表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

7、悪魔への成長

 カナからの情報により、桃斧槍の所在を突き止めた来琥達は桃斧槍がいると思われる倉庫へと向かっていた。そこには他に人がいないらしく、何か邪魔される可能性が少ないらしい。入り組んだ倉庫群は、それこそ昔は倉庫としての役割を十二分に果たしていたが、数世紀前の人口爆発以来、地球人口は僅かにではあるが減少傾向にあったために、倉庫は残すも壊すもできない状態だった。もっとも、空いた倉庫をたまり場にする者がいたために、無暗やたらに倉庫を壊していくことができなかったというのもあるのだが。

「たぶんこの倉庫だよ」

カナが数ある倉庫群のうちの一つの倉庫の壁に触った。この倉庫群にいる以上、全ての倉庫を虱潰しらみつぶしに当たればそのうち当たるのは分かっていることだが、できれば無駄にあがきたくはない、というのが全員一致の意見であったこともあり、もっとも確率の高いこの倉庫を目指したのだ。

「おい、誰かいるか!!」

倉庫に入って早々、来琥は倉庫の中へとそう叫んだ。向こうも五神斬を手にした以上、こちらの気配くらいは握っているだろう。少なくとも声を挙げている時点で、気配を隠す気などないことは十分に分かっているはずだ。

 しかし、誰も出ては来なかった。人の気配はしている。こちらに姿を見せないからといって、戦闘態勢ではないと断言することはできない。この倉庫に入った時点で、向こうもこちらも戦闘に対する心の準備はできているはずだ。

「んだよ、うっせーぞ!!」

一分以上経ってから聞こえた返答は、返答すらも億劫そうなものだった。だが、これでここにいることが確定した。一人の少年が高く積まれたコンテナの上から現れた。その右手には、槍のフォルムに斧を取り付けた武器が握られている。それは十世紀近く前にヨーロッパで用いられた斧槍ハルバードと酷似している。間違いないだろう。

「折角いいとこだったのによぉ」

少年は桃斧槍を握りながら飛び上がり、来琥達と同じ高さの床まで下りてきた。あれほどの高所から、どこを痛めた様子もなく着地したところを見れば、やはり超能力者だろう。筋肉質な者でもこの高さでは命の保証もできない。

「てめぇら、この磯城革新紅しきがわ・しんくの読書を邪魔することが、どういうことか分かってんだろうなぁ!!」

新紅が大仰に桃斧槍を振り回す。

「待て! 俺たちは話をしに来ただけだ」

「なら用件を言えよ」

来琥も亜里去も、いつ戦闘に入ってもいいように身構えていたが、それは止むを得ない場合の最終手段だ。だが、ここまで交わした会話から察せられる性格からして、まともな答えを得られるとは思えなかった。おそらく、最終手段に頼ることになるだろう。

「その五神斬の一つ、桃斧槍を破壊させてもらいたい。お前に危害を加えるつもりはない」

「馬鹿を言うな。こいつは武器だ。力だ。力なき人間が、力を持って何が悪い? こいつがあれば自分を守れて、人を思うがままに殺戮できる。こんなの他にねぇぜ?」

「私欲のために力を求めて!」

「おめぇだって私欲のためにそいつを持ってるだろ!!」

「違う! 俺は五神斬を全て破壊するために――」

「その私欲を力で叶えようとする!」

来琥が自分の目的を途中まで言ったところで新紅に口を挟まれる。新紅はそのまま続けた。

「体力も権力も知力も暴力も努力も話力も腕力も脚力も、結局は力だ!! 人は力がねぇからそうやって力を求めんだよ! 俺もそのうちの一人、おめぇだってそうだろぉ!!」

「けど――」

そこで、来琥は全身に違和感を知覚した。しかし、違和感を知覚したころには違和感は大きなうねりを伴って来琥の全身を襲っていた。全身の自由が利かなくなり、かろうじて意識を保っている状態。視界がぐるぐると回り、それを避けようと目を閉じても、脳内がぐるぐると回り続ける感覚を全身に送り込んでいた。来琥は片膝を突き、左手は床に、右手は刃薔薇を床に突き刺してそれを握った。

 亜里去にも同様の現象が起こっているようで、地面に突き刺しようのない鈴嵐を手放し、両手で頭を抱えてその場にうずくまっている。

「どうした、明日未!!」

「亜里去!!」

自分たちを気遣う実やカナの声もおぼろげにしか聞こえない。少しずつ意識が薄れていく。それと同時に、体が自分の物ではなくなってしまうような感覚があった。遥か前方にいる新紅もまた、この異常現象に体を支配されているようだが、それを思考している余裕は、すでに来琥には残されてはいなかった。

