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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
106/119

銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  第二話

===== 欧州の場合 =====


 官邸の執務室で事務仕事をこなす柏木連合議員。なぜかそこではフェル大臣も一緒に机並べて事務仕事をする。

 いかんせんフェルさん大臣は官邸に自分の執務室を持っているにも関わらず、柏木がいる時はいつも柏木の部屋に仕事道具をもってきて仕事をしている。要するに夫婦なので一緒にいられる時はなるべく一緒にいたいのだろうという話。

 なんともここまで仲の良い議員夫婦も珍しいという話で、もうみんな別に気にもしなくなり、フェルに用事のある役人はデフォルトで柏木の執務室に来てしまう。

 ま、柏木もフェル関係の仕事となれば、後でどうせ自分にも書類がまわってくるのわかってるので、フェルと一緒に役人の話を聞いてやるほうが効率もいいかと、特に仕事上問題もなさそう、ってかむしろ効率がいいようでもあるみたいなので、現状維持状態にしているというところ。


 さて、そんなフェルと柏木の面白くもない事務仕事の話はさておき、米国のプロジェクト・エンタープライズ計画が発動して二年が経過し、米国初になる事実上の恒星間宇宙船、『マーズ・ホープ・エンタープライズ級』通称『MHE宇宙船』が初飛行し、月軌道生活実験も問題なく終えて、恙無く火星へ向かったという丁度そんな頃。

 更に言えば、今や日本国はヤルバーン州の軌道タワー突端部が宇宙港となり、その宇宙港に今や週四便という数の、イゼイラからの宇宙旅客船が就航し、ティ連人さんに日本人が連日互いの国を行ったり来たりしているような世の中になってしまっているわけで、流石にそれが普通でもう慣れた日本国民、とまで痴がましいことは言えないが、それでも「もうそういうものだ」と順応させてきているこの頃、そんな時。


 コンコンと柏木連合議員執務室をノックする誰か、っと、柏木が「はいどうぞ」という前にカチャリとノブを回し、自分の部屋のように入室してくるは白木崇雄であった。


「よお、柏木議員閣下にフェルフェリアさん」

『あ、ケラー・シラキ。こんにちはデス』

「おいおい白木、せめて『はいどうぞ』ぐらい言われてから入れよぉ」

「いいじゃねーかよ、柏木のくせに。効率だ効率」


 フっと、「しかたねーな」ってな感じで苦笑いな柏木。まあいつもの事なので、今更ではあるが。

 もし白木がそんな感じでドアを開けた時、柏木とフェルさんがブチューとやってたらどうするつもりだったんだと。

 と、そんな事はさておき、


「ご両人、飯食ったか?」

「いや? まだだけど」と柏木。『ハイ、これから国会食堂にカレーをですね、食べに行くデスよ』と毎度カレー大好きのフェルさん。

 

 すると白木が、


「あー、フェルさん。今日は申し訳ないですが、そのカレーはパスしてもらえます?」

『えっ! カ、カレーをですかっ! そ、そんな……なな、何か特殊な理由が……』


 フェルにカレーを食うのやめろというのは、柏木にエアガン買うなというのに匹敵する言葉である。

 ってか、そのあたりは白木もわかってるので、


「あぁあぁ! いやいやフェルさん、そこまで悲しくならなくても……いやですな、ちょっとこれもらってきましたんで、皆さん一緒にどうかと思いましてね」


 と白木は手にどことなくいい匂いの袋をもっていた。要するに、昼飯持ってきたのでみんなで食わねーかという話。

 

「……ほう、お前が奢ってくれるとは珍しいな。で、何なんだ白木、その袋の中身は? フェルのカレーを中断させるんだからそれなりの物でないと、フェルの恐ろしい制裁が……」

『ソんな事、しませんですヨっ! で、ケラー、とても美味しそうな匂いですけど、何ですカ? そりは』


 フェルも口に指当てて、そのレジ袋みたいなものに興味津々である。


「いやな、実はさっき、英国大使のクラレンス・ベイカー卿と面談してたんだよ。知ってるだろ?」

「ああ、ベイカー卿っていったら、あの有名な企業経営者さんだろ? 最近政治家としても頑張ってるみたいだけど」

「そそ。何年か前にサーの称号もらって『卿』って敬称付きになった方なんだけどな。で、そのベイカー卿が、みんなで食ってくれってフィッシュ・アンド・チップスを大量に差し入れしてくれたんだよ」

「はあ?」


 このクラレンス・ベイカー卿は、親日の資本家でも有名な人物で、慈善事業にもかなりの金額を寄付しており、その活動が認められてサーの称号を得た人物でも有名なのである。現英国の首相に、その日本通ぶりを買われて、駐日英国大使として赴任してきている人物でもある。

 

「フィッシュ・アンド・チップスかよ、うまいのかそれ?」

「おいおい失礼な事いうなよ、大使直々に購入して差し入れてくれた品だぜ」


 まま柏木連合議員も、TES時代には世界中を飛んで回った経験のある御仁である。当然英国にも行った事がある。そして、世間一般で言われる「英国にうまいものなし」「メシマズ大国」「メシまで英国面か」と言われるほどのもので、厳しいことを言えば、極めて残念ながらその通りなのである。

 昨今は世界各国の有名な飲食店も英国に入ってきており、所謂普通に外食する分にはそんなこともなくなったのだが、それでもネイティブな町の食堂や、家庭料理となると、『当の英国人すら自他共に認めるほどの』メシマズ王国連合であるのが英国なのである。

 だが白木の、そのベイカー卿という人物から差し入れしてもらったフィッシュ某は……


「どれどれ……」と一つつまみ、まだ熱々のそれを口に入れると、「お! うまいな。よく揚がってるじゃん。フェルも一つたべてごらんよ」

『ハイです……モグモグ……ア、おいしいいですネ! どれどれも一つ……』

「白木、こりゃ前言撤回だぞ。このフィッシュ・アンド・チップス、うまいじゃないか」

「まぁな。実は今日、英国の大手飲食資本のな、このフィッシュ・アンド・チップスのファーストフード店が原宿にオープンしてよ、そこのオープンセレモニーにベイカー卿が行ってたらしいんだ。その関係で、差し入れもらったってわけよ、まあ座って食おうぜ」


 と諸氏お昼なので、白木のもらってきたそれに舌鼓をうつ。

 かのフィッシュ・アンド・チップスも、ちゃんとした飲食資本が作ると、こんなにも旨くなるものかと。

「あ、フェル、カレーディップがあるよ」

『ア、くださいです!……ウマ~』

 

