ラノックの思い出18
「そういえば、初めて会ったとき、私、あなたを誘惑できなかったみたいね……」ブリセラは台所に入って、ラノックの隣に立った。ラノックは驚いて言った。「何を言ってるんだ……」「だって、あのとき確かに魅了の魔法をかけたのに、効かなかったみたいだし」「え?」「気づかなかったのね……残念だったわ」「残念って……ところで、エグリス姉、あのとき何か感じた?」「ああ、あのとき? 私は治癒の力で、あのサキュバスの『異常状態』の影響を取り除いたの。でも今は、アシロを守るのが私の力の限界。アシロの助けがなければ、まだ誰も癒せないわ」それを聞いて、ブリセラは少し不満そうな顔をした。「サキュバスの魅了の魔法を『異常状態』って呼ぶなんて……古風な女ね」「誰が古風な女だって言った?! それに、アシロを誘惑する暇があるなら、せめて家事くらい覚えろよ!」「村の大人たちはね、私たちの最大の役割は他の種族と子どもを作って、強いハイブリッドを生むことだって教えてくれたの。だから家事なんてしなくていいの。出産後は夫が全部やってくれるし!」「でも……寂しくないの?」ラノックが尋ねると、ブリセラは少し驚いた顔をした。「最初は少し寂しかったけど……でも慣れたわ」「そうか……」ラノックはブリセラを見つめ、自分でも信じられない決断をした。サキュバスたちに家事を教えることにしたのだ。(僕、どうしちゃったんだ……)以前は他人とあまり関わりたくなかったラノックだが、今は人を助けたいと思っている。自分でも理解できない変化だったが、それを嫌だとは思わなかった。




