第1章 立春
「おーい俊介!早くクラス発表の名簿前に行くぞ!」
「待てって樹、今すぐ行くから走らないでくれ、そんな急がなくても名簿は逃げないから」
「いいじゃないか!クラス替えは一年に一度の大イベントだぞ!」
「はいはい笑」
今日は新学期が始まる4月、俺も今日から高校2年生になって新しい仲間ができて行くのだろうと考え、小学生時代からの友人である樹とクラス名簿の前に来ていた。
クラス替えなどこれまでに何度も経験しただろうと思っていたが、樹はどうも昔から子供っぽい所が何も変わっておらず、大きな期待を胸にはしゃいでいた。
そして俺達2人は人混みを避けながらクラス名簿の前に立った。そしたら樹が
「おい見ろ!俺ら一緒のクラスだぞ!おっしゃあああ!」
「はしゃぎすぎじゃないか笑?」
「そうだな」
「急に落ち着きすぎだろ笑、俺はもうちょっと誰がいるか確認するから先に教室に言っててくれ。」
「おう、早く来いよ!」
そう言って樹はそそくさと新しいクラスの方向に消えていった。俺はもう少し友達がいないか確認していった。誰がいるんだろう、仲のいい友達はいるだろうか、新しい友人はできるだろうか。そう考えていた。
するとある人物の名前が見つかり無性に惹かれた。
「平田亜稀菜……」
俺は彼女を知っていた。いや知っていたと言っても名前を知っていただけだった。一年の時、友達に会いにそいつのクラスに訪れていた時クラス名簿でよく目にしていたからだ。
正直何故かは分からないが、この名前が無性に気になっていた。まるで最初から知っていてずっと探していたような、そんな気がした。
いや、こんな表現だと幻想じみてるな……現実的に考えたら単純に目を引くような名前があってそれが頭に残っている程度の感覚だ。
「平田亜稀菜、どんな人なんだろう。あっ時間が迫ってる!樹も待ってるだろうし早く行かなきゃ!」
教室に着いた。クラスには樹だけでなく、今はやめたが部活が同じだった日野木や杉山も一緒にいた。
「日野木!よろしく、俺が部活を辞めてから全然話してなかったがな笑」
「おう、よろしく。お前部活1ヶ月で辞めていったのマジでおもろかったわ笑。バテすぎ笑、まあこれから1年間頑張るぞ。」
「おう!」
クラスの構成は悪くない、仲の良い仲間と一緒になれて期待が溢れた。早速俺は平田亜稀菜を探した。だが彼女は見つからない、どこにいるんだ?もしかして休んだのか?
そう考えていると新しい担任の先生がやってきた。
「はい皆さんおはようございます!これから新学期不安なこともいっぱいあると思いますが、新しい仲間ができて楽しく高校生活が送れることを信じて頑張ってくれることを願ってます。それではまずは出欠確認をします。」
「えーっと、欠席は有田さん、大石さん、角川さん、そして平田さんっとオッケーでーす。それでは朝の会を終わります。ありがとうございました〜。」
悪い予想が的中してしまった。今日は彼女に会えないのかと考えたら一気に落胆し疲れてしまった。
とりあえず今日は何となく授業を受けて帰ったら寝よう、そう感じた。
杉山は俺の席の後ろにいたので、暇さえあればそいつと話していた。
「杉山、ま〜たお前は朝礼中にスマホをいじってたのか〜?」
「バレなきゃ大丈夫、ちょうど今新キャラの強化のために5万位も課金したからな笑」
「使いすぎだろ笑」
杉山も元は俺と同じ部活だったが、俺が辞めてから数週間で辞めたらしい。この学校には継続力のけの字も無いのか……俺が言うのもあれだけど、
平田亜稀菜を見れぬ哀しみを友達と話すことによって紛らわそうとしたが、失敗に終わった。
彼女がどんな人か気になる、なんで見たこともない人をここまで気になるのかが不思議で仕方がなかった。
次の日、別のクラスになった友達の幸太のクラスである4組へ向かった。
「おーい幸太!新しいクラスはどうだった?」
「まあぼちぼちやね笑。特に嫌いな人も居ないし先生もいい人だから良かったよ。」
