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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
49/119

-29-  銀河連合日本章 ・ 第二幕

 201云年 某月某日

 日本は梅雨に入ったという感じの季節。


 日本国総理官邸、記者会見室には、いつもの通り沢山のマスコミがひしめき合っていた。

 無論、こんなにマスコミが入るということは、ティエルクマスカ関連の発表があるからだ。

 今の日本、ティエルクマスカ関連の報道となれば、ほぼ間違いなく普通ではない情報が飛び出してくるため、記者も取材に気合が入る。


 当然、テレビでも中継が入り、各局はそれまでの通常プログラムを中止して、総理官邸記者会見室の中継へと切り替える。

 家電量販店のテレビ、茶の間のテレビ、ワンセグにカーナビ搭載のテレビと日本中のテレビの多くが、この記者会見場の中継へと注視する。


 そして、テレビには大きく【総理記者会見中継】と映し出される。

 もう今や日本の風物詩ではないが、そんな風になってしまった総理記者会見……


『えー、それではただ今から二藤部内閣総理大臣の記者会見を行います。冒頭、総理から発言がございます。総理お願いいたします』


 進行係も慣れたもんである。

 その言葉に合わせて二藤部も壇上へ。

 国旗に一礼し、演壇へと立つ。


『……先般、かれこれもう二週間以上前になりますが、日本国民の皆様、そしてこの会見をご覧になっている世界各国国民の皆様におきましては、我が国、いや、世界初の異星人国家への派遣大使となった柏木真人氏が、イゼイラ星間共和国へと向かったのは記憶に新しいところであると思います……さて本日、日本国民、ならびに世界各国国民の皆様に幾つかお伝えしなければならないことがございます……まずは件の柏木大使が、明日みょうじつ帰国することになりました。もうすでにイゼイラ共和国を発ち、この太陽系に到達しているとの連絡を受けております……我が国はこれまで、柏木大使がこの地球を旅立って以降、マスコミ各社の皆様方から寄せられる多くの取材要請をお断り申し上げてまいりました。これは、第一に人類にとって初となる、まったく未知の知的生命体国家との交流といういこともあり、極めて正確な情報をご報告しなければならないという事もありまして、例え些細なことでもスクープ合戦や、勇み足で誤った情報が出ないようにするためのやむを得ない対応でございました……さて、かような経緯もあり、今回このような記者会見を行わさせていただいているわけですが……マスコミ各社の方々にはもう大体お察しはついてらっしゃることとは思いますが、今日、柏木大使からもたらされた、重大な情報を一部開示させていただくためにこのような会見を設けさせていただくことになりました……』


 この言葉に、マスコミ各社記者たちは、待たされた感と期待感で、手に持つタブレットやノートパソコンのタッピングにも気合が入る。

 無論、今回の記者会見は記者クラブのみならず、すべての報道、世界の報道機関に開放しているため、各国様々な人種やメディアが入り乱れての記者会見となっている。

 無論、日本的にはややこしいお国の記者さんもいらっしゃっているのは言うまでもない。


 記者たちも、まず一発目の「柏木が太陽系に帰ってきた」という一言で、今までならありえないその記者会見的な言葉に少しどよめきつつ、パソコンやタブレットをタップする音を鳴り響かせる。



 二藤部は続ける……



『……さて、そのような経緯もありまして、私は今から日本国民の皆様に、重大なお話をしなければなりません……今からお話するその内容は、件の柏木大使が我が国にもたらしたものですが、おそらくこの日本国の歴史において、もっとも重大な発表の一つになる事は間違いないと確信いたしております……おそらくこの内容は、この国における歴史はもとより、この国の国体というものすら揺るがす重大な情報であります……世界各国の皆様におきましては、なぜ日本国にとって重大なのだ? 我が国には重大ではないのか? とお感じになられている方々も多いやもしれません。しかし、これは真に日本国にとっての事案であり、彼らティエルクマスカ-イゼイラ人の方々が、我が国のみと交流を持つことを望み、そして、我が国に対してその門戸を開いて欲しいと要望した真の理由と、いえることであります……』


 この言葉に記者たちはお互いの顔を見合わせて「一体何の話をするつもりだ?」と期待感を通り越して訝しがる表情見せる。

 街頭や、茶の間、携帯機器でテレビを見る国民も、赤の他人と「なんなんだ」という顔をして首を傾げあっている。


 テレビ画面はテロップが変わり……


【日本国とイゼイラ共和国に関する重大な発表】


 と、デカデカと書かれていた……




 ………………………………




 柏木が太陽系外縁部で並行世界にブッ飛び、そしてこちらへの世界へ戻ってきて帰国の準備をしていた丁度そのころ、日本国内閣総理大臣・二藤部新蔵は、イゼイラ共和国議長、サイヴァル・ダァント・シーズとホットラインで量子通信会談を行っていた。


 無論、赤電話でもしもし……というものではなく、VMCモニターを造成させてのプライベートテレビ電話っぽい感じの物である。


「……それは本当ですか! サイヴァル閣下」

『ハイ』

「それは……めでたい話です。おめでとございます議長閣下」

『ありがとうございますファーダ……これで貴国と『1000ネン』先のお話ができるでしょう。これは我が国としても重大な歴史的転機となりまス』

「はい……真に……」

『これも全てハ彼……ファーダ・カシワギ大使のおかげです。彼の、あの発想がなければ……』


 二藤部も彼らが抱える種族滅亡の根幹となる部分が排除されたことに、わが事のように笑顔になる。

 そして、サイヴァルのこの報告で、ティエルクマスカ―イゼイラとの関係が次の段階へ進むのだろうという、政治家としての実務的な実感を感じていた。


 ただ、とサイヴァルは話す。


『今回は、かようなご報告とともに、私は貴国に謝罪も行わなければなりません』

「謝罪? はて、一体どのような……」


 サイヴァルは柏木が一時的に精死病状態になってしまったことを話した。

 これにはさしもの二藤部も驚いたが、すぐにその状態から脱し、今は健康で健在だという事も話す。


「へ、並行世界? ですか?……申し訳ありません、私はそういう類の話に強くありませんので、よくわからないのですが……それほど危機的な状態であったと……」

『ハイ。一時はどうなるかと……貴国にとっても重要人物でもあるファーダ・カシワギをかような状態にしてしまった我々の警護の不備を、どのように償えばよいか……もう最悪の事態まで想定してしまいましタ……結果的には事なきを得ましたが、この件に関してはイゼイラ政府を代表して最大級の謝罪を申し上げます』


 しかし二藤部は首を振り


「はい。その謝罪、しかと承りしました。しかし議長閣下……我々政治家は結果が全てです。結果良ければすべて良しとしませんか? 議長、彼もこの計画の発案者です。相応のリスクは考えての事だと思います。しかし結果、最高の物を得られたのなら、もうそんな経緯もあまり意味を成しません。私はそう思います」

『ありがとうございまずファーダ。そう仰って頂けると我々も救われまス……で、ファーダ。その経緯のお話なのデスが……』

「はい」

『ファーダ大使や、同時に精死病状態に陥ったクラージェクルー全員がその並行世界から帰還できた時、全員がその並行世界である人物と接触し、その人物のおかげで帰還できたと報告にあります』

「……」

『その人物とは、以前資料としてお渡しした我が国の医療技術でもあります“脳ニューロンデータ”としても登録されております人物で……』




 ………………………………




 このホットライン会談の後、二藤部は閣僚と安保委員メンバーの政治部門委員と官僚を緊急招集し、閣議を開いた……


「そうかい……そっちはカタがついたか……」


 三島は歪んだ口元をさらに歪めて、手を顎に当てる。


「はい。しかしまさかそんな経緯で柏木さんがとんでもない目にあっていたとは、さすがに……」


 二藤部もサイヴァルの話を聞いた所感を漏らす。

 彼はその理解できない『並行世界』なる言葉を真壁から事前に説明を受けていた。

 その説明する真壁も、興奮を抑えきれない口調で、そしてド素人の二藤部へ如何に理解させるか四苦八苦だった。

 無論、分かりやすさ担当で、三島のポップカルチャー知識が役に立ったのは言うまでもない。


 その話を聞く白木も、呆れかえるのを取り越して、もう悟りの境地を開きそうだった……

 つまり、突撃銀河バカとは、ある種宇宙最強の生命体として見るしかないのではないかという感じだ……無論『揶揄』ではあるが……なんせそんなのが自分の親友なのだから致し方ない。


