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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
108/119

銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  第四話

 ティエルクマスカ銀河星間共和連合。

 地球から観測できるところの、約五〇〇〇万光年彼方にある銀河系。

 所謂我々地球人の言うNGC4565銀河一〇分の一もの領有粋を占める宇宙規模で広大なこの連合主権体、すなわち連合国家の政体というものはどういうものなのであろうか?

 柏木真人ティ連連合議員は、マリヘイルとの会談の為改めて復習の意味も兼ねて、ティ連の政体諸々を頭の中に入れていた。

 勿論、連合議員である以前に、彼はイゼイラでサイヴァルやマリヘイルに、サンサといった現在銀河連合日本国にとっての重要人物と極めて親密な関係を持つ人物でもある。彼らと関係を持ったいろんな顛末の際にティ連の諸々は相応に知ってはいるのであったが、今回はマリヘイル、即ち連合議長とのかなり込み入った話になるわけであるからして、情報・資料に予備知識と、きちんと準備しておこうというのは仕事をする上で当たり前の話である。


 さて、このティエルクマスカ銀河共和連合。長いので略してティエルクマスカ連合。更に略してティ連と呼ばれる存在。

 地球で言う国際連合のような国家間信用調整機関のようなものとはかなり異なる。政体としては、各加盟国が盟約上合意の上で、加盟国主権よりも一部上位の法で拘束され、各加盟国が合議の上で連合の盟約に基づく政務が行われる『連合主権国家』としての政体がティ連なのだ。

 地球でこれに類似する政体を喩えるならEUがそれに該当するが、ティ連はその中央主権が更に強力になったようなものと考える事ができる。実際その連合国家としての結束は生半可ではない。そりゃ種からして違う知的生命の連合体であるからして、そんな人々が結束し、安定した国家体制を維持するわけだから、ティ連内での国家間における信用に信頼というものは、それはもう生半可なものではない。


 当然そのような組織なので、その連合国家における最高行政機関『ティエルクマスカ連合本部』にあるティ連行政機構で働く人々は、各国の行政機関から選抜されたエリート中のエリートであるのはもうこれ間違いのない事である。

 ただここで勘違いしてはいけないのが、エリートといっても、別にどこかの国の最高学府を卒業して、何かの学識称号を持って……とかいうようなものではない。つまりこのエリートという意味、言葉を言い換えれば『プロフェッショナル』という言い方もできる。まあティ連は貨幣社会ではないので、仕事に莫大な貨幣的報酬が付くわけではないが、その仕事が第三者から大きく評価されての人達という意味で、プロという言葉があてはなるなら、まさしくそれなのである。

 なので何かに秀でている人物が集う行政組織が、ティエルクマスカ連合本部なのである。でなければ、柏木みたいな芸大出で、ゲーム屋やって、会社辞めたオッサンが普通に考えてその職に就けるよな場所ではない、はっきり言って……


 そんな巨大な政治機構の中心も中心……もし、連合国家が連合国家ゆえの結束を軍事力が担保しているという理屈がある意味正しいとするなら、ティ連におけるその超絶的に強力な軍事機構である『ティエルクマスカ銀河星間共和連合・防衛総括統合幕僚省、略して連合防衛総省の長官という地位がどれだけのものか、普通に考えて容易に、かつ途方もない役職であるということは簡単に想像がつく。


 だが、現連合議長マリヘイル・ティラ・ズーサ議長や、前任長官の客観的評価と、柏木自身の主観の感覚がイマイチ合致しないため、そこんところでどーーーにも首をひねってしまう柏木真人さんでもあるわけなのだが……


「なぁフェル〜。あのさ、例えばの話だよ? この私めがアメリカ合衆国国防長官になったら、普通世間の人、どう思う?」

『べぇつぅにぃ〜。ダッテ、マサトサンはティ連統括担当大臣サンをやってたじゃないでスか。この役職って、考え方によっちゃ、世界中の人がやらせてくれ! って思う閣僚サンですよ。それにくらべたらなんてことナイでスよ』

「あー、まあそういう風に言われたら身も蓋もないけど……うーん、でも確かにそれはいえてるな。って、もしそうなら俺ってティ連担当大臣の頃から、もしかしたらトンデモ状態だったってワケ?」

『ハイです。そうなりますね~って、今頃気づくデスか! ……ハイ姫チャン、ファルンの頭をペチペチするでスよ』


 そう言われてテクテクと柏木の側まで行って、柏木の頭をペチペチする姫迦ちゃん。柏木も頭を下げて、ペチりやすくしてやったり。


『マサトサン。ぱんつとしゃつは、ここに入れておきましたからね。明日はこのすーつを着て行くでス』

 

 フェルは明日の夜にティ連へ出張する柏木の荷物をスーツケースに入れてやっていたりしていた。

 フェルとて、確かにイキガミサマから解放される事に目がくらんで、マリヘイルに彼を売り飛ばしたという事に結果的になってしまってはるが、ままこれも冗談としての喩え話なわけであって、フェルとてその創造主認定無期限保留の条件が、愛する夫のティ連防衛総省長官就任という話じゃなかったら売り飛ばしもしないわけで、フェルとて夫にやってきた千載一遇のこの好機、見逃すわけなしと彼を売り飛ばすように柏木の背中をポンと押しているのも、これ事実なのである。だからこれも彼女の夫に対する愛情表現なのだという話。


『さあヒメちゃん、今日はもうおねむの時間ですよ〜』


 ママにつれられて、ベッドのある部屋に行く姫迦。柏木におやすみのチューなんぞ。でもいつもよりちょっと早いのではと思う彼。

 姫迦を寝かしつけると、部屋の扉をそっと閉めて……


「フェル、今日は姫を寝かすの早いな。何かあったのか?」

『ハイですよ』と言うと、フェルはちょっと頬染めて『マサトサンも、少し長めの出張になるですから……今日はオフロへ一緒に入るですヨ』


 モジモジして話すフェル。要は、景気付けにお風呂で夫婦間のコミュニケーションをとっておこうという話。


「え? あ、あはは……そうだな。久しぶりに一緒に入りますか」


 ということで、柏木連合議員とフェル大臣。ちなみに二人目の予定はないそうだ……


    *    *


 次の日、柏木はヤルバーン軌道ステーションにいた。

 勿論、イゼイラ経由でティ連本部、即ちあの脅威の人工星系本部まで出張するのである。

 空港には、フェルと姫迦と他柏木の部下になる役人にSPが数人。本当はフェルも付いて行きたい所なのだが、いかんせん彼女も現在日本の重要な閣僚であるからして、日本でのお仕事の方が優先されるのは当たり前。姫ちゃんもちょっとの間パパと離れるので、少々グズってご機嫌悪かったり。やはり姫迦は姫迦なりに子供心でティ連の遠さを知っているのだろう。

