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12、それぞれの戦い

 奈美の下を飛び出してからもうすぐ一週間。一人、川辺で亜里去は佇んでいた。この場所は好きだった。数少ない本当の自然を感じられる場所であり、水の音を心の中まで流れていくような感覚を覚えることができるからである。

 亜里去は知らなかった。実との連絡が途絶えたことを、来琥が一人、桃斧槍に挑みにいったことを。

「三年ぶりか、鈴嵐」

本当は、この場所を汚したくはなかった。でも、ここなら、自分の本当の力が出せるとも感じていた。

「アンタを倒すわ・・・・・・殺陣椿!!」

 亜里去は、相子を尾行することで、殺陣椿の位置を確認した後、風に乗せてここに呼び出す文面を殺陣椿に送りつけたのだ。殺陣椿は、得物を持って現れた。

 亜里去には、もう壊れた心も迷いもなかった。ただ自分の目的を達成させる。それだけだった。それ以外、自分にはできることがなかったし、逆に、自分にしかできないことだと思っていた。

 亜里去は、鈴嵐を握りしめた。


 カナの下に、鈴嵐と殺陣椿が戦闘を開始したという情報が舞い込んだのは、ほんの数分後のことだった。カナはその確定情報をしつこく確認したが、結果は変わらなかった。カナは情報が絶対的なものであると確信した瞬間、端末を落としてその場にうずくまった。

「どうしよう・・・・・・みんな・・・・・・みんながばらばらになっちゃうよ・・・・・・」

今まで一緒に戦ってきたのに。不安になったことも、笑いあったことも、何もかもが過去の産物に、いや、元々そんなものが存在しなかったと告げられたような気がした。このまま、もう四人そろうことがなくなってしまうのではないかとすら考えてしまう。

「いたぞ、超能力者だ!!」

その声に顔を挙げたカナは視界の中にアメリカ人の姿を捉えた。その声に反応してアメリカ人が徐々に集まってきているのが確認できた。カナは能力的にWUSUには敵わない。カナの能力は、エネルギータイプの演算反射リフレクトしかできないのだ。実体を持つ銃弾は跳ね返せない。そもそもカナの能力は、一度体内に吸収した後、そのエネルギー量を増幅させて跳ね返すというものである。銃弾など、反射や吸収以前に、貫通してしまう。

 カナは当然、逃げるという選択肢以外与えられなかった。


 実は研究所の中に入り、右手から火を出現させる。こちらを見ていたのは、二人。一人は男、一人は少女。男の方は以前、ある女と共に亜里去に接触していた男だ。

「まったく、遅いよ、お兄ちゃん」

「なるほど、まだ肉親がいたわけか・・・・・・」

男がこちらに向かって右手に握られた刃薔薇の銃口を向ける。左手に握られているのは恐らく殺陣椿だろう。元々そこまで刃渡りが大きくない刃薔薇と比べてさえ短く感じる刀身と、その根本部分で存在感を存分に発散させていることから、そう考えられる。

「妹に手は出さないでもらう!!」

実はそう言いながら右手の火球を、出力を強めて撃ち出す。男はその火球をまるで演劇のようにその火球をよけると、実へと銃弾を放つ。実はその銃弾を部屋の外に出てやり過ごすと、計六つの火球を男に向けて連続で飛ばす。男は最初の火球を殺陣椿の盾で凌ぐと、すぐにその殺陣椿を大剣型に変形させ、床に突き刺して両足を地面からはなし、脚部を狙った三発の火球をかわすと、殺陣椿を空中で変形させ、降りた先に待ち構えるように突き進んでいた火球を盾で無理やり押し込み、残り一つを刃薔薇でいなして、実へと走り出した。

