表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
103/119

銀河連合日本外伝 Age after ― ヤル研秘宝館 ―  第五話

 二〇一云年、日本が銀河連合へ加盟したあの日より、丁度四年後の話。

 もしこれが、何かの軍事サスペンス映画であれば、ピピーピピッとかいうSE鳴らしながら、画面の左下あたりに、


【201X・某月某日 アラビア海ソマリア・モガディッシュ沖・云キロメートル】


 とか、こんなテロップがデジタル文字で表示されたりするか?

 

 その海中に身を潜めるは、某国の潜水艦……ではなく、我らが特危自衛隊『航宙護衛母艦かぐや』であった。

 流石に地球の潜水艦のように、「コーン・コーン」なんてアクティブソナー放ちながらの演出なんてのはない。そもそも空母状のバカデカイ物体が海中に沈んでいるというわけであるからして。

 しかも耐圧シールドを展開して海中をもぐっている。かの時『魚釣島事件』で見せたあの機能の再現だ。

 推進機関は空間振動波機関。従って音すらしない。実のところ世界中が一番恐れる艦艇が、実はこの通称『宇宙空母カグヤ』なのだが、恐れられている割には観光地の目玉でもあって、船内の施設はもうどんなものかみんな知るところだ。なので恐れられると同時に世界中にファンがいる意外と愛されてる船だったりもする。


『耐圧シールド順調に作動中。格納庫試製潜水強襲機動兵器【海襲かいしゅう】エレベーターにセット完了』

「海襲、甲板上げ!」

『甲板上げヨウソロウ』


 耐圧シールド内の甲板に、何やら胴体が耐水形状になった頭部のないような人型機動兵器が、うつ伏せ状態でせり上がってきた。

 頭のない潜水型機動兵器といえば、アノ頭部にサイロを環状に装備したアレを思い出すが、このマシンはそこまでアザとい機動兵器ではない。別に外部モニターはピンク色には光らないし、妙な蛇腹構造の腕部や脚部を持っているわけでもないが……マニピュレーターは刺突の爪形そしてその中には機関砲やブラスターキャノンが内蔵されている。とはいえ、そんな簡易潜水艇のような本体デザインであるからして、ロボット型として直立した際の頭頂部には魚雷発射管を兼ねた多目的サイロが数器あるわけではあるが。


 背面には小型の潜水艦ブリッジ部のような構造物があり、そこから潜望鏡やセンサーが伸びて海上を探ることができる。

 搭乗員数は最大二名。直立時の全高は一五メートル程。設計試作したのはヤル研のアh……優秀なるロボット工学部門の精鋭達だ。

 この『海襲』という名前はヤル研内部の通称である。旭龍の海自仕様開発の際、水中機動試験用にこの機体が開発・使用されて、各種データを採った。本来この機体はそういった目的のために製造された二次開発研究物件。それ以降の研究を保留されていたものなので、年式コードがない。なぜそんな試作も試作の研究物がこんなところでカグヤに搭載されているか……それは自衛隊の裏技『員数外』として扱えるからである。つまりは『なかったこと』にできる兵器だから……ということらしい……


 『海襲』は腕部と脚部を半収納した状態でエレベーターから甲板に姿を現す。するとカグヤは停船し、海襲を毎度のトラクターフィールドで持ち上げ、シールド外に搬出する。

 シールド境界を超えて持ち上げられた海襲は、ザボンと上部天井に当たる位置でそんな上下内外逆になる構図の水しぶきを上げて海中に放出される。


「海襲、各種機能、機器チェック」

『カイシュウ、各部チェック。オールグリーンでス。耐圧シールドも順調に稼働中』


 日本人自衛官と、イゼイラ人自衛官がコンビを組むこの兵器。日本人がメインパイロットとして、操縦・戦闘などを担当し、イゼイラ人側が、パイロット制御外の兵装制御に各種機器センサー監視を行う。


「よし、では状況開始するぞ。これから俺達はアフリカにあるソマリア・アデン・アッデ国際空港近郊の港に顔を出す」

『了解でス。それで威嚇作戦を行うのデすね』

「そうだ。で、ついでに宣教軍の連中がいれば……っているんだけど、ついでで損害与えてこいってさ」


 彼らの受けた任務。この海襲をソマリアの空港近くに上陸させ、早い話が宣教軍に姿を堂々と晒してビビらせてこいという作戦だった。

 ついでに戦闘して威力偵察もできればお願いね。という話らしい。

 このソマリア・アデン・アッデ国際空港というところ。ソマリアの沿岸部にほど近い海沿いの空港である。近くには大きな港がある。

 現在、ソマリアは、この四年後の現在においても【ソマリア連邦政府】【プントランド】【ソマリランド】という氏族間の勢力で内戦状態が継続しており、更に現在ではソマリア連邦政府の支配地域約半分以上を地域イスラム武装勢力と結託したSIS・宣教軍が支配するに至っており、連邦政府も瓦解寸前である状況であった。これはプントランド勢力やソマリランド勢力も同様で、世界最悪の治安最悪地域を通り越して、無政府状態すら生ぬるい、もうそれこそ世紀末救世主の出てくる拳法漫画の時代のほうがマシではないかというような人道を無視した魔空間が展開している状況にあった。

 そんな場所へ殴りこみをかける特危自衛隊とヤルバーン州合同軍。

 現在SIS・宣教軍の事実上の物資流通基地となっているこの場所を潰す先遣隊として、カグヤが送り込まれていた。


 さて、この四年後の世界。地球内での運用は行わない、そして地球内内政干渉はしないと決めていた特危自衛隊とヤルバーン州軍であったが、半年間の紆余曲折あって、その自らに課した決まり事を特例で解き、なんと、国際有志連合軍に参加していたのであった。

 では、特危自衛隊は日本国が運用しているのか? という話になるが、今回日本国が国際有志連合軍へ参加させているのは、現地復興、後方支援として陸上自衛隊。有志連合軍の補給支援として海上自衛隊。同じく空中給油、空輸等の後方支援として航空自衛隊を参加させている。

 これはもう今更だろう。あいも変わらず与野党スッタモンダあった上での参加決定だが、まあ陸海空の自衛隊はそれでもなんとかなった。四年前に制定された新安全保障関連法があったおかげで、それ以前の同じような事態に比べればまだすんなりと自衛隊派遣は決定した。

 だが、問題になったのは現在の日本国第四の自衛隊、特危自衛隊の取り扱いだった。

 特危自衛隊は、日本国の陸海空自衛隊と違い、専守防衛組織ではない。その地位としては現在『ティ連太陽系軍管区司令部』と同等組織として扱われている。即ち、「自衛隊」と銘打ってはいるが、純然たる軍隊なのである。ただ、内外の政治的な理由で『自衛隊』となっているのは、『地球内の内政・紛争・戦争には関与しない』としていたため、連合加盟の国内条件等々のからみもあって、国内野党へ対してもこういった組織を納得させていたのではあるが……

 此度は体裁上、連合防衛総省派遣という形で、ヤルバーン州から日本政府へ特危自衛隊の有志連合軍参加を要請するという形をとった。

 無論、コレに対して民生党や日本共産連盟他リベラル系政党は大反対の合唱で、ヤルバーン州知事閣下へ平和憲法の某をヴェルデオへ説きに行くという芸を晒すわけであるが、逆にヴェルデオから……


『あのような残虐非道な組織を放置してまで自国の平和法制を守りたいというのなら、それはあのテロに対して無関心だと言っているのと同じことだ。私達は何も戦争をしに行くのではない。「犯罪者」を凝らしめにいくだけだ』


