-40-
水曜日17:00 阪神テレビ
華麗なBGMとともに、スタジオの風景が映し出される。
若いアナウンサーが自己紹介をし、水曜日のコメンテイターである、有名シンクタンク社長を紹介する……今日の彼は、パリっとしたスーツを着こなし、左襟にはブルーリボンバッジ。
これは、北朝鮮に拉致された日本人の奪還と、無事を祈る日本では有名なアイテムである。
二藤部もこのバッジをいつも襟につけて国会へ臨んでいる。
若いアナウンサーが冒頭茶の間への挨拶の後、今日の内容を解説する。
「……今日はですね、通常の内容を大きく変更しまして、もうみなさんもご存知かとは思いますか……蒼島さん……」
「はは、そうですね。先程もこの阪テレの前、4時ぐらいだったかな、もう、ものすごい数の人だかりで、私もびっくりしましたけど……」
「そうですねぇ……ということでして、本日はゲストとして、先日も大きく報道されました、かの、内閣府ティエルクマスカ特命担当大臣の柏木真人さんと、なんと、その奥様になられました、もうみなさん知らない人はいない、イゼイラ星間共和国、そして、ティエルクマスカ銀河共和連合旧皇終生議員で、今解散後、自保党の比例代表近畿ブロックから出馬された、フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラさん……」
「岳安ちゃん、そこはちゃんと言わなきゃダメだよ、彼女は日本国民になったんですから」
「はい、そうですね。えっと、日本名、柏木迦具夜さんと、前半時間全て使って、対談していただくという、もう物凄い特集内容ということで……色々とお聞きしたい内容、沢山おありになるんじゃないですか?」
「はい、もうそれは沢山どころか……時間が全然足らないんじゃないかと……柏木大臣の方は、大臣でありながら国会出席免除という、普通なら考えられない特権っ……ていいましょうか、そういう方ですからね。もう彼自身がヤルバーン事件以降、紆余曲折あって、『特定機密』状態のような感じで、政府の役職にいながら公式記者会見以外、マスコミの前に全く姿を現したことがないという……そこまでしての事ですから、一体柏木大臣がどういう仕事をしていらっしゃったのか、まぁそういった所も色々とお訪ねしたいと思っています、ハイ」
「で、柏木迦具夜さんですが……」
「いやぁ~……これはどうしましょうか、ははは……私もさすがにこういう異星の方との対談なんていうのは、まさかゆめゆめ思っていませんでしたのでね……もうホント映画の世界じゃないですか。こちらもお聞きしたいことがもう山のようにあって、ホント時間もっと欲しいですよね、本当に楽しみです」
冒頭、そんな風に話すアナウンサーと社長。
そして、CMに入る。
『……ア、マサトサン。ネクタイちょっと曲がっていますヨ』
ダンナのネクタイを直すフェル。
横で護衛のシエとシャルリがニヤニヤしている。
「あ、ああ、いやはや、緊張するなぁ……」
『私もでス。こういう報道形態のバングミに出るのなんて初めてデスから……』
柏木は部下の役人を、指をクイクイ曲げて呼ぶ。
「はい、何でしょう」
「あの~ もうほとんどの事、話してもいいんですよね?」
「ええ……特にこれといった特別なことは聞いていませんが」
「北朝鮮の例の件とかは? ヤルバーンがやってる施策の……」
「そちらは管轄がヤルバーンの方ですので、私からは何とも……」
するとフェルが
『マサトサン、その点はヴェルデオ司令から許可貰ってるデすよ。アノお方』フェルは蒼島という社長を指さして『……は、その事件に深く関わっていらっしゃる方とか』
「ああ、んじゃその話題出た時はお願いするよ、フェル」
『ハイです』
するとADが「入ります」と一声。
CMが終わり、本番になる……
「では、みなさんお待たせいたしました。内閣府ティエルクマスカ担当特命大臣、柏木真人さん。そして、イゼイラ星間共和国、ティエルクマスカ銀河共和連合旧皇終生議員を休職され、衆議院選挙に比例区で立候補予定の、柏木迦具夜さんです」
ADやスタッフが拍手。
岳安と蒼島、そして女子アナも拍手で迎える。
柏木とフェルは、平手で誘われ、用意された椅子に腰を掛ける。
今回は蒼島との対談特番なので、岳安と女子アナは後ろに下がり、カメラは特設の対談席に合わせる。
「初めまして大臣、蒼島と申します」
蒼島は手を差し出して固く柏木と握手。
「お初にお目にかかります迦具夜さん……でよろしいですか?」
フェルとも握手。
「親しい方々からは“フェル”と呼ばれております。ケラーもかようにお願い致しまス」
テレビ画面には、柏木とフェルの名前と役職が下に映っているようだ。
チラとモニターを見るとそんな感じである。フェルの名前には、柏木迦具夜という文字の下にカッコで(フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラ)という文字が入っている。
フェルさん、公共電波の第一声。彼女は今日、翻訳機を切っての地声で日本語会話に挑戦だ。
ハモるような、綺麗な和音の日本語、岳安や蒼島、女子アナも驚いていた。
無論それは地球人にはありえない声色だからだ。
蒼島は解説する。
「えっとではフェルさん。確か、そのケラーという言葉は、イゼイラ語で“ミスター”や“ミス”のような言葉なんですよね?」
「ハイ、左様で」
とまぁそんな感じで、対談開始だ。
蒼島はカメラ目線で……
「えー、今日はですね。ホント、実はこのスタジオ、物凄い状況になっていまして、SPに、ヤルバーン側のボディーガードさんがたっくさんいらっしゃっていて、かの『ブルーフランスハイジャック事件』でご活躍した、キャプテン・ウィッチで有名なシエさんもいらっしゃっています……カメラさん、あちら映してください」
カメラはシエ達のいるスタジオ裏方で向ける。
カメラを向けられると、シエとリアッサは、軽く地球式敬礼をし、シャルリとリビリィはティエルクマスカ敬礼をしていた。
「どうぞみなさんもこちらへ……」
そう言うとシエ達はお互い顔を見合わせてウンウンと頷いて、顔の前で手を横にふる。遠慮しますということだ。
彼女達もプロである。護衛は護衛に徹するということなのだろう。
蒼島はその事を理解したのか、笑みでウンウンと頷いて、柏木達の方へ視線を合わせる。
「あ、そうだ、お二人とも、ご結婚おめでとうございます」
「あ、いえ恐縮です」
「アリガトウございます」
「私も、芸能レポーターみたいな事、あまりお尋ねしたくはないのですが、恐らく私も色々と、あのヤルバーン飛来事件からこの件を調べていてですね……柏木大臣が、内閣官房参与時代に、ヤルバーン乗務員の方々を日本に上陸させた件、あの時から色々と噂は立っていたようですが……その馴れ初めっていうところですか、実際の所どうなのですか?」
すると柏木とフェルはお互い顔を見合わせて微笑し、
「はは……まぁ、今でこそ言えますけど……はっきり申し上げればその通りです。な、フェル」
「ハイです……」
フェルはポっと頬染める。
「はは、いや申し訳ありません。まぁこんな事お聞きしたのは、丁度その頃からヤルバーンと日本の交流といいますか、国交へ向けての話がトントン拍子に進んでいったという感じを受けていましてね。この番組でも、何回かご出演を依頼するお話を、二藤部総理などにもお話しさせていただいたのですけど……」
「ええ、承知しています」
「あ、やっぱりそうですか」
今となっては懐かしい話である。確かにあの時、この番組へ出演してみないかという話はあった。
「……しかし、あの時、私も蒼島さんをご尊敬申し上げていましたので……」
「ありがとうございます」
「いえいえ、で、本当は出てみようかなという感じはあったのですが……まぁ今でこそ言えますが、当時は私自身、結構各国の情報機関や、工作員から常時狙われていたっていうのがあったんですよ。で、もう公安さんが四六時中護衛について下さっていましてね。以前記者会見でお話しした渋谷の一件などもそうなのですが……」
「ええ、覚えています。確かこの番組でも以前取り上げたことありますよ」
「はい、まぁそういう事もありまして、当時は、私と関わった人間が、なんだかんだで、多かれ少なかれそういう事に巻き込まれてしまうんじゃないかって、そういうところがありまして、もうマスコミ関係のお話は片っ端からお断りしていたという。そういうことなんです」
柏木は、今までマスコミの前に姿を表さなかった真相を話した。
で、たまたま公安やSPの護衛なしの、プライベートな時にその事件に巻き込まれ、フェルに救ってもらった事も話す。
このあたりは、以前の記者会見でも、冗談を交えて話したことだが、その真相を具体的に話した。
で、その時には、もう二人は良い仲になっていたとも……
蒼島は「ほー」という感じで頷きながらその話を聞く。そういう真相があったのかと。
