シャルリはその話を聞いて考え込んでしまう。

 どうも彼女としては冗談では済まない話のようだ。


『アメリカ国さんも、そこまで機密情報を公開してくれたんだ。そうなればあたしもチョット旦那と話をしなきゃなんないね』


 三島達はコクコク頷く。なぜなら、柏木の報告書でシャルリの話すところの意味を日本勢諸氏は理解していたからだ。


『デュランの旦那。ファーダ・ドノバン。あたしの見解を話させてもらっていいかい?』

「はい中佐。ぜひともお聞かせ願いたい」

「ええ、ミスシャルリ。どんな些細な事でも」


 一泊置いて、手元の緑茶を一口のむシャルリ。


『結果を先に言えば、旦那達の持ってきたシャシンの種族は……厳密には、今回来たサマルカ人ではないネ。その宇宙船の写真も同じくさね』

「え? それはどういう……」


 怪訝そうな顔をする米国な二人。


『実はネ、ティエルクマスカ連合でもサマルカ人って種族は、色々と謎が多い種族サンでね……』


 シャルリは、柏木も以前聞いた同じ内容の説明を二人に話す……

 サマルカ人の国は、ティ連で比較的新しい加盟国であるという事。

 サマルカ人という種族が、ティエルクマスカ銀河由来の知的生命体ではないのではないかという話。

 と同時に、彼らがどうも元々は人工生命体ではないかというティ連科学者の見解。

 おまけにサマルカ人自身が、自分たちの歴史、出自由来、起源を知らないという話。

 そういう理由で、彼らの出自の由来を、ティ連が協力して調査してやっているという話。


『……トイウ感じでネ。そちらサンが持ってきた資料とウチのサマルカ人は直接関係ないかもしれないんだけど、そんな感じの歴史を持つ種族なんで……ファーダ達の話を聞いちまったら捨て置けない話になっちまったね』

 

 そう話しながら、シャルリは三島に視線を投げかける。

 

「と、なると……米国さんの持っている資料を、サマルカさんらが分析すれば、自分たちの出自や、うまい事すりゃ、ご先祖の歴史がわかるかもしれねーっつー事かい?」

『ああ、そういうことさねファーダ・ミシマ。当然サマルカさんもその情報を欲しがるだろうね。ただ現在、ティ連憲章で、サマルカとアメリカ国は直接交渉できないって事になってる』


 すると白木が


「しかし、サマルカさんは、自分達の謎がわかるかもしれないって話なのに、そんなこっちゃ納得せんでしょうな。それに……個人的な感情を言わせてもらえるなら、目の前に秘密を解く鍵があるってのに、お預け食らわせるのは流石に可哀想ですわ。気が引けますよ」


 すると、ここがチャンスとばかりにデュランが両の掌を叩いて、前で振り……


「ではこうしましょう。我々としても、そのティエルクマスカ憲章というものを曲げてまで貴方方と交渉を無理強いするつもりはありません。ですので、日本国関係者と、ティ連関係者同席の元で、この日本で……そうですね……沖縄の嘉手納基地などどうでしょう? そこでその……サマルカ人という種族と、一度お話をさせていただきたい。もし彼らが望むのであれば、我々が持つ、その異星人の資料すべてを提供させていただいてもかまいません」


 ニコニコして、何か有価証券でも売りつけに来た営業マンのような顔をするデュラン。

 ドノバンも横でクスクス笑っている。

 今までの米国なら、ここで……


『この情報をすべて渡す用意がある。もし目にかなった情報なら、すべて持って行ってもかまわない。でも、そこはそれビジネスだ。わかるでしょ?』


 という話にもっていくところなのだろうが、彼らも、今回のヤルバーン事件で、日本国のヤルバーンに対する対応を見て学んだようだ。あえて見返りは要求してこない……米国にしては気持ち悪いぐらいに要求してこない。 