 と言い返し、世論もこのヴェルデオの言を支持。それでもまだ反対する野党。で、あまりに煩いので、二藤部は連合防衛総省事案にすると、ヴェルデオとの連名で『体裁上』取り扱うことを決定。幸いなことに連合防衛総省も、このSIS関連テロ組織を連合内重要犯罪組織として登録していたので、それが幸いして『域内治安維持活動』というレベルでの軍事力派遣を決定し、特危自衛隊に命令を下した。

 この『域内治安維持活動』というレベルでの派遣は、所謂連合防衛総省軍を警察部隊として派遣する最低限の軍事派遣レベルである。このレベルであれば、特危自衛隊。即ち太陽系軍管区司令部軍の派遣を地球世界内で行っても、まあ問題無いだろうという判断でこのような形になった。

 この『域内治安維持活動レベル』という基準。即ち、その域内を担当する国軍の防衛総省即時派遣部隊のみで対応しなさいというレベルで、即ち地球で言えば特危自衛隊とヤルバーン州軍で対応せよという話なのである。何も難しい話ではない。ただ、あくまで『治安維持の警察活動』という名目なので、犯罪者は基本逮捕という条件がつく。つまり投降者は逮捕しないといけない。

 射殺を含む攻撃行動は、向こうから攻撃され、警告を無視した場合に限られるわけで、ままとりあえずは……


『わかっているとは思いますガ、とりあえず相手の攻撃を食らってからでないと、反撃できませんからね』

「はは、それを「自衛官」に説くかよ。とりあえず相手の攻撃待つのは俺達の十八番だよ」


 そんな冗談を言いながら、『海襲』は、一見すると深海潜水艇のような機体を、耐圧シールドを水中で揺らしながら、一路ソマリア沿岸向けて進んでいく……



 数十分後、アフリカ大陸・ソマリア。ソマリア連邦政府勢力内アデン・アッデ国際空港近郊のとある港湾に接近する海襲。

 ソマリア連邦政府は、現在内戦状態にあるソマリアにおいて、世界から唯一正当政府と認めてもらっている勢力である。

 ただ、この域内には以前より地元の原理主義武装勢力が政府と対峙しており、域内のかなりの部分をその勢力範囲に納めていたが、この武装勢力がSIS・宣教軍と合流し、更なる勢力へ拡大。現在連邦政府は瓦解状態となり、隣国ケニアに亡命政府を置く事態となっていた。


 ということで、そんな情勢のこの世界。特危自衛隊海上宙間科管轄・防衛省、防衛装備庁ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所。早い話が『ヤル研』所属の水陸両用機動兵器『海襲』は、米軍の上陸部隊を支援する先見威力偵察行動という事で、現在ソマリア沖約数キロメートルの海中に潜んでいた。

 海上からニョっと突き出される潜望鏡。この時代に潜望鏡で沿岸を覗くというのもアナログだが、海襲の場合は、次の行動の為には、この行為が欠かせない。


「ヴァルメの情報は?」

『送りますネ……これです』


 潜望鏡とはいっても、何も帽子のつば後ろに回してスコープ覗き、というものではない。パイロットはVMCモニターを覗きながら、ヴァルメのデータと比較し、上陸コースの詳細を検討する。

 後ろのイゼイラ人コパイと話し合った末、コースを確定すると……


「よし、海襲沿岸地域の直立可能地点まで接近。その後直立歩行にてテロ組織施設に対し攻撃を行う」

『ハハ、ちゃんと正当防衛でお願いしますネ』

「あ、そうだな。忘れてた」


 苦笑するパイロット。


「よし、では行こうか。この海坊主の姿晒して威力偵察といくか」

『カイシュウ・ダウンにはならないように』

「はは、あの映画観たのか。この機体がそんな風になるかよ。あのヤル研のヲt……ゲホゲホ……ヤル研特製機体だぜ」

『デモ、これって三年前の機体デスから、地上での放熱効率がまだあまり良くない頃の機体でス。地上での稼働時間がありますから気を付けてくださいネ』

「了解だ。では速度最大。上陸開始、上陸開始!」


    *    *


 ……その港湾、カラシニコフライフルを構えたヒゲ面、目出し帽にベレーを被った男。中にはこんな状況で何に使うのかRPGランチャーを持つ男もいる。

 そのほとんどが黒人かアラブ系だ。まれに白人が見える。義勇兵を気取った元失業者やら、変な宗教観に傾倒した、愚か者達だろう。

 日本製の中古も中古のランクルに乗り、港湾周囲を見まわる連中。港には地元労働者が働く。

 カンカン照りの天気の元、銃を持つ男が労働者達に因縁を付け、何やら言い争っていたり。

 だが相手は基本このあたりを勢力下に持つテロリストだ。地元の労働者達も不本意ながら従っているにすぎない。

 扱う物資は、おそらくその殆どが武器弾薬に違法輸入品。違法輸出品もこういった場所から海外へ密輸されていくのだろう。

 そんな港を見張る黒人テロリストの一人……タバコに火を付け沖を眺める。今日も港の喧騒賑やかで、カンカンとりつける日光に目をしかめながら、一息入れたいといったところか。

 すると彼は見慣れた沖の海が、なにかおかしいことに気づく……妙な航跡がものすごい速さでこちらに近づくのが見える。

 まさか鯨か? と思うが、こんなアフリカの、しかも沿岸に鯨なんかくるものかと彼は思うが……だんだんとその航跡が近づいてくると、これはやはりおかしいと彼は気づく。そして海面が盛り上がり、その航跡は大きな海水の山となり、海面を驀進してきた。

 その黒人は加えていたタバコを捨て、仲間に何か妙なものがやってきたと大声で叫び、味方へ伝達しようと走りだす。

 再度彼が振り帰った時……その界面から姿を見せるは、頭のないモンスターのような姿の巨大なヒト型。

 潜水艇を直立させたような胴体と頭部が一体化されたようなものから、洗練されたユンボのような腕が伸び、その二本腕を前につけ、脚部を伸ばし、直立する。まるでその姿はゴリラのようなイメージと海坊主を足して2で割ったような姿だ。ままおおよそティ連純正の洗練されたデザインではない。これはどう見ても地球人の意匠である。


 そう、これが水陸両用の潜水上陸強襲機動兵器『海襲』であった!


 戦闘ヘリに付いているような、集合センサー部がターレットに沿って左右に動き、周囲を探る。海襲はその港湾施設のコンテナを蹴り飛ばしながら、全長一五メートルの巨体をウォンウォンと音させ歩き出す。

 周囲は一体何が起きたのか、どこからともなく警報が鳴り響き、周囲は悲鳴に怒号が飛び交い始める。

 港湾施設の倉庫だろうか? そんな建物の屋根から潜水艇の舳先のようなものが見えると、さらに辺りは大事となり、労働者達は逃げまどい始めた。

 

「いや~、やっぱそうなるよな」


 と軽い口調で話すパイロットだが、顔は笑っていない。

 立体映像にチラチラと日本語とイゼイラ語のシステム文字が重なるコクピット内部。

 

「おい、テロリストどもと、一般人の分別、よろしく頼むよ」

『ハイ、そこはお任せくださイ。カグヤのシステムに繋げていますので大丈夫ですガ……』

「わかってるよ。なるべく巻き添え食らわさないようにはするけどな。よし、センサー作動させてくれ」


 立体映像に武装車両や、武装兵士が四角で囲まれ、武装をしていない人物はバツ印がつく。

 それはもう芋の子洗うような大勢の人がいる港湾施設だ。バツ印のついた人々は、我先に逃げようとし、避難方向へバツ印の流れが出来上がる。

 四角で囲まれる武装した目標は、分散はするが、基本『海襲』を取り囲むような動きを見せる。


「ほお、こいつを見てまだ攻撃態勢を取れるか、感心感心」

『ホラ、そんなのに感心してないで。作戦開始しますヨ』

「了解。オペレーション・WTFC開始だ」


 オペレーション・WTFC。即ちワールド・タスクフォース・コンベティション。柏木先生が考えた作戦名だが、特危隊員はぜってー日本的略称で呼んでやらねーという話。なんでこんな名称にするかなぁと。

 だが、実際今作戦はその名称通りの作戦だ。LNIF国家を主軸にした国際有志連合軍が純粋な地球の悪であるSIS・宣教軍に対し、確固たる意志を叩きつける作戦である。

 それまでは歴史上最大のテロ組織であるがゆえに間接的関与はあったとしても、積極的な直接関与はなかった。だが、ロシアのグレヴィッチ大統領との接触で顕著化したこの事態。米国もロシアへ協調するという地球的には異常な事態にまでなった問題。

 これもヤルバーンという存在が地球に飛来して、光が見えた事でもあった。

 さて、世界はこの地球最大の悪に対して、どう挑むのだろうか?


