第5話 『あだ名があると人はかっこよくなれる』
土曜日はもっぱらひまなモンハン3流をこれからもよろしく。
「……ノベル……」
ノベルの耳にかすかな声が聞こえる。ルパン特有の低い声だとノベルは瞬間的に理解する。
「ノベルゥー」こののんきな声はゴエモンだ。
「ノベル!大丈夫か?」ルパンがノベルをゆする。ノベルはゆっくり目を開けると心配そうな顔のルパンと柱にもたれポケーっとしているゴエモンの姿が見えた。
バサラ王国の公園でつけない決戦を終えたゴエモン、ルパンがギルドに帰ってきたのだ。
「どうかしたのか?帰ってきたらお前が倒れてたんだぞ!」ルパンはノベルの頭をひざに乗せる。
「……二人共」ノベルはまだ体に残る痛みを耐え、ゆっくりと体を起こす。
「麻酔を打ち込まれてやがる。強盗でも入ったのか?」ゴエモンは抜き取った麻酔の弾を指ではじく。
「強盗位お前の『爆』の呪文で片付けられるだろ?」
「ノベル」ルパンはノベルを椅子に座らせると顔色を伺う。
ノベルは弱々しく二人を交互に見る。
二人共決闘の後で体中に傷があるがすでにふさがれているようだ。
これも一流の勇者のもつ回復力のおかげだ。
「ジュエルとアモンはどこだ?買い物か?」
「ジュエルちゃんとアモン君……」
ノベルの記憶が次第に戻っていく。
コカのバディによって二人が連れて行かれたこと、金を払いに来なければ二人を……
「!……ゴエモン」ノベルは顔を机の中にうずめる。
「ごめんなさい!二人共……連れて行かれたの!」
「あ?つれてかれた?誰に?」
「詳しく話せ。ノベル」
「……それが……」ノベルは先ほどの出来事を話し始める。
◆
「2時間ほど前にコカの連中がここに来たの。いつものように借金の返済を払えって……」ノベルは時計を見て、時間を確かめながら話をすすめる。
すでに時間は8時、月が空に輝いている。
「それで、私が断ったばかりに……二人が人質に」ノベルが泣き出しそうな表情でゴエモンに頭を下げる。
「ごめん……ゴエモン。私のせいで」
「あいつら、しばらく静かにしていたと思ったらまた来たのか」ルパンは外を見る。
コカによってボロボロにされたギルドを見るとルパンの怒りが頭に上る。
「コカか……」ゴエモンの顔が険しくなる。
「あいつら……約束が違うじゃねえか」ゴエモンは机においていた木刀を取ると力強く握り締めた。
「約束?」ノベルがゴエモンを見る。
「ん、あぁ何でもねえ」ゴエモンは木刀を持ち、入り口へ向かう。
「ちょっくらトイレに行ってくるぜ」
「ちょっと待て」ルパンはゴエモンの隣に立つ。
「この責任は俺たちが取る。てめぇは静かに待っていればいい」
「俺の荷物が盗まれたんだ。返却してもらわなければ」
「金が無ければ奴らはジュエルとアモンを返さんといっているだろ」
「お前ら金ねえんだろ」
「うるさい。いざとなったら俺が払う」ルパンは手を上にかざす。
「指でも落とせば奴らは納得するだろ。ライバルギルドの主戦力が使い物にならなくなるのだからな」
ゴエモンはルパンをにらむ。それは絶対に許さんといっている目であった。
「護る者のためなら俺は命を落としても護る」ルパンが足を踏み出す。
「……馬鹿か」ゴエモンはルパンの首根っこを掴む。
「何を……」
「命を落として護ったらその護られたものの気持ち考えろ。自分のせいでお前が死んだと一生後悔するぞ」ゴエモンは外に出る。
「護るんだったら両方救える方法を考えろ。それがいいだろ?」
「だが金は無いのだぞ。どうすれば……」
「心配すんな」ゴエモンは木刀を遠くにそびえる大きな建物に向ける。
その建物こそがコカのギルドなのだ。
「あいつらに必要なのは金じゃねえ。お灸をすえることだ」
「?」
