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『達する。本日1037。ヤル州連合防衛総省軍、警戒対象と接触。ヤル軍ヴァ戦攻撃を受ける。ヴァ戦被害軽微。警戒対象は隕石に偽装し、地球へ侵攻中。その速度極めて高速。現状侵攻目標は不明。ヤル軍ヴァ戦隊が迎撃体制に入った。本艦カグヤは現位置から緊急で出航。後、離水。高度一〇〇〇〇米で滞空待機。HM・ヴァ戦・旭光・旭龍は直ちに発進。繰り返す。本日1037……』
カグヤ級機動母艦『カグヤ』・通称『宇宙空母カグヤ』に警報が鳴り響く。艦内は、あの魚釣島事件
以来の喧騒を作り出していた……いや、ある意味それ以上かもしれない。
カグヤは旧福島県第一原子力発電所跡地に造られた臨時桟橋を離岸。即時離水といきたいとこだったが、いかんせん隠密裏に処理しなければならない事件だ。しばし海上を航行、沖に出ると対探知偽装をかけて離水。高度一〇〇〇〇メートルを目指す。
日本国内では、急にカグヤが福島県からいなくなってマスコミの良いネタにされたが、防衛省とヤルバーン防衛総省は『通常予定の演習』として発表、処理した。
対探知偽装のかかったカグヤ。高度を上げつつ、環境シールドに守られたその艦は、そんな状態でも艦載機発進シーケンスを進行できるのはすごいところ。
特危航空宙間科のF-2HMと旭光Ⅱに、今回新たに導入されたE-2C改。そしてティ連とヤルバーンのヴァズラー隊と、哨戒デロニカがどんどんと飛び立っていく。
カグヤ甲板には予備機として、機動性で劣るが、火力抜群のシルヴェル・ベルク。
F-2HMは大気圏内を迎撃態勢に入り、旭光Ⅱは大気圏を抜け、迎撃態勢に入る。
ヴァズラー隊も同じく。
E-2C改と哨戒デロニカが目を光らせる。
そして……
カグヤ甲板で一際大きな発進警報が鳴り響き、エレベーターの黄色い警告ランプが周りを照らす。
何かの発進マーチが似合いそうな新鋭機体が、頭部ともとれる部位から甲板へ姿を現す。
その動物的な姿勢。直立すると格納に支障が出るのか、少々前かがみ。
ガゴンという音とともに、せなの可変斥力モジュールを、翼のように左右へ広げる。
そう、あの機体である。特危から正式にコードナンバーも振られた。
XAFV―Type15『試製15式多目的機動兵器・旭龍』である……空自と陸自のコードを合わせたような番号を特別につけられた、航空機と陸戦兵器の性格を併せ持つ機体。恐らく将来的に陸上科でも運用されるかもしれない。従って、特危のみ通用するコードとして、かような機体コードとなった。
コクピットハッチを開け、多川とシエがイゼイラ人スタッフと確認事項のチェックを済ませる。
「シエ、コッチはOKだ。いけるか?」
『無論ダ。イツデモイイゾ、ヤッテクレ』
二人は親指を上げ、ハッチを閉めると少し前かがみな機体を起こす。
その雄姿を見て特危隊員にティ連人クルーは、思わず握り拳を作ってガッツポーズ。陽に照らされた機体は視界から逆光になり、その姿をシルエットに陽の光で機体の輪郭を浮かび上がらせる。
その逆光シルエットのおこぼれに預かったイゼイラ人誘導員が、少し後退しつつ、バンザイするように何度も何度も両腕を上へ下へ上げ下げする。すると、旭龍はカグヤ左舷外上空へトラクターフィールドで誘導され、発進位置にスタンバイ。
VMC造成された発進信号が、赤から黄色に変わる。
斥力モジュールのスリットが青白く光りだし、空間振動波モジュールがパルス振動波を作り出す準備を始め、機体は半可変し、巡航形態へ。
そして信号は青へ。刹那、旭龍は猛烈な勢いで前へ押し出され、高度8000メートルからの空中発進。
雲海を下に見て、空を飛ぶ船舶からメカツァーレが発艦する。
E-2C改からその姿を見下ろす搭乗員は、ありえないその光景に息をのみ、驚愕する。
そして武者震いをし、頬を叩いて気合を入れなおすのだった……
……月軌道上で遭遇。発見された『はぐれドーラ』
ヤルバーン州防衛総省軍。所謂ヤルバーン州軍は、月軌道上に警戒索敵展開させていたヴァズラー隊を急遽目標へ差し向け、はぐれドーラの撃墜破壊を試みる。
この『はぐれドーラ』 いつの間にか、だれが言ったか言わないか、その呼称を誰が決めるわけでもなく『ドーラ・ヴァズラー』という名でも呼ぶようになった。確かに現状のこのドーラを表現するには、こちらの呼称の方がいいかもしれない。
『クッ! なんなんだコイツ! メチャクチャ速いぞ!』
『ブラスター砲。発射! 発射!』
『どうだ!』
『効果ナシ! 全部ハジかれる!』
隕石擬態のドーラ・ヴァズラーを追うヤルバーン州軍ヴァズラー隊。
なかなかに苦戦を強いられる。
そしてドーラ・ヴァズラー。ただやられっぱなしというわけではない。
『敵機より攻撃! やっぱりフェイザーだ!』
『シールドをしっかり張っていれば大丈夫だ……しかしフェイザー兵器まで造成させるとは……』
フェイザー兵器。ある種ディスラプター兵器より威力のある兵器で、命中対象を原子核破壊してしまうという無駄に破壊力だけはあり、物理防御がまず全く役にたたないといっていい兵器である。
ただ、エネルギーシールドで比較的防御は簡単に対応できる。それにまともに命中したときの威力は高いが、ディスラプター兵器のように広範囲に持続効果のある兵器ではないため、ティエルクマスカ世界では主力兵装としてはもうあまり使われなくなった兵器でもある。ただ……
『フェイザーをチキュウで使われたらマズイ。今のチキュウでフェイザー食らって無事で済む施設や乗り物はないぞ!』
『ああ、それに武器はフェイザーだけじゃないだろう……クソっ、とんでもない化け物になって戻って来やがったな』
その巨大な隕石ともいえる物体とドッグファイトを演じるヤルバーンヴァズラー隊。
敵機にも、岩塊のスキマから、人工的な淡い光の点滅が見え隠れする。
敵ドーラ・ヴァズラーは、そのスキマから端子を伸ばし、ヤルバーン州軍・ヴァズラー隊を攻撃する。
ヴァズラー隊は攻撃方法をエネルギー兵器から、自衛隊データ供給の物理兵器へ切り替える。
『ダメだ。全機! チキュウの兵器へ攻撃方法をシフトさせろ』
『了解。“えむ61”をゼル造成。攻撃を開始する』
各機、地球の『M61バルカン砲』を造成し、巡航形態で照準を合わせる。無論照準合わせは、システムのお仕事。
ヴァズラー隊も追いかけるのが精いっぱいで、機動形態に変形しているヒマなどない。
トトトトトトと敵への照準があえば、ヴァォォォォォォォォ……と、そんな音はしないが、すぐさまにM61を発射。敵ドーラ・ヴァズラーへ命中するも……
『敵シールドを貫通。効果あり。命中! 命中!』
『敵の被害は!』
『確認中…………ダメだ! 命中しているが敵機に被害なし!』
『はぁ? どういうことだ!?』
『偽装隕石に阻まれて、ダンガンの威力が相殺されているんだよっ!』
『粒子反応ポッドは使えないのか!』
粒子反応ポッドとは、トラクターフィールドで粒子反応爆弾を誘導してぶつけるティ連世界でのミサイル兵器で、中―短距離ドッグファイト用の兵器である。
『了解、やってみる』
ヴァズラーは粒子反応ポッドを数発発射。キラとエネルギー光をまといながらドーラ・ヴァズラーへ飛んでいく。
ドーラ・ヴァズラーはポッドを躱すが、トラクターフィールドに誘導されるポッドは、羽虫のようにドーラを追跡する。だが……
ドーラ・ヴァズラーも同じような光球をバシっと発射する。するとその光球はヤルバーンヴァズラーの発射したポッドを迎撃してしまった。
『なっ!……クソっ! 敵も反応ポッドを使った! こりゃ……』
『なんだよそりゃ! ということは……トラクターフィールドも使えるって事か!』
『とにかく増援を呼べ! なんとかして阻止しないと……こんなのがチキュウに突っ込んだら、えらいことになるぞ!』
追跡するヤルバーンヴァズラー。
いろんな方法で攻撃を行うが、効果が出ず、しかも躱される。
その効果が出ない理由……一つは、元々エネルギー兵器に強いドーラの性質が、ヴァズラーのゼルシステムでさらに増強されてしまっていること。
二つ目は、このポンコツドーラが自分の身を守るために、デブリや、隕石小惑星の類を体にゴテゴテ付けたのが幸いしたのか、これが鎧になって少々の物理攻撃なら相殺してしまうこと。
三つめは、ゴテゴテ付けたデブリや岩石とゼルシステムを組み合わせて、新たな形態を構築していること。
そして最後に、思考制御能力があるかないか、そこはわからないが、この強化された本体に対して、余裕ができたような行動。そういう点も無きにしも非ず……即ち、進化してしまっていること。これが大きな要因だった。
とにかくヤルバーン州軍のパイロットは必死になってパワーアップされたドーラ・ヴァズラーに食らいつく。するとドーラ・ヴァズラーは、今まで逃げの一手から一転、反撃に転じてきた。
ヴァズラー譲りの高機動制御で、グンと隕石状の物体が反転すると、その岩盤のスキマから、ピピピっと何かを放出してくる。
『!!?』
機体のシールドを突き抜けて装甲に何かがへばりついた。それは……
『ゼル端子反応!! クソっ!』
なんと、このドーラ・ヴァズラーは、ゼル端子を機体の中で製造していたのだ。ボロボロになったコアと、ドーラ母艦のパーツに、隕石の衣をくっつけただけだったポンコツが、今や強力な仮想造成生命兵器になって復活している。
実際確かにそれも今の奴は、リソース制限のないティ連製のゼルシステムを装備しているのだ。あらゆる種類の物質を同時に多数造成できる。
ヴァズラーはドーラの追跡を中止し、後退。
味方機がゼル端子浸食を食い止めるため、僚機にディスラプターを精密照射する。
そして浸食部位を自爆させて吹き飛ばす。
『大丈夫か!』
『ああ、なんとか……助かった。スマン……しかし、逃がしちまったな』
『ああ、しかしやむをえん。あのままお前がゼル浸食されてアレの機械化奴隷になったら、余計にややこしくなっていたところだ』
