銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ― 第三話
「……年に起こった、日本国が第二次世界大戦後初となる、自衛隊の名を冠する組織が武力行使を行った事件として知られることとなりました所謂『ヂラール事件』。有識者の間では、かの『魚釣島事件』が戦後初ではないかという意見もありますが、自衛隊法における治安出動及び、『夢魔作戦』という一種の威嚇撹乱作戦である、魚釣島事件は実質の戦闘行為を行っていない例外的な鎮圧行動であるとしてそれとは別に、このヂラール事件を政府は戦後初の自衛隊組織が海外武力行使を行った初の事例として公式に発表しております。 さて、そのヂラール事件の発端となる『空間交通及びその管理に関する連合法令第七条』が発動された際に発見された『別宇宙』と呼ばれるこの地球世界の宇宙科学では理論上の存在として研究されていた宇宙空間が実際に存在し、その空間のサルカスと呼ばれていた惑星に、現在日本国ティエルクマスカ担当特命大臣に就任しておりますイゼイラ共和国出身で日本国に帰化した、フェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラ・日本名、柏木迦具夜大臣のご両親が過去の事故で逝去していたと思われていたところ……」
日本放送協会、即ちNHKのアナウンサーが、改めてヂラール事件に至る経緯や、ガイデルやサルファとフェルの関係を詳細に解説する。
その解説音声とともに流されるTV画面の風景は、今や世界どころか、宇宙世界にまで門戸を解放している『東京国際空港』所謂通称『羽田空港』の風景であった。
カメラは空港に敷かれた赤絨毯で待つ人物らをフォーカスする。
そこに映るは、二藤部に三島、浜、そして柏木連合議員にフェルフェリア・ティ連統括担当大臣。今日のフェル大臣は、地球製のブランド物ワンピーススーツで決めている。昨今は地球製の服装を着る機会の方が多くなったフェルさん大臣。
羽田空港からも、遠くに望めるヤルバーンタワー。その突端部の大気圏外軌道ステーションには既にイゼイラからの特別チャーター宇宙旅客船『ハルマ』が着け、目的の人物らは既に船を乗り換えて、ヤルバーンタワー最下部本体からデロニカで羽田へ向かったという。ほどなく到着するだろうと連絡が入る。
すると、ほんとに程なくでデロニカが飛来した。デロニカでやってくるのも言ってみればセレモニーのようなもので、来るだけならリムジントランスポーターでも転送でも良いわけなので、そこはそういうものだ。なんせ一国の国王陛下をお迎えするわけであるからして。
デロニカは毎度のごとく機体を大きく翻して悠々と着陸。だがガイデル一行はすぐに出てこない。マスコミ取材陣をやきもきさせながら、しばしの間をあけて……
デロニカ独特のハッチが開くと、そこからヴェルデオ知事に平手で促され、ガイデル達一行が姿を現わす……まずガイデルがヤルマルティアの赤絨毯第一歩を踏み出すと、続けてサルファが、サスアが……更には何と、サンサが出てきた。
そう、イゼイラ第二大使館の滝本が、少々気を利かせて、お世話役でついて行けと命じたのだ。
そらもうサンサはまさかの日本行きが決まって、お澄まし顔で「拝命致します」とか言って、実は小躍りして物凄く喜んでいたとかいないとか。
サンサについて行く侍従侍女軍団も、くじ引き選抜で決まって、そこに泣き笑いがあったりなかったり。
イゼイラから五〇〇〇万光年。彼らの時空間跳躍技術をもってしても、人工亜惑星を介して三日〜四日はかかる。イゼイラの政府スタッフを同行させているとはいえ、やはりガイデル達の見知った顔は多いほうが彼らも気が休まるというものだ。何よりフェルもまたサンサに会えてとても嬉しかったりする。
で、サスアの傍らにおわすフリュは……
「はい、この方は……政府発表の資料によりますと、ガイデル国王が遭難する前、イゼイラ旧皇終生議員時代のヤーマ家侍従長で、イゼイラ日本第二大使館事務部長も兼任している方という事ですね。以前も銀河連合加盟調印艦隊が日本へ来日した際にも、一度いらっしゃっているという事です……そして……この方が最後になります。えー、あ! この方が、フェルフェリア、ティ連統括担当大臣の妹、実妹の……お名前は、メルフェリア・ヤーマ・カセリア王女ということですね。この方が、フェルフェリア大臣の実妹、メルフェリア・ヤーマ・カセリア王女ということです」
NHKのカメラが小さく映る一行の最後尾をフォーカスして拡大。そのイゼイラ女性の姿を茶の間に流す。
みんなの知る科学の使徒、普段のイゼイラ人とは違うその服装。正装の武具を身にまとい、剣を腰にぶら下げる。此度日本銃刀法の関係上、腰の剣は模造刀なのだそうな。
メルが映ったその瞬間、視聴率がボンと跳ね上がった。
諸氏にこやかに談笑している姿が映し出されている。
柏木とフェルにハグするガイデル達。特にメルとフェルのハグ時間が長かったのが印象的。
柏木もハグした後、にこやかにメルのほっぺを両の手で押さえつけプルプルさせていたり。
メルもニコニコしながら『 3 』こんな口で柏木に何かを話している。そのとても親しげな姿は、ネットでまた『柏木頃す』コールを連発させていたり。
日本の誇る国産航宙重護衛艦『ふそう』が体験したヂラール何某一連の顛末は、政府発表によってもう十分日本国民、いや、世界国民が知るところである。
いかんせん白木が撮影した、かの大スペクタクルノンフィクション生物災害動画がもう尋常ならざる反応を呼び、自衛隊関係やら、憲法9条やら、驚きと、メンドクサイ事含めて長い間、ってか今現在でもマスコミから相当ネタにされた事件であるからして、それに関連した今回のガイデル達訪日は、日本国内でも大きな話題となっていたのである。
普通なら……そう、普通ならここで話題になるのは『別宇宙の存在』とか、『フェルさんの親御さんがどんな方々か』とか、そういう方面に話が集中して然るべきなのだろうが、やはりこやつらの話題はここに集約されてしまう。
* *
100名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
メルちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
101名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
メルちゃんミタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
102名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
いや、あの妹さん、あれはイカンすぎだろww ツボつきまくりだぞ!
103名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
あの鎧に剣差して、イゼさんの姿って、もうね、なんだかね。リアルノクタル創世記というかね。
104名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
あー、ええもん見せてもろた。生であんな格好本気で見れるとは……
105名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
古き時代のファンタジーというか、RPGというか。
105名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
あの側についていたデミ系の種族が、ハイラ人っていうんだろ? あの人も雅な格好だったな。
って、フェルさんのご両親も雅過ぎの格好だったけど。
106名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
そうそう。あのデミ系の人が、副国王陛下さんだろ? で、何でも遭難したフェルさんの親父さんらが指揮して、あのジラールと戦ってたとか。
107名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
スマン、その『デミ系』って何?
