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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
51/119

-31-

 ある日の、某ネットの風景……


【イゼイラ】柏木真人大使帰国→ティエルクマスカ担当大臣に。

100名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ( ゜д゜)……


101名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ( ゜д゜)…………


102名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ( ゜д゜)………………


103名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ( ゜д゜)……………………


104名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

  ( Д ) ゜ ゜


105名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 柏木がまたやらかしました。


106名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 帰国早々大臣って、んなのアリかいな。


107名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ってか、元々二藤部は狙ってたんだろ?


108名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 でも柏木を大臣にするのはいいけど、何ができるんだ?あいつ


109名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>108

 イゼイラにクソゲーの輸出。


110名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>109

 まだ言ってるのかオマエはw 何を買わされたんだ?


111名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 で、このタイミングでフェルさんが引篭り解除というのが怪しいわけだが……


112名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 んなの一緒にイゼイラに行ってたに決まってるだろ。


113名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>112

 なんで?


114名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>113

 新婚旅行。スッキリテカテカで帰国しました。


115名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ってか、イゼイラ人と結婚したらどんな子供できるんだろ……翅生えた日本人ハーフ?


116名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>115

 「翅」いうなwww


117名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 イゼイラ人は、人の生命エネルギーをですね……


118名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 フェルさんと柏木が合体するとですね……アアァ~ン


119名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 おまえら、もう古いwwwww


120名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 往復1億光年愛してる。


121名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>120

 長杉www


122名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 半千万光年愛してるニダ


123名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>122

 構ってもらえないからって、ここに出てくるなwww


124名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ( `ハ´)……四千万光年……


125名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>124

 オマエも引っ込んどれwww


126名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 こんなのありました。仕事早すぎwww

 hTTP://***.***~…………


127名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 はぇぇよ!www


128名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 あの宇宙空母もう擬人化かよwww


129名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 しっかりイゼイラ人になっとるしwwwおまけに目が金色www


130名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 いつのアップデートで入手できますか?


131:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 ということでおまえら、そろそろ質疑応答ですよ。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ………………………………




 二藤部達の策略……いや仕返し……いや作戦で、帰国してのっけからトンデモない話を突き付けられた柏木元大使。

 これまた急な事ではある。

 もうちょっと間をおいてくれと頼んだ柏木『大臣』だったが、二藤部達も洒落でこんなことをやったわけではないという。

 とにもかくにも柏木の『異星人国家からの帰国』ということ自体が、当初予想していたよりも国際的に異常事態だと受け止められている事。これがなによりも大きいという。

 二藤部が件の『竹取物語』案件の一部を世界に開示し、このヤルバーン飛来事件が日本以外の国にはあまり関係ない事だと世界は知ってしまった……いや、そう理解してしまった。

 単純に地球に来て、それがたまたま日本だったというのではない。当初から『日本』が目的だったのだ。これは実際問題として大きい。

 かろうじて米国がヤルバーンの金融為替協力という形で、日本を仲介して関係を持つことに成功はした。ヨーロッパ諸国もおそらくそうなるだろう。

 しかし、これは全て『ヤルバーン自治体』という自治体化したヤルバーンとの関係であって、日本のようなイゼイラ―ティエルクマスカ本国との関係ではない……ここが重要なところだ。

 この現在進行形の事態に対し、政府としては柏木という存在をもっと前面に出す必要に迫られたというわけである。


 ……というか柏木が地球に帰還して、その内容を『教えてあげない』ではさすがに全世界が納得すまい……


 そこへ向けてあの『カグヤ』の登場である。

 あの船を見て、あの艦影を見て、そしてあのデザインを見て、日本と繋がりがないなんて思う奴は少なくとも軍事関係者、専門家にはまずいないだろう。


 そういうところもある。

 柏木としても、もうそこまで言われたらさすがに彼自身も首を縦に振らないわけにはいかない。 


 そして今、この記者会見の場にいるのだ……



「……今回、かように急なかたちで大臣職を承ることになったわけですが、私がイゼイラで見聞した事を最大限に国政で生かせるよう誠意努力致したく思いますので、国民の皆様におかれましては今後ともよろしくお願い申し上げます……という事ですが……」


 柏木は記者会見場で急な大臣就任の挨拶を済ませると、声のトーンを明るくし……


「かような話を長々しても仕方ありませんし、私もとりあえずは帰国報告をさせていただかないと国民の皆様にも示しがつきませんので、とりあえず前置き、挨拶は以上とさせていただきたいと思います」


 そういうと、進行係が柏木の目線合図に従い、質問を受け付けると記者達に話す。

 当たり前ではあるが、もう記者のみなさんは総挙手状態。

 柏木はツカミのうまい産業新聞の記者を指さす。

 もう記者会見では知った顔の山田記者だ。


「産業新聞の山田と申します……柏木大使、いえ、大臣とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「どちらでもどうぞ。まだ陛下よりの親任は賜っておりませんので、今日の発言次第でヤメタという事もありえるかもしれませんし、ははは」

 

 冗談めかしに答える彼。笑い声が会場に走る。

 二藤部も奥で笑っていた。


「はは……では柏木『大臣』にお尋ねします……おそらく国民が知りたいのは、率直なところ『イゼイラとはどんな国だったか?』という、この一点に尽きると思うのですが……え~、非常におおざっぱな質問で申し訳ありませんが、そのあたりの率直なところを、どんな事でも構いませのでお聞かせいただけますか?」


 その質問に、柏木は腕を組んで考える仕草をし……


「そうですねぇ~……正直どこからお話しすれば良いか迷いますが……おそらく後ほど政府から、私が収集した映像、写真資料や、イゼイラ政府より頂いた映像資料なども公開される手筈になっておりますので、詳細はそのあたりを参考にしていただきたいのですが……言葉で話すとすれば……まず正直申し上げまして、我々地球人の科学的な常識が全く通用しない国だということがよく理解できました……」


 柏木は、イゼイラで見た風景を例に挙げて話す。

 衛星軌道上の、宇宙空間自体が都市化されている風景。そしてその都市化された場所では、宇宙空間であるにもかかわらず、宇宙服のようなものがいらない生活の風景。

 イゼイラが外殻衛星であること……分かりやすく、日本国民ならみんなが知っている宇宙戦艦のアニメで例えた……あの星の地表部が崩れ去ったような感じで、そこに地球のイメージを足したような感じの青く美しい星。しかし惑星ではなく衛星であると……この衛星であるというのは、まだ公開されていない情報である。


 その星には、星を一周ぐるりと回る大きな環状人工コロニーが、イゼイラ星地表より長く伸びる柱に支えられ、星自体が一種の人工化されたようなイメージがあること。

 その衛星イゼイラは、主星ボダールといわれる、海王星と土星を足したような、そこに十字にクロスするイゼイラ国章に見られるようなイメージの巨大ガス惑星の軌道を周回し、非常に変わった朝と夜……すなわち、恒星に照らされる一日と、主星の反射光に照らされる淡い光の一日が交互にやってきて、いわゆる地球のような真っ暗な時間というものがない……ということを話す……


「……そして……彼らは、いわゆる『地上』で生活はしていません……ヤルバーン母艦を見てもお分かりになると思いますが、あのような物体が沢山、それはもう凄まじい数が連結された……こう……よくありますよね、ゲームで……六角形のヘックスで将棋みたいに駒を戦わせるゲーム」

「え、ええ、シミュレーションボードゲームですよね」

「そう、それです……ああいう感じで、ヤルバーン母艦みたいなのを連結させ、大きな大きな空中人工大陸とでもいうべき場所を造り、そこで生活をしています」


 ……柏木は、山田記者の質問だけで、30分程使って色々と説明をした。

 今日は事前に記者会見の制限時間を最大3時間までと告知していたので、ついついそれぐらいを話してしまった。


 記者達は一見聞くとホラ話にしか聞こえない柏木の話を、夢中になって、唖然として、声を唸らせながら聞く……

 海外の記者も同時通訳のヘタクソさにいらつきながら、隣にいる日本語の堪能な記者に説明を受けながら聞いているようだ……手を横に挙げて「信じられない」という仕草をしていた。


 ……次の記者の質問。海外の記者だ。

 ユナイテッドニュースの記者である。今日は日本語堪能な記者を送り込んできたようである。


「ユナイテッドニュースのジャック・ウィルソンと申します。カシワギ大臣。オカエリナサイ」

「どうもありがとうございます」

「マズお聞きしたいのは、大臣はイゼイランの国家元首と会談をなされたか? という事実です。おそらく、大臣が、タイシという役職でイゼイラ共和国へ赴いたということであれば、当然イゼイラの国家元首のような人物とお話なされるのが当然だと思いますが、いかがでしょうか?」


 流暢とはいえ、ちょっと違和感のある日本語の発音。

 しかし日本語で質問してもらえるのは有難い。


「はい、そうですね。もちろんイゼイラ国の国家元首の方、それと、連合元首の方とお話しさせていただきました」


 このあたりは、先に二藤部が会見でもう既に話していたので、さほどの動揺はなかった。


「では、その会談でニホン以外の国家との対話というものも要請されましたか? もしそうなら、どのような回答がありましたか?」

「はい。当然、私は日本人という以上に、地球人で初めてイゼイラという異星国家に行った人類になりますから、人類という大きな視点で、そのような質問もさせていただきました。その質問内容は、今、海外記者の方々が思っていらっしゃる通りの事をです……しかし、これもはっきり申しあげておいた方が良いと思いますが、彼らはやはり日本以外の国家と現在直接交渉を持つつもりはないということを明言されていました」


 海外記者勢から、「oh~」という残念そうな声が上がる。

 ジャックという記者は、少々声を荒らげて


「なぜですか? その理由を知りたいです。カシワギ大臣はきちんと現在の地球世界の情勢を説明しましたか?」

「もちろんです。それ以上に先方は、我々が思っている以上に現在の地球の情勢、そして歴史的背景を把握しています。これには私も大変驚いたのですが……やはりその大きな理由は、件のわが国が現在『竹取物語事案』と呼称している事柄に大きく関係しているそうです。その詳しい内容までは話していただけませんでしたが、その点が彼らには非常に重要なところだそうで、逆に言えば、その事案がなければ、地球、いや、この太陽系に来る事すらなかったかもしれないと……そんな感じでしたね」


 二藤部との打ち合わせ通りのブラフだが、今回は更にこのあたりを強調した。

 柏木自身の口から話せば真実味がある。そして実際その通りなのだから仕方がない。

 そして柏木は少々作り話で、ジェルデアが話したイゼイラの一極集中外交主義の本質を匂わせるような話をする。


「まず……私がイゼイラの元首……サイヴァル閣下とお話した際、閣下から直にお聞きした事ですが、その点を私なりに要約した感じでお話しますと……彼らの連合には、それはもうものすごい数の種族と加盟国が存在します。しかもその種族の祖がそれこそ千差万別とでもいいましょうか……当然そんな関係ですから、地球人的な考え方ですと、お互い何らかの対立なり、種族間の越えがたいエートスなりがあろうと思うのが普通だと思います、しかし不思議なことに彼らにはそれがありません……」


 彼は、例えば……イゼイラ人は、彼らの羽髪でわかる通りの、鳥類のような動物を租に進化した種族で、キャプテン・ウィッチの種族は、小型の恐竜に似た動物から進化した種族だったり……とそのあたりを説明する。


「……そんな種族同士が、仲良く何万年も連合国家をやっているわけですから、それはもう相当な信義、信頼に基づく関係というものがあって然るべきなわけですね。そんな種族が今の地球を見た時、同族であるにもかかわらず、主義主張の違いがあり、しかも宗教も違い、国家観も違い、イデオロギーで対立する国同士もあり、70年も前の過去の因縁で対立する国もある……そんな主義主張の違う複数の国家と同時に……しかも同じような価値観で対応、外交をするなどということが、どれほど困難な事か、普通に考えればわかることです……」


 それをやってしまうと、その地域国家群の惑星文明圏を滅ぼしてしまう事になりかねない……とまではさすがに言わなかった……そこまで傲慢な事はさすがに言えない。


 こういう事に過敏なネット民の反応も……


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 正論


251:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 正論すぐるww


252:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 柏木がきちんと仕事してましたの巻


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 その言葉を向こうの偉いさんから聞き出せたというのは値千金。でも証拠が欲しいな。


254:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 >>253

 内閣府か外務省のHPに載るんじゃない?


255:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 しかし隣はこの言葉、カットするんだろうな。


256:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

 しかし、てぃ連でも個別国家には気を使うんだ……なんとも難しい話で御座る。  



 なかなかに好評なようである。


 柏木は続ける……


「……彼らは、そういう点、たまたま彼らの何らかの理由で……その竹取物語事案に準じた理由で日本にやってきて、我々と外交関係を持ちたいと言ってきた……それだけの事なのでしょう……これ以上は私にも良くはわかりませんが、現状把握できるのはこういうところですね」


 柏木は、『サイヴァルから聞いた』という形にして、そういう点を臭わせた。

 本当はジェルデアから聞いた話だ。だが、後に首脳会談でこの点は肯定されている。従ってウソではない。

 それを聞いた記者は、ウンウンと頷きながら、何か考えるような感じで、メモを取っている。


 しかし、やはり柏木もなかなかのもので、記者会見とはいいながらも、一つ一つの質問に、まるで自分の事業説明をプレゼンするかのよな口調で話す。

 身振り手振りを交えて。


「……ではダイジン。彼らのその『タケトリモノガタリ』に関する事の詳細はまだ明言がないと?」

「はい。ただ、おいおい彼らの、何らかの進捗が進めば、公開していただけることで確約はしております。その時には、また何らかの形で、こういう場を設けることになるのではないですか?」

「わかりました。ドウモアリガトゴザイマス」

 

 そういうと、ジャックという記者は質問を終える。

 次に挙手するは、朝晴新聞の記者である。


「朝晴新聞の森田と申します。柏木大臣、イゼイラ訪問お疲れ様でした」

「はい、どうもありがとうございます」

「えっとですね、先ほどのユナイテッドニュースさんの質問に準じる形になりますけど、もしその『竹取物語事案』ですか? その件で、彼らが満足いくものが得られたとした場合の、イゼイラ共和国がその後に取る対応ですが……地球世界や日本に対し、何らかの要求や……こういう言い方はしたくはないのですが、不利益をもたらすような、そんな対応をするといった感じの事は、ありえるとお感じになりましたでしょうか?」


 早い話が、地球を侵略でもすんのか? という事を言いたいらしい。


「なるほど、それに関してはサイヴァル議長より、まったく心配の必要はないという言質を頂いております」

「しかし、その言葉を鵜呑みにするわけにはいかないですよね……」

「まぁ、普通はそうですよね。地球の国際関係で考えればそう思って普通です……さしずめ、ヒトラーとチェンバレンといったところをお考えになりますよね?」

「はい」


 柏木は、彼らがこんなことをしているのは、何も日本に限った事ではないと。

 こんな外交は彼らとしてはしょっちゅうやっていることなのだと。

 そして、その外交交渉途中である国家の大使級とも、晩さん会で話をしたと……ハムール国大使の事だ……そういう点を語った。


「そういう点、彼らは成熟しています。そもそも非常に豊かで平和な国でした……まぁ、あの場にいれば、そういう事はないという事が分かりますよ……」


 しかし、そうは言われても、知らない人間はホイホイと信じるというわけにはいかないのが人間という奴である。こればかりは仕方がない……

 そしてこの質問を正確に回答するには『聖地案件』を出さねばならない。さすがに今それは無理だ。

 この程度で言葉を濁すしかないということである。


 で……次に出た質問。してほしくない奴が質問してきた……


「中華新報の楊と申します」


 あの時の記者だ……お帰りなさいとも言わない。


「はい」

「柏木大使……いえ、大臣が帰国した際に、一緒に来た宇宙船ですが……あれは何なのかお教えください」

「はい。私が帰国する際に、先方が護衛として付けて下さった宇宙船で、ヤルバーン補充人員輸送も兼ねた宇宙船です。その人員ですが、今回、我が国とヤルバーン自治体がここまでの外交関係を築いたという事もあり、いろんな研究者や、政府関係の方などの補充人員も乗っていらっしゃいまして、そういった先方の補充人員も乗せてきた宇宙船という感じです」

「では、『護衛』というぐらいですから、護衛を必要とする情況も発生するのですか?」

「主に海賊行為等の犯罪行為などが連合加盟国領域外ではあるようですね。話に聞くところではそういう感じだそうです」


 さすがにガーグ・デーラの事を、コイツらには言えない。


「なるほど……しかし……我々には、あの宇宙船が、地球の航空母艦……特に日本で使用されているゴエイカンのデザインにとても似ていると感じるのですが……あの宇宙船の艦影では、日本とイゼイラとの間で秘密裏に軍事同盟や、兵器供与の協定などを結んだ……と思われても仕方ないと思いますが?」


 柏木はフフフと苦笑し……


「いや……それはないですよ」

「どうしてそう言えますか?」

「え? いや、今貴方が自分で仰ったじゃないですか……『秘密裏に』やることで、なぜあんなところにプカプカ浮かばせておくのです? しかもその『護衛艦』のようなものを」

「え……いや、それは……」

「フフフ、あ~いえ、いいんです。ハイ。きちんとお話しますよ……実はあの船ですが……イゼイラ側が日本で調査した船舶データを参考に建造した『貨客船』です」


 そういうと、会場から「え? 貨客船??」という声が漏れる


「はい。実はイゼイラには地球で見られるような『船舶』が存在しません……みんなあんなヤルバーンみたいに空中を浮かんでいるような乗り物ばかりですから、船舶の必要性がないんですね。しかし、今後地球世界で色々と交易等々を行う際、やはり停泊、停留施設の関係上、船舶型の宇宙船もあった方がいいだろうということで、建造されたそうですよ」


 すると、同じような質問をしようと思っていたどこかの記者が割り込むように質問をし……


「では、なぜあのような航空母艦型になっているんですか!?」


 柏木は注意をしようとした進行係を、平手で制して


「我が国のヘリコプター護衛艦……例の天戸作戦で使用した『いずも』ありますよね? あの作戦の際に、彼らが取得した『いずも』のデータを参考にしたそうです……はは、なんでも、データ的にあの船の性能が一番良かったからという理由だそうですが、彼らには地球世界の護衛艦や旅客船の区別などつかないでしょうからね」


 他、甲板上の、航空機械の配列も、地球に飛来した際、同じような船を見たというので、それを真似ただけだと話した……米軍第7艦隊の空母の事だ。

 あの航空機械も、ヤルバーンの補充装備だと話した。


 実はこのあたりは作り話ではなく、当初イゼイラで建艦していた時には、そんな感じで造っていたという話だったそうだ。

 そして、後に、こういう形式の船が地球世界の『機動母艦』に相当する軍用海上船舶だという事がわかったという話なのだそう。


「……ですので、あの船、乗船しましたけど、中は豪華客船のような感じです……スパはあるわ、洒落たサロンはあるわ、バーはあるわ、娯楽施設にプールはあるわ……乗組員の部屋は全室個室で、とても軍艦とは思えないですね……恐らくおいおい船内は観光事業の一環として公開されると思いますが、その際は、外国プレスの方も入れるように私の方で手配させていただきますので、その目でご覧になればよろしいかと思います」


 「おおー」という記者の声。こういうのは実際に見せて納得させるのが一番である。

 しかし中国の記者は、憮然とした表情で納得してない様子で質問を終える。

 ……当たり前だ。基本はウソなのだから。


(何が貨客船だよ、ハハ……)


 自分で言って吹き出しそうになる柏木。ガーグ・デーラ母艦を一撃で沈めるような船のどこが貨客船だと。

 でも、あの船が作られた経緯は本当なのだから仕方がない。

 しかし、その所有権が事実上日本だと知ったらどんな反応をするか……それを思うと、少し苦笑いになる彼。


 次の質問。

 挙手するは、前回の会見にも参加していた動画サイトの記者だった。

 今回もどうやら実況でやっているらしい。

 堅苦しい話ばかりも何なので、その記者を指す。


「お久しぶりです柏木大臣。わくわく動画の佐古田です。お帰りなさい」

「はい、その節は。どうもありがとうございます」

「えっとですね。また前回と同じような感じで視聴者のコメントにお答えいただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

「では……えっとですね、今一番多い質問が……『ティエルクマスカには、何種類ぐらいの宇宙人さんがいるのですか?』というような感じの質問が多いですが……」

「はい。その辺は正直、もうそれは沢山としかいいようがないです。イゼイラ人・ダストール人・カイラス人・パーミラ人……ここまではみなさんもうご存知ですよね。あと、今回初めてお会いしたのが、連合加盟国の種族さんではありませんが、ハムール人という種族。で、お話はできませんでしたが、お話に聞いたレベルでの種族さんでは、ディスカール人という種族さんですね……詳しいことは、おいおい外務省が発表すると思いますので、そちらを参考にしてください」


