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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
50/119

-30-

「今、デロニカ・クラージェより、柏木真人イゼイラ特派大使が降りてくるところです……あ、今、クラージェスタッフの方が先に降りてきました。政府の方々と握手をしております……あっ! 柏木大使です! 柏木真人大使が今、姿を現しました……にこやかな笑顔です!……二藤部内閣総理大臣と、三島副総理が近づき、握手をしています! 固い握手です。二度三度手を上下に振っています。三島副総理が肩を叩いて労をねぎらっています……あれ? なんでしょう。柏木大使は頭をポリポリとかいていますね? 何か照れるようなことでもあったのでしょうか? しかしそれでも笑顔です……他、続いて政府要人とも固い握手に抱擁を交わしています……」


 カメラの望遠映像を見ながら、発泡飛ばしてレポートする民放のレポーター。



 ……そう、今、柏木真人は往復一億光年の距離を旅し、地球に帰還した……



 しかし、各放送局は複雑な心境。

 本来なら、この風景のみに注力したいところだが、いかんせん彼があと100万年は破られないギネス級のお土産を持ってきてしまったために、そっちの報道も大変だったからである……



 …………


「柏木さん、お帰りなさい!」


 真っ先に歩み寄り、手を差し出すは二藤部。


「先生、ご苦労さん!」


 真っ白な歯を見せて笑顔で手を差し出す三島、柏木の肩をバンバン叩く。


「いやぁ~……感無量です……只今戻りました……」


 少々涙ぐみそうな柏木。

 そして……


「この野郎ぉ……帰って早々とんでもないネタ持ち込みやがって……ブハハハハ!」


 そういうは、件のブツの報告のために、転送装置でスっとんできた白木。

 ニヤついた笑顔でイヤミの後、手を取り、がっしりと抱擁し、背中を叩きあう。


 しかし白木君の報告は少し遅かったようだ……先に二藤部達が白くなっていたのを確認してしまった……


「はは、面目ない……報告しようしようと思ってたんだけど……まぁ色々あってね……なかなか……なんせ直前でアレも一緒に来るって話になっちゃったから……」


 すると三島も


「もちろん、詳しい話は聞かせてくれるんだよなぁ」

「もちろんです……ちょっとAEDを用意しておいてくださいよ……」

「は? AED? AEDがいるような話なのかよ?」

「ええ、まぁ……」というと、三島や二藤部、白木に顔を近づけて「(ちょっと……ここでは……)」と小さく呟く。


「(わかりました)」と二藤部、そして「まぁ、しかしそれもそうですね。しかるところで、柏木さんの尋問もしないと」


 と冗談めかしに言う。


「じ、尋問っすか!?」

「ったりめーだ、あのデカブツもそうだが、テメーのせいで、何人病院行きになったと思ってるんだよ」


 と白木。


「び、病院行きぃ?」

「おう、AEDの話じゃねーが、血圧上がった奴三人、で、胃にポリープが見つかった奴二人、んでもって夢にうなされる奴四人……おまけにあの『クラゲ』さんで、クトゥルフナントカとかいうワケのわからん変な本買ってきた奴が五人……あの握手映像はトドメだったぜ……こっちゃ毎日が戦いの日々よ……」


 フゥとこめかみを抑えて頭を振る白木。


「なんだよなんだよ、懐かしい我が家に帰って来ていきなりそれかよ……カンベンしてくれよ……」


 胃にポリープな奴は、単に健康診断行ってないだけじゃねーかと。

 すると、二藤部が


「まぁまぁ、それはともかく、ロビーに向かいましょう。他にも待っている人がいるんですから」


 とまぁ、とっととロビー行こうと誘うみなさん。

 

「あ、ちょっと待ってください」


 柏木は搭乗口で見送りに来ていたニヨッタやシャルリ、ジェルデア、他クルーのみなさんに


「どうもありがとうございました。またヤルバーンで……後日ミーティングもあると思いますので、その時に……あ、それから、ティラス艦長にもよろしくお伝えください……例の件の事も……」


『ハイ、わかりました……ご苦労様でしタ、ファーダ』とジェルデア。

『今日は、一日ごゆっくりお休みください』とニヨッタ。

『ンジャ、またあとでね、大使。ヤルバーンで待ってるヨ』とシャルリ。


 後ろでは、二藤部や三島達も礼をしていた。

 サっと手を振りつつ、またのちほどと、彼らと別れる柏木。


 クラージェは、貨物室からイゼイラより持ち帰った荷物や、柏木の私物を搬出するための作業を行っていた。

 実はティエルクマスカ各国からの贈り物……大使館で見た量は氷山の一角で、大使館に置ききれずにクラージェ格納庫に山積みされていたらしい。

 中身は、各国の民芸品から芸術作品、古書籍などなど、とんでもない量だった。

 はっきりいって博物展を軽く開けるほどの量という話……

 空港のリフトなんかも総動員……なんせ柏木個人への贈答品だけでも、すごい量がある……おそらくこれら物品は、どこかの国立博物館へ行って、おいおい公開されることになるのだろう。

 柏木大使のマンションにはさすがにこの量は置けない……


 