 カレーと名が付けば、なんでも射程内のフェルさん。でもフィッシュフライにカレーディップソースは確かに旨いかもしれない。


「……で、白木、まあお前のこった。このフィッシュ……じゃなかった、そのベイカー卿の話でこの差し入れで、俺んとことなると、そっち方面の話でも持ってきたか?」

「おう、ご名答ってところだな。というか英国というよりは、欧州全体といったほうがいいか」

『デ、ケラー。そのファーダ……じゃないですね。シャーダ・ベイカーはどのようなご用件でシラキサマとお話なさったのデスか?』


 シャーダとは、イゼイラ語で貴族に対する敬称である。所謂日本語で『卿』に相当する。


「なんっつーんですか? 世界でティ連と関係を持ててるのって……日本はもう連合主権に加盟してますからそこはそれなんですが、現状で言えば米国だけでしょ」


 ウンウンと頷く柏木にフェル。


「で、何時でしたかね、ヤルバーンが地球に来る前、英国はEUから離脱するだのなんだのと揉めてた時期があったんですよ。そんな時、そこに向けてヤルバーンさんがやってきた……あの時、当時の英国首相がEUの離脱で国民投票するだのなんだのともめてたんですが、フェルさん達がやってきた途端、もうそんな話どうでも良くなったってな感じで、なんと言いますか……日本語で『雨降って地固まる』って言うんですけどね、なんだかんだで再度EUとしてまとまることができたようで、実はEUの主要各国さん、結構ヤルバーンさんに感謝してたりするそうなんですよ」


 フェルも地球に来て、当時調査局のボスとしてそのあたりは当然調査していた。なので白木の話も理解できる。要するに、ヤルバーンというそれまでの地球からすれば、それこそパラダイム・シフト的な異常現象が降って湧いたわけであって、ヨーロッパのような大中小様々な国がひしめき合う『連合国家のようなもの』が、この期に及んで揉めるわけにはいかないと、団結できたという幸いな現象が起こったわけで、実のところ欧州各国はヤルバーンに対して意外に好印象なのだという話。


 そこに、中国やロシアが、彼の国の対外戦略で色々と茶々入れてきたりもあって、中国側にひっついてみたりと……言ってみれば色々ツンデレやってたという事なのである。


「はは、で、そんな話もあって、実はロンドンで文化国際博覧会をやることになっていてですね。連合日本の隣国ということで、その出展のお誘いを日本政府からヤルバーン州にかけてくれないかって話で、ベイカー卿から話があったんですわ」


 白木もチップスをモグモグやりながらそんな話をする。


「なるほど、で、この食い物で買収されたということだな白木調査官」

「は、左様で御座います。柏木連合議員閣下」

「なんだよ、あっさり肯定かぁ?」


 と談笑しながら昼のひととき。フェルはカレーディップがとても気に入ったようで、そればっかし付けて食べている。


「でよ、担当大臣と、連合議員様としてどうよ」

「総理はなんて言ってる?」

「総理もおめーら二人の話を聞きてぇとよ。で、俺後で報告に行くから、どうよ」

「ヴェルデオ知事には?」

「まだ話してない。それは後でもいいだろ。向こうがイヤっつーんなら、どっちみちそこで話は終わりだ」

「ふむ……そうだなぁ……俺は別にいいんじゃないかと思うけど、フェルはどう?」

『国際博覧会とは、この間マサトサンがアメリカ国で言ってた「バンパク」なるものの事ですカ?』

「いや、よく似てるけど、そんな大きなものではないよ。どっちかというと見本市だな。万博なんてやってたら、イギリスさんの方が準備に二年はいるよ。はは……って、白木。そんな博覧会って、ヤルバーン州巻き込もうって腹なの見え見えじゃないか」

「いや、そういうわけでもねぇ。こういう見本市規模の文化国際博覧会自体は、各国の景気浮揚な意味も含めて、毎年どこかの都市でやろうって話は国連でも出てたんだよ。でも、各国の経済状況やら、ロシアのアレやら、中国が主導権握りたがって、メンドクサくなったりとか、当の英国がEU離脱するしないので揉めたりとかで、延び延びになってたんだけど、今回色々落ちついてやっとって話でな。そこでヤルバーンさんも誘うのが筋だろって話になったそうだぜ。まあ勿論色々思惑あっての話なんだろうけどな」

「なるほどね、で、フェルはどうよ」

『フ~ム、どうヨと聞かれても、私も今はニホン国の閣僚サンですからね。私からヴェルデオ知事にお聞きすることぐらいはできまスけど、そうしましょうカ?』


 フェルはこういうが、日本国の閣僚サマになったとはいえ、イゼイラではそれでも敬愛なるフリンゼ様だ。なんだかんだでフェルの言は影響力ある。

 ……ということで、早速ヴェルデオに話をしたところ、彼は諸手を挙げて『それは面白い!』と参加を打診してきたのだった。

 地球世界の体外的な外交となると、ヤルバーン州はもっと慎重になるかと思っていたのだが、アッサリOKが出た。その理由は簡単な話で、もう日本は連合加盟国であり連合憲章下の国であるからして、今の日本とティ連の関係を対外的に宣伝するのもいいのではないかという判断からだった。

 従って、ヴェルデオは体裁的にヤルバーン州単独ではなく、日本と合同で出展したい旨をフェルに伝え、更に日本政府から英国政府へ通達された。


 ということで、実のところダメモトで打診してきた英国ではあったが、ヤルバーン州から思わぬ回答が得られたということでベイカー卿は小躍りしたとかしないとか。

 要はヤルバーン州を欧州へ誘い込みたいわけであるからして、日本と合同であろうがなかろうが、要はヤルバーン州とティ連の某を出展してくれさえすれば、万事OKということなのである。


    *    *


 ということで何ヶ月後といったところか。

 普通、見本市やナントカフェスティバルの類は日本の場合、千葉の幕張や東京ビッグサイト。大阪で言えばインテックス大阪など、ままそういった催しもの開催専用の施設で大掛かりにやるところである。

 英国も同じような感じで、普通はバーミンガムといった場所で開催されるのが通例であるが、英国もなんだかんだで小さな島国である。従って米国や中国にあるような、信じられない程大きなだだっ広い施設で行うというわけにはいかないところなのだが、今回はやはりヤルバーン州の方々がいらっしゃるという事で、ロンドン近郊にあるウェンブリー・スタジアムのようなサッカー場なども借りて、世界各国、特に欧州勢が張り切ってブースや催し物を開催していた。

 そこまでやってくれるのであるから、日本&ヤルバーン州のティ連加盟国チームも、相応の礼を尽くしてやってこにゃならんだろという話で、なんと! やっぱりここはという事で、『宇宙空母カグヤ』で英国に乗り付けてやった。

 プロジェクト・エンタープライズで米国へ乗り付けた時の構図と良く似ているが、どっちにしてもこの文化国際博覧会に出しもの持ってくるのなら、このカグヤでやってくるのが一番てっとり早い。

