秩序破壊者7
文化祭当日、校内には多くの来場者が訪れていた。アシロが制作に関わったお化け屋敷は評判も上々で、大人でさえ怖さのあまり泣き出す者が続出し、中には気を失う者まで出たほどだった。事態を重く見た校長は教師を視察に向かわせ、過激すぎる仕掛けの撤去を命じた。「人外じみた発想をそのまま持ち込まないでください。本当に命に関わります」「……すみません」アシロは真剣な表情で頭を下げた。「ちっ」幸子が小さく舌打ちする。「何を舌打ちしているんですか。それに、あなたたちは沖縄の学校の生徒でしょう?どうして白鷺女子学園の作業エリアにいるんです?」「私たちは恋人です」「……アシロ、文化祭中に恋愛沙汰とは余裕ですね。でも今はそんなことをしている場合じゃありません。みんな忙しいんです。すぐに外へ出なさい!」そう言われ、二人は半ば強引に外へ追い出された。
「それで、状況はどうだ?」「お化け屋敷は問題なく運営されています。危険な箇所はすでに修正しました。もう失神者が出ることはないはずです」「それはよかった。そろそろ古琴の演奏の時間だな」「はい」教師はそう言って、アシロの胸元に代表用の校章を留めた。
「それでは、次の演目は私たち白鷺女子学園・ミステリー研究会による古琴の演奏です!」アナウンスが響くと、アシロと由紀子は手をつないでステージに上がった。「え……あのお化けのお面、誰?」「知らないよ。うちの学校にこんな人いたっけ?」「……多分、よそ者だろうね」「ねえ、私ってそんなに変わっちゃった?」
アシロは古琴の前に座り、由紀子は静かに舞い始めた。その舞は、息をのむほど美しかった。アシロの琴の音はまだ幼く、完璧ではなかった。しかし彼は、一音も逃さず、最後まで必死に弾き切った。演奏を終えて立ち上がると、アシロはマイクに向かって言った。「この曲は……ユキコ先輩が作った曲です。先輩は今、行方不明です。でも、僕は伝えたい。 この曲を書いた彼女が、幸せで、自分らしく生きてほしいって」一呼吸置く。「もし、ここに先輩がいるなら……どうか、この曲を聴いてください。そして――この曲を、文化祭で一位にします!」『……そうなんだ。だから、私はあなたが好きなのね』由紀子はそう思いながら、仮面の下で涙を止められなかった。会場からは、熱い拍手がわき起こった。
ステージを降りると、「ユキコ!」誰かが叫んだ。「この声は……」由紀子は固まった。「生きていてくれてよかった」母親の声には、抑えきれない喜びがあった。「お母さん……」 由紀子はそっと返事をし、目を潤ませた。「お父さんとは離婚したの。もう心配しなくていい。戻ってきてもいいんだよ」由紀子は首を振った。「ごめんなさい、私はそれはできません……罪を犯したので、償わなければならないのです」母親は静かにため息をついた。 「知っていたわ……あの黒いサーカスのことね?」「はい……今は許可されて、ここに来られたんです」由紀子の声には、少しの無力感と、それでも揺るがぬ決意が混ざっていた。「自分を責めないで。これはお母さんのせいじゃない」由紀子は少し顔を上げ、マスクの下の瞳を涙で輝かせた。「償いが終わったら、必ず戻ってきます……」マスクをつけたまま振り返り、アシロと距離を置きながら歩いていく由紀子の姿。通学路にその影が伸び、未完の物語のような温かくも神秘的な余韻を残した。




