第9話 『食べ物はバランスを考えろっていうけど言っているお前も本当はめんどくさいんだろう?』
どうでもいいコーナー
ゴエモンの処刑道具はある漫画の主人公が使う道具がモデルです。
今ジャンプで連載中の漫画「暗殺教室」の松井優征さんはジャンプファンなら知っているはずです。
その松井さんの前作漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』の主人公ネウロが使う『魔界777ツ能力』が処刑道具のモデルです。
名前が似てたり、拷問系だというのは少しかぶるかもしれませんがどうかご勘弁を……。
おまけ
正直暗殺教室よりネウロが好きでした。2期とかやらないのかな……。
以上ジャンプファン以外の人は全く意味の分からないどうでもいいコーナーをぬめっとお送りしました。
わかんなかったらユーチューブで見てください。アニメ化もされてます。
草木も眠る丑三つ時、心地よい風で森の葉はまるでつないでいる枝と踊るように空を舞う。
多くの葉が風の音楽と共に夜のダンスを楽しんでいる。
時に葉は枝と別れをつげ、風に流されながら短い空の旅に出る。
ゆるりゆらりと上へ下へ、体をひるがえしながらその葉は地面へと落ちた。
葉はそれでも風の音楽の最終章を舞おうとする。
ゆっくりとワルツを踊るように葉は地面を歩む。
すると葉の体は水溜りへと落ちる。いや、水溜りにしては暖かい。
湯気まで昇っている。
温泉だ。
葉はそう感じた。
たしか自分が茂っていた木の近くには温泉があると風のうわさで聞いたことがある。
これが、温泉。
暖かい。とても心地がよい。体が溶けていくようだ。
湯気が立ち上り葉に汗をかかす。
その葉―――紅葉は温泉に浸かることにした。
ゆったりと浸かると葉は風に揺られるとはまた違う快感を味わう。
そういえば―――この温泉には人間という不思議な生物がよって来るとも聞いた事があるが、たしかにそれも分かる。
ずっと浸かっていたい。と紅葉は思った。
枝から離れた葉はいずれ茶色く年をとり、地面へと吸い込まれる。
そして、森と一体となる。
体はばらばらになり、細胞は森に食べられる……らしい。
全部聞いたことばっかりで、確かではない。
まぁいいか、これからゆっくり見ていこう。
自分の運命を。自分の行く末を。
紅葉の体が重くなってきた。温泉が体にしみこんできたのだ。
もうすっかり年を取り、カサカサになった紅葉にお湯が染み渡る。
自分は温泉と一緒になるのか。
紅葉の体は温泉に沈んでいく。
あぁ、気持ちのよいこの天国と共に生きれるなら文句は無い。
これはなんといえばいいのだろうか。
死ぬのではない。消えるのでもない。
表現できないが、たぶん自分は変わるのだ。
体が沈む。
―――と沈み行く紅葉を誰かが手ですくった。
肌色の手。柔らかい手だ。
紅葉は薄れる意識の中、その手の持ち主を見た。
こいつは……この生き物は……どこかで見たことがある。
まだ枝に揺られていたとき、近くをよく歩いていた生き物だ。
なんだろうと自分が見ていると隣の紅葉がそれの正体を教えてくれた覚えがある。
確か……そうだ。
こいつは……コイツこそが……人間……だ……
◆◆◆
「あら、紅葉よ。風流ね」温泉に浸かっている若い女性は湯に沈もうとしている紅葉の葉を拾い上げた。
「ここらは紅葉の木が多いからな」女性と一緒に温泉に浸かる若い男性はそれに答える。
広い温泉に男女が2人。どちらもタオルで体を隠しながらゆったりと温泉を楽しんでいた。
男は湯に浮かぶお盆から酒ビンを取ると一気にあおった。
「あぁーー!仕事の後の酒は最高だね!」顔を赤くしながら男はビンを月の輝く夜空に掲げる。
「何言ってんだよ。いつも仕事を失敗して戻ってくるくせに」女は笑いながら景色を楽しむ。
「うるせえよい!」
