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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
105/119

銀河連合日本外伝 Age after ― パラダイムシフト ―  第一話

===== 柏木夫妻の場合 =====


 二〇一云年。日本が銀河連合に加盟した、あの時。

 創造主が空にしろしめし、世はなべて事もなく、日本とヤルバーン州が今後の地球世界において互いに手を取り合い未来へ向かうことを誓い合った、あの時。

 確かフェル達『ホエホエ国家社会主義ヤルバーン労働党軍団』と、地球人勢『スチャラカSNS米兵軍団に海兵隊と愉快な仲間達』みたいなのが、OGHゼルシミュレータ施設で、稼働試験という名目の打ち上げサバゲーやってたあの時からの話。


 多川とシエが、ダストールのご家族にその関係を報告に行って、これまた向こうで一悶着やらかして、なんかまた伝説一つ作って帰国したりとそんな出来事を作ったあの時があり……

 米国がサマルカさんと関係を持てて、そのフロンティアスピリットに火がついた米国政府が、最後の開拓地を求めんがとばかりに打ち出した『Project Enterprise』計画になんだかんだと巻き込まれてお手伝いし、公安で働くセマル君がアメリカンヒーローになって帰国してしまった、かの出来事があったり……と、恙無く異星人自治体と日本国が、今後の新しき世界に夢と希望をお互いに紡ぎながら時を刻んでいた、そんな日々。


 柏木真人自身にも、フェルというそれまでの日本人なら想像だにしない存在と、同じ価値観で人生を共に生きることを選択し、当然その選択を決意したことで因果が想像だにしない方向へ進み始め、相応に彼の環境を激変させる事由が、運命の免疫を持たない彼の生きる可能性にわんさと降りかかってきて、そしてやって来るのが地球世界初の、大きな大きなパラダイムシフト…………


    *    *


「柏木真人君……」


 そんなあの時のとある日。いつもの聞き慣れた衆議院議長の呼び出しに軽く手を上げて応じ、壇に向かう柏木大臣。

 衆議院議員ティエルクマスカ統括担当大臣の柏木真人は、予算委員会に出席していた。

 それまで彼の『ティエルクマスカ統括担当大臣』という日本国憲政史上でも珍しい特命大臣の特権のおかげで、こういった委員会や国会への出席が特別に免除されてきたのだったが、当時の所謂民間起用閣僚と違って、今は立派な国選議員で大臣である。


「……えー、先生の仰られた所謂ハイクァーン造成機……この『ハイクァーン』という言葉は、『万物の根源』というイゼイラ共和国の哲学用語が元々の語源なのだそうですが、まあこの、今ではもう有名なこの機器をですね、現在行われている生活保護の補助制度と、失業保険の同じく補助制度とは別に、試験的にですが、先般震災で大きな被害をうけました熊本県、及び大分県を特区に指定いたしまして、ハイクァーン使用権を利用したベーシックインカム制とでも申しましょうか、そういった形の生活就労支援制度を約一年間を目処に実施する予定でございまして、まあこれが良い結果を出すことがで、き、れ、ば、ですね、今後段階的に各都道府県の就業率等々を鑑みながら、全国で実施しようと、そういう計画でヤルバーン州のハイクァーン管理局と連携して現在対応を急いでいるところでございます」


 ここでも流石柏木大臣。普通なら役人の用意した原稿をペラとめくりながら質疑応答に応じるところなのだろうが、彼は原稿も見ずにそのあたりをスッと言ってのける。勿論その回答は役人の皆さんとの打ち合わせ済の内容だ。


「……君」

「えっとですね、その概要は理解いたしましたし、確かに現在の熊本県や大分県一帯の被災状況から考えるに、その対応は確かに妥当ではありますけど〜、まぁそれよりもヤルバーンが来てからもうかなりの日数が経つのに今やっと今回の被災地からのハイクァーン全体活用というのもですねぇ、正直ちょっとこれ遅すぎるんじゃないかと思うんですよ。わが党が独自に行わせていただきました調査でも。約五六パーセントの……」


 日本共産連盟の、樹脂でできたみたいな横分けヘアースタイルかました典型的にソレっぽい議員が、国会中継カメラに映るようフリップ掲げてわかったかわかんないのか、そんな説明を得意げに張り切って説明していたり。


 すると……それを聞く閣僚席の柏木大臣の元に、お役人が腰かがめながら彼の耳元でゴニョゴニョと耳打ちして、何か焦るようにどこかを指差して彼に話す。

 それを横で聞く三島に二藤部も何か深刻な表情で、でも時折笑ってたり、そんな表情で柏木に何か促すようにジェスチャーしてたり。


 で……今予算質疑。よくよく見渡すと、何か一つ物寂しくなんか足りないような気がしないでもない。

 ……そう、フェルさん副大臣が出席していないのだ。

 もう今や『国会』といえばフェルさん。フェルさんのいない国会中継や予算会議中継なんぞ放送しなくてよいとまで……ま、そこは冗談だが、そんな事言われてる中継であって、フェルが出てくる質疑は視聴率も鰻登りという事もあって、今や国会の華であった彼女なのだが、柏木大臣がいるのに嫁サン副大臣がいないとはこれ如何にということで、視聴者もナニかもう一つつまんなかったり。でも実は視聴者国民市民のみなさんは、今日何故にフェルさんがいないか、実はみんな知っているわけであるからして、今の柏木への耳打ちで世の視聴率がボンとこれあがっているのではという今現在この瞬間。


 で、その共産連盟の議員が訝しがるような顔をしながら質問を終えると、鈴木が議長の元に駆け寄り、何やら意見具申中。議長も訝しがる顔から、顔がニヤけてきて「そりゃ大変だ」というような顔になる。