 そして白木は二藤部と三島に切り出す。


「総理……そして三島先生……意見をよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです白木さん」


 発言の前に白木は新見の方を向き……


「新見統括官、もうこれは……この段階まで来たら……」


 その言葉に新見は深くコクンと頷く。そして顔を二藤部、三島に向けて「話せ」と目線で合図する。

 白木も軽く頷く。


「どうしました? 白木さん」

「ええ……いや、実は柏木が帰国し、その後の状況を我々外務省関係者は討議、シミュレーションしていたのですが……現状がその中のいろんなパターンを考えた際の一つになって来ているようでして……」

「……ええ、で、その内容とは?」


 白木は話す。

 柏木が帰国すると、もうその時は「はいお帰りなさい、ご苦労様でした」では済まない状況になるだろうと。

 なぜなら、柏木がイゼイラに滞在していた際に色々と入手報告した情報を分析するに……いや、分析すればするほど、もう日本国がこの地球世界において、今までのような国際関係ではいられないということを話す。

 すなわち、柏木が地球に帰国するということは、もう単純に『帰国』という行為ではすまされず、イゼイラという国の文化、歴史を含めたその国そのものをこの国に持ち帰ってくるようなものだと。

 そんな柏木の存在を、世界が放っておくわけがないと。

 つまり……イゼイラやティエルクマスカと、日本の関係という物を世界がどう見るか……もう未知数になった……極端な話で言えば、地球における日本の外交関係は、すべてにおいて良い意味悪い意味含めてリセットがかかる可能性があるかもしれない……と白木は話す。


「……そこでやはり重要になるのが、なぜティエルクマスカやイゼイラが『日本だけなのか?』という点です」

「……」

「もう世界各国は黙っちゃいないでしょうね……確かに先の日米会談で米国には少なからずリークして、おそらくその片鱗でも各国は情報として入手しているとは思いますが……それでも、それはあくまで各国政府関係者の一部にしかすぎません」

 

 白木のその言葉に、三島がウンウンと頷く。


「確かにな……白木君の言う通り、各国の国民や政財界レベルでは、依然彼らは謎のままだ……そんな謎の状態で、ティエルクさんとこと、わが国が柏木先生という形で、今以上に親密になった状態を見たら……」

「ええ、その通りです三島先生……いらぬ噂や想像、妄想、憶測、疑念が噴出するでしょう……世界レベルでの一人歩きした『噂』で起こるモメ事は怖いですよ……なんせ今のご時世、ネットのつぶやき一つで国が一つ潰れる暴動やデモ、内戦が起こる時代です……」


 今の中東情勢が良い見本だ。

 あれも突き詰めれば、たった一言の、ネットのつぶやきから始まった事件だといっても過言ではない。

 今の時代とは、そんな時代なのだ……


 白木の話に、新見が口を開く。


「総理……総理も、実はそう思っていらっしゃるのではないですか?」


 二藤部は酸っぱそうな口元にウンウンと彼らの言葉に頷く……

 そしてやおら……


「では……そろそろですか……」


 白木は……


「ええ、言い換えれば、もう『限界』ですね……」


 新見は……


「どっちにしろ状況がそれを許しません……放った矢がどう返ってくるか、そろそろ見極める時でしょうね」


 春日は……


「では、柏木さん達が地球に着く前に、お膳立てしておく必要がありますね……」


 浜は……


「確かに……柏木さんが帰国して、彼からいきなりの……ハハ……メガトン級な話では混乱を引き起こすだけかもしれません」


 閣僚に官僚、その他安保委員の諸氏、頷き沈黙をもって了承。

 柏木には地球圏に到達した時点で連絡することとした……




 ………………………………




 ドォーンと……そんな音はしないが、イメージとしてはそんな感じで空間波動をまとって地球圏近海にディルフィルドジャンプしてきたイナバ。


『フゥ……エット、システム異常なし。チキュウ圏に到着しましタ……ハァ、やっとですネ』


 フェルがスーツのヘルメットをパコっと脱いでホっと一息。


『アア、母星デハナイガ、ナントナク懐カシイナ……ホットスルカンジダ』


 リアッサもそんな感じ。


『ソウ言えば……確か明日、ネコサンすまーとほんのハツバイビなんですっ! 早く帰ってこれて良かった良かった』


 医療ポッドをチェックしながら、ニーラ博士はニヤニヤしつつそんな感じ。趣味優先。

 ニルファ女史も仮死状態から脱し、既に安定期に入ったそうで、もう大丈夫だとの事。


 フェル達がディルフィルドアウトしたのは、月から約500万キロあたりの地点。

 ここからイゼイラ的な空間振動波エンジンな巡航速度でイナバは地球に向かう。彼女達からしてみれば大した距離ではない。

 

『サテ、後続のカグヤやクラージェト距離ヲ空ケナイトナ。デナイト演出的ニマズカロウ』

『演出デすか、ウフフフ。確かに三隻同時に帰還しちゃったらチキュウ人サン的にデータを取ってもらう意味がなくなってしまいますものネ』

『マァ……今更ダケドナ、フフフ……シカシ、ナヨクァラグヤノ軌跡ハ再現シテヤラントナ』


 リアッサは機関の推力を上げて、先行する。

 イナバ後部のスリット状な機関部から光がほとばしり、残像をかすかに残しつつスピードを上げる。



 しばし後、カグヤとクラージェも、これまたドデカい空間波紋をまとってジャンプアウトしてきた。



 ……クラージェ船内。


『船長、ディルフィルドジャンプ、アウトしましタ』

『各部署、報告せよ』


 各部署から異常なしとの報が入る。万事問題なし。


「あ~ やっと着きましたね……でも地球はまだちっちゃいなぁ」


 カグヤからクラージェへ移動した柏木大使。これに乗って帰らないことには具合が悪い。


『ウフフ、大使。でもコんな距離、スグですよ』

「今、地球からどれぐらいですか?」

『ソうですね……ざっとですが、チキュウの単位では550万キロあたりだと』

「えっと……月と地球の距離が38万キロぐらいだから……あ~ まだ結構距離あるなぁ」

『ソレは地球人の感覚ですよ大使。我々からすれば、そうですね~ シンカンセントランスポーターでトウキョウ、ハカタ間を行く感覚でス』

「ははは、それはそれは……なるほどね」


 そんな話をしていると、通信担当が……


『アレ?……ファーダ大使。ヤルバーン経由で、日本政府から文書データが送られてきていまス』

「あ、そうですか……ということはヤルバーンでは我々を捕捉したということかな? 船長」

『ということにニなりますネ』


 フムフムという感じで、PVMCGに転送してもらったその文書データ……言ってみればイゼイラシステム版のメールを開いて読む。

 中空にゴシックフォントが浮かび上がり、それを空中でスライドさせながら一読する……


「ん~?……」

『ドウしました? 大使』

「あちゃ、マズっ……そんな事するのかよ……」

『?』

「船長、すみません、フェル達にストップかけてくれませんか?」

『え? 何があったのですカ? 大使』

「まぁあとで話します。とにかく」

『あ、ハイ了解です……イナバ、応答せよ。イレギュラーが発生した。直ちに停船せよ。繰り返す……』




 ……イナバ船内。

  

『ン? 停船セヨダト? ドウシタノダ……』

『ホントですね、もう、これからだというのにぃ……何か不測の事態があったのデしょうか?』


 フェルとリアッサが訝しがる。

 するとニーラも医療ルームからトテトテと出てきて


『あれれ? ドうしたのですか? 停まっちゃって』

『エエ、なんでもマサトサンがストップをかけちゃったそうなんですヨ、ニーラチャン』

『ふぁーだが? どうしたんだろ』


 するとイナバのVMCモニターに柏木が映る。


『フェル、ごめん、ちょっと待ちだ』

『何かアッタのですカ?』

『いや、今ヤルバーン経由で二藤部総理から俺に連絡が来てね』

『ハイ』

『ほれ、太陽系外縁部でヤルバーンと政府に、これから地球に行くっつっただろ』

『ハイハイ』

『で、日本じゃ丁度同じぐらいにサイヴァル議長からホットラインで通信があったみたいでさ、今回の件……俺達が一時的に精死病になっちゃった事とか……並行世界に行っちゃったこととか……それと、精死病治療の目途がついちゃった事とか……ナヨクァラグヤ帝のニューロンデータの事とか……ガーグ・デーラとの戦闘のこととか……まぁあの件のいろんなことを話したみたいなんだよ……』

