銀河連合日本外伝 Age after ― ヤル研秘宝館 ― 終話
二〇一云年。かの日本国銀河連合加盟から四年後。
米国とサマルカの交流から、少なからず世界に対してもティ連文化、文明、科学が世界に影響を与え出した頃。
かの『ヂラール攻防戦事件』の公開がきっかけとなって顕著化した、ティ連・連合日本と地球世界各国との技術格差であったが、これを世界からまあやいのやいの言われたわけで、そこはまあ仕方がない。だが、ロシア連邦大統領グレヴィッチの提案で本格化した、世界的問題を解決……いや、解決というよりは、幾分マシな方向へ導く手段としてのヤルバーンと連合日本に対する協力要請。
これを受けた日本は、北方領土問題の主権的主張をロシアの顔も立てて解決できる事になり、米国もロシアとの対立を解消し、協調路線を取る見通しを立てることができた。
そして今、連合日本とヤルバーン州はグレヴィッチとの約束を果たすため、米国と共に欧州や東欧で拡大し、収束する見通しの立たない大きな大きな地球世界の国際的問題解決へと踏み切ったのである。
その問題とは、『SIS・宣教軍問題』つまり、国際テロリストへの対応と、大規模難民問題だった。
特にこの難民問題。もうロシアや欧州にとって四年前のロシア・クリミア併合問題など後回しでも良いぐらいの大問題となっており、特に地中海沿岸諸国にとっては人権と宗教と、文化習慣の対立を伴う深刻な事態に発展しており、更にはその当のテロリスト集団が、巨大な国家的主権を持ち始める危険な兆候も表れ始め、早急な対応を求められる事態となっていた。
国際社会は当然それを効果的に対応できる存在として、連合日本とヤルバーン特別自治州に目を向ける。
ロシアのグレヴィッチが、日本で行われたティ連技術を世界にプレゼンスする会合『国際防衛協議会』へ自ら出向いたのも日本とヤルバーン州にそれらへの対応を要請するためであったのだが、まま狡猾な彼のことである。この問題を利用して、日本とヤル州を地球世界の諸々へ巻き込もうとする策か、それとも純粋な応援協力要請か、その本質はわからないが、そんなこんなの因果がめぐって、今日本国自衛隊。そしてティ連太陽系軍管区司令部と同等組織の日本国特危自衛隊は、戦後初、ヤルバーン州軍とともに、地球世界での対外武力行使という行動に踏み切ったのである……
SISや宣教軍の実働部隊ともいえるテロ組織を武力でぶっ潰したところでみんな有り難がりこそすれ、誰も迷惑だなどと思う奴はいない。なんせこのSISや宣教軍が話題になる前からアフガニスタンなどで猛威を振るった「あの」テロ組織ですら、このSIS・宣教軍と『我々を一緒にするな』と言っている程である。即ちこの連中がどんだけの『悪』……いや、実際その本質は、専門家に言わせると『幼稚』なのだそうだが、とりあえずその議論は今いいとして、それだけの連中であるからして、その予備軍ともいえるテロ支配地域の貧困層を、テロ組織の無尽蔵な予備戦力としないために『与えて拡大を防ぐ』という作戦を行うために、ティ連ーヤルバーン州の科学技術力に世界が期待するところ大というわけなのだが……
これは現在四年後の日本国でも実際に行政政策として既に行われているVMC技術やハイクァーン工学技術を活用した様々な生活、社会福祉インフラやその政策をベースとして、このテロ拡大防止計画も練られている。
無論、加盟国日本以外の地球世界へ、ティ連技術を拡散させるという計画はないのだが、このあたりは『戦後』という言葉は妥当ではないが、地域のSIS・宣教軍の活動を沈静化させることができた後の柏木達の仕事でもある。
と、こういう計画で本事案は推移しているのだが、今現在は何にしても、所謂この『クソ野郎ども』を駆逐し、罪なき人々を救出するのが先決なわけであって……
* *
某蒼星の原型になった? 『旧式ではないのだよ』と言われた機体とは流石に全体のデザインは異なるこの機体。
ヘルメット被り、ガスマスクみたいなデザインのフェイス。眼にあたる部分には、集合センサーがターレットに沿って左右に動く。頭部には平行に並んだブレードアンテナがついていたり
首を振りつつ、ウィンウィンとセンサーを左右にスライドさせて街の様子を探る。
デロニカから飛び降りた蒼星は、地球で言うところの龍型機動兵器『旭龍』を従えてゆっくりと前進を開始する。ただ、今回この機体へ搭乗していることに若干異議のある方が言うには……
「なー、シエー。俺達って、確か航空宙間科だったよなぁ……これって確か陸戦兵器なんじゃ……」
『ン? 航空宙間科ダロウ、ダーリン。コノ「ソウセイ」ハ、宇宙デモ使エルゾ。ダカライイノダ』
「はぁ……そうっすか」
要は興味があるから乗ってるシエ。デザインもなかなかに気に入ったそうな。
というわけで、攻撃準備が整った日・ロ・米・ヤ軍。早速ロシア軍第一攻撃部隊が戦闘の火蓋を切った。
かのPOT-116が装備する一四〇ミリ主砲の咆哮が聞こえてきた。
『こちらデロニカ1。ロシア軍部隊が宣教軍の攻撃を受けた模様。POT型が反撃を開始』
「早速新型を狙ってくるか……ゲリラ戦だな」
『米軍戦車部隊が応援に回ります』
状況監視の特危デロニカから送られてくる客観映像をVMCモニターで眺める多川。
「デロニカ1。連中の展開が妙に早い。応援に向かった米軍はどこの部隊だ? 送レ」
『第3騎兵中隊です。M1戦車が中核の部隊ですね。送レ』
「XM4は? 送レ」
『既に前進を開始しています。市街地で交戦始まりました。送レ』
「よし……旭龍1は第3騎兵中隊を援護。旭龍2は拉致、人質被害者救出作戦中のシャルリ中佐と、使徒派義勇兵の援護に迎え 送レ」
『了解』『了解』
多川の命を受けた旭龍二機は、それぞれの場所へふわりと浮いて飛翔していく。
ロシア軍のPOT-116に米軍のXM4。総じて『マニューバータンク(機動戦車・MT)』と種別呼称されているこの兵器を援護に向かう。
戦車とは、第二次大戦から現代に至るまで、実は対戦車装備を施した歩兵のゲリラ戦術に意外と弱いのだ。だが、此度、米ロの機動戦車は砲塔部から伸びるマニピュレータ型兵装システムの装備をもって、その概念を払拭しようと奮闘する。
POTは腕部機関砲を俊敏な駆動で建造物壁面に沿って上へ下へ動かし、窓の外から中へめがけて機関砲を叩き込む。
コクピットに対戦車ミサイル警報が大きく鳴り響くと、今度はXM4の腕部が稼働し、その先端につけた球状、目玉のようなデバイスがサーボモーター音をウィウィ鳴らしたかと思うと、発射されたミサイルが突如空中で爆発炎上する。
その光景を目にしたPOTパイロットは「何事か」とXM4に問うと、XM4に取り付けられた『戦術高エネルギーレーザーシステム』で対戦車ミサイルを撃ち落としたのだという話。奇しくも対ミサイル防衛兵装の脆弱なPOTに、その対策兵器で味方となったPOT守るXM4。ここではなかなかに米ロ奮闘といったところである。
此度は流石に両軍機動戦車に搭載されている一四〇ミリAGS砲弾を使う機会がない。まあ、あれは長距離用の兵器なので、こんなゲリラ掃討戦で使うようなものでもないためにまだ封印中である。
だがそれを使わなくても、現状の戦闘を映像で見れば、もう今までの戦闘ではない事が一発で理解できる。それを徐々に理解していく米露両軍兵士であった。
『フム、向こうのアメリカ国ト、ロシア国ハ、連携ガ取レテイルヨウダ』
「ま、同じような性能の機動兵器だからな。でも今までの戦車とはやっぱり違うな……リニアクローラーと、高性能マニピュレーター兵器付けただけであれかよ……」
そこに一四〇ミリ戦車砲もその威力を見せつける。宣教軍の鹵獲したT-74。これも古いとはいえ、なかなかの性能の戦車だが、POTやXM4の一四〇ミリにかかれば木っ端のように吹き飛ぶ。
