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13、始まり告げる復讐劇

 カナはWUSU構成員の攻撃から逃れるため、アメリカ人たちの視界から外れた場所に作った地下通路に逃げ込み、その入り口を閉鎖する。もちろん、力でこじ開けることを防ぐためのものであるが、床の色と全く同じ色にしてあるため、入口をカムフラージュすることにも役立てている。

 地下通路に進んだカナは数十メートル間隔で通路上部に設置された電灯に一度目を細めたが、すぐにその光源から目を背け、一本道の通路の壁に手を振れる。指紋認証の後に扉が開き、その先に一つの部屋を露わにする。カナはここから逃げるために、二重にも三重にも仕掛けを施していた。カナは部屋に入ると、背後の扉を閉める。そして、用意された台座に立つ。台座は人の体重を検知すると、網膜スキャンを行い、部屋に用意されたもう一つの出入り口へと自動で動き出す。網膜スキャンのためのセンサーは、カナの身長に合わせた位置で行われるため、身長が高い者は網膜スキャン認証を正常に受けることもできないのだ。そもそも、台座の体重測定機能において、四十五キロを突破した場合、網膜スキャンは作動すらしないのだ。つまり、台座は微動だにしなくなる。台座に乗らずにこの部屋を突っ切ろうとすれば、床一面に設置された無数の鋭針が全身を貫くことになる。

 部屋を出たカナはとにかく走り、倉庫から距離を稼いだ。最近ことあるごとに走っている気しかしないカナは、またも走り続けなければならない運命の残酷さを一度は呪ったが、そうしたところで状況が改善されるわけではないということは分かっていたから、その事象に対して文句を言う気はなかった。

「早くみんなに知らせなきゃ・・・・・・」

来琥が一人で桃斧槍にたった一人で向かっていたことを伝えなければならない。身体、超、両能力では、桃斧槍どころが、ほとんどの超能力者とも互角以上の戦える気はしてなかった。だからこそ、みんなへと知らせ、応援をもらう。亜里去か実、どちらか一方だけでも連絡がつけば、来琥は死なずに済むかもしれないのだ。

 カナが、亜里去と殺陣椿が戦闘を開始したことを知ったのと、先ほどカナが抜けだしてきた部屋にアメリカ人の悲鳴が響き渡ったのは、その十分後のことである。


 亜里去は殺陣椿に向かって鈴嵐を構えた。

「羅絶対駕、君の真剣勝負を受けよう」

「覚悟!!」

真剣勝負を所望した覚えはなかったが、もし向こうがそれを拒否しても、亜里去は無理やり押し付けて戦闘を開始しただろう。対駕に向けて鈴嵐を振い、その空調操作機構から真空刃を発生させる。対駕はその真空刃を、自身の前に殺陣椿を構えて防ぎきると、ゆっくりとこちらへと歩を進めてきた。亜里去は尚も真空刃を放つが、対駕はそれらをものともせずに盾で防ぐ。その歩みは止まらない。それは、王者の風格さえ漂わせていた。

 遠くからでは拉致が開かないと感じた亜里去は、接近戦に持ち込むことにした。空調操作機構を停止させ、鈴嵐を完全なる鞭にすると、対駕へと走り出す。対駕の歩みは止まらない。空調操作機構なしで風のように走る亜里去とは、非常に対照的な姿だった。亜里去が横薙ぎに払った鈴嵐を、その巨大な盾で何の造作もなく防ぐと、次いで行われた攻撃を体を回してかわし、その回転のままに斬りつけてくる。亜里去はその斬撃を横転してかわし、立ち上がると同時に鈴嵐を振り上げる。対駕が盾を掲げるが、その威力に盾を持っていかれ、その無防備な体をさらけ出す。亜里去は鈴嵐を袈裟懸けに振り下ろすと同時に真空刃を対駕へと飛ばす。

 しかし、対駕はその崩れている体勢の中でも回避の策を講じていた。真空刃が放たれると知ったと同時に、右足を軸にしてその体を亜里去から見て左方へとずらしたのだ。

「そんな・・・・・・!」

真空刃をかわした対駕は、しっかりとその体勢をとり戻したかと思えば、左足を一気に踏み込むと同時に殺陣椿を大剣型に変形させ、それを亜里去へと突き出してきた。

 亜里去は、対駕の殺陣椿の使いように翻弄されつつあった。殺陣椿が持つ力を最大限に活かした戦い方である。相手から浴びせられる攻撃を、時に盾で防ぎ、時に殺陣でかわす。盾剣状態の欠点であるリーチの短さを、僅かな隙に大剣型に変形させることで補う。

 これが、殺陣椿、羅絶対駕の強さ・・・・・・!

