-21- 帰還 終
竹取物語……
いわゆる、一般的には『かぐや姫』で知られるこの作品。日本で、まず知らぬ人はいまい。
201云年では、日本で有名なアニメスタジオが、アニメ化して話題にもなった作品である。
ただ、この作品、児童書として知られる方は、少々端折って書かれているものが多い。
大元の原作では相当に高度な設定を有しており、また、当時の神話や妖かし話と比較しても、かなり例外的に変わった作風を持つ作品としても知られている。
そして、大変に謎の多い作品でもある。
まず有名なこの作品の謎として、この高度な物語が、実は『日本最古』のフィクション作品であるということ。そして一般的に知られる『竹取物語』の原作と言われているものは、実は『写本』なのである。
そして、その写本の元になる『原書』『原文』今風に言えば『原作』が現存しない……見つかっていないのである。
学術的には、室町時代初期に、後光厳天皇(1338年3月23日―1374年3月12日)が記したと言われている『竹取物語断簡』が、現在知られる最古の書として知られているが、実は竹取物語に登場する『竹取の翁』という人物自体は、『竹取物語』という作品ではなく、この『竹取物語』という作品の全容が、現在に伝わる形になる以前にも、全く別のストーリーとして、万葉集の長歌や、その他、当時の寓話にも度々登場している。
そして、当時の日本では、よく『天女』という天から遣わされた高度文明人のような存在が描かれた作品も多数存在する。
従って、諸説あるのだが、この作品、後光厳天皇版の写本を良く見るに、どうにも今風で言うなら『ナントカ仮面VSナントカレンジャー』ではないが、そういった色んな物語のエッセンスを持ってきた『二次作品的』な感じの作風を持つ物語という側面もあるのではないか? と考えられている。
作風の背景にあるのは、いろんな諸説があるが、いかんせん原書がないので正直なトコロ、その全てにおいて憶測、想像、仮説の域を出ることがなく、現在でも様々な解釈が歴史学者、文学者の間ではなされている。
逆にいえば、そういった様々な解釈が出ざるを得ないほど、その物語の構成が、あまりにも完成度が高く、とてもではないが1000年もの前に作られたとは思えないほどの構成力をもった作品でもあるのだ。
その一つの例として、 欧米では『The Tale of the Bamboo Cutter』直訳すれば『竹伐採人の伝説』とでも訳せば良いか、そういう理解で知られている。
面白いのは、タイトルでもわかるとおり、日本の方は、かぐや姫を主軸とした題名で知られているが、欧米では『竹取の翁』を主観としてタイトルが付けられている。
つまり読みようによっては、かぐや姫の方が助演で、竹取の翁の方が主演となる読み方もできるのが本作なのだ。
それ故にその高度な構成力から、俗に『世界最古のSF作品の一つ』ともいわれている。
そして、その作品の内容もさることながら、仮にこの作品が、いわゆる『二次作品的』として仮定するなら、そういった二次作品の元となるネタを著者は方々から収集できたということでもある。
つまり情報伝達インフラが、"当時なりに" 整っていた環境で著者は執筆できたという事でもある。
そして、そんな情報を方々から収集できる地位にある人物でもある、という事もいえる。
当時で、そのように"当時なり"の情報を、世の方々から収集し、蓄積保管する事のできる人物といえば、相当の地位にある人物でなければ無理だ。
なので、後光厳天皇という人物が最終的に『写本』といわれる形で登場する事は、ある意味頷ける。
ただ、その後光厳天皇に最終的に伝わるまでの情報となれば、これは海山な代物も多いだろう。
いわゆる伝言ゲームで伝わる情報であるからして、そういうものが各地に類似した寓話、神話、おとぎ話として伝わるという事は充分に考えられる。
そして、その寓話、神話、おとぎ話にしても、全くの無から出来た話という事は考えにくい。
そういう昔話には、その世相を反映する当時の時事を、必ずその根底に内包する。
まったくの荒唐無稽な話でも、必ず『元ネタ』となるものがあって然るべきなのが、昔話なのだ。
往々にして、その寓話の『ホラ』の部分を、タマネギの皮をむくように剥いでいくと、非常に薄い一本の芯が見えるかもしれない。
それが……時事であり、事実であり、真実なのだろう……
………………………………
『中央システム』
【はい。ファーダ・サイヴァル。命令をどうぞ_】
『この書籍を要約し、その概要を出力せよ』
【了解_翻訳を開始致します。しばしお待ちを】
サイヴァルは、イゼイラ行政中央システムに、命令する。
会談の休憩時間終了後、日本政府陣は、ある書物を持ってきた。
それは、休憩時間内で急ぎ用意できるものであるからして、そんなにたいしたものではない。
三島が行きつけの、神田の古本屋へ秘書を走らせ、ポケットマネーを出して……
「なんでもいいから、古本屋へ行って、竹取物語のストーリーがいちばん詳しく書かれたやつを買って来い」
と言って、パトカーを走らせて急遽購入してきた物だ。
「国会図書館で探せばいいではないか」という話もあるが、手続きがややこしいし、あまりの膨大な蔵書のためにどれを持ってくればいいかわからない。
現在、緊急の案件であるからして、まぁストーリーの概要を知る程度ならそれでいいだろうという事で、こんな風に相成った。
で、買ってきたはいいが、秘書がとんでもなく分厚い、割と値打ち物の3万円ぐらいする、学術的な解説付きの物を買ってきてしまったので、どこから読みゃいいかわからない。
『ではファーダ・ミシマ。当方のシステムに翻訳させ、当方が必要とする要点をわかりやすくまとめて概要を出力させましょう』
となった訳である。
はてさて、どんな出力がなされるのか……
【翻訳完了_】
『では、出力せよ……まずはストーリーからだな』
【了解_ …………ヤルマルティア国の過去、某所に地下茎繁殖性植物である、ヤルマルティア固有種名『タケ』を採取し、加工する職業に就く老夫婦が存在した__ある日、その老夫婦は当該植物植生地域に出向くと、異常な蛍光反応を示すイレギュラーな生態を有する当該植物を発見する__老夫婦は当該異常反応を示す植物を採取、しかしながらその植物には、約6.72ケルスのハルマ人に酷似した幼生体を発見。それを保護……】
ほげ~ っとした顔で聞く日本勢。
三島が柏木の耳元で囁く。
「(な、なぁ先生……い、いいのかな? これで……)」
「(い、一応……間違ってはいませんが……)」
その話を聞いた白木が割り込んでくる。
「(ま、まぁ……イゼイラ人に万葉言葉で話しても仕方ないですしね……彼ら的には学術的な事実の情報が分かればそれでいいんですから……)」
「(まぁそうだけどよう白木君……風情というか、情景というか……あー、まぁいいや。とりあえずアンタの脳ミソでこの翻訳、覚えといてくれよ、ちゃんと)」
「(わかってますよ三島先生、後ほどちゃんと文書に起こしますから)」
レコーダー代わりの白木。
フハハと笑う三島。
翻訳は続く……
【……当該幼生体は成人し、ヤルマルティアにおける“シュウキョウ”祭司者により『フリシア・ナヨタケノ・カグヤ』と命名される_当該老夫婦は、ナヨタケノ・カグヤ成人を祝し、宴を開催した模様_そしてナヨタケノ・カグヤは極めて美麗な容姿を持ち、当時のヤルマルティア人デルンに人気を博する_……】
日本勢学者のみなさんは、何か夢中になってメモを取っている模様……
「(いや……何もメモ取らなくても……あとでこちらのデータもらえますし)」
柏木がそのメモを覗きこんで学者の一人に話す。
「(いえ、わかりませんか? 柏木さん)」
「(え? 何がです?)」
「(いや、私達って、この竹取物語もそうですが、昔話みたいなのを、こんな風に翻案して聞いたことってないですよね?)」
「(え、ええ、まぁ……確かに)」