108名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>107 デミヒューマン系の事。人類から見て、人類意匠とはちょっと遠い種族さんの事。亜人類系という意味。イゼさんやシャル姉にキャプテンは、ちょっと鳥さんとケモナー入ってるけどヒューマン系。
ユーンさんや、ヴィスパーさんに、ドゥランテさん、ハムールさんもかな? は、デミ系。
ちなみに、ザムたんも便宜上デミ系になってる。かっちーはヒューマン系らしい。もちろんパウルかんちょはヒューマン系。詳しい事は、文科省のHPに書いてるよ。
109名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>108 thx
110名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>106 そそ。でもそのフェルさんの両親をめぐる騒動、ヤルバーンのHPにも上がってたけど、もう映画化決定レベルの話だよな。
111名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>110 あれは泣く。マジで。
112名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
だが、気に入らんのは、なんであんなカワイイ宇宙人さんと柏木のボケが、こうも親密なのかという事である。
113名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
また白い粉をだな。
114名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>113 つ公安
115名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
え? メリケン粉……スンマセン。
116名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
俺、昔ペルーに行った時、大量の砂糖をカバンに詰めて、税関通るギャグをやろうと思った事がある。
思いとどまったけど。
117名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~
>>116 作者発見
とま、相変わらずである。
* *
ガイデル達御一行は、とりあえず初日。都内の大日本ホテル・スイートに宿泊予定だ。
此度の一行は、純粋に日本への親善訪問、という形式の、まあいってみればヂラール事件で親交が深まった互いの国への見聞を深めるための観光がメインという『旅行』でもあり、あまり堅苦しいスケジュールは組まれていない。
無論、此度の事件において、イゼイラ政府から日本にも加盟観察国としての監督協力を要請されている事もあったので、ガイデル達も『仕事』として首脳会談なども予定はされている。そこで話し合われるのは加盟観察国処理が解除された後の留学生などの受け入れ等々、そんなところ。
イゼイラのサイヴァルに、やはりその発達史的に近い日本国に、彼らの文明に近似な文化史以降の歴史的発展の教育などをお願いしたいという話もあって、地球史の諸々を学習する研修生を受け入れる事になっていた。
さて、そんな今後の予定は今さておき、ガイデル国王夫妻は此度の日本外遊。もうまず、いの一番にやりたい事があった。それはもう言わずもがなの話なわけで、その目的のために日本のSPをゾロゾロ引き連れてやってきているのは、東京都のとある町のマンション。即ち柏木ん家。
「ふみゅ〜」
初めて面等向かって対峙するその人物に、なんとなく照れるというか、はにかむというか、子供らしい姿の……
「姫チャン、オジイチャンとオバァチャンですよ。ちゃんとご挨拶しましょうね〜」
フェルママの足にしがみつき、その後ろに隠れるような格好の姫チャンこと柏木とフェルの娘の柏木姫迦ちゃん。
「姫ちゃん、良い子はちゃんとご挨拶しような」
柏木もホラとフェルの足の後ろに隠れる姫迦の脇に手を突っ込んで抱き上げ、ガイデル達一行の前にポンと置いて対峙させる。姫迦も見た目の年齢は二~三歳ぐらいといったところか。ただ、
『コンニチハ、ヒメカチャン。私がファルタですよ~』とガイデル。
『私がマーレルですよ~』とサルファ。
『わたちがシロルでちゅよ〜』とメル。
『ははは、では私は叔父にいつかなるのかな?』とサスア。
膝を折って、姫ちゃん目線で話すガイデル夫妻に諸氏。ファルタとは、イゼイラ語で祖父の事を指し、マーレルとは祖母、シロルとは叔母の事を言う。メルはこの若さで叔母とはこれいかにと苦笑い。
姫ちゃんもちょっと上目使いで、頭をぺこりと下げてみなさんに
「コンニチハ」
とご挨拶。ガイデルはおいでのポーズをすると、姫迦はちょっとはにかみながらも腕を上げてガイデルに抱っこされる。ガイデルの次はサルファ。メルにサスアとたらい回し。
姫ちゃんも、最初ははにかんでいたが、すぐに慣れた。特にメルがいたのが大変大きい。どうも精神波調が同年齢っぽくもあったりなかったり。
さっそく向こうの部屋で、正義の味方ごっこに付き合わされて、やられ役をやってるメル。
「はは、メルちゃんがいて助かったな」
『そうだな、我々だけでは、やっぱり孫も少々警戒もしようて』
その遊ぶ二人の姿を見て爆笑しつつ、卓を囲むみなさん。
「いや、でもこんな狭い家で申し訳ないです」
自分の自宅マンションで、一国の国王陛下を迎え入れるというのも相当なものだが、これでも彼らは家族親戚なのだから、別に恥ずかしがる必要も無い。当たり前のことだ。
柏木のマンションも、マンションとしては中古だが立派な方ではある。今ではフェルサンチェックも入って綺麗なものでもある。ガイデル達は、柏木のエアガンコレクションを気に止める素振りも無い。そりゃそうだ、サルカス世界で共に戦った仲である。今更柏木の家に武器のイミテーションがあったところで何とも思いはすまい。
サンサは流石なもので、早速柏木家の台所を預かって、お茶菓子の用意をしている。
ちなみに侍従侍女軍団には必要な時以外は自由に過ごしてよいと言ってある。そりゃ喜んでみなして今頃観光であろう。くじ引きに負けた仲間への土産物でも買っているのかもしれない。
大変なのは毎度のことながらのご近所である。本日はこんな普通のマンションに、異星で別宇宙から来た国王陛下ご一行がやってきてるのであるからして、そりゃ警備の状況も普通では無い。マスコミの数も半端ない。
そんな柏木の家だが……さすがに現在八人この家にいる状況は、少々手狭感がなきにしもあらずではある。
今、姫迦はメルへ馬乗りになって戦っている。何か魔法攻撃を食らわしたようだ。メルが苦しむ姿。
その姿を見て微笑む旦那予定のサスア。まあありがちな状況。
ガイデル達も、こんな国王夫妻を今はやってはいるが、イゼイラでは普通のごく一般的な庶民的市民で有名であった。フェルは覚えていないそうだが、サンサが言うには、家でよく学徒時代の友人を呼んで飲んでいたという話。なのでこの夫婦もエルバイラとエルバルレという肩書きを持つが、基本、フェルと同じように一国民市民感覚の人物なのではある。でなければ今のハイラ王国の変わった政体は無いだろう。
そんな感じで、今は家族としての話題で話が進む。
『カシワギ殿は、政府の重要な閣僚であるのに、こういう言い方も失礼ですが、なんというかその……』
「はは、わかりますよサスアさん」
サスアはつまり、ここまでの日本政府重鎮の柏木が、なぜにこんな一般庶民が普通に暮らすマンションに住んでるのか? と言いたいようだ。
いや、これはなにもサスアが一般庶民を低く見て言っているわけではない。当然こういった立場の人物が思う、セキュリティ関係などで、色々憂慮しなければならないのではないかと言うことである。柏木だけならまだしも、エルバイラの愛娘であるフェルもいっしょなのだから、それはそう思うのだろう。