「よし、では確認するぞ。目標は車両全般に敵弾薬庫。対空設備、対装甲車両装備を施している兵士だ。それらを可能なかぎり攻撃。攻撃状況は逐一カグヤへ送信。威力偵察を行う……って別にこいつでなくてもいいんだが、ま、言ってみりゃビビらせ作戦ってところでもあるな」

『了解でス。では本機の機動はお任せいたします。私は目標を選定しまスので……では事象可変シールド作動』


 ガシガシと前進を開始する海襲。そのユンボのような、というには工業ロボット的な洗練された腕部がクイクイと動き、その爪上のマニピュレーターに内蔵された重機関砲にブラスターキャノンを作動させる。

 敵のテロリストはその挙動に対し敏感に反応し、海襲を囲むように展開する。

 テロリストの視点で見れば、何か異常な化物のような巨大ロボットがうごめいている訳だが基本一機だ。ランクルや戦車戦闘車両に、携帯対戦車兵器を担いだ兵士達が展開し、何の躊躇なく海襲に対して発砲してくる。


「الله أكبر!!」


 アッラーアクバル。神は偉大なりと叫びRPGや火砲を海襲に浴びせるテロリスト。

 その弾道は見事海襲に命中。海襲は成形炸薬弾の爆炎に包まれ、ドカドカと爆炎をまとう。


『海襲敵性体からの攻撃を受けまシた。正当防衛条件成立。自衛攻撃行えます』

「了解。では目標指示送れ」

『目標指示しまス』


 海襲はもちろん事象可変シールドを展開し、RPGのような対戦車榴弾や対戦車徹甲弾の攻撃など物ともしない。

 コパイのイゼイラ人は、まず目標に火砲を搭載した車両を選定する。パイロットのホロモニターに赤い枠で囲まれたトヨハラの改造ランクルに、BMP-1歩兵戦闘車、T-72MやT-55を多数マーキングする。

 海襲はクイクイと左部マニピュレータを動かし、装備されたM230機関砲の照準を合わせ……ドドドと一斉射。

 着弾煙がミシンの縫い目のように地面に建造物を貫き、トヨハラの改造ランクルに命中する……爆炎上げて吹き飛ぶランクル。

 次に右部マニピュレータが狙うのは、T-72主力戦車。海襲が狙いを定める前に、再度砲撃を食らう。

 ゴワン! と機体を揺さぶられる海襲。


「おわっ! っと、くそっ。やっぱ一二五ミリ戦車砲はマズイな! テロ屋があんな戦車持ってるって、どういうことだよ」

『まだ距離がアリますから大丈夫でス。早く照準を!』

「了解……くらえっ!」


 鈍い電磁音を轟かせて、粒子弾を徹甲モードで速射する海襲。三発連射したソレは、見事に三発命中し、砲塔をボンと吹き飛ばして爆散させた。


「思った以上に敵さん戦力豊富だな。ちゃんと映像送ってるか?」

『問題アリマセン。大丈夫です』


 と、海襲はその武装で片っ端からまとわりつく敵戦闘車両に銃火器歩兵を蹴散らしていく。そして先端のユンボに搭載されているような爪状のマニピュレータで、武器庫とおぼわしき倉庫などの建造物を片っ端から破壊していく。

 マニピュレータで掴みあげたRPGの束を敵めがけて投げつけてやったりと、大暴れだ……すると、一際甲高い警報がコパイのモニターを赤く染めて大きく鳴らす。


『機長。マズイです、戦闘へりこぷたーがこちらへ向かっています』

「なに!? 戦闘ヘリだって? 形式は」

『コレです』


 機長のVMCモニターに送る映像は、Mil-24・ハインドDだ。


「うお! テロ屋こんなの持ってるのかよ! って操縦できる奴いるんだ」


 恐らく、どこかの政府軍パイロットで、テロリストに鞍替えした類の奴らが乗ってるのだろう。こういう人材はテロ組織でも非常に優遇され、高額の報酬が渡される。この金額に目がくらんだ正規軍パイロットも結構いると聞く。要するにカネに目がくらんだクズだ。


『対戦車ミサイル警報! キますよ!』

「チッ!」


 海襲は緊急推進システムを噴射し、横っ飛びして対戦車ミサイルをかわす。

 この手のテロ組織が鹵獲する兵器は、まま先進国からみれば旧式が多い。従ってこういった対戦車ミサイルも有線テレビ誘導方式がほとんどだ。従って高機動性能があれば、躱すことも可能である。

 一見鈍重に見えるこの海襲も、そういう点はロボット型の機動兵器で、そのような緊急回避手段も装備している。


「対空ミサイル装填!」『対空みさいる装填しまス』


 ポポポと音鳴らし、プーと照準が合うと、頭部の魚雷発射管のようなサイロがパクンと開き、ドシュと対空ミサイルが垂直発射される。真上に飛んだミサイルは、即座にクンと九〇度水平に角度を変え、Mil-24へ向かって加速する。

 Mil-24はフレアーをばら撒き回避しようとするが、海襲に積んでいるミサイルは、そんな赤外線誘導方式ではない。質量感知式誘導システムという性悪な誘導方式を採用している。従って特定目標の質量、所謂『重さ』を正確に把握し誘導するので、フレアーなんぞ巻いても意味が無い。

 無論ミサイルは一直線にMil-24に吸い込まれ、ヘリを爆散させる。


「流石に今のタイミングで対戦車ミサイルはマズかった。シールドっつっても、三年前の開発レベルな機体だからな、こいつは」


 初っ端の攻撃は何とか躱せるが、ここまでで断続的に攻撃を受けまくってる為、シールドパワーが少々降下していた海襲。ちょっとマズいタイミングでの対戦車ミサイルだったようだ。

 ……その後、海襲はテロリストの港湾倉庫を破壊し、空港北東部の対空防御施設を急襲。南西部の施設は米軍の巡航ミサイルが急襲。海襲はティ連技術に物を言わせた耐久力と攻撃力で港湾物資の破壊に重攻撃力の無効化、及び敵勢力下のテロリスト展開情報と、民間人の状況を逐一カグヤと米海兵隊へリアルタイムで送信し……


『機長、時間デす。放熱時間限界に近づいてきていまス。そろそろ海中に戻らないと』

「了解。退路は確保できてるか?」

『問題アリマせん。というか、かなりヤリスギてるような気がしないでもありませんが……ハハ』


 実際、海襲が暴れて実力を見せつけると、海襲を仕留めようとテロ連中が集中攻撃を仕掛けるが、こうまで反撃を受けると連中は簡単に撤退を開始する。要するに尻尾巻いて逃げるのだ。

 ここが正規軍とテロリストとの違いで、ある意味腰抜けともいえるし、所詮犯罪者集団であるからして、何かを守らなければならないというものがないので、自由度が高いとも言える。


