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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
11/119

-3-

 ……柏木が正体不明の飛翔物体に説教を食らわしてから一週間が経った……





 そしてこの一週間にいろんな出来事が起きた。

 太平洋上に降下した超大型未確認人工物体-通称ギガヘキサは、通称から国際共通コードネーム、すなわち世界共通の正式呼称となった。

 報道機関も、「未確認大型人工物、いわゆるギガヘキサ」から「いわゆる」以前がとられて報道されるようになった。

 ちなみに、小型の飛翔物体は、「ベビーヘキサ」と呼ばれることになった。


 ギガヘキサは、太平洋上に降下した後、アメリカ第7艦隊の追跡を受けながら、ゆっくりと極東方面に移動した。

 そしてその間、ベビーへキサは次々とギガヘキサに収納され、あらかた2日後にはすべてのベビーヘキサを回収したと思われた。


 当初、地球に降下したギガヘキサは、ウェーク島近海に降下したため、近隣の諸島住民は大パニックになったという。しかも高度800メートル前後で降下したのでその容姿たるや異様そのもので、島民の中には生け贄を捧げようと言い出す者も現れる始末だったらしい。


 困ったのは米軍第7艦隊で、自分たちの艦隊の真上を堂々と飛行されるものであるから、艦載機の発進にも障害が生じ、追跡航路の変更を余儀なくされた。


 その後にギガヘキサを哨戒した艦載機によって写真や動画映像が数々撮影され、その詳細な形状が把握できた。

 基本的にISSが撮影したデータとほぼ同じであることが分かったが、さらに分かったことは、船体に文字らしきものが書かれていること。そして何らかの意匠らしき図柄が描かれていることも確認され、この資料から間違いなく異星文明の宇宙船に類する物と断定された。


 文字は三角形を基盤にしたようなデザインと、波線のような物を基盤にしたデザインに分かれており、おそらくどちらかが文字でどちらかが数字ではないかと推測された。

 図柄は、三角形が一列交互に三段重なった物に、輪を持つ星か何かのような物が描かれ、おそらく国籍マークに類する物ではないかと推察されている。

 

 そして彼らとの交信も試みられた。

 とりあえず各国の主権を無断で侵害したため、米軍は以下のような文言の呼びかけを英語・露語・日本語・仏語で全周波数帯で行った。しかし中国語は使われなかった。なぜなら、中国一国のみが、その他の国家との協調を無視していたからである。



『正体不明の大型宇宙船に告ぐ。貴船は地球人類の生存領域を無断で侵害し、本惑星に存在する国家領空を許可無く侵害した。我々人類は貴船に対し直ちに停船を求め、我々人類との交渉に応じることを要求する』


 ……しかし完全に無視された。


 ギガヘキサに対する三島副総理の見解、すなわち「既存の攻撃手段は彼らには通用しない」という考え方は、ロシアを含む概ね先進各国は持っていたようで、その方針から、このような警告文言になった。

 実際どうすることもできないため、やむを得ない物と言えた。そしてその軍事行動も追跡と監視に留めていた。

 ベビーヘキサには、各国場合によっては迎撃行為を行った国もあったようだが、その縦横無尽な機動性と、観測最大速度マッハ10を記録する猛烈な、しかも衝撃波を伴わない速度。そして強固なシールドにより、事実上撃墜することなど不可能であり、どの国も一機たりとも撃墜するに至らなかった。


 そんなこともあり、各国は暗黙の了解で監視にとどめていたものの、そういった考えが通用しない国が一つあった……中国である。この中国がとった行為が、先の警告文言で中国語が使用されなかった大きな要因でもある。


 中国はベビーヘキサの捕獲にやっきになり、陸・空軍を総動員してベビーヘキサを追っかけ回した。

 ある部隊では罠を張り、村を一つ犠牲にしてまで集中砲火を浴びせた。つまり村人を犠牲にして集中砲火をかけ、ベビーヘキサを破壊、捕獲しようと試みたのである。


 しかし逆にベビーヘキサの展開したシールドで村が完璧に守られ、後にそれが動画投稿サイトに投稿され、中国国内はもとより、世界から非難の嵐を浴びることになった。

 現在でも中国はその事件を必死に異星人のせいにしようとプロパガンダを展開している……中国共産党はこの事件が国内の混乱の引き金になることを極度に恐れていた。


 ……そしてその村の存在は、今はなかったことにされている。


 この行動により、世界各国は中国との協調は不可能と判断し、ギガヘキサの文明を刺激しないように中国を排除して各国は対応に努めたのである。



 そして耳を疑うような不思議な事件も多数報告されていた。


 後に『ベビーヘキサ飛来事件』とよばれるこの事件での世界での死傷者数は、なんとゼロだった。

 攻撃を受け、流れ弾が民間施設に命中しかけた事例もあったが、その攻撃から民間人を守ったのはベビーヘキサであったという報告も入っていた。

 一部の国の部族では、ベビーヘキサを神の使いと崇めるものまで出てくる始末である。


 そしてそれだけではなく、日本国内でも奇妙な事例が数々報告されていた。


 ベビーヘキサ飛来の避難時に交通事故が起きた。運転手はとりあえず避難のためにその場を離れたが、後に交通事故処理で事故現場に戻ってきたら、自動車が元通りにきれいに直っていたという事例。