「(なんだかね、こう、なんていいますか……この物語の余分な油を落とすような感じで、とても頭に入りやすいと思いませんか?)」
確かに言われてみれば……と思う柏木。
何か竹取物語をまとめたレポートでも聞いているよう。
【……ナヨタケノ・カグヤは、ミィアールを申し込まれた五人のデルンに対し、ある課題を提案。本課題を達成した者とのミィアールを承諾することを約束する_その課題の内容……
1)ハルマ・インディア国製の、四名の創造主が製造したといわれる超硬度鉱石で製造された容器_
2)根部がシルタ・茎部がコルトート・果実部が……<<翻訳不能・該当資料存在せず>>_
3)高温耐火性繊維素材_
4)ツァーレに酷似した動物が有する5つの発色性を持つマテリアル_
5)小型鳥類が出産する出産補助生物_
以上を持参する人物とのミィアールを確約_しかし当該物品は、当時のヤルマルティアには存在せず、対象デルンはフェイクを用意するが、容易にフェイクであることが発覚。課題をクリアするものは皆無であった_……】
「(三島先生、さっきの『出産補助生物』ってなんですか?)」
「(え? 総理わかんねーですかい?)」
「(ええ、まぁ、あまり詳しくはないので)」
「(ハハハ、あれはですな、多分『燕が生んだ子安貝』のことですわ……昔の日本じゃ、子安貝は安産のお守りってことだったらしいですぜ……しかしまぁ『出産補助生物』って、どんな翻訳なんだよ、ハハハ)」
システムは、こんな調子で竹取物語を、その本に記述している解説なども総合的に含めた形で、システム的に翻訳していく。
その後、かぐや姫が、その様子を見かねた日本の皇帝に召喚され、見初められたこと。
皇帝が幾度かぐや姫にアタックしても、かぐや姫は首を縦に振らず、挙句に当時の皇帝に対して「意地でも会わない」とまで言うような女性であったこと……
『(フェルノゴ先祖……コレハナカナカノ頑固者ダッタヨウダナ……デルン殺シダソウダ……私モマケソウダナ……フフフフ、オマエニソックリデハナイカ……ククク)』
フェルに耳打ちするシエ。妙にウケている。
『(こ、これはオトギバナシですぅ~!……デモ……チョット似てるかもモ……)』
なんとなく自覚してしまう……多分、ご先祖様と確信してしまうフェル……
そして翻訳版竹取物語は、佳境に入る。
【……そして、ナヨタケノ・カグヤは、自らをハルマ軌道上に存在する衛星『ツキ』から来た者だと告白する_尚、本作品設定では、ツキと、ハルマでは、相対時間が違うと設定されている_そして、衛星『ツキ』に帰還すると告げる。しかしそれに反抗する皇帝が、ナヨタケノ・カグヤを奪回に来るというツキから飛来する部隊に対し、抵抗するための防衛部隊を結成し、コレに対応。しかし、当時のヤルマルティア部隊ではまったく対応できず、ツキ部隊は、我がティエルクマスカが所有するスタン兵器に類似した兵器で対応_ツキ部隊は、ヤルマルティア人を蔑視、軽視する発言をした上で、ナヨタケノ・カグヤを確保……】
この部分を聞いて、なんだかフェルはプンスカ怒っている。
『ナんですか! その月の住民というのはっ! ニホン人の方々を穢れた存在だなんて無礼にも程がありますねっ! どういうことですカっ? マサトサン!』
「あ、いや、フェル……お伽話だから……俺にそんなこと言われても……」
そしてシステムは、かぐや姫が、何か罪を犯して流刑されたということ。その罪を贖罪したため、月の使者が迎えに来たこと、最後、帝や育ての親である老夫婦に別れを告げ、帝に『不老不死剤』と『詩』を提供し、月の使者と共に地球を去ったこと。
最後に、帝がその薬を、かぐや姫がいない世で持っていても仕方がないとして悲観し、日本の『富士山』で焼いたことを翻訳解説した。
【以上、本書類の総合的な翻訳を終了します_】
日本勢、なんとも違和感のある翻訳だったが、妙にわかりやすかったので、これまた妙に納得顔。
みんな腕を組んで、口を歪ませて目線をいろんな方向へ向ける……
イゼイラ勢、彼らも同じような感じ……しばし沈黙……
さて感想は……
『ファーダ三島、ファーダ大使……当方のシステムでこの書籍を総合的に翻訳させましたガ、このような形でお分かりになりましたでしょうか?』
サイヴァルが二人に話しかける。
「ええ、まぁ、間違ってはいませんわな……なんか妙にわかりやすかったというか……新たな境地というか……」
と三島。なんとなく苦笑。
「ええ、確かに……こういう訳され方をすると、なんとなく余計なものが取れて、この会談ではかえって良いような……なにかそんな感じですね。ハハハ」
横で聞く二藤部も苦笑しながら……
「議長閣下、まぁ……こういう感じの物語なのですが、何かのご参考になりましたでしょうか? 他、後ほど当方のこういうものを扱う担当部署に指示をして、さらに学術的な物を提出させる事もできますが」
『ハイ、ありがとうございますファーダ。しかし……これはなかなかに面白い資料ですな……ところでファーダ』
「はい、何でしょう」
『少々システムに翻訳の不備があったようですガ、その点の解説は可能でしょうカ?』
「ええ、あの五つの品物の所ですね」
『ハイ』
「まず、一つ目は、『真珠』という地球に生息する『貝類』という生物が生成する結晶物質です。地球では、宝石として珍重されているものですね」
『ナルホド……アト、先程、ファーダ・ミシマが仰っていた、その貝類のコヤスガイという生物が、なぜに出産の象徴物として扱われているのでしょうカ?』
「あ……それは……」
答えに窮する二藤部……
正直、このような会談の場で……
「まぁそのあたりは柏木大使にでも……」
白木がニヤツキ顔で振る。
「お、おまっ!……」
「おねがいします、柏木大使閣下。ククク」
ハァ……となる柏木。
彼はPVMCGで子安貝の一つである『タカラガイ』を検索して、立体映像にして映す。
「……まぁ、このプックリした形状が、お腹の大きい女性をイメージするのと、えっと……この裏側の意匠がですね……まぁ、そういう事です……ハイ……」
立体映像を裏返してその形状を見せる。
ハァハァ……と頷くサイヴァルとマリヘイル。
『……ハハハ、なるほど……わかりました』
サイヴァルは笑う……一歩間違えたらセクハ……
フリュのみなさんは、少々頬染める……しかし、シエ嬢のみ、何か真剣な顔でメモっていた。
『なるほど、良くわかりました。フム……』
納得のサイヴァル。
二藤部は少し考えた後、頭の中で何か言葉を組み立てるようにイゼイラ勢へ話す。
まず、第一にこの今聞いた話は『写本』つまり複製であって、原本、原作ではないという事。
そして、原作は見つかっておらず、他の考古学的資料から、原作はあっただろうという解釈のもとで、この写本の重要性が成立していると。
「……そして先程の、貴国のシステムが翻訳した、この『竹取物語』を聞いていますと、一つの面白い点に気づかされます」
『ほう、と、いいますと?』
「ええ……例えは悪いですが……『デマ』という言葉です」
『デマ?……確か、チキュウにある地域国家、ゲルマン国の言葉ですな』
「はい。他に英語では『ゴシップ』日本語では『噂』などといういう言い方もしますが」
『フム』
「この世の物語というものには、必ず元になるものがあります……それは時事であり、身近な体験であったり……特にそういったものが、当時の日本の情報伝達レベルだと、尾ひれはひれ付けて、想像や憶測が本質に纏わりついた形で、伝聞が伝聞として伝わり、またその伝聞が……という感じで話が出来上がっていくものです。そう考えると、御伽噺や昔話というものは、多分にデマの要素と共通する所があります」
サイヴァルは、コクコクと頷きながら、眼差しを真剣にして二藤部の話を聞く。
「今回、議長閣下よりお見せいただいたその、わが国今上陛下の御贈答物ですが……我々は今まで、この日本では誰でも知っている物語を、歴史的に優秀な『創作物』としてみていた訳ですが……この一件で、もう私達は。そういうふうに見られなくなってきました……もちろん、この物語の純粋な内容とは別の話で……という前提での事ですが」
