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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
12/119

-4-

「……ただ今帰りましたよっと……」


 柏木は10日ぶりに自宅へ帰宅する。

 大阪に行ってから、もう10日が経っていた。

 阪大病院を一週間で退院した柏木は、すぐには帰宅せず、当初の目的であった千里ニュータウンの山田へ赴き、かつての自分の住んでいた父の会社の社宅を訪れた。


 山田に行った柏木は、かつての日々に思いをはせる。昔ながらの団地は、今や洒落たマンションに姿を変え、かつての面影はもうなかった。こういうところに来て郷愁に浸る自分は、ほとほとオッサン化してるのかなぁと思う。


 だが、こんなところでもベビーヘキサの影響は大きかったようだ。

 小学生が先生に先導されたり、親に手を引かれて帰宅する子供の姿が多い。

 そしてパトカーの姿も頻繁に目にする。

 この千里のベッドタウンに似合わない自衛隊の車両も、多くはないが数両みかけた……千里ニュータウンでこんな自衛隊の車両が通ることなどまずありえない。確かに伊丹に駐屯地があり、千里ニュータウンからは距離的にそんな遠い場所にあるわけではないが、まれに中国自動車道でみかけるその姿を、こんなベッドタウンのど真ん中で見かけることはありえない事なのだ。


 その後、大急電鉄山田駅でタクシーに乗って万博日本庭園に行き、この度の件の疲れを少し癒やした。

 日本庭園内にある抹茶喫茶で抹茶をいただきつつ、ノートを出して、この度のことを少し整理してみた。

 こんな事をしても特に何か役に立つわけでもないのだが、日本庭園の緑に囲まれた中は、こういう物思いにふけるには丁度良い場所だった。


 日本庭園を離れる時、残念だったのは、併設されていた大好きだったエキスポランドが廃墟となり、もう無くなっていたこと。

 エキスポランドで死亡事故が起き、それがきっかけで閉園になったのはもう随分前の事だが、実際にその閉園になった廃墟の姿を見ると、やはりうすら寂しいものがあった。


 そしてその後は急な仕事が入り、本来予定にはなかった尼崎と神戸に急遽行くことになり、そこで二日ほど費やして、今東京に帰ってきた。


 しかしその間、まぁ気を遣うことばかりで、行くところ行くところ大阪府警や兵庫県警の私服警官が、ずっと見えないところで身辺警護に付いており、コンビニで物を買っても、どこからかスッと警官がやってきて、コンビニ袋の中を調べられ、新神戸から新幹線に乗る時も、座席と時間を護衛の警官に決められて乗らなければならない。しかも自分の席の前後左右に護衛が付き、トイレに行くにもさりげなく一緒についてくる。トイレに入る前にトイレを検査されるなど、本当に気疲れするばかりだった。


「世のVIPって言われる人の気持ちが良く分かるわ……」


 そう感じつつ、東京駅へ到着したのだが、そこから警視庁へ身辺警護の担当が移り、家へ直行するならパトカーで送るというのでお言葉に甘えてパトカーで送ってもらった。


 パトカーに乗ったとき、警察官に「どうでしたか?東京は」と聞くと、警察官は、


「あの小さいのや、デッカイのが来たときは、もうどうなるかと思いましたね。ほら、映画でゴジラってあったでしょ、もうあれですよ。避難警報のサイレンが街中で鳴り響いて、地下街や地下鉄構内は満員御礼、最初の二日間は、あの渋谷や新宿がゴーストタウンになりましたからね。そこに向けてガラガラの街中の公道に戦車やら装甲車やらが隊列組んで走るんですよ、あれでパラボラアンテナみたいなものを付けた戦闘車両でもあれば、そのまんまでしたね」


 と饒舌に説明してくれた。警官的にも、やはり相当ショッキングな出来事だったらしい。

 柏木は入院中に、新聞やニュースでそのあたりのことを見聞きしてはいたが、現場の人間に直接話を聞くと、やはり映像やアナウンサーが言っている事とは違うリアリティがある。


 警官が「ゴジラ」を引き合いに出すのであるから、相当な物だったのだろう。大阪市内もベビーヘキサで相当な混乱があったようだが、東京はその親玉がやってきたのであるから、そのパニックたるや地方の比ではなかったのだろうと容易に想像できた。


 その後、段階的に警報が引き下げられ、一週間後には警報は解除され、現在は今までの東京を取り戻したようだが、やはりあのギガヘキサが飛来してからは、緊急車両や軍用車両が東京のど真ん中を頻繁に行き来するようになり、東京の上空を戦闘機や偵察機、哨戒機にヘリコプターが頻繁に飛び交う現状は、やはり以前の東京ではないと警官は言う。


 そして経済の方も、かなり不安定な状況になり、株価もこのところまるで雷のようにそのグラフが乱高下しているそうで、このままの状態が続くのはあまり好ましい物とは言えないとも言っていた。


「でもね、面白い事も起きてるんですよ」


 と警官は言う。それは観光業界とそれに関連する株、例えば関東に基盤を持つ交通業界関係の株や、出版、テレビ業界の株が軒並みストップ高になってるという。


 この株価が日本の経済悪化をかろうじて押さえ込んでいるらしい。

 それは、ギガヘキサが相模湾に鎮座してしまい、何にも行動を起こさないため、あの空中停止した全長10キロメートルの荘厳な物体が、関東一円の観光資源になってしまっているそうだ。

 特に海外からの観光客の来日は凄まじいそうで、奇しくも政府の『観光大国宣言』をこの2~3日で達成してしまいそうな勢いであるそうだ。

 海外ではその国の日本への渡航制限令が、有名無実化してるそうで、東京行きのチケットがとんでもない高額で取引されているという。


 ただ観光と言えば問題なのは、羽田空港が現在閉鎖状態にあることだ。

 それは羽田空港への太平洋側アプローチコースにギガヘキサが高度800メートルという高さで空中停止しているので、空港が使用できないのだ。


 ギガヘキサを迂回してやれば着陸できないこともないのだが、相手はシールドを張っている事もあって、そのシールドの有効範囲もわからない。おまけにいつどういう動きをするかもわからない。あの場所からベビーヘキサをまた大量に放たれたら、大混乱とか言う状況ではもはやなくなる。そういった理由で、航空事故防止のため空港と空路の使用禁止措置を行っているのである。

 正直なところ政府としては、とっととそこをお退きいただきたいというのが本音であるのと同時に、この観光バブル状態を利用したいという複雑な状況でもあった。


 現在は成田国際空港や、関西国際空港に羽田の便も割り振っているが、それもそのうち限界が来るだろう。この事が羽田一極集中の弱点となって露呈してしまい、国会でも野党の与党批判のネタにされてしまっている。






 ……こんな話を警官に聞きながら柏木は自宅に到着した。

 

 まぁパトカーに乗ってみたかったという子供みたいな理由もあってそうしたのだが、家、つまりマンションに到着したときは、知った顔のご近所の拡声器おばさんにバッタリ出くわし「何やったの!真人ちゃん!」と聞かれる始末で、理由をごまかすのにえらく往生した。


 そして、近所の噂になるのが確定と覚悟もした……


(まぁ、犯罪者はパトカーで帰宅なんてしないし……)


 まぁ大丈夫だろうと納得することにする。


 ちなみに警官には柏木の素性は聞かれなかった。おそらく『聞くな』という命令を受けていたのだろう。そして聞かれたことにはすべて答えてやれと言われていたのかもしれない。でなければ、護衛とは言え、あそこまで警官が饒舌にしゃべるのもおかしいと後から思った。





 柏木は家に入るとネクタイを無造作に外し、物置状態になっているリビングのソファーに放り投げる。

 スーツの上着をハンガーに掛け、そのまま冷蔵庫へ直行。

 缶ビールに手が伸びるが、時間を見るとまだ昼の1時。手のひらをワキワキしながらノンアルコールビールに選択を変更。プシュっとあけて一気にグイと飲み干す。


「ハァ~(なんか半年ぐらい大阪にいた感じだ……)」


 今やあの出来事以降、自分の完全なプライベート空間はこの家だけになってしまった。

 まぁ、今はゆっくりしたいところだ、首をコキコキしながらリラックスする。


 テレビの電源をONにして、ワイドショーを見ると、いや、この時間帯に普通に放映していた他の番組も今やみんな臨時のワイドショーを放映している有様で、相模湾を囲む様々な地域でギガヘキサの映像を映していた。



 しかし見れば見るほど非現実的な映像だなと思う。

 しかし見れば見るほど絵になるヤツだとも思う。

 しかし見れば見るほど……


 ……色々な事を、この全長10キロの物体に思う。

 

(どんな連中が乗ってるのだろう……)


 乗ってる連中の容姿を想像してみたりする。

 タコみたいな連中か?まぁ異星人ならとりあえずお決まりのパターンだ。

 3メートルの宇宙人みたいなのか?