 もうこんな出張も、大手企業や政府内では普通になりつつある今、昔のように二藤部や三島らが大挙してやんやのお見送りなんてこともなく、まるで東京からニューヨークにでも行くかのごとく、その程度の感覚での出立である。


「じゃあフェル、行ってくるよ。後のこと、宜しくな」

『ハイです。言ってらっしゃいマサトサン。ファーダ・サイヴァルやファーダ・マリヘイルにサンサにも宜しく言っておいて下さいデす』

「ああ。でもまあ話し合いっつったって……こんなのほぼ強制みたいなものだしなぁ……フェルのせいで、はは」

『ア、そんな意地悪言うですか? んじゃもっとマサトサンが気絶しそうないろんな条件も提示されましたけど、今からでも選択させてあげまスよ? マサトサン。フフン』

「え!? なにそれ。アレ以上にまだあったのか?」

『ソウですよ~。その中でも一番マシなの私は選んだのですからね~ 感謝するでス』

「はは、なんだよそれ。まあいっか、じゃあそろそろ時間だ、行ってくる」

『ハイです。いってらっしゃい』


 ということで、いつもの軽く抱き合ってフェルとチューの後、姫ちゃんともチューして搭乗口をくぐる柏木。

 姫ちゃんバイバイするもイマイチご機嫌斜め。フェルが抱いてなだめてたりするのが愛らしい……

 此度の出張は本部でスタッフも完備状態だという事で、一人で柏木先生はご出立。ま、毎度のことでもう慣れたもんである。


 ……柏木を乗せてヤルバーン軌道ステーションをゆっくりと離れる全長二〇〇〇メートルもの巨大航宙旅客船『ハルマ号』

 いつもながら地球を離れていくこの船を見ると、その荘厳さに今これが二〇一云年の惑星地球である事が信じられなくなる。

 発達過程文明の探求も目的にあったイゼイラ-ティ連との接触は、日本社会に間接的ではあれどトーラル文明との関わりをもたらした。

 そう考えるとやはり日本もトーラル文明と縁を持ってしまった国家であり、その文明のありようも加速度的に変容するものなのである。

 東京にJRの山手線が走り、長椅子に腰掛けて通勤する人々がいる世界と同居して、五〇〇〇万光年彼方へ旅立つ巨大宇宙旅客船がそこにある時代。

 かつては日本の子供用科学雑誌や、有名な漫画家などが描いた未来社会は、摩天楼を通り越したビル群にチューブ状の列車が縫うように走り、空を行く『車』に、二足ロボットのメイドロボがいるような世界を描いたが、この世界の日本は普通の現代社会に、時代をすっ飛ばしたSFのような状況が同居する世界だ。

 なんとも面白くも矛盾した時代だと柏木は思う。だが、確かにコレ以上の更に大きな矛盾を抱えて進歩してきたイゼイラ人等は、そのために文明の危機にも直面してしまったわけでもあるので、今の日本や地球のこの状態が、何とも不思議に安定していていいのかなとも思ったりする柏木だった。

 

(まあ、技術レベルはトンデモで違うけど、俺達は理解できるものな。フェルの言うとおりか)


 ハルマ号の客室で、壁面超高精細モニターに映るヤルバーンタワーと美しい地球を眺めつつ、そんな風に思う柏木連合議員。

 ということで、四日ほどの船旅も、少々の休日という感じで……


    *    *


 航宙旅客船ハルマ号は、約一光年先にある件の人工亜惑星ステーション『レグノス』のディルフィルドゲートを使用して、一気にイゼイラ領内へジャンプする。この直通ルートが出来たおかげで、イゼイラへの渡航がかなり短縮できた。冥王星にあるゲートは現在火星軌道への移設に向けて準備中なので、暫くの間使用できないわけなのだが、このゲートが火星で稼働すれば、さらに利便性が良くなるだろう。

 と、そんな訳で、かれこれもうこれで何回目かという感じでイゼイラに到着の柏木。

 かつては脅威と驚愕に満ち溢れたこの地も、なんとも今はもう慣れた所。都市化された宇宙空間も、何か『また来れて良かった』という、そんな感慨の場所になっていたりする。


 さて、その後の柏木の日程だが……

 サント・イゼイラ宇宙港に到着した柏木は、待ち受けていた議長府スタッフの歓待を受けてそのままリムジンクラスのトランスポーターに乗って、議長府官邸区画へ。

 やぁやぁと、サイヴァル議長としばしの会談をした後、滝本やサンサを労うためにサイヴァルと日本第二大使館へ寄る。

 サンサ達へのお土産は、カレールー一式に、ラーメンセット、サンサが個人的に大好きな佃煮セットに福岡出身の滝本には、有名博多ラーメンセットの差し入れなんぞ。

 侍従侍女軍団の方々には、お菓子セットやらなんやらと色々差し入れて大変喜ばれる。

 ここでもやはりスゴイのはハイクァーンという奴で、これらお土産をハイクァーンで複製しまくれば、ご近所の大使館にも配れるという次第で、おすそ分けも簡単なもの。ま、日本流のお気持ちというところである。

 その後、ヤーマ城にて、プライベートでサイヴァル・ニルファ夫妻にイゼイラにいる友人知人とと会食……というか飲み会の後、ヤーマ城で一泊し、イゼイラ側が用意してくれたスタッフと、第二大使館から侍従侍女スタッフ数人が柏木のサポートについてくれることになり、とりあえずサイヴァル達にも一旦別れを告げて、再びサント。イゼイラ宇宙港へ行く訳になるのだが……

 なんと議長官邸区画で柏木達を待っていたのは……


 イゼイラ国防軍・ティ連防衛総省即時派遣軍所属の軍用車両であった。

 

 そう、かの時、ヘストル将軍と会談した際に迎えに来た、かの車列のようなあんな感じの車両群であった。なんせ次の『連合防衛総省長官閣下』をお迎えにあがるわけであるからして、そんなところ。


(あちゃ~ もう確定事項になってるんじゃんかよぉ~)


 額に手を当ててカクリとなる柏木先生。こりゃマリヘイルとの『話し合い』も何もあったもんじゃないなと。いやはやだと思う彼。

 ……と、そんなところでマーチングバンドのBGMでもあれば雰囲気抜群の車列、その中に一台だけ雰囲気の違う高級トランスポーターに乗せられて、向かうはイゼイラ国防軍基地。兵士諸氏はみんなキビとした態度で柏木を迎えるわけであるからして、それはもうここからは雰囲気がガラリと変わる。

