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11、一人での再戦

 相子との戦闘から一週間が経とうとしていた。あれから亜里去からの連絡は一度としてなかった。奈美もまた、亜里去のことを心配していたようだが、首を横に振るしかなかった。一度、奈美の方にも亜里去のことを聞いたのだが、あの日以来見ていないと言われ、完全に音信不通になってしまっていた。

 帰り道で奈美や実穂と共に歩く。話している内容こそ同じであれ、考えていることはそれぞれ全く違うことだった。来琥は亜里去との連絡がつかないこの状況で、どうやって五神斬を破壊しようかと考えていた。亜里去がいないことで、五神斬を持つ者に挑むには必ず起こってしまう暴走は回避できる。しかし問題は、その少なくなった戦力でどう対応するか、ということだった。殺陣椿の情報は入らず、桜鎚のバックにはWUSUがある。狙うべき五神斬は一つしかなかった。

「ねぇ、来琥君はどう思う?」

脳内思考を張り巡らせていた来琥は、突然に実穂からかけられた質問に驚くことしかできなかった。

「え? あ、えっと・・・・・・」

「もう、話聞いてないの?」

「ちょっと考え事を・・・・・・」

「いいわけしないの!」

実穂が指を立てて拳を軸に揺らす。本当に考え事をしていたので、一応理由にはなっているようだが、向こうからすれば、それは事実でも立派な言い訳らしい。

「浜比良祭、今年は私たちのクラスでケーキを作ろうと思うんだ」

奈美が嬉しそうに笑ってみせる。来琥はその顔に笑みをたたえて賛同した。

「いいんじゃないか? 人も集まるだろうしな」

「じゃ、私たちがこれ提示したとき、来琥君も絶対・・手挙げてね?」

「え、いや・・・・・・それは、男のプライドっていうか、女子の意見に賛同すると、後で批判が・・・・・・」

しかし、来琥のそれ以上の反論は、実穂が無言で詰め寄ってきたによって認められるはずもなく、来琥は仕方なく、ただ一人だけ挙げることになるかもしれない危険を冒してまでも賛同の挙手をすることとなってしまった。


 奈美と別れた後、来琥は正面を見たまま実穂に尋ねた。

「奈美にはばれてないようだが・・・・・・何があった?」

「何の事?」

わざととぼけているのは目に見えて分かった。来琥は自分の左肩を右手の人差し指でつつきながら呆れたように言った。

「その左肩。怪我してるんだろ」

「やっぱり分かる?」

実穂が照れくさそうに笑った。来琥が何故そんな怪我をしたのを聞こうと口を開きかけた時、聞きなれない声が鼓膜を刺激した。

「ミホォォォォォォッ!!!!!」

結構遠くの方から実穂の名前を呼びながら少女がこちらへと走ってくる。その姿を見た実穂が、今にも逃げ出したくてたまらないように顔を歪ませていた。来琥は無関係者としての地位を振るまいたかったのだが、そういうわけにもいかなかった。

「来琥君、私の言うタイミングで私の前に出て」

「は?」

尚も向こうから走り続ける少女は、実穂めがけて一直線に走ってくる。止まる気配が全くなかった。来琥はただただ無関係者の振りをし続けていたが、

「来琥君!!」

「あいよ」

そう言いながら実穂の前に立った来琥はそのまま突っ込んできた少女を数歩後ろに下がりながらも受け止めた。少女は顔を上げると、赤面しながら、驚いて飛び退いた。おそらく、抱きついたのが実穂でないと感じたために、余計に恥ずかしくなってしまっているらしい。

「(精神的に)大丈夫か?」

「あ、うん、(肉体的に)大丈夫」

ある程度の年齢を重ねているにも関わらず、ここまで弾けられるとは、ある意味幸せかもしれないが、精神的に未成熟な気がしてならない。自分たちとほとんど変わらないであろう年齢のはずだが、その言動は若干自分たちとは違う若さを象徴しているようだった。