ちなみに今、メルは姫ちゃんの魔法少女変身アタックを食らって死んだ。
「……この場所は元々私が独り身だった頃からの家でしてね。フェルがこの星に来て、研修滞在で一緒に住むことになって、それからずっとってところです。ですので、このマンションって、そういうのもあって、下階はもうこの国の治安機関宿舎と化してましてね……』
柏木は、フェルが突撃女房かましてきた事や、今やこの地域で自分たちが日本における異星人生活者のシンボルとなっている事や、そのせいもあって、自治体からずっと住んでいて欲しいと要望されていることなどを話した。
「ま、住めば都というやつですよ。な、フェル」
『ソウですね〜、私もイゼイラのお城もいいですケド、やっぱり今はこのオウチが一番でスよ。家族がいるから』
ガイデルとサルファも、ウンウンと頷いて、フェルの言を肯定する。サンサは『それでもたまには帰ってきてくださいませね』と釘を刺していたり。
この夫婦も、あのデカい城に住んではいたが、そういうところ基本一市民なので理解できる。
サスアもガイデル達と付き合いだしてから、こういった所謂『庶民』の意味も理解した。サスアは元々ハイラの王族で貴族だ。庶民感覚という点では、やはり少々慣れないところも最初はあったという話。
……しばしして、メルちゃんが姫ちゃんに完敗して戻ってきた。
『ハァハァ……おっちゃあ~ん、ヒメカチャン、すごいばいたりてぃだねぇ~』
「ははは! メルちゃんごめんね、姫のお守りさせちゃって」
『イエイエ、仲良しになれたからいいヨ』
メルもしばし休憩で、卓の前にちょこんと座り、フェル姉に冷たいお茶を入れてもらっていた。
姫迦もメルにまとわりついて、すっかり仲良しな感じである。人形や魔法ステッキなんぞをメルに見せてもっと遊ぼうとせがんでいたり。
サスアが横で、メルをほのぼの目でみている。かつて柏木の正月の時、あれと同じ感覚をサスアも感じてるのかなと連合議員閣下も想う。
ということで、柏木の家で念願の孫と会えたガイデル夫妻一行は、その後八王子の柏木家実家へも向かった。
そりゃもう白バイに黒リムジン、黒トランスポーターにデルゲードといった尋常ではない護衛車列が大挙して八王子に向かうのである。そりゃ今やフェルさんの実家でもある家のオトウサマにオカアサマもどんな感じで待ち受けていたやら……
昨今の柏木のせいで引き起こされる柏木家実家のトンデモ体験も、最近はもう慣れてまだマシ状態であったのが、この件で一気に昇天率が上がるわけで……と思ったが、実家には、ナヨさんにシエと多川。二人のご子息、『暁くん』も来ていた。多川夫妻のサポートもあってまだマシな心構えでいられたわけで、実家でも和気藹々な親族同士の懇談ができたようである。
ガイデル一行と柏木家、ナヨさんと多川夫妻に柏木真男夫妻の懇談中……
メルちゃんは、悪の大幹部になり、暁レッドレンジャーと、姫ピンクレンジャーに打ちのめされていた……
これで死亡二回目のメル。ご苦労様と思う柏木夫妻に多川夫妻。ホント、頭が下がる良いフリシアである。
さて、その後、
ガイデル達一行は、勿論日本をあげた国賓で来日しているわけであるからして、天皇陛下主催の晩餐会に出席される。
今や今上天皇陛下も公に言葉に出しては言えないが、日ヤ安全保障委員会のトップメンバーといってもいいぐらいのご活躍をされており、天皇陛下自身が今回の経緯を誰よりよく知る人物の一人でもあった。
歓迎の御言葉にも力がこもり、ガイデル夫妻一行も伝説の国で今や連合加盟国ヤルマルティア皇帝の歓待を受けるとはと、今後の両国関係に希望を見た宴であった。
サスアも自分がかつてヂラール事件以前にいた立場と同じような場所にいれた事に少々懐かしさを感じていたようで、終始リラックスしてたり。で、女房のメルさんは……終始緊張しっぱなしであったという……
* *
次の日。
諸氏各々の希望する予定をこなすために、一行は皆別れて行動することになる。
ガイデルは国王という名の、言ってみれば『大統領』なので、柏木と白木と新見がサポートにつき、ドノバン米国駐日大使との会談を行う。
事前にガイデルには、米国は日本を仲介してティ連と関係をもつ地球内の地域国家であることは説明しており、ドノバンの方から面談できないかという要望があったためにこの会談がセッティングされたわけである。
まあ言ってみれば今やフェルとも公私共に親友であるドノバンでもあり、政治的には、かのヂラール事件の当事者から事の状況を色々訪ねてみたいということもありーので、ガイデルもそういうことならとOKしたようであった。
米国大使館前では海兵隊精鋭の栄誉礼でこれまたズラリと米国らしい歓待の儀でガイデルを迎え、ドノバンは誇らしげにガイデルを迎えて会談を行った模様。
サルファ王妃は、ハイラで色々日本人や当の当事者であるナヨさんから聞いた、日本の歴史。つまりナヨ閣下が過ごしたヤルマルティアの日々に滅茶苦茶興味が湧いたという話で、その当のナヨさんがサポートについて、ナヨ縁の文化に芸能を視察していた。
やはり件の竹取物語の話には大変興味を持っていたようで、自分用の資料として、分厚い専門書を数点購入したという話。実際ナヨ自身も、自身の日本での顛末を元ネタにして書かれたかもしれないというこの物語に関心があって当たり前なわけで、ナヨ自身のマイバイブルとしても大切にしているという。
と、そんな感じでナヨ閣下と専門施設を巡るサルファ王妃であるが……
フェルさんのおっかさんであるサルファ婦人の気品あるお姿もさることながら、その傍らにつくのが、滅多にネイティブモードで公にお姿をお見せにならないナヨ閣下が、お肌真っ白なネイティブモードで市中をサルファ婦人と巡るわけであるからして、こっちの話題も相当なもので、もうマスコミの追っかけで大変であったりするのであった。
サスア陛下とメル王女殿下は、ヂラール攻防戦での戦友達との再会。
歓待する場所は、かの時、連合法の事案とはいえ、彼らの窮地に駆けつけた『航宙重護衛艦ふそう』の後部甲板。機動兵器運用区画の離発着甲板で、ちょっとした式典のようなものを行っていた。
それはもう肩を抱きあい、叩き合いの大歓待を受ける。
特危自衛隊としては、言ってみれば戦後初の大規模戦闘であったわけである。
そりゃラストにティ連本部がその歴史上初めてぶっ放した、『ディルフィルド砲』を使ったわけであるからして、そんな戦闘の戦友同士ともなれば、みな兄弟みたいなものだ。
サスアもこの時ばかりは副国王の立場なぞ関係なしで、隊員達の輪に入っていた。もちろんメルも同じくである。
言ってみればメルはかの時のジャンヌダルクの如きヒロインである。皆してメルの実力は承知の上なので、見た目女子高生なメルを当時の上官として敬礼するオッサン自衛官も多々いるという次第。
もう二人はその日一日双葉基地と基地周辺の街のイベント漬けという感じで一日を過ごした。
「ということで、メル君……じゃなかった、メル王女殿下」
『そんな、メルクンでいいですよぉ~ オーミ師匠』
右手をピラピラ振って、「んなんナシナシ」というジェスチャーのメル。
「はは、そうか。じゃメル君、今日は色々イベントも用意しているから、楽しんでいってくれ」
『はい、師匠。で……シエ師匠とタガワ師匠は?』
メルにとって、特危の幹部はみんな『師匠』のようである。
「ああ、あの夫婦か。もうすぐ来ると思うんだ……あ、きたきた、あれだよって、よりによってあの機体かよ。シエ一佐、相当気に入ってるんだな」
『え? ……って、うわっ! なんだありゃ!』
ヒュィィ……と、独特のエンジン音を唸らせて、後部甲板にVTOL着艦するその機体。
ジェット式とは少々違う機関部を背負って、そのエンジン部には可変翼のような斥力制御モジュールが生えたどこかで見た機体……ガスマスク面な独特のフェイスに、どっかで見たような左腕部の五門にも及ぶ武装ユニット。んでもって右腕部のアンカー射出ユニット。
そう、あのヤル研やめときゃいい兵器シリー……ヤル研の高度なティ連解析技術をもって、とうとうなんとなく試作品を脱した『蒼星』であった!
