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第三章 素直

亜稀菜との会話が終わって1時間半くらい経った後のこと、樹から電話がかかってきた。

「もしもしー?俊介、お前今何してるんだ?」

「樹?ちょっと風邪ひいてしまって休んでる。てかお前は学校どうしたんだよ」

「俺たちちょっと暴風警報の影響で電車が完全に動かなくなって、それで学校から俺たちの電車で通ってる生徒は臨時休校になったのさ」

「じゃあお前も家にいるのか?」

「いや、駅に着いたと同時に休校だって聞いて今堀田達と一緒に友達の家にいる」

「そうだったのか、」

どうやら俺たちの中学校区の奴らはみんな休みになったらしい。これは意外とよくあることだった。乗っている電車はかなり車体が古く老朽化が顕著になっている。雪でも積もれば1日は動かないこともざらだ。

ここで樹がある質問をした。

「ところでさ、ちょっと質問なんだけどお前って亜稀菜のこと好きでしょ?」

「えっ、なんでそれを?俺一回もお前に言ってない筈だけど?」

まさか知られているとは思わなかった。俺は一度も樹に亜稀菜のことを相談した事などなかったのだ。どこから知ったんだ?

「いやー、お前ってさ昔から本音が顔に出やすいじゃん?亜稀菜と話している時のお前はすごく楽しそうでさ、しかも亜稀菜からも自分のこと可愛いって言ってくれるって聞いてさ?」

「あ〜ハイハイ、」

やはり口では言ってなくても人間というのは本音が顔に表れる。俺は昔からその傾向が強かった、樹は付き合いが長いからか俺が普段と違った様子だと却ってより分かりやすかったのだろう。

「確かに、好きだな。亜稀菜の笑顔とか話し方とか」

「そうか、それでお前はどうしたいんだ?」

「好きなんだから、やっぱり付き合いたい。」

「良いんじゃないか?亜稀菜今は彼氏作る気ないとか言ってるし、お前だったら亜稀菜は何も悪い気はしていないから多分大丈夫だぞ」

「ただ、どうやって告白しようかな……」

実は中学生時代、亜稀菜とは別の人を好きになっていた。いざ告白しようってなった時俺は直接告白する方法を選んだ。しかし、意図せず人に知られてしまい公開告白のような大きなプレッシャーを生じさせる形になってしまった。

結局当時の俺は玉砕、それ以来一回も話すことがなくなり中学卒業と同時に完全に縁が切れた。だから学校で直接告白する方法は場所も取るし過去のトラウマもある。どうしたものか…

すると樹が、

「電話してみるとかどうだ?」

「電話か!それが良い。」

最高の案だった。場所も取らないし周りの人だっていない、2人だけで沢山会話も出来てとてもお得だった。

「ありがとう、頑張って見るよ」

「おう!期待しておくぞ。じゃあな」

「じゃあな」


次の日、俺はすっかり体調も回復して絶好調だった。

昨日は風邪を引いててっきり亜稀菜と話せないかと思っていたがメッセージを通して沢山話せたのが嬉しかった。そう思ってる内に亜稀菜がやってきた。

「おはよう、風邪は大丈夫?治った?」

「まあお陰様で笑。喉の痛みはしつこく残ってるけど、ほぼ大丈夫かな?」

「なら良かった笑」

そして1時間目の授業の開始を合図するチャイムが鳴り、大変ながら楽しく幸せな1日の始まりを学校中に告げた。50分もある授業は眠くなり辛いが、休み時間に日野木や樹、そして亜稀菜と話す時間があることで何とかやって行ける。

そうこうしてる内にもう学校が終わる時刻になった。終礼が終わり次第俺はスマホを取ったあと亜稀菜の元へ駆け寄った。

「ねえ亜稀菜、今日の夜電話しようよ」

「えっ?電話?突然だな〜、まあ良いよ!」

「ほんと?ありがとう!」

「お風呂入ってたりしてたら出れないかもしれないからかける時メッセージ送って」

「了解!」

「じゃあまた夜に」

「うん、じゃあね!」

時刻は23時過ぎだった。風呂は既に済ませてある、歯も磨いた。果たして彼女は応答してくれるだろうか……俺は一通のメッセージを送信した。

「もうかけて良いかな?こっちはもう準備大丈夫」

5分ほど経って返信が帰ってきた。この5分が信じられない位長く感じた。

「大丈夫だよー」

「了解!」

早速俺は右上にある通話ボタンから亜稀菜に電話をかけた。しばらくして彼女が応答した。

「あっもしもし亜稀菜〜こんばんは笑」

「こんばんは笑。」

電話越しで亜稀菜が返事をした。相変わらず可愛い声だ、電話越しで聞く彼女の声は多少ノイズが入っていようが普段話している時の声と変わらず美しい。

俺は何を話そうか迷った。いきなり告白するのは気が引ける、かと言ってしない訳にはもったいない。ここは何度か電話を重ねて彼女との時間を存分に楽しみたい。俺が始めたのは学校は楽しいかどうかとか海か山行くならどっちかとか些細な会話や質問だった。