 次に柏木が乗ったのは、イゼイラ国防軍、防衛総省即時派遣軍所属の中型機動航宙巡洋艦であった。イゼイラ航宙艦らしい幾何学的形状の船である。柏木の偏ったイメージでパッと思い浮かんだのは、細長い台形に米軍ズムヴォルト級駆逐艦のようなブリッジが乗っかって派手になったような艤装構造物が、上下に張り付いたような感じのもの。そんな船が軍事基地の上空に浮かんで、車列はそこに乗り付けていく。

 まったく何をされるんだかと思う柏木。改めて「どえらいことになったなぁ」と思う。


『ファーダ・カシワギ、お初にお目にかかります。私は本艦艦長の……』


 車列は巡洋艦格納庫に入り、これまた規律正しい兵士達に敬礼されて、リムジントランスポーターから降りると、艦長が直々に出迎えてくれた。

 艦内の兵士が栄誉礼で敬礼。柏木も礼で返す。


「いやはや、こんな大層なお出迎え恐縮です、艦長」

『なんの。貴方の名前を知らぬものなど、ティ連にはおりません。貴方の立場なら、これぐらいはさせていただかないと』


 日本じゃネットでクソゲー売ってたとか、一歩間違えたら詐欺師とか、散々な言われようの柏木だが、五〇〇〇万光年彼方ではこの扱いである。わからんもんである。


 ……柏木は、実のところ今回のような本格的ティ連型航宙軍用艦艇には初めて搭乗させてもらったわけだが、なるほどこの艦を見学させてもらうとやはり『宇宙空母カグヤ』がどれほど変わった船かというのがよくわかる。

 現在搭乗する航宙巡洋艦の設備は、少々仕様等に違いはあれど、やはり『ふそう』に近い。即ちカグヤの艦内設備がいかに旅客船風かという事がよくわかるわけだ。そりゃ結婚前のシエや多川が、カグヤのことを『我が家』と言っていたのが理解できる話である。

 

 ということで、航宙巡洋艦はイゼイラ宙域にある基幹ディルフィルドゲートを抜けてしばし。ほどなくティエルクマスカ銀河星間連合本部星系に到着。ここへはヂラール事件の帰りにも、『ふそう』防衛総省へのお披露目と、広域重力子兵器等の特殊兵装使用認可セッティングのため一度来たわけであるからして、柏木も此度で二度目の来訪ということになる。

 以前初めて来た時は、この星系が全部『人工』だとかふざけたこと言っていると聞かされて、柏木の頭の中のSF的巨大建造物の妄想範疇が、件の人工亜惑星要塞レベルな『死の星』が限度だったわけなので、実際その眼でこの星系を見た時は……もう言わずもがなではあった。

 だが、イゼイラの、かの軌道上に展開されるあの空間都市群を見れば、まあコレぐらいの事も彼らならやってのけるかなという感じもしたので、今更ながら柏木自身も結構このティ連的感覚へ完全に順応しつつあったりするんかなぁと感じもするわけである。


 と、そんな事を思いつつ、巡洋艦の自室で窓ならぬ壁面超高精細モニターで外の様子を眺める柏木。

 すると、柏木と共についてきてくれたヤーマ家の侍女が、「そろそろ到着だ」と柏木に声をかけてくれた。

 柏木はフェルが吟味してくれたダブルのスーツに着替えてネクタイをクイと締める。柏木はダブルのスーツがお気に入り。ちなみにシングルスーツとダブルスーツは、基本格付け的にはどちらも同じなので、TPOは関係ないそうである。ダブルスーツの原点は、防寒用軍服にあるそうで、スーツの中に風が吹き込む事を防止するために、元々は左右どちら側からでもボタンを止められたのだそうだ。


 と、そんな話はさておき、艦は第2人工本部惑星『ベルーシュ002』に到着する。

 敬礼で見送られる柏木連合議員閣下。ティ連兵士もなかなか気が利く連中なようで、全員地球式挙手敬礼である。柏木はちょっと照れながら兵たちに軽く会釈しつつ船を降りる。

 すると目に入るは白銀色のヒレがついた種属さん。パーミラ人のマリヘイルが迎えに来てくれた。

 部下の官僚らしきイゼイラ人等を従えている。


『ケラー・カシワギ、お久しぶりですね』

 

 手をあげて嬉しそうな顔で柏木を出迎えるマリヘイル。


「これはマリヘイル連合議長。お久しぶりです。『ヂラール』の一件からですから、一年ちょっとといったところですか」

『そうでスね~、地球時間ではそのぐらいですか。あの時から色々ありましたから、久しぶりとはいっても、ついこの間みたいな感じですケど』

「はい……はあ、まさか私がまたここに来るとは思っても見ませんでしたが……」


 ベルーシュ002の港湾区画を眺めつつ、腰に手を当てて、すごいもんだと一言二言。

 この『人工惑星』という建造物は、確かに球状の、見た目その通り『惑星』なのだが、基本人工で機械なので、言ってみればかの有名スペースオペラに出てくる『死の星』と同じようなもので、基本クソバカデカイ宇宙ステーションなのである。人工亜惑星要塞をもっとでかくしたようなものと思えば良い。なので地表に当たる部分に居住区画はあるが、人工惑星内部にも居住区画があり、ある意味ものすごく居住性が良い空間施設ともいえるのが、こういった人工惑星なのである。

 ただ……一つ言えるのは、それでも現代の地球人の人智を超えている施設であるのは間違いない。

 あの時、『ふそう』のクルーも、ディルフィルドゲートを抜けて、この異様な人工の星系を目にした時、クルー全員がそれまでのヂラール戦のことなど忘れ、ポカンとした表情で、人工惑星を眺めていたのを柏木は覚えているだけに……


(慣れっつーのは怖いねぇ……いつもながらスゴイと思うけど、順応しちまってるもんなぁ俺……)


 今の時代、地球人、特に日本人もティ連に行き来する人々が加速度的に増えている現状、それでもやはりこの柏木様以上の経験者は、地球に存在しない。


『どうしました? ケラー』

「ああ、いえ議長。以前来た時からの疑問なんですけど、この人工惑星って、要は惑星資源の塊ですよね。私達地球人から見れば、人工惑星一つ作るのに、惑星一個潰して作ってるような気がするのですけど……


 そう彼が地球人的SF感覚の疑問を呈すると、マリヘイルは、


『ウフフ、確かにいい疑問ですね、ケラー。でも心配には及びません。この宇宙空間は、星間物質から、デブリなどなど、見た目以上に元素資源で満ち溢れています。もちろん惑星資源も使いはしますが、その惑星自体もそれこそこの宇宙には無限に存在します。ですから、こんな人工星系一つ造ったところで、宇宙のバランスは、崩れはしませんわ』


