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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
33/119

―16―

 東京都という自治体は、首都ということもあって、何かにつけ摩天楼なビルヂングや、最近できたスカイツリーやら、そりゃもう上空から見たら「どんだけ資源使ってんだよ」と思うようなそれはすごい大都市の情景を想像する。


 あるSF作品の独裁者は「まるで人がゴミのようだ」と言ったとか言わないとか……しかしそれは得てして言えていたりするわけで、まーよーもコレだけの人が沸いて出てくるなと誰しもが思うだろう。

 

 しかしそんな東京でも、東京都2190平方キロメートル全部がそうというわけではない。

 ちょっと離れた郊外にいくと、緑が大変多いところも多々ある……ってか、東京と言う名前を返上した方がいいのでは、と思うような美しい田舎町もこれまた多いのだ。

 


 東京都 八王子市、その西方。

 典型的な郊外の町、その山側。

 正味、イナカである。

 そこを目指して走る車は、柏木が運転するトヨハラ・エスパーダ。

 どこに向かっているかと言えば、所謂、柏木の実家。


 とはいえ、実家と言ってもここが実家と言う事に、柏木は若干抵抗がある。

 というのも、柏木家は、父親が転勤魔王だったせいで、実のところ、東京の『実家』というところに住んでいた時期は極めて短い。

 高校卒業後、関西造形芸術大学に行って、自由気ままな学生寮生活。東京に戻っては、TESに入社したので、家を出て一人暮らし。

 実質高校在学時しか東京の『実家』というところにいたことがない。

 しかもそこは、父親の会社の社宅だったりするので、余計に実家感覚がない。

 柏木的には、実は大阪のほうが、生活感という面ではまだ馴染みがあったりする。


 そんな感じで高校時代は都内中心部の社宅に住んでいたので、この八王子市と言う場所には全然馴染みがない。

 ではなんでここが柏木の実家かと言うと、柏木の両親が老後の事を考え、中古住宅を買って引越したからである。

 なので柏木的にこの家には、数えるほどしか戻ってきたことがない。


 まぁそれでも、帰る家があるとはいいものである。

 一応柏木の部屋もある。といっても、ほとんど何もない部屋だが。

 そして、雑踏とした住宅地ではなく、周りは山と小さな畑のような場所というのも悪くはない。

 裏の山でエアガンの試射も、やり放題……。



 ………………………………




 ……昨日の夜、食後のひととき。

 フェルの早とちりで、柏木に対する心の底からの、思いのたけをぶちかましたフェル。

 それをしっかりと受け止めてくれた柏木に対し、今以上の絆を感じつつ、イゼイラへの旅立ちの時を待つ日々。

 柏木も、自分とフェルがもうそこまでの関係であると改めて認識し、彼は意を決し、フェルに言った。


「なぁフェル……」


 柏木は少し照れくさそうに頭をかいて話す。


『ナんですか?マサトサン』


 フェルは、いつもの大好きなアイスレモンティーをストローでチューと吸いながら柏木に耳を傾ける。


「明日、ヒマ?」

『ハイ、出立の日まで、特にすることはないと思いまス。いつもどおりですネ』

「そっか……シエさんやリビリィさん、ポルさんにも話した?」

『ハイ……最初は驚いていましたけど……マサトサンが一緒に行くって言ったら、安心してくれましタ』

「そっか」


 その「驚く」部分は、おそらくあの部分で、「安心した」部分は、現状……というところだろう。

 もうバレバレである……特にその「驚く」部分に。

 シエ達も、一応脳内で、状況をシミュレートし、驚き、安心したと言うところだろう。


 するとプンとフェルは今ハヤリの『おこ』になり、


『デも、シエはなんか悔しそうだったデス……マサトサンが一緒だって言ったらニコニコした後に『チッ』っとか言ってましタ……何を考えてるんだか……どうせマサトサンがニホンに残ったら、マサトサンを食べちゃおうと企んでたんですよっ、きっと……もうっ!』


 それを聞くと、柏木は笑ってしまう。

 まぁ図星だろう。フェルだけが行くとなったら、また柏木に何かちょっかい出して遊んでやろうとでも思っていたのだろう……いや、下手したらちょっかいだけでは済まない恐れもある。

 シエが野放しになって、柏木に襲い掛かってくるのは、彼としても若干御免被るので、イゼイラに行く決断は賢明だったか? とも思う。


「でさ、フェル……実は明日、会って欲しい人がいるんだ」

『ハイ、どのような御方でスか?』


 柏木は目線を上に向けて、口を尖らし……


「んーーーー………………………………俺の両親……」



『エ!!!…………』



 金色の目を皿のように見開いて驚くフェル。

 その意味に関しても、日本と共通らしい。

 フェルは瞬時に理解する。

 ポっと頬を染める。


『マサトサンの、ご両親に……デすか?……』


 しかしちょっと困惑するフェル。

 「ん?」と思う柏木……困惑の仕方が、いわゆるこういう事を言われた時の女性が示すパターンとは少し違う。


「どうしたの?」

『エ……ハイ……』

「ん?」

『…ン~……マサトサン……少し……考えさえてくださイ……』

「え!?」


 意外な反応に困惑する柏木。


『ア、誤解しないでくださいネ……そのお話、とても嬉しいのでス。モウ、また泣いちゃいそうなぐらいに……決して嫌とか、そんなのではないのですヨ……デモ、少し思うところがあって……ゴメンナサイ……』


 そう言うとフェルは、俯いたまま何も話さなくなってしまった。

 何かまずいことでも言ったかと思う柏木。


 そして、フェルはさっきまで明く喋っていたのに、この時間急にヤルバーンの自宅へ戻ると言い出す。


『マサトサン……ちょっと一人で考え事をしたいので……今日はヤルバーンのお家に帰ります……あ、心配しないでくださいネ、明日の朝には戻りますかラ』

「大丈夫か? あ、いや、俺が何かマズイ事言ったのなら謝るけど……嫌ならいいんだぞ、会わなくても」

『イ、イエそんな!……大丈夫です。極めて個人的な事デすので……ハイ』

「そうか……わかった。それでフェルがいいならそうしなよ」

『ハイ……ありがとうでス……』


 フェルはちょっと作り笑いな笑顔を見せ、ニッコリすると、柏木と抱擁してヤルバーンへ行った……


 柏木は首をかしげながら


(俺、なんか変な事でも言ったのかな……まぁ、文化習慣の違いってのもあるしなぁ……マズったのかなぁ……)


 そんな感じでその日は一人寝する柏木。なんとなく寝つきが悪かった……



 ……で、次の日、フェルは何事もなかったかのように、柏木の家へ帰宅。

 何やらスーツケースのような物を持って帰ってきた。


『マサトサン、昨日のお話ですガ……』

「うん……」

『喜んでお受けいたしますヨ、今日ですよね?』


 今度は普段の笑顔で柏木に応えるフェル。


「あ、ああ、でもいいのか? 本当に」

『デすから、昨日も言いましたけど誤解しないで下さいッテ……私とて、一人の“ニンゲン”ですヨ、私にもマサトサンの知らない人としてのストーリーがあるのでス。その件でチョットなのですヨ』

「そうか、ハハハ、わかった……なかなかフェルも哲学的な事を言うんだな……てっきり振られたかと思ったよ」

『ア、そんなイジワル言うんですカ? せっかく綺麗な服もってきたのに、もう行かないですヨっ』

「え? 服?」


 フェルはそういうと、スーツケースから服を取り出す。

 普段はPVMCGの服飾機能を利用するイゼイラ人にしては、自前の服を持ってくるとは珍しい。

 フェルは寝室に入る。その服を着ているようだ……

 

 そして寝室から出てくる。


「!?……え、 ええ!そ、その格好!」


 普段のフェル達ヤルバーン乗務員は、ティエルクマスカ―イゼイラ制服を着用している。

 水色と藍色を基調とした制服で、機能的な、まぁ言ってみれば警察官の制服や軍服のようなものだ。

 捧呈式の時にも、このヤルバーン制服の式典仕様の儀礼服を着ていった。


 しかし、今のフェルは……真っ白な立ち襟のモーニングのような服に腰をベルトで巻き、さらに真っ白なレギンスパンツのようなものを履いて、非常に薄く繊細な生地でできた薄い水色の外套のような物を羽織っている…… 更には、襟元、袖、レギンスの側面、外套に見事な刺繍らしきものが施されている。

 見るからに高級そうな服だ……そして、決して普段着のようなものではない。

 まるで……どっかの歌劇の役者である……特に兵庫県某所の……

 それとも国立劇場にでも出てきそうな……


 所謂、勝負服というヤツであろうか。


『マサトサンのご両親にお会いするのでス。私のヤルバーンのお家にある一番良い服を着て行かないと……』

「い、いや……そこまで大層な人に会いにいくわけじゃ……」

『ダメですよ……マサトサンにとってはそうかもしれませんガ、私にとっては大事な事ですかラ……』

「あ、は、はい……」


 呆然とする柏木。

 正直……眩しい……




 ………………………………




 そして柏木の実家に到着する……

 前日にご近所の空き地を駐車場として使ってもいいという話だったので、それでなくても大きいエスパーダを停めるのにはちょうど良かった。

 

 しかし、どうも先客がいるようだ。

 ピンク色のアニメにでも出てきそうな可愛いらしい軽自動車が停まっていた。


(誰の車だ?)


 エスパーダを降りて、その車の中を覗き見る……すると、見覚えのあるクマのヌイグルミが飾ってある。


(え!?……おいおいアイツも来てるのかぁ?~ 母さん……もう……)


 カクっとなる柏木……なんかまた面倒くさい予感がしないでもない。

 しかし嫌な顔ではない柏木、ちょっと苦笑い。


『どうしましタ? マサトサン』

「え? あ、いやいや、ちょっとね……紹介しなきゃならん人が一人増えたみたい……」

『ハァ……』


 首を傾げるフェル……ちょっと緊張気味。

 しかし……フェルの服装がこのイナカの風景に、あまりに……そぐわない……

 昔話に出てくるありがちなジーサンやバーサンが、お約束で遭遇する天女と言われる類の人物は、こんな感じなのだろうと思う。


 ……そして玄関の前に立つ柏木。

 フゥと一呼吸入れる。そして呼び鈴を押す。

 途端にドタドタという足音とともに『はーい』という声……母だ。


 ガラリと戸を開ける音。


「あ~ おかえり真人、久しぶりだねー」

「ただいま……母さん、もしかして……恵美、来てるの?」

「ああそうそう、来てるよ……恵美~、兄ちゃん帰ってきたよ~」

 

 そう母が言うと、奥からまたドタドタと足音がして……


「あ! 兄ちゃん、うっす!」

「おう、なんだよ、お前も来てたのか」

「え、お母ちゃんから招集かかったからきたよ……で、兄ちゃんの彼女どこ? どこ?」


 顔をキョロキョロさせる恵美とやら。


「ああ、わかったよ……あ~ 親父は?」

「え? 今料理の準備中」

「相変わらずだなぁ、親父の料理好きは……まぁいいや、で、まぁ……今からその俺の彼女? を紹介するけど……かなり特殊な人なんで……くれぐれも『腰を抜かす』ような失礼のないようにな……」

「はぁ? 何いってんのアンタ」

「兄ちゃん、熱でもあるんじゃない?」

「うるせぇ、いいから……あ~、フェル……出てきていいよ」

『ハイです……』


 柏木が少し離れたところにいるフェルを手招きして呼ぶ。

 するとフェルが、背筋を伸ばして、堂々とした姿を現す。

 その姿を見た母、そして妹、恵美という名の女性は、



「え?……え?……えええええ!!」



 と母、やっぱり腰を抜かした……比喩ではなく、リアルで。



「あ、あああ? えええええええ!!!」



 と恵美。ネットやテレビで見て知ってる人物だけに、腰抜かし度当社比3倍。

 その声を聞いて、何事かとドタドタと慌ててやってくる柏木の親父。



「え、おおおおおおお?……」



 オタマを持って、エプロン姿。目玉が飛び出る寸前……


『ア、あの……私は、ヤルバーンから参りました、フェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラと申します……』