 来琥の意識は、遂に閉ざされた。


 実は来琥の名を呼び続けていたが、来琥の意識が薄れつつあるのを感じていた。しかし、対処法は思いつかなかった。来琥と亜里去がその意識を完全に閉ざしたのは、ほぼ同時だった。

「明日未! 目を覚ませ!」

「亜里去!! 亜里去ぁ!!」

「いたぞ!!」

その声に実とカナは入口の方を振り返った。アメリカ人の男たち。先日実たちが相手にした人数とは比にならないほどの人数だ。

「ちっ・・・・・・こんなときに・・・・・・」

止むを得ず臨戦態勢に入った実は、誰かに退けられる感覚と共に、床に倒された。実が床から見上げた先にいたのは、来琥だった。

「明日未・・・・・・お前・・・・・・」

「刃薔薇、目標の殲滅を開始する」

しかし、まるで来琥ではないような感覚。体全てが操られているように見える。

「鈴嵐、目標を確認・・・・・・」

「亜里去!!」

亜里去もまた、来琥同様に、操り人形の如く立ち上がった亜里去が、鈴嵐を握ってアメリカ人たちを睨み付けていた。さらに新紅も二人の後ろで桃斧槍を構えて同様に睨み付けていた。

 次の瞬間、来琥、亜里去、新紅の三人はそれぞれが異常なまでの速さで走り出した。


 帝は倉庫の内外をじっくりと見渡すことのできる位置にいた。五神斬は三つ以上が一箇所に集まれば、契約者との間で封じ込めている力を一時的にではあるが解放することができる。脳内に直接干渉することで、自動的に解放するのだ。むろん、脳回路の手術を受けている者は、その力を受け止めきれずに暴走してしまうが。

 倉庫の入口で煙と共に五神斬を持った三人が飛び出してくる。来琥は生まれついての速力で、亜里去は鈴嵐の空調操作機構を利用して、新紅は自身の持つ能力によって、誰もが高速で飛び出してくる。倉庫を出て直進すれば別の倉庫の外壁にぶち当たる。つまり、倉庫を出た後は通路状態となっているのだ。一体どんな戦い方をするのか、帝はとても興味を惹かれていた。

新紅が桃斧槍の柄を最短にして投擲し、まず向かってきた先行隊の五人を一気に両断する。新紅の元へ戻る桃斧槍の軌道をよけて、その後方に続いていた五人のアメリカ人へと来琥が急速接近する。

 まず一番近くにいた二人のアメリカ人を刃薔薇を振って切り捨てると、左斜め前方にいたアメリカ人へと刃薔薇を突き刺し、変形させてその傷口を広げる。広げられた刃薔薇に、現在銃口は見えなかった。意図的に引込めているのだろう。刃薔薇を開いた状態で今度は先ほどの場所から見て右斜め前方に位置していたアメリカ人へと振り抜く。そのまま腕を引いて目の前にいたアメリカ人へと刃薔薇を開いたまま突き出す。まだ殺されてないことに一瞬とはいえ安堵の表情を見せたアメリカ人は気づいてはいなかった。

 来琥は開いていた刃薔薇を閉じて元の剣形態へと変形させる。それが意味するのは、アメリカ人の腹部を両刃で挟み込んで両断することである。大きな悲鳴の後、来琥は刃薔薇を銃形態に変形させる。開かれた刃薔薇の中には、銃口が光っている。さらに倉庫の陰から姿を現した三人のアメリカ人を見つけると、来琥はジャンプし、それと同時に足元にめがけてトリガーを引いた。その瞬間、銃口元で小さいとはいえ、爆発が起こる。多くの酸素、つまりは空気中に排出された瞬間に発火、爆発する特殊火薬だ。その爆発によって空中に飛び出した来琥を確認した亜里去が、鈴嵐を振い、それの持つ空調操作機構によって発生させた真空刃によって残った三人を一気に切り裂いた。

「これが・・・・・・暴走か・・・・・・」

帝はたった今行われた一方的な殺戮を無表情なまでに呟いた。特に刃薔薇の力は他の五神斬に比べれば目に余るほどの強さを見せた。銃口の収容による近接戦の多彩攻撃化、特殊火薬による手元爆発。他の五神斬を凌ぐその力は、五神斬中最強と言われている桃斧槍さえも凌ぐと思わせる。刃薔薇の魅力は、銃剣一体のそのフォルムではなく、その形状を最大限に利用した潜在能力にある。