この蒼星、かのテロ屋ボコボコ作戦の『オペレーション・WTFC』以降、もちろん『こんな』兵器、日本が採用GOの指示を出すわけもなく、各種データ取得も終了した今、そのままヤル研黒歴史の中へ埋もれていく運命になるかもしれないところだったのだが……世の中捨てる神あれば拾う神ありってなもんで、ヤルバーン州が「引き取りたい」と申し出てきてくれたわけで、蒼星の以降開発権は、ヤル研からティ連防衛総省へ移って研究開発を続行されていたのであったりする。
その後、改良に改良を受けた蒼星は、左腕部五門の掌型M230チェーンガンを、強力な速射斥力砲に換装し、火力を大幅に強化。右腕部のアンカー射出ユニットは、多目的高収束型トラクタービームユニットに変更された。
で、エンジンも斥力制御モジュールを付け、飛行型空間振動波エンジンに換装され、実のところティ連では初の純粋な人型兵器となる量産前提の機動兵器、その名もティ連-ヤルバーン州製機動兵器『ソウセイ』としてブラッシュアップされたのだ。
「いい具合に仕上がってるじゃないか。ま、見た目はチョイパク……ゲホゲホ」
咳き込む大見。ちなみに肩部のデザインは、シエのこだわりで変更されていない。
『どうしたんですか? 師匠』
「いやいや……で、あの機体にシエ一佐と多川一佐が乗ってるよ。ま、色々今後のこともあるから、とりあえず行こうか」
ソウセイの元に行く三人。すると胸部のコクピットからシエと多川が降りてきた。
『シエ師匠! タガワ師匠!』
「おー、メルちゃん。来たか!」
『ヨクキタナ、メル。昨日アカツキノオモリ、スマナカッタナ』
するとサスアもやってきて、
「どうでしたか、サスアさん。かの時の知人との再会は」
サスア陛下も、こういう場所ではざっくばらんなものである。
『いやタガワ殿、やはりかの時の戦友との再会、嬉しいものですな』
『私モ、アノ時ノ戦イハ、カツテナイ体験ダッタ。オマエタチト出会エタノガ幸イダッタ』
『仰るとおりです、シエ殿』
昨日の柏木家実家で、こんな本業の話は物騒になるためそうそうできないわけで、今日はそういう点気遣いはいらない。
『オーミ殿のご家族も紹介していただけると思ったのですが?』
「はは、それがそう簡単にはいきませんで。色々防機なども絡んできますので、そこはそれ、という奴です。私の娘をできればメル君に紹介したかったのですがね」
そんな話をしていると、久留米とリアッサにシャルリがやってきた。
「あ、久留米一佐……みなさん紹介致します。こちらは私の直属上官となる久留米彰一等特佐です」
「久留米です。大見二佐から皆さんのことは報告を受けております陛下、そして殿下。宜しくお願い致します」
敬礼の後の握手は恙無く。
『久しぶりダね、サスアの旦那、おっと今は副国王陛下だったかい?』
『はは、いやシャルリ殿。相変わらず壮健そうで何よりです。リアッサ殿も』
『アア、オマエ達モウマクヤッテイルヨウデ何ヨリダ』
『リアッサは後でダンナを紹介したほうがいいんじゃないのかい?』
『シャルリ、オマエハ、デルンヲサスアニ見繕ッテモラエ』
『あ、またその話かい、あたしはねぇ……』
と、話に花も咲く。で、間のいいところで久留米が、
「で、どうでしたか? シエ一佐。ソウセイの調子は」
『ウム、良イ具合ニ仕上ガッテイル。マァ、ヤル研連中ノ基本設計ガ良カッタカラダナ。飛行機能モ充実サセタカラ、ダーリンノ乗ッテイル意味モデキタ』
「おいおいシエ、なんじゃそりゃ。以前の機体にゃ俺がいらねーみたいじゃねーか」
『実際コパイダッタシナ~』
「まぁ確かになぁ。ジャンプするだけだったし……ということで、久留米さん、例の段取り通りでいけますよ」
「了解です多川さん……ということでサスア陛下、この機体はティ連防衛総省を通じて、ハイラ王国のティ連駐留軍に配備されると思います。で、後々ですが……恐らく加盟観察国処理が終了した後に再編成されるハイラ軍にも、この機体が回されると思いますので」
その言葉を聞くサスアは……
「おお! この巨人兵器は我が国にも来るのですか! それは素晴らしい。国民も喜びます」
実はヂラール事件で活躍した旭龍は、現在ハイラ王国で救国の象徴として崇められているところがあるわけで、何と王都の中央広場に石像として飾られてるというのである。その石像には、なんか漢字のような文字みたいな模様に、花のマークがあしらわれていたりする……いやはやと笑う大見達。
確かに今でこそティ連技術の恩恵を、大昔のイゼイラ人の如く、その文化に融合させていこうとしているハイラ人であったが、それでも文化意識の水準がまだまだ一七世紀レベルの彼らである。旭龍のような機動兵器は、神代の時代の産物と考える人々も大勢いるわけで、当然此度サルカス星域駐留軍に配備される予定の、このソウセイも……その肩部と共に、冗談性が増したりするわけであったりなかったり……
と同時に、この惑星サルカス―ハイラ王国とその文明圏も、いやおうなしに科学技術的な文明開化がなされていく。かつて日本もヨーロッパや米国と接触したとき、科学技術的な文明開化は恐らく一〇〇年単位のものであったのかもしれない。それと比較すると、ハイラ王国の文明開化はもしかすると数百年レベルの奇跡になる可能性すらある。
とはいえ、それをいえばイゼイラなどはトーラル文明との接触で、千年単位の文明開化をしたわけであるから、よくよく考えると、もうそんなものなのかなと思う皆であった。
その後、基地内で藤堂や香坂とも再開し喜ぶ諸氏。
で……そこでメルは、此度のメル的な訪日目的の一つを告げるわけで……
『オーミ師匠、オーミ師匠!』
「なんだい? メル君」
『私も一つ此度ヤルマルティアに来た目的を達成したいことがございまして……ご協力して欲しいでありまス』
「はは、おう、聞いてるよその件。確か、日本の鎧兜が欲しいんだったっけ?」
『はいであります。事前に資料を渡していたのですが……』
メルの来日目的の一つ。日本の鎧兜がほしいという要望。まあこれは何かメルが鎧兜を美術品として所望いているという訳ではなく、純粋に本職の道具として『ほしー』わけであるからして、今やハイラでも使えるイゼイラ情報ネットワークで調べた調査局資料の画像データを事前に大見に送っていたという次第。
で、その送りつけてきた資料は、例の『伊達政宗・黒漆五枚胴具足』という甲冑デザイン。頭にブーメランみたいな三日月付けたタイプのである。
資料を送られた時、「よりにもよってコレかよ……」と思う大見。
