その9:正月銀連ホエホエ劇場 フェルさんの、『ティ連人と宇宙人』。
皆様、新年あけましておめでとうございます……とも、元旦初日から言えなくなってしまった二〇二四年ですが、令和6年能登半島地震で被災された方に、心からご同情申し上げます。
私も個人的に身近なところでできることはさせていただいております。ですが今はプロの方におまかせするしかないのが現状。とにかく現状が早く良い方向へ向かうことをお祈り申し上げます。
さて、で、此度のお正月オマケ銀河連合日本シリーズ。
此度はフェルさんの経験した、なんとなく昭和の匂いのする事件を表現してみました。
『異星人』なお話というよりも『宇宙人』寄りな此度の物語でございます。
そんなお話。お楽しみください。
柗本保羽
さてさて、これまた二〇一云年の日本でござい。
フェルさんティ連統括担当大臣で、突撃バカが日本国派遣ティ連連合議員様であった頃のお話。
というか、フェルさんが電車乗って実家帰る途中で、なんか変な異空間に巻き込まれて、ひさらぎ駅とかいう聞いたこともない鉄道の駅に飛ばされて……と、ドタバタした事件から幾日か経った頃のお話。
ま、フェルさんが経験したあの異空間、というか異界の件は、もちろんこの地球世界でも、例の女子大生さんが飛ばされたという事もあって刑事事件(誘拐・拉致監禁)として相応の捜査はされた。それでもその殆どがヤルバーン州とヤル研が出した研究レポートの精査だけであって、結局未だよくわかんない話ということで捜査は中断されたままになっている。
ニーラ大先生の研究もあって、あの異界にもう一度乗り込むことはできないこともないのだが、人為的に作られた空間であることは間違いない時空なので、そういう点であの異界のイニシアティブは向こう側にあるのか、異界空間に現在進入不可な状態になっていて、これを強硬に侵入するとなるとティ連の亜空間兵器による時空障壁破壊行為レベルの作業が必要になるかもしれないということなので、まー、そこまでやるこたぁねーだろという話で放置状態になっているというわけである。
実のところここ最近、現在の状況としてティ連と日本国が連合国家として安定した状態に入った時代になっている訳なのだが、あれから人類初の『別宇宙空間』という理論上の存在であった空間の実在認知や、ヂラールといった時空や宇宙レベルでの脅威などを認知した日本、というより地球社会全体において、こういった事象現象に呼応するかのように地球周辺の時空現象、量子論的に言うなら『可能性の事象選択』に色々と変化が生じているのである。
でもまあそんな現象を実際に認知できるようなるには、その事象現象が発現したり顕現してくれないとどうしようもないわけで、フェルや柏木達もその事象の変化に気づくこと、というのは現実の話、ないのであった……
* *
ということで柏木ん家。今は晩ごはん食べた後の家族団らんな時間。
世の公選議員のみなさんは、ヒマができれば地元に帰って後援会の連中とパー券買ってもらってパーティなんてやったりと政治家フォーマットのご多分に漏れず忙しいわけなのだが、このフェルと柏木の二人に関して言えば、あまりそういういう感じでもなく、休日でも後援会へ挨拶に行ったり、どっかの講演会に出向いて講釈垂れたりとかそんな事もなく、案外家でのんびりやってたりするのであったりする……まあある意味当確人気議員の特権と言えばそんな感じもするわけで、キックバックもらってるわけでもなし、ゴニョゴニョゴニョ……
「ふみゅ。おりがいく!」
柏木姫迦こと姫ちゃんが、お寝坊さんなので毎週週末の朝に録画した人気SFヒーロー物のテレビドラマを夕食後に夢中で視聴中。で、その主人公の真似なんてやってたり。姫ちゃんもまだまだ経齢格差もあって、見た目は幼児なのだが、知識精神は相応に発達しているという、長寿ティ連人特有の成長過程の真っ最中。ということで姫ちゃん、暁くんと同様にこのドラマが大スキなわけで、まあ姫ちゃんが見るついでといってはアレですが、柏木にフェルもそのドラマをよく視聴している。
最近は、この手のドラマもOGH施設の仮想空間でこういった番組の制作プロダクションが撮影に来るので、撮影セットがセットに見えないところがすごいトコロである。
「姫ちゃんその番組好きだねー」
「ダイシュキ! だっておっきウチュー人になるのがカッコイイもん……マママルマもウチュージンでしょ?」
『ウフフ、ハイそうですネ~』
いや姫ちゃんも、その宇宙人のハーフじゃんと柏木パパは思うわけだが思うだけ。
「マママルマも、おっきウチュージンになれるの?」
『ママはこの大きさがフツーですね~、ナヨのオネーチャンがなれるかもしれませんね~』
「ホント!?」
とナヨが聞いたらチョットマテと言いそうになることをのたまうフェルだが、まあそのあたりは何年か先に『アーマードナヨサン』という形で実現してしまうわけだが……
ま、そういう姫ちゃんが週末はパパとママ相手に大きな宇宙人の活躍について講釈宣うのを拝聴しつつ、姫ちゃんの一日はおネムな時間で幕を閉じる。
おっき宇宙人のグッズやソフビ人形なんかを枕元において、オヤスミナサイ。
「フェル、姫、寝た?」
『ええ、あのオモチャで相当遊んでまシたからね。なんか今までにないぐらい、あのえすえふ番組が好きみたいですネ、ヒメチャンは』
「まあ、オカーチャンが宇宙人さんだからな、ははは。そこいらへんを重ねてるんだろ? 子供心にさ……で、フェルさ、姫ちゃんの話じゃないけどさ、俺も興味本位でお尋ねしたいんだけど……」
『フムフム? ナンデスカ?』
「実際の話、このアホみたいに広い宇宙でティ連も相当な宇宙探索活動やってるわけっしょ。で、あんな“おっき宇宙人”みたいな異星人サンって……いるの?」
『ウーン……っとデスねぇ~』
とフェルは柏木の質問に言葉を選ぶように、ちょっと渋めの表情で、
『実はですネ、まーーー、いるっちゃ~、イルんですヨ』
その言葉に柏木は身を乗り出して、
「え!! マジ!?」
『ウン……でね、マサトサン覚えてませんか? このドラマが幼児施設のお子サマの間で流行ってて、御近所の子供がみんな見てるのに、私やティ連なママ・パパさんが最初あまり積極的じゃないってのでちょっとご近所の間で、話題になったってハナシ』
「ん? あ、あ~あ、そんなハナシあったな確かに。なんかどうでも良さげな話題だったんで、聞き流してたけど」
『ハイですね。で、ナンでそんな態度をティ連系のママ・パパさんが取ってたのかというとデスね……』
なんか唐突なハナシだが、実はこの世界の日本ではシリーズとして歴史の長いこのドラマが子供たちに人気があるという事で、そんな話題を同じ世代のご近所の子供達がワイワイとするのだが、なんでもティ連系の子供達の間で、そのドラマがあまり見られていないという、そういう話が出ているのだそうだ。
確かにフェルやシエも姫や、暁がこのドラマを見たいと言い出したとき、あまり積極的でなかったような、そんな感じを今思い返してみれば柏木もそんな風だったなあと、思い出した気がしないでもない。
で、実際フェルやシエに、その他ティ連系のパパママさんがPTAの会合かなんかで、そのドラマの視聴会を開き、過去のドラマを数話視聴して、まあ、どういう理由かしらんけど、なんか『子供に見せても問題ない。【アレ】とは別の話だ』とか、意味深なワケのワカラン納得をして、今、姫チャンらがそのドラマを楽しく視聴できてたりする……という、そんな経緯があるドラマだったりするのである。
「……言われてみれば、あの時は『たかが特撮番組』ってな感じで、はは、へーそーふーん、ぐらいの感覚で、その話を聞いてたんだけど、確かにフェル達ティ連人の親御さんは、なんか色々困惑してたみたいなのは思い出したよ。で、あのときの反応って一体なんなんだったの?」
