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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
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銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  終話

銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  終話


「なんだなんだ?」「おいおい、一体どうしたってんだ?」「アメさんの基地でまた事故かぁ~?」


 横田基地近郊は、米軍兵士を相手にした飲食店も多く、基地施設と近郊の住民は密接な、もちつもたれつの関係にある。

 現ティ連防衛総省長官閣下の柏木真人も若かりし頃、この横田基地にある米軍官品を販売するサープライスショップなんぞに大見や白木とよく来たもので、彼らもこの地域の経済に貢献していた頃もあったりする。

 そして、過去には米兵や米軍属の日本国内犯罪行為で、在日米軍人らに禁酒令や、外出禁止令などが出されたとき等は、街が閑散として、近郊の地域経済に深刻な悪影響を及ぼしたこともあった。

 それぐらいの所謂『お互いさま』な関係であるからして、近郊の飲食商店街は、この基地に何かが起これば、住民は敏感に反応する。

 みなして外に出て、基地のユナイテッド・ギャラクシー社が隣接する方向を心配げに見つめる。

 何故に住民がこぞって首伸ばし、そんな行動態度に出ているかというと、基地の方向から大きな爆音が聞こえたからだ。

 しかもパパパっと閃光が商店街屋根の稜線から瞬き光る。

 当然長年この街に住む住人は米軍基地で起こったいろんな事件事故などの出来事を見てきたが、こんな情景は初めてであった。しかも今度はウ~ウとサイレンまで聞こえてきた。これはただ事ではない。

 住民達は時間の推移に比例して、事が尋常ではない状況であることを感じていく。

 次に来たのは、所轄パトカーのサイレンだ。それはもう和音を奏でて交響曲の如くパトカーと、それに続く消防と、救急のサイレンがけたたましく鳴り響く。


「おいおいおい、なんだなんだ? こりゃ大ごとだな」


 道路沿いのラーメン屋店主が店の客と一緒になって、緊急車両が通り過ぎるのを眺め見る……と、そのあとから続くのは、何と真っ青な色に塗られた自衛隊でよく使用される『高機動車』に、ティ連型の輸送トランスポーターだった!

 その車体には『SIF(Spesial Intelligence Force)』や『情報省』とゴシック体の白字で大きく書かれている。


「え? ありゃ情報省の車両じゃねーか」「SIFだって? あれって確かその情報省の特殊部隊じゃねーのか? なんでまたあんな連中が……」


 今のこの日本で、情報省といえばやはりCIAやMI6のような組織と同様に思われて当たり前の話である。だが実際のところはかなり、というか全然違うのだが、国民がそう思ってくれているということは、逆に情報省としてはありがたい所。表向きの情報操作が功を奏しているという事でもある。

 本当のところはかの機密非公式組織『日・ヤ安全保障委員会が省になりました』といった組織であるからして、実際はもっと御大層な組織なのである。

 その情報省の実力部隊、SIFが出張るとなれば、のっぴきならない事が起こっているのは誰の目にも明らかで、野次馬もやんやと押し寄せるのだが、そこは警察が街の周囲に大規模な警戒線を速攻で張り、横田基地の各出入口を完全に閉鎖してしまった。そして各々その前で待機するはSIFチーム。『14式個人運動能力強化被服システム』を着込んで『カービン銃』に『対物斥力発射型レールガン』を抱えた隊員達が輸送トランスポーターからゾロゾロ出てきて、待機状態になる。

 この物々しい状況に不安になる住民達。SIFなんていう何をしているかわからないような超機密部隊が出っ張ればそうもなる。

 だがSIF部隊や警察も、日米安全保障条約における地位協定の事もある。横田基地内は治外法権区だ。つまりこの基地はアメリカ合衆国の施政権、つまり租借領有地のようなものであり。軍事基地なのである。

 航空自衛隊も共同使用しているが、やはりそこは互いの『管轄』がある。

 日本勢は米軍から何らかのアクションが無い限り、出入り口を固めて見守るしかない。

 それ以前にSIFが出てきているということは、その中で何が起こっているか、当然彼ら自身は知っているのだ。それ故に緊張もするし、歯がゆいところも多分にあるのである。


    *    *


 その当の横田基地内、UG社が間借りしている区画では、基地の外で漏れ聞こえる騒動とは比較にならない程の大騒乱となっていた。


「オー、マイ! ななななんだこれはっ!」「こちらUG租借地区! 異常事態発生! 異常事態発生!」


 基地内のUG社スタッフと米軍警備兵が右往左往、UG社スタッフは安全な場所まで下がり、警備兵や、増援の兵士がハンヴィーやトラックで駆けつける。

 

「おいおいおいおい、なんだこいつは!」


 兵士達や駆けつけた士官は、その異常な存在に驚愕する。

 その姿、一四〇ミリ砲がデカイ頭部に見え、そこにマニュピレーターが左右に生える。オリジナルに比べて、何かを付け足したようなパーツ形状で、かなり長くなっていた。

 胴部にはM4A2の車体。後部が歪に折れ曲がり、ランドセルのようになっていた。

 更にそこへM4A2を運搬してきた輸送トラックが、これまた分解再構成されたように滅茶苦茶な構成で脚部を形成し、二足歩行状態の、戦車に手と脚をくっつけたような形態のロボット型モンスターともいうべき物体が、そこにそびえ立っていた。

 特徴的なのが、その砲身の基部。オリジナルのM4A2では、センサー部。本機の顔に当たる部分に、不気味な目玉のような形状の球体部品がこれみよがしにくっつき、赤い光を大きく放って、チラチラと青に黄色といった小さな光が、赤の周りで小さく不規則に点灯していた。

 その不気味なロボット型異常物体。いや、ここは単にロボットと呼ぶべきだろう。それは、変形と言うには禍々しい形状変化がまだ安定していないのか、カキコキと、その名の通りロボットダンスのような挙動で周囲の状況を把握しようとしているようだった。


「中尉! どうします?! あの野郎まだ完全に動けないようですぜ!」

「UG社へ問い合わせたか!?」

「イエッサー! ですが、あんなものは我々も知らないの一点張りです!」


 するとその中尉へ軍曹の階級章をつけた兵士が駆け寄り、


「中尉殿。あんな妙なのはUG社以外で関係している連中といえば、ヤルバンの奴らぐらいなもんです。今はUG社に問い合わせても拉致があかないでしょう、ここはあの変なのをぶっ壊して確保し、本国から日本なりヤルバンなりを追求してもらうほうが良いかと」


 すると側で聞いていたUG日本支社、幹部社員のような男も、


「中尉、あんな形状のロボットみたいなのが、地球の産物じゃないなんてのは明白だ。あれを鹵獲すれば間違いなく我が国の利益なる。なんとかならないか?」

「我が国じゃなくて、お宅の会社の利益だろ?」

「そうとも言うな。でも我が社の出資者は政府だぞ」

「ハッ、ぶっ壊れた残骸でもいいですな?」

「あれを調べられるのなら、贅沢は言わないよ」


 コクコクと頷いて、軍曹に何か指示する中尉。


「全部隊、あのバケモノを鎮圧するぞ! 攻撃用意!」


 カシャガシャとM4カービンに、携帯ロケットランチャーを構え、そのモンスターロボットへ狙いを定める兵士達。その銃口に砲口数は、現在百数十。


「よし、撃てぇーーっ! ファイアファイアファイア!」


 ドドドド、パパパ、ドシュと銃声にロケット音響き渡る横田基地。横田の空自管轄からも関係者が身を乗り出してその方向を眺めるが、米軍憲兵が出てきて警戒線を張り、中を見通す事ができない。