「で、フェルさんにも、お聞きしたいのですが……もうフェルさんといえば……私もあの柏木大臣がイゼイラへ帰国する時の総理会見や、宇宙空母と巷で言われている宇宙船や、先日のヴェルデオ大使との共同記者会見を見てて、もう何回もひっくり返って椅子から転げ落ちそうになったのですが……例の『竹取物語』の件ですけど、本当に最初は信じられなくって、あれからすぐに浜官房長官に電話して、本当か! って感じで確認したぐらいでして……」
「ウフフフ、はいケラー、そういう事でございます」
すると蒼島はカメラ目線で、
「……視聴者のみなさん、これは本当にすごいことなんですよ。もしね、あのお話が事実だ……いや、もう事実なんですが、日本の国体や、今まで語られていた歴史そのものが変わってしまうというぐらいの事なんです……」
で、彼はまた視線をフェルに向け……
「……そこでお聞きしたいのですが、二藤部総理が記者会見で、今上陛下がイゼイラ議長、サイヴァル・ダァント・シーズ閣下にお贈りしたという贈答物で、フェルさんのご先祖であらせられるナヨクァラグヤ帝が、我が国の誇る物語作品である竹取物語に登場する、『なよ竹の迦具夜』のモデルであった可能性があるという事ですが……一体今上陛下は何をお送りしたのですか? 私もこの件についてですね、宮内庁の関係者等にも問い合わせたのですが、知らぬ存ぜぬで、やはりそこのところというのは気になるところですので、もし、差し支えなければここで公表していただくということは……」
柏木は少し考えこんで、目線を裏方の方へやると、部下の役人が腕を丸印にして掲げたので、コクコクと頷くと……
「いや、申し訳ありません、ちょっとお話して大丈夫なのかなと思いまして」
「いえいえ、ご無理なら」
「いえ、今、向こうでいいって合図が出ましたから、はは……で、その内容ですけど、一つはもう記者会見で公表されている、まぁ、あの薬品ですが、もう一つありまして、それは扇……扇子だったんですよ……」
柏木は、例の鳥の羽で出来た扇の事を話した。
そして、その扇子、天皇家で出所不明の品物で、今上天皇が生物学者的な勘で、ヴェルデオやフェルの頭髪を見て、良く似ていると感じ、渡したものであると語った。
その後、イゼイラでその扇が検査にかけられ、材質にイゼイラ人の遺伝情報が入っていたものだったと……
それを聞いた蒼島は目を丸くして
「本当ですか!」
「ええ、実はあの会見の薬品よりも、そっちの方が重要視されまして……まぁそりゃそうですよね、なんせ『遺伝子情報』っていう動かぬ証拠が出てきたわけですから……」
この情報、本邦初公開である。
阪神テレビ、値千金の話を聞き出せた。
するとフェルが気を利かせて、自分の髪を一本「イテッ」という顔をしながら引っこ抜くと、それを蒼島に渡す。
「ほう……これで作られていたと……」
「ええ、そうなんです」
「あ、どうもすみません、ありがとうございます」
その羽髪をフェルに返そうとすると、フェルは
「イエイエ、どうぞお収め下さい」
と平手で抑える。
「え、ああ、すみません。いい記念になります。」
柏木もおどけて
「本のしおりに良いですよ」
フェルも「そうですね」と笑っている。
蒼島も
「これって公職選挙法違反になりませんかね?」
「髪の毛渡して、それはないでしょう」
とそんな話で場を和ませる。
しかしフェルさんの羽髪……ソッチ方面の人の有資産価値は……いやいや……
選挙後、かのマジコン議員が文句言ってきたりなんかして……
とまぁ、他、イゼイラへの渡航の話やら、今後のティ連との付き合いで変わるだろう日本の法制、そして国際情勢の話など、そんなところを話す。
……この蒼島という社長。非常に熱血漢で、所謂良い意味の方での愛国者だ。そして紳士的である。
彼の主催する講演会は、常に時間無制限のぶっ通しで6時間ぐらい軽くやる人物という事で有名で、そんな講演を、ほぼ毎日こなす。いつ休んでいるのだろうと思うほどだ。
会員用講演会では、その後の食事会で、Tシャツ姿でざっくばらんに酒でも飲みなながら会員とバカ話をしたり、社会問題国際問題を討議したりと、フランクなところもある。
一度、超初期のガンが見つかり、活動をしばし休止したことがあったが、それでも退院直後に発症した腸閉塞になりながらも講演をこなすという、ちょっと無茶なところもある……
そして、時間は瞬く間に過ぎ、残り30分を迎えると……この人物がライフワークに掲げる問題へ、話が移る。
「……で、フェルさんも、今後日本でご活躍なされるという事で、もし当選なされた暁には、ヤルバーン事件以前から我が国が抱える問題の対応も当然出てくるわけですが……」
初の異星人衆議院議員、ほぼ確定のフェルという感じで、蒼島は質問する。
流石に現状では「ほぼ当選確実だ」とは、テレビ的には言えない。
「ハイ、ケラーが仰りたいのは、ノースコリア国のニホン人誘拐事案と、『氷結型天然可燃ガス』事案と、フクシマという自治体の、『ヂレール核裂エネルギー施設』の件ですネ」
「ヂ、ヂレール……?」
蒼島はその言葉に訝しがる表情をするが、柏木がすかさず「イゼイラの科学用語で原子力の事だ」とフォローする。
「あ、なるほど、はいそうです。先日の共同記者会見で、ヴェルデオ大使は『日本の主権は、ティ連の主権と同義』とおっしゃいました。とすると、現在日本はそういった、ヤルバーンが飛来する以前の国際問題というものをたっくさん抱えています……他には竹島問題にしてもそうですし、北方領土問題……そういった問題を、イゼイラ人としての立場で、今後我が国が連合加盟を正式に成し得た場合、どういう立場でこれらに対応すると……フェルさんはお考えですか?」
フェルはコクコクと頷いて蒼島の話を聞く。
そして……
「マズ、前提として考えなければならないのハ、我が連合は『連邦』ではナイという事デス。従って、各個別の国家が抱える問題というものハ、第一前提として、その国家が主体となって、解決する必要がありまス。そして、それが国家的な危急の事態であれば、尚更、その国の国民が、断固たる意志を持って、その解決に臨む必要がありマス……」
フェルは、つまるところ、ティ連は相互理解と相互協力を前提にした組織であり、やはり各個別国家が抱える問題は、その国家の主権で解決する努力が必要だと話す。
でなければ、その国の国民が真剣でもない物に、連合全体が協力するということは矛盾が生じる。それこそ本末転倒になってしまうと。
そして、各加盟国国民が、その国民の総意として、渇望し、希求し、悲願とする問題で、その国だけではなかなか解決が難しい問題であれば、そして、その国の国民全員がその解決を望めば、連合は必ず総力をあげて手を貸すと。
しかし……逆に言えば、そうではない場合……もしくはそう見えない場合……
その場合は、各個別国家で解決可能なのだろうと判断され、連合は干渉してこないと……
そして、国民の総意が見えない場合、『問題』とすら認識してくれない場合があるかもしれないと。
そういった点を、イゼイラとティ連議員の立場も踏まえて、フェルは蒼島に説明した。
彼も、その言葉に深く聞き入り、ウンウンと頷く。
「……デすのでケラー、先の『ウオツリジマ事件』でも、ヤルバーンが結果的に協力し、そしてイゼイラや、ティエルクマスカ連合本部が、ニホン国に連合加盟をお誘いしたのも、友好国としてのニホン国とニホン国民の、譲れない主権問題と、我が国とニホン国の外交上重大な問題がうまく噛み合った結果といっても良いでしょウ。イゼイラや連合は、ソの状況をズっと見ていました。ですので動いたのでス……ですから、もしケラーが仰るニホン国の問題が、かように重大なものであれば、ニホン国国民の皆様は、総意をもってその問題を解決したいという意思を連合に示さねばなりませン……私が今回、イゼイラとティエルクマスカの議員を休職して、シュウギインギインのお誘いを受け、立候補させていただいたのも、そういったところををお手伝いしたいと思ったからデス」
蒼島は、恐らくフェルという人物を試したところもあったのだろう。
しかし今の言葉を聞いて、彼はこの女性が只者ではないということを悟ったのかもしれない。
なぜなら、彼女のいう言葉は、常々蒼島が講演会や、テレビを通して言ってきたことと同じだったからだ。
そう……連合国家という主権があるとはいえ、その個別国民が真剣にならないことに、どこの誰が手を貸してくれるかという事だ……考えてみれば至極当然であり、当たり前の話である。
では、この日本に住む国民は、その当たり前の話を、ティ連が重大な問題で、連合規模の懸案だと認識するまでに考えたことがあるのか?……といえば、どうだろうか? それは日本国民自身が自覚しているはずである……
フェルのこの言葉は、少なくとも関西全域に放送された。
おそらく録画され、動画サイトにも著作権的に問題があるのかもしれないが、投稿され、結果的に言えば、日本国民全てがこのフェルの言葉を知るだろう。
今日、フェルの語ったこの言葉。今後のティ連加盟で、重要な点である。
ただ……それでもティ連には、日本は『聖地』であるという大前提がある。
