入学式
「あなた方は、これからこのミスティ学園中等部で魔法を学び、実践して、未来につなぎましょう。これから、ミスティ学園中等部、入学式を始めます」
ジェニファーのとなりでさっき私とゲイルさまに注意したマイ・ファーン学園長の演説を聞きながら、私はうんうんと頷く。実はこのラルク王国、13歳になるまで魔法を使ってはならないというルールがある。魔法で他国との境に結界を張るというのが聖女の仕事なのだが、大体は先代の聖女が亡くなる直前に聖女が結界を張っているため、次代の聖女が魔法を使える13歳になるまで耐えきれる、という仕組みだ。
というわけで、私は今年から結界を張らねばならなくなった。なんともめんどくさい役職になってしまったんだろう。私は聖女失格の思考を始める。すると。
「この入学式には今、聖女さまがいます。皆さま、探してみてはいかがでしょう。これで、入学式を終わります」
学園長はそんな言葉で入学式を締めくくり、私は焦りのあまり、左右をきょろきょろ。すると、周りの生徒首を左右にふりふり。とにかく、ジェニファー腕を引っ張って、大急ぎで入学式が行われていた大広間を出た。私の行き先はどこかというと。ミスティ学園中等部・専用寮である。私の部屋は女子寮の3階、309号室だ。そして、ジェニファーの部屋も309号室。どういうことかというと、同じ部屋の中に仕切りがあり、それで区切れるという仕組みだ。私たちは荷ほどきをしながら話し始める。
「ジェニファー、明日の授業、楽しみね!」
「うん、ミハナ。1、2時間目が魔法学だったよね」
部屋の中なので、ジェニファーは私の名前を本名で呼んでくれる。そこらへんをちゃんと考えてくれる、いい友達だ。私はこんな日常が続いてほしいと思うが、聖女の私が暴走するのはラアナが15歳の時なので、私は3年間も怯えて過ごさないといけない。それで私が暴走して、ジェニファーやゲイルさまにまで危害が及んだりしたら、ラアナも精神的に傷つくことになるだろう。
「明日の朝、寝坊しないようにしないといけないわね…」
「ミハナは起きれるでしょ?聖女の勘が働いて、寝坊しないって、パパから聞いたよ?」
ああ!たまにあるデマだ。
「それはただの噂。本当は歴代の聖女たちが夢を見ている途中でも私に起きろ起きろ言ってきて、正直ありがた迷惑なのよねぇ…」
「へえ。そうなんだ。便利そうだけどね?」
「一度聖女になってみなさい」
私が眉間に皺を寄せて言うと、ジェニファーが笑顔を少しひきつらせる。
「ご、ごめんね?人の苦労も知らずに…」
「うん、許してあげる」
こうして、私たちが和解の儀式をしていた時。
「おーい、アメリア!助けてくれ!寮母さんに殴られちゃうよー!」
「あんたね、変態っていう名前がお似合いだよ!この変態…あんた、爵位は?」
「は、公爵です~!」
「この変態公爵坊主が!」
という、なんとも間の抜けたやり取りが聞こえてくる。
「ゲイルさま?ものすごい言われようですね」
声から誰なのか気付いた私は、紅茶を淹れながらゆったりと言う。
「本当に!ミハナ…じゃなかった、アメリア!助けて~!」
「ちょ、ゲイルさま!分かりましたから、それ以上話さないで下さい!」
本名を呼ばれてしまった私は、紅茶をジェニファーに任せ、ドアを開けに行く。
「ゲイルさま、とにかく入って!」
私はそう言ってドアの外にいたゲイルさまの腕を引っ張って部屋に引き込む。そして、初対面の寮母さんに不思議な顔をされる。
「えっと、アメリア・マンチェスターさん?そこの変態公爵坊主が部屋に入りたがっていたんだけど、知り合いかい?」
「は、はい!婚約者のゲイル・リンルー公爵嫡男で間違いありません!」
「じゃ、あとはお任せしても良いかい?」
「はい、もちろんでございますわ!」
「そう。あ、そういえばね、夕飯は6時30分から7時の間に食べな。食堂に用意してあるから」
夜ご飯の時間まで教えてくれる親切な寮母さんにお礼を言って、私はゲイルさまに向き直る。
「それで?ゲイルさまはなぜ規則を無視してこちら…女子寮にいらっしゃったのですか?」
「ミハナに会いたかったんだ。それで、どうしても」
頬を赤らめながらそう言うゲイルさまは、なんだかかわいらしい。
「あら。ずいぶんと嬉しいことを言ってくださるのですね。頬が赤くてかわいいですよ、ゲイルさま」
私はそう言ってゲイルさまの頬を両手で包み込む。
「本当に、こんな日々がいつまでも続けば良いのに」
私が思わずそう呟くと、相変わらず顔が赤いゲイルさまがきょとんとする。そんなしぐさを見てしまうと、自惚れたほうが良いのはゲイルさまなんじゃないか、と言いたくなってしまう。
「ミハナ、なんて言ったの?」
「いいえ、何でもありませんわ」
そう言って微笑んで見せると、ゲイルさまが抱き締めてくる。
「そんな笑い方しないで。俺も苦しくなる」
どうやら私は、原作に対する恐怖で苦しそうに笑っていたらしい。前世で原作を読んでいた時はあくまで物語だ、と思っていたため、それほど恐怖は感じなかったが、本人になってみるとこれほどまでに遅く恐ろしいことなのだと、私は感じた。そして、無意識のうちにゲイルさまの胸に顔をうずめ、泣きじゃくっていた。
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