 ティエルクマスカ敬礼をして、ペコリとお辞儀……上目遣いでちょっと照れる。



 …………



 そりゃもう今日の柏木家はてんやわんやの大騒ぎとなった。


「恵美! お茶! お茶入れて! そこの一番いいやつ」

「う、うん! って急須どこだっけ!」

「そこの棚だよ!……お父さん! そんなわけのわかんない料理なんかあとでいいから、ほら! 座布団お出しして!」

「おおお、おう……」


 今、何かイッパシのお菓子を探しまくっているのが、柏木の母親『柏木かしわぎ 絹代きぬよ(60)』である……まぁいわゆる典型的な……関西でいうところの『オカン』であり、世話焼きで明るい。

 普段は小さな家庭菜園で野菜造りを楽しんでいる。


「おかぁちゃん! お茶っ葉ないよ!」


 と騒いでいるのは、ちょっと歳の離れた妹『山咲やまさき 恵美えみ(30)』無論、旧姓は柏木である。一児(女)の母。

 都内某銀行で働くベテラン派遣社員、簿記一級の強者、働くお母さんである……ダンナと子供は家でお留守番。


 で、座布団を人数分以上持ってきて、完全にパニクってるのが父の『柏木かしわぎ 真男まさお(65)』である。

 貿易会社を63歳で早期定年退職。司法書士の資格を持っているので、今はご近所の商店などを相手に、法務書類の作成など、司法書士事務所のようなことをやっている。


 ……とまぁ、全員案の定、テレビのワイドショーなどで、フェルのことを知っているだけに大慌てである。無論捧呈式のテレビ中継も見た。当然、フェルが映っているのも見た。つまり、ヤルバーン高官であるのを知っている。

 しかも、そのフェルの歌劇団まがいの勝負服と、生金色目とその羽髪に、完全に圧倒された。


 それ以上に、まさか自分の息子、兄ちゃんがそんな宇宙の偉いサンを『彼女です』と連れてくるとはま・さ・か思わなかったので、完全にパニック状態であった。


「ささささ、どーぞどーぞ」


 絹代は完全に恐縮して座布団にフェルを誘う。


「粗茶でございます。お口にあうかどうか……」


 恵美も銀行で鍛えた営業接待モードである。


「こんな小汚い家にわざわざおいで下さり云々……」


 親父も恐縮しまくり。


 柏木は頭をポリポリかいて……


「あーもう! 3人共、そんなこっちゃフェルが逆に恐縮しちまうだろ、もーー」

『ウフフフ、そんな、みなさま、お構いなク』


 その様子にフェルも失礼とは思いながらも、思わず微笑んでしまう。

 柏木的にも、まぁなんというか……別の意味で『好意的』だったので、かえって安心した……

 そして、自分の親に妹までこんな風なのだから、もう相当イゼイラ人や、ヤルバーン乗務員が日本に浸透していると感じる。


「なっ! お兄みたいなただの“テッポーキ◯ガイ”がフェルフェリア様に向かって“フェル”なんて失礼千万でしょ!」

「はぁ!? なんだよその フェルフェリア“様”って……なぁフェル」

『ウフフフ、ハイ……エミサマ、マサトサンのファルンサマにマルマサマ、私の事は“フェル”で結構ですヨ』

「え?ファルン?……マルマ?……」


 と絹代。


「ああ、えっと確か……イゼイラ語で、ファルンが『お父さん』でマルマが『お母さん』だったな、フェル」

『ハイです』


「え、私がフェルフェリア様……あ、いえ、フェルさんの『お母様』?」と人差し指で自分の顔を刺す絹代。

「わ、わしが『お父様』?」と絹代に同じ。

「え、エミサマ?」と親父に同じ。


 柏木は呆れ顔で……


「だーかーら、今日俺が何しに戻ってきたと思ってるんだよ……」

「あ、ああそうか、そうだったね……っていうかさぁ、なんでアンタとフェルさんが……その、そういう関係になったかっていうか……馴れ初めから聞かせておくれよ」

「そーだよにーちゃん。どう考えても接点がわかんないよ」

「うむ、真人、そこからまずきかせてくれよ……どうにも狐につままれているようにしか思えんぞ」

「はは、確かにそうだな。じゃ、順をおって話すから……」


 柏木はフェルと出会うまでのストーリーを話した……

 大阪で仕事をしていたこと、千里中央でのこと、そこでのベビーヘキサとの遭遇……


「え、お前、センチュウに行ってたんか」

「うん、仕事でね。センチュウというより、市内だけど、たまたま懐かしくて豊中にまで出てたんだよ、そこであのギガヘキサ騒動に巻き込まれてね」

「ほー……で、どんな感じだった?センチュウ」


 そういうと、恵美が


「もー! おとーさん、そんな事どうでもいいでしょ、今は」

「お、おお、そうか、スマンスマン」


 で、柏木は続ける。

 そんな感じで、自分がファーストコンタクターになったこと。世界の諜報機関から目をつけられてしまったこと、公安の山本との出会い、そして……


「で、これが今の俺の肩書」


 そういうと柏木は懐から名刺を三枚取り出して三人に渡す。

 その名刺には……


【内閣府 内閣官房参与 政府特務交渉官 柏木真人】


 と書かれていた。

 その名刺を見て、これまたぶったまげる三人。


「お……お前が、内閣官房参与!?」

「うん、まぁ成り行きで……給料安いよ」


 そして、フェルが


『マサトサンは、あのアマトサクセンを立案した、指揮者のお一人だったのですヨ』

「え? あまとさくせん? なにそれ」


 と恵美。

 タハーという顔でガックリくる柏木。


「おもてなし作戦……って言ったらわかるだろ」

「えーーーー!!マジ!!」


 今日の柏木家は、ビックリジェットコースターである。


 そして、ヤルバーンヘ招待され、そこでフェルと出会い……


「まぁ……男の俺からいうのも何なんだけど……なぁフェル……」

『ハイ……事実をキチンと言わないとですネ……実は……』


 フェルが例の経緯で柏木に一目惚れしてしまい、フェルが押しかけ女房として柏木の家に押しかけてきたことを正直にゲロった。

 そして今に至ると……

 更に、大森、二藤部総理や、三島副総理、春日自保党幹事長や、ヴェルデオ大使とも知り合いで、その公安警察の人物や、今や赤丸人気急上昇中のキャプテンウィッチなシエ姉さんとも友人であると話す。

 

 親父、母、妹は石化してしまった……


「……でさ、その関係で白木やオーちゃ……あ、いや、大見とも一緒に仕事をすることになってさ」

「え、え…え? 崇雄君や健君と?」

「うん、まぁ詳しい内容は機密保護法扱いで言えないんだけどな」

「へぇ~……これまた懐かしい名前だねぇ……あの二人も公務員だろ?」

「ああ……まぁそういう感じだよ」


 で、更に追い打ちをかけたのが……もうフェルとは、肉体的にやることはやってしまった仲であると……極めて遠まわしに話した……さすがにこれはダイレクトには言えない。


 親父、母、妹は、その話を聞き、そしてその意味を理解し……再度石化する……


「で、そういうことなんで……って、おい、聞いてる?」


 コクコクと頷く三人。


「まぁ……そういうことでさ……フェルと……」


 その言葉の後を生唾飲んで、目ん玉くりあけて、身を乗り出し聞く三人……



「結婚……するからさ……」そういうと柏木はスっと正座して……「よろしくたのんます……」と頭を垂れる。



 その言葉を聞いたフェルは……目に涙をためてニコリと笑う……

 柏木はフェルに向き直り……


「まぁ……フェル、そういうことなんで……ミィアールしよう」

『ハイです……フツツカモノでスが、ヨロシクオネガイイタシマス』


 柏木に三つ指ついて深々と頭を下げるフェル。


「え、えぇ?……そんな言葉どこで覚えたんだ?」

『エ? ニホンの資料で読みましたヨ……ミィアールを申し込まれたフリュはこうするって……間違っていますカ?』

「あ……いや、間違ってはないけどな……ハハ」


 そしてフェルは、絹代達に向き直り、再度三つ指ついて


『ファルンサマ、マルマサマ、エミサマ……ドうか、マサトサンと一緒になることをお許シクダサイ……』


 と深々と頭を下げる……


 その姿を見て、石化が完全に進行した三人……ピクリとも動かない……


「って、どーなんだよ……おーい……親父! 母さん!」

「へ!?……あああ、ははははい! はいはい! いや、こんなバカ息子でよければこちらからお願いしたいくらいで……で、こんなのでいいんですか? フェルさん?」


 絹代は柏木を指で指して、本当にいいのか? とフェルに確認する。


「はぁ!? なんだよそれ!」


「フェルさん……こんなテッポーバカ、考え直したほうがいいって!」と恵美

「フェルさんが不幸にならんかのー」と腕を組んで考え込む親父。


「なんだよアンタらは……本当に……」

『ウフフフ、マサトサン、私は考え直したほうがイイのですか?』


 手を口に当てて、涙目ながら笑うフェル。


「おいおい、フェル~……ハハ、こんな親なんだよ、ま、よろしくやってくれよ、な」

『ウフフ……ハイです……』そういうとフェルはポソっと『(ワタクシにも、ファルンにマルマが出来るのですね……嬉しいナ……)』


(え?……何?)



 ………………



 そうと決まれば、あとは祝うだけ。

 真男がビールを空けまくる。

 こんな祝いの時にしか沢山呑ませてもらえないので、もうウキウキである。

 柏木も親父と晩酌するなんてのも久しぶりだ。

 恵美も台所を行ったりきたりで料理を運んでいる。

 今日の食卓は、真男の料理と、絹代の料理が卓を飾る……恵美は食って飲むだけ。


「フェルさんは、地球のお酒は大丈夫ですかな」


 と真男。


「あー、いや親父、呑めるけど酔わないんだよ」

「ありゃ、そうなのか……まぁでも呑めるならどうぞ一杯」

『ハイ、頂きますデス』


 すると恵美が酔っ払って絡んでくる。


「ね~、兄ちゃん、指輪、渡したの~」

「え、いやまだ……」

「なぁに! それ! それで今日来たの!? 普通逆じゃないの! アホかあんたは!」

「まぁそうなんだけどさぁ……ちょっと色々あってなぁ……」


 フェルとの馴れ初めの話であの驚きようである。

 なので、イゼイラ行きや、大臣、議員の話は、するのをやめた。

 もしこんな話をしたら、もしかしたら両親共々リアルで昇天する可能性がある。正直ヤバイと思ったのでやめた。

 しかし、フェル的にはもうそういうものはとっくの昔にもらっている。

 あのヤルバーンで柏木があげた腕時計である。そして柏木もPVMCGの特別仕様をフェルからもらった。イゼイラ人的には、あれがそういう感じの物なのである。

 実際、フェルは柏木からもらった時計を今でも肌身離さず付けている。


 そして絹代が


「そうそう、ところでフェルさん、お歳はお幾つですか?」

『ハイ、えっと、地球時間でいえば、今年で47歳になりまス』

「えっ! 47歳! 若っ!! どうみても……」


 女性は当然驚愕する。

 するとそこで柏木がフォロー

 イゼイラ人は、平均寿命が地球時間で200歳を超えると教えてやる。

 なので、地球人的感覚で言えば、23~4歳ぐらいだと。

   