『ソうなのですか……フムフム』

『で、急遽だけど……ヤルバーンが機密にしていた例の件、一部だけど世界に公表するそうなんだわ』


 フェルはその話をきいて、特に驚く様子もなく、唇に人差し指を当てて……


『フ~ム……やっパり、もうそこまで来ているのですね……』

『そういうことだな……まぁ俺がイゼイラに行った時点で、こうなるって事だったってわけだよ……』


 すると、横で聞いていたリアッサも


『トイウコトハカシワギ、ニトベ達ハ、我々ガ帰還スルタメノ、オ膳立テデモシテクレルトイウコトカ?』

「ええ、そういう事になりますね、リアッサさん」


 柏木は、二藤部たちがなぜこの直前でそういう考えに至ったかを説明する……


 つまり、彼らは、日本国民や世界世論に事前情報を少し与えたうえで、柏木達の帰還と成果を誇示しようという腹積もりのようだ。

 その方が、柏木が帰還した際、日本や世界もその事実を受け入れやすいだろうと、そう考えたようだ。

 なぜなら、いかんせん日本や世界の市民国民レベルでは、米国に話したような内容をまだ全然知らないからだ……


 例えるなら……

 ある人物が、前人未到の冒険をするために、どこかへ行ったとする。

 で、その人が帰ってきた際、国民があらかじめ彼が達成したその前人未到な何かをしらないまま母国へ帰国する事と、あらかじめ知らされて彼が帰国することと、どちらが大衆は受け入れやすいかという話だ。

 もちろんそれは、あらかじめ情報を知らされてる方に決まっている。

 あらかじめ知っていれば、歓迎の準備もできるだろうし、期待感も高まるだろう。

 しかし、何も知らされていなければ、ただただビックリして『混乱』するだけになってしまう。


 サプライズという話があるが、それも時と場合というもので、初めて、いきなり知らされて「うわっ、すごい!」とその驚き自体が快感になればいいが、場合によっては「え? なにそれ、シラネーヨ、勘弁してくれ!」という場合もあるのだ。これが混乱の元になる。

 今回の場合は、確実に後者になる可能性がある。しかもそれは国民レベルで今までの常識が吹き飛ぶ可能性があるからだ。


『……とまぁ、そんなところみたいですね……』

『フーム、ジャァ、ニトベ達ノ記者会見トヤラガスムマデ少シ待ッテホシイトイウコトダナ』

『ですね』


 するとニーラが


『なんかメンドッチィ話ですね~』


 と腕を組んで口を尖らす。


『ははは、まぁ博士、そこが政治という奴ですよ、カンベンしてやってください』


 フェルは……


『デは、そのファーダ・ニトベが行う私達が“キミツ”としていたことの公表は、ヴェルデオ司令やサイヴァル議長も、知っているのかしら?』

『うん、そのあたりもホットライン会談で話したそうだよ。結局、まぁもうこの辺が限界だって話でね』

『ナルホドぉ~……』


 ……とまぁ、そういう感じでフェルや柏木、そしてカグヤにいるシエ、多川にティラス達も、ヤルバーンが量子通信で中継してくれるNHKニュースを見ることにする。


 ……ってか、こんな宇宙の真っただ中で、NHKを見る事になるとは……と思う柏木。

 

 しばし待つと、二週間ぶりのNHKアナウンサーの顔が、クラージェ全面大型VMCモニターに映し出される……この瞬間、柏木は


「ハァ~……帰ってきたなぁ……」


 と、なんとなくホっと一息な感じになる。

 例えるなら、どこかの地方に長期出張した後に、地元に戻ってきて、地元チャンネルのテレビを見た時になんとなくホっとするような、そんな感じ。



 そして彼らはその放送を注視する……



 ………………………………




 再び総理官邸、記者会見室。


 二藤部は会見を続けていた……

 彼は、各テレビ局がテロップに掲げた【日本国とイゼイラ共和国に関する重大な発表】な内容を話す……

 記者達は、固唾をのんでその話に五感を集中させる。


『さて……数日前の事になりますが……私は、ヤルバーンの高度な通信技術をもって、イゼイラ共和国の柏木特派大使と連絡を取ることができました……』


 この発言に、記者会見場は大きくどよめいた。

 無論、記者連中はそんな事初めて聞かされたからだ。

 騒然となった会見場で記者が好き好きに話す。


「連絡がとれたって……どうやって……」

「光で5千万年の距離だぞ……」


 誰しも思いつく疑問。とはいえ、これを柏木は天戸作戦で解いてのけたのだから、すごいものだ。

 しかし、あえて二藤部はどういう方法で連絡が取れたかは言及しなかった。どうせ質疑応答時に質問が出るからだ。


『私はその際、柏木大使に、ある衝撃的な事実を伝えられることになります……それは、イゼイラ人が、かつてこの日本に来訪していたという驚愕するべき情報でした』


 本当は会談中にサイヴァルから聞かされたのだが、そこはそういうことにしたようだ。

 なぜなら、これをサイヴァルから聞かされた……なんて言ってしまうと、日本はイゼイラと首脳会談をやったことがバレてしまうからである。これがバレるのは、今はまだちょっと国際関係的にもマズイ。

 クレーム殺到間違いないからだ。


 そして、会場はどよめきに次ぐどよめき。

 進行係が「静粛にお願いします、静粛に……」と大きめな声で言うが、そりゃこんな情報聞かされたとあった日にゃぁ、静粛になんてできるかい! ってなもんである。

 テレビテロップには


【イゼイラ人が、過去に日本へ来訪していた】


 というものに変わった……しかし相変わらずデカイ。

 街頭や茶の間では、「えええええ!」ってなもんである。

 実際、東京都八王子市、柏木家のみなさんも、テレビに向かって身を乗り出さんばかりの姿勢で画面を見入っていた。


 二藤部は続ける……さすがの二藤部も、次の言葉には脂汗をかきながら話す……


『そして、その証拠となる文献を、柏木特派大使の調査でイゼイラ政府から提供された資料より発見することができ、柏木大使は急きょイゼイラで、大使―イゼイラ首脳と会談を行い、その内容の真偽を確認したところ、事実ということがわかりました……そして、その資料を基にわが国においても、急きょ研究チームを作り、その資料の真偽を鑑定いたしました……』


 ここんところはもうブラフである。今更語る必要もあるまい。


『その内容ですが……当初話を聞かされた時は、私達政府関係者もその真贋を疑わざるを得ないほどの内容でした……しかし研究チームの精査で、その内容を裏付ける資料が、実は日本にも存在したことがわかったのです……』


 もう記者達は、いつでもクラブなりなんなりにスッ飛んで行ける体制である。

 各放送局のカメラも、無駄に二藤部の顔をアップにする。


『その日本に現存する資料ですが……』


 そういうと二藤部はコップの水を一杯飲みほし……



『我が国で約、一千年前に記されたという世界的にも著名な書物、日本国民みなさんなら老若男女問わず、誰でも知っている、世界最古の、物語作品の一つといわれている…………“竹取物語”であります』



 瞬間、会見場の記者たちは……


「はぁぁぁ?」

「マジかよ……」

「え? 今なんて言ったんだ?」

「Oh my god……what's happend!……The Tale of the Bamboo Cutter!?」

「総理!すみません、もう一度お願いいたします」


『はい、竹取物語です』


 記者達は、日本国、海外勢問わず騒然となる。

 中腰で椅子から立ち上がり、茫然とするものも続出。

 テレビテロップには


【竹取物語に、イゼイラ人来日の証拠】 


 とこれまたデカデカと映し出される。


『静粛に……静粛にお願いいたします……記者の皆様は席にお戻りになられるようにお願いいたします』


 そういう進行係もその眼は二藤部に釘付けであったりする。

 