そうはいえ、米ロ両軍の機動戦車も相当の損傷を負ってはいるのだが、両軍、軍機クラスの装甲技術を投入し、製造しているためにやはり格段に生存率が高い。更には米軍はサマルカ技術も投入した防衛システムを組み込んでいるので、更に防御力は高い。ロシアはロシアで、このリニアクローラーシステムから派生した一種の電磁装甲システムを搭載しているので、これまた防御力が高い。
やはり地球人は発達過程文明である。高度な知的生命体だ。何か新しいキッカケをポンと渡されると、そこから枝葉が分かれるようにいろんな種類の発明品が連想されて生み出される。
この『機動戦車』という新しい兵器も、そういうものなのだろう。
さて、米ロの連携を確認したシンシエパイロット夫妻も、お仕事に取り掛かる。
彼らの蒼星は、さらに州都マイドゥクリの街奥深くまで侵攻して、これまた先の海襲同様に威力・状況偵察である。
先行して拉致された人々等を探知し、シャルリ達に情報を送るのが本来の任務である。
『ダーリン、空中機動ハマカセタ』
「了解。で、あのビルの上か?」
『ウン』
「でも、コイツが着陸したら崩れるぞ」
『質量制御機能ガ働クカラ、大丈夫ダ。トンデクレ』
「よっしゃ」
シエがジャンプするモーションをとった瞬間、多川が操縦を交代し、スラスタージェットの空中機動制御を行う。このあたりの連携の細かさが、シンシエ合体ならではだ。他の者には無理だろう。
かなり長距離を山なりにジャンプすると、目的の高層建造物のてっぺんに着地した。
「質量コントロール順調に作動中。シエ、コントロールどうぞ」
『アイハブ』
この蒼星という試験機種。アデン・アッデ国際空港を強襲した『海襲』が、旭龍の海自型を製造するためのデータ収集兵器であった。それと同じくこの『蒼星』も、ちゃんとした目的があって造られた兵器なのである。何もヤル研が趣味で造ったというわけではない。いや、ついでに趣味を反映したという言い方であればそれはそういうことも……
この蒼星、人型機動時の質量制御と機動性、操縦環境のデータを取るために元来造られたものだ。
人型の有人兵器というものは、実のところ何かと制約が多いと『地球科学』では言われてきた。その一番最たる部分が質量の問題である。そんなものこの蒼星並の人型兵器を地球科学のみでモロに作るとなると、その自重で本体が地面に埋まってしまう。それはティ連側も承知の上で、ヴァズラーに使用されていた技術、斥力制御機能の一種『質量制御機能』を使用して、リアルタイムで自重を適切に調整しながらこの図体でも身軽に稼働させることが可能なのだ。
現在蒼星は、この図体で全装備『制御』質量を実に二.八トンで維持している。質量制御機能を切った場合、本来は八〇トンもあるシロモノだ。これでもティ連装甲素材などを使ってこれであるからして十分軽いほうだが、それでもいかり肩でガスマスクみたいなのを付けたような意匠の人形機動兵器が、ビルの上に突っ立ってたら、それを見るテロリスト連中はどう思うだろうか。
「これがシャルリ中佐と協力者さんの部隊だ。ここをこういう具合に進んで、こういうルートで敵に奇襲をかけるという事だ。協力者スパイの情報では、このあたり……に拉致された人々がいるという話らしい」
『了解ダ、気ヲツケヨウ。コチラモ、バイタルセンサーヲヨク見テオカナイトナ』
「そっちはまかせてくれ。情報はVMCに常時送る。シエは存分にやってくれてかまわんよ」
その言葉に、ニィと不敵な笑みを見せるシエ。同時にポポポと敵対勢力の反応を示す枠が表示されていく。
『クックックック、デハイクゾダーリン。MTトハチガウノダ……!』
「だーー! シエ、それは!」
知ってか知らずか、んな台詞を叫びながら、ビルのてっぺんちょからゴワっとジャンプする蒼星。「その台詞は……」と困惑顔の多川。シチュエーション的に俺じゃないのかと。てか、あの愛人連れたオヤジ、確か三五歳で、俺よりずっと年下じゃんとか、そんなのが一瞬頭に過ぎるが、すぐに忘れた。
シャルリ達部隊の進行方向に先行する蒼星。待ちかまえる敵のど真ん中へ、スラスター全開で着地する。
『グポォン』とは鳴らないが、頭部集合センサーがウィウィと左右へ往復すると、何かの反応を捕らえたのか、早々に警報を鳴らす。
「シエ! ロケット弾反応! RPG! 気をつけろ!」
『了解!』
自動防御モーションより素早い反応で左腕部シールドを掲げてRPGを弾き飛ばすシエ。
周りの建造物、四方から待ち伏せされて狙われ、ピーピーとロケット弾反応を轟かせるVMCモニター。
生体センサーでわかってはいるが、やはり民間人とゲリラの判別はしにくい。敵が武装を展開させて初めて敵味方識別が可能になる。
『ナメラレタモンダナッ!』
蒼星は左腕部の妙にでかいマニピュレータ部、指状部分をシャキっと真っ直ぐに伸ばすと、円筒状の五指内部に内蔵されたM230機関砲を周囲の建造物めがけて一斉射した。
まるで大戦中の戦闘機、P−51マスタングの連装機関砲一斉射を彷彿させる発射炎が、テロリスト兵士の潜伏していそうな建造物を文字通り蜂の巣にしていく。
マニピュレータ掌部の排莢口から、ゼル造成弾の薬莢がボロボロと排出され、滝のごとく落ちていく。
いかんせんゼル造成弾なので弾数制限がない。シエはさんざんぶっ放すと、周囲が静かになったのを確認して射撃を終了する……すると、クレームの声が通信で入る。
『シェェェェ! もちょっと考えて撃ちなよぉぉぉ! こちとら協力者の皆さん、恐れおののいちまってるわさ!!』
無線の向こうで、何かコーランを唱える声がしないでもない。
そりゃ、こんないかり肩のガスマスクヅラした妙ちくりんな巨人兵器か掌からM230を五挺分もぶっぱなしゃ、普通はチビる。ってか、使徒派のみなさん。蒼星は流石に神の御使には見えないと思いますがと多川は思うが、思うだけ。
『道ヲアケテヤッタノニ、文句ヲイウナ。オマエノ同類ガ東カラ接近中ダ。ナントカシロ』
『あ、なんだよその言い草は! 』
シャルリ達の部隊を狙って『主力戦車』T-55を伴ったテロ兵士部隊が『女戦車』部隊を狙って接近するのを警告するが、こんな調子。だがそんな冗談の言い合いもしばし。状況はまだまだ楽観できない。
敵もさる者、所謂国軍寝返り組を前線投入して有志連合軍に襲いかかる。やはりこのマイドゥクリの街を取られるのは痛いのだろう。
「シエ! 冗談もそこまでだ! 攻撃機複数接近。こいつを狙ってる!」
冗談はお宅の機体だろうという話もあるが、警報を鳴らすVMCモニター。
頭部とセンサーをその方向に向け、最大感度に最大望遠で確認するシエ。
システムは【スホーイSu-25】と判別。しかも三機。
「マズいぞシエ、こりゃロシア製の空飛ぶ戦車だ! あれに積んでる兵装がマトモなら、いくら蒼星でもちょっちきついぞ」
そう、蒼星はティ連製兵器ではない。なんだかんだでヤル研の造ったヲタ兵……ティ連技術応用の『地球製』兵器だ。そしてなんだかんだで試作品である。今回の投入も、その『容姿』を買われてのこと。その効能は使徒派みなさんの様子で実証済である……って、そんな話ではなく、シールドを張っているとはいえ現実問題としてSu-25に積んでいる三〇ミリ機関砲に対地ミサイル、対地ロケット弾、五〇〇キロクラス対地爆弾の直撃は流石に無事では済まない。
「確かアイツはイラクでも運用してたな、アフリカ諸国でもナイジェリアの隣国チャドが運用してたはずだ。そのあたりか? どうするシエ!」
『今引クワケニハイカナイ! 今引イタラ、シャルリ達ガ危ナイ……ダーリン! アノ攻撃機ノ高度マデ、ジャンプデキルカ!?』
「ああ、できなくはないが、どうする?」
『ジャンプ中ノ空中制御ハマカセルカラ、アノ機体ニツッコンデクレ』
「え!? 何する気だ?」
『イイカラ! ユーハブダ!』
「わかったわかった! んじゃアイハブ! いきまっせ!」