その事はさすがにフェルも自重して話さなかったが、恐らくイゼイラやティ連はその事も彼らの主観で組み入れて対応するであろうから、そこは普通の加盟国とはかなり違ったところなのだろう。
しかし、それは連合という共同体のあり方を考えた場合、今はまだ話さない方がいい……
蒼島は、フェルのその言葉に、全く同意だと語る。
まずは日本国民全てが、この問題に真剣に取り組んで、その意志を見せないといけないと。
それは、ティ連中央の協力云々以前に、日本人として考えなければならない問題であると。
「ソウですケラー。なので、私はこの国の議員に立候補するデスよ。そしてニホン人として、かつ、イゼイラ人として、連合の共通課題であるということを発信していく責務があると思って、議員立候補の申し出を受けたデス。でなければ、私が立候補する意味など、アリマせんから」
……実際のところを言えば、蒼島が話した先の三つの問題。
ヤルバーン側である程度の解決させる道筋はできている問題なのである。
福島原発の問題は、先の通り、カグヤの母港化を目指して、現在メルヴェンと特危で次の作戦として既に稼働している。
北朝鮮拉致問題は、拉致被害者のバイタルデータをヤルバーン側が一部既に取得しており、その所在の割り出し作業を進めている。その作業が終われば……理屈でいえば、即転送回収ができるということでもある。但し、逆に言えば、バイタルデータがないと色々と難しい側面もあり、まだ万事準備完了というところまでは行っていないそうである。
領土問題に関しては……
尖閣については、一応の決着を見た。
かのティラスの警告通り、今度あそこで中国がなにかやらかせば、確実に連合全体の問題として、次こそは防衛総省が動く。
そうなると……次はVRで済まなくなる可能性がある……
そして他の領土問題にしても先のVR作戦が相当効いたのか、今や日本へ何とか自国の利益になるように、日本を懐柔しようと特定国家の工作が必死なようではあるが……まぁ、竹島に関しては完全に不法占拠なので、とっととお退き頂くか、叩き出すかが前提。
北方領土は現在在住しているロシア人の帰属問題やら何やら、結構現実問題としてややこしいところがあるのも事実だ。
そして、今あそこをいきなり日本に返還されても、実は日本としても正直困るところがあるのも事実なのである。
なので、ヤルバーンで現在利用している『租借』形式での折衝や、『帰属の明確化』『租借対価』の話も含めて、現実的な話し合いが進められている。
柏木も、さすがに尊敬する蒼島といえど、そこまでの『機密情報』は話せないが、そういったニュアンスを彼は匂わせて話す。
……そして、一時間の対談は、あっというまに過ぎた。
「……いや、本当はもっと色々お話したい事はたくさんあるのですが、時間が来てしまったようで……また機会がありましたら、スタジオの方にいらっしゃって頂けますか?」
「はい、とはいえ、これから選挙が控えていますので、落選したらただの人ですからね」
「ソウデすね、ウフフフ」
「いや、フェルはイゼイラ議員さんに戻って、俺養ってくれるんだろ?」
「はは、もしそうならわが社に来てくださいよ、雇いますよ」
そんな冗談を言いつつ、番組は終わる。
この番組、いつもギリギリまでやるので、終わる時は何か妙に尻切れトンボな終わり方なのだ。
そして、18:00以降は、キー局ニュースに入る。
「どうもありがとうございましたー」
ADの声が飛ぶ。
と同時に、シエ達も柏木の周りに集まってくる。
蒼島もその中に混ざり……
「いや、どうも柏木大臣。楽しかったです」
「いえいえ、蒼島さんも。この間ホームページで見ましたよ……体に気をつけて下さいよ……休んでいらっしゃるんですか?」
「はい、大丈夫ですよ問題ありません」
多分、この人基準の「大丈夫」は、普通の人の「大丈夫」ではないだろう……
蒼島はシエやシャルリ、リアッサ、リビリィとも挨拶をしていた。
特に、シャルリの体には興味津々のようで、足や腕を触らせてもらっているようだった。
シャルリは、グーにパーをしたり、指をチロチロと器用に動かしてみたり……蒼島は感心しきりで感動すらしている。この技術があれば、多くの身体障害な人が助かると。
シエはニコニコ愛想笑いはするが、一言も喋らない。
なんせ彼女たちは、相手に対して無意識に「オマエ」と言ってしまうので、そこは彼女達なりに自重していたようだ。
但し、みんなして記念写真は撮った。
なんせマスコミ初の異星人出演だ。そうもなろう。
……そして阪神テレビを出る。
正面ロビー前には、まだ黒山の人だかりができている。
普通なら裏口から……という話になるのだが、一応これも選挙運動の一環なので、彼らは正面ロビーから出る。
他局他社のマスコミのフラッシュが炊かれ、相も変わらずで、やんやの騒ぎだ。
ファンからの声援が飛び、それに応える。
その日、他社ニュースの第一報も彼らの話題で持ちきりであった。
後から聞いた話だが、この関西ローカルなこのニュースの、今日の特番。本日だけは、関西以外でも特番編成で放送されたようである……まぁそうしなければ関西以外の視聴者は納得しないだろう。
「はぁ……ハラ減ったなぁ……」
『ウフフ、そうですネ。ちょっとお腹がスキましたね』
「帰ってから、みんなでどっか食べに行くか?」
『ハイ、それがいいかもしれませン。ケラー・ミサト達も誘って、どこかに行きましょウ』
そんな感じで、来た道を戻っていく柏木達……
車の中での会話……
「……でもさフェル」
『?』
「今日は、結構フェルも鋭いこと言ったね?」
『エ? 何がデすか?』
「いや、ほら、蒼島さんが例の拉致事件とか、原発対応の話を振った時だよ」
『アア、あの時のお話デすか』
「うん……俺もフェルとこうやって夫婦にまでなったけど……ああいう政治のことを俺の前で……いや、俺達の前で話したのって初めてじゃないか?」
『ソウですね、言われてみれば確かニ、でも、イゼイラ議会で話していたでしショ?』
「あれはああいう場所だったからだし……それに、まぁ、話の流れはある程度見えていた話だったしな」
『ソうですねぇ……で、それがドウカしましたか?』
フェルがそう言うと、柏木はフェルを細い目で見て……
「いや、やっぱフェルはプロの議員さんなんだなってな」
『フムフム』
「今日のあの言葉、公共の電波で、少なくとも関西圏津々浦々まで跳んだわけだよ……ま、間をおかずして日本中に伝わるんだろうけど、フェルさん、結構日本人として考えさせる話をしたんだぜ?」
『ん~、あのお話は至って普通の事だと思いマスけど……』
「ああ、フェル達にとってはそうなんだろうね……でも、今日も蒼島さん、フェルの言うことにとても納得してたけど……そしてフェルの言っていたことって、とても当たり前の事なんだけど……それがなかなかできていないし、また、そう考えても、色々制約があって乗り出せないのが、あの件なんだよなぁ……」
『……』
「確かにフェルの言うとおりにやれれば……いや、その三分の一の行動でも起こせてれば、みんな解決しているかもしれない事ばかりだ」
『ソウデすね、このニホン国のいろんな事情を私も調査してきましたけド、色々と足かせがあってなかなか進展していない事が多いみたいでス』
フェルも腕を組んで、柏木の疑問をさもありなんと聞く。
「フェルは、そこのところの原因ってなんだと思う?」
『エエ、イゼイラ人として、客観的に見れば……結局、“メイジイシン”と呼ばれる革命事件以降の、この国の地政学上の位置、周辺国家の政体、ニホン国の資源保有率、国民の民度、国民気質……いろんな事で、他の地域国家より特異な事が、事象、因果律を含めて、同じような根源的問題としてこの国にハのしかかってイルように思えるデス……それは単純に、今目先の“憲法がどうの”とか、そういう問題ではないように思えるデすよ』
柏木は口を尖らせて、フェルの話を聞く。
なぜなら、もっと単純に、その“憲法がどうの”とかいった事を話すと思ったからだ。
しかし、彼女の見解としては、そういうものではないのだろうという。
そして……
『私が思うニ……ニホン国とチキュウの他国を比較した時、その国民の気質が他国と比較して決定的に違うのは、ココではないかと見ているでス……なにせ、ウフフフ、マサトサンみたいに、ウチュウジンサンと初めて出会って、告白しちゃうぐらいの国民サマですから、ウフフフ』
「おいおいおい、もうそれを言うなって……もうすっかり俺が最初にコクった事になってるじゃないか、ははは……」
俺の家に押しかけてきたのは誰だよと……まぁ言葉に出しては言わないが……
しかし確かに世はそんな感じだ。
さっきの、阪神テレビの話ではないが、人外丸出しなフェルにファンは「フェルさぁ~ん」と声をかけ、あまつさえ「柏木と別れろ」とまで言い、「柏木死ね」とまで言う。
そして、田中さんはイゼイラ人デルンに惚れてしまい、多川もシエと良い仲だ……そうだ。
これがイスラム教国や、敬虔なクリスチャンならどうなったのだろうか?