 「は、さいですか」と思う柏木。星間物質レベルの話をされればそれもそうかと納得もする。

 なんせ地球科学でも、この宇宙空間に存在する元素は、九割以上解明できていないという話だそうだ。


 と、そんな社交的な挨拶話などしつつ、柏木はマリヘイルに誘われて、共に歩みを進める。

 施設内転送機を使って程なくマリヘイルの執務室へ。ティ連では親しい関係者は執務室で会談するのが定例である。そうでない人物は、普通応接室での対応となる。

 勿論柏木はもう執務室どころか、普通なら議長公邸にお呼ばれしてもらえるほどの間柄であるので、そんなところ。


「それはそうと議長ぉ。フェルに聞きましたけど、また何で私なんかを『連合防衛総省長官』なんぞに据えようと思ったんです?」


 ゆったりしたソファーに着席すると同時に切り出す柏木。まあ今回はコレを聞くためにわざわざやってきた訳であるからして。更に言えば彼自身も、何というか、どうぜ断れないのはわかっているので、諸々視察見学も含めての話で、こっちにやってきているところもあるわけである。


『マァマァ、ケラー。そう話を急がずに……とりあえずお茶でも飲んで、一息いれてからデモ……持ってきてくれたこのオマンジュウでも頂きながら』

「はぁ……」


 確かにそんなに急くような会談でもないので、マリヘイルのリズムに合わせる柏木。彼がお土産で持ってきた地球製の紅茶と、東京名物の饅頭菓子でも頂きつつの会談である。

 柏木も一つ吐息をついて饅頭をつまむ。

 マリヘイルもお茶をすすりながら、やおらに、


『ケラーもお話は聞いていると思いマスけど、ま、ぶっちゃけたという感じでのお話でいうと、前任者の推薦ですから。ええ』

「いやですからそこなんですけど、その前任者さんもなんでまた私なんかを……適任者なら他にもたくさんいらっしゃるでしょう? 私みたいな、あー、こういう言い方もナンですが、ティ連よりもずっと科学力の遅れた地球人ごときが、ティ連の安全保障のトップになるというのもおかしな話と普通は思いますよ、ええ」

『フゥ……ですから、以前フリンゼも仰っていましたけど、ハルマ人は遅れた種族などでは……』

「あーいや、それはわかってますけど、現実問題でヤルバーンさんが地球に来なかったら、今だに化学ロケット飛ばして喜んでた種族ですよ? 地球人は。それは私とて同じですし、確かに『私個人』で言えば他の地球人、いや、日本人から見れば、それはいろんな経験積ませていただいたのは事実ですけど……それでもたがだか数年の話でしょ? ……それに私なんかが連合防衛総省長官なんぞになれば、不安がる方や、反発する方も正直いらっしゃるんじゃないですか? ですから私が長官というのも……どうなんでしょうかねぇ……」


 マリヘイルは柏木の言い分を目を瞑ってお茶をすすりながら一言も言葉を挟まず気いていた。

 

『フゥ……確かにケラーの仰りたいことは解ります。デモ……ケラーは政治家としてもう一つ理解できていらっしゃらないところもアリマすね……』

「と、いいますと?」

『確かに、ここティエルクマスカ連合本部に集う政治家や官僚、軍人ナドナド、その他全てのスタッフは、選りすぐりの人員であるのは事実です。でも、皆が超人で聖人君子という訳ではありません。もしそういう人々がエリートというのであれば、ここにいるスタッフは、私も含めて皆、平凡で欠陥だらけの人間でしょう』

「…………」

『私とて、自分で言うのもなんですが、こんな連合議長なんて職をやっているのも、本国パーミラで、人よりも政治改革を多少うまくやって、私という人物を宣伝する弁がたち、人々から多少人気があったというだけの話で、何か創造主のごとき劇的な出来事をもたらしたという訳ではアリマセン。それでもこの場所に私が存在できるのは、私自身がここで政治家としての責務を全うしようと志を立てて、なんとかそれらがうまくいっているからなのです。そう、貴方を召喚して、防衛総省長官の職を託そうとする事も、言うなれば私の能力でもあるのですよ』

「……はぁ、まあそれは解りますけど……」


 マリヘイルが言いたいのは、このティ連本部に集う人々も、基本は地球世界や日本の政治家に官僚と大して変わらないという事なのである。

 特に政治家などは、一人一人が何か生まれ持っての選ばれし尊ばれる星のもとで政治家をやっているというわけではない。いろいろ志はあれど、その多くは昨日までそこらへんの国民市民だった人々ばかりだ。

 二世三世と言われる政治家だって、党利党略で地元有権者の地盤を引き継ぎたいだけの話での二世三世なわけで、勿論全てとは言わないが、まあ、そんなとろこであるのは事実である。

 彼女は、まずそこの認識が大事なのだという。ティ連本部だからどうだ、という概念は捨てたほうかいいと。


『……で、私が貴方を長官に据える根拠も……まあ理解できていますわね、それぐらいは』

「『カグヤの帰還』作戦や、天戸作戦など、諸々の件を買ってくれているからという事ですよね」


 マリヘイルがここまで自分の事を話してくれるのも初めてだったので、彼女が相当本気で柏木をこの職に就けたいという気持ちは今更ながらひしひしと伝わってはくる。


『その通りです。ただ、誤解しないで欲しいのは、私が貴方に求めるのはそういったティエルクマスカとして英雄的行動を取った貴方ではなく、実務的にここまで来た相応で相当な実績を積める貴方自身の能力を純粋に見据えての話であることを、もっと理解してほしいですわね』

「はあ……」


 柏木としてはまだ(こんな芸大出の元ゲーム屋のオッサンに何を期待してるんだ?)という感覚はなきにしもあらずだが、また同時に日本のティ連関係の政府スタッフに担当大臣を務めてきた自負もある。

 それにフリンゼ・フェルが嫁というのも、なんだかんだいって彼の大きな自慢で誇りで宝でもある。そういう感覚の間でマリヘイルの話を聞いている彼。

 だがマリヘイルの話ももっともなところではある。こういった世の政は、誰か一握りの優秀な人間がやってきたというわけではない。いやむしろ歴史的にみてもそういった所謂『天才肌・神童』とか言われる連中が政をやってうまくいった事例は、実のところただひとつもない。

 政治とは、人間一〇〇あるうちの一〇ぐらいに秀でた者が寄り添い集まって、ようやくうまくいくものである。マリヘイルの話だと、ティ連の中央を司るこの本部でも同じであるという話。