柏木はそんな面白そうな話題も出たことだし、フェルとの会話を楽しむため、冷蔵庫からビールとツマミと、グラスニ個を取り出し、フェルにビールをついで夫婦な会話を楽しむ。
『実は、巨人系のヒューマノイド種族でティ連並みに科学の進んだ種族さんが住む星系国家が、ティエルクマスカ銀河にアルんですよ。ティ連外の国家になるんですけどネ……ティ連の領域からはかなり離れた私達ティエルクマスカ銀河星間連合の正反対の方に位置する領域に存在する、『タウラセン人』という種族の方々なんですけどネ』
「そうなんだ!」
『ハイです……今のニホンジンサンは、ティ連の加盟各国と、ハイラ王国サンぐらいしか異星種族の国家を知らないですよネ』
「ああ、まあそうだな。あとはあのヂラールと、惑星イルナットの、あの滅んだ種族遺跡に、毎度のガーグデーラぐらいか、ティ連外といえばね」
『ですネ。で、ずっっっと前に言ったことあると思うでスけど、ティ連は、ティ連加盟国以外の異星種族国家とも外交関係があったり、貨幣を使用した通商関係があったり、そんな種族に国家を色々と調査して認知しているって話、覚えてまスか?』
「ああ覚えてるよ。ソッチ関係の外交の話はまだ全然進んでいないよな、で、それとその巨人種との話と、どう関係してくるんだ?」
『実はデスね……ティ連各国、と、いうよりも……ティ連本部とその巨人異星人サンって、あまり仲がよろしくないんですヨ』
「え?! そうなの、ってかあー、あ、いや、まあそういうこともあるんだろうけど、でもあの番組みたいなのじゃないんだろ?」
『イエイエ、だ、か、ら、そこが問題ナンデスよマサトサン……タウラセンの方々って、あの番組の異星人サンの設定によく似てるんデス、ハイ……』
「……」
柏木は、ちょっと間をおいて、「 は? 」な顔をする。
「いやいやいや、アレみたいなの……マジでいるの!?」
と驚いて柏木が聞くと、フェルは掌を左右にフリフリ、
『え? あ、ちょっと言い方がタリませんでしたけど、マンマあんなのじゃないでスよ』
「んじゃどんな種族さんなの? 姿かたち写ったフォトとかないの?」
『アルですね……えっと……』とフェルさんPVMCGをチョイといじって、ティ連の外交部データベースを呼び出すと、『こういう方々ですね』
「え?」
そのフェルが見せてくれたフォト、マジで光の巨人である。言葉どおりだ。
「いや、人の形に光ってて、何も詳細な部分がワカンナイのですけど」
『ん~……まあでもそんな人達デスから……』
フェルの話によれば、かなり高度な知的生命体だそうなのだが、彼らの母星の都市文化の様子や、どのような技術体系の科学が使われているか、とかは全く未知……というか、交流自体がそもそも積極的でないので、不明な部分も多いそうだ。
彼らとティ連がファーストコンタクトをした時、彼らは突如ティ連本部人工星系付近に顕現してきたそうだ。
当然ティ連本部星系は今までそんな外部の存在の接近を許した事などないので、こりゃ大変だ一大事だと本部始まって以来と言えるほどのエマージェンシーがかかり、その光の巨人達と、ティ連機動兵器に艦隊との交戦一歩手前までいったそうだが、ティ連の軍事力を見た彼らは、自ら引いて何処かに去っていったそうだ。
「ほう……興味深い話だな」
『マア、ティ連史をオ勉強すれば必ず出てくる話なので、別にヒミツなお話でもないのですけどネ』
「ふむ、で、それからどうなったの?」
『次に彼らと邂逅したのは、とある時にサマルカサンの艦隊がガーグデーラに襲われた事があったデス。そこでタウラセンの方々が突如顕現して、ガーグデーラを撃退してくれたデスよ……』
そして、まあ彼らがティ連に敵対する種族ではないということがわかったので、再度ティ連本部星系に招待して、会談を持ったそうだ。
でも一人の大きさが三〇メートルから四〇メートルにもなるような種族のようなので自ずと宇宙空間での対話となったのだが……
『彼らは自らを「宇宙の監察者」と名乗ったのですヨ』
「監察者?」
『ハイです。で、なぜにティ連と接触を持ったかというと、私達の使う『ハイクァーン・トーラル文明科学』を監視している、ってそんな事を言ったです』
「なんだって?」
ちょっとエンタメ気分で話を聞いていた柏木だが、その一言で少し目の色が変わる……ホロ酔いではあるが。
フェルが言うには、そのタウラセンの連中が言った言葉とは、ティ連領域に存在する、ハイクァーン・トーラル文明圏は、科学技術の見識とハイクァーンの技術レベルが『文明同期』していないから危険だ、とかそんな事を言って自分達が常に観察している、とか言ったそうである。
その話に当時のティ連議長はかなり不信感をもったらしく、
『我々の同胞を助けてくれたことには感謝するが、我々の文明は数十万周期にわたって相応の文明知識と理性をもって安定した文明社会を築いているので、そのような観察は不要だ』
といって、ソレ以上の交流を事実上断ったそうなのだそうだ。
そりゃ『お前らを見張ってるで~』とか言う連中と、普通に考えればマトモな交流などできないだろう。
柏木はフェルの言葉を聞いて、大きく頷く。
「もしかして、そこらへんの事も、発達過程文明の探索をする何がしらのきっかけとなったとか?」
『そこはヨクわからないですけどネ』
そしてティ連はその後、科学部局を総動員して、そのタウラセン人の技術レベルを分析したそうなのだが、彼らは所謂、『後天的な超能力者』の類ではないか? つまり人工的に自らを生物進化させた種族ではないかとそういう結論が出たそうだ。
即ち、彼ら自らが物理的事象に干渉する能力を人工的に進化させた形で可能としている存在で、我々地球人やティ連人が、『乗り物に乗る』『兵器に乗る』『PVMCGを使う』というこういった能力を自分自身で自ら完結できるような、そんな種族ではないかと。
「おいおいおい、んじゃメチャクチャ進んだ種族なんじゃないのか?」
『ト、思いますけど、当時の政治記録文献では、タウラセンの人々は、あきらかにハイクァーンやゼル技術で稼働するトーラル文明圏の諸々の科学力を恐れていた、という記録が残っているでス』
「なるほど……つまり戦闘でもやりあったら、ティ連を自分達と同格かそれ以上、と見ているって事か?」
『そういうことなのカナァと思うですけどね~』
頷く柏木。だが、もしそれでも交流ぐらい持っても良かったのでは? と彼は思うのだが、それをフェルに尋ねると、
『ソレがですね、確かに彼らタウラセン人は、まあ……高貴な方々なのですけど、その使命感ってイウのですか? 宇宙の監察者を名乗っておられるわけで、そのイデオロギーが私達ティ連人から見れば、ティ連を構成する最大かつ最も基本的な「種族の独自性と自由と民主的連携」を取れるような、そういう方々ではナイ、と当時の議長さんや閣僚は判断したのデスね』
「つまり、そのタウラセン人の使命感だけが全面に出て、それが政治的イデオロギーでもあるから、ソレ以外のものがなかったってこと?」
『そういう事デス。こういうのも困っちゃいまスでしょ?』
なるほどなぁと。姫チャンのテレビ視聴に端を発したといはいえ、あの番組をティ連人が見たら、そういう歴史的な出来事が浮かび上がってくるのかと。面白いもんだと柏木は思う。
「で、ソレ以降は、そのタウラセン人とは全然交流がないと」
『ハイです。でもまあ各国の哨戒部隊なんかは、たまにティ連に近い領域で彼らを見かけるそうですケド。なんかカモフラージュしてるみたいですが、ティ連の探査技術をナメてはいけませんですネ』
なかなか面白い話を聞かせてもらった柏木。で、その事を後日シエやシャルリにも聞いてみると、