「ついてきたいのなら勝手にしな」ゴエモンがコカのギルドに向かって歩き出す。
「おい……待て!」ルパンもゴエモンの後を追う。
「二人共……」ノベルは二人の後ろ姿を見送る。
「お願い……私もすぐに行くから!」ノベルはあくせくと準備をしだすがゴエモンが手を挙げ、声をかける。
「女は帰ってくることを信じて男の為にコーヒーの準備でもしておけ。それこそがどんなに心配されるよりも男がうれしいことだよ」
「ゴエモン……」
「あ、俺はどら焼きな」ゴエモンは付け足すと夜の王国に消える。
「……ありがとう」
ノベルのほほを一筋の涙が伝う。
「3年前の優しいゴエモンみたい……」
◆
コカのギルドは夜のお楽しみである依頼料の精算の真っ最中であった。
広いギルドにはいくつもの丸テーブルが置かれており、それぞれに5人が座っている。机の中央には『金一番』といやしそうな文字が書かれている。
精算している者だけでも30人はいそうだ。
そして力の強そうなごろつき共は札束を数えながら話に花を咲かせている。
「へっへ、最近の依頼主は太っ腹で助かるぜ」
「どうせまた金を2倍にしたんだろ?」
「当然だろ?命かけてんだぜこっちは、500万でも足りないほうだ.
脅しかけたらあっさり1000万にしてくれたぜ」
「はっ、仕事をきちんとしていないのによく言えるぜ」
「マモノを倒したってでたらめ言ってりゃあ金払ってくれるんだ。後は知らん振りすりゃあいいんだよ」
「ちげえねえや!」
ギャハハハ!と男の汚い声が響く。
ボスであるバディも一番奥で金を数えていた。
「ひい、ふう、みいと……」机に座り厚い束を一枚一枚数えているバディは一休みしようと背筋を伸ばす。
「いやーみんなよぉ働いてくれて助かるわぁ。金が集まるわ集まるわ。うひひひひひ」
笑いながら椅子を傾かせ、奥の牢獄部屋を見る。
ギルドの奥には牢獄がいくつか設けられており、いつもは使われないのだが今日は一つだけ人が二人入っている。
言うまでも無く、ジュエルとアモンである。二人共ぶすっとした顔をしている。
「……なんでこうなるんですか?」ジュエルはぶつぶつ言いながら腕に掛けられている手錠をはずそうとしている。
「ノベル殿の借金の肩代わりにされてしまったようだの。これはやばいの」
アモンは冷静な様子でギルド内をきょろきょろしている。
「ノベルさん来るかな?ノベルさんに限ってこないなんて考えられないし」
「しかしペプシは金が無いようだからの。来るかどうか」
「やめてくださいよ、そんな不吉な事。信じましょうよ」
「生物はこういう極限的状況だからこそ真の力が出せるというものだ」アモンは手錠をガチャガチャと上下に動かし始める。緩めようとでもしているのだろう。
「止めておいたほうがいいでぇ」バディが牢獄越しに二人に話しかける。
「どうせ、奴らは来ないんや。あきらめて人身売買に出されるのをおとなしく待っとき」
「じ、人身売買……」ジュエルはしゃれにならないと汗を流す。
「なるほど売られるのか。それは許せんの」アモンは手錠を上下するスピードを速める。
「無駄無駄。並みの人間に外せる事が出来る代物や無いで。お前さん方のような若い衆は高く売れるんや。傷なんかつけんでな」バディは高笑いしながら机に戻る。
「いい人質が出来てちょうどええわ。これでペプシはつぶれ、わいらコカが晴れてこの王国一のギルドになるんや」
「しかしボス」近くにいる男がバディに声をかける。
「なんや?」
「こんな事『白獅子』に知られたら俺ら終わりですよ」
「白獅子の旦那はわてらとの約束でもうギルドには近づけんのや。耳にも入らないやろ」
「ですが……」
「心配すんなや。それに今日は白獅子の旦那も約束の金を持ってくる日やな」バディは壁に掛けられているカレンダーを見ながらつぶやく。
