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16、対抗者達

 WUSUに対して不信感を抱く者達がいた。それは、WUSUという連合組織の創設時から続いている組織だ。世界中に密かにその支部を持つその反抗組織は、五年前にとある研究を開始した。それは、WUSUに対抗するための絶対的な武器を開発することだった。全国から優秀、しかし未だ世にその名前を出すこと敵わない者達を、「世紀の発明に関わることができる」と唆した。開発の主任となったのは高真大路。副主任を務めたのは大路の妻、小夜である。二人には子供がいるとは聞いていたが、実家に預けてきたらしい。日本において、他国には秘密裏のうちに行われたその研究によって、二年の歳月をかけて、遂に五つの武器が完成した。今ある全ての技術がつぎ込まれたそれらの武器は、開発の総監督を務めていた男が主催した争奪戦において、四つが持ち出された。だが、五つの武器のうちの一つは、男が会場に持ちこまなかった。忘れたわけではなく、すでに当てがあっただけに過ぎなかった。

 明日未来琥。男の部下の息子だった。その部下が脳回路手術によって手に入れた未来予知の能力によって一つの未来が判明した。

 来琥に刃薔薇を渡した場合、彼の幼馴染である、代々木奈美が三年後に死亡する。それを阻止するために行う必要があるのか、五神斬の型を持つ全ての物体を破壊することだった。男はその話に乗った。当時十三歳の来琥に刃薔薇を渡し、こう告げた。

「この世界にある全ての五神斬を破壊するんだ。そうしなければ、定められた運命が君に襲い掛かる」

「俺が死ぬということか・・・・・・?」

「おしいが、違うな」

男は来琥に刃薔薇の柄を差し出した。来琥はその柄におそるおそる手を出した。一度はそれを握ることを躊躇ったが、その後、きつく刃薔薇を握った。来琥と刃薔薇との間で契約が行われる。イメージの具現化とデータの脳内処理。それを負うという契約を。

 これで、未来は、運命は決した。

「君の幼馴染、代々木奈美。彼女が死ぬ。正確に言えば――」

まだ小柄だった来琥のために僅かに折っていた膝を伸ばしながら、男は言った。

「――殺される」

その言葉に衝撃を受けた来琥に向けて、男は告げた。

「だが、言っておこう。この俺、終間帝は、君の敵でも、味方でもないとな」

そう言って、帝は来琥に背を向けた。来琥はそれ以上何も話そうとはしなかった。


 その後、全国から集められた開発部門の科学者達は、情報漏洩防止と証拠隠滅の名目で、全員・・殺された。


 彼らは今も、反WUSU勢力組織、「対抗者達カウンターズ」として、活動を続けている。


 実穂は、WUSU内の者からの蔑みの視線を今日も受け止めることとなっていた。所詮自分はWUSUの中では日本人としてのスパイ要員でしかない。自分のことを、WUSUはいつでも切り捨てることができるだろう。自分がどんなに足掻こうとも、どんなに忠誠を誓っても、おそらく一旦疑ったら、それを覆そうとはしないだろう。WUSUというアメリカ大陸の諸国の連中がそういう性格の者達の集まりであることは分かっていたことだから、もしそういう状況になったとしても、驚いたりはしない自信はあった。

「ミホー、何処行くのー?」

アリスが実穂にくっついてきた。実穂は、アリスをどうあしらおうかと思ったが、それが叶わぬことであると、薄々気づいていた。アリスはどんな理由を並べても、自分についてくるのだろう。

「アリス、ちょっと、話があるの。来てくれる?」

「え、うん」

実穂は気づいてなかった。アリスが自分の後ろでその目を違う意味において輝かせていたことを。


 来琥は、始業式より数日、浜比良祭まで十日という日に、カナ、亜里去の二人と、一か月ぶりの再会を果たした。亜里去は少しばかり髪が伸びたようだが、ライトレッドのツインテールは相変わらずだ。カナは以前より少しばかり短くし、後ろは結ってポニーテールにしていた。亜里去は年齢的にもさほど変わっていなかったが、カナの方はまた随分と身長が伸びた気がする。一か月前よりも二、三センチは伸びたかもしれない。