「この鎧兜だけど、この国で有名な大昔の領主さんが装備してたという鎧兜でね、売ってるようなものじゃないんだけど……似たようなものでいいのかな?」
『はい、もちろんです師匠。その点はフェルお姉ちゃんから聞いていまする』
なんでもフェルにも相談してたらしい。流石元調査局局長。ちなみにフェルさん、この鎧を展示している地区あたりで、人差し指立てて「牛タンカレーがうまいので有名だ」とまで教えていたらしい……それはいらんだろと思う大見。ってか、フェルの調査レベル尋常ではない。
ともかくメルとてこの『黒漆五枚胴具足』の骨董的価値があってので欲しいというわけではなく、そこは本職の道具であるからして、本職的にその様式や機能性に惚れ込んだという点もあるわけだ。
勿論機能性云々で言えば、そりゃ現用のボディアーマーやら特危兵装で言えば、L型ローダーやらとあるわけだが、そこはイゼイラ系ハイラ人のメルで、近衛団の団長さんである。今のハイラ的に言えば様式美も兼ね備えて然るべきなのは当たり前なわけで、そこんところも勘案しての話。
で、メルちゃん所望の、その『似たようなもの』設計製造に携わったのは……そう、みんなのヤル研メンバーであった!
大見は特危自衛隊双葉基地の禁断区画……ヤル研双葉基地出張所という負のセンスが溜まった場所へ、メルとサスアを連れて行く……
なんとなくその感じたことのない瘴気にゾクっとするサスアにメル。なんてことなさそうな施設だが、独特の執念のようなオーラを感じざるを得ない。
でもって、ヤル研諸氏待ち受ける実験区画にやってくると……「やぁやぁどもども」と、見た目爽やかなワリとイケメンの沢渡が待ち構えていた。
「お世話になります沢渡さん。例のアレ、できました?」
「ええ。デザインをアレ風にいじるのって結構きついんですよぉ。ま今回はメル殿下たっての頼みですから、ウチのロクデナシ共集めて遊ばし……ゲホゲホ。思案させていただきましたけど……」
沢渡の後ろで「クックック」とか「グフフフフ」とか、絵的に影を纒ってほくそ笑む白衣きたマッド……特殊な人々。
一応これでも日光建機とか、浜松製作所とか、君島重工とか、大日本精機とか、そんな超大手企業からの出向技術者ではある……本社での待遇はいかほどの物か知らないが。
「ではではメル殿下、こちらへどうぞ」
『う、うん……』
「えっと、PVM……じゃなかった、ゼルクォートを拝借できます?」
腕のPVMCGを外して沢渡に渡すメル。
「で……あの子も連れて来てるよな」
「ええ、部長。パイラちゃんですね。今隣の部屋で大人しくしていますよ」
するとメルが
『エ! パイラも連れて来てるの!?』
「うん、ちょっと今からメル殿下に差し上げる物の関係上、パイラちゃんの装備も合わせておかないとってね」
『じ、じゃぁ……もしかしてもらえる鎧って……ジドーカッチュウみたいなの? えっと……サワタリのおっちゃん』
「はは、おっちゃんですか。まぁいいや。で、結論から言うとそうなんだけど……ま見てのお楽しみってところでちょっと待ってね」
しばし待つ諸氏。サスアも、この毒特な雰囲気に、この白い服来た連中が、だいたいどんな種類の人間達か理解できてきたようである。要するにハイラにもいた錬金術士みたいな方向性で、そんな種の人間なんだろうと。確かに天穴の使徒、所謂イゼイラ人がハイラにやってきた時も、この種の人物がやいのやいのと、当時皇太子であったサスアに色々進言してきたのを覚えている。
『フッ……どこの世界でも変わりませんなぁ』と微笑浮かべてほくそ笑むサスア。
「アレですか? ハイラでもいらっしゃるのですか? アノ手の」と大見。
『王家にはよくある話ですよ、オオミ殿、いやはや、ハハ』
『なるほど、はは』
この中で、やはり真っ当な感性の人間は、大見とサスアだけだったりして。
……とそれはともかく、メルは沢渡からPVMCGを返してもらう。
「じゃぁメル殿下。データ装備を再生していただけますか?」
『うん……それじゃ』
メルはPVMCGデータを再生すると、体が光りに包まれる。サスアも息を呑む……で、すぐにメルの体にまとわせたその装備、その姿は! …………
ごっつい頭抱える大見……なんか柏木の家で見たことがあるゲームキャラのようなお姿。
確か内蔵武器が全部使えないで、大剣一本で戦ったとかなんとか、そんな無茶な暑苦しいオッサンが操縦するロボットだったような気がしないでもない気が……
ギンと沢渡達ナントカサイエンティスト軍団の方を見ると、腰に手を当てて、ワッハッハと満足気な笑顔……ダメダコリャと思う大見。ちなみにパイラ号チャンの方も、なんかものすごいシャープなホースローダーデザインに変更されている。デザイン的に大幅バージョンアップだ。どっちかというと、鎧成分が多めになったような気がしないでもないが、機関部の出力強化で、さらに機動性と装着性が増したよな感じではある。
『おほぉぉぉぉぉ! すごいすごい! カッコイイいいいいいい!』
メルさん大感動、一目で気に入り、早速パイラ号に跨って、合体自動甲騎モードになってみたり。
ヤル研ではこの装備、『メル式黒漆甲騎』と呼称している。ま、メルちゃん向けワンオフでヤル研連中の愛のこもったプレゼントであるからして、正式登録もしていない。書類上はヤルバーン州からの依頼開発品ということにしている。
『師匠師匠! 私物凄く気に入ったよ! こういうのが欲しかったんだ! ……コーパー』
「え? 沢渡さん! なんですかこの呼吸音は!」
「え? いや大見二佐、モデルが『黒漆五枚胴具足』ならこの呼吸音っしょ」
『あ、あのねぇ……ダメです!』
エエエエェェェェェェエエエエエという顔をするアh……こだわりの技術者達。「だってぇ黒漆五枚胴具足っしょ~?」とか、わけのわからん理屈を並べるが、そこはもう二佐権限で、なんとかさせた。喋るたびに呼吸音鳴らされたら鬱陶しいったらありゃしないと。
サスアさん、そのネタがわからずに、一人キョトンとしていたが、ただそのメルの現在のドハデなコスプ……データ装備には、一目置いてたりするわけで……これハイラ本国で本当に装備する気かと心配になってくる大見であった……
……その後。お約束での運用試験が行われたわけで……