「じゃあやばくないですか?もしペプシの野郎と鉢合わせなんかしたら」
「たしかにな。でも―――」バディはギルドのごろつきたちを見渡す。
「このギルドもいまや100人を超えるんや。抵抗してきたんなら一網打尽できるやろ。いなくなってくれたらさらにちょうどええわ」バディとごろつき達は一斉に笑い出す。
「……勇者も落ちぶれたものだの」アモンはバディたちを見ながらため息をつく。
「よく、父上には勇者の事を聞かせてくれたものだ」
「勇者のことを?」ジュエルは手錠をつけた腕をだらんと落とし、アモンの話を聞く。
「5年前、父上、つまり先代魔王が初めて地上の侵略を開始したという事はニンゲンでも知っておるだろう」
「えぇ、その時に人間とマモノが初めての衝突した戦い『第一次人魔大戦』が起こったんですよね」ジュエルは答えながらも顔を曇らせる。ジュエルの親が死んだ原因はその大戦だったからだ。
大戦は人とマモノの総力を挙げての戦いであったが、人間の科学も魔法もマモノの驚異的な力には遠く及ばない物であった。
結果的に人間はこの大戦に負け、現在のようにマモノから逃げながら細々と生活しているのだ。
マモノに無残に切り殺されるジュエルの親、まだ12のジュエルは何もするが出来なかった。
そして次は自分だという時に迫るマモノを倒し、救ってくれた一人の青年。
ジュエルが勇者になったのはもちろん復讐の為だが、あの助けてくれた青年に会ってお礼を言う事も理由の一つであった。
「いや、ちがう。大戦前に父上はすでに一つの王国を滅ぼしている」
「えっと確か……東京のアルゴン王国でしたっけ?」
「そう、アルゴン王国の地下からマモノは地上への進出を果たした」
「え!たしかアルゴン王国跡には『シャーデンフロイデ』という巨大な謎の穴がありますけどまさかそれが……」
「そう、マモノが地上へと出向くために作られた巨大な穴なのだ。さすがに危険すぎてニンゲンも調査がそこまで出来ていないのであろうな」
「あそこにはマモノが多いと聞きますけどマモノの本拠地につながっているからなんですか?」
「そうだ、話を戻すが先代魔王は手始めにアルゴン王国を滅ぼそうとしたのだがそのときにある一人のニンゲンと戦ったらしい」
「魔王さんと戦うなんて強い人だったんですかね?」
「そうらしいぞ。自分の命が消えるまで父上を攻めたてたその男に父上は戦いながら興味を持ったと言っておった」
「そんなすごい人がいたんですか!」
「そう、まぁ父上の圧勝だったのだがな。しかし父上は大戦の後、勇者という者がでて来ても自分が認める勇者は奴だけだと言っていた」
「へぇーかっこいい人ですね。命かけて人を護るなんてあこがれますよ。私もそういう勇者になりたいなぁ」
「つけたすとそのニンゲンはまだ生きてるらしいがの……だが」アモンは再度ごろつき共を見る。
「これではこの地上に勇者にふさわしい者などもういないのかも知れんの……」
◆
コカのギルド前では門番と二人の訪問客が何やら口論をしていた。
「いや、だからね。もう人員募集とかしてないから。どっか別のギルドに行ってくれる?」ごつい門番は二人の男を追い出そうとしている。
「いいじゃんよぉー。俺だって皆さんと一緒に税金泥棒したいんだよ」笠をかぶった男が文句を言う。
「嫌なことを言うな。俺たちは今も王国のためにがんばっているんだ。素人が簡単になれると思うな」
「王国のため?何を言うか」もう一人の男が門番の胸倉を掴む。
「お前らが護っているのは自分ばかりではないか。よくもそんな戯言いえるものだな」
「―――貴様何をするか!?」門番は男を振り払い腰にさしている剣を抜く。
「おいおいルパン。んなことで怒ってんじゃねえよ」笠男は男を引っ張り叱りだす。