「大丈夫か、亜里去」

来琥が開口一番に放ったのはその言葉だった。亜里去は腕を組み、得意げな表情で返してきた。

「当たり前じゃない」

「よかった。相当心配したんだぞ?」

亜里去の一か月前と遜色ない態度と切り替えしに、来琥が安堵の溜息を一つ吐きながらその言葉を発した。その言葉に、亜里去が過剰に反応する。

「別に心配なんかしてもらわなくてもよかったわよ・・・・・・」

「ツンデレも健在だね」

茶化すカナの頭に、亜里去の拳が落とされる。亜里去自身は、赤面してそっぽを向き、無言のままに制裁を加えていた。

「いだだ・・・・・・最近ツンの割合が増えたんじゃない? 来琥は来琥でデレの割合が増えてるし」

「増えてねーよ!」

「増えてないわよ!」

カナへの反論によって、二人の声が重なる。カナが占めたように不敵な笑みを零した。

「二人ともツンデレ認めたね」

「なっ・・・・・・」

結局、来琥も亜里去も、再びカナの巧妙な話術という名の誘導尋問に引っかかってしまったというわけだ。

「カナよ・・・・・・」

「何?」

「また全力疾走することになるぞ・・・・・・」

「え・・・・・・あ」

カナは恐らく悟っただろう。このままいけば、自分が確実にこの二人から集中攻撃を受けることになるということに。

 程なくしてカナは、その場で土下座した。

「ご、ごめんなさい・・・・・・」


 二人きりの川辺。それが親しくなった男女によってできている構図ならば、ほとんどの人がロマンチックな光景、もしくは、夢見すぎな光景だと思うだろう。しかし、二人きりは、男女によってのものではなく、少女同士のものだった。

「アリスは、WUSUに忠誠を尽くしている?」

「一応、そのつもり」

しかし、二人の間には、カップルならあるだろう緊張感がなかった。いや、実穂の方は十分な緊張を纏っていたのだが、アリスの方はいつもの如く緊張感がなかった。そもそも、実穂とアリスはカップルなんかではなく、任務上のパートナーに過ぎない。

「私とWUSU、ついていくなら、どっち?」

「ミホ」

驚くほどの即答だった。いくらアリスとはいえ、速答はするだろうにも、少しくらいは考え込むかと思っていたが、そんなことを考えるのがそもそも間違いらしい。

「アリス。私がこれから言うことは、絶対に口外しないって、約束できる?」

「ミホのお願いなら、絶対聞く!」

ここまで自分になついてくるのは、恐らくアリスくらいだろう。男女問わず、自分には元々こんな風に、自分のために一生懸命になって、自分のために尽くしてくれる人に、実穂は会ったことがなかった。ある意味、こんなやつと会えて、自分は幸せ者なのかもしれないな、と実穂は心の中で自身に納得し、一つ、深呼吸をしてからその言葉を放った。

「私、反WUSU組織に所属してる、諜報員スパイなの」

その一言を放った時、実穂は最悪の結果を恐れた。二人の時間、否、世界全ての時間が止まったような感覚が、実穂の中にはあった。アリスは失望するだろうか。自分が今まで一緒にいた者が、実は反勢力の諜報員であると知って。元々の味方以外に、実穂がWUSUに潜り込んだ者であることを知らない。話したのは初めてのことだった。

「これから、私の扱いは徐々にひどくなっていく。日本人の私は、WUSUには必要ない。日本国のスパイの可能性をずっと疑ってる。日本政府のスパイではないけど、スパイであることに変わりはない」

実穂は、アリスの顔を直視することができなかった。アリスの顔からいつもの無邪気さや、緊張感のなさは消えていた。きっと絶望してるだろうな、と実穂は思うしかなかった。

「ミホ・・・・・・」

直視できずにいたアリスが、口を開いた。自分はどうなるだろう。ここで反逆者として殺されるのだろうか。

「もし、WUSUを裏切る時は、私も連れてって」

「アリスッ!?」

実穂は、この答えを期待していたのかもしれない。しかし、反WUSU組織はつまり、そこに所属する国の者をも嫌う可能性がある。自分が味わってきたこの視線を、この侮辱を、嫌疑を、アリスに背負わせることになるのだ。

「ミホが今まで辛い目に遭ってきたのに、私だけ平和面なんてできない!!」

アリスは、実穂自身が危惧することをいとも容易く跳ね除けた。

 実穂は思った。アリスに会うことは、自分の人生を、良かれ悪かれ変えたのだろう、と。人としてまだまだ未成熟なはずなのに、いや、むしろ未成熟だからこそ、自分たちがすでになくしてしまったものを持っている。人が時代の変化に合わせて古い文化を捨てるように、成長に合わせてなくしてしまう感情、あるいは行動。アリスはそれをたくさん持っている。