 共産連盟や民生党の議員も議長の元にやってきて、何やら討議中。NHKのアナウンサーも……


「只今、日本共産連盟が質問を終えたところですが、自由保守党側から議長に対して意見が出され、現在議事が中断しております」


 と解説されたり。

 すると、共産連盟のその議員や、民生党に他野党議員もなにかに納得したように柏木の方を向き、手を振って「はよ行け」みたいな合図を笑って送っている。鈴木も同じく。

 二藤部に三島も柏木のせなに足をパンと叩いて「行け行け」みたいな合図。

 すると議長マイクのスイッチが入り……


「えー、只今、政府側から動議が出されまして、大変めでたい事に本日委員会を欠席しております、ティエルクマスカ統括担当副大臣、柏木迦具夜君がぁ……そろそろご出産なさるということで、イゼイラ人の文化的に大変大切な慣習でぇ、まぁなんといいますか、夫の柏木君がついていることが大変望ましいということでございまして、本委員会といたしましても政府動議と同じくここは、連合日本国として加盟国の文化慣習を尊重することは有意義であると考え、柏木君の本会議退席許可を提案したいと考えます。ということでございまして、全議員の拍手を持って、決議したいと思いますが、本動議に賛成の方は拍手をお願い致します」

 

 するとみんな予め承知の助という感じで議場に拍手が巻き起こる。

 議場からは「がんばれよっ!」「がんばってー!」「はよいけ!」とかヤジが飛んでたり。

 柏木は頭をかきかき役人に案内されて小走りに議場を退席していった。


    *    *


「あー、もうおっせーな! 何やってんだよう」


 パリっとしたスーツの袖をまくり、腕時計を見で焦るは、安保委員会メンバーでもあり警視庁公安外事一課の山本だった。


『今、議場をデたみたいですよ、もうすぐですね』


 覆面パトカーのテレビを見ながら窓から顔出して話すはセマル日本人モードであった。

 彼らは三島が手を回して柏木の足となるため、議事堂に覆面パトカー止めて彼を待ち構えていた。

 流石に長谷部や下村まで連れて総出でやってくるのはチトまずいので、山本とセマルがその役を引き受けた……というか、山本はほとんど興味本位だったわけであったり。

 ほんのしばし待つと、柏木が役人に連れられて走ってきた。


「あ、きたきた! おーい柏木さん! こっちこっち!」

「山本さん!? 待機しているスタッフって貴方だったんですか!」

「三島先生に頼まれてね。って、んなことどーでもいいや。もう嫁さん陣痛? っていうのかどうかしらないですが、生まれるって苦しんで、救急車で運ばれたそうですよ!」

「え゛? 急にですか!? フェルは今日ぐらい予兆があったらわかるからって入院準備してた状態なのに……」


 すると、そこは当の種族さん、セマル君が、


『その予兆が来なくて、突然降りてくるフリュさんもいるんですヨ。若くしてミィアールした方に多いようですが……私のマルマも私を生む時、そうだったそうですから』


 そんな話をしながら覆面パトカーに飛び乗る柏木に山本、セマル。

 

「おし、行け、セマル」

『了解でス』


 山本がパトランプ屋根において、サイレン鳴らし、セマルがキキとタイヤを鳴らしながらハンドルを華麗に切る……セマルの自動車運転技術も、もう堂に入ったものである。


「え? 山本さん、そんなパトランプを国会議員の私用で使ったら怒られるんじゃ……」

「何が私用だよ柏木さん。地球発の一大事でしょ、公用公用、かまやしませんよ公安外事の活動なんて表にでないんだから……『はいそこ、左に寄ってね、緊急車両が通ります』……セマル、飛ばし過ぎないように、飛ばせよ!」 緊急走行といっても時速80キロの制限は、あるわけだし、事故を起こしてしまっては元も子もないわけだし、そんな感じ。

『了解でアリます、ケラー!』


 取っ手にしがみつく柏木。ものすごい速度で飛ばすセマル。なんかちょっとニヤけてたり。実はこの状況を楽しんでるのではないかと。


 ……ということで、サイレン鳴らしてぶっとばし、アっちゅう間に某都立病院へ到着。


「ほら、早く行った行った!」

『がんばってくださイ、ケラー!』

「どうもすみません、お二人とも」

「礼なんかいいから、ホラホラ!」


 車から飛び降りてロビーへ走る柏木。自動ドアが開き始める隙間に体をねじ込むように病院へ入っていく。すると、真男と絹代に恵美がソワソワして柏木を待っていた。


「ああ、母さん、親父! 恵美もきてくれてたのか」

「おお、真人」

「兄ちゃん遅いよ!」

「スマン、で、フェルは母さん」

「今分娩室だよ真人」

「そうか……でも……」


 柏木は病院を見渡す……確かに大きい大病院ではあるが、ここには昨今大型の病院にボチボチと増えてきている『異星種科』がない。どうやら普通の産婦人科にフェルは放り込まれたようだ。

 すると、なんと病院のロビーに、ピカッと大きな光柱が三本ほど立つ。ロビーの人々は大慌てだ。

 その光の中から現れたのは……


『カシワギ、大変な事になっておるようですね』


 なんと、ナヨ様であった。二人のフリュな学者のような格好の人物を連れている。


「あ、ナヨさん!」


 意外な人物に「これはこれは」と真男に絹代、恵美は恐縮しまくりだ。

 

「ナヨさんまでお見舞とはすみません」

『いや、見舞いというわけではありませぬ。今、この医療施設から緊急の連絡がありましてね。何やらフェルフェリアの出産処置に往生しているという事。それで妾が来たという次第ですよ。この二人はヤルバーン医療局の者です』

「え? フェルの出産に?」


 コクと頷くナヨ。するとこの病院の女性看護師が柏木達の元にスっとんできた。


「あ、あのヤルバーン州の方ですか? すみません、ちょっと私達では理解できない状況になってまして」

『ウム、患者の元に案内してくださイ』


 この時代、まだナヨはカミングアウトしていないので、お肌は水色である。

 ということで、皆して分娩室に急ぐ。


 分娩室に到着すると、即座に柏木は白衣にマスクを着用させられて、部屋に入る。

 ナヨ達は、PVMCGで医療処置シールドを体にまとわせて部屋の中へ。真男達は外で待ちだ。

 ここで何故に柏木が国会の委員会を抜けてまでこの場へやってきたかという話になるのだが、イゼイラの文化習慣では、嫁が出産する時、デルンが側についていてやる事に大事な意味があるのだという話。