 その後、海襲はかなりの時間、さんざん暴れまわった後海中へその姿を没する。

 更にその後、沖で待機していた米海兵隊の本格的な上陸作戦が敢行された。海襲が送った威力偵察データは大いに成果を上げ、まま威力偵察という行為を逸脱した海襲の活躍もあって、アデン・アッデ国際空港を確保することが出来た。

 今後のソマリア方面への作戦展開は、この空港を中心として基地化していくことになる。

 だが、ここでテロリストを舐めてはいけない。こういう状況で一般市民を先導して、デモを発生させたり、それに乗じてテロ攻撃を行うのがこの手の連中の常套手段である。

 従って圧倒的な戦力の差を魅せつける必要がある。なので……当面状況が落ち着く間、カグヤがアデン・アッデ国際空港上空に待機するという事になった。

 こんなのが空中に延々浮いた状態であれば、テロ組織もそうそう手を出してこないだろう。というか、防衛用ヴァルメを秘匿モードで周囲に展開させれば、そうそう攻撃されてもどうということはないわけでもある……


    *    *


 今作戦では、日本国政府の立場は、SIS・宣教軍支配地域における国連指定地域の復興も含まれている。そしてこの復興事業が、世界から実に期待されているところ大であったりもする。


「オペレーションWTFC。始まりましたね」


 官邸情報集約センターでモニターを眺める柏木連合議員。そこでは特危自衛隊情報科がVMC機器を持ち込んで、そこいらでVMCモニターが起ちあげられ、立体映像が宙に浮かぶ。まるで何かのSF映画作戦司令室の様相を呈している。さすがにこの様相はマスコミ連中には見せられない。機密部署情報集約センターだからこそできる風景だ。

 

『とりあえず、カイシュウサンの一撃は効果的だっタみたいでいですネ』


 フェルさん大臣も、一発目がうまいこといったので、とりあえずは安堵の表情。


「確かに。あんな強行偵察手段、聞いたことありませんよ、はは」


 と、とりあえずこちらも安堵の表情である鈴木防衛大臣。


「まあ名刺代わりには丁度いい任務だったんじゃねぇか?」


 とこちらも感慨深い三島外務大臣兼副総理。


「恐らく私の内閣で最後の大仕事となってしまった事案です。みなさん、よろしくお願いいたします」


 と二藤部総理。その通り任期もある。グレヴィッチもそこを見越しているのかどうかは知らないが、確かに任期終了前の仕事としてはやりやすい案件だ。なんせ二藤部自身は後を考えなくていい。それに後を任すにしても、任せられる安保委員会の人材が次を引き継ぐだろう。さほどの心配もいらない。


「……とはいえ、今回はSIS・宣教軍と戦争するわけではありませんからね。あくまで彼らは犯罪者にすぎません。何か主権を持った組織ではない」

「そうですね。そこがある種簡単そうでもあり難しいところでもあります……国際法では、ゲリラ組織に対しては問答無用で良かったのでしたよね? 鈴木先生」

「そうですね柏木先生。まあ、その組織の『質』によって少々扱いが変わるところもありますが、そのあたりは各国家のさじ加減というところが現実です。ただ、此度のSIS・宣教軍に対しては、どの国家も容赦なしでしょうが」

『でもマサトサン。我々日本国や、ヤルバーン州は、その「えすあいえす・せんきょうぐん」の勢力下から民衆の皆様を解放差し上げた後の復興事業で、各国家の皆様から期待されているのですよネ』

「そうだよフェル。そこんところはぶっちゃけ、ハイクァーン的な所ってやつだけどね。これも今後のこういったテロ組織拡大防止の重要なところだからね」


 貧困がこういったテロリストを増やしてしまうという話。残念ながらこれは事実だ。

 一般に、マスコミやインテリジェンスの指摘するところでは、こういう組織として確立したテロ組織が、構成員に支払う給与というものは、現地人構成員で約月給二万円弱。外国人構成員で六万円程と言われている。日本人の金銭感覚ではそんなに多い額ではないが、当地の物価比で見れば、その金額の価値は、およそ一〇倍ほどに考えて良いだろう。即ち当地的に見れば、これでもかなりの高給なのだ。ということは、その金額につられて入隊してしまう人々もそれはいるだろう。それに意外と手当もあったりするわけで、『誘拐拉致手当』『自爆手当』『異教徒殺害手当』『戒律違反者逮捕手当』のようなものもあるらしい。無論自爆手当は自爆した構成員の遺族に支払われる金銭である。

 そりゃこんなに金くれるのなら、地道に働くのもバカバカしくもなる。ということは、貧困であるが故に、その貧困者層を宗教教義とそんなに高くもない金で釣ればいくらでも徴用することが出来るわけで、こういったシステムが、言ってみればほぼ無尽蔵のテロリスト構成員補充システムとなっているわけである。


 時に現代の戦争とは、こういったテロリスト。即ち政治犯罪組織との戦いと言われているが、第二次世界大戦が終了し、朝鮮戦争、ベトナム戦争を経て、先進各国は所謂『大量無差別殺傷』を前提とした戦争をやめてしまった。市民の人権やら、兵器の高性能化で軍事施設をピンポイントで狙える技術が確率したことにより、一般市民を巻き込む戦闘を忌諱するようになった。だが、残念な事にこういった先進国の倫理的戦争方針が、テロリストを生む温床となっているのである。

 ベトナム戦争以前の戦争。人類は有史始まって以降、戦争というものに対して明確な勝敗を決定づけるものは何かといえば、『侵略』であり『征服』であった。即ち『勝者が全てを支配し、敗者には隷属もしくは皆殺しあるのみ』である。考えても見れば、これがその戦後における次の戦争の芽というものを防いできたシステムだったともいえる。こういうシステムは時の思想やイデオロギーに科学技術を加えて、第二次世界大戦を経て、ベトナム戦争までこのシステムを続けてきた。

 だが、冷戦が終了した現代、湾岸戦争以降の戦争では、先の『人権』『兵器技術の発達』によって、人的被害を抑える最小限の攻撃で最大の成果を得る手法が主流となっていくが、こういった戦争の仕方になってから、明確な戦争の『勝敗』が無くなってしまったともいえる。即ち国家の『主権』が敗北し滅んでも、そこに住む『国民』は普通に存在するわけであって、『国家主権』が無くなってしまった分、残った国民が報復を企み、武器を取り、ゲリラ、即ちテロリストへと変貌する。

 即ちテロリストの予備戦力とは何であるかといえば、『戦争』であれ『内戦』であれ『政治的弾圧』であれ、その結果残された敗残勢力そのものであるわけであって、そう考えると、金と相手をたぶらかすイデオロギーさえあれば、連中の兵力はある意味無尽蔵でもあるといえる。


 これをもっと端的に表現すれば、【戦争や弾圧で皆殺しすることをやめたから、行き場のない貧しくなった大量の敗残国民がテロリストに変貌して、犯罪者となる】と言い換えることもできるのである。


 こう考えると、皮肉なことに昔の戦争のやり方における『勝者』の方が、戦後の発展をより良くしてきたともいえるわけで、むしろ『優しい戦争』をしている現代人の方が、戦後をより悪くしている場合の方が多いという理屈になってしまう。