「アリス、自己紹介しなさいよ」

「あ、うん。・・・・・・あ、アリス・ハイリアです」

「明日未来琥だ」

来琥はアリスへと右手を差し出した。アリスは「ふぇっ?」と情けない声を漏らした後、来琥の右手に自身の右手を重ねた。来琥は安堵して顔を綻ばせたが、アリスはこちらの顔を見ようとはしなかった。少なくとも怒っている様子はなさそうだからよかったが。

「あ、ミホ! 司令部がミーティングを行うから早く来いって」

「そんなことなら科学的に連絡を寄越してよ。直接伝えるなんて、いつの時代よ」

実穂が呆れて溜息を一つついた後、その場を立ち去ろうとした来琥に声をかけた。

「来琥君、またね」

「じゃあね、来琥!」

「・・・・・・ああ」

二人は別れの言葉を告げて来琥に背を向けて走り出した。また来琥は二人とこうして話すことができるか分からなかった。おそらくアリスもWUSUの構成員で、二人は行動を共にするパートナーのようなものだろう。WUSUは作戦行動時、二人三脚の形をよく取ってきていることは、軍事関係者ではなくともよく知られていることだ。次会うのは、友人としてではなく、敵同士としてかもしれないのだ。だからこそ来琥は、にこやかに友人として振る舞うことはできなかった。少なくとも自分は超能力者であり、オリジナルの五神斬、刃薔薇を持つ者。WUSU自体からも、全ての五神斬の破壊を命じられた実穂からも狙われている身なのだ。

 来琥は家までの道を歩きながら、もうかなり遠くなってしまった二人の少女の行方を、目で追い続けていた。


 来琥が実穂、アリスと別れたころ、価帆は自分の研究所の入口付近に設置しておいた警備用の戦闘型サポロイドが破壊されたのを察知して、すぐに監視カメラを作動させた。監視カメラに映っていたのは、先日この研究所に招き、価帆が憎むべき敵であることが判明した終間帝だった。価帆はそばにおいてあった端末を手に取るとある人物に、目標発見の暗号文通信を送った。その事実を知る者は、送受信者のみの話である。


 その通信を受け取った青年は、受信直後から走り出していた。家の前で磁力車に乗り込み、目的地へと走らせた。磁力車は、その名の通り、磁力によって加速する車だ。車体後部には二対の磁石が取り付けられ、反発時と引き寄せ時の切り替えによって加速と減速を行うことができる。車体下部には、反重力装置が取り付けられている。反重力装置は、重力、つまりっは、地球が物体を引き寄せる磁力に反発することによって、常に浮いた状態となっている。方向転換の時には、この反重力装置の一部の反磁力を弱めることで車体を傾けることで行える。磁力車は従来の四輪車に比べれば、高低差を気にせず走らせることができるが、方向転換時に少なからず車体が傾くために、乗り物酔いの症状を持つ者たちの人気は低い。もちろん、環境車エコカーとして、国は磁力車を推薦しているのだが。

 研究所で磁力車を乗り捨てた青年は、研究所の入口におかれているサポロイドが破壊されているのを確認すると、正面入り口から、送られてきた暗号文に記されていた場所へとその足を急がせた。通路に設置されている監視カメラが破壊されているところを見れば、侵入者はかなり手練れか、もしくは一度来ただけでほとんど覚えたのかもしれない。もっとも、破壊されていれば、そこを通ったという道しるべになるゆえに、青年にとって都合は良かった。

 破壊された監視カメラをたどった先に、目的地が見えた。


 価帆は侵入してきた帝を睨み付けた。帝は達観した面持ちで、腕を組んでこちらに一歩ずつ歩み寄ってきていた。

「君は愚かだ。五神斬は俺の作ったオリジナルだけで十分だ。模倣品は作ってほしくなかった」

「嫌悪しているわりには、刃薔薇と殺陣椿をちゃっかり持ってっちゃってるけど?」

「ただの戦利品に過ぎない」

「五神斬のように、使用者への負担が大きい武器など、実用性は低い! ましてや使用者の脳波を乱して暴走するなんて――」

「今のは聞き捨てならないな。使用者の脳波を乱しているんじゃない。五神斬による脳波の拡張動作に、脳波がついていけない、もしくは、脳波の方がそれを強制遮断するために暴走しているのだ」