 SIFも情報提供と援護を申し出るが、明確な回答はなし。拒否られているわけではない。要は向こう側もいきなりの話で大混乱、現場レベルの対応で精一杯。上に報告を上げられないのである。


 銃弾にロケット砲を食らうそのM4A2が化けたロボット。さしずめ『M4ドーラ』といったところのこのロボット兵器は、弾丸弾く音にロケット弾の着弾音を響かせて体を前後左右に揺さぶられる。だが、今ここにいる警備兵と、緊急で駆けつけた兵士達の持つ武器は、正直いってコイツを相手にするにはいささか不十分だ。それにここは航空基地だ。わけのわからない装甲兵器を相手にするにはその兵装、確かに不十分極まるところは多分にあった。実際攻撃加えてもあまり効いちゃいない。そりゃ元をただせば、自国の最新機甲兵器なのであるからして。

 M4ドーラもここにきてエンジンがかかってきたようで、今までぎこちなかった挙動が徐々になめらかな動きになっていく。

 顔か、大きな目に見える砲身直下の複合センサーと一体化したドーラコア。その部位がキュイキュイと周囲の状況を確認し始める。

 M4ドーラの背後から、ヘルファイア対戦車ミサイル搭載した米軍高機動車『ハンヴィー』が現れる。するとM4ドーラはすぐさまそれを危険だと察知し、一四〇ミリ主砲をハンヴィーにクインと向けた。


「ダメだ! 逃げろ!」


 ハンヴィーの兵士に大きな身振りで退避を命令する軍曹。剎那、轟音一発、ドーラの一四〇ミリ砲が火を噴き、瞬間ハンヴィーが押し飛ばされるように吹き飛び転げ回って爆炎を上げる。乗っていた兵士は咄嗟に車から飛び降りたようだが、その衝撃で大怪我を負っているようだ。

 その尋常ならざる光景に、警備兵たちは戦慄した。

 それでも果敢にドーラへ攻撃を加えようとする兵士達。手元にある使える兵器は、M72E9対戦車ロケットランチャー。使い捨てのロケット弾兵器だ。今では最新の主力戦車、特にこのM4A2等には少々力不足な兵器ではあるが、


「奴の関節を狙え! そこなら何とか動きを止められる!」


 とそう判断し、スコっと砲身を伸ばして狙いを定め構えるが……M4ドーラは、右腕部マニュピレーター先端に備えた球状物体『戦術高エネルギーレーザーシステム』をM72構えた兵士に向ける。何やらそのレーザー発射器からギュィィィーンという嫌な音が発せられる。

 その妙な音。いや、本来ならその発射部からはそんな音はしない。すぐさま嫌な気配を感じ取った中尉に軍曹は、M72構える兵士に声を張り上げて退避を叫んだ。

 瞬間、『ピィーーーーー』という強烈な高周波を発し、周囲の埃に煙を巻き込んで可視化され、大気中の水分を蒸発させながら放たれた一直線の閃光は、ギリギリで退避したM72の兵士達をかすめてハンヴィーに鉄塔に、建物をバターのようにスパっと真一文字に切り裂いた。

 その目に映る映像は一瞬の刹那だが、スローモーションのようにも見え、兵士達が状況を認識した瞬間、ハンヴィーに建物がドガンと爆炎に爆煙をあげて吹っ飛ぶ。


「ウェイトウェイトウェイト! なんだあれは軍曹! あんなに威力あったのか、あの戦術レーザーはッ!」

「んなわけないでしょう中尉! あのメック野郎がバージョンアップさせてるんでしょう! クソっ、なんだありゃ。あんなのイカれたトラックの司令官しか勝てないぞ!」


 すると二人の部下の一人が飛んできて、


「中尉殿! 今、ヤルバーン州軍が無線に割り込んできました! 『状況は把握している。援護の用意アリ』と言っています! 外のSIFも同じく! ニホンのトッキ隊も待機しているとのことです!」

「チッ、ここまで騒げばそうもなるか。だが断れ! 我々だけで対処可能だとな!」


 苦虫噛み潰して答える中尉。


「良いのですか中尉、後々面倒なことには……」

「奴らの手を借りたほうが後々面倒になる。それにアレは一体何なのか証拠を押さえる意味もある」

「ですが、このまま戦えば、我が方にも甚大な被害が……」

「……」


 無言で軍曹の目を見る中尉。即ち、少々兵が犠牲になっても構わないという事だ。

 舌打ちして首を左右にふる軍曹。だがその中尉の判断は軍曹にも理解できる……彼らには政治はわからないが、このM4ドーラを残骸でも構わないからとにかく鹵獲すれば、米国の外交カードにもなる。だが共同作戦で倒せば、ヤルバーン州と連合日本に事をウヤムヤにされる。特にヤルバーン州の証拠隠滅技術は完璧だろう。どっちにしろ日米安保条約の地位協定がある。この場所は日本にあるが日本ではない。米国なのだ。

 一〇年前ならいざしらず、現在地球社会における国際関係の一員となったヤルバーン州も、日本と米国の条約にそうそう大きく介入もしてこないだろう。


「……わかりました中尉! おい上等兵! 横須賀マリーンのガンシップを飛ばせと要請しろ! あのクソメックをとにかく止める!」


 と命令を下している軍曹にさらなる情報を部下が持ってくる。


「軍曹殿! 奴はUG社の方へ移動を開始しました! 足をなんとか止めていますが、決定打を与えられません!」


 M4ドーラは、何かを感知したのか、迷わずUG社の社屋。研究棟のある方角へ歩き出した。その間もレーザーに主砲。もう片腕にあるミサイル兵器をぶっ放しながらUG社へ向かうM4ドーラ。


「報告! 我軍の兵士がなぜか我々に向けて発砲! て、敵に操られているとのことです!」

「はぁ! なんだそりゃ!?」

「ヤルバーン州軍が、情報を絶えず提供してくれています! 『味方を攻撃してくる奴は、あのロボットに操られている』『あのロボット型はヒトであれ兵器であれ、取り込んで操って攻撃してくる』と言っています!」

「奴ら、アレがなんだか知っているのか!」


 中尉は訝しがる顔をするが、


「あんなのであれば、むしろ当然でしょう。中尉殿、ほら、以前動画投稿サイトにアップされていた、あの、なんでしたっけ? 白いイゼイランの女性に化けたテロリストがどうのとかいう事件、あったでしょ」


 頷く中尉。だが、そんな昔話など今はいい。先程攻撃ヘリが離陸したと報告を受ける。

 あのM4ドーラは勘が尖そうなので、近場でヘリを離陸させると、その離陸時を狙われて簡単に撃墜される可能性がある。なので横須賀にたまたま寄港していた強襲揚陸艦『エセックス級』へ、攻撃ヘリAH-1Zヴァイパーの支援を要請した。横須賀からこの横田基地までは目と鼻の先だ。ほどなく到着するだろう。そして恐らく、安保条約上の認可行為として、このロボ公による被害拡大を防ぐために、日本上空で対戦車ミサイルを発射するだろう。

 これも条約である。めんどくさいものだが仕方がない。非公式ではあるが、ヤルバーン州軍が無線に割り込んで情報を逐一提供し、サポートしてくれているだけにまだやりやすい。礼はいえないが、ありがたいのはありがたい。なんでも既に基地の外では、特危が、かの『旭光Ⅱ』に『19式機甲騎兵』を要所で待機させ、M4ドーラが米軍基地を超えたら即対処という体制を整えていた。もうコレに関してはグダグダとは言わさない。一応アメリカの顔も立ててやってはいるが、日本やヤルバーン州もある意味『とうとう来る時が来た』というような感じでの対応なのだ。此度ばかりは日米安保条約に縛られるわけにはいかないのである。