 地球でもそういう習慣は普通にあるが、地球の場合はそこまで絶対的なものというわけではない。

 だが、イゼイラでは親に見守られて生まれてくるという事が、どうにもかなり重要な意味を持つ事なのだそうで、よほどの不可抗力でない限りはデルンが側についてやったほうがいいという事なのである。

 実は二藤部は、この事をヴェルデオやサイヴァルから聞かされていたわけで、イゼイラやティ連からみれば聖地日本で初のイゼイラ人と日本人の間に生まれる子が、こういった文化習慣の祝福を受けずに生まれてきた……更に言えば、イゼイラ的にはイキガミサマでフリンゼのフェルさんがそんな目にあったとなれば、国際問題に発展する可能性もあるんではと……実際はメチャクチャ考えすぎなのだが……そういうことで野党とも協議して、火急な事態になった場合、柏木の委員会途中退場も認めるという形で各党に了承をとっていたという次第だったわけである。なので、あんな感じになったという話。


『ウ〜~ン! ウ〜~~ン!……あ゛、マサ゛トサン、間に合った……ですネ……』

「ああ、フェル。がんばれよ!」

『ハイです……ウ〜ん!』


 フェルの手を握って頭を撫で、脂汗滲む苦悶の顔で力むフェルを大きな声で励ます柏木。

 そんな声が部屋の外からでも聞こえてくる。あとはフェルの頑張りに期待するしかない。

 すると、真男達の元に、やってくる人々。


『マサオ、キヌヨ、エミ、ゴ苦労ダナ』

「あ、これはシエさんに多川さん」


 いやはやと柏木一家、深々とお辞儀。シエも頭を垂れて挨拶。多川は敬礼で。

 という事でシエもかなり彼女は彼女で目立つものがあったりするわけで、


「シエさんもお腹、かなり大きくなってきましたね」


 と恵美が話すと、


『アア、私モ、モウスグダ。デキレバ私ノ子モ、フェルノ子ト同ジ周期デ産ミタイトイウノモアッテナ。ダーリンニ頑張ッテモラッタ。マ、ウマクイキソウダ』

「おいおいシエ、そんなダイレクトに言わなくても……恥ずかしいって」


 シエの今の言葉、翻訳すれば「タイミング見て、やることやってうまい具合に子供が出来そうです」

 と言うこと。やることやってできるのが子供である。コウノトリさんが連れてくるわけではない。

 という事で、この話から察するに、多川氏もシエとダストール版『ラムアの何某』のやうな事をやったとみて間違いない。これは想像しがいがあったりなかったり。

 とそんな雑談に興じていると、


『ンァァァアアアアア!……』


 と悲鳴のようなフェルの声が轟く。


『もうすぐですよ!』『頑張れ!』『頑張っテ!』


 とナヨさんや、ヤルバーン医師の声。だが何故か日本人医療関係者勢の声がしない。

 で、柏木が……


「がんばれよ、フェル!…………って、ええええええええっ!?」


 っと、分娩室ではおおよそ聞かないような柏木先生の驚愕轟かす声。真男達は何事かと訝しがる。

 

 ……しばし後……


 ナヨが部屋から出てきた……ニッコニコである。

 真男達は駆け寄って、


「ど、どうでしたか? ナヨさん」

『ウム、良い子になろうて。重畳ですよ。安心なされるが良い』

「え?」


 いや、マテよと。普通なら「オギャー」の一声もあって、「ヤッター」となるのが地球の標準規格ではないかと、ままそういう話になるんではと期待していところがあるだけに、イマイチ意味不明。

 すると、当の旦那が姿を表す……柏木、何か惚けているようで、びっみょーーな表情。

 腰に両の手当てて、マスクを取り……


「ま、真人、ど、どうだったんだい? ナヨさんは大丈夫だって喜んでたけど」

「そうだよ兄ちゃん。まぁオギャーなんてのは、イゼイラの人だから泣かなかったりするんだろうけど……」


 すると、柏木はしばし間をおき、


「いや、まあ……生まれたのは生まれたんだけど……『生まれた』の意味が、少々俺たちと違う……」


 「は?」と真男達。

 深刻な表情だった柏木だが、段々と笑顔になって、


「ク、ククク……はは、なるほどね。こういう事か……はぁ〜確かにフェル達イゼイラ人はそうなんだろうなぁ……」


 そういうと柏木は、病室でフェルの頭から抜け落ちた羽毛を持って、クリクリさせつつ、真男達を分娩室へ誘う。

 すると、真男達も……


「えええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 とそんな驚きの声。病院フロアに響き渡るよう。

 看護師やその病院の医師達も石化して茫然自失。なるほど、医師達の声が聞こえなかったのはそういう事かと。


 そう、フェルが生んだのは『クア』つまり『卵』だったのだ!