『それと……実は今からお話しする事がケラーを召喚した本当のところでもあるわけですけど、前任者も、ケラーは面識がないとは思いますが、向こうは貴方の事を大変よく知っている方でしてね』

「? 私をよく知っている?」

『ええ。かのシレイラ号に乗り合わせていたのが、前任者ですよケラー』

「そうだったのですか!」

『はい。で、これからお話しする事……いえ、お見せする事といったほうがいいかしら。その点も鑑みて、貴方を推薦したという事もありましてね。もちろんその話を前任者から打ち明けられた時は、私もやはり真っ先にケラーの顔が頭にポっと浮かびましたわ』


 そういうことかと柏木は思った。なるほどと。


「では、言い換えれば、今からお見せいただけるその何かよくわかりませんが、案件を私が見て、多分私が長官職を受けてくれるものと踏んでいるという?」

『はい。そういう事です。ウフフ』


 フッと笑う柏木。ウンウンと頷いて、


「わかりました。ではその案件、お聞きいたしましょうか」

『ハイ。では私についてきてくださいな』


 そういうとマリヘイルは彼を連れて、ベルーシュ002にある連合防衛総省行政地区へと入る。

 この地区は、言ってみれば市ヶ谷の防衛省のような場所といったところだ。

 だが、人工惑星にある一つの地区区画なので、それはもうとてつもない空間にある施設であって、この区画で一部防衛装備の実験研究なども行っている。

 事実、現在ティ連が地球で収集してきた軍事関係の装備品もかなりの数が集まってきており、調査部門がその解析に大わらわであるそうな。

 

(自衛隊兵器に、あ、あのあたりはスミソニアンあたりからデータ取ってきた奴だろうな、へー……って……あ!! な、なんじゃありゃ!)


 柏木はミタ。いや、何か見てはいけないものを見てしまった。ちなみにBGMは何曜日かのサスペンスドラマあたりの感じだろう。

 そう、恐らく新型の機動兵器なのだろう……が……足がない。今や偉い柏木にはわからんような代物である。だが救われているのは、どうもデザイン的に旭光Ⅱや旭龍にソウセイの部品をありあわせでくっつけたような試作品のようである。が、形態的にどう見ても……


 柏木先生、その場でウ◯コ座りして頭を抱える。


『ど、どうしましタ? ケラー? 具合で悪いのですか?』

「ぎ、議長……あの兵器、どこから?」

『え? あ、ハイ。確か……ニホンの兵器研究開発部門、確か……ヤルケンとかいう部署から頂いた設計データの中にあったそうですヨ。なんでも宇宙空間では理想的な形態だという事で、ここの研究員もその発想に驚いていたそうですが……それが何か?』

「いえ……いいです。偉い人にはわからんと思いますので」


 ちょっと胃を抑えつつ、その妙な、私にも見えそうな感じの兵器に後ろ髪を引かれつつ、後ほどゆっくりと見学させてもらおうと考えながらマリヘイルについていくと、とある厳重な警備体制の敷かれた実験棟のような場所へ案内される。


『さ、どうぞケラー。こちらへ』


 警備兵の厳重なチェック。この場所はどうやらそういう所のようだ。

 マリヘイルのような顔パスできそうな連合議長や、柏木ですら『失礼します』と検査機器にかけられる。


「なんだか重々しい場所ですね議長」

『まあ、ここはそういう所です』

「では私に見せてくれるその『案件』とかいうものの関係ですか?」


 そう尋ねると、マリヘイルは言葉では答えずに眦を上げて一つ頷くだけ。


 警備兵に先導されて、マリヘイルのいう『案件』のある場所へ到着する……

 するとそこには、百人単位もの人員が、ハンガーにかけられた何か大きな物体の周りに群がって、いろんな検査機器をどっさり設置して何かを調べているようだ。

 その物体に接近する事を許されたマリヘイルに柏木。特に柏木を見た研究員達は、もう次の長官職が柏木である事が既定事実になっているのか、敬礼して彼を迎える。笑み浮かべて、会釈する彼。


『これをご覧になって、ケラー』

「はい……ふむ……」


 いろんな場所からその物体を望む柏木。どうやら大型のロボット型機動兵器のようだ。

 全高は一八メートル前後。大きさ的には一般的なティ連機動兵器、旭龍を含むそれらとそう変わらない。

 デザイン的にには、腕部と脚部が妙に長く、猫背で、頭部にあたる部分と、胴部が半一体化している。

 更に頭部形状は、後頭部が異常に長く、頭部の額にあたるような部分も、角のように異常に突き出ている。

 全体的に装甲強化スーツを纏った異常な形状の巨人といった雰囲気のロボット型兵器だ。


「人型の機動兵器みたいですね。ティ連の新兵器ですか? これが何か?」

『フフ、そう答えますか。では……」というと、身近にいる研究員を呼び止めて、何かを指示するマリヘイル。無言で頷いて、更に誰かにマリヘイルの指示を伝える研究員。

 

 すると、その人型機動兵器の胸部にあたりそうなところをトラクターフィールドを使ってガバリと開けると……そこには、


「…………えっ! なっ!! まさか!」


 その柏木の驚きように、マリヘイルも彼の顔を凝視する。だが、凝視されてる柏木はそれに気づかない。

 気づかないどころか、側にいる研究員を少し押しのけて、少しでもそれに近づく素振りを見せる彼。



 そう……彼が何に驚いたか? その胸部に見たパーツ……というか物体は……


「これって……ドーラコア!!」


 そう、その通り、例の忌まわしき仮想生命体機械化兵器、ガーグ・デーラの繰り出すドーラ型兵器に見られるコア型パーツが、きっちりと設計されたシステムに組み込まれてその機動兵器に埋まっていたのであった!