韓国で「ザムル族」はどう扱われるのだろうか? これは分かる人には分かる疑問だろう。
「……でさ、フェル。もしフェルがそう思うなら……今の日本と他国が抱える問題って、どうすれば現状の日本としての状態で……解決すると思う?」
『フム………………極論でイイですカ?』
「ああ、まぁ頭の体操みたいなもんだ。教えてよ」
『簡単な話デス……かかる問題をティエルクマスカ技術の武力で解決させた後“ 鎖国 ”すればいいだけでス』
フェルから出る意外な言葉に、更に口を尖らせる柏木。
サスガと言おうか何と言おうか……スっとそんな言葉を繰り出せるフェル。すごいと思う……
『……そうすれば、何も考えることはないでス。ニホン国は、ティエルクマスカ連合各国とお付き合いしていれば済む話デス。簡単な事デすよ』
「……」
『デも、そうすれば、私がワザワザ、ニホン国の議員サンに立候補する必要なんてナイです……それが簡単にイカナイから、私が立候補スルのでしょう?』
「ああ、確かにそうだな……その通りです」
いやはや、参ったと思う柏木大臣。頭をポリポリかく。
おそらく、日本の政治家では絶対出てこない回答だ。
あの保守本道な日本立志会から別れた『新時代の党』でも、ここまでの回答は出てはくまい。
思えばこの問答を蒼島とさせたかったなと思う柏木。
(なるほどね……これで新人議員って……やっぱ違うよな、フェルは……感服するよ)
……そんな話をしながら、車は豊中方面へと走る……
………………………………
その日の夜。
帰宅したのは21:00前。
柏木は、山田の家に着くと、着替えるモノも着替えず、テレビを付ける。
すっかり忘れていたが、今日、ある番組がNHKで放映されることを思い出したからだ。
フェルも柏木からその話を聞いて、彼女もPVMCGで即、部屋着に着替えて、ソファーに座り、テレビに見入る。
その番組……
NHK特集番組だった。ビデオもしっかり録画予約した。
NHKの特集番組と言えば科学番組である。しかし今回のはちょっと趣向が違う。
さて、今回の科学番組。タイトルは
【遙かなるヤルマルティア】
実は、例の山代アニメの新作【真伝竹取物語・遙かなるヤルマルティア】の放映権をNHKが買い取り、同局で放送される事になったそうだ。
その番宣も含めた、イゼイラ史を検証する科学番組だ。
製作途中のアニメ映像なども挿入して、イゼイラの歴史を紐解きながら、番組は構成される。
『……私達の住む惑星、地球から、約5千万光年離れた銀河、NGC4565銀河です。私達がニュージェネラルカタログコードという番号で呼ぶこの銀河には、もう一つの呼び名があります。それは……ティエルクマスカ銀河系……』
NHKの美しい声の、聞き慣れたナレーターが、学術的資料映像と、CGを合わせた情緒的な映像をバックに解説する。
『……1785年にイギリスの天文学者、ウィリアム・ハーシェルによって発見されたこの銀河は、地球から真横に見ることができる銀河として有名です……しかし、この果てしなく遠い宇宙にある銀河系。そこには命あふれる驚異の世界が存在したのです……そのきっかけとなったのが、201*年に起こった、かの“ヤルバーン飛来事件”でした……』
NHKらしい学術的な解説が語られていく。
大きくタイトルが映し出される。
【遙かなるヤルマルティア・第一回 古代イゼイラ史】
そこで登場するは芸能人。ちょっと前に坂本竜馬を演じた歌手であり俳優な人物だ。
その彼が、ヤルバーン事件でティ連人との接触までの経緯を淡々とした口調で語る。
そして次に登場するのは、合成画像で登場する新作アニメの第一部主人公のイゼイラ人青年だ。
CVは、七つの声色を持つといわれている有名な声優。
そして画面背景がサっと変わり、舞台は古代イゼイラの風景になる。
『キレイなCGデスネ、マサトサン。よく出来ていまス』
「いや、これはCGじゃないよ、はは」
『エ? では?』
「ああ、この番組のロケで、ヤルバーンがゼルルームを貸したそうだ。ゼルシステムの仮想造成らしいよ。ま、いってみればリアルセットって奴だね」
『ふぇ~……私にナイショでそんな事してたですかぁ……スゴイですネェ……で、マサトサンは知ってたデスか?』
「はい、フェルをビックリさせようと思って内緒にしていました、はは。畠中社長から聞いてたんだよ」
『モー、ズルイですぅ。でも面白いからイイです。ウフフ』
そして、フェルはその俳優と競演する合成キャラの主人公を見て気づく。
『コレは……イゼイラの古文献“サイラの復讐譚”に登場する、青年サイラではないですか?』
「……を、モデルにした主人公らしいね。知ってるの?」
フェルが言うには、この『サイラの復讐譚』という物語。
イゼイラの古代文献に記されたもので、サイラと呼ばれる若者が、かの大災厄を家族とともに生き残り、巨大生物の襲
撃に日々恐れおののきながら生活するが、ある時、家族の生活する集落が、かのツァーレに見つかって襲撃を受け、家族恋人を食い殺され、怒りと共にツァーレに復讐するという話である。
この文献に記された記述が、古代イゼイラ人の生活、習慣が詳細に記述されているという当時の様子が良くわかる無二の文献らしく、イゼイラの教育機関では誰でも学ぶ物なのだそうだ。
その文献の記述者は不明で、一説では、その「サイラ」と黙される人物自身が、自叙伝として第三者視点で記述したものではないかともいわれているそうである。
「へ~、なるほどね、ということは、山代アニメのイゼさん、全力投球ってところだね、この作品」
『デスネ、この文献をベースにお話を作れば、確かにイゼイラの古代史が良くわかるデスヨ』
「そうなんだ。で、そのサイラとかいう青年……へへ、ぶっちゃけ、最後どうなるの?」
『アー、そんなの話したラ、ネタバレじゃないデスカ、ウフフフ』
「いいじゃん。教えてよ」
『ウフフ、エットですね、最後はかの創造主達になる人達の部隊に入って、イゼイラ人をたくさん助けるです。デモ……家族を殺したツァーレを旅の途中で発見すると、ファバール隊長達の制止を振りきって、トーラル文明の武器をありったけもって、追いかけて行くです』
「それで?」
『ウフフ、そこでお話は終わっているデす……というか、それ以降の文献が喪失していてナイのですよ』
「なぁ~んだよぅ、そんな十年ぐらい連載して、「彼らの戦いはまだまだ続く!」で終わってしまう未完作品みたいな文献はぁ……」
『アハハハ、私に言われても仕方ないデすよぉ。なので、イゼイラの歴史学者の間でも、色々と論議がなされている文献でもあるのですヨ。マァ、言って見れば、私達イゼイラ人の歴史ロマンですネ』
「はは、なるほどねー」
フェルのお話では、今現在最も有力な学説は、イゼイラ帝政当時の、皇女のダンナ、つまり皇配が実はそうなのではないかと言われているらしい。
まず第一に、こういう文献が残り、そのサイラと目される人物が自叙伝的に書いたものであれば、その人物は最終的に生きていたという事になる。
そして、その皇女、後の古代イゼイラ女帝皇配の経歴には不明瞭な点が多く、詳細な経歴が残っていないのだという。
そして、その皇女と皇配がお付き合いしだした前後に、ツァーレの帝国周辺における生息数が激減しているというデータが残っているから……というところなのだそうだ。
この文献は、それまでに書かれた物なのだろうという事。
「え! んじゃもしかして、フェルの遠い遠い、言って見れば、ナヨ帝さんのご先祖様かもしれないってこと!?」
『ウフフ、もし本当なら、そういう事になりますネ。でも、さすがにこればかりは仮説にしか過ぎませんかラ』
なんとも壮大な話である。しかしそれが歴史としての事実なら、ロマンのある話だ。
……番組は、フェル達の知っているとおり、大災厄の発生と、イゼイラ人が巨大生物に抗えず、滅亡寸前まで追い詰められる話。そういったところを悲壮感漂う音楽とともに追っていく。
ツァーレや、他の巨大生物にイゼイラ人が食われていくシーンも、製作途中のアニメのワンシーンから持ってきているようだ。
そしてリアルセットで俳優と主人公が迫真の演技をするシーンなど。
まぁ、そんなお約束も挿入されていたり。
フェルさんも、さすがにそのシーンではウルウルきていた……NHK科学番組の構成力、流石である。
しかし改めてイゼイラ人の歴史をこうやって見せられると……大変だったんだなぁと柏木は思う。
そりゃ、こんな歴史なら、同族で戦争なんざする暇なんてないよなと。
むしろ、同族で殺し合いできる人類の方が、種族として見れば幸せなんではないかと。
要するに『同族で戦争して殺し合いができる』という能天気な事を何千年も飽きもせずやって、それで滅亡もせず、むしろ人口増やしているんだから、おめでたい話なのではと……
無論、柏木流の皮肉と逆説的な考え方だが、そんな風に彼は思ってしまう。
そう考えると、柏木はハっとしてあることに気づく。
それは、フェル達のような進んだ文明、完全な相互理解で出来上がった文明が、地球の血塗られた歴史も当然調査しているだろうから、そのあたりも当然知っているはずである。
しかし、よくよく振り返ってみると、彼らと仕事をしていても、その事に関してこれといった否定的なコメントというものを聞いた事がないということだった。
フェル達連合人と付き合ってもう相当経つが、確かにそんなコメントを聞いたことがない。
(と言う事は……フェル達は、地球のそんな諸々の歴史って奴も……肯定して見ているって事なのかな?)
