第一王女の建築
できあがった味噌汁と唐揚げ、炊きたてご飯は唐揚げとご飯を騎士団に大量に渡し、その残りを笑真さんとゲイルと一緒に食べることになった。久し振りの日本食は王宮の広い庭園で頂くことになり、私は頬を紅潮させて満面の笑みで白いテーブルの上にお弁当箱を置いた。
「姫殿下、ご機嫌ですね」
太陽の光が眩しかったのか、ゲイルが目を細めて私を見つめる。その藍色の瞳に吸い込まれそうになって、私はふと我に帰った。いけない。いくらゲイルの瞳が綺麗だったからって、自分から突き放した人に惹かれる訳にはいかない。私はそう思いながらも平静を装って笑真さんの隣の椅子に座る。そこまでしてから、上からする水音が気になって上を向いた。
「嘘でしょ、マックス、ダメ!」
私は急いで席から立ち、私の部屋のバルコニーから尻尾を振りながら落ちてきたマックスを抱き留めた。謹慎中のこの一週間で、小さな子犬だったマックスはたまにいる垂れ耳のグレートデーンのようなサイズになっていた。だから、へなちょこな私は予想通り重さと勢いに負けて庭園の芝生に倒れ込んだ。でもそれもなんだか楽しくて、私は思わず吹き出してしまった。
「ふっ、はははっ!マックス、今度から窓のノブの位置高くするからね?光魔法で強化されてるから死にはしないけど、気が気じゃないから!」
私がふざけて頬を膨らませると、マックスは水でできた舌で私の膨らんだ頬を舐めた。そんなマックスに私はすっかり毒気を抜かれ、ポカンとした後すぐにマックスの首の辺りをわしゃわしゃ撫で回した。そんな馬鹿みたいなことをしていると、背後からゲイルと笑真さんが駆け寄ってきた。
「姫殿下!大丈夫ですか!?」
ゲイルの心配そうな声に私がときめいていると、続けて笑真さんの声も聞こえてきた。
「マックス!何でこんな所に!」
私は起き上がって芝生の上に座る。マックスもそれを習ってちょこんと効果音が付きそうな座り方をする。
「マックス。もうこんなことしちゃダメ。一週間あなたの行動は私が制限する。分かった?」
私が念を押すと、マックスはしゅんと項垂れて元々垂れている耳をたらんとさせ、「許して」とでも言うように鼻をフンフン鳴らしながら揃えた前足の上に顎を乗せ、私を上目遣いで見つめた。困った。私は動物のこういう仕草に免疫がない。
「分かったわよ。ゲイル、ちょっと手伝って下さい」
私はゲイルを呼び、これからすることを手短に伝えると、魔法でまず私の部屋のタイル状の窓の一番下のガラスを四角く六ブロック分割った。これで体の大きな馬であるレイランから小さな猫であるサンとムーン夫婦までが通れる。そして、水でできた板をバルコニーから庭園まで螺旋状に浮かばせて、階段のようにした。仕上げにゲイルが氷魔法で凍らせ、氷の階段が出来上がった。ムーンが恐る恐る階段に足を踏み出し、慌てて足を引っ込めて後ずさった。ムーンって、いつもは気が強いのにサンの前だとか弱い女の子になるんだよね。そんなムーンを見て、サンが尻尾でムーンの背中を撫で、慎重に階段を降り始めた。ムーンがその後を怯えながら降りていく。それを見たサムソンはさすがオオカミと言ってしまいそうな運動神経で二、三段降りただけで下に飛び降りた。その後をレイランが追う。全員が下に降りてきたところで、私は「あっ」と声を上げてしまった。この階段、庭を掃除してる使用人たちの迷惑になるのでは!?
「えっと、自分で掃除をする?でも、どうせ三ヶ月後くらいには旅に出るし、掃除する人がいなくなるかぁ」
私がふと呟くと、笑真さんがニコッと笑った。
「大丈夫ですよ。私が掃除します!」
「そ、そんな!そんなことさせられません!」
私たちが掃除をさせられない、する!という言い合いを繰り返していると、ゲイルが呆れたようなため息をついて言葉を発した。
「女性にそんな仕事はさせられません。俺がします。断らないで下さい」
私がそんなことさせられないと言おうとしたのが分かったのか、ゲイルが私を見つめながら私の唇に人差し指を当てる。その眼差しが優しい甘さに満ちていることにドキッとしていると、ゲイルは悪戯が成功した子供みたいにふわりと笑った。