 バっとマリヘイルの顔を見る柏木。マリヘイル小さく数回頷く。そして……


『ソウイウ事です。ケラー、貴方の力がいる理由、お分りいただけましたか?』


 そう、ティ連史上で初めてドーラに対し、有効な簡易兵装をもたらした柏木。そして事件としては記録上は『なかった事』になっている『ドーラ・ヴァズラー事件』

 その対応を行った日本政府スタッフ最前線の一人である柏木であるからこそ見せられるこの『案件』でもあった……そう、彼なら恐らくこの機動兵器を見た瞬間、マリヘイル、いや連合防衛総省が彼に対して何を伝えたいか、すぐに理解してくれるだろうと考えていたのだ。


「し、新型……ですか?」


 恐る恐る尋ねる柏木。もちろんコクと頷くマリヘイル。側にいたスタッフも同じくつられて頷いている。

 一つ大きく深呼吸する彼。


 ちなみにこの兵器は、最近ディスカール共和国軍が、自国の貨物船団を護衛中に会敵した、かなり大規模なガーグ軍の中に僅かながら混ざっていた機体だったという。

 当時のデイスカール軍自体がこの機体を見た時に驚愕し、相当な連携作戦をもってこの機体を鹵獲したという話。その際にヴァズラーを四機も失ったそうだ。パイロットは脱出して無事だったそうだが、それでもヴァズラー四機を犠牲にしなければならない性能だったという事でもある。


 マリヘイルの話を無言でき聞く柏木。彼も、一応こいつらに関しては当事者である。あれから仕事上でティ連とガーグ・デーラの繋がりや歴史も調べた……とはいっても、ティ連自体に『正体不明の敵対組織』という以上の情報がないわけなので、ガーグ・デーラとティ連が関わってきた歴史を調べるしかなかったわけなのだが。

 調べる中にわかったのは、それまでのガーグ・デーラのドーラ型仮想生命兵器は、件のヒトデ型である対人・対艦ドーラしか会敵した事がなかったわけなので、此度のこの型はティ連でもお初ということなのだそうである……というよりも、まったく見た事のないタイプなので、それ故にこの研究体制でもあるという話。そして更に……


『ケラー、気づきませんか?』

「え? 何がです?」

『この機動兵器は、軍がコアを完全に破壊し、コアにあたる部分の機能も停止しています。所謂理想的な鹵獲兵器になるわけですが……ドーラは「仮想生命兵器」ですよね?』


 その言葉に「!」となる柏木。そうかと。


「なるほど! このガーグ兵器は……仮想生命兵器ではないと! ……」

『そういうことです』


 大きく吐息をつく柏木。その言葉で想像できるのは、このガーグ兵器自体が既存にある兵器を連中が温存して繰り出してきたとか、そういうものではなく彼らにとっても所謂『新型』であるという点だ。

 しかも『仮想生命兵器』即ちゼル技術で駆動機関部が擬似生体的に構成され、その特性上ティ連で使用するエネルギー兵器の殆どの効果を減衰させてしまうような敵性体であることが常識だった彼らが、所謂、普通の兵器として『実体』を持って新型という形で登場した。しかも大きな問題点となるのが『人型』というところだ。


(あの時、ドーラ・ヴァズラーは量子通信できなかったはず。だから連中の拠点へあの兵器の情報は送れなかったはずだ。それは間違いないだろう……とすれば、旭龍か!?)


 そう、この形態はもしかすると今やティ連で主力兵器となりつつある旭龍、ティ連では『マージェン・ツァーレ』の呼称で呼ばれる兵器に対抗したものなのかと。

 つまり、そこから導き出される回答は……


「議長、ガーグ・デーラって……」

『ええ、単純な宇宙海賊や、テロ組織といったそんな連中ではないかもしれませんね』


 柏木が憂慮するのは、この新型がすごい性能だとかそういった類の話ではない。即ち敵が長い長い間、ティ連とこのガーグ連中との長い付き合いから突如、こういった新型機を展開してくるとなると、敵の存在に関して一気に予想の幅を絞りこむこむことができ、更にはこの機体の性能を詳しく精査する事で、敵組織の形態、即ち国家主権体か、大規模犯罪組織か、組織的テロリストかを予想することもできるのである。


 そう、マリヘイルがなぜに柏木を連合防衛総省長官の座に据えたいかというその理由。

 これ全部シレイラ号事件で柏木が見せたその対抗策に全ての原点があるからである。即ち良い意味で、純粋に彼の特異な偏った知識と、突撃バカ能力を借りたいからなのだ……


「……では議長、先ほどの脚のない機体も……」

『まあ、今後のところも考えないと、というところですからね。あの機体の今後も、貴方が長官になってくれれば、貴方の裁量も入ることになります』

「はあ……そうっすか……」


 この敵新型機の登場、ティ連内ではまだ極秘事項とされているそうだ。なぜなら確認された数がこの機体を含めてまだ数機、この一機も『幸運にも』というところで鹵獲できたようなもので、あとの機体は撃墜してしまったらしい。もちろん可能なかぎりの破片破損部の回収はあったそうだが。


「ティ連の機体でそんなに手こずったのですか……旭龍、あ、いや、マージェン・ツァーレもいたでしょうに」


 それでも相当対応に苦慮したのは間違いないのだそうだ。だから連合は、あの偉い人にはわからないような機体や、ソウセイ等、ヤル研の機体開発データを欲しがっているのだそうである。

 いかんせんティ連人は、本当に長い間その主力兵器をヴァズラーとシルヴェルの発展型しか使ったことがない。彼らの科学力をもってすれば、それで十分事足りていたからだが、ここにきてそれも危うくなってきたという危機感からか、因果の結果ともいえなくはないが、ティ連では随分久方ぶりに兵器の技術革新が起こっているという話なのだそうである。それが良い事か悪い事かはわからないが、そんな流れになっている今の時勢、やはりそこを冷静に見ることができる偏った能力を持った柏木の力を借りたいというのであろう。


 で、柏木を長官の座に据えようとする理由は、まだこれだけではないのだという話。


「? まだ何か、議長」

『はい。あと二点といったところですか』


 頷く柏木。


『まず一つは、ヂラールの件ですね』

「ヂラール? まさか! あれがこの宇宙に来たとでも!?」

『イエイエイエ、それはありませんし、そういう報告も受けていません。ただ、あのようなコロニーを作れるような生体兵器ですし、ワームホールを操る機器を取り込めるような連中です。杞憂に終わればいいのですが、他にも群体がいれば一大事ですし、それに対抗する方策も考えなえればなりません』

「はい、確かに……」


 こればかりはマリヘイルよりも柏木の方が専門家になってしまっている。おまけにその当事者が彼の義父になるガイデルだ。当事者達が親類縁者なのだから、ティ連内で総合的に見て柏木以上の専門家はいるまい。

 まさかガイデルかサスアに頼むわけにはいかないし、というところである。


 そんな説明を受けつつ、次に柏木が案内されたのは、防衛総省地区、中央戦略センターである。

 その中に入った柏木は、思わず『おおおっ!』と感嘆の声を上げる。


「こ、これは!」


 そのセンター内には、広大なティエルクマスカ銀河のホログラフが宙に映しだされ、ティ連公用語でチラチラと文字が浮かび、何百人というスタッフが命令に指示を出しあって部屋中を行き来している。