フェル達の地球へ飛来した目的の一つ……発達過程文明の調査と、その技術文化や精神哲学の取り込み。
その中に、こういった地球人が歩んできた歴史そのものも入っているのかなと考えたりもする……そして、今度そのあたりも聞いてみようかとも思った……
……さて、この番組。
科学解説に、真壁や東大、京大。阪大の知った安保委員会メンバーや、政治家のインタビューや解説が入って、ニヤニヤして観ていたり。
今回、ヤルバーン側も積極的にこの番組構成には参画しており、イゼイラのマスコミ法も一部緩和されて、ニーラやジルマの解説も入っていたりと、盛りだくさんだった。
しかしニーラの喋りは……ちょっと番組内容とズレがあったりなかったり……
柏木は予言する……ニーラ博士、絶対この番組を契機にブレイクするだろうと……某ネットで……
とはいえ、実は柏木とフェルにも、この番組のインタビューがスケジュールに入っていたりする。
第五回収録向けのインタビューだそうだ。
今回の番組は、古代イゼイラ人が苦難を乗り越えて協力して生きる事を目指し、唯一残った理想郷『帝国』で、なんとかその種の存続を維持させ、そして、後のイゼイラ創造主に名を連ねる『調査隊』がトーラル遺跡を発見し、トーラル文明の力で、彼らの苦難を打開していくところで番組は終了する……
この科学番組は、全5回からなるそうで、一ヶ月後に第二回を放送予定だ。
その間に、アニメ【真伝竹取物語・遙かなるヤルマルティア】も放送が開始される予定になっている。
そして、最後に流れるクレジットも、それはもう豪勢な名称が名を連ねる。
内閣府
文部科学省
防衛省
陸上自衛隊
航空自衛隊
海上自衛隊
海上保安庁
警視庁
ヤルバーン自治区行政府
ヤルバーン自治区調査局
ヤルバーン自治区科学局
イゼイラ星間共和国議長府
イゼイラ星間共和国科学省
イゼイラ星間共和国学務省
イゼイラ星間共和国広域情報省
ティエルクマスカ銀河共和連合防衛総省
ティエルクマスカ銀河共和連合科学調査委員会
OGHコンピュータシステム株式会社
イツツジ経済総合研究所
キミジマ・マリンユナイテッド株式会社
アメリカ合衆国太平洋艦隊司令部
アメリカ合衆国国務省
在日アメリカ大使館
アニメーション制作:山代アニメーション株式会社
・
・
・
「うぉっ! すげっ! なんじゃこのクレジットは!」
『はりゃぁ~!……連合本部や、イゼイラ政府もここまで協力してたデスか!』
彼ら二人も流石に驚いた。
ティエルクマスカ担当大臣として、この番組の話の事、聞いてはいたが、ここまで話を広げていたとはと……
柏木先生、さすがに総務大臣ではないので、ここまでは知らされてはいない……NHK、色々言われてはいるが、こういう科学系番組では侮りがたし……
『ハァ~……面白かったデスねぇ~……』
「はは、ほんとほんと、こりゃ急いで帰ってきて正解だったな」
『ハイです。私達からすれば、もう知った歴史デスが、こういうニホン人サン視点で改めて語られると、とても新鮮デスよ。それにあの“あにめ”ですか? さすがケラー・ハタナカですね、あの俳優サンも良い演技してたでス……ああいったエンシュツ方法もあるデスカぁ~……』
実は日本のこういった番組構成は、海外でも定評がある。特にバラエティー系番組や、ゲーム系番組は、海外でもその放映権が多数販売されていたりする。
そこに向けて、最新作の、イゼイラ技術全開のアニメとあわせたコラボな番宣だ。そりゃウケもするだろう。
この番組の視聴率、後で聞いてみたかったり……
そして今番組で、イゼイラ史の詳細が、日本、そして世界へ発信された……
もうヤルバーンのホームページなどである程度紹介されてはいるが、その内容を映像やアニメを交えて再現させたのだ。
流石に年表だけでツラツラ書かれた文章と、映像ドラマではその印象はかなり違って見えるだろう。
このイゼイラの歴史……
中世時代から、いきなり超未来へすっ飛んだような彼女達の歴史……
世の人々はどう思うのだろうか……
………………………………
そんなこんなで二日後の金曜日……
今日は、次の番組収録の日である……
その番組とは……関西では左翼にサヨク・リベラリストが絶対に出たがらない番組。
この番組で出た伝説の名言。
元航空自衛隊幕僚長が、核兵器反対運動家弁護士と口喧嘩した時に出た言葉。
運動家「お前ら自衛隊は一体ナニでメシ食ってるんだよ!」
元空自「え? 箸と茶碗」
こういった数々の名言に伝説を生んだ、視聴率ブッチギリの関西圏で知らぬものはいない人気バラエティ番組……かの『委員会』を称する番組の収録である。
またここでも大阪は大阪城公園に近いこの局の玄関前では、大勢の、そりゃもう黒山の人だかりができ、キャーキャーと大騒ぎであった。
無論、その観衆のお目当ては、フェルであり、シエであり、リアッサ、シャルリにリビリィであって、38歳のオッサンは、熟女年寄り担当である……
今回はちょっと自保党広報部からのお願いもあって、握手くらいには応じてやってくれという話で、ちょっと早めに来て、観衆の握手に応じてやっていたりしていた……なぜかボランティアのシエ達も巻き添え食らって、握手していたり……
で、相も変わらず後ろのほうでは
【柏木大臣、お願いしますからフェルさんと離婚して下さい】
【有権者は、フェルさんとの離婚を求めています】
と、なんか低姿勢になったプラカードが掲げられていたり……
思わず口元波線になる大臣様。
「柏木はん、大阪をたのんまっせー!」
「はいくぁーんちゃんともってきてやー」
イマイチ理解していない浪速のオバハン。
(ま……こんなもんかなぁ……)
思わずトホホ顔になる柏木先生。
向こうのフェルさんやシエさん達は、若い女性からキモ男まで、やいのやいのとスマホで写真を取られたり、Tシャツにサインしてくれとねだられたりと、相変わらずの人気である……
『カシワギ』
柏木にニヤニヤ顔で声をかけてくるシエ。
「は、はぁ? なんっすかシエさん」
『オマエモ、ニホンノデルンカラ、相当恨ミヲ買ッテイルヨウダナ、クククク』
「いやはや……まったくですよ……あ、はいはいよろしくおねがいしますね奥さん……」
すると田中さんが「そろそろ、大臣……」と声をかけてくれる。
やれやれと思う柏木。
清水議員の気持ちが良くわかると。
で、ロビーに入ると、ここでも重役に社長が出迎えてくれた。
そしてADが柏木到着をスタジオへ知らせに行ったみたいだ。
もう収録は始まっているようである。
今日、この番組の出演者。前もって聞かされたのが……
いつものほぼレギュラーな陣営で……
○明治天皇の玄孫さん。
○関東新聞の副主幹
○元台湾人の舌鋒鋭い帰化女性作家。
○柏木の苦手な女性研究家
○元この局系列の新聞社な政治評論家
○先の「箸と茶碗」で有名な空自元幕僚長
○超保守派で有名な俳優。
○上方で有名な落語家。
このメンバーでお送りするらしい。司会は、ヨットに乗って死にそうなった司会と、フェルも負けそうなホエホエ女優。そんな感じ。
「えっとですね、さて! みなさんお待たせいたしました! 先ほど冒頭でお話しました、かのお二人がスタジオに到着したようです!」
「おおー」という声がスタジオを沸かす。
「今日見学に来られた方、本当にラッキーですよ、もうね……」と司会が話していると、落語家が
「んな能書きえーから、はよ入ってもらいーな」と突っ込む。
「……では、ご紹介致します……内閣府、ティエルクマスカ担当特命大臣“柏木真人”さんと、かの、ヤルバーン元調査局局長であり、イゼイラ共和国、ティエルキ……あ、噛んじゃった……」
「なにやっとんねん、噛むなや!」
「はは、どうもすみません、えー、ティエルクマスカ銀河共和連合、旧皇終生議員カッコ休職中であらせられます、フェルフェリア・カシワギ・ナァカァラさん、日本名、柏木迦具夜さんです!」
そういう相変わらずのノリで紹介を受けると、何か荘厳な音楽とともに、フェルから先にスタジオへ入り、その後に柏木が続く……
大きな拍手で、口笛まで観客席から飛ぶ。
フェルを司会者席に招くMC
フェルの姿を見て……
「いやぁ~……こうして間近でお会いすると……ホント、お美しいというか何というか……あ、いや初めまして、司会の……」
そんな感じで、いつもの挨拶なんぞ。
フェルも観客席やパネラー席に向かってティエルクマスカ敬礼をする。
「で、柏木大臣、本当にお久しぶりでございます」
「え? あ、ども、お久しぶりです……って、もしかして覚えていらっしゃったんですか?」
そういうとパネラーは意外な顔をして、
「え? あなた柏木大臣の事知ってるの?」と帰化女性作家
「ええ、実は……あれ、何年前でしたっけ? 大臣」