 そう、イゼイラ人は、卵生の知的生命体だったのである。

 柏木はイゼイラの医学資料なんて実は読んだ事がない。ってか恐らく白木達は知っているのかもしれないだろうが。嫌がらせかギャグか、柏木に教えていなかったようだ。


『あ、オトウサマにオカアサマ、エミサマ』


 虚ろな目をして、疲れ切ったフェルが真男達に話しかける。


「え、え、ええと、えっと、がが、がんばったね? でいいのかしら、フェルちゃん……って、ちょっと驚きだったけど」と、不思議表情な笑顔の絹代

「あ、あ、あ、ああ、でででもまさか卵とは……今日孫の顔拝めると思ったけど、まだ少し先だなむは、むはは」と真男

「ホホ、ホント、まま、まさかって感じだけど、フ、フェルちゃんはだだだ大丈夫?」と恵美。


 そして……


「恵美の話じゃないが、まさかイゼイラ人が卵生だったとはな……先に教えてくれよぅ」

『アレ? 私、言ってなかったデスか?』

「ああ、言ってませんよ」

『ア、それは……ウフフ、ごめんなさいでス』


 柏木がフェルの手を強く握って、驚きがありつつもフェルの大事を労う。

 するとシエと多川も分娩室に入室してきて……


『あ、シエも来てくれてたデスか。ケラー・タガワもスミマセンでス……シエも大事な時なのに、無理しちゃダメですよ』

『フフ、カマワン。私モ見届ケテオカナイトナ』

「おめでとうフェルさん」


 何故か多川はこの状況、特に驚く様子もない。


『シエも、健康なクアが生まれるといいデスね』


 その言葉にギンと目が鋭くなる柏木。


「え!? シエさん達、ダストール人も……卵生なんですか!」

『アア、ソウダゾ。知ラナカッタノカ?』

「え、ええ……」


 と、医学資料もちゃんと調べておくべきだったと自分の不勉強さを呪う柏木。

 つまり多川一佐殿は、ちゃぁんとヨメさんから聞かされていたという話。従って、


「……で、多川さんはその事……」

「ええ、聞いていますよ。ってか、てっきり私は柏木さんも知っているのかと……

『ソウダナ。ダーリンヤ、一雄達ニ最初話シタ時モ、オマエト同ジク相当驚イテイタガナ、フハハハ。デモ私達カラスレバ、普通ノ事ナノニナ。面白イモノダ』


 と高笑いなシエさん……やっぱ彼女は無敵である。卵か胎生の幼生か、んなことはシエの価値観からすれば、どうでもいい話なのだろう。横でフェルも笑っていた。驚いたまんまなのは、病院の医師達だけだったり。


 ……ということで、その後一般病棟に移ったフェルは、イゼイラ製の保育器ならぬ『孵化器』に卵を入れる。

 この卵、所謂地球人の知る卵とは少々違った性質を持っており、やはりそこは地球の生命科学の範疇では語れないところも多々あるわけだ。

 まずこの卵、卵自体に『卵温』ともいうべき、体温を持っている、従って卵自体を所謂『温める』必要がない。そして、フェルがこの卵を産んだ時、その大きさはラグビーボールぐらいの大きさだったのだが、この卵殻自体が柔らかく弾性があり、まだここから成長するらしく、見た目一回りか二回り程、まだ大きくなるのだそうだ。つまり卵自身が自律して成長しているのである。こういう生態は地球の生命にはない。


 なのでそういう生態の卵であるがために、イゼイラの文化では卵の健やかな成長と、孵化する子供が元気に生まれてくるように、その卵に保温のためのセーターのようなものを着せて、卵に漫画のような目や鼻や口を書いて、育つのを見守るという習慣があるそうだ。これはダストールにもこのイゼイラの習慣が輸入されて、ダストール人もそうするらしい……実はダストール人とイゼイラ人はその生態がよく似ている。

 ティ連でのこういった卵生の知的生命体は他にも日本人が知る種族では、パーミラ人や、ヴィスパー人がそうであったりするわけで、結構珍しくはないのである。


 ということで、あれから白木に大見、麗子美里に美加、二藤部に三島、野党の代表と続々見舞いに来るわけで大変である。

 まあそこんとこフェルも病気ではないので、しばし休むとすっかり元気になり、ベッドから上半身だけ起きあがって、来る人色々と対応してたりする。

 んでもって先ほどのイゼイラの習慣に則って、美里がフェルの産んだ卵に、マーカーで某菓子屋のマスコットのような目と、舌を出した口を書いたりと遊んでいたり。流石柏木同様の芸大卒。元デザイン学科だけに絵がうまい。

 フェルもそれを見てコロコロ笑って楽しんでいた。



 そんなこんなで、時間があれよあれよと過ぎていく。

 ここ三日ほどフェルの見舞いにお世話で諸氏お疲れ。真男達や、シエもそろそろもう大丈夫だと、あとは退院まで病院側に任せる。

 イゼイラの医務官が毎日来てくれるので、そこは安心できるわけである。

 シエにも大事な時だから無理してはダメだと、親族縁者が少ない多川家で、長男の一雄夫婦だけではサポートも大変だろうと真男達も手伝ってくれるという話で、シエや多川もえらく感謝していたり。

 という事で柏木さんは仕事終わるとここ三日は、毎日病室でフェルに付き添っている。これがイゼイラ的には大事な事なのだそうな。

 今日は委員会も忙しく、フェルのベッドの横にあるソファーで柏木は横になり眠りこけていた。

 で、フェルさんは、愛しい自分の卵を撫でて、イゼイラの子守唄を歌ってたり。でもその子守唄の内容は、元気に殻を割って生まれてきて欲しいと願う歌で、まま地球にはない形式のものだ。

 そんな綺麗なフェルの歌声が、貸切状態になっている病室のあるそのフロアへかすかに漏れ聞こえ響き、待機する看護師達もニンマリと……

 さて、あとはどんなお子様か登場するのか。


 これが柏木夫妻の、大きな大きなパラダイムシフト……


    *    *


 ということで、当時フェルが先んじてそんな出産エピソードで世間を騒がせていた頃、世のマスコミはこれまたイゼイラ人がこんな出産方法だと世に流し、まあ色々と世の人々は議論したりなんぞするわけであるのだが、昨今イゼイラ・ヤルバーンとの国交に親交も、なんだかんだで順応してしまった日本国において、このフェルさん出産のニュースはコヤツらの格好のネタになっていたりするわけである。

 ということで、久方ぶりのこの連中の会話。



100名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

フェルさんがタマゴ産んだ件について


101名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>100

まあ、そういうこともあるが……フェルさんというのが何とも説得力が……

って、カタカナで書くな。


102名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

縦書きになったら、どうすんのという点について。


103名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>102

だからオマエはさっきからワケのわからん事いうなっつってんだろ。


104名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>102

作者発見


105名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

まぁ、あまりにも今までメンタリティが人類と合ってたからなぁ。

ここにきて決定的な違いを見せつけるとは、さすがティ連人。


106名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

うむ、こうでなくては宇宙人とは言えん。サマルカさんはちょっとお約束すぎたからな。


107名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

クローンで増えるんだろ? かっちー達は。


108名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

んじゃキャプテンは? まさか……


109名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>108

キャプテンもタマゴらしい。


110名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>109

だからカタカナで書くなと。


111名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

まー、ここにきちゃ今さらな感じなんだけどな。で、人類と同じ胎生の異星人さんているの?