 つまり、『よろしくたのんます』と目が言っている。そういう感じ。

 これが米国という国の強かさよ、というヤツである。

 サマルカ人がこんな感じで意外なファクターになるとは、これも因果というものかと思うシャル姉。

 クククと笑って


『マ、こればっかりはあたし達がどうこう言える話じゃないさねデュランの旦那。サマルカ人さんに、しかと報告しておいて差し上げるよ』

「感謝いたします中佐」

『ファーダ・ミシマ。申し訳ないけど、これで了承してくれるかい? サマルカ人サンとしちゃ、それぐらいの国家的な問題なんさね』

「わかりましたシャルリさん。総理と柏木大臣。フェル副大臣には私らから伝えておきますわ」

『すまないねファーダ』

「ええ、それに、日本も今やティエルクマスカ連合の一員だ。そうなりゃ、我々もサマルカさんとこに全面支援する義務がある。なのでデュラン長官、我が国もそうなったら、相当な意見を言わせてもらいますぜ? よろしいですな?」


 三島副総理 兼 外務大臣。眼光鋭くなかなかに言う。

 そう。銀河連合日本国も、そんな立ち位置の国になったという事でもあったのだ……




 ………………………………




 ……そして来るべき日がやってきた。

 今、太平洋上は世界中の軍事組織の艦艇であふれかえり、更には大型のクルーズ客船なども集まってきている。

 上空では米・露・中・印・豪・欧と世界中の哨戒機が飛び交い、その時を待つ。

 日本政府はあらかじめ降下予定地点、というか地区と言った方が良いか? を公表していた。

 『大体このあたりに降りてくるよん』という航路図を公開していたのだ。

 元々は海洋事故防止のため、邪魔にならないようにウロウロすんなよという意味で公開したのだが、案の定その全く逆な現象が起こる。

 言われた場所に全員集合だ。

 観光客船は、巨大なキロメートル級の宇宙船が降下するところを見ることができる。というのを売りにして、客を集めているわけであるからして、そんな感じ。

 いかんせん公海上なので、日本がどうのこうの文句を言うわけにもいかない。

 向こうは向こうで、ティ連の船だから、事故になんてならないだろ。ぐらいにタカをくくっていたりするわけだから困ったもんである。


 各国軍用艦艇は、日本が公表した時間が近づくと、あわただしく動き出す。

 上空を見上げると、ティ連各国の政府中央艦も行動を開始したようだ……その姿、望遠鏡を使えばディティールをはっきり目視できるぐらいの大きさにまで見えてきた。

 ここで予備知識のない人は、ものすごくデカい炎を引きながら、空力加熱現象ブッチギリで降下してくるものだと思っている観光客もいたのだろう。その予想外のアッサリした降下風景に、とても不思議がっていたりする。


 そんな感じで諸氏見入っていると、もう各国の艦は、みるみるうちに肉眼目視サイズの大きさになり、降下予想地点付近に、どんどんと降りてきた。

 ウォンウォンと文字にして書けば、そんな味気ない表現になる。

 だが実際は、それは何とも耳に残る、そして、腹にくる。かといって不快ではないそんな機械音を大きく唸らせながら、各艦、地球海上より、約五〇〇~八〇〇メートルあたりの上空で、一旦待機している。

 

 それはもう壮観この上ない画だ。

 単純に換算して、15+8+10+2+12+8+8+25=88キロメートルな状況の人工物が、空一杯に浮いている。

 その中で、パーミラさんとこのお舟は、高さで7キロメートルだ。これはメチャクソ目立つ。

 その情景に、降下地点に集まった各国官・民・軍のみなさんは、唖然茫然。

 目で見て、視覚で感じて、やっと事の重大性に気付いて頂けたようである。

 

 んでもって、準備が完了したのだろう、ティ連各艦は数機の先行偵察機……言ってみれば水先案内機とでもいえばよいか、そんなイメージの機動マシンを放つと、極東地域。一路日本国へ向けて移動を開始した。

