その2:政治家たるもの……の巻
さて、ちょっとした柗本保羽の何かのアイディアやら、思いつきやら、時事ネタやらなどなど、銀河連合日本のお話をベースにしたショートストーリー集です。
作者・柗本保羽の不定期思いつきメモみたいな感覚でお読みいただければ幸いです。
文章としては大体5,000字前後ですね。雑談感覚でお楽しみ下さい。
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今回は、柏木先生が『ティエルクマスカ連合防衛総省長官』になった『日本側』の理由。政界の裏話風な感じのお話です。
お楽しみ下さい。
さて、お馴染みの二〇一云年の日本。日本はヤルバーンが州化して銀河連合に加盟して、恙無い日常であったとある日。
フェルさんが、なんだかワケのわかんない怪文書で日本の政治家として始めてスキャンダルとやらを体験してしまった、
【フェルフェリア大臣・外食会社土地取得あっせん疑惑事件】
というしょーもないスキャンダルも一段落といったところ。フェルもこればっかりはもう辟易したみたいで、こんな体験も『発達過程文明の洗礼デスか』と、これもお勉強と自分に言い聞かせ、やれやれといった感じであったワケである。
でもフェルが嬉しかったのは、そのフェル議員を支持してくれる物凄い支持者のみなさんが、徹底的にフェルの無関係を隅から隅まで調べ上げ、ヤルバーンシステムの調査能力も真っ青な、その日本国民が一丸となったときの調査能力に彼女も舌を巻いて、感謝感謝な感じといったところ。
ということで、フェルも支持者の皆さんの心意気に答えるために握手会を催させていただいたり。
こんな日常もまた平和な日々であると、発達過程文明の文化に毎度新鮮な感動を覚えつつ、日々を日本で楽しむフェルさんであった。
……と、まあそんな彼女の濡れ衣も晴れたところで、そこはそれで一段落といったところなのであるが、日本の政治という奴は、何もティ連がらみな案件ばかりが政治の問題という事ではない。
それは言ってみれば人間個人の些細な身の回りの問題というのも、結果それが組織集団単位での不満が民に集まれば政治の問題と化す訳で、そのあたりはこれ毎日の通常業務の如く、自治体から国までスッタモンダとやっているわけであったりする。
フェルはこの時点ではティ連統括担当大臣様であるからして、そういった所謂日本国内における『世間巷』レベルの話には、正直あまり関与していなかったりする。それは当時連合議員の柏木も同様で、この時点でこの二人はティ連外交の切り札として存在していたので、所謂『日本の内政』もっといえば『内務』に関しては、あまり関与していなかったのであった。
それはこの二人の党内での地位も同様で、フェルは清水幸太郎議員が主催する勉強会『新清風会』に所属し、柏木は、かつて自保党の重鎮が率いていた『旧吉高派』、現在は派閥を受け継いだ重鎮議員が代表になり、吉高派の派閥基盤を次いで組織が変わったため、その人物の名を冠した派閥所属ということになっているわけで、フェルも柏木もそこは郷に入っては郷に従えってなもんで、日本の政治家らしい事もやってたりするのである。
『デモデモ、マサトサン。イゼイラでもそういった「ハバツ」ですか? そういった政治はやってましたでスよ』
と語るはフェルサン大臣閣下。もちろんそれはイゼイラや連合旧皇終生議員の経験からというヤツである。
無論、旧皇議員時代のフェルは、政党への所属が禁止されていたので、彼女自身はそういった政治的経験は無いのだが、他の議員との付き合いもみていると、そういう例は地球や日本の例だけには留まらないという話。実際シエパパのガッシュは、ダストール政界におけるロッショ家派のトップなのだから、宇宙にもそういった政治形態は存在するのである。
「なるほどね。んじゃ、今の自保党内にある、まー言って見りゃ、今後の勢力争いとゆーか、野望とゆーか、はは。そういうのも理解できるだろ?」
『ハイですね。でも、世間一般では、なんかソレが利権って言うものデスか? そういうのも絡んで、「派閥イコール利権集団」みたいな事言われていますけど、その利権というものも、結局各議員サマの政策理念が伴って、それを支援するキギョウや個人団体が後付けでひっついてくるわけで、そういった結果論としてできてしまう「状況」なのですから、考えても見ればフツーな感じもしますけどネ』
「ほー、フェルも結構おもしろいところを突くね。なるほど、そういう考え方ってあんまりしたことないなぁ」
これはフェルのように、所謂ハイクァーン社会で生活する、即ち『利権』というものが存在しない社会で生活してきた者独特の意見と言うことも出来る。