双葉基地には現在拡張に拡張を重ねて、埋め立てされた場所も相当にある。そこには人工的に造成された、ちょっとばかしわざとらしい森林地帯や、競馬場ほどの広さを持つトラックフィールドなどがある。ここで戦闘車両に個人機動兵装の簡単な運用訓練等を行うのだが、そのトラックフィールドには観覧席もあって、普段から観光客に開放している双葉基地であるからして、ここでの訓練をアトラクション風に見学できるようにしている時間帯もある。そこで隊員達が訓練を公開するわけだが、その合間におどけた一発芸等を披露したりするわけで、観光客には人気のある見学コースであった。ちなみに二日前には、訓練のアグレッサー役が、ナントカレンジャーに出てくる敵戦闘員の格好だったりと、子供達にウケてたりするわけである。
今日も観光客が多い双葉基地。おまけにメルとサスアがやってきていることも知られており、もしかしたら二人を見れるかもと、そんな期待も抱いて観光客がやってきているのであるが、そこはヤル研連中も心得ており、
『エエエエ! みんなの前で演舞するの!? こんなにいっぱい人が見てる前で??』
パンと掌を合唱させてお願いするヤル研メンバー。土下座している人物も数名。
「はぁ、もう……お前らなぁ……沢渡さんも何で止めないんですか……メル君、嫌だったら断ってくれよ、構わないから」
すると何と、サスアさんが、
『はは、メル、いいじゃないか。お前の演舞みせてやれ。これも色々世話になったこの国の国民へのお返しだ』
『うん……それもそうか、わかったよサスア。んじゃ了解ですオーミ師匠』
「ええ!? いいのか?」
ということで、早速ヤル研連中から頂いた『メル式黒漆甲騎』を装着して、ホースローダー・メル式仕様のパイラ号と共にトラックフィールドへ。
ご丁寧に流鏑馬風なテストコースをヤル研連中はもう既に用意済み。ナニ考えてるんだと。
その黒漆姿のメルが見えると観客席からは拍手喝采。場内アナウンスは……
「これから、今日の特別演舞として、ただいま来日中のメルフェリア王女殿下による演舞をご披露頂きます!」
と流されて、もう観客席は満員御礼状態である。そして、「どうぞ!」のアナウンスとともに、メルは愛刀である件の超ロングソードをズァっと造成させて構え、はいやとパイラを疾走させる。
もうその後はかの時、ハイラで初めてホースローダーをメルが駆った時の再現である!
斬馬刀の如き超ロングソートが唸り、『我に断てぬ物ナシ』とコースに用意された大木を真っ二つにしていく。
背中に装備された、今回特注のブラスターライフルは、なんともまぁそのデザインがストックのない種子島銃のようなデザインだったり。とはいえ、これふざけてこんなデザインにしているのではなく、ちゃんとした理由がある。
実は、日本の銃器の歴史において、特に江戸時代が始まって以降、他国の同時期に、銃床付きのマッチロック式やフリントロック式ライフルがあったにもかかわらず、日本では明治期に入るまで、長銃に銃床がなかった。
これは日本の、他国における文化様式にはない『鎧甲冑を着た騎士(武士)が銃も操る』という特異な用兵術のためで、鎧を着た状態では銃の銃床は肩部に当てることが出来ず、邪魔になるために日本では幕末まで銃器に銃床がなかったという面白い理由がある。
実際、特危で使う機動小銃も銃床は収納式で、その理由はこれと同じなのだ。
流石ヤル研、一応頭は使っている。但し、そのブラスターライフルのデザイン、なんとかならんのかとも思うのだが……
という感じで、メルはそのブラスターのグリップ部を頬に当てて構えつつ、用意された的を確実に射抜いていく。
疾走速度は優に時速一〇〇キロメートル前後に達し、用意されたコースの課題を気持ちよくクリアしていく。
観客はその様子に大興奮で、拍手の嵐だ。メルとパイラ号も気持ちいいのか、『いつも以上に回しています』状態。
大見もなんだかんだで皆楽しめたようで、「まぁいっか」と、そんな顔になる。
あとで柏木にこの様子を撮影した動画を送ってやろうと。
多分『あああ! 俺も生で見たかったぁぁぁ!』と悶絶するだろうと。そんな様子を想像したりするわけである。
で、演舞を終えたメルちゃん……と思ったら、観客からのアンコールで、その後二回ほどやらされたという話。サスア完全公認だったからいいようなものの、一応他国の王女にこんなことさせて大丈夫かと、後で焦る大見に多川ら幹部達であった…………ちなみにシエさんはもっとやれと……
* *
そんなこんなで短い期間ではあったが、日本を満喫したガイデル達一行は、帰国の途につく。
今後はハイラも加盟観察国期間が早期に終了し、定期便も行き来するようなるだろうとのことで、柏木達もまたハイラへ赴くという話にもなり、その別れは涙も少なめにというところである。
『じゃあお姉ちゃんも、またハイラに来てね』
『ハイ。もちろん行くですよ。メルチャン』
二人はこれまた長めのハグ。でもってまたまた『変なボタンを……』とか言ってたり。
『ヒメチャンにアカツキクンもハイラに来てね!』
二人は遊んでくれるお姉ちゃんが行ってしまうので、ちょっとグズってたりする。
『ホラ、チャントバイバイシナイトイケナイゾ』
と、シエが母親らしいことやってたり。
「では、日本からもまた閣僚が貴国にお伺いすることになるかと思いますが、その際はよろしくお願い致します」
『わかりましたファーダ・ニトベ。大使館開設の件も、早急に手配させますので』
二藤部も国家代表として、羽田まで見送りに来ていた。
『では婿殿。我が娘をよろしくお願いいたします』
「はい。お任せくださいお義父さん」
ガイデルに柏木もがっしりと抱擁。サルファやサスアとも同じく。
そして手を振り、デロニカへ乗り込んでいく諸氏。大勢の日本国民が羽田で見送る。
特に例のメルさん演舞はもう日本中に知れ渡ることになり、ファンが急増状態で、これまた『メルサンは俺の嫁』とか言い出す連中もまたこれ出てくるわけで……いやはやだと。
でも、やはりなんだかんだで別れは別れ。名残は惜しい物。メルもハッチが閉まる直前まで、涙で手を降っていた……そしてデロニカは大気圏外の軌道ステーションまで。そこからハルマ号に乗り、イゼイラを経由して惑星サルカスへ。
さて、イゼイラはもとより、この日本、即ちヤルマルティアへの訪問が、ハイラ文化にどんな影響をあたえるのか? それはまた今後のお話……
これがメルフェリアにとっての、大きな大きなパラダイムシフト……
* *
===== 再び柏木真人の場合 =====
「んが……あ、あ、あ、ええ??」
一瞬死んだ後、蘇生した柏木連合議員閣下。
その状況に狼狽しまくりの真っ最中であった……
さて……
かの日本が誇る(?)かの防衛省防衛装備庁・ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所。所謂ヤル研技術を、柏木達が経験した『ヂラール事件』の公開に準じて、世界に公開するという政府方針がきっかけで何か話が大きくなっていった、かの『国際防衛協議会』
