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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
68/119

―45―

 福島第一原子力発電所の廃炉抹消が成功し、ディスカール人・パウル・ラズ・シャーの奮闘努力もあって、宇宙空母カグヤ用港湾の建築も順調に推移する中、特危自衛隊は、作戦任務シフトを解除し、忙しいながらも通常任務シフトへ移行した。

 つまり、通常任務シフトへ変更できるぐらいにまで状況が好転、かつ安定してきたともいえる。


 さて、特危自衛隊・航空宙間科の今作戦任務は、ティエルクマスカ連合防衛総省火星開拓派遣艦隊から分遣されたディスカール星間共和国第一・第二工作艦と連携し、福島第一原子力発電所の詳細な現状調査であった。

 機動兵器・日本版ヴァズラーことXFAV-01『旭光Ⅱ』や、本家ヴァズラー、そして自衛隊内呼称で『自動甲冑じどうかっちゅう2型』と呼ばれている重ロボットスーツ『デルゲード』を用いて徹底的に現場調査を行った。

 無論これには詳細な被害検証の他に、件の津波で流されてきた遺体等々の調査の意味もあった。


 この任務の指揮にあたったのが、原発廃炉調査隊隊長の多川信次一等空佐と、シエ・カモル・ロッショ一等空佐である。

 二人が現場に到着した時、まずその惨状に驚愕・戦慄したのがシエだったという。

 なぜなら、シエに限らず、ティエルクマスカ人で彼女らの世代は、こういった自然災害での都市型破壊というものを見た事がないからだ。

 それも当然だろう。例えばイゼイラの場合、そのほとんどの居住区が人工大陸にある。なので地震などの地殻変動系災害とは全く無縁の社会だ。

 ダストールも同様でそんな居住社会なのだが、それ故に自然災害を見たことはあるが、そんなものは言ってみれば単なる気象現象であり、彼女達からすれば、そもそも相応の科学が発達した文明社会に対して、自然災害がここまで被害を及ぼすという感覚がないので、相当に驚いていたという話。


 当初、シエが参考資料にと、件の3.11災害の撮影VTR映像を見た時、ポロっとこぼした言葉が


『古代寓話ミタイダ……』


 と一言……そのとおり、こういった認識しかなかったのである。

 そしてシエは、そのVTR映像を借りて、自室で何回も巻き戻しては観て、色々と研究していたという話……シエにとっては、相当にショッキングでもあり、また、参考にもなる貴重な資料映像だったのだろう。

 とはいえ、あの映像は当の日本人や世界中の人々にも、終末世界を連想させるインパクトのある映像だった。それを自然災害とは無縁なティ連人が見た日にゃ、そりゃ相当なものがあって普通だと思う。

 ……ちなみに、彼女たちティ連人に自然災害が全くないのかというとそういうわけではない。ただ、事前に察知ができ、対処もできるので人的被害というものがほとんどないのだ。従って、彼女たちからすれば、津波によって文明や人命が飲みこまれてしまうライブな映像は、やはり当時の日本人以上に信じがたいものがあり、戦慄したというわけである。


 と、そんな感じで事前調査の任務を済ませた航空宙間科の諸氏は、次にディスカール第一・第二工作艦を一気に投入して、原発を消去。廃炉する事に成功。事後処理の任務を陸上科と、メルヴェン隊、陸海空自衛隊にまかせて、ひとまず先に通常任務シフトへと戻ることとなった。

 ヴァズラーや旭光、デルゲードに乗っているとはいえ、普通なら相当危険な放射線の場所で任務をこなしていたのだ。お先に通常任務シフトへ戻してやらないと可哀想だというものである。




 …… 宇宙空母カグヤ・娯楽サロン ……

 柏木がカグヤ視察に来る前のある日。


 仕事を終え、勤務時間終了で、ひとっ風呂浴びた多川が、サロンのソファーでノンアルコールビールを飲んでくつろいでいた。

 このカグヤ、言ってみれば今やメルヴェン隊と特危自衛隊の基地でもあり、家みたいなものである。

 さすがに全長五〇〇メートルで客船クラスの装備を誇る軍用艦艇などそうそうないだろう。

 実際、相当居心地がいいようで、そのおかげで特危隊員とメルヴェン隊員、防衛総省派遣クルーや、ヤルバーンスタッフとの関係はすこぶる良く、親戚家族みたいな付き合いでやっているみたいで、そのおかげで非常に連携のとれた部隊になっていた。


 ちなみに、かつて大戦中の『戦艦大和』が、当時の軍艦としては破格の居住性の高さと、食事の良さから、別名『大和ホテル』と揶揄されたりしたそうだが、カグヤの場合は、本当に客船クラスの居住性なので普通ではない……やはり地球基準でもティ連基準でも、ちょっとこの内装は軍用艦艇とはいいがたいものがあるのも事実である。


 多川はノンアルビールを飲みつつ、PVMCGでタブレットを造成させ、ニュースサイトを閲覧する。

 日本でこんな風にヤルバーンがその姿を変え、軌道タワー化し、福島原発が奇跡の廃炉を成し遂げているというのに……中東では、サラフムスリム国を名乗るテロ組織が、近隣のテロ組織を合併し巨大になりつつあり、シリア・イラク方面でテロ組織でありながら国家規模の支配地域拡大を行っているという。そして、同じイスラム組織でも、ヤルバーンの飛来以降に出現した、ティ連人を神の遣わした天使と勝手に解釈している『使徒派』と呼ばれる組織と敵対し、トルキスタン方面で激戦を繰り広げ、中国とロシアを巻き込んだ四つどもえの戦いを中央アジアで演じているという……


(このアホどもは、日本の状況と、それによる世界の激動というものを理解できんのか……)

 と呆れる多川。

 しかし、実際はそんなものなのだ。

 中東の砂漠で、アッラーアクバルと叫びながらマスクかぶって粋がっている連中は、得てして世界の事を知っているようで何も知らない。

 そもそも知っていたら、もうちょっとマシな事をするはずである。要するにこの手の輩も、結局は神の名を騙る大規模かつ純粋な犯罪組織以外の何物でもない。早い話がムスリムの代紋を騙るマフィアのようなものだ。それで酔ってるだけの語る値打ちもない連中なのだ。

 はっきりいやぁ、まだトルキスタンで暴れている『使徒派』と呼ばれる新たな宗派連中のほうが、ティ連人を『神様の御使い』と勘違いできるだけまだマシなのである。


(……ふ~む、こんなの見たら、日本は平和なもんだねぇ……)


 ある意味、島国で良かったと思ってしまう多川。こんなニュースをノンアルビール飲んで見れるのだから、ある意味幸せではある。

 今の日本、こんな問題ですら、もう「勝手にやっとれ」と言えるような立場になってしまった。

 もうこんなしょーもない『ちっぽけな』問題に構っている暇なんかないのである。

 そして、ガーグ・デーラのような脅威に比べれば、こんなテロ組織など、何ほどの事かとも思ってしまう。

 なんせ日本じゃ、その神の御使いさんを嫁にしたのが政治家やってるんだから世話がない。

 おまけに当の神様の御使いさんが、日本の代議士やってるんだから、もっと世話がない。

 そして多川自身も、そろそろふんぎりつけて、自分もその仲間入りをしなきゃならないと覚悟もしていたり……


 んな事を考えつつ、机に置いたビールを飲もうとすると、横からしなやかな手が伸び、横取りする。

 ありゃ? と思う多川。

 手の伸びた方向を見ると、シエ嬢さんが、多川の飲みかけノンアルビールをゴキュゴキュ飲んでいた。

 飲み終わると、プハーしながら、多川にウインクするシエ。


「おいおい、お嬢、何も俺の飲みくさしを飲まんでもいいだろー」

『フフフ、イイデハナイカ。タマタマソコニびーるガアッタダケノハナシダ』


 いつもの事なので、気にもしない多川。

 二人は先の、千里中央でのプチデートから、さらに仲が良くなったようである。

 少なくとも周囲はそう感じている。

 どうやら、シエも風呂あがりなようで、ソープの良い匂いをプンとさせ、タオルに洗面用具と典型的な日本のお風呂セットを小脇に抱えていた。

 多川の対面ソファーに座るシエ。

 お互いバディなので、二人がつるんでいる構図などはもう特危隊員からすれば見慣れた光景。

 ただこの二人の場合、その二人でいる時間というのが、プライベートも含めてほとんどで、メシを食うのも一緒なので、シエという特殊なダストール人と日本人のこの構図に、ヤルバーンとカグヤ防衛総省側は、相当びっくらこいているという話……なぜなら『防衛総省七不思議』の一つが崩壊してしまたからで、この話は即座に本部まで飛んだ……ほっといてやれよと……