 なぜなら、この船にはもう何も事前準備しなくていいほどの展示物が、わんさと搭載しているからである。


 ……ということで、英国にやってきた『宇宙空母カグヤ』……


 当初、カグヤでお伺いしますと通達された英国政府は、流石にアレでくるとは思わなかったらしく、駐留場所を慌てて検討した結果、此度は英国で開催されるのはされるが、実質はEUが主催となっている催しなので、それらしい場所でお願いしたという話。

 ということで英国政府が用意してくれたのは、テムズ川河口付近の高度一〇〇メートルあたりで浮遊してほしいという事。そこでカグヤごとブースにしてしまおうという作戦だ。

 テムズ川が英仏海峡へ流れ込む場所を、カグヤは間借りするわけである。なかなかにオツなものだ。

 英国に来るまでの航路は、あまり高度を低く飛んで移動してきたら、またいろんな国がややこしい事言いそうな感じもするので、もう成層圏まで高度を上げて、一気に飛んできたという話であった。

 それはもうロンドンっ子の度肝を抜くその雄姿、米国の時と同じである。そりゃ、全長五〇〇メートルの船が空に浮かべば……と、言い尽くされた表現もやはり世界共通。それに今回はロンドンっ子ばかりではない。EU各国のお客様もお招きというところであるからして、フランス・ドイツ・イタリア・スペイン諸々のゲストでテムズ川河口は人で溢れかえる。

 

 勿論カグヤ訪英初日は、英国女王陛下がカグヤにいらっしゃったわけで、このあたりは当たり前であろう。陛下自身が是非ともご自分の目で見てみたいと熱望されておられたという事。柏木の、かの『やりすぎ結婚式』に英国も皇太子夫妻がいらっしゃていたので、その時の話を聞いていたのかもしれない。

 英国軍のヘリで来艦した女王。もう今ではメディアを通じてティ連人の容姿は知れ渡っているので、かの時ほど異星人方々が驚かれる事も無くなった。

 カグヤ側も勿論栄誉礼で対応。基本特危自衛隊は、ティ連防衛総省の所属である事が最優先されるし、ここで日本的な栄誉礼やっても面白くもなんともないじゃないかという事で、日本人自衛官もみんなしてイゼイラ式の栄誉礼で歓待した。日本人が自衛官の制服でイゼイラ式栄誉礼というのもなかなかにオツなものだったり。ここは外交も兼ねた、ままエンターテイメントである。


 女王陛下へは、此度カグヤに同乗してきた二藤部とヴェルデオとフェルさん大臣が対応。柏木連合議員閣下は、少し離れて見学なんぞ。陛下も『手袋脱いで』握手なんぞ。で、白木や柏木はちょっと『狙って』ある人物を二藤部とヴェルデオの補佐に付けた。


「(ははは、やっぱ女王陛下びっくりしてらっしゃるな)」


 と、柏木が白木に耳打ちすると、


「(おめーも連合議員になってまで、考える事がTES時代まんまかよ。ったく、ふはは)」


 白木はちょっと苦笑したり。

 何と、ヴェルデオの側近に、必殺パウルかんちょを付けたのである。

 英国人視点では、笹穂耳の、どう見てもエルフ以外の何物でもないパウルの姿に、陛下は手を胸に当てて驚嘆し、パウルに話しかけられている様子。そしてネィティブ英国人にとってはお初となるフェルさんや、シエ夫人にも近寄られて、色々話しかけられていた。

 特にシエは欧州において、ブルーフランス航空ハイジャック事件を解決させた英雄でもある。容姿はキャプテン・ウィッチなれど、その名は世界中に轟くヒロイン様である。彼女とも相当長く話し込んでいたようだ。

 もう二藤部やヴェルデオそっちのけである。

 で、勿論こやつもお声をかけられたりするわけで……柏木の姿が目に止まる女王陛下。眺めているだけだった柏木の元へやってこられる。思わず身だしなみをクイクイ整え、直立不動の柏木。横の白木も外務省の役人やってもう何年にもなるが、女王陛下を間近にみるのは初めてだった。


「ご結婚おめでとう、柏木殿下。あの時は行けなくてごめんなさいね」


 手を差し出す陛下。


「は、恐縮でございます女王陛下。ですが、できますればその『殿下』というのはいささか自分には過ぎた敬称でございまして……」

「あら、フェルフェリア『陛下』の旦那なら『殿下』ではなくて? 貴方もそういう家へ入ったなら、覚悟と自覚を持たないといけませんよ」


 女王陛下に説教食らう柏木殿下。「ハイ、イヤ、タハハ」と、流石の威厳である。もうタジタジだ。

 横で得意顔満面でその話を聞くフェル夫人。「そうそう。ソウデス。ですよね〜」とか言いながら陛下と首を傾げあっていたり……柏木は、この十分間程の女王陛下の説教で、今日の精神を使い果たしてしまった。

 ドヤ顏状態のフェルさん。いやはやである。


 そんなこんなで、好奇心大放出でカグヤを見学する女王陛下。あれはなんだこれはなんだと尋ねられまくっているようで、旭龍や旭光Ⅱを見たときは「これは輸出していないのか?」と尋ねられたり、ハイクァーン機器を見ると機器を上に下に舐め回すように見て「日本政府は、これを世界に普及させるつもりはないの?」と仰られていたり、高齢にも関わらずその足取りは軽く、精力的に艦内を回っていた。

 陛下はカグヤへ異例の三時間にも及ぶ滞在をした。最後に柏木とフェルから女王陛下へ、なんと! 贈り物として機能特定された白銀色のイゼイラ希少金属で作ったPVMCGを贈った。

 その地球にはない素材で作られた、見た目にも美しいブレスレット状のものをフェルから装着してもらった陛下は、大層喜んでいたようである。要するにもう御高齢の陛下であるからして、バイタルや健康管理。万が一の場合の救命機能に各種生活アシスト機能が『ティ連科学レベルで』色々付加されている。しかも操作無しでの自律発動設定にしている。


 実のところ、女王陛下に限らず高齢者全般に言えることであるが、高齢者は日常生活で最も気をつけなければならない物の一つに、『コケる』という行為があげられる。

 この『コケる』という行為は、高齢者にとっては命取りになりかねない行為なのだ。

 寝たきりや、外出もままならない高齢者がそのようになってしまった原因の一つに『コケた』という理由が、実のところかなりの割合を占める場合が多い。

 このPVMCGは、そういった生活上のアシストをする機能が自律的に発動するようになっているわけで、このあたりはフェルさんの気遣いといったところであろうか。まま、末長くご健康にあらせられるようということだ。

 このPVMCGに関しては、米国にも現在宇宙関連事業で貸与しているVMC関連技術と同程度のレベルなのだそうで、ティ連の技術貸与基準範囲内ということで問題はないそうである。