「はぁ~ そうなんですか……どうりで……」と絹代

「どうだ、これが宇宙は広いって事だよ恵美」

「あぁ! 何偉そうになってんだこのアホ兄ぃわ!」

「何言ってんだ、こっちゃアメリカのドノバン大使ともサシで話ができんだぞ、恐れ入ったか」

「あ~! 金食い芸大卒が都立大卒の簿記一級に偉そうにするんですか、へぇ~! 会社調子に乗って辞めくさって、儲けのない青色申告書いてあげたの誰でしたっけねェ~~~」

「あ、そぉれぇを言うか!お前!」 

 

 フェルはその二人のサマを見て……


『ウフフフフフフ、仲の良い兄妹ですネ、マルマサマ……』


 爆笑するフェル。


「え? あれが仲いいように見えます?」

『エ? 違うのですか?……』



 ………………



 恵美が近所のコンビニへつまみを買いに行くと言うので、フェルもお付き合いすると言って同行した。

 無論、イゼイラ人の格好で行ったら騒ぎになると思うので、そこで今の服を脱いで、例の『キグルミシステム』を披露。

 見事な日本人姿のフェルに、両親は驚愕する。恵美ももちろん腰を抜かす。

 まぁ、そんな感じで姉妹となる二人で、親睦もかねて外出していった。


 その間を突いて両親は柏木に尋ねる。


「ねぇ真人、で、式はいつする予定なの?」

「うむ、今回はかなり特殊だからなぁ……段取りも大変だぞ、どうするんだよお前」


 柏木は腕を組んで


「いや、式とかはまだずっと先になると思う」

「え? どうしてだい?」

「うん、実はね、俺もフェルも大事な仕事がまだ残っててね、それを済ましてからになる。またその時は連絡するよ」

「じゃぁ、せめて籍だけでも……」

「それがそう簡単にいかないんだよ……フェルはイゼイラの高官さんだろ? で、イゼイラ人と日本人の婚姻は初になるから、まだその辺の法整備が全然できていないんだよ……そういう感じでね」

「なるほどねぇ……でも何か困った事があったらいつでも言って来るんだよ、アンタだけじゃなくて、フェルさんも……」


 そういうと真男も


「ああ、そうだぞ、フェルさんもワシらの娘になるんだ……もうお前だけの話じゃないんだからな」

「ああ……」


 すると絹代が心配そうな顔で


「真人、あのフェルさん……大事にしてあげないと……あの娘、何か色々と抱え込んでいるんじゃないかい?」

「ああ……母さんもわかる?」

「そりゃ伊達にお父さんと夫婦やってないわよ……」


 柏木も今までフェルと一緒に過ごしてきて、それは感じていた。

 それはフェルの事……というよりも、イゼイラの事というべきか……

 ここ数日で、今までとは違ったフェルがいくつも垣間見えた。

 今日始めて会った自分の両親でも『親の経験』でそう映るのだから、多分そうなのだろう。

 不安……というわけではないか、柏木自身もフェルとは今以上に付き添ってやらないといけないと感じていた……


 そして彼女の言った『私の人間としてのストーリー』という言葉。

 それを知る機会が、イゼイラにあるのではないかと、そう感じる柏木であった……





 ………………………………




 三日後……


 外務省国際情報統括官 新見貴一は、黒塗りの政府公用車の中で、ある事を思い返していた。

 それは、二藤部にイゼイラ議長の親書が送られて来た時の事だった……



 …………


 

「これがその親書ですか?総理」

「はい、日本語に翻訳されてはいますが、ところどころイゼイラの固有名詞も入っているようでして、ちょっと意味がわからないところもありましてね」


 普通、国家代表宛の親書を官僚が読むなどという事はありえないことなのだが、彼らはチームとして行動している。

 いかんせんティエルクマスカ―イゼイラへの対応は、いくら総理大臣といえど、個人でどうこうできる問題ではない。なのでこの件に関しては、信用の置ける優秀な人物にこういった書類を見せることもあるのだ。


 新見はその親書を一瞥する。

 その内容は、先の料亭で柏木に言った事と同じである。

 フェルの配偶予定者である柏木を、正式な外交官身分でフェルと同行させてやってほしいと……


 しかし二藤部は疑問に持つ言葉が一つあった……


「新見さん、この部分ですが……」


 二藤部はある部分を指で指し、なぞる。

 そこには……


【フリンゼ・フェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラ】


 と書かれてあった。


「フリンゼ……ですか……」

「ええ、多分敬称だと思うのですが、「ケラー」が、いわゆる「ミスター」や「ミス」と同じような意味でしょう? で、「ファーダ」が、いわゆる「閣下」や「サー」と同じような意味じゃないですか、ではこの言葉は……」

「……ええ、わかりますよ、総理」

「え!? 本当ですか?」

「はい……」


 新見は、以前ヤルバーン日本人招待事案の時に、リビリィが白木にうっかり口を滑らせて言ったこの『フリンゼ』という言葉を、白木の件のサヴァン脳パワーでしっかり覚えており、その意味を報告書にキッチリと記載していたのだ。


 白木の報告書では、どういう意味の言葉かはわからないが……という前提であったが、PVMCGの言語データベースで調べると、直訳した場合、こういう意味だったらしい……それは……



『 陛下 』



 その女性名詞形であったそうだ……

 その言葉を聞いた二藤部は目をギョっとさせて「えっ!」と叫ぶ。


「陛下……って、ではフェルフェリアさんは、イゼイラの皇族か何かとでも?」

「ええ、それなんですが……現在のイゼイラは、親書に『議長』のサインがあるとおり、彼らの言葉を信じるなら共和制国家です。貴族制度や皇族制度などのようなものはありません。これは間違いないと思います。実際彼らから提供された資料を見てもその通りですね」

「そうですね、柏木さんから提出された資料を見ても、確か……ナヨクァラグヤとかいう最後の女帝が帝政を廃して共和制に移行させたとフェルフェリアさん自身から聞いているそうですし」


 う~むと、腕を組んで考え込む二人。

 

「では、なぜ『陛下』などという言葉を……」

「それは何とも言えませんね。地球でも英語の『レディ』という言葉があるとおり、立場や状況で同じ言葉でも意味が大きく変わる場合があります。おそらくそういうところではないかと見ているのですが……」


 そう新見が言うと、二藤部が思い出すように


「以前、何だったかの会合の時に、ヴェルデオ大使はフェルフェリアさんのことを『ファーダ』と呼んでいましたが、アレとはまた違うのでしょうか……」

「あれは恐らく議員だからだと思うのですが……今は何とも……というところですね……」



 …………



 腕を組み、片手の握りこぶしを口に当てる新見。

 じっと窓の外を見る。とはいえ、どこかを注視しているというわけではない。

 流れる風景を、ただ流し見しているだけだ。


「統括官、そろそろアメリカ大使館です」


 と、運転手の外務省スタッフ。


「ん? あぁそうですか、わかりました」


 公用車はアメリカ大使館正面玄関へ停まる。

 新見は襟元を整えると自分でドアを開けて車から降り、知った場所とばかりに大使館へ入っていく。

 メインロビーにドノバンが出迎えに来ていた。

 ドノバンも自ら進み出て新見と握手。

 

「ごめんなさいねニイミサン。呼びつけて映画解説みたいな真似をさせてしまって」

「いえいえ、大使も対策会議のオブザーバーです。コレぐらいの出張サービスはさせていただきますよ」


 そんな話をしながら、ロビーから大使執務室へカツカツと歩く。

 もうここから本題の話へ入る。


「大使、で、ロシアの方はどうですか?」

「ええ、ウクライナ東部へ展開していたロシア軍部隊は撤退を開始したということです」

「圧力が効きましたか?」

「というよりも、西側世論の批判をかわすため、といった方が良さそうですが」

「では中国の方は……」

「やはり活発になっていますね……ウルムチのPMCが撤収すれば、沈静化に向かうと思っていましたが、甘かったようです。聖戦同盟の連中、結構頑張ってるようでしてね、PMCらしき連中は撤退したようですが、代わってあのイスラムテロ組織の主幹が、スキを突いて入れ替わるように入ってきています。もう内戦状態といっていいかもしれません」


 そう言いながらドノバンは執務室の扉を開け、新見を中に誘う。

 そして、ドノバン自身がコーヒーを2つ淹れて一つを新見へ渡す。

 お互いソファーに腰を掛け、ドノバンは続ける。


「もう中国の中央政府は風前の灯火ですね……」

「不幸中のさらなる不幸……ですか……」

「ええ、これで軍部が近いうちに完全に実権を握るでしょう……中国軍部からしてみれば、茶番で済ますはずだったものが、向こうからチャンスを担いで転がり込んできてくれたわけですから」

「堂々と大手を振って軍を展開できるというわけですか」

「そういうことですね……」


 新見は渋い顔をして考えこむ。

 ドノバンは、その考えを見透かすように


「東シナ海……いよいよ警戒が必要かもしれません」

「貴国は……動きませんか?」

「現場単位では、自衛隊と米軍の協力は確固たるものがあります。世間一般に言われているような冷たい関係ではありません。しかし彼らも国の命令で動く立場ですからね……今はワシントンでも制服組と官僚・議会がやりあっているでしょう……でも……」

「『ガーグ』ですか?」

「ええ、そのガーグとかいうモノです……しかしウマイ名前をつけましたね」


 ドノバンは乾いた笑い。


「語呂もいいでしょう?」

「ええ……本当なら日本や自由世界のために我が国が率先して出なきゃいけない時なのに……議会にもかなり連中の手が伸びているようですね……大統領も身動きが取れません。権限があるとはいえ、議会を無視して勝手な動きをするわけにもいきませんし……まぁ大統領も権限の範囲で、制服組と協調してくれてはいるようですが……」


 そんな話をしながら、そろそろ時間だとばかりにテレビをつける。チャンネルはNHK。


「ニイミサン、まだホワイトハウスに報告はしていませんけど……あの話、本当なの?」

「ええ、本当です。向こうからの『要請』ですから、行かないわけにはいかないでしょう」

「でも、カシワギサンでしょ? ああ、いえ、違うわね……カシワギさんだからかしら……」

「まぁそうなのでしょうね…………あ、始まりますよ……」


 NHKの通常放送から切り替わり、いつも目にするNHKアナウンサーが登場する。

 他の民法もそんな感じである。そのほとんどが報道室の映像に切り替わる。

 今日、二藤部は報道各社にティエルクマスカ関係の特別記者会見を行うと通達していた。

 それは海外の報道各社にも通達している。

 日本で政府が発表する『ティエルクマスカ関連』の報道となると、大体普通ではない情報が飛び出すので今では視聴率稼ぎや紙媒体なら部数稼ぎ、ネット媒体なら広告料稼ぎのいいネタなので、必ず記者達が殺到する。

 従って、カメラの砲列も、ものすごい数である。


 最近はネットの掲示板でもティエルクマスカ関係の報道が入ると、必ずスレッドがポンポンと立ち、一瞬の内にレスが埋まる有様。

 特にティエルクマスカの人気人物、フェルやシエ……最近はリビリィやポルも人気が出てきているようで、リビリィの自衛隊迷彩服3型をいつも着た姿に、ミリタリーマニア系ファンが付き、ポルの真っ白で眼鏡っ娘な姿には、ソッチ系の人気が高いよう。


 シエは氏名が公表されていないので、欧米でついた『キャプテン』のニックネームで呼ばれており、キャプテンを批判する奴は、夜中に必ず家のチャイムが鳴るとか、キャプテンを讃える動画や絵をアップした者は、必ず次の日に目が覚めたら、藍色のキスマークが体のどこかに付いているとか、そんな都市伝説が出来る有様……その都市伝説は自衛官から流れたのかもしれない。機密保持に問題があったりなかったり……