実際フェルや柏木にも、それを望む望まざるに関わらず……まあ言ってみれば柏木の場合なら、現在の派閥が柏木の持つティ連コネクションを売りにして、そこから票を誘導してくるような政治活動を行うわけであるし、フェルにしても彼女の望む望まざるに関わらず、ティ連の『休職旧皇終生議員』という、ま言ってみれば威厳になんらかの利益集団が支持を表明して、献金なんぞをしてくるという感じなのである。
ちなみに、柏木にフェルは、政治献金管理団体を設定していない。まここらへんは一切スパっとお断りを入れいている。んじゃ秘書なんかの給料などはどうするのという話になるのだが、二人とも国費で給与の出せる公設秘書のみしか秘書を置いていないので、給与支払いの心配などはとりあえずない。
で、家に帰ればフェル私物のハイクァーンも使えるので、とりあえず歳費(議員の給与)内の範囲で生活なんぞも困らないわけで、当然そんな感じで利権とも縁遠い二人なのだが、二人が望まなくても向こうが接触してくる。イコール柏木やフェルの支持者という事になり、更にイコール派閥組織の利益になる……という具合になるわけなので、まあいやがおうにもこの二人も、利権っぽいものが議員の身としてついてまわるというところなワケなのである。
つま~り、その結果として、これもフェルが望む望まざるに関わらず噴出した『他人の都合』でもある『フェルさん外食会社土地取得あっせん疑惑事件』なーんて話も吹き出してくるわけであるからして、ま、そこが今も変わらない『諸々日本の』政治というものなのであったりする。こればっかりはヤルバーンが来て、新たな時代がやってきた日本においても、早々なくなるものでもないというところ。
* *
ということでさてさて、二藤部内閣も終盤になり、次の総裁を決めるという話になってきたわけであるが、現在自保党安保員会が主導して勧めてきた連合日本の政治。これが日本の政治的勢力状況というものを結構めんどくさいものにしているという現実があったりする。
勿論、忘れてはいけないのが……確かに日本が銀河連合に加盟した最大の功労者は、柏木真人にフェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラの二人なのではあるが、それでもやはりこの銀河連合加盟事案に関わり、奔走してきた人々の働きがあっての話なので、何も柏木とフェルだけが功労者というワケではない。
党内では、一時期幹事長をやっていた春日や、その後の井ノ崎に鈴木、寺川といった閣僚達の功績も忘れることはできない。
無論それらの結果、現在のティ連との関係構築における全体的な功績は、これ最終的に二藤部内閣の功績として世に残るわけである。
なもんで今の自保党総裁候補というのは、これ結構な数がおわすわけで……
春日・井ノ崎・寺川・柴野・清水・等々、他数人に加えて、当時は柏木やフェルもこの総裁候補にあがっていたわけであるから大変である。
ま、柏木は、結果最終的にはティ連と日本、そして地球社会との関係をさらに深めるファクターとなってもらうために、向こうさんから打診のあった『ティ連防衛総省長官』というトンデモにすぎる役職に就かされ、日本の政治家からとりあえず手を引くことになったというところだが、実際この判断も、日本政治の『思惑』っちゆーのもあったりするところがミソなのだ……
この当時、実は『柏木やフェルを総裁、しいては総理大臣に!』とか言い出したのはマスコミなのである。
マスコミが行った『世論調査』という本当にそんな数字が出たのか出てないのかわからないような数字を見てみると、コレ圧倒的になぜか……フェルさんが『次の総理大臣になってほしい政治家』トップだったりしたのである! フェルがである。ちなみに二位は柏木。三位に春日と続く。
で、これまたマスコミが仕掛けた『世論誘導』なんじゃあないのという話も出てきて当然なわけで、一体なんでフェルが総理大臣なんだ? という疑問もSNSでは当然出てくる。
ま確かにSNSでも『別にフェルさん総理でもいいんだけど……』という話はあるのだが、どう考えても現実的ではないんではという『理性』も働いているわけで、その『理性』がないのが、やっぱあの連中かといった話も出てきたりするのではあるが……
んで、『 マ ス コ ミ 』が言うには……
○ティ連に加盟したんだから、総理大臣がティ連人でもいいではないか。フェルさん今は日本人でもあるし。
○旧皇終生議員というベテランなんだから、実はフェルさんが一番総理の器なのではないか?