多川はSMS操縦ながらシエから空中機動制御の権限をもらい、蒼星のジャンピング用スラスタジェットを出力最大でふかして、かなりの高度をジャンプする。
とはいっても飛行しているわけではないので、航空機のような空中機動は流石に行えない……のだが……
『トォッ!』
シエは右腕部に装備されたフックのついた有線ワイヤーをSu-25に向けて射出。多川も相対速度を考えてジャンプしているのでその点は流石だ。かなりの長さのワイヤーはSu-25の左エンジン部に直撃。機体を貫いてガッチリと食い込む。
「おいおいシエ! トォッって何する気だよ!」
『マアミテイロ、ダーリン! 質量制御機能最軽量設定!』
シエは蒼星の機動質量制御を約一トン程度まで落とす。要するに斥力機能を働かせて見かけを軽くさせた。ってか、そんな機能あるならそれで浮遊でもしろよという話もあるのだが、当時のこの機体はそこまで斥力機能の解析が進んでいなかった代物なので、ご都合よくそんなところ。
刹那、蒼星はワイヤーを急速に巻き取り始め、Su-25めがけて『必殺! 蒼星パンチ』の格好で、突っ込んでいく。Su-25のパイロットは、機体に大きな振動食らったと思ったら、側面下部からワケの分からないロボットが突っ込んでくるサマを見て狼狽も狼狽。ヤバイと思い即座にベイルアウトする。
と、同時に蒼星はSu-25に左腕部シールドの先端で蒼星パンチを食らわせる。
Su-25は翼の根元からバッサリと折れるように破壊され、しばし後に爆弾か何かが誘爆したのか豪快に爆散する。
で、これまた刹那、ワイヤーを回収した蒼星は空中で機体を翻し、別のSu-25に狙いを定めて左腕部五連装M230機関砲を相対速度合わせてぶっ放す……掌を少し広げて発射する機関砲弾は扇状に敵機を追い、敵機は砲弾を雨あられと食らって爆散した。
『アト一機ハ!?』
「まずいぞ、シャルリ中佐達の方へ……って、あり? 火を噴いてら」
『オヨ? ドウイウコトダ?』
そのまま地上へ着地する蒼星。するとシャルリから通信が入る。
『ヨウ、ご両人! すまないね、助かったよ! 残りの一機は義勇兵さんが片付けた』
無線の向こうから歓声に『アッラーアクバル』と叫ぶ声が聞こえてくる。聞けば使徒派の諸氏が、ミストラル携帯型地対空ミサイルを命中させたのだという。ちなみにこのミサイルはフランス製である。流石フランス。
……その後、シエ達は他で展開していた米ロ軍と合流し、事実上州都マイドゥクリの制圧に成功する。
シャルリ達も蒼星が先行して取得した生体反応を追うことで囚われていた人々を救出する事に成功し、その任務を達成することができた。
救出した人々の中には、やはり誘拐された女学生や子供達、村落の女性達が大勢含まれていたそうだ。そして欧米系ジャーナリストも、件のオレンジ色した囚人服着せられて別の場所で囚われていたらしい。その中には一人日本人も含まれていたという。
彼らはやはり何も知らされていなかったようで、この戦闘状況にかなり狼狽し、死も覚悟していたそうだ。だが、助けにやってきたのが使徒派のアラブ民兵とティ連人。んでもって指揮するのがカイラス人のドサイボーグなシャル姉だったのでびっくり仰天という話で、かなりうろたえていたという話。
女学生らにいたっては、シャルリ達を拝み倒し、使徒派のみなさんに説明をお願いしたら『神の御使』とか言うものだから余計に話がややこしくなって……まま、結局囚われていた各国ジャーナリストさんのお世話になってしまったという次第だったそうな……
……後にマイドゥクリの街を制圧し、沈静化を図る米露軍。後方に待機させていた陸上自衛隊とヤルバーン州軍が即座に展開し、有志軍の基地建設と同時進行で街の復興に入る。
ハイクァーンを駆使し、生活物資に食料を滞り無く円滑に供給できる体制を構築する。ここで躓いたら、またテロの芽を生むことになるので万全の体制で臨む諸氏。
結局この地を本拠地としていた宣教軍は、状況が不利とわかるとチャド方面へ撤退したそうだ。
「えっと……お、いたいた。あそこだシエ」
『ウム、ッテ、アラアラ……ククク、アイツモエラク気ニ入ラレラモノダナ』
蒼星を降りて街周辺を視察していたシンシエ夫妻。シャルリさんを指差して笑ってたり。
『ダーー、まてぇ! あ、あたしのトゥルト食べちゃって、もう……仕方ないねぇ。って、それ触っちゃダメだよ!』
シャル姉さん。救出した子供達に大人気のようである。脚に手にまとわりつく子供らの相手をしていたり。それを見る米露の兵士達も混ざって戯れていた。
『ククク、シャルリ、引退シタ後ハ保母ニナレルナ。手足ヲ再生サセタホウガイイノデハナイカ?』
「はは、よく似あってるよシャルリ中佐」
『あ、アンタらもそんなこと言ってないで手伝っておくれよ! 一応子持ちなんだロ? こっちゃまだうら若き独身フリュなんだかんね! って、ダメだっテそれ触っちゃ!』
首かしげて笑い、手伝いに入る多川夫妻。
解放された子供たちは、もらったペロペロキャンディー片手に駐機してある蒼星や旭龍見上げて呆けていたり。
向こうではPOT-106やXM4に乗せてもらって米露の兵と戯れる子供。
この子供たちは、大人になって蒼星や旭龍に機動戦車の活躍をどう語るのだろうか?
そして陸上自衛隊の作るフェルさんハイパースペシャルカレーを列作って待つ大人に子供達も。
「とりあえず、こっちは落ち着いたか」
『アア、アノ子供達ヲミテイルト、コチラモ何カ報ワレタ気モスルナ』
『そうだねぇ。だけど、アタシ達が来なかっら、この子供達や、アッチの女学生さん達は……』
考えただけでも鬱になる状況になったのだろう。それを阻止できただけでもこの作戦は意味があると話す三人。
多川は胸張ってそびえ立つ蒼星を見上げ、コーラをグビと呷る。そして今後の事を考えるのだった……
「で、シエさ……地中海に展開するヤルバーン州軍なんだけど……」
『ン? ソレガドウシタ? ダーリン』
「あの例の機動艦艇、就航して投入されてるんだって?」
『アア、モウ画期的ナ艦ダトウウコトデ、ティ連デモ話題ニナッテイル、「オオシマ」ニ次グ、ヤルバーン州独自ノ船デ、私達モ鼻ガ高イゾ。マアチョット小型ナノガ仕方ノナイトコロダガ』
「あ、あのなぁシエ……あんなのあれ以上デカくしてどーすんだよっ! って、ティ連の造船技術? ちゃうなぁ、あのハイクァーン工業技術ってマジで洒落になんねーな……ったく……」
何かに頭抱える多川。さてその原因は?……
* *
ということで場所は変わって次に有志軍が展開するは、リビア沖地中海、ここにも有志軍艦隊が展開する。先のナイジェリア沖に展開していた有志軍艦隊は、米露の部隊が中心で、欧州部隊は支援が主任務であったが、現在この地中海に展開する艦隊は、英仏伊独加等カナダ以外は欧州勢が中心の部隊なのである。
英国海軍航空母艦『クィーン・エリザベス』から飛び立つF−35Bマルチロール戦闘機に、フル爆装したシーハリアーが、空爆のために飛び立っていく。
これは、これから行われるリビア上陸作戦の支援爆撃であった。
クイーン・エリザベスの向こうには、フランス空母『シャルル・ド・ゴール』が見える。
だが、欧州勢の兵員達はそんな自分達自慢の自国艦船をよそに、手の空いているものはポカーンと空を見上げて惚けていたり。
欧州勢にとってはお初となるヤルバーン―イゼイラの機動機械、即ち空中で止まったように普通に滞空するデロニカや、旭光Ⅱに驚きの表情を隠さない。
さて、現在特危自衛隊の主力艦艇、といっても二艦しかないのだが、『宇宙空母カグヤ』はソマリア方面に展開し、『航宙重護衛艦ふそう』はナイジェリア沖に、ヤルバーン州軍機動母艦『オオシマ』とともに展開している。
パウル艦長のヘイシュミッシュ級機動工作艦は、海上自衛隊とともに、補給や各国艦船の修理といった後方支援で現在インド洋あたりに展開している。
で、地球での特危自衛隊や、ヤルバーン州軍関係の航宙艦艇は普通に考えればこれで終わりである。