 ――ちなみに後日、柏木一家には、フェルがお茶コレクターという事を知ったかどうかはわからないが、英国王室紋章のついた最高級ティーセットが贈られてきたという事。柏木一家家宝の一つとして、大事にしまわれていたりする――


 ……で、女王陛下もお帰りになられたところで、一般見学開始。

 テムズ川の川岸に設けられた臨時の転送ステーションには長蛇の列。すさまじい数の人が列をなす。

 もう言い尽くされた言葉だが、そりゃそうもなるわけで、此度のこのイベントは『文化国際』という具合であるからして、ブースを出展しているのは何も日本とヤルバーンだけではないのだが、もう事実上の『国際カグヤ見学会』みたいなもんになってしまっているわけで、他国のブースなどオマケみたいなものであったりする。

 だが、そこは各国も負けておらず、なんせ発達過程文明の探求が命であるティ連人。色々と各国の歴史文化を表に出して、そして流石のメシマズ大国・英国でこういったイベントをやるわけなので、各国も飲食には相当力入れており、なんとか人を呼び込もうという算段。

 今回の文化国際博覧会は、ロンドン市内から郊外にかけてロンドンの街自体を会場にしようというコンセプトで行われている。この方法で行うと、各ロンドン駐在の各国企業や大使館の協力を得やすいので、かえってコストや準備期間がかからず、かつ、既存の施設などを利用することで、大規模で派手な事もできるわけである。更にカグヤにヤルバーン勢がやってくるとなれば、協力を拒む諸団体などないわけで、此度は賑やかにお祭りというところである。

 ちなみに、勿論日本隣国も参加しているわけで、そこはそういったものであるからして、まさか来るなとは言えないところが英国政府もつらいところ。いかんせん前政権の首相が……ま、それに関しては今はもういい……


「はい……はい……あ、そうですか。わかりました。では、そうですね。十七時頃には戻りますので、それまではゆっくり見学させてもらいます……はい、では」


 ポチとスマホを切る柏木大臣。彼もカグヤにばかりいるわけにはいかないので、そこは視察という名目のデートである。

 各国の展示場へ顔を出し、関係者と適当に話をして見学という次第。こんな感じで休憩も兼ねてというところである。

 傍に付き添うは勿論、


「フェル、お昼だし、どこかでメシでも食うか」

「そうですね。丁度私もお腹がすいてきたところです」


 フェルさん日本人モード改であった。ポルが開発した『キグルミシステム』も改良が施され、音声擬態装置が付き、イゼイラ人特有の和音のような声を単音発音種のような声に変換させる機能がついた改良型である。


「で、何食べる? この会場はイタリアさんだけど、ここで食べるならピザにパスタってところかな?」

「姫ちゃん連れてきたら、大喜びでしたね〜」

「はは、そうだな、確かに」


 姫ちゃん、実はピザにパスタが大好物なのである。カレーも好きだが、フェルほどではない。


「ブリテン国サンといえば、以前マサトサンは、日本のカレーの発祥は、インディア国ではなくて、ブリテン国だっていってたですよね」

「そんな話もしたな。で、それがどうかしたの?」

「では、ブリテン国にも、ブリテン国のカレーがあるですか?」

「うん……確かにあるにはあるけど、もう今では廃れてしまってて、たまに街のバーのメニューで、ビーフカレーを軽食で見かける程度だよ。探す方が大変かもしれないね。今じゃ英国でもほとんどが、本家インド・パキスタン系のカレー屋さんばっかりだからね」

「そうですか〜。では、今回はカレーを少しお休みして、先日のオサカナ料理以外で、何かブリテン国サンにお料理はないのですか?」

「英国料理でフィシュ・アンド・チップス以外で有名なのていやぁ、ローストビーフかな。ま、これはちゃんとしたところなら、美味しいけどね、はは」

「ナルホド、ではそれを食べに行きましょう」

「え!? 昼飯からローストビーフはきついだろ、フェル」

「いいのです。これも調査なのです」


 いや、調査ってフェルは今日本の閣僚だろと思うが、事メシの話になると、柏木家ではフェルに主導権があるので、ここは仕方がない。

 ということで、どこかローストビーフのうまい店を探しに行くフェルと柏木であった……


 その後、今文化国際博覧会は単なる博覧会で終わるはずもなく、諸々政府閣僚級の会談も数々行われ、その席にはEU圏の欧州各国のみならず、米国も付く形で数々の会談を行った。

 つまるところ結果的に言えば、LNIF先進国陣営と、連合日本国・ヤルバーン特別自治州との会談という構図になったわけである。

 米国は、欧州先進各国と連合日本・ヤル州の仲介者としての立場であったわけだが、今後のLNIFの連邦化構想を先へ進めるためにも、数々の要求を日・ヤに行ってきた。要するにせめて米国と同じぐらいの技術供与を欧州にもして欲しいという事だ。

 米国にしてもサマルカとの縁があったために、要は『超ラッキー』な形で、ティ連と繋がりをもてたわけであって、サマルカの件がなければ米国も未だ現状の欧州と同じよう状況であっただろう。むしろ、日本と日本以外の地球国家が、完全に隔離状態になってしまっていた可能性もある。そういう点、サマルカとロズウェル事件には感謝したいところだが。

 だが、ヤルバーン・ティ連としては、事この欧州とは何の接点もない。従って可能であれば、ティ連として可能な限り日本への一極集中外交を継続したいところだが、それでも現状地球世界のティ連―ヤルバーンに対する情勢も落ち着きをみせてきたところもあり、文化交流程度であれば、ティ連も一極集中外交方針を緩和してきてはいるのである。そこは地球世界の一員となったヤルバーン州に対するティ連の配慮でもある。

 と、そういうところも含めて、今後も会合を継続していくことで落ち着く形になる。


 そんな今のロンドン。

 此度はちょっと英国人らしいジョークも含んだ演出も要望されたり。

 英国国会議事堂ウエストミンスター宮殿。所謂かの有名な大時計台ビッグベンの横にある大通りに、三本の足を生やした全高約四〇メートルの、サマルカ国製機動兵器『フォーラ・ベルクⅢ型』が、ひょろ長いマニュピレーターを出して突っ立ってたり。

 その足下には、押すな押すなの列ができ、フォーラ・ベルクに案内役のサマルカ人さんと一緒に写真を撮る観衆達。

 まさにこの構図、英国の産んだSFの父、H・G・ウエルズの『宇宙戦争』であったりして。

 人だかりで賑わうフォーラ・ベルクのBGMには、ビッグベンの鐘の音。これなかなかに風流であったり。



 ……さてその後、英国での博覧会を終え、帰途に着くカグヤ……の予定だったが、ここでまたEU諸国内で『英国ばかりでなく、我が国にも寄ってくれ』という要望が殺到し、宇宙空母カグヤはフランス・ドイツ・オーストリア・イタリアと飛んで、地中海を行き、スペイン・ポルトガルと進んで上昇、大気圏外を進み、日本国・双葉基地へ帰還した……ちなみにその間、地中海で中東から逃れてきた難民達の乗ったボートが洋上で故障し、漂流していたところを特危自衛隊が救助したりと、そんな出来事もあった……