「す、すごい……」

『ウフフ、驚いたかしら? ここが連合防衛総省の中央司令部ですよ。あなたが長官になれば、ここのトップにもなるという事です』


 ほええ? という顔でマリヘイルの顔を見る柏木。

 彼女がその宙に浮かぶホログラフに表示される記号やらなんやらを色々説明してくれる。

 ここで今、臨検をやっているだの、この宇宙で宇宙船の遭難事故があったみたいだ、だの。この場所ではスポーツクルーザーが、即ち民間の宇宙船が事故って特殊救助隊が向かった、だの、なにか聞いてて壮大な『スペース海保』じみたその光景に薄ら笑いすら出るほどだ。


『それで本題なのですけどケラー』

「あ、はい」


 マリヘイルはティエルクマスカ銀河が浮かぶその隣に、少し小さめの星の海が浮かんでいる場所へ連れて行かれる。


『このホログラフマップは、あなた達の「アマノガワギンガ」ですよ』

「そうなのですか!」

『ハイ。私達はニホン国との接触後、ニホン国が連合加盟をした事をきっかけにこのアマノガワギンガへの探索活動も行っています』


 そりゃそうだろう。天の川銀河ほど豊かな銀河系もそうそうない。これは日本との国交云々とは別の話である。まあいってみれば防衛総省と言うよりは、調査局の通常任務でもある。


「そうですか、結構なことではないですか」


 笑みでその行為を肯定する柏木。


『ですわね。で、そこで……このデータなのですけど……』

「ん?」


 マリヘイルは一つの場所を指挿す。


『これは、赤外線の反応なのですガ、その発生パターンがどうも人為的なものではないかという報告が調査局よりあがってきています』

「人為的?」

『はい。これぐらいで観測できる赤外線反応を不自然なパターンで発生させるとなると、あなた方チキュウ人の科学用語で言う……』

「ま、まさか……ダイソン・スフィアの反応?」

『ソウですね。その可能性が十分考えられます。私達もその「だいそん某」と同様のエネルギーソースを文明のエネルギーインフラの基礎にしていますから、よく理解できます』

「ということは、銀河系にも知的生命体が……」

『チキュウの学者は、その可能性には?』

「いえ、我々の科学力では、まだ仮定の域を出ない話でしたので」

『ナルホド……ではますます貴方に防衛総省長官をやってもらわないと。この件も地球に持ち帰ってもらって、ハルマの科学者達にも説明してもらわないと……』


 もしこの現象の探索を行うとなれば、恐らくティ連としては地球や太陽系がその基幹基地になるだろうと。


(ガーグ・デーラにヂラール。それに俺達の銀河系での新たな発見か……)


 柏木は、マリヘイルがこの施設を見せた理由が理解できた。

 これは柏木が……というよりも、日本政府が銀河連合の一員になり、今後の連合が行う連合規模での本来の責務を日本政府に教えるためなのだと。

 マリヘイルはその最初の伝道師として、前任者の推薦云々の話は別にして柏木を選んだのだという事なのである。


 ……その後、色々とマリヘイルと話し合った結果、柏木は……


「わかりましたマリヘイル議長閣下。連合防衛総省長官の任、拝命いたします」

『ウフフ、そう言ってくれると確信しておりました』

「何をいってるんですかぁ、フェルと結託した謀略っしょ~」

『アラアラ、そんな事は無いですわよ。何なら今からでも別の選択肢をお選びになりまして? 例えばこれは……ファーダ・ガッシュからの推挙で、ダストール総統選挙出馬の要請なんかもきてますわよ?』

「はぁ!? そりゃ多川さんの範疇でしょ!」

『ケラー・タガワはシエがダメ出ししたそうですわ。なので、ケラーにダストールの国籍をとってもらって、出馬も考えて、他には~、あ、コレコレ。ハムール公国の連合加盟条件がやっと整って来周期に正式加盟することになりましてね。ハムールの国防長官へファーダ・カシワギを是非にという話も……』

「いやいやいやいや……防衛総省長官を有難く拝命いたします……」



 こうして、二〇一云年のある日、『柏木真人・ティエルクマスカ銀河星間共和連合・防衛総括統合幕僚省長官』が誕生した。



 ということで、この拝命了承を機に柏木は衆議院議員を自動失職することになる。基本扱いは、国会議員が在職中に地方自治体首長選挙などに出馬した際と同じ扱いである。

 ただ、いかんせん就く職が『ティ連防衛総省長官』であるからして、地球世界におけるそのインパクトは凄まじい物になるわけであって、世界各国の首脳が柏木との会談を日本政府にもとめてくるわけである。本来ならもう日本政府自身とは関係のない役職になった柏木の会談をなぜに日本政府へという話になるのだが、ここで忘れてはいけないのは、日本は『ティ連加盟国家』であるという点。即ち地域国家惑星地球のティ連への窓口は日本であるからして、やはり日本政府と柏木の繋がりは続くのである。

 それ以前に、日本政府もそのあたりはちゃんと考えているようで、柏木を例の『情報省』にある安全保障調査委員会の有識者会理事にしてしまった。これで日本政府との繋がりも普通にできたわけで、そのあたりの体制も色々と施策していた二藤部達であったりするわけである。


 とはいえ、とにもかくにもこの職を引き受ける事にした柏木真人。一旦引き受ける事を決めたとなれば、彼もプロである。もうそれ以上にそれ以降はゴニョゴニョとは言わない。眦鋭くし、今後の事を色々と思案する彼。

 とにかく、ガーグ・デーラ新型機の一件、これは単なる『ガーグの新型が出てきました』という生易しい話ではなく、連中にも何らかの異変があったからこそ、それまでみたことのないパターンの新型機が出てきたということでもある。これはまだ部外秘だということだったが、近いうちに連合各国へ通達しなければならない事案である。その通達も今後は柏木の裁量となる。

 

 あと、太陽系のある天の川銀河での、知的生命体存在の可能性。

 これも重要案件だ。それまで地球の科学技術レベルでは、そういった類の存在を発見することができなかった。

 更に言えば、その知的文明の可能性がある存在も、ティ連ほど科学が発達した種族文明だとは限らない。

 仮にワープのような空間跳躍技術があったとしても、光速を多少超える程度の運用レベルであれば、この太陽系文明との接触はかなり困難だからだ。所謂『ドレイクの方程式』というヤツである。

 なんせティ連の『ディルフィルド航法』技術は異常である。その空間跳躍速度が普通ではない。仮に接触できたとしても、地球とイゼイラにような友好的接触が図れるかもわからない。これも今後の長い目で見た課題である。