「だが、ゴエモンお前あんな事いわれて悔しいねえのかよ!」
「悔しい?んなこと当然だろぉ!」男は門番の前に立つ。
「お?おまえらぁ!?」門番が二人の正体に気づく。
笠男は拳を振り上げ、門番に叩き込む。
「おらぁぁ!!」
「おばぁあぁ!」ゴフアァァァ!!と轟音と鳴り響き門番がギルドの壁を突き抜け、中にぶっこまれる。
ゴフアァァァ!!とギルドに大音量の爆音が響く。
「な、なんやぁぁぁ!?」バディが立ち上がると前から吹き飛ばされた門番が飛んでくる。
「お、おわぁぁ!」バディが吹き飛ばされた方を見ると壁が壊れている。
「ボスゥ!侵入者です!」
「侵入者?何者や一体?」
「そ、それが……」
次々と侵入者を倒そうと精算していた者たちが侵入者に向かっていくが、ことごとく吹き飛ばされ、地面に沈む。
「おいおい、王国を護るギルドはやけに弱いな。ゴキブリのほうがまだ厄介だぞ」一人の男がギルド内に入ってくる。
オレンジの髪と剣を振り回しながらごろつき共を斬り捨てる。
「じゃあお掃除と行きますか」笠男も笠を脱ぐ。白いモジャ髪が目立つその男はギルド内にいるコカの集団に木刀を向ける。
そして二人の侵入者は声を重ねる。
「王国の害虫退治だ」ゴエモンとルパンがにやりと笑う。
「あれはペプシの……」ごろつきたちが後ずさる。
「ルパンと『白獅子』じゃねえかぁぁ!!」
◆
ジュエルとアモンは牢獄の外の異変に気づかないまま牢獄内でおとなしくしていた。
「強い勇者はいない……ですか」ジュエルは手を硬く握る。
「勇者は今になってはたくさんいます……」
「だが本当の勇者などもういないと自分は思う。そうだろう?」アモンは目を閉じる。
「たしかに今の世界、まじめな勇者なんていないかもしれませんよ。汚れた勇者しかいないかもしれませんよ―――でも」ジュエルはゴエモンの顔を思い浮かべる。
「こんな汚れた世の中だからこそきれいに光る勇者っていうのは見つけやすいんじゃないんですか?」
ジュエルは続ける。
「私は……師匠が……ゴエモンという勇者がその光る勇者だと信じたいですね」
「ほう、それは奇遇だ」アモンは目を開け、手錠をはずす。溶けたようにアモンの腕から外れる手錠は地面に落ち、跡形も無く消えていく。
「自分もそう思っていた所だ」
「アモンさん!?どうやって……」ジュエルは驚くが、アモンは気にも留めず自由になった手でジュエルの手錠に触れる。
「自分の『滅』の魔法はその生物の元となる元素の活動する力をなくすのだよ。そして活動する力を失った元素は消滅する」
ジュエルの手錠も元素が活動力をなくしたのか、消滅する。
「す、すごーい!」ジュエルが自由になった腕をまじまじと見る。
「すべての生物は元素で出来ておる。つまりこの魔法は全てのモノに効果があるのだ」アモンは立ち上がる。
「行くぞ。奥が騒がしい。何かあったのかもしれんの」
「!もしかして……」
「あぁ、だが借金返済にしてはやけに騒々しいな……」
◆
「おらぁ!」ゴエモンが襲ってくるごろつき共を木刀でなぎ払う。ごろつきは無残に吹っ飛ぶと気を失う。
「撃てぇぇ!!」一人の幹部らしき男が号令を出すと後ろに控える鉄砲隊が二人に向けて弾を発射する。
「ふん」ルパンが当たり弾を剣で払うと鉄砲隊に向けて両手の指を使い四角の形にする。
よく画家が被写体を見るときに使うあのカメラの様なポーズだ。一見かっこ悪く見える。
「頂く!」ルパンが気合を込めるとその四角の中が光る。
「ぐおっ!」急な光に鉄砲隊の全員が目をつぶる。
「な、何だ!?」
「やべぇ!『盗まれて』しまったぞ!ルパンの呪文だ!」
「はぁ?お前何……」鉄砲隊はしばらく混乱していたが急に黙る。
「……」