 つまるところこれを結果論的に、そして端的に言い表わせば、『貧しいからテロリストになる』という言い方出来るわけなのである。


『ソウですね。私もチキュウに来て、その点も調査しましたデスけど、皆様の仰る通りだと思います』

「ですね。身近な話で例えれば、『金が無いから悪いことをしてでも生きていく金を稼ぐ術がほしい』というのは、古今東西、犯罪者の道へ足を突っ込む常道ですよ」


 フェルと柏木が納得する。そして……


「戦争するなら完膚なきまでに相手を叩き潰したほうが、後の為になるという理屈は認めたくありませんが……確かにそれが現実ですもんね」


 と難しい顔をする柏木。だから、『戦争とは始めるよりも終わらせるほうが難しい』と言われる所以なのである。


『では、そのような「優しい戦争」の犠牲者となった、貧しい方々を貧困から最低限お救い差し上げれば、SISのような組織の肥大化は防げるというわけデスね?』


 それが全てではないが、防ぐ大きな手段にはなると話す二藤部達。


『ナルホド、わかりましたファーダ総理。では本作戦で奪還した勢力圏に対して、徹底した近代化措置をその地域に行い、物資を溢れんばかりに提供するよう、ヴェルデオ知事に私から進言してみましょウ』

「よろしくお願い致しますフェルフェリア大臣」


 とはいえ、流石にハイクァーン機器そのものをくれてやるという大盤振る舞いは流石にできない。従って物資の大量供与という方針だ。

 これは米国が、かつて第二次大戦後の孤立した西ベルリンに対して同様の作戦を行い、大成果を収めた事がある。だが流石にアフリカ大陸の、SIS・宣教軍から取り返した広大な勢力圏に地球社会が同じことをするにはあまりにも無理があるのだが……ティ連・イゼイラ・ヤルバーン州なら、確かにそれは出来る。

 フェルの方を見てニンマリ笑い、頷く諸氏であった……


    *    *


 特危自衛隊の投入した試作兵器、潜水強襲上陸型機動兵器『海襲』によって、オペレーションWTFC第一段階、SIS・宣教軍の基幹経済基地であるソマリア沿岸地帯の威力偵察。そしてその後の米海兵隊による強襲制圧攻撃。そしてカグヤ滞空待機による監視防衛と、陸上自衛隊と米軍による現地人を味方につけるための超がつく大規模物資搬入生活支援作戦。

 この一連の作戦を流れるように行う日米ヤ連合軍。

 空港はヤルバーン州軍の工兵部隊により、ハイクァーンを駆使してたちまち整備され、一〇機ものデロニカに、米軍輸送機部隊が大挙して押し寄せる。

 もう何か国家規模のバーゲンセールでもやるんではないかといったような物資を大量に持ち込み、いつでもこのアデン・アッデ国際空港近郊の近代化を一気に行える準備を整えていた。

 んで、この近代化支援工作の任につくは、やはりこの人。


『これはまた雑然とした町並みねぇ……話には聞いていたけど、内戦の影響も相当なものね。こりゃやりがいがあるわ……でも、なんというか……あっち~場所よねー』


 黄色い安全ヘルメットで首に手ぬぐいかけて、いつもの妖精魂Tシャツ迷彩バージョンを着用。ニッカズボンに革手袋のパウルかんちょが米軍輸送トラックの天井に腕くんで仁王立ちで立って米兵と共に移動していたり。二年前のMHE宇宙船の某もあって、パウルは米軍からも破格の待遇を受けており、名誉海兵隊大佐の称号をもらっているのである……二年前にサンフランシスコ名誉市民の称号とともにもらったらしい。

 

「マァム! 日米ヤ共同の物資集積区画に到着致しました!」

『あ、ありがと。相乗りさせてもらって悪かったわね』


 屋根から飛び降りるパウル。


「いえ! どういたしましてマァム! 他に何かありましたら何でどうぞ!」


 輸送トラックのスタッフである上等兵が妖精魂Tシャツ来た笹穂耳の美人マァムに不動の敬礼で応じてたり。


『そうね……じゃあ、あそこの物資だけど、ショウギョウ施設っていうのを作るのに早速必要だそうだから、あっちのゲートへみんなして移動させてもらえないかしら……あの「ふぉーくりふと」っていう機械使えるんでしょ?』

「アイ・マァム! おいお前たち、パウル大佐殿のご命令だ! あの物資を!…………」


 名誉大佐だからといって、別にパウルの命令なんか聞く必要ないのだが、みんなホイホイ聞いてしまうわけで……ままそんだけパウルかんちょ、人気があるということでもある。


 ……さて、そんな感じでソマリアでの第一段階が順調に推移する状況。場所は変わってナイジェリア沖。

 特危自衛隊とヤルバーン州軍を含む米軍・ロシア軍・NATO軍・他LNIF陣営各国軍、一部CJSCA陣営軍らの連合軍艦隊が集結し、ナイジェリア北部の町『マイドゥクリ』の宣教軍大規模拠点を急襲する作戦の準備段階だった


 ……ちなみに今『作戦』に中国軍と韓国軍。参加してはいるが、日本・ヤルバーン州軍との連携作戦は行われない。つまり離れた別地域での小規模活動に留まっている。

 中国も、親中国家の多いこの地域、SISテロ問題は正直頭を抱えていたのも事実で、なんせウィグル地区での戦闘も未だに散発ではあるが発生している。そういうこともあって、LNIF陣営の尻馬に乗って解決できそうなのも事実なので、そんな現実に複雑なとことろもあったりする。まあ中国らしい方針だといえばそのとおりではあるのだが。

 韓国は、正直例の旅客船事故や、殺虫剤問題などで政府の信用ガタ落ちで、国民が今作戦へ韓国軍の参加を反対したことが大きかった。まあ『自分の息子を、あんな危険な戦場へ送るな』『信用ならない政府に任せられない』とかいったところであろう。あと、下手に動けば、今回全くハナにもかけてもらえなかった北朝鮮が何するかわからないというのもあって、小規模の形だけの後方支援部隊を別の作戦区域へ送っていたりする。せめてこの参加で体裁だけは守ろうといったところであろうか。

 日本の場合、新安全保障法で陸海空の自衛隊派遣も可能ではあったが、そこはまだ国内の世論に野党の批判諸々もあって、後方支援と、他作戦地域でのテロリストにひどい目に合わされた地区の復興支援に活躍していた。そういう関係もあって、有志連合軍に参画して前線で活躍するは日本国特危自衛隊とヤルバーン州軍、即ち『ティ連太陽系方面軍』即ち『連合日本国と、ヤルバーン特別自治州軍』であった……


 世界各国の空母に強襲揚陸艦に巡洋艦駆逐艦等々の錚々たる雄姿がナイジェリア沖ギニア湾に展開する。

 その中でも一際異質なのが特危自衛隊海上宙間科航宙重護衛艦『ふそう』にヤルバーン州軍機動母艦『オオシマ』であった。

 さてこの『オオシマ』は、ヤルバーン州軍が国産という言い方もおかしいが、ヤルバーン州独自に開発した機動艦艇である。

 以前より州軍独自の艦艇が欲しいという話が出ており、ヤルバーン州が独自開発をコツコツしていた艦なのだが、此度この作戦が行われるということで、急遽開発ピッチを上げて、今作戦に合わせて完成させた新鋭艦であった。名称は、ヤルバーン州のお隣でいつもお世話になっている『大島町』から取ったという話。

 全長はカグヤより少し大きい七〇〇メートル程。パウルのヘイシュミッシュ級工作艦とほぼ同等だ。意匠は、典型的なイゼイラ形式の幾何学的デザインの形態だが、機動空母カグヤや、普天間浮遊大陸型基地の設計も踏襲しており、その形状は細長い箱型菱餅のような形状で、右端中央部に都市のようなブリッジが上下対象に生え、前後に貫く滑走路に、X状のアングルドデッキのような滑走路がこれに重なる。そしてこれまたそれが上下に張り合わさったようなスタイルで、これが軍用デロニカとふそうを従えて空中待機しているから勇壮なものだ。