 最近の流行ならグレイみたいなのが相場であろう。


 しかし、元ゲームプランナーでもある柏木は、かつて色々と読みあさった資料の中にあった言葉を思い出す。


『相似』と『収斂』


 生物学の用語で、生物の間で機能的、形態的に同じような役割を果たす物が、別の進化を遂げ、別の形態に発達した物である状態を言うらしい。

難しい事はわからないが、例えば、鳥は空を飛ぶために羽毛を生やした。

 しかし昆虫は、キチン質の堅い羽を筋肉の力と俊敏さで飛ぶことを覚えた。コウモリは羽毛の代わりを、薄い弾力性のある皮膜のようなもので飛ぶことを覚えた。


 これは逆に言えば、同じような環境条件下であれば、あるところで生まれた生物が、全く別の星で同じような形態で生まれても不思議ではないことも意味している。


 この無限とも言える宇宙空間でも、「鉄」という物質は、地球にあろうが、10億光年彼方にあろうが鉄は鉄である。酸素は酸素であって、アミノ酸はアミノ酸である。


 そういう中で、生物が進化し、知恵を持った物が生まれ、道具を使うようになり、科学の力を得る。そう考えると、連中も実は我々と同じような形態の存在なのかもしれないと思う。

 確かに手の指が6本であるかもしれないし、3本であるかもしれない。目は3つあるのかもしれない。

 しかし『知恵』を使うという生態を持つ動物の形態とは、手に準じたもので道具を造り、立体的に物を見据える目を持ち、大きくもなく、また小さくもなく、そんな生物なのではないかと思う。

 その始祖がどんな生物の種であるかというのは、そんなに重要な物ではないのかもしれない。

 

 地球だって例外ではない。太古の地球は大型恐竜が闊歩する世界だった。つまり自然という存在は、生命の最強の姿に、体をでかくした生物の姿を選んだのだ。

 しかし地球に隕石が落ち、その恐竜達は滅んだ……一説によれば、鳥類に姿を進化させ、鳥類自体が今でも恐竜の子孫として生きているという学説もある。

 そしてもう一つは、命の大型化をあきらめ、極寒の環境でも生き残るように哺乳類に進化し、さらにそこへ『知恵』を命に与え、『人類』という、あらゆる環境に生態的に適応させるのではなく、知恵で適応させる生命を自然界は誕生させた。

 現在では、その進化の頂点に立つのは人類と鳥類と昆虫という説があるらしい。


 ではもし隕石が落下せずに、恐竜の世がその後も続いたとしたら?

 恐竜がそのままこの地球で謳歌するのか?もしかしたら、どっかの3体合体ロボットアニメのネタではないが、恐竜型人間のような存在が登場したのか?


 人類が人類たる理由とは実のところ、たまたまが猿が人になったというだけの話じゃないか?


 ……そんな事にも思いをはせたりする。

 しかし、どんなに進化した存在があったとしても、その形態は決してタコのような物ではないだろうと柏木は思う。


(しかし、あのタコみたいな異星人、考えたの誰だ?バカだろ……)


 そう思うと、吹き出しそうになる。今、この状況だから吹き出せる馬鹿な考えである。

 






 ……そんな事を考えていると自宅の電話が鳴る。

 めんどくさそうに椅子から立ち上がり、電話を取る。


「はい、柏木です」

「おー!柏木先生!ご在宅でございましたか」


 その変な丁寧語を聞いて、眠気に襲われかけていた目がシャキっとする


「おー!白木か!どしたん」

「『どしたん』じゃねーだろお前、上の人間から聞いたよ。エラい目に遭ったんだってな」

「まぁな……公安までやってきてよ、今VIP扱いですよ。家の外にも警護の警官がいるんですわ」

「おう、その話も聞いてる。で、おめーの身の安全を確保する方法をどうするかって話も出たんだろ?」

「……なんで知ってるの?」

「まぁ色々あってな、で、公安さんから具体的な話出たか?」

「いや?なんか『身の振り方の提案をそのうちするから、そのつもりでいてくれ。やるかやらないかは貴方の自由だ』って話だったけど」

「そうですかそうですか、ニヒヒヒヒ」


 白木がこの笑い方をすると、たいがいろくでもない。ってかワザとやってるだろこの野郎……と思った。


「……なんか知ってるのか?お前……」

「ううん。ぼくしらないよ。いい子だからわかんない」


「…………言えぇ!……」

「わっはっはっは。まぁまぁ。で、今からオマエん家、行くからな、どこにも行くなよ、ではでは……」

「おい!おい白木!……チッ、あー切りやがった……なんなんだよアイツは……」


 ということは……と柏木は思う。


(その『提案』って奴が決まったって事か?でも公安だろ?なんで白木が……あー、山本さん、なんか白木も混ぜるとか言ってたな……)


 柏木は(まぁなるようになるか……)と、とりあえず事の成り行きを見てみようと思った。

 ただ、白木が関わると、『ろくでもないこと』ならまだマシで、『トンデモナイ事』になる場合が多々あるため……背筋に不安がよぎらないでもなかった。







 しばし後、家のインターホンが鳴る。

 受話器を取ると、液晶画面に白木の姿が映る。


「あー、ウチは国家権力の陰謀と謀略の押し売りはお断りしておりますので……」

『あーそう、そーいうこと言っていいわけ?』

「なんだよう……」


 すると白木は、玄関をドンドンと叩き出し、抑揚のついた声で


『あー!柏木さ~ん!今日は貸した金の利息支払日でしたよねぇ~!金返してくださいよぉ~!』

「だああああああぁぁぁぁぁ!!」


 柏木は脱兎の勢いで廊下を走り玄関を開け、白木を家に引きずり込む。


「白木ぃ~……それは反則だろー……オマエの顔でそれやったらシャレになんねーんだよ……」

「ふはははは、情報官様を相手に抵抗するとこうなる。良く覚えておきたまえ」

「あー、もう、あがれよ!」

「はいはい、お邪魔しますよっと……」


 白木は勝手知った家とばかりに、わんさとサバイバルゲーム用装備が積まれたソファーの隙間にドカっと腰を降ろす。


「コーヒーで良いか?」


 柏木が聞く。白木が家に来るときは、この手のやりとりはお約束。

 しかし白木はいつものギャグの応酬もそこそこに、


「いや……すぐに服着ろ。出かけるぞ」

「ん?」

「まぁ大体わかってんだろ?……ちょっと今からあるとこへ連れて行く……服装はいつものパリっとした『ビジネスネゴシエイター・柏木真人』さんで頼むぜ」

「……ん、わかった」

「あぁ、それから車はお前ので行くから、キー忘れんなよ」

「え?なんでまた」

「そっちの方が都合が良いんだよ。場所が場所だからな……」

「?」


 