……だが……
欧州勢がことさらテメーの仕事ほっぽらかしてまでお空見上げて呆けるその原因というか現実というか、そんなところの某とは……
「オーマイガッ……まさかこんな宇宙艦艇? いやちがうな。巨大メックをヤルバン野郎どもは考えてたなんて……」と、夢を見そうだと額に手を当てる英国兵。
「こんなの戦争って言えるのかよ……まったく、エイリアン連中は何考えてんだ」と悲壮な表情のフランス兵。
「これで……いや、いいや、もう……」と、何か言いたげだったが、言うのをやめたドイツ兵。
彼ら欧州勢、早い話がNATO勢がそんな話で、どうコメントしたらいいかわかんないその存在。それは……
【人型機動攻撃艦・フリンゼ・サーミッサ】であった!……多分、『ジャーン』とか、『バーン』とか『ダンドンダンドン』とかいったBGMが鳴って、あおりパースでキメているはずである。
サーミッサ、そう、あのナヨさんの始祖名を冠したそのお船、いや、巨大ロボ娘……じゃなくて、人型機動艦艇。なんとなくおそらく多分、デザイン的なネタ元はナヨさんであろうことは容易に推察できる。頭部の形状とか、本体装甲の形状とか……
そして背面ランドセル状のフレキシブルアーム状ハードポイントには、測距儀に似た形状のセンサーを付けた二連バレルのブラスター砲を左右ハードポイントに装備し、更には小型のカタパルトを左右ハードポイントに展開。背中から四本のアームが伸びるようなそんなイメージに、背面ランドセル状のバックパックには、CIWSにオート・メラーラ砲に近代地球型ステルス形状のブリッジみたいなものが装備されてたり。
このブリッジ状構造物はその通りブリッジであり、操船攻撃管制は、ロボット形状部の頭部にあたる目のバイザー状スリット部がそれにあたることになる。
全高150メートル程の所謂『人型艦艇』
かのヤル研のドアh……高度な先見性を持つ技術者達が、実験的にゼルシミュレーションしたあの某なコレクション的イメージのものを垣間見て、そして感動してしまった『フェルさん』が、キッチリヤルバーン州軍へ報告し、更にはそれに感動した州軍技官や、ジルマ達科学者に技術者が、マジで実際に作ってみようと言う話になって、そんでもってやめときゃいのにというような話にもなって、丁度その頃、件のヤルバーン州軍初の独自機動母艦『オオシマ』が建艦に入ったのもあって、丁度空いていた君島のドック一つ借りて……『普通に』作ってしまったのが、この『フリンゼ・サーミッサ』であった……あーこりゃこりゃ。
いかんせんこれの何が問題かといえば、ティ連人の皆様、ヤル研のモデラ……熟練した技術者が一体何を元ネタにして、どういう思考で、どんな時代背景があってこれの母体を設計したかなんて、そんなものちーーっとも彼らは知らないので、至って『普通に』画期的な機動艦艇の新機軸新発明新鋭艦ができたと『『普通に』』喜んでいるという次第で、なんともはやであったりなかったり……
『ヨシ、お前たち! このヤルバーン州軍と、特危自衛隊の共同研究兵器の性能をいかんなく出せるよう、日々の訓練通りの実力をここで発揮せよ!』
などとブリッジで張り切って訓示を食らわすは、ニヨッタ・ミモル・ハムッシ二佐。なんと、この『フリンゼ・サーミッサ』今作戦限りの艦長に抜擢されて張り切りまくりなのである。
この機動攻撃艦という艦種だが、聞いた事もないこの艦種名、それもそのはずで、この『サーミッサ』級のために新たに新設された仮艦種なのである。それもそうだ。こんな船ともクソバカデカイ人型機動兵器ともつかないものであるからして。
まあ小難しい話は抜きにして、早い話がクラス的には重駆逐艦に相当する。だが、所謂新機軸艦艇の艦長であるからして、ニヨッタ艦長の鼻息も荒い。
ニヨッタの艦長役はこの作戦限りで、この作戦が終わればこの船……というか人型兵器というかは、連合防衛総省へ送られて評価試験されることになっている。防衛総省も興味を持っているのだそうな……近いうちに、連合各国に採用される正式艦種になるのかもしれなかったり……あーおそろしあ。
『ニヨッタ艦長、ブリテン国とフランス国の空爆作戦、順調に推移していまス』
『ヨロシイ。だが、民間人の被害には十分注意せよ。まあなんだ、建造物などは後で我々が復興作業するので、いくらでもぶっ壊して構わないが、人的被害だけは気をつけるように』
地中海に展開するNATO・加・日・ヤ軍は、現在この地のSIS・宣教軍勢力の拠点に対し、先制空爆を敢行していた。
いかんせんこの国もイラク同様、米国の作ったヒール(悪役)であった、かつての国家代表『ムアンマル・アル・カッザーフィー』所謂『カダフィー大佐』の通称で知られる独裁者の死後、民主化を求めた弱い国民が、武装勢力の武力にて民主化運動を潰されて、結果、SIS系原理主義支配地域になってしまったという典型の場所であった。
で、今現在ではこの国の地中海側沿岸都市のほとんど。即ち首都トリポリ・スルト・ベンガジ・デリナ・トブルクといった主要都市を宣教軍に支配され、SIS・宣教軍の地中海側要衝ともいうべきこの地域奪還と、まだこの状況でも船を出して欧州へ脱出を試みる現地民保護を目的に、まずは他の地区同様、作戦拠点としての橋頭堡を作るためにスルトへの集中空爆を敢行、その後各国上陸部隊を展開させ、電撃的にスルトを拠点にトリポリ、ベンガジ方面へ展開するという作戦を立てていた。
だが、いくらNATO軍にカナダ軍、特危自衛隊、ヤルバーン州軍が集中攻撃を加えるといっても、そんなに広い戦域をカバーできるのかという話だが、そこで活躍するは、この戦う場所を選ばない空飛ぶ重駆逐艦『フリンゼ・サーミッサ』であった。
『第三・第四フレキシブルアーム部、航空カタパルトに「あーるきゅーわん・ぷれでたー」造成。発艦準備ヨシ』
『よし、どんどん造成して発艦させろ。テロリストどもの施設は、見つけ次第片っ端から攻撃しても構わん。もし脱出してくる難民船を見つけた場合は、対象上空で旋回。近くの各国救助用待機艦艇に連絡しろ』
両の腕を腰に当てて、恙無くテキパキと指示をするニヨッタ艦長。流石長年ティラスの副官はやっていないい。今でもかつての『シレイラ号事件』解決の受勲として、船長資格を持っているニヨッタである。かの太陽系外縁部の戦いで活躍した一人であるからして、艦内でもその信頼はティラスに負けず劣らじで絶大である。
……サーミッサの両アームに添えつけらえたカタパルトからバンバン発進していくゼル造成のRQ-1プレデター無人攻撃機。本当なら無人攻撃機であれば別にヴァルメでも良かったのだが、敵味方識別しやすいという判断で、ニヨッタも以前米軍から供与されたプレデター攻撃機のデータもとに、ここで造成し飛ばしていた。まま無人機という範疇であれば、別段攻撃型ヴァルメでもプレデターでも、どっちでも良いという事にはなるのだが……
空爆を敢行しながらスルトの街へ、見た目腕を横に広げて直立し、空中へ浮いた状態の「サーミッサ」がゆっくりと前進する。
海上に展開する各国艦隊は、当たり前ではあるが、海上艦艇であるからしてコレ以上接近することはできない。だが、サーミッサはそれが可能だ。なんせ浮いてる訳であるからして。
『第一・第二アーム発動! 両アームの超高速連装斥力砲発射用意。各ゼル砲台におーとめらーら砲造成。発射用意!』
ここで自衛隊なら『宜候』と言いたいところだが、艦長は特危出向のニヨッタさん。この船の船籍はヤルバーン州だ。そこは古巣の流儀でといったところ。
アーム先端に上下へ張り付いた形の連装超高速斥力砲二門×4基。バックパックゼル砲台に造成させたオートメラーラ砲数基。更には煙突みたいなデザインのVLSランチャーサイロが開いて、艦対地ミサイルを発射準備。