 さすがにザムル族と、サマルカ人は言えなかった……というか、打ち合わせでは、もしこの手の質問が出ても、この二種族は衝撃が大きすぎるので言うなという話になっていた。


「それともう一ついいですか?」

「はいどうそ」

「『宇宙空母の名前を教えてください』というのが今多いですね」

「う、宇宙空母ですか?……いや、空母かどうかは知りませんが……」


 動画コメントの反応


【うそこけ!】

【空母!空母!空母!】

【貨客船? 中古の自転車満載してイゼイラに行くんかい!www】

【柏木よぉ……正直にゲロれ。な。楽になろうぜ……】

【青く輝く海原超えて……よくお袋さんが歌ってくれたよなぁ】

【つ電気スタンド】

【つカツ丼……ちなみに自腹】

【おまえら、それ違うwwwww】

【で、それを辺野古沖に持っていくのですね。わかります】

【尖閣近海でプカプカさせるのですね。わかります】

【 国 際 共 同 管 理 す る ん だ よ ! 】

【↑黙れチ○ン】

【その空母やるからフェルさん俺にくれ。な】

【で、フェルさんとどこに行ってた? 正直に言え】


 そんな感じ……好き放題。


「……え~……あの『貨客船』の名称ですが、イゼイラの公式呼称は、『カグヤ』という名称であると聞いております」


 その瞬間……


【カグヤキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━】

【カグヤ!かぐや!迦具夜!】

【家具屋!家具屋!】

【↑それ違うwww】

【まさか、カグヤとくるか……粋な艦名じゃねーか】

【宇宙空母『カグヤ』……悪くねぇ……シミジミ】

【DDH―185『かぐや』……決まりだな……】

【DDHって……雨の空母よりデカくてヘリ護衛艦かよwww……】

【キーロフやキエフの例がある。気にすんな】


 ネット民の間では、もう日本国所有のものとなってしまったようだ……

 弾幕で何を書いているのか分からない状態……

 一部の日本国民には喜んで頂けたようだ……相当数な『一部』なようだが……


 恐らく後でこのコメントを読んで、ぶっ飛ぶ予定の柏木大臣。

 近いうちに神認定される日も来るだろう……

 そこへ向けて『聖地案件』なんてのが分かってしまったら、どーすんのと……



 相当数な一部の日本国民世論はさておき……

 とりあえずお堅い話も、柔らかい話題も終えたところで、そろそろ質疑も終了。

 後は、おいおい各関係省庁からの発表を待ってほしいと言って、会見を終了する。


 そして、背筋を伸ばし、堂々と裏へ下がるが……裏へ回った瞬間に、ドっと疲れが噴き出る。


「そそ……総理……こ、こんな感じですが、よ……よろしいでしょか?」

「ハハハ! はい、大変結構でした。ご苦労様です柏木『先生』」

「んじゃ、後はお願いしますデス」


 ヘロヘロで、思わずフェルさん語になる柏木。


「はい。では柏木先生のお話に合わせますので、後は任せてください」


 そう言って、再度二藤部が壇上へ。

 二藤部は、柏木を大臣にした経緯についての質疑が残っていたので、そのあたりの事を質疑で受ける。


 柏木に与えられている『国会出席免除』といった他の大臣には例のない特例事項は、野党の了承をとっているのか? といったところだ。

 これに関しては、了承をとっているということだった。

 普通なら、民生党や、日本共産連盟といった反自保党系野党なら、反対丸出しな事なのだが、実は、ヴェルデオと、サイヴァルの連名で請願書を各野党党首や代表に送っていたらしい。


 柏木は言ってみれば、ティエルクマスカとの壮大な連絡係ともいえる立場にある。おまけにフリンゼの旦那さんだ。

 これもヴェルデオと二藤部達委員会の根回しでできた事だった。

 流石にヴェルデオと、イゼイラ元首の連名請願書を送り付けられた日にゃ、野党連中も「イヤ」とはいえない。

 

 ……という感じで、なんとか記者会見を終えることができた……



「み、三島先生……こ、こんなのが続くんですか? これから……」

「おうよ、おいら達ゃ、何十年もこんなことやってるんだぜ。思い知ったか先生。ぶははははは!」

「こ、こりゃ……ショーのプレゼン毎日やってる方が何百倍もマシだ……」

「修行だ修行……で、まだ選挙もあんの忘れんなよ」

「ひょぇぇぇぇぇ…………」


 さしもの突撃銀河バカ兼、ビジネスネゴシエイターも、これはかなわんと。

 日本の政治という奴は、『カグヤの帰還』作戦で並行世界へブッ飛ぶより過酷なようである。

 絶対イジメだと思う彼。


 人生、此れ日々修行也……




 ………………




 ちょうど柏木の記者会見が終わった頃。

 フェルもヤルバーンへ赴き、シエから話のあったニルファとの面会を行っていた……


「あ、貴女がフリンゼ・フェルフェリア……」

「はい、そうです。私がフェルフェリア・ヤーマ・ナヨクァラグヤです。ニルファ奥様」


 司令官執務室でヴェルデオと、久々に登場のジェグリ副司令同席のもと、ニルファと面会をするフェル。


「そうですか……私の知るエルバイラはまだご婚姻前でいらっしゃいましたから……そうですか……確かに、サルファ様の面影がございますね」


 そういってニルファは微笑む。


「では、ニルファ奥様は、私のファルンやマルマの事は……」

「はい。ケラー・シエからお聞きしております。お気の毒でございます。フリンゼ……」

「いえ、それはもう大丈夫ですから、お気遣いなくです。奥様」

「はい」


 ニルファは、まだ向こうの世界の記憶があるので、年相応の態度で臨んでいられる。

 で、ニルファとフェルは向こうの世界を体験した者同士、色々と話す。

 そんな話の中、ニルファが心配している事があるという。

 もし今自分が持っている向こうの世界の記憶が無くなってしまったら、この年齢相応の情緒も消えてしまうのではないか……サイヴァルへの態度も変化してしまうのではないか……そういう点だという。


「……私の経験や、ニーラ副局長のお話ですと、その心配はあまりしなくて良いということでしたよ、奥様」

「え? どういうことですか? フリンゼ」

「はい。私自身……今も『体感』として、並行世界にいった感覚は残っております。そして、そこで過ごした時間的な『時差』? とでもいえば良いのでしょうか、そういう感覚も残っています」

「そうなのですか!?」

「ええ、ニーラ副局長のお話ですと、やはり脳のニューロンに、そういう点は何らかの形として……感覚として残ってしまうようですね……もうお聞きしていると思いますが、私以外の一時的に精死病状態になった方々も同様だそうですよ」

「そうですか……ウフフ、では私もこの外見で、相応の『おばあさん』な感覚は残るという事ですね」

「はいです、ウフフ……精神的なお歳はサイヴァル議長閣下より上という事になりそうですね、ウフフフ」


 ニルファは、そういうとニコリと笑ってコクンと頷く。

 少し安心したようだ。


 そして彼女は、やおら意を決したように三人へ相談があると話す。


「フリンゼ……そしてヴェルデオ司令、ジェグリ副司令、お願いがございます」

「はい、何でしょう奥様」


 ヴェルデオが優しい目で応える。


「……私にも何か……この探査艦でお手伝いできること、いえ、お仕事をさせて頂きたいのです」

「え?」


 ニルファは、自分が当面イゼイラには帰れないという事をシエから聞いていると話す。

 そしてゼル通信で、サイヴァルが自ら必ず迎えに行くと言われたことも話す。なのでこれからこのヤルマルティア―日本国で何もせずに毎日を過ごすのはさすがに申し訳ないと。


「……ですので司令。私を軍へ復帰させて頂けないでしょうか?」

「ぐ、軍へですか!?」

「はい……幸い私は予備役で現場を退きました。サイヴァルとミィアールする前は、イゼイラ国防軍、空間軍の技術部将校をやっておりました故、その際の経験を色々お役立てできるやもしれません」


 そう話すニルファ。

 う~んと腕を組んで考え込んでしまうヴェルデオ。


「……ジェグリ副司令……どうなのかな? そこのところは……今我がヤルバーンの軍関係者と言えば、ケラー・シャルリが防衛総省人員として任官しているが……イゼイラ国防軍軍人として、この船で活動できるのかね?」

「はい……そうなれば国防省へ打診して審査の上、国防省人事部から防衛総省方面軍へ配置転換命令をしていただかないといけませんね。そして任官地は、このヤルバーンへという感じで……」

「となると……手続きが物凄くややこしい事になるなぁ……予備役軍人の配置転換は適性検査もあるしなぁ……」


 そんな感じで、イゼイラ的な手続きに悩んでいると、フェルがポンと手を打つ。


「ジェグリ副司令、マサトサンに一筆書いてもらえば、すぐに復帰と配置転換できるのではありませんか?」

「あ!……そうか、その手がありましたか……」


 ジェグリもポンと手を打つと、ヴェルデオも「あぁあぁ、なるほど」と納得する。


「え? マサトサン? もしかしてケラー・シエからお聞きしたフリンゼのご婚約者であらせられるヤルマルティア人デルンのお方の事ですか?」

「はいです」

「え? いえ、なぜイゼイラ軍関係の事務処理にヤルマルティア人が……」

「実はですね……」


 フェルは柏木がそれまでの経緯で『名誉特務大佐』の称号を持っていると話す。

 柏木に推薦状を書いてもらえば、人員派遣要請扱いになるから一発で解決すると。


「や、ヤルマルティア人が……名誉特務イル・カーシェルですか……驚きました……」

「ウフフ、そこまでヤルマルティアとの交流は進んでいるのですよ、奥様」

「そうなのですか……驚きです」

「それとマサトサンは、ヤルマルティア……いえ、今はニホン国の大臣サンでもあるのですよ。そんな人物の要請を、イゼイラ国防省も無視はできないでしょう」


 とまぁ、そんな感じで、ニルファもイゼイラへ帰国するまでの間、ヤルバーンで防衛総省軍人として働くことになるだろう。

 確かにこのヤルバーンでその日が来るまでノホホンと過ごすより、そっちの方がよっぽどいい。

 働いて、頭や体を使う事でこの世界に慣れることもできるし、妙な雑念を取っ払う事もできる。

 こういう場合、働かせることが一番のリハビリなのだ。


 そんな感じで、またヤルバーンにも結果的に優秀な人材が一人加わることになる。その人材は、現イゼイラ共和国議長のファーストレディだ……言ってみれば最重要VIPが乗っているわけだ……その意味は大きい。


 フェルはそういうところもあるので、近いうちに二藤部達とも引き合わせ、紹介すると話す。

 ヴェルデオは、リアッサをボディガードに。パーミラ人のジェルデアを相談役に付かせると話した。

 この件は、ジェグリから二藤部達委員会メンバーにも知らせておくという事にする……それはそうだ、イゼイラのファーストレディが結果的にヤルバーンにいるわけであるから、その身辺警護も国家元首並にならざるを得ない。

 もし今後、ニルファが日本へ上陸することになった際、ニルファの身に何か起これば、大変な事になる。従って、ニルファがファーストレディであるということも極秘扱いとすることにした……




 ………………………………




 さてその後……


 翌日、柏木は今上天皇の親任を受けるために認証式に出ることになる。

 

 皇居松の間……彼は自分の人生で、モーニングなんぞを着ることなど惑星直列に一回あるかないかぐらいに思っていたので、恥ずかしいやらなんやらと、そんな感じ。


 さしもの柏木も、相手が今上天皇陛下となると、人生最大級のガッチガチになる。しかしそこで固まっていては、ビジネスネゴシエイターとして、そして政府特務交渉官として、特派大使として、そんな感じではせた彼の名が廃る。彼は銀河一〇分の一を擁する連合議長とも『ケラー・議長』と呼び合う間柄の普通に話をしてきたオッサンなのだ。

 なので、見た目はいたって冷静。しかし内心はカチコチの鉄筋コンクリート。


 無論、この様子は報道も入り、テレビ中継もされる。

 その様子を見守る柏木家の人々、親戚縁者の方々は、もうあのテッポーバカはポカせんかと……またいつもの感じで調子に乗らんかとヒヤヒヤであった……


 とはいえ、さすがの突撃バカでも、陛下の御前でそんな事をするわきゃなく、いたって普通に式は執り行われる。

 認証式では、今上天皇は親書を国務大臣に手渡す際、「重任ご苦労に思います」といったような言葉をおかけになられるということだが、その際「ありがとうございます」のような返答はしないのが通例で、恭しく一礼しながら書状を受け取ると、あとは礼式に則り退がるのであるが……


 今回、少し例外的な事が起きた……

 