二藤部は、更に続ける。
つまるところ、デマにしても、御伽噺にしても、もし何か元ネタがあれば、完全なウソ八百なものではない。
嘘とは、事実対象があっての嘘であり、そもそも事実対象がなければ嘘は成り立たない。
日本で『竹取物語』として伝わる話の、根底は何かということが大事だと。
「議長、もしこの物語が、そのナヨクァラグヤ帝の件と何か関わりがあるのであれば、日本国にとっても、わが国の国体すら揺るがしかねない重大な事なのです……今はこの程度の資料しかお渡しできませんが……何かお気づきの点があれば、ご指摘下さい……今度はこちらから色々とご教示をお願いたしたい」
『ええ、モちろんですファーダ……フム……ではさて……』
サイヴァルは手を顎に当てて、何から話そうかと考えこむ。
『そのタケトリモノガタリには、最後に“不死の薬”というものが貴国皇帝に渡される描写がありまスな』
「ええ」
『もうお分かりかと思うが、このアンプルと共通性が高い』
「そのようですね……で、そのアンプルの中身は何だったのでしょう」
『ハイ、残留物から分析するに、異種族間婚姻薬のアンプルです』
「い、異種族間婚姻薬?」
その言葉を聞いて柏木はハっとする。
「フェル! それってこの間、田中さんの件で言っていた」
『ハイ、そうでス。あの異種族間で婚姻する際、イゼイラ人から見て、異種族のフリュに飲んでもらうナノマシン型薬品の、投薬型のものですネ』
サイヴァルは、この会話に任せるように、フェルに話をさせる。
「だよな、でも……フリュ用の薬品をデルンに飲ますってか……」
『イエ、その薬は、別にデルンが飲んでも、効果は同じなのです……まぁただ……イゼイラ人フリュは、その……モニョモニョ……』
「あぁあぁ、いいよいいよ、言いにくいなら……まぁその話はいいから、この婚姻薬とかいうのを投与すると、具体的にどうなるの?」
『ハイ……その……マサトサンと私の将来の事でもありますので……よく聞いてくださいね』
「あ、ああ……なんか深刻そうだな……」
『え? イエ……深刻ではないのですが……あ、デモ……チキュウジンサンにはちょっと覚悟がいるかナ?……』
「?」
『エットですね……そのオクスリを、飲むなり、投薬するなりすると……体細胞の一部がイゼイラ人化シマス……』
しばし間をおいて……顔を前に突き出し
「ええっ!?」
と驚く。
『生殖機能と、体細胞の機能がイゼイラ人と同様に作り変えられる擬似ウィスル型のナノマシンなのデス……』
「え? じゃ、じゃぁ……その薬を投薬されると……体の構造をイゼイラ人に作り替えられちゃうわけ?」
『イエ、そういうわけではアリマセンが、体細胞機能にイゼイラ人の因子が付加されるので、異種族間でも子をもうけることができます。そして……』
「……」
『寿命と新陳代謝が、イゼイラ人と同等になるのでス』
えっ! と驚く日本勢……
ウソッ! と驚く柏木大使……
白木が思わずフェルに尋ねる。
「じ、じゃぁ……柏木とフェルフェリアさんが結婚して、子供を作るとなったら……その……この薬と同じ効果のなんだかわかんねー事やって……柏木も寿命が200歳ぐらいになるってわけですか!?」
『ハイ、ケラー・シラキ』
驚くとともに、納得な日本勢……確かに不死まではいかなくとも、老いにくく、長寿になる薬ではある……
「なるほどな……そういう事か……確かに竹取物語と類似性のある薬品だ……」
「い、いや柏木、ナニ素直に納得してんだよ……お前の事でもあるんだぞ……」
白木が思わず突っ込む。
「ハハハ……まぁ、その辺はあとでフェルと話すよ……言ったろ? 俺は彼女に責任を持つって……まぁ、ある程度は予想してはいたよ。心配するな」
「お、おう……」
柏木はフェルに「心配するな」という目をする。
フェルも、それを見て……もう夫婦なので、焦りもしない。
シエとマリヘイルもお互い顔を見合わせて「心配ない」という表情で頷き合っている。
二藤部も少々困惑顔ながらも
「まぁ……その件はお二人で後程話し合ってもらうとして……議長、他には何か……」
『ええ、あとは……そのカグヤヒメが「罪を犯した」というくだりでしょうカ……』
「はぁ……このくだり……ですか……」
『エエ……この部分でも、思い当たるところがありまス』
そういうと、サイヴァルはVMCモニターを造成し、何やらアッシリア文字風のイゼイラ文字がびっしり書かれた文書データを表示させる。
『このデータなのですが……』
「はい」
『これは、我が国で“エルバイラの記録”と呼ばれているものです。その内容は、ナヨクァラグヤ帝の前の皇帝、つまりナヨクァラグヤ帝のファルンにあたる人物が記した……まぁ、手記のようなものですな……』
この手記には、前皇帝が記したナヨクァラグヤ帝の記述があるという。
そこに書かれるナヨクァラグヤの素顔というものは、意外なものであった……無論、これはイゼイラでも教育機関で誰しもが習うことで、特に特別な記録というわけではない。
ただ、そこに書かれる記録は意外に泥臭いもので、まぁ言ってみればどんな世界でも権力というものがある限り、必ず存在する……ある意味国家としては普通のことが書かれてあったそうだ。
『これハ、ある意味我が国の歴史としてはお恥ずかしい部分をお見せすることになるのですが……共和制以前の帝政国家時代、我が国、国民は平和な時を謳歌しておりました』
「はい。それは我々もそう聞き及んでおります」
サイヴァルが語るには、確かに、それは事実だという。実際、国民に対する弾圧や圧政というものはなかった。
しかし、イゼイラは選挙君主制国家であった。ために、やはり貴族間の権力闘争、派閥争いのようなものはあったという。
そういう状況で、特に帝位第一継承権者の家系であるヘイル家は、継承権者の中でも、トーラル文明発見前の、危機的状況であった頃の、皇帝一族の意思を色濃く受け継ぐ家系で、知識を貴び、科学の探求を旨とする家系であった。
実際、ヘイル家出身者は学業に秀でた者が多く、貴族でありながら科学者として活躍するものも多くいたらしい。当時の皇女ナヨクァラグヤもそんな一人で、地球人年齢にして32歳、対比外見年齢16歳にして、飛び級でイゼイラの最高科学院を修了していたという。
当時トーラル文化の恩恵を受け、イゼイラも安定期を迎え、良い意味でも悪い意味でも天下泰平な時期を迎えていたイゼイラでは、安定期に入ってしまったがゆえにトーラル技術の恩恵に甘んじてしまい、探求進歩が停滞してしまった時期があった。
丁度その頃が、件の精死病の患者が増え始めた時期と合致するという。
そして、ナヨクァラグヤはその状況に危機感を覚えていた。
しかし、当時のイゼイラでは、安定した現状を維持したい、所謂『現状維持派』が大勢を占め、ナヨクァラグヤが訴える危機感は、世を混乱させるだけとして、当時の貴族達からは相当疎まれ、無視されていた。
彼女は年齢が若かったこともあり、結局は疎まれ、現状維持派貴族を支持する元老院議員達にも結託され、中央から離されるような政務ばかりを押し付けられていたという。
そんなある時、それでも腐らずに政務に精を出していたナヨクァラグヤに致命的な危機が訪れる……
それは……
『どうも記録では、ナヨクァラグヤは、精死病を発症したらしいのです』
サイヴァルはいまいちはっきりしないイントネーションでそう言う。
柏木はその事をつっこむように
「え?……した『らしい』ですか?……イゼイラほどの国の過去情報としては、えらく曖昧ですね」
『ええ、まぁ、そのあたりは貴族の『体裁』なのでしょうな……もしこの事が知れたら皇族の威信にもかかわりますし、現状維持派の貴族もナヨクァラグヤが必死で訴えていた危機が彼女自身に降りかかったわけですから、その事実を無かったことにしたかったのでしょう……』
「なるほど……」
フェルもサイヴァルの言葉に横でウンウンと頷いている。