 それでも地位協定があるわけで、他国主権の基地内に超法規的に侵入するわけにもいかないので、SIFや陸自に特危は現状指くわえて見てるしかないのだが……


「あ~、イライラするな。おい大見、なんか良いアイディアないか!?」


 SIF部隊に便乗してきた情報省内務局局長の白木が貧乏揺すりしながら白い歯を噛みしめて大見に問う。彼も局長という偉いさんでありながら、なんだかんだで現場主義なのだ。


「チッ、こればかりはな、どうしようもない。現状ヤルバーン州軍のドーラ警戒網に引っかかった情報で俺達は出っ張ってきてるからな。米軍からは公式に何も連絡がない。だから今のこの警戒態勢も向こうとこっちは別個で動いている状況だ」


 尚、勿論の事だが、情報省や特危はM4ドーラの事。つまりこの騒動になっている不明敵性体が、『ガーグ・デーラ・ドーラ』であることは把握していた。あの『ヒトガタドーラ』事件からずっと、彼奴らが作ったプラントでの成果物であろうコイツを追っていたのだ。むしろここで出てきれくれて本来ならありがたいぐらいの話なのだが、よりによって米軍兵器に取り付くかと……


「アメさんも、あのドーラ野郎とっつかまえて、研究するか、それとも日本とヤルバーン州への外交カードにするか、そんな腹づもりでやってるんだろうなぁ」

「まあ、それが当たり前の行動だろう。実際俺達も太陽系外縁部や、ドーラヴァズラーの件なんかでそうやってきたから特危なんて組織を持つ事になったんだしな」

「でもよそれはそうと、この横田のアメさんだけで対応できるんかいな……って、な、なんだ!?」


 今、遠方でカッと閃光が瞬いた。


「白木局長!」と彼の部下が苦い顔して飛んで来る。SIFと背中に書かれたジャケットを着ていた。

「おう、どしたい! 何だ今のは!」

「はい、アメさんがドーラめがけて対戦車ミサイルをぶっ放したそうです。ヴァイパーがやったみたいですね。ですが……」

「落とされたのか!」

「はい……でも、一応ヘルファイアミサイルはドーラに命中。かなりのダメージを与えたみたいです。ただ、やはりというか何というか、また例のゼル端子ばら撒いて、そこらにあったハンヴィーやら兵士やらを盾にしたり、兵器の残骸をくっつけて重装甲化したりで、余計に手がつけられない状態になって、米軍は四苦八苦してますね」

「アホが……こっちにまかせりゃいいものを、無茶しやがって……何とかなんねーのかなぁ……こんな時柏木ならどう考えるか……」


 シーと歯で息をする白木。すると今度は別の人物が、


『ケラー・シラキ! あのドーラ、米国のUG社社屋めがけて動き出したそうよ!』

「おう、メイラちゃん!」


 その人物、そう、かのヴェルデオ知事の娘、連合防衛総省軍情報部のメイラ・バウルーサ・ヴェマ少佐だった。


「で、柏木の野郎と連絡取れた?」

『エエ、現状をかいつまんで報告しておきました。相当ビックリしていたみたいだけど』

「何か言ってた?」

『ハイ、「ドーラはなんだかわかんないけど、いっつもハイクァーンジェネレータを狙ってくるから、米軍基地外で、旭光等のティ連型兵器のハイクァーンジェネレータをフル稼働させて、おびき寄せればいい。そしたら向こうから米軍の管轄域を超えてくれる。そこで叩くなり鹵獲するなりするのはどうか?」と。ってか、これですよね!』


 そのメイラの言葉を聞いて、白木と大見は顔を見合わせて『それだ!』とお互い指を差し合う。


「流石は『偏執知識の帝王』だぜ、その手があったか! おい! 何でもいい、ハイクァーン積んだマシンをこの位置に集めて、ジェネレータ全開でぶん回せ!」


 と白木が叫ぶと、


「旭光Ⅱと19式機甲騎兵をこの位置で待機させ、いつでもあのドーラを撃破できる態勢をとれ」


 と大見も部下に指示を出す。


「で、そのM4A2に取り付いたドーラの詳細な性能はわかったのか?」

「はい、ヴァル式を偽装させて上空に展開させました。どうもシールドを効果的に展開できないらしく、案外簡単にデータは採れましたよ」

「で、どんな感じだ?」

「M4A2を母体に、M1070輸送トラック、即ちM4専用戦車運搬車や周囲の兵器に車両を取り込んで脚部他、機体構成素材にしていますね。まるであれですよ、なんてったっけ、あの我が国の玩具がベースになったっていう十何年かまえに流行った、アメさんのロボットモノ映画の……」

「ああ、あれな……なるほど。で、デカいのか?」

「はい、かなり。全高だけでも一〇メートル以上はあるかと」


 大見は(そりゃアメさん欲しがるわな。そんなの見りゃ)と思う。だが、アメさんはまだドーラが何かを知らない。基本、ドーラは取り込んだ機械をゼル端子で支配し、機械ならそれに寄生後、まるで粘土細工か紙細工のように、自由に機体を分解構成しなおして自分の体にできる性能を持つ。それを仮想造成擬似生体フレームで稼働させるのだが、逆に言えば、ドーラコアを潰せば、仮想造成部品の消えた、ただのガラクタが残るだけだ。つまり、結果でいえば、破壊するとガラクタ以外何も残らないのである。コアを回収できればいいが、それとて彼らにどういうものなのか理解に解析することができるかどうかという話もある。当然そうなれば、米国はまた日本や、米国が唯一制限付きではあるが国交を持てているサマルカ国さんにやいのやいのと言ってくるのだろうが、連合日本としては『そこが』政治的にめんどいところなのであるからして……


    *    *


 バタバタと音をたなびかせ、米海兵隊所属の攻撃ヘリコプター『AH-1Zヴァイパー』が、M4ドーラに対し、集中攻撃を加える。もうここが日本だとかそんな体裁に構っていられない。M197-20ミリガトリング砲が火を噴き、かなりの至近距離でヘルファイアが発射される。

 ドーラに命中はするが、米軍はドーラの弱点がコアだと知らないし、日本やヤル州も教えていない。所謂このM4ドーラのオーバーテクノロジー部分がここであるからして、安易に教えられないというつらいところがある。従って弾薬が命中しても、M4ドーラの外装をドカスカとふっ飛ばしはするが、ドーラのゼル端子が瞬く間に周囲のガラクタや機動機械に伸びて寄生し、自分のボディへ寄せ付けて、これまた瞬く間に外装を強化したドーラに変化する……もう今のドーラは、ついぞ数十分前のM4ドーラとはまるで違ったゴテゴテガラクタフルアーマー状態のM4ドーラに変化し、ゼル奴隷化させた米兵を引き連れてUG社に向かっていた。これは恐らくUG社の研究棟で研究されている、磁力式空間振動波機関の波動に吸い寄せられての事だろうと、特危や情報省は見ていた。


「あれを見てください中尉」


 先ほどの軍曹が、M4ドーラの進む方向を指差す。もう基地との境界フェンスは目と鼻の先だ。そのフェンスの向こう、すぐの場所にUG社社屋が見える。


「やっぱりトッキとSIFの連中がいるか……ということはあのロボ公は、もう連中と関係ありの奴と見て間違いないな。で、上は何て言ってる?」

「可能な限り鹵獲せよです。ま、そうでしょうな」

「可能な限りか……絶対じゃないわけだ。ということは、上の連中、今の状況だけでも利があると見たか」

「中尉、私は政治のことはよくわかりませんが、これだけの騒ぎにあのロボット、映像証拠だけでもこの状況説明を日本に求めるには十分だと思います。恐らくこれ以上の犠牲は上も望まないということでしょう」