 そんな海上大艦隊と海上二〇〇メートル程を空中に浮かぶ艦隊が同じ空間に存在するわけだから、これは歴史的とも言えた。

 ということでこの船の艦長はどなたかというと……


『アー、俺も現場で動きて~よぉ~……なんか久々の軍事作戦らしい軍事作戦じゃねーかぁ』


 ゼルエ・フェバルスであった。ヤルバーン州軍司令の大佐様であったが、いかんせんヤルバーン州軍も慢性的な高級将校不足なので、司令直々に駆りだされたという話。

 艦長椅子に座って貧乏ゆすりしながらんなことをボヤく。

 

『何言ってんだいゼルエの旦那、こっちにコレ乗ってこられただけでもメッケもんと思わなきゃさ。初めはアタシがこの艦の艦長やれっていわれたんだよ。そんなダストール人でも言わないような冗談みたいな話振られて何考えてんだいって話さぁ』

『でも俺の副官のおめーまで借りだしてよぉ。今よくよく考えたらヤルバーン州軍本部、誰が取り仕切ってんだよ』

『そこはほれ、知事と副知事様が、ちゃんとやってくださってるヨ。元ヤルバーン「探査艦」司令と副司令じゃないかい』

『はぁ、ま、それならいいんだがな。ファーダ・ヴェルデオと、ファーダ・ジェグリなら大丈夫か』

『それにファーダ・ナヨもいてくれるから問題ないよ。キッチリこの「オオシマ」の艦長やってくんな』

『わかってるよ……ってオイ、シャルリ。おめーもそろそろ出撃だろ、こんなところでノンビリやってていのか?』

『わかってるわさ。そろそろ行くよ』

『で、「ふそう」の、ラブラブパイロットお二人はどうすんだい。キョクリュウで出るのか?』

『いんや、今回はヤル研のケッタイな機動兵器使わされるって話だヨ。それと、例の……』

『ああ、確かアメリカ国とロシア国の新型機動兵器って奴か』

『うん、なんでもウチらティ連人が地球技術リスペクトしたヤツを「らいせんす」? ってのして造ったって兵器だそうだけどサ。旭龍とかほどじゃないそうだけど、かなりの完成度って事だそうだよ』


 とそんな事を新鋭艦ブリッジで話すゼルエとシャルリ。ま、指揮官と副官なのでそんなところである。

 話を聞けば、やはりかの技術を使った米国とロシアの陸戦兵器が完成し、この作戦にも投入されているようであった。でもってヤル研兵器も『海襲』に続く第二弾というところか。

 そんな今までにない信じがたい規模の兵器を投入する作戦が行われようとしている……


    *    *


 ナイジェリアという国。この国もアフリカでは相当に変わった国であるのは間違いない。なんせこの国では軍政と共和制が示し合わせたように交代交代で政治の座につくというような、そんな国なのである。

 第一次軍政・第二共和制・第二次軍政・第三共和制・第三次軍政・第四共和制と、こんな変な政権の交代の仕方であるからして、これもなかなかに個性的な国であったりする。

 だが、国家としてはアフリカ有数の栄えた国であり、観光地に都市部とメガシティを持つ国である事でも有名。軍備もアフリカでは有数の装備を持つ国であり、陸軍の常時動員数が常に一〇万余人はいるというなかなかの軍備保有国家ではあるが、その装備自体はこの手の国家にありがちな、旧東側の旧式装備。軍のお得意様はロシアか中国か。マニアが大好きな類の装備であるわけで、ままそんなところ。

 だがこの国は、宣教軍発祥の地であり、現在では国土の北部はSIS・宣教軍が支配する事実上の治外法権地区になってしまっている状況であった。

 実際ナイジェリア空軍や陸軍の基地が宣教軍の襲撃を受け、相当数の兵士が捕虜ではなく拉致され、一国の軍隊規模の兵器が奪われ、更には一部国軍が宣教軍に寝返るといった事態まで発生している。

 この『国軍が寝返る』という行為。その思想に共鳴したか、それとも保身のために身を売ったか、巨額なギャラに目がくらんだか、恐らくこれが一番大きいのだろうが、このアフリカで宣教軍がここまで肥大化した原因はこの国軍の敗北と寝返りによるところが大きかったりする。


 当然当地のナイジェリア軍もそんな宣教軍にはもう相当頭を痛めているわけで、ロシアとのCJSCAの関係で、国際有志連合軍はナイジェリアに基地を置くことができ、その領海に軍用艦艇を展開していた。

 当然その中でも、ふそうとオオシマは相当目立つ存在なわけではあるが……


 さて、ナイジェリアのとある陸軍基地。その基地で資材箱に座ってひと休み中の男女カップル。

 男の方は、世間的にはどうでもいいが、女の方に各国軍の兵士みんなの目はいってしまう。

 だが、当の女の方は……


『ウム~……ヤッパリコノ暑サハ尋常デハナイナ。シカモ日本トチガッテ、乾燥ノ暑サダ。昔、セディア星系ノ「惑星ゴラース」デ、作戦ヤッタ時モ、コンナノダッタナァ』

「いやはや、まったくこの手の気候は何回来てもたまらんな」

『ダーリンハ、以前ココニ来タコトアルノカ?』

「いやここじゃないけどな。ヤルバーンが来るずっと前にPKO関係で中東の方に少し滞在したことがある。ま、気候も似たようなもんだよ……あ、シエ、そのアイスかじらせてくり」

『ウン。ホレ』


 多川夫妻であった。またこんな場所に駆りだされて子供はどうすんのという話だが、此度は柏木達が預かってやっているという話らしい。多川夫妻の息子さんは、姫ちゃんと毎日遊べてご機嫌という事だそうだが。

 勿論柏木達も激務なので、毎度の事ながら真男に絹代や、ヴェルデオ夫妻のご協力もあっての話ではあるが……


 彼女の大好物、アイスクリームレロレロバージョンをズイと差し出すシエ。それをパクリとかじる多川。

 そんでもってその姿をジト目で睨みつける各国デルン兵士ども。


「で、シエ、あれがそうか……」

『アア。左ノヤツガ、ロシア国ガ開発シタ、POT-116トイウ陸戦用機動兵器デ、右ノガアメリカ国ノ開発シタ「XM4リッジウェイ」まにゅーばーたんくトイウ陸戦兵器ダソウダ』


 『POT-116』は、一年前にグレヴィッチから見せてもらった通りの設計図のものが、そのまま立体化した……端的に言えば戦車の車体を二台連ねたような構造の後部に、戦車の砲塔をロボット化したような構造の砲兵装システムを持つ兵器であった。

 砲塔から左右に生える片方のマニピュレーター状の先端には、対空重機関砲や、軽機関銃にグレネードランチャーが装備され、もう片方のマニピュレーターには、対空、対戦車ミサイル等々のミサイル系兵器が多数装備されている。

 砲塔状のソレは、クンと持ち上がった時点でマニピュレーター型兵装を展開することができ、普段は両の腕も収納して、見た目はクローラー四本つけた変わり種の戦車のような形状になる。で、その砲塔右上に赤外線投射機のように付いているのが、所謂ロボット的に言えば『頭部』にあたるもので、戦闘ヘリのような複合センサーを多数装備したセンサーポッドを首でも振るかのように随時ランダムに、クイクイさせていた。

 

 『XM4リッジウェイ・マニューバータンク』は、POT-116と機構的によく似た形状の機動兵器である。それも当然の話で、今回の国際有志軍の米国参加に伴い、グレヴィッチも約束は果たしたわけで、POT-116の設計図を譲渡。米軍も応急製造ながら、米国自動車産業の威信をかけて短期間で開発してきたのが、この『XM4』なのである。

 POT-116との大きな違いは、流石に後発だけあって急ピッチ開発の感が拭えず、砲塔の変形機能が付いていない。砲塔からマニピュレータが伸びたような状態が常時の形状なのだ。

