第3話 『めんどいやつは連続して現れる』
さすらいの勇者ゴエモンと新米勇者ジュエルの二人の旅、ウルナンデスを出た二人は今、平原を歩いていた。
詳しく言うと日本の四国地方らへんを南へと歩いている。
ゴエモンは腰に掛けられたウルナンデス産の木刀を見る。
もちろん剣のペイント入りだ。
「これで、しばらくは大丈夫だな。これを使わなくていい」ゴエモンは布眼帯をしている右目を触る。
弟子のジュエルはゴエモンの右目を不思議そうに見る。
「師匠、その目は一体何なんですか?」
「ただのアクセサリーだって」ゴエモンは呆れ顔をする。
「アクセサリーから槍は出ませんよ!教えてくださいよ!」ジュエルは昨日あったことを思い出す。
ゴエモンがタウロスと戦うときに右目から槍を出したこと、そして処刑道具という槍。ゴエモンの謎は深まるなばかりだ。
ゴエモンはため息をつく。
「しょうがない。教えてやろう。この目の本当のしょうたいを!」
「そ、それは!?」
「あれは俺が子供のころだった……」ゴエモンが回想に入る。
おれはあのころは勉強もせず、ただのだめなメガネ野郎だった。
そしておれがいつものようにだらだらと部屋で寝ていたとき……。
机の引き出しがひらき、何者かが出てくる。
「ちょっと師匠?」ジュエルがゴエモンの回想を止めるがゴエモンは止まらない。
そう、青いタヌキどらえ……
「ちょーーーーー!」ジュエルが強制的に回想を取り消す。
「なに出しているんですか!なんでそこでドラが出てくるんですか!?」
「そいつからもらったのがこの道具『四次元アイ』だ」ゴエモンが右目を指差す。
「うそですよね!そんな物が何で出てくるんですか!そのうそ話どこのポケットから出しているんですか!?」
「これを7つ集めればドラゴンが願いかなえてくれるとか何とか……」
「どこの漫画のコラボレーション!?どんだけうさんくさい話ですか!」
「なんだうそとばれたか」ゴエモンが頭をかく。
「当然でしょ!21世紀に送りますよ!」
「だーかーらーその目何なんです?」
「ないしょ」ゴエモンがそっけなく答える。
「えーーー」
「えーじゃない!」ゴエモンがジュエルをしかる。そして前を指差す。
「ほれ、ここを越えるぞ」
ジュエルは前を見る。
巨大な木が空に向かってそそり立っており、てっぺんが見えない。雲を突き抜けているようだ。
その木が何本も生えており、まるで巨大な森となっている。
木の部分は巨大な松の木のようだが正体はわからない。
「……すごい」ジュエルが上を見上げる。
「次の町に行くにはこの森を越えなければならない」
「森なんですかこれ?」
「自然に出来た森だからな。名前も無ければ地図にも無い」ゴエモンは早速入る。
「待ってくださいよ!」ジュエルはすぐにゴエモンの後を追いかけるがそのすぐ後ゴエモンの上から何かが落ちてくるのを確認した。
「……鳥?」
鳥のような者がゴエモンの上に垂直落下してくる。
「師匠、上から何かが落ちてきますけど……」
「え?」ゴエモンが上を見上げる。目の前に落ちてくる何かの頭が見える。
人間のようだ。―――とゴエモンが認識した瞬間、
ゴンっ!!