「はぁ~、政治か……わかった。だが、あの奴隷化とでもいえばいいか? あの状況の仲間を助けるには……」

「ここはこのままあのバケモノを進ませて、連中に任せるのもアリかと。こっちには安保条約があります。我々は後からでもあのフェンスを超えていける。証拠の確保はそれからでも遅くはないでしょう」


 コクコクと頷く中尉。二人の話を黙って聞いていたUG社のスタッフも眦上げてそれがいいと目を瞑る。

 そう、日米安保条約では、米軍側で起こった事故の現場状況確保の優先権利は、米側にあるのだ。今や米国なんぞ何するものぞという立場の日本だが、現状の国際政治バランスの維持と、相互利益のためにこの一〇年後でも安保条約は継続している日米関係。この間、日本も現在の立場を利用して強気に出て、地位協定等々で相当の改善はあったが、全部が全部一気にというわけにもいかず、こういったところでまだ一〇年前の協定が維持されているところもあるのだが、そこでも一応改善されたところもあるわけで……


 そのフェンスの向こう側に構える特危&SIF勢


「白木、やっぱこういう場合でも事後は米側に任せるのか?」

「ああ、こればかりは仕方ないな大見。だが、今の協定では、日本の関係者が現場検証できる権限もある。証拠品の確保などは米側に優先権があるが、我が国も意見はできる。もちろん『連合日本』としての協定だから、ヤルバーンスタッフも連れていける。ま、そこでいろいろイゼさん達の技術使って、マズイの出たらチョロまかせばいいさ」

「フフ、なるほどな。了解だ」


 とそんな事後の事を話をしていると、部下が準備が整ったと大見に報告を入れる。


「よし、こっちの水は甘いぞってか? で、あのご夫婦の準備は?」

「準備完了とのことです。現在対探知偽装中……あのご夫婦も今や将補なのに、よくやりますねぇ」

「ふはは、特危はいつも人手不足だからな。つかえる人間は将補だろうが将だろうがガンガン現場に出すって……引退した加藤特将が以前言ってたぞ」

「はは、なんですかそりゃ」

「特危はみんな現場が好きなんだよ……って、よし、では待機中の各機はハイクァーンジェネレーターを稼働させろ。別にモノを造成させなくていい。アイドリング状態で待機だ」


 横田基地フェンスの婿向こう側。隣接するUG社にほど近い場所に陣取る特危にSIF。

 この連中の所有する機動兵器がハイクァーンジェネレーターを全機アイドリング状態で稼働させる。


「さてどうだ? 反応するか?」


 ティ連が『正体不明』として扱い、ティ連の歴史でも、かなりの長きに渡り戦闘状態を継続してきた『ガーグ・デーラ』と呼ばれるその存在。

 一〇年前、地球人として初めてそれらと遭遇し、宇宙規模の戦闘というものを体験した柏木真人。

 シレイラ号事件、カグヤの帰還作戦、太陽系外縁部の戦い、ドーラ・ヴァズラー事件……

 彼から初めてもたらされた宇宙規模の戦闘状況や、その敵性体の情報。こういった貴重な資料は、アタリマエの話だが、この地球世界において日本しか持っていない。

 ガーグ・デーラ・ドーラと呼ばれる敵性体の機動兵器が事件を起こした時、どの事件でも共通して行動する彼らの目的は、どうもハイクァーン機器、ないしはゼル機器を奪取することにあるようだとティ連は認識していた。

 ドーラとは、所謂ティ連軍事用語で言うところの『仮想生命体兵器』である。即ち、ゼル技術でできた生命生体機能を模倣した自律型機動兵器だ。この兵器、ゼル技術という仮想造成技術を利用した兵器だから対応も容易なのだが、これがハイクァーン機能を持っての再生機能や造成増殖機能で攻めてこられたら、それはもう無限に増殖する自律機能を持った、ゾンビか吸血鬼のごとき恐るべき存在を大量に造成され、大量破壊兵器と化すことが目に見えている。即ち節操無くハイクァーンでの造成増殖を繰り返し、造り出されたドーラの個体が更に造成するといったような悪循環に嵌り込むと、地域の元素資源があっという間に枯渇するという恐ろしい事態をも招くことになる。

 このようにガーグ・デーラがハイクァーン機器を狙うその目的は、こういった兵器転用が目的ではないかという懸念から、ティ連は懸命に彼らへのその機器の流出を今まで阻止してきたわけである。

 いうなれば、今大見が指示した作戦は、これを逆手に利用したアイディアである。ハイクァーン機器の反応を大量に目の前へぶら下げることによって、この『M4ドーラ』をおびき寄せて一気に叩こうという作戦なのであった。


 案の定、そのハイクァーンのパワーに反応するM4ドーラ。センサー部も兼ねた目玉のようなドーラコアをクイクイと動かして、本能的ともいえるような反応を見せるそやつ。

 するとドーラは、一機の19式機甲騎兵に狙いを定めたようで……なんと! うつ伏せに寝そべるような挙動を取り、体に付いているクローラーや輸送トラックの車輪部を地面に設置させるような体制をとって、一つエンジン音を唸らせると、M4A2リッジウェイ特有のリニアクローラーシステムが唸りをあげて履帯を回し、特危・SIFの陣取る方向へ突っ込んできた……その速度、リニアクローラーの機能も相まって、速い!


「マズッ! そうきたか!」


 ドシャっと基地との境界フェンスをブチ破ると、ドーラは目標の19式へ一直線に突っ込んできた。

 M4A2譲りの高速性能そのままに不気味なガラクタフルアーマーな変形ロボットが高速で突っ込んでくる状況に焦る大見達。


『反撃許可を!』とパイロットが叫び「許可する、やれ!」と大見が応える。

 

 だが、敵も流石で、手持ちの主砲にレーザー、ミサイルランチャーを器用に動かし、19式を狙ってくるが、19式も負けじとクンクン躱すと、M4ドーラはその19式には拘らずに身近にいるハイクァーン搭載機へ攻撃を仕掛けてくる。メンドクサイのは、配下につけたゼル奴隷化された兵器に米兵達だ。

 SIF隊員がゼル端子除去フィールドを張って、何とか押さえ込もうとしているが、いかんせん数が多くなっている。相手は人間だ。下手な事もできない。


『早くアイツを何とかして! こんナ場当たりな方法じゃ、コッチがもたないワ!』


 とSIFのゼル端子除去フィールド展開に協力しつつ、現状に苦虫噛みつぶしながら叫ぶメイラ。

 するとメイラのPVMCGに通信が入る。


『メイラ、モウスコシモタセロ』

『遅いですよ! ジェルダー・シエ! ジェルダー・タガワ!』

『いやスマンね、メイラちゃん。もうトシなもんでさ』


 そう答えた瞬間、M4ドーラの頭上に映像が浮かび上がり、刹那、M4ドーラの一四〇ミリ砲身をへし折るように、そいつの頭上からソレが顕現した!


 そう、多川信次将補に多川詩愛将補の駆る愛機、旭龍F型がクロウを振りかざして、M4ドーラへ襲いかかった!