 ……



 到着ロビーは、今回、関係者と一般が分けられている。

 外野に邪魔されず、関係者と挨拶などをできるよう、そんな感じ。

 ロビーを歩くと、まず柏木一家が待ち受けていた……


「真人ぉ……お帰りぃ……」


 とおいおい泣きだすは絹代。


「おいおい母さん、泣くなよぉ……別に遭難して生還したんじゃないんだからさぁ……」


 と言いつつ、精死病にかかるわ、ガーグ・デーラとバトって生還するわと、そんな事は全く念頭にない突撃バカ。


「真人、良く帰ってきた……まぁ、今はそれだけだ……」


 と話すは真男。


「ああ、親父、なんとかね……」


 真男はパンパンと肩を叩く。


「お兄、おかえり」

「おう、恵美にも心配かけたな」

「心配? 誰が?」

「は?」

「どうせフェルさんとイチャイチャしてたんでしょ、私にはわかるわよ」

「なんだよ、帰って早々いきなりそれかよ……って、あまりデカい声で言うなよ……」

「ウフフフ…(で、フェルさんは?)」

「(あの小型宇宙船で、先にヤルバーンへ戻ってるよ……もうこっちに来る頃なんだけど……)」

「(そう……白木さんから聞いたわ……フェルさん、ご両親亡くなってらっしゃるんですって?)」

「(ああ、その話な……ま、今度帰ったら、そのあたりも詳しく話すわ)」

「(うん……)」


 絹代と真男も、そこんところも含めて、日を改め詳しく聞きたいと言う。

 とまぁそんな感じで、時間もないので、また今度ゆっくりと……という感じ。

 家族とはいえ一般人だ。そうそう政府関係者とは長々と話せない……こればかりは致し方ない。


 そして、柏木一家と手を振って別れると、少し歩いたところで……


「柏木さん、ご苦労様でしたわ」とにこやかに麗子

「柏木君、お疲れさん、どうだった? イゼイラは」と大森

「お疲れ様でございました。柏木様」と深々頭を下げる田中さん。

「柏木君、おかえりぃ~」と腰のあたりで両手をピラピラと美里。

「おじさん、おかえりなさい!」いつも元気な美加。


「はい、みなさん、ただいまです」


 深々と頭を下げる柏木。


「いやはや、お疲れだったね、二藤部君から色々とワシも聞いとるよ。なんかもう壮絶だったみたいだな」

「はい会長……まぁ……あんな体験って、どうなんですかねと思いますけど……」


 すると美里が


「で、お土産はぁ~?」


 と冗談めかしな顔で言うが……


「ん? フフフ、あるよ」

「え! ホント! なになに!」

「イゼイラまんじゅう……」


 そういうと全員「は?」な表情。


「ハハ、冗談冗談。まぁお楽しみに」

「ふふふ。柏木さんなら本当に『イゼイラまんじゅう』持ってきそうですわね」


 そんな感じの麗子。


「じゃぁ、また委員会で……」


「はい、ではまた委員会で」と麗子

「おう、また色々と聞かせてくれよ」と大森

「その時は私もご同席させていただきます」と田中さん

「あ~ 私はその『委員会』じゃないから、今度飲みにつれてってよね~」と美里

「わたしもわたしも」と美加


「はい、そんときは、んじゃ、みんな待ってるから」


 と彼らとも取りあえず別れる。


 そして、政府関係者が待ち受けるVIPルームへ入ると……


「よう、柏木。おかえり」

「おう、オーちゃん、ただいま」


 握手の後、肩を叩きあう。


「まぁ……今はご苦労さんとしかいえんな、ハハハ」

「まあねぇ……でも白木はいきなり『この野郎』だからな」

「それはそうだろ、俺は良く知らんが、外務省の連中、相当だったそうだからな」

「はは、菓子折りもってあいさつにいかないといけないな、そりゃ」


 そんな感じで、加藤や久留米達とも握手し、無事の帰還を喜び合う。

 すると久留米と加藤が……


「柏木さん、なんか多川さん……やっちゃったそうで……」と加藤。

「そうそう、その話……」と久留米。


「ええ、もうお話聞いています?」

「はい、緊急会議に呼ばれましてね。その時聞きましたよ」


 すると加藤が……


「で、柏木さん、彼は今どこに?」

「あ~……えっとですね……あの宇宙空母……」


 そういうと大見、久留米、加藤三人して「はぁはぁ」と腕組んで頷く。

 すると加藤も海上自衛隊海将という立場上、興味があるのか……


「柏木さん、あのデカブツ、一体なんなんです?……艦影? がまるで『いずも』か『ひゅうが』の化け物みたいじゃないですか」


 久留米もそのあとに続いて


「そうですねぇ……まるでチンタオなプラモ屋の赤鷹連合艦隊みたいな……」


 久留米二佐……結構濃い……


「赤鷹って……買ってたんですか?」

「私の世代じゃお約束でしょ。シナノとかナガトとか……」

「はぁ……そっすか……」


 容姿に似合わぬ久留米幼少時代の黒歴史……さすがである。


「あ~……まぁいいや。で、……そこらへんも、これからやるミーティングで……ちょっと覚悟しといてくださいよ……」

「??」


 三人して顔を見合わせる。


 そして大見がふと別の場所に目をやり……


「あ、おい柏木」

「ん? 何?」

「ほれ、嫁さんだ」


 フェルが、ヤルバーンから転送で羽田にやってきたようだ。


「あ、やぁフェル」

『ウフフフ、お帰りなさイ、マサトサン』

「何言ってんだか……はは……で、フェル、ニルファ女史や、他の患者さんは?……」

『もう少しですネ、でも、もう大丈夫でスよ』

「そっか……」


 柏木はホっとした笑顔を見せる。

 するとヴェルデオやヘルゼンにゼルエもやってきた。


『ケラー、いえ、ファーダ・カシワギ。おかえりなさい。どうでしたか? わが母国は』とヴェルデオ

『ファーダ。お帰りなさい~ ご苦労様でした』とヘルゼン。

『おう、おかえりケラー。ご苦労さんだったナ』とゼルエ。


 三人と握手。


「はい、ただいま帰りました……素晴らしい星……いえ、国でしたね。イゼイラは」

『そうですか、それは良かった』


 ウンウンと満足そうに頷くヴェルデオ。


『しかしファーダ。こういうことを申し上げるのモ何ですが、今後アナタはイゼイラを一番知るニホン人……イヤ、チキュウジンになりました……私たちの抱える諸案件。どうぞよろしくお願い申し上げます』


 ヴェルデオら三人は頭を下げる。


「いえいえいえ、そんな……むしろ私の方がお世話になりっぱなしで……」


 腕を前にぶんぶん振る柏木。


『デモ、マサトサン。司令のいう事も、もっともですヨ。マサトサンがイゼイラで見聞きした事、ソシテ、“カグヤの帰還”作戦の成功。これは私達の国に何十周期も滞在したに匹敵する貴重な体験と成果です……何万年も私たちが解決できなかった事を、マサトサンのアイディアで解決できたのデすから……』


 そうフェルが言うと、傍で聞く久留米達も……


「そういうことです、柏木さん……もう大臣コースと代議士コースまっしぐらですよ」

「ハァ……それですか……今からでも駐イゼイラ大使にしてもらえません?」


 そういうとみんなして「何逃げるつもりなんだ」と爆笑する。誰が放すかと。


 と、そんな感じで、一通りの挨拶を済ませると、一般ロビーへ出る。

 すると集まっていた観客が、一斉に黄色い声をだし、キャーキャー騒ぐ。

 まるでどっかの有名映画俳優がやってきたかのよう。

 言ってみりゃ柏木は、ただの大使である。しかし行ったところが行ったところだけにこうもなる。しかもただの大使ではあるが、人類初の異星人国家への渡航者でもあり、更には行った距離が距離でもあり……と人類初にしてはいささかやりすぎな履歴を作ってしまった。なのでこうもなってしまう。


 観客の中には、プラカードにハートマークやら、金色の折り紙でできた星マークやらをいっぱい散りばめて、ポップなロゴで【おかえりなさい柏木大使】と書かれたものがあったり、【 ( ゜Д゜) 】と単に書かれたわけのわからないものもあったりと、まぁそんな感じ。

 しかし中には、フェルを称える言葉が書かれたものもあり、一体誰を歓迎に来てるんだと思わせるものも多々あったりと……しかも彼女は地球にいたことになっていたのだから、久しぶりに顔を見せたフェルさん目的で、柏木の事など、どうでもいい輩であるから始末が悪い。


 それでも、そんな歓迎を笑顔で、会釈しながら手を軽く振り、歓声に応える柏木とフェルさん。

 そして、そこにはテレビで見る有名人気政治家も続くのだから、興奮は収まらない。

 無論テレビカメラの砲列もかなりのもの……向こうの方では、場所取りでもめてケンカになってたり。


 そして、政府公用車が停められた空港玄関まで案内されると、山本や下村、長谷部に日本人モードのセマルがSPに混ざってパリっとしたスーツ姿で警護に混ざっていた。


 ……ちなみにセマル君は、実験滞在者研修期間終了以降も、公安との連絡係という形で、シエの命で山本達と頑張っているそうな。

 セマルも仲間になれた山本達と働けるのが、実は嬉しかったりする……


 山本は軽く柏木に敬礼する。下村と長谷部も同じく。セマルはティエルクマスカ敬礼をしかけて、下村に「おいおい」と制されていた……セマルは苦笑い。

 柏木は満面の笑みで深く頭を下げる。そして山本が車のドアを開けてくれた。

 柏木はそれに乗り込む。フェルとその他の方々は後方の車に。二藤部達は、前の車に乗り込んだ。

 山本と長谷部、セマルが護衛と称し、下村がハンドルを握り運転手、柏木の車に同乗する。


 バンと扉が閉まった瞬間……


「はぁ~……いやぁ! お帰りなさい柏木さん!」握手を求めてくる山本

「お帰りなさい!」と同じく下村と長谷部。

『お帰りなさイ! ケラー……あ、いや、ファーダですね』とセマルも同じく。


「いやはや、お久しぶりですねみなさん! まさかみなさんが警護に来てくれるとは……管轄ちがうっしょ」

「いやぁ~、なんだかんだ理屈付けてね。まぁ職権乱用っちゅーやつです」


 と山本が頭をかいてワハハと笑う……外事警察じゃ考えられないフランクさ。


 下村が車をゆっくり発進させる。今日は外国要人並の警護体制だ。高速に一般道、みんな規制が敷かれていた。下村も楽な運転だ。

 しばし雑談と、事情聴取で花が咲く車内。

 しかし彼らもプロだ。そんな中でも周囲に鋭い視線を飛ばすのは職業柄。


 まずは雑談……


「で、どうでしたか向こうは」と山本

『私の母国、良かったでしょ?』とセマル。

「いやぁ、まぁ全てが異次元でしたよ……なんとも……幕張のアトラクションでもあそこまでは」と柏木。


 今思えば、よくもまぁああいう場所で生活してたなぁと。

 しかし、あまりに科学が進みすぎていて、すごすぎて、想像以上で、日本に帰ってきても違和感がないと柏木は話す。そう、ベガスのホテルに何日も停まって、豪華な生活をして、日本に帰国しても、その生活に違和感を感じないのと同じことだ。

 

「なるほどねぇ……私も一度いってみたいなぁ……」

「いやいや山本さん……宇宙空間で宇宙服なしでうろつける状況、想像してくださいよ……あれだけで気絶もんですよ」

『エ? それがそんな珍しい事ですカ?』


 お前が言うなと下村と長谷部がセマルに突っ込む。

 セマルも相当彼らと馴染んでいるようだ。

 そんな感じでしばし土産話。


「あ、それでですね柏木さん」


 と切り出すは下村


「なんですか?」

「コイツ、長谷部がですねぇ……」

「あ、下村、それは言うなって!……」


 焦る長谷部。


「え? なんですなんです?」


「ははは、いーじゃねーか長谷部」と山本。

『ソうですよ、これはファーダに教えておかないと』とセマル。


「いや、実はね、ヤルバーンさんとこの部長さんとね……」


 とニヒヒな表情をする下村。

 向こうを向いて仏頂面で照れている長谷部。


「……え! ヘルゼンさんと? 本当ですか? ハハハハハ」

「あっ! 笑いますか柏木さん!」

「え? いやいやいや、まさか私がいない間にそんなことになってたなんて」

「あなたも人の事いえないでしょ」

「え、ま、まぁまぁ、そうですが……お仲間って事でいいじゃないですか、ハハハハ」


 柏木も爆笑。


「ははは、でも長谷部のおかげで、ヤルバーンさんとこの司令部と、やり取りも楽になって助かってるんですよ」

「そうですか、そりゃ結構なことじゃないですか、はは」


 そんな感じでしばし雑談後、今度は事情聴取。


「はは、で柏木さん。安保委員会の人から通達があったんですが、正確には三島先生ですが……」


 と山本が切り出す。


「ええ、あの事ですね」

「そそ、まぁ銃ぶっ放したのは日本の施政権外の事ですので、別に構わないのですが……そのPVMCG……元に戻してます?」


 そう言われると、ハっと気づく柏木……武装セキュリティが元のままだった。


「あ……」

「やっぱり……」

「やっぱマズイっすよね……」


 苦い顔で聞く柏木。


「その事なんですけど……ツっ……本庁の連中とも色々話したのですが……それ、そのままでいいですよ」

「えっ!? ど、どういうことですか?」

「ええ、実は……」


 山本は本庁の安保メンバーと色々と議論をした結果、柏木の身辺を、あの時以上に警護する必要があるという結論に達したようだ。

 それはそうだ。彼は今現在、唯一イゼイラと接し、イゼイラの事を熟知している人物である。

 おまけに先方の国家元首と、連合元首という人物と唯一の接点を持ち、件の作戦を成功させ……やりようによっては、彼のツルの一声で連隊規模の防衛総省軍を呼べる立場にある。

 

 そうなると、警護が国家元首並にどうしてもレベルアップしてしまう。

 しかし柏木もこれから色々と動かないといけない身で、そこまでの警護をつけて、柏木のフットワークを削いでしまっては意味がないと。


「……で、まぁ……あなたの警護という面では、フェルフェリアさんがプライベートではくっついてくれていますし、シエ局長やゼルエ局長もいます。そして何より、その腕のブツの『ぱーそなるしーるど』ですか? それもあるでしょうから、まぁ正直言って今回の総理記者会見の件もあって、警護の手を他の安保委員会メンバーへ回したいというのが本音なんですよ……」

