その4:出張TNE 11年後のお正月。
皆様、2019年・平成31年 新年あけましておめでとうございます。
昨年も大変多くの読者様に本作をご愛顧頂きまして、改めまして御礼を申し上げます。
本年も、本作『銀河連合日本』と、書籍、及び、『銀河連合日本The Next Era』に変わらぬご愛顧賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
皆さまにとりまして平成31年、そして元号が新たに変わる本年も素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
柗本保羽
って、なんでこっちで語るか? と問われれば……
ぶっちゃけアッチは現在シリアス路線で相当お取り込み中って事もあるしー、んでもってこっちゃこっちで随分更新もしてないから、まあとりあえず一応完結しているのは完結してるんで、いいっちゃーいいんだけど、エタってると思われるのも何なので、たまには更新しとくかなってな話もあってーので……
なぜかTNEのお話がここで語られるという状況。まあね、そういうこともあるかと。
ということで一〇年後の世界。んでもって、年末の時期。なのでそろそろこの世界もかの時より一一年後の世界へ突入しようとしているという寸法。
月丘が国連でドンパチやって、その後ゼスタールと意思疎通ができて、でもって連合と和解して、とそんな段取りで進んで、ゼスタールと連合、そして日本がその関係に落ち着きを見せ始めた頃のお話でござい……
* *
ということで毎度のこってのお正月。
惑星ハルマのヤルマルティアでは、こんな音楽も鳴ってーので、所謂ティ連人の言う『周期初め』である。
https://www.youtube.com/watch?v=BeVYO-2wDK0
『マサトサンマサトサン』
「はいはい」
『新周期あけましてオメデトウございますですネ』
フェルさんお着物着て、三つ指ついて旦那様にご挨拶。着物の着付けは、ティ連着物道開祖のエルディラ奥様がやってくれた。
「はい、あけましておめでとうございます」
柏木連合防衛総省長官閣下も正座してご挨拶。
「ふぁるんぱぱ。あけましておめっとーございましゅ」
ヒメちゃんもご挨拶。
「はい、おめでとね~。ということで、はいこれどうぞ」
この時代でも人気な、『一〇〇万ボルトの電撃を発するネズミみたいな黄色い化物』のポチ袋に入れたモノを姫ちゃんに渡す柏木パパ。姫ちゃんお年玉ゲットだぜ!
ってか、日本の子供はこのために生きているようなもので、とても嬉しそう。その場でトテトテと貯金箱にまっしぐらである。ポチ袋剥いて、貯金箱に一万円を入れている。
まあ見た目は五歳でも、実年齢は地球人換算で一〇歳の姫迦であるからして、キョウビの子供はこの年齢なら一万円ぐらいもらうだろう。
姫ちゃんは、とりあえずたくさん貯金するそうである。
「こうやって今年もお正月を恙無く迎えられるってのも、ありがたい話だね、フェル」
『デスね~。特にサクネンは、ゼスタールサンの件もあって、色々とティ連世界でも動きがあった周期ですから……』
「うん。までも忙しいのは今までどおりで、今年もやんやと色々あるからなぁ。例の天の川銀河探索の件も早々本格的に居住可能な地球型惑星探査レベルで行うだろうし」
『あの件ですね。確か、探索艦隊のファーダ・ゼルドアも早速探索活動に入っていただいているみたいデスが』
「うん。その件で今後のこともあって藤堂さんにも防衛総省と調整してもらいたくってね。今、火星に行ってもらってるんだけど……」
正月早々そんな仕事の話で始まるのもこの夫婦ゆえか、といったところ。
ということで、かの時より一〇年経ったといっていたあの世界。今現在の時間軸は、正確に言えば一一年後の世界と調整させてもらったりという話である……
とはいえ、そんな仕事の話をおめでたい新年早々しててもしゃーないので、
「で、みんな来るんだろ? ウチに」
『ウン。お誘いしてるからもうそろそろ来るはずデスよ』
と間もなくその「みんな」の一部がやってくる。
ピンポンと鳴るインターフォン。で、やってくるは……
「よう、柏木。おめっとさん」
「あけまして御目出度うござますわ、柏木長官様」