鈍い音が響き、落ちてきた人間の頭はゴエモンの鼻に勢いよくぶつかる。
「ぎゃああああああ!」ゴエモンが激痛で道端を転げまわる。
「rヴえおりbwん0r9n!!!」ゴエモンは何かを訴えている様だが何を言っているのかもわからない。
落ちてきた人間はゴエモンのすぐ横に静かに着地する。
「師匠!大丈夫ですか?」ジュエルがゴエモンのところまでかけよる。
「うううう……」ゴエモンはしばらくの間、鼻血を流しながら転がり続けていたがしばらくすると何事も無かったのように立ち上がる。
「痛ってぇーじゃねえか!?―――ったくよぉー!いい年して泣いちゃうところだっだぜ!なんで空から人が落ちて来るんだよ!ラピュ●かこのやろぉー!」ゴエモンは叫び、何者だと近くで倒れている人に近づく。
落ちてきた人は青年のようで160センチのジュエルよりは背がありそうだ。ストレートの黒髪で肌の色は薄黒くやけている。
「……生きてますよね?」ジュエルがゴエモンの陰に隠れながら青年を心配そうにみつめる。
「さぁな」ゴエモンが青年をしばらく眺め始める。
「嫌に礼儀的な服装をしてるな」
青年は黒い服を着ているが、なんともいえない服装だった。黒い制服のようなシャツ、黒いズボンに黒い靴。
執事を想像させるが、青年が着るとまさになんともいえない服装に仕上がるのだ。
ゴエモンがしゃがみ、青年の脈をとる。
静かに心臓の鼓動が感じられるとゴエモンは青年を担ぎ、近くの木陰へと走る。ジュエルも後に続く。
「息はしてるな」ゴエモンが青年の怪我の様子を見るが、たいした傷がない事を確認した。
「あんな上空から落ちてきたというのに軽症とは……只者ではないな」
「いや、落ちてくる人を顔面で受け止めて死なない人もすごいと思いますけど……」
ジュエルはゴエモンの顔を見るが血はすでに止まっていた。これも一流の勇者がもつ回復力の証拠だ。
「……」しばらくして青年の目が静かに開く。灰色の瞳がゴエモンとジュエルをとらえると青年ははっとした表情になる。
「あ……あの」ジュエルが声を掛ける。
「!……あ、ぐ……」青年は立ち上がろうとして急に腹をおさえ、低い声でうなる。
「腹に打撲痕があった。しばらくは動けんよ」ゴエモンが木にもたれ、青年に声を掛けると青年の服を脱がそうとする。手にはシップを持っている。
「貼るぞぉ」
「……触るな」青年はゴエモンの手をはねのけ、立ち上がろうとする。
しかし、すぐに痛みで座り込んでしまう。
「ちっ……」
「動かないほうがいいですよ」ジュエルが青年の怪我に薬を塗る。
「……どこだ、ここは」青年はあたりを見渡す。
「日本です……日本の南の四国地方です」ジュエルが青年の頭に冷えピタを貼る。
「四国……か」青年は冷えピタの接着に違和感を覚えたのか冷えピタをはずそうとしている。
「……何者だ貴様らは」青年は冷えピタをはずした後ゴエモンとジュエルを交互に見る。
「私は勇者のジュエルです。新米ですけど……」ジュエルは笑う。
「ゴエモンだ。てめぇは?」ゴエモンはそっけなく答えると青年に問う。
「自分か……自分は……自分は……」青年は同じ言葉を繰り返す。
「自分は?」ゴエモンは青年を怪しげに見る。
「自分は……」青年は次第に額から汗を流し、地面に手をつく。地面を見て、必死に何かを考えている。
「?」ゴエモンとジュエルは顔を見合わせる。
「あの……」ジュエルがまず声を掛ける。
「あ?」青年はジュエルをにらむ。
「まさかだと思うが、自分の名前がわからないのか?」ジュエルの代わりにゴエモンが単刀直入に問う。
「……あぁ」青年はうなずく。
「自分は……誰だ?」
◆
「それで……だ。お前について知っていることはこれくらいだ」ゴエモンが紙に書く。
「記憶を失ったのは頭を打ったときですかね?」ジュエルが紙に一文付け足す。
『青年の謎』
1 名前、住所、年齢、職業についてまったく知らない。
2 空から落ちてきた
3 タキシード(?)を着ている。
4 記憶を失ったのは頭を打ったとき(?)