 挙句に、『ウクライナ問題はキャプテンがいるから大丈夫』とか『銀河系でメンチハゲに対抗できるのはキャプテンだけ』とかわけのわからないネタで盛り上がったり。


 しかし……近いうちにフェル人気は下がってしまうかもしれない……まぁ、そんなもんだ……あ、いや、かえって主婦層や女性人気が上がるかもしれなかったり……いや、人妻だからこそ良いという奇特な方もいたりして……


 そして柏木はまた不審郵便物に悩まされる日々がやってくるかもしれない……



 NHKアナウンサーが話す。


『この時間は、昨日、政府から発表のありました、ティエルクマスカ関連の緊急発表のため、番組を変更して総理大臣緊急記者発表を中継でお送りいたします』


 画面には、大きく【総理大臣緊急発表】とテロップが流れている。


 二藤部が登場し、国旗に一礼して壇上へ。

 進行係が冒頭……


『それでは、ただ今から二藤部内閣総理大臣の緊急発表を行います。総理の発表後、記者のみなさまからの質疑応答とさせていただきますので、よろしくお願いいたします……総理、お願いいたします』


 そして二藤部は進行係の言葉のあと、一拍おいて話し始める。


『……国民の皆様におかれましては、あのギガヘキサ、現在では、正規名称ヤルバーン都市型探査母艦の名前で周知されていると思いますが、その、当該艦艇が日本に飛来し、あの歴史的な信任状捧呈式によって、わが国と、ティエルクマスカ星間共和連合、及び、イゼイラ星間共和国との正式な国交が開かれました。これは、わが日本国のみならず、この地球世界の、異星知的生命体との国交と言う、歴史的な出来事として、今後、語られることになると、思います』


 この放送は、今までのティエルクマスカ関連政府発表の例に漏れず、やはり日本中のテレビで視聴されていた。

 無論、ヤルバーンのヴェルデオや、シエ、リビリィ、ポル達フリュ軍団。ゼルエや田中さんに田中さんのスィートダーリンな科学局主任。

 山本達公安トリオにセマル、柏木と関わった警察、加藤達自衛隊関係者。

 大森に麗子に、君島重工関係者、想楽の高田に千里中央の櫻井。

 山代アニメの社員スタッフ、イゼさんご一同。


 そして……


 北京にワシントン、クレムリン、ロンドンにバッキンガム。

 パリにソウル、平壌、バチカン、バクダート、リヤドにエルサレム。


 更には…… 


 世界各国の金融機関に証券取引所、投資家、各国企業経営者。


 最後に……


 UEFにイスラム過激派、反体制運動家に軍産複合企業……


 んでもって……柏木さん家の実家のみなさんも、当然ご覧になっていた……


 日本政府がティエルクマスカ関連の情報を世界に発信するときは、必ず何か大きな動きがあると、もう世界中の人々はわかっている。

 なので、今回の緊急発表も世界に発信・配信され、世界の注目を浴びていた…… 


 二藤部の発表は続く……


『……さて、この度私は、日本国民のみなさん、そして、世界各国国民のみなさんに向けて、お伝えしなければならないことがあります。実は先般、私、日本国内閣総理大臣宛に、イゼイラ星間共和国、サイヴァル・ダァント・シーズ議長閣下よりある要請がございました』


 このサイヴァル・ダァント・シーズという名前も、今回初めて公表される内容である。

 先の捧呈式の際にも、この事はドノバンを介した米国以外には公表されなかった。

 基本、機密事項だったのである。

 当然、この事を聞いた会見場のマスコミはどよめき、ペンを走らせ、ノートパソコンにタブレットのキーを叩く音も小さく響く。


『その内容は、今回、イゼイラ共和国、ヤルバーン自治体のある高官の帰還命令が出たのですが、その帰還の際、同時に、日本国より大使を遣わせて欲しいという要請でした』


 この言葉で、会見場は大きくどよめき、カメラのフラッシュがバシバシと炊かれる。


『……現在、ティエルクマスカ連合、そして、イゼイラ共和国の在駐日大使として、みなさまもすでにご存知のヴェルデオ・バウルーサ・ヴェマ大使閣下が信任され、日本国に駐在しておられます。そして、我が国も、ヤルバーン自治体の日本国治外法権区域において、在ティエルクマスカ―イゼイラ大使を派遣いたしております。しかし、これとは別に、イゼイラ側は「我が国を一度ご覧になってほしい」という事で、ある特定の人物を指名されてきました』


 この会見発表を観ていたドノバンは、新見に


「ウフフフ、うまい具合にお話しますわね、ニトベ総理は……」

「え? そうですか? 事実関係を淡々とお話されているだけと思いますが……」

「フフフ、そういうことにしておきましょうか?」

「フッ……ハハ、かないませんね大使には……」


 ドノバンは、二藤部や新見からフェルが帰国するという事を聞いて、知っている。

 なので、その『要請』に対して、まぁ、その心情に配慮したと思っているようだ。


 二藤部の会見は続く……


『……その人物は、我が国にとっても、極めて重要な人物であり、今回の、いわゆる『ギガヘキサ飛来事件』に端を発する現在までの、この事案に関わってきた、ティエルクマスカと、我が国の関係において、無くてはならない人物であります。もちろん、この人物の名は、ティエルクマスカ連合関係者、及び、イゼイラ共和国関係者もすでに周知する人物であり、先方も、最重要人物と認識している方でもあります』


 ある場所で、その『最重要人物』とやらは……


(総理ぃ~ そこまで大げさに……ハァ……)


 と項垂れていた。


『……この人物の素性、経歴、その功績については、実はこれまで、政府の“特定機密”に指定し、今日現在まで、政府として、公表を差し控えてきたわけでありますが、我が国は当該の人物を、『政府特派大使』に指名し……イゼイラ星間共和国に派遣することを……決定、しました……』


 会見場からは「おお~」という声が漏れ、カメラのシャッター音はさらに大きさを増し、記者同士中腰で立ち上がり、何かを指示する姿も見える。


 そして、テレビ画面には、大きく


【政府はイゼイラ共和国に大使の派遣を決定】


 と流された。


 ドノバンは


「はぁ~……これで私もまた色々と突き上げられるわね……どうしましょう」


 と小さく首を横に振る。

 

 この瞬間、各国の証券取引所は敏感に反応し、株価がこれ以上なく動いた。

 株価は『予想』では動かない『憶測』で動く。先に柏木の言った『風が吹けば桶屋が儲かる』の理屈で動くのだ。

 キーワードは何なのだろうか? ハイクァーンか? メルヴェンか? VMCか? それとも自由入国か? 宇宙産業か? 防衛か? そして……『ガーグ』か?……


 そういったティエルクマスカに関連したキーワードを持つ株が買われ、そうでない株が売られる。

 いや、そうでない株でも憶測がさらに憶測を推測し、買われるところもある。

 


 会見は続く……

 二藤部は一拍置いて、スゥと息を小さく吸い、手元の水に手をかける。


『そして、今回派遣する当該人物のお名前ですが、我が国の大使として派遣いたしますので、本日、特定機密を解除し、国民の皆様に、発表いたします……その方のお名前は……』


 記者たちは、二藤部の言葉に息を呑む。

 しかし、彼らも素人ではない。その取材活動から大体の予想はつけていた。

 おそらく、アイツではないかと……その取材活動の成果が今試されるのだ。


『……柏木真人 内閣官房参与 政府特務交渉官であります……』


 その瞬間、会場からは「やっぱりあれか!」やら「どうりで!」やらと、大きくざわついた。

 二藤部はそのざわめき声があまりに大きので、話すのを少し中止する。

 進行係が「静粛にお願い致します」と会見場を制する。


 テレビテロップには


【大使には柏木真人氏】


 とデカデカと流れる。


 某ネットでは……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 カシワギキタ―――(゜∀゜)―――― !!


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 やっぱりアイツだったか。


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 あのフェルさんにくっついてたやつか?誰だあれ


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 クソゲー売り。

 在庫処分のプロ。

 あいつに何回騙されたか……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 GSのプレゼンやってた奴か?


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 しかし、なんでアイツが大使なんだよ……二藤部ちゃん狂ったか?



 などなど……

 そっち方面では有名な柏木だったので、即反応される。

 ネットはコワイ…… 


 そして……その中継を観ていた柏木の実家のみなさんは……


「な……なにぃぃぃぃぃぃ!!!」と真男。

「ひぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」と絹代。

「聞いてないよぉぉぉぉぉ!」と恵美。


 柏木家実家には、その発表の瞬間から、電話がジャッカスカ鳴りまくり、親戚やらなんやらから「あ、あれって真人君の事!?」やら「またあいつが何かやらかしたのか!」やら、もう真男に絹代は電話の対応に追われまくりであった。


 恵美は……放心して屍になっていた……


 そして、柏木家実家に、マスコミが殺到するのも時間の問題であった……


 二藤部はその後、柏木の存在がなぜ機密指定されていたかなどを話す。

 まず記者達を大きく驚かせたのは、柏木がファーストコンタクターであったということ。その経緯をかいつまんで説明する……ヴァルメに名刺をぶっ刺して『かかってこいや!』と言ったことなどは端折った。

 あと、櫻井を助けた事についても明言を避けた。これは個人情報保護の観点からである。


 そして、更に記者達を大きくざわめかせたのは、そのヴァルメを当時操っていたのが、今大人気のフェルだったということ。


 そして……『天戸作戦』の発案者で、あのアニメのプロデューサーであることも公表された。


 テレビテロップは大きく


【柏木氏は天戸作戦発案者】


 と流される。

 

 この瞬間、これまたネットの反応は……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 うそ……マジデスカ……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 ( ゜д゜)ポカーン


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 ( ゜д゜)ポカーン


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 ( ゜д゜)ポカーン


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 フェルさんと最初に会ったのが、あの柏木だったとは……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 くそっ!そういう事かよ……


名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 カミサマ……ナニカマチガッテイマス……



 何となくボロクソであったりする。

 そして……



名前: 名無しさん@未知との遭遇 投稿日:~

 柏木とフェルさん、デキてるんじゃないのか?



