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ラノックの思い出10
ラノックは誰とも親しくなりたくなかった。近しい人間にまた裏切られるのは、もうごめんだったからだ。彼にとってサキュバスたちは単なる雇い主に過ぎず、彼女たちの事情に関わるつもりはなかった。しかし、ここへ来る前に、サキュバスの村の近くに住む地獄の住人たちから、こんな話を聞いていた。サキュバスたちはほとんど家事をせず、滅多に村の外にも出ないという。「じゃあ、どうやって暮らしてるんです?」「夫が持ち帰った食べ物を食べて、夫が送ってくれた服を着て、夫が建てた家に住んでるのさ」「それだけですか?」「ああ、それだけだ」「じゃあ、長のブリセラ様は?」「誘惑の才能はかなりのもので、これまで何人もの男を口説き落としてきたらしいが、いまだに独身だ。……サキュバスの長は誘惑の力で決まるらしいが、生活能力はいまひとつらしいな。親がどんな育て方をしたのやら」「簡単に言えば、サキュバスは何もできない連中の集まりさ」――(僕は一体、どんな場所で働くことになったんだ……?)住人たちの言葉を思い出し、ラノックの不安は極限まで膨れ上がっていた。