「お兄ちゃん!!」

妹、価帆が実へと刃薔薇を投げ渡す。実はそれを受け止めると、すぐに男に応戦する。しかし、実は元々能力一つでやってきた身だ。基本的な銃撃の作法こそ身につけているものの、剣術など専門外だ。握っただけでも、銃との違いは顕著に表れていた。実が剣を握ったところで、できることなど、力技で押し込むことくらいだった。無暗やたらに剣を振えば、こちらが無駄に大きな隙を作ることの原因にもなりかねない。しかも、こちらは内部に銃を仕込んだ刃薔薇一本だけに対し、男の方はその刃薔薇と、剣主体としている殺陣椿の異種二刀流だ。向こうは剣術も相当な鍛錬を積んでいるだろうし、さらには体術さえもかなりのものであることは、先ほどこちらが連続火球を映画さながらにかわしてみせたことが証明していた。

「威勢いい割には、接近戦は大したことないな!!」

そう言いながら男が連続で剣を叩きつけてくる。それも力任せに振ってくるのではなく、こちらが刃薔薇を握れなくなるように手を振動でしびれさせるつもりだろう。そして、斬撃をかわすには至らなかった実は、男の思惑通りに、刃薔薇で受け止めざるを得なかった。

 接近戦においては、軽量で小回りの利くハンドガンよりも、相手に直接畳み掛けるナイフの方が強いと言われている。それは今の戦いでも同じことだ。

「お前にはその程度の力しかない!! 真に強い者は、たとえ使ったことのない武器を前にしても、臨機応変に対応するものだ!!」

遂に実の刃薔薇が弾かれ、男の殺陣椿が振り下ろされた。


 桃斧槍、新紅と対峙した来琥は、刃薔薇を握りしめながら走り出した。今ここにある五神斬は刃薔薇と桃斧槍のみ。予想通り、暴走はない。これなら、桃斧槍とも対等に渡り合えるはずだ。闇雲に力を振う暴走ではできないことも、理性を十分に保っている今はできる。来琥は新紅に向かって刃薔薇を振り抜く。新紅はその刃を桃斧槍の斧部分で受け止める。

「そんなみみっちぃ得物で、俺に対抗しようってんのか!!」

「そのつもりだ!!」

来琥は火花散る二つの刃のうち、自身が握る方の刃を離すと同時にその体を地面へと倒れさせて振りぬかれた桃斧槍の斧部分の刃をかわす。新紅が振った桃斧槍を頭上で一回転させて、槍を来琥へと突き出してくる。来琥はその身を転がして槍をかわすと、地面に突き刺さった槍が抜けるのとほぼ時を同じくして来琥は立ち上がり、新紅へと刃薔薇を突き出す。新紅はその突きをかわして桃斧槍の槍を来琥へと突き出す。来琥はその突きを回ってかわそうとしたが、刃が来琥の体に触れた。貫通することはなかったものの、脇腹のごく一部を抉り取った。

 来琥は傷口と口から吐血する。その痛みに耐えきれずにその場に倒れこむ。腹に力を加えようとすれば、痛みと共に血が流れ出るのを来琥は感じていた。一瞬ぶれた意識を必死に戻す。来琥はその一瞬とはいえ集中力を切らしたことを恥じると共に、歯を食いしばった。新紅がその口元を、まるで死者をしつこくいたぶる直前のようににやけさせていた。それは、勝利を確信した顔だった。新紅は頭上で桃斧槍を力強く振り回す。そして、その槍の矛先をこちらに向けると、それをその向きのままに直進させてきた。来琥は右手の刃薔薇を握りしめた。握られた刃薔薇は、その刃を開いていた。


 WUSUのミーティングでは、終始ざわめきがおさまらなかった。それは、今回のミーティングにおいて提案されたことだった。具体的な内容を言えば、独自に疑似五神斬を創り、しぶとく生き残っている超能力者、及び五神斬所有者に対抗するというものらしい。その案に対し、「疑似五神斬を創れるならば」と賛同者が続出したが、そのミーティングに参加していた実穂は立ち上がって異を唱えた。