青年は一通り見ると二人を見る。
「じゃあ、自分は何者なんだ?」
「知るか、そこからわかったらすごいぞ」ゴエモンは紙を破ると地面に捨てる。
「師匠、地球温暖化ですよ……」ジュエルがゴミを拾う。
「マモノで忙しいというのにそこまで手が回るか」ゴエモンは青年を見る。青年はまだ状況を整理しようとがんばっている。
「―――つまり、自分はあんたらに助けられたんだよな」青年は二人の顔を交互に見る。。
「あぁ」
「いや、記憶障害の元凶は師匠でしょ」
「なんのことだか」ゴエモンはそっぽを向く。
「まぁ、一応礼はいう」青年は頭を下げる。
「あぁいいから。俺はこれがもらえればいいから」ゴエモンは指で金のポーズをとるがジュエルに引っ込められる。
「いいんです。無事ならよかったです」
「そうか……」青年は立ち上がる。
「あれ?傷は……」ジュエルは青年の腹を見るが打撲痕はすでに消えている。
「もう大丈夫だ。世話になった」青年はそそくさ立ち去ろうとする。一体記憶障害のままどこへ行こうというのか?
「あ……どこに行くんですか?」ジュエルが聞き出そうとするが青年は黙ったまま二人とは正反対の道を行く。
「あの……」ジュエルが追いかけようとするがゴエモンがとめる。
「止めとけ……めんどいことに首をつっこむなよ」
「でも……」
「めんどいことは嫌いなんだよ。俺は」ゴエモンは森の中へと入っていく。
「ほら、行くぞ……」ゴエモンは後ろを振り向きジュエルの前に青年がいることに気づいた。
「あれ?」ゴエモンが青年に驚く。
「あれ?」ジュエルも青年の存在に気づく。
「ん」青年は二人を見渡す。
「戻ってきた」青年が真顔でつぶやく。
「えっ、戻ってきたの?あの距離を?」ジュエルが青年に聞く。あの距離から戻るにはかなりの速さで走らないといけない。なんという足の速さだ。
「あぁ、最後に聞きたいことがあってな」平然と青年が二人に聞く。
「自分はどこへ行けばいいんだ?」
しばらくの沈黙……。
そしてゴエモンとジュエルの声が重なる。
「「知るかぁぁぁーーーー!!?」」
◆
「……で」ゴエモンが森の中を歩きながら後ろを見る。後ろにはジュエルと謎の青年がついてきている。
「なんでお前がついてくる?」
「自分は記憶が無いのだ。行きたいところもわからん。しょうがないからお前らについてきているのだ」
「なにそれ?どういう脳回路してるとその答えにたどり着くの?ラピュ●に帰れよ、飛行石使って」
「とにかく自分は何もわからないのだ。ゴエモンといったな。俺を助けてくれ」
「嫌だ」ゴエモンが即答する。
「師匠しょうがないですよ。記憶障害になったのは8割師匠のせいですよ」ジュエルは周りを確認しながら話す。
「んなわけないよな!10割こいつが落ちてきたのが悪いよな!」
「大丈夫だ、自分は貴様らの生活に支障は加えん。この森を向けたら近くの町にでも行く。ということでしばらく失礼するぞ」
「ついてくるならば俺たちからは離れたほうがいいぜ。俺たちの旅はお前よりめんどくさい奴らが来るからな」
「?誰だそれは」青年はゴエモンを見る。
「それはぁーだな」ゴエモンは足を止める。
「師匠?どうしたんですか?」ジュエルと青年も足を止める。
いきなり森の地面が揺れる。地震だ。
「おおおお!」青年はゆれに驚く。地震は大きくなっていき、地面にひび割れが入る。
「師匠!これは!」ジュエルがゴエモンを見る。ゴエモンはすでに木刀を抜いている。
「ほうら来なすった」ゴエモンが前を見る。
3人の前方の地面のひび割れが次第に広がっていき、地面の中から植物のつるがのびて来る。
「めんどいやつ(マモノ)だ!」
植物のつるはしばらくうねうねと空中でつるを動かすといきなり3人に襲い掛かる。
「ふん!」ゴエモンの木刀がつるをなぎ払う。つるのかけらは地面に落ちても動き続ける。