「ええ、それはわかります」

「で……それの取り扱い……超法規で黙認……いえ、まぁ書類上はウチの監督下って事にしますので……わかってもらえます?」

「自分の身は自分でって事ですか?」

「ええ……こないだの城島組の件も知っていますけど、アナタならそうしても問題なさそうだ……なんせ宇宙で変な殺人ロボットともやりあったんでしょ?」


 山本達はドーラとやり合ったことも知っているようだ……さすがは外事。

 実は長谷部がヘルゼンから相談されていたという話で、その際のミッション映像も証拠で見せてもらったらしい。


「とういうことで……いいですね?」


 柏木はコクコクと頷く……しかしいくらテッポー○チガイでも、これは喜ぶ喜ばないというレベルの話ではない。


「まぁ、あくまで正当防衛のみですので……もし何でもない時に使っちゃったら……」

「んなのわかってますよ、山本さん」

「ですな……でも柏木さん、冗談抜きで、自分の身が危ないとわかったときは、遠慮しないで使ってくださいよ……でないとコッチの立場もありませんから……」


 柏木はフゥと吐息をつくと……


「ええ、了解です。わかりました」

「まぁ、安保委員会のメンバー特例もありますんで、超法規とは言いましたが、実際そこのところはクリアできていますんで」


 柏木はPVMCGの扱い一つにしても、えらいとこまで事が進んでいるんだなぁと心底感じる。

 しかし実際それもそうで、今の柏木は、非合法な拉致をしてでも地球の『ガーグ』的にはその身を確保したい人物であるのは確かなのだ。

 それをSPだけで守れと言うには確かに限界がある。相手はいざとなればどんな手を使ってくる奴らか、わかったものではない。

 今、柏木のマンションも、警察が事実上の要塞としてはいるが、それでも警察的には相当な労力とコストを使っている。そして公安が一番恐れているのは……拉致誘拐ならまだしも、今では良からぬ連中の『柏木暗殺計画』まで公安のシナリオに入っているからだ。

 そういう点、公安も柏木の素性を徹底的に調べた。

 で、テッポーキチガ○で、遊びではあるものの、実銃経験アホほどアリ。そういうものの使い方には長けていると調べ上げていたのだ……なので逆にかえってこの決定を下すのはやりやすかった。

 まぁ、もちろんそんなことを柏木本人には話さないが……


 そしてそんな話をしながら、一路車列は首相官邸へ……




 ………………………………




 ……ヤルバーン自治区内。

 ヤルバーン法務局主任のジェルデアは、ある人物を伴って仮想空間通信室へと向かっていた。

 他にジェルデアと一緒に行くは、リアッサにシャルリ、そしてニーラ博士。

 その伴う人物は、少々不安げな顔で、周りの風景を見回していた……


『どうぞ、こちらでス』


 ジェルデアはその人物……フリュを部屋に誘う。

 その部屋にはイゼイラ的な様式の応接室が造成されたいた。


『では、リアッサ副局長、ケラー・シャルリ、ニーラ副局長はここで』


 リアッサが代表して……


『ウム、待機シテイル』


 そう一言いうと、部屋の前に用意されているベンチに腰を掛ける。

 

 ジェルデアは彼女に今の状況を一言二言話し、ここで待つように説明すると、ティエルクマスカ敬礼をして、部屋を後にする。

 扉が閉まると、部屋には彼女一人となる。


 彼女はジェルデアに言われた通り、しばし待つ。

 席には座らず、立ったままだ……


 すると、部屋にデルンが一人造成された……即ち、向こう側の通信相手だ。

 デルンは入室した瞬間、そのフリュの顔を見ると、見る見る間に目に涙を浮かべる。


『……やぁ……久しぶり? になるのかな?』


 そのデルンは、サイヴァルだった……ということは、その相手とは……


「……も、もしかして……アナタ……なのですか?……」


 サイヴァルはコクンと頷く。


『ああ……ニルファ……私だよ……』


 彼女は、齢を経た愛する夫を見て驚くが……すぐに顔をクシャクシャにして、その胸へ飛び込む……


「ああ!……あなた……サイヴァル……あああああああ…………」


 号泣するニルファ。

 サイヴァルは優しく愛妻を抱きしめて、その頭を撫でる……


 しばし何も言わないサイヴァル……

 ただただ、その息吹と温もりを感じていた……


 そして彼女が落ち着いたところを見計らって……


『こんなオジサンはどうかな? ニルファ……』


 するとニルファは首を横に振り


「そんなの……関係ありません……アナタはアナタです……私も今は外見が若いだけですわ」


 ニルファと呼ばれるフリュは、そういって涙ながらに笑顔を見せる。


『フフフ、そうか……』


 イゼイラ人は寿命が長い。従ってあまり男女関係でも年齢差というものは、恋愛の障害にはならないそうだ。

 それに、各国種族間でも、寿命格差が相当に違う場合がある。

 たとえば柏木とフェルの関係のように、どちらかの生態的基準で見ると、一方の方が肉体的にも精神的にも歳を取って、一方の方が明らかに肉体的にも精神的にも若いのに、若い方が実は年上という関係など普通に存在する。

 地球人的肉体年齢16歳なニーラ博士ですら、地球時間的年齢は32歳前後なのだ。地球的には長谷部や下村よりも年上ということになる。

 ザムル族のデヌに至っては、外見年齢は……人類型にはわからないが、ザムル的には50歳ぐらいだそうなのだが、地球時間的には20歳らしい。

 ザムル族も寿命は長いのだが、成人に至る年齢が地球時間で5歳という、全てにおいて超早熟種族だそうで、成人後の容姿が延々と続く種族なのだそうである……しかし人類型にしてみれば、どこがそうなのかわからないが……


 なので、ティエルクマスカ連合人にとって、齢というものは、確かに敬意の対象になる一つの要素ではあるが、恋愛などの情緒的なところでいうと、あまり『壁』となる対象のものではないらしい。

 


 ……延々と抱き合う二人。

 イゼイラ人は家族や友人を大切にする。

 なので、半分諦めていた人物の生還ほど嬉しいものはない。

 

『そうだニルファ……』

「はい?」

『そっちのヤルマルティアでは、こういう状況でフリュとデルンが行う儀式があるそうなのだが、それを教えてあげるよ』

「??」


 そういうと、サイヴァルはニルファの顎をとって顔を近づけて……


「!!??!!」


 びっくりするニルファ……しかし、彼女もサイヴァルに抱き着いたまま、彼に身を任せた……




 ………………




 ヤルバーン自治区での事。そんな再会を果たしたサイヴァルとニルファ。

 そのほんの少し前の事……

 

「えっと、このナノマシンモジュールはこっちで……あ……誰ですかこんなところに検査モジュールを置きっぱなしにしているのは……」


 ヤルバーン医務局。

 ニーラ博士の研究室兼、精死病患者の観察室となっているお部屋。

 引っ越してきたばっかりなので、せっせと部屋を整頓する。


 小さな体をせせこらと、アッチいったりコッチいったりで忙しそう。

 イゼイラ的な掃除機をかけたりと、なかなかに綺麗好きなようである。

 そして、机にお気に入りのネコさん筆立てを立てて、これまたお気に入りの日本製ノートパソコンをポンと置く。筐体天板には、これまたネコさんキャラの絵。メーカー限定版だそうだ。

 

 そんな感じでやっていると、医療ポッドがププププと音を鳴らす。


「エッ!」


 掃除機をバっと置いて、医療ポッドに駆け寄るニーラ。

 ニルファのポッドから鳴る音である。

 傍に置いてあった足場を持ってきてそれに乗り、ポッドを覗く……すると……

 

 ニルファが薄目を開けて覚醒しようとしていた……


「こここ……これは大変ですぅ!」


 そういうと慌てて、コケて、机の上に置いてあったPVMCGを起動させ……


「医療班、医療班! すぐに私の部屋に来てください! ニルファ奥様が目を覚ましそうですぅ!」


 その一声で、医療班が機器をもってわんさかと駆けつけてきた。

 ニーラの部屋で、最終処置を施し始める医師達。

 部屋中にVMCモニターが立ち上がる。


 ……すると、ほどなくして、医師達が安心した笑顔を見せ……


「もう大丈夫ですよ、副局長」


 と言って、機器をそそくさと撤収させる。


「……やはり、ファーダ、カシワギ達と同じですね……外傷や後遺症などのようなものは見受けられません……生体機能停止刑受刑者のような、新陳代謝が正常値にもどるまでの期間も必要ないですね……まるで今さっき気絶した人のようです……」

「お話……できますか?」

「ええ、大丈夫ですよ……しかし精神状態がどういう状況かわかりませんので……慎重にお願いいたします」


 そういうとニーラは、ニルファに語り掛ける……


「あ、あの……えっと、ニルファ奥様?……」

「…………」


 ニルファは細い目をして、ニーラを見つめる……


「…………」


 黙して何も喋らないニルファ。

 そして、ニーラから視線を外し、部屋の周りを見渡す……

 視線を自分の体に向け、己が手を、胸を、体を、足を……そしてポッドのクリアケースに映った自分の顔を撫でながら眺める……


 ニーラはハっとして、机に走り、自分愛用のネコさん手鏡をとってきて、ニルファにそっと渡す……


 その鏡を無表情で受け取るニルファ……そして己が顔を見る……

 すると、ポロポロと涙を流し……唇をかんで、声を出さずに泣き始める……

 

 その表情を見て「マズイ!」と直感したニーラ。


(記憶の錯乱を起こしていますねっ!……これはまずいですっ!)


