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第一王女の喧嘩

 お母様の話を聞いてすぐ、私は着替えてシクセルを従え、お父様の執務室に向かった。

「失礼したします。ミハナでございます」

私がドアをノックしてそう言うと、中から端的に「入れ」という声だけが返ってきた。どうしたのだろう。いつものお父様の覇気が声にこもっていない。そう思いながらも私がドアを開けると、ひどく沈んだ様子のお父様がいた。たった1日振りなのに、目の下には濃い隈ができ、頬は削げている。シクセルには外で控えていてもらい、室内は私とお父様だけの空間になる。

「お父様。どうなさったのですか?顔色がお悪うございます」

私が思わずそう言うと、お父様はピクッと反応する。

「そうだろうか。私には自覚がないが、お前がそう言うのならそうなのだろう」

彼は私の問いには答えず、私の言葉を肯定するようなことを言う。本当に、覇気がない。もしかしなくても、お母様の大怪我が絡んでいるような気がする。

「私が今日、何の用でこちらに伺ったのかお分かりで?」

「いや、分からぬな」

考えようともせずに沈んだ口調で話すお父様に、私はイライラしてきた。

「少しはお考えになってはどうなの!?私が旅に出るのを延期にしないでほしい、ということです!」

私が激しくそう言うと、覇気のなかったお父様の瞳に怒りが灯る。

「何だと?お前は自分の立場が分かっていない!こんなことがあった後に旅に出るだと!?王女が国の宝だということは分かるだろう!」

「分かっています!ですが私は、自分の立場に縛られているばかりじゃ嫌なんです!」

私は大きな声で言い返す。すると、お父様は完全に怒った顔になった。

「お前は何も分かっていない!弟妹を見習え!まだ幼いのに、多くの自由を与えられずにいるのに我慢しているだろう!」

「私はあの子たちとは違うんです!私に押し付けないで!」

うんざりした私は思わず怒鳴り、部屋を出た。今回の要件ーー旅に出ることを延期しなくても良いかということーーの答えを聞き出すどころか、お父様と喧嘩してしまった。でも、これはどう考えたってお父様が悪……くない。これはただ単に私が自分から起こした下らない諍い。お父様の私を心配する親心を踏みにじった行為。それに、私はかなり下らないことでキレた自信がある。私は自室に戻る途中の階段で立ち止まった。

「殿下?いかがなさったのです?」

シクセルが私に訊く。でも私には返事をする余裕なんてない。

「ごめんなさい。今すぐお父様のお部屋に戻るわ」

私はそう言ってサッと踵を返す。それを聞いたシクセルは一瞬驚いた顔をしたが、何も言わずに速足で私に着いてきた。お父様の部屋の前に行き、先ほどもしたようにドアをノックする。でも、返事はなし。代わりに、ドアをすり抜けて一枚の紙が出てきた。私が見ると、文字が綴られ出した。


 部屋の外にいるのがミハナなら、今から書くことに従いなさい。お前には、一週間の自室謹慎を命じる。その間は、使用人に読み物などを運んでもらうように。これが、お前の旅を延期させないための最大限の譲歩だ。


 嘘でしょ。お父様って、なんでこんなに優しいの?さっきは大っ嫌いと思ってたのに、今は大好きという気持ちが沸き上がってくる。でも、自分に都合の良いように相手の印象をころころ変えるのは失礼だと思うから、もうこれからはこのようなことをしないようにしようと、私は心に刻む。そして、お父様の紙に魔法で返事をしたためた。


 ミハナです。寛大なご決断、痛み入ります。今後はこのようなことのないようにします、国王陛下。大好きです、お父様。


 そんな短い文を書いて、私は紙をお父様の部屋の中に送り返した。

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