『タウラセン人? アア、アノデカイ、ピカピカ光ッタ連中カ。ナンカ昔、我々ティ連ニ、エラソウナ事言ッタトカ、ソンナ話ヲ聞クガ、直接見タコトハナイナァ』
とシエさん。そんでもって……
『タウラセン人? ああ、あのピカピカでデッカイ連中な。ケラーもなんでそんな連中の事しってんだ? え? あの週末のSFドラマに似てる宇宙人? アハハ! ああそうか、アレね。確かになんか似てるよな~』
とそんな感覚のシャルリ。シャルリもあのドラマを毎週録画して見てるそうだ。ちなみにシャルリは地球のSF作品のファン。
まあそんな新しい知識を柏木も入手して、宇宙閣僚レベルがパワーアップして結構なことですわいなと、そんな話で終わるはずだったわけなのだが……
* *
さて、ここは警視庁の休憩室。
ハイクァーンベンダーや普通の自販機が置いてある。で、自販機業者との関係もあって、ハイクァーンベンダーを一回使う度に、一〇〇円取られることになっているので、自販機の缶飲料やペットボトル飲料もそれなりに売れている。
そんな休憩室で、熱い缶コーヒーすすりながら少々内緒の会話するのは、警視庁刑事課の人物と、外事一課の山本とセマル。
特にセマルは、刑事課の方から連れてきてくれと要請があっての同席だ。
「…………やまもっちゃん、まぁそういうことで、こっちゃお手上げ状態なんよ。昨日見せた証拠からなんかソッチ系の範疇で、思うところない?」
と刑事課の人物が外事の山本に問いかける。実は山本も元は刑事課出身で、刑事課から公安の外事に異動になった。こういう人事は警察において、早々珍しくはないらしい。
なのでこの刑事は山本の元同僚なのであった。
「“銅”がごっそり盗まれる事件が頻発してるってねぇ……このハイクァーン全盛の連合日本でそんなことやってどうすんのよ。銅の相場なんて、むしろ下がってるだろ。またベトナム人がタイ人か、そこらへんの仕業じゃないの?」
「だからぁ……普通に電線盗んだり、どっかの部品工場で銅製のもの盗んだり、なんて事なら俺達もアンタとこんなところでダベってたりしないよぉ。それにわざわざセマちゃんまで呼んでもらってるんだしさ」
今や警視庁の人気者、セマル・ディート・ハルル。警視庁内では『セマちゃん』と呼ばれている。なんせイケメンなので、警視庁の婦人警官内でヒミツのファンクラブも「あった」程。
なぜ「あった」という過去形かといえば、この時代セマルは、かのエンタープライズな一件で、知る人は知る『西田さん』と結婚してしまっているのである。で、そのセマルがコメントなんぞ。
『ケラー、確かにこの事件、一見すると単純な『ドウ』物質を目的とした盗難事件ですネ……参考までにお尋ねしたいのですが、このドウは、あの一〇エン貨幣に使われている物質ですよネ?』
「ああそうだ。金銀銅ってオリンピックでもあんだろ。まあこの地球で、価値のある金属トップ3みたいに昔から言われているよ」
『ナルホド……』と言いながらVMCモニターを顕現させてスイスイ眺めるセマル。今では警視庁の刑事にもPVMCGは支給されているので、もう珍しくはなくなった。
『ア~、コレですね……この事件デスが、この工場内の銅部品と、原材料の銅線が失われただけでなく、電子機器に含まれている銅物質に、地中成分の銅、更に、この工場から半径三〇〇めーとる一帯の人類やティ連人種を含む全生物の“ドウ”が根こそぎ抽出されて盗難されています』
するとその刑事さんが、
「だろ? その日な、その時間帯で集中的に貧血を始めとした異常なバイタルをもった患者が病院にジャンジャンやってきてな。また何か新しい感染症でも流行ってんのかって戦々恐々としたんだが、医者の話じゃ、全員、そして全生物が体内の“銅成分”だけ抜き取られてるって話になってな」
「オカルトだねぇ……」
「だろ? だからこんな変な現象ってことならやまもっちゃんとセマちゃんに聞きに来るしかないだろってな、そんな話になってよ」
「なるほどな……わかった、協力するよ。でセマル、この証拠見てなにか気づくことあるか? って、ちなみにティ連的なところでさ、銅って物質は貴重なんか?」
『希少金属とイウ意味では、マア、チキュウでもそうである通り、よく産出される金属なのでソウでもないのですが、比較的安定した金属ですカラ、なんせ使い勝手が良いのでどこの星でも使いすぎて需要と供給が追いつかなくなって、『希少』となる金属デスネ』
そう説明されると、山本も、その刑事も『ああなるほど、さすがセマちゃん』と思うわけで、実際そういう金属なのである。
つまり、供給量は相応にあるのだが、ある意味『鉄よりも使える金属』なので、需要が非常に多い。なので希少化してしまっているのだ。リサイクルでも銅が比較的高値取引されるのはこのためである。
で、今度はその刑事が、
「んじゃさセマちゃん、バカみたいな事聞くけどよ、どっかの異星人かなんかがさ、大昔にあったSFドラマみたいに、『銅が枯渇したから、地球に盗みに来た』とか、そんなんで宇宙人が絡んでくる、とか、そういう可能性って、あんの?」
と聞くと、横で「そりゃねーだろ、ぶはは!」と山本も笑ってたりするが、セマルは真剣な表情で……
『イヤ……ナイ事もありませんよ』
笑ってた山本もその笑い顔が静止画像になり、
「なに? どういうことだセマル」
『ハイ、ケラーの仰るような事例、というか事件が過去にティ連で起こったことがありましてネ、それがきっかけで地域紛争までに発展した事件だったのですが……ケラーお二人は、「半知性体」という言葉を耳にしたことはありまスか?』
「いや、ねーな」
とハモって答える二人。だが、これが柏木なら知っている。それはかのヂラールが一時期、その半知性体だと思われていたからだ。
で、セマルはその「半知性体」というものについて、刑事と山本に説明する。
「……戦車や宇宙戦艦を『習性』として作ることができる『動物』だと?」
とセマルの説明に訝しがる表情をする山本に刑事。
『ハイ。で、その半知性体と呼ばれる……マアいうなれば異星人ですね、そういった連中にもレベルがありましてネ……』
セマルが説明するには、そもそも半知性体とよばれるカテゴリーの宇宙生物にも、ある種の基準があって、所謂ヂラールのように生態活動的に機動兵器のような生態系を持つものが最も原始的とされるが、
『……私達のように極めて高度な知的生命体のように「見えル」種族がイルのですが、倫理観が根本的に違い、所謂イデオロギーや、シュウキョウ的に一方的な倫理観しか持たない、というのではなく、生態進化に根ざす、生物としての根源として、我々のような知的生命体と共存できない知的生命体も存在スるのですよ、この宇宙には。それが我々純然たる知的生命体がいう「半知性体」という生物デス』
「んじゃなにかセマル、それがさっき言ってた、紛争までやったって話のナニかよ」
『ハイ……ティ連としてハ暗い話にナルのですガ、結果的にその種族は我々イゼイラ人に対し、敵対行動を決してやめようとしなかったので……滅亡させてしまう結果になりましたガ」
頷く山本と刑事。自分達が知らない世界の脅威に驚異だけに、ただ聞き入るしかない。
が、まあ仕事の話でもあるので、ここは話の筋をもとに戻して、
「で、セマル、さっき『ないこともない』っていってた件だけどよ」
『ああ、ソウでしたネ。ええ、まあ一つ思いつくところがアルのですが、実際ドウなのかなァというのもありまして……聞きます?』
「ああ、モチロン。聞かせてくれ」
セマルの気づいた点というのは、その『半知性体』の中の、『高度疑似文明種』と呼ばれる存在である。
「高度疑似文明種? なんだそりゃ」