 部屋を飛び出して、カウンセラーを呼びに行こうと扉を開けると……ドンっと誰かとぶつかる。

 

「むぎゅ!」

「何ヲシテイルノダ、ニーラ」


 誰かのバストに顔を挟んでしまうニーラ。

 シエだった……ニルファ覚醒の一報を聞いて、急ぎカグヤから転送でやってきた。


「あ、シエお姉さま……」


 シエは、ニーラの表情をみると、何かを察したように医療ポッドの方へ目を向ける。

 するとシエは、小さなニーラを見下ろし、頭をポンポンと叩いて耳元で


「ニーラ……コノ部屋ニダレモイレルナ」


 と小さく呟く。

 コクンと頷くニーラ。


 シエは軍務で、いわゆる地球で言うところのPTSDな患者もたくさん見てきた。

 なので、それに近い症状だと直感した。

 つまり、現実の状況が極端に変わると、自分の身に起こった衝撃的な体験と、そうでない体験の環境に、精神がついていけない状況のようだと……


 シエは、近くにあった椅子をとり、ニーラの座る医療ポッドの横に腰を掛ける。


「ニルファ女史……長イオヤスミダッタヨウダ……」


 ニコリと笑顔を見せ、シエは彼女に話しかける。

 ニルファは落ち着いた雰囲気のダストール人フリュに、少し安心したのか……


「あ、あなたは?……」


 涙目ながら、腹の底から精一杯の、か細い声で話しかけた……


「私ハロッショ家ノ者ダ……名ハ“シエ”トイウ……」

「ろ、ロッショ家……あのダストール三大派閥の……」


 シエはコクンと頷く。


「……ニルファ女史……オソラク、オマエモワカッテイルノダロウ? 今ノ状況ヲ……」


 ニルファは、しばし俯いた後、コクンと頷く。

 シエは柏木の報告書を読んでいた。つまり、今の彼女には、向こうの世界とこの世界、両の自分の記憶が一時的に混在している状況であることを知っている。

 シエ自身は、それがどんな心情であるかは分からないが、そんな状況だと恐らく……


「私は……精死病にかかっていたのです……ね……」


 そう、今のニルファは二つの人生を歩んだ記憶がある。

 発症し、患って、向こうの世界へ飛んでから初めてこれが精死病なのだろうと理解できる。

 柏木や、かつてのナヨクァラグヤが体感した、この感覚、この症状。

 一つは、この世界のサイヴァルと新婚生活を送り、突如別の世界に飛ばされた時までの記憶と、その世界で、元の世界の記憶を失い、その後の人生を送った向こうの世界での、自分の記憶……


「私ハ詳シイ事ハ分カラン……タダ、コレガ現実ダ……」

「そうですか……では今は?」

「ソウダナ……オマエガ精死病ヲ患ッテカラ、カレコレモウ……」


 シエは、その長い長い期間を、遠慮なく彼女に語った。

 自覚があるなら、そこは真っ正直に話した方がいい。なぜなら、今の混在した記憶の片方は、いずれ消え去ってしまう。それから真実を教えても受け入れ難くなるだけだからだ。


「そ……そんな……そんな長い時間を…………」

「ウム、シカシ気ヅカヌカ?」

「え?」

「オマエハ、今、ドコノ世界ノ、誰ト話ヲシテイルノダ?」

「どこの……誰と…………ハッ!……そ、そうか……で、では!……」

「アア、ソウダ……コノやまいノ治療法。ソノキッカケガツカメタ」

「では……ケラー・シエでしたか?……」

「シエデカマワン。ニルファ女史」

「そ、そうですか……ではシエ……イゼイラ……いえ、ティエルクマスカは……」

「ウム、ソウイウコトダ……」


 ニルファは微笑し、頷く……しかし、今の状況を喜んでいる節ではない……


 シエは、今この状況で酷な話だが、向こうの世界の記憶をすぐに語ってほしいと頼む。

 理由は……


「そうですか、この世界でも……」

「アア、ソウラシイ。オマエノ、イマ、コノ時ニアル、向コウノ世界ノ記憶ハソンナニ長クハモタンラシイ。後ノ状況ハソレカラオシエテヤル」

「わかりました……」


 シエはニーラに記録を取るように頼む。

 ニーラは、撮影機器、各種記録装置を造成し、ニルファの話を聞く……



 ……ニルファのいた世界……それは何か特別な世界というわけではなかった……

 その世界は、こちらの世界と、とても良く似た世界だったそうだ……

 ニルファが向こうの世界で覚醒した時……妊娠し、サイヴァルの子を生み、病院の一室で目覚めた時……そんな状況だったという……


 あまりに普通の世界だったので、最初は違和感がなく、夢でも見ていたのではないかと思ったという。

 サイヴァルは軍で普通に軍務をこなし、家に帰宅し、そしてまた出勤。

 ニルファは、そんな亭主の帰りを家で待ち、子を育て……歳をとり……老いていく……

 サイヴァルは一等ジェルダーにまで上り詰め、老いて定年を迎え、ニルファとその後の老後を過ごす……自分の子供……息子だったそうだが、その息子も軍へ入隊し、パーミラのフリュと恋に落ちて結婚。子供……ニルファとサイヴァルの孫を産み、パーミラに赴任し、そこで生活。

 たまにイゼイラへ里帰りしては、孫と遊び……そんな人生……

 そして、サイヴァルに先立たれ、息子はニルファをパーミラへ呼び、共に生活。

 息子家族と一緒の生活は、幸せそのものだったという……

 そんなある日の事。就寝をした際に……急にこちらの記憶が夢で蘇り……意識が飛んだと思った今、この場所にいる……そんな感じだという……


 シエはその話を聞いて、表情は変えなかったが……ポロポロと涙を流していた……

 なんとも……残酷な話だ……典型的に幸せな家庭、そしてその生活。

 そんな世界の、そんな人生なら……精死病のままの方が良かったじゃないか……そんな風に思う。

 ニーラもグシュグシュ泣きながら記録を取っていた……

 彼女が過ごした向こうの世界……この世界で精死病にかかっていた時間よりも、長い長いもう一つの彼女の人生……

 柏木達は、ナヨクァラグヤのサポートがあったから良いものも、彼女は柏木の実験成功でここに戻ってきた……

 複雑な気分のシエ……彼女の人生で、こんな感覚、気分になったのは初めてだった……

 しかしシエは、現実を話す……


「ニルファ女史……心配スルナ……ト言エバイイノカ、悪イノカワカランガ……ソノ記憶ヤ情緒モ、ソノウチ、数日後ニハ、キレイニ消エテナクナルソウダ……コウイウ言イ方ハナンダガ……アマリ気ニヤマナイホウガイイ」

「はい……そうですね……」

「ソレニ……オマエノイルベキ世界ハコノ世界ダ……ソレガ正常ナノダ……ソシテオ前ノ生還デ、ティエルクマスカハ、1000周期先ノ未来ヲ語レルヨウニナッタ……コレハトテモ素晴ラシイコトナノダ。オマエモ、元連合防衛総省ノ将校ナラ、ソレハワカルハズダ」

「ええ、そうですね……」

「ソシテ、オマエヲ待ッテイル者モイル……ズットズットナ……」

 

 その言葉にニルファは、ハっと我に返り……


「そ、そうです……シエ……私の夫は……」

「アア、ズットオ前ノ目覚メヲ待ッテイタゾ……モウ歳ハ……」


 シエはサイヴァルの年齢を話す。ニルファは、さもあらんと納得する。

 今のニルファなら、齢を経たサイヴァルと会うのもさほど抵抗はないだろう。


 ……柏木の話だと、不思議なことに向こうの世界に飛んだ時の、生活などの記憶はもうすでにキレイサッパリ記憶に無いそうだが、どういうわけか並行世界に飛ばされていたという体感的記憶は消えずに残っているらしい。

 なので「アンタは並行世界にいたんだよ」「ナンデスカ? それは」という事にはなっていないそうなのだ。これはある意味発見であり、救いだ。

 ニーラの分析だと、量子的な記憶は消えざるを得ないが、脳のニューロンにはやはり物理的にその体感状況は残るのかもしれないと、そんなことを言っていた。


「ハァ、そうですか……ウフフ、それはそうでしょうね……」

「ソシテナ、オドロクナヨ……今の彼の身分は……」

「軍の……ジェルダー階級の何か? かしら?」

「イヤ……フフフ……イゼイラ星間共和国議長……イゼイラノ国家元首ダ……」


 ポっと口を開けるニルファ……

 「は? え? ナンテ?」な顔


「オマエハ、ふぁーすとれでぃ ナノダヨ……フフフ、コノ世界デ、モウ一度人生ヲ楽シンデミロ」

「そそそ……そんな……そんな事って……」

「ソレト、モウ一ツイイ事ヲオシエテヤル」

「え?」

「ココガドコダカワカルカ?」

「ここは……見た感じ調査艦艇の中のようですが……ということはイゼイラではありませんね……」

「サスガダナ……今コノ船ノイルコノ星ハ、チキュウ……イゼイラ語デ『ハルマ』……ソノ地域国家…………ニホン国……オマエタチノ言葉で……『ヤルマルティア』ダ……」


 ニルファはポっとあけた口をさらに大きく開ける。

 イゼイラ人にとってその言葉は、日本人の立場で例えるなら「タガマガハラに今いるんですよ」と言われているようなものである。


「そそそ……そんな……ウソ……あの創造主ナヨクァラグヤサマのおわしたという……発達過程文明……そして……聖地……」

「アア、ソレトコノ船ニハ、フリンゼ・フェルフェリア・ヤーマ・ナヨクァラグヤモ乗船シテイル……ツマリ、エルバイラノ娘ダ……」

「えええええええ!」


 両手で口を押えて驚き倒すニルファ。


 シエはニっと笑う。

 これだけのポジティブな現在状況を叩きつければ、彼女も向こうの世界へひきずられずに済むだろう……


 横で見るニーラ。

 シエのカウンセリング術に「ほえ~……」っとなる。


(さ、さすがは連合防衛総省のエリート将校……伊達にダストール総統候補やってたわけじゃないですねぇ……シエお姉様……しゅごい……カコイイ……)


 思わず憧れの目でシエを見てしまうニーラ博士だった……

 