 なんだかんだで大きなイベントとなった博覧会へのカグヤ出張。

 欧州はこれで今回初めて、ティエルクマスカ連合ーイゼイラ・ヤルバーン州とのリアルな接触と外交的接触を行える事となった。

 なんだかんだで米国は第一回ヴェルデオ会談で。中国やロシアは、アジア信用共同主権会議で接触は持っていただけに、欧州は此度一番最後の接触となる国家群であったわけである。

 だが、この最後がかえってよかったのかもしれない。なぜなら日本が銀河連合に加盟し、ヤルバーン州が軌道タワーになって、ヤルバーン州と日本が完全な関係になって、落ち着いた状況での外交接触であったからである。即ち、元々欧州と日本の関係は良好であるからして、銀河連合の日本になったところで特段モメごとがあるわけでもなかったので、やれやれだったということである。

 そのやれやれな状況、そして此度の博覧会を通して。本格的に欧州がティ連・イゼイラーヤルバーン州を生で体験したこの出来事。


 これが、欧州世界にとっての、大きな大きなパラダイムシフト……


    *    *


===== メルフェリア・ヤーマ・カセリアの場合 =====


 フェルの人生で大きな節目となった出来事は、これまで二つあった。

 まずは出産。柏木とフェルが父母になり、家族というものになったあの日。

 そして次にやってきたフェル自身の大きなパラダイムシフトとなった、『ドゥランテ共和国訪問団遭難事件』改め、『ドゥランテ 共和国訪問団遭難救出事件』と呼ばれるようになった、フェルと実の父母との再会。

 この事件はフェルのこれまでの人生で大きい大きい事件だった……なんせ物心つかぬ幼き日に死んだと思い、天涯孤独、とまでは言わないものの、少なくとも実の家族と呼べるものが誰一人いないフェルの人生において、実は肉親が生きていましたとなってしまった事件であり、更にまさかを通り越した『実の妹ができてました』という事件。

 そこには件のヂラールの何某などの大きな事件や、おとっさんが別の主権の国王でしたとか、そんな事件も重なったが、フェルにとっては両親が生きていて、妹がいたというこの事実の方が重大であり、あとのヂラールやらなんやらなんざオマケみたいなもんで……と、そんな出来事だったあの事件。


 あれから相応の月日が経って、かの事件の舞台となった別宇宙の異文明惑星。あれから正式に『惑星サルカス』という名称で登録されたようで、その中のフェルの父、ガイデルが国王……という名目の、事実上の大統領的役職を務める『ハイラ王国連合』も現在ティ連では『惑星サルカス内・加盟観察国ハイラ王国連合』という呼称で呼ばれるようになっていた。

 この『加盟観察国』という呼称は、今回のようにティ連人からみて、遥かに遅れた文化文明を、将来ティ連の加盟国にするための相応な準備期間を要する国家に使用される呼称である。

 惑星サルカス世界は、地球でいうところの一五世紀から一七世紀レベルの文明である世界だ。自らの種族世界が『惑星』という存在に住んでいるというのも、概念レベルで最近やっとわかってきたというレベルの文明であった。

 そんな世界に存在する国家なので、事務手続き上は加盟国として扱われるが、ティ連が必要とする正式加盟国の要件を満たすまでは、監督観察国。この場合はイゼイラが該当するのだが、その国の特別自治体として書類上登記され、イゼイラが文化文明の昇華措置を責任持って行い、将来正式加盟国としてティ連に参画できるよう努めなければならない国として扱われるのである。

 勿論、ティ連-イゼイラは、そういった文明と接触を行って、長い期間をかけてスッタモンダとやるのだが、対象国が加盟観察国である状況を断る事もできる。そうなれば基本ティ連との縁は切れ、彼ら自身がティ連世界を探求できるような科学文明になるまで放置状態という事になるわけである。


 ということで今回は、ガイデル達遭難者がそのスッタモンダを既にやってしまっている状態になっているので、ティ連世界の数少ない加盟観察国処理数例のパターンと比較しても、ものすごく短い期間で処理を終了できた稀有な例として記録された国家が、このハイラ王国である。


 そんなハイラ王国連合もそういう経緯があって、現在ではその一七世紀レベルの文化にも、ティ連の教育研修効果が表れ始めて、今後数周期後には加盟観察国処理が終了しそうな感じであった。

 実際、ハイラ人はガイデル達との接触で、ある種の産業革命のような現象が起こっていた。つまりガイデル達が持ち込んだ形になった医療用ハイクァーン機器を利用した、生体動力機器革命のようなものが始まりかけていたわけである。その最中での『ふそう』との接触であったという次第。


 ……とそういうわけで、その加盟観察国の終了処理を行うために、ハイラ王国連合を束ねる中央国家『ハイラ王国』の国王陛下、フェルパパさんでもあるガイデル国王陛下は、もう何十周期ぶりに、生還という形で、かつ、外国の国賓としてイゼイラ星間共和国に帰還……いや、今回は表敬訪問することになっていた。

 無論ガイデル一人ではない。妻のサルファに、皇太子ではなく、副国王という役職で、サスア。そして恐らく将来選挙で間違いなく国王になるであろうこのサスアの王妃になるかもしれない必殺の……


「ひょえーーーーー! スゴイスゴイ! これがうちゅう? うちゅう?」「うわぁぁぁぁ! フソウよりもいっぱいいろんな施設があるね!」と初めて宇宙旅客船に乗った際の件の人物。

「なんだこりゃぁあぁあぁぁぁ!」「うえ、目がチカチカするぅぅぅ」とゲートくぐった時の件の人物。

「どしぇぇぇぇえええ! あれがイゼイラ? イゼイラ? すごい星だなぁ!!」と自分の星と見比べて、遥かに科学昇華されたイゼイラを見てドギモ抜く件の人物。


 その名はご存知、『妹爆弾メルちゃん』こと、『メルフェリア・ヤーマ・カセリア王女』であった!