白木と麗子だった……で、
「柏木のおじさま。あけましておめでとーございますですわ」
とっても高そうな衣装着て、柏木のオジサマにご挨拶するは、なんと! 本邦初登場。白木と麗子の娘、
『白木百合子』ちゃ……いや、お嬢様であったりする。
柏木はこの百合子ちゃんを見ていつも思うは……やっぱこの親あってこの子アリというヤツか……
ちなみに、百合子ちゃん。実は当初名前を『百合』『百合香』とか、そんな名前にしようと白木が画策していたらしいが、麗子に『必ず名前に“子”の字を付けてくださいましね』という御達しがあったのだという。
「ああなるほど」と思った白木にその話を聞かされた柏木も「なるほど」と思ったそうで、その理由は……
なんとまぁ、麗子の実家、五辻家は、旧華族出身のお家柄だったそうで、代々五辻家の女の子には、皇族の女子の命名法に習って、子の字をつけてきたそうである。なので、此度、白木と麗子の娘にも子の字をつけて『百合子ちゃん』となったという次第。で、年齢は八歳。見た目は姫迦より年上だが、実年齢で言えば、百合子の方が、二つ下である。これが経齢格差というヤツの実態である。
「ゆりこちゃん、あけましておめでとー」
「はいおめでとーでございますわ。ひめかちゃんにもおとしだ……」
オイと流石に我が娘にツッコミ入れる白木パパ。ガキがガキにお年玉渡してどーすんねんと。
麗子ママに「まだ一〇年早いですわね、百合子サン、オホホホ」などと仰られてたり。って、たった一〇年かよと突っ込み入れる柏木。
で、次にやってくのるは、
「あけましておめでとー、柏木くん!」
「おめでとうございます、柏木のおじさん」
美里に美加であった。で、もう一人。
「ウキャー」と柏木に突貫してくるは、多川暁くんであった。
「あーこら暁くん。柏木のおじさんと、フェルおばさんと、白木のおじさんと麗子おばさんにご挨拶しなきゃ」
と、美里に「あけましておめでとうございます」とペコリさせられる暁。
多川とシエの息子である暁くんは現在、美里が預かっていたりする。美里おばさんはもう慣れたもので、暁を自分の息子のようにあしらえてたり。
昨日までは、多川の兄である多川一雄夫妻の元で過ごしていたのだが、今や一雄兄貴も君島重工の重役になってしまって、会社からの急な用件でレグノス県まで行かなければならなくなり、急遽美里がバトンタッチしたという次第。
で、姫ちゃんは、暁とは勿論幼馴染なので、相も変わらずだが、なぜか百合子が暁を相手にすると、妙に大人びて、姫迦を意識したり……ま、お子様なりのいろんなご事情があるのでしょうと言う次第。
ということでこの三人は、姫迦の部屋でワイワイとゲームやらなんやらで遊んでいる。
「ハア、美里さん。私ももう、おばさんなんですのね……」
以前ならオバサンなんて麗子に言おうものなら制裁が発動されていたのだが、最近は彼女も自覚があるようでかなり丸くなってたり。
「アラ、気にしてたの? でもまだ三六じゃない。それにティ連のアンチエイジングやってるんでしょ?」
「ま、まあそうですけど……美里さんもでしょ?」
「まあね。そう考えたらまだまだ大丈夫だってお互い」
「確かに、そうなのでしょうけどね~ フェルさんの見た目が羨ましいですわ」
『エ? ケラー・レイコもまだまだ十分お若いじゃないですカ』と、PVMCGで過去の麗子と美里の映像を映して眺めるフェル。確かにほんの若干歳いってるように見えるが、ほぼ見た目変わっていない。これがこの時代のアンチエイジング技術である。
そんな会話も地球人女性故かという話で、ワイワイ賑やかな柏木家。女性陣がせっかくだから、お雑煮でも作りますかと台所に立つ。麗子が立つのが意外だが、彼女はこれで意外と料理上手。そりゃそうだろう、世界中の美味いもの食ってるお立場の方なので、そうもなるかと……白木曰く、全然家庭的なんだそうな。
「美里ちゃん、今年は申し訳ないね、オーちゃんの件」
と美里に謝罪する柏木。
「仕方ないわよ柏木くん、こればっかりはね~。ま、ゼル通信使わせてもらえるから、ウチの旦那も正月気分は味わえるって言ってるけど、あはは」
そう、この頃、大見はまだ惑星イルナットでの調査任務に従事していた時期であった。ま、向こうは向こうで、正月らしいことを特危自衛隊総出でやってるらしいという話。餅でもついてるんだろなと。
