第4話 『ライバルとの決着はついてしまうとおもしろくなくなる』
アモンはマモノですけど人としておいてゴエモンジュエルとあわせて3人と表示しておきます。
めんどいわけじゃないよホント。
バサラ王国
日本の四国に存在するその王国は謙譲なる壁と上空に設置されたバリアのおかげでマモノの進入はめったなことが無い限りありえない。
町の中では安全な生活を楽しむ人たちが日夜仕事に汗を流していた。
酒場は毎晩楽しそうな声が聞こえ、武器やでは勇者が店の親父と値踏みの口論をしている。
道端では奥様達が楽しそうに冗談を言い合い、近くで子供は元気に新聞紙を丸めて作った剣で勇者ごっこの最中だ。
そんな王国にゴエモン、ジュエル、アモンの一行はいた。
「師匠ありがとうございます!私王国に一回でも行きたかったんですよ」ジュエルは渋い顔であるくゴエモンに笑顔を見せる。
「あぁ……べつにいいさ、俺も少し寄りたいところがあるから」ゴエモンはあたりをしきりに見渡している。まるで何かにおびえているようだ。
「なにをしておるのだ。おぬし?」アモンがゴエモンの顔を見る。すでにゴエモンの顔には汗がだらだらと流れている。
「な、なんでもねえよ……まったくジュエル、お前よりによってこの王国を選ぶたぁな」
「だって武器も防具も道具もそのレパートリーはすべての王国でもトップを争うといわれているところですよ!おしゃれな服だって買いたいですし!」
「おしゃれな服買ってどうするのだ、誘惑でもするのか?」アモンは冷静にジュエルに聞く。
「誘惑とか言わないでくださいよ……おしゃれしたいというのは女の子の常識ですよ」ジュエルが所かしこに点在する服屋を一つ一つ確かめる。
そのたびにジュエルの目の輝きは強くなる。
「まったく外見ばっかり気にする女性は嫌だねぇ。心で誘惑すれば早いのによ。それに外見がきれいな奴は中身が汚いって言うぜ。女は外見と中身が反比例するんだよ」
「外見も中身もきれいな人もいますよ」
「両方きれいな奴は大事なところが汚れて―――」ゴエモンが言い終わる前にジュエルの鉄拳が飛ぶ。
「止めてください!卑劣ですよ師匠!」
「……すいません」ゴエモンは顔を抑えながら立ち上がる。
「なるほどニンゲンは両方きれいだと大事なところが汚いと……」アモンはポケットからメモ帳を出すとメモをする。
「何かいてるんですか!アモンさん!そんな汚れたこと書かれたら誤解を生みます!」ジュエルがメモ帳を奪う。
「ということはジュエル殿のこの巨大な胸は心のすさみと引き換えに手に入れたのだな」アモンはジュエルの胸をつかむ。
「そうだ。だから淫乱な奴ほどエロい体してんだよ」ゴエモンももう一方の胸をつかむ。
「なにつかんですかぁぁぁ!?」ジュエルの鉄拳が二人の頭に振り下ろされる。
◆
その後3人は服屋へと場所を移し、ジュエルの服選びをすることになった。
「まったく二人とも常識というものを考えてくださいよ!」ジュエルが顔を赤らめ、ぷんすか怒りながらいくつか服を選び、試着室へと入る。
「いやぁアモンに人間という者を教えたかっただけだよホント」たんこぶをこしらえたゴエモンが外から言い訳をする。
「師匠が教えているのは醜い部分だけですよね!」中からジュエルの服を脱ぐ音が聞こえる。
「……」ゴエモンが試着室に近づく。
その時カーテン越しにジュエルの恐い声が響く。
「……のぞかないでくださいよ」
「……はい」ゴエモンはおとなしく引き下がる。
「ゴエモン殿、これがニンゲンの覗きという奴なのだな」アモンは興味心身にゴエモンを見る。