 亜里去は突きをかわそうとして体勢を崩し、地面に尻餅をついた。体勢を崩したことによって、結果的に突きをかわしたが、その体勢に大きな隙がついていたのは誰の目にも明らかなことであった。

「その程度か!!」

対駕がそう言うと同時に、右足を勢いよく突き出し、空中へと飛び出す。

「お前の復讐劇はここで終わりだ!!」

「アンタが決めるなぁぁっ!!!」

亜里去は周囲の空気を自身の背中と地面の間に溜めこみ、一気に膨張させる。膨れ上がった空気は破裂の形で亜里去の体を押し出し、対駕の斬撃から逃れる。地面で数回転しながら十メートルほどの距離を取り、体勢を立て直す。対駕が地面を蹴って亜里去へと一気に接近してきた。亜里去は真空刃を放ったが、斜め方向に前転してかわし、すぐにまたこちらへ走り出す。

 対駕が殺陣椿を斜め方向に切り上げる。ほぼ水平斬りに近かった。亜里去はなるべく距離を取る形で転がり込んで回避すると、立ち上がりと同時に真空刃を発生させる。対駕は真空刃を盾で弾くと同時に、殺陣椿に雷を纏わせる。亜里去が再び放った真空刃を先ほど同様に盾で弾くと、殺陣椿の刃先から雷を発射する。奇襲同然の攻撃に亜里去が対応できるはずもなく、その雷を諸に食らう。

 亜里去はこの雷を浴びるまで気づかなかった。対駕はここに至るまで、超能力を一切使っていなかったことに。亜里去は、接近戦においての動体視力は、今までの戦闘経験からある程度、少なくとも戦闘経験のない者よりは優れていると自負している。それはもちろん虚勢ではなく、先ほどまでのうぃ見れば、咄嗟の閃き、判断力も含めて、接近戦において、遅れをとってはいない。

 しかし、それは向こうが能力を使わない、旧来と同様の戦い方であったからこそであろう。こちらも向こうも、それまで両者とも攻撃を食らわず当てられずの状態であったのだ。それだけ、能力による戦力補正が大きいということだろう。

 亜里去の能力は未来予知であるため、戦闘において使える能力は有していない。それはつまり、戦闘に使えるのは、今まさに握っている鈴嵐だけなのだ。更に、鈴嵐は系統で表せば鞭。基本コンセプトが剣である殺陣椿との間においては、鍔迫り合いを行うことができない。向こうは数度の打撃を受けても、十分な訓練がされているゆえに、そこまでダメージはない。しかし、剣となれば、場合によっては一度の攻撃で相手を屠ることも不可能ではないのだ。

 対駕の能力は、体内に流れている電流を制御し、脳内で発生、流通している電流の余電力を加圧、膨張させて体外に放出するものだ。電流は人間の体内で無数に発生しているため、実質、エネルギー切れがない。脳内で流れている電流とはいえ、あくまで体外に放出するのは脳に情報を送り込むには必要のない余った電流であるため、思考回路にも問題はない。

 雷を浴びた亜里去は、完全に身動きが取れなくなっていた。体中に電気が走り、足や腕を中心に体の力を抜き取られるような感覚。両手足の感覚はほとんどなくなっていた。電気によって、感覚器官の一部が一時的とはいえ麻痺しているのだ。これでは、戦闘どころか、立ち上がることすら難しい。戦闘に特化し、何年もの間訓練を積んでいるような者ならば、雷を浴びても、ある程度立っていることはできるかもしれないが、亜里去はあいにく、軍人ではない。少なくとも雷に対抗するための訓練など、行っているはずもない。

「虚勢は人としても、戦士としても必要だ」

地面に倒れて身動きができなくなっている亜里去へと、対駕が一歩一歩、軽い足取りで近づいてきた。対駕の右手に握られている殺陣椿の刃は、対駕の中から溢れ出た電流を纏われている。

