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ブリガンティアの思い出7
「だが、精霊が姿を現せば、大きな騒動になるだろう」静かな空気を破るように、低い声が広間に響いた。「ならば段階的に進めましょう。まずは森に精霊がいるという話を広めるのです」慎重な提案に、数名がわずかにうなずく。「ただ精霊と名乗るだけでは、畏れを抱かれぬかもしれません。いっそ神を名乗った方がよいでしょう」その言葉には冷ややかな現実味があった。人間は、崇める対象にこそ従う生き物なのだ。「ではブリガンティア。あなたが先に立ちなさい。あなたは我らの中で最も聡明なのだから。人間との交渉を任せる」一瞬、広間の視線が彼女に集まった。ブリガンティアは静かに目を伏せ、胸の奥に芽生えたわずかな不安を押し込める。そしてゆっくりと顔を上げた。「……承知しました」その声は穏やかでありながら、決意を帯びていた。こうして、森と人間の均衡を揺るがす最初の一歩が踏み出された。