「そうだ。そしてこれが男のロマンだ」ゴエモンがにやにやと怪しい笑いを浮かべ再度近づく。
「ついでに男はな、開くなって言うと開いてしまう生き物なんだよぉぉぉぉぉぉ!」ゴエモンの手がカーテンに伸びる。
その時ゴエモン達のすぐ横で轟音が響く。何かが爆破された音だ。
「おぉ!?」ゴエモンとアモンが爆風で吹き飛ぶ。
ゴエモンは吹き飛ばされると
「な、なんだ!」ゴエモンが倒れたまま轟音の響いた場所を見ると壁に穴があいていた。見ると板がこげており、何者かが壁を爆破したとわかる。
「師匠!何したんですか!」ジュエルが驚き下着一枚で出てくる。
「何って俺は何も……」ゴエモンは起き上がり、ジュエルの姿を見る。
「……うほっ」ゴエモンが鼻血を流す。
「―――なにみてるんですかぁ!」ジュエルが試着室にある椅子を投げる。
「ごえふっ!」にぶい音とともにゴエモンが再度倒れる。
「ちょっとなんなんですか一体!」異変に気づいたうすらはげの店長が穴に近づくと穴の外から足が飛び出し、店長を蹴り飛ばす。
「ごえふっ!」店長が壁に腰を打ち気絶する。
「すいませーーーん!」一人の女が穴から出てくる。厚い鎧に身をまとったその姿は勇者と認識できる。ペアピンをたくさん金色の長髪が外からの風でなびいている。
「強盗が入ったって聞いたんですけどぉ!私達『ペプシ』が来たからには安心してください!」女は大声で店内へとずかずか入っていく。
「どこだぁー!強盗!私達から逃げられるとでも思ってるの!?」
「あ、あの……」倒れている店長が最後の力を出し、女の足をつかむ。
「な、何?」女は後ずさりする。
「強盗なんて来てませんけど……」店長がそれだけ言うと再び気絶する。
「……あり?」女は周りを見渡すが強盗の姿一人いない。
「だからいっただろノベル、服屋じゃなくて酒屋の福屋だよ強盗が入ったのは」穴からもう一人男が出て来る。夕焼けを思わせるオレンジの短髪でホストが着るような服をつけたいやに目立つその男は店長を踏みつけノベルという女に話しかける。
「そうなの?ならば早く言ってよルパン」
「さっきから言ってるよな。お前が呪文使って壁ぶっ壊そうとする時にも一回言ったよな」
「まったく、あなたはいつもそういう大事なことを私に言わないんだから」ノベルはやれやれとため息をつく。
「いや言ったって言ってるよな?聞いてる人の話?」
「これだからあなたはだめなのよ」
「だめなのはてめぇーだろ!話し聞けアバズレ!」ルパンの叫びを無視してノベルは倒れているゴエモンを起こす。
「大丈夫かしら?」「あぁ、すまな―――」二人は顔を見るとと驚いたように目を見開かせる。
「……ゴエモン?」
「……ノベル……」ゴエモンは汗を大量に流し、つぶやく。
試着室から出てきたジュエルとアモンは話しの展開が見えてこないのか顔を見合わせる。
「お、おひさしぶり……」ゴエモンは無理に笑顔を作りその言葉を搾り出した。
◆
舞台は外に移る。
「いだだだ!」ゴエモンは強引にノベルに引きずられる。その様子を王国の人々があやしげな目で見つめていた。
「ちょっとノベルひどい!引きずるだけはやめて!お願い!すれるから!」
「ホントいい度胸ね!私達を裏切った奴がわざわざのこのこと現れるなんて感心するわ!」ノベルはゴエモンの話を聞かず引っ張り続ける。
「あ、あのすいませんノベルさん?」ジュエルはノベルの覇気に驚きながらも声を掛ける。
「あぁごめんね二人とも、急にあんたらの仲間さらっていっちゃって」のベルは優しい顔になりジュエルとアモンを見る。
「おぬし達は何者だ?」アモンがノベルとルパンを見る。