 この車体も、四本クローラーの車体で、そこはロシアと違い、資本主義国だけあってデザインもM1エイブラムス戦車的でスタイリッシュである。砲塔部中央下部に、砲身を担ぐように戦闘ヘリ的なセンサーヘッドがついており、これが頭部のようにも見える。片方の腕部には、重機関砲やグレネードランチャーなどのPOT-116的な装備が付いているが、もう片方には、球状関節のようなものの先端に大きな目玉のようなレンズが付いたものを装備している。即ちコレ、高出力戦術レーザーであり、対人・対空・対迎撃に使えるというイスラエルと共同開発していた代物の発展型兵器であり、米国らしい装備なのだ。


 で、この二機種に共通しているのは主砲で、そのメインシステムとなるのは現在最新の砲制御システムのAGS。砲弾をロケットモーターを併用して超長距離誘導できるという代物。口径は両機種とも一四〇ミリ。まあこの口径の主砲食らったら、どんな装甲車両でもダダではすまないだろう。おまけにAGSだ。下手すりゃ主力戦車が自走野砲にもなる。機甲部隊の車両編成に大きな変革があるかもしれない。

 更に、君島が米国にライセンスしていたものをロシアにも外交交渉の結果でライセンスした、イゼさん研究員が開発した『リニア・クローラーシステム』を装着していることであった。こういった諸々の装備や設計もあって、どちらも一般主力戦車と比較すると、ひと回り以上大型であるのも特徴だった。


「とうとう地球世界も自力であんなの造れるようになったんだねぇ……」

『ソウダナ。スゴイト思ウノハ、アアイウ形式ノ兵器ヲティ連世界デ見タコトガナイ。私ニトッテモ、トテモ新鮮ナ感覚ダヨ』

「だよな……でだ……俺達が今回扱ってくれって依頼されてるのが……よりにもよってこの機体かよ……」


 しかめっ面で見上げる全長一七メートルほどの人型兵器……頭抱える多川に、妙にドキワクしているシエさん。右部マニピュレーターに内蔵されている有線式射出兵器や左部マニピュレータ内蔵式五連装機関砲をどう使おうか思案中だったりなかったり……

 でもって意地でも両の肩はイカリ肩。なんとかならんかったのかと。

 それを見る各国の方々は、これまたジト目で見られ、ヒソヒソウワサ話をされる。


(ぜってー特危自衛隊って変態の集まりって思われてるな、コンチクショウ)


 カクっとくる多川さんだった……


    *    *


「一佐!」

「おう、尾崎。どしたい」


 ピっと挙手敬礼する尾崎。彼も三佐になり、今や人の上に立つ身である。挙手敬礼で返す多川とシエ。


「そろそろ時間です。用意お願いいたします」

「ハァ……やっぱアレで行くのかよ……俺、白いの倒す自信ないぞ」

「何を言ってるんですか。そんなの出てくるわけないじゃないですか。向こうのお話でもあのオッサンは愛人と一緒に戦ってたんですから、丁度いいじゃないですか。同じようなもんで」

「あ、なんだその言いぐさ。こっちゃ正式な夫婦だぞ」

『ソウダゾ、オザキ。ウラヤマシイカ?』


 多川にスリスリするシエ。


「この暑い場所でそんなお熱苦しいのはやめてくださいよ、はは。みんなが殺視線ビーム出してみてますよ。軍人さんにシエ一佐は人気があるんですからね」


 苦笑いで手をプイと振って、かの機体に乗り込むシエと多川。尾崎は揚力至上主義者だが、今回は旭光Ⅱで参戦である。本作戦では、旭龍も参加しており、E型が多川指揮の中隊で二機運用されている。


 件の機体に乗り込む多川。なんかちょっちハズカシイ。

 頭部には海襲同様ピンク色の目玉はないが、ヘリのようなシステム集合センサー機器がターレットに沿って左右に動く。頭部に生えるセンサーアンテナは垂直に二本立ってたり。

 複座のコクピットは、旭龍と同じシンシエスペシャル仕様でヤル研連中はあつらえていた。

 今回は陸戦兵器なので、メインとなるパイロットは、格闘戦の達人シエさんの半マスタースレイブ操縦で、多川は完全なコパイに徹する事になる。但し多川もSMS操縦方式でこの機体を操ることは可能だ。

 さて、この機体、今回は砂漠戦ということもあって、機体色はデザート迷彩に塗られている。

 だが、機体のコードネームは『蒼星』というらしい。やはり所詮はヲタの付けた名ま……この機体をよくオマージュできた、らしい呼称であったりする。

 でもって部隊が作戦時間と相成り、ナイジェリア陸軍基地から露・米・日・ヤ連合部隊が雪崩を打って動き出す。

 まずは先制攻撃を加えるヘリ部隊に、尾崎の旭光Ⅱが同行し、ヘリの損害を抑える手助けを行う。

 でもってその次にPO-116とXM4の部隊と多川の蒼星、旭龍E型部隊がマイドゥクリの都市を包囲しつつ展開。

 事前偵察で、街の民間人はみなして逃亡しているという話で、取り残された民間人と、捕虜はヤ軍の特殊部隊と、当地の心強い味方が共同で救助作戦にあたるという次第になっている。

 まあ、POT-116にしても、XM4にしても、こんなのが大挙して町を包囲すれば敵さんどんな風に思うだろうか? それ以前に蒼星に旭龍である。もうどうみてもメカ的愚連隊にしか見えない。少なくとも『正義のメカ軍団』の絵柄ではない……ヤル研は何を考え…………


    *    *


 で、その当地の心強い味方とは一体どちらさんかというと……


 とある人物へ膝まづいて何かブツブツ唱える一団。独特の節回しで唱えるその呪文のような言葉を強制的に聞かされ、付き合わされるのは、ヤルバーン州軍のイゼイラ人兵士。階級は地球でいうところの中尉さんだ。


『あ、アの~……そんな、私は創造主でもなんでもないデスから……』


 頭掻いて恐縮しまくるその兵士。で、ご協力下さるのは、件の一神教信仰者武装勢力の中でも新興宗派で異端視されている『使徒派』と呼ばれる一団であった。

 この使徒派、所謂ティ連の神業レベルの科学力が創生神の力そのものだと信じ、スンニ派シーア派の派閥対立に嫌気がさした若い法学者達が起ち上げた宗派であった。

 極めて少数宗派だが、SISが猛威を振るった頃にヤルバーンが日本へ到達していたわけなので、四年後の現在、その信者数をかなりの数に増やしている一団でもあった。

 彼らはこの地にヤルバーン州軍が作戦を行うと聞きつけ、はせ参じて作戦を手伝わせてくれと懇願してきたのである。

 当初は米軍が断りを入れていたのだが、下手に断ってこの連中がテロリストになっても困るので、ゼルエが「そういことなら」と彼が面倒見るという事で、急増ではあるがヤルバーン州軍義勇兵という扱いで彼らは傘下に入った。

 

『ハハハ! まぁいいじゃないのサ。そう信じちまったんじゃ仕方ないヨ、あんた達イゼイラ人の創造主と同じじゃないサ』


 そうイゼイラ人中尉の肩をパンパンと叩くはオオシマから現場に早々入ったシャルリ中佐。

 ま、確かにナヨさん信奉もそんな感じではある。そしてシャルリはひれ伏すアラブ人リーダーに、


『お宅らも、もうその辺でいいって。あたし達は一緒に戦う仲間じゃないサ。そんなんじゃ良い連携とれないヨ』


 その聞いたこともない言語のバックから流れてくるアラビア語。シャル姉はその男性リーダーの腕をとって立たせる。とても恐縮して喜ぶアラブ人男性。彼の名は『ムスタファ・モフセン』という。