『ナァ、タガワ』

「ん?」


 シエがノンアルビールの空き缶をクリクリさせながら……


『次ノ休暇……オマエト日ガ被ルノダケド……』


 スケジュールシフトで、多川とシエが同じ日に休暇となってるのを見たらしい。


「はは、それなんだけど……」

『ン?』

「えっとな……高級将官が二人も同日休暇ってのも、あまりよくないとは思ったんだけどな。お嬢はとりあえず書類上は予備自衛官扱いだし、原発の件も落ち着いてきたしな。まぁいいかって思ってさ……この間千里中央のサ店で話した件、どうだ?」

『エ……ジャァ……!』

「おう、お嬢の休暇に合わせて、チョチョっとな」 


 パァと明るい顔になるシエ。多川が約束を忘れていなくて……いや、忘れていないどころか、準備万端で休暇まで合わせてくれていて、相当に嬉しかったご様子。


「で、お嬢。どっかいきたいところあるか? リクエスト受け付けるぞ……っつっても、休暇二日しかないからな。あまり遠出はできないけど、はは」

『ウン……エット……』


 そうシエが言うと……しばし考えた後、至極普通な、しかしシエという対象から考えると、かなり変わった要求が帰ってきた。


『ニホンのフリュガ、普通ニイクトコロヘ行ッテミタイ……』

「……は? 日本の女性が普通に行くところ?」

『アア……買イ物? トカ、食事トカ、何カ遊ブトコロトカ……』

「え? あ、いや、渋谷とか原宿とか……そんなところでいいってのか?」

『ウン……』


 どうもシエさん。普通の女性がする至って普通のデートをご所望のようである。

 日本でいろんなドラマやらなんやらを観て、そういうシーンが多々あり、それが日本での至って普通な男女関係だと理解したシエにとって、その普通さがとても眩しく映ったのだろう。

 なんせ、防衛総省七不思議に数えられる人物かつ……シエの家柄も考えれば、やはり彼女も普通ではない。ある意味、フェルよりも普通ではないフリュかもしれない。

 フェルの場合、クソバカデカイ城が持ち家で、そこに住んでいた旧皇終生議員ではあるが、基本共和国一市民なので、公的に旧貴族特有のしきたりがあるとかそういうわけではない。

 確かにイキガミサマスキルを身に着けてはいるが、別に法でイキガミサマと制定されているわけでもなく、言ってみればナヨクァラグヤ帝信奉者が勝手に教祖様扱いしているだけの話で、フェルからすれば本音を言うとハタ迷惑な話なのだが、基本、彼女はなんだかんだ言って普通の国民であり、市民である。


 しかし……シエはそういうわけにはいかない。

 彼女の場合、いまのままでいくと、リアルで将来のロッショ家家長であり、ダストール総統候補だ。

 即ち彼女の場合、ある種フェルよりも普通の女性としての生活を送った事がない。

 いうなればそんな普通な女性のしている日常的なことが、彼女にとって一番の憧れであったりするのである。なので沖縄でも、彼女は普通の観光コースな場所を多川とともに廻った。


「普通ノ、フリュトシテ生キタイダケダヨ……ロッショ家ニ好キデ生マレタワケデハナイ」

「普通ニ生キテ……恋ヲシテ……デルンヲ好キニナッテ……ソンナ生活ヲシタイダケダヨ」


 城崎で語ったあの言葉である。

 シエはそういうところを屈託なく多川に話す。無論、彼女がロッショ家という名家の文字通りお嬢様ということは言わない。彼女にとって、そんなことはどうでもいいことだからだ。    

 

「ははは、なるほどな。軍隊生活が長いから、かえって普通の女性が行くようなところがいいって事ですか」

『ウン、ソウイウコトダ……ダメカ?』

 

 上目づかいで多川を見るシエ。ロッショ家云々あたりの理由は、軍隊生活が長いからという理由でごまかした。


「いやいや、了解了解。ソッチのほうが俺もありがたいよ、ははは。んじゃ、渋谷にでも出かけて、ショッピングにグルメといきますか」

『アア、ワカッタ。タノシミダ』


 ニッコリ笑うシエ。本気でウキウキのようである。

 こんな笑顔なパターンのシエは、多川も初めて見た……


 その後『シエさん。多川一佐とデート』の報は、カグヤ中をかけめぐった。

 各特危自衛隊員は、全員「どしぇー!」な格好になる。それこそかつて、今は亡きギャグ漫画の大家が描いたイヤミなキャラクターのような格好だ。

 特に女性自衛官らは、デートの話題以前に、あの女に縁のない42歳の戦闘機バカ、多川に彼女ができた。しかも相手が異星人で、よりにもよってシエだという事に話題騒然。

 これまた『おせっかい協同組合』が設立され、リアッサの時のようなシエの援護を行う体制が、勝手に組まれる。

 逆に最近、カグヤのプライベートハイクァーン造成で、何故か『藁人形』の造成回数が異常に高くなっているという話もある。

 誰がこんな物騒なもののデータを仕込んだんだと……恐らくシエから撃墜マーク食らって喜んでいる連中だったり……


 ……無論この情報は、件の公益社団法人……じゃなくて、『シエ嬢撃墜マーク被災者の会(妻帯者限定)』組織にも伝わった……


「おい、とうとう多川一佐が腹をくくったという話だぞ」

「何? じゃぁとうとうヤるのか?」

「ヤるって、どういう意味だよ」

「いや、デートに誘ってって話なら、ソッチ方面で色々……」

「だからソッチ方面って何だよ」

「いちいちうるせーぞ、オメーは!」


 旧福島第一原子力発電所跡で、残留放射能調査をする所帯持ちな陸上科の諸氏。

 残留放射能とはいっても、もう人体に有害なレベルのものはほとんどないので、詰めの作業だ。

 そんな作業の中での食事時間前、『野外炊具1号(改)』でメシ作りながら、かような会話がなされていたり。

 ハイクァーンな食糧製造技術がある特危だが、メシはやっぱコイツで作るに限る。

 共同作戦参加のイゼさん兵士やパーミラ人兵士が、火加減や白米の炊き加減を見ていたり……


「大見三佐、とうとうわが同志が起ってくださったようです! 特訓の成果がありましたなぁ……」


 ク~と腕を顔に当てる大見の部下。


「いや、その『同志』ってなんなんだよ、赤い星背負ってるわけじゃあるまいし……」

「多川一佐の事じゃぁないですか」

「いや、あのな……同志って“同じ志”って書くんだぞ。別に多川一佐、お前らと同じ志ってわけじゃないだろ……んで、特訓ってなぁ……お前ら夫婦の経験談や思い出のノロケ話吹聴してただけじゃねーか。一佐、辟易してたぞ」


 食器を指揮棒代わりに振る大見。


「いや、それを言われると身も蓋も……」

「んな人のプライベートな事、ほっといてやれよ」

「いやしかし……この成功の可否が、わが組織の各家庭における今後の命運が……」

「知らねーよ、んな命運」

「ア~ 冷たい言い方ですね三佐。三佐はいいですよ、かの方に対抗できますから……しかしですな……」

「お前らも、ワケのわからん思い出話吹聴して『特訓』したんだろ? んじゃそれでいーじゃねーか」

「三佐もしたんでしょ?」

「あ? まぁ俺も普通に嫁さんと付き合ってた頃の経験談しただけだけどな。だからどうって話じゃないけど……」


 結局は、被災者団体もこの状況を楽しんでいるだけだという話。


「で、三佐殿」

「何が『殿』だよ……また妙なこと考えてんだろ」

「妙なこと? 心外ですな。カグヤに残っている同志に通達し、かの状況を偵察しようという崇高な作戦を妙なこととは」

「それを『妙な事』と言わずして、何を言うんだよ……だぁかぁらぁ……」

「ほう、では三佐殿は、事の顛末が気にならないと……」

「あ……いや……まぁ……うまくいってくれたらそれに越したことはないけどな」

「でしょ? では偵察隊を……」

「はぁ……俺は関知しねーからな……好きにしろよ、もう……」


 カグヤに残る本組織の構成員に対し、偵察令を発するコイツら。

 しかし確かに、詳細な状況がわかれば、それに越したことはないが……

 ただ、『おせっかい協同組合』も協力するという情報を『無線で』得ているので、結局はカグヤ規模のレクリェーションになりつつあったりして……

 ここでシエの同胞であるリアッサ二佐。シエに忠告の一つでも行くのかと思ったら……協同組合に参画しているようである。リアッサもシエの部下として、そして友人としてお節介を焼こうという事だろうか。