「おっ、なら良かった!これからたまにここに来るから楽しみにしとけよ?」
「おう!」
幸太は共に中学は違うが、1年の時からの仲だ。きっかけは樹が遊びに誘った時に樹と一緒についてきた時に幸太と知り合った。優しい口調と話し方が特徴の俺の気の合う仲間の1人だ。
幸太と話している途中である女子生徒がこちらに来た。
「幸ちゃん新しいクラスどうだった?」
「うん、悪くない感じかな笑」
「なら良かった笑、クラスも近いしいつでも来るね。」
俺は彼女が誰か気になった。視線が彼女に奪われ体が硬直する、全身の自由が彼女に奪われる感覚が走った。そして勇気を出して声をかけてみた。
「えーっとこんにちは、君も4組なの?」
「ん?いや違うよ、私は2組!友達と話したかったからここにいたの。まだ誰がいるか完璧には分からないけどね笑」
「2組なの!?実は俺も2組なんだ笑」
「あれっ、そうなの!?私と同じクラスだったんだ笑。じゃあこれから1年間一緒だね!よろしく」
「うん笑よろしく。ところで名前を聞いてなかったな、俺は城山俊介、君は?」
「私は平田亜稀菜。よろしく!」
全身に強い衝撃が走るような感覚が走った。この子が平田亜稀菜なのか。今まで名前しか知らなかったが、こうやって姿を見るととても可愛くて驚愕した。
髪は長く下ろしていて目は大きく、照明の光が反射して眩しく感じるくらい輝いた瞳だった。
そして俺は人より身長が大きく、彼女は小柄である為自然と俺を見上げるような姿勢になる。それがより一層瞳が眩しく感じ俺の胸の鼓動を激しくさせた。
「…………」
「えーっと、どうしたの?私をじっと見て」
「あ〜ごめんごめん、つい見入ってしまって」
「何それ笑」
自然とこれから仲良くなれる気がした。それと同時に俺は彼女に対し何か説明し難い特別な感情があることを感じた。これは何なのだろうか。
今思うと俺は一目惚れをしていたのかもしれない。強がりではないが、俺は見た目より中身に惹かれて恋をする類の人だったので一目惚れをする感覚がこのようなものなのだと知った。新たな知識が頭の中を滑らかに滑り込み記憶される感覚が脳の奥で感じた。
「ちょっと俺を忘れてない笑?何二人で楽しんじゃってんの笑」幸太を忘れてしまっていた。
「ごめんごめん笑。つい夢中になっちゃって」
「まあ大丈夫大丈夫」
「幸ちゃん元気でね。行こう、朝礼が始まる!」
「そうだな!行こう。幸太またな!」
「あいよー」
俺と彼女はそのまま一緒に2組へ戻った。関係を深めていきたい、そう思って俺は彼女との会話をする機会をつくりながら仲良くなっていこうと決めた。
朝礼までまだ5分くらいは残っている、そこで俺は
「新学期だからやっぱり不安とかある?」
「不安はあるよ?新しいメンバーと仲良くなれるかとか、でももう私達なら友達になれそうだと思わない?」
「なれるよ、ここまで話が弾むなら俺達は気が合う仲間同士!1年間よろしく!」
「うん!よろしく。」
「ところでさ、俺は君をなんて呼べば良いかな?平田、とか?」
「堅苦しいな〜、亜稀菜でいいよ!私上の名前より下の名前で呼ばれるのが好きだから」
「じゃあ、亜稀菜……よろしく!」
「うん、よろしく俊介!」
亜稀菜は優しい微笑みを浮かべながら言った。
この些細な会話がとても幸せだった。俺はこの瞬間まで女の子を下の名前で呼んだことがなかった。
そんなことしたら気持ち悪がられるのではないかと怖気づくものじゃないか。だが亜稀菜に対してはそのような感情はなかった。最初こそ緊張したが、亜稀菜に対しては心を許せる、安心する、抵抗は感じなかった。
俺は亜稀菜が好きだ、本能がそう言っている。
彼女の、友達を大切にして人を信じてあげられて、安心感と癒しを与える話し方、優しい笑顔に心が温まる。そんな亜稀菜の一面に惚れた。
彼女と親交を深めたい、付き合いたい、愛したいという想いが肉体に吸収された。
これから俺と亜稀菜との幸せで楽しい時間が待っている!
その希望を胸に込めた