男と女、二人はいつも夜になるとこの温泉に浸かりに来る。
夫婦である二人は子供も作らず、ただ二人の仕事をこなし、夜にこの温泉に浸かる。とこれをずっと繰り返している。
なんともつまらない。変化の無い生活。
だが、二人はこれで幸せなのだ。好きな人と一緒に温泉に浸かる。これだけでも二人は充分だった。
二人にとってこの温泉は一緒に過ごせる唯一の場所。
いつも浸かると何やらけんかをしだすが、温泉はそんな二人の怒りを湯気と共に消し去ってくれる。
そして、またゆったりと夜の景色を見ながら温泉に浸かる。
それだけだ。
「仕事のほうはどうなの?」女が男のほうを振り向く。
「あぁ、もう少しで新たな温泉が掘り出せそうなんだがな。少しペースが落ちてきたかな」男は月を見ながら答える。
「そう、がんばることね」
「おいおい、つめたくねえか?もう少しな。がんばってア・ナ・タ・とかいえないのか?」
「言うわけ無いでしょ!」女は男に湯をかける。男は湯をさっと避けるが酒瓶の中に湯が入ってしまう。
「お、てめぇ!何してくれんだ!?」男も女に湯をかける。
「キャッ!それはこっちの台詞よ!」
男女二人月をバックに湯の掛け合い。
絵にはならない。だが、とても朗らかなその光景。
「はぁー……はぁー」
「ふぅー……ふぅー」二人は疲れ果て、湯に腰を下ろした。すでに男の酒瓶は温泉に沈み、中から出てきた茶色の液体が温泉に染み渡っている。
女の手からも紅葉がひらひらと落ち、酒との色を重ねた不思議な景色を二人に見せていた。
「……酒風呂ね。まるで」女がつぶやく。
「風流だろ」男もつぶやく。
「……どこが?」女はそっぽを向く。
実は女もそう思っていたのだが、男との意見が重なって恥ずかしくなったのだろう。
「よし!ならばこの温泉の名前『紅葉酒』にしようぜ!」男は声を張り上げる。
「何それ?」女は男の言葉に首をかしげる。
「温泉ってのは名前があるもんだろ?しゃれた名前付けようぜ」
「センスが無いわねぇー」女は顔をお湯に沈め、泡をぶくぶく吹く。
「そうか?いいと思うけどな……」男はそこにある酒瓶を取り出し、温泉の湯を入れた。
乾杯のポーズをとり、そのままくいっと飲むがすぐに不味さで吐き出してしまった。
「だめだな。もう温泉と合体してやがる」男は酒瓶を外にほおり投げた。
「ま、いいんじゃないの。紅葉酒」女は顔を出し、口から湯をぷーっと噴射する。
「だろ!ここは俺達二人の秘密の場所だからな!名前くらい好きに付けさせてもらっても起こられないよな!?」男は温泉の湯の表面を手のひらで叩いた。
「まったく、騒がしいわよ」女は男の頭を叩いた。そして言葉を続ける。
「他の人に気づかれたらどうするのよ?」
「そうだな。ここは二人だけの物だからな。知られたら嫌だな」男も女の頭を叩く。
「ずっと二人だけで一緒に使っていようね」女は甘えるように男に体をこすりつけた。
「おっ、言ってくれるじゃねえか」
「年を取っても、一緒よ」
「あぁ、当然だ」今度は女の頭を優しくなでる。
「ずっとね……ここは私達の……」
「俺達の温泉……誰にも渡さんよ」
二人は体をぴったり寄せ合う。
月はそんな二人を見て、祝福の光をプレゼントした。
優しく、そして少し眩しい。そんな光。
光が温泉を満たすその時、二人はただ、愛を深め合った……。
◆◆◆
バサラ王国ではいつもの様に一日が始まろうとしている。
店の主人が起き出し開店の下準備を始め、子供達は母親に起こられながらもしぶしぶ起き上がる。
母親は子供に歯磨きしなさい、顔を洗いなさいなどいろいろ指示を出しながら朝ごはんの支度をしだす。
空では何羽もの小鳥がバリアの張られた空を飛び回り、朝の挨拶をするように盛大な声で鳴きだす。
バサラ王国の勇者ギルド、ペプシも過言ではない。
勇者の強い体は毎日の規則正しい生活から。勇者の学びという教科書に載っている勇者の決まり文句だ。