「それにしても、WUSUは対応が早いな・・・・・・」

今回の超能力者の掃討作戦は、表向きこそ、核兵器に代わるこの超能力という力を捨てる第一段階として行われたものだ。では何故日本が最初の掃討標的ターゲットになったのか。裏の理由に、何故日本が狙われたか、という真の理由がある。

 おそらくWUSUは、五神斬のことを掴んでいるだろう。そして、五神斬が集まった時の恐ろしさも心得ているのだろう。何せWUSUは、五神斬の一つ、桜鎚を所有しているも同義なのだ。

 恐らくWUSUの真の目的は、五神斬を持つ超能力者を倒すことで、自分たちの手元へ五神斬を一手に集めるつもりだろう。そうでなければ、桃斧槍を持つ新紅の下に幾度となく攻め込んでくる理由にならない。倒せないなら、人数を増強するなり、他の超能力者の掃討に回すなりして、作戦の遂行を行うだろう。そう、それなのにわざわざ、大して人数も増やしてないのに何度も攻め込んでくるのだ。南米はよっぽど自分たちの下から派兵させたくないらしい。ここに連続で送り込むなど、アメリカをジリ貧に追い込むも同義だ。

「南米も主導権奪取に急ぎすぎだな・・・・・・全く、これだから人間は困る」

不完全で、感情や私情で行動や思考を容易く変えてしまう。簡単に裏切りながら、わけの分からない信念だけは貫く。同じ人間である自分が言う権利はないかもしれないが。

「そんな不完全人間なあなたに、とっておきがありまーす」

その声の方向に帝は振り返りながら銃口を向けた。銃口の先に居たのは、少女だった。まだ幼い。年齢で言えば十歳前後だろう。髪はポニーテールで、肩を少し超えた位置まで伸びている。

「おじさん、欲しい? 平常時の彼らと同等の力」

戸惑いの表情を見せた帝に、優越感に浸ったような笑みを見せながら後ろに組んでいた腕から見せたのは、帝にとってはよく見知った物だった。

「これは・・・・・・五神斬・・・・・・!」

暗銃刀あんじゅうとう刃薔薇ハバラ烈風鞭れっぷうべん鈴嵐スズラン両鎚棒りょうついぼう桜鎚おうつい斧槍刃ハルバード桃斧槍ももふそう鋭矛盾えいむじゅん殺陣椿たてつばき

 興味深そうに殺陣椿や刃薔薇を手に取った帝に、少女は続ける。

「暴走システムはないかわりに、契約の必要のない量産タイプの五神斬だよ」

「契約システムがない、ということは・・・・・・」

「そう。契約は契約者の脳波に直接干渉することで成立する。それによって、武器で行われている物理的処理をデータ変換して脳に負担させている」

物理的処理をデータ変換させる技術は、ほんの数十年前に発表されたものであり、世界的に見ればまだ新しい技術といっても問題はない。物理的処理の代表としては刃薔薇の銃形態時の銃弾の装填リロードがそれにあたるだろう。桃斧槍の柄の長さ調節も、脳に演算処理をさせることで成立する。

「これらは全て、そうした物理的な処理や演算を『自己的』に行うんだ」

「所有者のイメージをそのまま武器に伝えるということか?」

「簡単に言えばね」

これらは、もしかしたら状況を一変させるかもしれない。暴走システムのない五神斬。超能力者以外でも扱うことのできる五神斬。所有者がイメージだけで、武器自体が脳が負うべき負担を吸収、実行する五神斬。もしこれらがWUSUの方に渡ったとすれば、もう掃討作戦なんかではない。完全なる世界戦争が起こる。それもWUSUが圧倒的有利な状況に立つ一方的な世界戦争だ。

「そのうちの二つ、刃薔薇と殺陣椿を貸してほしい」

「安心して。元々これ全部、おじさんにあげるよう言われてきてるから」

「誰がトップなんだ?」

それを聞くと、少女はにっこりとしながら言った。

「内緒っ♪」

「じゃあ、君の名前だけでも教えてくれ」

名前を聞くことを忘れていた帝は、少女にそう問うた。少女はようやく思い出したかとでも言いたそうに、先ほどの質問を拒否した時とは別種の笑みを見せた。少女は、質問に対して何の躊躇いもなく答えた。

「私は高真価帆たかま・かほ。よろしくね、おじさん!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