 ……………………………………



 

 …… 火星軌道上・ティ連火星開拓艦隊 ……

 

『こちらヴァズラー・アウルド1。ラシェイドへ定時連絡。現在カセイ衛星“ふぉぼす”宙域を巡行中。異常ナシ。調査巡行を続行する』

『こちらラシェイド了解。次の定時連絡は……』


 火星軌道上、工作母艦ラシェイドから発艦した『ヴァズラー・アウルド』という機体。

 この『アウルド』という名を持つ仕様のヴァズラーは、偵察仕様となっている。この言葉の意味は、イゼイラに生息する非常に警戒心の強い臆病な、魚類のような生物から来ている。

 通常の『エ型』ヴァズラーの本体上部に大きなブレードウィング型スキャナーが数本生え、センサー部が複雑になったような仕様だ。このあたりは一見すると、地球人のSF的感性からも『ああ、言われたらなるほどな』とわかるような意匠をしている。


『ホい、定時連絡終わりと……』


 アウルド1メインパイロットのイゼイラ人デルンな機長が、通信VMCモニターを切る。


『マ、イツモノ散歩ダ。気楽ナモノダナ』


 後ろに座るコパイのダストール人デルンも、計器VMCモニターを見ながら、慣れた手つきでいつもの作業を淡々とこなす。


『ソウいうこった。 こんな遥か彼方の宙域で、何が起こるわけでもなシ……でもデブリなんぞはキチント監視しておけよ。そっちのほうが俺たちの主要任務なんだからな』


 彼らは火星に降下・落下する隕石やデブリの発生源、状況を調査しているようだ。

 確かに偵察仕様とはいえ、こんなところに何か敵性体が来るわけでもなし。

 ただ、急な大型デブリが隕石になって落下というのはあまりよろしくないので、そういうものを見つけたら破壊もしくは軌道変更するのも彼らの任務なのだ。

 ティ連の科学技術でも、このあたりはセンサーばかりに頼ってはいられない。目視で監視することも大事なのだ。


『……そうそう、お前、今ヤルマルティアでディスカール人が物凄い話題になってるそうだな、知ってたカ?』


 イゼイラ人機長は、ダストール人のさらに後ろに座る若いディスカール人フリュに声をかける。彼女は調査センサー専属の搭乗員のようだ。

 どうやらこの『アウルド仕様機』は三人乗りのようである。


『ミたいですねぇ……何か話を聞くとぉ……私達の耳が、ヤルマルティア人に、とても気に入られているとか。よくわかんないですけど』

『見た目ハ、ディスカール人もハルマ人も、大して変わらないのにな。耳だけで大騒ぎかよ』と機長。

『ソウダナ、オレ達モ、比較的容姿ハ似テイルト思ッテイタガ、ディスカール人ホドデハナイ。ソンナニ変ワラントオモウノダガ、大騒ギダソウダ』とコパイ。


 今、火星開拓艦隊では、パウル達が日本で福島原発事故災害終息に貢献したという事で、ヤルマルティアの宰相から勲章の授与を受けたと話題になっていた。

 そして、ヤルマルティアから、艦隊総責任者ダル艦長兼司令にも、火星開拓艦隊全隊員宛ということで、感謝状が贈られてきたという事で、諸氏、士気が上がり、みんないい意味で鼻が高くなっていたところだったのだ。

 そんな話題の中、ディスカール人の何某な話題も、当然情報として入ってきたわけで、日本人とのコンタクトとしては、一番後発になる彼らが話題になっていると、この火星艦隊でもそんな感じで隊員たちの話のネタになっていたりする。


 アウルド1は、フォボス宙域を調査し、危険予想デブリの域内抽出作業を行う。


『エット……フム、そんなに危険なデブリはないわね。この宙域はほっといてもいいかな?』

『了解だ。では次の宙域へ……』

『アレ? さっきの取り消し……ちょっと待って……』


 ディスカール人は探査VMCモニターに顔を近づけて、ある一点を凝視する。

 

『コレ……何だろ……』

『ドウシタ? コノ宙域デ我々ノ興味ヲヒクヨウナ現象ガアルトハ思エンノダガ』

『うん……でも……数値が変なのよね……時空間歪曲変数値が出てる……』

『なに?……時空間歪曲変数? このタイヨケイでか』

『うん…………ねぇねぇ、ハルマの宇宙開発技術レベルで、時空間歪曲変数を出す技術って、何かあったかしら?』

『イヤ……タシカ、俺ノ知識デハ、ヂレール核裂現象ヲ利用したエネルギート、光起モジュール、アトハ、噴射式ノ姿勢制御技術……ソンナモノダ。時空間歪曲変数値ニ影響ガ出ルヨウナ技術ハ無カッタト思ウガ』

『ふぅ~む……機器の故障かな? 近づいて調べてみる? 機長』


 イゼイラ人機長は、腕組んでヘルメットのバイザーをトントンと叩き、考える。

 彼は責任者らしく、過去の事例。事件を頭の中で回想していた。

 当然、この太陽系のはずれで起こった、例の奴らとの偶発的戦闘の事件データを思い起こさせる。

 もし仮に……時空間歪曲変数なんぞが関わってくるような存在と言えば……奴らしか考えられない。


(……まさか……ナァ……)


 と、そんな思案に暮れていると……


『アレ? 反応が消えたわ』

『は? 消えた?』

『うん……』

『反応はどのぐらい出ていたんだ?』

『380ぐらいだけど……』

『……』


 機長は、少し眉間に皺を寄せ


『……みんな、帰投するぞ……』

『え?』

『オイオイ、ドウシタノダイキナリ……』

『ここに留まっていたら不味いような気がする……』

『ナゼダ?』

『よく考えてみろ……時空間歪曲変数なんてものを、パッパパッパと出したり消したりできるのなんて、俺たち以外に誰がいる?』

『オレタチ以外ニ……ッテ、マサカオマエ!』

『え! そんな……』


 そういうと、イゼイラ人パイロットは、操縦用VMCモニターをスススと操作し、機体を転舵。空間振動波エンジンをフルパワーにしようとしたところ……


 機体に何かが当たったような、アウルド1は、ガンっという振動に襲われた!


『うわっ! なんだ?』

『!! ド、ドウシタ!?』

『ワ、わからない。デブリに出も当ったのかしら? 対デブリシールド解いてるの?』

『そんなわけないだろう……って、クソっ……パワーが落ちてきてる。何なんだ一体……』


 アウルド1の推進パワーゲージが急速に下降気味の数値を示し、機体の巡航が不安定になる。

 今までヴァズラーを操っていて、感じたことのない機体の振動と異常な感覚。

 何事かと機長は、機体の自己診断システムを全開で起動させてチェックに入る。

 

『緊急事態発生。コチラアウルド1。機体ニ異常ガ発生シタ。機関出力低下。帰投デキソウニモナイ。応援ヲタノム』

『アウルド1、こちらラシェイド。了解した。緊急を要するか?』

『アア、カナリマズイ。コノママデハ……』


 ダストール人コパイが母艦と通信をしていると、ディスカール人フリュが、黄色い声をあげる。


『エ!?……ええ!?……こ、これは!!』

『?? ど、どうしたタ?』

『ウソ……まさかまさか……』

『?……一体ナンナノダ。ハッキリ言エ!』


 機体状態をモニターしていたディスカール人フリュ。その数値に脂汗がにじみ出る。


『ゼ……ゼル端子反応が出てるわ……』

『な に !』

『!!! ナンダト!!』

『わ、わずかだけど……機体が浸食されている!!』


 その言葉を彼女が発した刹那、機長は席の脇に置いてあったブラスターガンのセフティを解除。

 ダストール人コパイは、PVMCGでバールのようなものを造成し、コンパネをぶっ壊し、機体配線をむき出しにする。そしてVMCモニターの赤いアイコンバーをスライドさせた。