 もうみんなどうしたらいいかわかんないデス状態。

 しかし進行係の声なんぞいまの記者の皆様には届かない。

 なかなか場が収まらない記者会見場。

 二藤部はざわつく場が鎮まるのを根気強く待つ……





「まぁ……そうなるわなぁ……」


 クラージェブリッジでそれを見る柏木、思わず漏らす。

 この瞬間に、先の信任状捧呈式で説明したヤルバーンが飛来した体裁上の目的は、もう無き物になってしまった。

 そして、イゼイラの明確な目的の一端が世界に発信されたことになる……


 無論、全てではない……精死病の事や、件の『聖地』案件、それにともなうイゼイラやティエルクマスカ社会の歪な歴史。その歪さによる、彼らの文明としての限界……

 そして、その限界を克服するため、希望をもって彼らがやってきた、イゼイラにゆかりのある地、この日本。

 そして、地球社会に混乱を発生させないための、彼らの『一極集中外交方針』……


 そこまでの具体的なことは、今まだ話せない。

 さすがにそこまで話してしまうと、外国勢力はどんな反応をするか未知数だからだ……




 ……この放送を観るホワイトハウス。

 米国大統領ハリソンは、首席補佐官リズリーとその放送を観ていた。

 

「ジョージ、日本政府から連絡のあった重大発表とは、やっぱりこれだったか……」

「ああ、リズリー……ミスターコンタクターが帰国するんだ。これはよくよく考えたら普通じゃない……さすがのニホン政府も、もう限界だと思ったのだろうな……」

「しかし……これが全てではないだろう……」

「それはそうだろうな。しかし、今はこれで充分ともいえるな……」

「……どうする?」

「無論、報道官には日本政府の発表を支持すると声明を出させておいてくれ……但し、連携の釘をさすのも忘れずにな……」



 ……中華人民共和国 北京某所

 同じくこの放送を観る、国家主席 張徳懐ちょうとくかい


「まさかこんなどんでん返しが来るとはね……せっかく軍部どもを懐柔させたばかりだというのにこんな事を二藤部が言い出すとは……」


 張は側近に話す……


「しかし……これで、あの外星人と日本人リーベンレンとの関係は確固たるものになりますな」

「そうだな……ところで……あの連中の『排除派』と『取包含在内派』の比率は、今はどちらが多いのだ?」

「まだ半々かと……しかしこれで双方がどういう主張をして動き出すか未知数になりました」

「ふむ……取包含在内派連中のこざかしい策謀が伊斯蘭教徒どもをのさばらせているというのに、まだ半々か……」

「はい。おまけに連中の中には外星人を安拉の使徒と信じ、東へ勢力を伸ばそうとする一派もいるみたいでして……」

「…………」

「どちらと組むか、ここが考えどころです、同志首席……報道官にはどう発表させますか?」

「今まで通りだ」


 つまり、今回の騒動の責任は、日本にあり、その日本に加担する国は同じ責任。

 混乱を収束させるために中国は協議協力する用意がある。

 国際協調下で対応するべきだと……言っておけということ……





 記者会見場の騒々しさが予想以上にひどいため、会見を30分程中断すると進行係が発言し、記者達はその間、まるで災害でパニックになった観衆の如くいろんな場所に走って、この驚異の第一報を報じる。


NHKでも、一旦スタジオにカメラを戻し、アナウンサーと有識者とやらの話が続く……


 イナバでは……


『ヤッパりこうなりましたカ……モグモグ』


 カレーパンをほおばってしばしお食事中のフェルサン。カレーは正義。


『マァ、ソウナルンダロウナ……ハフハフ』


 たこ焼きを頬張るリアッササン。あのアニメを見てからハマった。


『マァ仕方ナイですね~……パクパク』


 ミックスサンドイッチを頂くニーラ博士。卵入りは最後に食べる主義。


『こりゃ帰ったら大変だなぁ……ズズズ』


 クラージェで天ぷらそばをすする柏木大使。出汁は関西風。


『ここはファーダ・ニトベ達にお任せするしかないですし……アチチ……』


 ピザを頂くニヨッタ船長。本格派イタリアンピッツァ。


 この中継中断の間を利用して、みなさんお食事中。

 思い思いの好物に舌鼓を打つ。

 しかもみんな何故か地球の食事。

 こっちゃ帰るだけなので気楽なもんである。


『しかし大使……』

「なんでしょう船長」

『これでアノ、カグヤが行くのですから……ちょっと心配になってきましたよ』

「いや、それはまだそれほどでもないでしょう」

『どうしてですか?』

「アイツは、イゼイラの船ってことにしておけば、まだゴマカシがききますし、驚くのは政府だけなんですから、そん時ゃ驚かしておけばいいんです」

『そんなモノですか……』

「ええ……半分ヤケクソですが、ハハ……しかし唯一の問題がアレのシルエットですよね……」


 そう、カグヤのシルエット……あからさまに『船舶』で、しかも航空母艦。おまけにブリッジがいずもモドキ


「どうみたって地球の軍用艦艇ですからねぇ……そこだけですか……」


 そう、勘のいい奴なら、日本と何か関連性があると必ず疑う。まずそう思うだろう。



 そんな事言いながら飯食っていると、二藤部が再び壇上に姿を現し、演壇へ。

 どんぶりを置いてVMCモニターを見る柏木。


『えー、報道各社のみなさんにお願いいたします。先ほどは少々例外的で特殊な情報であったため、記者会見を一時やむをえず中断いたしましたが、以降は節度ある取材を心がけていただくようお願い申し上げます……では総理、お願いいたします』


 二藤部は進行係の言葉に軽く頷くと



『……先ほどお伝えした件、イゼイラ人の方々が、かつて日本に来訪し、それを証明できる資料がイゼイラ本星に存在すること。そして、その内容において、竹取物語との類似性があり、およそ地球時間で一千年前の話であることをお伝えしたわけでありますが……私は柏木大使より、この件が、イゼイラ人が我が国に国交を求め、そして、我が国に対し、かような友好的かつ、対等の対応をとられる理由であるという報告を受けました……これはイゼイラ共和国の国家元首、サイヴァル・ダァント・シーズ議長閣下よりの特段の言及があったと聞き及んでおります』


 もちろん記者会見用のブラフだが、しかし間違っていない。


 テレビ画面テロップもまた変わり、【柏木大使は、イゼイラ国家元首と会談】となっている。

 ちなみに柏木家の人々は、今石化状態である。

 無論、柏木家には親戚累々も集まっている。みんな石化。


 そして二藤部は、柏木のイゼイラ訪問で以上のような成果をあげ、柏木があと十数時間で帰国するという旨を公表した。そして質疑応答で、以降の説明に代えると言い、話を終える……


 進行係もしばし呆然、記者へ質問をふるのを忘れてしまう。

 二藤部に目線で即され、ハっとし……


『あ、えっと……失礼しました……それでは皆様からの質問をお受けいたしたいと思います。私の方から、指名をいたしますので、質問の前に、所属とお名前を明らかにしてからご質問をお願いいたします。Then, wish to accept the question……』


 それはもう記者全員が挙手の状態。当たり前といえば当たり前。

 ここで挙手しない記者がいれば、そいつは記者をやめた方がいい。


『……産業新聞の橋田と申します……え~、少々私たちも今回の記者会見で、いつになく驚きを通り越しているのですが……先ほど総理は、竹取物語と、イゼイラ共和国の資料で、イゼイラ人の方々が日本にやってきたとおっしゃりましたが、具体的に竹取物語のいかなる部分がイゼイラの資料と合致したかをお聞かせ下さいますか?』

『現在、この件については深いところまで調べるために、政府がヤルバーン自治体に件の竹取物語の学術的資料を提供し、共同で精査を行っているところですが、かいつまんで申し上げますと、竹取物語には、イゼイラ的に見ると、当時の日本国権力者に薬品サンプルを提供した描写があり、かつ、飛来したイゼイラ人を連れ帰る時に戦闘寸前の状態になったという点を極めて重要視しているということです』