 という発言がきっかけで、スレは大荒れに荒れまくり、「氏ね」「ネトウヨ」「>>***はチ○ン」だのと

悲惨な状況になっていく……

 みんななんとなく分っていたが、レスをしなかった。

 しかし一旦こういうレスが入ってしまうと……後の祭りであった。


 そんなネットの騒ぎをよそに二藤部は質疑応答に入る。


『それでは皆様からの質問をお受けいたしたいと思います。私の方から、指名をいたしますので、質問の前に、所属とお名前を明らかにしてからご質問をお願いいたします。また、公平を期するために、国内プレスの方と、外国プレスの方、交代で指名致しますので、その点よろしくお願い致します。Then, wish to accept the question……』


 記者達が槍を掲げるように挙手をする。

 指名する進行係も気合いが入る。

 進行係は、今日のために、アホな質問をする記者と、まともな質問をする記者のデータをバッチリと頭の中に叩き込んできた。


『産業新聞の山田と申します。総理、今回の件、私達もまさかこういう発表だとはゆめゆめ思わなかったので、大変驚いておりますが、今回のイゼイラへの大使派遣ですが、結果的に言えば、世界で初めて銀河系外の宇宙に人類を送り込むことになりますが、その点、どのようにお考えでしょうか?』

『はい、私もこの要請をヴェルデオ大使閣下よりもたらされたとき、ハハ、みなさんと同じく大変な驚きを持って受け止めました。なんせ世界初で日本人外交官が宇宙に行くわけですから、まぁ……そうですね、そういう点は、今テレビでこの会見をご覧になっている国民の皆様と同じ思いと考えていただいて結構だと思います』


 そして、外国プレスへ。

 音声に同時通訳が入る。

 尋ねるのは男性記者だが、通訳は女性。

 二藤部はイヤホンを耳にはめる。


『えー、デイリーニューヨークのスティーブン・パーマーと申します……アー、今回のこの発表ですが……イゼイラに行く人員は、アー、このカシワギさんお一人なのでしょうか? もし……ふくすうのひとが……行ける……同行可能であれば、日本人以外の……関係者……スタッフも同行可能なのでしょうか? お聞かせ下さい』

『今回の件ですが、先程も申し上げましたとおり、先方は、基本的にこの柏木氏個人を指名し、政府は要請を受けております。氏のサポートに関しましては、イゼイラ側が、完全なサポートを保証し、柏木氏個人が最も信頼を置くイゼイラ人スタッフ……もちろんこの方は政府も、私個人も良く存じ上げている充分に信頼をおける方ですが……その方も同行することになっております』


 なんとなく曖昧に答える二藤部。


 その後、矢継ぎ早に色々と質問された。特に海外記者から。

 半島の記者からは『今回の訪問に新しい条約締結の交渉は行われるか』やら、ロシアの記者からは『ウクライナ情勢について、イゼイラはどう考えているか?』やら……気にしてんならあんなことすんなよと二藤部は思いながらも『まったくそういった内容は聞いていない。柏木の帰国後に結果を発表する』と、まぁ終始一貫そんな感じであった。

 しかし、面白いのが中国の記者で……なぜか一切質問をしてこない……他の記者の質問とその回答を熱心に書き写すだけであった……




 ……米国大使館でこの様子を観ていたドノバンは……


「ニイミサン、あの記者の質問じゃありませんが、確かにフェルフェリアサンが一緒だとは言っても、やはりもう何人か、そう、宇宙事業経験者を付けた方がいいのではないのかしら」

「実はわたしもそう思ってはいるんですけどね」

「日本には、タナベサンや、タキモトサンなどの優秀な方もいるでしょう、外国人が問題だというのなら、せめてヤルバーンに行ったミスター・コナーあたりを私の名前で引っ張ってきますけど」

「確かにそうは思うのですが……実は大使に言っていないことがありましてね……」

「あら、なんですの?」

「大使には、この会見と同じく、イゼイラからの『要請』でという事でお話ししましたけど……本当のことを言いますと、実は『要請』ではなく、柏木さん自身への『招待』なんですよ……招待状が送られてきたのです」


 そういうとドノバンは「えっ!」という顔をし


「じゃぁ……カシワギサンは……イゼイラへ『国賓』として行くわけですか!」

「まぁ普通、国家元首の『招待』となれば、そういう事になりますね。なので無関係の人間をゾロゾロと同行させるわけにも行かないわけでしてね……このところはくれぐれも内密にお願いします。『要請』と『招待』ではその意味も大分違ってきます。大統領閣下にもその点を踏まえて説明を」

「なるほど、わかりました……しかし『招待』ですか……やはりあのアマトサクセンの事をイゼイラ政府は評価していると?」

「ええ、そうみたいですが、それだけじゃないようなのですよ……」

「え? どういうこと?」


 新見は頭をポリポリかいて……どこまで話せばいいものやらと考えながら……


「いやぁ~ これも……なんというか……言いにくいんですが……イゼイラの議長閣下ですが……あの二人の関係……どうやらご存知みたいなんですよ……」


 ドノバンは口をポっと開け、目をパチクリさせる。


「あ、あらあらあら……」

「イゼイラ人って、そういう事を大事にする国民でしょう? なので、どうもそんな感じなんですよ……この事、大統領閣下に報告しますか?」

「アハハハ、どうやって報告しろと言うんですかそんな事、ウフフフ」

「でしょう? 日本の諺にもありましてね『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてナントヤラ』ってね……」

「それは……アハハハ……確かにお邪魔虫を連れて行くわけにはいきませんね、アハハハハ」


 ドノバンは涙を流して笑う。


「まぁただ……」


 新見は真面目な話もあると少し姿勢を正して、ドノバンにフェルがイゼイラでは『フリンゼ』という敬称で呼ばれていることを話した。


「えっ!」


 怪訝そうな目をして驚くドノバン。


「そのあたりの事もあるのでは……と我々は見ているのですが……」


 ドノバンも笑い涙を少し拭きつつ、新見の態度に応えて、向き直り


「では……うまくすれば今回の、日本への対応の真意が少しでもわかるかも知れない……と言うことですか?」

「はい……これは柏木さんも言っていましたが、どうもフェルフェリアさん帰国の話以降、彼女の言葉の端々にそう思えるところがある……と」

「では、その情報を待つしかないという事ですね……ヤルバーンのこれまでの不可解な地球世界への対応のことも……」

「そういうことですね……」




 ……ある程度の質疑応答を終えると、まだ挙手の収まらぬ記者を制して、進行係が二藤部に振る。

 二藤部は会見場から指名もされていないのに質問をする記者を無視して、場が静まるのを待つと、一礼して原稿を畳み、壇上から去る。

 

 記者達はこれで終了かと思ったのか、各個にざわめき始めるが、進行係がすかさずその場の雰囲気に割って入り……


『えー、では先程、総理よりご紹介のありました、柏木真人 政府特派大使の就任会見を引き続き行います』


 それを聞いた記者たちは「えっ!?聞いてないよ!」とばかりにドヤドヤと席に着き、ざわつき始める。

 実はこの記者会見で、マスコミには総理のみの会見としか通達しておらず、柏木の会見は通達していなかった。

 いわゆるサプライズという奴である。

 民法の特番アナウンサーもうろたえて……


『え? 柏木真人さんの会見がある? ホント!?……えー、今、入った情報ですと、総理の会見のあとに、柏木真人 特派大使の就任会見があるという事だそうです』


 と、特番の延長を余儀なくされた。

 中にはコマーシャルに入り、そのまま会見中継を終了してしまった局もあったようだ。





 ……総理官邸、記者会見場……


 二藤部は控える柏木に声をかける。


「では、後はよろしくお願いします柏木さん」

「わかりました総理」


 柏木はニっと笑う。


「じゃ、行ってくるよフェル」

『ハイ、がんばっテください、マサトサン』


 フェルも柏木とともに、お忍びで会見場にやってきていた。

 無論、バレたら事なので、キグルミシステムの日本人モードだ。


 濃紺のブランド物なダブルのスーツに真っ白なカッター、そして赤いネクタイ姿の柏木。

 ヘアースタイルは、オールバック風な髪形に整え、いつも以上にパリっとした姿である。


 彼は会見場に姿を現すと、国旗に一礼。

 そして桐花紋の描かれた演壇に立つ。

 ゴホンと一つ咳払いをし…… 


「えー、二藤部総理大臣より、先程ご紹介に預かりました、この度、政府特派大使に任命されました、柏木真人と申します。みなさんよろしくお願い申しあげます」


 柏木は軽く一礼をする。


 その瞬間、バシバシとカメラのシャッター音が会見場に響きわたる。

 柏木はその音が静まるのを待つように間を開ける。

 しばしじっと黙り、原稿をペラペラと流し読みをする。

 そしてシャッター音が鳴り止むと、目の前にいる記者に目線を合わせ


「よろしいですか?」


 と軽く問いかける。

 記者は、なんとなくコクンと頷く。

 柏木も軽く微笑浮かべて数回頷くと、落ち着いた口調で話し始める。


「さて、わたくしの事は、IT関連のお仕事に就かれている方などはもう良くご存知の方もいらっしゃると思います。そして、今、この放送をご覧になっている国民の皆様の中にも、お仕事上で私の事をご存知の方も、多々、いらっしゃるのではないかと思います……私の素性や、私が今、この場所に立つことになった経緯に関しましては、先程、二藤部総理大臣がご説明された通りでごさいまして、特に付け加えさせて頂く事はございません……まぁただ……それでは記者の皆様も面白くないと思いますので、二、三お話させていただくとするなら……私も今まで色々な場所でこういった、まぁプレゼンテーションのような事を仕事としてさせていただいてきたわけですが……そうですね、過去には東京エンターテイメントサービスさんの商品をプレゼンし、米国で最大のソフトウェア会社であるジェネラルソフトさんの商品をプレゼンさせていただいたり……そう言う事を今まで『商売』としてさせていただいたわけでありますけど……ん~、何と言いますか、まさか自分の人生で『内閣総理大臣紋章』……この桐花紋をですね、この前で、そして世界中の記者のみなさんを前に……日本国民の皆様の前で、国益を担う立場の人間として、こうやってお話させていただく事になる日が来るとは……何と言いますか……人生とは色々あるものだと、日々実感している所存でございます……」


 一言一言を詰まらせる事なく、噛むことなく、堂々とした態度で話す柏木。

 ジェネラルソフトのプレゼンで、万人を前に丁々発止やってきた腕は伊達ではない。

 この程度の人数の記者を相手に演説をかます事など、彼からすれば慣れたものである。そうでなければ政府特務交渉官などという職は勤まらない。

 自分の事、そのデータは二藤部があらかた話した。そんなのを二回も話しても仕方ないので、自分の心情や、そこに至るまでの裏話的なことをチョロっと織り交ぜながら、記者の好奇心をくすぐる会見……いや、プレゼンを行う。


 今日は、柏木真人という自分自身を商品にして、国民に知らしめるプレゼンテーションなのだ。


 記者達も、普段はスカした顔をして聞くところを、柏木の話す好奇心くすぐる話を聞き逃すまいと身を乗り出して聞き入っていた。


 そんな中、柏木は中国人記者の方を見据えながら、柏木が中国人マフィアに狙われた件などもジョークを交えながら話した。


 その時のフェルの行動。フェルがいきなり自分に抱きついてきて、ウホっと思ったら、マフィアにつけられており、フェルの機転で拘束した話など……

 記者の中には、当時突如封鎖された渋谷一角に疑問を持って取材を続けていた者もいたようで、指を鳴らしてパソコンのキーを叩いている記者もいた。


 その話を聞かされた中国人記者は、柏木と目を合わせなかった。

 じっと柏木が目線を向けるので、しばらくすると一旦会場から出て行ってしまった。


(やはり連中が紛れ込んでいたか……なるほどね……)


 そして柏木は話を締めくくる。


「……そういう事で、私はイゼイラ星間共和国へ向かうことになりますが、まぁ、何といますか……私は人類で最初の異星文明の国家へ出向く人類になります。日本国民の皆様、そして世界各国国民の皆様のご期待に添えるよう、彼らの星へ参ります……帰国した際には、色々とお話できることもあろうかと思います。では、その時には皆様に良いご報告ができるよう努めて参りますので、よろしくお願い申し上げます」


 そして進行係が質疑応答へ話を進める。

 それはもう二藤部の時以上に記者からの挙手が我も我もと挙がる。


 柏木はその挙手した記者の中から、興味本位で韓国の記者を指さす。

 

「朝鮮時報の朴と申します。柏木大使、韓日は現在親密な関係にありますが、もし大使がイゼイラ議長と会談をした場合、東アジアの国際関係の重要性や歴史的経緯を説明し、それを踏まえた何らかの進言をするべきだと思いますがいかがでしょうか?」


 流暢に日本語をしゃべる朴という記者、しかし訛っている。

 柏木はこの質問に……


(ハァ? お前らと日本が親密だぁ? あの大統領でか? で、何?『歴史?』『進言する“べき”』だぁ?……相変わらずデカイ態度で質問するなぁこいつらは……やっぱ思ったとおりだなぁ……)