まぁ1000年も前のご先祖の話であるからして、そこのところは情緒的に聞いても仕方がない。
日本陣営も、イゼイラ陣営も、そのあたりは実務的だ。
……サイヴァルは話を続ける。
当然、当時の皇帝は、愛する愛娘である皇女が、かような状況になり嘆き悲しみ、皇帝としての政務をそっちのけにしてまでティエルクマスカ連合じゅうの医療機関を回り、なんとか治療法がないか、皇帝自らかけずり回ったという……まぁこのあたりは最高権力者のなせる技だろう。地球の歴史でもないわけではない。それどころか、地球じゃついこの間の話で、鉄の女で有名な首相が、自分のバカ息子が行方不明になったのを探索させるためにフランス軍を動かしたのは有名な話。
そんな時、ある国の医療機関に向かっていた皇帝の乗った宇宙船が、ディルフィルドゲート航行中に事故にあったという。
これも詳細な状況は記録にのこっていないそうなのだが、かなり危機的な事故だったそうだ。
現在の研究では、現状維持派の暗殺テロではないかともいわれているが、そのあたりは現在ではもうわからないらしい。
まぁとにかく、そんな危機的状況で、ゲート亜空間内で、脱出ポッドで脱出。亜空間内で脱出ポッドを使うとは、かなり危険な行為であるが、座して死するよりマシということで、そうしたらしい。
とにかく脱出できるものは脱出しろとばかりに船長が命令し、人員確認もそっちのけで逃げれるものは逃げたため、皇帝とナヨクァラグヤの生命維持カプセルも離れ離れになってしまった。
当然、その生命維持カプセルも、無造作にポッドで射出されたが、もうそれ以降は運を天にまかせるしかないような状況だったという。
それだけ危機的な状況だったそうだ。
ゲート経験者の柏木は、そのところにも驚く。
「あ、あの亜空間の中をポッドで脱出ですか! 無茶しますね!」
すると三島が
「先生、その亜空間とかいう所、そんなにひどいのかい?」
「ひどいというか……どう表現すればいいか難しいですが……例えるなら、ハリケーンカトリーヌ真っ只中の大海原に、カッターボートで逃げ出すようなものですよ……」
「うお……本当かよ……無茶するなぁ……」
口をとがらせて驚く三島。他の日本勢も同じ感じ。
しかし……とサイヴァルがフォロー
『それでモ、何もしないよりはずっとマシな行為ですヨ。我が国の脱出ポッドであれば、亜空間内でもシールド効果のおかげで、なんとか生命を維持できる可能性は大いにあります……が……実際には、当時のクルーは、かなりの数が行方不明になりました。当時の船長は脱出できずに船と運命を共にしたそうです』
……しかし、皇帝と一部クルーはなんとか命を拾い、イゼイラからの救助部隊に救われたという……が……ナヨクァラグヤの生命維持ポッドは行方不明。当然、精死病状態であるからして、バイタル信号も追えず、死亡扱いにされたという……当然、そのことは皇帝にも報告された。皇帝は愛娘の行方不明に、相当落胆したと言われている……
それから幾周期かの後、当時のイゼイラ的にも、想像を絶するはるか彼方の宇宙からナヨクァラグヤのSOSバイタルと生命反応が量子信号で確認されたという。
当時の皇帝は、すっかり死んだとあきらめていた愛娘のその情報に狂喜し、救出部隊を結成させ、その信号の発する宙域へ向かわせたという。
そして、かなりの長い航海の後、救出部隊が到着したのが……
「地球……だったと?」
二藤部が、その想像もつかないイゼイラの過去史を聞いて、息をのんでつぶやくように尋ねた……
何か、内容が「映画化決定」な内容で、思わず夢中になっている自分に気づく。
しかしサイヴァルは……
『それが……そういうところも現状維持派の工作なのでしょうネ、その点の記録も曖昧で……記録上では、わからなかったのですヨ』
「……」
何度もコクコクと頷く二藤部。
サイヴァルは続ける……
そして、ハルマと名付けた惑星に到着した部隊は、その星の列島型地域に住む原住民に助けられていたナヨクァラグヤを発見する。
救助部隊は、精死病を患っていたナヨクァラグヤが、まるで何事もなかったかのようにピンピンし、しかも絶世の美女となり成人していた姿に驚愕したという。
そして、ナヨクァラグヤは、その原始的な文明しか持たない原住民の長に保護されていたらしく、服装も、その原住民の女性用衣装を身に着けていたという。
しかし、問題だったのは、その救助部隊の指揮官や構成員の中には、相当数の現状維持派の連中が入り込んでおり、当時のハルマ、そして、後にヤルマルティアと呼ばれるその国の住民にも相当横柄な態度で臨んだらしく、一時は戦闘寸前のところまでいたっという……まぁあくまで状況的にそうなったというだけの事で、イゼイラ人からすれば、そのヤルマルティア人の部隊など、取るに足らなかったものではあったのだが……
その状況を見たナヨクァラグヤは、イゼイラに帰還することに相当抵抗し、拒んだそうなのだが、皇帝の絶対的な命令もあってので、半ば強制的に連れ帰ったそうだ。
そして、イゼイラに帰還後のナヨクァラグヤは、ヤルマルティアに戻るといって聞かなかったそうで、かなり皇帝を困らせたという。
それもそのはずで、皇帝の手記では……
『どうも……ヤルマルティアの長と……保護してくれた原住民に、相当に情が移っていたようですな……そういう風に書かれています』
日本勢……もう身を乗り出してサイヴァルの話に聞き入る。
柏木も右に同じ。
二藤部や三島も同じ感じ。
『それと……自分がヤルマルティアで原住民から発見された状況的に、精死病にかかっていたということを知ったナヨクァラグヤは、なぜ生還できたか、かなり驚いていたようで、ヤルマルティアの何か、もしくはそこに至るまでの何かに原因があるのではと考えたようで、そこでかなりの研究もしていたようです』
「では……生命維持ポッドに搭載されていたイゼイラのツールの何かしらかは使用できた……という感じなのですね?」
『ハイ、ファーダ大使。そういう事ですネ……現在の規格とほぼ同じだったでしょうから……小型のハイクァーン造成機である、ハイクォート、バイタル信号が感知できたわけですのデ、ゼルクォート……アトは……生命維持装置に装備されている、医療特化型のハイクァーン医療システム……そんなところでしょうか』
なるほど……と頷く柏木。
『そして、その後、皇帝は崩御しましタ。ナヨクァラグヤ皇女は、あの事故でも生還し、絶世の美しいフリュということもあって、当時、国民にも絶大な人気がありましタ。当然、皇帝選挙でも元老院は、国民の批判を恐れて、現状維持派を見限り、ナヨクァラグヤ皇女に投票し、そのあとはご存知の通り、『女帝ナヨクァラグヤ』が誕生しまス』
……自らの、ヤルマルティアでの体験と、政権中央から情報統制されていたという彼女自身が精死病にかかっていたことを国民に公表し、その治療法研究を名目に積極的に政治改革と技術探索改革を進めていくナヨクァラグヤに対し、現状維持派はその失脚を目論み、その政治改革と、技術探索改革を阻もうとするが、後にナヨクァラグヤはティエルクマスカ世界の今後を憂いて、その政治改革と技術探索改革を進めるために、件の『帝政解体令』を交付し、帝国を共和制に移行。現状に至るのだと……
『その、タケトリモノガタリの、カグヤヒメが罪人と表現されている一節で、我々が想起できるものが、この“エルバイラの記録”に記されてるこの話です。少々我が国の歴史を交えてお話させていただきましたが……』
二藤部が腕を組んで唸りながら話す……
「なるほど、そのお話単体でお聞きすると、まぁ、イゼイラの壮大な歴史ということで終わってしまいそうな内容ですが……」
その言葉に続いて春日が……
「あの陛下の贈答物ですからね……これは……」
「現状維持派が、迎えに来た……ですか? それを当時の日本人が見れば……」と真壁。
「そう見えても仕方がないですか?……う~む」と白木。
「竹取物語と、そのエルバイラ、ですか? その話がリンクしてしまったら……」と多川。