「ジュエル!いったぞ!」ゴエモンが叫ぶと同時にジュエルにつるが迫る。
「は!」ジュエルも負けじと剣を抜き、つるの先に向かって振る。剣はつるを正確に捉え、一瞬で切り捨てる。
つるは数を増やすがゴエモンの木刀がそれらを貫く。ゴエモンが木刀をそのまま引き抜き、つるをそこらじゅうにぶちまける。
マモノは二人の猛攻に退きの体勢をとる。地面にもぐり、一瞬にして地面の中へ消えてしまった。
「ふぅ……」ジュエルがマモノが去ったことを確かめると剣をしまう。
「おお!」青年は二人の勇姿を見て感心する。
「やるなおぬし達!そこまで強い人は見たことが無い!」
「お世辞言っても無駄だ。俺たちは自分の道をあけていくだけだからな。助けんぞ」ゴエモンも木刀をしまう。
「なんだかんだ言って師匠も素直じゃないですね」ジュエルが笑う。
「お黙り!」ゴエモンがジュエルに鉄拳を食らわす。
「勇者とはここまで強い物なのか!いやはや、思ってた以上だ!」青年は急に口調が変わる。
「そんな口調なのかお前」ゴエモンが青年の口調の変わりように気づく。
「おや、本当だ。口調が元に戻ったのかもしれんな!」青年が喜ぶ。
「この調子なら自分のことも思い出すかもしれないの!ゴエモンとジュエルとやら、旅を続けるとしようぞ!」
「のんきですね」ジュエルがゴエモンを見る。
「ったく荷物は一つで精一杯というのに」ゴエモンがため息をつく。
「荷物って誰のことですか?」
「お前」ゴエモンがジュエルを指差す。
「……」ジュエルはまだ自分は師匠の役に立っていないのかと少しがっかりし、うなだれる。
「ところでさっきのは何のマモノなんでしょう?」再度歩みを進める途中でジュエルがゴエモンに問う。
「つるで生物を捕まえ、生気を吸って成長するマモノだろ。その証拠に地面がひどく荒れている」ゴエモンの指差した地面は草一本はえていない。
マモノの根によって地面の生気、つまりエネルギーが吸われている証拠だ。
「でも、なぜここの森はかれていないのだ?」青年も尋ねる。
「たぶんこの森も奴の一部なんだろうよ。たとしたら本体には会いたくねえな。強いだろうから」
「おぬし達の強さがあれば大丈夫ではないのか?」
「どうだか……」ゴエモンは周りを見る。周りにはマモノが一匹もおらず、静まり返っている。
かすかに空から怪鳥の鳴き声がするくらいだ。
「小さいマモノもここら辺には近寄りたくないようだな」
「あの触手の餌になるのがオチですからね」ジュエルが背伸びをするとジュエルの全身の骨がぽきぽきと鳴る。
「まぁ、進むのが楽なのはありがたいがな」
「……おぬし達はどういう関係なのだ?」青年が二人の様子を見て二人に聞く。
「師弟です」ジュエルが答える。
「荷物と持ち主の関係」ゴエモンが答える。
「師匠……ひどいですよーー……」ジュエルは泣くまねをする。
「さっきも私がんばったじゃないですか。初めてですよ活躍したの」ジュエルがほほを膨らます。
「あれくらいだれでもできるわい」ゴエモンは口笛を吹く。
「ほれ、気がつけば出口だ」ゴエモンが目を指差す。
100メートル先に森の終わりが見え、光が差し込んでいる。
「やった!これで安心ですね」
「ふむ、ここから近くの町といえばなにがあるのじゃ?」青年がゴエモンに聞く。
ゴエモンが地図を広げ、確かめる。
「ここからすぐ王国があるからそこへいけ。あとは王国の人たちに助けでも求めるんだな」
「なんだおぬし達はこぬのか?」
「俺は王国には行きたくないんだよ。少しとおくの町の安い宿屋にでも泊まる」
「じゃあその王国でお別れですね」
「―――でも、あのつる野郎をどうにかしないとな」ゴエモンが上を見上げる。
「あのつる野郎って……もうたおしたんじゃ……」ジュエルはゴエモンにつられ上を見て驚く。
葉の生い茂る木の上ではあのつる野郎が本体を引き連れ、3人を狙っていたのだった。