 すると記者が、かぶせるように質問し


『え? では総理……確か、竹取物語ではその描写は不老不死の薬だったと記憶しておりますが、それと同等のものが日本に渡ったと?』

『はい。イゼイラ側の資料では、不老不死のような薬品ではなく、新陳代謝を改善する薬品ということで、それを服用すると、不老不死にはなりませんが、人の寿命をある程度伸ばすことができる薬品であると聞き及んでおります……私見ですが、当時の日本人の平均寿命は50歳前後、それを考えると、仮に健康的に90歳まで生きれる薬であったとしても、当時の日本人としては驚異の薬品であったでしょうね』


 まぁこれも少しブラフではあるが、間違ってはいない。

 会場からは「おお~」と声が漏れる。

 そして次の記者へ


『朝晴放送の孫村と申します……総理、その人物、すなわち我々の認識では“かぐや姫”に当たる人物などは判明しているのでしょうか? それとも竹取物語は単にその事件をモチーフにしたフィクション作品で、実際の事件はもっと違った内容だったのでしょうか?』


 他の記者達も、そうだそうだと頷く。それを知りたいと。


『はい、そうですね、確かにその点をお話ししなければなりませんね……まずその質問に関してですが、そのどちらでもある内容と申し上げておきます。つまり、フィクションでもあり、極めて当時の時事な話でもあり……と現状考えております』

『では、かぐや姫も?』

『はい、その方……といっても当たり前の話ですが、1000年以上前の故人で、イゼイラの人物データにもはっきりとその方の履歴は記録されているそうです』

『総理、その人物の名前はわかりますか?』

『我々政府は承知しておりますが、イゼイラ政府的にも歴史的に非常に重要な人物で、現在精査中という事もあり、イゼイラ政府からもまだ公表は差し控えてほしいという要望もありまして、現在は明言を差し控えさせていただきます』


 記者達は、エエエエエとばかりに不満とも残念ともいう感じの声を漏らす。

 普通ならこれで政府関係者から隠密にスクープ狙いと行きたいところだが、イゼイラ関連では、それをやってしまうと、即公安様が表れて「ピンポ~ン……誰だ? こんな夜遅くに」な別件逮捕な事になりかねないので、フラストレーションがたまる。

 日本的にもこれはまだ言えない。

 今回は鬼引き状態にして公表することで、外交カードの導火線にした。

 具体的な人物の名前を知っているけど言えないよ……つまり、明確な証拠があるが教えてあげない……


 これは世界にとって脅威である。

 なぜなら、どっかの国みたいに『妄想だ』『捏造だ』と言えないからだ。



 米国のハリソンは、この記者の質問を見て……


「おいおいおい、そんな話、私は聞いていないぞ」


 リズリーは


「ハハハ、ジョージ、やられたな。あの話が出た時点で予想はできたが、まさかニトベがこういう手を使ってくるとはな……」

「イゼイランにとっての重要人物か……これまたやりにくい話だな……」


 確かにその通りだ。

 これがイゼイラ人のそこらへんのにーちゃんやオバハンなら、はっきりいやぁ、別にどうでもいい話になるが、重要人物となると、イゼイラ人にとっての日本の価値というものがどの程度なのか測りかねる状態になる……また打つ手を考えないとと頭の髪をかき上げるハリソン。


 

 北京では、張がこの報道に顔色を変えていた。

 その理由は色々ある。

 無論、イゼイラと日本とのこれ以上の接近を許せば、戦後積み上げてきたお人よし日本を利用した高圧外交と、歴史カードが全て無に帰してしまうからだ。

 おまけに今ではガーグ的軍部が失敗した張政権失脚計画の後始末問題もある。

 ウィグルのスンナ派、しかもその中に最近現れ始めた『使徒派』といわれる、イゼイラ人を使徒と仰ぐ一派の東方への進出も見過ごしてはおけない。

 最近では、地方の人民解放軍ですら彼らに寝返る傾向がある。


 張はすぐさま日本で飼っている連中、つまり工作員に、事の真相を内々に調べさせるよう指示をした……そして米国にも……



 今回の件で、意外に大人しいのはロシアだった。

 いかんせんロシアは自分でまいた種のために今、にっちもさっちもいかない状況にある。

 ウクライナに放ったロシア軍が好き放題やり、大統領の支持率維持のために収集つけることができない。

 おまけに西側の制裁がジワジワと効いてきているのもあって、これ以上事を荒立てたくないないというのもあった。

 なので不気味ではあるが、意外といい子にしているのである……というか、完全にヤルバーン問題については静観を決め込んでいた……






 ……記者会見場では次々に質問が飛び出ていた。

 そして、海外記者勢の質問も……


『中華新報のりんと申します』


 中国政府系新聞の女性記者だった。少し訛ってはいるが、流暢な日本語で質問をする。


『柏木大使が、イゼイラの首脳と話をしたということですが、その際に世界各国との協調を要請するといった事も話されたのでしょうか?』


 二藤部は答える。


『そのような話もされたと聞き及んでいますが、それは大使の帰国後に、具体的な説明があるでしょう。その際は、記者会見を設定いたしますので、柏木大使ご本人にご質問されるがよろしいかと思います……実際のところ、私も、この驚愕な事実のお話以外は帰国してからと承っておりますので今回の、件の件以上のお話は、まだ明確にできる段階ではないということを申し添えておきたいと思います』


 確かに柏木は、その疑問をイゼイラ議会を見学中にジェルデアへ投げかけた。

 そして、イゼイラ―ティエルクマスカの一極集中外交方針を知ったのだ。無論、報告を受け、サイヴァルの『聖地』発言で、二藤部達も知ってしまった……なので、さすがに今ここではそんな事は話せない。



『ユナイテッドニュースのピーター・フォールと申します』


 次は米国で最も権威があるといわれている新聞の男性記者だ。

 今度は同時通訳である。二藤部は耳にイヤホンをはめる。

 テレビでは女性の同時通訳が音声に上乗せされる。



『二点質問があります……今回、柏木大使は……イゼイラ共和国に、二週間以上滞在してた訳ですが……

具体的に……その他どのような成果をあげたのか……これが一点……そして……今後、イゼイラ国……共和国の元首が地球に……いえ、日本に……やってくる、来日するのか、来日の可能性があるのかどうかお聞かせください』

『えー……柏木大使は、今回のイゼイラ訪問で、彼らの歴史や文化、そして技術など数々の学術的資料等々を見聞したとお聞きしています……具体的な内容は帰国してからのお話になると思いますが……それと、イゼイラ共和国の国家代表の来日ですが、今のところそのような話は出ておりません』


 無難に話す二藤部。まぁ実際はそんなところだが……ニルファが精死病から生還した今、サイヴァルは、『私が自ら地球へ迎えに行く』と言っているのであるから、これも遠い未来の話ではもうないだろう。



 そんな感じで質問をこなしていく二藤部。


 韓国記者からは「我が国にも竹取物語に似たような話があるが、その点はイゼイラに説明はしたか?」とボケた質問をしてきたが、(んなの知らないよ)と二藤部は思いつつも、そういった具体的な話まではまだ聞いていないと適当にあしらったり……


 ヨーロッパの記者からは、現在米国で進んでいる日本の為替合弁企業の件をヨーロッパも参画できないかと、質問されると、それはヤルバーン側の要望の範囲で、自由にやってもらって構わないと答える……さすがはヨーロッパの記者だ。きちんと現実を見据えた質問をしてくる……それが英国ではあんなゴシップ新聞記事になるのだから、面白いものではあるが……