 ……柏木は、今上天皇から書状を受け取り一礼する。


「(柏木大臣、本当にご苦労様でした)」


 小声で話すやんごとなき方。


「(は、は……恐縮でございます陛下)」

「(報告書、楽しみにしております)」

「(はい。詳細なものをご提出できるよう努めます)」

「(…………)」

「(………………)」


 しばし会話。その内容は二人にしかわからない。

 コクコクと頷くやんごとなき方。

 少し笑みになる柏木大臣。

 その言葉で、柏木のガチゴチ鉄筋コンクリートな状態も、少し柔らかくなった。


 認証式で、こういった二言三言といった会話のやりとりも異例中の異例である。普通はありえない。

 陛下も相当にご関心をもっておられると感じ入る柏木。

 フェルに話してやれば喜ぶだろうと、そんな内容の会話だった……



 ……今回、二藤部政権は、少々内閣の改造も行った。なので柏木だけが新任式に出たわけではない。

 普通、内閣改造と言えば正直なところ、大臣待機組だのといったそんなベテラン議員にハクをつけてやるためにしなきゃならないような、そんな側面もないわけではない。

 従って、各派閥からこいつが良いだのといったような推薦があったりして、まぁ所謂派閥間駆け引きのような感じで大臣の首を挿げ替えるというところが正直言えばある。それが日本の政治である。


 しかし、事今回に至っては、そんな事言ってる奴は完全に国賊扱いされても仕方がない。

 まず国民がそんな事を許すはずがない。

 ティエルクマスカと平穏に国交を結べたとはいえ、現在の日本、まだまだ緊急事態には変わりがないからだ。

 普通なら柏木のような民間出身者が、現状のティエルクマスカ問題のような重大な国政に関する事項で大臣になるなどというのはあり得ない事なのだが……こればかりは他の政治家誰もがなりたがらなかった。

 二藤部も、柏木の政府特務交渉官職を本音でいえば維持したかった。

 彼のフットワークに期待したいところがあったので、大臣職という足かせを付けたくなかったのが本音のところだ。

 で、当初は現職議員からこの大臣職を模索したが、打診した議員に片っ端から断られた。

 なぜなら、断った連中みんながみんな「あいつがいるじゃないか」「俺にできるわけないだろう」と言われて断わられてしまったからだ。

 ……そう、みんな分かっていたのである。

 日本、いや、この地球世界唯一無二で、今ティエルクマスカと接点の深い人物と言えば、柏木しかいないと、アレに良い意味でみんな押し付けとけと……んでもって自保党に引き込めば一石二鳥だろと……そんなところである。





 ……それから五日後……





 日本政府は満を持して、イゼイラ―ティエルクマスカ関連資料の一部公開に踏み切った。


 インターネット上の特設サイトで公開された内閣府、外務省のイゼイラ―ティエルクマスカ関連資料は、アクセス数がすさまじい数に上り、サーバーが何回もパンクするほどであった。

 サーバー増強に次ぐ増強。アクセス制限等々、今現在でもそんな感じである。

 なんにしても、柏木達が記録した映像。そしてイゼイラ側からもたらされた資料等々はもうコピーして動画サイトに流されるわ、ブログに張られるわで相当なものであった。


 特にアクセスが集中したのは、イゼイラ星の映像。

 柏木が、サイトで資料アップするから見ろと言う話だったので、世界中のアクセスが集中し、柏木が会見で話したことが本当だったと分かり、ネット上では騒然となる始末。

 さしずめ『情報公開後の、世界の反応』といったところでは……


【なんじゃこりゃ! 女たらし船長もビックリだぜ!】(米)

【ってか、SF超えとる……】(伊)

【俺は今日からキリスト教徒をやめる決意をした。この星の宗教教えてくれ】(米)

【COOLとか、そんなレベルじゃねーな】(米)

【あのKASHIWAGIを世界で講演させろよ!】(台)

【俺はキャプテンが地球にいてくれればそれでいいさ】(仏)

【ああ、不思議の国ね……密航してでも行きたい……】(独)

【KAGUYAで行けるさ、いつかな……いつかわからんけど】(米)

【あのKAGUYA、絶対宇宙空母だよな……】(露)

【セントウキハムシシロ……】(米)

【何のネタだよwww】(米)

【いや、絶対甲板ひっくり返るんだよ。決まってるさ】(仏)

【日本のネットじゃ、もう自国所有認定してるぞ】(英)

【そうなら絶対阻止。国際管理するに決まってるだろ!宇宙条約あるし】(韓)

【まぁ少なくともお前らは関係ないけどな】(ベトナム)

【おいおい、こんな国と国交持ってるのが日本だけだって? うらやましすぎる!】(米)

【アメリカもとりあえずヤルバーンと繋がりは持てたんだろ?】(英)

【日本を仲介しないといけないけどな】(米)

【イゼイラ人に、日本の悪行を教えて、日本人からあいつらを引き離さないと!】(韓)

【お前らのやった悪行も、俺達が教えないとなwww】(ベトナム)

【俺たちの国には関心もってくれないんだろうなぁ……】(露)

【わかってんなら、あのハゲなんとかしろよwww】(英)

【しかし、まじめな話、バンブーカッターの話があるかぎり、当面は無理なんだろうなぁ】(仏)

【日本人は絶対イゼイラの技術で世界市場に仕掛けてくるぞ。規制しないと】(独)

【イゼイラ人が慰安婦や南京の事を知ったら、世界に目を向けてくれるさ】(中)

【で、そのイゼイラ人が何千万人も殺す戦争の歴史持ってたらどうするんだよwww】(フィリピン)

【そのうち南京虐殺は30億人とか言い出すに決まってるさ】(タイ)

【おまえらの国は一体何人いるんだよwww】(ベトナム)

【あいつらだって、戦争の一つや二つやってるだろうしなwww】(豪)

【地球追放するしかないだろ】(蘭)

【地球人が追放されたりしてな】(米)



 そんな会話が世界規模でなされていたり。

 

 しかし言えるのは、今回の柏木会見と報告で、全てではないにしろ世界はティエルクマスカのその一端を知ることになった。

 それを世界各国の政治関係者レベルではなく、国民レベルで知らしめる事になった。

 そして、日本という国との関係もである。

 このようなネット上での会話と衝撃は、それこそ氷山の一角にすぎない。

 各国政治レベルでは、更なるとてつもない衝撃が走ったはずである。そしてそんな巨大すぎる存在が、いまだに日本国としか関係を持っていない。

 

 二藤部政権的にも、これは一つの賭けでもあった。

 もういい加減ごまかしの対応はできない……やはり物事というものは進むべくして進んで、その進んだ内容に応じて変化がもたらされる。

 隠したくても隠しおおせるようなものではない……それが時の流れがもたらす因果というものなのだろう……



 ……更にその後、一部日本の民間招待者や、各国報道にカグヤの内部が公開された。

 民間人は、例の如く政府指定の観光業者に申し込みを行う形で、抽選という事になる。

 それはもう物凄い申し込みが殺到した。

 で、あまりの凄まじさに、観光業者が悲鳴を上げてしまい……


「もし可能なら、日本の主要都市近海を訪れていただけませんか? おながいしまつ……」


 と、ヤルバーンに泣きを入れてきたのである。

 というのも、関東エリアの観光客はともかく、地方から来る観光客となると、東京に来るまでの交通機関チケットの手配などで、他の観光業務に支障をきたしてしまうという事らしい。

 それでなくても、ヤルバーン訪問事業だけで今現在でもキャンセル待ち状態である。

 ヴェルデオもそういう事ならと、カグヤを津軽海峡・宮城県沖・伊勢湾沖・和歌山県沖・鹿児島県沖・沖縄県沖と周遊するコースを取り、カグヤのお披露目航海を行った。

 無論、海上ばかりをチンタラと進むような事はしない。そのほとんどを空飛んで、目的地近海で着水するというパターンで移動した。でないと時間食ってしまうので、そんな感じ。

 しかしこの移動方法が大変に好評で、その着水するところ見たさにヘリや飛行機で観光を組む『レア物ツアー・カグヤの着水を見学しよう!』なるものも登場し、カグヤ乗船に漏れた客を、そっちでなんとか満足させたりと、観光業者もあの手この手で必死に商品を作って頑張っていた。


 で、そんなのもあって、その話を漏れ伝え聞いた柏木大臣は……


「あの宇宙戦艦ばりな着水ってできないっすかねぇ」


 とティラス艦長に相談すると、お安い御用ということで和歌山県沖で、見事にそれをやってくれたのである。

 きちんと計算された調整でカッコ良く着水したので、懸念された高波も心配するほどではなく、その様子はもちろんニュースにもなった。

 その様子は、それを見た観光客が動画で撮りまくり、動画サイトにアップされると、これまたそのコメントには……


【スターブレイザーズじゃねーか!ヒヤッハーーーー】

【ああ、日本に帰化したい……】

【あの飛行機ツアー、外国人でも申し込めるのか?】

【あのツアーならOKらしい】

【そうか!今から日本に行ってくる!】


 とそんな感じ。

 このカグヤ乗艦見学ツアーも大好評を得た。

 但し、当たり前の話ではあるが、内部を公開したのは居住区画のみで、格納庫等それ以外の区画は公開されていない。


 そんなツアー内容ではあったが、沖縄県沖にカグヤを進めるのには少々政府も抵抗があった。

 それは沖縄左翼系平和団体の抗議活動だ。

 あの他府県からいらっしゃる自称近隣住民のみなさんは、今回もこんな空母丸出し宇宙船が行けば、『ヤルバーン宇宙空母来航はんた~い』などという感じで、毎度の事をやらかすかと思ったが、意外な事に大人しかった……

 それよか、彼らはカグヤのようなド級の軍事兵器丸出し艦船が沖縄に行っているというのに、なぜか普天間基地でオスプレイ反対と米軍出ていけをやらかす。


 ……結局、あの他府県の近隣住民は、平和団体などではなく、ただの反米組織なのだ。

 ある退役自衛隊海将の話では、中国から何がしかの利益供与を受けているのは確実という事だそうだ。そんな連中が、カグヤ反対運動を起こさないというのは、何かそのスポンサーに考えがあっての事なのかもしれない……


 そんな感じで、何かシエ嬢に巻き込まれて成り行きでカグヤに乗ってしまった多川一佐はその間一般人に紛れて艦内生活。

 今、多川はこの船とヤルバーン、日本間の調整係にされてしまったので、いつの間にやら、海の男だ艦隊勤務になってしまっている……安保委員会では、何でも最初にやらかしてしまった奴が担当者にされてしまうのだ……多川は空自パイロットから海自航空隊パイロットになる日も近いかもしれない……




 ………………………………




 そんなこんなで、これまた一ヶ月が過ぎた。


 その一ヶ月の間でイゼイラ人のみなさんは、日本ではじめて『台風』を経験することになる。

 昨今の台風、地球温暖化の影響もあってか、強力な奴が頻繁にやって来る。

 日本でもやはり例年の如く、沢山の被害が出た。

 今回の台風は、毎度ではあるが、沖縄から日本列島を舐めるように北上し、北海道へ抜けていくタイプ。そんな感じ。


 この時、柏木はフェルに……


「この台風、イゼイラの科学でなんとかなんないのかなぁ」


 と漏らしたところ、フェルは「できる」と言う。しかし同時に「それをやってはダメ」ともいわれた。 なぜなら、それも自然の営みなので、この台風も地球という星に必要なものなのだと話す。