「まぁ……陛下の贈答物で、もう日本がヤルマルティアは決定なわけですから……」と加藤。
「ええ、それと竹取物語との類似点ですね……もう決定ですな、これは……」と久留米。
すると、今までずっと黙して聞いていた新見が……
「先ほど総理が仰った、『お伽話や昔話は、事実を含むデマと同じものだ』というお話ですが……」
「ええ」
「一度、宮内庁にこの件を私が問い合わせてみましょう。そして……総理は一度、陛下とお話をしてみたほうがよろしいのでは?」
そう新見が提案すると二藤部も、意を決したように
「わかりました……それしかないようですね……お願いできますか? 新見さん」
「かしこまりました……白木君」
「はい」
「関係各所への根回し……頼めるかな?」
「ええ、任せて下さい」
その後、竹取物語と、エルバイラの記録との相関性は、両国の研究機関に持ち帰り、精査するということで、とりあえずの決着を着ける……まぁ、正直この緊急会談の場で、完全な結論を出すにはあまりに重すぎる課題だったからだ。
そして、下手をすれば……いや、もう既に日本の国体や歴史を完全に塗り替えてしまうような事案にまで発展してしまっている。
当然、国民や世界に対する公表のタイミングの問題もある。
二藤部達は、竹取物語という物の真相はどうあれ、なぜに彼らが日本という国を、これほどまでに重要視するのか……この会談で十分すぎるほど理解はできた。
ただ……最後の一つが残されている。
二藤部は落ち着いた口調で、その疑問をサイヴァルに話す……
「サイヴァル議長閣下……」
『はい』
「貴国の、現在まで『機密』としていた日本に対する対応についてですが、今会談でほぼすべて我々も理解できました。その点では、私たちも充分な回答を得ることができたと考えます……これに関しては、最大の謝辞を述べさせていただきたい」
『イエ、当方としても、これらの事案を隠したままでも、貴国が、これまでのかような対応をしていただいたこと、感謝の念に堪えません』
そういうとサイヴァルは軽く頭を下げる。
二藤部もそれに応えて、頭を垂れる。
「まぁ……そのナヨクァラグヤ帝の事実ですが……こればかりは早々に、件の『竹取物語』とイコールに話すことはできないと思われますが……まぁ、我が国の今上陛下が贈られた、その品物という歴史としての証拠があるかぎり……ハハハ、なんと申しましょうか、遠い過去に貴国と我が国に接点があったのは確実と申して良いでしょう……で、今からお尋ねしたいのはここからなのですが……なぜに貴国は再びこの地球……そしてあなた方が“ヤルマルティア”と呼ばれるこの国に再来なされたのですか?」
『……』
そう、このたびのイゼイラ人やティエルクマスカが地球にやってきた最大の疑問点である。
もし、文明か何かの『調査だ』というのであれば、むしろその通り『調査です』といえば良いだけの話である。
今まで話してきたこと……そのすべてを、ここまで深い事情で隠す必要もない。むしろ正直にゲロって、好きなだけ調査をして、とっととお帰り頂いても良いくらいのものだ。
わざわざ高度な技術を譲渡し、領土を租借してもらって、その国のフリンゼさんが、37のオッサンとデキて、結婚してしまうまで居座る意味があるとは思えないのだ……
このことは、二藤部に限らず、三島や柏木、その他全員が思う疑問でもある。
現在は、ここまで現実的に交流が進んで、非常にヤルバーン自治体と良い関係になってしまっているので『まぁいっか』な状態になっているだけの話である。
『はい……その理由ですが……実ハ、ナヨクァラグヤ帝、いや、当時はもうただの一市民ですから、イゼイラ共和国的には、フリンゼ・ナヨクァラグヤというべきでしょうか? その彼女が逝去後、当時の国民や政治家から彼女は『創造主』として奉られるわけですが……』
「はい、そのお話は、柏木大使より報告は受けております。確か……その信奉者はイゼイラ国民の85パーセントに及ぶとか」
すると、マリヘイルが割って入って捕捉し……
『イゼイラ人だけではありませン。私たちパーミラ人や、カイラス人、ダストール人にも、信奉者は少なからずいまス』
サンサが柏木に話したことを、彼は当然報告書に書いていた。
サイヴァルは、マリヘイルの言葉を肯定しつつ
『これは、フリンゼ・ナヨクァラグヤが皇帝でありながら、懸命に共和制移行へ奔走した理由とも関連するかもしれないのですが……彼女はヤルマルティアで過ごした長い間に、そこで何かを色々と学んだようなのですね。そして、我が国が、先ほどお話した現実的な危機が将来的にあることを予見していたこと……それらが帝政解体を行った根底にあるのではないかといわれていますが……』
「その理由はわからないのでしょうか?」
『残念ながら……この件については当時の側近らにもあまり話さなかったようですな……実はその点の記録があまりないのですが……まぁ、そういう事もあっての事なのでしょうが、それで我が国の政体を国民に盛大に戻したという点と、何より今現在でもそうですが、それを後にも先にも初めて『精死病から生還した人物』であるフリンゼ・ナヨクァラグヤ自身が成し得たということで、その壮絶な人生の物語とともに、我が国ではそれは他の創造主とは別格の扱いを受けております。しかも我々の記録で知る事のできる最も近い人物ですからな……』
その話を聞いて、柏木はフェルに目を向け……
「それでフェルが……生き神様扱いされているわけか……」
『ハイ……ソウなのですよ、マサトサン……』
「じゃぁ、フェルがヤルバーンに乗って自ら日本行きを希望したのも……」
『ハイ、マァ、そういう国民のミナサマの目から離れたかった……というのも個人的には、正直言うとありますが、それ以上に、ナヨクァラグヤの始祖名を持つものとして、ヤルマルティアが、チキュウのニホン国であるのか、それが本当なのかを自ら確認したい意味もありましタ』
柏木はなるほどと頷くと、今度はサイヴァルに目線を戻し
「しかし議長閣下……そうなると、貴国文化では『宗教』の概念はないと以前フェルからお聞きしたことがありますが……そこまで『固有』の『創造主』を信奉するものがいるとなると……完全に我々の言う『宗教』の概念ですよね、それって……」
『ハイ、そうかもしれませんね……まぁただ、チキュウのシュウキョウのような……こういう言い方は失礼を承知で申し上げますが、いるかいないかわからない存在の『概念』を信奉しているわけではないので、そこまでのものではないのかもしれませんが……』
そう言うと、サイヴァルは少し間を置いて隣のマリヘイルと何か小声で少し会話したあと、意を決したように……
『ファーダ・ニトベ……』
「はい、なんでしょう」
『まぁ、こういう今までお話しした経緯もありまして……我々としても、ニホン国が、エルバイラ記のヤルマルティアと、まず間違いなく確定出来たと認識できました……そこで貴国に要望したいことがあるのですが……』
「はい、我が国にできることであれば、可能な限りご協力いたします。どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい」
『ハイ、では……』
サイヴァルは、しばし間を置いて……
『貴国を、我が国が正式に法で定める……『 聖 地 』として、認定させていただきたい……』
「ほえ?」となる日本勢のみなさん。
「な、なな、なんですか?」とばかりに、首を傾げる。
『これが、我が国が貴国……日本国へ訪問した理由なのです。もし了承いただければ、我が国議会へかけ、正式に法の元に認められ、そして、ティエルクマスカ議会へも報告し、了承される手はずとなっております』
マリヘイルもコクコクと笑顔で頷いている。
各国議員への根回しも済んで、いつでもどうぞという状態であるそうだ。
サイヴァルは話す。
イゼイラや、ティエルクマスカ各国では、最近頓に増加傾向にある精死病に打つ手がなく、結局1000年前のナヨクァラグヤ時代にも、なぜナヨクァラグヤが精死病から生還できたのかも解明できなかったという。