「私はノベル、ここの町で勇者のギルドを営んでいる者よ。こっちは同業者のルパン」ノベルがルパンを指差す。するとルパンは軽く会釈をした。
「なるほどギルドの人か、なるほど」アモンは理解したふりをし、ジュエルに近づく。
「ジュエル殿、ギルドとは何だ?」
「ギルドは平たくいうと勇者の集団ですよ、集団のほうが仲間をいっぱい出来るし、勇者の中では有名な商業方法ですよ」
「なるほど勇者の集団か、興味深いな」
「私はジュエルです。ゴエモンさんとは師弟の関係なんんです」ジュエルが頭を下げる。
するとそれを聞いたノベルはため息をつく。
「ゴエモン、あんたいくら巨乳が好きだからって仲間にまでするなんて最低ね。毎日ジュエルちゃんにセクハラしているの?ジュエルちゃんがかわいそうよ」
「んなわけねえだろ!確かに巨乳は好きだけどこいつが勝手に弟子になったんだよ!」ゴエモンが引きずられながら叫ぶ。
「そ、そうですよ!私達はただの師弟関係なだけで……」さすがにジュエルも食いつく。
「へぇ……そう……」ノベルは怪しい笑みを浮かべる。
「おい何考えてやがるアバズレ」ゴエモンがノベルをにらむ。
「じゃあそっちの子は?」ノベルがアモンを見る。
「自分はアモン。魔王のおとう―――」アモンが自己紹介をしようとするがジュエルに口をふさがれる。
「な、なんだジュエル殿?」
「そんなこと言っちゃだめでしょうが!」ジュエルが小声でしかる。
「いま魔王の何とかって言わなかった?」ノベルがうかがわしげな顔でアモンを見る。
「アホウの弟って言ったんです!お笑い芸人の!ねぇ?」ジュエルがあせりながらテレビで見た芸人の名前を挙げ、ごまかす。
「そ、そうでやんす……」アモンも意味を読み取り、早急にテレビで見た名前の知らない芸人のまねをする。少しでもお笑い芸人に見せる努力をしている。
「へぇ、あのアホウの……私知っているわよ。お兄ちゃん最近人気なくなってきているのけど大丈夫?」ノベルがアモンをじろじろ見回す。
「へ、へぇおかげさまで……なんとか……」テレビで覚えた江戸っ子言葉をアモンは巧みに使う。
「でもなんでゴエモンの仲間にいるの?」
「お、お笑いの修行でさぁ……」
「ふふ、面白い子ね」ノベルが微笑みながら足を止める。
「ここが私達のギルドよ」
ノベルが指差した建物は青い壁に青い扉、3階建てのビルに空の色を落としたような建物だった。
とてもすがすがしい雰囲気で歩いていると思わず足を止めてしまうような外見だ。
しかし足を止めてしまうのはその鮮やかさのせいではなく、建物の状態に目を疑ってしまうからであった。
ビルに描かれた卑猥な言葉の落書き、割れたガラス、焼けこげた壁、その建物のひどい有様は3人を驚かした。
「な……!これは……」アモンが目を見開かせる。
「ひどい……」ジュエルは口を覆う。
「ノベル、何だこの有様は?リフォームか?」ゴエモンだけはあっけらかんとしている。
「……そうよ」ノベルは顔をゆがませながらギルドの中に3人を案内する。
ルパンがぼろぼろの扉を開けるとそこにはきれいに片付いた誰もいない広場があった。
机がいくつか置かれているが使われている気配は無く、カウンターもきれいに拭かれてはいるがグラス一つ置かれていない。
「座って」ノベルがカウンター奥に立ち、3人に席を勧める。ルパンはカウンターのそばの柱に腰掛ける。その表情は無表情だがどこか寂しげであった。
「あの……外のは一体……」ジュエルが座りながらカウンター奥のノベルに聞く。