 この記者を指名したことを激しく後悔する柏木。


「はい、そのような機会があれば、ティエルクマスカ―イゼイラと日本国、他、東アジアのみならず、世界各国との重要な関係を説明したいと考えております……以前、私がヤルバーンのさる高官とお話をさせていただいた際、イゼイラは地球の歴史的経緯等も調査し、かなりの『詳しい』情報を有しているようでしたが、ティエルクマスカという国家は、そのような歴史・文化・習慣を乗り越えた連合国家であると説明されていました。もしそのような機会があった場合、こういった観点での理解も私は必要になると考えております』


 柏木は遠回しに『んなことシラネーヨ』と言い放つ。

 他国の東アジアとやら以外の外国人記者から『くだらねー質問するんじゃねーよ』という殺視線を朴とやらに浴びせかける。


 そして次、日本人記者を指名する。

 今日は、記者クラブ以外の記者にも全開放しているので、色んな報道機関がやってきている。


「わくわく動画の佐古田と申します。えっとですね、柏木大使もご存知だと思いますが、今、この記者会見をライブ動画で流していまして、えっと、その視聴者からこんなコメントが流れているのですが……視聴者のコメントにお応えしていただいてもよろしいでしょうか?」


 柏木は分かっててこの記者を指名した。

 韓国記者のくだらない質問の後なので、ちょっと砕けた質問を期待したからである。

 堅い話ばかりだというもの面白くないだろうと考えた。


「はいどうぞ、ご遠慮なく」

「では、えっとですね、一番今多いのが……『柏木さんとフェルさんはデキているのですか?』」


 この質問に会場からドっと笑いが起こる。


 控室ではフェルが『モウ!』とプ~ となっている……『ナんでこんな記者サンを指名するですカ!?あとでお説教でス!』とかなんとか、ブツクサ言っているようだ。


 柏木はコケそうになるジェスチャーをして、おどけてみせる。


「ハハハ、え~ そうですね、私もネットなどでフェルフェリアさんといっしょに写真に撮られている画像や動画などがあることを承知しておりますが、フェルフェリアさんは、ご存じの通り、イゼイラ調査局の局長職をしていらっしゃいます。そこで、日本の一般的な生活を体験したいということで、私の家の部屋の一部をお貸しし、お世話させていただいているのも事実でして、そこで日本の一般的な生活を体験調査されていらっしゃいます。まぁその様子も色々と存じておりますが、これは個人情報に関する事もございますので、言及は差し控えさせていただきたいと思います。イゼイラではそういう事も重要な調査対象になるようでして、そういった部分が都市伝説的に拡散したのではないでしょうか?」


 と誤魔化した。

 まぁこんな質問だろうと予想はしていた。

 案の定、動画のコメントには


【柏木逃げた!】

【逃げた】

【ニゲタ―――(゜∀゜)―――― !!】

【柏木逃亡】


 だのと弾幕状態であった。

 そんな中にも「柏木ガンバレ」やら「柏木宇宙へ逝く」だのと……まぁ励ましのコメントも見られたりする。


 佐古田という記者は「もう一点!」とお願いをし、柏木はそれを受け付ける。


「えっと、あと、柏木大使はヤルバーンにいらっしゃる『キャプテンウィッチ』と呼ばれている方をご存知ですか?」


 シエの事だ。もちろんそのニックネームで呼ばれている事も知っている。


「はい、よく存じております。ヤルバーンとの会合でよくお会いしますよ」

「では、今、視聴者から、『キャプテンウィッチの本名を教えて欲しい』という意見を沢山頂いておりますが、いかがでしょうか」


「あ~、そういうご意見ですか……困りましたね、う~ん……ちょっとお待ちください」


 柏木は一旦、奥に引っ込む。

 フェルに「どうだ? 教えてもいのか?」と聞くと、先にもうシエと連絡を取っていたそうで「かまわないと言っていましたヨ」とOKが出たので教えることにした。


 まぁ、柏木が選挙活動をいずれするときには、シエも応援に来るというのだから、別にかまわないという判断なのだろう。実際、特に機密事項というわけではない。そして、メルヴェンの創設趣旨を考えれば、ソッチのほうがいいという判断だった。


「あ、おまたせしました」


 演壇に戻る柏木。


動画コメントには


【ワクワク】


 というコメントが弾幕状態。


「えっと、ただ今ご本人と連絡をとりまして、OKが出ましたので、お教えします……彼女の氏名は、シエ・カモル・ロッショさんという方で、ヤルバーン自治局の局長職に就いておられる方です。動画などでもうお分かりと思いますが、イゼイラ人とは違う、別のティエルクマスカ連合加盟国ご出身のお方で、ダストール人という種族の方です……で、ですね、少しお話しますと、このシエさん、皆様のお付けになった『キャプテンウィッチ』というニックネームを大変気に入っていらっしゃいます。ま、そういうことですね、よろしいですか?」

「どうもありがとうございます」


 佐古田は満足そうに礼をして着席する。


動画コメントには


【シエサンキター】

【キャプテンのニックネームを知っているとは!】

【やっぱりキャプテンがイイ!】


 だの、これまた弾幕状態。まぁ好きにしなさいと。


 ……そして、質問を終了しようとすると、最後に中国の記者が、指名もしていないのに発言をする。

 さっき一度退出した記者だ。

 進行係が「質問は所属と氏名を……」という言葉を無視して大声で話す。

 柏木は左手を上げで進行係を制して、その記者の質問を聞いてやる。


「中華新報の楊と申します」


 この記者も日本語で話す。中国訛りなしゃべり方。

 柏木の偏った知識には、そんな名前のマスコミは知らない。

 柏木は頷く。


「大使は、今回のイゼイラ訪問で、現状の日本国の対外的な状況の説明や、日本国とイゼイラの安全保障関係の交渉などは行われる予定でしょうか?」


 (なるほど、そうきたか……)と思う柏木。

 現在の中国の状況を知っている他の記者達も、この質問の真意にピンとくる。

 まぁしかし、柏木は軽くこの質問を流す。


「私はそういったお話をする権限を持っておりません、ですのでその質問にはお応え致しかねます。ですので関係部署の方にお聞きなさった方がよろしいかと思います」


 まぁ実際その通りである。

 メルヴェンの提唱者とはいえ、彼は指揮者ではないし、指揮権限などもない。

 実際、そんな話が出るかどうかも知らない。


 しかし中国が過敏になっているのは、今の質問で確実に理解できた。

 柏木はネクタイをクイクイと上げるジェスチャーをする……

 


 ……フェルは控室のモニターでそのジェスチャーを確認した。

 これはフェルと柏木の間で取り決めていた合図である。

 その内容は『コイツは注意』という合図である。


 フェルはVMCモニターを立ち上げ、シエを呼び出す。


「シエ、今のマサトサン、観ていましたか?」

『アア、確認シタ。アノ“きしゃ”ハ、ダミーカ?』

「そうかもしれません。要注意です」

『ワカッタ。“きしゃ”自身ヨリ、アノ質問ノホウダナ』

「そうですね、よろしくおねがいしますよ」

『ウム、了解ダ』





……アメリカ大使館でテレビを見る新見とドノバン……


「やはり出てきましたね、ニイミサン」

「ええ、中華新報ですか……中国政府関係者しか知らないような内部機関紙ですよ」

「ということは……」

「まぁ、現在の中国中央政府か、軍政府モドキか、そのどちらかが送り込んできたのでしょうな」

「いいのですか? あんな得体の知れない者を首相官邸に入れるなんて……」

「わが国には報道の自由がありますよ、大使」

「なるほど……」





 ……閉めようかと思った質問時間であったが、まだまだ続々と記者達から数々の質問をされた。


「世界初の外宇宙旅行者になる感想は?」

「宇宙に行くための、訓練か何かを受けているのか?」

「外国人の同行を進言できなかったのか?」


 等々。


 しかしそんな中、誰しも聞いていそうで聞いていない質問が出た。


「イゼイラまで行くのに、どれぐらいの期間を必要とするのか?」


 「あ……」と思う柏木。よくよく考えたら、全然聞いていなかった。

 ヴェルデオは、以前地球に来るまで1年半と言っていた。なので、そのぐらいだと思っていたから、聞いていなかったのだ。

 柏木的には、今回の渡航は、2年ぐらいの期間を要すると踏んでいたからだ。それぐらいの覚悟で臨んでいた。


「それは申し訳ありません。機密事項に関することですので、お答えを差し控えさせていただきます」


 と誤魔化した。



 ……そして、柏木は記者会見を終える。

 記者達に一礼し、背筋を伸ばして壇上を去る。



 控え室に戻る柏木。

 スタッフからは拍手で迎えられる。


「こんな感じでどうでしたか?」

「はい、問題なかったですよ、柏木さん……しかし、『フェルさんとデキていますか?』って……あの質問はどうでしょうね」


 ハハハと笑いながら二藤部が突っ込む。


「いや、その前の質問があんなのだったでしょ、ま、そんな感じです。ハハハ」

「しかしよ先生、あの最後の質問、『それは機密事項です』って誤魔化したけど、実際のところどうなんだよ」


 と三島


「そうですねぇ……なぁフェル、よくよく考えたらそこんとこ聞いていなかったけど、どうなんだ? 一般相対性理論で、今度地球に戻ってきたら300年後でした……ってのはシャレにならないぞ……」

『ダイジョイブですヨ、マサトサン。今はチョット難しいお話になるので、詳しくはお話できませんガ……そうですね、『今なら』片道を地球時間で5日ぐらいで行けると思います』


 え?……と唖然とする柏木に二藤部に三島、他スタッフ。


「ち、ち、ちょ、チョット待て。5千万光年を、5日!??」

『ハイそうですヨ』


 だからどうした? というような表情のフェル。


「時差は?」

『そうでスねぇ、ティエルクマスカ領域の一部航路で、亜光速航行いたしますかラ、……半日から1日といったトコロでしょうか?』

「はぁ!?……」


 フェルは話す。

 当初、彼女達がイゼイラを出たとき、1年半かかったのは、別段地球に直行していたわけではないからだと。

 それまでに他の任務をこなすため、色々と星々をまわっていたからそれぐらいかかったという。

 それと、地球に来る“行き”の航行は、ヤルバーン単独の空間跳躍の繰り返しでやってきているので、仮に任務ナシで、直行するとしても、二ヶ月はかかるという……いや、その期間でも驚きだが……


「え?じゃなんで帰りは5日なの?」

『ウーン、ココではちょっと口で説明しにくいです。旅立つ当日に説明するデすよ』

「はいはい、わかった。んじゃその時たのみます」

『ハイです』

 

 三島は、二藤部の肩をチョンチョンと突付き、コソコソ話で話しかける。


「(なぁ総理、こんな総理官邸の控え室で、えらい会話してるな、俺達)」

「(ハハハ、ええ、そうですね、こんな所で地球の物理学の常識を覆すような発言が連発されていますからね)」


 クククっと苦笑いする二藤部と三島。

 二藤部は、この事を咄嗟に『機密事項』といった柏木に感謝した。

 そりゃそうだ。5千万光年を、ほぼ実時間で5日でいける技術なんてのは、表現しようのないほどのトンデモ技術だからである。

 VMCやハイクァーン技術は、相応の科学力が人類にもつけば、いずれ可能な技術かもしれないが、この空間跳躍などという技術は、そりゃ『相応』などという言葉では言い表せないほどの技術力がいるのは誰の目に見ても明らかだ。


 そんなものを、この総理官邸の控室で『新幹線より、飛行機のほうが早いよねー』みたいな感覚で会話している自分達も、もう相当感覚が麻痺しているのではないかとさえ思う。


 いや、よくよく考えたら、イゼイラ人と付きあって、もうそれが当たり前となりつつあるからだろうか……彼らの通信技術にしてもそうだ。この距離をリアルタイムに近い時間でやりとりしており、信任状をハイクァーンでデータ造成してくる。それを平然と当たり前のように天皇陛下へ捧呈する。