 M4ドーラは、うつぶせ状態。そう、見た目でいえば『高速戦車形態』に変形したといえばいいか、ソレになったのが仇となった。

 旭龍は扁平のそのドーラ車体の上へ着地して、完全に踏みつぶしているような状況であった。

 

『ダーリン。私ハマダ若イゾ。チキュウジンノ歳デイエバ、三〇周期グライダ。全然余裕ダロ』

「まぁ確かに新陳代謝違うもんなぁ。ティ連人さんはみな若くて羨ましいですよ……って何言わせるんだよ。俺も人より歳取り難い体になっちまったから、まあ見た目一〇年前とあんまかわんないけどな」


 相変わらず柏木夫妻に負けじ劣らじで仲の良いシンシエ夫妻。こんな戦闘状況でここまで無駄口叩けるんだからすごいものである。彼ら二人、片方オヤジとはいえ今や伝説となっているパイロットコンビである……とこんな無駄話していても手に足動かしているのがこの二人、ここが流石といったところ。

 M4ドーラは車両形態とでも喩えられる強行突進モードが裏目に出て、旭龍に上から抑えこまれ、クロウで斬りつけられた後、腕部ブラスター砲をコアに突きつけられる。

 無論ドーラも抵抗を試みるが、そこは援護で19式の出番である。キュンキュンとローラースケーターのようにドーラの周囲を囲んで抵抗する武装部位に攻撃を加える。

 後方から米軍もうまく旭龍を外すように歩兵用対戦車ミサイルを放ってきた。無論無線でこちらに通告済みの援護である。そうしておかないと、後々日米どっちが先に倒したかとかそんな話で証拠物件確保優先権などの問題にも絡んでくる。そこは政治だ。メンドクサイ話の部分である。


『ヨシ、トドメダ!』

「おう、やっちまえシエ!」


 みんなしてさんざんっぱら攻撃加えて弱ったM4ドーラ。シエがブラスター砲をドーラコアめがけてぶっ放す……ここで所謂ネイティブな対艦ドーラクラスの大型機動兵器なら、例のごとくブラスター砲のエネルギー弾を減殺させるところだが、此度はダイレクトに効果アリで、数発ぶっ放して破壊することができた。

 そしてその機能をトーンダウンさせて稼働停止するM4ドーラ。と同時にVMC仮想生命部のフレーム等々可動部が仮想造成を解かれて霧散する。と同時にフルアーマー状態だったガラクタがボロボロバラバラと崩れ落ち、ドーラコアが無理やり機能構成し直して稼働させていたM4A2やM1070輸送トラックも、本来ならありえない歪な部品構成のみ残し、仮想造成部品で構成されていたパーツはすべてこれも霧散していく。


「おいシエ、今の内にコアを」

『了解ダ……ヤルバーン転送センターへ、コイツヲ直チニ回収シロ』


 ヤルバーン転送センターにそれとなく連絡するシエ。すると、シエがブラスター砲で破壊したコアが、それとなく霧散して消えるかのように転送されていく。他の部位も同じように霧散したので、コアが消えても米軍に気取られることはないだろう、多分。

 そして白木にPVMCG通信を繋ぐ多川。


「白木さん、この残ったM4やトラックのガラクタはどうする?」

『そいつは米軍にくれてやってもいいでしょう。ただ、そのわけのわかんない機械構成はコッチとしても調査したいので、ヴァルメでのデータ取得は宜しくお願いします』

「了解だ」

『ま、あとは適当に証拠の所有権主張する芸でもやって、合同調査にでも参加させてもらいますわ』

「はは、そうですか。んじゃその辺後は任せます。で、政治レベルでの交渉は……」

『ソコハ、「防衛総省ぼす」ノ出番ダロウ』

「そうだな。あの御仁におまかせか。はは」


 と、こうして後に『M4A2暴走事件』と呼ばれることになる騒動は終結を見る。

 白木や多川に大見、シエらは、もうこの手の事件は慣れたものだが、そうでない人々はそういうわけにはいかないのが、やはりこれ現実なのである……


    *    *


 特危自衛隊の活躍活動としては、自衛隊という名の組織が、初の海外武力行使を行った『ヂラール事件』がかつてあったが、アレでも相当日本国内に世界は大騒ぎというところで、その余韻は実のところあれから何年か経った今でもまだ尾を引いている。

 一時期は所謂リベラル派の市民団体や政党に毎度のごとく闇雲に呪文のごとく唱える『戦争反対』で、リベラル系マスコミもコレに乗じてまた『波紋』を作り出し、一時期はあることないことで大騒ぎされて、ヤルバーン州軍やヴェルデオ州政権にまで非難の矛先が行くというそんな騒ぎになりかけたのだが、そこはもう連合日本である。このネット時代、そして日本でもティ連の広域情報省のデータベースが普通に閲覧できる社会になっているわけで、世論はあまり動じなかった。特に若者がそういったマスコミや市民団体の大騒ぎに無関心だったと言っていい。いや、無関心どころか冷ややかだったといったところだろう。


 かつて二〇一云年、ヤルバーンが地球にやってくる以前の話。

 ネット社会がパソコンを超えて、ガラケーのネット接続機能に始まり、スマートフォンやタブレットデバイスにその座を移していった時代が丁度あの時であった。

 その頃から、ヂラール事件の例にあげられる世論の温度差というものが顕著にあったのは確かである。それはやはり『世代』とイコールと言ってもよかった。

 若い世代はネットで自ら能動的に情報を検索し、各々の求める真実や事実に少なからず到達することができる能力を持っているわけであるが、これが高齢者となるとそういうわけにはいかない。

 高齢者の主力情報ソースはやはりまだまだ新聞であり、テレビニュースであり、情報番組なのである。

 

『有名新聞に書いてあったからそうにちがいない』『テレビで言ってたから間違いない』という言葉がネットを自由自在に操る若者達にとって死語となっていく中、高齢者はそれがまだ真実であり事実なのであった。

 当然、そうなると世代間で同じ事象話題に対して大きな隔たりができる。

 マスコミが制作した世論調査という情報ソースと、ネット社会のアンケートを比較すると、主流を占める意見が正反対で真っ二つに別れるなどという現象は普通に起こるようになった。

 大手マスコミは一〇〇〇名程度の電話口頭調査が正確なデータだと言い、ネットでの数万件、数十万件の調査結果を参考評価しないということもあったわけである。その理由はいわずもがなだ。

 この事例が結果として、政治の世界で顕著に現れたのが、ヤルバーンが来る前に起こった『大阪都構想』という事案であった。

 大阪府で起こったこの事案であるが、住民投票の結果で大阪市を解体して再編するという計画のこの構想は、僅かな僅差で構想反対派が勝利を得たのではあるが、その住民投票の内訳は、そのほとんどが高齢者の反対票が結果を決めたようなものであった。ということはその高齢者はどこから情報を得ていたかということになるが、その点を考えると、これもまたもう言わずもがなである。当時の日本、若者よりもやはり高齢者人口の方が多いのである。ある意味、そうなってしまうのは仕方のないところでもあった。


 だが、ヤルバーンが日本に飛来して以降、ティ連の技術も市民生活に段々と普及していく日本において、特に情報のやりとりは、更に容易に、そして多様化し、それでもって宇宙規模になっているわけである。

 従って日本国民は、それ以前の日本基準のイデオロギーではもう語れないところまできているのが現状。となればもうそれまでの市民運動レベルの意見や、マスコミの論調などに、いまさら真剣に耳を貸す人などあまりいないわけで、高齢者でも容易に多様な情報にアクセスできる現状では、特危自衛隊の活動をやいのやいのと騒ぐ事もあまりないわけである。そういう点では、日本国民の意識も変化できているのが幸いでもあった。

 確かにこの事件、それは今までの米軍基地関連との事故とは一線を画す内容になる事件である。その点はそれまでの原子力艦船が寄港しただのとか、垂直離着陸で飛ぶ輸送機が配備されるされないだのとか、米兵が暴行事件起こしたとか、そのようなものとは勿論一線を画するものになるわけであった……