 でもって、放たれた機動マシン……サマルカさんとこのは、なんともかんともで……

 みんなどこかで一度は見たことあるシルエットな形の機動マシンをヒヨヒヨと放ってたり……

 これが見れただけでも、クルーズ客船のお客さんは、めっけもんだったり。

 そんな中、航路途中で、お迎えにきたカグヤが合流。カグヤですら、この艦隊の中では木っ葉のような船である。

 同艦からも、ヴァズラーに旭光Ⅱ。そしてF-2HMが発艦し、編隊を組んで歓迎の体勢を取る。

 そんな中、F-2HM隊を先導するは……なんと試製15式多目的兵器『旭龍』だった。

 無論操縦するはシンシエコンビ。シエもパパサンが見ている手前、カッコワルイところは見せられない。

 この旭龍。もう隠してもしかたないし、隠しおおせるものでもないし、イラクの使徒派には撮られたし、ISSの諸氏にも撮られたようなので、結局ここで公開に踏み切った。

 各国中央艦の間を縫うように、F-2HMと旭龍。ヴァズラーに旭光Ⅱが編隊を組んで飛行する。

 これもまたそれを見上げる海上の船舶にとっても一大ショーであり、日本へ向かう中央艦に乗り組む人々にとっても歓迎のショーであった。

 特にメカツァーレの容姿は、ティ連軍関係者の注目を浴びていたようだ。


 日本のテレビも、全ての局がこの情景一色になる。

 米軍の艦艇に便乗しているテレビ局スタッフに、クルーズ船に便乗している局スタッフ。

 いろんな船舶、航空機からこの荘厳な艦隊の姿を追い、茶の間に映像を流す。

 某ネットでは、この艦隊の事を『カレー連合艦隊』『カ連艦隊』という愛称を勝手につけて呼称していたり。

 

 そのカ連艦た……もとい……ティ連調印式典外交艦隊ともいうべき一行は、丁度、硫黄島近海に差し掛かったところで、諸艦、所定の地域へ舵を各個切り、散開して別れた……硫黄島に眠る英霊達は、この光景を見てどう思うだろうか?


 丁度その直下を、海上自衛隊の護衛艦隊が航行し、発光信号で歓迎の意を伝え、祝砲を放っていた。

 上空を飛ぶ各艦も、大きな発光信号で応えつつ、各艦独自の航路を進んでいく。

 ここからは、特危に加え、航空自衛隊も護衛に加わり、F15にF4戦闘機が、中央艦の上空を舞う。

 ヤルバーン州からも護衛機が飛び、もう現在の日本近海太平洋側は、何事が起こったのかという、これまでにない賑やかさを見せていた。

 そんな、かような感じで、各艦は指定されたポイントへと船を進める。

 海岸線を沿って行く船もあれば、山を越え、瀬戸内海をまたいで中国地方を超えて、日本海へ出て行く船もあり。

 日本列島は今、かような情景にて、異星からのお客さんを総出で迎えなきゃいけない状態であると、改めて認識させられる。


 と、そんな中……調印式典前から動きの激しい場所があった。


 沖縄県嘉手納町 兼久海浜公園あたりから、沖へ約一〇キロメートルほど。その約五〇〇メートル上空には、それはもう煌びやかな光をまとった『葉巻型』の八〇〇〇メートル級宇宙艦艇。サマルカ統一連帯群国の中央司令艦『セクター001700』がやってきた。

 そこから、サマルカ版デロニカともいうべき汎用連絡機が、米軍嘉手納基地へ向かって飛んでいく。

 サマルカ人は、元々独自の技術体系をもっていたので、それとティ連科学を融合させた、更なる独自の技術を確立させている。

 その優秀な技術は、ティ連各国にも広く普及しており、特に機動マシンの制御系技術では、サマルカが源流の技術が多用されていたりするわけだ。

 そんな技術を使った産物の一つ。かような連絡機のデザインも、洗練された感じはあるが、麦わら帽子を上下にくっつけたようなイメージ。こんな感じなので、やはり日本人としては今日、木曜日かと錯覚させられる。