 つくづく人類、いや、日本人というべきか、その文化適応能力というものは、明治維新の例もある通り、ほとほと地球の他国と比してもすさまじいものがある。


 こんな地球科学の常識を覆すような会話にしても、控室で茶でも飲みながらしてしまうのであるから、もう今の日本はヤルバーンが日本に飛来した当時とは既に様相が変わりつつある証でもあった。


 そして二藤部はフェル達が、こんな技術でまだ『ティエルクマスカは広大だ』『宇宙は広い』というのであるから、その宇宙とやらは、どんだけの広さがあるのだろうと思わずにはいられなかった。


 逆に言えば……こんな事を『はい五日でいけます』とホイホイ記者会見で言っていようものなら、どんな事になっていたかと……正直、ゾっとする……


 二藤部は思う。


(こういう技術があるからこその、ティエルクマスカ連合という連合国家なのだろう……)と……

  



 ……で、そんな二藤部の思いとは裏腹に、パニックだったのは柏木家実家……


「お兄が……お兄が……大使?……う、うちうにいくの?……」とブツクサ呟く屍状態の恵美。

「なななな……なんて大それたことを……」寝こむ寸前の絹代。


 そして、テレビの前で、腕を組み、ウルウルと涙する真男。

 同じ男としては、息子の一世一代の晴れ姿。やはり嬉しいものである……当の本人はどう思っているかはしらないが……


 三日前、宇宙人を嫁に連れてきて、親兄妹の知らん間に政府要職についてしまっているだけでも心臓飛び出るほどの驚きであったのに、今日はトドメでコレである。


 さて、これで帰国し、大臣に選挙が待ち構えていると知ったら、この一家はどうなることやら……


 ……八王子の端っこのイナカな家には、続々とマスコミの車がやってきていた……まったく罪作りな息子であった……





 ………………………………






『宇宙、それは最後のフ……』


 というのは、日本でも有名なアメリカの傑作SFのナレーションである。

 この作品に出てくる宇宙艦艇は、大きな円盤を乗っけた鳥のような姿をした美しい宇宙船である。

 それらが『ワープ』して光速以上の速度を一般相対性理論の縛りから解放されて、宇宙を翔ぶ。


 ワープの概念には古今東西色々な考え方がある。


 このアメリカSFの場合では、宇宙船の周りに亜空間を形成して、空間を常に位相させながら光速度を超えるという方法。

 なので、ワープ1・2とかいったワープ速度の単位がある。


 日本で有名な、大戦中の戦艦が改造されて宇宙を行くSF作品のワープは、別の空間と別の空間を亜空間的にひん曲げて、くっつけ、そこに飛び込んで、別の宇宙空間に転移しようとする方法。


 銀河系を飛び出すという意味では、こちらのワープな方法のほうが優秀だったりしなかったり。


 ワープという方法が、なぜに宇宙空間を航行する際にどうしても必要かというのは、これも全部アインシュタインのオッサンのせいである。

 あの御仁が『物体は光速に近づけば近づくほど、加速質量が増し、物体は光速を超えられない』などとぬかしたものだから、これを何とかできんかと、世の知識人は頭を捻らせた。

 そして西暦201云年、人類はその『加速の障害』となる『質量』の根本となる現象の糸口を発見することに成功する。それがかの有名な『ヒッグス粒子』である。


 早い話が、その粒子がモノに絡まりついて、運動を阻害するから質量が生まれたというものだが、逆に言えば、そのうっとおしい粒子の干渉を受けなくする物を考えれば、その装置を積んだ宇宙船は、宇宙に存在する物質を粒子にしながら爆進できるという寸法になる。しかも抵抗が純粋にゼロなのであるから、質量による干渉も受けることがないため、時間のズレも生じないし、その気になりゃ光速以上の速度を得ることも可能である。


 他にも光速を超える方法はある。

 これは自分の家でも簡単に実験することができる。

 そこらへんにある棒を持ってきて、くるりと捻るだけである。

 棒の先端の情報は、まったく同じ速度でもう片方の先端に同時に伝わる。ハイ光速を超えた。

 この棒の長さが、1光年あればどうなるか? ここでウサンクサイ屁理屈を言う連中は『その棒は宇宙空間の惑星や恒星の質量に影響されるから云々』だとか『原子構造がどうのこうの』と頭の柔軟性のない理屈をこねるが、そんなことはどうでもいい。要は物の考え方だ。

 

 この理屈によく例えられる現象が、いわゆる『量子テレポーテーション』と言われているものである。

 この現象が不思議なのは、物体の最も小さい呼称の『量子』の世界では、ある片方が、変異すれば、対になる全く同じ性質のもう片方の存在も瞬時に同じように変異するという性質がある。

 この対になる存在が、100万光年先にあろうが、100億光年先にあろうが、別次元の別世界にあろうが、片方の性質が変質すればもう片方も同時に同じように変質するのだから、不思議なものだ。これは現在の科学では、もう『そういうものだ』としか言いようのない現象である。これが先の『棒を回す』理屈の例えである……

 しかし、この量子テレポーテーションは、現在の理論物理の世界では、あくまで『情報』伝達がそういう理屈で成り立つという事であって、物体が物理的に移動するというものではない。そのあたりは、よく誤解されるところでもある。




『……で、デすネ、マサトサン。ディルフィルド航法機関というものハ、このように量子情報の伝達を解明し、その情報伝達理論を利用して航路を設定した後、ベルナー素粒子キャンセルシステムと、位相空間移動法、空間歪曲移動法を複合的に使用して、通常空間とは違う…………って、マサトサン?……マサトサン?』

「zzz…………」


 ムン!という顔をするフェル。

 ポコンと柏木の頭を叩く。


「え。ほえ?……」

『人がせっかく説明シてるのに、何を寝てるデスカ! マサトサン!』

「あ、いやフェル、参った」

『ヘ?』

「はっきり言う…………なんのこっちゃよーわからん。悪ぃ。聞いた俺がドゥスでした。スンマセン」


 腕を組んでプンとなるフェル。


『モウ……せっかく解りやすく説明していたノニ……ダメですよ、ワタシも日本の事、ちゃあんとお勉強しているのデすから……』

「い、いや……あれで『ワカリヤスイ』のですか?フェル様、わたしゃ真壁さんクラスの脳ミソがないと理解できないと思うのですが……」



 ……あの、フェルが涙に枯れた日から2週間後、ついにその日が来た。

今、フェルと柏木は、羽田空港のVIP用待合室にいた。

 そのVIP待合室には、何十人ものSPが護衛につき、鋭い視線を周りに放っている。

 政府関係者もいそがしく待合室を出たり入ったり。


『じゃぁマサトサン、私は一度ヤルバーンへ戻ります。また後で』

「ああ、みんなにもきちんと挨拶しておいで……それと、シエさんやリビリィさん、ポルさんにも例の件……」

『ハイ、了解デスよ、マサトサン。まぁ、シエに任せておけば大丈夫デス』

「ああ、そうだな。ゼルエさんもいるし、そっちは心配ないか」


 そうすると、部屋に白木と大見が入ってきた。

 白木は手に何かレジ袋を持っている。

 大見も右に同じ。


「よう柏木、調子はどうだ」と白木。

「柏木、いよいよだな」と大見。


 ほらよと二人からレジ袋を渡される。


「ん? おいおい、ピクニックに行くんじゃねーんだぞ」

「まぁいいじゃねーか、俺達からの餞別だ……」

「すまんね、え~どれどれ……」


 袋の中には、日用雑貨、幕の内弁当にカレー弁当、家のマークのカレールー


「おいおい、なんだよこのルーは」

「フェルフェリアさんのだよ」

「いるのかなぁ、こんなの……」


 そしてゴソゴソと更に袋をまさぐる柏木。

 ガンマガジンの最新号に、温泉の素……そして、男性の女性に対するゴム製のエチケットグッズ……


「ブーー……なんなんだよ、これ!!」

「え? 麗子から」

「はぁ!?」

「おいおい、知らねーとでも思ったのか? なぁ大見」

「おう、柏木、お前もとうとうって奴なんだろ? お前のお袋さんから俺と白木の家に電話あったぞ、くれぐれもよろしく頼むって」

「はぁ……母さん……何もコイツらに電話まで……」


 カクッとなる柏木。


「何いってんだ、いいお袋さんじゃねーか……まぁ、気をつけてってわけじゃねーけど……」


 そういうと白木は目を少し鋭くし……


「くれぐれも頼むぞ……」

「ああ、わかってる……あぁ、それとオーちゃん」

「ん?」

「ヴェルデオ大使や、シエさん、ゼルエさんには話をつけている。いざとなったら、向こうさんの部隊の指揮も非公式で取ってもらって構わないって。久留米さんにも話はいっていると思うから」

「ああ、了解だ。任せろ」


 頷きあう三人。

 

 そんな真剣な話をしているとフェルがいつのまにやら、その袋の中を、興味本位で漁っていた。


『わぁ~……コレはカレー弁当にカレールーですね!……って、アレ? これは一体何でスカ?……ネェネェ、マサトサン! コれはなんですかぁ』


 男のエチケット道具をうら若きフリュが堂々と掲げて、デルンに聞きに来る。


「ああ! フェル! そ、それは!……」


 ……そんなアホな構図の後、フェルは予定通り、一旦ヤルバーンヘ、VIPルームから転送帰投する。

 これは、フェルが帰国するということを公表していないためだ。

 フェルが一時的にもいなくなるのは、ヤルバーンとしても対外的に結構困った事になるので、外にはヤルバーンヘ仕事で引きこもったと言うことにするらしい。

 なので、一旦ヤルバーンヘ帰投し、後の段取りを付けてから、デロニカで空港まで再度来るという事だそうだ。


 そんな話をしていると、二藤部や三島に春日もやってきた……そして秘書が手に何かを持っていた。


「先生、いよいよだな!」と三島。

「よろしくおねがいしますよ、柏木さん」と二藤部。

「がんばってくださいね」と春日。


「みなさんまで来て頂けるとは……すみません」

「何いってんだ先生、外見てみろよ、別に送別式典をするわけでもねーのに、人でごったがえしてるぜ」

「そうですよ柏木さん、なんだかんだいっても世界最初の異文明旅行者になる方ですからね、あなたは……これは歴史的なことです」

「ちゃんと帰ってきてくださいよ、柏木さん。でないと困りますから」


 わかりましたと三人と握手する柏木。

 そして、二藤部が少し真剣な顔になり……


「それと柏木さん、あなたにお渡ししたいものがあります」

「はい、なんでしょう」


 二藤部は秘書から何かアタッシュケースようなものを恭しく受け取る。

 そして一礼して、アタッシュケースをカチャンと開けて、中身を柏木に見せる。

 その中には、紫色の巾に包まれたものが、入っていた。


「これは、陛下から託された物です。向こうに行った際、議長閣下にお渡ししてほしいと」

「えっ!」

「中身はわかりませんが、そういう代物です。くれぐれもよろしくお願いいたします」

「畏まりました総理」


 柏木も、その品物に一礼して、恭しく受け取り、VIPルームにいたイゼイラ人スタッフにそれを預ける。

 その品物の意味を教えると、イゼイラ人スタッフも驚き、ティエルクマスカ敬礼でそのケースを受け取った後、重要品扱いにして、運んでいった。



 