「だが、自己の力とあまりにかけ離れた虚勢は、身を滅ぼす」

対駕が亜里去に向けた殺陣椿の刃先には、雷が集まっていた。


 新紅が来琥へと直進させた桃斧槍は、その進路を阻まれた。来琥は、握った刃薔薇を銃形態、つまりはその刃を開いた状態で自身の前に持っていき、桃斧槍の槍を剣形態に変形させる過程の状態の刃薔薇で挟み込んだのである。それは、刃薔薇にしかできない技。相手の得物を、変形の過程において挟み込み、攻撃を遮断する。古風な言葉を使えば、白刃取りと形容するべきだろう。振り下ろされたのが剣ではなく槍、受け止めたのは両の掌ではなく根が繋がった双刃。違っている部分はそこだけだ。来琥の窮地においての閃きが、彼の命をつないだのだ。

 来琥はその槍を抑え込んだまま、自分はその矛先から逃れ、床だけとなった矛先をそのまま直進させる。槍が倉庫の床に突き刺さり、新紅の動きが止まった。しかし、来琥が再び新紅へと斬りかかるほどの時間は与えられず、脇腹の痛みを抑えながらよろよろと立ち上がった来琥とほぼ同時に、床から槍が抜ける。勝負は、来琥がハンデを背負った状態で振り出しに戻った。しかし、来琥が背負ったそのハンデは大きかった。一撃として攻撃を食らっていない新紅に対し、脇腹を槍によって抉られた来琥は、痛みによって、その思考を完全に固定することはできなかった。数秒に一度、視界がぼやけると共に意識が遠のく。精神力でその体を支えている来琥は、刃薔薇を握りしめることで精一杯だった。

「てめぇ、この前いろいろ言ってたようだけどな、てめぇはその力を自在に操ることもできてねぇだろ。そんな状態で、俺に説教かまそうなんて、偉そうな口きいてくれんな」

新紅が桃斧槍を肩にかけながらよろめく来琥へと、勝者の口調でそう言った。だが、来琥はまだ、この戦いを諦めてはいなかった。

「・・・・・・たしかにそうだ」

ふらつく体を抑え、どうにか両足を地面に固定して、ゆっくりと来琥は頭を挙げた。

「けど、お前はその力を自分のためだけに使う」

「前も似たようなことを言ったな。俺は、てめぇも私欲のために刃薔薇それを持ってるっった」

「ああ。だが、俺は、五神斬の破壊によって、守れる命があるから戦っている。五神斬があることによって起こりうる未来を変えるために・・・・・・消えるはずの命を保つために!!」

来琥は自分自身の記憶を見た。過去を見られる能力。この能力で、ここまでの戦いにおいての桃斧槍の動きを正確に把握する。攻撃パターン、攻撃時の体重の移動、目線、攻撃のスピード。

「それが偽善や押し付けた優しさだとしてもかぁ?」

「構わない!!」

来琥はその意識を自身の気力によって完全に回復させた。視界が一気に開ける。その視界の中に捉えた新紅へと、一度はその力が抜けて倒れこんだ足で地面を蹴って走り出す。新紅が桃斧槍を振い、その槍を突き出してくるが、来琥はその突きをバレエさながらに回って回避する。今度は斧部分が迫るが、来琥はそれを刃薔薇で受け止め、鍔迫り合いの形に持って行った。

「だからこそ俺は、お前に勝つ!!」

その言葉を聞いて、新紅が「やっと面白くなってきた」とでも言わんばかりの笑みを見せた。それは、先ほどまでのように、勝者としての確信の笑みや、死者をいたぶる狂気の目ではなかった。ただ純粋に、戦いを楽しんでいる顔だった。

 おそらく、これが磯城革新紅の素なのだろう。先ほどまで来琥に向けられていた言葉も、表情も、全ては戦いを楽しむ、戦いに悦びを感じるがゆえの行動なのだろう。

 自分が戦う理由があるように、新紅にも、戦いを楽しむという理由があったのだ。その内容こそ滅茶苦茶であっても、自分の感情に逆らわない、ある意味素直なその理由に、来琥は何故か安心していた。人の子ではないような性格の持ち主ではあるが、それでも、人は人である、ということが分かったからだ、と来琥は一人、心中で納得していた。

「俺はてめぇなんかにゃ負けねえよ」

その目は狂ったように見開かれている。その口は最高の悦びを噛みしめている満面の笑み。そこに嘘偽りは一切なかった。向こうは、戦いに全力を傾け、本気を見せつけている。ならば自分は、挑戦者の立場である以上、それに応える必要もある。

「桃の花言葉は、天下無敵だぁ!!!」

「上等!!」

二人の刃が交わった。


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