 もし天候を人為的に制御してしまったら、この星全体の自然システムがおかしくなると。

 そういうところ、さすがは科学者である。


 とはいえ、さすがに各地の被害は見過ごせないとして、メルヴェンは日ヤ災害安保協定に則って、総動員で被災各地の救助復旧を手伝った。


 その際、大活躍したのが『カグヤ』だ。


 ……長野県のある山中村落では、その集落に通じる唯一の道路が地滑りで崩壊。孤立化してしまった。

 自衛隊が救出を試みたが、場の悪いことに、そこに向けて増水した近隣河川の氾濫が危惧され、連日の豪雨も相まって二次被害の恐れがあり、なかなか迅速に現場へ辿りつけないでいた。ヘリの動員も強烈な強風で難しい状況だったらしい。


 そこで、政府はメルヴェンに出動要請し、カグヤはその村落上空に急行。村民全員を一斉に転送でカグヤへ収容。ヤルバーンから発進させたヴァルメでシールドラインを形成し、河川の氾濫を押さこむことに成功し、その間、一気にカグヤのハイクァーンで臨時堤防を増設。なんとか村落を氾濫被害から守ることが出来た。

 その後、空中待機したカグヤを基地として、自衛隊ヘリ部隊が拡散した被災地各地の避難者をピストン輸送。空中停止したカグヤへ、自衛隊ヘリが着艦するという壮大な救助活動風景が展開された。

 他、四国徳島県でも、豪雨のため河川が氾濫。同じくヴァルメを急行させ、氾濫を抑えこみ、被害を最小限で食い止めることに成功する。


 その後、自衛隊や、地元土建業者の土木建築機材と人員を要所へ即座に転送配置させ、復旧を円滑に進める事ができた。

 これには土建業者も目を丸くして驚き、大手ナントカ組は「我社と契約して欲しい」と言い出す始末。

 これも今後、ヤルバーン事業のネタになるのかもしれない。


 家屋を失った被災者は、特別に設定したヤルバーン被災者避難区画へ迎え入れられ、臨時の家屋とハイクァーン配給権を提供され、衣食住不自由なく一週間ほど生活することになる。

 その後、被災地域にはヴァルメを中継して、ハイクァーン建築機能で仮設住宅……というには豪勢な住宅を建築し、そこに移住してもらうことになった。その後は各自治体の管轄である。

 

 九州のとある山岳道路では、トンネル出入口が崩落し、中に何十台も車が取り残され、トンネル天井崩落の危険がある状態になる。

 そこにはシエ隊長と多川一佐率いるヴァズラー隊が急行。ディスラプター砲で出入口を塞ぐ土砂岩石を分子の塵にして即座に排除。ハイパーレスキューの活動を容易にした。


 この事件で、実は世界で初めてヴァズラーの機動形態をお披露目することになった。

 これにも世界はビックラ仰天で……


【可変戦闘機だ!】(日)

【ロボテックだ!】(米)

【日本に渡すな!】(韓)

【盗め!】(中)


 だの大騒ぎであった。


 ……他、高波にさらわれたお年寄りを、たまたま救助活動に参加していた自治局のパーミラ人が発見、海に飛び込み救助。さすが両生種というところを見せつけたり……

 一番の大立ち回りを見せたのが、ヤルバーン自身で、エンジントラブルに見舞われたメキシコ船籍の貨物船が高波で航行不能に陥っていたところを、ヤルバーン自身が久々に相模湾から移動し、直々に強力なトラクターフィールドで救助。相模湾まで貨物船を持ち上げたまま移動し、無事着水させ救助するといった前代未聞の活躍を見せたりと……


 今台風で、ヤルバーンのみなさんは、それはもう日本史上、いや地球史上例をみない大活躍を見せ、その活動の様子はマスコミを通じ全世界に発信された。


 しかし、残念なことに多かれ少なかれ被害は出たわけではあるが、それでも彼らの活躍によって、被害がかなりの規模で抑えられたのは不幸中の幸いであった。

 ネットの動画などでは彼らを称えるMADも沢山作られ、中には『メルヴェン・連合救助隊』と称して、稲妻バックなズームロゴ入りの、バリー・グレイなわけのわかん動画が作られたりと、その活躍が讃えられた。


 この事件が結果的に柏木大臣の初仕事となったわけであるが、救助活動の指揮を取っていたフェルさん曰く……


『マサトサン、こんな強力な低気圧が日本には何回も来るでスか?』

「うん……まぁ言ってみりゃこの『台風』は日本の風物詩みたいなもんでね。日本人はもう慣れたもんなんだけど、最近は地球の気候がおかしいせいもあって、強力な奴が多いんだよね」

『ナルホド……ではこのような災害時に、ニホンとの救助体制を確立させる事も今後の課題としなければいけませんネ』

「そうだな……確かにね……今回はヤルバーンのおかげで、被害も相当食い止められたしね、ありがたい話だよ……そこんとこは関係各部署に通達しておかなきゃな」


 とそんな感じ。フェルさんには何かアイディアがあるようだった。


 ただ……この台風事件で、ヤルバーンの取った数々の行動……

 ヴァズラーの変形行為や、カグヤの救出作戦。ヴァルメの氾濫阻止行動や転送装置での自衛隊配置など、これら行為は人命優先のやむを得ない行為とはいえ、世界各国の軍関係者に相当なショックを与えたようで、後日、日本政府に問い合わせが殺到したという……

 逆にいえば、そうなることは二藤部達政府も分かっていたことではあるので、ある意味この台風を機に、以前、防衛大臣・井ノ崎が懸念していたこういった部分の『公開』を狙ったところもあった。

 災害対策なら、世界も文句の言い様がないだろうと……

 被災者には申し訳ないが、利用させてもらったところも、無きにしも非ずではあったのだ……





 ………………………………





 とまぁそんな事件もあってので、それからまた一ヶ月後のある日。

 時期は、丁度お盆前の頃である。


『オ盆? なんデすか、それは? 食器トレイを記念する日ですカ?』

「いや、それはお盆……あ、一緒か……」


 フェルさんの、いつものベタなボケも切れ味鋭く、あるイベントのために柏木とフェルはとある場所にやってきた。

 無論、白木や大見、シエといった仲間たちも同じくそこにやってきていた。


 さて、そのイベントとやら。


 ここは大阪府吹田市千里万博公園10−1。

 日本の誇る博物館


『国立民族学博物館』


である……ここで開かれるは、これより二ヶ月間催される博物館始まって以来の大イベント……


『大ティエルクマスカ展』


 であった。

 テーマは『遥か5千万光年彼方、未知なる文明の総て』


 二藤部と、粋なメガネの大阪府知事とのテープカットのあと、ポンポンと花火が打ち上げられ、開催が宣言される。

 今日開催初日は、皇太子殿下もお見えになられた。フェルやシエとしばし会話し、フェル案内の元、館内を見学される光景がニュース番組で放送される。

 二人とも今やヤルバーンの看板娘だ。そんな感じ。

 この『大ティエルクマスカ展』は国立民俗学博物館を皮切りに、千葉・幕張でも二ヵ月後に開催され、その際は天皇陛下もご見学される予定となっている。


 今回、展示物の総ては柏木がイゼイラより持ち帰った連合各国の贈答品や、収集した物産に映像資料。

 そのあまりに凄まじい数の展示物に、今回特別に他の展示物を一時的に総撤去して、博物館側は全館ティエルクマスカ物産一色で埋め尽くした。

 普段はアジア・ヨーロッパ・オセアニア・北米大陸・南米大陸・中東といった具合に展示物をエリアに分けて展示する各コーナーも、この期間中は「イゼイラ星間共和国」「デルベラ・ダストールデルド星系連邦総国」「カイラス星間共栄連邦」といった感じで、加盟国別に分けて展示していた……ちなみにザムル族と、サマルカ人さんところも、展示はされているが、種族の容姿は展示されていない……


 そして今日から五日間は、特別にイゼイラの国交祭も再現され、ヤルバーン乗務員有志が、あの時のショップを博物館敷地全部を使って再現していた。

 ショップでのお買い物は、流石に物々交換ではなく日本円で。

 価格設定は、日本の有名キャラクターショップや飲食企業がアドバイザーに付いて値段を設定してあげたりと、そんな感じで儲けようという魂胆。

 無論、柏木先生の大好きな、あの武器イミテーションショップの店主も出店していた。

 相当な品物の仕入れが予想されるため、今回は全部手作りというわけにはいかず、手作り原型をハイクァーンで量産していたりする……ちなみに柏木が交換してもらったディスラプターガンのイミテーションは、12900円(税別)也。これは柏木先生直々に値段設定を行ったそう。まぁ本当は10万円ぐらい付けてもいい出来だそうなのだが、さすがにその値段はハイクァーン量産という性質も考えれば妥当ではないのでそんな感じ。材質も地球で入手可能な樹脂製にした。

 それぐらいの価値はある出来だそうである……ガンマニアはそれぐらいの値段なら絶対買うから量作ってボったくったれと言うアドバイス……


 観光庁が、日本中のコスプレイヤーにも声をかけ、ボランティアでお手伝いを募集したところ、凄まじい数のボランティアが集まり……

 イゼイラ人の格好や、ダストール人の格好。イゼイラ戦闘員のロボットスーツな格好の人もいたり。

 そして、山代アニメが製作した、現在毎週土曜日17時から視聴率40パーセント超えな、絶賛放送中の超大好評アニメ『イゼイラ神話・ノクタル創世記』に登場する、ちょっと誇大表現な、きらびやかな古代イゼイラ人の服装な格好をしてくるレイヤーさんもやってきて、館内案内や、パンフレット配り。駐車場の案内やらと手伝ってくれていたりする。