112名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>111

政府の発表では、シャル姉んとこと、パウルかんちょのとこと、あの三本指の異星人さんとこ

だそうだよ。あと、なんとザムさんも胎生らしい


113名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

カイラス人と、ディスカール人に、ユーン人か。ま、ユーンさんところはわかんないけど、他の種族は大体ご先祖どおりの感じだな。しかし、ザムさんとこも胎生とは……


114名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

でも、宇宙規模で考えたら、案外卵生の方が普通なのかもよ。なんでも話じゃ、胎生動物でも、人類の胎生ってかなり特殊だそうだし。


115名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

しっかし、フェルさんがタマゴ産んだ時、柏木どんな顔してたんだろうな。失礼だが、想像するとちょっと笑う。


116名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

地球人初で五千万光年彼方に行って、嫁さん鳥さんがご先祖の異星人で、産んだ子供がまずタマゴって、あやつも大変だなあ。


117名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

クソゲーを無理から売りさばいていた因果応報だ。


118名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

まだ言ってるのかオマエは!



 ……そう、だがこの>>114の言うとおりで、実はこの地球では哺乳類数いれど、この人類の胎生出産は、生物界でもかなり特殊な部類に入るという話なのだそうな。

 普通、我々のよく知るところでは、例えば馬や牛に鹿、犬に猫、ライオンにゾウといったこういう哺乳類は、親から生まれると同時にもうその足でスックと立ち、自ら自律的に親へ母乳を吸いにいく。

 逆に同じ哺乳類でも有袋類の場合は、超未熟児の段階で、親の袋に保護されて、そこで安全に一定期間育った後、袋から出て自律する。例外的な哺乳動物といえば『カモノハシ』が卵生の哺乳類として有名だが、あれの場合は例外中の例外だ。

 で、その例外中の例外に入るのが、人類もその一つで、人類の幼生体、即ち『赤ちゃん』も、実のところ親は未熟児に近い段階で出産する形態をとる。なので、赤ちゃんは保育器に入れなければならないほど、何もできないのである。有袋類の場合は親の袋で保護できるが、人類の場合はそれもない。そしてそんな危険な状態の幼生体を、外界にさらして育児するというのは、地球上に生息する動物でも人類ぐらいなものなのだそうである。

 ティ連での胎生知的生命体のカイラス人や、ユーン人でも、話によると、生まれてきた子はもうすでにハイハイに類する行為はできるそうで、人類と同じようなポテンシャルの幼生体を生むのはディスカール人ぐらいなのだそうだ。

 こういう話を聞かされると、もうイゼイラ人やダストール人が卵産んだところで今の日本人、驚くのは最初だけで、すぐに理屈がわかれば理解もする感じなのである。

 ただ問題なのは諸外国の反応という奴で、まあ米国や欧州のような先進国はいいものも、宗教教義の支配が強い国々で、所謂知識人以外はいろんな反応を示す。まま、このあたりはそんなものである。

 だから差別の対象になるかといえば、相手は超科学の使徒である。そこはもうここまで彼らが定着した社会であるからして、そこまでの事にはならないのが現実だ。

 それでも日本人は、そんな彼らをスンナリ受け入れている。このあたりはやはり文化的に諸外国とは色々違うところもある。


    *    *


===== 多川夫妻の場合 =====


 というわけで、そんなシエさんにも運命の時がやってくる……って、そんな大層なものではないが、夫の多川信次氏にとっては、やはり柏木同様大きなパラダイムシフトとなる日になった……


 ガシャン! と大きな音立てて新居のキッチンで何かが崩れ落ちる音。

 外で草むしりしていた多川が何事かとスっ飛んで家に入ってくる……御存知の通り多川の家は、かのスーパーど田舎で、バスも通らない場所の山林一つ。山奥に大きなログハウス構えて贅沢に住んでいるわけで、まぁものごっつい静かな場所であって、そんな音も外に筒抜けである。


「シエ! どうした!」


 そりゃそうだ。シエぐらいのしっかり者がそんな音鳴らせば何事かと思う。すると案の定、皿が数枚割れて散乱していた。そしてそこにはシエが倒れこむ姿。


「お、おい!! シエ!!」


 らしくないシエの格好に焦る多川。だが、その様子の原因はすぐに理解できたし、シエも口を開く。


『ダ、ダーリン……ウ、生マレソウダ……』

「え、えええ!? って、どど、えええ?」


 今まで独身貴族の多川。両親も天寿全うし、親族といえば兄者の一雄夫妻なものだが、助けを呼ぼうにもそれ以前にこの場所、仙人でも住むような山奥である。やっぱこういう状況では、この贅沢な環境も若干仇となる。


「チっ! あー、まいったな! こういう時俺みたいな元独身貴族には酷だよ。シエ、肩貸そうか? 立てるか? 転送でとりあえずカグヤに行こう、あそこなら医療設備も整ってる。ささ!」

『ダーリン……カグヤニ行クノハ賛成ダガ……コウイウ場合、転送ハアマリヨクナイ……ウッ……オ腹ノ、クアニドンナ影響ガ出ルカワカラン。存外繊細ナノダヨ……』

「そ、そうか……じゃぁトランスポーター飛ばして双葉基地まで行くしかないな! 立てるか?」


 コクコク頷くシエ。お腹抱えてなんとか立つと、ベランダのベンチに座らせて、多川はシエの私物トランスポーターを車庫から引っ張り出す。

 真っ赤でスタイリッシュなデザインのそれに「よっこらしょ」とシエを乗せる。彼女はウンウン唸って脂汗をかいている。いつもの無敵のシエさんとは打って変わって、今はヘロヘロだ。もしシエの命を狙う暗殺者でもいれば、今この瞬間は千載一遇のチャンスかもしれない。