そこにロシアの有名なメン……グレヴィッチ大統領との日露首脳会談が叶い、日本は実を捨てて名を取る形で北方領土問題に一つ決着をつけ、米国や欧州も、かのウクライナ-クリミア半島問題を棚上げにし、ロシアの外交姿勢を軟化させる事に成功した地球規模、いや、時はもう既に宇宙規模の問題にまで結局発展してしまった一惑星の一地域国家間問題。
かの『SIS・宣教軍』問題。そしてそれを解決させる、ヤルバーン特別州をも巻き込んだ『オペレーションWTFC』
そんな大きな地球規模の事案を、まだ若干の問題を含みつつも、何とか良い方向へ解決させていく方向性を見出した世界各国に日本政府。
そんな事件にひと段落をつけた後に、柏木を襲う次の試練……というか因果というか、いいようにコキ使われてるだけというか、アッチの方々が単に考えなしだけだというか……
まあとにかくそんな事が柏木大先生に降りかかる。
日本政府は今回の事件を機に、秘密結社的な組織であった『日ヤ安全保障委員会』を正規の政府組織にするため、戦後日本でもう云十年ぶりとなる、完全な国家諜報機関『情報省』の設立を決断するに至る。
ただ、この情報省、確かに所謂米国CIAや英国MI6のような情報機関であるのは確かなのだが、その実態は件の『日ヤ安全保障委員会』という秘密組織を公的機関として正式に編成するような形の省庁なのである。従ってその情報省最高意思決定機関として『安全保障調査委員会』という委員会が設定され、ここが所謂、『旧日ヤ安保委員会』の組織そのままのものということになるわけだ。
その構成員も、勿論旧安保委員会の人員がそのままスライドするという事になり、なんと省庁では例外的に民間人も多数参画する意思決定機関となり、かなり特殊な組織になるという次第なのである。
情報省の、役人側のトップ。即ち官僚の親分は、外務省から異動になる形で、新見貴一が『次官』になり、その下には同じく外務省から異動になる白木が、連合内事案を扱う『内務局局長』そして公安から引っ張ってくる予定の山本が、地球内の外国事案を扱う『外務局局長』に就任する事が内定している。
さて、ここまではいい。そう、ここまでは柏木連合議員先生もフェルフェリア大臣先生も普通に知っている事である。
当然、柏木は自分もその創設計画に携わった関係上、この部署の何等かの役職を政治家として任されると思っていた。さしずめ情報省大臣でフェルが副大臣か、そんなところだろうと……
だが、フェルは何と次の与党政権で外務大臣に内定しているという話。フェルもすんなりとその内定を内諾したようである。
なんでも三島副総理兼外務大臣が、要職を引退する前提で、フェルのフリンゼとしての権能を利用して、自分の後釜についてほしいと。しかも副総理大臣も同じく兼務して欲しいと。
なんと、異星人の副総理である。まあ実際は副大統領のような感じでの独立した権限を持ちあわせた役職などではないが、二藤部の後の次期総理大臣の身に何かあった場合、暫定的、一時的にでもフェルが日本国総理大臣になる可能性は十分にある役職であるのは確かだ。
(ほえぇぇ〜……三島先生に二藤部総理、思い切った事するなぁ……)と首を振って感心する柏木だったが、次に(んじゃ俺は?)っちゅー話に当然なるのだが、何と二藤部は柏木へ近いうちに衆議院議員を辞職してもらいたいと話す。勿論ティ連議員も辞職して欲しいと。
お払い箱にしては、その言い方に悲壮感はなく、それどころか次に話そうとする言葉に、むしろ彼ら自身が困惑し、なんだかメチャクチャ申し訳なさそうな、そんな顔をしてたりするので、いやーな予感はしつつも、当然二藤部や三島等を問いただすわけなのだが……
「……『日本の』政治家を辞めてもらうぅ?……三島センセぇ、何ですか今度は! もうイヤですからね変なのはっ!」
「いや、別に全然変じゃねーぜ? そらすごい事を今から話させていただくんだけどよ……実はマリヘリイル閣下がな……あー、先生をさぁ、召喚したいって言ってるんだよぅ」
召喚……別に精霊か幻獣か何かを呼び出すわけではない。政治用語で『召喚』とは、その偉いさんの権能で、特定の人物を何等かの役職につかせるような行動を起こす事である。同じ組織の上司と部下の関係であれば、上司の希望する役職に就かせる命令を含む事もある。
「は? マリヘイル閣下が、私を召喚……ですか? なぜにまた……って、まずどこに召喚するんです?」
「え? あ〜、いや、ティ連本部とか言ってたぜ」
「へ? ティ連本部ぅ? 何するんです? 私がそんなとこ行って……」
渋い顔……なんだけど、何だか楽しげな三島に二藤部。フェルさんは何故か柏木と目を合わさない。下を向いたり手遊びしたり、PVMCGをいじったり。
「総理ぃ、もうあれ渡しましょうや、先生に」
「そうですねぇ……まあどっちにしろ渡さなければならない物ですし……柏木先生、ご自分の目でご確認ください。はいどうぞ」
二藤部はそういうと、懐から書状を取り出し、ハイと柏木に渡す。ハァと柏木は受け取ると、その毎度の紙ともなんともつかないものでできた書状を広げ、読む。
勿論これまた毎度のごとく、イゼイラ語と、日本語が併記して書かれた書状であったわけなのだが……
「……………………」
その内容をジーーっと読む柏木先生。
「………………………………………………………………は?」
顔を上げ、その書類をピっと上にあげて、首を傾げる柏木。
「と、いうことです柏木先生」
と二藤部。ニコニコしてウンウン頷く。その頷いた瞬間……
柏木は五分ほど死んだと思う。確かに彼岸を見た。
その柏木の持つ書類に書いてあること。
ゴチャゴチャ能書きが書いてはいるが、結果を言ってしまえば……
【ティエルクマスカ銀河星間共和連合・日本国所属政治家 柏木真人氏を、ティエルクマスカ銀河星間共和連合・連合防衛総省長官への就任を要請する】
こんな事がかいてあったりするわけである……
「……あ、あの~ ……フェルさん?」
『ははは、ハイ?』
「この……連合防衛総省長官って……日本国防衛省防衛大臣みたいな感じなんですか?」
『う~ン、どっちかというと、アメリカ国国防長官ッポイでス』
「いや、よーわからんけど……ナニをする役職なんです?」
確かに言われてみれば、日本の防衛大臣や、米国の国防長官ってナニやってるんだろという話。
