私とルーサムと 2
「あら、ルーサム!奇遇ね。私も今からこの酒場に入ろうとしていたのよ。して、その方たちは?」
出迎えたのは、2番目の弟・ルーサムだった。年は7歳。そして、周りにいるのは、鬼の形相で今にも私にかかってきそうな大男たち。ゲイルさまは剣の柄に手をかけている。
「おい、小娘。この方が並大抵の方ではないと知らないのかぁ?」
大切な弟を、こんな人に任せてはいけない。一瞬でそれを理解した私は、ルーサムの手を引いて、馬車に乗り込もうとした。しかし、そのときにルーサムが小さな声で「待って」と言ったので、少し止まる。するとルーサムが大男たちの所に行き、先頭の大男の顎を思いっきり蹴りあげた。蹴られた大男は愕然としている。
「この方を小娘呼ばわりするでない!お前こそ、この方が何者か知らないであろう!我が姉であり、この国の第一王女であり、聖女であられる、ミハナ・ロイヤルさまであるぞ!」
「な…聖女さま、申し訳ございませんでした!この俺、心からお詫び申し上げます」
「そんなことで許すわけがなかろう!」
「ルーサム、待って。落ち着いて。そこの方、面をあげてくださいませ。我が弟が蹴りあげるなどということをし、申し訳ございませんでした。治療費はお払いします」
いくらならず者とはいえ、弟が蹴りあげてさせてしまった怪我は治療費を払うのが礼儀というもの。私は金貨一枚を蹴られた大男に手渡す。
「せ、聖女さま!あなた様のお計らい、仲間たちに伝えましょうぞ!」
「ええ、よろしくお願いしますね。ですが、10の小娘がしたことをならず者さんたちが事実と思うかしらね」
「絶対に信じますとも!一の姉上さまの言葉は、私が証明して見せます!」
横から胸を張って言うルーサムが可愛らしい。だが…。
「ねえルーサム。なぜ、あなたがこんな酒場にいるの?そこの大男さんたちを連れていたところを見ると、ここの常連客のように見えるけど?」
言葉は優しく声は厳しく。これは前世にいた弟を叱る時の方法だ。こうすると一番効果がある。
「ん…。父上と母上には言わないでね。街で買い物をすると言ってここに来てたの。ここの仲間たちは、みんな気前が良いし、陽気で楽しいから。それに、姉兄妹弟の中では父上と母上に全く気にかけてもらえなくて、、リーダーっぽくないけど、この酒場にいると自分がいて良いって言われている気がして。それで通ってたの」
「そうだったの…でもね、お父様とお母様、どちらも、長女だから、長男だから、末っ子だからって、特別気にかけているわけではないのよ。それに、お母様はこの事を知っても決して怒らないし、お父様に知られたらきっと怒られるけど、それは私が止めるから。話してあげてちょうだい」
「ミハナさま、もうそろそろ集会が始まります。参りましょう」
なぜか敬語になったゲイルさま。ゲイルさまに関しては、原作の知識をもってしても未知の存在なんだよなあ。
「あら、ゲイルさま、どうして敬語に?」
私は間違ったことを言ったらしい。ゲイルさまの後ろでルーリンが全力でばつ印を作っている。
「なんてことを言うと思った、ゲイル?」
「いえ、ミハナさま。とにかく、集会が始まります、お急ぎ下さい」
そういえば、今の私は王族。婚約者とはいえゲイルさまは臣下だ。こう答えるのが正解だ。とにかく、急いで集会に向かった。