相変わらずのボロボロの外観。3階建てで部屋の数は15もある。
と、2階の部屋ちょうど真ん中の部屋の窓が開く。
青い髪をした少女―――ジュエルは朝日を浴びながら深呼吸。そして背伸び。
「―――んはぁ……」眠りから起きたジュエルが息をつき、窓から街を見る。
目の前にはいくつもの店、家が見えジュエルの視線を楽しませてくれる。
3歳と思える子供達が鶏と一緒に外を走り回っている。
おにごっこでもしているのかな?とジュエルは考え、平和なものだとくすりと笑った。
そして同時にうらやましくも思えた。
親との思い出があまり無いジュエルには兄と遊んだ記憶しかない。
兄―――名はエメランドといい、ジュエルが小さい頃から面倒を見続けてきた3歳離れた自慢の兄。
ジュエルが親を亡くしてもずっとそばにいて、ジュエルを励ましてくれた。
今はどこかの軍隊でマモノの殲滅を目指してがんばっているらしく、ジュエルはいつも兄の安全を願っていた。
手紙も出したいとは思っているのだが、住所が分からないため出せず、ジュエルは聞いておくんだったと今も後悔していた。
「会いたいよぉ。お兄ちゃん」ジュエルは空を見上げてつぶやいた。
勇者になれば会えるかと思ったが、やはり世の中うまくはいかないようだ。いまだに情報すら手に入れられていない。
「……」ジュエルはしばらく景色を見ていると決めたように立ち上がった。
「よしっ!」ジュエルはパジャマ姿のまま部屋を出る。
長い通路を歩き、階段を降りるとそこはギルドの広場で、いくつもの机が置かれていた。
ジュエルはまだ寝起きのためか足取りが重く、よろよろと歩き回る。
なんとかギルド奥のカウンターへとたどり着くと椅子に腰をかける。
「あら、ジュエルちゃん。おはよう」カウンターで何か作業をしていた女性がジュエルを見た。
「あ、ノベルさん。おはようです……」ジュエルは席に顔をうずめたまま答える。
エプロンをかけたその女性―――ノベルはヘアピンのたくさんついた髪を揺らしながらジュエルを見て薄く笑う。
「お疲れのようね」
「え、えぇ……昨夜師匠にホストにつれてかれたんです……大人の世界を教えてやるとか言って」ジュエルは急に来た二日酔いに気持ちが悪くなっている。
「そういえばジュエルちゃん達その酒場で将軍の接客したって聞いたけど本当?」ノベルはジュエルにコーヒーを出しながら聞く。
「はい。昨日いろいろあって……疲れましたよいろんな意味で」ジュエルは顔を上げるとコーヒーに砂糖を入れ始める。
「大変ね。顔がやつれてるわよ」ノベルはカウンター越しにジュエルの顔を触る。
そのジュエルの目元には少しのクマが出来ていた。
「これは……昨日その接客が終わった後に師匠にいろいろしごかれたんです……」ジュエルは昨夜の様子を思い出す。
将軍の接客が終わった後、ゴエモンとジュエルは逃げるように店から出て、一旦ギルドへ。
しかしゴエモンはまだ元気があるらしく急にジュエルに修行を付けてやると言い出したのだ。
「目が冴えているからみっちりしごいてやるとか言ってギルドの裏で2時間ぐらい稽古をうけたんです」ジュエルは昨夜の出来事を思い出して身震いする。
ギルドの裏には小さめの庭があり、ゴエモンいわく、稽古場らしい。
そこでゴエモンはへろへろのジュエルを引っ張りながら連れていて、強制的な稽古を始めた。
内容は簡単。『ゴエモンから一本取る事』だ。
試合は木刀での一対一。呪文は使用しない。
「一本だからすぐ終わると思ってたんですけど……」ジュエルは筋肉痛になった腕を回す。
「ゴエモンは強いからね。そう簡単には勝てないわよ」とノベルはカウンター下からシップを取り出し、ジュエルに渡す。
「ですよね……結局2時間ぶっ通しで挑んだんですけど一本どころか木刀が師匠に届かす事すら無理でした……」