○ティ連との関係をここまで構築してきた柏木が総理にふさわしいに決まっている。
○旧吉高派の重要議員で、二藤部や三島に近いんだから柏木しか無いだろう。
という『世論』の意見を付随させて、連日そんな話を電波に載せていたり……で、当のお二人さんはというと……
「いやぁ~総理、以前にも申し上げた事ですけど、私がいくらティ連で……まあ、なんて言うんですか? ティ連関係で活躍したと言っても、流石に当選一回で総裁選ってのもですね」
『デスデス、ファーダ。ワタクシに至っては、ヒレイダイヒョウですし、ウチュー人サンですし、色々納得できない方がいるのも理解できますでスよ』
この二人の意見、極めて真っ当。
「ははは、まあ確かにそうですけどね。あまり大きな声では言えませんが、特に柏木先生の所属する旧吉高派には、総理の椅子を順番待ちしているような方もいますし、それで先生を逆に利用したいというような方もいらっしゃると……ま、聞いていますが、はは」
「でしょう? 総理も私が決意すれば支持するとか仰ってましたけど、もちろん本気じゃ……」
「え? そこは本気ですが?」
「またまたもー」
『ワタクシも本気で支持するデスよ』
「い、いや、あのねフェル……」
と、まあ流石に柏木総理大臣やフェル総理大臣はありえないという話でこの時は終わったのだが、実はこの話が出た時より少し前ぐらいに、マリヘイルから『柏木連合防衛総省長官』への打診話がきていたという事。
確かにフェルや柏木は、時の自保党にとって虎の子であり、所謂『票寄せパンダ』的なところは多分にあったのは事実である。それに連合関係のエキスパートでもあり、彼らがいなければ実際ティ連関係の数々ある事案の処理もどうなったものかという話はあるのだが、それと『自保党の総裁』の話、即ち党内の政治闘争とはこれまた別の話なのである。
つまり、世の中の体裁上口には出して言わないものの、党内では、柏木やフェルが総裁選に出てこられるとマズイ人がいっぱいいるという次第なのだ。
今は二人と協力関係を築いているものの、これが政敵となると延々そのこじれた関係が燻る事態にもなる。
それに支持者からの支持率にも今後大きく影響することにもなる。
例えば一般党員の票と、議員の票では、一票の数に関して言えば議員票の方が重い。なので、もし仮にこの二人のどちらかが総裁選に立候補して、一般党員票で圧倒的支持を受けているのに、議員票でひっくり返ったら、議員票で当選した総裁の支持率に影響を与えかねない状況にもなるのである。
柏木とフェルは、事ティ連に加盟した日本において、それだけの影響力を持っている存在であるのは確かなのだ。
実のところ二藤部達は本気でそのあたりで困っていたのは事実であった。
世論的に、二藤部の次に柏木とフェルを除いて一番支持率の高いのは春日である。
だが、春日は実のところティ連関係の政策について、二藤部と意を別にする意見を持っているところがあった。その詳しい話はまたの機会となるのだろうが、春日の立場としては二藤部がもし柏木なりフェルなりへ支持を表明されては困るところがあるのも事実なのである。
総裁選前になり、ここにきて春日も二藤部批判を党内で行うようになり、そこで世論的に、自保党系保守層からも批判を浴び、ネットでもえらくボロカスに書かれるようにもなってので、まあ所謂考え方によっては自由保守党で毎度行われる恙無い『通常の総裁選』の前哨戦が始まってきたわけでもあった。
で、そんな情勢下、ある時の総理執務室での、二藤部と三島の会話。
「……まあ、そういうところで柏木先生と、フェルフェリア先生を世論の目から離さなければ、今後の我が党における支持率にも影響しますからね、三島先生」
「だよなぁ……マスコミの連中もまた『時流の乗らねーと』とかワケのわかんねー事言ってあの二人担ぎ出すんだから、参っちまうよ……これも方法論変えた政府批判って奴か? リベラル連中の」
「さあ? はは、それはどうなのかわかりませんが、ま、正直党内論で言えば、あまりあの二人を主軸に世論が形成されるのは正直好ましく無いのは確かです。これは柏木先生とフェルフェリア先生二人の為にもなりませんし」