コクコク頷くヴァズラーパイロット。
彼がマズイと思い、後退した瞬間、なんと……ドーラ・ヴァズラーは、ヤルバーンヴァズラーが吹き飛ばした部位をトラクターフィールドで引き寄せて自分の体に融合させてしまう。そして次元溝に潜航し逃走した。
『……なんて野郎だ……俺の機体のパーツを持っていきやがった……』
『ああ……だが次元溝に潜航してくれたか……』
『おう、今の俺達ならこっちのほうがやりやすい。奴は俺達が次元溝潜航探知センサーを持っているの、知らねーだろうからな』
『そうだな……とにかく状況報告だ』
『了解』
州軍ヴァズラー隊は兎にも角にも現状を関係部隊へ、厳重警戒を要すと報告した。
敵ドーラ・ヴァズラー。相当に侮りがたしと……
………………………………
日本・ヤルバーン州タワー。日本国治外法権区第一日本大使館内、大会議室。
今ここは、対ドーラ・ヴァズラー対策の、日本側安保委員会司令本部になっており、いろんな機材や人員。特に特危自衛隊情報科のスタッフが常駐し、情報収集・分析・そして指揮にあたっていた。
「ども、みなさん」
「お久しぶりです」
本部に入室するは、久留米彰“一等特佐”と、大見健“二等特佐”だった。
「ども久留米さん。オーちゃんも久しぶり」
「おう、柏木。当選したときの電話以来だな。白木、お前も元気か?」
「ああ、まぁな。元気でいるのが、いいのか悪いのか……」
白木は眼鏡をクイとあげて、首を振る。
そんな感じで挨拶なぞ。で、二人とも肩の桜マークが少し違った。
今回、久留米と大見は柏木と多川、シエ、リアッサの要請で、一階級昇進してもらう事になった。
というのも、現在カグヤ内の特危部署で、藤堂を現場トップとしてその下の参謀に、多川とシエ。久留米と大見にリアッサがいるわけだが、多川が一佐でシエも一佐。んで、陸上科で久留米が二佐でリアッサが二佐。大見が三佐という感じになっている。
そこで、久留米のような優秀な幹部が、多川とシエよりも階級が下だというのも、なんともやりづらいと二人から意見が出たのである。各科の指揮権や隊員の士気にも影響が出ると。
そして、リアッサからは、大見が自分より階級が下なのに、頻繁に大見の参謀にならないといけないのも、どうにも体裁上具合が悪い。おまけに大見は精鋭部隊“八千矛”の指揮官でもあるから、自分と同じ階級にしてやってくれないかと意見が入った。
省内人事でも、言われてみれば確かにその意見はいえるということで、彼ら二人を一階級上げたという次第。
そして更には、良い機会だという事で、今後の事も含めて階級の呼称変更も通達された。
今まで各所属科の特性に合わせて……
海上宙間科=海佐・海尉
航空宙間科=空佐・空尉
陸上科=陸佐・陸尉
という感じで呼称されてきたのだが、近々に特危自衛隊が正式な自衛隊組織。しかもヤルバーン州―イゼイラ共和国と、日本との国際共同管理組織として体裁上運営されるので、別途独立した呼称が必要だという事で……
特危自衛隊=特士長・特曹・特尉・特佐・特将捕・特将
という呼称で統一される事となった。
そして、正式に元の所属。例えば大見なら、陸上自衛隊から特危自衛隊へ異動する事となる。
「いやぁ、お二人とも昇進おめでとうございます」
柏木がニコニコ顔で話す。
「ああ、しっかしここ何年も経っていないのに俺、三階級上がってるんだぞ……どうなってんだ? ハハ……」
大見が頭をかいて、苦笑い。
しかし彼の場合、それぐらいの成果は充分に出している。なんせシエさんと唯一サシでやれる自衛隊員でもあり、撃墜マーク回避者でもある。
「ああ、そうだな三……じゃなかった、二佐。私も一佐なんて……びっくるするやらなんやらだよ」
「久留米さんは既婚者さんでしたよね」
「ええ、そうですが」
「はは、んじゃ奥さん喜んでるんじゃないですか? お給料上がって」
「ええ!? あ~、まぁそれは、ははは……」
そんな話をしながら、さらに呼称の件へ。
「それと“特佐”だよなぁ……まぁ~特危だから“特佐”なんだろうけど、なーんか変なアニメみたいな呼称でこっぱずかしいな」
大見がこれまたボリボリと頭をかく。
「でもさ、特危自衛隊は、ヤルバーン州と日本の共同運営組織なんだ。場合によっちゃ、陸海空自衛隊を統括指揮する組織にもなる。で、今後自衛官の高みになる組織だしさ、“特佐”ってのも、いいんじゃないの?」
実際その通りである。実はこの特危自衛隊。所謂“二士”“一士”の階級がない。
一番下の階級は“士長”なのだ。更には陸海空自衛隊で技能資格を最低二つ以上取得することが必要とされ、レンジャー及び空挺資格者・パイロット資格者・艦艇長経験者は資格規定が免除され、優遇される。つまり、各陸海空自衛隊の精鋭でないと入隊できない。特危自衛隊へいきなりの任官はできないのである。
陸海空からの志願か、あとはスカウトか、安保委員会既定の指定企業に入社し、出向任官するしか任官方法がない精鋭組織なのだ。しかもシエやリアッサの例のように、今後は日本人だけではなく、ティ連人もどんどんと出向任官してくる組織になる。おそらく地球他国のどんな精鋭部隊よりも、入隊が難しい組織になっていくだろう。
大見でも、今、仮に陸自から志願しても、入隊できるかできないかわからないような組織になってしまった。
結局は彼も、ヤルバーン事件からこの件に関わってしまった因果で、今やこの特危自衛隊創設者の一人になってしまっていたりするのだ。
「……とま、俺も、お前ほどじゃないが、とんでもない感じになっちまったよな……俺、お前と同じ関芸大卒だぜ……久留米一佐は防大出だからわかるけどな……どうすんのよ……」
フっと苦笑し、そんな言葉を漏らす大見。
久留米も横で笑って聞いていた。
「ははは、柏木と大見に比べたら、俺なんざ一番普通だな」
白木が笑って二人を揶揄する……( お 前 が 言 う な )と思う柏木と大見。
「ということで、久留米彰・一等特佐と大見健・二等特佐、ドーラ・ヴァズラー対策の任務に就きます」
ピっと二人は柏木に敬礼。一応柏木は文民大臣様である。そのあたりは体裁を守らないといけない。
「はい、よろしくお願いします。総理や三島先生、井ノ崎大臣ものちほど来る予定ですから」
「了解です」
今回、久留米と大見は、この対ドーラ・ヴァズラー対策のために、ここ司令本部参謀として着任したのだ。
というのも作戦域が宇宙空間か空である。仮に地球にこられたとしても、日本領にでも落下しないかぎりは陸上科の出番はない。
ということで、二人は緊急の事態になるまでは、司令本部の参謀としてということで、このヤルバーン第一日本大使館にやってきた。
他、カグヤに残った陸上科スタッフは、リアッサ指揮のもと、航空宙間科と海上宙間科の作業を手伝っている。
『オツカレ様でス、皆様』
「ああ、フェル、お帰り」
『タダいまです……あ、ケラークルメ、ケラーオオミ。任務ご苦労様デス』
ティ連敬礼するフェル。ピっと敬礼の二人。フェルも今や日本の代議士様だ。
……ちなみに、この『代議士』という言葉。これは衆議院議員にしか使われない言葉である。参議院議員は代議士とは言わない。これマメ知識……
「で、どうだったフェル?」
『ハイ、ヤルバーン州軍の指揮システムとリンクする許可をゼルエ司令からもらってきましたヨ。もうすぐコードが届きます』
と言っているハナから、情報科の隊員がコードが送られてきた事を告げる。
そしてヤルバーン州防衛総省軍の司令システムとリンクさせた。
大型モニターには、いきなりシャルリ“中佐”の顔がバンと映る。
『やぁダイジンにケラーのみんな、オヒサだね。元気かい?』
「どもシャルリさん。貴女もご壮健そうで」
『まぁね、なんとかやってるヨ。お互い大変だね……で早速だけど、良い情報と、あんまり良くない報告が入ってるよ。どっち先に聞きたい?』
「私はおいしいものは後に残す主義でしてね、はは。では悪い方から」
『了~解。ついさっき遭遇した例のドーラ野郎だけど、残念ながら見失っちまった』
「次元溝ですか?」
『アア、よりによってウチのゼル技術でゼル端子作ってばら撒いてきたよ……でヤルバーン所属ヴァズラーの部品を一部持っていかれてね。コッチが後退したスキにドボンさ……』
その報告にフェルと柏木は、少し顔色が悪くなる……ティ連のゼル技術でゼル端子を作られる。こういう言い方は妥当ではないかもしれないが、相当に性能の良いものが作られるかもしれない。実際シャルリがいうには、かなりな数をまるで小型ミサイルのようにばら撒いてきたという。恐ろしい話だ。
「で、良い報告の方は?」
『ウン、ディスカールのパウルが、港湾建設作業をチョッチ中止して、今作戦に参加してくれるってよ。工作艦だけど、機動艦艇がもう一隻使えるのは有難いね』
「ほうそうですか、それは有難いですね。では警戒任務に就くことのできるコッチの艦船は……」
『カグヤだろ? パウルの第一工作艦ダロ? それとニヨッタが指揮するクラージェだ。で、カグヤはエフツーの運用があるから、大気圏内一〇〇〇〇めーとるで活動中。第一工作艦とニヨッタに宇宙へ出てもらうヨ』
柏木はウンウン頷いて了承する。
「わかりました、ありがとうございます」
『とりあえずはこんなとこさネ。んじゃ、コッチのデータベースもトッキサンで自由にアクセスしていいからサ。で、コッチもトッキサンとこのデータベース、使わせてもらうよ』
「了解です。さっそくの共同管理組織って奴ですね」
『ソウだね。あたしもできたらソッチに行きたいんだけど、ウチのオッサンが離してくんないからねぇ……』
そりゃそうだろと思う柏木。シャルリまでコッチきたら、誰がゼルエの参謀すんだよと。今、ヤルバーンでベテラン軍人っつったら、アンタしかいねーじゃねーかと。