 車椅子で避難していた下半身不随の男性が、ベビーヘキサの目標になり、例の扇状の光線を浴びせられたが、その光線が急に収束し、レーザーのような光線になり体中に照射された。男性はびっくりして車椅子から転げ落ちたが、その後、スックと立ち上がり、下半身不随など無かったかのように歩けるようになったという事例。


 そして多くの目撃者がおり、動画まで撮影されて投稿サイトに投稿され、アクセス数100万アクセスを突破した衝撃的な事例があった。

 避難時に天ぷらの火を止めるのを忘れ、ある民家が火事になった。その火事の現場にベビーヘキサが飛来し、例の光線を照射。火事を消し止めた……までは良いが、その後が衝撃的だった。

 ベビーヘキサからレーザーのような光線が照射されたかと思うと、まるで3Dプリンターのようにそのレーザーを照射し、火事になった家を一軒まるまる新築同様に再建してしまう動画だった。

 家は内装まで新品同様に再建され、細部は微妙に違うところもあったが、ほぼ完全に再建されていた。


 そしてその家は、現在公安の管轄下に置かれ、調査されている。


 このように、奇跡ともいえるような事例を数々起こしながら、ギガヘキサは、ゆっくりと北上、そして東京を通過すると思われたが、なんと相模湾大島を少し通過したところで停止。海上から約800メートルの地点に居座ってしまったのである。


 大島島民の証言では、三原山山頂ギリギリの位置を通過するギガヘキサは、荘厳この上なく、「まるで島全体に屋根ができたようだった」とも言われ、住民によって数々の写真や動画が撮影された。


その写真の中にはオークションサイトで20万円もの価格が付くものもあった。


 その後、鎮座したギガヘキサは、何をするわけでもなく、その場に居座り、何かを待っているかのようにじっと佇んだままになってしまっていた。


 日本政府はその後、彼らの起こした数々の事例から「敵対的な異星文明ではない」と仮判断を行い、戒厳令と避難指示を解除した……



…………………………………………………



 さて、ベビーヘキサに説教を食らわし、自分の名刺を無理矢理機体にねじ込んで、氏名を堂々と名乗った挙げ句に『かかってこいやぁ!』と異星文明相手に営業活動をかました、柏木真人(37)はその後どうなったかというと……警察に保護された。


 実はあの後、彼が救った女性の「私を救ってくれた男性を助けてやってくれ」という通報で、警官隊がやってきていたのであるが、柏木はそのとんでもない営業活動を警官隊に遠巻きで全部目撃されてしまったのだった。

 警官隊としては、ベビーヘキサの脅威に二次被害を恐れ、突入できなかったというのもあるが、何より自分からベビーヘキサに向かって行き……なんか急に怒り出してベビーヘキサに文句をブチまけた挙げ句、何かをねじ込んでベビーヘキサをひるませて撃退した(ように見えた)男の姿に唖然として、突入するのを忘れてしまっていたというのが大きな理由だった。


 その後、へたりこんで這うように何かスマートフォンやタブレット端末をいじったあと、呆けて動かなくなった柏木に警官隊はさすがにマズイと感じ突入、救急車に押し込まれ、阪大病院に搬送された。


 阪大病院で無菌室にまで放り込まれ、バイオハザード患者扱いまでされて、徹底的に精密検査を受けさせられた柏木は、別段なーんにも悪いところもなく、結局「単なる疲労」という結果になり、二日後に退院させられることになっていた……



 ……が、事はそう単純にはいかなかった。



 今、柏木の病室の前には、屈強な警官が衛士に立ち、柏木の部屋に運ばれる病院食まで検査させられて運ばれる状況になってしまっている。

 柏木が阪大病院のコンビニや喫茶店などに外出するときも、必ず護衛が付き、まるでVIP扱いである。そして二日後の退院が五日後にどういうわけか延長され、理由を聞いても答えてくれず、外出はどこに行くにも自由に行えたが、必ず護衛が数人ついて回るという有様で、その理由は入院から三日後に分かることになった。


 

 ……三日後の昼頃。

 柏木がヒマをもてあまし、タブレットのゲームに興じていると、コンコンとドアをだれかがノックした。


「?……はいどうぞ、開いてますよ」


 病院特有の横開きのドアをガラリと開けて入ってきたのは、小綺麗なスーツに身を固めた、もう見た目に官僚丸出しの男達が三人。

 見ると、病室の前で警護している衛士が敬礼をしている。警察関係者だと一発で分かる光景だった。


「どちらさまですか?」


 まぁとりあえず聞いてみた。

 男は胸ポケットから警察バッジを出すと、


「どうも初めまして柏木真人さん、警視庁公安部の山本と申します。こちらは長谷部と下村」


 長谷部と下村という男が軽く会釈する。


「あぁ、公安さんですか、なるほどね……」


 柏木は彼らを見て、自分の5日間入院延長の理由を大体察した。


「で、何ですか?ご用件は。もしかしてベビーヘキサ……でしたっけ?アレにやった行動に関しての調査と言うことですか?」

「お察しが早くて助かります。まぁ調査だけではありません。今後のあなたの身の上のご相談というのもありまして……」

「身の上ですか…………ふむ、あ、まぁ突っ立ってるのもなんでしょうし、おかけください」


 山本らは一礼するとソファーに腰をかけた。


 公安警察はこういう場合、普通は自分の所属と名を名乗ったりはしない。むしろ素性を徹底的に隠して行動するものである。なぜなら、彼らは警察でありながら世界各国では「ポリス・エージェント」という通称まで付けられるぐらいのれっきとした「エージェント」つまりCIAやMI-6、FSBのような諜報員と考えられているからだ。