 そして最後に通信の話だ……

 これは米国の記者が質問した……

 「なぜそんな話を五千万光年彼方から収集できたのか?」と……

 二藤部ははっきりとイゼイラの所有する『量子通信』の存在を認めた。

 これを聞いた記者達は、ドノバンのように、もう驚きを通り越していた……


「り……量子通信だって?……あの地球でも研究されている奴か?」

「ああ、確か……距離も時間も関係なくリアルタイムで通信ができる技術だ……」

「さもあらんって奴だな……こりゃ、科学部の解説もいるな……」


 そんな事をヒソヒソで話したり。


 そして、まだまだ質問をしたい記者を横目に、二藤部は記者会見を終了する。

 質問を無理やりねじ込もうとする記者もいたようだが、無視して演壇を去る……まぁこれも仕方がない。柏木達のためにも、あまり時間はかけられないからだ。



 そして記者会見中継終了。

 クラージェの中で、みなさん思い思いな感想を想う。

 柏木も腕を組んでフ~ムな感じ。

 つまり……


「お膳立てはしていただいたようですが……」


 と柏木が漏らすとニヨッタが……


『フフフ、これは帰国したら大変な事になりますね、大使は……』


 と口に手を当てて、ムフフな感じで笑う。


 するとカグヤからも通信が入り……


『大使、やっぱり私は、この船をニホンに渡すのが、心配になってきましたぞ』


 とティラスは漏らす。

 おそらく記者会見での記者たちの驚きよう、そしてニュースで映った日本国民の驚きように心配になってきたのだろう。

 しかし今更それを言っても始まらない。

 

 しばし後、ヤルバーンを通して、再度政府から連絡が入る。

 まぁ要は「もういいよ」ってな感じである。

 その連絡を合図に、フェル達は機関を始動させ、イナバを進める。そして少し遅れてクラージェとカグヤも出発。

 地球到着予定は、地球時間で明朝という感じである。

 ニヨッタが言ったとおり、この距離なら飛ばせばすぐなのだが、日本側の式典やらなんやらといった諸々の準備もあるので、のんびりと帰ることにする……




 ………………………………




 今、日本、そして世界ではちょっとした天文ブームになってる。

 元々近日中に柏木達が帰国することは政府から告知されていたので、日本や世界中の天文家が望遠鏡を空に向けて、今か今かと彼らの出現を待ち構えていた。


 先日は、火星近辺で多数の宇宙船らしき存在が確認され、今も火星軌道上にいるということで話題になった。

 その際、世界からの問い合わせに日本政府は「柏木大使を送ってきたティエルクマスカの船団が帰国する途中、太陽系を調査している」と回答。まぁこれも当初予想された通りの事だったので、特に問題はなかったが、ちょっと政府も焦ったのが、NASAからの問い合わせで、


「冥王星付近から、データにない大きな反応が観測できたが、あれは何か?」

「太陽系外縁部付近で、自然現象では考えられない赤外線反応が多数観測されたが、何かわかるか?」


 といったものだった。

 冥王星関連は、サイヴァルからホットラインで聞かされていたので、とりあえずティエルクマスカの柏木を送ってくれた船団が、大量にワープアウトした時の反応ではないか? と誤魔化したものの、太陽系外縁部の現象、これに関しては本当に日本政府もわからなかった。

 ヤルバーンに問い合わせても『その当時は』彼らもわからなかったそうだ。


 後にシエの報告で、ガーグ・デーラとの戦闘……つまりセルゼントゲートでの戦闘の余波が太陽系まで少し飛び火していたということを聞かされて、ヴェルデオも驚いたのだが、これも隠しておくわけにはいかないということで、すぐに日本政府へも通達された。


 日本政府もこの事を聞かされた時は、大マジのマジで焦ったという。

 なんせ300万光年彼方の戦闘の余波が、太陽系までやってきたのだ。

 しかもその敵が、柏木が以前戦ってしまった連中だという。

 おまけに柏木を迎えに行った多川がその戦闘に参加したとヴェルデオから聞かされたので、もう二度三度たまげる始末になっていた。

 

「……いやはや……集団的自衛権の行使を宇宙空間で星間国家相手にやってしまうとは……」


 防衛大臣、井ノ崎修二いのさきしゅうじが苦笑いで頭をかいてしまう。


 記者会見を終えたばかりの二藤部達。

 総理執務室で談義。


「ははは、でもまぁ対応はメルヴェン部隊の扱いですし、わが国は関与していない事になっています……とはいえ、自衛隊初の実戦経験者を出してしまうことになりましたね……」


 二藤部も渋い顔ながら苦笑いだ。しかし柏木達に大事がなくて良かったと話す。


「しかし、かなりの大規模な戦闘だったって話じゃねーかい。シエさんも良く迎えに行ってくれたものだなぁ……」


 三島もやれやれな表情。


「しかし……私も報告書で読みましたが……そのガーグ・デーラですか? そんな存在がこの太陽系に一部でもやってきた事、これは大問題ですよ」


 井ノ崎が腕を組んでそう漏らす。


「ええ……以前、柏木さんが、ハハ……報告しかねていた例の事件ですけど、あの時も井ノ崎先生と同じ話が出たんですよ……まぁあの時は300万光年も彼方の話だったのですが、太陽系内で起こったとなると……ヤルバーンがいるこの状態では対岸の火事というわけにはいかなくなりましたね……」

「で、その『ガーグ・デーラ』とかいう存在、ティエルクマスカはどんな連中だと?」

「いえ、彼らにも正体不明な敵性体だそうです……まぁ、彼らの戦力ならとりあえずはどうという事のない敵で、宇宙海賊的な散発な戦闘しか仕掛けてこないテロリストじみた連中という話だそうなのですが……詳しいことは……」


 とはいえ、相当な艦隊や機動兵器を擁した存在ということまでは、まだ彼らも想像できていない。


「この地球に仕掛けてくるという事は?」

「サイヴァル議長や、ヴェルデオ大使も、それはまずないだろうという話です」


 井ノ崎は訝しがりながら


「総理、なぜそんなことが言えるのです?」

「ええ、なんでも彼らの活動圏からこの太陽系があまりにも距離が離れすぎているという事だそうです。それと、今回の戦闘も柏木さんが帰国する際に襲撃された時に連合が撃ち漏らした残党だったという話だそうで」


 二藤部は、先のホットライン会談で、そのあたりもサイヴァルから聞いていた。

 それを閣僚会議で話していたのだ。


「なるほど……しかし皮肉な話ですね……」


 井ノ崎は手を顎に当て、目を細めて考える。


「何がだい? 井ノ崎先生」

「ええ、いや……この間聞かせて頂いた連合さんの『聖地案件』ですか……あの話もそうですが……今回のそのガーグ・デーラとかいう連中の一件もですね……なんというかその……ヤルバーンがこの地球に飛来して以降、わが国がどんどんと宇宙へ宇宙へと引き込まれているような気がしましてね……」


 井ノ崎が複雑な顔で話す。


「確かになぁ……先生の言う通り、この国だけ、何か違う次元に引き込まれているような、そんな感じはするなぁ……」


 三島もウ~ンと口を歪めて唸る。そして、井ノ崎は更に……


「私は今、もし、ここまで来た状況で、何かをきっかけにヤルバーンやイゼイラ、ティエルクマスカとの関係が絶たれてしまった事を想像すると、そら恐ろしい事になると考えます……」

「何が言いたいんだい?井ノ崎先生」

「ええ……今は何かと世界情勢を考えて、色々と……まぁ騙し騙しやってきていますが……おそらく柏木さんが帰国してしまえば、この間白木さんが言ったように、今まで通りの対応でやっていくのも無理でしょう……」