と、そんな感じで、かような報告を聞くのも政治家の役目である。しかも柏木はこの防衛総省に関しては折衝担当大臣でもある。おまけにやりようによっては『特務大佐』権限を発動させることができる立場でもある。とはいえ、彼は軍人ではない。ましてや軍事作戦では素人だ。状況報告だけ聞いて、あとは久留米と大見、そして現場に当面はお任せである。
そんな話をしていると、二藤部達がこの臨時司令本部にやって来る。
二藤部や三島、井ノ崎らは軽く手を上げて挨拶し、既定の席へ。
柏木やフェル、久留米達もそれに倣い席へ着席する。そしてすぐに各部署からの報告を聞く二藤部。
「……わかりました。で、それら報告を聞いて柏木先生はどう考えます?」
「はい……どうもですね……ツッ……あまりこういう見解は言いたくはないのですが、宇宙での迎撃はキツイかもしれませんね」
柏木なりの率直なところをはっきりと話す。
その彼の考えを、二藤部は久留米や大見にも尋ね、プロの見解を聞いて裏を取る。
「ええ総理。私も概ね柏木さんに賛成です……今のままでは地球への侵入を許してしまう可能性は大いにあります……説明してくれるか? 二佐」
「わかりました」
大見に話を振る久留米。大見は鞄から資料を取り出し、二藤部達に渡す。
彼はここに来る前に、ヤルバーン州軍で、知り合いの将校連中と個人的に合って話を聞いていたのだそうだ。
資料を一瞥する二藤部達。柏木もその資料に目を通す。
「……結局のところ、やはりティ連の標準的なエネルギー系兵装の効果が思わしくないところが大きいですね。そして残念なことにヤルバーンには彼らに有効な『重力子兵器』をもとから持っていません。彼らは元々は政府所属の組織でしたので、当初は軍の運用をしていませんでしたからね。なので軍でしか使えないような兵器は元から持っていなかったわけで、ある意味仕方のないところではあるのですが……」
そして、ヤルバーン防衛総省。所謂ヤルバーン州軍が稼働して、軍用兵器で最新兵器でもあるディルフィルド魚雷運用の認可が下り、その製造造成データも送られてきたわけであるが、運用できる兵器がカグヤとメカツァーレこと旭龍しかないという始末。
あとは無理をして第一工作艦や、デロニカ・クラージェでも運用できるか? といったところ。
久留米の話では、そのドーラ・ヴァズラーが狙ってくる場所で、もっとも確率の高い場所は、ヤルバーンタワーの最突端部にある軌道ステーション部……かのヤルバーン州自治体化記念パーティが行われたユニット部だ……そこに狙いを定めてくる可能性が最も高いという。
そして、仮にヤルバーンの通信施設をスキャニングでもされ、ゼル造成で通信手段を構築されて、何らかの信号をクォル通信で一つでも飛ばされたら、その時点で負けである。
迎撃できても、それをされたら負けなのだ。
「……ということで、現在軌道ステーションユニット部には、ヤルバーン側も戦力を集中させています。かの、ディスカール工作艦もその近郊で待機してもらっています」
「久留米君よ、カグヤは宇宙に出てねーのかい?」
三島は、カグヤも宇宙に出せないのかと言いたいらしい。
「カグヤでは、F-2HMや、E-2C改といった大気圏内専用機の運用がありますから」
「ああ、そうか、なるほどな」
「はい。ですから高度一〇〇〇〇米で作戦任務にあたっています」
宇宙で運用するのもいいが、そっちの方が実はすごいのではないかと。
そして、井ノ崎からの報告で、各国軍関係者から急に福島から消えたカグヤと、地球衛星軌道上に待機するディスカール艦についての問い合わせが殺到したそうだが、井ノ崎は『ヤルバーン州化につき、先方最初の防衛演習だ』と応え、日本も連合加盟後、初のティエルクマスカ憲章下での共同軍事演習であると誤魔化し、とりあえずその場をしのいでいるという。
「はは、流石ですね井ノ崎先生。それが一番説得力あります。ヤルバーンだって大規模な軍事演習ぐらいやるんだぞと印象付けとけば、仮にドーラ・ヴァズラーが地球内に飛来し、日本のどこかに上陸しても、なんとか言い訳がたちます」
「ええ、柏木先生。でも苦肉の策ですけどね……仮に日本本土がドーラ・ヴァズラーとの戦闘で、戦場になったとしたら、やはり言い訳が立つかどうか……」
「日本が戦場ですか……あまり考えたくはありませんが……それでもまだ他国に飛び火するよりはマシでしょうけどね。あの国と、かの国にドーラが上陸した日にゃ、別の方向でトンデモなさすぎますし、ハハ……」
実際、今、日本政府特危自衛隊にヤルバーン州軍。火星派遣艦隊のみんなと、可能な限り最善の策をもってこの事態に対応している。
対探知偽装にゼルシミュレータ技術を応用した欺瞞工作。そしてジャミングと相当に秘匿技術を駆使してはいるものの、地球にかようなまでに接近されているかと考えると、おのずとやはり、その行動を訝しがって監視する他国は、違和感をもって日本の行動を見守る……
『何をやってんだ、こいつらは……』
そう思って然るべきな不自然さも段々と目立つようになってくる。
「……総理……」
「何でしょう柏木先生」
「やっぱり、全部が全部隠密裏に事を運ばせるという事は、もうここに至っては『無理』なのではないかと思いますが……」
「ええそうですね。私もそう思います」
「はい……でですね、マリヘイル議長の、例の件ですけど……ここで一発牽制で策を打った方がいいかもしれませんね」
「……ふむ……一体何を?」
「どのみちやんなきゃならない事なんでしょうが、早いうちに、ティ連連合議長、イゼイラ共和国議長らの来日と、日本の銀河連合加盟式典の開催を公開した方がいいのではないかと思いますが……」
すると三島が横から
「おいおいおい先生。それはいいけどよ、事は現在進行中なんだぜ? 今やるっつーわけにはいかねぇだろうよ」
「もちろんです三島先生。時を見て公表という感じですが……もし地球上で事が起こった場合の、ガーグ・デーラという存在の公表も、視野に入れておいた方がいいかもしれませんね……」
そういうとフェルもやむなしという顔で……
『ソうですね。現実に起こったことを、無かったことにするのハ至難の業でス。ニホン国やティ連加盟国は独裁国家ではありませン。そんな国なら起こったことを無理やり無き事にもできるのでしょうが、私達の国では無理でス……その時は、正直に事の詳細を公表した方がいいのかもしれません』
フェルも柏木の言葉に納得する。確かにそれもそうだ。最悪そういう事態も視野に入れておかなければならない。
二藤部達もコクリと頷く。
危機が起こる前に何とか事を阻止できれば、黙ってても許される場合もあるが、事がばれてしまってからではもうどうしようもない。
ならばその時は覚悟を決めるしかないわけである。
そこで連合加盟各国の船団がどういうタイミングで来るか、そのあたりも考えどころであるが……
「……と、そういう事も考えないとという感じだけど……一番いいのは、なんとか宇宙でケリつけてくれたらなぁ、と……せめて大気圏外ギリギリなら色々ハッタリかまして言い訳もできるんですけど……」
渋い顔して話す柏木大臣。フェルに二藤部、三島に諸氏。みなその言葉に納得でウンウン頷く……
ここ司令部でヤキモキしなければならないのが、なんとももどかしい。
今はカグヤ以下特危・ティ連防衛総省クルー、ヤルバーン州軍兵士達に任せるしかないのである……
………………………………
『敵機新型センサーにも反応せズ。依然行方不明。全部隊警戒せよ』
『了解。哨戒厳に。僅かな反応も見逃すなよ』
地球衛星軌道上。ヤルバーン州タワー最突端部、ヤルバーン軌道ステーション。
この近辺に現在カグヤの旭光Ⅱ隊にヴァズラー隊。ヤルバーン州軍のヴァズラー隊が集結していた。
いかんせんこの高度。件の『ISS』からも丸見えなので、恐らくISSクルー達は、この異常な数の、機動兵器集結な状態に、何があったのかという感じである。
一応日本政府とヤルバーン州からは、日本が連合加盟を行ってから初になる、連合の規定に則った防衛演習の一環である……という話をISSクルーも聞かされてはいた。
聞いてはいるが、いざそれを目の当たりにすると……金を払っても観たいという、そんな壮観な風景が眼前に広がる。
日本からグングン伸びて大気圏を貫き、ISSの軌道よりも高い場所にある塔の突端部。
そこに集結する機動兵器に大型機や艦艇。
SF映画ではよくある風景だが、それが目の前にドカンとできれば、どんな感じか……まさか宇宙規模の『演習』を見せられるとは、このISSクルーも色々思うところがあるに違いない。
さて、そんな感じな地球軌道上。
ここでノコノコ奴が現れた日にゃ、全員で一斉攻撃で粉微塵にでもしてやろうかという勢いである。
ただ、彼らには一抹の不安があった。それは……
『コちら、ヤルバーン州軍ヴァズラー・ふぉっくすろっと。トッキ旭光Ⅱでるた。そちらの探知機はどうダ?』
『コチラ特危でるた……全ク反応ガナイナ。ドウイウコトダ? コレハ、ティ連デ効果ガアッタトイウモノデハナイノカ?』
カグヤに搭載される旭光Ⅱ単座型“デルタ”を駆るは、陸上科のリアッサであった。
空間機動戦闘経験のあるパイロットが特危の日本人では多川しかいないので、ここはリアッサも旭光Ⅱに搭乗して、航空宙間科の助太刀に回っていた。
警戒にあたる特危の旭光Ⅱとヤルバーン州軍ヴァズラー。
特危自衛隊……自衛隊という呼称の組織初、日本領外での兵器運用である。但し特危は件の日ヤ協定下及び連合憲章下では、ヤルバーンとの共闘ができるので、法的には問題ない……ということにしている。
『アア、そういう話なんだガ……』
ティエルクマスカ連合防衛総省から送られてきた、対ガーグ・デーラ次元溝探知装置。
しかし、もう恐らくそこまで接近しているかもしれないのに、まったくこのセンサーに反応がない。
『……マサカ……ナ……』
リアッサが一抹の不安を覚える。その不安とは……
『パウル、キコエルカ?』
『ええ、聞こえるわリアッサ。何かしら?』
同じく衛星軌道上でヤルバーンタワー防衛の任に就くディスカール第一工作艦艦長のパウル・ラズ・シャーが応答。