『きぃやぁぁぁぁぁ!!!!』


 手をクロスさせ、光とともに消えていくディスカール人フリュ。コパイは緊急転送脱出用のアイコンを操作し、ディスカール人を機外へ放り出した。

 機長はコクピットを開けて、機外へ。すかさずバックパックを造成させ、自身をパーソナルシールドで覆う。

 ブラスターを構えて、機体の下部へ移動すると……


『うわ……な、なんだこりゃ……』


 なんとも形容のしようがない、機械とも残骸ともつかないものが、いろんな岩塊をくっつけぶら下げてアウルド1へへばりつくようにくっついていた。


『おい、大変だ……コイツ、ドーラだぞっ!』


 その声を聴いたダストール人コパイは、『チッ』と舌打ちし、思ったとおりかとばかりに、コンパネからある部品や機器を、ディスラプターガンで、分子にして消し去る。


『おい! 何やってるんだ! 脱出しろ!』

『ワカッテイル!』

『自爆装置を作動させて逃げろ! それだけの話だろ!』

『ダメダ、自爆シーケンスガ乗ットラレテイル……コイツ、考エテイルゾ!』

『クソっ!』


 機長も、外からその形容しようのない機械でできたガン細胞のような物体に、ブラスターをぶっぱなすが……案の定、はじき返されてしまう。


『クッソ、こんなポンコツでもシールドは健在ってか、ならば!』


 彼は、依然資料で見た物理兵器の『ジュウ』を検索して造成させる。

 そして、ドンッドンッっと、そんな音がしそうなイメージでぶっぱなすが……

 

『なにっ! そ、そんな……ジュウが効かない……』


 岩塊をまとわりつかせた本体。

 弾丸は命中するも、その岩塊に威力を相殺され、岩がはじけ飛ぶだけで中まで弾丸が食い込んでくれない。


 すると、機長のPVMCGは甲高い警告音を鳴らす。


『!! おい、もう限界だ、脱出しろ! 次元転移反応だ! こいつ、次元溝へ沈むぞ!』

『マダダ! アトコイツダケ!……』

『早くしろ!』


 そう言ったしばしのち、空間が歪みはじめる。


『クソっ!』


 機長はコクピットまで戻り、コパイのコクピットカバーを無理やりこじ開けて叫ぶ。


『おい、まだか! 次元溝に沈むぞこいつ!』

『マダダ、マダダ………ヨシ! 脱出ダ!』

『間に合うか!』


 機長がコパイに手を伸ばし、コパイはその手を握り返す。

 二人して、全力でバックパックのパワーを挙げ、可能な限り機体より遠ざかる。

 アウルド1は、空間に沈み込むような画を見せ、二人を一緒に引きずりこもうとする。

 猛烈な重力感を感じる二人だが、その二人の脱出を助けるように、先に転送脱出したディスカール人フリュが、自身のPVMCGからトラクターフィールドを出して、彼らを引っ張っていた。

   

『う~ン! だ、大丈夫!?』

『あ、ああ、なんとか……』

『オイ、見ロ……』


 コパイが自分達愛機の方を指さす。

 すると、丁度機体がドーラの残骸に乗っ取られ、次元溝に引き摺られていく最終段階だった。


『クソっ、マズイな……』


 機長は、愛機がアリジゴクに飲まれるように次元空間へ引きずりこまれるのを見ているしかなかった。


『ねぇ、それはそうと、ゼル端子浸食時の対応は……』

『アア、大丈夫ダ。ソコハキチント対応シテキタ……ダカラ脱出ニ少シ手間取ッタノダガナ』

『そう、ならまだ何とか……』


 このダストール人コパイの行った対応。

 連合防衛総省では、万が一、ドーラに機動兵器ないしは艦艇、自身の身体に対し、ゼル端子浸食を受けた際の対応マニュアルというものがある。

 機動兵器への浸食対応に関しては、機体制御システムの通信モジュールと、ハイクァーンモジュール機能を完全にディスラプター系兵器で破壊抹消し、脱出すること。

 可能であればゼルモジュールも破壊抹消することだが、この優先度は先の二つよりは低い。


 これは、今まで連中との戦闘経緯からもわかるとおり、連中に技術情報を渡さないための行為である。

 通信機能破壊は、要するに連中の本体ないしは本部への情報漏えいを阻止する事。

 ティ連では、量子通信が普通の通信技術である。この宇宙のどこにいようが送受信出力範囲内ならば、情報はリアルタイムで一瞬という間すら無く相手へ届く。

 しかし、ガーグ・デーラの通信手段は、まだ解明されていない。もしティ連より遅れた通信技術を使用していた場合、この通信技術が取り込まれるというのも正直マズイ。

 次にハイクァーンだ。これを壊しておかなければ意味がない。なぜなら連中の目的は、これの奪取だからだ。

 ゼルモジュール破壊の優先度が低いのは、連中にも同様の技術があるからだ。

 従って、まだこっちを取られても、対処のしようがあるのでマシという判断からそうなっている。

 なんせ連中とイザコザをやっているのは、ここ何年という話ではない。

 かような行為は過去に何度か例がないわけでもないのだ。


『それはそうと……どうするんだこれから……』

『脱出シタハイイガ、コノママデハナ……』

『それは大丈夫。救難信号は発信しておいたから』


 彼らの、かような緊急時におけるサバイバルテクノロジーは高い。

 これも全てPVMCGに見られるゼル技術のおかげだ。

 諸氏三人は、バックパックの推力を上げて、近くに見えるフォボスへ向かう。

 仮に小さなデブリが彼らに当たったとしても、パーソナルシールドが防いでくれる。有害な宇宙線も問題ない。

 間をおかず艦隊からの救援機が姿を現す。軍用デロニカのようだ。

 フォボスへ落下する前に、救援機がきてくれた。

 発信機を作動させ、「おーい」と手を振る三人。

 デロニカの方も、彼らを発見したようで、チカチカとライトを点滅させているようだ。

 そして三人は無事、生還することができた。


 ただこの事件……かなり深刻である……




 ………………………………




 火星圏でそんな事態になっているとはつゆぞ知らない日本。

 その事件が起こる少し前……


 東京都渋谷センター街は騒然としていた。

 その理由……


『タガワ、コノ“じゃけっと”ハ、ドウカナ?』

「う~ん……悪くはないけど、お嬢はどっちかっつーと、コッチ系の色じゃねーか?」

『フム、ドレドレ……ナルホド、コレモイイナ。確カニ私ラシイ色ダ。デハ、コレニシヨウ……スマナイ、オマ……ゴホン、キミ、コレヲタノム』

「ははは、はい、お買い上げありがとうございます~」

「ああ、店員さん、金は俺が払うから」

『エッ! タガワ、ソレハ悪イゾ。私ガツキアワセタノニ、オマエガ払ウ道理ガナイ』

「はは、お嬢。こういうシチュエーションでは、野郎が払ってやるのが相場なんだよ。いいからいから」

『ア……ソ、ソウカ……ア、アリガトウ……』

 店員の持ってきた商品の包みを上目づかいで、大事そうに抱えるシエ。

 少し頬染めて、らしくない表情。


 シエと多川は、彼女のご希望どおり渋谷のアパレルショップで買い物をしていた。

 所謂、彼女ご所望の至って普通なデートである。

 シエが以前から欲しかったデザインのジャケットがあって、それを売っている店が、この渋谷のショップだったそうだ。で、シエはそれを買いに行きたかったという寸法。

 無論彼女は、日本政府からもらっている特別給与と、ヤルバーンから出ている支給金でそのジャケットを購入するつもりだったのだが、そこは男の甲斐性というヤツで、多川が買ってプレゼントしてやった。

 無論、シエさんメチャクチャ嬉しい。

 ここでこういうものを買って、くれてやるとなれば、その二人の関係の意味するところなど、もうここまできたらお互い言葉に出さなくても大体わかろうというもの。

 今のところはそういう点、暗黙でお互い理解はしていた。

 無論、シエとしても、今日はテスタールをやった都合上、ある決意をもって、このデートに臨んでいるというのもある。


「あ、あの~すみません……」


 商品を手渡した、所謂カリスマ店員から声をかけられるシエ。

 今、シエは日本人モードではなく、バリバリのダストール人姿で、渋谷をうろついている。

 無論、かのときのフェル来襲の如く、いや……話題のキャプテン登場に、あの時以上に人だかりができていたり。

 でもシエさんは、こんな性格なので、一向に気にしない。だからどーしたってなもんである。


『ン、ナンダ?』

「写真、一緒に撮ってもらっていいですかぁ~?」

『アア、カマワナイゾ。一緒ニ撮ロウ』


 気さくに応じるシエ。


「じゃぁ俺がシャッター切ってやるよ」

『ン? 一緒に写ラナイノカ?』

「はは、色々マズイだろ、俺が写って、こんな店に飾られちゃ」

『アア、ナルホドナ。ソレモソウカ』


 そんな感じでパシャリと数枚。

 店員が取って代わって撮影会。多川のカメラテクニックもなかなかのもの。偵察写真撮影時の腕が光る。

 そして、店員から感謝され、お礼としてこの店限定の、若者の間では有名なエコバックをプレゼントされたシエ。これもラッキーで有難く頂戴する。

 それからシエは更に、彼女の好きなジーンズと靴に帽子を買ってもらい、それはご満悦の様子。

 ここで疑問なのが、多川ってそんな金持ってるのか? ってな話になるのだが、実は自衛隊の一佐という階級の給料は、多川の場合、諸々手当がついて大体月に50万円前後ぐらいもらっている。結構なもんである。おまけに現在独身。衣食住は、基本タダ。ってなわけで結構な小金持ちなのだ。