 着替えが終わり、さっき帰ってきたばかりのマンションを出る。

 マンションの地下駐車場に赴き、柏木の商用車、日本の誇る高級車トヨハラ・エスパーダの元へ向かう。


「キー貸せよ。今日は俺が運転する」

「え?デカいぞこの車、大丈夫か?」


 白木は車体の四方八方を観察し、頭の中にその大きさや特性を叩き込む。

 いくら友人の車とは言え、一千万円級の高級車だ。キズを付けるわけにはいかない。

 柏木はその白木の姿を見て(あぁ、なるほどね……)と思う。


「ん、大丈夫だ。あ、お前は後ろに乗ってくれ」

「なんで……?」

「そっちの方が都合がいいんだよ」


 柏木は後部座席に乗り、白木はエンジンをかける。


「さぁ、行きますよ柏木先生」


 それでなくても大型で駐車場から出しにくいエスパーダを、初めてでスイと車庫出しする白木に(さすがだねぇ……)と思う。



 

 運転に集中する白木に、柏木は後部座席のリモコンで、オーディオスイッチをONにする。


「音楽でもかけるか?」

 

 エスパーダのオーディオ機器は、SSDに数百曲記録できるスグレ物だ。


「あー、いや、できればニュースかバラエティをかけてくれ」

「あいよ」


 情報バラエティ番組のニュースコーナーでは、二藤部首相が本日、ニューヨークの国連臨時総会で、今後のギガヘキサに対する対応を発表するらしい。発表する内容の予定は、最優先事項としてギガヘキサとのコミニュケーション、対話を試みる方策を検討中である事を発表するということであった。ただ、柏木が不思議に思ったのは、この場に外務大臣の三島が来ておらず、代行の外務省高官が行っているという話だった。


 しかしこの手のニュースを聞いていて、柏木がイチイチいらつくのは、中国と韓国の対応だ。

ニュースでは、中国はこの日本の混乱に乗じて、尖閣諸島に最近は駆逐艦クラスの軍用艦を侵入させてきているそうで、この地球の非常時にまだこんなことをやっているという事。そして日本はその中国の対応に、ギガヘキサの事に加えて、中国に文句を言わなければならないという面倒くさい状況。


 しかも中国は、『今我が国の核心的領土である尖閣で事を起こせば、我が国のギガヘキサへの対応と協力に支障が出る。』『ギガヘキサの情報を持った人間を含めた国際的な会議を行った方が良い』と、いつものカンに障る口調で能書きをたれてくる。


 韓国は韓国で、『ギガヘキサの情報を持った人間の折衝と引き替えに、いわゆる従軍慰安婦の問題を棚上げにしても良い』だの、『竹島への要人上陸中止を検討する』だの妙な言い回しで日本を牽制する始末。


 まぁそうは言ってもアメリカやロシアも、『情報を持った人間との会議を通じて、今後の対応を検討したい』と、どいつもこいつも暗に柏木との接触を要求してるわけで、白木はその事を分かってるだけに、すました顔をしてはいるがどことなく苦虫を潰したような表情を見せる。


 柏木は柏木でこんな国連の席で、暗に自分のことをおおっぴらに言われている物だから


「俺、女の人、一人助けただけだろー。なんでこんな大事になんのよー」


 と愚痴る。すると白木は、


「まぁ……このままでは終わらさねーよ……」と眼光鋭く呟く。


「で、柏木、お前知ってるか?例の下半身不随の男性がスパーンと治っちまった事件」

「あぁ、山本さんから聞いたよ。ホント信じられん事だよな……」

「あの人もな、公安の保護対象に入ってな、東大病院で、徹底的に検査させてもらってるんだよ」

「ほう、よく公安みたいな怖いおじさん達に協力しようと思ったな」

「山本さん怖かったか?……まぁいいや、それで非常に協力的な人でね、もし原因が分かって自分と同じ境遇の人の助けになればって頑張ってるそうだ」


 白木は今から行く場所での柏木の反応を予測し、とりあえず前振りをして探ってみる。


「それは大した人だな、それでなぜ立てるようになったか解ったのか?」

「あぁ……なんだか脊髄神経が完全に修復されていたそうだ」

「そいつはすごいな……しかし脊髄が再生されても、確か……相当なリハビリをしないと神経の信号が脳へ伝わらなくてダメなんだろ?」

「それがだな、なんか脊髄の周りに、見たこともない細胞が大量に付着していたらしくてな、その細胞が、神経の伝達機能を異常なほど増幅させているって話だ。詳しくはしらんがな」

「副作用は無いのか?拒否反応は?」

「今のところないらしい」

「すごいな……あの連中、どんな科学力を持ってるんだよ……」


 そう言うと、柏木は外を見ながら沈黙してしまった。アゴに手を当てて、ずっと何かを考え込んでいる。そして鞄からノートを取り出し、何か書いているようだ。

 白木は長い付き合いだから知っていた。柏木がこの状態になると、柏木の偏った知識をフル動員して何かを妄想しているのである。

 何かは良く分からないが、この妄想の後、柏木は必ず何か突拍子もない事を言い出す。突撃バカモードがONになるのだ。

 こういうタイプの人間によくある「なんか考えて、『これはいいな!』と思ったら、しょーもないことでもやってみたくなって、後で人に怒られる」という感じで、今の話が柏木の何かに触ったようだった。


 白木は(お?いけたか?)と思い、柏木の今の状態が冷めないうちに、目的地に急ぐ。






 窓を眺めて物思い……というか妄想に浸っていた柏木は、「?」と気づき、


「おい白木、ここ、内堀通りだよな……」

「おう、そうだよ。もうすぐ目的地だ」

「え?目的地?」


 この道をまっすぐ行けば……国会議事堂を通る。そしてさらに進むと霞ヶ関だ。

 そしてちょっと行けば、外務省に到着する。


(なるほどね、まぁ白木が噛んでるんだもんな)









 しかし、白木は、三角交差点でハンドルを右に回す。


(えっ?……こっちの方向って……)


 白木が柏木の驚く姿をバックミラーで見てニヤニヤしている。


「おい、白木!……おまっ、こっちの方向って!」


 体を運転席に乗り出して白木に言い寄る柏木。

 

「もうあとちょっとで目的地に到着しますよ、柏木先生~……ご想像通り、首相官邸に到着です~」


 白木はニカっと笑った。




………………………………………………………………




 東京大学医学部附属病院。


 警視庁公安部の山本は、今、脳神経外科部長の調査を終えたところだった。

 例のベビーヘキサの光線を受け、身体障害が完治した男性の医学的所見を調査に来ていた。

 もちろん公安の山本には、専門的な医学用語などわからないため、基本的にはその対象男性に起こった事に対する現代医学の見地からの、言ってみれば感想を聞きに来ていたのである。


「……しかし、信じられませんね」


 部下の下村が言う。


「あの技術を使えば、銃で撃たれて半身不随になった仲間なんかも救えるってことだよな」


 もう一人の部下、長谷部が感心しきりに医学部長から聞いた言葉を頭の中で反芻していた。

 しかし山本はそれに同意しない。


「おいおい、そんな簡単なもんじゃないぞ、俺達の仕事的にはな……」


 山本は渋い顔でこれまでのベビーヘキサの起こした現象の調査をまとめて思い返していた。


「ちょっと疲れたな、茶でも飲みに行くか」

「了解」


 二人は同意する。そして近くの喫茶店で一息入れる。もちろん客の素性を確認しての入店だ。知っている監視対象人物はいないようだ。

 一番端の人から離れたテーブルに着くと、テーブルの下をさりげなく覗いたり椅子の下を触ったりと盗聴器の有無を確認する。もうこれは公安警察官の性である。


「心配するな、こんな場末のサ店に盗聴器なんてないだろ」


 山本は、やりすぎだとばかりに長谷部の肩をたたく。


「山本さん、さっきの話ですが、なぜ簡単な物じゃないんですか?」

 