 大きさは、直径約九〇メートル程の、ほぼ円形。

 その内、直径約四〇メートル程の内円部が、高さ上下合わせて五〇メートル程の円柱型に盛り上がる。

 かような飛行物体が、デロニカ同様に地上から約数十センチ程浮かんで、ピタリと静止し、嘉手納基地の指定ポイントへ着陸する。降着装置のようなものは出ていない。

 出入り口らしきところには、赤い絨毯が米軍の手によって引かれ、軍の広報部隊員がカメラを手に持って、ベストショットを狙う。

 

 ……実は今回の日・米・ティ・サ会談。この会談を行うにあたって、ティ連側がある絶対条件を米国側に出した。

 それは「本会談の様子を極秘事項にしない。日本や世界に一部始終を公開する事」

 という条件だった。

 この条件を米国が飲まないなら、サマルカ人との会談は許可しないし、サマルカ側も会談しないという話だったので、米国側は「その程度の条件ならお安いご用」とばかりに、軍楽隊にティ連の旗持った米軍関係者の家族。それと観光客に近隣住民を基地に入れて、米軍基地祭ばりの大歓迎イメージを作り上げたという寸法。

 この作戦はなかなかのもので、そんな『近隣住民』の中には普段、どっかからお金もらって『反対ハンタイはんたーい!』 と吠えまくる『近隣住民』がちゃっかり混ざっていたりして。そんな奴が異星人歓迎と『米軍基地』で旗を振っている……結局はその程度なのである。

 そういう形で軍の広報部や、日本のマスコミ。米国国内のマスコミに、同盟国のマスコミを入れまくって、本日は『情報公開祭り』の様相を呈している嘉手納基地であった。

   

 米軍人に、ドノバンとデュラン。更には急きょ来日したハリソン達も嘉手納入りし、会談条件の仲介国である銀河連合日本国のスタッフとして、白木に新見、春日に外務次官の斎藤光恵らが、米国側から出てきて、米国スタッフと笑顔でサマルカ人の登場を待つ。


 そのUFOのような機体のハッチが開くと……みんなが知っているアノ容姿な異星人が姿を現す。

 面白いことに、体型的に彼らにも「デルン」と「フリュ」の違いのようなものは一応にあるのだろうか? 女性的な肢体をもったサマルカ人と、男性のような肢体をもったサマルカ人が下りてきた……確かに例の宇宙人なイメージではあるが、細身で、スラリと伸びた背は、高くもなく低くもなく。日本人の平均身長ほど。だが、やはりイメージ通り、頭部が少し大きく感じるか? そんな雰囲気だが、よく言われる気もち悪さのようなものは微塵もない。

 機能的な中に、彼らの文化的な主張を持つ装飾品を付けた服装。そしてインカムのような機器を頭部に付け、空中にチラチラと何やら映像を浮かばせながら互いに会話をしているサマルカ人。

 彼らは今日、人類全てが見る前に、初めてその姿をさらしたのだ。

 その後に続いて出てくるは、サポートスタッフで彼らの機体に同乗していたシャルリ姉に、ジェルデア主任。

 彼ら異星人が見えた時、嘉手納基地の軍人家族達は、「イヤーハッ!」とばかりに口笛を飛ばし、星条旗とティ連旗。日本国旗をふりふり大歓迎の雰囲気。

 米国人らしく『♡嘉手納51にようこそ♡』とアメリカンジョークなプラカードをもって、ハッスルしている家族もいたり。さすがにそんなジョーク、彼らにはわからないだろう。

 軍楽隊も、五つの音階を混ぜた楽曲や、チャリンコを飛行させる能力を持つ異星人が主人公の映画音楽で歓迎していたりと……とはいえ、これも彼らには何のこっちゃな感じだが、地球のSF映画が好きなシャルリ姉は、事前研究バッチリで、クククとほくそえんでいた。


 サマルカ人の諸氏も、小さな口元に笑顔を見せ、観客に敬礼し、手を振っていた。

 そして、ハリソンやドノバン。デュランも彼らに早足で近づき、アメリカンスマイルで、握手を求め、何やら会話をしていたようだ。

 確かに彼らは、かの有名な異星人という感じだが、もうイゼイラ人やダストール人にカイラス人、パーミラ人、ディスカール人とそれはいろんな異星人種族が知れ渡った昨今、今更サマルカ人が一種類増えたところでなんぞのものだというところだろう。