 って、本当ならこれぐらいの心情であるのは、サスア副国王陛下の方なのだが、流石元ハイラ皇太子殿下であらせられるだけあって、内心はメル並み以上の心情といったところなのだが、そこは副国王の威厳である。済ました顔をしたものだ。というか、自分より経齢差でいえば、若いメルを見てむしろ微笑ましい笑みを漏らしている。


「メル、私はよくわからない、というか、内心は恥ずかしながらお前以上といったところだが、この星が国王陛下の故郷。我々が天上界と呼ぶ場所と思うと、納得もするぞ」

「うん、そうだねサスア……私も体はイゼイラ人だけど、心はハイラ人だからよくわかるよ」


 そういうと、メルとサスアの肩を組んで、真ん中に割って入る人物、ガイデル。


「サスアも、天上界などと、そんな大層に考えなくてもいい。ハイラよりも、ちょっとばかり文明が進んだというだけの国だ。我々はお前達や、確かケラー・マサトの言っていた『カミの御使い』などという概念とは違う者だよ……我々イゼイラ人も、大昔はハイラ人よりも遅れていた種族だ」


 その言葉を聞いて、「えっ!?」となるサスア


「またお戯れを陛下」

「いや、これから色々お前も学んでいくと思うが、それこそお前達の言う『カミ』という存在が我々を見ていてくれたのかなと思う奇跡がイゼイラにもあってな。そう、ハイラの民が我々と接触したのとよく似た事が起こっての、今があるのがイゼイラだ……っと、いまここでそんな話をしても、こんがらがるだけだな。ま、それはおいおい国の学者や賢者達に、学ばせればいい。それに私自身も今のイゼイラは別世界だろう」


 頷くサスアにメル。確かにいまここでそんな話を考え込んでも意味がない。

 ガイデルの言も、もっともだ。彼の知るイゼイラは、おそらく本国ではもう現代史の一ページになっているのだろう。彼自身も学ばなければならないところは多い。



 ……というわけで、イゼイラに到着したガイデル一行。

 それはもうイゼイラ国民から大歓待を受ける。おかえりなさいどころではない。言っていれば『死んだ』と思っていた国家の権威が生きていて、更には他文明の国王にまでなっていたのだ。これはもうイゼイラ人にとっては奇跡とかそんな範疇で語れるものではない。

 かの柏木がイゼイラを訪問した際も、伝説の国ヤルマルティアからの使者ということで、そりゃ物凄い歓待を受けたが、それ以上だ。

 その異常な国民の熱狂ぶりにサスアも流石に引きそうになるが、ガイデル達の境遇を考えればそうもなるかと納得もする。


「エルバイラ! エルバイラ! よくぞ、よくぞ!……」


 大きく腕を広げて早足で近づくは、サイヴァル議長。サイヴァルもガイデルとは議会時代の盟友である。彼の生還が嬉しくないわけがない。涙ながらにガッシリと手を取り、肩を叩き会う。


「サイヴァル。君も相当に老けたな」

「貴方がそれを言いますか……エルバルレもお元気で……」

「はい。お久しぶりといえばいいのでしょうか? サイヴァル」


 言葉にならないサイヴァル。もう一人の盟友マリヘイルも明日イゼイラ入りするという。もう会うのが待ちきれないと先ほど連絡してきたと言い、笑う彼。

 そして次に視線を向ける方向は……


「エルバイラ、この立派な若者を紹介して頂きたいのですが」

「ああ、もちろんだ……このデルンは、ハイラ王国の副国王、サスア・ストアラだ。本来なら、彼が国王となるところだが、我々と共に、例のヂラール事件で志を一つにできた関係でな」

「その件は報告書で読ませてもらいました……サスア副国王陛下。私がこの国の評議会議長であります……」


 と、恙無く両者挨拶なんぞ。

 現在のハイラ王国は、イゼイラ型共和制へ移管する丁度過渡期である。なので『国王』という呼称も、実際のところは『大統領』という立場に近い。従って皇太子という呼称も、サスアはガイデルの実子ではないので当てはまらないため、副国王という地位を新設し、国王が信任するという形をとっている。


 そして……


「こちらの快活そうでお美しいフリシアが、噂の?」


 とニヨニヨしながら視線を向けるは


「ああ。さ、メル。ご挨拶を」

「はい。私はハイラ王国第一近衛騎士団団長の、メルフェリア・ヤーマ・カセリアと申しまする」


 膝を折り、ハイラ式敬礼で頭を垂れるメル。

 軽装の正装武具を身にまとい、剣を腰に差したイゼイラ人視点で見れば、相当に時代がかった格好のメル。

 その姿に好印象のサイヴァル、頷いて微笑む。彼も自己紹介。

 これが柏木なら、さりげなく握手でというところだが、メルちゃんは、「はは〜っ」と右腕を後ろに左腕を前の胸元に、そして跪く礼の尽くし様

 あぁあぁそこまでと、サイヴァルも焦っていたり、だが、それを見るイゼイラ国民からもメルは相当好印象となったに違いない。


 その後、ガイデルはサイヴァル主催の『生還祝賀兼、サスア達ハイラ人歓迎晩餐会』みたいなものに出席。その場所で再会するは、


「おおおお……エルバイラ、エルバルレ。ご無事で……このサンサ、人生でこれ以上の嬉しきこと、ありませぬ」


 とサンサと再会。おいおい泣き噦るサンサ。

 今日は大使館も閉館して、侍従次女軍団もお呼ばれに預かる。無論、ヤーマ城からもわんさと押し掛けた。あまりにみんなオイオイ泣くのでお通夜かと。


「ファルン、マルマ、このオバチャ……じゃなかった。このお方は誰?」

「ああ、彼女は、サンサ・レノ・トゥマカといってね。私の城の侍従長だよ。あ、違ったな、今はフェルの城か。ははは」

「何を仰いますかエルバイラ。あのお城は、ヤーマ家のお城です。なのでエルバイラやエルバルレのお城であるのは変わりませぬ」


 と話すと、メルに視線を向けて、


「フリシアメルフェリア様。 貴方も、あそこに見えるお城の一員ですよ」


 と優しい顔を彼女に向ける。更に……


「サスア副国王陛下。エルバイラら遭難者の皆様を、よくぞ保護していただきました。このサンサ、心から感謝致します」

「いや、なんの。我々も貴殿らイゼイラの使者からは、国民みなしてお世話になりました。いや、お世話などという言葉では収まりません。そして……」


 サスアは視線をまた別の方へ向ける。サンサも事情は報告書を読んで理解もしている。なぜなら、彼女のもう一人の主人は……


「そうで御座いますわね。サスア陛下……ファーダタキモト。貴方もこちらへ」


 久方ぶりにこういう席に出席し、滅多に着たことないワンピースのスーツでキメてるのは、現在の在イゼイラ日本第二大使館大使の、滝本綾子であった。


「あの『フソウ』が来なければ、我が国、我が世界はどうなっていたことか……貴国には感謝してもしきれない大恩があります」

『サスア陛下。お言葉勿体無く思います。ですが、そのお言葉は、私にお話なさるよりは、数日後に向かう、日本の柏木連合議員閣下と、フェルフェリア大臣閣下に直接お言葉をおかけになられた方がよろしいのではないかと、ウフフ』