 下村が小声で怪訝そうに聞く。

 

「わからんか?さっき脳神経外科部長さんが言ってただろ、あの正体不明の細胞、すぐに培養できたって」

「えぇ、そして明日からでも培養したあの細胞を、硬膜外注射でもすれば使えるとも言ってましたね」

「あぁ……よく考えてみろ、その構造や原理がわからないまでも、明日から量産して使える異星人連中の技術が日本に一つ、今あるって事だ。しかもそれはどんな医薬品メーカーが頑張ってもできない薬になる、特効薬クラスのな」

「……言われると確かに、メチャクチャまずいですね」


 下村は唇を噛んで山本に同意する。長谷部も首を縦に振っていた。

 さすがは山本の部下である。山本が杞憂する状況をすぐさま理解した。


 医薬品の開発には、その特許、臨床を含めて一つの薬品に常に数十億クラスの金が動く。それを薬を売った金で回収しなければならない。しかし難病を直す特効薬を作って難病を治してしまうと、いずれその薬が売れなくなる。そうなれば医薬品メーカーは立ちゆかない。

 病気を治せば治すほど市場が小さくなるという矛盾した市場の業種が医薬品業界なのだ。

 特に有名な難病薬品の世界などは、もうドロドロで、薬品の中で比較的高額で儲かるのがその薬品である。

 なので、製薬会社的には、一撃で治り、しかもコストが安い誰でも知っているその特定難病の特効薬などあっては困るのだ。

 特効薬研究の噂を聞けば、その学者や研究機関を何者かはわからないが、それら利権を有する者が潰して回っているという噂もあるぐらいだ。

 かつて日本で有名なその誰でも知っている難病に対するワクチン系薬品があったが、これが認可を受けられなかった経緯に不透明な部分が極めて多いという事は、現在でも言われていることである。



「……だろう?あの燃えた家や直った自動車の件は、ほっておいてもそれほどでもない。なんだかよくわからんが、徹底的に調べた鑑識の話じゃ、直った部分や、再現された部分の物質が原子や分子レベルで積層構造になってるそうだ。なんでも3Dプリンターの原子・分子版とか言ってたが、なんのこっちゃよくわからん」


 部下二人は苦笑する。なぜなら二人は若いので、意味するところが理解できたからだ。


「しかし、あの細胞は話が別だ。明日使える技術だからな。原理なんてあとでいくらでも調べればいい」


 長谷部が山本に尋ねる。


「外国の連中、いやその手の組織の連中、あの細胞の事、そこまで知ってますかね」

「今は、連中、柏木さんに必死だからな……東大には文科省通じて、くれぐれも扱いに注意するよう言っておいたが……まぁ、あの柏木の御仁の登場が、あまりにセンセーショナルすぎたんで、そっちの方面で助かるかもな」


 山本は苦笑する。

 下村、長谷部もつられて笑った。


「柏木さん、近々私たちのお仲間になるんですよね」


 下村が問う。


「非常勤だけどな……彼が首を縦に振ってくれればいいんだが……」


 山本は、つい数日前の事を、まるで随分前のことのように、コーヒーカップを見つめた……

 今まで色んな癖のある人物と対峙してきた山本でも、柏木は妙に印象に残る人物だったようだ。


「一緒に仕事できたら、面白いでしょうね……」

 

 長谷部が言う。


「あぁ……」


 山本は懐から取り出したメビウス・ライトに火を付け、大きく煙を吐いた。



 

…………………………………………………




「……でさぁ、この部屋で誰か待つわけ?」


 柏木は、その部屋をキョロキョロ見回しながら落ち着かない様子だった。

 はっきりいって立派な部屋である。柏木のポル・ポトの隠れ家のようなマンションとはえらい違いだ。

 

 総理大臣官邸に着いた柏木は、平静を装いながらも一生に一度も多分来ることのない建物に、有無を言わさず連れてこられ、どことなく田舎からやってきた団体予約の見学者状態になっていた。

 

「まぁ、そこに座ってくれや」


 白木は柏木に、立派な執務机の椅子に座るように即す。


「えぇぇ……そりゃまずいでしょ。勝手にこんなとこ座っちゃぁ……」

「誰も見ちゃいねーんだ。まぁ座れよ」


 白木はそう言い、執務机の前にある来客用の椅子に腰をかける。


「あぁ、そう?……んじゃ記念に遠慮無く……」


 柏木も……とうとう運命の椅子に座ってしまった……


「ほいよ、コーヒー入れたぜ、柏木”先生”」

「ああ、ありがと」


 柏木がコーヒーカップに口を当てる。すると白木が、


「なぁ、柏木……山本さん言ってたろ、『お前の仕事の事考えてどうにかする』って……」

「あ、あぁ……だからぁ、なんでその事お前が知ってるんだよ」

「実はな……公安と、内閣府と、俺たち外務省が色々検討してな……今回お前の仕事の能力も生かしてだな……で、まぁ……ファーストコンタクト事件もあったろ……」


 白木がなんかいまいち煮え切らない言い回しをする。しかしどことなく楽しんでる雰囲気アリ。


「まぁぶっちゃけた話、日本政府からの仕事の依頼なんだがね」

「政府からの依頼ぃ?……何が言いたいんだよ……」




 白木は執務机の上に伏せてあったネームプレートに手をかけて、パン!とそれを引き起こし、ぐるりと180度回して、柏木の方へ向け言い放った。





「こういう仕事の依頼なんですが、受けていただけますかね、柏木先生!」





 そのネームプレートには、『政府特務交渉官  柏木 真人』と黒地のプレートに、白い筆書きで堂々と書かれていた。 


「ブフぉぁっ!!……ゲホっ!ゲホっ!……グホッ」


 柏木は飲んだコーヒーを吹きまくった。


「うわっなにむせてんだよっ!」

「う……うるへー!……ゲホッ……なんだこりゃ!……聞いてないぞ!」

「だから、仕事じゃねーか、落ち着けよ柏木ぃ」

 

 白木がティッシュを柏木に渡す。

 柏木はチーンと鼻をかみ、スンスンと鼻をすすりながら、


「いや、だからこの『特務政府交渉官』ってなんなんだよ」

「『政府特務交渉官』な……簡単だろ、お前がビジネス『ネゴシエイター』なんてほざいてるからこうなる」

「いや、まぁそうなんだけど……ってそうじゃなくて、ネーミングが大層すぎるだろ」

「いや、実際大層なんだよ、『政府特務交渉官』ってのは、あくまでお前のこれからの「呼称」にすぎん。人事院の登録上は『内閣官房参与』だからな」


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


 実際その通りである。例えば、三島副総理 兼 外務大臣が『副総理』との肩書きを持っているが、日本では、正規の官職として『副総理』という役職はない。正規の役職としての三島太郎は、外務大臣なのである。いわゆる米国のような正規の役職である『副大統領』というのとは違うのだ。あくまで「総理がその役職を遂行できなくなった場合、この人が総理代行をする立場の人間ですよ」というのを総理大臣が意思表示するための『呼称』にすぎないのだ。

 

「しかし……内閣官房参与って、非常勤だけど、国家公務員じゃないか」

「そそ、で、このお部屋も、お前が特務交渉官でいる間は、お前の物」

「う、うそっ!」

「知らなかったのか?内閣官房参与は、総理官邸に一人一つずつ執務室もらえるんだぜ」


 柏木は、あらためて執務室の中を見渡す。


「なぁ……柏木、受けてくれよ、この仕事。俺、正直に言うが嬉しいんだぜ、お前がこうなって」

「なんでさ」


 白木は執務机の前に来客用椅子をもってきて、執務机に肘をついて話す。


「だってよ、よく考えてみろよ、大見も自衛官で国家公務員だろ、俺は外務省で国家公務員、お前だけが今まで民間人だ。正直話したくても話せないこと、いっぱいあったんだぜ、でも……まぁ非常勤とはいえ、受けてくれたらお前も国家公務員だ。これからこうやって一緒にやれる」