「新しいクラスはどうだい?俺はすっかり馴染んで楽しくやっていけてるよ笑」

「まあ私も最初不安はあったけど今では大丈夫かなっ!」

「そうか……ところでさ、質問だけど山か海どっちかに行けるとしたらどれがいい?」

「そうだな〜、私海好きじゃないんだよね、塩水に浸かって上がった時の肌のカピカピする感触とかが好きじゃないから山かな?」

「やっぱり?俺も行くとしたら山かな。俺は人に身体を見られたくないってのもあるな」

「あ〜それもわかる」

「ただ山は虫が多いからそこは注意やな笑」

「そうだね笑」

こんな会話、普通の友達と話してたら退屈過ぎで眠くなってしまうが亜稀菜と話すとこのような会話でも永遠に話していたいくらいに幸せを感じる。声だけでも今彼女が笑顔で会話してくれているのがわかる。笑ってくれるのが嬉しい。

ここで俺はあることを提案した。

「ねえ、明日時間ある?俺と映画にでも行こうよ」

「えっ?映画?突然だね、いや分からないなぁ私そんな暇人じゃないから」

先程の文章で俺は電話で告白すると言うようなニュアンスを受け取った者は少なくないだろう。だがそれは半分正解で半分不正解だ。

やはり告白は直接した方が本気度が伝わってより成功度が増すのではないかと考えていたのだ。

先程も言った通りかつての自分は周りに好きなことがバレてしまい、告白の時意図せず野次馬を集めてしまった。沢山の人に見られながらの告白は周りが邪魔だし相手にもプレッシャーを与えてしまった。二度と同じ轍を踏まないように、亜稀菜にはちゃんと2人だけで、誰にも邪魔されない場所で、俺の好意が真剣であることを自分の口で伝えたい、そう思って俺は亜稀菜を誘ったのだ。

しかも明日から四連休、結構多く休みがあるのだ。この機会に俺は亜稀菜に愛を伝える。

ダメであればもう電話しかない。声だけでもかなり本気である分には変わらないだろう。

「ちょっと明日にならないと分からないかも、私コンビニのアルバイトしてて何時シフトが変わるか分からないから」

「そうか、わかった。じゃあ期待しておくな!」

「まあ楽しみに笑」

「あ〜そういえば今日赤ちゃんおじさんがね?」

「なになにまた笑?」

その後はまた普通の会話に戻った。メインはやはり変なおじさんについての会話。彼女は気づけば俺の話す赤ちゃんおじさんの話題の虜になっていたのだ。

1時間ほど電話をした後俺たちは終える空気になった。

「じゃあね亜稀菜!沢山話せて楽しかったよ!」

「こちらこそありがとう笑。楽しかった!」

「明日大丈夫だったら連絡するね」

「期待してる」


次の日

「シフト入っちゃったからごめんね……」

「あぁ、そうなのか、わかった」

現実はそう上手く行くものではなかった。だが諦めきれない、そう思い俺は今日以外の3日間で行けないか確認を取った。しかし、どれも無理だった。2日目は元々バイトが入っていたらしく、3日4日目は友達との遊ぶ約束が外せなかったらしい。

今まで順調にいっていたのが奇跡だったと感じるくらいの不運の連続だった。まあこれは仕方の無いことでもないだろうか、亜稀菜自信にも自分の時間や友達との時間を過ごす権利はある。それを俺が邪魔する訳にはいけない。

「仕方ない、残された方法は電話するしかない。電話であろうとも真剣なのは伝わるだろう」


連休3日目の夜

俺は再び亜稀菜を電話に誘った。

「やっほ〜!連休は充実してるか〜?」

「まあ楽しくやってますよ〜笑」

「この前は映画に行ける希望を見せて途端にどん底に落としやがってよ〜」

「こればかりはスミマセン笑」

今回もまた亜稀菜と沢山話そう。だが今日は少し攻めた内容を聞きたい。亜稀菜が今までどんな恋愛をしてきたのか、亜稀菜を好きになってきた人達はどれだけの数いるのかが気になった。