 むしろ米国人……いや、地球人全体として、ある意味一番知った顔が、マジモノでやってきたわけで、それが『存在した』というショックと感動の方が大きい。

 特に、本家の米国としては尚更である。

 彼らとしてもこのチャンス、逃したくはないだろう。


 はてさて、どんな外交交渉を行い、何を得るか? お手並み拝見といったところだろうか。




 ………………………………



 

 さて、次の場所は、沖縄から約一六〇〇キロ離れた東京。

 ここではフェルと柏木が、もう日本のみならず世界に対する挑戦ともいうべき異星種族を、国内に招こうとしていた。


 実は、先日、NHKで放送された柏木とフェルがMCをやった政府広報番組。

 アレで、視聴率が一時的に、異常に伸びた時間帯があった。それは、フェルが解説していた来訪する異星種族の紹介シーン。


 そこで、日本政府は……ザムル族の公開に踏み切ったのである!


 それはもう世間……いや、世界中言わずもがなの反応で、その瞬間、NHKお客様センターから、内閣府から、二藤部の事務所から、柏木・フェルさんの事務所と、それはもう感動の電話から励ましの電話、クレームにテロ予告まですさまじい反応があったそうな。


 ただ、一部のアf……いや、ネット民は、そこはそれ。普通の一般市民とは違う反応を見せ……

 

【銀河連合調印式典関連スレ】

200名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 こんなもんで今更ビビってる奴は素人。 


201名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ま、宇宙人と言えばデフォルトだな。


202名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 サマルカタンといい、ザムルサンといい……

 ちゃんとしたフォーマットに則った宇宙の秩序は美しい……


203名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 で、正直なところどうよ。


204名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 多分、あれは旧支配者。


205名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>204

 何気に超失礼だぞオマエww

    

206名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 でも、脳波で会話するって……想像つかんな……


207名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>206

 でも、今回は変換装置かなにかで音声で話してくれるとかそんな事、フェルさん言ってたじゃん。


208名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 それでも一度その脳波会話というのを体験してみたいなぁ


209名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ワレワレハ、ウチュウジンダ


210名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>209

 ラーメン屋でもやっとれ。



 ……意外に冷静であった……

 つまりネット民的な妄想では、ティエルクマスカ連合という巨大な組織、そんな中のフェルやシエ。おまけにパウルまで出てきたら、ザムル程度は普通にいるだろうとある程度覚悟はしていたのだろう。

 まぁ……サマルカさんは、別のところで『祭り』になっていたようだが……


 そんな世間の反応もアリーので、日本人……いや、地球人で唯一、この種族に対峙できる人物。

 柏木真人が、羽田空港へ出迎えにやってきていた。

 無論彼だけでははない。東京には連合中央本部艦と、イゼイラの中央艦もやってくる。即ちマリヘイルとサイヴァルもやってくるので、二藤部や三島といった政府のトップも出迎えにやってきていた。

 無論、今や日本人となったフェル副大臣も同じくである。


 さて、羽田空港ではそんなところで連合異星種族の大物と、大珍客がやってくるという感じで、日本のみならず、世界中のメディアがカメラの砲列を作り、いろんな言語で、いろんな民族のレポーターが、この状況を発泡飛ばしてレポートする。

 各国放送局のサブモニターには、政府中央艦が訪れているあらゆる地方都市の映像が映し出され、カメラを細かく切り替えて生放送を行っているようだ。


 既に、連合本部中央艦『ティエルクマスカ』とザムル中央艦『意思と栄光』から飛び立った連絡船……デロニカと、もう一機は、デロニカと同じぐらいの、カブトエビのようなデザインをした美しいデザインの連絡船が羽田空港にやってきた。

 

 お馴染みの大鷲が舞い降りるような着地を見せるデロニカ。

 ザムルの船も同じような感じ。

 指定着地場所には、赤い絨毯がこれまた引かれていたり。

 嘉手納基地に負けじと、陸上自衛隊音楽隊の演奏とともに、陸自精鋭が整列して捧げ筒をいつでもとれるように待機している。

 

