取り巻き令嬢たちのきらきらと幸せ
伯爵令嬢コメットは取り巻き令嬢の一人です。
取り巻き令嬢とは、お姫様や王子様、位の高い貴族のまわりを取り巻く存在です。
時には満月のように丸く輪になって、時には三日月のようにならんで後ろをついていったり、前にならんでお話をしたり。
つぎつぎと形を変えては取り巻きに大いそがしです。
取り巻き令嬢たちは、みんな同じようなドレスを着て、同じようなアクセサリーをつけています。
目立たないようにしなければなりません。
自分たちが取り巻いた人を引き立てるために。
取り巻き令嬢たちは脇役なのです。
彼女たちに取り巻かれた人は幸せそうです。
自分が主役だとわかるのですから。
いつも脇役の取り巻き令嬢かわいそうと思った優しい読者さん、ありがとうございます。大丈夫です。
取り巻き令嬢たちは役目を楽しんでいます。
けれど、コメットは今日は悩んでいます。
アクセサリーのことでです。
昨日のことです。
おばあさまがやってきて、魔法のステッキをコメットに向けると――
きらきらと光る星の形のネックレスとイヤリングをつけてくれました。
コメットは星が大好き!
その時の嬉しさは特別なものでした。
星のお姫様に変身したようで心まで輝きました。
「とっても似合っていますよ」
おばあさまも、お母さまも、お父さまもほほえみました。
コメットは一日中主役で過ごし、きらきらのアクセサリーをつけたまま眠りにつきました。
朝になって、今から取り巻き令嬢として、お茶会にいきます。
「このまま、星のアクセサリーをつけていきたいですわ」
取り巻き令嬢のみんなはリボンのアクセサリーをつけてくるはずです。
「私だけ、みんなと違うアクセサリーだと目立ってしまいますわね」
けれど、どうしても。
きらきらのアクセサリーをつけていきたい。
コメットは決心しました。
星のアクセサリーをつけてお茶会にむかいました。
今日は公爵さまのお屋敷で開かれています。
きれいな庭には花が咲いて、お茶や、お菓子がテーブルに並べられています。
お客さまもたくさんいて、楽しそうにしています。
コメットは取り巻き令嬢たちを見つけました。
リボンのアクセサリーが集まっているので、すぐにわかりました。
みんなが、星のアクセサリーを見たら?
いつもよりもドキドキして、ゆっくり近づくと。
「ごきげんよう。みなさま〜」
どうにかいつものように声をかけました。
「コメットさま。ごきげんよう〜」
みんなも、いつものように笑顔で返事をくれました。
けれど、
「あらっ、コメットさま!」
すぐにおどろいた声をあげました。
みんなの目はきらきらのアクセサリーを見ています。
「そのネックレスとイヤリングはどうなさったの?」
「星の形、きれいですけど」
「とっても、きらきらして目立っていますわよ!」
やっぱり。
ドキッとしてコメットはアクセサリーにさわりました。
「魔法使いのおばあさまにつけていただいたんですの。それで、今日はどうしてもつけてきたくて」
しぼみそうな勇気をふりしぼって伝えると、
「そうでしたの」
「魔法使いのおばあさまにつけていただくなんて、 いいですわね〜!」
「とても、お似合いですわ〜!」
みんな、はしゃぎはじめました。
「ありがとうございます〜!!」
コメットはほっとして嬉しくなりました。
ひとしきり、みんなではしゃいだあと。
「とっても綺麗で、お似合いですが、アクセサリーだけでなくコメットさまもきらきらしていますわ。私たちが取り巻くかたより目立ってしまうかもしれませんわね」
取り巻きエキスパートといわれる、リーダーが心配して言いました。
コメットも、みんなも心配になりました。
そこへ一人の令嬢がやってきました。
このお茶会を開いた公爵さまの娘です。
「みなさま、ごきげんよう!」
公爵令嬢は堂々とあいさつしました。
美しいドレスを着ています。
太陽のようにきらきら輝くアクセサリーをつけていて主役だということが一目でわかります。
「ごきげんよう〜」
コメットたちは公爵令嬢を取り巻きました。
「ほっほっほっ」
取り巻かれた公爵令嬢は喜んで高笑いしました。
ですが、
「あらっ、あなた!」
コメットの姿に気づいてキラリと目を光らせました。