 しかしまったくそういうケースがないかといえばそういう訳ではなく、自分の所属や名前を彼らが名乗る時は、相手に対してかなり深い協力関係を構築したい場合か、相当な信頼を得ておきたい場合にはこのようなケースもある。


 現在の公安警察官は、実は戦前、戦時中のかの悪名高い「特別高等警察」すなわち「特高」にその源流を持つ。無論、現在の民主主義法治国家である日本では、かつての特高のような傍若無人な振る舞いとは無縁な立派な日本の治安を守る公務員だが、対テロ活動監視や外国人スパイ追跡などの力量は、特高時代の技量をそのまま受け継いでいるとも言われ、世界的にも優秀なエージェントとして知られている。ただし、やはりそういう組織であるが故に機密で謎な部分も多く、超法規的な活動が噂されているのも事実である。



「ずいぶんと、私たちのような人種に慣れておられるようですが……」


 山本は柏木の屈託のない反応に、その鋭い視線で少々意外さを示す。


「えぇ、まぁ、その手の人物に知り合いがいましてね」

「ほう、どういう方でしょうか?差し支えなければ……」

「外務省の役人で、白木って奴なんですけどね、私の親友なんですよ」


 白木の名前を出したとたん、山本は目をぱちくりさせた。


「白木って……白木崇雄調査官と友人なんですか!」

「え?えぇ。学生時代からの友人ですよ。ついこないだも一緒に飲みに行ったとこです……アイツってそんな有名人なんですか?」

「クククッ…ハハハハ……あの人と友人ですか、なるほどね。 いや有名人も何も、あの人には我々公安も随分助けられたことがありますよ、ハハハハ」


 一気に場が和む。控えていた長谷部と下村も笑顔になった。

 外に控えていた衛士も、泣く子も黙る公安が来たというのに、笑い声が聞こえる病室に「何事か」と訝しがる表情をしていた。



 これが柏木という男である。とにかく物怖じしない。

 よく言えば図太い。普通に言えば考え無し。悪く言えば鈍感。

 こんな性格なので、こういった普通なら萎縮してしまうような人種相手にも屈託がなく、臆するところがない。


 山本は「ハァ」と一息つくと、今までの刺すような表情を和らげて、リラックスしたように話し出した。


「白木さんと友人とは……そこまでは事前調査できませんでした」

「あの野郎、あんなんですから、お役人のみなさんに迷惑かけてません?」

「迷惑?いやいや迷惑どころか……あ、いや、ハハ、この話はここまでにしましょう」


 なんか色々あるみたいだ。(まぁ白木ならなぁ……)とざっと考えただけでも100通りのトンデモパターンが思い浮かびそうだ。


「で、本題に入りますが……」と山本が顔を引き締め、柏木と対峙し直す。

「府警の報告書を読みますと、貴方はBH……あぁBHとはベビーヘキサの公安内の呼び方なんですが、

これに対し、何か交流を持っていたという風にあるのですが……何か意思の疎通でも行えたのでしょうか?」

「え?意思の疎通?いいえ?……腹が立ったので、私が一方的に怒りをブチまけてただけだったんですが……恥ずかしながら」


 柏木は、頭をポリポリかきながら恥ずかしそうに話した。

 そして、それに至るまでの内容を、覚えている限り詳細に話した。


「要するにきちんと名乗って挨拶しろと……そして文句があるなら俺に言ってこいと……」

「はぁ、そういうわけでして……」


 長谷部と下村が笑いをこらえていた。


「しかし、その『待て』と言ったときに反応したのですね?」

「えぇ、それは確かに」

「なるほど……」

 

 山本は手帳に何か色々とメモっているようだ。そして質問を続ける


「で、府警の報告書では、貴方はBHに何らかの干渉を行ってBHを追い払った……とあるのですが、何か物理的な干渉を行ったのですか?」

「えぇ……まぁ……」と柏木が答えにくそうに言うと、間髪入れずに山本が「どんな?」と聞き返す。


「名刺をですね……くれてやったわけでして……」

「は?名刺?」

「えぇ、名刺」

「名刺って、あの?……名刺ですか?」と、山本は名刺を渡す格好をする。

「はい……」


 少し沈黙が走る……場が持たないので、柏木は、新調したばかりの自分の名刺を名刺箱から束にして、ベビーヘキサの電光スリットのような場所へ突っ込んでやったと言った。 


 長谷部と下村は、笑いの我慢の限界だったようだが、山本はそうでもないようで、メモをとりながらペンを頭に当てて何か考えてる様子だった。


「……わかりました。で、他に何か気づいた点などありますか?……なんでも結構です」

「そうですね……あ、そうだ……」


 柏木は自分がベビーヘキサの後ろに回り込んで空き缶を投げたとき、シールドのような物に弾かれたのだが、名刺を突っ込んだ時は、シールドが働いていなかった事を話した。

 その話をすると、山本は目の色が変わり、「本当ですね?」と何回も念を押して聞いてきた。長谷部と下村も、その答えを聞いた瞬間、笑いが止まり、三人目を合わせて何か目線で確認し合ってるようだった。