「でもゴエモンが稽古を付けるなんて目ずらしい事よ。めんどくさがりやだからねアイツ」ノベルはジュエルの隣の席に座る。
「あれ?そういえば私あの後どうしたんだっけ?」とジュエルは急に頭を抱える。
「どうしたの?」ノベルはジュエルを心配そうに見つめる。
「いやその、たしか私稽古の後の記憶が無くて……」ジュエルは昨夜の事を思い出そうとするが、二日酔いと疲労で頭がうまく回らない。
「あぁ、ゴエモンが倒れたって言ってたわよ」とノベルはポケットから一枚の写真を出す。
「ぶっ!た、倒れた!?私が?」ジュエルはコーヒーを噴出す。
「えぇ、証拠よ」とノベルはこぼれたコーヒーを布巾で拭きながら写真をジュエルに渡す。
ジュエルがひったくるように写真を見ると目を開く。眠気も一気に覚めた。
写真の景色はギルドの入り口。そこには呆れ顔のゴエモンとその背中でおぶられながら眠っているジュエルの二人が写っている。二人共泥だらけだ。
つまり……
「し……」ジュエルは手を震わせる。
「師匠におんぶされてるぅぅぅ!?」
「そうよ。昨夜私が撮ったの」とノベルは自分で入れたコーヒーをすする。
「何で撮るんですか!?」ジュエルはノベルを非難の目で見た。
「だってゴエモンが撮れって言ってたから……」
「師匠が!?」ジュエルの顔が怒りに満ち溢れる。
「お前ら何話してんの?」とそこへ元凶のゴエモンがパジャマ姿で階段から降りてきた。
相変わらず服をだらしなく着ているその姿はまるでだめな男にしか見えない。
「あらゴエモンおはよう」ノベルは席を立ち、ゴエモン用の朝ごはんを用意し始める。
「あぁおはようさん。ジュエルもよく寝むれたか?」とゴエモンはのんきにあくびをしながらジュエルの隣に座った。
ビリッ!という音と共にジュエルは写真を破る。
「ん?なんだそれ?」ゴエモンは覗き込むがジュエルにとめられる。
「なんでもないです……」声を震わしながらジュエルは無理に笑顔を向ける。
「あ、そう」ゴエモンは興味ないとでも言うようにカウンターに置かれている新聞を読み始める。
絶対今夜は一本入れてやる!とジュエルはゴエモンの態度を見て覚悟を改めた。
「そういえばジュエル。お前昨夜は俺に一本も与えられなかったな」とゴエモンは急につぶやく。
「え……」ジュエルは心が読まれたのかと冷や汗を流す。
「昨日の稽古だよ。覚えてないのか?」ゴエモンは新聞から顔を離さずにジュエルに聞く。
「あ、はい!そう……ですね……」ジュエルは焦りを見せないようにコーヒーをすする。
「今夜もやるか?疲れているんならいいけど」ゴエモンは新聞をめくる。
「やります!やらせてもらいます!やらせてください!」とジュエルはあわててコーヒーをおき、ゴエモンに頼む。
「そうか。ということだからノベル。今日はジュエルの教育で忙しいから仕事は無しに……」とゴエモンが言い終わるうちにカウンターからナイフが飛んでくる。
ナイフはゴエモンの頬をかするとそのまま奥へと飛び続ける。
「依頼が終わったらね」ノベルが怖い笑みを浮かべる。
新聞が飛んで来たナイフで切り取られ、はらりと落ちる。
「は……はい……すみません」ゴエモンの顔から一筋の血が流れる。
ナイフは依頼板に刺さると貼られていた一枚の紙をはらりと落とした。どうやら依頼書のようだ。
「こっちはあんた達3人世話していけるほどの金は無いの。住み込むなら働きなさい」
「依頼……ですか」ジュエルはその紙を拾おうと席を立つ。そして依頼板へと歩を進めた。
「ったく、金がよくなきゃ嫌だぜ俺は」ゴエモンは新聞の残骸を片付けはじめる。
「あいかわらずめんどくさがりやね」ノベルはあきれながらも笑みを見せ、言葉を続ける。
「でも初めてじゃない?アンタが弟子を持つなんて」とノベルは依頼書をまじまじと見つめるジュエルを眺めた。