「お、おいお前らどう……」幹部が声をかけるが鉄砲隊は何も答えない。うつろな目をして、宙を見ている。
「おい……」幹部が再度声をかける。
「めんどくさい」隊員がやっとぼーっとしたまま答える。
「は?」
「めんどい。敵倒すの」そういうと隊員は武器を捨て始める。
「おいおい。お前ら何してやがる!」
「めんどい。答えるのも」さらに隊員たちは帰り始めようと背を向け、出口へと向かう。
「ルパンてめえ何しやがった!?」幹部はルパンを見つめる。
「てめえらの『やる気』を頂いた」ルパンは手をほどくと次はゆびぱっちんをする。
ピンっ!と音が鳴るとルパンの指からでかい火の玉のようなものが出てくる。
「な!」幹部は驚く。
「返してやろう。ありがたいと思え」ルパンは幹部に鉄砲のように指を向け、呪文を唱える。
「返却!」ルパンの指から火の玉が飛ぶように幹部に向かっていく。
「あぁぁぁ!」幹部は避ける間もなく直撃し、無様に吹っ飛ぶ。
「……これで貸し借り無しな」ルパンは煙の出ている指に向けて息をふっと吹く。
ゴエモンは木刀でほとんどのごろつきを片づけると、バディの前に立ちはだかる。
「……久しぶりでんな。白獅子の旦那」バディは銃を構える。魔法用の特性の銃で銃口も普通のものより広い。
「あぁ、2年ぶりか」ゴエモンは息をつくとバディをにらむ。
「ホワイトライオンを思わせる白いモジャモジャの髪を振り回しながら木刀で暴れまわるその姿はまさに『白獅子』。通り名は伊達じゃありまへんな」
「あだ名なんてどうでもいい。それよりバディ、お前この状況はどういうことだ?約束が違うぞ」
「約束?あぁ、あれでっか」バディはわざとらしく手の平を打つ。
「約束?なんだそれは?」戦闘を終えたルパンはゴエモンを見る。しかしゴエモンは何も答えない。
ただ布眼帯をしている目が赤く光るのだけはわかった。
「おやぁ?旦那。まだこいつらにあの約束のこと言ってへんのか?」
「バディ。てめぇ何だその約束とやらは?」ルパンはバディを見る。
「ちょうどええ白獅子の旦那。3年前のわてらの約束事を話したらどうでっしゃろ?どうせ裏切り者扱いされているんでしょう。あのぼろギルドに……」バディが言い終わる前にゴエモンの木刀がバディの顔面すれすれまで迫る。
「おわぁ!」バディは身を引く。当たっていたら終わりだ。
「あぁたしかにしたな。でもお前はそれを破った」ゴエモンが布眼帯をはずす。赤い目が現れ、ゴエモンは赤い目を手で覆う。
「ギルドを辞めればこいつらに……ペプシに手は出さんとな」
「ゴエモン、てめぇ!それで辞めたのか?」ルパンは驚きの表情を見せる。
ゴエモンはそれには答えない。
「それに金も毎年払いにいけば、こいつらが何壊そうとその金で済ませてくれと俺は言ったよな?」
「な!?」ルパンは再度驚く。バディはすでに顔から冷や汗を出している。
3年前からコカがペプシに対する嫌がらせはあった。
依頼の邪魔、ペプシのものと名乗り王国の民に迷惑をかけたりなどその数は10件を越えた。
ノベルやその他大勢の人が困っていたのはルパンも知っていた。
しかしそれを止めるためにゴエモンが奴らと秘密の約束をしていたのは知らなかった。
ゴエモンは両ギルドの関係がこれ以上まずくならないように、ペプシを護るために自ら悪役となったのだ。
「ゴエモン……お前」ルパンはゴエモンを見る。ゴエモンは済ました顔で笑みを見せる。
「俺はいつでも自分が後悔しないような選択をしてきた。自分がいくら汚れようと、傷つこうと、護るものの為なら俺はいくらでも汚れるし、いくらでも傷つこう」ゴエモンは赤い目から巨大な大剣を引っ張り出す。
「処刑道具 崩壊の先導者!」5メートルはある大剣をゴエモンはバディに振りかざす。