「どうしたんですか?」


 柏木が怪訝そうに聞いた。


「柏木さん……やはり貴方、彼らと意思疎通してましたね……いや、貴方自身はそういうつもりはなかったのでしょうが、結果的にそういう形になっていますよ、コレは……」

「え?!どういうことですか?」

「んー……まぁいいでしょう。後の話の関係もありますし……」


 山本は柏木に説明する。

 つまりこういうことである。まず、『待て』と声をかけてベビーヘキサが反応を見せたこと。シールドを張って外的要因を排除する体制を取っていたということ。しかし柏木が文句を言ってるときには、シールドを解除していたということ。そして名刺をぶっ刺した時に、抵抗する行為をみせず、外的要因を受け入れていたこと。


「つまりですね、貴方が文句を言っていた時、BHはシールドを切って貴方の話なり行為なりを見るなり聞くなりしていたという「意思」がBHに働いていたわけです」

「えぇ、確かにそういうことになりますね」

「そして、貴方が名刺を刺した後、BHは後ずさりするように後退して、逃げるように飛び去ったわけですよね」

「えぇ、確かに」


 山本は腕を組んで「フッ……なるほどね……」とつぶやく。


「で、それで意思疎通できてたとして、何かあるんですか?」

「わかりませんか?意思疎通できるということは、誰と意思疎通するんです?」


 柏木は少し考えて、「…………あっ!」と気づいた。


「そうです、あのギガヘキサには「人」が乗ってるということですよ。しかもかなりの人数が」

「じゃぁ、あのベビーヘキサにも?」

「いや、それは分かりません。しかし仮に無人であったとしても、少なくとも遠隔操作で人が管理して操作してるのは間違いないでしょう。自動制御のロボットなどではないはずです」


 山本が言うには、日本政府、いや世界各国が一番知りたがっているのは、ギガヘキサが無人制御のロボットのような物体か、それとも有人の宇宙船かということであった。

 何せ人類の呼びかけにも一切応答せず、あまりに躊躇がない行動に、有識者の間ではロボットのようなものではないかという意見も多く出ていたからだ。

 それがわからなければ、交渉という選択肢がまず無くなるわけで、今後の方針に重大な影響が出るからである。

 

 確かに、壊れた車を直した事例や、半身不随の男性を治療してしまった事例、そして火事の家屋を再生させた事例や、軍の攻撃から民間人を守った事例などあるにはあったが、基本的に単純であり、これも高度な人工知能のようなものであれば可能な事で、「人」の存在を確定できる証拠には今ひとつだった。


 しかし柏木の事例は特別で、『呼びかけに答える』『人命を優先して自分の状況を選択的に変える』『相手の要求や行動を聞く・見る』そして決定的なのが『外的要因に驚異を覚え逃走する』という行為で、これがもし自動制御のロボットのような物であれば、ここまでの良心や好奇心に基づいたような行動の選択は行わないというのが根拠であった。

 

「こういう事例は、今回の事件を見ても……柏木さん、あなただけなんですよ……つまり貴方はギガヘキサの文明人とファーストコンタクトを取った人なんです」


「…………なるほど…………」


「しかも……ククッ……名刺まで相手に渡してるんですからね。すごいことですよ……」

「しかし、それでなぜ私がこんな衛士までいるような過保護な待遇を受けることになるんです?」

「実は、ギガヘキサが極東方面へ移動を開始した時間、そしてベビーヘキサがギガヘキサへ帰還しはじめた時間帯が、貴方のあの行動のあとの時間帯と合致するんです」


「えぇぇ!?…………」


柏木は(やっぱり俺か!?俺だったのか!)と心の中で叫んだ。


「つまり、貴方はギガヘキサの文明人が初めて意思疎通を果たした地球人なわけですな……いろいろな面で。まぁ移動を開始したのは単なる偶然で、私はあまり関係ないと思っていますが……」


 山本は語気を強めてその後の言葉を言った。


「そして、この件について、日本政府がイニシアティブをとれる重要人物だということですよ、貴方は……」





 柏木はこの時、事の重大さをジワジワと実感していった。


 




 ただ、疑問点も山本は説明する。


「ただね柏木さん、腑に落ちないところもありましてね、貴方のようなコンタクトの方法を日本以外の国で、あの文明は行っていないんですよ……確かに軍の攻撃から民間人を守った事例はありましたが、そのほか、家を直しただとか、事故った車を修理してしまったとか、身体障害者を完治させたとか、そういう事例は他の国ではないんです……まぁこの点が少し気にかかるところでもあるんですけどね」