『コレはティ連の種族分類用語なのデスが、わかりやすくいえば、「対話が全く不可能なウチュージン」と考えていただければ。まあどういう連中かは一度会って見たほうが良いのですが、正直私は遠慮したいでス』
「なんだそりゃ、はは……まあいいや、で、そういうことらしいからよ、こっちも動こうか? どっちにしろそんな不可解な事件だったら、いつかこっちにもお鉢がまわってくるのわかってるし」
「頼むよやまもっちゃん。ウチじゃもう限界みたいだしな」
ということで、この妙な事件は外事と連携して、ヤルバーン自治局と合同で捜査にあたることとなった。
* *
『……昨日の深夜二時頃、神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地周囲約半径三〇〇メートルにわたり、大きな停電が発生いたしました。横須賀市の発表によりますと、周囲の送電線が突如としてほぼ全て喪失しており、横須賀市は市の緊急事態を発表。米海軍もこの不可解な現象に警戒態勢を発令し待機命令を出している、ということです。横須賀にある海上自衛隊の……』
朝のニュース。ちょっとした珍事で、かつ大きな騒動が起こっていた。
日本国ティ連派遣議員という閣僚職の柏木真人先生は、執務室からこのニュースを視聴していた。
丁度そこへコンビニで買ったハンバーガーを二人分、レンジでチンして持ってくるフェルさん大臣。
『ハイどうぞ、マサトサン』
「おう、ありがと」
二人でハンバーガー食べながらそのニュースを見るわけだが、
「フェル、これってここ最近問題になってる銅ばっかり盗んでるっていうあの事件だよな」
『デスね。最初はチキューの外国人サンの犯罪かもって事になってたミタイですが、昨日のケラー・ヤマモトの報告だと、なんかソウじゃないみたいデスね』
「だろうな。最近ここに来て完全に手口が地球人のやり方じゃなくなってる」
ニュースの犯行現場、といってもかなり広範囲なのでその一部、鉄道の架線をニュース映像は映しているのだが、架線の銅以外の物質はすべて放置されているような現場になっている。
銅の合金だろうと思われる物は、スカスカの脆化した見たこともない物質に変化しており、触れることを禁止されている。
流石にここまでのあからさまな現象となると、もはや誰でもティ連絡みの妙な事件と思うわけで、早速ヤルバーン自治局と、ヤル研連中が捜査に協力しているようで、今ニュース画像にもそれら人員がスタッフジャケット着て写っていた。
『ナンでもこんな施設だけで被害は収まらないミタイですよ』
「どういうことだ?」
『この付近の住民や、米軍兵士サンに自衛隊員サンなんかも、急なめまいや吐き気に襲われた人が続出しているデス』
「ということは……」
『明らかに、チキュー外生命体の仕業としか考えられませんネ。銅物質のみ選択的に窃盗するなんテ、そういう事がデキルのは、“転送技術”しかありませんから』
「なるほどな……でもなんで銅だけ? 昔の昭和特撮じゃあるまいし。自分の星に鉄がないから腹に車押し込んで逃げていく宇宙人のロボットとかわらねーぞ」
『そのロボットサンのことはよくわかりませんガ、セマル君の報告にもあった、半知性体の仕業かもしれないというのは、恐らくアタッテいると思いまス』
「ああ、あの前に言ってた奴な」
『最近はティ連周辺の国家も、こちらの銀河系への出入りが激しいのを知っていますから、当然半知性体の国家? という言い方は正しくないかもしれませんけど、そのコロニーに属する航宙能力のある連中が密かにこの地球に紛れ込んでいる可能性があるかもしれませんネ』
「ティ連以外の異星生物か……ティ連も流石に流入してくるティ連外の連中まで監視できないとか」
『デスね。そもそもでいえば、ティエルクマスカ銀河以外からも来ているかもしれません。そうなったらお手上げでス』
「なるほどね……」
そう、地球もティ連との接触で今や宇宙時代に突入している。しかも急速にである。
当然、今まで地球に潜伏していた異星人とかの類も、ティ連の技術の導入であぶり出される可能性もあわけで、所謂『不法入国異星人』や、『外来種としての半知性体』などもでてくる可能性は大いにあるのだ。
全くの第三の異星人がいた場合、現在はティ連の連合主権の中にもある日本国であるため、その異星知的生命体に対し、話が通じれば警告し、地球外に出ていってもらうか、正当な入国許可申請を出してもらうわけだが、半知性体の場合となるとコレが厄介で、所謂『根本的に話が通じない動物』としての扱いなので、ティ連側もその半知性体の種族データを持ち合わせていないケースもあるわけだから、その連中が事を起こさない限り、その取り扱いをどーすればいいかわからないのである。つまり事を起こした場合は、物理的に抹消してしまわなければならないということだ。
しかも半知性体の中には、一般的な知的生命体の中に隠れて寄生生物の如く狡猾に仲間を増やしていくタイプも多く存在し、また半知性体独自の科学技術で擬態能力に優れるものも多いため、あぶり出すのがなかなか厄介だったりする。
特に現在の地球や日本のような、宇宙規模の安全保障体制がまだ完全に確立していないところなどは、半知性体からすれば良い標的なのだ。それはこの時代以降の未来に起こる、ガーグデーラの地球浸透で人類自体も認識するようになる事案ではあるのだが。
ということで二藤部に許可をもらって、二藤部の代理という立場と、ティ連安全保障の仕事も兼ねた連合議員の立場で、柏木とフェルは米軍横須賀基地に事故現場視察へと赴く。
米軍も流石に今回の不可思議な事件はお手上げで、普段は他国の閣僚を招いて事件解決に協力を頼むことなどないのだが、今回は柏木とフェルという専門家、かつ有名な二人が来てくれるということで、基地司令も基地内の自由な視察を彼らに許可してくれた。
「こりゃぁ……」
『スゴイですね……』
唖然とするフェルと柏木。横須賀基地にある機動車両ハンヴィーや、電線架線、コンピューター等がいたるところでボロボロになっている。
「あ、どうも、ティ連連合議員の柏木です」
『ティ連統括担当大臣の柏木迦具夜デス』
横須賀基地の基地司令が二人に会いに来てくれた。基地司令も自己紹介して握手。
基地司令から横須賀基地の被害状況を聞くが、その銅だけをかすめ取られている現状に対して。地味に効いているという話で、
「連合議員閣下、大臣閣下、まさかとは思いますが、中国かロシアがティ連系の技術を用いて、このような低破壊型の広域破壊兵器を開発した、という線はないのですかな?」
「いや司令、もしそういう兵器をかの国々が開発したというのであれば、あなた方もとっくに把握しているでしょう。そういうヒューミントはあなた方の得意とするところでしょうに」
『ソウですね。まあそれ以前にヤルバーンのトーラルシステムが、そのような不穏な情報を地球内の国家で感知していないので、その線はないと思いまスが』
「ではフェルフェリア閣下、やはりティ連がらみの?」
『そこもどうなのでしょう。そもそもティ連加盟国でこんなドウ物質のみ欲しがる様な酔狂な種族なんてイマセンし、兵器として使用するにしてももっと効果的なものがありますから』
柏木にフェル、基地司令は考え込んで話に間が空いてしまうが、フェルがやおら、
『やはりセマル君の報告にあった半知性体が、この地球に侵入した線を疑ってみるのが良いのでしょうカ……』
すると横須賀基地司令はフェルの言葉に反応して、
「半知性体?」
と聞き慣れない言葉に問い直すと柏木が司令にわかりやすく説明する。
すると基地司令も、
「そんな宇宙生物が……」
『ハイです。もう今の世界、ニホンに限らずこういった存在の出入りも監視して、対応しないとイケマセン』