 と、そんな話は今とりあえずどうでもいいわけで、もうそのまんま部屋着の状態でトランスポーターを飛ばす多川。自律行動モードを解除して、マニュアル操作。シエが緊急であるということを基地に通達し、エマージェンシー体制を取らせる……と、こんな事すりゃ公私混同もいいとこなのだが、実は双葉基地にはティ連人向けの中規模病院があって、ここで基地周辺に住むティ連人隊員は医療行為を受けている。

 とはいえ、現地の一般日本人にも普通に開放している。この病院で治療を受けると、風邪を一切ひかなくなると存外有名で、東京から診てもらいに来る患者もいたりするほどだ。

 というわけで、その医療施設と連携をとるカグヤ医務室に、とにかく駆け込もうと必死でトランスポーターを飛ばす。

 すると、現在は地域観光協力が主任務の【宇宙空母カグヤ】が見えてきた。


 当のカグヤでは、甲板にビーッ・ビーッと警報音けたたましく鳴り響かせている。


【多川一佐の操縦するトランスポーターが緊急着艦する。エマージェンシーコードはデンザ25-6のケース。繰り返す、トランスポーターが……】


 甲板要員飛び出して指示棒を降る。

 衛生員が地球製の担架を組み立てて、飛び出す準備万端。すると甲板後部から、ビーッ・ビーッという音に呼応して、シンシエコンビ載せたトランスポーターが垂直で緊急着艦をする。

 

『達する。多川信次・詩愛両一等空佐が子供を授かる事になった。甲板要員は、可能な限り母体の身を案じた受け入れ体制をとれ。陸上科で手の空いている者は医療スタッフのサポートに回れ。以上』


 艦内放送をするは藤堂。諸氏その基地司令の顔を見れば、状況は詳しく聞かずとも一目瞭然。

 トランスポーターが着艦すると、即座に衛生員が躍り出る。シエはもう口を半開きにして朦朧状態だ。

 衛生員がシエを担架に乗せると即座に医療室へ直行する。とはいっても別に病気ではないので、早くシエを楽な体勢にしてやれるかどうかというところだ。もう寸前状態なので、彼女も相当堪えているという話。

 多川は、柏木と違ってシエからもう既にダストール人は卵生の出産だということは聞かされていたので、心の準備はとりあえずできている。彼も急いで医療室へ。

 医療室では、双葉基地から飛んできてくれたティ連人医療スタッフが既に処置を始めていた。

 まま、フェルのケースと同じく医療室からは『がんばって!』『もう少しですよ!』という掛け声が飛び、シエの『ヌァァアアアア!』とかいう声が響き渡る。ってか、シエさん出産時も気合いである。


 しばし後、医療室から歓声が上がり、拍手が沸き上がったり……どうやらうまい具合にご出産なされたようだ。

 でもやっぱここでも日本人スタッフは、聞いていたこととはいえ現実を目の当たりにすると、やはりポカーン状態であったりなかったり。

 

 愛妻の出産を見届けた多川。彼はずっとシエの手を握って応援していたわけで、


「がんばったな、シエ!」


 目から涙流してウンウン頷く彼女。嬉し泣きとかいうのではなく、産むのにそれだけ根性いったということである。

 看護師から淡い緑色のクアを見せられてそれを撫でるシエ。ダストール人のクアもイゼイラ人同様に卵温がある。とても温かい卵だ。

 ということで、しばし後にそこから生まれてくる息子か娘に思いを馳せながらその日までを久しぶりにカグヤで過ごすことになった多川夫妻。

 彼らのクアにもイゼイラから輸入された習慣、卵に顔の落書きを入れる儀式を受けるわけだが、その役を誰がやるか、なんか知らないうちにジャンケンで決めることになり、勝った陸上科のバカが、シエのクアに、眉毛の太い狙撃手の目と眉毛を描いて、多川に四の字固めを食らわされていたり……ままそのあたりは『自衛隊』らしくということで、というお話。

 でもって、シエの当初の出産計画、フェルの子と同級生にするという作戦は、なんとか達成できそうなところで、多川もそっち方面で頑張った甲斐があったという話。


 これが多川夫妻の、大きな大きなパラダイムシフト……


    *    *


210名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

嗚呼、キャプテンも子持ちになってしまった……   


211名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

宇宙人でもいいからヨメほすい


212名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>211

つザムたん


213名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>212

オマエは人類の恥……ってか、ザムたんと付き合ってる人類って……流石にいないわな。


214名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

確かに、ザムさんとはなぁ。


215名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

実はいたりする。今度朝晴で8:00から特集やるはず。


216名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

マジデスカ! だれだそのものず……いや、失礼。


217名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

で、キャプテンの子供だけど、いつごろ孵化って、こういう表現でいいのか? って、まぁその孵化するんだ?


218名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

阪大病院の看護師に聞いたら、異星種科の医師が10日ぐらいって言ってた。


219名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

10日か。そんなに長くないんだな。


220名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

フェルさんとこのお子様も、こないだ孵化したとか言ってて、柏木が抱っこして会見してたけど、ホント、絵に描いたみたいなイゼさんと日本人のハーフだったのがワロタw


221名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

でもカワイカッタ。って、期待してたほど意外性はなかったなwww


222名前:名無しさん@未知との遭遇 201*/**/**(*)~

>>221

オマエは何に期待してたんだwって、んじゃ10日後にキャプテンのお子様が御孵化なさったら、フェルさんところの子と同級生になるのか。


 世はそんな話題でもちきりである。

 なんせ地球発の異星人と地球人との子供が、卵生孵化という予想だにしなかったもので、しかもヤルバーン人気女子二人ともそうだったという事実が、これまた日本のマスコミに大いなる話題を与え、そんな特集が色々組まれたり。

 件のマスコミ禁止法について現在日本は連合法令で特別認可されているとはいえ、少々異常な過熱報道ぶりに政府が会見を開いて報道機関に自粛を要請したほどだ。

 でもこればかりは流石に致し方無いところで、世のマタニティ雑誌やマタニティ用品業界はこの事実に右往左往すると同時に、この少子高齢化の日本において新たなビジネスチャンスが生まれると、大きく期待値膨らんで株式市場でも子供用品関連の株が買われて好調であったり。そんな現象が世を賑わせる。