『工兵部隊デ慣ラシタ、オマエトイウ事デ尋ネタイノダガ』
『何よリアッサ。改まって……』
『ウム、モシコノ、ドーラ・ヴァズラーガ、次元溝デ、我々ノ対探知偽装ヲツカエバ……ドウナルトオモウ?』
『エ?……そ、それは……そ、そうか!』
『アア、ソウダ。奴ハ我々ノゼル技術ヲ使エルトイウコトハ、ソウイウ事モデキルハズダ。ソシテ、次元溝デ対探知偽装ヲ使ッタ前例ナドナイ……』
そうリアッサが説明すると、彼女は即座に全域通信に切り替えて……
『コチラ“トッキジエイタイ・旭光Ⅱでるた”リアッサ・ジンム・メッサダ。宙域全機ニ通達。敵ドーラ探索ヲ新型センサーニ頼ルナ。敵ハ次元溝デ我ガ軍ノ対探知偽装ヲ使用シテイル可能性ガアル。可能ナ限リ、オノレノ眼デ確カメロ。クリ返ス。宙域全機ニ…………』
さすがはリアッサである。シエの副官は伊達にやっていない。即座にそんな発想を考え、その可能性を探る。確かに普通に考えれば、次元溝というそれでなくても探知がややこしく難しい場所で、ティ連科学ご自慢の、高度な探知偽装なんぞをかけられたら、そりゃ発見しにくくなるぞと。
敵は敵で、敵の主観で自分達よりも性能の良いゼル技術をフル活用させてもらおうという腹だ。そんな機能の解析も、ドーラならとっくにやっているだろう。
こっちが新型センサーを持っているからというわけではないだろうが、向こうは向こうで似たような状況にあるという事でもある。
リアッサの機転で、かような通達を宙域部隊に出す。
軌道ステーションで待ち構えていた機動兵器部隊は、更なる活発な動きを見せる。目で見ろとなれば、その場にずっと留まっていても仕方がない。
『おい、あのデロニカは?』
『所属は……カグヤだな……哨戒タイプかな?』
『ここは最前線になるかもしれないんだぞ。下がらせた方がいいんじゃないのか?』
『いや、あのデロニカ、正規であの場所に配置になってる……よくわからんが、本部で何か考えあってやってるんだろ?』
戦闘用ヴァズラーが待ち構える軌道ステーション最前線宙域に、ポツンと哨戒仕様のデロニカ一機。
何を考えてあんなところに非武装マシンを浮かばせておくのか、よくわからんと不思議がるパイロット達。
この地球衛星軌道上……地上から400キロメートル以上離れた宇宙空間。
各国の衛星や、ISSのような有人ステーションが飛ぶこの場所で、かように賑やかな機動兵器の狂宴が繰り広げられている構図。
これは演習と公表してはいるが、どんな演習なんだとISSクルーも固唾をのんで見守る。
そしてそんなISSを対探知偽装をかけたヴァルメが並走し、守っている。それに気づかないクルー達。さもあらん、ドーラ・ヴァズラーは、こんなISSも役に立つと思えば、襲いかねない。それだけは避けなければならない。
そして……その時はやってくる……
ヤルバーン州最突端部。軌道ステーション臨時発令所から宙域各機に緊急伝が飛ぶ。
『空間歪曲航跡反応確認! きたぞ!!』
その探知距離に、リアッサは『ヤハリカ!』と思わず大声で漏らす。
あまりに反応が近すぎるからだ。これはあきらかに次元溝で対探知偽装をかけていたに違いないと予想される反応だ……
敵ドーラ・ヴァズラーは、軌道ステーションから西方数十キロ地点に、次元溝を開口させた。
そのサマは、まるでアリジゴクの巣のごとく大きな円錐状の歪みを作り、大きな大きな隕石型物体となって、その中心部から飛び出してきた!
そのスピード。開口してから、言葉度通り瞬間の速さ。
ボンッ!というような擬音がでそうな感じで、まるで火山の火口部から飛び出した噴石の如く、すさまじいスピードで、一直線に軌道ステーションに突っ込んでくる。
電光石火で取りつこうとでも言う腹なのだろうか?
それよりもリアッサは、そのドーラ・ヴァズラーの大きさに意表を突かれた。
当初の大きさよりも、ずっと大きくなっていたからだ。そのサイズ、直径50メートルぐらいの隕石状……隕石状でありながらも、岩塊の隙間からはメカの光がチラと灯る。
『全機、攻撃! 撃て撃て撃て!!』
『遠慮スルナ! アリッタケヲブチ込メ!』
各旭光Ⅱにヴァズラー。機動形態に変更して手持ちの武装のありったけを発射する。
粒子速射砲に超電磁投射砲。重機関砲に粒子反応ポッド。
その火砲の火戦、軌道空間に舞う。
それまでの地球ではありえない光景。
未来科学兵器のいつか来る日。
その光景が、今そこで起こる。
ISSクルーは、その様子を唖然として見守り、彼らの経験にない、その普通ではない光景に美しさすら感じていた。
……世間では、銀河連合が宇宙空間で、デブリや隕石等々の排除という、地球世界全体の利益にもなる演習であるという名目で、本来なら国連宇宙条約の『宇宙空間での武力行使の禁止』規定に違反するところであるが、そういった公共の利益という形で、今回の『演習』をデッチあげている。
そもそもティエルクマスカ連合は、そんな宇宙条約に加盟なんざしていない。んなもん知ったこっちゃねーよという話が大前提としてある。
それに世界も、その銃口が自国にむけられていないのであれば、あえて黙認するという形でダンマリを今のところは決め込んでいた。
しかし、ISSクルーは、いきなり空間が思いっきり歪んで、、そこから飛び出してきたメチャクソデカイ隕石に、ヤルバーンと特危……無論ISSクルーは、特危とはしらないわけであるが……が総攻撃を食らわす様子には、流石に理解の範疇を超えていたみたいではあるが……
ドーラ・ヴァズラーの主観で見れば、もし奴が言葉をしゃべれるならば……
『地球よ、私は帰ってきた!』
ってな感じで突貫してきたコノ野郎。ってか、別に帰ってきたわけではないのだが……
リアッサ達防衛部隊は、ものすごい勢いで突っ込んでくるドーラに、ありったけの武器弾薬をブチ込むが、このドーラを阻止できない。
やはりというか何というか、ティ連ゼル技術を得たせいだろうか、エネルギー系兵器に対して通常のドーラよりもさらにその部分をパワーアップさせており、物理兵器に対しても、更に岩塊を身にまとって大型化してやってきていた。これも先の戦闘で、この『岩塊』という鎧が物理兵器に有効だと学習したのだろうか、どこかでまたデブリを拾っては体にくっつけてきたようだ。しかも先の戦闘で廃棄されたヴァズラーの部品も有効活用している。更には、何か人工的なデブリもたくさん取り込んでいるようであった。
『クッ、一体ドウナッテイルノダ!』
すると、このドーラ。次にあろうことか、大量のゼル端子をミサイル状にして無数に発射してきた!
『ナッ! クソッ!』
リアッサはそのミサイル状ゼル端子を旭光ⅡのM230や粒子ブラスターで迎撃する。
他のヴァズラーも同じく。しかし、端子が命中し、浸食行為を受けた者もいたようだ。
すぐさまそのパーツをパージし、別の機体が破壊する。
このドーラ・ヴァズラーの行為に、一瞬迎撃部隊はたじろぎ、スキを生んだ。
そのスキに、さらに加速し軌道ステーションへ突っ込むドーラ。
『やらせるかぁぁぁぁぁ!!』
その叫び声とともに、ドーラの行く手を阻むは、パウルの工作艦だった。
シールドを全開にして最大戦速で七〇〇メートルの船体を壁にドーラの進撃を阻む。
更にゼル端子をばら撒くドーラ。しかし……
『その手は食わないわっ! 工兵部隊をナメるなっ! 対ゼル端子デコイ発射っ!』
『対ゼル端子デコイ発射しまス!』
パウルは粒子反応ポッドに、ティ連機動マシンの稼働空間振動周波数を発生させるシステムを組み込んだデコイをポポポっと大量に艦外へばら撒く。
すると、そのゼル端子ミサイルとでもいうべき物体は、そのポッドを追尾し始め、吸い寄せられるようにポッドをゼル浸食する……すると浸食反応を探知したポッドは即座に爆発。ゼル端子を道連れに木端に吹っ飛ぶ。
『ハハハハッ! どうだぁ! 私にそんなものは効かなぁーーーい!』
笹穂耳をピコピコさせて得意げにブハハと笑うパウル。
そして更に、そのご自慢の船をドーラ・ヴァズラーへ体当たりしてぶつける。
シールドとシールドが干渉し、火花とも何ともつかないエネルギー的な干渉波動が大きく発生する。
片や七〇〇メートル。片や五〇メートル程度の物体が、互いにシールド干渉してぶつかれば、ドーラは軽く吹き飛ばされる……と思いきや、ドーラは岩塊から触手状の端子をビロビロ伸ばして工作艦のシールドにとりつき、シールドを浸食して工作艦へ取りつこうとしていた……このドーラの元は、おそらく対艦ドーラだ。対艦ドーラならソノ手の行為はお手の物である。
『フフフッ! やはりそう来たわねっ!……シエ! カーシェルタガワ! 出番ヨっ!』
パウルはドーラを大型VMCモニターで睨み付け、大きな声でそう叫ぶ。
『了解シタ、パウル。ゴクロウダ』
『パウル艦長、今、そのうっとおしいクソ野郎をひっぺがしてやるぜ!』
どこからかそう答える声。シエと多川だ。
そして、パウルの船にこびりついたドーラへ突っ込む……さっきウロウロとウロついていた哨戒デロニカ。
『オイ! あのデロニカどこのバカだ! あんなので突っ込んでも餌食になるだけだろっ!』
『誰か止めろっ!』
すると、そのデロニカから発せられる声
『心配イラン。任セロ!』
『そういうこと、いくぞシエ!』
『合点ダ、イケ! シン!』
急加速するデロニカ。そのデロニカがものすごいスピードで接近するのを察知したドーラ・ヴァズラーは、良い獲物がきたとばかりに、ゼル端子ミサイルをデロニカめがけて発射する……が……
ゼル端子ミサイルは、デロニカに近づく前にことごとく迎撃され、木端に吹っ飛ぶ。
そして……そのデロニカ。まるで地デジテレビの映像受信不良のようにその形を崩し、わけのわからない形状になったかと思うと、ピカっと光り輝き、その中から姿を現したのは……
XAFV-Type15・試製15式多目的機動兵器『旭龍』ことマージェンツァーレ……メカツァーレだった!