「あなたも、きらきらして、一人だけアクセサリーが違いますわね」
みんなでギクリとしました。
公爵令嬢が "私が目立たないわ" と、はずすように言われるかもしれません。
コメットはそうしようと思いました。
お茶会で星のアクセサリーをつけて、みんなに見てもらえただけで、じゅうぶんだから。
はずす覚悟をしましたが、
「ほっほっほっ、綺麗ですわね」
公爵令嬢はまた高笑いしました。
「よくお似合いですわよ!」
主役のご令嬢にまで褒めてもらえるなんて。
「ありがとうございます〜!」
コメットは嬉しさに飛び跳ねそうになり、魔法使いのおばあさまにつけてもらったこと、星のアクセサリーが大好きなことを話しました。
「私もアクセサリーが大好きですわ!」
公爵令嬢はきらきらした笑顔をみせました。
「そうですわ、今度のお茶会では、みなさまご自慢のアクセサリーをつけていらして私に見せてくださいませ! 私もつけてきますわ! ほっほっほ」
自分も好きなアクセサリーをつけたい。
そう思っていた取り巻き令嬢たちは喜びました。
どんなアクセサリーをつけるか、もう考えはじめています。
「楽しみですわ〜!」
コメットも、みんなも、公爵令嬢もはしゃぎました。
次のお茶会の日がやってきました。
コメットはまた星のアクセサリーをつけていきました。
お気に入りになっていましたし、みんなのアクセサリーのなかで、きらきらさせたかったのです。
今日のお茶会も公爵さまの大きな庭園で開かれています。
「さぁ、みなさまはどこかしら?」
コメットはキョロキョロして。
すぐにわかりました。
一つ、また一つと。
きらきらが集まっていくのが見えたからです。
「みなさま。ごきげんよう〜」
「コメットさま。ごきげんよう〜」
今日は取り巻き令嬢みんながドキドキしています。
みんな、大好きなネックレスやイヤリングをつけています。
どれも見たことのない、きらきらアクセサリー!
「綺麗ですわ〜!」
コメットは夢のような気分で取り巻き令嬢たちを何度も見まわしました。
きらきらのアクセサリーとそれをつけた令嬢たちといると、自分まできらきらになっていくようです。
「みなさまのアクセサリー、素敵ですわ〜」
「私も、おばあさまにもらいましたの」
「私は、お母さまとお父さまに」
「私は今日の日のためにお店に行って、一目惚れしたものですわ」
「私のは宝石箱のなかに、ずっと大事にいれておいたものですの」
みんなでアクセサリーのことを話して、はしゃいでいると公爵令嬢がやってきました。
「ごきげんよう。みなさま!」
「ごきげんよう〜!」
コメットと取り巻き令嬢たちはすぐに公爵令嬢のアクセサリーに目をむけました。
大きな宝石のネックレスが輝いています。
「ほっほっほ〜! 一番お気に入りのアクセサリーをつけてきましたの」
公爵令嬢はいつにもまして高笑いしました。
「お似合いですわ〜!」
コメットはみんなと一緒にはしゃぎました。
きらきら光り輝くアクセサリーたち。
みんなを主役にして特別な幸せをくれました。
魔法のようなきらきらです。
アクセサリーがくれた幸せはそれだけではありませんでした。
いつもよりきらきらしているコメットたちに、お茶会のお客さまも気づいていたのです。
そのなかでも、きらきらした人が近づいてきました。
今日の主役の王子様です。
「とても綺麗だね」
王子様はみんなをほめたたえました。
「ありがとうございます〜!」
コメットも取り巻き令嬢も大はしゃぎです。
「ありがとうございます、ほっほっほ」
公爵令嬢もおおいに高笑いしました。
「君のその堂々とした姿とアクセサリーがとても似合っているよ」
王子様は公爵令嬢に恋をして結婚しました。
お二人はとてもお似合いだと、みんなが祝福しました。
コメットにも一人の伯爵さまがあらわれました。
「きらきらしたアクセサリー似合っているね」
そういってもらえたとき。
初めての気持ちがコメットのなかに生まれました。
恋の魔法にかかったのです。
「君は誰よりもきらきらしてるよ」
「あなたもですわ〜」
コメットは伯爵さまと結婚しました。
きらきらのアクセサリーがつれてきてくれた幸せ。
いつまでも、いつまでも、星たちのように。
取り巻き令嬢たちを輝かせてくれることでしょう!