    *    *


 翌日。

 もう言わずもがなで、次の日の世界各国ニュースソースはこの事件で持ちきりであった。

 各国新聞の一面を飾る文言。それを大まかに類別すると以下のようなところ。


【在日米軍横田基地でUG社新型無人兵器が暴走か?】

【横田基地で謎の戦闘。テロリストが侵入か?】

【横田基地で戦闘。特危自衛隊と情報省特殊部隊が米軍基地近郊で戦闘行為】

【日本国内で戦闘事態発生。原因は米軍兵士の反乱?】


 と大体こんなところであった。

 どのニュースソースを見ても、ガーグ・デーラ・ドーラとの戦闘を具体的に記事にしているソースはない。

 それは勿論世間一般が『ガーグ・デーラ』の事など知らないからで、そうなると記事は上記のようなものになるのはある意味妥当とも言える。

 ただ問題なのは、此度の一見。米軍は何も悪くないのに、おおよそ『米軍無人兵器の暴走』やら『テロリストが侵入した』やら『兵士の反乱』やらそんな記事ばかりなので、『また米軍か』という世論が日本でもこれまた作られていき、非難に晒される。

 ちょっと聡明な視点を持つ人なら『んじゃ、そんな事故ならせっかくの新安保法があるのに陸自が一緒に対応してもいーじゃん』とか『横田の自衛隊は何してた』とか『何で出っ張って待機するのが特危にSIFなんだよ』とかそういう疑問を語る訳である。確かにこの意見は正しい。

 だが幸いなことに、当たり前の話ではあるが、今回の事件、ドーラだろうと思われる存在が引き起こしたという事は、みんな知らないので、どんなマスコミでも『ドーラ』という予想の選択肢は当然出てこない。コレに関しては、現情報省、旧機密非公式組織『日・ヤ安保委員会』の情報操作がうまく効いている証拠でもあって、この点に関してはまだやりやすかった。結局この情報操作をうまくやったから、以前のニセポル事件も『ティ連の政治テロリスト組織の犯行』というありがちなブラフで対応できたわけだ。まぁそれを信じるか信じないかという事は、また別の話になるが……


 ただ今回は流石に日本政府として今回は、米国側から目くじら立てて当然こういう問い合わせが来るだろうと予想していた。


『あのロボット兵器は一体ナンデスカ?』


 そりゃそうだ。普通そうなる。まるで米国SF映画にあった元日本玩具のヒーローロボット物まがいなヤツが突如在日米軍基地を襲った。しかも相当に出来の良い変形型の直立二足ロボット兵器である。その事実を多くの米軍兵士が目撃……というか垣間見た。しかも現実に基地施設が被害を受け、死者こそ出なかったものの、多くの兵員が大なり小なり負傷した。

 海兵隊の戦力まで導入し、結果的には特危やSIFも支援した形になっている。

 でもって、それを屠った旭龍さんが、妙に慣れた手つきで戦ったという事実。更には、どうみてもティ連絡みとしか思えないその敵性体の攻撃。所謂『ゼル端子攻撃』に、『寄生・自律構築攻撃』だ。

 あんな存在を見て、流石に米国でも『北朝鮮の新兵器』『ロシアの新兵器』『中国の新兵器』という因縁は付けられない。

 当然米軍関係者からの流出映像などが出てきて、あのM4ドーラが暴れまわる姿が世界に流され、ネットに流れて……

 ということで、このような感じでそんなニュース映像が流れれば、中国やロシア。国内では野党にリベラル系市民団体が勢いづき、世界的に『アレは一体なんなんだ』となって、当然相当な追求がくると日・ヤ政府は思っていたワケだが……


 なんと、そのM4ドーラとの具体的な戦闘映像は、結局全く表に出ることはなかったのだった……いや映像自体は出るには出たのだが、ほとんどが基地外からの市民レベルの映像で、関係者映像は一切表に出ることはなかった。これには流石の日本政府やヤルバーン行政府も拍子抜けだったし、逆に日本政府が米国に対し訝しがる視線を向ける。

 当然今現在、日本国内では、かの事件の被害者は米軍であるにもかかわらず、リベラル反米団体が『米軍は戦闘事故の詳細を公表しろ!』『日本国内で戦闘ヘリを使った戦争国家米軍は出て行け!』を年寄り中心に声高々にやらかしているのだが、それに対して、何と『迷惑をかけた。横田基地近隣の日本国民、市民にはお詫びを申し上げる。今全力で原因を調査中。追って詳細を報告する』と発表したものだから、今度は日本政府側が『はぁぁああ?』となるわけである。当然、『こりゃ、恩を売られた』もしくは『何を狙ってるんだ?』と当然考えるわけである。

 それもアタリマエの話で、どっかの国か三歳の子供ではあるまいし、やられたら素直に反応してピーピー言ってるようでは、もう『国家』などやめたほうがいい。即ち、このあたりが所謂『外交』というものなのである……


    *    *


 ヤルバーン軌道ステーションに到着した大型旅客船。その到着ゲートから姿を見せる人物。

 歳の頃は見た目、四二~三歳の男性。

 その人物が到着ゲートを抜けると、たくさんのスーツ姿にティ連正装姿の人々が、彼を出迎えに上がる。

 更には相当な数のSPも。まるでどこかの首脳クラスの人物でも到着したかのような物々しさ。


『ヤァ、ファーダ! お久しぶりだね!』

「どもどもシャルリさん! ヒトガタドーラ事件以来ですね」


 三十路ちょい過ぎのシャル姉。でも相変わらずサイボーグでカッコイイ。どうにもこのサイボーグ状態がなんだかんだで気に入っている彼女。ちなみにシャルリはまだ結婚していないが、なんと彼氏はいるそうだ。しかも日本人である。シャル姉がその彼氏に、将来結婚するとき、手足に眼を再生させようかと話すと、そのサイボーグ姿も個性だということで、別に構わないと言ってくれたというのは四方山話。


 ……で、お互いバンバンとハグしてにこやかにといったところ。ただ、柏木も今や大佐となったシャルリに出迎えられるとは、最近地球に帰るたびに、自分の立場や環境の変化に、今だ若干慣れないとろを感じでしまう。

 なんせ連合防衛総省の長官様である。

 それまでは日本の閣僚だったとはいえ、特命大臣であるからして、所謂総理大臣の右腕といったところで走り回っていた彼であったが、今や柏木はティ連軍の背広組トップである。

 そして、そのスーツ姿も若干普通とは違う。ティ連の閣僚職の場合、公務では各々各種族の正装を着用する決まりになっているのだが、肩部と胸部に徽章のようなものを数個付けなければならない決まりになっている。

 そういう事でこれがその人物の役職を表す印となるらしい。実際各種族いろんな服装があるわけで、そこからティ連本部行政関係者を探すとなると大変なわけで、互いの立場を認識しやすいようにそういった装飾を施す事が義務化されている。ただこれがなんか旧ソ連なんかでよく見られた、勲章をスーツの上からぶら下げて式典なんかで嬉しそうにしているオッサンや、米国の退役軍人会の爺さんみたいで、ちょこっと恥ずかしいところもある柏木長官。


 と、そんなところでシャルリ大佐と下層行政区画まで共に歩く。その間の話題は勿論あの件である。

 米国は、日本の閣僚級職と、ティ連の担当閣僚と共に、『あの件』で会談したいという話で、柏木が今回急ぎ日本へ帰国したという次第。


「概要は資料を読んで把握していますけど……あのヒトガタ事件の懸念がこんな形で出てくるなんて……」

『そうさね。ニホン国内かヤルバーン州内で収まれば良い話だったんだけど、まさかアメリカ国の基地内で、しかもアメリカ国ご自慢の兵器に取り付きやがるとはねぇ」

「で、回収したドーラコア。どういうものか分析できたんですか?」

『うん。これがね、意外と厄介な代物みたいなんだよ。ま、そこはこの後の会談でね』


 とそんな話をしながらヤルバーン州行政区へ。

 かつてなら、州内日本治外法権区の施設でといったところなのだが、今の柏木はティ連本部の人間である。従って会談場所も行政府内の州幹部クラスの会議室でといったところ。


『マサトサン!』


 タタと駆け寄るはフェルフェリア日本国外務大臣兼副総理。柏木にギュウと抱きつき、軽くチューなんぞ。

 それを見てニヤニヤするは、現内閣総理大臣の『春日功』に、情報大臣の『二藤部新蔵』ちなみに三島先生で閣下は、政治家を引退なされて、今は古巣のホールディング企業『ミシマグループ』の代表取締役会長と、政府系財団法人『日・ティ文化振興協会理事長』を兼務していらっしゃる。ただ、もう御歳八四でもあらせられるので、分刻みのタイムスケジュールはもうご勘弁という話で、本日は先約があり欠席である。