 そして、政府が一番疑問に思っているのが……


「そして相模湾沖になんであんな風にデンとかまえて動かないのか?なぜ向こうからコンタクトを全く取ってこようとしないのか、疑問はつきないわけですよ」




 柏木は(え?それって俺が名刺渡したからじゃないんですか?違うんですか?文句あったらかかってこいやと言ったからじゃないんですか?俺が東京にいないからじゃないんですか?ヤクザが「ご主人が帰ってくるまで、ここで待たせてもらうわ、のう」っていうのと同じじゃないんですか?)と喉まで出そうになったが、耐えた。




 山本は、少し真剣な顔つきになり過保護の理由を話す。


「でね、柏木さん……まぁそういう訳なんですが、この事、私たち公安だけじゃなくて……やっぱり外部にも知られてるわけでしてね……」

「何が仰りたいのですか?」

「つまり、外国も日本政府と同じ事を考えてる訳ですよ」


 柏木はこれでも一応ガンマニアであり、偏った知識は豊富である。そして交渉事で生計を立ててる人間でもある。つまりそういった知識はそれなりに有している。山本が言う前に答えを言ってみた。


「私の身柄を欲している。もしくは、接触したい勢力がウヨウヨいて、私をつけまわしてると?」

「そういうことです」


 確かに当時の千里中央は閑古鳥が鳴いていたが、人っ子一人いなかったわけではない。誰かが柏木の行動を遠目で見ていて、撮影なりすることはできたはずである。そしてそのデータを売る、ネットに流す等を行うことは容易にできるだろう。


 山本はポケットから写真を数枚取り出して柏木に見せる。

 写真には人の像の上に赤丸がいくつか書き込まれていた。


「これは下のロビーのセキュリティカメラの写真ですが……これとこれ、こいつ、この三人は公安のデータにあるCIAの下請け連中です」


 もう一枚。柏木が近所のスーパーに買い物へ行った時のスーパーの防犯カメラ写真を指さして


「こいつはロシアのSVRですな、この女は中国の公安部、こいつは韓国の国家情報院……なぜ護衛をつけてたかわかりますよね」


 柏木はその写真を見せてもらった途端、普通ならガクガクブルブルになるところなのだろうが、突撃バカの称号を持つ柏木は、山本にこういった。


「そういうわけですか……どうも気遣いさせて申し訳ないです」


 山本はこの答えに意外そうな顔をした。

 普通なら「どどど……どうしたらいいんですか?私わ!!」とかいってうろたえるシーンになるところだが、柏木はどうもそういう思考をもたないらしい


「それで今後の身の振り方ですか……どうするっかな~……私の自宅の方にもその手の連中、います?」

「え、ええ……柏木さんの自宅も監視させています」


 山本は、柏木の性格をなんとなく把握できていた。でなければ公安警察は勤まらない。

 で、一つ柏木に提案してみた。


「実はね、柏木さん……今回貴方の身の上を事前調査するにあたって、色々調べさせてもらったんですが、貴方、相当なコネをお持ちでいらっしゃる。そして、ネゴシエイターですか?その点でもなかなかビジネスがお上手だ……「株式会社 想楽」の件、これも調べさせてもらいました」

「そんな事まで調べてるんですか!?」

「まぁこれも一応仕事なので、申し訳ありません。実はこれは誰かは言えないんですが、ある方からかなり詳しい情報も提供していただきましてね」


 山本はニヤっと笑う


「それでですね、貴方のそのお仕事の能力も併せて、お互い今後の事、ちょっと考えてみませんか?」


 柏木はちょっと渋い顔をして、


「なんかこないだNHKでやってた公安外事課物の変なドラマみたいじゃないですか、なんかやだなぁ……」

「ハハハ、アレなら私も見ましたよ。あそこまでのことはないですって。でも、白木さんとご友人なら、面白いことができそうですが、どうです?……これは冗談抜きで、とにかく貴方の身を完璧に護る方法を考えないといけない。これは我々公安が…と言うよりも、日本政府としてのお願いと考えてもらって結構です」



 なんかとんでもない方向に話が行ってるぞ……と、柏木はその嗅覚で感じていた……









……………………………………………








 東京某所にある高級住宅街。

 まるで日本絵画に描かれるような日本庭園。

 鹿威しがコーンと鳴り、住宅街とはいえ、ここが東京であるということを忘れさせてしまう。

 

 外務省調査官 白木崇雄は、そんな豪華な日本庭園が見える豪邸の来客室で、パリっとしたスーツを身にまとい、正座をして誰かを待っていた。


 すするお茶に、部屋に敷き詰められた畳の藺草の香りが混ざり、何とも落ち着いた気分になる。

 しかし白木は思う。


(やっぱ金っつーのは、あるところにはあるんだねぇ……)




 しばし後、待ち人来る。


「やぁ、白木君、待たせたね」

「いえ、こちらも立派なお庭を楽しませていただいていたところです、大森会長」


 大森会長?