 柏木もそれを言われたら弱い。


「それとな、まじめな話だが例の車のテレビで見た国連の件、かなりヤバい」

「どういうことだ?」

「まだ未確認の情報だが、安保理にかけられるかもしれん、この日本がな」

「えっ?」

「中国とロシアが、日本を隔離するべきだと言いだしてる。無論、鎖国状態にするわけじゃないが、人的交流、観光、ビジネスを含めて、日本にいる外国人全員の国外退去、そして、入国の禁止を言い出している。もし入国が必要な場合は国連常任もしくは非常任理事国の許可を必要にするつもりらしい」


 白木がかなり深刻な表情で柏木の目を見て言う。

 まだ交渉官になると決まったわけではないのに、国家機密クラスの情報を柏木にしゃべっているのだ。


「結局外国の連中は、あのバカでっかい円盤にビビってるんだよ。だから日本にその面倒をみさせようって腹だ。隔離中は経済的援助を行うとか言ってるが、何が援助だ。日本は発展途上国じゃねーぞ」


 柏木は白木の悔しそうな顔をじっと見つめていた。


「俺はな、前にドイツに行ったんだ。例の原発事故直後の頃だ……観光に来ていた日本人の家族連れの客が、レストランに入って行くのを見た。そして椅子に座って楽しそうにメニューを見ていたんだ。で、その直後、どうなったと思う?ドイツ野郎ども、その日本人客の周りからスッと立ち上がって、避けるように他の席に移動しやがった……俺はあの時の光景を一生忘れねぇ……あのドイツ人がだぜ……やたら人権とゴミにうるせぇ野郎どもが、日本人を放射性廃棄物扱いしやがったんだ」


「…………」


 柏木は黙って友の言葉を聞いていた。

 白木がこんな話をするのは初めてだった。話したくても今まで話せなかったのだろう。話す相手がいなかったのだ。


「今度も一緒だ……なんで日本はこうなっちまうんだろうな……」


「…………俺は何をすればいい?」

「お前のできる事ってなんなんだよ」


 柏木はしばらく黙していた。そして……息を吸い込んで、


「わかった……受けるよ」


 白木は笑みを浮かべる。

 柏木は続けた。


「で、ギャラは?」

「日当27000円」

「微妙な値段だなぁオイ……」

「法律で決まってるんだよ。悪ぃな」


 柏木は右手の手のひらを出す。そしてパンと白木がその手を叩く。

 刹那、白木は懐からスマートフォンを取り出して短縮ダイヤルアイコンを押した。


「……統括官ですか?えぇ、対象からOK出ました……えぇ、わかりました今から行きます」


 白木は椅子からスっと立ち上がると、


「特務交渉官殿、ついてきてくれ」



 柏木と白木は部屋を出る。

 白木は少しずり落ちた独特な長方形眼鏡の真ん中をクイと押し上げ目線をまっすぐに廊下を歩く。

 柏木は歩きながら鞄の中をチラと確認し、ネクタイをクイと少しあげ服装を整えながら白木の後を行く。

 総理官邸に初めて足を踏み入れたときの田舎者の姿はもうそこにはなかった。

 車の中でスイッチの入った柏木の頭は、白木の言葉で臨界に達した。

 

 ギガヘキサの文明人とコンタクトを取る。それが日本の方針だと内閣総理大臣は言った。


 その策はあるのかと問われれば、策などまったくない。

 ただやってみたいことはある。それが成功するか失敗するか、そんなものは知ったことではない。

 やれるだけのことをやれというのなら、そのアイディアはある。

 あとは国がそれに乗れるかどうか……ただそれだけのことだ。


 白木は目的の部屋の前に立つ。

 アゴで「そこを見ろ」と柏木に言う。


 『未確認大型人工物体対策本部』


 柏木は、三島外務大臣の達筆な字で大きく書かれたその文字をチラと横目で見て、白木に頷く。

 そしてその部屋の扉を開ける……



 

 会議は既に始まっていた。会議途中での入室であったため、少々恐縮しつつ席に着く。

 柏木は会議室を見渡す。

 

 副総理 兼 外務大臣の三島を委員長に、各党の政策部会議員、各省の専門家、警察関係者、防衛省制服組、つまり現場自衛官、そして首相に選任された内閣官房参与、つまり学者や企業経営者級の、その筋の専門家である。

 対策本部会クラスの会合としては非常に大規模である。それだけ今回の事態が緊急を要するものであることが理解できる。

 ふっと見ると、どこかで見たような顔が一人。防衛省制服組の二人の中に……


(あれ?……アレ、オーちゃんじゃないのか?)


 確かに大見だ。大見も視線を感じたのか、ふと見返してくる。そして場違いな顔がいるので目をむいて驚く。

 その姿を見た白木が、柏木の襟元をネコでもつかむような仕草で「連れてきた」というジェスチャーをする。

 大見は苦笑いしながら首を振って、事を察したようだ。コクコクと頷いて隣の上官に、柏木を指差して、何かを耳元で話してるようだ。

 そしてその上官は、ニタリと笑うと、柏木に軽く会釈をする。柏木も何かわからないが、会釈を返す。


 そのやりとりを三島が細い目で眺めていた。



 しかし正直、今会議の雰囲気は重苦しい。

 重苦しい理由というのも、先ほど白木から聞かされた中・露の『日本隔離案』を未確認ながら会議出席者は聞かされていたからだ。しかも間が悪いことに、つい今さっき、米・仏・英も条件付ながら追随する姿勢を見せてきたと言う。


 白木もこれは入室後に柏木たちの軽いやりとりの後、新見から耳打ちされ、今聞かされた。

 白木が最大級の渋い顔をする。

 この情報のせいで、会議は関係部署が作成した資料の作文を読む発表会になってしまっていた。

 本来の『ギガヘキサとの対話』という事を論議しても、近々に安保理で起こるであろうこの事態の方が重要になってしまったからだ。

 正直議論をできるレベルではない。単に各関係部署の『対策案』と言う名の時間つぶしを読むだけになっている。おそらくこのままでは、「では各部署に持ち帰って後日議論を……」というお決まりの不毛な会議の終わり方になるのは目に見えている。


 この会議での決定事項は極めて重要だ。ここで決まった内容がニューヨークの二藤部に伝わり、それが各国首脳に伝えられる。

 今は国連総会で『方針』にしかすぎない事項を、わが国の意思となる『決定・実行事項』にして、世界に知らしめる必要があるからだ。

 もしこのまま何も決められずに『方針』のままで終われば、おそらく安保理が開かれ、件の案件が提議され、決定されるだろう。そうなれば日本のこうむるダメージは計り知れない。

 日本が安保理の議題に乗ること自体が国辱物の事でもある。下手をすれば二藤部政権の崩壊になりかねない。


 この安保理案の発議国となるであろう中国は、コレを狙っていた。

 中国では『タカ派政権』として認識され、とにかく鬱陶しい以外の何者でもない二藤部政権を崩壊させることができ、それによって中国共産党首脳部の国内での評価を上げ、尖閣問題の棚上げ折衝の進展も期待でき、日本にギガヘキサの相手を押し付けられる。つまりこの一石四鳥を狙っていたのだ。




 柏木は、渡された作文資料の束に軽く目を通すと、少し天井を見上げて鞄から例のノートを取り出す。

 おそらく自分にも意見なりなんなりを求められると思っているので、何か発表できるネタがないかとビッシリと挿絵や略図、ポンチ絵などが描かれたノートをめくって過去の自分の妄想を読み返していた。