頭部口腔型ターレットがキシャァ! と言いたげに大きく開き、そこから強力なパルスレーザーがバババと発射される。
頭部両側面からは、二挺の12.7ミリ同軸機銃が牽制に火を噴く。
更に左右掌部をガバっと開き、その中央からM230チェーンガンに粒子ブラスター砲を乱射しつつ敵ドーラに機動形態で猛然と突っ込む15式旭龍。
敵はパルスレーザで焼かれ熱せられた岩塊の上から、12.7ミリにM230の三〇ミリ機関砲弾。更には粒子ブラスターを最接近状態で浴びて、その隕石な鎧を噴き飛ばす。
『シエ! 飛び道具の制御は任せろ! 腕部は預ける。このまま機動形態でいけっ!』
『了解ダ、シン! コノクソ野郎! 食ラエエエッ!』
旭龍は脚部に物理シールドを集中させ、ドーラ・ヴァズラーへ慣性の勢いにまかせた猛烈なシールドキックをぶちかます。
『クゥゥゥゥゥッ!!』
『うぉぉぉぉぁぁっ!!』
機動兵器で肉弾戦。しかも相手は猛烈な防御能力を身につけたドーラ。
機体の衝撃は、可能な限り諸々システムが働いて緩和されるが、それでも相応の形で二人に知覚感覚的に、伝わってしまう。
その衝撃。相応の威力はあり、ドーラはパウルの船に取りついたゼル造成な触手をブチブチと引きちぎって、宇宙空間へ放り出される。
眼の前に突っ込んできた御しやすい相手、デロニカを食ってやろうとしたら、いきなり見たこともない強烈な戦闘兵器に変化した……ドーラ・ヴァズラーはその行動制御システム上で、明らかに狼狽した処理を見せる……奴的に見たこともないこの異様な形状の戦闘メカに最大級の警戒処理を見せるドーラ。
そして、ついにドーラ・ヴァズラーは、ただの隕石か岩石かの石くれ状の物体から、その正体を見せ始めた。
まるでザクロか何かが割けるように、その岩石状の物体は、グワっと不気味な花弁が花を咲かせるように、六肢に開く。
対艦ドーラの完成型は四肢だ。しかし、取り込んだヴァズラーの脚部もドーラ自身が改造融合し、自らの本来の姿に、二肢付け加えた……いや、ヴァズラー部の上翼部にある、今やこの本体と比較すれば小さいマニピュレータも入れれば八肢になるか。
完全にヴァズラー・アウルド1だった物体の本体は、ドーラコアと一体化し、完全に奴の『モノ』となってしまっている……不気味な、全く計画性のない設計のようなその配線構造にフレームのつながり方。有機的に見えるが、完全に無機的構造。そんな対人ドーラのような対艦ドーラが目前にいる。
そう、考えればある意味、最強の仮想生命体兵器ガーグ・デーラ・ドーラがここにいるわけだ。
そしてこのドーラ、その異様な姿にまるでピリリと効いたスパイスの如く、多川の眼をこすらせるような異様……ではなく、異常な物体、いや、デブリを体に張り付けていた。
「あ、ありゃ、槌とカマで、赤い星……ソ、ソ連の廃棄衛星くっつけてんのか!?」
ガバっと不気味な人食い花の如く、全長五〇メートルまでに進化したこのクソ野郎は、どこから拾ってきたのか、旧ソ連邦の人工衛星……おそらく軍事衛星のなれの果てな漂流物をその体にくっつけていた。
しかもそれだけではない。星条旗の旗も見える……「どこから拾ってきたんだよオイ」……と、苦笑する多川。そして彼は地球人として、トドメのような、ファンタジックなマークも、そのドーラの体に垣間見る……
「ハ……ハーケンクロイツぅ!?? カギ十字だと!? お、おまっ! どこからそんなもの拾ってきたんだよっ!」
『ドウシタシン。アノ曲ガッタ交差マークガ、何カアルノカ?』
「ああ、シエ。詳しいことは後で話してやるよ。ってか、フェルさんならもう知ってるんじゃねーか?」
『フェルガカ? トイウコトハ、チキュウノ歴史ニ関スルコトカ』
「まぁそんなとこだ。あまり有難くないマークだな……あんなのどこから……それがアイツにくっついてって……あれじゃまるでオカルトネタじゃねーかよ……」
……第二次世界大戦中、かの有名なロケットの父、フォンブラウン博士の造ったナチスドイツの強力な兵器。世界初の弾道ミサイル『V2』ロケット兵器。この兵器は、地球世界で初めて大気圏外を突破した機械だと言われている。
そしてこの技術を終戦後、戦勝国各国は欲しがった。
当時、旧ソ連もこのV2生産施設を接収し、捕虜にした当時のドイツ人技師らを使って色々と実験したという記録も実際残っている。
恐らくは、そんな極秘裏に実験を繰り返した、歴史の資料に残らない、当時の黒い軍事開発史の一ページを、このドーラが自分の体に張り付けているのだろう。それ以外に考えようがなかった。
「おい、クソドーラ……お前、宇宙でお宝ハンターに職変えしろよ……絶対そっちのほうがいいって……」
『ナニヲ言ッテイルノダ、シン』
「あ、あはは、いやいや、独り言だよ、ククク、コッチの話。いやいや」
多川もさすがにこの状況で、眼前にいるドーラの異様さを見ればハイにもなる。
相手の知らぬ事とはいえ、この悪食さには多川ですら少し引いてしまいそうになるほどだ。
『ダーリン、キヲヌクナ。クルゾ!』
「ダーリンって……おわぁっ!」
機動形態操縦担当はシエ。
ドーラは、大きな六肢の先に、エネルギー兵器を造成し、バシバシとビームを放ってくる。その中には先のフェイザーの不気味な一閃も交じっていた。
だが、シエもその攻撃を軽々と予測し、半マスタースレイブ方式な操縦でクンクンと躱す。
その抽象的かつ洗練された、ドラゴン的シルエットで海洋迷彩色のマシンは、いかめしい図体に似合わず、シエの操縦センスで華麗な機動を見せる。
シエは両腕脚部と尾部の武装制御を独占し、多川は頭部やその他の武装をガンナーとして制御する。
シエが攻撃するタイミングの合間を計算し、多川は頭部パルスレーザーに股間部の大型超電磁投射砲の照準を定めてぶっ放す。
そのサマは、全身から焔を放ち、踊り狂う獣の如し。さしものドーラ・ヴァズラーもシエ達の動きには追いつけない。
そして更には、大昔のイゼイラ人が生んだ英知と、現代のティ連技術と、日本のヲタ……いや、特異で柔軟な、宇宙に誇る奇抜な発想が生んだその兵器の機動性には、いくら頑丈でヴァズラーを取り込み、改造しまくったドーラ・ヴァズラーとはいえ、その洗練さで既に負けているような感じであった。
ただ……
「クッ……あんだけブチ込んでもまだへこたれねーかよ」
『フゥ……確カニ。コレハ相当ダゾ……流石トハイイタクハナイガ、仮想生命体兵器ノ恐ロシサ、ココニアリトイッタ感ジダナ……』
シエの言う通り。忘れてはいけないのが、このドーラ・ヴァズラー。仮想生命体兵器なのだ。
即ち、かのシレイラ号事件での対人ドーラと理屈は同じ。コアを叩かない事にはいくらでも再生してくるのだ。
今でも旭龍は相当な一斉射を加え、ドーラ・ヴァズラーの岩盤装甲やらなんやらと吹っ飛ばして見せるが、こやつはその吹き飛ばされた残骸をすぐさま引き寄せてモクズガニのように自分の体にくっつけて体を再生させる……やはりコイツを叩くには、コアを必殺の一撃でブチ抜くしかないのである。
今、ドーラ・ヴァズラーは、その周囲のデブリをまた引き寄せて本体を再構築中。今ここで攻撃しても全開のシールドで、エネルギー兵器は有効ではないだろう。物理攻撃も、元のヴァズラーが搭載した事象可変シールドで弾きかえしてくる可能性が無きにしもあらず。
「……こいつぁ、柏木さんのレポートの通りだな……やはりあの取り込んだヴァズラーの本体に巣食っているコアをつぶさないと、いつまでもイタチごっこだぞ」
『……』
「?……シエ、どうした?」
『シン……ヤルバーン州軌道ステーションカラ、大分離レテシマッタナ』
シエが放った必殺旭龍キックから怒涛のラッシュで、軌道ステーションからは相当な距離へと引き離した。
「ああ、確かに……何かマズイのか? シエ」
『アア……コレダケ離レルト、コイツハマタ次元溝二潜リカネン。ココデマタ次元溝ニ入リ込マレルノモ癪ナ話ダ』
「なるほどね。で、何か良い考えでもあるのか?」
『……』
しばし沈黙のシエ。目を細め、あたりを見回し何かを考える。
彼女はドーラ・ヴァズラーが本体を再構築する間、あえて攻撃せずにその間を考える時間に割いた。
どうせ今攻撃をしても、また再生されるだけなので同じことである。そして次元溝に逃げ込まれたら元も子もない。
『シン……ココハチキュウノ、ドノ上空アタリダ?』
「今はアラビア半島上空だ。とはいえ、そんなの今だけだがな。で、どうする?」
『フム……シン。私ハ、アヤツト地上デ、決着ヲツケタライイトオモウ』
「ええええ!? 地上って、地球上でか!」
『アア。別ニ酔狂デイッテイルノデハナイゾ。理由ハアル』
「ああ、教えてくれシエ」
シエが言うには、ガーグ・デーラ兵器で、次元溝に沈む能力を持つモノ……ドーラ母艦に、いまここにいるドーラ・ヴァズラーだが、フェルも先に言った通り、ドーラ母艦は大気圏内で次元溝に沈んだという記録がない。
フェルは調査局員として、漠然と一般的に言われている知識以上の事は知らなかったが、シエはこれでも連合防衛総省の佐官でエリート部隊指揮者だ。フェル以上の軍機レベルでその予測される理由を知っている。それは……