「だよなぁ……おいら達はあの二人に相当な恩義もあるし、ここで党内のゴタゴタで潰れられたり、疎遠になっちまうようなことになるのは安保委員会としても絶対に避けねーと」
と、こんな会話がなされていた。
これがどっかの政治フィクション作品なら、主人公がそんな状況にものともせず、燃えて反骨精神旺盛に向かっていって、総裁になって、っとそんな物語になるんであろうが、実際はそんな生易しい話ではない。
しかも、今では連合加盟した日本だ。ティ連がらみの話も出てくる。
「……んじゃ総理よ、あのマリへイル連合議長の話、受諾するしかねーよな。柏木先生の将来考えたら、やっぱりソッチのほうが良いってことに……」
「ですね、その方向でマリへイル閣下にも打診するつもりです。正直我が党としては、『衆議院議員・柏木真人』がいなくなるのはつらいところではありますが……」
「となると、次の総裁は……世論的なところを見ても春日先生にほぼ決定だな……ま本音を言うと俺っちとしては、あっちを推したかったんだが」
「そこはそういう流れでしょう。あえて黙認するしか無いですが……ま、条件も付けて、春日派の先生方にも話をというところですが、三島先生そっちの方は……」
「おう、任せてくれ。はは、フェル先生をおいらの後釜……『外務大臣兼副総理』にするっつー条件で、あえて意見はしねーって話はしておいたよ。これでフェル先生の影響力をティ連にもプレゼンスできるし、春日先生としても正直悪い話じゃねーと思うんだけどな」
と、まあこんな裏の話もあったりする。所謂これが政界における『めんどくさい話』といったところ。
だが、これが悪いわけではない。二藤部にしても三島にしても、春日にしても、支持もあれば逆に批判もある。二藤部だって第一次政権の時は、色々言われた事もあれば、三島だってそうだ。そこは政治の世界というのはそんな物である。
だが、現代社会ではネットにSNSと、個人の意見を世に流す手段が発達しているので、『ナンチャラ評論家』やら『ナントカコメンテーター』とかいう割と名の知れた連中が、フォロワー囲って意見を発信すれば、相応に世の中に対して影響力も与えるわけで、そこが昔の放送メディアしかなかった頃と大きく違うところ。
なので『虚偽の情報』も『事実の情報』も『真実の情報』も、個人の責任で判断しなければならない時代なのである。そこで一方通行の物の見方しか出来ないようであれば、自分は『正しい』と思ってもそれは実際のところ『公平』な判断とは言えない物でもあり、後でそれに気づいてしまう人が多いのも確かではある。
それに政治家も政治家で、人から嫌われても政治信条がある限り、それが正しいと思って、それを訴えて当選して政治家やってるわけであるからして、その『政治信条』の内容を批判されたところで、『じゃあ信条を変えました』とかやらかせば、そんな日和見な政治家誰が信用するかという話になるので、政治家としてもこの時期は正直つらいとろこでもある。だからそれを見る人間は、批判はしてもいいが、誹謗中傷するものではない。ここで『批判』と『誹謗中傷』の違いが理解できずに野党の伝統芸のようなことをやらかせば、そこで信用を失う。
そんな世界が政治の世界である。
フェルの場合は、彼女も一応は『旧皇終生議員』という、生まれた時点で議員をやっているような、ある意味今の日本で一番の超ベテラン議員ともいえるので、こんな日本の政治の話でも、対応できるとことろはあるのだろうが、柏木を『当選一回』でこんな世界へ放り込むのは流石に無理がある。ならばかの突撃バカ能力を生かせる場所はどこか? といえば……
そんなこんなな話で、実は
【柏木真人・ティエルクマスカ連合防衛総括統合幕僚省長官】
が誕生したのであった。
ま、この役職を経験してからまた日本の政治家に戻ってもらえれば、ハクも付いて良いんじゃないんですか? ってなところもあったようで……
とかく政治に政治家たるもの、『連合日本』になっても、その本質は早々に変わるものではないというとこであったりする……まったくもって世の政治家の方々は、与野党問わず、相当にご苦労サマといったところでしょうか?
その2:政治家たるもの……の巻、おしまい。
お粗末。