リビア地中海方面沿岸からサーミッサの姿が確認できた。そりゃもうスルトの街に巣食うテロリストどもはその姿に恐怖すら覚えるほどの衝撃を受ける……確かに全長一五〇メートルの火砲背負った女性型の妙な巨大物体が空中に浮かんで、腕部を左右に広げて近づいてくりゃそうもなる。
どこかの命知らずが対空ミサイルをぶっ放したようだ。だが、サーミッサは白い波紋を宙に放ち、そのミサイルを爆散させる……この波紋状のシールド効果が六角形だったら、まるでアレである。幸いな事にここには『使徒派』の民兵さんはいないようだ。
『ニヨッタ艦長、まだかなりの敵残存勢力が残っているようです。相当な数です』
『ナルホド、フランス国から得た情報は正確だったようネ。カーシェル・シエ達が制圧した「まいどぅくり」の街に匹敵する中核地域と見た方がいいわね、ここは』
確かにニヨッタの言うとおりである。ここはまがりなりにもかつて『大佐』を名乗った独裁者の国である。旧式とはいえ軍備は豊富だ。しかも独裁者が民主化運動で死去し、無政府状態に一時陥った時に宣教軍どもがこの地域を掌握した。当然武器弾薬糧食はかなり豊富にあっただろう。それに比例する連中も相当な数がいて当然である。
『トッキ隊陸上科ユソウ機、定刻通り発進シマシタ!』
『ブリテン国、フランス国、イタリー国、エスパニア国、ゲルマン国等主要地域国家強襲揚陸艦からも陸上部隊発進。制圧作戦開始デス』
『了解した。よし! では最後の支援攻撃を行うゾ! 各アーム部斥力砲、おーとめらーら砲、VLS粒子反応みさいる、腕部粒子砲、各個目標選択後、自由攻撃を一五フン間開始、 発動用意!』
ニヨッタの号令に反応する人型機動攻撃艦。各兵装はウィウィと音を鳴らし、アームをクイクイ動かして最適の攻撃形態を整える。
攻撃艦サーミッサのロボット型本体部、左右腕部の掌にあたる部分に光球が形成されると、ビカと光り、眩い光線一閃、敵の要害を吹き飛ばす……更にその攻撃に呼応して、サーミッサ各兵装が咆哮唸り轟き、弾丸弾薬噴進の光を沿岸に放つ。
敵もそれまでとは違う、全く見た事もない激しい支援攻撃に右往左往していた。
無論、所謂、各地域国家艦艇もサーミッサのサマに呼応し、艦兵装の唸りをあげる……まるで何か昔の『長い一日』に例えられた物語の再来のような、そんな様子。
だが、この巨大な女神像に兵装付けまくったようなおっかない物体の攻撃は、全くの無差別攻撃かというと勿論そういうわけではなく、ところどころ街中にドーム状の物体に囲まれた場所が点在し、その場所は有志連合軍の攻撃から守られているような状況であった。
つまり、事前偵察で把握していた、退避できなかった民間人や、モスクのような宗教施設に医療施設をヴァルメのシールドを展開させて守っているのである。そう、ヤルバーンが地球にやって来た時に中国の捕獲作戦をはねのけたアレである。
少なくともそのシールド内にいれば被害を被ることもないし、宣教軍の攻撃も躱す事ができる。基本武装した人間は排除されてしまうシステムになっているので、最低限このシールド空間では武器を使うことはできない。とはいえ、恐らくこのシールド内にテロリストも混ざっているだろうが、逆にそいつらを隔離して、後ほどゆっくりと逮捕拘束もできるので問題はない。
『ヨシ、こんなものか。これで陸上科や、各地域国家の陸戦部隊もやりやすくなるだろう』
『ニヨッタ艦長、なとー各国軍から感謝の通信を多数頂いていますヨ』
『そうカ、まあ感謝されるほどの事など別にしていないのだかな』
ニヤと微笑み、なかなかに男前なニヨッタ艦長。
『だガ、この艦、いい船ではないか、このままヤルバーン州軍か、特危海上宙間科の装備にしてしまえばいいのにな。本部に持って行く必要なんてないだロ』
恐らく柏木あたりが聞いたら、「イヤイヤイヤ」と言うに違いない。
と、そんなこんなで沿岸部の支援砲撃も相当食らわして敵を一掃したので、有志軍は陸上部隊を投入する。
無論特危隊も、特危隊らしい部隊をもって、大型トランスポーターが海上を浮遊し驀進する。
この地中海地域は、有志連合軍でも主にNATO軍を中心に動いている。そこにカナダ軍と特危自衛隊、ヤルバーン州軍、少数の米軍とロシア軍が参加する。
特にロシア軍は、クリミア半島の件もあり、この地中海ではああまり大っぴらに動けないという大人の事情もある。あと、黒海艦隊は正直いって老朽化が進んでおり、新型艦艇への更新もまだ道半ばで正直他のNATO諸国艦隊と較べても見劣りするところ大だ。しかも今回は空中にあんな人型の艦艇が浮かんでりゃ。尚更である。
そういう理由もあって、この地中海南部沿岸作戦域では、ロシアは少数の陸上部隊派遣に留まっている。
あまり大規模に派遣すると、トルコあたりが文句言ってきそうなので地中海方面の作戦は積極参加していない。
と、そんな各国お国事情はさておき……
有志連合軍各国兵員輸送兵器が、スルト沿岸に到達する。そして即座に戦闘車両に兵員が揚陸されていく。
無論、特危自衛隊の大型トランスポーターもそれに倣い、沿岸にエアクッション型揚陸艇のごとくその機体を砂浜に乗り上げて、コマンドローダーにデルゲードを揚陸させる。
先の惑星サルカス戦闘時に見せたL型・H型に続いて登場するは、ヤル研で実用化を目標に開発していたコマンドローダー『M』型であった。即ち喩えるなら、L型が軽戦車でH型が重戦車ならM型はさしずめ中戦車といったところであろうか。L型よりは比較的大型で重装甲。長距離ジャンプ用の飛翔システムも備え、武装は各種機関砲に機関銃、粒子兵装に軽装ミサイル・無反動砲と、そんなイメージ。何か一九八〇年代に流行った雰囲気のイメージな兵器だったり。
その展開速度は極めて早い。他国の歩兵戦闘車に見られる上陸部隊も流石だが、特危の場合は根本的な機動力が違う。
その機械的な鎧を着た人型がガチャガチャと動くサマは、特危隊の空間だけ一種異様とも言える状況を作っていた。
だが、此度の新型兵装はその『M型』だけには終わらない。
かのヤル研で見た、かなりの完成度を誇っていた第三次開発以降の進捗で進んでいた機動兵器。
ヤル研的にいえば、各L型・M型・H型自動甲冑群を支援直協する機動兵器。
一時期は『むせてしまう型兵器』とも言われた兵器だが……結局は色々と改良が加えられ、むせてしまう方よりかは、『最前線作戦』で戦う方面のイメージ的な方向性でまとまったり。いやはや……
キュンキュンと脚部の駆動装置を響かせながら海岸を疾走し陸揚げされるその機動兵器。
もう既に特危での正式採用が決定しており、名称も『19式機甲騎兵』英名称を『タイプ19・コマンドトルーパー』として登録された。
旭光・旭龍に続く、特危陸上科初の正式採用となった搭乗型ロボット兵器だが、今回の戦闘が初実戦となるわけで、そのあたりを世界各国の軍事関係者も注視していたりする。
グラインダーを回転させるような駆動装置を唸らせて一機の19式が到着する……19式の脚部取っ手を掴み、消防士のようなスタイルで便乗してきたのは、特危陸上科二佐の大見であった。
取っ手から手を離し、ストンと降りるとL型コマンドローダーのパワーアームをニギニギさせながら集結した自動甲冑部隊の方へと歩く。
大見のL型を見た樫本が彼の元へ。
『二佐、お疲れ様です』
『おう、ローダー隊はこれで全部だな』
『はい。今回M型が結構量産できたそうですので、バランスはいいですね』
『よし、(で、アッチの英国兵におフランスさん、で、ドイッチュラントさんが……)』
『(はい。特危の活動を見学したいと言ってきている方々ですよ)』
『(そうか、ま、彼らも恐らく優秀な特殊コマンド系の連中だろうけど、こっちの機動兵器機動兵装は並じゃない。巻き込まんよう、みんなに注意させとけよ)』
『(了解)』