 実穂は気づいてなかった。アリスの言葉に、自身の両目から涙を溢れさせていた。

「・・・・・・ありがとう・・・・・・!!」


 実が小さな女の子を連れて来琥の家に押し入ったのは、来琥が亜里去とカナを家の中に招いた直後だった。

「実、その子は・・・・・・?」

前々から聞きたかったことを、来琥はようやく聞くことができた。実はその正体を打ち明けることに少しばかり躊躇していたが、その正体を問われた本人には、何の躊躇もなかった。

「高真価帆です」

弾ける笑顔の中で名乗る。来琥は、価帆の名字が、実のそれと同じであることに気が付いた。それが意味するもの、それは。

「い、妹・・・・・・?」

いつの間にか後ろにつけていた亜里去がその一言を来琥から奪うように言う。そこに、カナが補足するように付け足した。

「まさかシスコン?」

「それは違う」

カナの言葉を表情を全く変化させずに否定すると、玄関にて靴を脱ぎ、ずかずかとあがりこんできた。おそらく止めても無駄だと分かっていたから、取り残されたように玄関に残った価帆の方に視線を送った。

「どうぞ、上がって」

「あ、うん」

素直に頷いた価帆は、靴を脱いで先ほど実が入っていったリビングへと走って行った。来琥は、価帆に続いたカナ、亜里去に続いて、リビングへと向かった。来琥がリビングに戻った時には、すでに実と価帆がそれぞれ一人分用のソファに座り、それに続いた亜里去とカナが二人用の長ソファに座ってしまったために、来琥は一人、床に座らざるを得なかった。

 来琥が諦めて無言のうちに床に座ったところで、実が口を開いた。

「先日、クラウト大統領が殺されたのは知ってるな?」

「銃殺だったな」

「犯人はWUSUの構成員の可能性がある」

その言葉に、すでに話を聞いていたのであろう価帆以外の全員に衝撃が走った。WUSUが、アメリカの大統領をわざわざ殺す必要があるのだろうか。

 そこで、来琥は思考を変更した。ある。WUSUには、大統領を抹殺するだけの動機がある。今この時、WUSUの中心となりつつある諸国。

「まさか、南米・・・・・・?」

南米。WUSUの主導権を握るべく動いている。今回の超能力者掃討作戦を立案、実行した。ここ最近軍事力を底上げしている南米は、その軍事力でアメリカに脅しをかけ、実働部隊にアメリカ兵を送り込ませた。それはつまり、日本によって戦死した分、アメリカの軍事力が減っていく。そして、更に南米に軍事力で遅れを取り、逆らうことができなくなってしまう。

「ああ。銃弾が貫いたのと銃声のズレから算出すれば、発砲者は一キロ前後の位置から狙撃したと考えられる」

「それは私も同意見。周辺は警備が厳しいしね」

カナが賛成の意を述べる。口にこそ出さなかったが、来琥も亜里去も、考えとしてはほぼ一致していた。当日は両国のトップが並んだのだ。首相官邸内はもちろん、その周辺の警備は相当なものだ。恐らく犯人は、首相と大統領が別れるその瞬間を狙っていたのだ。その時にできる一瞬の気の緩み。そのときだけを狙っていた。

「犯人にとって、岡本首相もお陀仏してくれたのは、ちょうどよかったかもしれないな」

実のその言葉の指す意味を、来琥が補足した。

「日本はトップを失うことによって、内部で混乱し、更に停戦の交渉もできなくなってしまったからな」

「だけど、今回の事件でまず真っ先に疑われる国はどこだと思う?」

そこでこの話題に入って初めて価帆が口を開いた。その口調はどこか達観したものだった。

「そうか・・・・・・今WUSUと敵対している日本が、向こうの主導者を消すために行ったという観点から見れば・・・・・・」

超能力者の数は世界でもトップクラスである、別観点において軍事力を強めている日本が、WUSUの――現在は表面上の――トップであるアメリカの大統領を殺すことで、向こうの統制を乱すということもできるというのである。

「これは、日本に勝ちも負けも許さないようにWUSUが決めたシナリオだ」



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