「……」

「防衛大臣の立場で申し上げさせていただくと……フゥ……彼らとの関係をそろそろ前面に出してもいい頃ではないかと……」


 二藤部は井ノ崎のこの話に、ウンウンと頷くだけで、何も答えなかった。

 奇しくも井ノ崎の懸念……そこに向けて今、ティエルクマスカから大きな贈り物が届こうとしている。

 さて、どうなることやら……




 ………………………………




 ……次の日


 ケネディ宇宙センターでは、各センター員が活気に沸いていた。


『こちらISSアルファ。日本政府とヤルバーンから話のあったバンブープリンセスが見えた。どうぞ』


 管制室は「おおお~」という声が沸き起こる。

 今回は、あの時のようないきなりのご登場ではない。あらかじめ「実験」という名目で話が通っている事なので、みんなウェルカムだ。


「ISSアルファ、お客さんを肉眼で確認できるか?」


 前ISSキャプテン。ダリル・コナーがにこやかな顔で話す。

 今回、特別に前ISSクルーは専門家として管制を任されているので、当時のクルーはみんな頭にインカム付けて管制を手伝っていた。


『ああ、もちろんだ。船外カメラに切り替える』


 ISSクルーが応答。

 すると、管制ルームの大型モニターにイナバの映像がピコンと映った。

 するとその瞬間、管制ルーム全員からにこやかな笑い声が漏れる。


「ハッハッハ、なんだ可愛らしい宇宙船じゃないか」


 黒い肌に真っ白い歯を見せて笑うジョン・ハガー。


「10世紀前に、あんなのに乗ってお姫様が地球にやってきたってか、ロマンだねぇ~」


 カナダ宇宙庁から駆け付けたブライアン・ウィブリー。椅子にもたれかかってクイクイ腰を回しながら話す。


「しかし、なんともまぁ……ありゃぁウサギじゃないか、確かニホンじゃ月からウサギが見えるって話があったな」


 そう話すは、NASAが米国政府に頼み込んで特別に呼んだアンドレイ・プーシキン。


 今はまだ、一般市民国民には機密にされているナヨクァラグヤの事は彼らにも知らされてはいない。ただ、件の日本へ飛来したイゼイラ人が『かぐや姫』であった事は、彼らにも知らされている。

 なので、こんな感じ。


 すると、ジョンの背後から、丸めた書類でポンと背中を叩くは……


「おいおい、ほのぼのしている暇はないぞ、依頼のあったデータを取らんといかんだろ、ホラ、仕事だ仕事」


 センター長のリック・パーソン。


 とはいえ、もう彼らの知らない本当の目的……精死病の件は解決してしまっているので、今更感はなきにしもあらずなのだが、それはあくまでイゼイラ的な話であって、NASAとしては、今回の一件、今後の宇宙開発にも多大な、それはもう宝の山のようなデータを取れると張り切っているのである。

 無論それはカナダ政府や、アンドレイを派遣したロシア政府も同じ。


 リックは指を鳴らし、あるアイディアを思いつく。


 彼はダリルへ肩越しに話す。


「なぁダリル……確か、以前の事件の時、彼らは電波通信を知らないって話だったんだよな……」

「ああ、確かニホン政府の発表じゃ、そんな事言っていたな」

「そうか……じゃぁ、彼らに『ウェルカムホーム』ってやってみるか?」

「ハハハ! あの時できなかった事か?」


 リックは、コクコクと頭を縦に振る。

 するとダリルもパンと手を叩き、インカムをリックに渡す。

 リックは眉をあげて、そのインカムを受け取る。


「……こちらはアメリカ航空宇宙局、ケネディ宇宙センター・センター長のリックパーソンです。飛来したイゼイラ共和国の宇宙船へ、応答してください。我々は日本政府の依頼を受け、JAXAと共同で貴船を追跡中です。コンディションはどうか? 可能であれば応答していただきたい」


 しばし待つ……

 すると、船外カメラを映し出すモニターに割り込みが入り、映像がパっと変わった……


『コチラ、イゼイラ共和国実験宇宙船“イナバ”パイロットノ、リアッサ・ジンム・メッサダ。貴国の協力ニ感謝スル』

『私ハ、ヤルバーン科学局副局長のニーラ・ダーズ・メムルですぅ~。はろーですぅ』


 画面にリアッサとニーラの顔が映り、手を振る。

 フェルはヤルバーンに引きこもり設定なので、ニーラと交代して奥でニルファを診ていた。


 彼女達の顔がモニターに映った瞬間、宇宙センターは大歓声に口笛が飛び、やんやの騒ぎになる。

 やはり宇宙を目指すものに国境はない。彼らは宇宙の厳しさを知っている。

 なので、無事に帰ってきた者を揶揄する感覚など彼らにはないのだ……一部の国はどうかは知らないが……


「ハハハ、ミス・リアッサにミス・ニーラ、お帰りなさい。我々も日本政府より、『カグヤヒメ』の件は報告を受けています。依頼のあった各種データを取得するので、規定通りの地球衛星軌道周回をお願いします」

『了解シタ、デハヨロシクタノム、ケラー、パーソン……ア、ソレカラ……』

「なんでしょう、ミス・リアッサ」

『後続デ、ファーダ・カシワギノ乗ッタ宇宙船ト、護衛ノ我ガ国ノ中型宇宙船ガ飛来スル。ソノ点ヲ申シ伝エテオキタイ』

「おお、そうですか、了解いたしました」


 そういうとリアッサは通信を切る。

 するとジョンが……


「おいおい、ファーストコンタクターの乗った宇宙船はわかるけどよ、もう一隻また来るのか?」


「う~む、護衛とか言っていたな」とリック。

「中型って、あいつらの中型の概念って、どんな感じなんだよ」とブライアン。

「ハハハ、お前たちの国の映画にあったハゲタカ船みたいな船だったりしてな」とアンドレイ。


 そんな事をまだ能天気に言えるNASAのみなさん。

 

 そしてイナバは地球衛星軌道上を何周か周回して、大気圏に突入。日本ーヤルバーンへと進路を取る。

 それを見届けたNASAスタッフは、とりあえず一仕事感。

 全員一息入れてコーヒーを飲んだり、歓談したり。


 すると、ISSからいきなりの緊急通信が入る。


『ケネディ宇宙センター、応答せよ。こちらISSアルファ』


 するとリックが慌ててインカムを取る。


「どうしたアルファ。やっこさんが帰ってきたか?」

『あ、ああ……確かにそれはそうなんだが……とんでもないのを引き連れてるぞ!』

「何? 護衛の宇宙船とかいう奴じゃないのか?」

『ハァ!? 宇宙船だと? んなもんじゃない、空飛ぶエンタープライズだ!』

「は? エンタープライズ?」

『ハゲ船長の方じゃないぞ、原子力空母の方だよ』

「……おい、大丈夫かお前、何言っているんだ?」

『ああ、もう、これを見ろ!』


 船外モニターを強引に割り込ませるISS。


 そこに映るは……




 彼らの見たもの……最大望遠でデカデカと映るその物体。

 BGMが欲しいなら、七色な星の艦隊集結か、ロボット帝国に追われて地球に逃げてきた宇宙船団のテーマか。


 クラージェの先導するその後方には……


「な、なんだありゃ……」


 NASAのみなさん総ポカ~ン状態。

 同僚にコーヒーを入れながらポカ~ンする奴、入れすぎてアチチと大慌て。お約束の演出。


「ふ、船が宇宙を飛んでる……」とリック。

「なんだなんだ……また何かやらかすのか?」とダリル。

「く、空母かよ……ワオ、スターブレイザーズだぜ……」とジョン。

「宇宙空母? エンタープライズって……ハボクックじゃないか……」妙にコアなブライアン。

「しかし……なんであんな形なんだ?」と妙に冷静なアンドレイ。


 NASAのみなさん、ギガヘキサに続き、精神削られそう……




 ………………………………




 JAXA―宇宙航空研究開発機構でも、この状況をモニターしていた。

 NASAから送られてくる映像に、全員orz状態。


 イナバの帰還については、ヤルバーンへ着艦したことを確認し、一息ついたところでこの映像である。


 JAXAのオペレーター、滝本綾子は両手を腰に当て、憤慨中。

 彼女はとりあえず自意識を維持できているようである。


「もう! 柏木とかいう人、今度は一体なにをやらかしたわけっ!」

 

 モニター要員として携わる田辺守は


「いやぁ~……あの人、私とターシャの結婚式の時もいらっしゃっていましたけど……すごい人だったんですね……」


 すると同じく非常勤で雇われている、愛妻のタチアナが横で


「マモル、そんなレベルじゃないでしょこれは……ウチュウクウボよウチュウクウボ……ってか、どう見てもあのデザイン、地球のイショウでしょ……子供のころАнимеで見たわよ、あんなの……」