 当のヤルバーン乗務員観光客には、そのコスプレというものの感覚が新鮮だったらしく、写真をねだられたりと、なかなかに好評なようだった……


 大阪万博公園の駐車場は、全て満車状態。

 自動車の車列は、万博公園外周道路にも大きくはみ出てしまわんばかりの勢いで、今、そこは1970年の日本万国博覧会以来の、超人気観光スポットとなってしまっている。



 ……もうはっきりいって、博物展というよりは、政府主催のコミケ会場と化している状態だったりする……





『ア……あじゅいでスぅ~……』


 テープカットに参加して、皇太子殿下を見送り国交祭イベントを回ってきた後、政府関係者テントに戻ってきたフェルサン。

 目を×の字にして、ヘロヘロである。


『マ……マザトザン……日本のこの季節は、いつもこんなにあちゅいのでズがぁ~?』

「ハハハ、そうなんだけど、今年はまた特別に暑いな。ヘロヘロじゃないかフェル」


 柏木大臣、今日は裏方に徹している。表にはあまり出ない。理由はマスコミ対策他諸々。

 彼が表に出れば、騒ぎが大きくなる事が目に見えているからだ。


『イゼイラでもこんなに暑い季節はナいですぅ~……ヤキトリサンになってしまいます』

「フェルがそれを言いますか……そんなに暑いなら、スーツの空調入れればいいじゃん」

『そ、そうしますですぅ~……コンジョウで耐えようと思いましたけド、降参しますでス』


 PVMCGで、スーツの体温調整機能を効かすフェル。『フゥ~~』と、急に幸せそうな顔になって、フニャフニャになる。


 次にやってくるは……


『ア……アヅイ~~……ナンナニョダコノ暑サハ……』


 シエさんも、ヘロヘロでテントに戻ってきた。目が×になっていたり。


「いや、無敵のシエさんがそんなこってどうするんですか」

『仕方ナカロウ、暑イモノハ暑イノダ…………脱イデイイカ?』

「ダメです!!……って、ご先祖さんが恐竜みたいな生き物なのに、こんなので暑がってどうするんですか」

『チキュウノ爬虫類トイッショニスルナ……一応我々ノ祖ハ温血動物ダゾ……ヤッパリスーツノクーラーヲ入レヨウ……』


 シエも、フゥ~となって、ひと段落。

 どうもフェルと、この暑さの中、どんだけ耐えられるか根性比べをしていたようである……皇太子様を前にして、自分達だけスーツに空調効かす訳にはいかんだろと。

 そんでもって皇太子様をお見送りした後、国交祭を見回っていたと、そんなところ。

 なんだかんだと日本の夏を楽しんでいるお二人。


 今度は……


「いやぁ~……あっちぃーな、今日はまた一段とだぞ……」と扇子をパカパカと白木。

「さすがの俺も、この暑さは参るな……」自衛官でもお手上げだと大見。夏制服が汗でびっしょり。


「会場の熱気にも当てられてるんじゃないの?」

「だよなぁ……ちょっと一通り見てきたけど、あの人気熱気は異常だわ」


 白木がパイプ椅子にドッカと腰を掛け、冷えたポットの麦茶を煽る。大見も同じく。


「熱中症な人、出ないようにせんとなぁ……」

『マサトサン、あの展示用ヴァルメを使って、シールドドームを形成させましょうカ?』

「環境シールド?」

『ハイデス……ネッチュウショウな人が出てからでは遅いですよ……ミナサンに、快適に過ごしていただかないと』

「そうだなぁ……ここまで暑くなると思わなかったものなぁ……お願いできる? フェル」

『ハイです』


 フェルはPVMCGを操作し、空中停止させて展示している、展示用兼、警備用ヴァルメにコマンドを送り、物体透過式の環境シールドを会場周囲に展開。シールド内を冷房が効いたような涼しい空間にしてしまう。

 一定範囲の気温のみ調整する設定にしているので、来場者は汗だくでやってくるが、ある場所から急に気温が下がるのを感じてみんなびっくり仰天。

 汗だくで順番待ちしている客や、国交祭を楽しんでいる客、コスプレボランティアにスタッフは、急に快適な温度まで気温が下がったので歓声を上げていた。


『只今、展示用のベビーヘキサ・ヴァルメを使用して、会場温度を下げさせて頂きました。急な気温低下で気分が悪くなったお客様は、会場スタッフまでお気軽にお声をおかけください。只今……』


 と、会場内放送もそんな感じ。

 うだって熱中症になるよりはよっぽどいい。


「で、白木さ、総理達は?」

「ああ、もう大阪市役所へ行ったぜ。あの例の市長さんとの面会にな」

「そっか。でさ、こんだけの参加人数でゼルシステム、うまい具合に稼働してるのかな?……なんか心配になってきたぞ」


 柏木は、今回の博物展で、イゼイラで自ら体験したあの画期的なシステムを導入していた。

 ヤルバーン技術部門と相談して、展示物の前に何機かゼルシステムを設置。そのタッチスクリーンを見物客がポンと押すと、展示物が仮想造形されて触れるシステムになっている。

 一つの展示物に数器は置いてあるが、こんだけの人数、みんなうまいぐあいに触れるんかなぁと。


「まぁ、こればっかりは仕方ないだろ。この人数じゃ全員が全員は無理だろうな」


 大見が見物してきた感想を漏らす。


『ソウですねぇ……参加者にゼルクォートを全員分貸し出すわけにもいきませんカラ……』


 フェルもさすがにこればかりは仕方ないと話す。

 するとまたテントに一人入室してくる。


『ソれはゴ心配いりませんわ、カシワギダイジン』

「あ、これはニルファさん。ご尽力感謝いたします」

『イエイエ、私モ楽しませて頂いております。イゼイラやティエルクマスカの物産をヤルマ……いえ、ニホン国の方々にご紹介できるとは、意義深い事ですもの』


 ニルファもこの博物展企画に技術部門スタッフとして協力していた。


 ……実は既にフェルから彼女の事は紹介されていた。サイヴァルから柏木の話は聞かされているとして、すぐに打ち解けあって気さくに話をする関係になっていた。

 いかんせん柏木は特務大佐である。ティエルクマスカ人からすれば、敬意の対象でもある。


 柏木はフェルからニルファが軍に復帰したい旨を聞かされていたので、イゼイラ国防省向けに、特務大佐と、日本国ティエルクマスカ担当大臣の肩書を併記して、復帰推薦状を書いて送ってやっていたのだ。

 ……ということで、今回の『カグヤの帰還』作戦被験者としての功績も勘案して、ヴォーシェル階級……日本語に訳せば、『総佐』とも、『上級大佐』とも訳せる階級で、イゼイラ帰還までの期間限定で復帰することになった……


『……アチラの広場に、急きょ仮設店舗を造成して、ハイクァーンで作った展示物の複製品をチキュウの“オカネ”で購入できるショップを設営いたしましタ。これで展示物のイミテーションをオキャクサマも持ち帰ることができるでしょう。売上はヤルバーンの物にもなりますしね、ウフフフ』


 ニルファ総佐、なかなかに商売人であったりする……


「ははは! なるほど、それはいいですね」

「でもよ柏木、例の日程で来る修学旅行のガキンチョどもはどうすんだ? 一応『教育』の為だからななぁ……『公平』って奴でゼル造成品を触らせてやらねーと、日教連の連中やらPTA連中がうるせーぞ」

「ああ、そうだったな白木。あの日程の時は、一般客の入場時間は13時からだったか……それまでは修学旅行用の時間帯でやるんだったな……今日のこの状況だからなぁ……」


 するとニルファはその点も考えていると話す。


『特別に今回の博物展専用で、出品物のみに絞った物を造成できる簡易ゼルクォートを、各教育機関の教員分用意しておりまス。それを貸し出して、教員に使い方をお教えしまして、一つの展示物に何個か造成できるようにし、その仮想造成物を各教員が受け持つ子供同士で回覧させれば良いでしょう』

「おお~ さすがですね。それなら大丈夫か」


 みんなウンウンと頷く。

 これでなんとか期間中はうまい具合にやっていけるだろうと。


「よし、俺もちょっと見回ってくるわ。一応責任者だしな」


 パンと膝をたたき立ち上がる柏木。胸のポケットからサングラスを取り出してかける。

 一応変装のつもり。顔出しはあまりしたくない。


『ア、では私も行きますでス』


 デートを目論むフェル。公私混同モード発動。

 フェルが付いてきちゃサングラスの意味が無い……まぁ別にいいかと。


『ム、デハ私モ。一ツ貸シガアルカラナ』

『モ~~……デモ、ニルファ奥様の件もありましたから、今回は特別に許してあげまス』


 少しプーとなりながらも、今回は寛容なフェル。


『ウフフフ、では私モ“総佐”として一緒に参りましょう。そうすればシエの“イタズラ”も防げるでしょう? ウフフフ』

『ナヌ!……ウムムム、ソウキタカ……フェル、今日ハ、ニルファニ救ワレタナ……』


 シエの所業をしっかり観察しているニルファ。

 今のニルファ。シエの上官になるわけだったりする。

 大見と白木は……


(いや、シエさん、ニルファさんがいなかったら、また何かやらかすつもりだったのかよ……)


 口元波線で苦笑い……


(しかし柏木、異星人美女三人も連れて会場視察……こりゃ明日のネットが楽しみだぜ、クククク……)


 白木の予測は見事に的中。

 次の日の掲示板には……


【柏木】柏木大臣の異星人女性関係を糾弾するスレ【問題】


 というスレが、part100まで立った。

 その内容は……ご想像にお任せする。そう、貴方の想像通りの内容である。


 参考までに……

 レス中、柏木へのなんちゃって殺人予告は2千レス。

 そして、軽く三千回ぐらい爆死している……


 で、別のスレでは、ヤルバーン異星人女性ランクに、ニルファが流星の如く3位に食い込んだりしていた……

 



 ………………………………



 

 その後、彼は明日の関西経済連盟要人との会合のため、大阪市内で一泊する。宿泊先は大阪市北区天満宮にある有名大手ホテルの『大日本ホテル』


 シエやニルファ達は、転送でヤルバーンに戻っていった。

 明日は交代で、リビリィにポル、オルカスがイゼイラ側スタッフとして手伝いに来る予定。彼女達に任せておけば大丈夫だろう。


 フェルは、山本からの要請もあって、柏木の護衛も『喜んで』引き受けていたので、柏木とともにホテルへ……というか、フェルは柏木の嫁なので、山本の要請がなくても、妻としてハナから付いていく事になっているわけで、あんまり関係がない。


 なので、政府要人にしては、ボディーガードがフェルさん一人。

 しかし、この一人がSP何十人分なので、最高の護衛だったりする。なぜなら、フェルの行く上空1000メートルには、探知偽装をかけたヴァルメが常に彼らを追跡していたからだ。


 フェルさんは、日本人モードになって柏木に寄り添う。

 設定的には、柏木の秘書という感じ。ポニーテールにスーツジャケットと、スーツパンツ姿がなかなかにカッコイイ。


 そんな感じで、万博公園からタクシーにのってホテルへ向かう。

 以前、千里中央に向かったルートの逆……新御堂筋を下って大阪梅田方面へ。

 新御堂筋・梅新東降り口を降りて、左に曲がり、地下鉄南森町駅、そして松ヶ枝町を抜けて天満宮方面へ向かう。

 とある交差点へ付く。右に行けば京都鉄道天満橋方面。真っ直ぐ行くと京橋へ。左に向かって少し走るとホテルに到着。


 マスコミに関しては、柏木もキグルミシステムを使用して別人に変装し、博物館から抜け出したので、完璧に巻いた。なので今は完全なプライベート状態であるので、なかなかにホッとしたりする……こういうところ、本当にポルに感謝感謝な柏木大臣。

 今頃マスコミは『柏木は何処に行った!?』ってな具合で、てんてこ舞いだろう。


 今日、このホテルは件の博物展の関係もあって、自治体関係者や政府関係者などがたくさん宿泊している。従ってSPの数も相当なもので、マスコミ関係者はシャットアウトされている状態だ。