「……でかい」ジュエルは見とれるがすぐに気を取り直すと剣を抜く。
本体はでかいつぼみのような形をしており、そこから何本ものつるを出していた。この本体が森そのものであり、森の王なのだ。
「森を歩いて疲れている俺たちに奇襲を掛けるつもりなんだろうが俺の鼻はだまされないぜ」ゴエモンも木刀を抜く。
「キングツリーとでも名づけるか」
「ぎゃしゃああああ!」キングツリーは先ほどとはひかくにならないつるを出す。
「うわわ!」ジュエルは剣を構えるがつるの束がジュエルを覆う。つるはジュエルの全身に絡み付き、あっというまにジュエルを持ち上げる。
「くうっ!」ジュエルは体をばたつかせるがつるのしまりはきつくなるばかりだ。
「あっ!」ジュエルが剣を落とす。
それに気づいたゴエモンは落ちていくジュエルの剣をすばやく取るとジュエルに巻きついているつるをジュエルの剣と自分の木刀ですばやく切り落とす
「ジュエル!たえろぉ!」ゴエモンが切り続けるが森全体の養分を吸い尽くしたそのつるは一向に切れる気配は無い。
「ちぃ!」ゴエモンは根元を切るのをあきらめ、ジュエルの近くまで上ろうとするが他のつるに邪魔をされる。
切っても切っても湧き出てくるつるにゴエモンも苦戦していた。
さらにつるは近くでゴエモン達の戦いを見物している青年の存在に気づくと標的を青年へと向けた。
「ん?―――えぇぇぇぇぇ!?」青年が気づくころにはつるはもう目の前まで迫っている。
「おい!てめぇよけろ!」ゴエモンが叫ぶが青年の全身につるの雨がふりそそぐ。
「―――!」ゴエモンがジュエルの安全を確認する。
ジュエルは首を振る。自分は大丈夫だと示しているのだろう。
「ふん!」ゴエモンは剣をジュエルに投げ渡すと青年のところまで走る。
「おい!大丈夫か!」ゴエモンが青年の埋もれるつるをかき分ける。
「おまえ―――」ゴエモンが青年の姿を確認する―――が青年の姿を見た瞬間ゴエモンは足を止める。
乾いた砂煙がおさまったそこには青年が両手でキングツリーのつるをつかんでいたのだ。青年のするどい目は本体をにらんでいる。
「おい、おぬし」青年がつるをブチブチとちぎる。本体が異変に気づいたのか青年のところまでつるを伸ばす。
「自分を誰だと思っておるのだよ」青年はつるを手で次々をちぎっていくと本体の前に立つ。
本体は青年の姿を確認するとふたたびつるを伸ばそうとする―――がつるはのびない。
「?」本体はつるを見る。そこにはゴエモンが木刀ですべてのつるをばらばらに分解していた。
ジュエルもすでにまきついていたつるをすべて切り落とし自由の身になっていた。
「おぬし……」
「……なんだ記憶戻りやがったのか、てめぇなにもんだ?」
「……まさかニンゲンに助けられるとはの」
「はぁ?」
青年が本体のところまで高く飛ぶ。手を握り締め、なにか呪文のような言葉を唱える。
「夜と闇の宣教師よ、再びわが身にその力の再臨を見せたまえ」青年は手を広げる。
「闇の裁判!」
黒い野球バットのような棒がが青年の手のひらから伸びていく。青年はそれをつかむと本体へ振り下ろす。
「自分は……」青年の一撃が本体へとぶつかる。
「自分は……魔王の弟、アモンじゃぁぁぁ!!」
ものすごい轟音とともに青年の攻撃がキングツリーの本体にめり込む。
キングツリーはあまりの痛みと苦しみに地面に倒れる。
本体はしばらく間苦しそうにばたついていたがそっとアモンが近寄り一言。
「無駄だ、自分の『滅』の魔法を食らったのだ。礼儀の無いものには滅びあるのみだの」
キングツリーはアモンの見て恨めしそうな顔をするとしずかに息を引き取った。
「す、すごーーーい」遠くでジュエルがアモンの呪文に見とれていた。
「……っていうか魔王の弟?」ジュエルが近づいてくるアモンに恐る恐る聞く。
「そうだ。すっぱり思い出しだしたぞよ」アモンはあっけらかんとした表情で武器を背中に担ぐ。バットのような武器な為、これから野球をしにいく執事という言葉がぴったりな姿になった。なんとも似合わない。
