地獄通信1 人間として最後まで生きる6
事件が解決して二日目、恵子は美術部に足を踏み入れた。すると、目に飛び込んできたのはアシロが作画申請書を提出している光景だった。 「…どうしてアシロが申請書なんて?」恵子は首をかしげる。事情を知る楓が小さく笑った。「文化祭でミステリー研究会が鬼屋を作ることになったから、美術部の協力が必要なのよ。でもアシロ、もう学校中の女子生徒の恋人だから、全ての部活の共同部員になってるんだよね。本当は申請書なんていらないんだけど…」アシロは書類に淡々と目を通しながら微笑む。「学校側が形式上、まだ認めてくれないから、形式だけ整えているんだ」恵子は思わず吹き出しそうになったが、その後、美術部のにぎやかな雰囲気に包まれ、自然と頷いた。美術部に入った途端、以前撮られた写真がすでに部員たちの間に広まっているのを見つけた。「また誘われたよ…みんな、今日は一体どういうつもりなんだ?」恵子は小さくため息をつく。「まあ、普段は保守的な人が多いから、これはちょっとした反動だね」と楓が微笑む。「もう…どうしよう…まさか、今度は美術部だけじゃなくて、他の部の子たちまで…友達までいるなんて!」恵子は思わず顔を覆う。「でも、頑張ってね。何かあったら、カズオと私が手伝うから」「待って、そんなことしないでよ!」「じゃあ、後で話そう」「きゃっ!」恵子は席に座り込み、首を振って軽く頭を抱えた。
家に帰ると、見舞いに来ていた一夫が、恵子の赤くなった顔に気づき、「どうしたんだ?」と不思議そうに尋ねた。「な、何でもないわ。ただ……」恵子は少し迷ってから、一夫の耳元にそっと囁いた。「……まさか、あいつ?」「うん。正確には“彼”じゃなくて“彼女”って言ったほうがいいかも。だって、あの人……男なのに小さいサイズの制服を着せられてたし……」「もうやめてくれ。気持ち悪くなってきた……」一夫は顔をしかめる。「でも、私たちを助けてくれたのは事実よ」「ええ。趣味がかなり特殊なことを除けば、悪い人じゃないわ」恵子は少し真剣な表情で続けた。「最近のあの事件も……たぶん、あの人が関わっていると思うの」「地獄通信、か?」「ええ。もう依頼の手紙が届いたみたい。だから……たぶん、またすぐにアシロと会うことになるわ」その頃――アシロの元にも、新たな依頼が届いていた。『私の兄、佐藤正男を地獄に落としてください』――佐藤恒一
楓たちは、知らせを聞くため応接室に集まった。「では、今回の調査について話をしましょう」と閻魔愛が切り出す。「依頼は、一夫の学校の男子生徒からで、弟を地獄に落としてほしいという内容です」「男子ばかりだと女子が行くのはまずいでしょう。だから、私と一夫、輪入道、一目連の四人で調査に行きます。女子は寮に残っていてください」「でも、女子にしか感じ取れないものもあると思うんです」「確かに。でも、向こうで何が起こるか分からないし…」「アシロって、本当に女の子のことよく考えるんですね」「やめてくださいよ、そんなこと言ったら誰かに聞かれて誤解されますから」「じゃあアシロさん、どこが誤解なんですか?」「な、なんで敬語なのよ!」
結局、アシロは妥協案を出した。まずは、一夫と恵子を先に調査に派遣することにした。 二人が一緒なら、大きな問題は起こらないだろうと考えたのだ。そして、アシロたちのチームは、現地で得られた調査結果をもとに、今後の対応を慎重に検討することにした。