『シエとケラー・タガワも今年のオショウガツは任地ですね。アカツキクンもちょっと可哀想デス』
「まあ、明日そういうのもあって、ヤルバーンのゼル通信施設使わせてもらうんだけどね」
こういうのもあって、暁も親子対面できているワケなので、やはりゼル通信とはすごいものである。
……と、そんな話で盛り上がっていると、最後のお客がやってくる。
「お邪魔します~」と柏木家を訪れるは、月丘和輝。
『アケオメですです~』と明るくプリル・リズ・シャー。
『新年芽出度いですね』とナヨ閣下。
で、最後は……
『……』
黙して周囲を観察するはシビア・ルーラ調査兼代表合議体。
「やあ、シビアさん、いらっしゃい」
『ドウゾ、あがってくださいデスね』
一同、かつてはガーグデーラとして恐れられたゼスタール人、正確には『ゼスタール・カウサ合議体』と呼称される存在の、異質な知的人格体シビアに視線が集中である。
『……我々の調査における知的生体4201と3303その他天体999001政体組織に所属する、本惑星ニホン政体の重要生体がこれほど多く集う状態を我々は正常な状況と認識できない。現状の状態を説明せよ』
シビアさんは、ここまでの安保調査委員会重鎮メンバー+一部一般人の集っている状況が、異常事態であると感じたようである。なんか勝手に警戒モードに移行している彼女“達”。
すると……
「あ、シビアのおねーちゃんだ!」
奥の部屋で遊んでいた姫迦達ガキンチョ三人組が、シビアの姿を見てパタパタと駆け寄ってくる。
ウキャーとシビアに絡まってたり。
シビアは直立のまま、三人に妙に懐かれ……あ、いや正確には二人に懐かれていたり。一人横目で
「もう、アカツキくんとひめかちゃんはおこさまですわね」と本当は自分も絡みたいのにませた発言をしている百合子お嬢。
『ん……あ……ツキオカ生体。なぜにこの場にこのような幼生体が存在するのか我々は理解できない。説明せよ……おわ……』
座って遊べと、暁と姫迦にじゃれられるシビア。
「はは、まあそんなところにつったってないで、お座りくださいよ、シビアさん」
と柏木に促されて、何がなんやらよくわからずに畳の上にあぐらをかくシビア。姫迦がシビアの前にチンと座って陣取ってたり。
なぜか子供に人気があるシビア合議体。実は白木の家にも彼女は訪れていたことがあり、その時に百合子にも懐かれて顔見知りであったりする。
今日の柏木家は、こんな感じで大所帯になってるわけであって、いつもの食卓テーブルも片付けて、PVMCGで部屋を大きな和室仕様にして、畳の上にあぐらでもかいて座れるローテーブル仕様にしている。
そこにみかんでも積んで、ワイワイとやれるような具合である。
『ツキオカ生体、カシワギ生体。先程の我々の質問に対する回答はまだか……フガフガ』
暁がすまし顔のシビアのほっぺをひっぱって遊んでいる。で、彼女の質問には月丘が回答。
「はは、シビアさん、この集会はですね、この国の習慣で……あなた方風に言えば、地球時間で一つの周期を区切りに、また次の周期が無事に迎えられたことをお祝いする、そういう行事みたいなものですよ。みなさんがスールになられる前は、こういったようなお国の行事はなかったのですか?」
『否定。我々にも恒星の公転を基準にした周期換算法は存在するが、一周期を超えるごとに特別な行事を催す習慣というものは……当時の我々に存在した“民族間”の習慣としても存在しない……だが、状況は理解した。そういった本政体の祝祭事であれば、このような生体関連連続体として繋がりの深い者同士が一同に介する状況も理解できる。我々は調査を続行する。継続せよ』
「は……はは、継続せよって。ま、ご理解いただけたのならいいですか、ね、柏木長官」
「むはは、まあゼスタールさんらしいご理解を賜われていいんじゃないのかな? ってついでだから色々とこの国の行事を調査していただきましょうか。って、フェルも最初日本に来て、俺と一緒に生活しだしたときも、こんなんだったものな」
『ウフフ、でも私はもっと素直に理解しましたデスよ』
「でもあのイゼイラ科学の改造凧、あれあのあと大変だったんだぞ。どっかの玩具メーカーの人もあの場所にいてさ、あれはなんだってえらい詰め寄られてさ」