 ………………………………




『……トイウコトナノダ、カシワギ』

「そうですか……わかりましたシエさん。どうもご連絡有り難うございます」

『イヤナニ、コチラコソ会議中ニスマナカッタナ』

「いえ……で、シエさん……」

『ン? ナンダ?』

「デートはナシですからね、はは」

『フフフ……サスガニ今回ハナ……ソウイウ気分ニハナレン……トイウコトデ、今回ノ分ハ、一ツ貸シダ』

「はぁ? んじゃ結局一緒じゃないっすか、ははは」

『フフフ……』


 隣で聞くフェルも、今回ばかりは怒る気になれない。

 

『シエ……』

『ン? ナンダ? フェル』

『……ご苦労様でしタ。さすがデスネ……』

『別ニ得意技トイウワケデハナイガナ……仕事柄トイウヤツダ……デハ、マタアトデ……』


 頷く二人。

 そして通信を切る……



 総理官邸会議室。

 柏木の帰国早々、報告を受けるために安保会議メンバーが集まっていた。

 挨拶や、帰国祝福の拍手もそこそこに、会議冒頭、柏木が挨拶する最中、緊急電ということでシエから柏木のPVMCGに通信が入り、ニルファが覚醒したことを聞かされる……

 少々長くなると前置きしたシエは、二藤部達がかまわないと気を利かせてくれたため、二藤部他、閣僚達も、シエの報告を聞くことにした……


 シエからその詳細報告を聞く二藤部や柏木達。

 柏木の目が赤くなっていた……フェルの目も同じくそんな感じ。

 ヴェルデオやヘルゼン、ゼルエも同じく……ヘルゼンはグズグズ言っていた……ゼルエも無言で涙目になる……


 サイヴァルから二藤部へのホットライン通信とその概要……つまり精死病の本質を聞かされていた安保委員メンバーも、その壮絶な内容に驚愕する……無論書類に起こされ、関係者には部外秘書類扱いで配布されていた……


 正直、ニルファの体験はピンと来ないが……彼ら安保委員の脳内で整理できたその意味。

 つまり、一度人生を終えかけ、また人生をこの世界でやり直すという感覚……

 そして、その世界で愛した者達は、すべて患者の主観からみれば、夢幻の如くなり……

 本当だけど、ウソになるという本物の人生……これを理解しろという方に無理がある……しかもその記憶は、数日で綺麗さっぱり感情、情緒もろとも消えてなくなるのだ……


 しばし安保会議メンバーは腕組んで沈黙する。

 会議冒頭、柏木の報告を聞く前に、のっけから現在の地球人的感覚では想像出来ないトンデモ話が出てきた……このシエの報告は、柏木が能書きを垂れて報告をするよりも、イゼイラへ行ったその壮絶さと、精死病という地球人には想像もつかない未知の病気……いや、事故の恐るべき実態を説明するには充分すぎる内容だった……


「総理、そしてみなさん……」


 柏木は、やおら語りだす。

 委員全員、真剣な表情で聞く。


「……私がイゼイラで見聞きしたことは、おそらく前の『日・イ・ティ首脳会談』までに御報告した事、それ以上の事は特にありませんが……私が件の『カグヤの帰還』作戦で体験した一部始終が、先のシエさんのお話に凝縮されています……そして、充分すぎるほどご理解いただけたと思います……」


 みんなコクコクと頷いて聞く。


「イゼイラでは、あんな状態の患者さんが、イゼイラだけで数千万人単位……連合全体で見ると5億人近くもいるわけです……いや、もう今一部は「いた」というべきでしょうか……これが精死病の実態なのですよ……」

「じゃぁ柏木先生……この、今手元にあるこのページの内容は、夢とかいうんじゃなくて、事実だということなんだよな」

「ええ、まぁそういうわけです。そして、それは私が向こうの世界でお会いしたナヨクアラグヤ帝の……ニューロンデータが何らかの形で実体化した存在だそうですが……その件の彼女が、彼女の持つ科学者の知識で、一部私達に手を貸して頂く形になって、現在、イゼイラ領内の一部地域で、患者の治療……というか覚醒が成功したという感じなんです」


 すると二藤部は軽く頷いたあと……


「では、まだその病気は、一時的にそういった情況で、結果的に治った……というだけの話で、完治させるような万人に通用する治療法が確立したわけではないのですね?」

「ええ、まぁそれでもヤルバーンのニーラ博士が、その方法が見つかるのも時間の問題だともいっていましたけどね」

「確かに……議長閣下もそのようなことを言っていましたね……しかしそれでも良い結果ですね、それは間違いないでしょう」


 そういうと委員メンバーも少々ホっとした感じで、隣同士を見て頷き合う。

 なんというか、この病気のみの議題で言えば、日本的には治る治らないというのはあまり意味のある内容ではないのだ……極端な話、さして関係がない。

 この話で日本政府として重要な点は、タイムリミットがある彼ら最大の問題が、柏木をきっかけに改善できたという事に大きな意味がある……無論、政治、外交的に……


 そして、この作戦をきっかけに話を進ませないければならない事。それが……


「ティエルクマスカ連合、そしてイゼイラとの連携強化……この体制を安定させるためにも……急がねばなりませんね……」


 二藤部はそう話す。


 委員会メンバーは発言。


「結果的にといえるかもしれんが、ここまで彼らの内政や国情に関与してしまった以上、もうただの隣国扱いや、お客様ではすみませんな」

「ああ……もうヤルバーンは歴然としたこの日本領にあるイゼイラの飛び地国家となってしまった……大変なことだぞ……」

「ということは、ヤルバーン……いや、イゼイラも、この星の国家の一部ということになるわけだな……」

「国連か?……イゼイラを……いや、ティエルクマスカを国連に加盟させるってか?……できるのか?そんなこと……」

「わからんなぁ……そればっかりは……どうしたものか……」


 みんなここまで進んでしまった現実に頭をボリボリかいて悩み倒す。


 まず第一に……

 イゼイラという国家が、ナヨクァラグヤ帝の事実……つまり『竹取物語』の『かぐや姫』であるという事実がほぼ確定的で、その影響もある日本国とイゼイラの関係。


 第二に……

 イゼイラがそれをきっかけに、彼らの文明、文化的な限界を打破させるために探していた貴重な存在……彼らが『希望』とまで呼ぶ発達過程文明『日本国』との関係を確固たるものにしたいという切なる願望、そして要望。


 第三に……

 柏木とかいう突撃ギャラクシーバカがやらかしてしまった、ティエルクマスカ連合最大の懸案事項に終止符を打ってしまったという……ティエルクマスカ的には、シエさんもびっくりな連合国家史上、最大規模の歴史的成果……


 第四に……


「それらを総合的、かつ包括的に解決させるための、彼らの提案ですね……」


 二藤部がそういうと、三島が……別紙厚目なクロス製本された書類に書かれた、大きな題字をトントンと叩いて指を指し……


「聖・地・案・件……か……」


 安保委員メンバー、みんな揃って「これから忙しくなるぞ」と、お互い隣を見て語り合う。

 しばし沈黙の皆の衆……



 すると……


「ああ、そうだ柏木……」

「ん? 何? オーちゃ……あ、いや大見三佐」


 大見は、その間を埋めるように柏木へ話す。


「ところでさ……あのトンデモ宇宙船……というか、宇宙空母か? アレ……ありゃ何なんだ?」


 その大見の一言で、みなさん「ああ、そうだそうだ、それそれ」とばかりに手を打って柏木に問いかける。

 委員会みなさんの理解では、まぁ、なんというか、イゼイラかティエルクマスカかの新たな宇宙船がやってきましたという理解……これはわかる。そういうこともあるだろう。ヤルバーンとてここまでくれば、それぐらいの人的な交流もあるだろう。新しい宇宙船の一つや二つもやってくるさと。


 空母型というのも……まぁ柏木の今までの報告を総合して考えれば、地球での運用のために、あんな形になってんだろうと、そんな感覚はちょっと無理して理解できていた。

 護衛艦的なデザインになってるのも、彼らの『発達過程文明技術の吸収』の結果だろうと……まぁそこまでもなんとか予想も理解もできた……要はパクリデザインだ……別にそんなものいくらでもパクってくれてかまわないと……


 しかし、彼らが理解できないのは……


『なんでワザワザそんな構造の宇宙船にまでして、地球にやってきたんだ?』


 そゆこと……

 そんな話を矢次早に柏木へ問いかける。


「いやいやいやいや……まぁまぁみなさん、そんな一斉に聞かれてもですね……ははは……」



「いえいえ柏木さん……あの船、海自の私が見てもですね、一目見ただけで、ちょっと問題になりそうな船ですよ……」


 と、海自海将の加藤。


「そうですよ柏木さん、地球の軍事事情をみてもですね、その国の使う兵器のデザイン……つまり種類で、どういう国際関係かというのが理解されてしまいます。まぁ、当然ですが、F-15を運用する我が国は、米国と関係があり、Su戦闘機やMiGを運用する中国は……色々問題あるみたいですが、ロシアと関係があり……イスラム過激派がAKを使っているということは、その銃がどういう経緯で流れて彼らが使っているかわかったりとかですね……まぁ~……柏木さんにこんな話をしなくてもお分かりになるとは思いますが……」


 と、陸自二佐の久留米。


「そうですよ柏木さん……あの船のデザイン、どうみたって我が国のヘリ空母に宇宙戦艦ナントカ・パートエックスで、地球防衛軍最新鋭宇宙空母ナントカみたいなデザインじゃないですか……他国が見たら、絶対我が国との防衛連携を疑われてしまいますよ……」