「あれですわ司令、千葉の特産物に、お宅の米国からやってきたホンビノス貝があるのと同じ状況が宇宙規模で始まっているかもしれないということですよ、ハハ」
柏木の妙な喩えではあるが、その一言で基地司令は状況を理解したようである。
ちなみにホンビノス貝はハマグリの仲間の貝で、非常に美味しい食用貝だが、実はアメリカ西大陸原産の外来種なのである。それがタンカーのバランス水などに混ざって日本へやってきて定着してしまい、千葉県の特産になってしまっている。
それと同じく、その半知性体の持つ特殊能力で地球に来るティ連宇宙船舶になんらかの形でひっついてやってきたか、それともティ連で把握していない秘匿技術を使って、ディルフィルドゲートを通ってこちらに来たか、現在ヤルバーン州はそういった『エラー』も洗い出している最中である。
「フェル、俺は基地司令と今後のことについてちょっと話していくよ。フェルは次の被害現場の視察があるんだろ?」
『エエ、では後ほど、あのカレー屋サンで合流しますか?』
「はは、あのカレー屋さんね。わかった。そこでお昼に合流しようか」
ということでフェルは柏木と別かれるが、彼女は基地周辺の被害も視察しながら次の現場に行きたいということで、公用車で行かず、徒歩とタクシーで行くことにする。SPにはとりあえず先に次の目的地へ向かってもらった。なんせフェル自身がSP以上の戦闘力とパーソナルシールドもあるんで、特に護衛もいらない訳であるからして。
彼女は基地外へ出るため、米兵に案内されてゲートを出ようとすると、
「あっ! すみません! そんなつもりじゃ、ソーリーソーリー!」
とわめきながら衛視に捕まってしょっぴかれている青年男性を目にする。
「あーー、そこのイゼイラ人の人! ちょっと! ちょっと助けてくださいよっ!」
とフェルを見つけたのか、そんな事を喚くその若者。だがこの日本で、あいや世界で、フェルを見て『そこのイゼイラの人』なんて事を言う奴ははっきりいっていない。みんなフェルを知っているからだ。
フェルは『??』と呼び止められられた青年男性を横に見ながらそんな疑問を思いつつ、米兵にエスコートされて基地を出た。
まあ基地への無断侵入でしょっぴかれるような奴だから、関わらない方が良いのは確かだ。
『(イゼイラの人だなんて、ワタクシの事を知らないニホン人サンなんてキョウビいるんですかね?)』
そんなことを考えながら公共の手洗い場を利用してフェルは日本人モードに変身し、基地周辺のデータを取りながら徒歩で次の目的地へ向かう。
* *
しばらく歩くと、鉄道施設で大規模な被害状況となっている場所付近に到着。するとヤル研メンバーが警察に混ざって調査に協力していた。
その中の一人、ヤル研職員Aが、
「あ、フェル大臣!」
とフェルを手招きして呼び止めようとした瞬間、横にいたヤル研員Bがすぐさまヤル研員Aの頭をはたき倒して、
「(馬鹿かお前! あのフェル大臣の日本人モードは極秘事項なんだぞ!)」とそいつにシバかれると、「あ、すんません……」とAがトホホ顔で凹んでたり。
モチロン一部の関係者にはフェルの日本人モードの姿は知られているので、コイツらもその一部。
『ウフフ、マーマー、別にいいですよ。オツトメご苦労さまでス。で、どうですか? 調査の進捗は』
「いやすんません」とBはAのケツを軽く蹴りながら「一応周囲の状況を調べてみましたけど、こりゃあきらかに地球外の連中の仕業ですね」
『やなりソウですか。でも一体誰が……こんな事するティ連人は、まず一〇〇パーセントいないって断言できますし……まさかこの間のはぐれドーラみたいなガーグデーラが……』
それなら考えられる事だ。ガーグデーラなら不足した物質を吸収するためにはそんな事もやらかすだろうが、フェルとして一つ合点がいかないのは、なんで“銅”なんだ? という点である。
まさかティ連とタメをはれる能力の連中が“銅不足”というのもおかしな話だし、もし銅が必要ならガーグデーラの場合、特定の機器機械をまず同化するだろうと。
そんな事を話していると、ヤル研研究員Bが、
「実はその事なんですが……」とVMCタブレットを彼は造成して、「ヤルバーンの監視装置に先日、ドゥランテ国からの輸送船が冥王星のゲートをディルフィルドアウトした際に、ノイズのような物を拾ってまして」とフェルに監視装置の映像データとエネルギーサーモグラフィーのデータを見せると、トントンとそのデータの箇所を叩いて、「これなんですが、どうもゲートトーラルシステムの許可のない人工物体のようで、さらにこの数十分後にこれ……」とゲートの監視データをスライドさせると、なにか小さな……といっても全長四〇メートルぐらいの光の人影が水平に飛行しているような姿を捉えているようで、「こんな妙な物体、人型の兵器ですかね? まあそんなのを捉えてたそうなのですよ」
その映像を見た瞬間、フェルは、
『こ、コリは……タウラセン人サンじゃないデスかっ!??』
「た、たうらせん人? なんですかそれは」
とそんな話をしている刹那、近くにある古い工場のような場所から悲鳴と爆発音が聞こえる!
「な、なんだ?」とヤル研員A
『ワカリマセンが、行ってみましょう!』とフェルさん。
彼女は手に安保委員会から許可されたデザートイーグル50AEを造成して現場に到着すると、工場からキャーキャーと事務員の女性や、工場のスタッフが飛び出して逃げてきた
『一体ドウしましたか?』とフェルは事務職員の女性を一人捕まえて、
「あ、あなたは?」
『私はヤルバーン調査局員デス。今、あの不可解な現象を調査しています』
と、まあ『元調査局員』だが、建前上そういうことにして話を聞くと……
この古い工場は印刷工場で、現在主流のオフセット印刷やオンデマンド印刷の他に、かつてカーボン印刷を行う際の古い形式の銅板を使う凹版印刷などを行っていた工場なのだそうだ。そこで……
「き、急に大柄な外国人が工場に入ってきて暴れ出したんです! 従業員に暴力をふるって中で暴れているんですっ」
と仰る……『え?』と思い、その事務員をヤル研員Aに託すと、フェルは銃を構えつつ工場をチラと覗く。その瞳は毎度のホエホエフェルサンとは一線を画す鋭い目つき。あの調査局長フェルさんの目つきだ。
すぐに後から警察もやってきた。警官は別嬪さんが、デザートイーグルみたいなアホみたいに大口径の銃を構えて戦闘態勢に入っているからギョっとして、「おいおい!」と声をかけようとするが、咄嗟にヤル研員Bが警官に声をかけて、あれは安保委員会のフェル大臣だと話すと、「え?」という顔をする。
安保委員会所属の人員は護衛用のPVMCG武器の所持が認められているので、コクコク頷いて警官も納得する。
フェルは目と手と顎で周囲を囲むようにやってきた警官隊へ迅速に指示を出す。ヤル研員Bは少し離れた場所で傍観者だ。
警官隊のリーダーはフェルの言う通りにと散開を指示するとフェルに近寄り、フェルと共に工場内部を覗く。
フェルはPVMCGでミニドローンを造成して放ち、中を偵察すると、なんか異様に大きな……身長二メートル以上はありそうな外国人風体の人物が……
『(え?? な、ナンデスがあれは!)』
なんと、工場内の大量にストックされている印刷用銅版を吸収シテイルデハナイデスか! と。
犯人見たりという感じだが、銅版を吸収している斜め上なその行動の方に驚いているワケだが、散開して周囲を取り囲んでいる何処かの警官が同じ状況を目にして驚いたのか、声を上げたようでそれに気づかれていまい、
『(あ、もうドゥス(バカ)!)』
と思ったのも刹那、その大柄な人物は手の先から『破壊光線』のようなものを放って、声を上げた警官の方へ攻撃を仕掛けてきた!