ちょっとヒソヒソ声でそんな話。欧州各国軍も、独自に米国のサマルカ技術を筆頭に、それらから派生する各国技術を持ちつ持たれつで供与しあったり、スパイしたりと、そんなところで色々動いているわけだが、米国がサマルカ技術という方向性で軍事も力を入れ、ロシアも独自にPOT型機動兵器という新分野を開拓している。その点NATO以下欧州勢はイマイチ出遅れているわけで、そういうところもあって、言ってみりゃ、よしんば技術を盗みたいというところも正直言ってあったりするわけである。
ということで、上陸早々に作戦を開始する各国有志連合軍。沿岸部一帯の拠点を破壊はしたが、次は内陸に侵攻しなければいかんわけで、空爆等も行ってはいるが、なかなかへこたれないのがこの手の輩である。
まず早々に英国軍が路上爆弾の洗礼を浴びたらしい。ままこうなるとは予測していたので、英国軍には事象可変シールド装置を装備した『路上爆弾掃討車』ともいうべき既存の軍用トラックを改造したシールド装甲車両を貸与していた。この車両が先行してテロ屋の仕掛けた隠し爆弾をモロに受けてやるという寸法である。
どうせ爆発させた場所からビデオでも撮って見学してるのはわかってるわけで、テロ屋はどう見ても普通の輸送トラックにしか見えない部隊を吹き飛ばして喜ぶつもりだったのだろうが、爆破したつもりの対象がピンピンしているので、今頃狼狽しているはずである。後方から続く英国軍部隊は、そのシールドトラックの無敵さをみて歓声あげて喜んでる。もうテメーらの好きにはさせねーぞと、そんなところ。
大見達部隊は、スルトの街の人民会議場を程なく確保し、そこを拠点にテロリストの掃討作戦に入る。
人民会議場には医療設備や物資供給施設も設け、一般市民の保護も行えるようすぐさま整備に入る。
なんせハイクァーン装置で展開される設備建設だ。もうCGレンダリングでもするように施設がドンドコとできていく様子は、有志軍各国から呆気の表情で見られ、市民達からはお祈りされたり……確かにこんなの見せ付けられたら『使徒派』なんて宗派もできるわなと思ったり。
「アッチ! くそっ! 右だ! 右へ回れ!」
「了解!」
「樫本一尉! 一〇時方向T-74複数確認!」
「複数じゃわからん! 正確な数は! 送レ!」
「五……いえ、七両です!」
「なに? そんな数どこから……」
街の郊外に、民間人が多数避難している施設があると連絡を受けた樫本班。その保護に向かった矢先に敵の襲撃を受けた。要するにこの民間人をエサにして有志連合軍を攻撃しようという腹だったのだ。
普通ならこんな数の残存戦車がいれば、空爆で消し飛ばされているはずであるが、そこは基本ゲリラ屋だ。こういう手を使って民間施設に兵器を隠したりと、そんな手を使って戦力を繰り出してくる。
テロリストがそこまでして向かってくるかという話にもなるが、確かに義勇兵を気取っている外国人兵士は、実のところ有志連合軍の戦力と、特危自衛隊の変態じみた戦力と、ヤルバーン州軍の、あのサーミッサ艦を見て続々と投降してきているという話なのであるが、所謂『敬虔な原理主義者』や、洗脳されているような兵士に民兵くずれの兵士などは、こんな状況でも襲いかかってくる。
なんせ、神のために異教徒と戦って死んだら天国へ行って酒池肉林と本気で思っている連中である。即ち勝ち負け以前に『戦って死ぬ事』の方が重要な連中もかなりいるわけで、かなわないのがこういう輩なのである。
樫本ら偵察隊の遭遇した敵もそんな連中なのだろう。戦車七両に宣教軍と結託した民兵組織に当の宣教軍。なりふりかまわず神を讃える言葉を発しながら攻めてくる……今、M型ローダーがT-72を一両葬った。
「迂闊だったな。餌に使われた民間人が全員女子供とは……」
舌打ちして、テロリストのやり口を呪う樫本。
「こっちも、あの人数を守りながら後退ってのもかないませんね」
「まあそれでもヂラールとかいう連中と戦った久保田らよりはマシと思いたいな……」
すると後方で指揮する大見から連絡が入る。
『樫本、今援軍をそちらへ送った。もう五分持たせろ、送レ』
「了解、少々数が多いので、よろしくお願いします。終ワリ」
しばし防衛戦に徹する樫本達。なんせ守るのが女子供なので少々やりづらい。野郎なら少々ケガしようが自力でどうにかしろと最悪言えるのだが、この宗教教義を信奉する婦女子はそれがなかなかできないのだ。
しばし交戦していると、敵T−72二両が、何かを食らって吹き飛んだ。
でもって聞こえるはグラインダーを回すような独特の音。腹の底からきそうな重機関砲の音も響き渡り、周囲の敵が一掃されていく。
敵もRPGを発射しているようだが、余裕で躱されている様子。まるでそのフィギュアスケーターのような動きはやっぱり特定世代の日本人にはもうお馴染みだ。その活躍を見て、特危隊員「ハァ〜」と頭抱える者や、「ヨッシャ!」と握り拳作るもの、様々である。
ということで援軍にやってきたのは、19式コマンドトルーパーだった……クンクンという音唸らせて機敏に動きまわるソレは、敵戦車の攻撃もものともせず、肩部に装備した対戦車ミサイルで葬っていく……そして最終的に最後の一両は鹵獲に成功した。キューポラハッチから手を上げて出てくる民兵兵士。そのドタマにコマンドトルーパーの構える巨大な銃型のお馴染みM230機関砲が狙いを定める。
その中の19式一機が樫本の側で停止し、コクピットハッチを開けた。
『アキノリ、無事カ!?』
身を乗り出して樫本を案ずるは、彼の奥様で上官の、リアッサ二佐であった。
「ああ、じゃなかった。はい、問題ありません二佐」
ピっと敬礼する樫本。するとリアッサは「フッ」と笑みを漏らしながら19式から降機すると、樫本の側に行き、
『コンナトコロデマデ上官扱イスルナ、アキノリ』
「だってお前……一応部下の手前もあるだろう」
周りを見ると、ニヨニヨしながら二人を見て事後処理をする部下。もうテロ屋の事なぞどうでもいい状態。
『フフ、マァソレモソウダナ』と旦那の無事を安心する嫁さん。この夫婦も考えてみればかなり変わっている。これでリアッサさんも一児の母なのだからたいしたものだ。ちなみにこの夫婦のお子様は、現在樫本の実家に預けられている。
「で、どうでありますか二佐殿、このコマンドトルーパーの具合は?」
『ウム、悪クナイナ。陸戦型旭龍ガ、大キスギルトイウ欠点ヲ丁度補ッテクレルイイ兵器ダ。取リ回シヤスイノガ気ニイッタ。防衛総省ニモデータヲ送ッテミヨウ』
実は、ティ連には、この手のヴァズラーに旭龍、シルヴェルクラスから、デルゲードのようなロボットスーツ兵器の丁度中間を埋めるような機動兵器が存在しない。なので面白い兵器だとリアッサはえらく気に入っているようであった。
* *
日本国永田町 総理官邸危機管理センター。
刻々とアフリカの状況がこの場所に入ってくる。
関係閣僚もマスコミ対応に追われるわ、野党との会談に追われるわ、そりゃもうみんな忙しくやっていた。
実際、今回のオペレーションWTFC関係のニュースは世界中のトップ扱いで、作戦発動から既に四八時間経過した今でも、連日徹夜状態の永田町であった。
「だけど、とりあえず一気呵成にやったのが良かったな。上手い具合に進んでいるみたいだぜ」
三島が椅子に足組んで、やれやれという感じでそう話す。
かの時から四年後の世界、期日的に二藤部内閣はもう終了し、新たな内閣にとなっているはずだが、此度のSIS・宣教軍の件で、二藤部は一年以内の条件付きで内閣の延長。即ち自保党総裁三選が今回特例で認められた。これはヤルバーン州とティ連本部、つまりマリヘイルからの要望が大きかった。
ということで、二藤部内閣はこの四年後、今作戦が落ち着くまでは若干延長戦といったところである。
まま日本でもこういった例は過去に一度だけ会った。それは一九八二年から一九八七年まで続いた、『不沈空母発言』で有名な首相の内閣である。それ以降日本で総理大臣、即ち自保党総裁が三選することはなかったのだが、此度の二藤部がこれで日本の戦後憲政史上二人目ということになる。