『姫チャンが早くパパサンに会いたいって言ってますよ』

「そりゃ嬉しいね。楽しみだ」

『お土産目当てみたいでスけど、ウフフ』

「ありゃ、なんだよそりゃ、はは」


 とそんな夫婦の会話も少々。


「急な会談で申し訳ありません、柏木先生」

『いえいえ、何を仰いますやら春日総理。ある意味この出来事を懸念しての話でしたからね。呼ばれなくても飛んできましたよ、二藤部先生も、お久しぶりで。三島会長はお元気ですか?』

「お久しぶりです。柏木先生。先生の顔を見ると、なんだかホっとしますよ。三島会長も久しぶりに柏木先生の顔が見たいって仰ってられましたよ』


 いつも柏木がティ連から帰ると、こんな懇親会みたいな会談になる。そりゃ今の彼は、一、二ヶ月に一度で五〇〇〇万光年を往復している身だ。そりゃこうもなる。


 ということで早速本題の会議に入る。日本側からは、先の通りのメンツで、ティ連側は、現在ティ連のとある国へ出張中のゼルエ司令に変わってシャルリ副司令が柏木の傍に着く。人数はこれだけである。基本緊急の会談……というか状況説明会みたいなものなので、この程度で良し。


「で、なんでも米国があれほどの被害を被っているのに、情報統制を敷いているのですって?」と問う柏木。

 応じる春日は、

「はい。単純に考えてその理由は、米国としても今回のドーラの件、まあ、あんな壮絶なロボット兵器が暴れれば、それは今の時代と、状況を考えれば、普通はティ連がらみのものであると容易に想像するでしょうしね。最初はUG社関連の事案かと米国も思ったそうですが、無論UG社は否定しますよね。となればお鉢はこちら側関係者に回ってくるという次第になります……」


 とすれば、大きな被害を受けた米国とはいえ、その状況と地位協定で入手できた証拠物件はある意味宝の山であるからして、そんなものを大声あげて喚き散らすわけがない。なぜに他国に、特にメンドクサイ国家連中にわざわざ教えてやらねばならんのかと。無論それが軍内部で起こったことであれば、厳しい罰則付きの情報統制が敷かれて普通である。そりゃもう漏らせば無期限禁固刑か、影で消される程の、というヤツである。


「……で、そこで米国もさる者といいましょうか、どうもドーラコアの存在を彼等なりに調べたようで、無論それがドーラコアという具体的な存在を知っての話ではありませんが、今回協定で引き渡さなければならなかった残骸に、その箇所の部品がないと問い合わせがありまして、当然といえば当然なのでしょうが、我が国と、ヤルバーン州にそのコアを引き渡せと、そんなところでしてね」


 と春日。その話を聞いて、まあそんなもんかと頷く柏木。そりゃ戦闘映像でも詳細に調べりゃ、あの目立つコアがないぐらいのことはわかるだろう。見た目もみるからに異星形状で重要部品っぽそうなものだ。無論米国への回答は知らぬ存ぜぬで通してはいる。実際日本はその後のことは知らない立場の話であって、確かにあのM4ドーラを倒したのはシエさん達だが、転送回収したのはヤルバーン州軍だ。

 現在も米国とはその点で折衝中だそうである。そんなもの日本やヤル州が『知りましぇん』といったところで誰が信じるかといった話。そこは現行の残ったM4ドーラの残骸を共同調査という形で調査しつつ、腹の探り合いといったところ。


「ですが、そうはいっても近い将来のことを考えると、米国へはドーラの存在を知らした方がいいのは事実なんですけどね……」

『ソウですね、マサトサン。私もそう思うですヨ……アメリカ国サンは、もうあの「レナード・ニモイ級」の航宙駆逐艦も造っているでスし……』


 そう、米国が誇る磁力空間震動波機関の宇宙艦艇・航宙駆逐艦『レナード・ニモイ級』。

 サマルカ国との技術供給限定協力という形で実現した実戦配備型の軍用宇宙艦である。その六〇パーセントを米国独自の技術で占めているという、なかなかの出来栄えの宇宙船だという話。

 かっちーの話では、火星のゲートで、ゲートシールド付けて普通に潜れば、ティ連へ問題なく飛んでいけるという話らしい。ただ、独自のディルフィルドジャンプが不可能なのと、亜光速まで達する加速がまだできないという所があるため、ゲートでのジャンプで、大型中央港へしかまだいけないという話。


『……ソレを考えると、アメリカ国サンも現在ではかなりの距離を自由に行き来できる宇宙船を持てるホドにはなっていまス。そうなると将来的にガーグ・デーラと接触する危険も無きにしも非ズではとサマルカ国サンもソコを心配してるデスよ』


 フェルも同様に正直なところその点を心配しているという。なるほどと思う柏木。


「わかりました。ではその点は一度ティ連防衛議会に掛けてみましょう。サイヴァル連合議長とも話を通しておきますよ。その回答待ちですね……それで宜しいですか? 総理」

「お願い致します、柏木先生。その結果が出るまでは、こちらもヴェルデオ知事と協議して、アメリカへの回答を引き延ばしておきます。ま、基本無回答を前提でやっていますので、ご心配なく」

「よろしくお願いいたします……で、二藤部先生。例のコアについてですが、先ほどシャルリさんから『厄介な代物』と聞いたのですが……」


 怪訝な顔で二藤部に尋ねる柏木。二藤部も小刻みに頷き、その言葉を肯定する。


「ええ、その点なのですが……ヤル研と、ヤルバーン州軍技術部に調べてもらったのですが、かなり我々の予想の上をいく代物だとわかりましてね」

「と、言いますと?」

「まず、驚くのは、回収したドーラコアですが……全て地球に存在するマテリアルや部品で出来た物だったという話なのです」

「な、なんですって!!」


 その言葉に驚く柏木。思わず身を乗り出しそうになる。


「じ、じゃぁ……あのヒトガタはこの地球で地球産ドーラコアと作っていたと……」


 と柏木が話すと、隣のシャル姉が、そうではないと若干柏木の言葉を否定する。


「え? どういうことです?」

『いや、ファーダ。もっと厄介かもしれないんだよ……そのドーラコアなんだけど、恐らくは奴らの世界から持ってきた純粋な『めーどいんガーグ?』 みたいなコアを、恐らく何器か作ってたんだろうさ。だけどそのベースコアとでも言えばいいのかい? それをヒトガタがこのニホンへ放出した際に、恐らくどこかのインフラ施設に寄生させた可能性があるんだよ』


 その話を聞く柏木。するとおおよそその先の言葉は容易に想像出来た。


「ということは……何らかの製造インフラ施設に寄生したベースコアが、その施設を使って、地球製のコアを量産している可能性があると!?」


 コクと頷くシャルリ。しかもかのヒトガタは、日本国外への渡航を目論んでいた節もある。つまり日本でのベースコア利用はすぐに事が発覚する可能性があるので警戒していたのかもしれないという、かなり計画性の高い犯行だった可能性も示唆できると……つまりこの事から、連中は……