「依頼とかが楽になるだろ」ゴエモンは新聞の残骸を丸めゴミ箱へと入れる。
「いやらしい目的じゃないことは確かなようね。稽古までつけるんだから」ノベルはゴエモンにどら焼きを出す。
「おいノベル。俺の朝はハチミツティーに決まっている事は熟知しているだろう?」ゴエモンはどら焼きを見つめ、ため息をつく。
「ハチミツが切れてるのよ。どら焼きで我慢しなさい」
「どら焼き前に食ったんだよ。ドラ●もんじゃないんだから俺」ゴエモンはどら焼きをしょうがなく、もしゃもしゃと口に含む。
「何言ってるのよ。アンタなんて名前に一文字足したらゴラエモンじゃない。一文字違いじゃないのよ」
「青タヌキと一緒にすんなや。俺は生粋のハチミツ派、ミツラーなんだよ」ゴエモンはどら焼きをフォークで刺すと皿の上で遊ばせる。
「行儀悪い」ノベルはゴエモンの頭を手に持ったお玉で叩いた。
「……行儀なんて人の化粧だと思わんかね?」ゴエモンは痛そうに頭をさすりながら言葉を続ける。
「行儀は人をよく見せる。化粧も人をよく見せる。人は自分の外見を着飾る事ばかり覚えて中身を育てる事は少しも覚えねえ」ゴエモンはギルドの天井を見ながら静かに語る。
「……はぁ、アンタの話聞いてたら頭がおかしくなりそう」ノベルはみんなの朝ごはんを作り始める。
今作っているのは味噌汁。ネギやらニンジンやらをたくさん入れた野菜中心のものだ。
もうすぐアモンとルパンも起きてくる。そうすれば5人での朝ごはんが始まるのだ。
今まではルパンとの2人でギルドをやってたノベルは始めての大掛かりな料理に苦戦しているようだ。
扱ったことも無い大なべを汗を流しながら使う。
「師匠。依頼はこれでどうですか?」と戻ってきたジュエルがゴエモンに一枚の紙を渡す。さきほどノベルにナイフで穴を開けられたものだ。
「何々?」ゴエモンは紙を受けとり、内容を読む。
しばらく見つめていたゴエモンだが、最後の分を読んだときに口元が緩んだ。
「師匠?」ジュエルがどうかしたのかとゴエモンを見る。
「こりゃいい仕事だ。代金はその時決めていいだとよ」とゴエモンは依頼書を机に置く。
「内容は一匹のマモノ討伐か。簡単じゃねえか」
「でもマモノの内容が書かれてないですよ」とジュエルは依頼書を再確認するがやはりマモノ討伐と書かれているだけだ。
「マモノがもし強かったら勇者が依頼受けるわけないだろ?だからこうやってマモノの種類を書かない奴も多いんだよ」とゴエモンは説明する。
「なるほど、マモノが強くても種類を書いていなかったら受けてもらえる可能性が上がりますね」ジュエルはさすがとゴエモンを尊敬した。
「もし強くても場の流れで戦わなければならないのよ。こっちも大変だわ」ノベルは味噌汁を熱している鍋の蓋をしめる。
「そろそろ8時。二人を起こしてくるわ」ノベルはルパンとアモンを起こしてこようと階段を上がる。
ギルドの広場にはゴエモンとジュエルが残される。
ゴエモンは残ったどら焼きを食べ、ジュエルはコーヒーを飲み干す。
「じゃあ、今日はこれ受けましょうね」ジュエルが依頼書をゴエモンから受け取る。
「まぁいいか。一匹ならすぐ終わりそうだし」ゴエモンは席から立ち上がる。
「じゃ、俺は準備してくるから。お前も早くしろよ」ゴエモンはしわの入ったパジャマを揺らしながら階段を上る。
「わかりました」ジュエルも立ち上がる。とゴエモンが急にこっちを振り向いた。
「ジュエル」ゴエモンは真剣な顔をする。
「何ですか?」
「今日の依頼はお前が片付けろ」
「へ?」ジュエルは足を止めた。「わ、私がですか?」
「そうだ。これからお前一人で依頼を引き受けるときが来るだろう。そうなっても大丈夫なように今のうちに力を付けていたほうがいい」ゴエモンはジュエルの答えを聞かずに階段を上がる。
ゴエモンの姿が見えなくなったとき、ジュエルはやっと答えを出す。