 なもんで、シエに服や靴の一つや二つ、プレゼントしてやるぐらいの金はあるのだ。

 命張ってる職業でこの価格が安いか高いかは、価値観の別れるところではあるが……



「……対象、甲から乙へ物品を贈答した模様。現状好状況を維持」

『対象次の行動を逐一報告せよ。送レ」

「了解。可能な限り、対象の追跡を行う」


 多川とシエの後を尾行する、そこらへんのニーチャンみたいな恰好をした連中。しかし耳にインカムを付けている。

 連中は、ただのア……いや、件の被災者の会エージェントであった。

 先の大見達会話の通り、今日のシエと多川を尾行していたという寸法……やめときゃいいのに……

 彼らの報告では、渋谷の有名アパレルショップで服を買った後、何やらゲームセンターへ入ってゲームに興じていたという話。

 二人して、いろんなゲームを興じたそうだ。

 そこで多川が、実はこういったゲーム関係が異常に弱いということがわかってしまった。

 ってか、彼ももう42歳だ。かつて一世を風靡した『宇宙侵略者ゲーム』よりは少し後の世代だが、それでも昨今の最新ゲームにはさすがに追い付いていけない。

 そんな感じで、そのプレイを見たあまりの下手さに、横でシエが腹を抱えて笑っていたという。しかし、とても楽しそうな笑顔だったという話。

 シエも幾つかゲームに挑戦していたようで、ダンス系のゲームでは、最初はとても見れたものではなかったそうだが、さすがはダストール体術を誇る女傑。数回再プレーすると、中級者コースはマスターしてしまい、見事なダンスを見せつける。

 シエがそんなゲームに興じている姿も、かなり貴重な画なので、ギャラリーもできてしまい、口笛が飛び、スマホや携帯で写真を撮られていたり。

 

 しかし、多川も一つ、自分の技量を見せられるゲームがあったようで、かの有名な機動兵器アニメのゲーム。全周180度半球モニターの付いた『絆』なゲームだが、これならということで、さすが多川。数回チャレンジして、すっかり操作をマスターしていた。

 無論シエも挑戦。彼女はもう座るなり数秒で操作方法をマスターし、多川とコンビで暴れまわっていたようだ。

 といっても、シエからみれば、このゲームのグラフィックでさえ稚拙なものであるが、かえってそれが新鮮だったらしく、面白かったようだ。

 フェルが、件のモンスターゲームにはまってしまったのと同じ理屈なのだろう。


『フム、ナカナカニ興味深イシミュレーターダ。アレナラ、ヤルバーンノゼルシミュレータデ、臨場感アルモノガ再現デキルゾ』

「それで金取れたら、またヤルバーン商売のネタになるな……ゲームといやぁ……」

『確カ、カシワギガ、ソノ手ノ仕事ヲシテイタノダッタナ。頼ンデミルカ?』

「はは、そうだな。それも面白いかもな」


 と、そんな話をしてみたり。

 かような状況を、被災者の会エージェントは、本部(?)へ報告したりする……やめときゃいいのに……


 そんな感じで今日を楽しみ、遊び呆けた二人。

 シエさん。ひっじょーーに満足なご様子。

 多川は、シエが喜んでいるようなので、結構な感じ。そしてシエがこんな表情で遊び、喜ぶ姿を見るのも初めてだったので、なかなかにバディとして新鮮だった。

 多分柏木にも見せた事のない表情だろうと思うと、ちょっとだけ優越感に浸れたり。


「はは、今日は結構遊んだな、お嬢。どうだ?」

『アア、コンナ楽シイ休暇モヒサシブリダ』


 シエは、なんとなく優しい目で多川を見つめる。


「しっかし、さすがに腹減ってきたな……晩飯どこか探すか? お嬢」

『……』


 ちょっと無口になるシエ。


「ん? どした?」

『……ナァ、タガワ……』

「ん?」

『コノアタリデ、ドコカ広イ場所ハナイノカ?』

「え? あ、ああ。確か公園があったはずだが……」

『フム、デハ、ソコニイコウ。少シ話シタイコトガアル。ソレニ……』

「??」

『ドウモ、ツケラレテイルヨウナ気ガスル……敵意ハナイヨウダガナ、フフフ……』

「はぁ!?」


 そういうと、多川は周りをキョロキョロ見回す。


「はぁ……んなことに自衛隊の秘匿技術使うなよぉ……」


 ハァとなる多川。


『マァ、イイデハナイカ。別ニ減ルモノデモナシ。広報係ニチョウドイイ』

「は? 広報係?」

『ア、イヤ、ゴホン。ナンデモナイゾ……トコロデ、ソノ公園ニ連レテ行ッテクレ』

「あ、ああ、そうか。わかったよ」


 ……少し歩いて、ちょっとした公園に出る。


「このあたりでいいか? で、話ってなんだお嬢」

『……』


 多川がそういうと、シエが首を多川の方へ向け、少し潤んだ綺麗な黄色い縦割れ瞳で彼を見つめる。


『タガワ……』

「ん?」


 その表情で、なんとなく多川も、今日のシエの雰囲気が理解できた。

 いつの間にか、互いの距離を縮めている二人。


『ナァ……コレカラ、私ノコトヲ、“シエ”ト呼ンデクレナイカ?』


 お互いバディ同士、機体の挙動で、何を考えているか通じ合うような仲だ。今更あまりたくさんの言葉はいらない。


「わかった。シエ……」

『ウン……ジャァ私ハオマエノコトヲ“シンジ”ト呼んでイイカ?』


 すると多川は、ちょと眉間に皺を寄せて……


「あ~……それは……お嬢……じゃなかった。シエの声色で、その名前はちょっと……」

『エ……ナゼダ?』


 ちょっと悲しそうな顔をするシエ。


「なんか、逃げちゃダメなような気分になってな、はは……そうだなぁ……“シン”でいいんじゃないか?」

『シンカ……フフ、“シエ”ト“シン”……ワルクナイナ。了解ダ』

「お、言われてみりゃそうだな。シンシエコンビ。はは、ゴロ的に機体番号は680番ってところか?」

『ン? 何ノハナシダ?』

「いや、こっちのこと。はは」


 すると多川は、この雰囲気を逃すまいと、シエに正対して意を決して話す。


「なぁシエ……」

『ハイ……』


 「ハイ」という意外な返事に、ドキっとする多川。何かシエも、待ってましたという感じみたいである。

 

「俺もあまりこういうの得意じゃないんだどな……まぁ、なんだ……その……単刀直入に言うとだな……今日はいい機会だし……」


 と、なかなかに「単刀直入」に言えない多川に、細い目をして笑顔で見るシエ。

 そして、自分もテスタールをかました手前、助け舟を出す。


『シン……』

「え?」

『今日ノ晩餐ダガ、ヤルバーンノ、私ノ家デ食べナイカ? 実ハ、モウ私ノ家ニ用意シテアルノダ』

「え……シエの? 家で? って、シエ、料理できんのかよ」

『アタリマエダ。自慢デハナイガ、ナカナカノ腕ダト思ッテイルゾ……フフ、デナ、今日シンニハ、色々良クシテモラッタ。トテモ楽シカッタ。チキュウへ来テ、イチバン充実シテイタ……ナノデ、次ハ私ノ番ダ……ソノ先ノ言葉ハ、私ガ態度デ示サセテモラウヨ……』