 そして……出発の時……


 柏木はVIPルームの自動ドアを開けて、ロビーに出る。

 そこにはそれはもう大勢の人が集まっていた。

 マスコミが流したニュースを元に、思い思いの格好をした人々の人だかりができていた。

 中には【柏木大使 いってらっしゃい!】とプラカードを掲げる人も。

 全員、言ってみれば見知らぬ赤の他人だ。しかし、これほどまで多くの人から見送られるといのも、柏木は初体験だったので、なんとも照れくさい。


 柏木もそのアイドルでも応援するかのような黄色い声援に答えて手を振る。

 すると後ろに付く白木が、


「おい、あれ」

「あ、来てたんだ」

「そりゃあたりめーだろ、行って来いよ」

「ああ」


 絹代に真男、恵美が見送りに来ていた。

 柏木は三人に近づく。


「よぉ」

「真人ぉ! もう! 何だよこないだのあのテレビ! 一言ぐらい言いなさいよ」

「あはは、すまん、母さん。まぁ何分こういう職なんでね、秘密も多くて」


 そして真男が


「くれぐれも体に気を付けてな」

「まぁその点は大丈夫だよ、なんせイゼイラだし」

「ははは、そうか、病気になっても、向こうの医学じゃたちどころにってやつか?」

「そういうこと」


 で、恵美は


「もう、お兄、私あのテレビ見て、数日間PTSDになったんだからねっ!」

「知らねーよ、兄貴のことをテッポーバカ呼ばわりするからそうなる。恐れいったか」

「はいはい、今回ばかりは認めてあげるわ……で、気をつけてね」

「おう」


 そして小声で


「(フェルさんは?)」

「(もう向こうで用意してる)」

「(そう、くれぐれも泣かしちゃダメよ)」

「(何いってんだか)」


 そういうと、柏木は、母と抱擁して別れる。

 絹代は泣いているが、柏木はそんなに長い時間ではないと宥める。

 しかし、やはり5千万光年彼方というのは、そう簡単に納得できる距離ではないだろう。


 そして……


「かしわぎくぅ~ん」

「お、美里ちゃん達も来てくれたのか」

「あったりまえでしょ!」


 そう言いながら近づくと、側に美加と、麗子、大森に田中さんもいた。


「ありゃ、みなさんお揃いで」


「こりゃまた遠いところに出張だなぁ柏木君、いや、柏木大使とお呼びすべきかな、ははは」


 と大森。


「くれぐれもお体に気をつけ下さいね、大使様」

「はは、やめてくださいよ田中さん、そんなガラじゃないですって……あ、麗子さん!」

「はい、なんざんしょ」

「なんですかその“ざんしょ”って……あれ、なんですかもう……変なもの渡さないで下さいよぉ」

「あら、必需品ではありませんこと? 私も崇雄と旅行の時……」

「あー! もうわかりました、ハハハ」

「オホホホ、後はこちらにお任せしてくださいな」

「はい、よろしくお願い致します」


 すると美里が


「はいこれ」

「え?なにこれ」

「お守りよ、旅行安全祈願」

「お、すまんね」


 で、美加も


「はい、おじさんこれも」

 

 と、柏木のPVMCGに何かデータを飛ばす美加。


「ん? 何このデータ」

「向こうに行ったら、今度はおじさんが翻訳機能を使う番でしょ? だからイゼイラ語翻訳データベースを作っておいてあげたよ」

「うわっ、すげ…… 美加ちゃんイゼイラ語も覚えたの?」


 そういうと美里が


「ええ、まぁ発音は無理だけど、聞き取りと文章なら、かなり読み書きできるようになってるわよ」

「ええっ! こりゃそのうち白木超えるかもな……」


 もしかすると美加もサヴァンかもしれないと柏木は思う。

 確かに美加の語学能力は元々群を抜いている。

 PVMCGをもらって、覚醒してしまったのか?と思ったりする。


 ……まぁこの連中は、多かれ少なかれ、もう場慣れしているので、涙の見送りなんてことはない。

 内容もわかっているので、柏木一家に比べたら、サッパリしたものだった。


 そして出発ゲートへ……



 空港には、6機のデロニカが飛来していた。そして一機を除いて空中待機している。

 

「おいおい、6機もデロニカ持ってきて、何をする気だ?」

「さぁ~……」

「編隊でも組んで帰るのか?」


 空港でデロニカを6機の壮観な様をみる観客は口々に話す。

 すると、柏木を乗せた黒塗りの政府公用車が着陸していたデロニカ一機に近づいて、柏木を降ろした。

 その瞬間、空港の観客からワァ~っと歓声が上がる。


 マスコミのカメラの放列はシャッター音を轟かせ、観客はやんやと騒ぐ。


『はい! ただ今、柏木特派大使が、政府公用車から姿を現しました。こちらに手を振っているようです。世界初の異星文明渡航者となる柏木大使ですが、これから5千万光年彼方のイゼイラ星間共和国へ旅立とうとしていらっしゃいます……なんと、驚く事に、イゼイラまでの日程は約五日間ということで、この信じられないティエルクマスカ―イゼイラの宇宙船開発技術に世界各国は驚いているわけですが、現在もこの様子を観測するために、世界各国の宇宙機関が探査機器をフル動員して、この一部始終を記録しようと試みているようです』


 そんな報道キャスターの仕事にも熱が入る。

 

 まぁ、観客の中には


【柏木!フェルさんは俺の嫁】

【安心して逝け。フェルさんのことは任せろ】


 だのと、書いたプラカードを掲げているヤツもいる。

 ……しかしそのフェルさんは、デロニカに乗っていたりするわけだが……



「ふう、大変だった……やんややんやの大騒ぎだなぁ」

『ウフフ、ご苦労様でス、マサトサン』


 デロニカの中で待っていたフェル。

 柏木の上着をポソっと脱がせてくれる。


『モウ、後は飛ぶだけですから、リラックスして下さイ、マサトサン』

「ああ、ありがとう……」


 そう言うと柏木はポソっと中央ラウンジのソファーに座る。

 ヤルバーンから選抜された運行スタッフが行き交う機内。

 その中には、柏木も初めて見る、イゼイラのワーキングロボットの姿も見えた。

 その姿は、ロボットとはいうが、完全な人型アンドロイドのようだ。動きが自然である。

 ただ、少し挙動が、某映画のロボット警官のような挙動を見せる。それで人間ではない事が区別できる。 


「フェル、で、この6機ものデロニカ、どうするの?」

『ウフフ、まぁ見ていて下さい、ビックリしますヨ』

「?」


 機内が慌ただしくなる。

 機内放送で、状況が刻々と通知される。イゼイラ語なので、何を言っているかわからない。

 柏木は、PVMCGの翻訳機能を稼働させ、機内放送に耳を傾ける。


『デロニカ1から6まで、長距離航行モードへの移行準備完了』

『了解、デロニカ2~6は所定の位置で待機』

『了解』


 そう放送が流れると、柏木の乗るデロニカ1は、フっと空中に浮かび上がる。

 他のデロニカは、上空で円陣を組み、くさび形の先端を、中心に向けて待機。

 その欠けた位置に、デロニカ1が入り、完全な円陣が完成する。


『デロニカ各機、恒星間長距離航行モード、クラージェ形態へ移行』

『クラージェ形態、移行開始、合体結合シークエンス開始』


「え!合体だって!?」


 柏木がそう驚くと、大きなくさび形の機体6機が先端を円陣中心に合わせ接近し、各機側面からハイクァーンを利用した接続器をシュンシュンと造成して、お互いの機体をガッシリ繋いで、一体化させていく……


 ……そして、対角線長150メートルクラスの大きな六角形状の機体に形状を変更させた…… 


「おお! すげっ! デロニカってこんな事ができるのか!」

『ウフフ、驚きましたカ? これがデロニカの恒星間長距離航行形態、“デロニカ・クラージェ”です』

「へぇぇ~」

『各機体の内装を変更させていますのデ、このデロニカ1がメインブリッジ区画となりまス。そして2が居住区画、3が貨物区画、4が娯楽・食堂区画、5が医療・実験区画、6が武器、兵器庫区画になります』

「武器兵器庫区画!?」


 おどろく柏木、武装してんのかよと


『ハイです。障害物の破砕や、まぁ、ティエルクマスカ外の宙域では、海賊行為なども稀にありますからネ。そういう輩を懲らしめる為に必要なのでス』

「なるほどねぇ……宇宙にもソマリア沖みたいな事があるんだ……」


 そんな事を話していると、デロニカ・クラージェは出発準備完了。

 外の観客は、クラージェ形態に移行する様を見て、全員呆然としていた。


 クラージェはシュンシュンと音を鳴らしながら、アイドリングのような状態に入る。



『デロニカ・クラージェ……発進エンゲージ



 ヴォンっという音を鳴らし、クラージェは垂直に上昇していく。

 外部モニター化された壁面からは東京の街がグングンと小さくなっていく。


 柏木は


「行ってきます……」


 と小さく呟く。


 クラージェは更に高度を上げる……



 ……空港で空を見上げる白木達。



「行っちまったな……」と白木。

「ああ……」と大見。



 ……ヤルバーンブリッジでモニタリングするシエ達



「ハァ……楽シミガ当分無クナッテシマッタ……」とシエ

「はぁ? 一体何の楽しみっすか?」とリビリィ

「またどうせろくでもないことですよ」とポル。

「大丈夫ですよ、まだ色々仕込んでいるみたいですから局長は……ハハハ」とヴェルデオ



 ……二藤部達も空を見上げる。

 ……柏木一家も空を見上げる。

 ……麗子や美里も空を見上げる。


 ……そして、新宿のとあるビルの屋上で、山本達も。

 ……演習中の久留米達も。

 ……柏木に関わったみんな、空をみあげていた……






 ……クラージェは成層圏を突破して、地球の稜線が見える……宇宙に入る。


「ハハ…………俺、今、宇宙空間にいるんだ……」


 クラージェの壁面モニターにへ、くっつくように立つ柏木。

 まるで宇宙の中に立っているような錯覚を覚える。


『ソウですよ、マサトサン……』


 フェルが側に寄り添ってくる。


「ハァ……人類がここまで来るのにどれだけの歳月とコストが必要になるか……しかしこの機体なら、簡単にここまでくるか……大したもんだよなぁ……」


 まるで夢でも見ているような気分の柏木。

 しかも、そこらへんの旅客船にでも乗っている感覚である。なんともはやだ……


『マサトサン、チョット付きあってくださイ……』

「ん?どこに行くの?」


 フェルは機内転送装置を使って、柏木を居住区画に連れて行く。

 そしてその区画の、何もない集会用ホールのような場所に連れて来られる。

 その場所にも、壁面モニターに大きな地球が映っていた……


『マサトサン、こっちへ……』

「ん?」


 フェルは柏木をホール中心付近に誘う……すると……


『地球の皆さんハ、宇宙というト、こんな感じのイメージではないデすか?』


 フェルはそう言うと、PVMCGを操作する。

 その瞬間……


「うわ! うわわわ……ハハハ、そうそう、こんな感じだよ。へぇ~……ハハハ」

『ウフフ、気に入っていただけましタか?』


 フェルは、人工重力発生装置を切り、部屋を無重力状態にした。

 大きなホールをフワフワ浮かぶ二人。

 手を繋いで、お互いどこかに行かないように、引っ張り合う。




「やっぱ、地球は綺麗だよな……」

『ソうですね……でも、イゼイラも綺麗ですヨ』

「そうか……楽しみだ……」




 両手を繋いで、地球を眺める二人。




 地球の放つ美しい光は、二人を鮮やかに照らしていた……

 





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[良い点] \\\(۶•̀ᴗ•́)۶////いやあ♪♪素晴らしい٩(ˊᗜˋ*)و作品です(´இ□இ`。)°♪♪ 主人公☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆これから(・Д・)??どういう運命 (੭…
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