「ちょっと待ってください!! 疑似五神斬を創りだすのは、そう簡単なことではないし、何より、それを急ぐ必要は――」

「針現、お前に口出しする権利はない」

賛同者のうちの一人が実穂に向かって反論するなと遠回しに言う。

「そんな理不尽は認めません。私もここにいる以上、口を出します。口を出すこと権利が認められているからこそ、私はここにいます!!」

「黙れ、この日本人が!!」

賛同者の一人が声を荒げた。現代において、国籍によって態度などを変えることは、差別行為として国際的に取り締まられている。しかし、このミーティングは違った。今ここにいるのは、実穂を除いて、日本語こそ話していても、全員が南米出身だ。今ここに、差別などという概念は存在せず、実穂の味方となる者は誰ひとりとしていなかった。

「針現、お前は日本人であると同時に五神斬も持っており、超能力者だ。お前は、我々にかくまわれている、ということを忘れるな」

その言葉に対して、実穂がこたえられる言葉は一つしか存在しなかった。

「・・・・・・はい」

 しかし、やはり実穂は納得してはいなかった。五神斬を創ることは、技術的に難しいことであることに変わりはない。たとえこの案が決定したとしても、それを現実問題として考えた時、実行は難しくなってしまう。上の者はただ決定するだけなのだ。下で動く者達の苦労を考えたりはしない。

 WUSUは所属国に関しては階級制度を取っている。階級は基本的にその戦績において上がるものであるが、基本的に大佐以上の階級の者は、親が軍人であり、それを継いだためにその階級についたというものがある。両親が准将、大佐という階級についていれば、それだけでその子供にも力があるということで優遇されるのだ。もちろん、そうした優遇された環境によって、名前だけが立派な者も少なからずいるのだが。

「では、我々は科学者に召集をかける。針現」

「はっ!」

「お前の桜鎚は、これから一週間の間、我々が預からせてもらう」

その顔は、こちらを貶めようとしているのが、どんなに疎い人間でも分かるくらいに歪んでいた。もしここで自分が桜鎚を渡してしまえば、向こうはそれを別の人間に渡す可能性がある。そうなれば、日本人である自分はWUSUとして活躍する必要はなくなる。当たり前だ。少なくとも現在敵対している日本の国籍を持つ者が、重要な武器を持っているからこそ引き入れたのだ。それを奪ってしまっては、実穂の利用価値は一つしかなくなる。しかも、それだって十分に足りていることなのだ。だからこそ、切り捨てる。取り上げたら、秘密裏に処理するなりするのだろう。

「お断りいたします」

「何だと・・・・・・?」

「五神斬は契約者がいて初めてその構造を明らかにします。契約者がいなければ、ただの固形武器です。特に桜鎚のような武器は、わざわざ私のを拝見せずとも、概形が判明しているのですから、複製は可能でしょう。もっとも、桜鎚は五神斬の中では弱い部類ですから、量産したところでどれほどの戦果を挙げられるのかは分かりませんがね」

今、実穂はこの上なく幸せを感じていた。自分が言いたいことを一方的に言うことのできるこの優越感。自分の方が上にいるという感覚。目の前の上官が束になって襲ってきても、跳ね返せる自信が桜鎚、針現実穂にはあった。

 ミーティングルームに起こったざわめきは、実穂の勝利を証明するために起こった者と同義だった。

「もうよい。本日はこれにて解散とする」

 それによって全員がどよめきおさまらぬまま、まばらに動き出した。実穂もまた、その中で黙って歩き出した。

 おそらく今回のミーティングは、実穂の桜鎚を利用すべく開かれたものだと、実穂はほぼ確信していた。議題の中心となった今回の五神斬量産案も、はじめから仕組まれていたものだったのだろう。実穂は一応、WUSUにおいて、日本においての現場指揮官を務めている。しかし、現場指揮官など、実際は腐るほどいるのだ。現場指揮官が集まっての作戦立案を行うことはあれど、日本人の一現場指揮官をわざわざ重役ばかりが集まるミーティングに召集をかけるはずがない。

 もうWUSUは、自分を一兵士としてさえ見ていない。ただ自分たちに非常に有益な武器軍のうちの一つを所持している日本要人に過ぎない。いや、むしろ要人とすら見ていないかもしれない。

 ミーティングールームを出て肩の力を抜くことができた実穂に、アリスという別の重荷がのしかかってきたのは、言うまでもない。


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