「何らかの明確な意思と思考をもった存在ということができますね」

『マァね……何てったて、ホラ、ファーダ・ナヨに言ってたっていう……』

「『意志と、現実を提供せよ』……でしたっけ?」


 頷くシャルリ。更に言えば連中はその「意思」をもって、この地球という惑星を彼らなりに調査し、ベースコアを流す地域を選択していた可能性もあるという話。

 そこで話すは春日。


「荒唐無稽かもしれませんが、ガーグ連中が日本として問題のある近隣諸国の生産インフラに目をつけて、そこでコアの量産でもされていたら大変な事になります」


 確かに、北朝鮮みたいな国の生産インフラにドーラの擬態能力を駆使して寄生でもされたら、かの国の能力では、発見以前の話になるだろう。それは、その施設を処分する以前に、処分をどういう『手順』でやるかという話が先にくるからである。

 なんにせよ、厄介だという話。

 分析では、そのコアの性能は、『寄生』『仮想生体兵器能力』『シールド』この三点は確実に踏まえているそうだ。ただ、モノが地球のマテリアルで作られたものだけに、その性能はオルジナルに比べると格段に低いという。特にゼル端子は数十という単位でしかストックできないそうで、シールド能力もオリジナルと比較すると格段に劣るという。

 ただそれでも、M4A2のようなマシンに寄生すると、そのマシンの能力を仮想生体兵器レベルで昇華自律改造して完成させるわけなので、寄生するマシンのレベルによってはメチャクチャ厄介な存在になる場合が大いにあるという話。そうなるとむしろ発達過程文明の様々なマシンやインフラに寄生できるこの地球製ドーラは、未知なるドーラ兵器となって出現する可能性を大いに秘めているわけで、面倒な敵になるかもしれないという予想ができてしまう。


「おわ……それって、たまらん話ですね……」


 思わずその状況を想像してしまった柏木。

 

「はい……もしガーグ・デーラ・ドーラの存在が世に知られてしまったら、下手をすれば、ティ連との技術交渉よりも手っ取り早くオーバーテクノロジーを入手できるドーラを、世界各国は狩ろうと躍起になるやもしれません。実際今回の横田での事件が証明していますが……現用の地球製兵器でも対抗できないわけではなさそうですからね……その鹵獲も不可能ではないと考える国が殆どでしょう。となると、どの国も此度の米国の対応のような感じなるのは目に見えています。そうすれば余計にベースコアの潜伏先を見つけ出すのが難しくなる。即ち国際協調ができなくなるという事ですね」


 苦虫潰した顔で「そうですね」と納得する柏木。フェルも同じような顔をしている……


 

 ……というわけで、あとの事は明日の情報省のスタッフ、即ち白木や、特危のシエ達を加えた本会議で対策を考えるという話で、事は進んで行く……


    *    *


「ふぁるんぱぱ〜!!」


 久々の帰宅に嬉しそうな声で柏木パパに飛びついてくる姫ちゃん。ファルンとパパの使い分けがめんどくさいのか、幼児らしい効率で柏木の事を『ふぁるんぱぱ』と呼ぶ姫迦。容姿年齢は四〜五歳といったところ。

 もちろん次に抱きつくは『マママルマ』と呼ぶフェル。


「はいただいま〜姫ちゃん」『タダイマです、姫チャン。いい子にしてましたカ?』


 と、そんな感じで姫ちゃんをいい子する二人だが、もちろん姫迦が一人で留守番というのもまだ不安。

 確かに地球人年齢で言えば一〇歳前後。まあ一〇歳でお留守番は不可能ではないが、不安は残るし、容姿年齢はまだ五歳ぐらいだ。

 というわけで、その留守番を共に引き受けてくれていたのは……


「美加ちゃん、ごめんな。せっかくの休みなのに」

「いえ、いいんですよ。私も楽しませてもらいましたし。姫ちゃんも、ちゃんとお昼寝してくれましたから。お買い物も一緒にいったもんね〜」


 と一緒に美加と「ね〜」する姫迦。

 そう、彼女は大見の娘、大見美加だ。彼女も、もう所謂大学生なのだが、イゼイラ留学生となった彼女は、イゼイラの最高学習機関の学徒なので、大学生というのとは少しちがう。

 今は長期休暇期間で日本へ帰ってきていたという次第。そこでフェルに頼まれて、本当なら美里が来てくれる予定だったのが、自分から姫迦のお守りを買ってでてくれたというわけである。実は姫迦は美加によく懐いていたりする。

 

 というわけで、お礼のお土産。美加が以前から欲しがっていたサイヴァルのサイン入りPVMCG装飾用のプレートをお礼に渡すと、とても嬉しそうにそれを自分のPVMCGに貼り付ける。

 そして一緒に食事をしたあと、帰宅していった。


 しばらくぶりの、生の家庭でのひと時。柏木は安堵感を覚える。

 確かに本部にいる時も、ゼルルームで毎日会ってはいるが、それでもなんだかんだいってリアルで生の家庭が一番である。

 姫迦がつたない言葉でその日一日の出来事をしゃべるのを聞く柏木とフェル。聞けば、幼児施設ではいつもシエの息子、暁クンと一緒に遊んでいるのだそうだ。


 と、そんな姫迦を寝かしつけて、話をするフェルと柏木。さしずめ、家庭内日本国外相・ティ連防衛総省長官会談といったところ。


「いやぁ、今日のドーラコアの話、強烈だなぁ……あれはマズイぞぉ。手を打たないとなぁ」

『ハイですぅ〜。ニトベセンセイは、すぐに情報省スタッフをフル稼働させましたし、私も在外公館全てに情報取集を密にするよう指示をしましたデスよ。なので明日から早速アメリカ国大使サンと会議詰めです』

「そっか、ご苦労さんだな、フェルも」

『多分、マサトサンにも、米国から会談の要請がくるかもデスよ……もしかしたらアメリカ国大統領サンからの会談要請が、ニホンにいる間にくるかもでス』


 と、そんな話を家庭でする羽目になった今回の事件。

 一〇年後の柏木とフェル達。

 相応に歳もとり、彼らも今では所謂世の『重鎮』と呼ばれる立場になってしまっている。

 そしてこの世界にはメイラや瀬戸智子に美加といった、新たな若い銀河連合日本国世代の若者もいる。

 そういった世代が、シフトして紡いでいくこの世界の物語。


 更には地球製のドーラコアという、強力な時代のピースがちりばめられた二〇二云年の世界……


 パラダイムシフト後の連合日本が、新たに始まる……




 銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  『終』




 そして新たな連合日本へ……







さて、本作銀河連合日本、本編終結後の外伝も程なく出揃った感がありまして、此度の話を持って一連の銀河連合日本作品は、『第一部』として全て終了とさせていただきたいと思います。

で、実は今回終了する理由は……何と! 『サイトのロードが長い』という理由でございます(笑

他の読者様はどうでしょうか? 私のPC環境では、メッチャ長いので、もしかしたら長文で一〇〇話超えてる長さが影響してるんかなぁとも思ったりするわけですが、まあコレもちょうどよい頃合いかという感じで……


 次話からは、新作扱いで、『銀河連合日本 第二部』という形で、不定期という形になるかとは思いますが、書かせて頂く予定で考えております。その節はまた宜しくお願い申し上げますm(_)m


(但し、万が一何らかの投稿が発生する可能性(何某かのご案内コーナーなどの増設)などが発生する可能性もありますので、終了処理は行いませんので宜しくお願いいたします)


 ということで、第一部はこれにて完了です。


 皆様、今後も本作と『第二部』を宜しくお願い申し上げます。



柗本保羽

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