 さすがに、各国代表がゾロゾロとやってくるというわけにはいかないので、今回の地球到着歓迎式典には、連合議長マリヘイルと、交渉担当国のサイヴァルが、各国の代表としてまずはやってきた。

 ハッチから出て、早足で柏木や二藤部に歩み寄るマリヘイルとサイヴァル。

 後ろには、サポートとしてヴェルデオやヘルゼンら司令部スタッフが控える。

 

『ファーダニトベ。お久しぶりです。やっとここまで来れましたわ』


 とマリヘイル。満面の笑顔。ニコニコ顔で、生身で会えることを喜び合う。


『ファーダ。改めて「初めまして」というべきですかな? 一〇〇〇年先のお話をしに、五千万光年彼方からやってまいりましたぞ。ははは!』


 とサイヴァル。二藤部、三島と、固い握手をしてブンブンと上下に振る。


 次に……


『ケラー・カシワギ!! またお会いできて嬉しい!』とサイヴァルが大声あげて腕を大きく広げて抱擁し

『ケラー! 私も久方ぶりに家族に会えたような、そんな感動ですわ!』とマリヘイルも同じく。


「はい! ほんっっとうにお久しぶりです。そして……よくいらっしゃいました。ようこそ日本国へ」

『ウフフ、マリヘイル議長、サイヴァル議長。ニホン国へようこそデス』

『あらあら、すっかりニホンコクの政府閣僚様ですわね、フリンゼは。フフフ』

『ウム、素晴らしい事ですナ。しかし、イゼイラ人をフクダイジンとはいえ、準閣僚職に据えるとは、ファーダ・ニトベ達も思い切ったことをなさったなぁ』


 そんな風に、腕組んでフェルを見て、ウンウン感心するマリヘイルとサイヴァル。

 しかしフェルは。


『ソンナ大したことではナイです。マサトサンが忙しくて死にそうだから、お手伝いしているだけデスヨ。ウフフフ』


 そういうと柏木も


『はは……実際のところ、そうなのですよ、お恥ずかしい話ですが……』


 と頭かいて応じると、なんだそれはと和やかなムードで会話は弾む。

 

『デ、ファーダ。もう一方、あなたと再会するのを楽しみにしている方がいらっしゃいますヨ』

「え?」


 と、後ろのカブトエビ型の宇宙船を見る柏木。


「まさか……」


 その宇宙船から降りてくるは……件の、美しいクラゲ型の軟体生物系な知的生命体……

 

<<柏木大臣。お久しぶりですな>>


 思わず額に手を置く柏木。

 二藤部に三島、以下、近くにいた日本人もそんな感じ。


「デヌ閣下? デヌ閣下ですか!」

<<左様。またお会いできてうれしいですぞ、友よ>>


 いやいやいやという感じで駆け寄る柏木。

 デヌの触手を握って、握手のような感じ。ブンブンと振る。

 ただそれを後ろから見る二藤部に三島、そして日本スタッフは、目をむいて柏木を見る。

 あまりにも普通にそんなのと接するので、ボーゼンとしていたり……

 おまけに、付き合いの深いご近所のように普通に話している。触手はまだ握ったままだ。


「……あ、総理、三島先生、ご紹介します。こちらが……はは、件のザムル国高等議員でいらっしゃる、デヌ・ラヌ閣下です」

<<ああそうだ、柏木大臣。この度、私は外務長官に就任しました。どうぞお見知りおきを>>

「え、そうなのですか! それはおめでとうございます……って、あ、それで閣下が今回ザムル国の代表で……」

<<そう言う事です大臣>>


 あまりにこの非ヒューマノイド型と普通に接する柏木を見て……二藤部に三島は(突撃バカもここまでくると神がかりだな)と思い、ニヤつく。

 それぐらいに柏木が普通に接するので、何か調子がくるってしまいそうになる日本スタッフ。

 もうそれを遠目に見る世界のマスコミは、てんやわんやの大騒ぎだ。

 