 と、こう話すのは専門家な春日。防衛大臣井ノ崎も頷いて同意する。

 三島も……


「でよぉ、先生。話じゃ、今、多川一佐も向こうにいるって話じゃねーか。彼もそこんとこ知ってんだろ?」

「ええ……まぁ……聞いてません? 多川さんから……」


 みんな首を横にふる……ってか……


「聞いても、多川君……先生から聞いてくれの一点張りだったぞ……自分からは死んでもいえないって……」

「えっ! 死んでもって……そんな言い方したんですか!」

「うん」


 カクっとなる柏木……チョットぐらい匂わせてくれよなぁ~ とトホホになる。


「……なぁ、フェル……」

『エ? ワ、私は知りませんヨっ』


 プイと向こうを向く愛妻。


「ヴェルデオ司……」

『ソレはケラーが仰るべきでしょう、私からは……ムフフフ……』


 ツルまれたと想う柏木……


「わかった、わかりましたよっ!……もう……」


 そういうと、柏木は、カバンからモソモソと書類を探して取り出す……

 例の、紙ともなんともいえない不思議な素材でできた『紙のようなもの』な書類一式……

 委員会のみなさん。なんだなんだ? と首を伸ばして柏木の所作をながめる。


「総理……まぁ……帰国して早々で何ですが……あ~……白木さ、AED用意……してる?」

「はぁ? あ、ああ、加藤さんが用意しとけっつったから……一応……なんのこっちゃわかんねーけど……」

「OK……覚悟して下さいね……みなさん……」

「わかったから早く言えよぅ! もったいぶってんじゃねーよ柏木ぃ」

「はいはい……では総理……これ……ティエルクマスカ防衛総省のトップな方で、ヘストル将軍という方からお預かりした書類です……これを……」


 その書類を受けとる二藤部……みんなに見せるように一読する。

 委員のみなさんも覗きこんで一読……


 ・

 ・

 ・

 ・

 ?

 ?

 ?

 ・

 ・

 ・


「ななななな……なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」


 一発目は白木だった……さすがサヴァン大王。速読の帝王……どてっ腹に銃弾食らって死にかけてる刑事のよう……


「お……お……おいおいおいおい……マジかよ………ちょっとまてよ……」


 二発目は大見。 おもむろにバカの顔を見る。


「い、いや……AEDはアリだな……俺の歳じゃ……こりゃキッツイぞ、先生……」


 三発目は三島。ポップカルチャー知識も吹き飛んだ。


 その他……


「これ……本当ですか?……いや……しかし……」と定年間近の加藤。

「はぁ……そういうことだったのですか……本当に赤鷹だ……」と、まだ言う久留米。

「……」黙して語らずな新見……両手を口に当て、ドノバンにどう話そうか、脳内走馬灯状態。

「本当に……パート・エックスですか……どういう事ですか柏木さん……」と、少し嬉しそうな春日。


 その他、閣僚、官僚、制服組。唖然騒然な会議室。

 会議はビビる……いや、違ったか?

 浜が、デカイおでこを撫でながら、何かを指折り数えている……何の数だろう……


 その書類には、なんとなく違和感のある明朝体で、イゼイラ語に併記される感じで……




【カグヤ級機動母艦・日本国政府への譲渡に関する関係書類一式……本書類は、ティエルクマスカ連合政府、及び、ティルクマスカ連合防衛総省の合意の元、本書類に記載される航宙機動艦艇一式、及びその所属を明記した書類である。本書は日本国へ提示され、当該国家がその責任の元、本書類を認証した場合に効力を発揮するものとする……以降、譲渡先の日本国をアルケ・譲渡元のティエルクマスカ連合政府をベルクと記載する……ベルクは、本書に記載される当該艦艇“機動母艦カグヤ級”を、アルケがわが連合に示した、その崇高なアルケの国家的決断に最大級の敬意を評し、今後のアルケとベルクの友好的関係と、交流の礎として、本書に記される物件を、アルケに対する最大級の謝意を込め、贈呈、譲渡するものである………云々】



 二藤部は、ジーっと、その契約書のような書き方をされた書類を一読すると、ゆっくりと顔をあげて、柏木に一言問う……


「柏木さん……つまりこれは……」

「まぁ……端的に言えば…………日本政府……いや、日本国民の皆さんへの……お土産です……ハイ……」


 柏木は、もうバツが悪そうに、頭をかいてそう応える……

 みんな、誰が音頭を取るわけでもなく、一斉に……


「お……お土産ぇぇぇぇ???」


 はぁ、やっぱりこうなったかと思ってしまう柏木。

 隣で愛妻フェルさんは、ププププと笑いをこらえている……いや、そんなこっちゃねーよと……


 とりあえず……AEDのお世話にはならずに済んだようだ……



 ………………



 機動母艦カグヤは三宅島沖に着水後、結局しばし進んだ後、館山沖南50キロ地点で停船した。

 カグヤ上空には、今やマスコミのヘリがわんさかとやってきて、その威容を茶の間に伝えている。

 当然、米軍の哨戒機も横須賀あたりから飛んできて、カグヤ上空を飛び回る。

 海上からは、当たり前だが、海上保安庁の船舶がやってきた。

 カグヤがそのあたりで停船したのも、実は海保の指示ということだった。なぜかといえば、さもあらんな理由で……要は『デカすぎる』『インパクト強すぎ』『軍用艦艇丸出し』だからなのだ。

 こんな船が、堂々と東京湾へ入ってこられたら、喫水の問題もあるし、航路の問題もある。

 東京湾はそれでなくても船の出入りが激しい……正直一杯一杯だ。

 そこへ向けてカグヤが、マスコミやら米軍やらのお供をつれてこられたら、ちょっとタマリマセンってな話で、そのあたりで停船してくれという話に相成った。


 とりあえず海保にはヤルバーンから連絡がいっているので、臨検で立ち入り検査なんてことはなかったのだが、とりあえずその場所で待機してほしいということで落ち着いた。

 とはいえ、よくよく考えたらいざとなれば、空飛んで宇宙にも行けるような代物なので、わざわざ水に浸かっている必要もなのいではないかと海保のみなさんも思ったようだが、カグヤの立場では、地球での水上航行試験の意味合いもあったらしい。

 なんせイゼイラには、こういった海上船舶がない。なので、調査データ取りの意味もあったようだ。

 それに後々、日本への引き渡し後の件もある。そんなところだそうである。



 ……とまぁ、そんな状況を総理官邸会議室のテレビで見る委員会のみなさん。

 会議室に設置された大型液晶テレビで、各マスコミが報道する『カグヤ』の映像をご覧になる。


「改めてみるとやっぱり……」と大見。

「ああ……どう見たってなぁ……」と白木。

「これを普通の宇宙船というにはなぁ……」と三島。

「これを頂けるんですか……」と、少しウキウキの加藤。

「運用コスト……すごいでしょうなぁ……」と久留米。

「まぁ……多川さんが向こうにいてくれて、結果的には良かったわけですね」と春日。

「で? どこの管轄で運用するんですか?」と井ノ崎。

「そう、それですよ……そこのところどうお考えなのです?」と浜


 みんなの意見を聞いて、二藤部も……


「何か聞いていますか? 柏木さん」

「ええ、その点なんですが、久留米さんのおっしゃるコスト面の問題は一切気にしなくていいということです」


 久留米は、そういわれて「え? どういうことですか?」と聞き返す。


「えっと……フェル、説明お願いできるかな?」

『ア、ハイです……あのですネ。あの『カグヤ』も、ヤルバーンと同じくハイクァーンとゼル技術を主軸としたテクノロジーで稼働しているオフネですので、完全自律機能が備わっていまス……ですので、基本的に、チキュウのオカネでいうところの運用コストは限りなくゼロになりまス』


 その話にみんなびっくりする。

 普通、空母の運用ともなれば、米国を例にあげると、原子力空母一隻当たりの運用コストは年間約5億ドルに達する。

 フェルに続き、柏木が答える。


「……ですので、カグヤの場合、まず金銭的な維持費が基本的にかかりません。全て自律したシステムで、フェルの言うような処々のシステムで破損してもハイクァーンな修復システムが自動で稼働して、勝手に修理保全してしまいますから……まぁそれだけのシステムを持った船じゃないと、常識的に考えても、恒星間で、しかも長期に渡って運用することなんてできませんからね……」


 「ああ、なるほど……」といった感じで、みんなフムフムと納得。

 この話で、みんな地球的な常識で考えても意味が無いと理解する。


「ですので、かかるコストは、この船で生活する人員の、日本的な人件費ぐらいなものでしょう。その他の運用コスト面は、当面ヤルバーンーイゼイラ側で持っていただけるように話はつけています」


 これを聞いて、委員会みなさん、更に「ほぉ~」という感じ。

 三島が……


「なるほどなぁ……あらためて見ると、やっぱりティエルクさんとこの技術力や国力ってすげぇなぁ……」

「ええ、そうですね三島先生……我々がこんな装備を調達するとなったら、普通の通常型正規空母レベルでも国運がかかるような話ですが、彼らからすればこのカグヤですら『普通の装備』ですから……」


 みんな驚くばっかりである。

 そして柏木は……


「で、この船はですね……まぁおいおいみなさんにも乗船してもらうことになると思いますけど、内装が……ハハ……豪華客船みたいなんですよ」

「ハァ?……き、客船?」

「ええ、そうです三島先生。というのも、この船は見た目空母なんですが、イゼイラの恒星間船舶技術を全部入れしたみたいな……日本のために造ってくれたワンオフ品なんですよ。まぁ……日本と連合の今後の事を見越した、サンプル船みたいな感じなんですね」

「あぁ……なるほど……そういう事だったのかい……」

「ええ、で、まぁ……彼らの地球船舶の調査データサンプルで、最も適当だったのが、『いずも』や『ひゅうが』の類で、そのデータを参考にですね、今後日本での港湾で使用できるように……ってな話みたいです」