『……トイウ事デナ。ドウモ重力ヤ、地磁気か、大気ノアリヨウ等、ソウイッタ影響ガ、奴ラノ持ツ何カノシステムヲ阻害シテ転移デキナイノデハナイカト予想サレテイル』
「おいおいおいちょっと待てよ……それじゃぁ、今の状況、あのドーラ野郎をどっかの国へ引きずり降ろせって言っているように聞こえるのですが、どうでしょうか?」
『ぴんぽん~』
「いやぁ~~……そりゃダメっしょシエさぁん……わざわざ『日本人は、異星のヤバイ連中を知っています』って世界へ宣伝するようなもんだぞぉ。それに憲法9条もあるんだぜ、9条9条」
『特危ハ、キュウジョウトヤラハ関係ナイダロ。ヤルバーンモ運営主体ナノダゾ? イザトナレバヤルバーンガ全部ヤッタッテ事ニシテオケバイイ』
「んじゃ『宣伝』しちまうのはどうすんだよぅ」
『チキュウノ諺ニモアルデハナイカ……『コノハヲ隠スニハ森ノ中。死体ヲ隠スニハ、死体ノ山ヲツクレバイイ……デハ、戦闘ヲスルノナラ、元カラ戦ッテイルトコロデヤレバイイノダ。今、オアツラエムキナ場所ノ上空ダロウ、ダーリン』
「ほえ?……」
愛するシエがそういうと、多川は眼下に見えるアラビア半島に視線を送る。
そして、今、あえて再生するのを待ってやっているドーラ・ヴァズラーに視線をおくる……
「シエ先生、本気でございますか?」
『アア。イイジャナイカ、アノアタリニコイツヲ突ッ込マセレバ、コノ地球デモ手ヲ焼イテイル、ドゥス共モ道連レニシテクレルゾ、ドーラ・ヴァズラーサマハ……コチラモソンナゴミ共ヲ気ニセズ、戦エル。フフフフ……』
ダストール人はこういうところが狡猾で計算高い。思わず首を横に振る多川。こりゃ下手したら自衛隊クビ覚悟だなと。
しかし、こいつとそう長い時間遊んでいるわけにもいかない。確実に抹殺しなければならないのは絶対だ……そういうとシエは……
『心配スルナ、シン。ジエイタイヲクビニナッテモ、シンナラ、連合防衛総省ガ総出デ、ジェルダー階級引ッサゲテ、スカウトニ来ル。ソウナレバ私モジェルダーノ妻ダ。鼻ガ高イゾ』
「ハハハ! はいはいわかりましたよ。そうか、そりゃいいな。よっしゃ覚悟決めるか……あ、ただ流石に報告ナシでというのは問題がある……そうだなぁ……ドーラが地球に侵入。追撃するって体裁にして連絡入れてくれ」
『了解ダ。デハ、コイツヲ地上ヘ叩き落トサナケリャイカンワケダガ』
「そこは俺の出番だろ。巡航モードでコイツをトラクターフィールドに包んで引きずり降ろしてやる」
『ヨシ、デハタノムゾ。ゆーはぶ』
「アイハブだ」
パンと頬に両手を当てて気合を入れなおす多川。
シエも掌に拳を当てて、舌なめずり。その挙動に合わせて旭龍も拳を掌へあてる。
聞こえてくるBGMは、クラッシュアンドバーンなジョックスか、はたまた環太平洋なテーマを第二段でいくか?
シエは再生復帰寸前のドーラ・ヴァズラーへトラクターフィールドを照射。即座に彼女は多川へコントロールを返す。
彼は空間振動波エンジンをフル稼働させ、旭龍半可変巡航形態へ……ドーラの頭を超えて加速し、一旦距離を置く。
一撃離脱の距離を置いた多川はドーラに照準を合わせ、フィールドで捕縛したヤツを更に弱らせようと試製14式機対機誘導弾を数発発射。
ドーラの岩塊をさらに吹き飛ばすが、コアには届かず……コアは屈強なティ連シールドに守られ、通常のドーラなんぞ比較にならないタフさをみせつける。
すると、ドーラの後方から人工物体が接近……
『ナンダ? アレハ……』
「くっ、マズいな。どっかの国の人工衛星だ」
その通り。その衛星には『esa』のマーク。欧州宇宙機関の衛星だ。
ドーラの悪食は、その近寄ってきた衛星にゼル端子触手を伸ばす。
「うわ、マズっ! あれ食われたらチョンバレじゃねーかよ。演習なんて言い訳できねーぞ!」
するとその端子は衛星に伸びる前に、途中で寸断される……寸断された場所からモワっと何かの映像が浮かび上がる。
その姿、対探知偽装を解いたXFAV-01『旭光Ⅱ』・リアッサだ。
『シエ、タガワ。何ヲイツマデ遊ンデイル。早クイケ!』
リアッサに率いられたヤルバーン州軍ヴァズラーも数機。シエが大気圏内に『追撃という名目』で、ドーラごと地球に突っ込むと各部隊に連絡を入れたので、応援にやってきたのだ。
「よっしゃ! んじゃいくぞシエ」
『了解!』
多川は旭龍に猛烈な加速をかける。
すると、急に加速のGをかけられたドーラは、再構成中のがらくたをぶちまけ置いて、旭龍のトラクターフィールドに引っ張られる。
危険を察したドーラ。即座に次元溝へ潜航するシステムを起動するが……
『フフフフフ! モウオソイ! 貴様ハコレデニゲラレン。ユックリイタブッテヤルカラ覚悟シロ。クックックック……』
その不気味なハイ状態のシエに、ちょっち苦笑いな多川。これが将来のヨメ候補である。
大気圏に突入した旭龍。シールドと推進方法の関係で加熱現象は起きないが、後ろで引っ張られるドーラは赤々と岩石部分を熱していた。
ヤツもシールドを張り、それでも幾分かは体を守れていたので、岩石部が燃え尽きることは避けられたようだ。
しかし、シエの言った通り、大気圏に突入した途端、ドーラは次元溝に潜航できなくなった。
一瞬歪んだ空間もすぐ元に戻り、大気圏を抜けて尾を引いて、一直線に狙い定めた場所へ突っ込んでいく。
旭龍は大気圏を通常巡航に入った瞬間、対探知偽装をかけた。
今、客観的には隕石状のドーラのみが降下してきているような感じである……かのロシアに落ちた隕石のように……
………………………………
地球……アラビア半島。
イラクとシリアの国境を接する場所。イラク共和国のタッル・アファル近郊。
このあたりは、広大な砂漠が広がり、地名の付いた場所というものはさほどなく、砂漠のオアシスのように、ポツンポツンと町があるような感じで、そこを幹線道路が繋いでいるというような場所だ。
そのとある町の人々は、現在激動の中にいた。
これは現在の地球が、ヤルバーンの飛来以降抱える問題。原理主義過激派テロリストの大規模な勢力拡大問題だ。
そのテロリストは国家を騙り、この地域。そしてイラクにシリアをまたぐ周辺国家を次々と制圧していく。
こんな連中をなぜのさばらせてしまったか。これも結局は現在の米国内向き政策のツケである。
……かつてソ連が崩壊したとき、世は冷戦の終結を喜び、人々は東西関係なく核の恐怖に怯えることのない平和な世界が到来すると喜んだ。
ところがぎっちょん。ソ連という大きなボスを失った東欧諸国は、イデオロギーが衰退を見せた代わりに、ナショナリズムが幅を利かせ、民族対立という戦いの構図を生み出して、昨日まで同じ町で同じスーパーに通っていたご近所同士が殺し合いを始めるという、もう救いようのない思考と行動を起こしたりする。
これも結局、ソ連という大ボスが眼光光らせていた「血の規律」が崩壊したために、程度の知らないバカが起こしたもめごとなわけである。
此度の、かような国家を騙るテロリストの行動も同じ。
9.11以降の、米国の容赦ないテロ弾圧。その後の経済問題で、世界の警察をやめた米国。自由と民主主義を世界に広めることをやめた米国。
かつてこれらの国を支配していた独裁者達は、結局のところ『大国の造った敵』であり、大国の都合の良い敵であった。なので、言ってみれば見世物プロレスのヒール(悪役)のような連中が支配していたのが、少し前の中東のややこしい国々であった。
しかし、米国が世界の警察を辞めてしまい、タガがはずれた積もり積もった結果が、かような無法地帯となったこの地域の惨状である。
そこに『アラブの春』などといわれる後先考えない若者達の、うかつなネットでの行動も、長い目で見れば引き金になっているともいえるだろう。
彼ら若者が求めた民主主義は弱い……これは先に語られた『善は悪に対等では絶対に勝てない』という理屈そのものである。
その弱さに付け込んで、暴力で勢力を伸ばしたのが、このエセテロ国家だ。
そんな今の時代の、今の中東。そしてこの場所……
この町では、ヤルバーンの飛来以降に登場した、ヤルバーンのティ連人を、彼らの信じる神の使徒と仰ぐ『使徒派』と呼ばれる新興宗派と、先のクソテロエセ国家な連中と、激しい戦いが繰り広げられていた。
比較的理性のある部族長が支配するこの地域では、今猛威を振るうこのエセ連中との戦いに、かろうじて持ちこたえていたのではあるが、いかんせん新興宗派であるため、他宗派からは異端扱いされ本国中央の支援も期待できない。
確かに『風前の灯』という言葉も頭によぎる。そんな状況だった。
そんな時、エセ国家と戦うある使徒派戦士が、雲一つない突き抜けるような空を見て叫ぶ。
「أن ما هو عليه!」
あれは何だというような視線を、空を指さし大声で皆に叫ぶ。
何だ? 隕石か? 彼らが神の戦士だとはいえ、隕石が何かぐらいは流石にわかる。そこまでバカではない。
すると、その物体はみるみるうちに地上へ接近し…………ドォォォォォォォン!!と地響き鳴らして地上に激突した。
その時、何か大きなモヤッとした透明の物体も、急降下から急上昇したように感じたが気のせいか?