 と、そんな感じで、ついこの間の話であるのに、旧友と親交を深めるような感じの柏木に対し、二藤部以下日本スタッフも、それを見るマスコミも、やはりこの男は特別だと改めて感じる。

 そんな彼の横で色々とサポートするフェルを見ても、この二人の絆というものは相当なものなのだと、改めて感じ入る諸氏であった。

 

「おっと! そうだ、いけね!」


 三島がポンと手を叩き、二藤部にヴェルデオとヘルゼンを呼んで、耳元で何やらコソコソ話。

 三人は三島の話を聞いて、笑顔でウンウンと頷く。そして何か了承したような感じで、ヘルゼンがトテトテと柏木とフェルに近づき、二人の耳元で……


『(ファーダファーダ)』

「(は? 何ですかヘルゼンさん)」 

『?』

『(そろそろ、あのお方をですね……)』

『(ナルホドでス。そろそろ頃合いデスね、ウフフフ)』

「(ああ、そうだね。はは)」


 そう言うと、彼は三島の方を向いて、目で頷く。

 三島もニカっと笑って、身振りでスタッフに合図を送ると、空港の奥から黒塗りのリムジンが、サっと諸氏の前にやってくる。


 「?」な感じで、何だろうという表情のマリヘイルにサイヴァル。そしてデヌ……デヌはそこんとこ表情わからないけど……

 すると、リムジンのドアがガチャリと開いて、水色の細い御御脚が出てきたと思うと、その脚部はスっと立ち上がり、車のドアから表情をのぞかせる……その姿。ニルファ・ダァント・リデラだった。


 その顔を確認するサイヴァル。すると、今までの満面の笑みが、みるみるうちに驚愕の表情に変わり……まるで取りつかれたように、その方向へ歩みだす。

 マリヘイルも、ニルファの姿を見て、口に手を当て、涙を潤ませて驚きの表情になる。

 デヌもそんな感じなのだろうが……わかんない。

 その歩みの意味を知る日本スタッフは、柏木も含めて皆サイヴァルの進行方向を左右に引いて、道を開ける。

 ニルファも、堪えていた何かが弾けて、顔を崩してサイヴァルに駆け寄っていく……


 大の大人二人が勢いよくぶつかり、抱き合う質量はいかほどものか。

 ニルファの足は、地に付かず、宙に浮いて振り回される。

 そして、日本人から学んだ儀式で、顔と顔をくっつけ合う。

 ゼルルームで、今日に至るまで互いを確認してはいたが、やはり生身での触れ合いにかなうものではない。


 柏木が大きく手を叩き拍手をすると、フェルもそれに倣って続く。

 そしてそれは、マリヘイルに、デヌに、ティ連スタッフに。

 二藤部に、三島に、日本スタッフに。

 それを見る空港の観客に伝搬し、マスコミもつられて拍手をする。

 ただ、流石に観客やマスコミは、その拍手の意味はわからない。ただ……目の前で展開された人目もはばからない、尋常ならざる感動の再会? に見えたその光景。何か大変目出度い事ぐらいは理解ができた。

 そんなシチュエーションを見せられれば、これは幸先が良いと誰しも思うだろう。

 二人の抱擁と、何かを確認するその姿は、それを知るスタッフと、知らない観客、マスコミの違いはあれど、祝って損になるようなものではない。それは間違いない……



 サマルカ人の、失った過去。その謎の再現。

 イゼイラ人は、日本にいる英雄との再会。

 古の伝説『希望と悠久の聖地』への再来。

 一個人からみれば諦めかけていた、でも諦めきれない君と、奇跡の再会。

 


 アゲイン続きの最初になった連合加盟調印式典の前日。 

 そう、今この地球。日本にいるのは、規模は、これでもまだまだ小さきけれど、それは『ティエルクマスカ連合』そのものなのである。


 そう、ティエルクマスカ銀河共和連合がそこにいる日本。



 これから一ヶ月。またこの国は、賑やかになりそうである……

 



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