「さぁて、忙しくなるな……フェル、今後のこともあるから、こっちにもう少しいるよ。今回はちょっと長引きそうだな。で、俺の失職はもう決定した?」

『ハイです。みんなマサトンサンの辞職を惜しんでいましたヨ。でも、マサトサンの新たな飛躍でス。それでいいのでス』

「はは、ま、結果的になんだかんだでフェルのおかげかな。まぁこっちにきて色々見せてもらったけど、やる気は出てきたよ」

『ウフフ、でしょ? でも色々聞くと、ティ連も色々と物事が進んでいますネ』

「ああ。そうだな……とにかく色々こちらで情報収集してから日本に帰るよ」


 柏木はここに官舎、すなわち家をもらい、約一ヶ月から二ヶ月置きで通うということになる。こちらで生活するときは、日本にある自宅とゼルルーム処理を行い、まるで東京の家に帰宅したような環境を作って生活するという訳だ。

 これもフェルがポルとナヨ閣下に依頼して、その技術を駆使して作った新型のゼル空間技術が成せる技であったりする。彼女も愛する旦那様の為に色々考えているのである。それ以上に、やっぱり姫迦ちゃんの事もある。この時期の親子コミニュケーションは大事なのだ。


 そんな感じで、柏木自身も新たな世界へ踏み出そうとするその時。

 

 これが柏木真人に訪れた、大きな大きなパラダイムシフト……


    *    *


 ===== そして、奴らの場合 =====


 二〇二云年のある日。

 ティエルクマスカ連合外務局部長、瀬戸智子が体験した、かの対人ガーグ・デーラの新型。日本で関係各所が呼称する通称所謂『ヒトガタ』と呼ばれる仮想生命体兵器が大暴れした、かの事件より幾分か月日がたったある日……


 日本国、横田基地近郊にある米国の大手航空機開発メーカーのグループ企業『ユナイテッド・ギャラクシー株式会社(UG社) 日本法人本社』の敷地。この企業は、元々米国が出資する所謂『Project Enterprise』計画の為に作られた、件の磁力推進型空間振動派機関の研究を行う為に創設された企業であった。

 従ってこの日本法人本社もそうだが、他国にある同様の現地法人本社支社も、ほとんどが米軍関連施設に隣接した場所に社屋を構えている。しかもかなりの大規模なもので、日本本社の場合米軍基地施設内に跨ってその社屋は存在する。即ちそれだけ重要な現在の米国宇宙産業を支える企業なのである。


 そんな企業が、この時代より幾年か前に活躍した例の戦車型機動兵器『XM4リッジウェイ』を購入し、今日がその納品日という話らしい。

 実はこの機動戦車。米軍に晴れて正式に採用され、頭の試験コードが取れて『M4A2リッジウェイ』となって、量産されていた。

 A2という具合であるからして、マイナーチェンジ版という事だろう。砲塔部側面から延びるマニュピレーター式兵装部に色々と変更があったようだ。


 ……と、こんな陸戦機動兵器がなぜにUG社に納品されるのかというと、この企業が製造する宇宙船用機関部ユニットである『磁力式空間振動波エンジン』を、この機動戦車へ装着して、特危が運用している『14式浮動砲』のような戦闘車両ができないかと思案しているという次第なのであった。

 確かに着眼点はいい。

 米国は他に、このエンジンの特性を利用して『YF-25』なる試作マルチロール式戦闘機も開発中なのだそうだが、これが莫大なコストがかかるようで、国際共同開発にしようと、現在出資者募集中という話。

 なんとこの話にロシアが乗りたいと言ってきているもんだからすごいのだが、流石にこれはお断りしている模様。でもロシアもあの手この手で米国とお近づきになろうと必死に営業かけているようだが……


とそれはともかく、そんな時事もあってので彼らも通常営業真っ最中なわけで、特危やティ連で運用されている旭龍や旭光Ⅱ、最近ロールアウトしたティ連製の『ソウセイ』などに使用されている大型二足ロボット技術などというものは、現代地球科学ではまだ遠い技術、というか本来想定すらされていない技術なわけで、地球世界では言ってみればクローラーという技術がそれに相当する訳だが、そこは米国も発達過程文明である。次のM4A3という浮遊式機動戦車開発に向けて、こういった航空産業と自動車産業が協力して事にあたっているという次第。

 ヤル研や、ヤルバーン州技術部との折衝もあるので、米国はM4A3計画を日本で進めていた。

 

 夜中。UG社の大型トラックが、M4A3へ改造実験するための試験車両であるM4A2を積んで、横須賀の港から横田のUG社へ運んでいた。

 前後には米軍の警護車両が付き、不測の自体に備える。って、この日本でそんな不測の事態なんてのはそうそう起こらないので、警護車両に乗る兵士達も、のんびりしたものである。 


 とある場所で信号待ちをする車列。場所的には大型の用水路が平行して並ぶような道路。信号が赤から青に変わり、トラックがエンジンを掛けようとした時……エンストを起こした。

 「アレ」と思うトラックの運転手。どうしたんだと警護車両の兵士達も降りてきてトラックに群がる。

 なかなかエンジンがかからないその状況に訝しがり、苦心する運転手達だが、十数分後、すったもんだとモメながら、大した修理作業もしていないのに、再び快調にエンジンがかかった。

 安心した兵士達。みんな笑顔で各車に戻り、横田にあるUG社を目指す。


 しばし走行後、横田に到着。UG社の兵器保管庫は、横田基地施設内に間借りしているので、車列は横田基地のゲートをくぐって中に入っていく。

 

 搬入口の手前、トラックが車列を停車させると、M4A2を降ろす作業を開始しようと、トラックの荷台を操作しようとするが……「アレ?」という表情の兵士達。機材がうんともすんとも動かない。

 どういうことだとトラック周囲を見回すが……何も異常はないと判断し、関係者を呼びに行こうとした瞬間!

 

 急にトラックのエンジンが掛かり、何と! 無人でエンジンも切っているはずであるM4A2が勝手に起動し始めた!

 何事だと大慌てになる米軍兵士。すると彼らは見た! M4A2の装甲あたりに、何か妙な端子のようなものに侵食されていくその車体を。

 更にトラックもその妙な物体に侵食され、しかも車体や、装甲板の形状を鋭利に切り裂いたり、くっつけたりしながら、勝手に形状を変化させていく。

 何事が起こったかと狼狽する兵士達。警護兵はM4カービンを構えて警報を鳴らし、基地警部部隊に緊急事態を告げる。


 その間にもM4A2とトラックは、融合を始め……なんと二台は無理からに合体のような形状変化を見せて、二足歩行ロボット型のM4A2のような機体になっていった!

 そして、砲身基部のセンサー部。所謂M4A2の顔になる部分にヴンと輝くは……



 ……ドーラ・コアだった……




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