 その話を横で聞くフェルさんと、ヴェルデオ達。

 まるで、不動産物件を売りに来た営業マンのような笑顔で柏木の説明をウンウンと肯定する。


「で、まぁ……連合さんの方も、こんなのいきなり日本に譲渡しても使えないのはさすがに分かっていますから、当面はヤルバーンで運用して、日本の運用人員を養成させてほしいと……で、日本側の設備や、そのあたりに目途がついた時点で、完全に引き渡したいと、そう仰っていました」


 それら説明を聞いて、やっとのこさ委員会メンバーも納得顔。

 それなら、まぁ……問題ないだろうと。

 というのも、彼ら委員会……特に政治家が心配していたのは、「おみや」なんていうものだから「ほい、あげる」とポンと渡されるものかと心配していたのだ。


 いかんせん、以前のティエルクマスカ原器引き渡しの件もある……なんせティエルクマスカさんは、考えなしにいきなりで、そんな事をやる場合が多々あるので、そういう感じ。

 あの時は、物が小さいだけに、ヤルバーン・日本治外法権区での極秘扱いにできたが、さすがにカグヤはそういうわけにはいかない……ってか、もうこの時点でチョンバレであるからして……


「なるほど……先生もちゃんとそのあたりはナシつけてくれてるわけだ」

「ええ……というよりか、向こうさんがお膳立てしてくれてたんですけどね……いやぁ、そのヘストル将軍って方……なかなかに面白い方で……そのカグヤの件にしても、ドッキリなんですよ……たまんないですよこっちは……で、帰る前に色々と騒動がありましたでしょ? なのでなかなか先に連絡できなかったわけでして……すみませんです。ハイ」


 理由がわかれば、みんなも安心。

 わかったわかったと、柏木の所業を許してやる。

 二藤部は……


「いや、私達が考えたのは、あの船を受領するにしても、防衛関係の装備予算は……まぁ防衛関係に限りませんが、国会の承認を得ないといけませんからね……そこのところですよ」

「ええ、そうですね」

「ですが……そういう理由なら、当面はイゼイラの新たな宇宙船舶という事で説明できますから……フゥ、まぁ……いけそうですね」


 みんな頷いて納得。

 当面はヤルバーン所属の新たな宇宙船ということで扱うことにする……というか、そうならざるをえないと。

 で、フェルがそういうことでという感じで、かいつまんでカグヤの性能を説明した……


『このカグヤはですネ……』


 その驚きの性能にみんな目を見張る。


 まず、宇・空・海航行は言うに及ばず、潜航も可能。艦の標準兵装で、ゼル造成砲台100器に主砲兼用の機動兵器シルヴェル・ベルク。

 ヴァズラータイプは、当初の40機搭載の内、日本版XFAVタイプ10機のみ引き渡され、あとのイゼイラタイプは、元々ヤルバーンへの補充用なので、ヤルバーンへ引き渡される。

 但し、シルヴェル・ベルクの搭載を外せば、F-18クラスの戦闘機なら、軽く100機以上は搭載可能である。甲板上に常設駐機させるなら、さらにその機数は増す。

 そして、陸自の車両も相当数搭載可能で、シルヴェル用転送器を使えば、揚陸も簡単に行える。


 発艦時、通常搭載されるヴァズラータイプやXFAV、シルヴェルならVTOL発艦が可能なので、甲板滑走することは、ほぼない。

 では、地球製の航空機が運用できないのかというと、これまたビックリの運用法を連合は研究し、考案していた。


 まず、ティエルクマスカ艦船には、作業用機材として、全てに『トラクターフィールド』という貨物作業用の、指向性物体干渉フィールド発生装置を装備している。

 地球製の航空機……たとえば戦闘機などが、カグヤに着艦する際は、カグヤの周囲に飛んで来るだけで、カグヤ側がこのトラクターフィールドを照射して、機体を捕まえ、カグヤがその捕まえた機体を船に着艦させてしまう。

 そして、発艦時も、カグヤのトラクターフィールドで、一旦機体を空中に浮かばせて、空中でエンジンを全開にさせ、まるでトラクターフィールドで、紙飛行機を手で飛ばすように機体を前方へ勢いよく押し出し発艦させる……なので、カタパルトのようなものも必要ない。

 それどころか、専用の艦上機を作る必要もない。言ってみれば、今ある空自の航空機をそのまま使えるのである。

 確かに、艦内格納時に主翼が折りたためない等の改善点もあるが、それでも普通にデカイ船なので、相当数の機体を積めるのは間違いない。


「な……なんか……すごいですね……」


 加藤が思わず漏らす。


「強襲揚陸艦と正規空母を……足したような……いや、それ以上じゃないですか!」


 久留米もビックリだ。


「潜水もできるなんて……いや、空飛べる時点で脅威ですよね……ということはティエルクマスカ宇宙船の性能を踏襲しているわけですから……内陸部での運用も可能という事ですか……いや……すごいな……」


 井ノ崎も腕を組んで唸る。

 

 おまけに各種事象可変型シールドも装備。はっきりいやぁ、この船を沈めることができる兵器など、この地球に存在しない。

 春日はこの船の本質を見抜く。


「つまり……この船をのっけから日本が運用していることを世界に公表すれば、地球世界の軍事パワーバランスが、あっという間に変わってしまうと……」


 そういうことだ。

 なので、安易に日本が堂々と運用するわけにはいかないのだ……



 ということで……この船は、当面メルヴェン管轄で運用するという事で落ち着いた。

 それが一番いいだろうと。

 それに、この船があれば、メルヴェンの本拠地にもなる。本格的な組織運用ができるということでもある。

 柏木が言うには、この船は軍事作戦以外に、災害時にも強力な効力を発揮すると話す。

 ヘリを使わずとも、取り残された多数の人員を救助することも可能だし、災害時の中継基地としても、場所を選ばない。


 とにかく夢のようなマシンだとみんな興奮して話していた……

 

「では……この船の母港をどうするかですね……」

 

 と二藤部が話す。

 そりゃそうだ。いくらそんな自律運用ができる船だとはいえ、いつまでも海のど真ん中にプカプカ浮かばせておくわけにもいかない。

 乗員は、転送装置でヤルバーンと簡単に行き来できるので、生活面は問題ないのかもしれないが、体裁というのもある。

 まるっきり船のような形のものが、ヤルバーンのように空中に延々と浮かんでいるのも、何かと問題あるし……


 すると三島が……


「それに関しては……俺におもしれー案がある……おいらに任してくれねーかい?」

「三島先生に?」

「おう」


 三島は、ムフフという顔をして、ニヤつく。

 何やら前々から温めていた案があり、この船の登場がぴったりな感じなのだと……

 

 まぁそういう事ならと、そこのあたりは三島に任せることにする……



 ……という感じで、帰国早々長々と会議をやるのも、柏木に悪いという事で、あと一つ、ちょっとした案件を片付けて、今日の報告会議は終わるということにした……



 二藤部が、少々声のトーンを真剣にし……とはいえ、そんなに畏まらずに……


「さて……柏木さんに、のっけからこんなとんでもないお土産をもらったわけですが……どうですか?みなさん……例の件……」


 二藤部はみんなに問う……但し、柏木以外。


 委員会の面々、その「例の件」の言葉の意味が分かっているようで……


「ええ、もう議論の必要、なくなりましたね」と春日。

「では、明日、柏木さんの報告会見で……やりますか……」と浜。

「そうだなぁ……先生にやられっぱなしじゃ、コッチもな……ガハハハ」と三島。

「この野郎にも、俺たちと同じ目に合ってもらわないと……仇討ちですよ仇討ち。ククク……」と白木。

「仇討ちねぇ……良かったな柏木。これで許してもらえるぞ、はははは、先生」と大見。

「柏木さん……同情します……」と笑顔な新見。

「これで正真正銘ってやつですな」と加藤。

「はぁ……これで柏木『先生』も気軽にサバイバルゲーム、できませんなぁ」と久留米。

「頼みますよぉ……」と井ノ崎。



「え? は? え? い、いやいやいや、何の事ですか?」


 全員の急なムフフ顔に焦る柏木……いや、俺、帰ってきたばっかりだよと……


「何の事? そりゃ決まってるだろ柏木ぃ」


 ニヒヒな感じで語る白木。


「は? なんだよ……」

「罰ゲーム」

「ええ!?」


 顔を見合わせるフェルさんと柏木。

 ヴェルデオ、ヘルゼン、ゼルエは知っているようだ……ニヤニヤしている……


「い、いやいやいや……一体何の事ですか? ね、ね……」


 二藤部はその内容……というか、作戦を話す。

 これは、柏木がイゼイラへ行ってから、委員会で討議し、出した結論だと……


「実はですね、柏木さん……」



 その後……しばし後、総理官邸の廊下に、悲鳴とも何ともつかないデカイ声が響き渡ったという……




 ………………………………




 次の日……

 久しぶりに自宅に戻った柏木は、とりあえずはゆっくりできた。

 フェルのお城も居心地は良かったが、いかんせんデカイ城だったので、何をするにしても大層だったのは否めない。

 そういう点、こぢんまりした自宅はいいものである。

 フェルサンも、本音を言うと、柏木の家の方がいいという。なぜなら、彼と距離が近いからだという話。

 柏木は、旅の疲れもあって、とりあえずはゆっくり寝れたものの、今日は昨日の最後の最後に出た話もあってので、朝早くから目が覚めてしまった……

 フェルはお疲れのようで、今もムニャムニャと爆睡中。もう少し寝かせてやろうと柏木は思う。


 彼は今日、一段と身なりを整える。

 無論、帰国記者会見をやらなければならないからだ。

 こういう時のために用意した勝負服。ジョルジオさんところのダブルのスーツを着て、パリっと決める。

 フェルは今日、ヤルバーンで大事な用事がある……それは……ニルファ他、覚醒した精死病患者と面会するためだ……シエから、やはりイゼイラのフリンゼが会ってやった方がいいと言われた。