 ということで、先のネット掲示板では、柏木家の子供はもうこの世に生誕なされたという話であったが、そこのところ、やはりその瞬間は見ておかないとというわけで、ほんの少し時間を巻き戻してみる……


 柏木のマンションの周りには、もうそれは連日、その時が来るまでマスコミが陣を敷き、待ち構えていた。

 柏木には、報道各局がしつこいぐらいに、その瞬間を撮影させてくれと自保党を通してしつこくしつこく要請してきたのだが、そんなもの見世物じゃあるまいし、あたり前の話だが、全てシャットアウトだ。

 できればマンションの周りの報道カメラもどけて欲しいところだが、そこは報道の自由を保証されている日本において、政府が実力を行使できるところと出来ないところがある。


 ただこの日本では『報道の自由』は認めていても、『報道の無法』は認めていない。

 えてしてマスコミは、『自由』イコール『無法』即ち『特権』と解釈するところがある。こればっかりは困ったものだ。

  

 というわけで柏木の家。

 なぜか今、柏木とフェルは金槌のようなものを持って、待機している。


「なあフェル、これって、何というか、この我が子に対して、この道具見た目まんまの事を行うんだよな」

『ソウですよ。私だっテ、マルマやファルンに、こうされて生まれてきたんですから』

「いやぁ〜、加減しらねーぞ俺」

『わかりますヨ、あくまでお手伝いでス。普通はきちんと出てくるでスから』


 そう、柏木とフェルの子、つまり今目の前にあるクアを割るために持っているのが、この金槌である。

 柏木のヤツは、そこらへんの一〇〇均ショップで買ってきたやつ。

 フェルのは、ヤーマ家に伝わる先祖代々の由緒正しき、博物館級の気品あるデザインのそれ。

 フェル曰く、別になんでもいいんだそうな。


 すると二人のクアが、ガタガタ揺れ出し、クアの中から『ムームー』という声がする。

 ドキドキの柏木とフェル。


「ま、まだいいのか? フェル」

『ヒ、一人で出てこられれば、それに越した事ないですヨ』


 すると、猛烈にクアが揺れた後……バキっという音と同時に、色白な子供の脚が左に右に飛び出て、次に左右の腕が飛び出す。そして、ポンという感じで頭が飛び出てきた! 卵の殻の帽子を被ったように飛び出てくる頭部、でもって……柏木ファルンとフェルマルマを見つめる、つぶらな瞳。


「だぁ」


 ニコニコ笑って、卵を着たみたいな感じで腕に足をバタつかせる。


「おおお、か、かわええ……」

『カワイイですねぇ~!……どうやらフリュさんのようでス……ささ、マサトサン。クアを割って、ちゃんと出してあげないと』

「お、そ、そうだな。なるほどね」


 生誕寸前のクアの殻は硬化して、かなり薄くなっている。ここから親が槌で割って、子供を出してやるという次第。

 ということで、クアから取り出した子は、フェルが最初に抱き上げて、ヨシヨシと揺さぶる。

 二人の子は、もう既に生まれたての赤ん坊ではなく、ハイハイもできる生後数ヶ月経った子供のようだ。

 これが種族の違いという事なのだろう。

 無論、所謂哺乳動物ではないフェル達であるからして、早速お腹を空かせた子供に与えるのは、離乳食のようなものである。

 柏木は腕組んで感心しながらその様を見る……我が子ながら生命の神秘だと思うわけである。

 

 彼は早速実家の真男や恵美に連絡して、生誕した事を伝えると、いまから行くということで張り切っていたようだ。

 青い羽髪に黒い瞳そして色白肌。手を見ると、爪のあたりが少し水色がかっていた。

 歯はまだ生えていないようだが、フェルが口の中を見ると、どうもイゼイラ人系の歯になりそうだとの事。

 やはり遺伝的にはイゼイラ人の血が濃いようである。これは予想された通りの事でもあったが、一目見て日本人とイゼイラ人のハーフであるというのは容易に判別できるわけで、とてもカワイイので別嬪になると、早速二人は親バカモード炸裂であったりする。目出度い話である。


 さて、後の時代に、『姫ちゃん』と愛称される柏木とフェルの子。

 その名前は、日本名『柏木姫迦かしわぎひめか』イゼイラ名『ヒメカ・ヤーマ・ナァカァラ(ナヨクァラグヤ)』と命名される。なので『姫ちゃん』なのである。


 いつの日か、この子も『フリンゼ・ヒメカ』と呼ばれる日が来るのだろう……


    *    *


 さて、何ヶ月か遅れてのある日。つまり現在。

 もう一方の、日本人とのハーフになるお子様の場合である。

 多川の旦那がシエ夫人に精を送り込んで出来たクア。 

 シエ達ダストール人も、まあ言ってみれば容姿から察せられる通り、卵生でもおかしくない知的生命体と思うわけでもあり、彼女らも哺乳動物ではないので、そんなところ。


「おおお……この子が、俺の子?」


 丁度フェル達と、同じような体験をしている多川。クアの殻を二人して丁寧に壊し、シエがニコニコでその可愛い我が子を抱き上げる。どうやらデルン、男の子のようだ。

 シエ譲りの赤い髪に、まだ今は薄いが、綺麗な鱗模様のライン。眼は日本人の多川譲りで黒というところであるが、瞳は縦割れになっている。

 肌の色も典型的な日本人系の色。だが、驚くのはもう見るからに面立ちがシエ似で、この歳にして滅法男前。多川も所謂、どっちかというと男前の類になるほうであはあるが、それでもこの子の容姿は、将来世の女性がどういう反応をするのか、容易に想像つくような感じである。

 しかも縦割れ瞳に赤い髪とくれば、なんかダーク系の男前ヒーローになりかねないが、今はとにかく可愛い男の子だ。決して男の娘になるような育て方をしてはいけないわけである。