その国民の不安というものは、日に日に高まってきている。そして、現在のティエルクマスカ世界の出生率の低下も問題だと。
そして、精死病もさることながら、ティエルクマスカ世界が失っている発展の歴史を持つ地球はそれでなくても自分達には貴重な存在そのものだと。
『そこに、フリンゼ・フェルフェリアと、ファーダ・カシワギとの御婚姻のお話です。ファーダ・カシワギも、あの宇宙港での様子をご覧になりましたでしょう?』
「ええ、まぁ……」
柏木はあの時、空港の大衆からひざを折られて敬礼されたのを思い出す。
あの時は、大使とはいえ、自分に一体なにをしているんだと疑問に感じたのを思い出す。
『ファーダ・ニトベ。そういう訳で、我が国国民、そして、ティエルクマスカ世界では、貴国の存在は、古くより特別なものなのです……この、我々連合の『ニホン国聖地認定法』とでも申しましょうか、それによって、貴国に何かの内政干渉を行うなどといったそういうものではありません。ただこれは我々の問題として、わが国民に精神的にも、文化、文明的にも希望と、その拠り所を与えてやりたい……そういう考えの元の提案なのです。ご検討いただけませんか?』
「は、はぁ……しかし……う~ん……」
サイヴァルは、科学技術、文化、そしてイゼイラのナヨクァラグヤ伝記に基づく諸々の事由で、日本がヤルマルティアであると確認できれば、そういう形でティエルクマスカ世界の聖地にしたいと。それが……
……彼らが日本へ5千万光年という途方もない距離をやってきた目的なのだと……
あまりに意外で、予想外も予想外なその理由……日本、いや、地球の外交史にも、前例がなさすぎる事例。
確かに、地球ではバチカンやエルサレムのような特定の信仰における聖地のようなものはあるにはある。バチカンにいたっては、その信仰そのものが一つの国になっている。
しかし、これでもどこかの一国が、『あの国はウチの聖地』などと法で他の主権国家を聖地として規定しているようなものではない。
普通に聞けば、それは内政干渉以外の何物でもないように捉えられてしまう。
しかし……どこかの国が勝手に法で『聖地』と認定してしまうのを、日本がどうこういう訳にもいかない。
他国の主権を尊重しつつ、法で聖地認定を勝手にそこがするなら、別に何も問題はない。
しかも『場所』だけではなく、その国に住む人々も含めたものだ。
日本的には、まぁ言ってみれば名誉なことだが、それがそういう『認識』だけですむならまだしも、5千万光年彼方の、銀河領域10分の1を領有する連合国家と、その構成主要大国の一国から『法で制定しまス』といわれちゃ、どーすんのと……
サイヴァルは、更に……
確かに、日本を聖地として認定すること自体は、イゼイラやティエルクマスカの勝手でそれはできるという。しかしそれでは今まで日本と共に育ててきた外交関係に弊害が生じる可能性があると。
できれば、日本国政府にイゼイラやティエルクマスカのその意思を、認めてもらるような国家的な言質が欲しいのだ……と語った……
「つ、つまり……日本政府的には、その件で、なんらかの決議を国会でしてほしいという理解になっちまうわな……」
三島が手を頭に当てて、困惑顔で話す。
「え、ええ……そうですね……う~む……」
二藤部も少々困惑顔だ。
その、予想以上に困惑する姿を見たサイヴァルとマリヘイルも困惑する。
『ア、あの……ファーダ・ニトベ……我々の要望ですが、そんなに困惑するほどの物なのでしょうか……』
マリヘイルが思わず尋ねる。
「は、はい……そうですね……かなり……」
『え? なぜですか?』
「貴国のその考え方ですが、おそらく我が国では、ほぼ間違いなく『宗教的概念』と捉えられてしまうでしょう……」
『それが何か問題なのでしょうか……』
マリヘイルがそういうと、困惑する日本陣営の中で一人冷静に推移を見守っていた新見が、話の中に入る。
「マリヘイル閣下、実は日本国では、『政教分離』と申しまして、法で宗教的概念を国政に持ち込むことを厳格に禁止しているのです」
『そ、そうなのですか?』
「はい……我々はあなた方の文化に、特定の宗教や、教義の概念がないということは存じておりますし、理解もしております。ただ……その『聖地』という概念を持ち出されてしまいますと、特定の地域や場所を『崇拝』する概念ですな……それが発生するので、明確に宗教と捉えられてしまいます」
その新見の言葉の後に、二藤部が続く。
「そうですね……我が国では、宗教的概念を政治に持ち込むことを厳格に禁止しています。なんせ政治家が、かつての戦争でなくなった人々を祀る特定の宗教的施設へ赴く事すら、反感をかうようなぐらいですから……私もそれを行って、えらく批判をされました……我が国ではとにかく難しいのですよ……おそらく……そのご要望はご期待に添えそうにありません……」
二藤部はその他、日本の政治には、そういった政教分離があるため、政治には直接関与しないものの、かような宗教組織が援助し、政党を作って、間接的に特定の宗教組織が政党を介して国政に絡んでくるため、そのような政党の反発は必至であり、また、それ以上に日本に存在する数多くの宗教団体の反発を食らうことは間違いないと。
しかも、共産主義を掲げる政党は、そういった宗教概念そのものを否定しているので、ティエルクマスカを完璧な共産主義と思い込んでいる連中は、裏切られたと勝手に妄想する可能性があり、後々厄介だと。
従って、そういった特定の国家が日本を聖地として認めるような決議を、肯定可決するようなことは事実上不可能だと説明した……
『そうですか……』
マリヘイルはとても残念そうな顔をする。
サイヴァルも右に同じ。
シエや、ヴェルデオも同じような感じ。
そして……フェルも、ものすごく残念そうな顔をしている。
しばし沈痛な雰囲気……
柏木は思わずその雰囲気に耐え切れず、話に入る。
「あ、あの……ちょっと疑問があるのですが……その……我が国が貴国の聖地認定を認めることが、そこまで重要なことなのですか?」
するとフェルが……
『マサトサン……』
「ん?」
『昨日、あのトーラル遺跡でもお話しましたガ、私たちはトーラルのおかげで、かように物質的には恵まれた文明を築いてきました。しかし、その過程は、マサトサンが言ったように、やはり極めて歪なのです……それは、私たちのような政治家や科学者はよく理解しています……やはり『進歩』とは、精神や、哲学を伴った結果の『科学』でなければ、どうしてもどこかで弊害を生みます……』
フェルは、自分たちはトーラル発見前まで、知的生命体でありつつも、それは単に生き抜くために知恵を振り絞ったわけであって、地球人のようなバランスの取れた発展の歴史ではないという。
今回、精死病の深刻化や、出生率の低下、それに伴う国内のゆっくりとした不安の拡大。
地球人は、そういうものを解決する意志を『希望』に求めるが、彼らにはそれがもうないのだと。
トーラル遺跡の発見が、しいていえばそれに当たるが、それも今や奇跡や救世主ではなく、進んだ科学と認識できている彼らには、もう普通の事で、希望と呼べるものではないのだと。
『……ですので、私たちは、私のご先祖がもたらした精死病を克服し、遠いこの国から生還した『奇跡』を『希望』にしてやりたいと、そう思っているのです……私たちには、それは大変、大変、重要な事なのですヨ、マサトサン……』
地球人にとって、宗教とは信仰の対象である。
死んだあと、死後の世界で天国極楽に行けるか、そういった死後の世界や、自分たちを苦しみから解放してくれる超自然的な存在の有るところ……おおよそそんなイメージなのだろう。
それは時に、過去の貧しい人々の精神を安定させる働きを持っていたり、人間同士の信用を仲介をするためであったり、いろんな役目を果たしてきた。