「あぁ、何でもないわ。気にしないで」ノベルはえがおを崩さずジュエルにはオレンジジュース、アモンにはコーヒーを出す。
「おごりよ。好きなだけ飲んで」
「ありがとうございます」
「どうもでやんす」二人はそれぞれ飲み物を一口すする。
「ゴエモン、あんたは?」
「どら焼き、こしあんな」ゴエモンはカウンターにひじをつきながら注文をする。
「そんな物無いわよ」
「まったく、料理のレパートリーを増やしておけと3年前から言ってるだろう?」
「うるさいわね」
「それより誰もいないが他の奴らはどうしたんだ?」ゴエモンが周りを見渡す。
「てめぇが知る必要はねぇよ」ルパンが急に口を開く。
「ほぉ、ルパン。お前いたのか。ほこりかと思ったぞ」ゴエモンがうすら笑いながら言い返す。
「そのヘドロのような口も3年前と同じだな。てめぇのおかげで俺たちの仕事はあがったりなんだぜ」
「ほぉ、それはそれはよろこばしいことで」
「てめぇ……3年前まで共に仕事していた奴に言う言葉がそれか」ルパンがカウンターに置かれていた包丁を手に取り、ゴエモンに向ける。
「俺はもうこのギルドを止めた身だ、ギルドがつぶれようが何の情もわかねえよ」
「ゴエモン!あんたぁ!」ノベルも思わずカウンターをたたく。その目は怒りで満ち溢れている。
たたいた衝撃でオレンジジュースとコーヒーが揺れ、ジュエルは驚く。
「久しぶりに会ったから少しはおもてなしでもしようかと思ったら!」
「師匠、それは言い過ぎなんじゃ……」
「ジュエル、ガキが口を出すな」ゴエモンが席を立ち、ルパンの前に立つ。
「やるか?ギルドを辞めた裏切り者とよぉ」ゴエモンは食器入れからナイフを取り出すとルパンに向ける。
「外でろ。3年前の決着つけてやる」ルパンが壁に掛けられた剣を取るとゴエモンに渡す。
「ふん」ゴエモンがナイフをポケットにしまうと剣を取る。
二人が外に出るとノベルがため息をつき、ジュエルとアモンを見る。
「……ごめんね。あの二人仲が悪くて……」
「い、いえ」
「気にいてないでやんす」アモンは芸人口調を忘れずにコーヒーを飲み続ける。
「ニンゲンとは不思議だな。泥水からこんな美味な物を作るとは」アモンがコーヒーの入っていた空のコップを見て、ジュエルに耳打ちをする。
「ちがいます。これは泥水じゃなくてコーヒーという立派な飲み物なんですよ」ジュエルも耳打ちで返す。
「ほぉ、コーフィーか」アモンがまたメモをする。メモをするついでにアモンはノベルに聞きたいことを聞く。
「ノベル殿、おぬし達とゴエモン殿はどういう関係なのだ?3年前がどうたらこうたら言っておったが」
「ゴエモンさんが裏切ったってどういう意味なんですか?」ジュエルも身を乗り出す。
ノベルはその質問に少し戸惑いを見せたが、今となってはしょうがないというように話し始めた。
「……3年前ね、ゴエモンと出会ったのは」ノベルが話を進める。コーヒーのおかわりを入れる動作はゆっくりとしていて絵のようだ。
「私がまだ駆け出しの勇者だったころ、せっかくだしギルドに入ろうかと思ったんだけどね、この王国にはギルドが一つも無くて自分で立ち上げようと決めたの」ノベルがカウンター奥の写真を見る。そこには一枚の写真があり、ノベルとルパンが二人で新築のギルドの前で並んで写っていた。
「最初は全然依頼も来なくてね、来ても私よく人の話を聞かないからよく依頼失敗したりしていたわけ。立ち上げ直後からいた親友のルパンにもたくさん迷惑かけたわ」
話を聞いていたジュエルは目の行方に困っていたが、その時カウンターの落書きに気づいた。