「亜稀菜ってさ〜、今までどれくらいの人と付き合ってきたの?」

「えっ?そんなこと聞きたいの?」

「気になる」

「うーん、そう言われても何人いたか分からないんだよ〜。私小学三年生で初めての彼氏出来てから今に至るまでずーっと途切れたことないんだよ笑」

「えーっ!?」

予想だにしない回答だった。確かに亜稀菜はかなり男子から人気がありモテるタイプであるとは知っていたので元彼の数もまあまあいるとは思っていた。

だが俺が1番驚いたポイントはその付き合いだした時期だった。

「小学三年生!?すごいなw俺なんて小三の時道端の猫じゃらし集めて鼻や耳につけてふざけるようなくだらない事でゲラゲラしてた時だぞ?」

「まあそれは人それぞれだから笑。ただほんとに疑問なんだけど、なんでみんな私なんかを好きになるんかなーって思うよ?」

「私なんてそんな顔は可愛くないし……」

「俺は可愛いと思うけどね、亜稀菜が自分を可愛くないって思っていてもきっとその人たちは違うと思う。多分だけどその人たちは亜稀菜の内面に惚れたんじゃないか?」

「亜稀菜ってやっぱり笑顔がとても明るいんだよ。友達や俺と話している時の亜稀菜はいつも楽しそうで輝いてる。そして友達を大切にして人の良いところを積極的に見つけてあげられる。そういう所に皆んな惚れたんじゃないかな?」

かなり彼女の良いところを言った。正直こんな長々と話していたら引かれるのではないかと考えたが、やっぱり好きな人の良いところは積極的に伸ばしてあげたい。すると今度は彼女が

「ちょっとそこまで言われると照れるんだけど笑。私ってそんな良いとこ沢山あるの笑?」

「ありすぎて説明できない。正直まだまだ言える」

「さすがにそれはないでしょ笑」

彼女は自分がとても可愛いこと、良いところが沢山あること、笑顔が魅力的なところなどを羅列されてそんなことはないと否定来ているが、声色でわかる。亜稀菜は言葉にするのが苦手だったり自信が無いだけで、本心では良いところを指摘されてとても嬉しがっている。俺には分かる。

そして俺はもうひとつ気になることがあった。彼女から見た自分はどう写っているのかが知りたかった。自分の長所というのは案外自分では気が付かない。

俺は彼女に質問を投げかけた。

「亜稀菜ってさ?俺がどんな奴に見える?」

「どんな奴?」

「そう、まあもっと詳しく聞くとしたら亜稀菜から見て俺がどう映っているか、長所が知りたい!」

「うーん、そうだな……」

彼女は30秒位真剣に考えていた。普通無言の時間は気まずさを伴うものだと言うのは説明する必要は無いだろう。だが亜稀菜との会話の間の沈黙はむしろ落ち着きがあった。自分の為に頑張って良いところを探してくれている。そう思うと嬉しかったのだ。

そして亜稀菜が口を開いた。


「君はいつも素直で優しい。私と話している時とても楽しそうなところが見てて嬉しくなる。」


素直……?俺の身体中に流れる血液の流れが一瞬止まったような感覚がした。俺はこの瞬間まで自分が素直だなんて思ったことはなかったし言われたこともなかった。長年共に過ごしている樹でさえ本音が顔に出やすいなどと言った嫌味臭い言い方を投げかけてばかりだったので彼女の素直と言う言葉は耳の奥にある鐘を思い切り叩き、ずっと頭の中で反響しているような、モヤモヤを感じた。なにかもうもっと、優しいとかかっこいいなど抽象的な印象を投げかけられるかと思っていた。

俺のどこが素直なのだろうか……

「素直……?俺が!?」

「そう、素直!」

「俺のどこが素直なの?俺は嘘が苦手で本音も顔に出て、これって素直って言えるのか?」

「それはしっかりと自分の気持ちを包み隠さずに人に打ち明けられるってことだよ」

「いつも私の事可愛いって言ってくれたよね?それは俊介の正直な本音じゃない?」

「…………」

そうか、俺は素直なのか。今までの人生で見つけられなかった自分の長所を彼女が引き出してくれた。俺に語りかける声がとても優しく感じた。新品のふかふかの羽毛布団や毛布に包まれるような柔らかく優しい、暖かい感覚が身体の内側から沸き起こった。

気づけば俺は放心状態に陥っていた。

「俊介?……俊介ー!」

「……はっ、あーごめんごめん笑。まさかこんな言葉言われるとは思ってなくて、ありがとう。」

「こちらこそ!私そろそろ寝る時間なのでバイバイ」

「うん、じゃあな」

そうして電話が切れた。亜稀菜の「素直」という言葉がずっと頭の中で反響している。自分の長所をわかってくれているという彼女への愛がそこにあった。

「よし、次の電話で告白しよう!亜稀菜ならきっと俺の気持ちを受け取ってくれるだろう」

俺は眠りについた。とても幸せな眠り心地だった。


いつも笑顔で優しくて、友達を大切にする亜稀菜。

俺に向けてくれる笑顔は幸せに満ちている、俺に「素直」という一面を教えてくれた彼女の瞳は水面に反射し波で揺らめく照明のようにキラキラしている。

だがそんな幸せの中に1つの疑問があった。


「亜稀菜って、人といる時はとても笑顔が輝いているけど一人の時は何故か暗い目をしているような……」

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