光のもとに潜む影35
「メア姉……」アシロは誰もいない廊下を見つめながら、ぽつりと呟いた。「正直に言うと、般若姫姉の言ったことは間違っていなかったと思う。このままじゃ、エメラ姉の最後の願いを叶えることはできない……」「ずいぶん久しぶりね。私を“姉”って呼ぶの」背後から、メアの声がした。「まだ、母さんのことを考えているの?」「……もう、灰になって消えたって分かってる」それでも、とアシロは続けた。「なのに、今でも思い出してしまうんだ。あの頃、僕は何もできなかった……」「……僕が、弱かったから……」「違うよ、メア姉」アシロは首を振った。「母さんを救えなかったのは僕だ。母さんも、あなたたちも守るって誓ったのに……」メアは一瞬、目を伏せたあと、静かに言った。「母さんを守れなかったこと、きっとあなたはとても悲しかったのでしょう。でも、それはあなたのせいじゃない」少し間を置いて、はっきりと続ける。「……私、わかったの。冥界の王として、私は逃げない。すべてを背負うと約束する。だから、もう自分を責めないで」そう言って、メアはアシロを強く抱きしめた。「だから……もう、泣いていいのよ」「……え?」次の瞬間、アシロの頬を涙が伝った。「あ、いや……泣かないって、約束したのに……」声が震える。「……僕……」メアは何も言わず、ただ静かに彼を抱きしめ続けた。その腕に、レアもそっと加わる。「……ママ……」小さな嗚咽が、廊下に溶けていった。「……今日は、もう少しだけ。三人でいさせてあげましょう」少し離れた場所で、その光景を見つめていた般若姫は、そう呟くと、音も立てずに踵を返した。