地球世界で宗教とは……遠い過去の時代は、ある意味『倫理』であり『規範』であり『法』であったわけだ。ある意味、すべての人々の行動の基準ともいえる根源が宗教ともいえる。
そして、科学とは、常に宗教概念との対立と、選別と、分離の歴史でもあった。
時に科学自体が宗教化される時すらある。
ティエルクマスカの文化を見ていると、ある意味、そういう一見、滑稽に見える地球人の文化のありようのほうが、正常に見えるのだ。
柏木はそのことを今、痛感させられていた。
なぜなら、柏木は彼らの悩みを、イマイチ深刻に受け取ることができなかったからだ。
しかし、フェルに言われてみて、改めて理解した……
地球人や、日本人が持っている当たり前のこと、概念、文化が、彼らには『 な い 』
おそらくヤルバーンが地球に飛来し、発達過程文明の日本に見たものは、彼らのもっとも今、欲するそういった事だったのだろうと……
そして、そのきっかけが、たまたま……ナヨクァラグヤであり、『竹取物語』であっただけの話なのだ、と……
二人の会話を見守っていた白木が、柏木に話しかける。
「なぁ柏木……何か良い方法はねーのか?」
「ハハ……なんか毎度このパターンだな」
「お前はそういうお星さまの下に生まれてきてるんだよ」
「なんだそりゃ……しかしなぁ……」
今回ばかりは不可能案件だとあきらめかけている柏木。
なんせ、この話をどうこうしようにも、日本では法もあるし、法以前に世論の問題もある。
「……でさ、こればっかりは日本だけの問題では済まんだろ……」
そういうと大見がそれに同意する。
「ああ、確かにな……日本を特定の国家が聖地として認識するだけでも、相当問題が出る。しかも日本が仮にそれに同意して、国で採決したとなれば……また世界から吊し上げを食らうぞ……おまけにその国がティエルクマスカ連合ほどの超巨大国家連合体なら、なおさらだ……」
とはいえ……みんなこの申し出を拒否したいわけではない。
仮にどういう方法であれ、この提案をクリアできれば……日本とイゼイラやティエルクマスカの連携は、強固かつ、確固たるものになる。日本の国益にとって、これほど素晴らしいことはない。
これによって、日本が抱える問題も色々と解決できる道筋がみえるのも確かだ……迷惑な申し出ではない。むしろ有益な申し出なのだ。
ただ、そのハードルが無茶苦茶高いだけである……
「総理……」
「なんでしょう、柏木さん」
「これは、早々にどうこうできる話じゃないです。持ち帰っての検討案件ですね……」
「そうですねぇ……」と二藤部は頬をポリポリとかきながら……「さすがにこの場で何か方針や結果を出せるようなものではないですね……何か良い方法を考えてみましょうか……」
そういうと、サイヴァル達は「えっ!」というような顔をし二藤部に……
『エッ!……拒否……では、ないのですか?……』
「え? あ、はい……きわめて難しい案件ではありますが……宗教的でないような方法で、何かできないかとか、まぁそういった方向性で検討することは可能です。その際は、貴国にも少々ご協力いただくこともあろうかとは思いますが……」
そういうと、沈んでいたイゼイラ陣営の顔が、パァっと途端に明るくなる。
三島も、その話に続き……
「貴国のこの提案で、唯一の救いなのは、貴国に我々が認識する『宗教』の概念が、それほどないということなんですよ……まぁ、お恥ずかしい話、地球じゃ、その宗教ってのは、どうしても盲信的になりやすい事でしてな、かくいう私もキリスト教徒なので、そこんとこは良くわかるのですが……えてして宗教っつー奴は『理屈じゃない』ってのがどうしてもありましてな。ここが貴国の提案を妨げる大きな問題点になるところなんですわ……なんせ、地球世界じゃ、2000年も前の、いたかいないか、あったかないかわかんねーような伝説を背景にして、未だに殺し合いをやっているようなところもありますんでね……まぁそういう点、おたくらの言い分には『理屈』がある。筋がある……なので、なんとかできんこともないと思いますよ」
いつもの口調で話す三島。
「ええ、三島先生のおっしゃる通りです。なので、これはお互い少し時間をかけて解決していきましょう。それに協力しあわなければならないのは、これだけではありませんしね」
『ハイ、ファーダ・ニトベ……マリヘイル、君もそれでいいな?』
『ええ、サイヴァル。まだ先はありますわね、この件は、ワタクシの方からも議会に説明しておきましょう』
『ああ……』
頷くサイヴァル。
どことなくホっと一安心な雰囲気。
……そして会談は終了する。
今後も定期的にこういった会合を持つことで合意。
ナヨクァラグヤの諸々の件も、二藤部が宮内庁、そして可能であれば陛下に話をお聞きしてみるということで決着する。
あと、シエとゼルエとヴェルデオからの提案で、総理官邸とイゼイラ議長府にホットライン回線を開設することで合意。これで何かあれば、ヤルバーン経由でサイヴァルとも色々と話ができるようになった。
『フゥ……こちらからのお願いでの、緊急の会談ではありましたガ、非常に有意義な会談でしタ』
サイヴァルが満足げな表情で語る。
『そうですね……今回はオブザーバーのような形で加わらせていただきましたが、ヤルマ……いえ、ニホンという国と国民の方々が如何様な方々か、よくわかりました』
マリヘイルも、出席して良かったという表情だ。
『ファーダ・ニトベ……』
「はい」
『もし、貴方が、貴国の皇帝陛下とお会いする際には、くれぐれもよろしくお伝えくださいますよう、お願い申し上げます』
「もちろんですサイヴァル議長……しかし……ハハ、どう切り出したらいいか、今から緊張して夜も寝れそうにないですよ」
『それはいけませんな……ハハハ、なら、我が国の睡眠カプセルをお送りしましょうか?』
それがいいとスタッフから茶化される二藤部。
などと、少々時間も余ったので、そんな雰囲気で会話をしつつ……
『フム……やはり機会があれば、一度ニホンへ私も行きたいですな……』
そういうとマリヘイルも
『ア、その際は、わたくしも……』
『うむ、本場のカレーライスというものも、食べてみたいし……』
二藤部も社交的な感じで
「はい、その際は、ぜひとも。日本で最もおいしいカレーライスのお店を紹介いたしますよ」
『おお、それは素晴らしい、その際はぜひとも』
サイヴァルは礼を言う……しかしマリヘイルはちょっと本気モードなようであった。
最後に三島が……
「ところで、議長閣下」
『はい、なんでしょうファーダ・ミシマ』
「そのナヨクァラグヤ帝の、ご尊顔って感じの、まぁ地球で言えば肖像写真のようなものは、残っていないのですかな?」
『ああ、そういうことですか、はい。ありますよ』
おおっとなる日本勢。ぜひ拝顔したいと頼み込む。
サイヴァルは、チョチョイと自分のPVMVGをいじると、その肖像画が映し出された……
「こ、こりゃぁ……」と三島。
「う、美しい方ですね……」と二藤部。
「しかし……やっぱフェルにも面影があるな……」と柏木。
「ええ、似ていますね、確かに……肌の色が違いますが……」と春日。
「ってか、これ、日本に持ち帰ったら、特級の重要文化財だぞ……」と白木。
「重文どころか、世界遺産級だな……」と大見。
「これは……天人伝説ができるのも頷けますね……」と新見。どうもタイプのようだ……
「これは確かに、当時の貴族連中はほっときませんわな……」と久留米。
「でも、当時の日本人は、ポッチャリ型が好みなのでは?」と加藤。
「この容姿はそんなの関係ないでしょう」と多川。
「1000年女帝ですか……なんかありましたな、そんなの……」と真壁。
ほー、と見とれる日本勢。
そしてみんなの視線がフェルに集まる……ウンウンと納得顔。
更に、その視線は、柏木に……
「なな! なんですかみなさん! その殺視線はっ!」
そんなアホな構図に、イゼイラ陣は爆笑のご様子。
……ナヨクァラグヤのそのご尊顔。
年齢は、今のフェルより、ちょいと上、シエと同い年ぐらいか?