 白木はそのノートを横目で眺めている。

 白木ならその内容を把握する時間は早い。柏木がページをめくるたびに、白木の目の色が変わる。

 そして白木は業を煮やしたかのように、柏木の肩を叩き、そのノートを見せろとジェスチャーした。

 柏木は恥ずかしいので、ちょっと嫌そうな顔をしたが、白木は「いいからよこせ」というジェスチャーをする。

 

 白木は半ば奪い取った柏木の「妄想ノート」をスパスパとめくって読んでいく。その横では今度は新見がそのノートをのぞき込んでいた。

 そして白木はときたまページをめくるのを止め、特定の場所を指さして新見に無言で語る。

 新見も、そのノートの別の特定の場所を差し、目線で白木と頷き合っている。


 そしてあらかた読み終わると、白木と新見は柏木の方を向き、ニヤっと笑う。そして白木はポンポンと柏木の背を叩く。そして柏木に耳元で呟く。


「柏木、このノートのここからここの部分、プレゼンやれ」

「えぇ?……これをかぁ?」と、一番妄想全開な部分を言われて嫌そうな顔をする。

「新見統括官もこれが良いと言ってる。やってくれ。フォローは俺たちがやる」

「わかった……しらねぇぞ……」


 先の役人が作文の発表会を終えた後、新見はその隙を突いて三島に発言を求める。


「三島副総理」

「おう、なんだ新見君」


 三島も役人の作文発表会に嫌気がさしていたのか、新見の一言に「待ってました」とばかりに応じる。


「ただ今、この柏木特務交渉官が、今回の事態を打開できるかもしれないアイディアを持参してくれました。発言をお許し願えますか?」


「柏木さん……貴方のことは聞いていますよ、なんか面白ぇ方だって話だそうで」


 三島は興味深そうに柏木を見る。


(閣下にまで知られてるのかよぉ……)

 

 と柏木は頭を掻く。まぁそれもそうだ、白木や山本が知ってるんだから、知ってて当然かとも思う。

 会議に出席している出席者は、柏木を見て「誰だこいつは」と言うような目でジロジロ見る。


「あーみんな聞いて下さいな。この柏木さんは、本日付で内閣官房参与扱いの政府特務交渉官っていう役職についた方だ」


 三島はいつもの口調で柏木を紹介する。


「噂には聞いてる人もいるかもしれねぇが、彼があのベビーヘキサと初めてコンタクトをとった人だよ」


 おおお、と会議場がざわめいた。柏木はペコリと一礼する。

 それを聞いた大見もその人物が柏木とは知らなかったようで、滅茶苦茶驚いている様子だ。


「で、柏木さん、なんか良い策でもあるのかい?」

「良いかどうかはわかりませんが、可能性としてのアイディアならあります。言いたい放題言いますが、それに乗るかは政府次第です。そういうレベルの話ですが、よろしいですか?」


 こんな物言いである。君島重工にもこの調子だった。


「ハハハ……んじゃ、聞かせてくれるか?」

「では、そのホワイトボードを借ります」


 柏木は席を立った。

 会議出席者は何をするのかと興味深そうに柏木に視線を注ぐ。


 柏木は一呼吸着くとプレゼンを始めた……



「えー……皆様もご存じの通り、私はあのベビーヘキサと交流を持ったようです」


「ようです?」と出席者から声が上がる。


「はい、状況から考えて、結果的にそうなったようです。そしてその結果、あのでっかいギガヘキサの中に『人』がいるという確信になったと公安の方から聞いています。しかもそれが世界で私以外の事例がないという事で、私自身も驚きました」


 柏木はそれまでの経緯を詳細に話した。

 女性を助けた事、空き缶を投げたこと、ベビーヘキサに文句をぶちかまし、そして名刺をくれてやったこと。……ここで笑いがとれた。


「ハハ……で、私も色々情報を自分なりに収集し、分析しましたが、どーしても腑に落ちない点と、その腑に落ちない点が実はこのギガヘキサ文明人とコミニュケーションできない原因ではないかと考えたんです」


 そして柏木はホワイトボードにツラツラと字を書きながら説明する。


「実は、あのギガヘキサ文明人は我々が使うような『電波』で通信する方法を知らないんじゃないかと……」


 そう柏木が言うと、「ええええ」「それはないだろう」「そんな馬鹿な」と野次が出る。

 しかし柏木は余裕である。


「まぁ普通は皆さんそう思いますよね、私もそう思いました……自分で思って『それはないよなぁ』ってね……でも、彼ら、どこから来たんでしょう?」と、出席者の一人を指さす。


「そりゃ……はるか宇宙の彼方だろう」

「どれぐらい?」

「うーん……」

「ハハハ申し訳ありません、ありがとうございます……三島副総理、秋葉原で著名な貴方ならどれぐらいと答えますか?」


「なんで俺なんだよぅ」と三島が言うと会場に笑いが起こり「ハハハ……そうだなぁ、10万光年か100万光年か、はては一千万光年か一億光年か、そんな感じだろ」


 さすがである。


「さすがですね、その通りです。ワープなんかで来るのですから、それぐらいじゃないと値打ちがない。となれば、そんな距離をどうやって本国や仲間と連絡するんですか?」


 この一言で「あ、そうか!」と気づいた出席者もいたようだ。


「そんな距離、電波でリアルタイムに交信なんてできませんよ。しかも私たちが使ってるようなレベルなら尚更です……あんなワープでやってくる連中です。やはり相応の強力な通信手段を持っているはずです。それが何かはわかりませんが」


 そしてボードに②と書いて、柏木は続ける。


「しかし、電波自体を知らないということはないでしょう。つまり彼らの世界では、もう遙か遠い過去に使わなくなった絶滅技術なのかもしれません」


 そういうと出席者が、


「なら、我々の世界のように、彼らから見れば遅れた技術を使ってるというのがわかるような星なんだから、『電波』で通信してみようと思うのが普通じゃないのか」と問いかける。


 しかし柏木は、


「そう簡単にいかないんでしょうな」と反証する。そして「例えば我々の世界でもそうじゃないですか、今、地デジテレビに全部変えてアナログでテレビが見られない。もしそれを知らない人が日本でアナログテレビでテレビを見ようと思っても、アナログでは決して見られないんです。その逆もしかり。『それが当たり前だろう』と思って、そいつの当たり前の考えで必死にやろうとしても、できないものはできないんです。今はまだ地デジと地アナが変わったばかりだから、すぐに気づくこともできるでしょうが、それが千年や万年単位の使わない技術ならどうです?……今私がたばこに火を付けようと思ってライターがない。火がないからどうする?という事になって、原始人みたいに木と木をこすって火を付けたら良いんだ!なーんて思いますか?……おそらくそれと同じ事なんだと思いますよ」


 出席者は、柏木の例えに頷き始めた。

 柏木は続ける。


「それに、我々の世界はいくら彼らから見て遅れているとはいえ、音速で飛ぶ飛行機もあり、自動車もあるしコンピュータもある。人工衛星もあればロケットもある……彼らの主観から見て、『俺たちの一番初歩の技術を使ってるんだ、これならこいつらも使えるだろう』とか、『このレベルの技術を使えないのならどうしようもないぞ』と思ってるのかもしれません……彼らがその『彼らの初歩の技術』でこちらと必死にコンタクトをとろうと思っても、無理なものは無理なんです」


 そして③とボードに書き、続ける。


「そしてコレが一番重要です……もし彼らがあることをやっていなければ、我々の技術レベルの電波でも出し続けていたら、彼らはそのうち気づいてくれるかもしれません。しかし、かれらがあることをやっている限り、それが絶対にできないんです」