「ええ、確か……私がゲームデザイナーやってた頃で、アメリカでみなさんもご存知の、ジェネラル・ソフト社のプレゼンやった件で、一度……朝の番組でしたっけね? それに出演させていただいた事がありまして、その時に少しお話させて頂いた事があるんですよ……もうだいぶ前の事ですけどね」
この話は、フェルも初めて聞く。まぁ柏木も、このMCがもう忘れているだろうと思って、話さなかったが、しっかり覚えていたようで、彼も意外な顔をした。
で、そのMC
「いや、実はそういう経緯がありましてね、あの、前の記者会見の時、柏木大臣がテレビに映って、もうそりゃひっくり返りそうになりまして……まぁそれ以前に、そういう噂はあって、実は番組の方でも、さんざんご出演願えないかと、書簡をお送りしていたんですが……ちゃんと読んでくれていました?」
「はぁ、ええまぁ……」
「で、ここらへんの理由をお聞きしようと、そりゃもう手ぐすね引いて待っていたら、水曜日のあの番組でもう……」
「ははは、スミマセン。そういうことでして、ハイ」
そういうと政治評論家が
「んじゃ、もう、ここで話すネタ、蒼島さんとこで全部言っちゃったってこと? んじゃココ来たって仕方無いじゃん。もうフェルさんだけいてもらってさ」
といつものノリ。
フェルもコロコロと口に手を当てて、そのノリに笑っている。
で、MCが……
「で、ですね、あちら……その蒼島さんとこの番組でもチョっとだけ映ってらっしゃったみたいですが……」
とカメラを裏方へ向けると、シエ達がパっと映る。
「もうそりゃ見て下さいよ、あのSPさんの数……そして、もう有名なヤルバーンのみなさん。ね、もう観客席の方も、パネラーなんかどうでもいいって感じで後ろばっかり見ているって感じで」
そう言われるとシエ達も敬礼。ちょっと苦笑いだ。
すると帰化女性作家が……
「あなた達も、そんなとこいないでこっち来たら? ね?」
シエ達は、平手を振るが、この番組はバラエティーだ。そしてここのメンツはそんな断りには妥協しない。
落語家も
「いいやん、来ぃや……せっかくやのに」
で、保守系俳優も
「こっちいらっしゃいな。ね」
と手招きして呼ぶ。
それを見たフェルも気を利かせて……
「*{[?*+{========}*+``」
イゼイラ語で「せっかくのお誘いですから」と声をかけ、手招きする。
するとみんなも、そういうことならとMC席の方へ集まってきたようだ。
で、フェルがみんなを紹介する。
特にシエは、もう『ブルーフランス航空ハイジャック事件』で有名になっていたので、やはり別格だった。
「いや、もう夢のようですね。で、これで蒼島さんところに勝ったということで」
「んな勝ち負けの話ししたらまたクレームくるで……で、もうそろそろ先に進めたほうがいいんちゃうん。だいぶ時間も押してるし」
「はいはい、そうですね、では、今日はこちらの皆さんをお迎えして、スペシャルという事でお送りしたいと思います!」
というところでCM用に一旦切る。
この番組は録画なので、その間、急に増えたゲスト用に、別途、ひな壇型の席をスタッフは用意し、そこへ座るように促される。
……で、番組再開……
「はい、で、今回はですね、こんな感じで急遽、ヤルバーンのみなさん勢揃いになってしまいまして、本来は柏木大臣とフェルフェリアさんだけと思っていましたら、豪華絢爛なゲストになってしまったということで……まぁ……とりあえずはいつものやりましょうか? はいドン!」
各パネラー席の横に設置された縦長液晶モニターに、今日フェルと柏木に聞きたかったことが、文字で映しだされる。
○玄孫さんは「陛下の贈り物」
○副主幹は「今後の国際関係」
○帰化女性作家は「アジア信用共同主権会議の真相」
○女性研究家は「憲法9条」
○政治評論家も「憲法9条」
○空自元幕僚長は「安全保障問題」
○超保守派俳優は「国籍」
○落語家は「結婚してどう?」
「はい……まぁ色々出揃いましたが……まずみなさん、この番組、番組名通り、もう好きな事言ってもらって結構ですので、もし、マズイところあったらちゃんと処理しますから、ええ、よろしくお願い致します」
するとフェルが『処理ってどうするデすか?』と小声で柏木に聞いていた。
すると、放送時に言ってヤバイ部分の声を消すんだよと答えている。
それをシエ達も前かがみになってフムフムと聞いていたり。
しかし、ここがマスコミ禁止法がある世界とない世界の違いだ。フェルは、「そんな事していいのですか?」と聞き返す。
なぜなら、ティエルクマスカのマスコミ禁止法の理念が『営利企業の営利目的で情報を操作する事は、言論の自由に反するから禁止』となっているためである。
日本の放送における所謂『コンプライアンス』の概念が、彼女達には『 な い 』
ありのままに情報を発信し、その情報が間違っていれば、ありのままに検証して反論する。
情報発信者と情報受信者の、両インフラが対等なのだ。
それが彼女達のやり方であり、その点で非常に訝しがった顔をする……
「……さん、ということで、彼女達の世界では、そういう言論や報道は普通なので、その、まぁいわゆる『ドキュン』ですよね、それが理解できないそうなのですよ」
そう柏木が説明すると、政治評論家が腕を組んで
「いやー、素晴らしいね。そんな報道体勢だったら、私も参加したいですよ」
と感心するが、MCも、所謂個人情報保護法や、報道被害の概念をフェル達に懇切丁寧に説明して、それもやむをえないこと、そして、ティ連ほど地球の報道というものが発達していない事を真面目に説明する。
「……で、結局、アレなんですよね、我々こういった大手の放送局側に対して、対等にそれを反証して、私達公共電波を預かる身と同等の発信力が受け手にはない事が問題なんですよね」
すると、評論家も
「そそ、結局動画サイトみたいなのや、つぶやきサイトみたいなのがあって、それで反論できるじゃあないかって言ったって、結局不特定多数の発信だから、公共電波並に『同等』の発信なんてできないのよ、そこは参考にしなきゃならないと思うよ、でなきゃ……」
彼が言うには、世にあるいろんなデマのような事は起きないと言う。
フェル達もフムフムとその話を聞いて、取りあえずは納得したようだった。
「で、まぁそういう事でして始めましょうか……最初は……では、その『憲法9条』について……また荒れるなこりゃもう……」
その『憲法9条』を出した女性研究家、まぁ巷では強烈な個性を持つフェミニストで知られるオバハンである。
で、その彼女の『憲法9条』について、柏木やフェル、ヤルバーン勢に問う。
「あの~、今回、私も色々調べたんだけどぉ、今回ティ連に加盟したら、この、なんていうのかな?『連合防衛総省』っていう組織の部局をね、日本に設立しなきゃいけないって話でしょ? そこんところとこの9条の噛み合いってどうなってるのかなぁって、率直なところお聞かせ願えます?」
こう言うと、評論家も元空自幕僚も「そそ、そこんとこどうなんだ」と尋ねる。
まぁ期待する答えは、恐らくその女性研究家とは正反対のものなのだろうが……
柏木達は、誰が応える?と相談した所。意外なことにシャルリが応えるという。
「え? えっと、シャルリさん、ですよね?」
MCが問う。すると柏木は……
「はい。彼女は、実はその当の連合防衛総省の中佐さんなんですよ」
「あ、そうなんですか! では、この質問に適任なわけですね」
「ええ、あ、じゃぁシャルリさんお願いできますか? その点」
『ああ、ダイジン……実はネ、司会者サン。その“ケンポーキュウジョウ”って日本の法なんだけど、結構連合本部でもモメてるみたいでネ……まぁはっきりいやぁワケがわかんないって感じでサ、今後ウチら防衛総省と連携するとナったら、死文化しちまうんじゃないカって話でね……』
シャルリは義手の腕をシュンシュンと鳴らせながら、身振り手振りを交えて話す。
要するに、以前ジェルデアが河本に話したことだ。
そして、そのジェルアの見解と、全く同じ言葉が、今はじめてティ連人の口から電波に乗った。
そして多くの日本人、特に関東人以外の日本人が最初に知ることになる。
いかんせんこの番組、先の話にあった故歌手のMCが大の関東のテレビ局嫌いで、ほぼ全国ネットに近い放送の形ながら、関東地方にだけはこの番組、流れていないのである。なので、ネットの、まぁ所謂違法アップなすぐに消される動画や、後に販売されるDVDメディアなどでしか関東の視聴者は見る事ができない。
すると、案の定、その女性研究家のオバハンは
「んじゃ、別に連合防衛総省なんて、無理に設置しなくていーじゃん」
とやらかすが、他のみんなから「そんな簡単な話じゃないんだよ」とボロクソな集中攻撃を食らう。