『チっ!』
フェルは工場内部へ突入してその人物にデザートイーグルを二発お見舞いする!
『えっ!?』
弾丸は着実に命中したが、何か空間が波を打って弾丸が霧散され、フェルは破壊光線の返り討ちを浴びる!
『シマッタ!』と彼女思った瞬間、フェルに誰かが飛びつき、彼女をかばってくれた。
『あ、あなたは……って、さっき横須賀基地で捕まってた人!』
「大丈夫ですか? イゼイラ人さん!」
『え? イゼイラ人って……』
とフェルさん今、日本人モード。
「そんな擬態ぐらいボクにはわかりますよ。っと、コイツ!」
とその青年は手裏剣を放つようなアクションで掌から光線状の物体を飛ばすと、その大柄な人物に命中させた! 刹那、その人物は大柄な服を着た人間風体な外国人の姿からモーフィングをするように変形すると、なんと! 頭と胴体が一体になったような、甲殻類と爬虫類を足したよな見た目の、人型生物、所謂デミヒューマン型生物に変身したではないか! ……でっかい複眼状の目がピカピカ光ってるし。
『)('&&&%&%%'モファモファモファ)(((()''(』
鳴き声とも音声ともわからない意味不明な声を発するその生物!
『ナナナ、なんですかコリはっ!』
「とにかくここら退避しましょう!」
『デモ!』
「いいから!」
フェルは『退避~!』と叫びながら工場を飛び出す。
警官隊やヤル研員もその場からフェルの言葉に従うと間をおかずに工場が内部から外側にガラガラと閃光放ちながら崩壊しだした!
瞬間、その異様な生物は巨大化し始めたではないか!
『ひょエエエエ~』と見たこともない状況に焦るフェルサン。見る間にその生物はヂラール・リバイタ型に匹敵する大きさに巨大化した。
『逃げろデス~!』
とフェルは周囲に叫ぶと警官隊は一斉に後退。だがよくよく考えると、あの青年がフェル達をコレより先に無理やり後退させなければ、フェルや警官隊は瓦礫の下敷きになっていた可能性大である。
* *
その頃、この緊急事態を知った特危自衛隊は、急遽スクランブルをかけられる人員として、シンシエコンビに、航空自衛隊が出撃。ヤルバーン州からはシャルリが搭乗する専用ヴァズラー『ヴェルサの炎号』が出撃した。この機体は後の時代にもシャルリ専用機として登場する。
* *
フェルは周囲を見回す。するとさっき助けてくれた青年がいない。
どこに行ったのかと思うが、そんな事を深く考える間もなく通信が入り、シエと多川、シャルリに空自が出たという連絡が入る。
だが事は急を要する。今この場でこのデカブツが暴れれば、横須賀の街一体は壊滅だ。
フェルのPVMCGでヴァズラーを造成することもできるが、どうみてもガタイが違いすぎる。一機でこの場から力づくで押しのけるような真似はできないだろう。
フェルは近くにいるヤル研員Bに、
『ナントカならないデスかッ!』
するとそのヤル研員Bは、ニヤと笑い、
「あの巨体に対抗できればいいんですな?」
『ええ、そうでス』
「では、対ヂラール・リバイタ型用に研究していた試作兵器がありますが、お使いになってみます? 分類としてはVMC型の緊急仮想造成機動兵器の一種になりますが」
『ゼル機動兵器でスか……稼働時間は?』
「そうですね、ヤルバーン州からエネルギーを随時供給を受けることができますが、それでも試作品なので、一〇分が限度かと。
『ソレで良いです! なんとかやって見るでス。それを使わせてくださイ!』
「了解しました。ではこちらへ!」
と、調査用のヤル研トラックがある場所まで走ると、ヤル研員Bはスタッフに緊急事態を説明し、移動型ハイクァーン装置を稼働させてデータを打ち込み、なにやら装備一式を造成させた。
「これの装着をお願いします!」
フェルは防弾チョッキ状の機械装置を切るように装着すると、その装置に連動する大型サングラス状の装置を頭部に装着させられる。
『これでゼル機動兵器を造成させるのデスね』
「はい、いかんせん巨大な兵器を造成させるので、あそこの空き地あたりで稼働させてくさだい」
『兵科の形状的にはどんなタイプになるデスか?』
「え? ……」
答えに窮するヤル研員B
『? ん? どうしましたですか? 早く教えてください! コッチも兵器の操作に得手不得手があるデスから!』
「ああ…… え、えっとデスね、形状は、『装着者の環境に合わせて』自動計算されます。ですので、とりあえず変しN……じゃなかった、稼働させてみないと。いかんせん『試作品』ですから! とにかく時間がありません!』
なんか誤魔化されたような気がしないでもないフェル。だが彼の言う事ももっともで、でっかくなった化け物生物は、街の方へ移動し始めていた。それを海の方へ誘導しようとする警官隊。
空自とシンシエ旭龍にヴェルサ号も到着。とにかくその巨体に圧倒されている!
「シエ! とにかく海の方へ誘導だ! 海へ追い出せばなんとかなる」
『了解ダ、ダーリン! シカシ……アンナヤツハミタコトナイゾ』
『)('&&&%&%%'モファモファモファ)(((()''(』
時折発するこんな音声を聞くシャルリも
『アタシもだね! 恐らく異星生物に間違いはないんだろうけど、怪物にしちゃ、反応が良すぎる!』
その攻撃を見上げながら広場へ走ってきたフェル。
『(シエ達も着てくれたデスか! では私も!)』
フェルはゴーグルを装着し、ヤル研員に言われたゴーグル右上のスイッチをポチと押すと!!
『うわわわわワワわわ!』
ばいーんとぐんぐんなポーズで『見た目』は……
『おおおおい、かーちゃん! なんだありゃ!!!』
『エ???? ッテ、アリャフェルジャナイカ! 顔ガ少シチガウケド!』
『なんだありゃ! って、フェルかい? あれは!』
そう! 彼女らが目にしたのは、毎度フェルが普段着がわりにいつも着ているイゼイラ制服っぽいけど、なんか装甲化されたスカートイメージの姿に、件の羽髪姿で、顔部分がちょいとアーマード化されたみたいな、身長四〇メートルの巨大化フェルさんであった!