 手足をばたつかせて「だぁ」と男子らしく、いろんなものに興味津々、シエの赤い髪をつかんで引っ張ったり、シエの顔をペシペシはたいていてみたり。


「はは、元気な子だなぁ」

『フフフ、私ト、ダーリンノ子ナノダ。元気デアタリマエダ……ホレ、ダーリンモ抱イテヤレ』

「あ、ああ……おっと、はは……ちょっと地球人としては、生まれた子がこんな。いきなり生後数ヶ月な子供というのも、ちょっとビックリだが……悪くないな。ほれ!」


 飛行機のように我が子を高い高いで振り回す多川。キャッキャと喜ぶ多川、シエの子。

 

 この男の子の名は、多川が、多川家、そしてロッショ家の新たな時代の命として、こう名付けた。

 日本人名『多川暁』ダストール名『アカツキ・シエ・タガワ』

 シエは、フェルと違って多川がロッショ家に婿養子入りしたわけではない。完全な多川家に入ったので、多川自身は新たな名をダストールで名乗る事になる。なので多川のダストール名は『シンジ・ロッショ・タガワ』となっている。これはミドルネームをロッショ家への敬意としてこういう名前にしたわけだが、自分の息子には、ミドルネームにシエの名前を付けたのである。

 さて、この子も遠い将来、多川の後を継いでパイロットになるか、それとも政治家になるか? もしくは全く関係ない職につくか? こればかりは因果を司る者にしか、わからないことである……

 だが、一つはっきりしているのは、この暁クン。フェルさん達のお嬢様、姫迦ちゃんと同級生で幼馴染になる。将来的には、ままあんな学生ドラマが展開されるような仲になったりするかもしれない。


    *    *


 パラダイムシフトとは、ある一般化した事象、概念やそれまで当たり前と思われていたこと、所謂『常識』であったり普通の事が、とある発明や発見、行動、思想でその通例であった事が劇的に変化してしまう現象のことを言う。

 元々はアメリカの科学史家『トーマス・クーン』が提唱したといわれる科学用語であったのだが、いつしかそういった劇的な常識の変化を総じてそう呼ぶようになった。

 フェルさんやシエさんの出産という行為。しかもその出産したお子さんが卵生だったという事実は、当然胎生哺乳動物の地球人からすれば、どえらいパラダイムシフトである。

 ティ連の科学や種族の生体で、胎生哺乳動物が、卵生生命体に種を紡いでいく能力があることにも驚きである。

 確かに所謂我々地球人の知るところの『卵』というものとは少し違うのだが、そんな出産方法となれば、世の中変化も出てくるのだ。


 例えばの話、現在プロ野球界において、女性の選手というものはいない。だが現在のプロ野球協定では各球団は、女性選手を登録、出場させることは可能なのだ。

 だがなぜ今現在それが現実のものとならないか? 差別とかそんなくだらない話ではない。女性でもプロ野球選手として活躍できる人材はたくさんいる。

 では、どこかの球団が女性選手を一軍登録して、レギュラーにしたとしよう。

 とすると、単純に考えてプロ野球セ・パ全一二球団は、その女性選手の為に、女性専用ロッカールームを設けなければならなし、シャワー室もそうしなければならない。

 プライベート空間でも女性用のものを新設しないといけない。全球団がそうしないといけなくなる。

 その女性選手が『別にかまわない。男性のものを使ってもいい』と言ったとしても、それが世間体としてそうはいかないのが世の中なのだ。ジェンダーがどうのとか、そういう方面に小うるさい方々の目もあったり、それ以前にやはり倫理的にそういうわけにはいかないわけで、世の野球業界が全てその女性選手一人のために、どえらいコストをかけて大改革をしなければならない。

 それが悪いわけではない。当然時代のニーズが求めれば、そうなるのが自然であろう。だが、それでもやはり日本のプロ野球業界からすれば、大きな大きな『パラダイム・シフト』である。

 

 フェルとシエの出産もそれと同じなのだ。

 たった二人の異星人女性が、地球人日本人との間の子を卵生で出産したとなれば、どんな影響を世界に与えるか。

 いい方面悪い方面、色々ある。先の話の通り、マタニティ業界は情報収集にてんてこまいになり、世界初のマタニティ業界から派生した株式市場の乱高下にまで発展。株式市場は予想で動くのではない。憶測と妄想で動くのだ。

 例えばこう考える奴らがいる……

【卵生知的生命体は、卵から孵化した際、既に数ヶ月の子供に成長しており、頭が座っている】→【ということは、孵化する段階の前、すなわち卵の状態で親はそれを可搬し、移動させなければならない】→【日本国内において、幼児はチャイルドシートへ座らせる事が義務付けられている】→【これに準じて、卵生知的生命体の卵を自動車で運ぶ場合も、警察当局は何らかの法規制を敷くはずである】→【となれば、自動車業界と、関連株が買いではないか】


 と、こういう発想になる可能性は大いにあるわけで、こういった憶測と妄想が市場を交錯し、柏木とフェル、シエと多川のパラダイムシフトが、世の中のパラダイムシフトへと大変貌していくわけである。

 実際人々は知らない間にそういったパラダイムシフトを享受しているのだが、案外それが何であるかとは体感できないものである。

 逆に言えば、そんな体感できるほどの物である場合は世の中がもう尋常ではない状況なのであるわけであるからして、そう考えるとヤルバーンが地球に飛来した時点でもう既にそうであったという話ではあるのだが……


 二〇一云年のあの日、日本がティエルクマスカ星間銀河共和連合に加盟したあの日。マクロな意味で世界がパラダイムシフトした。

 そのパラダイムシフトは地球世界、日本だけではなく、ティ連各国も大きく大きくパラダイムシフトした現象でもあった。


 そんな未来が見えた両世界の因果。



 あの時から変わっていく世の事象、人々の未来。

 そんな小さなパラダイムシフト。そしてそこから大きくなっていくパラダイムシフトを紡いでいく……




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[気になる点] 読み返していて疑問が。 国会中継カメラに映るようテロップ掲げてわかったかわかんないのか →フリップではなく? テロップ出すように局側に依頼したとかですか? 鈴木が議長の元に駆け寄り…
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