と、ちょっと一〇年ほど前のあの事件。あれにも後日談があったり。でもまたその話は別の機会に。
という事でお雑煮ができたようでお餅も焼けて、皆様おいしくいただくことになる。
「はいどうぞ、みなさん召し上がれ」
今日のお雑煮は、麗子さん直伝の京風白味噌仕立て。麗子の母親が京都出身らしく、麗子は東京生まれだが、正月の雑煮はいつも白味噌風であったという話。
お餅の方は、流石にペッタンとつくわけにはいかないので、市販の切り餅をオーブンで焼いて、ご希望の数をみなさまの椀に投入。
『ふむ、これは美味ですね。やはりヤルマルティアの料理は妾の口にあいます。以前フェルの作ったゾウニはカレー味でしたが、白味噌もまた良いものですね』
ナヨ閣下が美味しそうに餅をニョーンと引っぱってたり。って、普通はそっちがノーマル。皆の衆、やっぱりフェルはカレーかいと苦笑い。でも多分うまいのはうまいだろうとは思う。実際餅とカレーは大変に相性が良い。
『ですが、このような今で言う「戦闘糧食」がヤルマルティアを代表する料理になるとは』
その「戦闘糧食」という言葉に反応するは、柏木長官。
「え? ナヨさん、お雑煮のこと知らなかったのですか?」
『うむ。妾がこのような形のモチ料理を食したのは、今の姿になってからですよ』
「え? ということは……」
というと、東大卒の白木がその辺は自慢の歴史の知識を披露。
「柏木、雑煮が今の形になったのは、確か室町時代ぐらいからだぜ、ナヨ閣下のいらっしゃった時代には、まだ今みたいな雑煮はなかったんだよ」
「そうなのか」
すると麗子も、
「確か、お餅自体は、この日本ではそれこそ土器を使用していた頃、お米を『蒸す』という行為をおこなっていた時代からあったそうですけど、お餅はその時からそもそも保存食でしたからね」
そう、餅は現代でもそうだが、そもそも論でいえば、本来保存食なのである。雑煮も正月に店から何からみんな休んでしまうので、買い出し等々にいけないからその間に食べる保存食である。
で、保存食であるからして、当然戦闘糧食にもなりえるわけで、雑煮は当時の武士が、乾燥糧食を一緒に煮込んで戦場で食べるために作られた一種のレーションが起源と言われており、そもそもは所謂『ミリ飯』なのが雑煮なのだ。従って、この雑煮は平安時代以降の武家社会で発達した料理であることが知られている(*諸説あり)
こんな説明を白木家から聞く皆の衆。ほーと関心しきり……
で、異星人の皆様方、まここにいる連中で言えば、フェルにプリ子にナヨ閣下とシビアだが、フェルにナヨはもう日本に住んで長いので、日本の正月のような習慣も、もう慣れたもの。プリルにしても彼女自身の日本滞在経験はまだここ何年かの話だが、ティ連に日本が加盟して以降、日本の文化はティ連での鉄板永久人気コンテンツとしてもうティ連中に『ティ連の文化の一つ』として定着浸透しているので、こういった正月の習慣も彼女らの知るところである。
今ではイゼイラを中心に、一部ティ連加盟国では新周期に『お年玉ハイクァーン使用権』のような事もやってたりと、そんなところで、日本在住の異星人方諸氏もそこは今更日本のこんな文化習慣も違和感ない話なのだが……そこはもうお約束のパターンというか、なんとやらで……
シビアが餅をニョ~~ンと引っ張って、何やら不思議そうな顔をしながら雑煮を食していた。
『ツキオカ生体……モグモグ』
「ハハ、はい、なんでしょうシビアさん」
『先程、ナヨ・カルバレータの言動では、本食物はこの国家における古代の戦闘糧食であったという話だが』
「のようですね。私はそういうの詳しくないのでよく知りませんが」
『このような粘性の高い食品が、戦闘時の糧食に適しているとは到底思えないのだが……チュル』
「確かに言われてみればそうですね。まあでも歴史ある食品ですから、とりあえず長持ちすれば何でもいいみたいな、そんなところじゃないでしょうか? そんな時代に冷凍技術やフリーズドライの技術があったわけじゃないでしょうし」
とはいえ、安土桃山時代に登場する有名な高野豆腐(凍み豆腐)はフリーズドライ製法の元祖である。
それに餅も似て柔らかくして食べるだけが餅ではない。あられのように、スナック型の食べ物としても加工できるスグレモノなのだ。