 そう、あの日本兵の格好で高級エアガン九九式軽機関銃で張り切っていた、あの『大森宅地建物株式会社』社長の大森である。

 




 実は、大森宅地の大森社長とは彼の別の姿であり、彼の真の姿は、『株式会社オオモリグローバルホールディング』略称『OGH』会長なのである。

 『ホールディング』すなわち持ち株会社の会長であり、『大森宅地建物株式会社』は、彼が起業した際の思い入れのある会社で、今はOGHの子会社。大森はそこの社長も兼務していたのだ。


 OGH傘下の全子会社従業員4万人の長である。

 連結子会社は、大森宅地のようなゼネコンを始め、情報ソフトウェア・ハードウェア、情報インフラ、外食産業、旅行業、金融、保険など多岐にわたる。


 特に情報ソフトウェア、ハードウェア、情報インフラ産業面では、世界的な特許を多数持ち、OGHの基幹企業となっていた。


 大森自身も、日本経済連合会副理事などの要職を務めた事もあり、政界にも非常に太いパイプを持っている。



 ……ちなみに、偏った情報にはやたら詳しい柏木は、この事を全っ然知らない。

 逆に言えば、大森自身も、そういうことを知らない柏木だからこそ、屈託なく『サバゲ仲間』として付き合えるのである。

 ……まぁ、柏木なら、仮に大森がこういった持ち株会社の会長と知っても、別段なんにも変わらないかもしれないという話もあるが……


 しかし柏木が知らないのも無理はない。大見も知らない。実際あのサバイバルゲームイベントに参加していた参加者も、『大森宅地の大森社長』なら知っているが、『OGH』の大森会長となると知らない人の方が多いのである。



 持ち株会社、即ちホールディング会社というのは何かというと、傘下の株式会社の株式配当や、株式売却益のみで食ってる会社のことである。従って、傘下企業の『株式管理会社』の意味合いが強い。実のところ『OGH』自身の従業員数は40人ほどしかいない。傘下企業のほうが、はるかに規模がでかい。しかしそういった数多くある傘下企業の莫大な利益に基づく株式配当などで成立している会社なので、その利益たるや企業規模に反してものすごいものがある。


 つまり、この『持ち株会社』とその傘下企業というのは、昔風な言い方をすれば『財閥』なのである。例えば、かつての三菱財閥なども、今風な言い方をすれば、ホールディング企業ということになる。


 しかし、この『OGH』よりも傘下企業の方が有名な企業もたくさんあるため、この『OGH』自体は、じつのところ一般人がそんなに知ることはない。

 例えば、有名な「竜王伝説」のゲームや、「最後のファンタジー」なゲーム、日本でかつて一世を風靡した「宇宙侵略者」なゲームを作っていた超有名な企業も、持ち株会社の傘下企業で、その上の持ち株会社の名前を知る人は、そういった業界に興味がある人以外はあまりいないのと同じことである。






「まぁ白木君、そう畏まらずに、さばげー戦友同士じゃないか。足を崩してくれよ」


 大森は白木の正座をし、背筋を伸ばした凜々しい姿勢にそう言った。

 すると白木も案の定、白木らしく。


「そうですか?それじゃ失礼します……イチチチチ、やっぱりこういう姿勢は苦手ですよ、ハハハ」

「やっぱり白木君はそういう感じじゃないと面白くない」


 大森も田舎の気の良いジーさんのように、急須と湯飲みを持って白木と卓を囲む。


「おーい田中くーん」

「はい会長」


 スッと障子を開けて清楚な姿を見せるは、例の噂の、銃の違いが分かる田中秘書である。

 今日は凜とした着物姿であった。


「なんかお菓子持ってきてくださいな、それと田中君も同席してくれるかね?データの話が出るかもしれないし……あ、もちろん君の分のお菓子も持ってきなさいよ」

「畏まりました」


 一礼をして、一流旅館の女将のごとく、きれいな所作で障子を閉めて出て行く。


 


 秘書田中が菓子を持ってくるまで、先日のサバイバルゲームの話に花が咲く。


「しかし、柏木が会長の正体を知ったら、どんな顔をするでしょうね」

 

 白木がクククっと笑いながら話す


「いやー、柏木君なら『えええ!そうなんですか!すごいなぁ』で終わりなんじゃないかな。白木君の方がそういう所、知ってそうな気がするが」

「確かに。えぇ、確かにそうでしょうな……しかしアイツがバカなんですよ、普通新聞の経済欄でもきちんと読んでれば分かろうもんと思うのですが……アイツの知識って、そういうところ妙に偏ってますからね」 


 白木が頭を抱えて笑う……まぁ大見も大森宅地建物社長の範囲で驚いていたわけであるから、世の中そんなものなのかなとも思った。


「まぁ、彼の場合、あの屈託のなさが良いところだ。ワシはそこが心底気に入っているからね。でなければ、彼は『ビジネス・ネゴシエイター』なんて商売で食ってはいけないよ、うん」

「えぇ、確かにそうですね」




 そして秘書田中が菓子を持ってくる。菓子は京都名物の抹茶ロール。


 自分愛用の湯飲みも持ってきているようだが、なんかおかしい。

 湯飲みをよく見ると、筆で書いたような英字で、なんかタラタラと……


『From now on, you will speak only when spoken to, and the first and last words out of your filthy sewers will be "Sir!"』