「……はい」ジュエルはその無茶振りを否定しなかった。
今までの依頼はゴエモンにずっと任せてばかりだったからだ。
それでは自分が強くなることなど一生できない。
強くなるためには苦労が必要。強さと苦労。この二つはセットなのだ。セットだからこその強さと苦労。
「私が……強くならなきゃ」ジュエルは拳を強く握り締めた。
階段の上から4人が降りてくる音がする。もうすぐ朝ごはんの時間だ。
◆◆◆
朝ごはんの時間。ゴエモン、ジュエル、アモン、ノベル、ルパンは早速準備を進める。
全員パジャマ姿で勇者には見えないが、その準備の速さは勇者にしか出来ないものだ。
いつもはギルドの奥にしまっているやけに重たい長机を5人がかりで引っ張り出し、ホコリをふき取る。
薄茶色の机に光沢が写ると男軍団は椅子やら食器を並べ、女性達は料理の盛り付けをする。
今日のメニューはふりかけご飯に味噌汁、漬物に魚の干物という和食一色。そこらのお母さんが作るような品々が並ぶ。
味噌汁が香ばしい匂いを上げ、5人の食欲を刺激する。
「いただきます!」5人は席につき朝ごはんを食べ始める。
ジュエルはお嬢様を思わせるような上品な作法で食べ、ノベルは自分の料理を採点しながら食べ、ルパンはアモンに料理の説明をしながら食事を進める。
「おいしいですね!」ジュエルは味噌汁の香りを楽しみながらすする。
「そう?もうちょっと醤油を入れたら香りがさらによくなると思うのよね」とノベルは味噌汁を慎重に味わいながら料理の採点をしている。
「いつか料理を教えてもらってもいいですか?」
「いいわよ。洋風でも和風でも何でも教えてあげるわ」
「やった♪」
女性二人は話に花を咲かせる。一方ルパンとアモンはいろいろな事を話しているようだ。
「これは、キュウリといってな。漬物はもちろんそのままでも食べられる野菜なんだ」とルパンは箸で漬物を持ち上げ、アモンに見せる。
「なるほどキューリか。魔界でも育てられたらよいのだがな……あいにく高気温な魔界ではキューリの方が耐えられなさそうだの」アモンは口惜しそうにきゅうりを見つめる。
「しかしこのように美味なる物を食べているとはやはり人間の食と言うものは進んでいるの」
「キュウリで驚いてちゃ世話無いぜ」とルパンは笑う。
「それは楽しみだの」アモンもつられて表情を崩す。
4人が楽しそうに箸を進める。何とも微笑ましいのだろう。
―――がゴエモンだけは一向に箸を進めようとはしない。ただ自分の目の前にあるメニューを見つめているだけだ。
その顔には暗みがさしている。
「なぁ、ノベル」ゴエモンはご飯茶碗を持ち上げながら真向かいのノベルに話しかける。
「どうかしたの?」ノベルは箸を止め、顔の暗いゴエモンに聞く。
「いや、あのさ……これ何?」と茶碗を傾け、ノベルに見せる。
茶碗には中量のご飯が盛られており、何やら黄色いドロドロの液体が飯の表面を覆っている。
「ハチミツ飯よ♪」ノベルはにっこりと笑う。
「ハチミツ飯よ♪じゃねえよ!」ゴエモンは箸を机に叩きつける。
「なんでご飯にまでぶっかけてんだよ!おかしいだろ!ドラ●もんでもこんな事しねぇよ!」
「でもミツラーなんでしょ?」
「ミツラーでも限度があるよな!?まだマヨラーでご飯にマヨネーズかけてもいいよ!でもハチミツはねぇだろ!」
「でも、頭が活性化するわよ。たぶん」とノベルはゴエモンの茶碗を取り、ゴエモンの口へと運ぶ。
「はいアーン」
「アーンするわけ無いだろ!そんな第一級危険物食えるわけが―――」
「いいから食え!!」とノベルが叫び、茶碗ごと無理やり口に押し込む。
「はごむっ!?」ゴエモンがそのまま椅子ごと倒れ、口には茶碗を押し込めたまま泡を吹く。
豪快な倒れる音が響くとゴエモンの箸が振動で床に落ちる。
「ちょっ!?ノベルさん何するんですか!」ジュエルはあわてて立ち上がり、泡を吹いているゴエモンに近づく。