 柏木が、チャチャチャっとギガヘキサの絵を描き、その絵を丸い楕円で囲む。


「シールドです。シールドを張っている限り、ダメなんです。おそらくこのシールドが電波を跳ね返してしまってるのでしょう」


「なぜそう言えるんだ?」と三島が聞いた。


「えぇ、私がベビーヘキサに『待て』と言ったとき、ベビーヘキサは、簡単に反応して私の方を向きました。その後、名刺をさして退かせたのですが、その時、シールドを張っていませんでした。なのであのベビーヘキサは私が声をかけたとき、シールドを張っていなかったのでしょう。なので私の音声を簡単に捕らえることができたのだと思います……しかし米軍が日本に向かうギガヘキサに何回も警告を行ったそうですが無視されたそうですね。多分そういう事だと思います……まぁコレに関しては確証はありませんが」


「でもSFなんかじゃ、シールド張ってても会話してるがなぁ」


 三島が疑問を言う。


「そうですね、SF的に考えたらそうかもしれません。でも実際は案外そういうところで融通が利かないのかもしれませんね。なんせ物理攻撃をいくら加えてもシールドでピンピンしてるような奴です。『声』のような空気の流れも遮断してしまうようなものなのかも知れません」

「でもそうならシールド外せばいいのになぁ」

「そうはいかないでしょう、日本はやってないそうですが、他国はベビーヘキサにさんざんっぱら攻撃を加えたんでしょう?……そりゃ相手も警戒しますよ」


 そこに出席者が質問する。


「では彼らの通信技術は、そのシールドを張ってても使えるようなものだということかね?」

「もちろんそうでしょう。SF的に言やぁ、亜空間通信みたいなものを使ってるんじゃないですか?でなきゃそれでなくても宇宙空間航行中は、隕石やなんやらと船にぶつかってくるんですから、そんな最中に通信するとなったら、そういうものしかないでしょう」


 会議出席者は腕を組んで「うーん」と考え込む。


「理屈は通ってる」「もしそれが本当なら手詰まりじゃないか」などと、悲観論が会議場を包む。

 


 沈黙が流れる。

 しかしそこに白木が声をかけようとしたのを遮るように大見が声をかける。


「柏木交渉官、しかしそれをどうにかするアイディアがあるんでしょう?」


 白木は大見にニヤつきながら「俺が言うんだろ」と指をさす。

 大見はフフンとニヤついている。


「えぇ、大見二尉、……って、え?え?一尉??」


 大見は肩を見せて柏木にアピールしていた。


「(あいつ……いつの間に……)あ、あ、どうもすみません、えぇ、ここからが私の『言いたい放題』になりますが、方法はあります。しかし相当荒唐無稽な話になりますよ、みなさん覚悟してくださいね」


 大見は(荒唐無稽な話なんて、普通言わないだろ……)とカクっと首を落とす。



「さて……」

 

 柏木は手もみをしながら(何から話そうか)というような感じで切り出す。


「まぁ、現状はそういうことなんですが……こちらの意思を連中に伝える方法が、実は……たった一つだけあります」


 絶望的な状況を理詰めで話し、そこへ希望を話す。詐欺師が使う手である。しかし柏木は詐欺師ではない。交渉者である。

 詐欺師と交渉者との違いは、約束を守るか守らないか、言ったことをやるかやらないか、それだけの話。簡単な事だ。そして柏木のこの言葉に会場の出席者は身を乗り出して耳を傾ける。


「映像を使うんですよ」

「映像……そうか、その手があったか!」


 出席者が顔を見合わせて納得する。そう、まったく単純な話である。電波が使えない、音声も効果的ではない。となれば目で見てもらうしかない。さすがにギガヘキサといえど外の風景ぐらいは見るだろう。


「しかしどうやって映像で表現するんだ? まさかプロジェクターでも使って投影でもするのか?」

「どこに投影するんだよ、海のど真ん中に浮いてる物体だぞ。しかもバカでかい」

「海面にはできないのか?」

「仮にそんなプロジェクターをヘリに積んで、海面に投影しても安定性に問題がある。投影できるかどうかもわからんぞ」

「それ以前に、どんな映像をみせるんだよ」


 出席者が当然の疑問を思い思いに話し出し、柏木に投げかける。

 

「要するに、どこに映すかですよね?」

「あぁ」

「ちゃんとしたスクリーンに映してお見せしましょうよ。あの方々に」

「いやだから、どこに映すのかね。そんな大きなスクリーンを海上に展開するなんて不可能だぞ」

「船の甲板です」


 出席者は柏木がサラっと言うこの言葉に「えぇぇぇ?」と疑問を投げかけた。


「そんな大きなスクリーンを張れる船なんてないぞ。タンカーでも改造して使うのかね?」

「それは無理だ。タンカーの甲板上構造物を撤去するだけでもどれだけの費用がかかると思ってるんだ?」


 しかし三島はこの言葉に反論した。


「おいおい、今は銭金の問題じゃねぇだろう。今ケチってたら、日本がひっくりかえっちまうかもしれねぇんだぜ? そんなコストぐらいどうにでもしてやるよ……しかし柏木さん、コストはいいとして、仮にそんな風にやるとしても、工期がどうなるかだ。工期が何ヶ月もかかるようじゃ、話になんねーぞ」


 三島の意見も、もっともである。それまで彼らが待ってくれるとは限らない。それで辛抱切らして地球から去ってくれれば大変結構な話だが、帰るぐらいならハナから地球になんか来ないだろう。何か目的があって来たはずなのだから。


「いえ、全然コストもかかりませんし、工期もかかりません。まぁ若干の工期は必要ですけどね、そんな何ヶ月もいらないですよ」


 柏木が余裕で答える。


「だったら、もったいぶらずに早く教えてくれよ、柏木さん」


 三島の期待感にあふれる微笑に柏木は答える。


「わかりました……」というと、柏木はモソモソと鞄の中から一冊の雑誌を取り出した。

 その雑誌の名は、『月刊 艦』。

 柏木はページをパラパラめくると、「あ、あったあった」と呟きながら……


「こいつを使いましょう」


 と、雑誌のあるページに書かれた、大きな2ページぶち抜き写真を出席者に見せる。

 そこには大きく船の写真が掲載されていた。

 その船の名は……




 海上自衛隊 最新ヘリ搭載護衛艦 『いずも』

 全長:248メートル

 全幅:38メートル

 全通甲板を持つ、航空母艦型護衛艦、はっきりいって空母である。

 その大きさは、戦時中最大の戦艦「大和」にわずか20メートル弱及ばないほどの巨艦である。

 さすがに米国の原子力空母ほどではないが、最近進水したばかりで、艤装も施されていない。今回のアイディア用に、改装も容易と柏木は考えた。


 「こいつの甲板にスクリーンを張って、臨時のマストを何本か作って、そこからプロジェクターで甲板に投影しましょう。 そしてギガヘキサの真下に突っ込んで、大映像大会です。海自さん、どうですか?」


 海自からの出席者が顔を見合わせて、


「今ならできます」


 とはっきり答える。今ならできるのだ。艤装を行いはじめてからでは遅い。

 

 しかし出席者は呆気にとられていた。日本の世界に誇る最新護衛艦を映画のスクリーンにしようと言うのだ。普通の神経では思いつかない。

 だから柏木は言った……『言いたい放題言わせてもらう』『それに乗るかは政府次第だ』と。


 呆然として静まり返る会議場に、三島が締めにかかる。


「他に良い案がないなら、これでいこうぜ」


 会議場の出席者はコクコクと頷いている。大見も自衛官ながら、さすがにこれは予想していなかった。大見もビックリ顔だ。しかし新見と白木が「してやったり」という顔で三島と目線を合わせていた。

 