 

 と書いてある。

 その英文の意味の分かる白木は心の中で(やっぱりこの人、おかしい……)と思った。白木に思われるぐらいであるから、相当である。





「で、話というのは……新見君から一通り聞いていますが、あの件の事ですな?」

 

 大森が姿勢を変えて話を本題に戻す。


「えぇ、公安の山本さんから、新見統括官に話がいったそうなんですが、私も統括官から話を聞いたときはひっくりかえりそうになりました」

「実は山本君ね、ワシのところに最初話を聞きにきましてね、その内容が柏木君の身辺調査だったので、彼が何かやらかしたのかと心配になって山本君に尋ねたんですよ……なんせ相手が公安じゃないですか、何かテロ組織にでも売り込みに行ったのかと……」


 大森はその言葉の内容とは逆に、その表情は妙に嬉しそうであった。


「そうしたら、あの内容でしょう?……私も心臓が止まりそうになりましてね。で、事の詳細を田中君に調べさせたらその通りでしょう? まさか、あの小型円盤相手にそんな大立ち回りまでやってみせるんですからね……ワシがOGHの会長なんて事、ホント些細なことじゃないですか?彼にとっては……」


 白木は、(いや、だからその田中さんは一体何者なんだよ)と突っ込みそうになったが、耐えた。

 大森は続ける。


「それで新見君から話を聞く前に、山本君からワシに根回しがあったのですが……さすがに柏木君の身の安全を確保するためとはいえ、アレはちょっと荷が重過ぎるんじゃなかろうか……」


 大森は腕組をして白木に疑問を呈す。


「ですが、アレぐらいのことをやらないと、間違いなく他国の諜報屋どもは柏木に手を出してきます。今や彼はある意味今回の事件での重要人物になってしまいましたからね……相応の身分を与えて公に知らしめる手段が一番確実ではないかと……公安と内閣府、そして我々外務省が検討した結果がその結論です。あとは総理が首を縦に振れば問題ないわけでして」

「しかし本来この役職は総理の参謀だ。内閣府の管轄だろう……君達外務省が関与できるのかね?」

「その点は新見の方から総理にお願いしております。それに副総理の三島先生が、外務大臣兼務ですから問題はないでしょう……どちらにしろ今回の件は『外国』との交渉です。我々外務省がイニシアティブを取らせて頂きます。そっちのほうが柏木の今後の事を考えても働きやすいでしょうし」


 大森はニヒヒ…と笑いながら


「『働きやすいように』か……ハハハ、働かすんだ」

「アタリマエです。一応非常勤国家公務員なんですからね。国民の皆様の血税を支払うんですから、しっかり働いてもらいますよ、クククク……」


 白木君、お主もワルよのう……とばかりに二人はクスクスと笑う。

 

「確かにここで柏木君のポテンシャルを、あの頭の固い連中にねじ込んでみるのは面白いな」 


 大森はフムフムと自分に問いかけるように納得する。そして一言注意するように


「しかし、彼の本業に支障をきたすような使い方はやめてくれよ、ワシの会社も困るからな」

「ハハハ、わかっています。まぁ非常勤ですからね。でも官邸に事務所がもらえるような役職ですからね。ハクはつきますよ……これから仕事が引く手数多になったりして……会長のところの仕事が……」


 白木が意地悪そうな目つきで大森をからかう。


「おいおい、それは困るよ。柏木君用にたくさん仕事用意してるんだから……」


 そんな感じで、雑談も交えながら話した後、大森は「では」とばかりにパンとひざを叩き、


「でな、白木君。実はこの件に関して、ワシからも一つアイディアがある。柏木君じゃないが、ワシもワシなりに、提案と言うものを織り込んで、今日渡す書類を書いてみたよ」

「提案、ですか?」

「あぁ……田中君、ではあの書類を」

「はい」


 今回、大森邸を尋ねた白木の目的である。


 白木は、目的の書類を両手で恭しく受け取る。

 真っ白な、封ろうが押された高級和紙製の封筒である。


「で、君にも見てもらいたくてね、これがそのコピーだ。読んでみてくれないか?」


 白木は封筒の中身のコピーを一読すると、目の色を変えた。


「こ、これは……これを総理に提案するのですか?」

「どうかな?柏木君らしい役職でいいだろう」


 大森はニカっと笑う。


「で、こいつも渡しておきますよ」

 

 もう一つ封筒を受け取った。そこには『君島重工業株式会社 代表取締役会長 君島十三』と書かれてある


「こ、これは!君島会長の!? どうしたんですかこれ!」


 君島重工業株式会社といえば、自衛隊の戦車や戦闘機、護衛艦などを製造、納品する日本の誇る大手重工業メーカーの会長である。現在の日本経済連合会理事長でもある。


「実はこの事で彼にも意見を聞いたら、なんと君島のじーさんのところにも彼の名が知れ渡っておるようでね、なんでも今回の事件の前に、ベンチャーの営業委託の仕事を請けておってたらしいんだが、その時の商談交渉が見事だったと彼の部下から報告を受けておったそうだ」