地球人年齢からすると、26、27、28ぐらいの頃のようだ。
容姿は、確かにフェルに似ている。その面影はやっぱりあった。
ただ、変異種のようで、肌の色は、ポルのように真っ白。目の色は、濃い藍色、唇はピンク。
ポルと違う点は、羽髪などの毛の部分のみ、南国の色彩豊かな青い鳥のように、水色を基調とした色とりどりの模様で彩られた羽髪をしている。
「確かにこれで、十二単なんか着てたら、栄えるよなぁ……」
ポロリと漏らす柏木。みんなウンウンと頷く。
フェルもその言葉に、今度そのじゅうにナントカを着てみたいと思ったり思わなかったり。
「あ、そうだ……議長閣下」
柏木が思い出したように尋ねる。
『ん? なんですかな?ファーダ』
「あの……我が国の事を、ヤルマルティアとお呼びになっているようですが……その語源って、どういうものなんですか?」
あの時の疑問を聞いてみる。
『ああ、なるほど……実は、詳細な記録は残っていないのでわからないのですが、エルバイラの記録では、帰国したナヨクァラグヤ皇女が、自分をニホンに戻せと訴えてる際、その時に『ヤマトナントカ』という言葉を連呼していた……という事が記載されていまして、それが語源となっていまス』
その言葉に、どええええ!っとなる日本勢。
「いいい、いや、議長、なんでそんな大事なこと言ってくれないんですかっ!」
『え? え? え? いいい、いや、これがなにか?』
狼狽するサイヴァル……
「いや、日本は、昔ですね……丁度その頃、日本の事を日本人は『大和の国』て言ってたんですよっ!」
『エエエ! そ、そうだったのですかっ!』
「はい!」
せっかく終りかけてた会談……振り出しにもどりそう……
なんともはやである……
………………………………
そして会談は、今度こそ本当に終る……
『デハナ、カシワギ。ニホンへ戻ッテクルノヲタノシミニシテイルゾ』
フェルはサイヴァル達と共に部屋を出て、何か打ち合わせのようだ。
フェルのいぬ間の洗濯とやらで、シエはそういうと、柏木に擦り寄りスリスリモード。
「シエさん……こんなお互い仮想造成物状態でやったって面白くないでしょう……」
『ソウカ? 仮想ダカラ遠慮シナクテイイトイウ事モアルゾ』
「はぁ~……」
柏木もいい加減慣れてきた……
日本勢からジト目で見られる柏木。絶対フェルにチクってやると言わんばかりの視線。
『おいシエ、アホなことやってネーで、そろそろ出るぞ』
『ワカッタ』
『あー、そうそうケラー……あ、今はファーダですかな?』
「ケラーで十分っすよ。なんですか? ゼルエさん」
『ああ、いやな、ケラーが帰国する時、シャルリも一緒に連れてきてやってくれねーカ』
「え、あ、はい……わかりましたけど、もしかして、シャルリさんも?」
『おう、俺が掛け合って、ヤルバーン要員へ配属してもらうように言っといた』
「そうですか、仲間が増えますね」
『ま、そういうこった。身分は、もう知っていると思ウが、防衛総省のままだ』
「え! じゃぁ……」
『ああ、色々考えたんだがな、もうヤルバーンも自治体化してる。やっぱその手の連中も配備しとくべきだろ』
「確かに……で、階級は?」
『三等カーシェル……日本語でいやぁ『ショウサ』か『サンサ』とかいう階級だな。オオミのダンナと同じだよ。昇進させとくように頼んどいた』
「おー、すごいですね……」
『ま、アイツも喜んでるんじゃないか? ま、そういうわけで頼むわ』
「了解です」
そんな感じで部屋から消えていくシエ達。
「柏木」
「おう、オーちゃん。白木は?」
「ま、ああいう感じだからな、新見さん達と、もう出ていったよ。またメールするってよ」
「そうか、忙しくなるな、外務省も……」
「まぁな…… で、さっきゼルエさんと話していたようだが、なんだ? また誰か来るのか?」
「ああ、そうだ……ちょっと待っててくれ……」
「?」
部屋を一旦出て、誰かを呼びに行く柏木。
しばし待つ大見。
そして……
「オーちゃん、紹介するわ。彼女が今回、俺の護衛役を務めてくれた、シャルリ・サンドゥーラ……えっと……少佐かな?」
『お、もう知ってるのかい大使。うれしいね』
「ええ、さっきゼルエさんからね」
そのシャルリの、600万ドルな姿に、ギョっとする大見……しかし、すぐに姿勢を正し、敬礼。
「私は、日本国陸上自衛隊所属、大見健 三等陸佐であります。はじめてお目にかかります」
『ご丁寧な敬礼感謝するよ。アタシはティエルクマスカ連合防衛総省 今日から……ショウサ? になったシャルリ・サンドゥーラだ。よろしくね』
シャルリもティエルクマスカ敬礼で応じる。
そして、地球式握手。
「で、ですね、シャルリさん、彼が、シエさんと互角でやりあったという御大でございます」
柏木がニタリ顔でシャルリをけしかける。
『おおっ! アンタがかい! これはこれは……防衛総省でも噂になってるよ……これは一度お手合わせ願いたいところだねぇ……どうだい、今からでも……』
「はぁ?! お、おい柏木、お、お前、何言いふらしてるんだ?」
「いんや? 言いふらしてるのは、ゼルエさんじゃねーか? 俺もシャルリさんから聞いたんだぜ? クククククク」
また厄介ごとが増えるかも……と嘆く大見。
そんな感じで、二藤部達とも挨拶を済ませ、件の事案は、柏木帰国後に一度、大々的に検討しようということで、地球勢は全員退出していった……
部屋のパワーが切られ、元の真っ白な何もない部屋に戻る。
その部屋をぐるりと眺め、やはり地球の仲間たちもいいなと改めて感じる。
そして、部屋を出るのだった……
………………………………
太陽系第三惑星、地球。
日本国、東京……
いつもの東京、そしていつもの夜……
少し違うのは、そこにはヤルバーン乗務員の姿が、もう普通に見られること。
ヤルバーン乗務員のイゼイラ人も、日本にやってくるときは、その姿をイゼイラ制服から、日本のカジュアルな服装に変え、そんな感じでお洒落を楽しんだりもしているようだ……
そんなイゼイラ人達に、東京でも一等人気のある観光地。
東京都千代田区のある場所。
とても大きなお堀に囲まれた大きなお屋敷、大きな庭。大きな森……
そんな場所に住むある人物……
歳の頃は、80過ぎのご老体。
白いジャージに身を包み、ある場所から、夜空を見上げる……
そこに寄り添うは、齢同じぐらいの気品のある女性。
「…………まだ夜は冷えます。そろそろお部屋に戻られた方が……」
「……あのあたりに、今、日本人がいるのですよね……」
天を指さすその人物
「ええ、そうでございますね……」
「なるほど……すごい事ですね……」
二人は天を見上げて、そう語り合う……
東京の夜空、満点の星空というわけにはいかないが、今日はいつもより星の瞬きが美しかった……
いつも『銀河連合日本』をご愛読していただきまして、誠にありがとうございます。
『帰還』章はこれにて終了します。
次回からはお話は『銀河連合日本』の章へと移ります。
では皆様におきましては今後とも本作共々よろしくお願い申し上げます。