で、MCが「まぁまぁまぁ」とお決まりのパターン。
「えっと、実は、シエさんと……リアッサさん」
呼ばれて頷く。声に出して返事はしない。
「えっとですね、実はこのお二方、いま手元に資料が届いたのですけど……なんと、航空自衛隊と陸上自衛隊に現在、出向なさっているそうでして、シエさんが予備一佐で、リアッサさんが予備二佐、予備自衛官扱いで出向という形だそうですね」
とうとうシエとリアッサに、MCは話を振ってしまった。
ドキドキする柏木大臣。
このメンツにいきなり『オマエ』はやめてくれよぉ~ と心のなかで想う……実はフェルも同じく……
しかし……
『ウム、ソウダ』と二人共そして続けてシエが『私達ハ、ニホン国防衛省カラ、今後ノティエルクマスカ技術ヲ用いた装備ノ技術指導ヲ要求サレ、出向シテイル』
と、淡々と応える。
そして二人の淡白な物言いも、電波に乗ってしまった。
しかし、普段は、柏木をおちょくりーの、多川や樫本とデレーので最近ちょっとイメチェン気味だった二人だが……ここでは流石防衛総省エリートという対応を見せる。
「で、お二人の見解としては、どんな感じですか? この問題」
ここは一応上官なシエが答える。
『アア、マズハ、コノ“ばんぐみ”ヲミテイルニホン人ニ考エテホシイ事ダガ、我々ティエルクマスカ連合ニ仲間入リスルトイウコトハ、ソノ安全保障ノ範疇ガ、宇宙ニマデ拡大スルトイウコトヲ理解シテ欲シイ……無論『平和』トイウ概念ヲ希求スルコトハ、ワガ連合ヲミテモワカルトオリ、実際種族ヲ超エテ、ソレハ実現サレテイル。シカシ、一方デマタ、我々自身ニモ、及ビモツカナイ種族ヤ国家ガ、コノ宇宙ニ沢山アルノモ事実ナノダ……』
シエは具体的には言わないが、暗に『ガーグ・デーラ』のような存在の事を話した。
『ソノ“キュウジョウ”ト言ウモノノ概念ハ、我々トシテモ理解デキナクハナイ。シカシ、ソレハアクマデ、チキュウ基準ノ倫理観の上ニ成リタツモノデアリ、世ニハ、“黒ガ白”“白が黒”トイッタ根源的ナ倫理観ノ違イヲモツ存在モ、実際問題トシテ存在スル。ソンナ連中ニ、地球主観ノ“平和”ノ有リ難サヲ説イテモ……ソウダナ、ニホンノ諺ニ例エレバ、“ウマノミミニネンブツ”ニスラナランヨウナ状況モ、実際問題トシテアルノダ……事実、先ノ“ウオツリジマ事件”デモソウダッタダロウ? チャイナニ、ニホンノ倫理観ガ通用シタカ? ソコデニホント共同デ対処シタノガ、オマ……ゴホン……アナタタチガ“完全平和”ヲナシトゲタト思ッテイル我々ナノダゾ。話ガ合ワナイデハナイカ……』
シエ自身も、多川や特危自衛官と付き合って、自衛隊という存在そのものの不憫さというものを少しは感じているようで、そういうっところを淡々と語る。
そして、この言葉は電波に乗って飛んだ。
シエの蛋白で淡々と語る口調は、妙に説得力があり、シエが話し終わると、会場からも大きな拍手が沸き起こる。
柏木も、先日のフェル同様に……
(やっぱシエさんもプロだなぁ~……)
としみじみ感心する。
そして、この言葉に、シエの迫力に圧倒されたのもあってか、女性評論家は何かゴチョゴチョ言っていたが、そのまま引いてしまった。
本来は、フェルが一発言ってやるところなのだろうが、シエにお株を奪われた形になって、フェルとシエはお互い目線で頷きあっていた。
そして、他のお題。
国籍に関しては、自治局のリビリィが……
『多国籍になっても、在住する国の責任を国籍取得者は負わされるので、心配しなくていい』
と話す。ただ、この保守俳優のオヤジが一番気にしていたのは『愛国心』とやらの問題だそうで、その点を問われると、リビリィはアッサリと
『連合加盟国国民は、加盟国全てを信頼し、あえていうならその全ての国に『愛国心』を持っている。それに何か問題があるのか?』
と、問い返す。
そう、この俳優は、ティエルクマスカ連合が『相互理解』の上に成り立った、種族さえ超えた連合体であることを、イマイチ理解していなかったのだ。
その点を突かれると、帰化女性作家が、「その点は同意。私はリビリィちゃんの言っていることが良く分かる」と応える。
そして、明治天皇の玄孫が、やはり今上陛下の贈答物で、その出所不明な物って他にあるのか? と問えば、柏木が……
「先生のところには、お話行っていませんか?」
「いやぁ……実はそういう話、来てたみたいなんですよ」
「ですよね、実はそのお話、結構深刻な話なんですけど……」
柏木はその『精死病』と、ナヨ帝にまつわる話の中で、ナヨ帝が、科学者でもあり、その精死病の治療法をもしかしたら掴んでいたのではないか、そして、その手の文献を残していた可能性があると話す。
「で、今、現在ヤルバーンのとある科学者が、旧宮家の方から提供いただいた文献を調べているんですけど、まだ詳細は私も知らないのですが、そんな感じなのです。ですので先生のお家の方でも何かありましたら、宮内庁までご連絡お願い頂けますか?」
「はい、わっかりました。さっそくちょっと帰って調べてみますよ」
するとフェルが感謝感激な顔で
『感謝致します、ケラー』と、席を立って敬礼する。
……という感じで、賑やかに、笑いもありーの、真面目な話もありーので、ワイワイとやった一時間チョットは瞬く間に過ぎていく。
今日は、フェルやシエ達も、なんだかんだで楽しめたようだ。
なにせこういう場が、彼らティ連人にはない。
で、時間も差し迫ってきて、最後のお題だが……MCの秘書を称するホエホエ女優が……
「ねぇねぇ、わたし、やっぱり最後の締めは、師匠のあのお題じゃないといけないと思うんですけどぉ」
そう振られると、師匠が……
「そや、これ聞かんでどないすんねん……おまえ、あいつやったら、普通真っ先にこれやろ」
故MC歌手なら、コレを聞かなくて番組終わるってありえないだろと話す。
パネラー席からも、そうだそうだ。
観客席からも拍手で煽る。
「そうですよね! で、柏木大臣!」
「は!?」
「で……お済ませにならなければならないことは、もうお済ませになったわけで?」
「はぁ!?……あ、いや、その……」
柏木、この番組ではこういうパターンになることはわかりきっていたが……このままスルーは出来なかった……
フェルはドッカーンと、顔をピンクに染める。
背後からはシエやリアッサが、柏木やフェルの肩をモミモミし……
『ソウダ、ソコハ私モ詳細ナ情報ヲ是非聞キタイナ……』とシエ。何かの参考にしたいらしい。
『ウム、ナンナラ、ココデ時間延長ノ尋問タイムデモ良イガ……』とリアッサ。彼女も参考までにと。
『そうだねぇ……アタシも後学のために……』とシャルリ……後学以前にその体をなんとかしろと想う大臣様。
『ポルにもちゃんと報告しなきゃいけねーからさぁ、フェル候補ぉ……』とリビリィ。今後の事もあると。
みなさんパネラーに混じって煽り倒す。全員目がへの字。
その様子に会場も大爆笑で、パネラーも大笑いだ。
そこで保守派俳優が助け舟を出す。
「いやいやいや、真面目な話さ、今後、柏木大臣みたいな方がたっくさん出てくる可能性もあるわけで、やっぱり先駆者としての経験談をお話してあげておいたほうが、今後のためになりますよ、実際の話」
「で、どうなの? 貴方、あの実験滞在者受け入れ時から、もう言ってみれば“同棲”してたわけじゃない?」
と帰化女性作家も続く。
柏木大臣とフェル、観念したのか……
「あ……ハハ……まぁ、生活上は、特に何も特別なことというのは……なぁフェル」
『ア、ハイです……私もニホンの生活で、特に不便を感じたということハ……』
しかしMCは煽る。
「別のところで不便などを感じたところは……柏木大臣関係で……」
「いやアンタ、そないなゲスなことしつこく聞いたら……お題振ってるのワシやねんで!」
「いや、師匠、聞きたいんじゃないんですか?」
「い、いや、まぁそらなぁ……ってちゃうやんって!」
……とまぁ、そんなこんなでタイムアップ。
柏木達は、次の予定があるのでここでスタジオを去る。
帰るときも、パネラー、観客スタンディングオベーションで、拍手。
彼らの出演は終わった……
で、MCは締めに入る。
「まぁ、ははは、今日はもう物凄いというか何というか……まさかこの番組で異星人さんがやってきてって……」
とMC
「ホント、夢見てるみたいって、正にこの事よね」
と帰化女性作家。
「でもさ、良かったのがさ、みーんな、メンタリティ同じじゃない? あのシエさんって方? とっても淡白なおしゃべりだったけど、気持ち入ってたよね、あんな女性をもっと日本も……」
クドクドと女性研究家。
「で、師匠!」
「はい」
「私も、もう汗でびっしょりで……今日の収録、どうなるのかと思いましたが! ここで今日の総論をお願い致します!