そのサマ。まるで核爆弾でも爆発したかのように、クソバカでかい土煙をあげ、キノコ雲にはさすがにならなかったが、それでも火山の大爆発のごとく、砂漠の砂を空高く舞い上がらせた。
そして、その正体不明の落下物体は、今戦っていたエセ国家戦闘部隊のいくつかを巻き添えにして吹き飛ばし、彼ら使徒派の戦闘にひと段落つかせてくれたのも確かであった。
……しかし、彼らの悪夢はここからだった……
その砂煙が濃度を薄くし、段々と世の情景を露わにし始めた。
そこで彼ら使徒波の戦士達が見たもの。
「يا ......... يا ......... يا ............」
あ……と言葉を失い、そいつを見る。
その姿……
中心に異様な鎧の彫像を抱いた、六枝の不規則なデザインで直立する身長五〇メートル強の巨大な物体。ヒトデともクモともつかない形容詞な、その機械の物体には更に彼らの目を疑うマークがデカデカと張り付けられていた。
そのマーク。米国にソ連。ロシアに中国の国章。そして更には……ハーケンクロイツ……
わが目を疑う使徒派の戦士。しかし彼の見た恐怖は、そんなものでは済まない。
その凶悪な姿である『機械の悪魔』は、体から、何やらケーブル状のものを伸ばして、近くに転がっていたT-55戦車やBMP-1歩兵戦車。トヨハラのランクルを改造した簡易装甲車を捕まえて、自分の体に融合させていった……アワワワとなる目撃者。鼻水が出ているのにも気づかない。
それだけではない。その悪魔が、何かをピピピっと飛ばすと、近くで狼狽しつつも銃を乱射し、戦っている敵のエセ国家派の兵士に命中し……その兵士が、機械の配線と端子に見る間に埋め尽くされて、化け物に変化していった。
そんな阿鼻叫喚な光景が、見る間に拡大し、展開していく。
目撃した戦士は、もうチビリそうだった……そして彼にも危機が迫る。
チカチカと音が鳴り、その方向を見ると、何か虫のような機械がワラワラとやってくる。
隣にいた仲間の男がそれを払うが、払ったとたん手にまとわりついて、見る間に機械はその男の肉に食い込み、端子に配線が体を支配する……悲鳴を上げつつ、ころげまわる仲間。
目撃した戦士は、もう半泣きで一目散に逃げた。部族長に報告しかなかった。
一目散に逃げる目撃者。
周りを見ると他の仲間も同様に、現在の状況が飲み込めず、狼狽し、逃げ惑っていた。
周囲には、配線を纏った異様な化け物……確か西洋に『ゾンビ』とかいう禍々しい化け物がいたが、そんなものに変わり果てた敵の兵士が悲鳴や嗚咽を上げながら襲い掛かってくる。
しかも、敵のエセ国家兵士は、味方にまで襲い掛かっているのだ……向こうで同士撃ちで倒れた敵が見えた……どうも白人のようだ。外国人兵士のようである。
そんな信じられない恐怖な状況。
今まで自分達が信じていた神は、こんな奴の事を教えてはくれなかった……これなら彼らの信じる経典に書かれている悪しき存在のほうがまだマシだ。
すると、逃げ惑う彼らが次に見たもの……それは……
ゴウという音とともに、何かモヤっとしたものが宙を舞っているように見えた。
その刹那。さっきの六枝な化け物に爆炎が舞い、その行動を制する……その爆発に巻き込まれて吹き飛ぶテロリストども。
そして、ドオオンという大きな音と地響きとともに、そのモヤっとした、大きく見上げるその物体が、彼らの前にそびえ立つ。
次に彼が見たものは……モヤとした存在がビシビシと色を付け、その本体を空間から大きく浮かび上がらせるようにその姿を顕現させた……
彼の目で見た主観。それは、鎧を着た恐竜か、異教徒の好きな怪物か。
その異教徒の怪物が今、目の前にいる。しかし違和感があるその姿……ピコピコピコ・ウォンウォンウォンと音を響かせながら動くそのサマは、機械そのものだ。しかも色が蒼と水色の迷彩色。
彼のみたその怪物の正体……いわずもがなの『マージェンツァーレ』所謂『旭龍』だった……
………………………………
「対探知偽装解除。国章表示消去。機動戦形態に移行。シエ、ご希望の地上戦だ。頼むぜ、俺は余剰武装の制御をやる。ユーハブだ」
『アイハブ。マカセロダーリン。クックック、コレデ次元溝潜航ヲ気ニセズにヤレル。覚悟シロ。ニヒヒヒヒ……』
シエさんがノリノリモードなハイ状態になってトホホになる多川……しかし、ここまできたらもういいかと諦めた。
「しっかし、上空から見てたら、とんでもねーことになってんな……あっちゃ多分例の国ゴッコやってるアホどもだろうが……あれは……多分、『使徒派』とか言う連中だろうな」
『シトハ? ナンダソレハ』
「ああ、シエ達を神様の使いと思ってる人たちさ」
『カミ? アア、カシワギガ、創造主ノヨウナモノダトカイッテイタ思想ナ。フム、創造主ノ使イト思ッテクレルトハ光栄ダ』
「いや……そう受け取ってもらっても困るんだけどねぇ……はは……」
眼下の地上をモニターで拡大すると、膝ついて旭龍に向かって何か祈っているアラブ人がたくさんいた。
彼らの宗教は偶像崇拝を禁じているが、目の前にこんなものがおっ立てば、「現実」として受け入れざるを得なくもなるだろう。
「シエ、話はここまでた。敵接近、来るぞ!」
『了解。ガンナーハマカセルゾ……質量制御機能作動。地上戦ヘ移行……戦闘開始』
シエは半マスタースレイブ制御の旭龍を、自分の体の如く変幻自在に操作する。
VMC操作パネルをスライドさせ、叩き、そしてリアルな動作でシエの四肢が空を切る。
多川もHUDにVMCモニターを駆使して、任意に武器を選択。敵ドーラ・ヴァズラーに攻撃を仕掛ける……
頭部同軸機銃が火を噴き、空薬きょうを宙へばら撒き。
頭口部パルスレーザーが、束になった数十ものレーザユニットを全開で発射する。
腕部のM230が断続音のリズムを奏で、ブラスター砲がゼル端子制御化のTー72戦車を吹き飛ばす。
対するドーラ・ヴァズラーも、本体ヴァズラー部のマニピュレーターにあるブラスター兵装を駆使して旭龍を攻撃。
更には六肢先端から、フェイザーをぶっぱなす……その光線を旭龍はヒラリと躱すが……フェイザーは命中した建造物を、跡形もなく木端微塵に消し飛ばす。
多川は、シエから「あの武器はマズイ!」と言われ、フェイザー兵器めがけてヘルファイアを発射。粉砕する。
ならばとばかりにドーラは、先に取り込んだTー55の100ミリライフル砲に、BMP-1の73ミリ滑腔砲。T-72の125ミリ滑腔砲を制御してぶっ放してくる。
『ウォァッ! ヤルナ、アイツ!』
「チッ! あんなものを取り込んでたのか! 不意打ちだなっ」
と、その瞬間、周囲360度からも攻撃を食らって、旭龍は爆炎に包まれる。
無論シールドで防げたが、こうも断続的に食らい続けるのもあまり好ましくはない。
その攻撃の正体……ゼル奴隷化された、エセ国家テロ屋連中だった……こいつらがドーラに操られて、RPG系兵器を旭龍めがけてぶっぱなしていたのだ。
「チッ! こりゃうっとおしいな!」
『アア、アノテロリストドモヲ吹キ飛バシテモ構ワンガ……アアモチマチマサレルト、気ガ滅入ル……ナニカ良イ方法ハナイモノカ……』
敵の攻撃を耐え、躱しつつ策を考えるシエ嬢。
すると、シエらの乗る旭龍をみて、まだ祈っている戦士を発見する。
その姿を見て、頭に“ピコ~ン”と電球が灯る彼女。ニッと不敵な笑み。
シエさん。外部拡声器のスイッチを入れて……
『オイ、オマエタチ。我ハ創造主ノ御使イ。マージェンツァーレデアル。我ハ彼方ノ世界カラ飛来シタアノ禍々シイ怪物ヲ葬ルタメニ降臨シタ。カノ怪物ニ操ラレテイル裏切者ヲ、皆ノ安寧ノタメニ駆逐セヨ』
威厳のあるダストール総統候補で、上から目線な声色でそう語るシエ大天使様。
その言葉に唖然とする使徒派の皆さん。
暫し後、ヒザマついて祈った後。誰が指揮するわけでなく、使徒派戦士はゼル奴隷化されたエセ国家テロリストめがけて士気盛んに攻撃を始める。
「おいおいおおいおいおいおいおいシエ! それはっ!……反則というか……いかんだろ~~!」
『カマウモノカ。私達ヲ御使イトヤラト思ッテクレルノナラ、仲間デハナイカ。協力シテモラッテ何ガ悪イ』
「おらぁしらねーぞぉ~……」
多川は、やっぱり自衛隊クビかなぁと思ったり。
と、そんな事を言いつつ彼は計器に目をやる……すると東に西に、北から南、各方角から怒涛の熱源反応が感知された。
「シエ、早いとこカタつけないとマズイぞ……まぁ予想通りっちゃぁ予想通りだが、世界各国の軍がコッチ向いた」
『了解ダ。デハシン。例ノ試作兵装を使ッテミルカ』
「あれな……うまいこと動けばいいが……よし、全ジェネレータを俺の制御へ」
『了解。キョクリュウ運動制御ハ全テ私ニ』
ポポポっとVMC機器を叩くシエ。
多川は旭龍のエネルギー制御計器を監視していた。
粒子ブラスターやディスラプター兵器へのパワー供給をカットする。
「パワーマックスだ。いけるぞシエ」
『了解。デハ、プラズマガイドレーザー発射』
旭龍のパルスレーザーが発射される、ドラゴンの口に当たる部分が、更に少し変形して開口し、武器らしき端子をせり出させてガイドビーコンのようなレーザーをドーラに照射する。
先の戦闘でドーラの外皮をズタボロにしてやったシエと多川……ドーラは再びそこらのガラクタや、はては死体を引き寄せて同化しようとする。
しかし今がチャンス。相当な攻撃で、取り込んだヴァズラーの胴体部分をむき出しにさせた。
その部分に『プラズマガイドレーザー』なるものを照射する。
照射しただけでは特に何も効果はない。しかし、しっかりロックされているのか、ドーラのコアが収まる胴体部にキッチリと照射されている。
「よしシエ。バッチリだ」
『シン、トリガーハ預ケル。念ニハ念ヲダ。ブッパナシタ跡、突ッコンデ、エグルゾ』
「了解……では……」
多川は操縦桿とは別の専用トリガースティックを握りしめ、レティクルがオートで重なるのを待つ……プププという音にトーンが高くなった瞬間!