ノベルの字であろうか『世界一のギルド!』と木のカウンターにナイフのような物で削られている。かなり古い物でささくれが出来ている。
「そして私達が途方にくれていたときにゴエモンがやってきてね、いきなりふらっとこう言ったの。『ギルドに入れてくれ』ってね。驚いたわ。貧乏なギルドですよって何回言っても聞かなくてね、しょうがないから入れてあげたの」ノベルが一枚の写真を見せる。そこには仏頂面のゴエモンとルパンの間に笑い顔のノベルが写っている。
「それからはゴエモンの活躍で私達の仕事は絶好調、ゴエモンもあぁ見えて完璧主義だから評判もよかったわ。他の場所から来た勇者もここに来るようになったしあのころが一番楽しかったかしらね……」ノベルが遠くを見るように宙を見つめる。
前までは大男が酒をあおっていたグラスにはホコリがこびりつき、多くの依頼が貼り付けられていた依頼板はさびしげに期限の過ぎた依頼書を揺らしている。
「でも……3年前仕事が8件くらい入っていたゴエモンは急にそれらすべてキャンセルしてギルドをやめたの。本当に急に」ノベルは机のホコリをなぞり始める。そしてそのときの事を思い出し始める。
あの時―――荷物をまとめるゴエモン、それをただじっと見つめる仲間達。
ルパンだけはゴエモンに食いかかり、理由を聞き出す。
「なぜにやめるんだよ!急にそんなこと言われても……教えてくれよ!なんでそんなこと……」
ゴエモンはため息をつき、一言。
「……あきたんだよ。仲良しごっこには」
次に起こったルパンとゴエモンの乱闘。ゴエモンに向けられたルパンの拳が始まりのゴングとなりギルド内は大乱闘となった。
ビンが飛び交い、机は押し倒され、剣の混じる音も聞こえた。
その光景をノベルはただ呆然と見ることしかできない。
「みんなやめて!こんなことしても……」ノベルの声は誰にも聞こえない。彼女に出来たのはカウンター奥に逃げ込み、泣くことだけであった。
彼女自身が作りたかったのはこんな光景ではない。
みんなが笑っていられるような楽しいギルドをめざしてきた。
しかし、それもこの日を境に一瞬にして崩れ去るのだった。
そして乱闘が治まった後にはゴエモンの姿は無かった。
「今でも信じられないの。ゴエモンがあんな事言うなんて」
「師匠が……」ジュエルは話を聞いて心配になったのか外を見る。
「ゴエモン殿はそのような者ではないと自分は思うのだがな」アモンは写真の数々を眺めつぶやく。
「そう……」ノベルもそう信じたいのかその言葉には力がこもっていた。
「ここでいいだろ」ゴエモンが王国の公園を対決の場所に決める。
公園には子供とその保護者が楽しそうに遊んでいたが、ゴエモンとルパンの緊迫した空気に怖気ついたのか逃げていった。
ルパンは公園に誰もいないことを確認するとゴエモンをにらむ。
「てめぇが辞めたおかげでこっちは主戦力なくしてみんなやめていったんだぜ。今頃詫びでもいれに来たのか?」
「お前らに用は無い。ちょっとある奴に金を渡しに来たんだよ」
「ほぉ、わびの金か?すまんがそんな物受け取れん」
「お前らじゃねえって言ってんだろ。よく聞けボケ」
「そうか……ゴエモン」ルパンが声のトーンを落とす。
「ん?」ゴエモンは公園に落ちている小枝を足でぽきぽきと折っている。
「てめぇ、ギルドに戻る気はないのか?」
「無い」ゴエモンは即答する。
「なぜだ?今お前はギルドも無い一人なんだろ」
「一人?すまんが俺はいまやっかいな奴の世話を押し付けられているんだ」ゴエモンの脳裏にジュエルとアモンの顔が思い浮かぶ。