「で、シビアさん、お雑煮のお味は如何ですの?」
と問うは、味付けをした麗子夫人。白木家ではこの雑煮がなければ正月は始まらないと言う。パパの隣で百合子ちゃんがミョーンと餅を伸ばして舌鼓打ってたり。
『極めて肯定。栄養価も高く、生体を維持するためには高い評価ができる』
「あらあら、それはどうもありがとうございます。オホホホ」
シビアもなんだかんだ言って、雑煮と餅が気に入ったようである。ってか、そもそもかつてのゼスタールにこういった形態の食事がなかったそうだ……シビアさん、『可能であれば、再度提供を希望する』とおかわり頼んでたり。
……で、この後、皆して近所の神社に初詣に行く段取りになっている。
この行事もティ連勢にはもう一〇年前から知ったヤルマルティアの行事で、なんてことはないのであるが、シビアが色々とこれまた疑問に思うところもあるみたいではある。
まあそんな文化の違いは、一〇年前にフェル達が日本にやってきた時も同じような感じであったので、そのあたりは似たような話ではあるのだが、一つ違うのは、彼らゼスタール人が仰るには……
『諸々ニホン民族の習慣は理解した。その点は我々ゼスタールが、かつて肉体を持っていた頃の慣習データと類似する点も多い。我々としては特に違和感を感じない』
すると柏木が、
「ということは、ゼスタール人さんが、今の姿になる以前には、宗教、つまり何らかの『神様仏様』を信仰崇拝する文化がおありになったということですか?」
『肯定。我々がこの惑星の文化を調査した結果と比較した場合、所謂「多神教」と呼称される宗教形態に類似したものが複数存在した』
「なるほど、で、一神教のようなものはゼスタールには……」
『肯定。存在した。だが極めて少数派であった』
頷く柏木。彼らゼスタールの文明もかつては地球に似たようなものだったのかと推察できた。
シビアも当時、即ち八〇〇年前は、そのゼスタールでポピュラーな多神教の信者であったそうな。
『だが、そのような想像上の存在と同種のものに、我々が今現在成ってしまっている……』
その言動に皆が『え?』と思う。シビアにしては情緒的な発言だからだ。
この地球に来て、月丘や柏木達と付き合いだして、なにかシビアの言動が日に日に、少しづつ個性的に成っていくのを感じているわけであるが、特に月丘は、先の北朝鮮工作員との対決時にシビアが見せた『チリソースカクテル事件』と勝手に月丘が呼称しているあの出来事で、特にそんなところを感じていたりするわけであったりする……
* *
さて、場所は変わって惑星イルナット。
現在は近辺の鬱陶しい植物型ヂラールを掃討して、本格的な拠点型基地を構築中の特危自衛隊と連合防衛総省軍諸氏。
現在ここで安保調査委員会メンバーとして知った顔は、シエ、多川、リアッサ、シャルリ、大見、メルフェリアといったところか。そこに此度の新しい仲間、ゼスタール人戦闘合議体のネメア・ハモルが仲間に加わる。
『オオミ、ハイクァーンで造成シテミタガ、コンナ感ジデイイカ?』
リアッサが何やら造ったらしく、大見を手招きして呼んでいる。
「はは、ええ、いい感じではないですか? ちょっと反りが足りないかなぁという感じですが、まあいいでしょう」
『ソウカ。デハ、“ほこら”トイウモノノ製作二取リ掛カル。データハモラッテイルノデ、アトハマカセテクレ』
「わかりました。お願いします」
リアッサは。ここ惑星イルナットの基地で何をしているのかというと、鳥居に祠を作って、簡素ではあるが神社を作っているという次第。ティ連人の理解では、ここに創造主様をお祀りするということなので、「それは良い」ということで作業中。
では、なんでまたそんなものを造ろうかという話になったかといえば、まあ基地が日本国所管の特危自衛隊の基地というのもあるし、そろそろお正月というのもあるからであったりする。
で、向こうでは先程粉砕した植物型ヂラールの枯れた残骸や、その他樹木系の枯れ木を採取して、燃やしてフーフーと何かやってる多川将補の姿。
風で煙が自分の方に吹いてきて、目をしばたかせてたり。
「おーい、シエ。アレできた?」
『ウン、コンナ感ジダッタト思ウガ、イイカナ?』
「お、上等上等」
シエが肩に担いで持ってきたのは、『杵』であった。
『“ウス”トイウノハ、コンナ感ジデイイノカ?』