「そうですね。やっぱり特危やヤルバーン州軍が入れば、もう泥沼化という言葉は縁遠くなりますよ」
と柏木連合議員先生。彼としては、色々とティ連系軍事技術も見てきているので、まぁ大体予想通りの推移かなと思ふ。
「でもホント、今になって思いますけど……特危自衛隊があって良かったですね、三島先生」
「ああ、色々とティ連さん技術と、ヤル研のイカれた……」
「いえいえ、そっち方面の話じゃなくて……国内外の政治的方面で、というヤツですよ」
「あぁあぁ、そういう意味な。ま、確かにな。これで日本も戦後初めて、諸外国と同等の『ショー・ザ・フラッグ』『ブーツ・オン・ザ・グラウンド』って奴ができた。しかも『自衛隊』って言いながら、運用は連合主権でやれるんだから、ありがたい話だぜ。ゴチャゴチャ文句言ってくる連中がいても、言い返せる」
「そうですね。ま、見ようによっちゃ『虎の威をかる狐』みたいですが、それでも今までは『できるのにやれない』状況だっただけに、ま、気分は悪くないです。しかも相手は『国』じゃなくて、犯罪者組織ですから」
頷く三島。確かに今思えば、四年前の魚釣島事件が始まりだったかとも思う。あれを機に連合主権になった日本国が、特危自衛隊という連合主権で動かす自衛隊部隊を持ったために、安全保障の面でも格段に変化を見せる事となった。もうリベラル派の『憲法9条』といった条文の想定する不戦状況など、もうそうそう起こりえないのが今の日本の状況だ。
【国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する】
特危自衛隊が今まで戦ってきた状況、魚釣島事件という例外はあれど、あれでも扱いは不法入国者取り締まりの治安出動であったわけで、基本国内問題だ。
とすれば、特危自衛隊というのはこれまでガーグ・デーラといい、ヂラールといい、今回のSIS・宣教軍制圧作戦といい、『国際紛争』として戦った戦闘は一つもない。
「いや、SISも似たようなものだ!」という考えなしのアホリベラル議員には、三島が、
「では〜、先生がそう仰られるというなら、仮にSISや宣教軍との戦闘を『国際紛争』と認定して戦うと、我が国は、かのテロリスト組織を『主権国家』またはそれに近い認識をしていると、世界に発信することになりますが、それで良いと仰られるわけですな?」
と言い返し、ブーメランにしてみたり。
ままこういう理屈が成り立つので、野党も与党叩きがうまい具合にできないもんだから、ままなんとか国内世論も『国際犯罪組織を世界各国で叩き潰す作戦』という認識を作る事ができて、なんとか仕事もやりやすくはなっていた。
「ところで先生、嫁さんはどしたい」
「ああ、フェルですか、はは……」
「ん?」
「いや、また例の病気が出そうになったので、私の執務室で仮眠していますよ」
「病気? なんだいそりゃ」
「ほら、四年前の信任状奉呈式ん時の」
三島はしばし考えると、
「おぉおぉ、あれな。確かにそりゃマズイ」
そう、フェルさんにはあの時発覚した病気『寝不足になったらハイでキレる病』があったのを思い出す。
フェルさんは寝不足なると、最も単純かつ最短の解決方法を導き出し、実行に移してしまうという癖がある。今のフェルなら……
『センキョウグンの連中をおびき寄せて、広域重力子兵器でも使って亜空間に放り込んでしまうデスよ、ウフフフ』
とでも言い出しかねないんで、とりあえず寝させた。今は毛布にくるまってスピスピと寝ているはずである。
そんな雑談に四方山話なんぞをしていると、記者会見を終えた二藤部が戻ってきた。
「おつかれ様です、総理」と柏木。三島も一声。
「お疲れ様です。柏木先生、三島先生……ん? フェルフェリア先生は?」
「おう、今ちょっと仮眠中だってよ。彼女もずっとヤルバーンとコッチを行ったり来たりだったからな」
「なるほど、そうですか、わかりました、はは」
二藤部も、寝てないフェルの恐ろしさは知っていたようだ。
記者会見もとりあえずは順当にこなせたという話で、情報集約センターには、特危自衛隊情報科に現地の最新状況が刻々ともたらされ、その映像情報を記者クラブに逐一公開していた。
実際やはりSISというテロ組織故の非道な行いが次々と晒されていく……大量の人質に世界的にも原因不明の行方不明者となっていた人々も多数。奴隷売買の実態に、人質を商売とする流通ルート。恐らく未だどこの非合法組織も成し得なかったような非人道的な実態が次々明るみになっていく。
と同時に、やはり世界各国では、このテロ組織がそのイデオロギーとする根幹思想、その一神教の原理主義思想の批判に当然集中するわけで、とかく他の一神教を拝する国家では、排斥論も当然高くなってしまうというのはある種仕方のない現状も出てきてしまう。
「……ですので、正直これ以上各自衛隊や、有志軍各国がもたらす情報をマスコミに随時あげるのもどうかと考えてしまいます」
なるほどと頷く柏木に三島。確かに事実情報を随時報道に公開するのは、民主主義国では普通の行為だが、現状敵対する相手がネガティブの塊みたいな連中だと、正味そんな情報しかないわけで、当然一般市民国民はテロリストの教義が、かの一神教教義と同じじゃない。関係ないと訴えてもコレなかなか「はいそうですね。わかってますよ」とはいかないものなのである。
それがうまい具合にいくなら、自保党議員が国会で『八紘一宇』発言したところでゴチャゴチャモメはしないのだ。古今東西一旦ケチつくと、それを払拭するのはなかなか難しいということである。
そんな話をしていると……
『ミナサン、おはようございましゅ』
フェルさん大臣が、まだ少し眠そうな目をしながらセンターに入室してきた。
「おはようフェル……って、まだ夜中だけどな」
「はは、おはようございます、フェルフェリア先生。よく眠れましたか?」
「ご苦労さんだなぁフェル先生。……おい、フェル先生にお茶いれてやってくれ」
近くにいる部下に声かける三島。椅子に腰かけ、スタッフが煎れてくれたお茶をすすってホっと一息なフェルさん。
「で、寝起き早々フェル先生、一つ質問があるんですけどぉ〜」
『ズズズ……なんでスか? マサトサン』
「あの……サーミッサ級とかいうロボk、じゃなくて、機動艦艇。あんなのいつの間に造ったんだぁ?」
『一ネン前にヤル研サンからデータを頂いて、みんなで造ってみようということになたっですよ。それが何カ?』
「フェルがデータ渡したんだろ?」
『ハイです。元ちょーさ局局長サンとしては、あのデータは捨て置けないです。画期的デス。ニホン人さん達発達過程文明の結晶でス』
「……あの時、ちゃんと寝てたよな?」
『ヘ? 何の話デスか?』
そのフェルと柏木の掛け合いをみて、横で噴き出しそうになっている二藤部に三島。なんでもかのサーミッサ級機動攻撃艦に問い合わせ殺到という話……いろんな方面から……そう、『いろんな方面』から……
ヤル研秘宝館最大の『ヲタから』も、日本製となれば、これまた政権一つ吹き飛ぶかもしれなかったのだが、ヤルバーン州製となれば、みな納得もする……一部懐疑的視線を浴びせる人種もいるわけだが……
でも、このトドメのサーミッサ級が功を奏しているところもあって、偶像崇拝禁止とか言ってるところに、こんな巨大な女神像が出現すれば、もう当地はエラい事になるわけで、SIS・宣教軍の戦意を喪失させるには十分な効果を発揮している。
有志連合軍はこのサーミッサ級の容姿をネットやテレビなどで流しプロパガンダに使うという戦法にも出ている。無論、あくまで有志連合軍ヤルバーン州艦艇という解説での位置付けだが……
だが、これが功を奏し、各戦線から投降するテロ部隊も続々出てきているという報告もあがっていていたりする……
ヤル研のイカれた発明……奇想天外な宇宙級の発明品も捨てたものではなかったり……
* *
さてその後、あれから数週間が経った。