名付けて、『ハイパーフェルさん』の顕現であった。
『って、なんとか造成できましたが……』
『おいフェル! 応答しな! 聞こえてるかい!?』
『え? シャルリ?』
ゴーグルに映るシャルリのヴァズラー。非常に小さく見える。で、シャルリのヴァズラーはビルの方を指さして、
『なんなんだいそいつは! 自分の姿見てみなよ!』
『ほえ?』
とビルの窓に映る自分を見ると、
『な、ナナナナナ、なんですかこりはっ! ギャーーーーーーー』
と、少しメタリックな巨大化した自分の姿を見て、胸と股間を隠すように『イヤ~ン』ポーズするフェル。
この感動的な姿に、なぜか、どこからか湧いてきた大きなお友だち、キモヲタとも別名言われそうな連中が、ハイパーフェルさんの真下からのカットを必死で追っている。
あまりにバカなので、警官にも追われていたり。
そんな状況の中、ヤル研のアホBから通信が入る。
『フェル大臣! うまい具合にいきましたね! ウヒHゲホゲホゲホ……』
『は、謀りましたネ! ケラー!』
『そんな事言ってる場合ですか! あの異星生物にシエさん達手こずってますよ!』
『も……もう! わかりましたデスよっ! で、武器はナニがあるデスかっ!?』
武装は、フェルのパーソナルデータを参考にしているので、フェルがいつも使っている調査局時代の技を四〇メートル倍にしたものが使えるらしい。
『稼働時間あと九分です!』
『了解!』
ハイパーフェルは、もう恥も外聞も捨てて、その巨大未確認生物に飛びかかった!
* *
「柏木議員! あ、あれ!」
横須賀基地司令が基地ビルの窓を開けて、指さして柏木を呼ぶ。
「え? って、はあああああ? フェ、フェル? で、でっかいフェル?」
自分の目を疑う柏木。嫁が巨大化して、なんかちょっとメタリック調になって、いま大騒動のあの巨大生物を海へ誘導、というか無理やり押し出そうとしていた。
基地司令は咄嗟にテレビを付けると、
『……見てください! 私にはどう見ても巨大なフェルフェリア大臣にしか見えない機動兵器が、今、あの突如出現した怪物と戦っています! あの兵器は噂のヤルバーン研究所が造ったものなのでしょうか!』
実はヤル研、この時代、変な研究部署として案外知れ渡ってたりする。
それはいいとして、フェル得意のマスタースレーブ操作でゼル踏み台を造って飛び蹴りし、ゼルエ仕込みの格闘術で、八極拳のように肩で踏み込んで相手を吹っ飛ばすハイパーフェル。
いかんせん四〇メートルの巨体がそんな格闘を街中でやるものだから、ドタバタの騒音の量も半端ない。
起き上がり様に怪生物は両の拳を合わせて、怪光線をフェルに放ってきた!
慣れない機動兵器で回避が間に合わず、マトモに攻撃を受けてしまうフェル。
『うわアアアア! シマッタ!』
ゴーグルの映像にアラートが光る。稼働時間、あと六分
『クソッ! ダーリン、シャルリ、フェルヲ援護ダ! 空自各機モ、アノデカイフェルヲ援護!』
「合点!」『あいさ!』『コピー!』『コピー』
しかしその巨体で未知の防護フィールドを持つその怪物に対し、旭龍の攻撃がイマイチ効果的に効いていない。ましてや緊急出動した空自F-35の対地攻撃兵器も効果があまりない。
そんな攻撃をものともせず、怪物は倒れ込んだハイパーフェルに近づき、さらなる怪光線を浴びせようとする!
フェルさんの危機!
『フェル!』
叫ぶ柏木。
幼児施設でテレビ見る姫と暁。
姫と暁は『おっきまるま、がんばえ~!』と大声で応援する!
だが怪物から怪光線が放たれようとしたその瞬間!
ドガーン! とその怪物を攻撃、突如街中から大きな光の玉が現れ、ふっとんだ怪物は仰向けになって静止してしまっている。
そして……光に包まれたその物体は、人型へモーフィングのように変形し、フェル達の前に起った!
『ア、アレハ! ウソダロ……』とシエ。
『お、おいおいおいおい、まさかあいつらが』とシャルリ
『マサカ! この星系まできてたのですか!』と警視庁のモニターでその姿を見るはセマル。
そしてフェルは、
『タ、タウラセン人サン……デスか?』
そう、フェルが以前話していたタウラセン人なる巨大生物種の知的生命体であった!
そのタウラセン人はフェルの方を見ると素早く駆けつけて、立ち上がるのに手を貸してやる
『あ、アリガトです……アナタは……』
するとタウラセン人は、ザムル族のように、脳波感応で話しかけてきた。
《大丈夫ですか、イゼイラ人さん》
『その感じは……さっきの!?』
《はい、私はこの異星人を追っていましてね。この惑星へティ連のゲートを使って逃亡するところを発見し、あなた方に気づかれないように、この辺境にある惑星まで追跡をしてきたのですが……まさかこんな辺境の惑星まであなた方の勢力範囲だったとは》
『では、アナタ達は、あの生物を追って、って、あれは異星人、イエ、知的生命体なのですカ?』
《そうですが、あなた方の分類呼称ですと、「半知性体」と呼んでいる種類になりますね。その中の、高度疑似文明種というものですか》
『でもなぜにその呼称を知ってるデスか?』
《我々も情報収集はします。ですが言い得て妙ですね。我々はあの“ビバル星人”を知的生命体として扱っていますが、確かに我々やあなた方のようなメンタルが近い種族から見れば、まったく話の通じない、“銅”のような金属を主要エネルギー源とする、搾取行動のみを行動原理とし、搾取に必要な技術以外の生産活動を行わない知的種です。なるほど確かに「半知性体」とはよく言ったものです》
そんな感じで、短い外交行為をフェルはでっかい姿で行っていると、多川から、
『フェルさん! なんだかしらないナントカマンみたいなお方があらわれて、よく状況が掴めないが、奴さん気がついて起き上がるぞ! どうする!?』
『あ、エット……』
するとそのタウラセン人は、
《仕留めてもかまいません、私もそのつもりで追っていましたので。ですが、増援に気をつけてください》
『わかりましたデス……ケラー・多川! このおっきウチュー人サンが増援に気をつけろって言ってる
デス!』
『え? じゃあこの化け物、異星人なんか!?』
『詳しい説明はあとでしますが、ヂラールみたなものと考えてください!』
『なに! コピーだ。各機聞いたな! でっかいフェルさんと、あのピカピカ異星人さんを援護するぞ!』
とにかく、特撮番組のように、街中であばれるわけにはいかない。
このビバル星人、いや、ビバル人を沖へ沖へ誘導して一気に大火力でカタをつける。
『って、もうパワーがナイです、あとは……って、え? パワーが回復してる?』
《私がパワーを供給します。その間は稼働し続けられるでしょう》
『でもアナタが!』
《この程度でしたら、心配はいりません》
とパワー回復したおっきフェルさん。ビバル人にあの怪光線を打つ暇を与えず、手数の多い近接ラッシュ攻撃で、とにかく沖へ沖へ追いやる。
タウラセン人を万能な超能力人種と思っていたフェルだが、体術的な面では、自分達とあまり変わらないなと、そんな風に分析したり。
戦闘中、話を聞くと、このビバル人が巨大化したのも、フェル達が使うゼル技術と同じ要領なのだそうだが、なんと銅を食らってエネルギーを蓄えた自らの肉体を仮想物質のエネルギーに変換して巨大化するという信じられない能力を持っているので、このVMC巨体が崩壊すると、息絶えるのだそうだ。
フェルはなるほどそこが『半知性体』故か、と思う。
《イゼイラ人さん! ビバル人の、あの真ん中にある赤い器官に衝撃を与えれば、あのシールドが一瞬停止します! 停止した瞬間を私達の火力で一気に破壊します!》
『わかったデス! 誰か! あのウチュージンの真ん中にある赤い器官に衝撃を加えられますか!』
『まかせろフェル! あたしがやってやるわさ!』
フェルの号令にシャルリの駆る『ヴェルサの炎号』が右足を変形させてブレード状に整形し、飛び蹴りの格好でビバル人に突っ込んでいく!