 しかし柏木ショーはこれで終わらない。


「で、三島副総理、他にアイディア……というより、お願いがあるんですが……」

「ん?なんだい?言ってみろよ」

「どうせなら、「対話」だけみたいなケチな事言わないで、大々的に彼らを歓迎しましょうよ」

「えぇ!?」

「そうですねぇ、映像の内容は、『私達は電波で通信しています』『シールド切って電波を通せるようにしてくださいお願いします』ってなところでしょうか、そこんところの内容の動画を、私が知ってる有名なアニメスタジオに作らせますよ。京都のあそこのアニメスタジオなんかがいいかなぁ……」


 柏木はこのプレゼンの場で勝手に妄想し始めた。こうなったら止まらない。


「で、歓迎大会始めるのは夕方がいいでしょうねぇ……じゃないと、プロジェクターが使えない。いずもがギガヘキサの真下に突入するのは丁度日が落ちるぐらいのタイミングが良いなぁ。あ、相模湾周辺の各自治体に連絡して、日が落ちた頃に花火なんかを打ち上げてもらえれば盛り上がるでしょうねぇ」


 柏木が妄想していると、消防庁の出席者が、


「なら、ウチの消防艇に付いてる探照灯でギガヘキサをライトアップしてやろうか」


 と柏木の妄想に乗ってくる。すると今度は大見の上官、久留米三等陸佐が、


「なら俺たちのヘリも使えるな、大見一尉」

「え!?……え、えぇ。ま、まぁいけますね」


 と大見もつられて納得する。三島も場の雰囲気が良い感じになったと思い、


「陸自さんは間違っても祝砲なんか撃つなよぉ、攻撃されたなんて思われちゃ元も子もない」


 と笑いを取る。この笑いで一気に各担当部署から我も我もとアイディアが出る。


「では、私たち空自は、日がまだ高いうちに、松島の第11に曲技飛行をお客さんの前でやらせましょう。いずもが改装を終えるまでに、できる範囲で訓練させます。目で見えるなら、カタカナで何かメッセージを空に書かせても良いんでは?」

 

 と積極的に意見を出してきた。松島の第11飛行隊といえば、かの有名なブルーインパルスの事である。

 

「柏木さん、どうかね」と三島が聞く。


「いいですね。グッドアイディアです。もし彼らが少しでも日本語を解しているなら文字をあの大空にでっかく書けば効果大ですね、ハートマークでも書いてもらって『ヨウコソ』なんてのもいいかも」

「了解しました」


 決定である。


 柏木がプレゼンを始めて2時間、当初の重苦しい雰囲気はどこかに吹っ飛び、いまや会議は学園祭実行会議のノリである。


 しかし場を読まないリベラル系野党の政策部会議員が空気を読まない発言をする。


「しかし……仮にそれでギガヘキサの人達に我々の意思が伝わったとして、安保理の決定は変わらないのでは……」



 …………せっかくの良い流れを潰すこの議員に、全員の視線ならぬ死線が飛ぶ。



「……い、いやしかしそうじゃないですか! 彼らと対話できたとしても安保理で日本隔離が可決されてしまったら、何にもならないじゃないですか!」


 待ってましたとばかりに新見がフォローに入る。


「先生、それは全く問題ないでしょう」

「どうしてそう言い切れるんですか?」

「よく考えてみてください。せっかく彼らと対話ができたのに、日本を隔離すれば他国は彼らと対話ができない。彼らから得られるかも知れないオイシイ話をみすみす見逃すと思いますか?」


 白木が挑発するように新見に続く。


「もしそれでも日本を隔離するなら、どうぞやってもらおうじゃありませんか。そっちの方が有り難いんじゃないですか? 日本政府独占で彼らギガヘキサ人とシッポリ仲良くやらせてもらいましょうよ。それでもいいなら隔離してみろってんですよ。もし隔離してくれるなら、我々外務省が『ドウモアリガトゴザイマス』『サンキューベリマッチ』『バリショイエ スパシーバ』『謝謝』って常任理事国にお礼を言いに行きますよ」


「し、しかしもし失敗したら!……」


 議員はまだ続ける。他の出席者は心の中で(もう黙れよお前……)という顔でその議員を睨み付ける。

 

「どっちにしろ隔離されるんだ。先生、やれることやって大恥かきましょうや」


 三島が諭すようにその議員に話す。

 その言葉に野党議員は頬を掻きながら引き下がる。

 そう、何もせずにドツボにはまるなら、出来ることをやってはまった方がずっと良い。

 やれることをやったと世界に知らしめた方が、良いに決まっているのだ。


 日本は官民問わず、出来ることをせずに『前例がない』『時期尚早』という言葉で何もせずに失敗するという事をいくつもやってきた。

 やりもせずに失敗するよりも、やって失敗する方がよっぽどいい。なぜなら後に何かを残せるからだ。

 何もせずに失敗してたら何も残らない。どうせ失敗するならやったほうが痛快である。


 柏木はTES在籍時代にそのことを痛いほどわかっていた。なので、この議員先生と新見、三島のやりとりに口を挟まなかった。

 今までのプレゼンで、出席者の官僚や政治家、お堅い学者や年配の経営者がそれを分かってくれたような気がしたので何も言わなかった。







 そして会議は終わる。

 会議は決議した。

 柏木の出した荒唐無稽で痛快無比な作戦でギガヘキサ文明人とコンタクトをとる。

 二藤部総理にはその方針で連絡することを確認する。 

 柏木は映像制作方面でのプロデュースを行うことを確認した。

 そして各省庁、関係部署に役割配分を決め、通達を出す事を確認する。

 おそらく各省庁や関連企業は驚天動地なこの通達にどう反応するだろう。そう考えると柏木は、


(ちょっとやり過ぎたかなぁ……)


 と頭を掻く。


 そして会議の締めの言葉を終えた三島は柏木に向けて、


「よぅ柏木”先生”、作戦名はどうする?」

「この作戦、マスコミにも大々的に発表するんですよね」

「もちろんだ。国民全員でやらなきゃ面白くねぇ」

「じゃぁ、今流行で『お・も・て・な・し 作戦?』」

「ハハハ……んな媚びた作戦名なんか付けると、ナントカChでぶっ叩かれるぞ」

「ハハ、そうですね、では……シールドって殻に閉じこもった異星のお客さんと、大々的なイベントでコンタクトをとって、日本のまがを一掃してもらおうという作戦ですから……天戸作戦……アマト作戦ってどうです?外国人も発音しやすいでしょ」


「アマト作戦か……まぁいいんじゃねぇか?ではそれでいこう」





 日本神話での有名なお話。

 天照大御神が天岩屋戸に引きこもり、日本に災いが降りかかる。

 天照大御神になんとかご機嫌を直してもらおうと神々は様々なイベントを披露して、なにをやってるのだと天照大御神が天岩屋戸を開けてチラ見したところを天手力男神がその手をとって引きずり出した有名な神話。



 天照大御神が引きこもった天岩屋戸の事を、別名天戸とも言う。







 現代日本を禍から救うための『天戸作戦』が始まろうとしていた……








主要登場人物:


柏木かしわぎ 真人まさと

 元東京エンターテイメントサービス企画部主任・現 自称フリービジネスネゴシエイター 白木や大見の高校同期で友人


白木しらき 崇雄たかお

 日本国外務省 国際情報統括官組織 第一国際情報官室所属の情報官 いわゆる外務省所属の諜報員


大見おおみ たけし

 陸上自衛隊 二等陸尉→一等陸尉 レンジャー資格所有者

 柏木・白木の高校同期で友人


久留米

 陸上自衛隊 三等陸佐 大見の直属上官

 -序-でのサバイバルゲーム大会へ、大見達部隊の参加を認めた人物。



山本・長谷部・下村

 警視庁公安部 外事第一課捜査官


三島みしま 太郎たろう

 自由保守党 副総理 兼 外務大臣 衆議院議員。いわゆる「閣下」


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