「お、流石かーちゃん。良く出来てるな」
『ウム、去年町ノ自治会ニ呼バレタトキ、暁トイッショニ餅ツキ大会ニ参加シタカラナ。ソノ時ニ取ッタデータガ役ニ立ッタ』
……あの山奥の家にやってくる自治会の人も、相当ご苦労な話である……
と、こういう話なのだが、この会話でもわかる通り、諸氏みなして惑星イルナットで正月を祝う準備をしていたのである。でもって多川の旦那は薪で蒸籠に入れた餅米を蒸している真っ最中。
こんな銀河の別宇宙の果てであるからこそ、こういった行事はきちんとやっときたいといったところ。
だけど植物型ヂラールを薪にしたり、大丈夫かいなと思うが、毒性などはないらしく、よく燃えるので良い燃料になるといったところ。
『タガワの旦那、第一弾、蒸せたよっ。これどうする?』
「あ、シャルリさん、シエの作った臼に入れるんで、そこに置いといてくださいよ」
と、そんなところでワイワイやってると、メルフェリアとネメアが定時偵察から帰ってきた。
ここイルナットでは、この二人が組んで仕事をすることが多い。どうもネメアがメルのことを気に入っているようであるらしい。
パイラ号に二ケツして帰ってきた二人。蒸した餅米の良い匂いにメルが真っ先に反応する。
『ただいまー……って、ああっ! 何か美味しいものつくってるの? タガワ師匠!』
パイラから飛び降りて薪をフーフーやってる多川に近づくメル。
「はは、まあね。日本の……何ていったらいいかな? 周期初めの伝統行事をするためにね、みんな用意してたのさ」
するとネメアが毎度のツッコミで、
『タガワ生体。この惑星イルナットとお前達が呼称する惑星の公転周期は、我々が供与された惑星チキュウの公転周期とかなり相違する。従って周期の初期状態を換算したとしても、かなりの誤差がでると判断するが?』
「ああ、そこは地球の周期に合わせてってヤツだよ、ネメアさん。今、地球じゃ周期初めでね、日本中、あいや、形式は違えど、世界中で同じようなことやってるよ」
『状況は理解した』
ネメアも先のシビアの通りで、スールになる以前の自分の過去を思い出したのだろう。そういう文化の祭事であるという事を理解したようだ。
というわけで、自衛隊員にティ連軍兵士総出でヤルマルティアのお正月をここで再現するためワイワイやって、準備完了。
とりあえず、まあ軍事組織という体裁上、だれかが音頭とらんといかんだろ、ということで、多川将軍閣下が餅つき大会前の訓示なんぞ。
「諸君、あけましておめでとう」
おめでとうござますと諸氏一声
「こっちに来てから色々ゴタゴタしてたからな。ちょっと準備が遅れてしまったが、まあ地球じゃ新年って奴だ。こっちでもそれらしいことやっておこうというワケだ。ま、今日はみんな楽しんでくれ。で、ティ連の諸君も、かれこれ日本が加盟して一〇年。みなも日本にこういう習慣があるのは理解してもらってるよな?」
というと、全員「OK」と軽く手を上げて文句ナシ。そりゃもう今更であって、特にイゼイラやダストールでは日本の新年を祝う形式が、日本の暦に合わせて、一種のカーニバルとして今や行事化されているぐらいだそうである。言ってみれば日本人が本来日本とはあまり関連性のない外国宗教の祭事であるクリスマスやハロウィンをお祭り気分で楽しむようなものである。
「んじゃま、もう準備も整ってるから、さっそく始めるか」
ウ~スということで諸氏『お正月』を始めることと相成る……
で、餅つき大会第一陣は、何故かネメアが杵を持つ。
「え? ネメアさん、餅のつきかたわかるんですか?」と意外な顔の大見。すると、
『肯定。今、シビアからこの祭事の情報を提供された。再現可能である』
こういう時便利な合議体体制。ということはシビア達も近々で餅つき大会やってたんだなぁという事を理解した諸氏。他者の取得情報をあっという間に共有するゼスタール人の強みというヤツである。
だが今のシビアは、ちょっと露出度が高い格好である。
そのボディラインは、シエと同等かそれ以上のナイスプロポーションのネメアであるからして……
いざ餅をつき始めると、デルン自衛官の目が、その背面下方に集中してしまったり……てか仮想生命体なんだぞと。わかってんのかと。