 取材活動等が行われていると、即行で警備員が飛んで来る。そんな感じ。

 これだけ厳重な警備体制であるのは、海外要人や、ヤルバーン関係者などが来ているからというのもある。無論一般客もたくさん混じっている。

 海外要人は、ヤルバーン関係者を見つけると、片っ端から話しかけているようではあるが、彼らも素っ気なくしている素振りはない。とはいえ、どっちにしろ結果は同じである。


「フェル、もうここに来たらマスコミさんも大丈夫だろ。元の姿に戻れば?」

『ソウですね、ではチョット待ってて下さイ』


 フェルは女性用手洗いにいくと、すぐにいつものフェルさんに戻ってやってくる。

 その瞬間、周りの一般客から大注目を浴び、スマホで写真を撮ろうとする者もいたが、すかさずSPが割って入ってダメ出しをし、客は驚いているよう。


「フェルサンは人気者ですね」

『ウフフ、でも、もうこの姿であまり外を出歩けないのも残念ですネ』

「そうだなぁ……有名になりすぎちまったからな」

『デモ、イキガミサマ扱いされないだけ良いですヨ』

「それはフェルにしかわからん悩みですな、ははは」

『モー、マサトサンもまたイゼイラに行ったら、私と同じ目に合うがいいデスよっ』

「あ、そっか……そうなる可能性大だ」


 そんな感じで笑う二人。

 チェックインを済ませると、晩メシがまだだったので、ホテル内のレストランで食事を摂ろうということになる。

 しかし、これがどこも一杯だ。今日は金曜日で、お盆ということもあって、人が多い。

 こりゃ仕方ないということで、道路を挟んだ向かい側に確か有名なカレー屋があったので、そこに行くか? というと、フェルは小躍りしてそこに行こうという。

 ホテルから出てしまうので、SPに目配せをする。

 SPもOKサインで、大きく間を開けて付いてくる。

 再度フェルは日本人モードに変身。そしてカレー屋さんへ。そこでカレーライスを喫飯したりなんぞする……もちろんフェルさん大満足、ニコニコである。




 ……二人は店を出て、ホテルに帰ろうとのんびり歩みを進めると……




「あれ? 真人!? 真人じゃない!」


 後ろから声をかけられる。

 ん? と想う柏木。振り返ると……


「やっぱり真人だ! 私だよ私、わかる? お久しぶり!」

「え……えっ!……お、おま……れ、玲奈……か?……」

「そうよ! ほんっっっとお久しぶりね……」


 なんと、玲奈だった……並行世界で会った玲奈とここでも会うとは……

 しかし今の柏木は、記録としては玲奈と並行世界で会ったことはわかるが、残念ながら現在の彼女の顔はもう覚えていない……しかし改めて実物を見ると、脳のニューロンに刻み込まれた何かのせいで、その姿に違和感を覚えない……しかし、お互い年食ったとは思うが、玲奈は年齢に比べると若く、綺麗だった。

 これも美魔女という奴か? って前にもそんな事を言ったような気がしないでもない。


「玲奈……もう十何年ぶりか……」

「そうね……もうそんなになるのね……あ、そうだ、今は『柏木大臣』と申し上げたほうがいいのかしら? ウフフ」

「はは、いやそうか、知ってて当然だよなあ……フェ……じゃなかった、君……」


 そう言って振り向くと、柏木大臣の秘書が口を『 3 』にしてふくれっ面。

 ありゃりゃんと思う柏木、少し困惑。


「あ、ちょっとまっててくれ玲奈……」


 少し玲奈から離れてフェルに耳打ちする柏木。フェルはウンウンと頷いている。ちょっとお芝居の打ち合せだ。

 SPも、何事かと柏木に寄ってくるが「知り合いだ」と説明して引いてもらう。

 するとフェルは玲奈に一礼して、その場からSPと共にホテルへ帰っていく。


「……スマン玲奈、待たせたな」

「あの女の人は?」

「ああ、俺の秘書だよ」

「秘書ねぇ……偉くなったものね、真人も」


 そう言いながら、ホテルへ戻るからそこの喫茶店で話をしようと彼女を誘う。


「……で、そういうお前は今何やってんだよ」

「フフフ、私はこういう者です」


 玲奈は、ハンドバックから何かをゴソゴソ探して取り出す。名刺だ。それを柏木に見せた。

 

「ルポライター桐山せつな……え? あの週刊時事に連載してる『時を診る』の!?……あれ、お前だったのか!」

「そうよ、驚いた? 私も一応関西造形芸術大学文学部出身ですから」

「はは、なるほどね……で、何の取材?」

「もちろん例の『大ティエルクマスカ展』よ。それで大阪にね」 

「なるほどね……」

「で、偶然大物大臣さんを見つけたってわけ……ニュースも全部ウォッチしてたわよぉ~……イゼイラ行きの会見見た時は、まさか! と思って心臓止まりそうになったけどね」

「ハハハ、おいおい、勘弁してくれよ……そんな大したもんじゃねーよ……」


 しばし歩みを止めてそんな話。


「でも真人……あの時も、何かいつの間にかだったね……今更だけどごめんね……」

「いや、いいって……俺もあんなのだったしな……昔の話だろ、お互い様だよ」

「うん……」

「結婚はしてるんだろ? だいぶ前にそんな噂を聞いたけど」

「ええ、今は二児の母親よ。ダンナは都庁の公務員で本業は主婦。ルポライターは副業みたいなものね。結婚前まではその出版社で編集やってたんだけど、寿退社して、まぁそのコネで家計のためにこんなことやってるってわけ……で、テレビでアナタが映った時は思わず『アレ! 私の友達!』って、ダンナと子供に言いふらしたわよ……元カレとは言わなかったけどね。ウフフ」

「ハハ、ミーハーだねぇ……」

「ウッサイわよ……で、あなたはまだ独り身なの?」

「え?……い、いや、そういうわけではないんだけど……ま、いっか……」

「なによそれ」

「いや、まぁ……あ、で、お前、主婦って子供はよ……まさか置きっぱなしか?」

「何言ってるのよ、そんなお母さんじゃありません。今日の出張は特別。子供は母に預けてるわ」


 そんな話をしながらまた歩みを進めてホテルの喫茶店へ。

 喫茶店に付くと、バカ高いコーヒー二つと、レモンティーを一つ頼む。


「あれ? このレモンティーは?」

「フフ、まぁ玲奈がそういう仕事なら……ってわけではないんだけど、ある人物と待ち合わせしていてね。ま、お前の商売的にもスゴイ人と合わせてやるよ……特別だからな。本当なら公安さんスッ飛んでくるぐらいの事なんだからな……」

「え?……」


 そんな感じでしばし待つと……


『マサトサ……じゃなかっタ……カシワギダイジン、お待たせしましたデス』


 その声に、ハっと振り向く玲奈。


「えっ!!!……ま、まさか……フェルフェリアさん!」


 ペコリと頭を下げるフェル。

 でもまだ少し口元が『 3 』


「玲奈、紹介するよ。まぁこちらはもうご存知とは思うけど、ヤルバーン調査局局長のフェルフェリアさん…………で、フェル……フェリアさん? こちらは私の古い友人で、ルポライターの竹村玲奈さん。『二人のお子さんを持つお母さん』だそうですよ。『旦那さんは、地方公務員さん』だということで」


 柏木は、プーとなっていたフェルを宥めるために、『二児の母親』『ダンナがいる』という点を極めて強く強調して説明した。

 その言葉を聞いて、ニッコリ笑顔になるフェルさん。ふてくされモードを解除したようだ。


「あ、あ、あ、そそ、そうだ……名刺名刺……そ、そんな……真人! いきなりこんなドッキリなんて卑怯よ!……って、あ、あったあった……」

「おいおい、落ち着けよ……ハハ」


 焦りまくりながら名刺を差し出す玲奈。フェルも名刺を出して玲奈に渡す。ペコペコする玲奈。


『キリヤマ、セツナ?……どういうことですカ? このオ名刺は』

「ああ、フェルフェリアさん。彼女のペンネームですよ」

『偽名みたいなものですカ?』

「ナァカァラ……」

『ああ、ナルホドです。理解しましタ』


 その会話に「?」となる玲奈。

 柏木は、とある週刊誌の有名時事論評のコーナーを持っている作家さんだと説明してやる。

 

「ね、ね、真人、フェルフェリアさんにインタビューは……」

「それはやめた方がいい玲奈。公安さん怖いよ」

「そっか……残念……」

『別に少しぐらいなら構わないですヨ、マサ……えっとダイジン』

「そうですか?」

『ここはニホン国内デスから。イゼイラの法は関係ありませんデすし』


 フェルも気を利かせてくれたようだ。


「ホントですか!?」


 コクンと頷くフェル。しかし柏木は……


「でも、政治的な事とかは聞くなよ。マジで……な」

「わかってるわ。では少しお時間を頂いて……えっとフェルフェリアさん、今回の……」


 玲奈はタブレットを取り出して、フェルに色々と尋ねた。

 好きな男性のタイプは?……どう聞いても柏木な感じだったので不思議そうな顔をする玲奈。変わった趣味だなと……

 他、好きな地球の食べ物はとか……好きな文化は?とか……好きな日本の場所は?とか……日本をどう思うかとか……


 その質問の内容を横で聞いていて、玲奈も流石だなと思う柏木。

 言ってみれば政治的なことが聞けない代わりに、今ネット民等が、一番知りたいプライベートなネタを聞いてくる。まるで時事評論家が芸能レポーターに転身したみたいな感じ。

 しかし、必ず一般人は食いついてくる質問ばかりだ……まぁこの程度なら公安さんのお世話にならずに済むなと。 


「はぁ……ありがと真人。この記事、良い値段で売りつけられるわ。家計も助かります」


 ペコリと礼をする玲奈。

 実はイゼイラ人への独占インタビューは、これが初になるのでマスコミ的には一大事だったりする。

 しかもフェルへのインタビューだ。値千金間違いない。


「はは、そりゃ結構ですな。で、ティエルクマスカ担当大臣にはインタビューしないの?」

「どうせ機密事項ばかりなんでしょ? 聞くだけ無駄じゃん。聞きたいことはいっぱいあるけど」

「まぁね」

「偶然会った。で、あなた同席の紹介ってことでいい?」

「そうしてくれたほうが助かるよ」


 そんな感じで、昔の思い出話に花を咲かせる。

 フェルも玲奈から、昔の柏木の醜態を面白おかしく聞かされて、コロコロと笑っていた。

 そんな大人の時間。飲み物もコーヒーからビールに変わっていたり。

 なんとなく同窓会気分。元カノとはいえ、十何年の時を経て、友人関係に戻れた……偶然とはいえ、そんなひととき。

 しかし柏木は少し、いい意味で複雑な気分。

 もう忘却してしまってはいるが、向こうの世界では、彼女と結ばれる運命にあったのだから…… 


「……で、真人。大見君や白木さん……だったっけ? あの人とはあんまり会ったことないけど……あの二人とも仕事してるんでしょ?」

「ん? よく知ってるな」

「そりゃね。ヤルバーンネタ追いかけてたらわかるわよ。白木さんはともかく、大見君や美里さんは元気なの?」

「最近よく会ってるよ。あいつらにも今日の事言っとくよ、偶然って怖いなって」

「そう、よろしく言っておいてね。桐山せつなもよろしくって」

「ああ。でも、子供ほったらかすなよ。な」

「わかってるわよ。これでも良いお母さんで通っているんだから……あ、そうだフェルフェリアさん?」

『ハイ?』

「あとで……その……サイン頂けませんか? 私の子供が貴方のファンでして……」

『ハイ、わかりました。イイですよ』

「ありがとうございます! これで子供達へいいお土産ができたわ。ウフフ」


 そんな感じで、ビールから烏龍茶へと飲み物が変わる。


「あ、そうだ真人」

「ん? どうした?」

「今日、フェルフェリアさんを紹介してくれたお礼と言っては何だけど……」

「?」


 玲奈は、ハンドバックをもそもそさせて、何かを探す。


「ああ、あったあった。これこれ……」

「?」


 一枚のCD-ROMであった。


「自分で言うのも何だけど、私のあのコラム。結構人気あるのよ」

「みたいだな。ネットのソース先でもよく見かけるし」

「ええ、それでそういうのもあって、編集部に私宛のファンメールやらなんやら良く来るわけ」

「おう、それで?」

「まぁ……そんなメールの中には、匿名でね、内部告発ネタやら、怪文書みたいなのもよく来るわけなのよ。まぁそのネタのほとんどが海山な代物で、記者部門の人に渡しても裏が取れないモノばかりなんだけど……今、ノートパソコンか何か持ってる?」