 何か彼らと話していると、去年のヂラール事件で新たにティ連の仲間になったハイラ人と話しているようだと彼女は思う。

 シャルリは女性だが、使徒様でド級のサイボーグとなると、そんなのも関係なくなるのだろう。でもシャル姉も彼らの教義に敬意を払ってヒジャブという布を頭に巻いているが、そのおかげでますますRPGの女戦士っぽくなって皆から笑いをこらえられていたり。ここにパウルかんちょと、大見にリアッサでもいれば、本当にナントカファンタジーの世界だ。 


『ということデ、あたし達の任務はその「まいどぅくり?」という街に捕らわれてる拉致された人達の救出なんだけど、その点もう理解してもらってるよネ?』


 とシャルリが問うと、ムスタファは


「わかっております使徒様。その点については我々が宣教軍にスパイを放っております。そろそろこちらへ情報を持ってくる手はずになっているのですが……」

『お、手筈いいじゃないか』


 と話していると早速その間諜から連絡が入ったということで、その情報を下に救出作戦を練る諸氏。

 シャルリがVMCマップを広げると、また拝みだしそうな使徒派諸氏が出てくるが、そこは「まぁまぁ」とイゼさん兵士が諌めるわけであったり。

 で、彼ら使徒派武装勢力諸氏には、パーソナルシールドに特化させたPVMCGを今作戦に限って貸与していた。彼らも武装勢力とはいえ、今はテロリストではない。彼らの生活圏に戻れば、家族を守るために銃を持って町を守っている所謂民兵なのである。だが、昨今のSISや宣教軍の無差別な攻勢にほとほと手を焼いていたわけで、そういったSISの台頭も、ヤルバーン到来も重なって、彼らのような『使徒派』という新興勢力を生む土台になっているわけである。これも因果というものなのだろう。


『デモね、そのパーソナルシールドは、あんた達いう「カミの力?」なんて大層なものじゃないヨ。防げるのは爆弾の破片に大型機関銃の弾丸ぐらいさね。調子に乗って突っ込むんじゃないよ。それと、自爆攻撃は絶対禁止。ヤバくなったらトンズラしな。わかったね』


 使徒派兵士みな頷くが、ホントにわかってんのかなと。なんだかんだで彼らも一神教教義の兵士である。アッラーアクバルとかいいながら、無茶して突っ込んで……とかいう事にならないよう、よく目を光らせておけとヤルバーン州軍兵士に徹底させるシャルリ中佐であった。


    *    *


 作戦開始の時。

 ナイジェリア・ボルド州州都マイドゥクリの宣教軍本拠地を叩き、拉致された人々を救出する作戦。

 ただ、これが普通の紛争戦争の作戦ならこれでいいのだが、相手はテロリストである。ここが本拠地といっても、彼らは基本根無し草であるがゆえに、ここを叩いてもまたどこかで新たな組織が台頭し、同じことをやらかす。

 なのでテロを根絶するには、ただ単に潰すだけでは効果がない。テロの構成員はなんだかんだいって、その国の無尽蔵な国民なのである。もし本気でテロを武力で潰すとするなら、簡単な話、その国の国民を皆殺しににするしかない。だから第二次大戦までの戦争戦闘では、テロなどというものはそんなに大規模にはならなかったのだ。なぜなら勝者は敗者を徹底的に支配したからである。

 ただ、現代はそうではない。これがある意味テロの温床ともいえるのだ。中途半端にやると、余計にゲリラ、即ちテロリストが増えてしまう。

 ではそれを殺す以外に他で抑えるにはどうするか? それはソッチに行かないように『与える』しかないのだ。なので実はこの国際有志連合軍は、ヤルバーン州に期待しているところ大なのである。なぜなら彼らにはそれができるからである。逆いえば、ヤルバーン州-ティ連以外でそれをできる国は地球上どこを探してもない。

 ではそれを最初からとっとと行ってやればいいではないかという話になるが、そうすればそうすることで今度は宗教教義がどうのとか、どこの国が主導権を握るかどうか、だれがトップになるかだの、そんな問題が出てきて元の木阿弥になってしまう……難しい話である。

 だが、今は目前の悪を倒し、拉致・難民・奴隷と、何の罪もない人々の犠牲をこれ拡散させるわけにはいかないと、ヤルバーン州も奮闘していたりするわけである。


 と、そんな世界的背景を背負って驀進する日・米・ロ・ヤの機動部隊。ロシア軍のT-80Uに米軍M1A2が同じ隊列で砂塵巻き上げ前進する。更にはその後方からPOT-116にXM4。ナイジェリア国軍も当然その作戦に参加しているが、彼らの兵器はT-55やMil-24のような旧ソ連・中国軍装備である。

 ナイジェリアの国土は、所謂緑も何もない砂漠地帯というわけではない。所謂アフリカ特有のライオンでも出てきそうなサバンナ地形であって、緑は比較的豊かな方ではある。そして比較的文明化された国であるナイジェリア国土を、そんな大規模機動部隊が驀進する様は壮観この上ないものであった。

 上空に飛ぶは各国空軍海軍の航空機、先制空爆を敢行しているのであろう。州都マイドゥクリは、これでも比較的大きな街だ。周辺のSIS・宣教軍軍事キャンプに空爆仕掛けて地上軍の戦闘をやりやすくするのは常とう手段である。無論この空爆には尾崎ら中隊も参加していた。


『ダーリン、シャルリ達ガ、救助対象者ヲ確保スル作戦ニ入ッタ。ソロソロ出番ダ』

「むはは、この機体に旭龍、んでもって米ロのロボット戦車軍団か。敵さんどんな顔して挑んでくるか楽しみだな」

『ククク、良イ威嚇ニハナル。ヤル研秘宝館トヤラノ出張サービスダ』

「なんだよその秘宝館ってさ」

『ン? フェルガ言ッテタゾ』

(えっと……フェルフェリアさん、柏木さんとどこに行ってたんだ?)


 んなアホなことをのたまいながら、輸送用デロニカの後部ハッチを開け、降下準備の機動兵器『蒼星』。

 さすがに「ギン」という目が光るよな音はしないが、その雄姿はヤル研連中のアホさかげ……夢を具現化したような、んなところ。

 蒼星は自力飛行ができないので、輸送機から降下という感じだが、部下の旭龍はデロニカの護衛もかねて編隊飛行していたり。


『デロニカ・一番機、降下五分前』


 クオンという音鳴らして後部ハッチが開く。


『降下コースクリア。コース良し・コース良し。降下始め、降下、降下』


 蒼星はシエのマスタースレイブな挙動に合わせ、クンとデロニカから飛び出す。

 その降下に合わせて、二機の旭龍E型が横につき、半変形で機動戦モードへ。

 蒼星はスラスタージェットをふかして見事着地。この機体は、まだ空間振動波エンジンが研究途上だった頃の機体なので、空中推進力に空間振動波エンジンをまだ使ってない頃の機体である。

 

 マイドゥクリ郊外に降り立つシンシエ合体の『蒼星』に旭龍E型二機。

 抜けるよな青い空に巨大な三体の機動兵器。いかり肩の変な機体に、龍型のロボット兵器が脇を固める……


(この構図……絶対悪役の構図だよな……)


 少々苦い顔の多川一佐。さて、この連中をSIS・宣教軍はどう見るか?


 そして、その他の戦域では、欧州軍に大見二佐率いる部隊も、かの時のヂラール戦時装備で作戦行動を開始したという連絡が入る。



 さて、地球規模の、知的生命体の基本倫理を取り戻すための大作戦、『オペレーションWTFC』

 この世界にどういう影響を与えるか。今後の地球世界において、大きな大きな分水嶺になるのは、確実かもしれない……





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