『オラァ!』
シャルリの蹴りはダガーのごとくグサリとささり、払いのけようとするビバル人を躱して、刹那の速さでシャルリは飛びのく。
シャルリを撃ち落とそうと怪光線を放つビバル人。だがそこはシンシエコンビの旭龍が放つ、口部プラズマボルテック砲で相殺されて、シャルリへの直撃を防いた。
《見事なコンビネーションですね、あの二機は》
『そりゃ、トッキサンと、ヤルバーン軍サンのトップエースですから』
《なるほど。ではとどめを刺しますよ! 準備はいいですか!》
そういうとタウラセン人は腕を伸ばし、掌の先にエネルギーを蓄える状況を展開し、フェルは調査局員時代に使っていた、手の平ブラスターの構えを見せる。
《いきます!》
の掛け声で、フェルとタウラセン人は、光線状のエネルギーと、強力なブラスターエネルギーを同時に放つ。
そのエネルギーは、怪光線をかわされ、悶絶するビバル人に見事命中し、巨大な爆炎を二つ放って爆散した。
爆散した破片は海中に散乱するが、基本VMC物質なので、即座に霧散して消えていく。
実態として残ったのは、元の大きさの素体が遺した、幾ばくかの体組織だけだった。
いかんせんフェル達にとっては未知の生物になるので、ヤル研のボートが即座にその遺骸に向かっていた……どうせろくな研究にゲホゲホゴホ……
だが!
『こちら三沢オウルアルファ、御蔵島近海から飛び立つ未確認飛行物体を確認。数は五機。撃墜するか?』
この近辺に敵の増援が来ると聞いて哨戒していた三沢基地の空自F-35が、どうやら先のビバル人の同胞が乗った宇宙船を発見したようだ。
「フェル大臣!」と多川が確認を求めると、タウラセン人が頷くので、フェルは、
『ティ連統括担大臣の責任で攻撃を許可するでス! 責任は私が取りますから、撃ち落としてくださイ!』
「コピー」
フェルの許可を得て、撃墜に向かうシンシエ旭龍にシャルリのヴァズラー。他空自F-35二機。
ま、この宇宙船とは多少のドッグファイトがあったようだが、難なく撃ち落とせたそうだ。
* *
その後、フェルはVMC機能を解き、タウラセン人も日本人に擬態して、再び対峙する。
まあ、ちょっとした外交タイムだ。その場へフェルに呼ばれて柏木も急ぎ走ってきた。
会談の場所は、なんてことのない港湾の、人気のないとある場所。
『ナンカ突然の事で色々ありマシタが、助かりましたデス』とフェル。ペコリと頭を下げる。
「まさかこんな形で事態が収束するとは。この事件は精査しなければなりませんが、ひとまず日本政府を代表してお礼を言わせてください」と柏木。
すると、タウラセン人は、
「いえ、あのビバル人は我々タウラセンが最近、とみに警戒していた種族です。本来なら我々の領域で決着をつけるべきでしたが、関係のないあなたがたの国にまで被害を及ぼしてしまった。その事は申しわけなく思います」
と頭を下げる。柏木とフェルは、
「私の名前は……」
と自分達の身分と自己紹介をする。
「なるほど、そのような高官の方々でしたか」
「はい、それに彼女は私の妻でして、危ないところを助けていただき、夫としてお礼を言わせてください」
「そうでしたか、ご夫婦だったとは。異種族同士のご結婚ですか。素晴らしいことです……私の名は、タウラセンの監察官ヴェルター。以後お見知り置きを」
頷く柏木。
「そうだ、今回の件で日本政府からも正式に御礼をしたいので、我が国の代表とお会いしていただければ……」
と柏木はヴェルターを誘うが、彼は、
「いえ、私は本来この星にいてはならない種族です。このニホンという国家も、ティエルクマスカ連合加盟国なのでしょう?」
「え、はいそうですが」
『では、ハイクァーン・トーラル文明の遺産を使用してるのですね?』
「え、ええ……」
そういうとヴェルターはコクコク頷いて、
「では、私達はここにあまり長居はしないほうがいい」
「え?」
「では、またいつか、お会いできる日があれば」
そういうとヴェルターは走り出し、港湾から海へ飛び込もうかと、そんなアクションの瞬間、光の球体になって上空へ飛び立っていった……しばし後、音速の速さで空の彼方へ消えていく……
「フェル、あれが……」
『ソウです。タウラセン人サンです。私の言った通りの種族サンだったでしょ?』
「ああ、基本わかりあえそうな種族だが、種族単位で見れば、俺達とは持ってるスキルが違いすぎるな。今の日本人なら、あいや、地球人ならどういう感覚で話しあえばいいかわかんないや」
『ソレは数十万周期の歴史を持つ私達イゼイラ人や、他のティ連人も同じような事を思ってるデスからね~』
「はは、そうだな……」
柏木はフェルの頭を自分の体に引き寄せてナデナデする。フェルさん嬉しそう……
* *
その後、この事件は『横須賀沖、外来異星生物排除事件』として日本の歴史に名を残すことになる。
とはいえ事体収取のために、あのおっき宇宙人のヴェルターは、ティ連の実験試作VMC兵器としてダミーの情報を流し、おっきフェルさんも、まあこれは交流何周年かのイベント用のVMCエンタメ素材を急遽流用して対応した、とこれもダミー情報を流してそのあたりは情報操作をかけた。
だが、問題は、タウラセン人よりもおっきフェルさんである。
タウラセン人は、そういう『毎度のヤルバーンとヤル研あたりのネタ兵器』としてまあまあ話題にはなったが、それ以上に話題となったのは、マニア共の危険をかえりみず撮影した、おっきフェルさんの可能な限り直下からとったスカート状のイゼイラ制服アーマーの中身である。
私人逮捕系のナントカバカどもに見られたら、格好のネタになりそうな動画や写真が、『いけないサイト』にたくさんアップされ……
『ギャーーーー、なんですかコリはっ!』
とVMCのインターネットでいけないサイト見て発狂するフェル嫁。
コメントには、
【さすが安産型産卵をなさるこの角度】
とか書かれている。
『コ、こいつら全員生態停止刑いちまんねんデス~!! ムキーーーー!!』
「まあまあフェル。そのうちヤルバーンのトーラルシステムが片っ端から消してくれるから。それまで我慢ですよ、ね」
といいつつ、これがなかなか消えない。その裏ではシエとリビリィとポルとシャルリが、拡散はさせないが、なんか特定の画像サイトに『見つけたらラッキー』みたいな感じで消えないように、イタズラでトーラルシステムのスクリプトいじってたりする……いやはや。
姫や暁くんには、フェルママは羨望の眼差しでしばらくの間、見られることになるのであった……
さて、そんなこんなで、このフェルさんが使ったVMC兵装システムが、後の時代の、『アーマードナヨさん』の使う巨人化機器のベースとなるのであった。
さらに、後にこの事件をきっかけに、この当時のニーラ大先生は、未だ噂である『高次元人・ハイクルオス』に関する、論文をまとめることになるのであった……
--正月銀連ホエホエ劇場 フェルさんの、『ティ連人と宇宙人』 おしまい--