地獄通信1 人間として最後まで生きる15
アシロ、比嘉、そして数名の警官が現場に到着した。「ここで間違いないか」「ええ」比嘉がうなずくと、アシロは低く指示を出した。「突入する。気づかれないよう慎重に。後方に一隊残して、包囲を完成させろ」すでに配置についていた警官たちは、一斉に動き出し、建物内へと踏み込んだ。
「きゃっ!」中では、黒いマントを身にまとった女子生徒たちが集まっていた。彼女たちはその場で次々と取り押さえられ、現行犯として確保された。調査の結果、全員が〈ダークサーカス〉と呼ばれる秘密組織のメンバーであり、同時に音楽部の生徒でもあることが判明した。中には、以前どこかで見かけた覚えのあるピエロ姿の者もいた。「……やはり、お前たちだったか」やがて校長と数名の教師も現場に駆けつけた。音楽部員の一人、一年生の高橋美智子は激しく抵抗したが、結衣に押さえ込まれ、そのまま地下警察署へと連行され、取り調べを受けることになった。尋問の末、美智子は口を開いた。〈ダークサーカス〉は、はるか昔から存在していた秘密結社だったという。音楽部はもともとその拠点であり、近年になって部外者が増えたことで、組織の存在を隠す必要が生じた。そのため、部外者である中村由紀子を表向きの代表――名ばかりの部長として据えただけで、実際の最高指導者は「闇のピエロ」と呼ばれる別の人物だった。「……私たちの部活に、そんな恐ろしい組織があるなんて……」由紀子は顔を覆い、震える声でそう呟いた。さらに美智子は、学校周辺で起きていた数々の失踪事件が、すべて〈ダークサーカス〉による犯行だったことを明かした。犠牲者は、子どもを含む十数人の女性。彼女自身は、六年前に組織へ加わったという。「……10歳で、人を殺したっていうの?」結衣の声には、怒りと嫌悪が滲んでいた。「貧しい人間にとって、金を手に入れる手段は限られている。でも、一度足を踏み入れたら、もう引き返せなくなる。煉獄の主のそばにいるあなたには、きっと理解できないわ」美智子は淡々と続けた。「両親の会社は、競合相手の卑劣な策略で倒産した。両親はその後、二人そろって自殺した。借金を背負うのを嫌がって、引き取ってくれる親戚もいなかった。独りきりで、生きる意味も見失っていた時……悪魔の囁きを聞いたの」彼女は、どこか遠くを見るような目をしていた。「人を殺せば、一件につき十万もらえるって。どうせ生きたくもなかった。だから、私は〈ダークサーカス〉に入った」「……お金がなければ、そこまでやるの?」結衣は唇を噛みしめた。「同い年だと思うと……胸が痛む」「あなたは、私のことを何もわかっていない。この社会で私は、ただ踏みにじられる側の羊だっただけ」「私だって、いじめられたことはある!」「……知ってるわ」美智子は小さく微笑んだ。「私も、あなたみたいにアシロを助けたかった。でも、もう遅いの。両親を追い詰めた人間を殺してから、人を殺すことに何の感情もなくなった。私はもう、何十人も殺してきた」彼女は静かに言い切った。「高橋美智子は、もう死んだ。今の私は……人の皮を被った悪魔よ」――パァンッ!乾いた音が響き渡り、アシロも思わず目を見開いた。結衣が、美智子の頬を叩いたのだ。「もう『遅い』なんて言わないで! まだ償える! 私たちがいるでしょ! アシロだって、きっと助けてくれる!」「……あの時、あなたたちがそばにいてくれたら」美智子は、かすかに笑った。「私は、こんなふうにならずに済んだのかしらね……」次の瞬間――鋭い音とともに、一本の矢が美智子の胸を貫いた。「狙撃だ!」「くそっ……“闇のピエロ”は、中村由紀子……」そう言い残し、美智子は静かに息を引き取った。「……由紀子、って?」「まさか……」沈黙の中、アシロが口を開いた。「会いに行くしかないな」