「ちょっ!旦那それはないんじゃ……」バディは腰をぬかす。
「約束破った奴は針を千本飲むそうだが、これでいいか?」
「いいわけないでっしゃろ!」
「俺の荷物を勝手に持ち出した罰だ。おとなしくしな」
ゴエモンの剣がバディに振り下ろされようとする瞬間―――
「師匠―――?」バディのいる所の脇道からジュエルがひょっこり出てくる。アモンも一緒だ。鉄格子を破ってきたのだろう。
「助けに来てくれたんですか!?」
「ジュエル!?どけ!」「へ?」ゴエモンが叫ぶがバディが一足早く、ジュエルに近寄り、後ろに回ると銃をジュエルの頭につける。
「ちょっと待てや!人質や!うごくんやないでー」バディが形勢逆転とばかりに後ろに下がる。
「へ?え?」いまいち理解し切れていないジュエルは戸惑っている。
「ジュエル!」「ジュエル殿!」ゴエモンとアモンが叫ぶ。
「そこの兄ちゃんもや。手ぇだすんやないで」
「くっ!……言われなくてもわかってる」アモンはゴエモンのところにまで下がる。
「バディぃ!」ゴエモンは大声を上げ、バディに迫る。
「ちかづくなゆうのがわからんか?」バディはジュエルのこめかみに銃を押し当てる。
「……」ゴエモンはしかたがなく剣を下ろす。
「そちらもようやってくれたな。商売が台無しやで」バディが周りを見る。
札束とごろつきがあたり一面にちらばり、なにがなんだかわからなくなっている。
「これが上に知れたらどうなるかわかってんのかいな?『ギルド同士の争いは禁じる』。法律で決められていることや。どっちにしろあんさん達のギルドは終いやで」バディが地面に転がる小刀をゴエモン達のところまで足で転がす。
「切腹ものやこれは。でも今から腹切るなら上にも黙っといてやるで。まぁどっちにしてもあの女が悲しむのは目に見えてるけどなぁ!」
汚く笑うバディ。
しかしゴエモンはちらとも気にせず、ルパンと目でコンタクトを取る。
「大丈夫だぜ。バディよ」
「は?」
「俺達がしているのはギルドの争いじゃねえっていっただろ」ルパンが指で四角ポーズをとる。もちろんバディに向けてだ。
「ただの」ゴエモンが再び剣を振りかざす。刀身がバディの頭上に影となって降り注がれる。
「害虫駆除だぁぁ!!!」ルパンの四角から放たれる光と共にゴエモンが剣を振る。
「うそぉぉぉ!師匠私も食らうんですけどぉぉお!」ジュエルは目をつぶる。
「おわぁ!?」バディがあせって銃を撃とうとするが弾は出なかった。
「な……ルパンかぁ!?」
「てめぇの『弾』を頂いた」ルパンが手の中からバディの弾を出しジャラジャラとてのなかで躍らせる。そして二人は不敵な笑みを見せ、ゴエモンが一言。
「約束ってのはな守ってこそ約束といえるんだよ。じゃあな」
「―――貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!」バディが叫んだ直後、ゴエモンの剣が大きな音を立てて、振り下ろされた……。
◆
翌日のペプシのギルドは今日もひどい有様の外観をさらけ出している。
しかし中からは楽しそうな話し声が聞こえていた。
「で……一発やらかしてきたのね」ノベルは天井に設置している朝のテレビを見ながらつぶやく。
カウンターにはジュエル、ルパンがコーヒーをすすっていた。
「ま、まぁ……」ジュエルは苦笑いをする。
「それよりよかったわ。ゴエモンが3年前と何も変わらないようで」ルパンからゴエモンとコカの間で約束事があったことを聞き、ノベルはうれしそうな表情でテレビを見ている。
朝のテレビではバサラ王国のことが取り上げられていた。
コカのギルドが何者かによって破壊されたということだ。
ボスであるバディがインタビューに答えている。