 日本語もうまくなったタチアナ。でもちょっと巻き舌。


 すると、官邸からテレビ会議で連絡が入る。

 画面に映るは白木。


『おい! 滝本ちゃん……何アレ!』

「知らないわよっ! 見たまんまでしょ!」

『見たまんまって……』

「アナタのお友達が連れてきたって事だけは、はっきりしてるわね」

『また……あの野郎かぁ~?……クククク……まったく楽しませてくれるぜあいつはよ……』

「で、総理や閣僚サン達にはもう報告したの?」

『え?~ もう羽田に行っちまってるよ……』

「じゃぁ、アナタもさっさと行って報告するっ!」


 ビシっとカメラに人差し指を突き刺す滝本。


『は、はいぃぃぃ……』

   

 さしもの白木も、その滝本の迫力に圧倒されて、ホイホイと通信を切る。


「滝本サン……」


 タチアナが滝本へ難しい顔をして話す。


「何? ターシャ」

「アノ、ウチュウクウボ……船の形をしているって事は……着水するのかしら」

「さぁ……」


 その言葉に田辺がハっとする。


「もし、あんなのが、あのアニメよろしくザバァっと着水でもしたら、大変なことになるぞ……」

「え? どうして? 田辺さん」

「そりゃぁ……あんな質量の物が何も考えなしに着水してごらんよ……」

「あ……そうかマモル……高潮かЦунамиか……」

「そそ……大丈夫かなぁ……まぁ考えてると思うけど……」





 ………………………………




 羽田空港、VIP用待合室。


 柏木の帰国記念式典のために、選抜された閣僚や官僚、芸能人やマスコミが集まっている。

 芸能人には、日本で有名な男性アイドルグループや、48人のナントカの一部。他、女優や男性俳優など。

 ヤルバーンからはヴェルデオにゼルエ、ヘルゼンがやってきている。

 治安担当として、山本達も、柏木と懇意ということで配置された。

 しかし、ヘルゼンが長谷部の顔をチラチラ見て頬を染める……長谷部もヘルゼンの顔をチラ見して、そんな感じ……ヘルゼンはやっと悩みから解放されたようである……


 空港ロビーに設置された大型モニターには、クラージェを今かと待ち受ける中継ヘリの映像と、海自哨戒機の映像が間をおいて交互に映る。

 海自哨戒機は、東京湾からはるか離れた三宅島沖を哨戒している。


 今回、芸能人を呼んでの歓迎式典になったのは、局が政府に泣きついてやらしてくれと頼み込んできたわけで、まぁ今回はめでたい事でもあるしということで過剰な演出をしないという条件付きで許可を出した。

 しかしマスコミと政府の行事はあくまで別扱いということで、柏木が帰国後も、そのマスコミの式典に出席するという事は予定にない。

 しかし、今回は特別という事もあって、二藤部は柏木が羽田に来る間に、その式典に出席。

 後の補欠選挙の件もある……そういうこと。


「みなさん! 今日は特別に 二藤部新蔵、内閣総理大臣と、三島太郎副総理にいらっしゃって頂いています!」


 とか、司会の女優に紹介されて、二藤部は一言二言挨拶をしていたりする。

 その後、三島も……


「まぁ、昔は宇宙人っていやぁ、タコ型の宇宙人が火星から攻めて来るかも……なんつって、そんな事をおいら達は子供のころ思ったりしたもんですがぁ~」


 と、件の名調子で笑いをとっていたりしていた。


 すると、海自哨戒機に同乗しているレポーターから一声が入り、大型モニターにその様子が映る。


『会場のみなさん! 今、柏木大使の乗った宇宙船、デロニカ・クラージェが見えました!』


 カメラが小さく映るクラージェを捕らえ、拡大して大きく映す。

 会場に集まった観客は「おおお~」と大きく声を上げる。そして拍手なんぞを……


『壮観です。そして感無量です……今、柏木真人大使が、この地球から五千万光年、往復一億光年の想像を絶する距離にあるヤルバーン母艦の母国、イゼイラ星間共和国から帰国いたしました……』


 海自哨戒機、P-3のエンジン音に負けまいと大声で話すレポーター

 しかし、その後、哨戒機が騒がしくなる……

 何か専門用語が飛び交い、焦っているよう。


 会場では……


「あれ? どうしたんでしょうか? 花村さぁ~ん?」

『あ、はい! 今大変な事が起こっているようです! え~、今、柏木大使の乗った宇宙船の後方から、更に大型の宇宙船が随伴しているという情報が入りました!』


 会場は「えええ……」とどよめく。

 会場から退場した二藤部達も、VIP控室のモニターでその様子を訝しがりながら眺める。


『はい! え~今、外の様子をご覧に入れます……って、うわっ! こ、これは! す……すごい!……すごいです! これをご覧ください!』


 カメラマンの「なんだありゃ!」という声も音に入る。

 そして窓からカメラを向けた先には……



 雲海から、ゴバァ! という感じで、突き抜けるように雲を船体に纏いながら……全長500メートルの、船舶……いや、どう見ても航空母艦のような宇宙艦艇が姿を現す!……そう、いわずもがな……


『宇宙空母・カグヤ』である。


 P-3は上昇し、カグヤ上部から降下しつつあるカグヤ甲板を捕らえる。

 その甲板上には、ヴァズラーが何機も並べられていた。


 しかも……信じられないことに、甲板上で作業するイゼイラ人がいた。

 こんな状況で、甲板上に人がうろついているという状況自体が信じがたい。

 これも、ティエルクマスカ艦艇が装備する『環境シールド』の成せる技である。

 甲板のイゼイラ人は、P-3に向かって手を振っている。


『し、信じられません! 空母です! 空母型の宇宙船としか表現のしようがありません! しかもその甲板上には、イゼイラの方々が作業をしています! こちらへ手を振っています! こんな高度で作業できるなんて……』


 会場でその映像を見るみなさん……全員唖然……

 もちろん、そのせいもあって、日本中のテレビがこれまた特番報道に切り替わる……

 二藤部や三島達閣僚も茫然唖然……聞いてないよ状態……


 P-3からの中継。

 中にいる海自隊員の言葉が音声に入る。


『おい、あの宇宙船、着水する気だぞ!』


 クラージェと別れて、カグヤは着水体勢に入る。

 海自隊員は、あんなものが某宇宙戦艦ばりに着水したらでかい高波がおきるぞと心配したが……

 なんてことはない。

 

 カグヤは、速度を落とし、一旦海上数メートルで停止後、熱い風呂にでもつかるように、ゆっくりと前進しながら着水する……

 さすがに彼らもそれぐらいは分かっていたようだ。


 そして、その500メートルの巨体は、白い航跡を引きながら、東京湾を目指す……


 全長500メートルクラスの船舶。

 これは実際地球にも存在する。

 2009年まで活躍したノルウェー船籍の石油タンカー『ノック・ネヴィス号』がそれである。

 全長458メートルという化け物のようなデカさを誇ったタンカーだが、カグヤはまだそれよりもデカい。

 しかも、カグヤは宇宙船舶であるので、海上航行時でも、基本は空間振動波エンジンで航行するため、海上であっても停止旋回自由自在である。

 いざとなれば対物理シールドを全開にすることで、海水の抵抗を排除し、普通の船舶では考えられない機動を行うことも可能。

 おまけにその対物理シールドの調整次第では海中に潜航も可能。これはティエルクマスカ船舶全部に言えることなので、特にカグヤが特別というわけではない……なのでイゼイラには『海軍』というものが存在しないのである。

 しかし、地球船舶の意匠を参考に造られたカグヤは、やはり日本人に与えるインパクトは相当なものである。

 もう日本じゅう、この瞬間、柏木の帰国もさることながら、カグヤの登場で騒然となった……



「これは……柏木さんから、しっかりと話を聞きませんとね……はは……」


 困惑、茫然、苦笑いな二藤部。


「先生、帰国していきなりコレかよ……聞いてないぞこっちゃ、ガハハ」


 なんとなく痛快な三島……



 そして……そんな感じで騒然とする中、柏木の乗ったクラージェが羽田へ到着。着陸体勢に入る……


 それを見る関係者。


 柏木の父に母、恵美も迎えに来ていた。 

 麗子や大森会長、田中さんも。

 ドノバンも日本政府に招待されている。



 帰国した柏木達は何を日本にもたらすのか……


 残されたあと一つの大きな課題……『聖地案件』……




 日本と、ヤルバーン、イゼイラ、そしてティエルクマスカの、新たな関係が始まる……






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