「荷物はそう何個も持っちゃいけねえよ。たくさん持っていると一つなくしても気がつかねえからな」と言い、ゴエモンはポケットからナイフを取り出す。
「999勝999敗」ゴエモンがつぶやきながらルパンとの間合いを取る。
「999勝999敗」とルパンも息を整える。
「あと一勝で決着がつくってときに逃げやがって」ルパンが剣を抜く。
「お楽しみは後にとっておいたほうがよいだろ?」ゴエモンはナイフをルパンにむける。
「ナイフでやる気か?ふざけるのもいい加減に―――」ルパンの言葉を手でさえぎり、ゴエモンは自分の剣を前に出しナイフを素早く剣に振り下ろす。
すると剣の先は音も無くナイフにより分離し、するりと地面に落ちる。
カランという乾いた音とゴエモンの笑みが重なる。
「ハンデだ。少しは有利だろう?」
「おいおい、ハンデになってないぜ」とルパンは苦笑するがその顔には嬉しさしかない。
「よかったぜ。そっちのほうは腐っていないようだな」
「腐ったのはお前らのギルドだけ……か」ゴエモンがその言葉を言い終わる前にこわばった顔のルパンの剣がゴエモンに突きつけられる。
「おっと」ゴエモンは軽くそれをナイフでふり払う。
二人の剣の混じる音が公園に響き渡る。
ゴエモンはルパンの剣さばきをナイフで受け止めるとここぞとばかりに突きを出す。
ルパンもそれを長い刀身で受け止め強烈な衝撃を外に受け流す。
二人の足が速まり、次第に剣が見えなくなるまでその速さは増す。
ガキンッ!という音だけが公園に響く。
二人の顔には真剣の表情が写っていたが、どこか楽しんでいるようにも見える。
「ゴエモンっ!」
「んだよ!?」
「あのな……なんでもねえよ!」
「なんじゃそりゃ!?」
二人の戦いは激しさを増す。同時に二人の顔もほころんでいく。
この二人は戦いを楽しんでいるのだ。
ゴエモンがギルドに入ったころから意見の食い違い、嫉妬、ただなんとなくいらつくなどという理由で二人は毎回この『決着』をつけようと戦う。
しかしどちらかが勝とうと負けようと決着がついたとは二人とも言わない。
ついてしまうと面白くなくなるからだ。
勝敗をつけるということはどちらかが上にどちらかが下になるということ。
二人はどこかでそれを嫌い、いつもとなりで、同じところでけんかをする。
二人はお互いを拒絶しながら認め合っている。そんな仲であった。
昼の公園には二人の剣、いや、心がぶつかる音が響く……。
◆
「二人とも遅いわね」ノベルは自分用のコーヒーを静かにすする。
ギルドの中にはノベル、ジュエル、アモンが二人の帰りを待っていた。
空には悪雲が立ち込め、王国の人たちはその雲の行き先を見つめる。
親は子供に帰りを告げ、数々の店は店を閉める準備を始める。
しばらく経つと雨粒がギルドの屋根に落ち始め、ギルド内にはしとしと降る雨の音で満たされる。
「広い場所がこんなにも静かだとなんだか気持ち悪いわね」
「えぇ」
「だの」二人は口をそろえる。
「結局私達にはゴエモンが必要だったのかのかしら。あいつがいなければ何も出来ない。その程度だったかもしれないわ私達は」
「……えぇ」
「だの」
3人がそのまま黙りこくっていると急にギルドの扉が開く。
「失礼さしてもらうでぇー」濁ったような声が静かなギルドに響く。
すると扉から小柄の男がサングラスをかけた大勢のボディーガードを引き連れギルドの中にずかずかと入ってくる。
「雨が降ってきてしもうてな。ちょっと雨宿りさせてもらいますわ」鼻の高い小柄の男は机の一つに座る。ボディーガードは男の周りを囲う。
「バディさん、お久しぶりです」ノベルが男を見る。