「それでいったい昨夜はなにがあったんですか?」記者の質問に対し、ふるえているバディはこう語る。
「本当に何も知らないんですぅ……。昨夜のことを思い出すとふ、震えが止まらなくてぇ」その顔からは恐怖の表情がありありと表れている。
ちなみにコカは依頼人から違法な依頼料を頂いていたことでついでで取調べが行われているらしい。
それが本当ならばコカは終わりであろう。
ノベルはルパンを見る。
「『記憶』を抜き取ったのね」
「あぁ、昨夜の記憶は一人残らずすべて頂いた。これで上にもおこられんだろ」ルパンは平然と答える。
「あんたの『盗』の呪文には王国一のギルドもかなわないね」
「『盗』の呪文って何ですか?」ジュエルはノベルを見る。
「ルパンの得意技で相手の『あるモノ』を盗む呪文よ。種類は一つしか盗めないけど種類が一つであれば何人でも盗めるわ。火の玉にして相手に返す+攻撃も出来るし」
「へえ、便利なんですね」
「そうね。それよりジュエルちゃんごめんね。へんなことに巻き込んじゃって」
「いえ気にしてませんよ……」ジュエルはここまで言ってはっと大事なことを聞く。
「ノベルさん!あのちょっと聞きたいことがるんですけど」
「何?」
「師匠って目から槍とか剣とか出したりするんですけど何なのか知ってますか?」
「いや、私達はずっとあいつからは4次元アイという道具なんだとか言われたけど……本当のところは私達でも何だかわからないわ」
「ドラえ●んネタそこからやってるんですか……」ジュエルはあきれる。
「そうなんですか……ノベルさんたちも知らないなんて」
「そういえばゴエモンとアモンちゃんは?」ノベルがギルド内を見るが二人の姿はない。
「さっきどっかに行ったぞ」ルパンがコーヒーをすすりながら教える。
「どこ行ったんだろう二人共……」
◆
朝の公園ではゴエモンとアモンがブランコをこいでいた。
大の大人と青年が二人でブランコをこいでいる景色は不気味でラジオ体操をしている人たちを退散させた。
「ゴエモン殿」アモンがゴエモンのほうを見る。
「何だ」ゴエモンは真顔でブランコをこぎ続けている。
「こたびの成果はすばらしいものでしたの」
「ありがたき幸せであります」
「あの大剣をすれすれの所で止めるとはさすがだ」アモンは昨夜のことを思い出す。
あの後、ゴエモンの大剣はジュエルとバディ二人を切り裂くことはなく、頭上で止められていた。あと数センチで届きそうなぎりぎりである。
二人共ショックで気絶したのだが、怪我は当然なかった。
「あれは寸前で止められるように作られたんだよ。崩壊といっても壊すのは精神をだ。あんなの何回もされちゃあ並の者は気が狂う」
「なるほど、だから処刑道具か。どちらかといえば拷問道具だがの」
「ちがいねえ」
「……ゴエモン殿」
「何だ」
「率直に聞く。その右目はどこで手に入れた?」
「ドラえ●んからもらった」
「うそはやめてもらいたい」アモンはブランコをとめる。
「……なぜだ」ゴエモンもブランコをとめる。アモンはゴエモンを真っ直ぐ見つめている。
「それは……」アモンはゴエモンの布に包まれた右目を見る。
「その目は……自分の父、『先代魔王の右目』……ではないのか?」
「……」ゴエモンは黙る。
「そうか。ではおぬしが」アモンは納得したように立ち上がる。
「おぬしが自分の父が認めた『最後の勇者』であるのか……」
アモンのその目は敵に向ける目でもなく、仲間を見る目でもなかった。
何の音も声もしない公園にアモンのブランコだけがキーコーと音を立てながら揺れているのだった……。
続く。
終わりです。
コカ編も終わったし、やっと話の本筋が見えてきました。
これからもよろしく。
あ、今回ゴエモンが「勇者ですけど何か?」を言ってねえ……。