帝がゆっくりと近づいてくる。おそらく、本気で自分を始末するつもりだろう。おそらく、五神斬生誕事件こあくまたちのよるに、参加者以外での関係者は、おそらく彼にとっては都合の悪い存在。

「君には消えてもらう!!!」

そう言って帝が、銃口を価帆に向けた時。

「それはさせない」

一人の青年が、部屋の入口で右手から火を溢れさせながら帝を睨み付けた。


『磯城革に挑む!?』

来琥が帰宅後に通信機越しにカナに告げたことに対してのカナの反応はこれだった。

『何でいきなりそんな・・・・・・』

恐らく、カナの今までの状態を考えれば、恐らく殺陣椿の情報は入っていない。そして、桜鎚たる実穂もミーティングを行っているということは、WUSUの戦力がごくわずかな時間だけとはいえ、少なくなるのだ。この機会を逃して桃斧槍に、磯城革新紅に挑んでも、また邪魔が入る可能性がある。向こうは――恐らく能力を利用しているものだが――圧倒的なジャンプ力を有している。すぐに逃げられて、最悪の場合、来琥一人がWUSU兵に取り囲まれて孤立する可能性がある。

「亜里去と行けば、また暴走することになる。カナの能力じゃあ桃斧槍には太刀打ちできない。それに、実とは連絡がつかない」

『連絡がつかない!?』

カナが驚くのも無理はない。今まで実は、こちらの用件、依頼を断ることはあっても、こちらからの複数回の連絡にも反応しない、などということはなかったのだ。一度連絡がつかなくとも、一、二時間後には連絡がついていたか、もしくは数分後に向こうから掛け直されていたのだ。

「元々、五神斬の破壊は俺の目的なんだ。亜里去に俺の目的を押し付けるわけにはいかない」

そうだ。自分は勝手に亜里去を仲間に引き入れて、亜里去の殺陣椿への復讐に勝手に手伝おうとして、勝手に自分の目的の協力をさせた。この前もそうだ。奈美に余計な心配をかけまいとして、奈美を自分たちの戦いに巻き込ませまいとして、亜里去に役目を押し付けた。亜里去が嘘を吐くのが上手いのかどうかは分からない。しかし、最初から嘘を吐かせること自体間違いだったのだ。奈美に嘘が通用するはずがない。たとえ万人を欺けるポーカーフェイスを持っていても、誰もを自分のペースに乗せる話術があっても、もしその両方があったとしても、奈美には見破られてしまうのだ。それをどこかで分かっていながら、自分は奈美に嘘を吐きたくなかったからと、亜里去に押し付けたのだ。

 自分は最低な男だ。

「もし俺がこの後誰とも話せなくなっても、どうしてそうなったのか、その理由を知っておいてほしいから・・・・・・」

『来琥、待って・・・・・・』

「じゃあな」

『ちょっと、ら――』

来琥は、強制的に通信を切断すると、未だ血肉のにおいが残る倉庫へと足を踏み入れた。

 倉庫の中に積まれているコンテナの上から一人の男が飛び降りてくる。

「予告通りに来たか・・・・・・全く、殺されに来るとは馬鹿なやつだ。棘のないお前が、刃薔薇という棘だけもって悪あがき。やるだけやってみろよ」

「お前も、逃げないとは馬鹿なやつだな――」

新紅がにやりと笑って来琥を見やった。この日、この時刻に再び来ると、新紅へエリアコールで伝えたのだ。メールなどには目を通さなさそうな性格に見えるが、奇跡的に見てはくれたようだ。

 誰ももう巻き込みたくない。全て自分で決着をつける。それぞれ目的が違うのだ。それぞれが達成するしかない。実との連絡がつかないということは、実はどういう形であれ、目的へ近づきつつあるのだろう。実の行動源がなんなのかは分からない。それでも、自分が達成するべきこと、達成しなければならないことのために今動いているのだ。

 だから、俺も。

「――確かに、俺にトゲはない。だが、刃薔薇は、俺自身をトゲにする!!」


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