『エット、ティ連防衛総省長官は、おおまかに言うとデスね、ティ連全体の防衛戦略全体の企画を立案して、ティ連議会にかけたり、議長の考える防衛政策方針をお手伝いしたり、場合によっては議長権限で動かせる部隊による作戦の、議長参謀をスルですよ……ととと、トッテモ重大なお仕事なんですヨっ』
で、更にフェルが言うには、長官権限で独自に動かせる部隊もあるそうで、なんかモノゴッツイ柏木向きな仕事だったりなかったり。
二藤部の話だと、現在の防衛総省長官が、本周期で退任するそうで、ティ連閣僚交代時の慣習で、後継者は誰がいいか、誰でも良いから議長に進言する義務があるのだそうな。
もちろんいなかったらいないで良いのだが、その退任する長官は、なんとよりにもよって柏木をマリヘイルに推薦したそうな。
ただ、推薦してくれたはいいが、マリヘイルとて、柏木が日本の重要な政治家であることぐらいは承知しているので、まぁ長官やってくれっつっても無理だわよね~と思ってたそうなのだが、そこで出てくるのが例の『創造主認定会議』の件というヤツですよ、という感じで、マリヘイルはナニを思ったか、創造主認定会議の頭の硬いクソジジイ(フェル談)連中にある約束を取り付けたという次第。その約束をフェルに内密に連絡して話し、相談すると、フェルさんはウンウンコクコクと頷いて、ハイハイと二藤部にある話を持ちかけて、今に至るというところ。
ではフェルさん、一体マリヘイルに何を吹きこまれて、二藤部にこの話を持ちかけたかというと……
「……」
フェルをジーーと見る柏木。
『……?? なな、ナンデスかっマサトサン』
「なんかフェル、さっきから挙動不審でおかしいぞ」
『エ? ななな、なんの事ですかっ?』
「総理」
「はは、ハイ?」
「さっき、マリヘイル閣下から、相談があったって言いましたよね?」
「え、ええ……」
「…………」
フェルと二藤部の顔を見る柏木。二藤部もちょっと視線そらしたり。でも何か噴き出しそうな顔。
「総理、本当はフェルから何か吹きこまれたんじゃぁないですかぁ~?」
「えっ?」
「フェル、何を総理に言ったんだ?」
『え? なな、何にも言ってないですヨっ』
「ウソつけ、その挙動は、フェルが隠し事してる時の独特の仕草だぞ。フェルがしらばっくれてる時は頭の羽髪がピコピコ動くんだよなぁ」
『えっ!』
頭を押さえるフェル。
「むははは、引っかかったな、ウソだよフェル。そんな癖ないって」
『ア! 騙しましたネ、マサトサン!』
「それはこっちの台詞ですよ。さぁ白状しろフェル!」
『ピ~プ~♪』
「言え~!」
首根っこ抑えて、頭グリグリ攻撃をする柏木。ドメスティック・バイオレンスだーと叫ぶフェル。
「言わないと今日から半年カレー抜き!」
『ア! そ、それはダメですヨ!』
「んじゃ白状しなさい」
『ム~…………わかりました、言うですヨ……』
フェルが言うには、マリヘイルが『もし柏木が防衛総省長官の職を受けてくれれば、創造主認定は無期限保留にしてやると、認定会議のジジイが言ってた』と話したそうな。
で、フェルサン。イキガミサマになるのがイヤなので、マリヘイルに柏木を売ったのだった!
「な! フェルさん、あのね……」
『ア~、デモデモデモ、マサトサンのためを思ってやったですよっ。これでマサトサンも、創造主にならずに済むデスよっ! ……生きてる間は、ですけど……』
「生きてる間って……死人に口なしかよっ! ったく……はは、フェルはもう……」
『 3 』こんな口してむくれるフェルの頭をモシャモシャなでる柏木。なんともいじらしいというかなんというか……まぁいっかとは思うが、流石に依頼された役職が大役にすぎるので、今回ばかりはどうするか悩む彼。横で見ていて、柏木とフェルのやりとりに爆笑していた白木や新見に三島。
そこでフェルのフォローに回るは三島であった。
「柏木先生よ、でも今回の件は先生の実力を鑑みて、先方も推薦してきたって話だぜ」
「ええ~? 私のぉ? 何がですか? 防衛総省長官ですよ、軍のトップで、あのヘストル将軍や、セドル提督に命令する立場ですからね。普通じゃあないですよ」
すると新見が、
「先方はやはり柏木さんの、例の『アマト作戦』に『シレイラ号事件』の件、それと『魚釣島事件』の対応、極めつけは一連の『カグヤの帰還』時の対応を勘案しての推薦だと聞いています。はは、確かにこれらを持ち出されれば、私でも推薦しますよ」
白木も新見に同意して、
「確かに、統括官の仰るとおりだぜ。お前の考えなしの突撃バカさ加減でこうなってんだ。あきらめろや。フェルフェリアさんの方が正しいよ、むははは」
『デスヨネ~、ケラー?』
「おいおい白木、俺売られてんだぜ」
「向こうが買いたいってんだからいいじゃねーかよ、しかも超高値で」
「はぁ……おまえなぁ……」
ということで、即答はさすがにできないので、一度近々に連合本部へ再度赴き、マリヘイルと直に話そうという事でとりあえずこの場は収めた。
で、情報省設置検討会議をとりあえず終えたフェルと柏木は、先ほどの冗談……というワケでもないのだが、その話はさておきと、休憩室で夫婦の会話をする。
『ム~、マサトサン。ゴメンナサイです。勝手なことしちゃって』
「ああ、もういいよフェル。気にするなって、元々はマリヘイル議長の策略じゃないか、はは……まぁでも確かに創造主認定が完全に無くなったのは助かったな。その点はお手柄にしておくか、フェル」
『ウフフ、ハイです』
「はは、って、それよりも、もしそうなると俺、単身赴任で五〇〇〇万光年彼方だなぁ……それはそれで辛いものがあるなぁ……」
姫迦にも早々会えなくなるし、と、日本の普通のサラリーマンみたいな悩みを話したり。
でもフェルはその点は色々考えてるから心配はいらないという。
『ソレニ、ずっと常駐するわけじゃないそうデスよ。ファーダマリヘイルも、マサトサンが日本で重要な立場にいる人ってわかってマスので、向こうでの通常勤務は、チキュウ時間でイッカゲツからニカゲツ間隔の勤務でいいそうです。前任者もそうでしたから』
「そっか、んじゃまだいいかな」
『ソレと、ジホ党の所属であるのは変わりませんし、ヴェルデオ知事が、ヤルバーンでもマサトサンが執務できるように便宜図ってくれるそうですヨ』
なんとなく妻に背中を押されているような柏木。これはイキガミサマ云々とは別の話である。
これは自分の人生でも、もしかすると大きな大きな転機になるかもしれないと感じる柏木。
早いうちに連合本部に行くかと決断する。
さて、柏木先生、連合本部で防衛総省長官という役職とその責務、どう見るか?
大きな大きな、彼の人生転機である……