キャラとしては、本作において褐色系の健康的お姉さん系は彼女のみ。なので実はイルナット駐留の隊員からも、隠れファンが多いネメア。
「はいっ……と、ん? どうしたネメアさん」
臼に合いの手入れてた多川の手が止まる。
『タガワ生体。男性生体からの視線を集中的に多方向より感じるが、我々は彼らに対し、何か問題のある行動を行っているのか?』
と問われると、クククっと多川は笑い、
「お前ら! ゼスタールさんでもすぐにわかる視線をネメアさんに浴びせてんじゃねーよ! ほらっ、メシの段取りしろコラ!」
するとシエがネメアに、
『フフフフ、オマエガソレダケ、デルン連中カラ好意ヲ持タレテイルトイウコトダ。私モ負ケテイラレンナ。ククククク』
シエさん、彼女の杵を下ろすときの下半身の挙動が色々と問題あるとは言ってあげない。それもまた良きかなと……
* *
ということでみなさんつきたての餅に舌鼓をうつ。
特危自衛隊の雑煮は、豚汁にお餅を投入するタイプのものと、カレースープに投入する二種類が有名。勿論異星人さんにはカレースープタイプが人気である。これが実は非常においしかったり。
『でもねぇ、あたしゃこのカレースープがイマイチ相性悪いんだよぉ。ウマイんだけどねぇ』
とお悩みなのはシャルリ大佐。餅を伸ばしながらモグモグと、なんだかんだで美味しそう。
「どうしてですか?」と大見が尋ねると、
『あたしの体毛の手入れが大変なんだよ、これが』
シャルリがお悩みなのは、カレーのルーが飛び散って、シャルリの綺麗な体毛にくっついて、お手入れが大変だという話。たしかにそういえば、シャルリは前線でドンパチしてホコリまみれに泥まみれと頻繁になるが、任務が終わると常に体毛は綺麗である。案外そういうところはマメなのかもと思う大見。
で、その横では……
『おーみひひょう、おーみひひょう。なんかこのたへもの、かわってまふね』
口の中でモショモショさせながらあんころもちを食べているのはメルさん。みょ~んと伸ばしてみたり。
ハイラにはこんな食べ物がないのでおもしろ美味しいという。特にこの『あんこ』が甘くて気に入ったと。
で、セクシーゼスタール人に認定されてしまったネメアは、なんと、渋いところで『磯辺餅』がとても気に入ったという。
『この食品は栄養価が高い。仮想生命体である我々は、経口するものは基本分子変換してカウサのパワー源とするだけであるから、味覚要素は嗜好的なものという事以外にあまり意味はないが、お前達生体にとっては良い栄養源になるという点は評価できる』
要は『うまい』という事。ネメア合議体さんの中では、『ぜんざい』と嗜好を争ったが、磯辺餅6:ぜんざい4で、磯辺餅が勝利した。
ペロペロと指についた醤油をなめて、
『もう二つ必要である。製造せよ』
と、担当者に言ってたり。そんな物言いでもネメアさんならハイハイと作るデルン野郎に女性特危隊員とティ連軍人は冷たい視線を浴びせる。
と、そんな美味しいものは地上部隊だけで独占なんてのは許されないわけで、ハイクァーンデータに登録して、現在軌道上にいる艦隊全体に振る舞われる。
もちろん、航宙重護衛艦『やましろ』の艦長であるニヨッタ二佐も、ご相伴に預かる。ニヨッタ艦長のお気に入りは『きなこ餅』だった。
* *
さて、そんなお正月の食事会も済んだところで、みなして初詣……ではないが、先程リアッサ達が作ったミニ神社に参拝。
柏手打って礼して本任務の成功と、隊員兵士の無事、そしてこの惑星の名も知らないかつての文明のヂラール犠牲者へ祈りと黙祷を捧げる。
「我々の神様は、八百万といいますが、この星にはどんな神様がいたのでしょうかね?」
と大見はそんな事をポツリと漏らす。
「さぁなぁ……でもこの星に神様がいたのなら、なんでこの星の、一般人らを助けてやんなかったんだろうなぁ」
と言うは多川。
『アンナ“ヂラール”ノヨウナモノヲ研究シテ、兵器ニ利用シタノダ。ばちトカイウモノガ当タッタノカモナ。理不尽ナ話ダガ』
と仰るはシエ。
『ソレデモ一般国民ナドハ関係ナカロウ。私ハソノちきゅうジンノ言ウ“神”ノ概念ハヨクワカランガ、モシ存在スルノナラ、文明ヲ活カス殺スノ基準ヲ聞イテミタイモノダ』
リアッサが典型的なティ連人の疑問を語る。確かに彼女達ならそういう疑問を持つだろう。