「誰ですか?」ジュエルが小声でノベルに聞く。
「この王国のギルド『コカ』の長よ。3年前にゴエモンを失い勢いを失った私達ペプシを追い抜き、王国一のギルドになったの」ノベルは嫌な顔をしながら飲み物を運ぶ。
「よければどうぞ」
「ノベルはん、わてらが欲しいのは飲み物なんかやない。金や」バディは椅子をノベルのほうに傾け、笑みを見せる。
「あんさんたちが壊した王国の修理代1億、しっかり払ってもらわないとこっちも王様におこられるんや。たのみますわ」
「もう少し待ってください。いつかきっと必ず払いますので」ノベルは唇を固く結び頭を下げる。
「いつかっていつやねん!?もう1年も待ったで!いつかいつかといえば伸ばしてくれると思うたか!?学校の宿題ちゃうんぞ!」バディは椅子を蹴飛ばし、がんをとばす。
「いいかげんにしないとギルドぶち壊しまっせ?今まではあれくらいで済ましておきましたけど―――」バディは外のひどい光景を指差す。
「すみません。もう少しでお金はたまりそうなんです……」
「わからんか!?お前さんたちがいくらがんばろうとその分の修理代で金は消えるんや!意味ないんや!さっさと金払って出ていってくれや!それになぁ―――」
バディはそう吐いた後、ノベルの体をじろじろと見回す。
「あんさんのべっぴんな体なら金なんて男釣っていくらでもまきあげられるやろ?」
「―――!」ノベルは思わずバディに平手打ちを打つ。
「あべっ!」バディはあっけなく吹き飛ぶ。ボディーガードがあわててかけよりバディを起こす。
「な、なにするんや!」
「私は勇者として責任はちゃんと果たします!だけどこの心だけは汚しませんよ!」
「なに生意気いってんのや!今の時代汚れずに生きていけるとでも思っているんか!?」
「そう思わないといけないんです!今の時代こそ。マモノによって沈んだ人たちの心を救い上げる、それが私達勇者でしょう!私達がそんなこと言ってたら終わりでしょう!?」
「そういうことを言うくらいなら約束は守ってもらわんとなぁ」バディが合図を出すとボディーガードが銃を出し、ノベルではなくジュエルとアモンに向ける。
「……へ?」話を聞いていたジュエルが思わず身をすくめる。
「ほぉ。なんだか面白いことになってきたの」アモンはどうやら何かの催し物と思っているようだ。
「ちょっ、何するの!?」ノベルはバディにつめよるがバディはその気持ちの悪い笑みを絶やさない。
「今夜までや、支払いは。それまでこいつらは人質として預かっておくで。利子もな」
ボディーガードたちはジュエルとアモンの腕をつかみ、外へ連れ出そうとする。
「え、えぇ!」ジュエルは抵抗できないまま連れて行かれる。
「あなた達!まちな―――」ノベルは食いつこうとするがバディの銃弾がノベルの腹部を撃ちぬく。
「かっ……!」ノベルの目の前がどんどん暗くなっていく。ジュエルとアモンの姿もだんだんと消えていく。
体は言うことを聞かず、足に力が入らなくなる。
ただバディの一言だけがノベルの薄い意識の中で反響する。
「麻酔薬や。安心しなはれ。今夜までにうちのギルドへ来て金を払う。もし断ったら……新しく入ったこいつらの命は無いで」バディの姿も消える。
ノベルは薄れる意識の中、2人の名前を呼ぶ。
「ルパン……ゴエモン……」
ノベルはその場に倒れ、ゆっくりと目を閉じる。
「……たす……けて……」
……ペプシのギルドの窓からは涼しく、そしてどこかさびしそうな雨風が吹くばかり……。
続く。
さてどうなることやら?さっさと仕上げて一安心したいです。
それではまたいつか