「よし! ヴォルテック砲発射! 発射! 発射!」
カチカチとトリガーを数回握る多川。
すると、ドーラの口部から、猛烈な電撃……つまり雷光が、ドーラのヴァズラー部を貫く。
そのエネルギーは自然界の落雷に匹敵するか、それ以上だ。
この兵器、最近地球で研究されている『プラズマレーザー誘雷システム』を利用した兵器である。
レーザを目標に照射し、そのレーザーによって大気をプラズマ化。同時に指向性空間波動を発射して、そこに重ね合わせるように、猛烈な電撃。即ち落雷放電を発射する。
すると、その放電は、レーザーで大気をプラズマ化した道をつたい、更には指向性空間波動のガイドレールで、照射目標めがけて落雷が命中するような形で、相手を破壊する兵器である。
多川はカチカチとトリガーを何回も引く。
それに合わせて、ドーン! バーン! と、不規則なジグザグを描く放電現象が連射され、ドーラ・ヴァズラーの胴体コア収納部めがけて炸裂する。
そのサマを見る使徒派の兵士に、向こうで隠れているエセテロ国家の兵士達は、唖然茫然。
まるで終末世界のような戦いの光景に、固まってしまう。
ドーラは、断続して照射されるその雷撃になすすべもない。
放電現象自体に、動的破壊力はない。しかしドーラは所謂『機械仮想生命体』である。常識的にこんな莫大な電撃攻撃をまともに食らって耐えられるわけがない。
シールドでかろうじて威力を相殺させているが、放電現象は、他の部位に及び、そのパーツをショートさせ、引火物に反応して爆発する。
さらに畳みかけるように、腹部サイロを開口させて、必殺のディルフィルド魚雷を生成。至近距離で発射してやる……もちろんディルフィルドジャンプはしないが、内蔵された重力子弾頭が炸裂する。
しかし、流石にマズイと処理したのか、ドーラはこのディルフィルド魚雷は寸前で躱した……が、重力子爆発で下半身をもっていかれた。
重力子弾頭は、通常型を載せていたようだ。
これが広域型なら核爆発並の威力があるので、こんなところでは使えない。
「よっしゃぁ! こりゃ効果あるそシエ!」
『アア、思ッタトオリダ! 特にぼるてっく砲ダガ、コウイウ原始的ナ理屈ノ攻撃ガ通ジタカ』
「しかし、コアはやっぱり強いな……でも大分疲弊しているぞ」
『ヨシ、デハトドメトイクゾ!』
そうシエがいうと、旭龍は、左右腕部に、シエばりのクロウを造成する。
そして、猛然とダッシュ!
ドーラは最後の力を振り絞って、ゼル端子ミサイルを発射してくる。しかし旭龍に命中しても、旭龍の装甲が自発的に爆破され、ゼル端子を抹消する。リアクティブアーマーの原理を利用した、対ゼル端子装甲だ……そして……
……旭龍のクロウが、ヴァズラー部胴体のシールドと装甲を貫いて、コアを粉砕した……
ビシビシと放電するドーラコア……そしてコアは最後の赤い小さなLEDのごときパーツの灯も消し、機能を停止した……
シエはドーラコアを串刺しにした状態でグイと引き抜くと、完全な破壊を確認し、今後のために回収する。
今回のコイツは、あまりに例外的な行動が多かった。
シエは、マリヘイル達が来た時に、防衛総省へコレを引き渡して、研究してもらおうと考えた。
「……」
『……』
沈黙する二人。
「終わった?」
『アア、ソノヨウダナ』
モニターを見ると、ゼル奴隷化した遺体がもとにもどり、更に生きた人間も、使徒派戦士に拘束されていた。もちろん相手はエセテロ国家のバカどもである。
『シン、デハ、アトハコイツラニ任セテ、トンズラスルカ?』
「ああ、それが賢明ですな」
そんな話をしていると、旭龍に通信が入る。
『多川一佐、そういうことだ。早く帰ってこいよ』
「ゲ、藤堂将補! なぜまた!」
『何が“ゲ”だよ一佐……リアッサ二佐にちゃんと説明は聞いている。クビになんてせんから、とっとと帰ってこい! こっちは今イラク上空二〇〇〇〇米で待機中だ』
「しかし……ドーラの残骸をディスラプターで抹消させないと」
『その点は心配いらん。今ティラス艦長が偽装かけてヴァルメを発艦させた。そっちにまかせてくれればいい』
コクコク頷く多川。とにかく事を終わらせられたので、なんとなく一仕事感。
でも……今後の処理が大変だぞこりゃと、天を仰いだり……
「了解…………んじゃシエ……家に帰るか」
『アア、ソウシヨウ、ダーリン。フフフ』
このダーリンという言葉がえらく気に入っているシエ。
多川もえらい人物を伴侶にしてしまったものである。
そして旭龍は大きく斥力モジュールを展開させ、青白い尾を引きながらゆっくり上昇する。
下では使徒派の部族戦士達が大きく手を振っていた。
はっきり言やぁ、別にシエ達は手を振られる義理はない。言ってみれば彼らを利用したのはシエ達の方である。そして彼らとて『使徒派』といっても、基本部族単位の武装組織だ。いつテロリストになるかわかったものではない。
二人の旭龍は、使徒派戦士に何か返礼するわけでもなく、そのまま上昇し、対探知偽装をかけて、抜けるような青い空の中に溶け込んで消えていった……
………………………………
……かように所謂、『はぐれドーラ事件』と、安保委員会の構成員の脳裏に刻まれた騒動は終息する。
なぜ彼らの脳裏なのか? その理由。公式には、今回の事件は無かったことになっているからだ。
あくまで、ヤルバーン州軍と、銀河連合加盟国である日本国自衛隊との宇宙規模な災害の対応演習なのである。
そりゃ色々各国からクレームやら質問が飛んできた。
しかし、何を言われてもそう言い続けて突っぱねる。
で、あまりにしつこいと、ヤルバーン州に問い合わせてくれという必殺の言い逃れで逃げ切る。
ある意味「きったね~」と思うところであるが、ビジネスでも、外交でも、あえて強いモノに振って、うやむやにする作戦ということは、往々にして行われているものである。
だが、流石に今回はこの方法ばかりは使っていられない。
『シエ大天使様』と、多川さんの豪快な尻ぬぐいをしなきゃならないのは……日本国ティエルクマスカ統括担当大臣の柏木先生である。
んでもって、昨今すっかり助手と化しているフェルさん代議士先生。
思わず柏木先生はつぶやく。
「多川さぁ~ん……やっちまったなぁ……」
さすがにこればかりは「男は黙って」というわけにはいかない。
フェルさんも、シエ大天使に説教しにいくといって、オチューシャを用意していたり……
「こりゃ、案外、ダル艦長の作戦、効果覿面かもなぁ……」
柏木先生……最近胃が痛くなってきたのは、ピロリ菌のせいか、それとも彼を取り巻く因果のせいか?
セルゼント州のマリヘイル閣下。彼女も今回の事件をしっかりモニターしていた。
で、ここぞという感じで、セルゼント州ゲートをくぐったらしい……
『はぐれドーラ事件』でもこれなのに、とうとう彼らがやってくる。
いやはや、時代は進む……進んでいくしかないのである。
今回のお話では、かのメンドクサイ連中のネタが登場します。
この物語を執筆中に、今起こっている現在進行中の最大級の非難すべき、そして、最大級の糾弾すべき問題が発生してしまいました。
実はそういうこともあって、ストーリーを変更するヒマもないので、今回は掲載を遅らせようかとは思いましたが、事かような事態の急変が起こり、あのバカドモへの非難の意味も込めて、本日投稿いたします。
とはいえ、別に連中が見ているわけでもないのでしょうけどね。
かような理由で、実は投稿が遅れましたことを、ご理解賜りたく思います。
柗本保羽。