 そう言いながらシエは多川に近づく……


 ……その後、作戦成功の報を入れた、アH……いや、被災者団体の報告。その目撃者は語る。

 ちなみに、画面テロップがあるなら、(*音声は変えてあります)の文字入り。画は、首より下の画像。もしくは顔にモザイク。


「あれは……丁度夕方の一七〇〇か、一八〇〇ぐらいの時間帯だったと思います。丁度、多川一佐がシエ嬢に告白しようとしてたのですが、何かイマイチうまく喋れていないようで、しどろもどろでやらかしていた時なんですが……シエ嬢が何か話しながら二歩三歩と一佐に近づいた時の事です。その後、とても恐ろしい光景を目にしました……それはまるで多川一佐が、アマゾンに生息するアナコンダに捕まった小動物の如く、シエ嬢に絡めとられて……え? 具体的な描写ですか? そうですね……一佐の脚に自分の脚をガッシリと絡めて、腕はまるでその絡めた脚から螺旋を描くように、背中を包み込んで抱きかかえ、縦割れ瞳で睨まれた一佐は、シエ嬢の唇が接近するのを容易に許し、顔面が最接近した途端、彼女の真っ赤な髪で一佐の顔が覆われ……何か男性と女性が絡まったような肉のオブジェがそこに出来上がりました……そして微動だにせず、そこに数分突っ立ったまま……私は一佐がどうなるのかとその光景を心配してしまいましたが、しばし後、そのオブジェは転送光に包まれて、消えてしまったんです……」


 ……事実、その通りなのだが、もうちょっと説明の仕方があるだろうと……

 ってか、完全に『偵察』というよりは……覗きじゃねーかと……


 はてさて、シエにアブダクトされた多川一佐の運命や如何に……料理が先か、ナニが先か……いやはや……




 ………………………………




 次の日。

 イゼイラの鳥類が小気味よくさえずる朝のヤルバーン州。

 無論、その朝の光はゼルホログラフィーな立体映像だが、さわやかである。

 ヤルバーン州行政府から少し離れた幹部用家屋のある場所。シエの家。

 もう今更言うに及ばず、そこで展開される構図は、多川とシエが、寝床を一緒にする構図。

 多川の腕枕でシエさんが寝息を立てる画もこれまたという感じで……いやはや。


 しっかし、二人ともなんとなく律儀な性格というか、なんというかで、どうも昨日後半は、食事を先にしたようだ。

 普通なら、こういうシチュエーションでは、食ったら食いっぱなしで食器は放置。服は脱ぎっぱなしという感じなのだろうが、なんと、ちゃんと洗い物は済ませて、どうも二人してシャワーを浴びたようで、その後、色々とあった様子。

 やはりそこはパイロット同士だからだろうか、そういうところはなんとなくキッチリしていたりする。


 ちなみに、シエの家のインテリア。

 あんな感じのフリュだが、意外なことに女性らしいインテリアな部屋である。

 可愛い系ではなく、壁には絵画が飾られて……なんと、地球の絵画のレプリカ、ジョンコンスタンブルの『フラットフォードの水門と水車場』が、さりげなく飾られてあったり、割といい趣味をしている……もっとパンクなんじゃないのかと思いきや、意外とそういった感じのインテリアが好みのようである。

 地球で言えば、見た感じ……どうもバロック調なイメージのインテリアが好みのようで、確かにシエの雰囲気を考えると、頷けるようなイメージも無きにしも非ず。そんな第一印象であったり。


 という感じで、今日も休みなので、二人して体を寄せてまどろんでいると、多川のスマホが大きな音を鳴らす……


「ん……んー……うわ、もうこんな時間か、って誰だ?」


 そう言って、発信者を見ると、藤堂のようだ。


「……はい、多川です。あ、将捕、どうもおはようございます。いえ、問題ありません……ハハ、かまいませんよ……ええ……はい……………………えっ!!! な、なんですって!!? はい、はい……わかりました。すぐに戻ります……了解です。そんなに時間はかかりません。今、ヤルバーンですので。はい。了解です。では……」


 その会話で目を覚まし、隣で生まれたままの姿というヤツ。所謂、露わな姿で聞いていたシエ。


『シン、ドウシタノダ?』


 まだ少し寝ぼけ眼な目をさすって、艶な恰好で問う彼女。

 ダストール人の本領発揮か、心許した相手には、やたらとスキンシップな対応をするので、さっそく肩に手を回し、その理由を尋ねる。


「シエ、大変だ……どうやら休暇はここでお預けのようだぞ」


 その多川の言葉のトーンに、シエも眠たい眼の眦を鋭くさせる。


『?……一体ナニガアッタノダ?』

「いや、実はな……」




 ……………………………… 




「おはようございますみなさん」

『オハヨウございますでス。ミなさま』


 ヤルバーン州日本治外法権区第一日本大使館にやってきた柏木とフェル。


「おう、おはようさん先生」

「おはようございます。お二方」


 二藤部と三島が挨拶する。

 白木や新見、他メンバーも同じく。

 しかし、諸氏、かなり深刻な顔だ。


「それはそうと、みなさん、急に今日の議題を変えるという知らせを受けましたけど、どうしたんですか?」

『ナにか、加盟式典を行う上で、深刻な問題でも出ましたカ?』


 そんな感じで、少し訝しがりながら、柏木夫妻は席へ着く。

 すると白木が説明に入る。


「いや柏木、実はシャレにならん事件が勃発してしまってな……それに対する対応への協議へ急きょ議題を変えたんだよ」

「はぁ? シャレにならない事態?」

「ああ、たぶん、お前も知っている……ってか当事者だ。フェルフェリアさんも……」

「??」


 何の話だという感じで首をかしげる二人。

 すると加藤海将が、報告書のコピーを二人へ渡す。無論部外秘判がバッチリ押されていた。


「柏木さん、フェルフェリアさん。それに目を通してください。口で説明するよりその方が早い」


 首をかしげながら、書類に目を通す二人。

 すると、段々と二人の顔から血の気が引いていくのがわかった。


「か、加藤さん、これはっ!」

『モ、モシカシテ、あの時の……!』


 すると二藤部が


「柏木先生、多分、以前、あなたの報告書に書かれてあった、あの“太陽系外縁部”での戦闘時に逃げたという敵性体の事ではというもっぱらの予測なのですが……」

「い、いや、ちょ、ちょっと待ってください。あのドーラは、確かにそういう感じで逃げたようなものですが……とてもではないですけど、あの太陽系外縁部から火星圏までこれるなんて……そんなような感じには……」


 そう、今回の会議。議題が緊急で変更されたのは、先の火星での事件が、火星開拓艦隊のダル艦長からティラスとヴェルデオへ緊急伝で報告され、そしてヴェルデオから安保委員会へ至急で報告された。

 今日は本来、焼肉屋での一軒から連合加盟式典の打合せという感じで、普通に会議の予定だったのだが、この事件の報告が入り、それどころではなくなったという感じ。

 そして、この中で当事者である柏木とフェル、その時の様子を語る。なぜなら、具体的なことは現状、今ここにいる人員では、この二人しか知らないからだ。

 すると、ゼルエが、柏木のPVMCGにデータを飛ばしてきた。


『ケラー、そのデータを見てくんねぇか?』

「?」

『その画像データだガ、遭遇したヴァズラーの搭乗員が脱出時に撮影した敵の姿らしいんだ。この中でその姿を拝んでいる人物は、ケラーとフェル議員しかいねぇ』


 柏木はコクコクと頷くと、そのデータをVMCモニターで確認する……


「こ、これは……」


 フェルも横からその画像をのぞき込む。


『……』

「なるほど……わかりました」

『どうだい旦那』

「いや……正直なんともいえませんね。あの時私の見たものは、正味残骸に近いものでしたし、推進機関に相当するものがあるとも思えませんでしたしね……」


 ヴァズラー・アウルド1の乗組員が撮影した画像を見つめる柏木、機械と岩石が入り混じったような物体が、アウルド1底部に張り付いているような構図である。

 ただ……と柏木は続ける。


「あの時の太陽系外縁天体部での戦闘で、もし生き残りのドーラがいたというのなら、おそらく私が報告したあのポンコツだけです。それは間違いありません」

『確かニ……その点は、当時デロニカ・クラージェ船長のニヨッタからも同じ意見が出ているナ……とすれば……』


 柏木は、もしそうならと、一つの疑問が浮かび、それをフェルに尋ねる。


「なぁフェル……ドーラ連中が潜伏する次元溝ってのだけど、漠然とそういうものだという感じで俺たち今まで聞いていたけど、実際のとこ何なのアレって」

『ハイ、詳しいことはジルマ局長や、ニーラチャンが専門なのですガ、実際のところ私達にも良くわかっていない空間なのでス』

「え? そなの?」

『ハイ、所謂ディルフィルドゲートで通る私たちの知る“亜空間”というものとも違うようです。もし亜空間と同じ性質のものなら我々の科学力でも探知できるはずですが、今もって正確なガーグ・デーラを私たちの技術をもってしても探知できませン』