「ははは! 確かに。確かにそうですね……此度の外遊、それも楽しみの一つでした」


 そう、ガイデル達は数日ほどイゼイラに滞在後、なんと! 五〇〇〇万光年飛び越えて、日本にも外遊する予定なのだそうな。

 まま目的は……ガイデルとサルファ様は、孫の姫ちゃんに会いに行くためでありーの、メルさんは、お姉ちゃんとおっちゃんに会うのが楽しみで、日本の鎧兜買って帰るのが目的だったり、サスアも柏木や白木、特に大見ら戦友に会うのが楽しみだったりと、そんな目的を持って、来日するのである。これは日本としても実のところ、日本では有名なフェルさんのパパがやってくるというのもありーの、まさかの『別宇宙』からの来訪者が来たりするので、メチャクチャ盛り上がってたりするのである。


 ということで、盛り上がってる件の連中の反応はというと……


50名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

衝撃の事実。フェルパパさんとフェルママさんが生きていたとな。

で、妹ビーム(゜∀゜)キターーーー


51名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

親御さんが事故で死んで、親の愛を知らない子という、フェルさんの琴線に触れる設定が……

おまけに妹までとは……俺の中のフェルサン設定書き換えられまくり。


52名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

でも生きていたという状況がこれまたえげつないというかなんというか……

その状況で妹出来るって、パパさんとママさんも、なかなかおやりになる。


53名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

そりゃ、子孫残そうと思うぞ普通。

で、妹さんの方のビジュアル出たの?


54名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

いやまだだよ。ヤルバンのHPにも、記述があるだけ。それに『イゼイラ人』じゃなくて、『イゼイラ系ハイラ人』ってなってた。


55名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

そりゃそうだろうな。イゼイラの事なんて全然知らないんだろうし。って、なんか大事な事に驚き忘れているような気がする俺。


56名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

そそ、そのハイラとかいう国。五〇〇〇万光年彼方どころじゃないぞ。別宇宙って……あの政府発表にはワロタ。あの博士も面目躍如だな。


57名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

今までの宇宙観が、音をならして崩壊していく。


58名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

多分近いうちに、なんか近所の恒星系あたりから攻めてくると予想。


59名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

まあ、とりあえずは妹ちゃんのお姿を楽しみにしている俺。


59名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

薄い本の入稿を先延ばしにしている俺。


60名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>59

どういう理由で先延ばしにしてるんだよww


61名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

え? そりゃオマエ、キャプテンとフェルサンと、その妹サンと、ザムたんと……


名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>61

いや、最後のは何だよ!



 ……あいも変わらず目出度い連中で何よりである。


    *    *


 イゼイラ滞在最後の夜。

 メルフェリアことメルは、ずっと母サルファから聞かされていたイゼイラ史の中において、今回のイゼイラ訪問でどうしても確かめたいことがあって父母に無理を言い、サスアも同行するという条件で、ある場所にやってきていた。

 そこは旧大地と新大地との狭間の世界。かのイゼイラに住む巨大な魑魅魍魎ともいえる生物達が暮らす世界である。

 その暗黒の世界は自然あふれる豊かな大地であれど、力なきものは即、死の洗礼が待つ、弱肉強食の世界だ。現在のイゼイラ人でも、今の科学力がなければ素の状態で立ち入ることは危険な場所でもある。

 

 イゼイラ系ハイラ人のメルとはいえ、やはりその種の故郷は、この星である。ガイデルとサルファも、サスアも一緒で、イゼイラ国防軍の護衛付きということなら大丈夫だろうと、彼女に何かを学ばせるためにこの場所へ行く事を許した。

 

「私も付き添わなくていいのか? メル」

「大丈夫だよサスア。マルマから聞いたあの話、本当かどうか確かめに行くだけだからさ」

「確かめに行くだけか、フフ、それだけのためなら、パイラや機械甲冑などいらんだろう」

「へへ~。でも無茶はしないから」


 そういうとデロニカの後部ハッチが開き、今ではハイラ王国連合軍の標準機動兵器兵装となった、かの『18式自動甲騎』を身にまとい、彼女の愛馬、パイラ号にまたがる。

 メルは愛馬であり、家族の一員でもあるパイラ号も連れてきていた。


「んじゃ、行ってくるね」


 そういうと、国防軍のスタッフが、


「フリシア、万が一のことがありましたら、即転送回収いたしますよ」

「うん、お願いしまする」


 と頷き、低空待機していたデロニカのハッチから飛び出していく。

 自動甲騎のVMC機能で足場を造り、低空から地上へ天馬の如く駆け下りていくパイラ号とメル。

 機動状態の機関部から放たれる光が淡く筋を引き、漆黒の旧大地へ吸い込まれていく……


 一体彼女はナニをしようとしているのか、というと、かのイゼイラ人を恐怖のどん底に叩き落し、遥か太古に絶滅寸前まで追いやるほどの猛威を振るい、しかもトーラル文明の恩恵を受けたその後でも、畏怖の象徴であった、あの凶暴な巨大生物『ツァーレ』をその眼で見てみたいと、この場所にやってきたのだった。

 イゼイラ人なら正気の沙汰とは思えないこの行動。

 だが、メルはあの恐怖の生体兵器『ヂラール』と死闘の歴史を演じてきた戦士である。当然天穴の使徒とまで言われるイゼイラ人が恐怖するほどの存在がどんな奴かその眼で見てみたいと思うのは、彼女の戦士としての性といったところなのだろう。なんせ、ヂラール三〇メートル級の背中から這い上がって戦うと言い出したり、ヂラール牢獣型の口に自分から飛び込んで腹を割くような度胸の持ち主である……言い換えれば、知らないから出来る行為とも言えるのではあるが。

 だが流石に生身の状態では対峙できないのは彼女もわかってるので、ここは大のお気に入り装備である、18式のお世話になるといったところである。



 予め生息状況を探知し、それを目印に飛び込んだわけであるから、しばし後にその生物、『ツァーレ』はすぐに見つかった。

 この生物はなんせ凶暴である。自分以外は食い物としか認知できないのではないかと思うほど、悪食でどんな動物でも食らう。

 ただ、やはり元来はこの世界の食物連鎖頂点に立つ動物である。必要以上の殺戮はしないが、自分の身を守る際の攻撃性も相当なものなのだ。


「グルルルルルル……」


 ……牙から涎を垂らし、その冷たい目でメルを見下ろすツァーレ。

 この状況、ネイティブなイゼイラ人ならガクブル状態間違い無しなのだが、メルも負けじとそのツァーレを睨み返す。


「ゴォアアアアアアアア!」


 と威嚇する咆哮を轟かせる其れ。このツァーレも、この小さな生物が逃げもせず威嚇し返してくる状況に警戒感をもっているのだろう。

 メルは背中に装備した、愛用のVMC超ロングソードの刃先をズァっと生成させ、両の手で構える。


「とぉあっ!」


 刹那、なんとメルの方から飛び道具もなしにツァーレめがけて飛び出し斬りかかった!