「え? あ、いやぁ~……ヤルバーンの女性の方、みんな別嬪さんばっかりやなぁ~って……」
「えええっ! そんだけ!?」
ダンという効果音で、ニハハハと故MCの顔に、口チャック。
はいおしまい。
なわけはなく……
帰りの車の中……
「はぁ……メッチャ疲れた……たまらんわ……」
思わず関西弁が出てしまう柏木大臣。
ネクタイを緩める。
二藤部や三島から、相当の覚悟を持ってあの番組に挑めと言われていたが、やはり相当だった……
「しかし、あの話題、最後に振るかよ……なぁフェル」
『モー、本当デス! シエ達もチョーシに乗ってぇ……』
振られた時、あの時の、柏木から食らった背面攻撃を思わず思い出して、どうしようと思ったフェルさん。
『デモ……』
「ん?」
『ウフフ、楽しかったですヨ、マサトサン』
「はは、まぁなぁ……」
『話では、非常に保守的な番組とお聞きしていましたガ、みなさん好意的で良かったでス』
「あれはシエさん達のアドリブも結構効いていたからな。みんなキャプテン・ウィッチがあんな性格だったなんて……かえって新鮮だっただろ」
『ソウですねぇ……でも、マサトサン……』
「何?」
『コレで、私達ガドウイウ人々か、っていう事が、ニホンの“ますこみ”の電波に乗りましたネ』
「ああ……そうだな……みんな基本変わらないんだよ。その点、知ってもらえるといいが……」
実は、この放送、ヴェルデオからの要請もあって、安保委員会から、総務省を通じて、この放送局へ今回のみ、全国ネットで放送して欲しいと依頼した。
その内容が、シエ達のやりとりを含めて、今後の日本とティエルクマスカ関係に有効であると判断したためだ。
ということで、近日中に関東圏でも、この回だけ特番で放送される予定になっている。
……で、今日、残りのスケジュールは、講演会の出席に、フェルは東京へ飛んで、向こうの立候補者さんの応援……忙しい話だ。
「じゃぁフェル、今日は東京の家で泊まり?」
『マサトサン、オウチには転送機があるでしョ』
「あ、そうか、向こうに帰っても一緒だもんな、はは、失念でした……で、行きは?」
『シンカンセンのチケット貰っちゃいましたけど、メンドクサイから転送機で飛ぶデスヨ』
「そっか、はは、でもあんまりすぐに行くなよ、時間差置いていかないと」
『ドウしてですか?』
「だってさ、フェルだけ交通機関的にアドバンテージあるってのは、他の候補者から見たら、ズルッコに見えるからな、まぁ『転送機使ったらダメ』なんて公職選挙法にないけど、そのあたりで叩かれるとかいうのもあるかもしれないよ、注意しなきゃ、特に民生のあの元モデ……ゲホゲホ……」
『ナルホド……そういうのもアルですか。んじゃ、一度山田のオウチに帰ってから、そこの転送機で東京のオウチに飛ぶでス』
「その心は?」
『ダッテ、あの簡易転送機は私の私物デスよ、私物にとやかく言われる筋合いはないです、ウフフフ』
「はは、フェルもそういうところは抜け目ないな、ま、頑張れよ」
『ハイです』
………………………………
そんなこんなで、日めくりカレンダーをちぎり倒すかの如く、日は瞬く間に過ぎる。
フェルに柏木、そしてシエ達護衛組は、この間、関西のありとあらゆる情報系テレビ番組に出た。
関東の方でも、もちろんお呼びがかかり、かの朝晴ニュースパワーにも出た。で、まぁ重箱のスミを突くような事、色々聞かれたわけだが……やはりフェルとの結婚という話題は避けては通れない。
フェルは、同じ朝晴の朝までやる選挙前特番に出演を依頼されたが、断ったらしい。
その理由は……『夜はきちんと寝たい』からである。
なんせフェルの寝不足ハイモードの恐ろしさは、信任状捧呈式の時に実証済である。柏木もなるべくフェルに夜は眠らせるようにしていた……
で、選挙公示日当日。
立候補者公示板には、【かしわぎまさと】と書かれた爽やかな顔の柏木の顔ポスターが張られる。
それを見たシエやリアッサ、シャルリにリビリィは、腹を抱えて笑っていた。
『クククク、ハハハハハ!、カシワギ、コノ爽ヤカナ顔、何カノ冗談カ? フハハハハ』
とシエさん。今までで一番笑ったという話。
『クハハハハ、コノ口元ハナンダ、合成カ?ブハハハハ……』
もう今にも転げそうなリアッサさん
『ヒーーー、死ぬーーーー、コレ、一枚アトでおくれよ。ヤルバーンにも貼ろう』
あまりに笑って、腕の神経接続が麻痺しそうだとシャルリ姉。
『ヒーーーー、息デキナイ……助けてくれぇ……』
コメントすらできないリビリィさん。
隣では、ポルが笑いすぎて過呼吸状態に陥りかけていた。
しかし一人だけ、ポーーーっとそのポスターを、潤んだ目で見つめるは
『マサトサン、ステキ……』
柏木迦具夜候補。
新婚の新妻には、このポスターがキラキラ光って見えるらしい……
「……ハァ……しかし、確かにこの爽やかさ……俺のキャラじゃねーなぁ……こんな顔してたっけ俺……」
目がどこか明後日の方を向いて、さわやかな笑顔の柏木ポスター。
何か中国共産党の国策宣伝ポスターみたいである。
……みんなの爆笑を容認する柏木真人候補。
そんな感じで、選挙事務所も大賑わいである。
「柏木さん柏木さん!」
後ろから声をかける誰か。
「ん? はい?」
振り向くと……
「どもども、私です、おひさ!」
何と、あの千里中央のカフェでバイトをしていた櫻井香澄であった。
「ああ! 櫻井さん!……フェル、フェル!」
柏木はフェルを手招きして呼ぶ。
「櫻井さんだよ」
『ア! サクライサマ……お久しぶりでございまス』
「フェルさんこんにちは」
「で、え? どうしたんです? 櫻井さん……」
「何いうてまんのん、柏木候補の選挙のお手伝い、ボランティアですやん」
「あー、そうだったんですか、それは有難うございます」
「いえいえ、こないだフェルさんにも、これ頂いたさかいに、その御礼もせないかんとおもって、バイト長期休暇で来たんやで」
『ソレハ、有難うございますサクライサマ』
フェルもティエルクマスカ敬礼で感謝。
「まぁ、見た感じお二人共当確みたいなもんやから、気楽にやらせてもらいますわ」
「ははは、いや、わかりませんよ。選挙なんてどう転ぶかね。あと、公職選挙法だけは、気をつけてね」
「了解了解、あのきれーなお姉さんに聞いたらええんやな」
「ええ」
櫻井は田中さんを指さす。
田中さんはスタッフに細かく色々と指示を出していた。
「しっかし、豪華絢爛な選対スタッフやなぁ……あ、アレ、キャプテンさんちゃうん!」
「ははは、そうですよ」
「後でサインもろてええんかな?」
「はい、どうぞお好きに。私からも言っておいてあげますよ」
「わぁ~、どうもおおきに」
「あ、ほら、田中さんが呼んでるよ」
「あ、こりゃいかん、んじゃ」
ニンマリと笑顔で櫻井を見る柏木。
フェルが彼の肩を取り話す。
『マサトサン、人が繋がっていくデスね』
「ああ、そうだな……これもフェル達の言う『因果』って奴かもな」
『エエ……』
するとポルがようやく過呼吸から復活したようで、目を真っ赤に晴らして柏木達の所へ……
『ケラー……プッ……』
「はい、ポルさん……って、まだ後遺症ですかぁ? 頼んますよ……んなウケましたか、アレ……」
『エ? ハ、はい……あ、いや……ソウじゃなくて……そろそろ用意をお願いシマス』
「あ、では……」
『ハイ、ファーダ・ミシマが到着しますので、“センデンシャ”の方へ』
「了解です……じゃみなさんも用意を」
……さて、選挙公示日初日。
これから12日間の戦いが始まる……とはいえ、戦うのは他の候補者のみという話があるが……
しかし、彼はこの選挙へフェルやシエ達も連れて行く。
これは選挙云々以上の、銀河連合加盟周知への布石でもある……
そして、逆に言えば投開票まであと12日。
ここが正念場であったりする……
宇宙をバックに進む宇宙戦闘艦の物語ではないが……
で、尚、この世界の物語、色々出てきた諸団体、形容表現は、柏木の見た並行世界に存在する団体、故人とは、何ら関係のないものであるということは……付け加えておかないと……
今話は、ちょっと関西ネタが多くなりまして、関東地方の読者様には、若干申し訳ない内容となってしまいましたことをお詫び申し上げます。
まぁ、フェルさんが近畿ブロックで出馬ということあっての話で、事象的にはある意味仕方ないところなのですがww
近畿ブロックには、当然『京都府』も含まれますので、まぁそういう意図でとお察し下さい。なんせ「迦具夜さん」が立候補しますのでw
それでは今後も本作ともどもよろしくお願い申し上げます。