オペレーションWTFCは順調に推移し、現在は作戦第二段階。世界各国からのSIS・宣教軍支配地域に対する支援復興作戦に入っている。
無論、有志連合軍各国が参画するのは言うに及ばずだが、ここから作戦の中核となるのは連合日本国・陸海空自衛隊に、ヤルバーン州『政府』だ。
インド洋に展開していたパウル艦長のヘイシュミッシュ級工作艦を各地に展開させて、被災した場所をハイクァーン復興しまくっている状況。
当初有志連合軍に政府各国は、その復興作業を最低で数ヶ月。普通に見積もって年単位で考えていたそうなのだが、パウルがそれこそぶっ壊れた家屋を簡単に直すわ、それこそプラモデルのように新たに立派な家造成して建てまくるわで呆気にとられているという話。
なんせこのアフリカという広大な場所もあって、いくらでも復興住宅に復興商業地区なんてのは簡単に建てられるわけで、パウルも助かってるという。
物資も潤沢に供給され、とりあえず現状は略奪行為といったような事もない……わけではないが、目立って問題になるほどの事象にはなっていない。
とにかく、街を復興させ、安全にして、強い民主主義政府を作り、欧州に散っていった難民を元の地に返すこと。
これが成れば、概ねこの作戦は成功であるし、連合日本にヤルバーン州のお株も上がる。つまり今後の各国との連携も『銀河連合日本国・ヤルバーン州』としてこの地球世界でもイニシアティブを取っていくことができるだろう。
ということでそんな状況になっていく日本。
ティエルクマスカ連合議員である柏木真人とフェルさん大臣は、総理官邸会議室に呼ばれていた。
「総理、三島先生、おはようございます」
『オハヨウございます、ファーダ』
と部屋の扉を開けると、そこには久方ぶりで、かつ、こんな総理官邸では見慣れない顔もいたりする。
「……って、え? 山本さん!?」
「お久しぶり、柏木さん! あ、いや、柏木連合議員閣下ですかな」
『はり? コーアンのケラーがどうして?』
「まさか総理、最後の最後で何かやらかしたんですか!? あ、もしかして三島先生の方」
そんな事をのたまう柏木先生。三島がゲラゲラ笑っている。んでもって背後から
「んなわきゃねーだろ柏木ぃ」
と言いながら白木に新見が入室してきた。
呼ばれたはいいが、こんな大層な顔ぶれになるとは思ってみなかった柏木とフェル。
早速皆着席し、本題へ入る。
「で、皆さん。現状イレギュラーな形で私は総理という職を少々延長して努めさせてもらったわけですが……今月中に予定通り私は退任します。皆さん、今まで色々とありましたが、ここまで色々ありがとうござました」
と頭を垂れる二藤部。そう改まって言われると、何か寂しい物もあるし、あの四年前の騒動が、なんだか随分昔の事にようにも感じられる。それに何よりも、本来ならありえない存在。フェルという異星人閣僚がチョコンと会議室に座り、何の違和感もなく、もう日本の政治に文化にと共存してしまっている。
どっちにしろ、二藤部内閣は、今後の日本の歴史に残る内閣になるのは間違いない。
だが、今回の顔見世のような会議は、今後の新たな展開とも言える政策を行うための作戦会議でもあった。
「……で、次の総理には、いろんな方が立候補すると思いますが、今はそれはいいでしょう。ただ、総理候補者には全員に今回の会議の件は伝えてあります」
と、不敵な笑みを浮かべる二藤部。
「で、総理、一体今回の会議って……」
と怪訝そうな顔をする柏木。
「わかりませんか? 柏木先生」と親指で山本をクイクイと指差す二藤部。
「?……あ、もしかして! 情報省ですか!」
ご名答と言わんばかりに頷く二藤部に三島……
此度、グレヴィッチの言葉に乗る形で件の作戦に参加し、大々的な集団的自衛権ともいえなくもない行動を起こした日本国。とはいえ基本連合防衛総省の事案となっているので、日本国が主体となっているわけでもないのではあるが……
ただ、問題は日本だけならまだしも、ヤルバーン州も今回の件で地球世界の内政に少なからず関わったということもあって、今後のヤルバーン州は、その地理的な関係もあり、本国のイゼイラよりも日本との関わりのほうが大きくなっていくだろうという話になっていく。ま、これはある種当然といえば当然だ。
ということで、現状ヤルバーン州と日本との唯一ともいえる統一意思決定機関が、いかんせん秘密結社的な件の組織、『安保委員会』しかないわけで、今後の大きな両国内政上の予想される展開を考えると、この安保委員会に代わる正規の組織を政府内に作らねばいかんだろうという話にこれも当然そうなるわけで、そこで考えられていたのが二藤部が政権最後に今後の一手として放ち、退陣しようという『情報省設置計画』であった。
この情報省、一〇年後の世界でも語られたように、白木や山本ら間諜組が中核となった日本初の本格的インテリジェンス組織となる。
実働部隊も設置。だが、各国のインテリジェンス組織と大きく異なる点は、基本『情報省』という名称は、カモフラージュ的な名称であって、その実態は『安保委員会』そのものである。なので、特定の部署には民間人選抜者に、指定協力外国人、ヤルバーン州・ティ連側担当スタッフも置かれるという、ティ連事案を決定するためのかなり大がかりな、かつ秘密事案も扱う省として設置する予定なのである。
今回の会合は、そのあたりで……という話。
「あと、私が退陣後の、今後の人事についてですが……フェルフェリア先生。貴方にも次の内閣で要職についてもらうことになります。これは総理候補者全員にも内々に打診していますので」
『ハイですファーダ。畏まりましたデスよ。で、私は次どのような役職になりそうデスか?』
「ええ、おそらくは三島先生の後釜というわけではありませんが、外務大臣をやっていただくことになります」
「よろしく頼むよ、フェル先生。先生が外相やってくれれば、今後ティ連や地球各国とのやりとりもしやすいや」
『ハイ。わかりましたデス……ではマサトサンは?』
「ええ……それなんですが……」
その話が出ると、ちょっち頭をかき、困惑する二藤部。
「え?……なんですかなんですか、総理。その雰囲気は! また何か企んでるんでしょ!」
「いやぁ……そういうわけではないのですが……言いましょうか、三島先生?」
「隠しても仕方ねーしなぁ……あのよう柏木先生」
「はぁ……」
「今すぐってわけじゃねーんだけどよう……先生には近い将来、日本の政治家やめてもらう事になるかもしれねーわ」
「えっ!!!」
『エ! そ、そんな……』
驚くフェルと柏木。とうとうお払い箱になるのかと。だが、白木や新見の顔を見ると、またなんかニヤけてたりで、山本の顔見てもクックックと笑ってたりで……
よくよく冷静になって考えると、先の言葉にも違和感を感じたり……
「『日本の』政治家を辞めてもらうぅ?……三島センセぇ、何ですか今度は! もうイヤですからね変なのはっ!」
「いや、別に全然変じゃねーぜ? そらすごい事を今から話させていただくんだけどよ……実はマリヘリイル閣下がな……」
そして、今後、今現在から六年後へと続く出来事。でもその言葉を聞いて、一瞬死んだ柏木先生。
その大元の事象が、なんともまぁ、かのメンチ某のグレヴィッチと、ヤル研が動かしたとは……なんともはや。
ヤル研秘宝館最後の展示物、いや影響物が、実は柏木先生の、かの役職になろうとは……
* *
そんなこんなのヤル研メンバー、柏木がこんな目にあっているにも関わらず、今日も元気に『瀬戸かつ』で会議。
鼻ほじりながら提案する技術者どもの今回のテーマ。
カレー丼食いながらホワイトボードに書かれるは、
【大戦中艦艇のシステムをティ連人さんに教えて、男の浪漫をする計画】
…………いっぺんこいつらは、公金横領罪か何かでシメ挙げたほうがいいかもしんない…………
銀河連合日本外伝 Age after ― ヤル研秘宝館 ― 『終』