 

「ガァアアアアアア!」


 その小生意気な行動に、ツァーレも呼応し突貫してくる。

 この動物は意外に俊敏で有名だ。なんせ旭龍のモデルになるような動物である。しかも意外に頭もいい。

 四肢も比較的バランス整った長さで、所謂格闘戦はお手のものだ。その腕でメルを掴みにかかるが!


「遅いよっ!」


 そんな動き、メルから見ればスローモーションの範疇である。気心知れた愛馬のパイラ号も彼女の意図を汲んでいるのか、彼女が思った方向に操馬せずとも躱してくれる。

 だが、ツァーレも負けてはいない。躱した方向に反応し、今度は太く長い尾っぽでなぎ払いに来る。

 メルは傍にあった大木を盾に、テイルアタックを防ぐと、臀部のアタッチメントを解除し、パイラから飛び降り、ツァーレの尾に乗った! 

 パイラ号はメルからツァーレの気を逸らせようと、わざとツァーレの前に躍り出て、脚に猛烈な後ろ足キックをお見舞いする。

 小さい馬のキックとはいえ、ホースローダーのパワーが乗ったキックだ。そりゃ痛いに決まっている。

 ツァーレはガァァと口を開けパイラを追い払おうとする。

 だが、パイラの牽制は功を奏しており、メルがツァーレの角にフックを掛けて、背中に飛び移り、更には頭部へ這い上がろうとしていた。そして!!


「うぉりゃぁぁぁぁ!」


 メルはその大剣を水平に振りかざす。するとツァーレの角が真っ二つに斬れ飛ぶ。

 ツァーレはその縦割れ瞳を頭部に向けると、勢い良く頭を振り、メルを振り払おうとするわけで、当然その勢いにメルは吹き飛ばされる。


「うわぁぁぁ! くそっ!」


 するとそれを見越したかのように、パイラがメルを待ち受けて、その背中で受け止める。

 メルもパイラの首にしがみつくとすぐさま体制を整えて、臀部を鞍に固定させる。

 そして再度、互いに睨み合う状況……


「グルルルル……」


 じっとメルを睨みつけるツァーレ……

 すると、そいつは何かを学んだかのように敵意を消し、メルに背を向けて森の中へ消えていってしまった。逃げた……というのとは少し違うような雰囲気。


 メルも、奴を睨みつけていた表情を崩し、「ふぅ」と吐息をつくと、パイラを撫でてその健闘を称える。

 で、丁度「試合終了?」ではないが、その時を見計らったようにデロニカが迎えにやってきた。

 デロニカの地上を照らすライトに映るはメルの姿。

 彼女は馬鹿でかい剣の造成を解き、なんとなく清々しい顔でデロニカへ手を振る……


 …………


「見事な戦いぶりだったな、メル」


 そう褒め称えるサスア。なんせサスアはメルの剣術における師匠でもある人物だ。

 無論、今の戦いは、彼らもデロニカを上空待機させて見物していた。


「うん。なるほどマルマの言ってたこと、なんとなくわかったような気がするよ」

「そうか。で、あの動物については?」

「まあ……私たちはヂラールと戦ってたからね。あの巨大な鎌持ったやつとかに比べたら、なんてことなかったけどさ。でも……ヂラール連中と違って、あのツァーレ……考えて戦ってたね。頭いいよ、多分」


 そう、だからこそ古代イゼイラ人は、この巨大生物にトーラルの力無しでは対抗できなかったのだろうということを悟った。そりゃこんな奴相手に、弓や剣だけではマトモに太刀打ちできるわけがないと。

 逆に言えば、だからこそイゼイラ人が、その歴史において戦争もせず、同胞を大切にし、自分達を迎え入れてくれたハイラ人の恩義に報いようとするか。

 その種属性をなんとなくメルは感じ取ることが出来たのだった……

 だが、その戦いぶりを見ていた当のイゼイラ人スタッフは、もうやんやの騒ぎで、


「あんな戦い方を見たことがない!」

「青年サイラの再来だ!」


 とか、大騒ぎになっていた……ま、ある意味ハイラ版突撃バカのメルちゃんだからこそのワザであるからして、確かに普通のイゼイラ人は、こんな無茶なことはしない。最新の兵装を持っていてもやらない。

 まま、武人であることが誇りのメルだからこそできるわけであるからして……


    *    *


 ということで、イゼイラでの短い滞在期間も終わる。

 昨日の『メルVSツァーレ』の映像は、即座に広域情報バンクに流されて、その凄まじい対決の様子はもうイゼイラ中の話題になる。

 確かにロボットスーツ着込んでいたとはいえ、それでもあの状態で、ブラスター兵器も無しで、ただの長剣だけで立ち向かうアサルト・メルさんは即座に大人気となった。


 そんなやんやの中、宇宙港で見送るは、サイヴァルに、遅れてイゼイラに来訪した、ガイデルの盟友の一人、マリヘイル。で、ニルファ夫人にサンサと侍従侍女軍団。

 で、ガイデル達の次の外遊訪問地である……


『では、日本国内閣総理大臣、二藤部からも、「首を長くしてお待ちしておりますとお伝えください」と、伝言を預かっております』

「ありがとうございます、滝本大使。私もまさか生きている間に伝説の国へ訪問できるなどとは思わなかった。この上ない名誉なことです。フリンゼ・ナヨクァラグヤが愛した国、そして今は……はは、ナヨ閣下ですかな? 彼女がその遺志になっても、想いを同じくする世界……楽しみでなりません」


 そう話すと、滝本と固く握手し、アマノガワ銀河方面への就航便、今回は政府チャーターの特別就航便である件の『ハルマ号』に乗り込むガイデル達一行。

 ガイデル夫妻は、先の通り、伝説の世界『ヤルマルティア』に行くことを楽しみにし、メルちゃんは、フェルとナヨお姉ちゃん二人とおっちゃんに大見師匠やシエ師匠、シャルリ師匠に会えることを楽しみに。サスアは、所謂まだ自分たちに近い……とはいっても相当進んではいる同じ発展史上にある日本という世界を見ることに思いを馳せる。



 でも、なんだかんだ言って、今の日本人が楽しみにしているのは……


 

 さて、メルか日本か、はたまた柏木夫妻がパラダイムシフトになるのだろうか?



 フェルさんの妹爆弾、メルちゃんが日本にやってくる。







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