「うそぉぉぉ!?」アモンの言葉にジュエルが後ずさる。
「魔王ってあの魔王!?」
「あぁ、マモノの頂点に立つボス的存在魔王、自分は弟だ」
「うひょぉぉ!?」
「なに驚いてんだジュエル」ゴエモンがジュエルを呆れ顔で見る。
「なにって当然でしょ!魔王の弟ですよ!ドラクエのバラ●スと同じ位の存在ですよ!」
「俺も傷の治りが早いことから人間に化けたマモノかと思っていたがまさか魔王の弟とはな」ゴエモンがあごに手を当てる。
「おぬしらが驚くのも無理は無い。にっくき相手の中核的存在が現れたのだからの」
「なにそれ自分を中核的存在って言うの。ナルシストかよ」
「ナルシストじゃない」アモンが即答する。
「ていうかアモンさん仲間倒してるんですけど……」ジュエルがキングツリーの残骸を見る。
「よいのだ、悪いマモノは自分の野望の邪魔になるからな」
「悪いマモノ?」
「なんだそれは?」二人が首をかしげる。
「そうかニンゲンはしらんか、まぁ詳しくは森を出てからにしよう」アモンは森の出口を指差す。
「自分達マモノの現状を」
◆
「自分達マモノは今大きな作戦を実行に移そうとしている」ゴエモンとジュエル、そしてアモンの3人、いや二人と一匹は王国への道を歩く。アモンはその道中に話を進める。
「作戦?」
「……」ゴエモンはいつになく静かにそれを聞いている。
「その作戦は人類をこの世から消し去ること」
「じ、人類を……消し去る?」
「そう、自分達マモノにとってニンゲンはゴキブリ並みの排除物なのだ。そこで魔王をふくむ上のものはどうにかしてニンゲンをこの地上から消そうと日夜作戦を練っているのだ」
「ちょっと待ってくださいよ!なんであなた方マモノの為に人間が滅びないといけないですか?」ジュエルはアモンの口から放たれる勝手な理屈に反抗する。
「いったはずだ、ニンゲンが滅びないと自分達が滅びるのだ」アモンは足取りをおそめることなく、淡々と話を続ける。
「今マモノには地上が必要なのだ」
「地上が……必要……」ジュエルはアモンの言葉を理解しようとするがさっぱりわけがわからない。
「つまりお前らは人間から地上を奪おうとしているんだな」口を閉ざしていたゴエモンが口を開く。
「自分達マモノは地下深くに長年住んできたがそれももう限界がきたのだ」
「地下?マモノの住処は地下なんですか?」
「なんだおぬしらニンゲンはそんなこともわかっておらんのか?」
「……まぁ」ジュエルはむっとするがここはおさえる。
「我らが祖先が古代から選んだ住処が地底。なぜかはわからんがわざわざ地上へ出ることもない」
「でも……食べ物とかは」
「地下深くに住んでいるといっても植物などは育てることが出来る、食べ物にもなにも困ってはいなかった。生活も何の苦労も無い。ニンゲンの存在にも気づいていたが特に気にしてもいなかった。あれが起こるまではな……」アモンは下を向く。
「あれって―――なんですか一体それは?」
「ニンゲンがそれを起こしたおかげで自分達の地底の植物は枯れ果てた」アモンは空の太陽を見る。
「そう……地球温暖化だ……」
「ち……」ジュエルはあきれる。
「地球温暖化ぁぁ!?」
「ニンゲンたちのたび重なる悪事のおかげで地底は一気に温度が上がり食料の植物は枯れ、マモノは全滅の危機にさらされた」
「なんですかそれ!地球温暖化が原因で地上占領ってなんかしまりが無いんですけど!」
「しかもニンゲンが起こした問題、許してはおけん。自分達マモノはそこで人間を滅ぼし地上を占領し、なんとか種族の存亡を保とうとしたのだ」そしてアモンは遠くを見る。
「そうすれば地上の食料は自分達の物、クーラーも冷蔵庫も自分達の物だ」
「なんですかそれぇぇ!たしかに地球温暖化は問題になってますけどそこまですることはないですよ!一応私達がんばってますよ!」