 無論、最初からそのつもりではあった……今日は彼女も忙しくなりそうだ。


 柏木は朝食をフェルのために作ってやる。

 メニューは、お得意のハムエッグと、トースト。

 そして「記者会見に行ってきます」と書置きを置いて、フェルを起こさないように、ソっと家を出る。

 あまり近所の騒ぎにならないよう、朝早めに官邸から迎えが来る事になっていた。

 なんせ、昨日はマンションに着くなり、のっけからマンション住民から大歓迎を受けてしまった。

 警備に着く警官たちも混じっての歓迎だ。マスコミは入れなかったのだが、それでも大騒ぎだったので、ちょっと大変であった。

 そんなのもあってので、こっそりとマンションを出る……


 迎えのワゴンに乗ると、官邸まで少しの間を利用して、原稿を確認する柏木。

 昨日は、就寝前に、少し問答集などを考えていた。

 なんせ今日は、ちょっとこれまた大きな発表があるためだ。


 そんな感じで、官邸に着く。

 二藤部から、今日は正面玄関から入ってほしいと言われていたので、いつもの裏口からではなく、正面から入庁する。


 しかし、マスコミのみなさんは、朝早くからご苦労な事で、まだ五時半だというのに、もうものすごい人数の記者やカメラが入っていた……


「あっ! 柏木大使! おはようございます! 何か一言お願いします!」


 声かけをやられる。

 今日はイゼイラ人のいない日なので、記者達もそんな感じ。

 とりあえず手をあげて「おはようございます」と“一言”くれてやる。

 そして控室へ……


 控室では二藤部達が既に準備万端整っていた。


「おはようございます。総理」

「はい、おはようございます……さて、今日からよろしくお願いいたしますね。柏木先生」

「はぁ~……ハイデス。はは……」

「ははは……まぁ、昨日も言いましたけど、扱いは今までどおりで結構ですので、その点は関係各所に根回しはしてあります」

「はい、了解いたしました」

「で、朝食は?」

「いえ、まだ」

「そうですか、では一緒に」

「ありがとうございます。では遠慮なく」


 記者会見は、10時からである。

 それまでに二藤部や秘書達と軽く食事をとる。

 その際、会見の最終的な打ち合わせを軽く行う……いわばリークしていい物と、いけないものの擦り合わせだ。

 おおまかに、二藤部が一昨日に会見を行ったものはOKで、それ以外はやめたほうがいいという感じ。

 無論「カグヤは日本へのお土産です」なんてのは話せるわけがない。なので、そういう点は、柏木が即興で作り話をしてもいいという事になった。その話に政府が合わせると。

 やはり作り話をするにしても、現実に行って、観て、体験した物の作り話でなければ、説得力がない。

 嘘が嘘である効力を最大限発揮するには『事実』というタネが必要なのだ……




 ……そして、記者会見の時間がやってくる。

 柏木が帰国して以降、当面記者会見の連続になりそうだ。それも仕方がない。なんせこれから数日は、今までの日本では考えられないような情報が発信されていく……当然世界にも……

 マスコミ各社は、今以上に報道体制の強化を図っているようだ。

 しかも、こういった政治部以外の部門、科学部のような、本来関係のない部署とも連携を図っている。でなければ、ティエルクマスカ関連の情報は理解できないからである。


「……それでは、只今より、柏木真人イゼイラ特派大使の、帰国記者会見を行いますが、冒頭、内閣総理大臣より、緊急の発表がございます。柏木大使の記者会見はその後になりますので、よろしくお願い申し上げます」


 いつもの進行係に促されて、二藤部が壇上へ向かう……国旗に一礼し、演壇へ……


 記者達は、「なんで総理が?」と訝しがる。そこまで出しゃばりたいのか? と……

 しかし、記者も二藤部がそんな性格ではないことぐらいわかっているので、何かあるのだろうとは思う。


「……さて、本日は、昨日帰国した柏木真人特派大使の、帰国報告を兼ねた記者会見を行わせていただくことになっておりますが……昨日、私は、政府関係各所の担当者とともに、柏木大使も交えて、会議を行わせていただきました……そこで、今回、現在、そして今後考えうる日本国の情勢、そして、ティエルクマスカーイゼイラとの国交関係等々を鑑み、我々政府は柏木大使に、ある相談と、要請をさせていただきました……そして大使は快くその要請に応じて頂けることになりました……」


 裏で聞く大使様は……


(快くっすかぁ~総理ぃ……私はイジメだと思うんですけどぉ~……)


 テメーのやったことは棚に上げる大使様。

 それはさておき……


「……そこで、冒頭、報道各社にある発表をさせていただきます……柏木大使は、本日付けをもって、イゼイラ特派大使の任を解きます。これはその役職を立派に果たされたためですが……更に、大使本来の職務である『内閣官房参与・政府特務交渉官』の任を解くこともご報告致します……」


 その言葉に、記者達全員「ええええ~……」っとなる。

 あんなに功績のある人物の任を解いて、どうするつもりなんだと……こりゃ明日の新聞は、二藤部政権叩きまくりだぜ、ヒャッハーと、一部の新聞は思った……



 しかし……



「……そして、新たに、本日付けをもって、憲法第68条に定める、内閣総理大臣の権限において、柏木真人氏を…………内閣府特命担当大臣……ティエルクマスカ連合担当特命大臣として、指名したことを国民の皆様にご報告させていただきます……」


 ティエルクマスカ連合担当特命大臣……

 その役職と仕事は、実のところ柏木が今までやってきたことと、さほど変わらない。

 しかし、重要な点は、彼には今後、内閣府からの部下がつくこと。

 そして、公表はされないが、これまで安保委員会では、二藤部の参謀であった……つまり相談役であった柏木の立場が、安保委員会に対して、指示を行えるようになること。

 更に、これも公開されない裏の権限ではあるが……彼の『特務大佐権限』の執行を、安保委員の要請があればという条件付きで、執行できるようになるということ……


 以上のような権限を付加された、彼が彼故の担当大臣という事になるのである。

 逆に言えば、特務大佐という、日本的には常識外れな権限を付加された人物であるが故に設定できた担当大臣ともいえる……


 今後の彼は、国会の各委員会への出席なども義務付けされるが、特例事項として、ティエルクマスカ関連の仕事を常に優先させるため、その事案で優先させなければならない事由がある場合は、国会への出席も免除されるという事になっている。無論、その場合は、総理の事前、事後の承認が必要ではあるが……


 ……そういったことを冒頭に二藤部は記者達に説明した……


「……この件に関しては、後ほど改めて皆様のご質問をお受けいたします。本日は、柏木前大使の帰国報告がございますので、そちらを優先的に行いたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます……」


 そういうと、二藤部は、原稿を折りたたみ、壇上を去っていく……

 唐突の発表に、記者達は唖然としていた……

 まさか、大臣就任会見も同時にやられてしまうとは……まさに寝耳に水。

 

 二藤部としても、別にサプライズでやったわけではない。

 いや、ある意味サプライズではある……その対象は、世界に向けての物だ……

 柏木という、今地球で唯一、イゼイラと一番関係の深い人物を、政府大臣に起用することで、イゼイラとの関係を誇示……すなわち、打って出たのである……


 よくよく考えたら、彼の肩書は、今になってみれば半端ではない。

 別に彼自身が望んだ訳ではないが……いつの間にやらそんなことになってしまった……

 しかし、これもすべて『 初 』という言葉が重なった結果である……これも彼の運命ともいうべきものなのかもしれない……


 そして、今までにないパリっとしたスーツを着こなし、オールバックなヘアスタイルの『柏木大臣』が姿を現す……国旗に深々とこれまで以上に頭を下げ、演壇へ……


 それはもう、カメラのフラッシュが、粒子ブラスター一斉掃射の如く会議場を照らす。


 彼は、しばしそのフラッシュの瞬きが収まるのを待つ……そして、やおら……


「……この度、イゼイラ特派大使の任を終えまして、内閣官房参与・政府特務交渉官を辞し、二藤部内閣総理大臣より、ティエルクマスカ担当特命大臣を拝命いたしました、柏木真人でございます……本来なら、私のイゼイラ訪問に関する記者会見という形になるところでございましたが、先に総理よりお話がありました経緯により、恐縮ではございますが、この場を借りて、大臣という重要な職務を拝命させて頂いたことも、共にご報告させていただきます。国民の皆様におかれましては、私が今まで培ってきた彼らとの交流、そして、イゼイラという当地に赴いた経験を通して、今後も我が国の国益と、ティエルクマスカ連合両国が共に発展できるよう尽力させていただきたく思う所存でございますので、国民の皆様におかれましては、よろしくご指導、ご鞭撻のほどをお願い申し上げます……」




 ……二〇一云年、梅雨に入った季節のある日。


 奇しくも今日、フィリピン海沖で台風10号が発生し、日本へのコースをお約束通り取っているという、そんな季節……


 日本国に新たな、そして、前代未聞の大臣が飛び出してきた。



【日本国 内閣府ティエルクマスカ担当特命大臣・柏木真人】



 日本が世界に打って出る第一の策。

 まずは、ジャブか、それともいきなりのストレートか……




 ちなみに、この会見を見る東京都八王子市柏木家の、家族親戚ご一同のみなさんは……




「おおおおお、お兄ぃ~!!!聞いていないよ~!!!」(妹)

「なななな……何を考えとるんじゃ、アイツは!!!」(父)

「う~ン……バタッ」(母)

「ああ~ 絹代さん! ほら、お水お水!」(叔母)

「真人……あのアホタレ、一言いわんかい!」(叔父)



 大変であった……





 いつも『銀河連合日本』をご愛読していただきまして、誠にありがとうございます。


 来週は、当方お盆関係の行事のため、もしかすると来週週末投稿は無理かもしれません。

 その場合は、恐らく次週掲載になると思います。誠に申し訳ございませんが、ご理解賜りますようお願い申し上げます。


 それでは今後とも本作ともどもよろしくお願い申し上げます。


柗本保羽

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