「あ、えっと……」


 お大臣様はそんなもの持ち歩かない。PVMCGも玲奈の前では使えない。困ったもんだ。

 するとフェルがPVMCGを作動させて、窓OSシステム環境を構築させる。

 空中にポっと浮かび上がるモニターに玲奈はビックリ仰天。


『ソの光学ディスクをお貸し下さイ』

「は、はい……スゴ……話には聞いていたけど……浮いてるし……」


 フェルがスっとCDの裏面に手をかざすと、PVMCGにデータが瞬く間に取り込まれる。

 玲奈はその何気なくも凄まじい魔法のようなフェルの行為に目を丸くする。

 周りにいる客も、なんだなんだとフェル達の方を凝視する。そりゃ喫茶店で空中に浮かぶモニターを見れば誰でもそうなるだろう。

 しかし、この風景もヤルバーン乗務員の自由入国で、日本ではもう割と普通の光景になってたりする。


 最近は、窓OSも器用に扱えるようになったフェル。

 フォルダを開いて、圧縮データを展開する。

 すると……有名表計算ソフト対応のデータが解凍された。

 ファイルネームは何かのコード番号のようだ。意味のある言葉ではない。

 ウイルスには感染していない様子。まぁPVMCGにパソコンレベルのウイルスなんぞ意味ないのではあるが。

 そして、ファイルを開いてみる……


 その瞬間、反射的に柏木の目の色が変わった……


「こ、こりゃ!!……」


 空中に浮かぶVMCモニターをひったくるように手元へ寄せて、食い入るように見る柏木。

 その表計算データには、何やらコード番号のようなものと、記号と、数字がツラツラと書かれてあった。


「…………!!」

「やっぱりね……あなたのところと関係ある物なの?」

「あ、い、いや……ってか、どうしたんだこれ?」

「よくわからないのよ。編集部の私のアドレス宛に送られてきたんだけど……何のことか全然で……」


 玲奈は、メールの形態からみて単純にアドレスを間違えて送ったか、何かの内部告発か、ボットウイルスにでも感染したPCから送付されたか……そんなところかもしれないと話す。


「ただね、それはアーカイブだけだけど、メールには「外星人」とか……」


 そういうと、玲奈はペンを取り出し


『备品名单』


 と書いた。


「……こんな字が書いてあって……中国語みたいな漢字だから、調べてみたら『備品一式』とか『備品リスト』とかいう意味らしくて、何だろうって話になってたのよ」

「じゃぁ玲奈……俺にカマかけたな?……その外星人って単語か?」

「そういうこと……でも、何か思い当たる所ありそうみたいだから、そのデータあげるわ」

「え?」

「どうせヤバそうな話なんでしょ? 私はそこまで首突っ込むつもりはないわ。一応家庭持つ身で、今の仕事も家計のためにやってるだけだし」

「……そうか……」

「でも、条件が一つあるわ、そのデータあげるのに……」

「はぁ? 条件?」

「んー……あなたとフェルフェリアさんの関係を公表する時、真っ先に教えること……」

「かかか……関係? な、何のことかな~~~……」


 なんでそんな事知ってんだと焦る柏木。

 フェルも「え?え?」と少し狼狽。


「フゥ……あのね真人……あなたとフェルフェリアさんの態度見てわからないとでも思って? これでも一応あなたとお付き合いした事のある女なのよ、私は……」


 柏木は「かなわんな……」と頭をかきながら


「はは……はい、わかりました」

「結構、商談成立ね。その時はもっと高値で会社に売りつけてやるんだから、ウフフ……んじゃメルアド教えて……そのデータの件も含めて、また何かあったら連絡するから……」

「……あまり首突っ込むなよ……冗談抜きで……あ、それでその~……」

「わかってるわよ、その時まで内緒にしといてあげる……というわけで、さっきのフェルフェリアさんのインタビュー。載せるけど、構わないわよね」

「あ、ああ」

「んじゃ、写真撮らしてくんない? お願いっ!」


 文字だけだとフカシ記事と思われるから、一枚でいいので、フェルとのツーショットを撮らしてくれと合掌してお願いする玲奈。

 フェルにOKを貰ったので、柏木がシャッターを押して、パシャリと一枚。


「よしっと……」

「じゃぁ、同窓会もそろそろ……」

「ええ、ホント、偶然って怖いわね」

「ホントに偶然かぁ?」

「そこは本当ですよ……でも、こうやって再会出来て、昔のことも精算できたわけだから、これで終わりなんてのはナシでね、真人」

「ああ、これからは友人としてだな」

「うん……じゃ、また……フェルフェリアさんも、今日は有難うございました」

『ハイです。楽しいお話ありがとうございましタ、レナサマ』


 そう言って玲奈は自分のホテルに帰っていった……


「ハァ……なんともだな……これも因果って奴か?」

『ウフフ、マサトサンにそ~ンな過去があったなんて、ウフフ、みんなに言ってやろ~~』

「お? いいのか? フェル シエさんに知られたら……」

『ア、そうか、それはマズイです……今のは取り消しでス』

「ハハ……いや~玲奈の奴、好き放題俺の黒歴史語りやがって……」


 柏木は残りの烏龍茶を飲み干すと喫茶店を出る。

 しかし……なんでこんなホテルのサ店ってやつは、値段がバカ高いのか……やれやれと思う。


 ……そして部屋に入る柏木。

 秘書フェルさんは日本人モードで別室だが、キョロキョロを周りを見渡して柏木の部屋へ。

 誰かに見られたら……


【柏木大臣! 美人秘書とホテル同室へ! 朝チュンか!】


 スキャンダル確定なので、そんな感じ。政治家という奴はコレをやらかしたらそこで終わってしまう。


 部屋に入ると、日本人モードを解くフェルさん。

 柏木は備え付けの椅子に座って、テレビなんぞをつける。まぁ特に何か観るわけではないが。

 フェルは柏木の顔を見る……ちょっと何か深刻な感じ。 


『マサトサン、それで先程のデータ、何だったのですか? アレは……』


 フェルがベッドに腰をかけて尋ねる。


「ん? ああ、あれはね……ヤルバーンの日本大使館に定期便で送る備品のリストだよ……」

『え? そうだったのですか』

「ああ、一応部外秘書類のはずなんだけどな……あの一番左の『RE1458』とか書かれているコードあったろ、あれは品物のコードナンバーでね、例えば……石鹸とか、お米とか、パンとか、そんな感じの」

『フムフム』

「で、あのコードの頭のアルファベットから見て、日用品ばかりで、大したものじゃないみたいだからいいんだけど……あれがEXWというコードなら、ちょっとマズかった……」

『どう言うことデすか?』

「EXWコードは……ヤルバーンの技本部門に送る物品コードだ……まぁ……極端な話、研究用の10式戦車とか、F-2とか、そんな感じのね」

『……』

「そんなファイルに中国語の漢字かよ……まさか漏れてるのか?……偶然とはいえ玲奈に会ったから良かったようなものの……このまま知らなかったらヤバかったぞ……」

『デスね……並行世界の量子相関性と思いたくはありませんガ……これも因果なのでしょうか……』

「さぁね、さすがにそれはわからんけど……チッ……白木に連絡しておいたほうがいいな……」

『ハイです……私もシエに今すぐ連絡しますですよ』

「ああ、頼むよ……」


 彼らは各々PVMCGを使って白木やシエに連絡した……PVMCG通信なら、盗聴などの可能性は100パーセントない。

 白木やシエは、その話を聞いて深刻な表情になる。

 白木には玲奈にもらったデータを転送して、裏を取ってもらうことにする……数値が一致するリストがあれば、確定だ……どこかで漏れている可能性がある……スパイか、ボットウィルスか、何かの事故か……どっちにしてもマズい。

 この程度のリストだけならまだしも、他にもあればかなり問題だ……


 最後に白木はその話を聞いて……


『わかった、その件の裏取りはまかせろ……で、柏木……』

「なんだよ」

『今度は元カノで人妻か? すげーなお前……』

「はぁぁ?? なんだよそれ!」

『いやいやいや、ウンウンウン、フェルさんも苦労するのう……今日はよくご奉仕するのだよ柏木大臣先生』

「て、てめー! そんなんじゃ……」


 プチっと通信を切る白木。


「お、おまっ! おい!白木!……またこのパターンかよ……あのヤロー……」


 その会話を横で聞くフェルサン……

 フェルサン的にも、何か今日はムラムラとしているようで……ちょっと久々に柏木に対して、生物学的なマーキング処置を施す必要性を感じているご様子……


 トコトコと玄関まで行って、カチャンと鍵をかけてしまう……


 無言で柏木に背を向け、PVMCGの服飾機能をOFFにしてしまうフェルサン……お尻の尾てい骨に可愛く生える尾羽のようなものがピコピコ動く。


「ふ、フェルさん? 一体何を……」


 頬を染めて、金色目がキラリと光ったその瞬間……柏木めがけてダイブするフェルサン……格闘戦を挑む。


「むぉっ! フ、フェル!いきなり……むぐぐモゴモゴ……」


 お二人共、長い夜を頑張っていただきたい……





 ………………………………





 さて、そんな事もあってので、政治家達の盆休みもひと通り終わった頃。外務省では少し問題が起きていた……


「あのデータの件があってこういう要請ですか……やっぱ柏木が仕入れたあの元カノの件……あれに関連するんでしょうかね?」


 新見から統括官執務室に呼ばれた白木。


「それはどうか解りませんが……受けたほうがいいのか断ったほうがいいのか……悩みどころですね……」

「統括官、総理へ報告は?」

「ええ、もう伝えました……総理も相当訝しがっていましたね」

「でしょうね……もしこの要請を承諾すれば、主要閣僚として、アイツも出っ張らなきゃいけない事になりますな」

「もちろんそうでしょう……というよりも、それを狙っている可能性もあります……」

「謀略丸出しですが……考えようによってはチャンスともいえますな」

「そこが、それこそ考えどころですね……」


 その内容に、手を口に当てて思案する新見。


 彼らは何に悩んでいるのか?

 それは、中国外交部から外務省アジア大洋州局に送られてきた書簡。そして、その書簡の扱いだった……

 

 その内容……


【日本国、及びイゼイラ共和国ヤルバーン自治区代表に対し、第2回・アジア信用共同主権会議へのオブザーバー参加を要請する】




 というものだった……







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― 新着の感想 ―
[良い点] フェルさんと柏木の話が好きなので、ネクストよりもこちらを何回も読んでおりましてすみません [一言] この話を読んだ直後、宇宙戦艦や銀河鉄道の生みの親の先生がお亡くなりなったようです 心より…
2023/02/20 15:06 退会済み
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