「ほう、やはりニンゲンは何とかしようとはしているんだな」
「やはり?」
「実はマモノにもニンゲンと仲良くしようと考えている奴もいるのだ。その一人が自分だ。現在マモノにはニンゲンと仲良く問題を解決していこうとする和解派と人間を滅ぼして解決しようとする滅亡派に分かれている」
「な、なるほど。つまりアモンさんは優しいお方なんですね」
「まぁ、滅亡派が圧倒的に多いのだがな。自分は和解派をあつめていたのだがある日滅亡派の魔王に気づかれてケンカとなったのだ」
「ケンカ……ですか」
「それで自分は見事に負け、吹っ飛ばされた。あの馬鹿力で地下よもぶち向かれ自分は3日間空を飛んでいた」
「それで落ちた場所が……」ジュエルがゴエモンを見る。
「そう、こやつの鼻頭なのだ」アモンもゴエモンを見る。ゴエモンはふてくされ、向こうを見ている。
「まぁ、マモノの狙いは地上を狙うことなのだ」
「いまさらですけどそんなぺらぺらしゃべっていいんですか?」
「大丈夫だ。地上進出はしていないからな強い者は。しゃべることも出来ない知能の低い奴しかいないだろう」
「地上進出ってもうすでにあなた方地上進出しているじゃないですか」
「弱いマモノはな」
「弱いマモノ?」
「マモノには二つ種類がある。強い者と弱い者、簡単に強さで区分されるが強い物にはある弱点がある、その弱点のせいで強い者は地上へと出られんのだ。その弱点というのが―――」
「太陽―――だろ」ゴエモンが口を挟む。
「ほう、知っているのか。まったく、問題であるはずの太陽が弱点とは不幸なものだの」
「強いマモノは太陽に弱いなんて聞いたことありませんよ。師匠一体どこでそんな情報を手に入れたんですか?」
「内緒」ゴエモンは口笛を吹き知らん振りをする。
「またですか……」
「強いマモノは魔力が強い、しかしマモノの魔力というのはなぜか太陽に当たると消滅してしまうのだ。それゆえ強きマモノは太陽の照らされる地上には出られんのだ」
「弱いマモノは魔力が弱いから太陽の効果が弱いんですね。―――でもつまりアモンさんも弱いってことですか?」ジュエルはアモンをみながら意地悪そうに笑う。
「自分は魔王との戦いで魔力のほとんどが消失したのだよ。本当は強いぞコノヤロウ」アモンは空中にジャブを撃つ。しかし、破が出るわけも無く、ジャブは空しく空を切る。
「そんなこといってる間にそれ、王国についたぞ」ゴエモンが前を指す。
壁に囲まれた王国は何かの牢獄に見えたが、これが今の人間の限界なのだ。
中では人間が静かに、しかし元気に暮らしている。
「ならばはやく地下の魔界にでも戻って魔王と話でもつけるんだな。俺たちが連れて行けるのはここが限界だ。そんじゃ」ゴエモンがジュエルを引っ張って早く離れようとする。
「そ、それじゃあーーー」ジュエルは手を振る。
「ちょっと待て」アモンは二人をつかむ。
「言ったはずだ自分はニンゲンと仲良くしようとしているのだ。魔王との話をつけるのもニンゲンが安全な生物であることを示さないといけぬのだよ」
「……それはどういうことかな?」ゴエモンが汗を流しながら聞く。
「おぬしらの仲間にしろ。ニンゲンの観察体として勇者は最適のようだからな。よろしく頼むぞ」
「なんじゃそりゃあ!なんでお前のようなバラ●スを俺たちが引き取らなきゃならな―――」ゴエモンが逃げようとするがすぐにアモンの闇の裁判がゴエモンとジュエルの上に現れる。
「なんか言ったか(恐)?」アモンが怖い顔をして二人をにらむ。
「……いいえ、なんでもないです……(泣)」
こうして二人の旅にはさらに新たな仲間が加わったのであった。
続く。
長いな今回!がんばっちゃったよ俺!土曜日が一気にこれに消えたよちくしょぉぉぉぉぉぉ!
マモノの事について今回はかなりばらしちゃったけど皆さんついていけてますか?