 白木は(あぁそれで千里くんだりであんな目にあったのか)と納得した。白木も柏木が大阪で暮らしていたことを知っているからだ。


「一介の小さなベンチャーに、10年契約に、開発資金まで君島重工に出させ、おまけに自分の特許の配分交渉までやったそうじゃないか。それで君島のじーさんがびっくりしておったのは、そのベンチャーに、将来は君島重工からのM&Aも視野に入れろと言ったそうだ。普通なら考えられん交渉だな」


 大森は感心するように唸る。


「ベンチャーに、将来は他人の物になれなんて、普通は言わないぞ。しかし柏木君は、そうすることでベンチャーも奮起するだろうし、他の企業が目をつけるような企業になるかもしれない。もし君島重工が買収したとしても、優秀なベンチャーの社員は君島で雇ってもらえる。君島重工も画期的な技術を独占できる。そしてその売った莫大な金でベンチャーの社長に、またベンチャーらしい新しい事を始めるのも良いのではないかと言ったそうだ。普通は言えないな、こういうことは、特に日本では」


 白木は、柏木がここまで物事を練れる男だとは思わなかった。普通なら依頼主の希望を弁護士のように一方的に相手に売り込むような交渉をするものだが、交渉相手側の利益も考え、ともすれば依頼者の不利になるようなことも交渉相手の面前で依頼者に言い、両方をけしかけて納得させ、商談をまとめるという方法など、そうそう聞いたことがないからだ。


 白木は確かに場を読まない突撃バカにしかできない手法だと、呆れると同時に感心した。

 大森は続ける。


「で、今回の柏木君の件を君島じーさんに話したら、君島じーさんも面白がってな、今日の朝、彼の部下が車を飛ばしてその封筒を持ってきよった。 内容は確認したが、ワシの書類と同じような内容だ……とまぁ、そういう事なので、新見君にもこれでいいかな?と伝えておいてくださいな」


 白木は、改めてそのコピーに目を通す。


「あ、そうそう、二藤部君に、もしこの提案を断ったら、次の選挙では日経連合から総スカン食らって大敗だぞと伝えておいてくれよ」


 大森は悪戯小僧のような笑みを浮かべて話す。


「そんな事言えるわけないじゃないですか!」


 白木は(勘弁してくれよ~)と苦笑いを浮かべる。

 すると、田中秘書が微笑みながら、自分の湯飲みの英文を白木に良く見えるように、ズズズズっと大きく茶をすする音を鳴らして見せる。

 白木は(田中さ~ん……)と心の中で訴えながら


「サー・イェッサー……」と呟いた。


 そして……(柏木よぉ……なんか面白ぇ事になってきたぞぉ……お前がどう思うか、知らんけどなぁ……)と心の中で柏木に電波を送った。


  



………………………………………………



 


 白木が、大森と君島から預かった書類の内容。


 それは、山本と、新見、そして内閣府が考え、根回しをし、そして大森がアイディアを加えた柏木の身柄の安全と、今後の『ギガヘキサ』に対して柏木に託した『役職』の大森と君島からの内閣総理大臣宛の推薦状だった。


 財界の重鎮からの推薦状である。これは政治家としても相当の意味がある。

 政党や政権への支援や、選挙工作、色んな意味がある。無下にはできない。



 その書類には、ギガヘキサ飛来後の日本の状況に始まり、そしてそれに対しての政府の対応への助言、そして「柏木真人」が起こした事件の極めて注視しなければならない重要性、それに伴う柏木の現在置かれている状況。他国の謀略の可能性。それに伴う柏木の身辺保全の重要性と、その享受できる国益の可能性。

 

 これらが役人の作文の如くビッシリと書かれている。


 そして、この状況の打開策の提言と、それを行える人物の推薦として、以下の一文が大きく書かれていた。


===============================================


私こと、オオモリグローバルホールディング会長 大森おおもり 諦三たいぞうは、本件ベビーヘキサなる物体を介して、異星文明への接触と意思の疎通・交渉を試みた重要人物である、民間ビジネスネゴシエイター職を称する、柏木真人氏を……







---内閣官房参与扱としての非常勤国家公務員


       『政府特務交渉官』


         として起用することを推薦する---








登場人物:


柏木かしわぎ 真人まさと

 元東京エンターテイメントサービス企画部主任・現 自称フリービジネスネゴシエイター 白木や大見の高校同期で友人


白木しらき 崇雄たかお

 日本国外務省 国際情報統括官組織 第一国際情報官室所属の情報官

 いわゆる外務省所属の諜報員


山本・長谷部・下村

 警視庁公安部 外事第一課捜査官

 実は山本さん達は、外事警察だったのです。


大森おおもり 諦三たいぞう

 株式会社オオモリグローバルホールディングOGH会長 兼  大森宅地建物株式会社 代表取締役社長

 柏木には、OGH会長である事は隠している(というか、経済系新聞などでは有名人だが、単に柏木が知らないだけ)


田中さん

 大森会長の秘書

 銃の違いが分かり、内偵活動も得意な謎の美女

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