これを地球で問えば、『それは神のみぞ知る事』『諸行無常、諸法無我』という言葉で締めくくられてしまうのだろう。ま、確かにそのとおりではあるが……
『だが、我々は何の罪もなく、次元の狭間に追いやられた。お前達の神々はどう解釈するのか説明せよ』
ネメアが少し悲しげな目で、シエやリアッサに問う。
ゼスタールの民は、平和に暮らしていた。何か大罪を犯したわけではない。だが、今のような姿になった。それはどう説明できるのだとネメアは問う。
『ソウダナ……結局ハソレガ現実デアリ、ソレ以上デモナケレバソレ以下デモナイトイウ事ダ』
神様云々なんてのは関係ないという事だと、シエは言う。
「でも、俺達の神様は寛容だぜ。祈っといて損はないよ。なんせ商売繁盛に試験の合格まで面倒見てくれるからな。でも、ちゃんと努力して頑張った奴にだけだ」
コクと頷くネメア。彼女の合議体は、所謂『縁起担ぎ』のような概念を、今理解したようである。
祠に向き直り、見よう見まねで覚えた合掌を再度するネメア。
彼女達は何も高度なAIというわけではない。感情ある人格なのだ。だが、その発現が希薄なだけである。ただ大見や多川も柏木同様、ネメアが日本人やティ連人と交流を持ち出してから、以前のような機械的なイメージから、少しづつ情緒的なものが出てきたのかなと感じていたりする。それはメルとの仲の良さが一番象徴的だと感じていた。
(でもまあ今のあなた達が、その神様仏様みたいな存在なのですけどね、私達から見れば……)
と、ネメアらゼスタール人達に大見は思うが、言葉に出しては言わない……
* *
というわけで皆の衆、凧揚げにコマまわしと言った古典的な遊びを日本人隊員に教えてもらい、発達過程文明の遊びを楽しんだりする訳である。
地球在住が長い異星人系特危隊員はもうこの手の娯楽は普通に知るところで、凧と言っても二本のラインで変幻自在に操る米国製のカイトやなんかもハイクァーンで作ってたり……
で、コチラでは……
『敵対象、飛翔体速度、時速86バーミル平均進入角度右舷3267……』
と、そんなシステム文字がネメアさんの視点でチラチラ計算ではじき出される。で、今のネメアの顔には、左目の周りに『○』右の目に『☓』が書かれている。
『ククク、流石戦闘合議体ト言ワレルコトダケハアル。マダマダ気ハヌケンナ! イクゾ!』
ガン! と硬い音ならせて、弾丸の如き速さでスッ飛んでいく『羽根』
『……』
その羽根の挙動に反応し、即座に弾き返すネメアの『羽子板』
そう! 今、二人は『はねつき』をやってるのであるが……その羽根の速度といい、羽子板を振り回すパワーといい、後に特危自衛隊の伝説となる『殺人はねつき』のその姿がここにあった。
……って、二人して顔にスミ塗られてそんな真剣に弾丸のような速度で羽根打ち合ってどうすんのとおもうが……シエは顔に男爵ヒゲとまぶたに少女マンガみたいな目を書かれてたり。
その殺人羽つきは、メル対シャルリでも行われていた! ……って、そんなサイボーグと、斬馬刀振り回す大剣士様の戦いはこっちも死闘扱いで……まあこれでも一応楽しんでたりするそうなのだが……
ちなみにリアッサは負けた方にスミ塗る役。要はこの変態兵士どものレクリェーションに巻き込まれたらタマランので逃げたという次第。そこはリアッサ抜け目なし……今、メルがシャルリの一撃をくらって空振りしたので、リアッサからほっぺにウ○コマークを書かれるメル。『ちくしょー』とわめいてたり。
男衆はノンアルビール飲んで、そんな女どもの死闘を大笑いしながら眺めている。だが大見の顔にも○☓が書かれてたり。シエにこっぴどくやられたという話。流石はねつきは徒手格闘のようにはいかなかったらしい。
「今年、といっても地球基準ですが、いい年であってほしいものですね、多川さん」
「そうだなぁ……はは、あの今のネメアさん、あれちょっと前まで太陽系外縁部とかで戦ってたガーグデーラさんだったんだからなぁ……こんな感じでずっと続いてほしいが……」
まあ、そうはいかないのだろうなという予感は、この時からあったのだが……
後にその予感は的中することになる。
ヂラールのモンスターフラワーとの戦闘に、現在進行系のグロウム帝国事案。
月丘に柏木達、そして特危隊員にティ連軍兵士達。
この年も彼らの活躍に期待したいところである……
おしまい。