「なら……その次元溝という場所は、フェル達の知る空間科学とは違った理で成り立っている可能性もあるというわけか……」


 そういうとゼルエが補足するように


『アア、ソウ言う事だぜケラー。実は“次元溝”なんて言い方を俺たちはしているが、あくまで連中が出現する現象を見て、そういうイメージで便宜上呼んでいるだけの話で、実際は“溝”なのかどうかもわかんねーんダ』

「なるほど……ということは、連中はその次元溝に潜めさえすれば、かなり自由度の高い状況を得られるということでもありますね……」

『マァ、それが正しいかどうかはわからねーが、そういう推測も頭に入れておくべきだな……確かに

……』


 ただ、ゼルエは、それよりも大きな問題があるという。


「ええ、そのヴァズラータイプが奪われてしまったことですね」

『アア、そうだ』


 そうゼルエが言うと、三島が……


「ゼルエさん、お宅らの、そのガーグナントカとかいう連中との戦闘記録で、過去にヴァズラーのような機動兵器が拿捕されるような事はあったのかい?」

『エエ、ファーダ。確かに何回かはありましタぜ。しかし我々にはそういった際の対応マニュアルがあります。ですんで、すべてのケースで結果、探し出し、破壊処理を行い、事なきを得ていますが……』

「今回は少々具合が違うってワケだな?」

『ハイ、この搭乗員は、咄嗟に、マニュアル通り、ハイクァーンジェネレータを破壊し、通信機器も処分しましタ。その点は良かった』


 柏木が横から


「ハイクァーンは連中の目的ですからね。通信機器は、ハイクァーン同様の技術漏えい阻止ですか?」

『ソレもあるが、今回の場合はこの太陽系を奴さんに知られないようにするためというのもあル』

「なるほど……」

『アア、だから、敵の本体? 本部? 本国か? には知られる心配は今のところナイだろう。ただ……』

「連中の性能ですね?」

『アア、ケラーも、もう知っていると思うが、あのドーラは自律して行動できる高度な機械だ……もし連中の本部ナリ本組織なりに、いかなる手段を用いても帰投するようなプログラムが施されていたら……どうするかだな……』


 今度は白木が割って入り……


「その手段と、可能性のある場所を狙ってくると……」

『その可能性もアル。しかも、その時はヴァズラーと同化し、我々の技術なゼルシステムが取り込まれたドーラだ……ハイクァーンの奪取には失敗したとはいえ、連中のゼル技術よりはるかに高い技術である俺たちのゼルクォート技術を持って帰ることができれば……と当然奴は思って然るべきダロウナ』


 ということは……火星艦隊が襲われる可能性があるのか? という疑問を呈すると、ゼルエは、それはさすがにないと応える。


『ガハハ、さすがにそれはねーだろうな。ンなの、もしダル艦長ントコにノコノコ顔を出したら瞬殺ダ。あの艦隊は、ヴァズラー取り込んだ戦力たかだか一機でドうにかなるもんではないぜ』

「じゃぁ……」

『アア、もし奴さんが何かを狙うなら……このチキュウの技術ダロウナ……もしアイツに考える力があるのなら、地球の技術ならなんとかなるかもしれないと考えるかもしれン』


 そうゼルエが話すと、腕を組んで考えるは新見。


「いやしかしゼルエ司令。仮にそうだったとしても、我が地球の科学技術で遥かウン百万光年、数千万光年彼方の奴らの仲間へ連絡を入れられるような技術があるとは思えないんですが……」


 そういうと、フェルはそれは違うとすかさず新見の見解を否定する。


『ケラー・ニイミ。その考え方は危険デすヨ』

「え? と、言われますと?」

『ハイ、確かに今のチキュウノ技術レベルでは、数千万光年彼方へリアルタイムに近い時間で連絡する術はないでしょうが、彼らには『アル』のでス。ということは、その資材、機器の代替、もしくは基礎原材料があれば、彼らはそれを利用シテ、連絡手段を構築スることガできます……デスカラ……』


 フェル、そしてゼルエが言うには、ここまで自律再生、生存機能の備わった戦闘機械だと、おそらく太陽系で人工的な電波電磁波を発する存在があり、そこが地球で、そこには何らかの知的生命体がいるという思考計算に当然達するだろうと……つまり、そういった基礎科学力がある地球へ『奴』がやってくるかもしれないと話す……


「チッ、ならばやっぱりあの時、何とかしてカタをつけておくべきだったか?」


 柏木が顔をゆがめて後悔の表情。


『ソレはケラーが悔やんだって仕方ないぜ。あの時のカグヤや、クラージェの装備では、次元溝に隠れた連中を発見するのは無理な話だ』

「まぁ……それはそうなんですけど……」

『ただな、そこまで悲観することはねぇ。マズ、仮に地球圏へヤってきたとしても、むしろ地球の兵力の方が、ヤツとは戦いやすい……ゼル端子攻撃さえ気を付ければという前提だがな。いざとなればコッチの兵力も出せる。そんなに気にする必要はないんじゃねーかい?』


 すると、柏木はそういう点を気にしているのではないと話す。


「確かに物理的な対処はゼルエさんの言う通りかもしれませんが……この事実を知った時の世界各国の反応……いい感じはしませんね……」


 ここである。

 確かにいくらそのような大事な事件とはいえ、たかだか通信機能とハイクァーン機能をつぶされたドーラ化ヴァズラー一機、正直言えば、何するほどのものではない。

 だが、柏木ティエルクマスカ統括担当大臣が懸念しているのは、もしこのたった一機が地球世界に何らかの干渉をした場合、それがどんな相手であれ、世界は『異星から攻撃を受けた』とその一点で捉えるだろう。

 となれば、それがたとえティ連に責任はないにしても、以前、例えに出した『相手の譲れない弱みに付け込める為政者』なら……


『ティ連が、そんな厄介な異星敵性体を地球に連れ込んだ』

『そんなのと付き合う日本も同じ責任』

『こんな地球規模の危険を隠していた日本は犯罪国家』


 こういう理屈の組み立て方をして、政治的圧力、交渉を仕掛けてくるだろうと。

 そうなれば、今まで味方だった米国や、LNIF陣営国家もどう出てくるかわからなくなる。

 最悪、以前、フェルの話した『鎖国』という話も出てくるかもしれない。

 まず、ティ連は、彼らの技術を日本以外に流すことは100パーセントない。それはカグヤの帰還作戦で報告したフェルの、かの世界の事情も踏まえての話もあり、それ以前に日本は現在連合加盟国だ。その加盟国以外の地域国家にティ連が技術供与しても何もメリットはない。

 なので、選択肢としては、鎖国という方法しかなくなる……


『ナルホド……そうか、そういう国際関係ってヤツがあったか……』


 柏木からそんな話を聞かされ、頭をボリボリかくゼルエ。

 二藤部や三島らは、さもあらんという顔で、柏木の言う事に頷く。

 そして、やはり彼でないとこういったティ連関連の対応はできないと、改めて認識する。

 フェルも横でその話を聞いて、柏木がどんどんそういったスキルを高めていることを妻として実感する。


「あー……ところで、ヴェルデオ知事は……まだいらっしゃらないんですか?」

『アア、そうか、まだ話してなかったけ?』

「ええ、何か?」

『知事は、今ファーダ・サイヴァル議長とゼル会議中だ。この件でな』

「ああ、そうでしたか」


 と、噂をすればなんとやらで、ヴェルデオが遅れて会議室に入室してきた。


『ヤぁみなさん。遅れて申し訳ない』

『ああ、知事、ちょうど噂をしとったところですぜ』

『はは、そうですか……しかし、なんとも大変な事になりましたな……まぁそのドーラのレベルは……』


 ヴェルデオは先ほどの柏木と同じ見解を改めて話した。


『……ということで、兎にも角にもわがヤルバーン州の全兵力と、カグヤ、そして特危、場合によっては、日本政府へリクカイクウ・ジエイタイの戦力を提供していただき、かのドーラの地球圏侵入を阻止、もしくは、侵入された場合は、完全な破壊を目指して警戒態勢を取らねばなりません』