「師匠!?」ジュエルが揺するがゴエモンは何の反応を示さない。
ただ泡を吹いている口から「あままま……」と謎の言葉を吐いているだけだ。
「大丈夫よ。そのうち戻るわ」ノベルは落ち着いてゴエモンをつつくと体がぴくぴくと痙攣を繰り返す。
「いや大丈夫なんですか?」ジュエルは心配そうにゴエモンを見つめるが、ゴエモンの回復力からそれもそうか……とため息をつく。
変わってルパンとアモンは興味なさそうにゴエモンの遺体を一目見ると料理の解説に戻っていた。
「そしてこれは……」とアモン。
「これは鮭という魚でな……」とルパンは先生らしく生態や食べ方などを丁寧に教えている。
「と、まぁ皆ゴエモンの回復力を知ってるのよ。心配する方がゴエモンも迷惑だと思うわ」ノベルは席に戻り、食事を再開する。
「さ、ジュエルちゃんも早くしないと片付けるわよ」
「あ……はい」ジュエルもしょうがなく、気絶したゴエモンをそのままに席に戻ろうとする。
―――とそこでゴエモンの隣にもう一つご飯の準備がしてあるのが目に入った。
「あれ?」「どしたのジュエルちゃん」ノベルがジュエルの声に顔を上げる。
「あの……師匠の隣にもう一つご飯が準備されているけど間違えたんですか?」ジュエルがそのご飯を指差す。どれも湯気が立っており、まだ手も付けられていない。
ノベルは首を伸ばし、その光景を見るといきなり噴出した。
「あはは!それはちゃんと準備されている物なのよ」
「へ?誰のですか?私達のはすでに間に合っているはずですけど……」ジュエルが不思議そうにそれらを見つめた。
「ここにはルパンと私以外にももう一人住んでいる娘がいるの」
「お二人以外にですか?一体だれが……」
「『ガリレオ』だよ」急にルパンが二人の話に割り入る。
「ガリレオ……殿という名前なのですかな?」とアモンも話しに加わる。
「そう、めったに顔を出さないんだけどね。時々ご飯を食べに来るからいつも準備だけはしておくのよ」ノベルはギルドの階段横にある扉を指差す。
「あの扉は地下室につながっていてね……そこでいつも研究しているんだって」
「地下室があるのかの!?ここは!」アモンが驚き、身を乗り出す。
「えぇ、会いたければ行ってみるといいわ」ノベルはそこまで言うと急に顔を曇らせる。
「でも……何の研究してるか私達も知らないんだけどね……」
「そ、それはまた……」ジュエルがガリレオの姿を想像するが、どうしても怪しい姿しか思いつかない。
くわえタバコに傷つきの顔、そして魔女のような怪しい顔つき。
マフィアのボスじゃね?みたいな女が真っ白な粉を製造している姿がジュエルには想像できた。
「ではいつか会う時になったら挨拶をするとしようかの」とアモンは扉をじっと見つめる。
「まぁ、怪しくは無いわよ。かわいい子だし」ノベルはつぶやくとゴエモンをみる。
「そうだわ。たしかゴエモンはガリレオと仲良かったから何か写真でも持ってるかも」
「師匠と……」ジュエルはあきらかにあやしいゴエモンと仲がいい人と聞き、さらに悪い女の絵を想像する。こんどは頭の中の女がナイフまで装備し始めた。
「さ、食事が冷めるわよ。さっさと食べなさい」とノベルが場を収める。
「そうですね」
「細かい事はまた後で……という事だの」アモンが飯を食べ終え、お茶をすする。
―――とここでゴエモンがむくりとおきだした。どうやら悪の食べ物は消化したようだ。
「あ、師匠大丈夫ですか?」ジュエルが心配そうに聞く。がゴエモンは宙を見ながらつぶやく。
「ここは……どこだ?」
「……記憶障害になってるぅぅぅぅーーーー!?」ジュエルのむなしい叫び声がギルドに響く……。
ゴエモン記憶障害なってるけど次回ではすっかり治ってるからね。
ジュエルのキスで治るとかそんなん無いからね!
ギャグだからねあくまで!