 すると二藤部も


「それしかありませんか……」

『エエ、しかも難しいのは、このチキュウ世界の今後の外交も鑑みて、極めて隠密裏で処理しないといけない事です』

 

 されば新見も


「ということは、今回、もし事が起こった場合、先の魚釣島事件のような公開は一切できないということですね……」

『そう言う事でス。それまでは、加盟式典も……はは、カシワギご夫妻の式も延期ですな』


 柏木とフェルは、苦笑いでコクコクと頷く。

 ただ……


「無論、コッチも指咥えて待ってるだけ……ってわけでもないのでしょう?」


 と聞き返す。


『エエ、ソコは今、ヤルバーン州技術部と、ヤルケンの皆さん共同で一仕事やってもらえるみたいデス』

「ふむ、その心は?」


 ヴェルデオが言うには、なんでも先のカグヤの帰還作戦時、敵のドーラ母艦を拿捕したわけだが、その母艦の技術解析に成功し、連中の次元溝侵入のメカニズムがある程度わかり、その探知装置の試作に成功しているという。

 そのハイクァーン設計図データを送ってくれるそうだ。

 あと、ヤルバーンには配備されていない、例のディルフィルド魚雷と“そのぶい”機器の設計データも同時に送ってくれるという。


「は? で、ディルフィルド魚雷? そのぶい? なんっすかそれは……」

『アアそうでしたな、ケラーはジャンプした後の事ですから知らないのでしたっけ?』

「??」


 カグヤの帰還作戦当時、柏木達がゲートをくぐった後で使用された新兵器なわけで、彼は今、その存在を初めて知った。

 しかもそれは、地球の兵器や、用兵法……すなわち映画を参考にして考えられた兵器だと聞いて、なんとも驚くやら、なんやらと……


「……が、眼下の敵……ですか……はぁ……」


 すると三島がすかさず


「ロバート・ミッチャムにクルト・ユルゲンスの名作じゃねーか、がはは、先生は知らねーのかい?」

「いや実はテレビの洋画番組で、三回見ました……大ファンです……あの軍歌歌うところがもうね……」


 フェルさん、すかさず興味を示し


『マサトサン、そのエイガ、どこかで見れますか?』

「ん? あ、いえいえ、実はそのテレビ映画の録画、持っていますデス。ハイ」

『ソウなのですか! では一度見せて下サイでス』

「了解でございます」


 と、かような感じで、各関係方面に対応を『きわめて極秘裏に』進めることで、とりあえず今日の会議は終了した。

 しかし、なんともかなわん話である。

 敵自体は、正直言って大したことはないのかもしれない。ただ、その存在が判明した場合の影響力が破壊的なのだ……頭の痛い話である……


 その後、柏木は二藤部達と諸々打ち合わせを行う。

 無論、党内外の対応だ……これはさすがに事が事だけに、身内ですら安易に話せるものではない。

 なので、安保委員会登録メンバー以外への他言は厳禁とし、超機密指定とした……恐らくこの事件は、解決したとしても歴史には残らない、そんな扱いの事件になるのであろう……


 その後、ヤルバーン行政区のレストランで喫飯するフェルと柏木。

 その中で、先の会議では思いつかなかった幾つかの疑問をフェルに問うた。


「なぁフェル、あの次元溝ってヤツなんだけど……まだ少し疑問があってさ、聞いていい?」

『ハイです。私でわかる範囲であれば、お答えしますヨ』

「うん……ドーラがこの時空間へ出現できる場所って、惑星内でも可能なのかな?」


 つまり、宇宙空間でのみ、次元溝への出入りができるのか? それともそれは惑星上でも可能なのか? という事だ。


『過去ニ、惑星上で次元溝転移したドーラのデータはナイですヨ……但し、ナイからといって、デキナイ。シナイというのとは違うとは思いまスが』

「なるほど……」

『恐らくはデキナイと思います……もしできるのなら、ソレを使って、惑星に奇襲をかけて、目的を達すれば良いわけですシ……』

「確かにね、こっちゃ探知できないんだから、それができるなら、それやりゃあ一番手っ取り早いわな……ということは、もし地球圏にくるとなれば、必ずどこかで姿を現すということか……その瞬間が潰すチャンスだな……」

『ソウなりますネ……』

「あとは、何時ごろ出現するか……という事か……」




 ………………………………



 

 さて、そんなややっこしい展開になってきたこの世界。

 しかし世には、そんな状況すらモノともしない、これまたメンドクサイ人種もいたりする。

 柏木達、そしてシエや多川達が、この急な事態に頭を抱えていた丁度その頃、とある場所でかような状況を普通に受け止め、ビックリするどころか、次への新たなステップぐらいに思っているどうしようもない連中が一部いた。


 さてそんな連中がたむろする場所。

 ヤルバーン日本治外法権区。居酒屋『ぼだ~る』

 店員の「いらっしゃいませ~」「よろこんで~」の威勢のいい掛け声が響く。

 最近、パーミラ人店員とカイラス人店員が増えたよう。賑やかな話だ。

 そこを会議室と称し、集まる『日本国防衛省技術研究本部ヤルバーン研究所』に所属する兵器バK……いや、優秀な技術陣達。

 彼らも、かような緊急の報を聞き、なおかつイゼイラから新型兵器の技術をデータ提供してもらえるという事で、張り切っていた。


「主任、で、イゼイラから例の探知装置データ、届きましたか?」

「ああ。何ともこれまた理解しがたい代物で、正直『ハイ』でとりあえず造って、使ってみるしかないような代物なんだけどな」


 『ハイ』とは、ハイクァーンの最近流行っている技研内での呼称だ。


「ってか、そんな次元溝なんてもの、さすがに俺たちにゃわかんねっすね」

「おう、で、あと二つ。例の『魚雷』と『ソナーシステムのようなもの』だが、ははは、あれは良くできてる。確かに海自の資料をよく研究しているな」

「ええ、何かまるっきりあの宇宙戦艦アニメな世界丸出しの武器でしたね」

「ああ、それをあの映画見て用兵するってな……なんともはやだぜ」


 お前らも似たようなものだろうと誰かは思うだろうが、ま、それはそれ。

 で、このヲタ……いや、優秀な日本の誇る防衛技術者は、今事件が良いきっかけとばかりに、またトンデモなものを用意しているようである。


「今回の各種システム……旭光ⅡやF-2HMその他諸々な兵器で運用させるわけですよね?」

「おう、まぁ何というか、新型の探知装置は俺たちの作った兵器へ積む分には何とかなりそうだが、このディルフィルド魚雷とかいうのが、ちょっと難儀だな……」

「というと?」

「ちょっち……大きいな……」

「大きいっすか……」

「うむ、で、大きいので仕方ないから、あのげんざいかいはつちゅうの、機体につんでみようかなぁ~なんておもっているわけですが、どうでしょうかみなさん」


 わざとらしい棒読み口調で能書きを垂れるどうしようもな……いや、日本の将来を憂う技術者達。

 とはいえ、確かにディルフィルド魚雷だが、小型化したとはいえディルフィルド機関を積んで空間跳躍するような兵器なので、機動兵器に搭載する基準でみれば、まだかなり大型な兵器なのは確かである。


「ということで、作戦としてはだな、この魚雷をマトモに積んだら、機動兵器じゃ他の搭載兵器の積載に問題が出る、従って、ハイ機器を魚雷造成専用でもう一つコイツに積んでだな……」


 彼らがビールにツマミを置くテーブルに、設計図のようなものが拡げられている。

 そこに書かれている題字。


 しかし残念なことにタブレットが覆いかぶさって、全部読むことができない。

 読めるのは……『メカ・ツァ……』と書かれた一部のみ……


 何やら大型の機動兵器設計図のようだ。試験ナンバーも打たれてある。ということは

モノはあるということだ……また何かやらかしそうなヤル研のみなさん……


 しかし、もうクリスマスや年末で大忙しという時期に、連中もなかなかにややこしいことをしてくれると……しかも今回は公にできない事件である。難儀な話だ。


 これが解決せんことには、加盟式典やら結婚式やら、そんな話も後回しになってしまう。



 この問題、やはり、放置はできまい……

 日本政府にヤルバーン州。水面下で臨戦態勢であった…… 

 



読者皆様。新年明けましておめでとうございます。いやはや、入院中、あまりにヒマなもんで、コツコツ書いてた本作ですw

お楽しみ下さい。


それでは本年も、本作共々、よろしくお願い申し上げます。


柗本保羽

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